佐々木毅 民主主義という不思議な仕組み 5 政治とどう対面するか~参加と不服従

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});


政治は集団の自己主張の現れであり、自己主張が自由の現れてある以上、それは自由の現れでもある。
自由の現れとして、参加と不服従。
1.参加への熱望~明治日本の課題
(1)学問のすすめにみる政府と人民の関係
福沢は、政府と人民の関係については相互に一定の約束に基づくドライな関係であることを強調。
専制政治の伝統から切り離そうとする。
国民はすでにあるものではなく、政府と人民との間の約束関係を念頭に、そこから作り出さなければならない。
(2)官僚制と政治
明治国会が開設されたからといって、議会制が実現したわけではなかった。
軍部、官僚と政党との協調関係。
大正デモクラシーは、政党政治と議会制の原則によって明治憲法を換骨奪胎する試みだった。
政策の党派性と行政の中立性をどのように両立させるかという問題。
2.抵抗の論理~市民的不服従の流れ
(1)正理を守って身を棄つる
苦痛を忍んであくまで正理を唱えて政府に迫ること。
(2)市民の服従拒否というスタイル
良心と政治との確執
税金の支払い拒否という抵抗の方法が、政治的には直接的メッセージになる。
=政治的信用に打撃を与える
ひたすら多数派の意向というみなしに安住して惰眠を貪る民主政治には、内なる弱さが潜んでいる。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

序論

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.方法
(1)解釈の方法
・条文にある文言が解釈論を展開する出発点になる。

・規範が文言に凝縮されて結実していった背景には、事実や思想が存在し、解釈をするにあたってそれらを無視することはできない。

・現在の人間をとりまく客観的状況、そして現在に生きる人間の主観的思考に照らして、不合理で納得できない解釈をとることもできない。

・解釈とは、本来、文言の意味を客観的に認識する作業であるが、憲法の解釈は、解釈の実践である憲法判断の予備作業となり、憲法判断そのものは価値判断に他ならない。

(2)憲法解釈のあり方
憲法が拠って立つ基本原理を堅持しつつ、現代社会に合わせて読み解く。

(3)叙述の方針

(4)解釈結果の提示方法
憲法問題には、合憲か違憲かどちらかの結論しかない。

(5)法令に対する態度

2.体系
(1)体系と日本国憲法との対応関係
(2)体系の特色

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

佐々木毅 民主主義という不思議な仕組み 4 「世論の支配」~その実像と虚像

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.世論の支配を考える
(1)世論はモノのようなものか?
世論調査も「みなし」型の仕組みの一環
世論調査は、一定程度調査する側の意図が反映する可能性を含んでいる。

・世論の支配
世論の忠実な実行は国民の利益に合致するという信念
⇔世論の圧制

(2)人間の判断基準と世論の関係
・民主化の結果として大衆の登場
=合理的な政治判断を期待できない人々の登場
人間は目的と手段の関係を合理的に考えて政策を判断するような存在であるよりも、
本能や衝動、性向、習慣といったものによって支配されたものである。

人々は政治家によって操作される存在になる。
→世論の支配は無意味なものになる。
人々が政治に興味を持つのは、スローガンか政治家でしかなく、複雑化する政治環境について十分な情報を得たうえで判断することは期待できない。
ステレオタイプが支配する限り、世論は習慣や偏見と見慣れた世界から離れることができず、その合理性は到底期待できない。

人民による自己統治という民主政治の原則は限りなく幻影に近づく。

そもそも世論は存在しているものなのか、政治指導者が製造したものに過ぎないのか。
世論が作られるものであるとすれば、そのあり方が問題となる。

2.エリート主義と大衆の愚弄
(1)エリートVS大衆の二重構造
政治指導者重視への逆転が極端に行けば、大衆は自らを代表させる能力がないもの、操作されるものに変わってしまう。

政治的公式にしたがって服従する大衆と、それを支配の道具として実質的に支配する少数者という二重構造

(2)宣伝とテロによる統治
宣伝
政治的な公式を使い自らの立場を強化し、相手を攻撃する能力

テロ
政治的な闘いにおいて愛他型の死命を制する形で暴力を使い、政敵を政治的に破壊。

世論の支配の基盤が破壊され、世論は内実のないものになる。

(3)『わが闘争』にみる大衆操作
宣伝と暴力による大衆の掌握

3.世論の支配の意味とは
(1)政治指導者と世論のせめぎあい
安定した環境のなかでの民主政治においては、政治指導者と世論の関係はせめぎあいとなって現れる。

(2)世論と政治の接点の重要性
報道や分析が権力から自由に行われることが大切。
世論と政治の接点を良いものにするための必要条件である。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

不法行為法 4 因果関係

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.何と何の因果関係か?
①加害行為(故意過失のある行為)と損害との因果関係を問題とすれば足りるとの考え方。
←損害の発生を出発点に考える

②加害行為(故意過失のある行為)と権利侵害との間の因果関係と、
権利侵害と損害との間の因果関係
前者=権利侵害の結果を加害行為に帰すことができるかという、責任設定の因果関係
後者=権利侵害から派生する不利益のうちどこまでを賠償範囲に組み入れるかという、賠償範囲の因果関係

2.責任設定の因果関係の判断構造
・学説1
被害者に生じた権利侵害の原因が加害者の故意過失であるということができるためには、
被害者に生じた権利侵害と被害者の故意過失行為との間に事実レベルでの条件関係が認められることが必要
被害者の権利侵害と加害者の故意過失の間に、被害者に生じた権利侵害を加害者の故意過失行為に帰することが法的規範的に見て相当であると評価することができるだけの相当性が認められなければならない。
=因果関係=法的因果関係=相当因果関係

・学説2
因果関係=事実的因果関係
相当性についての判断は、因果関係の問題ではなく、規範の保護目的(保護範囲)のレベルで捉える。

・学説3
因果関係=評価的因果関係=帰責相当性

3.因果関係判断の基礎~条件関係(事実的因果関係)
あれなければ、これなし(不可欠条件公式)

4.不可欠条件公式による条件関係の判断の限界
(1)不作為の因果関係
①まず、行為者に作為義務があったかどうかの判断を先行させる
作為義務は、先行行為、契約、事務管理、条理などから生じる
②作為義務を尽くした行為がされたと仮定したならば、問題の結果は発生しなかったのか

(2)原因の重畳的競合
競合する原因を取り去ったうえで不可欠条件公式を適用し、行為と結果との条件関係を肯定する。

5.因果関係の判断基準時
事実審最終口頭弁論終結時の科学技術の知見を基準として判断すべき

6.因果関係の主張立証責任~被害者側
被害者側が主張立証責任を負う

7.因果関係の証明度~高度の蓋然性
一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の核心を持ちうるものであることを必要と私、かつ、それで足りる。
+判例(S50.10.24)ルンバール事件

8.因果関係の立証の緩和
(1)因果関係についての主張・立証責任の転換(法律上の事実推定)

・加害者不明の共同不法行為
+(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

(2)因果関係の事実上の推定
「因果関係を直接に決定づける事実」とは言えないまでも、間接事実があれば、その事実をもとに、経験的に、裁判官が「加害行為と結果との間には因果関係があった」という心証を抱く場合

被告側は間接反証で足りる。
=真偽不明に追い込めばよい。

・疫学的因果関係
特定の集団における疾病の多発と印紙の間の集団的因果関係だけであって、これによってその集団に属する特定の個人の疾病と印紙との間の個別的因果関係を立証したことにはならない。
=間接事実に過ぎないことに注意

9.「相当因果関係」の理論について
①条件関係が認められること
②その行為の結果発生にとって相当性を有すること
ここでの相当性は、行為時に当該行為者が予見していた事情および予見できた事情を基礎として、発生した結果を行為者に負担させるのが適切か否かという観点から判断。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

不法行為法 3 故意・過失

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.過失責任の原則
自らの行動について過失のない者は、自らの行動により生じた結果についての責任を負わなくてよい
←私的生活関係の中での私人の行動の自由を保障

+(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2.故意の意義
・「故意がある」といえるためには
不法行為の領域では、結果発生の認容で足りる。
=意欲まではいらず、さりとて認識では足りず、結果発生を容認することが必要。

・未必の故意
結果発生の可能性を認識しながら、これを認容した。
故意に含める。

3.過失の意義
・結果回避義務違反
結果発生の予見可能性がありながら、結果の発生を回避するために必要とされる措置(行為)を講じなかったこと

4.過失評価の対象
何を対象として過失の有無を判断するのかをめぐって
①過失とは、意思の緊張を欠いていたという不注意な心理状態に対する非難

②過失とは、社会生活の中で行われた法的に許容されない不注意な行為に対する非難
=行為を対象として過失の有無を判断
結果回避義務違反
←自由で対等な詩人相互の権利自由を調整するために、国家が私人に一定の行為を明示または禁止するため。
or
共同体の構成員から信頼を裏切るような行為が過失と評価される

5.過失の判断基準~誰の能力を基準とするか?~
・刑事過失では、
行為者本人の具体的な注意義務を基準として、過失の有無が判断される(具体的過失)。

民法709条の過失では、
平均的な人(合理人)ならば尽くしたであろう注意が基準になる(抽象的過失)。
社会生活の中で、加害者の属する人的グループにとって平均的な(法理的な)注意という基準で、過失の有無が判断される。
=抽象的過失とはいえ、職業・地位・地域性・経験・(年齢)などにより相対化類型化されたもの。

6.過失の判断基準~いつの時点での能力を基準とするか?~
・基準時は行為時!
不法行為時点で、行為者には、どのような行動をとることが義務付けられていたか
←行為者に対して国家が行動の自由をどの範囲で保障するかが問題となっているから。

7.過失の判断基準~過失判断の前提としての具体的危険・予見可能性~
客観的過失
社会生活において必要とされる行為義務に対する違反(結果回避義務違反)
適切な行動をすることへの期待可能性のあることが、過失非難の前提となる。

期待可能性があるとは、
結果発生の具体的危険が存在し、かつ、その結果発生の具体的危険に対する予見可能性が行為者に認められること。
=結果発生の単なる抽象的な危険ないし不安感が行為時に存在していたというだけでは、そもそも過失ありとの評価の前提を欠く。
平均人にとって予見できない者であった場合も過失ありとの評価の前提を欠く。

・公害事件において・・・
情報収集義務や調査研究義務という予見義務を介して、具体的危険の予見可能性を肯定するというもの
=企業は、結果発生の恐れ(抽象的危険)を感じたならば、問題の解明のために必要な情報を収集し、研究結果を尽くさなければならない(予見義務としての情報収集義務・調査研究義務)

8.過失の判断基準~行為義務違反の判断因子~
・ハンドの公式
①損害発生の蓋然性
②被侵害利益の重大性
③損害回避義務を負わせることによって犠牲にされる利益
①×②>③ならば行為者に過失がある
この公式自体は、コストの比較衡量の観点から社会全体の効用を最大化する目的で各人の行為を評価するための公式として導入された。

9.過失の主張・立証責任~規範的要件としての過失~
過失は規範的要件である。
過失があったとの評価を根拠付ける具体的な事実について、被害者が主張・立証責任を負う(評価根拠事実)。

10.失火責任法の特別規定
行為者の故意を主張立証
or
行為者に重過失があったことの評価を根拠付ける具体的事実
について主張立証。
←加害者の損害賠償責任が発生する場合を限定する。

重過失
わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い注意欠如の状態。

・賃貸家屋の消失と失火責任法
賃貸借契約の債務不履行を理由に建物の価値相当額の損害賠償請求は認められるか。
適用否定。
失火責任法は、不法行為責任の特則を定めるものであるから、債務不履行責任には適用されない。
→賃借人が軽過失により賃借建物を焼失させたような場合は、賃借人は賃貸人に対して債務不履行責任を負う。

・責任無能力者による失火と失火責任法
714条の監督者の責任を理由に建物の価値相当額の損害賠償請求をしてきたとき、軽過失か重過失化は誰について判断すべきか?
+判例(H7.1.24)
理由
 上告代理人三宅雄一郎、同高木権之助の上告理由について
 一 原審の認定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 有限会社堀工業所(以下「堀工業所」という。)は、東京都武蔵村山市a番地b所在、家屋番号a番地b、木造スレート葺平家建居宅工場、床面積一一五・七〇平方メートル(以下「本件建物」という。)を所有していた。
 2 平成元年一月二九日、本件建物が全焼した(以下、右火災を「本件火災」という。)。
 3 本件火災当時、本件建物は無人の倉庫として、当面は必要のない家財道具、美容院用具、宣伝用マッチ、雑誌、新聞紙、段ボール箱などの雑品が置かれており、荒廃した外観を呈し、雨戸を外せば窓から人が容易に出入りできる状態で、浮浪者が侵入したりなどしていたため、付近の子供の間では「お化け屋敷」と呼ばれていた。
 4 本件火災は、当日の午後四時三〇分ころ、A(昭和五三年一一月一三日生まれ。)とB(昭和五四年二月一一日生まれ。)が、雨戸の外れていた窓から本件建物に入り込み、多数のブックマッチが詰められた段ボール箱を発見してこれを取り出し、その場にあったプラスチック製の容器(洗顔器)内に、その場にあった新聞紙をちぎって入れ、これに右マッチで火をつけて遊んでいた際、容器の底部が熱で融けて火がダンボール箱等に燃え移ったため発生したものである。
 5 A及びBは当時それぞれ満一〇歳二月、満九歳一一月の未成年者であり、責任を弁識する能力がなかった。
 6 上告人C及び同DはAの親権者であり、上告人E及び同FはBの親権者である。
 二 本件訴訟は、被上告人が、A又はBの監督義務者である上告人らに対し、同人らは民法七一四条一項に基づき、それぞれ堀工業所に対してA及びBの行為により本件建物が焼失したため堀工業所が被った損害を賠償すべき義務があるところ、被上告人は、堀工業所との間で本件建物を保険の目的として店舗総合保険普通保険契約を締結し、堀工業所に対して本件火災を保険事故とする保険金の支払をしたことにより堀工業所の上告人らに対する損害賠償請求権を代位取得したと主張して、右保険金相当額の損害賠償を請求するものである。
 三 原審は、前記事実関係を前提として上告人らの責任を判断するに当たり、本件が失火であることにかんがみ、失火ノ責任ニ関スル法律と民法七一四条の適用について検討した上、本件のように責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合においては、右未成年者の事理弁識能力を前提として、その行為態様を客観的に考察し、同人に重大な過失に相当するものがあると認められるときは、失火ノ責任ニ関スル法律に規定する失火者に重大な過失があるときに該当するものとして、右未成年者の監督義務者は民法七一四条一項に基づく不法行為責任を負うと解するのが相当であるとし、前記事実関係の下においては、本件火災を発生させたA及びBの行為には右にいう重大な過失に相当するものがあり、監督義務者である上告人らが民法七一四条一項ただし書にいうその監督を怠らなかったものとはいえないとして、被上告人の請求の一部を認容した。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  民法七一四条一項は、責任を弁識する能力のない未成年者が他人に損害を加えた場合、未成年者の監督義務者は、その監督を怠らなかったとき、すなわち監督について過失がなかったときを除き、損害を賠償すべき義務があるとしているが、右規定の趣旨は、責任を弁識する能力のない未成年者の行為については過失に相当するものの有無を考慮することができず、そのため不法行為の責任を負う者がなければ被害者の救済に欠けるところから、その監督義務者に損害の賠償を義務づけるとともに、監督義務者に過失がなかったときはその責任を免れさせることとしたものである。ところで、失火ノ責任ニ関スル法律は、失火による損害賠償責任を失火者に重大な過失がある場合に限定しているのであって、この両者の趣旨を併せ考えれば、責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合においては、民法七一四条一項に基づき、未成年者の監督義務者が右火災による損害を賠償すべき義務を負うが、右監督義務者に未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、これを免れるものと解するのが相当というべきであり未成年者の行為の態様のごときは、これを監督義務者の責任の有無の判断に際して斟酌することは格別として、これについて未成年者自身に重大な過失に相当するものがあるかどうかを考慮するのは相当でない
  そうすると、上告人らにA又はBの監督について重大な過失がなかったか否かを判断することなく被上告人の請求を認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響することが明らかである。論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れない。そして、本件については、右の点につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
  よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)

・被用者による失火と失火責任法
715条の使用者の責任を理由に治療費等の損害賠償請求をしてきたとき、軽過失か重過失かは誰について判断すべきか。
+判例(S42.6.30)
理由
 上告代理人能勢喜八郎の上告理由について。
 「失火ノ責任ニ関スル法律」は、失火者その者の責任条件を規定したものであつて、失火者を使用していた使用者の帰責条件を規定したものではないから、失火者に重大な過失があり、これを使用する者に選任監督について不注意があれば、使用者は民法七一五条により賠償責任を負うものと解すべきであつて、所論のように、選任監督について重大な過失ある場合にのみ使用者は責任を負うものと解すべきではない(大正二年二月五日大審院判決・民録一九輯五七頁参照)。論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

・建物取得者に対する建物設計者・施行者・工事監理者の不法行為責任
+判例(H19.7.6)
理由
 上告代理人幸田雅弘の上告受理申立て理由第2の2について
 1 本件は、9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物をその建築主から購入した上告人らが、当該建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して、上記建築の設計及び工事監理をしたY1(以下「Y1」という。)に対しては、不法行為に基づく損害賠償を請求し、その施工をしたY2(以下「Y2」という。)に対しては、請負契約上の地位の譲受けを前提として瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補費用又は損害賠償を請求するとともに、不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。
 2 原審が確定した事実関係の概要は次のとおりである。
 (1) Y1は、建築設計及び企画並びに工事監理を目的とする会社である。
  Y2は、土木建築業を目的とする会社である。
 (2) Aは、昭和63年8月8日、第1審判決別紙1物件目録記載2の土地(以下「本件土地」という。)を買い受け、同年10月19日、Y2との間で同目録記載1の建物(以下「本件建物」という。)につき工事代金を3億6100万円(ただし、後に560万円が加算された。)とする建築請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。
 (3) Y1は、本件建物の建築について、Aから設計及び工事監理の委託を受けた。
 (4) 本件建物は平成2年2月末日に完成し、Y2は、同年3月2日、Aに対し本件建物を引き渡した。
 (5) 上告人らは、平成2年5月23日、Aから、本件土地を代金1億4999万1000円で、本件建物を代金4億1200万9270円で、それぞれ買い受け、その引渡しを受けた。本件土地及び本件建物の各持分割合は、X1が4分の3、X2が4分の1とされた。
 (6) 本件建物は、本件土地上に建築された鉄筋コンクリート造り陸屋根9階建ての建物であり、9階建て部分(A棟)と3階建て部分(B棟)とを接続した構造となっている。
 A棟は、1階が駐車場となっており、2階から9階までが各階6戸の賃貸用住居で、各住居にバス、トイレ、台所が設置されている。各住居の南側にはベランダがあり、北側には共用廊下がある。A棟西側にはエレベーターが設置されている。B棟は、1階が店舗、2階が事務所となっており、3階はやや広い賃貸用住居2戸となっている。
 (7) 本件建物には、次のとおりの瑕疵がある。
 ア A棟北側共用廊下及び南側バルコニーの建物と平行したひび割れ
 イ A棟北側共用廊下及び南側バルコニーの建物と直交したひび割れ
 ウ A棟1階駐車場ピロティのはり及び壁のひび割れ
 エ A棟居室床スラブのひび割れ及びたわみ
 オ A棟居室内の戸境壁のひび割れ
 カ A棟外壁(廊下手すり並びに外壁北面及び南面)のひび割れ
 キ A棟屋上の塔屋ひさしの鉄筋露出
 ク B棟居室床のひび割れ
 ケ B棟居室内壁並びに外壁東面及び南面のひび割れ
 コ 鉄筋コンクリートのひび割れによる鉄筋の耐力低下
 サ B棟床スラブ(天井スラブ)の構造上の瑕疵(片持ちばりの傾斜及び鉄筋量の不足)
 シ B棟配管スリーブのはり貫通による耐力不足
 ス B棟2階事務室床スラブの鉄筋露出
 (8) 上告人らは、(7)記載の瑕疵以外にも、バルコニーの手すりのぐらつき、排水管の亀裂やすき間等の瑕疵があると指摘し、これらの瑕疵も含めて本件建物に瑕疵が存在することにつき被上告人らに不法行為が成立すると主張している。
 3 原審は、次のとおり判示して、上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 (1) 上告人らは、Aから、被上告人らに対し瑕疵担保責任を追及し得る契約上の地位を譲り受けていない
 (2)ア 建築された建物に瑕疵があるからといって、その請負人や設計・工事監理をした者について当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく、その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を製作した場合や、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びる場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等に限って、不法行為責任が成立する余地がある。
 イ 被上告人らの不法行為責任が認められるためには、上記のような特別の要件を充足することが必要であるところ、被上告人らが本件建物の所有者の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵を生じさせたというような事情は認められない。また、本件建物には、前記確定事実2(7)記載のとおりの瑕疵があることが認められるが、これらの瑕疵は、いずれも本件建物の構造耐力上の安全性を脅かすまでのものではなく、それによって本件建物が社会公共的にみて許容し難いような危険な建物になっているとは認められないし、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びているとはいえない。さらに、上告人らが主張する本件建物のその余の瑕疵については、本件建物の基礎や構造く体にかかわるものであるとは通常考えられないから、仮に瑕疵が存在するとしても不法行為責任が成立することはない。したがって、本件建物の瑕疵について不法行為責任を問うような強度の違法性があるとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人らの不法行為に基づく請求は理由がない。
 4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等(以下、併せて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると、建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない
 (2) 原審は、瑕疵がある建物の建築に携わった設計・施工者等に不法行為責任が成立するのは、その違法性が強度である場合、例えば、建物の基礎や構造く体にかかわる瑕疵があり、社会公共的にみて許容し難いような危険な建物になっている場合等に限られるとして、本件建物の瑕疵について、不法行為責任を問うような強度の違法性があるとはいえないとする。しかし、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、不法行為責任が成立すると解すべきであって、違法性が強度である場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由はない。例えば、バルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという、生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得るのであり、そのような瑕疵があればその建物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるというべきであって、建物の基礎や構造く体に瑕疵がある場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由もない。
 5 以上と異なる原審の前記3(2)の判断には民法709条の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決のうち上告人らの不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるか否か、ある場合にはそれにより上告人らの被った損害があるか等被上告人らの不法行為責任の有無について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

+判例(H23.7.21)
理由
 上告代理人幸田雅弘、同矢野間浩司の上告受理申立て理由第2について
 1 本件は、9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物(以下「本件建物」という。)を、その建築主から、Aと共同で購入し、その後にAの権利義務を相続により承継した上告人が、本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して、その設計及び工事監理をした被上告人Y1並びに建築工事を施工した被上告人Y2に対し、不法行為に基づく損害賠償として、上記瑕疵の修補費用相当額等を請求する事案である。なお、本件建物は、本件の第1審係属中に競売により第三者に売却されている。
 2 第1次控訴審は、上記の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものと判断したが、第1次上告審は、建物の建築に携わる設計・施工者等は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきであって、このことは居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはないとの判断をし、第1次控訴審判決のうち同請求に関する部分を破棄し、同部分につき本件を原審に差し戻した(最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁。以下「第1次上告審判決」という。)。
 これを受けた第2次控訴審である原審は、第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、建物の瑕疵の中でも、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され、被上告人らの不法行為責任が発生するためには、本件建物が売却された日までに上記瑕疵が存在していたことを必要とするとした上、上記の日までに、本件建物の瑕疵により、居住者等の生命、身体又は財産に現実的な危険が生じていないことからすると、上記の日までに本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在していたとは認められないと判断して、上告人の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものとした。
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
 (2) 以上の観点からすると、当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより、建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は、これに該当しないものというべきである。
 (3) そして、建物の所有者は、自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、第1次上告審判決にいう特段の事情がない限り、設計・施工者等に対し、当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され、上記所有者が、当該建物を第三者に売却するなどして、その所有権を失った場合であっても、その際、修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り、一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない
 4 以上と異なる原審の判断には、法令の解釈を誤る違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記3に説示した見地に立って、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇)


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

不法行為法 2 権利侵害

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.条文の文言の確認
+(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

・16年改正により「法律上保護される利益」が加わった。

2.「権利侵害」要件策定へのインセンティブ~不法行為責任成立場面の限定~
・権利侵害要件を置くことにより、不法行為責任の成立する場面を限定しようとした

+昔の判例 雲右衛門事件
「即興的・瞬間的創作にすぎず、定型的旋律を成さない浪曲に著作権は認められない」

3.判例の転回~法律上保護された利益への拡大(大学湯事件)~
・具体的権利と同一程度の厳密な意味においてはいまだ権利といえないものであっても、「法律上保護セラルル一ノ利益」であればよい
侵害の対象を「得べかりし利益」とみている。

4.権利侵害から違法性へ~違法性徴表説の登場~
故意または過失ある「違法行為」により被った損害の賠償にこそ不法行為責任の本質がある
→不法行為の客観的要件の中核に「違法性」を据え、権利侵害は違法性の1つの徴表に過ぎない。

5.権利侵害から違法性へ~相関関係論~
「違法性」の有無は、被侵害利益の種類と侵害行為の態様との相関関係によって決まる

6.「違法性」評価基準の修正論~受忍限度論~
主として公害のケースで。
考慮要素
①被侵害利益の性質及び程度
②地域性
③被害者があらかじめ有した知識
④土地利用の先後関係
⑤最善の実際的方法または相当な防止措置
⑥その他の社会的価値および必要性
⑦被害者側の特殊事情
⑧官庁の許認可
⑨法令で定められた基準の順守

・新受忍限度論
上記の諸事情を「違法性」ではなく、「過失」の衡量事情としてとらえる。

7.「違法性」要件不用論~権利侵害要件と故意過失要件による処理~
・「権利侵害」を「法的保護に値する利益」の侵害へと拡張するだけのことであれば、「法的保護に値する利益」をもって709条にいう「権利」だといえばよいのであって、わざわざ違法性などという要件を立てる必要はない。

・被侵害利益面と侵害行為の態様面の衡量は、「故意または過失」という帰責事由の要件の中で行うのが相当。

8.「権利」論の再生~権利侵害要件の再評価~
法秩序によって保障された他人の権利を侵害する行為に対し救済を与えるのが不法行為法の目的であることを再確認し、この不法行為法での権利保護を、憲法を基点とする権利保護秩序の中に位置づけるべき。
憲法により保護された個人の権利が何かを考え、それを基点として、709条にいう「権利」としての要保護性を決定していくべき。

9.平成16年改正後の条文文言
「権利又は法律上保護される利益」と書くことで、どの学説にも文言面で障害となることの内容にした。

・夫婦の一方の不貞行為の相手方に対する他方配偶者の損害賠償請求

+判例(S54.3.30)
理由
 上告代理人信部高雄、同大崎勲の上告理由中上告人Aに関する部分について
 原審は、(1) 上告人Aと訴外Eとは昭和二三年七月二〇日婚姻の届出をした夫婦であり、両名の間に同年八月一五日に上告人Bが、昭和三三年九月一三日に同Cが、昭和三九年四月二日にDが出生した、(2)Eは昭和三二年銀座のアルバイトサロンにホステスとして勤めていた被上告人と知り合い、やがて両名は互に好意を持つようになり、被上告人はEに妻子のあることを知りながら、Eと肉体関係を結び、昭和三五年一一月二一日一女を出産した、(3) Eと被上告人との関係は昭和三九年二月ごろ上告人Aの知るところとなり、同上告人がEの不貞を責めたことから、既に妻に対する愛情を失いかけていたEは同年九月妻子のもとを去り、一時鳥取県下で暮していたが、昭和四二年から東京で被上告人と同棲するようになり、その状態が現在まで続いている、(4) 被上告人は昭和三九年銀座でバーを開業し、Eとの子を養育しているが、Eと同棲する前後を通じてEに金員を貢がせたこともなく、生活費を貰つたこともない、ことを認定したうえ、Eと被上告人との関係は相互の対等な自然の愛情に基づいて生じたものであり、被上告人がEとの肉体関係、同棲等を強いたものでもないのであるから、両名の関係での被上告人の行為はEの妻である上告人Aに対して違法性を帯びるものではないとして、同上告人の被上告人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求を棄却した。しかし、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。
 したがつて、前記のとおり、原審が、Eと被上告人の関係は自然の愛情に基づいて生じたものであるから、被上告人の行為は違法性がなく、上告人Aに対して不法行為責任を負わないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの点において理由があり、原判決中上告人Aに関する部分は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるのを相当とするから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 同上告理由中上告人B、同C、同Dに関する部分について
 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。
 原審が適法に確定したところによれば、上告人B、同C、同D(以下「上告人Bら」という。)の父親であるEは昭和三二年ごろから被上告人と肉体関係を持ち、上告人Bらが未だ成年に達していなかつた昭和四二年被上告人と同棲するに至つたが、被上告人はEとの同棲を積極的に求めたものではなく、Eが上告人Bらのもとに戻るのをあえて反対しなかつたし、Eも上告人Bらに対して生活費を送つていたことがあつたというのである。したがつて、前記説示に照らすと、右のような事実関係の下で、特段の事情も窺えない本件においては、被上告人の行為は上告人Bらに対し、不法行為を構成するものとはいい難い。被上告人には上告人Bらに対する関係では不法行為責任がないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができ、この点に関し、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三八六条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見、裁判官本林讓の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+判例(H8.3.26)
理由
 上告代理人森健市の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係は次のとおりであり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。
 1 上告人とaとは昭和四二年五月一日に婚姻の届出をした夫婦であり、同四三年五月八日に長女が、同四六年四月四日に長男が出生した。
 2 上告人とaとの夫婦関係は、性格の相違や金銭に対する考え方の相違等が原因になって次第に悪くなっていったが、aが昭和五五年に身内の経営する婦人服製造会社に転職したところ、残業による深夜の帰宅が増え、上告人は不満を募らせるようになった。
 3 aは、上告人の右の不満をも考慮して、独立して事業を始めることを考えたが、上告人が独立することに反対したため、昭和五七年一一月に株式会社A(以下「A」という)に転職して取締役に就任した。
 4 aは、昭和五八年以降、自宅の土地建物をAの債務の担保に提供してその資金繰りに協力するなどし、同五九年四月には、Aの経営を引き継ぐこととなり、その代表取締役に就任した。しかし、上告人は、aが代表取締役になると個人として債務を負う危険があることを理由にこれに強く反対し、自宅の土地建物の登記済証を隠すなどしたため、aと喧嘩になった。上告人は、aが右登記済証を探し出して抵当権を設定したことを知ると、これを非難して、まず財産分与をせよと要求するようになった。こうしたことから、aは上告人を避けるようになったが、上告人がaの帰宅時に包丁をちらつかせることもあり、夫婦関係は非常に悪化した。
 5 aは、昭和六一年七月ころ、上告人と別居する目的で家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てたが、上告人は、aには交際中の女性がいるものと考え、また離婚の意思もなかったため、調停期日に出頭せず、aは、右申立てを取り下げた。その後も、上告人がAに関係する女性に電話をしてaとの間柄を問いただしたりしたため、aは、上告人を疎ましく感じていた。
 6 aは、昭和六二年二月一一日に大腸癌の治療のため入院し、転院して同年三月四日に手術を受け、同月二八日に退院したが、この間の同月一二日にA名義で本件マンションを購入した。そして、入院中に上告人と別居する意思を固めていたaは、同年五月六日、自宅を出て本件マンションに転居し、上告人と別居するに至った。
 7 被上告人は、昭和六一年一二月ころからスナックでアルバイトをしていたが、同六二年四月ころに客として来店したaと知り合った。被上告人は、aから、妻とは離婚することになっていると聞き、また、aが上告人と別居して本件マンションで一人で生活するようになったため、aの言を信じて、次第に親しい交際をするようになり、同年夏ころまでに肉体関係を持つようになり、同年一〇月ころ本件マンションで同棲するに至った。そして、被上告人は平成元年二月三日にaとの間の子を出産し、aは同月八日にその子を認知した。
 二 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
 三 そうすると、前記一の事実関係の下において、被上告人がaと肉体関係を持った当時、aと上告人との婚姻関係が既に破綻しており、被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決・民集三三巻二号三〇三頁)は、婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

・契約交渉過程における信義誠実に反する態度と不法行為責任
説明義務・情報提供義務に対する違反
誤認指摘義務
契約交渉の不当破棄
投資取引における適合性の原則に対する違反


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

不法行為法 1 不法行為制度

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.不法行為制度とはどのような制度か?
他人の行為または他人の物により権利を侵害された者(被害者)が、その他人または他人とかかわりのある人に対して、侵害からの救済を求めることのできる制度。

2.不法行為制度のもとでの救済~損害賠償が原則~

+(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為を理由として、被害者が、他人の行為の差止めを求めたり、自分の権利をもと通りにすること(原状回復)を求めたりすることは、法律に特別の規定がない限り認められない!!!

3.損害賠償の基本原理~どのような場合に損害賠償が認められるのか~
過失責任の原則
加害者に故意または過失がなければ、不法行為を理由とする損害賠償請求権は発生しない。

×原因責任・結果責任

4.過失責任の原則が採用された理由~過失責任を支える基本的な考え方~
・過失責任の原則の背後
私人の行為の自由は、国家により、憲法秩序のもとで基本権として保障される。
過失責任の原則は、
権利侵害の結果を行使者に負担させるための原理であるとともに、行為者に対し行動の自由を保障するための原理でもある。

5.過失責任の原則の例外~無過失責任~
民法に特別の条文があるか、特別の立法で無過失責任が採用されている場合。

6.無過失責任を支える基本的考え方
・危険責任の原理
危険源を創造したり、危険源を管理したりしている者は、その危険源から生じた損害について、責任を負担しなければならない。

・報償責任の原理
自らの活動から利益を上げている者は、その活動の結果として生じた損害について、責任を負担しなければならない。

7.過失責任の枠内での修正へのインセンティブ~過失の主張立証責任~
・過失があったかどうかについての真偽不明のリスクは被害者が負担する。

8.「過失責任の原則」の修正
(1)過失における注意義務の高度化
加害者に課される注意義務を厳しくすればするほど、注意義務違反の事実、つまり加害者に過失があった事実を立証しやすくなる。

(2)過失についての「事実上の推定」
過失があったとの評価を根拠づける具体的事実とはいえないまでも、それに関連する一定の事実(間接事実)があれば経験的に裁判官が、過失があったのではないかという心証を抱く。

+判例(H8.1.23)
要約
医師が医薬品を使用するに当たって医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り当該医師の過失が推定される。

・事実上の推定と間接反証
加害者としては裁判官の心証を動揺させ、真偽不明の状態に持ち込めばよい。

(3)過失についての「法律上の推定」(立証責任の転換)
真偽不明の場合には、立証責任の分配に関する原則と違い、真偽不明のリスクは加害者が負担することになる。

9.709条に基づく損害賠償請求
請求原因
①Xの権利(または法律上保護された利益)が侵害されたこと
②Yが行為をするにあたり、Yに故意があったこと、または、Yに過失があったことの評価を根拠付ける事実
③請求原因②の行為(故意行為過失行為)と①の権利侵害との間の因果関係
④Xに生じた損害(およびその金額)
⑤請求原因①の権利侵害と④の損害との間の因果関係

(③⑤を合体させ、②④を1つの因果関係でつなぐ考え方もある)

+α
・法律要件と法律効果
法律要件
法律効果の発生原因のこと。

要件事実
法律要件に該当する事実のこと

・要件事実についての主張責任・立証責任
主張責任
ある事実が弁論で主張されなかったときに、敗訴してしまう不利益を原告被告のいずれが負担するかという問題
主張責任は、要件事実が弁論において主張されなかったことによるリスクを、主張責任を負担する者に課すことで、相手方を不意打ちの危険から保護し、相手方の防御の機会を保障することを目的としたもの。

立証責任
要件事実について真偽不明のときに、その要件事実は存在しないものとして扱われ、その要件事実が存在しておれば適用されたであろう実体法規範が適用されないことをいう。
要するに、真偽不明のリスク負担。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

2-2-2 総論 構成要件該当性 主体

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.自然人
「者」=自然人
法人はこれに含まれず、それを処罰の対象とする特別の罰則がある場合にのみ、例外的限定的に処罰されるにとどまる。

・構成的身分犯(真正身分犯)
行為者に身分が存しない場合には、およそ犯罪の成立が認められないことになる場合

・加減的身分犯(不真正身分犯)
行為者に身分がなくとも犯罪となるが、身分があることによって刑が加重または減軽される

身分犯において、犯罪の成立要件として一定の身分を要求するのは、実質的に見れば、身分の存在によって行為の違法性や責任に影響があるから。

・疑似身分犯
犯罪の成立に必要な結果を発生させるため、一定の属性の存在が行為者に事実上要求されるが、犯罪の主体はその属性を備えたものに限定されていない犯罪。
ex強姦罪

2.法人
法人は、一般の罰則にいう「者」には含まれず、それを処罰する規定が存在する場合にのみ犯罪の主体となる。

・業務主処罰規定によって自然人の業務主が処罰される根拠
過失推定説
業務主として行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失の存在を推定する規定であると解する
→業務主が注意を尽くしたことの証明がされない限り、刑事責任を免れない。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

2-2-1 総論 構成要件該当性 構成要件の意義

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

・構成要件とは、
立法者が犯罪として法律上規定した行為の類型

・構成要件を限定する要素としての故意過失を、構成要件的故意・構成要件的過失という。

・構成要件要素
①行為の主体
②行為
③結果
④行為と結果との間の因果関係
⑤故意過失
(⑥一定の状況)
(⑦特別の主観的要素)


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

2-1 総論 犯罪論の体系

・犯罪とは、
構成要件に該当する、違法で有責な行為をいう。

・犯罪は行為でなければならない。
単なる思想、内心の状態は処罰の対象にならない。

・構成要件
=法律により犯罪として決められた行為の類型。

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});