10-2 当事者の意思による終了 訴訟上の和解

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1.訴訟上の和解の意義
(1)和解の意義と種類
・和解
=当事者が、一定の法律関係に関して、互いに譲歩して(互譲)、合意によってその間に存する争いをやめることをいう。

・裁判外の和解(民法695条、696条)

・裁判上の和解
訴訟上の和解(起訴後の和解)+即決和解(起訴前の和解)(275条)
+(訴え提起前の和解)
第二百七十五条  民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる。
2  前項の和解が調わない場合において、和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命ずる。この場合においては、和解の申立てをした者は、その申立てをした時に、訴えを提起したものとみなし、和解の費用は、訴訟費用の一部とする。
3  申立人又は相手方が第一項の和解の期日に出頭しないときは、裁判所は、和解が調わないものとみなすことができる。
4  第一項の和解については、第二百六十四条及び第二百六十五条の規定は、適用しない。

・訴訟上の和解とは、
訴訟係属中に受訴裁判所または受命裁判官もしくは受託裁判官が関与して行われる、当事者の合意による事件の解決を目的とした手続または、その結果当事者間に成立した合意をいう。

(2)積極的和解論と謙抑的和解論
・和解の長所
自由かつ柔軟に、紛争の実情に即した公正妥当かつ実効的な解決を早期に図ることができるし、当事者間の関係を悪化させずに、将来に向けた双方に有益な良好な関係を築くことも可能である。
判決に比べて和解の方が義務の任意の履行を期待しやすい。

・和解の短所
和解では、当事者の正当な権利主張が貫徹されないし、裁判所または一方当事者が和解による解決にこだわるあまり、訴訟手続が無駄に遅延することがある。
受訴裁判所の裁判官が和解手続きを主宰するので、和解手続きの中で裁判官が得た情報がその事実認定上の心証に影響するおそれかある。
訴訟上の和解は、裁判官や当事者が十分納得しないまま仕方なく妥協した結果成立している場合が少なからずある。

(3)訴訟上の和解の法的性質
①訴訟行為説
訴訟上の和解は当事者間でされた和解を裁判所に示す訴訟行為であるとする。
→私法上の無効原因によって和解は無効とならない。

②私法行為説
訴訟上の和解も当事者間の合意としての和解契約がその本質であり、訴訟の終了は和解によって紛争が消滅したことに伴う当然の結果であって、裁判所の調書も和解内容を公証するものに過ぎない。
→私法上の無効原因があれば私法上の和解として無効となるが、それは裁判所の公証行為に影響を及ぼすものではなく、訴訟終了効はなくならない。

③併存説
訴訟上の和解には訴訟を終了させる訴訟行為と私法上の和解契約とが併存している。
私法上の無効原因があれば私法行為としては無効であるが、訴訟行為としては有効であり、訴訟終了効を有する。また、訴訟行為として無効原因があったとしても、当然に実体法上の効果が否定されない。

+新併存説
私法上の和解が訴訟上の和解の原因となっているので、私法上の無効原因があれば連動して訴訟上の和解も無効となる。

④両性説
訴訟上の和解には訴訟行為と私法上の和解の両面がある
訴訟行為として無効であれば私法上も無効であり、私法上の無効原因があれば訴訟行為としても無効である。

2.訴訟上の和解の要件
訴訟上の和解は、受訴裁判所または、受命裁判官もしくは受託裁判官の面前で行われる必要がある。

・和解による合意の対象は、当事者が実体法上の処分権限を有する事項であることを要する。

・訴訟上の和解の要件として、訴えが訴訟要件を具備していることは必ずしも必要ない。
←訴訟要件は本案判決の要件である
訴訟要件の具備に関する当事者間の見解の相違をとりあえず拾象して訴訟上の和解をすることも想定してよいこと
訴訟係属を前提としない即決和解にも和解調書の効力が認められていること

⇔請求の放棄・認諾については、それぞれ請求棄却や請求認容の本案判決と同様の効果を有することから訴訟要件の具備を要する。

3.訴訟上の和解の手続
(1)和解勧試と和解の成立
和解勧試は、訴訟係属中であれば、審理のどの段階でも可能である。
+(和解の試み)
第八十九条  裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。

・和解が成立した場合には裁判所書記官が和解の内容を記載した調書を作成する(267条)
+(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

(2)和解条項案の書面による受諾等
ⅰ)和解条項案の書面による受諾
+(和解条項案の書面による受諾)
第二百六十四条  当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官から提示された和解条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が口頭弁論等の期日に出頭してその和解条項案を受諾したときは、当事者間に和解が調ったものとみなす

ⅱ)裁判所が定める和解条項
+(裁判所等が定める和解条項)
第二百六十五条  裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2  前項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3  第一項の規定による和解条項の定めは、口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4  当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
5  第三項の告知が当事者双方にされたときは、当事者間に和解が調ったものとみなす。

++簡易裁判賜与での和解に代わる決定
(和解に代わる決定)
第二百七十五条の二  金銭の支払の請求を目的とする訴えについては、裁判所は、被告が口頭弁論において原告の主張した事実を争わず、その他何らの防御の方法をも提出しない場合において、被告の資力その他の事情を考慮して相当であると認めるときは、原告の意見を聴いて、第三項の期間の経過時から五年を超えない範囲内において、当該請求に係る金銭の支払について、その時期の定め若しくは分割払の定めをし、又はこれと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをして、当該請求に係る金銭の支払を命ずる決定をすることができる
2  前項の分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならない。
3  第一項の決定に対しては、当事者は、その決定の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、その決定をした裁判所に異議を申し立てることができる。
4  前項の期間内に異議の申立てがあったときは、第一項の決定は、その効力を失う。
5  第三項の期間内に異議の申立てがないときは、第一項の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

4.訴訟上の和解の効果
(1)訴訟終了効
+(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

(2)執行力・形成力
267条の「確定判決と同一の効力」に執行力が含まれる。

(3)既判力の有無
判例は、裁判上の和解に既判力がある旨を述べている。
他方で、裁判上の和解にかかる意思表示に瑕疵がある場合にはそれが無効になることを認めている。
+判例(S33.6.14)
理由
 上告代理人岡田実五郎、同佐々木熈の上告理由第一点について。
 しかし、原判決の適法に確定したところによれば、本件和解は、本件請求金額六二万九七七七円五〇銭の支払義務あるか否かが争の目的であつて、当事者である原告(被控訴人、被上告人)、被告(控訴人、上告人)が原判示のごとく互に譲歩をして右争を止めるため仮差押にかかる本件ジャムを市場で一般に通用している特選金菊印苺ジャムであることを前提とし、これを一箱当り三千円(一罐平均六二円五〇銭相当)と見込んで控訴人から被控訴人に代物弁済として引渡すことを約したものであるところ、本件ジャムは、原判示のごとき粗悪品であつたから、本件和解に関与した被控訴会社の訴訟代理人の意思表示にはその重要な部分に錯誤があつたというのであるから、原判決には所論のごとき法令の解釈に誤りがあるとは認められない。

同第二点について。
 しかし、原判決は、本件代物弁済の目的物である金菊印苺ジャムに所論のごとき暇疵があつたが故に契約の要素に錯誤を来しているとの趣旨を判示しているのであり、このような場合には、民法瑕疵担保の規定は排除されるのであるから(大正一〇年一二月一五日大審院判決、大審院民事判決録二七輯二一六〇頁以下参照)、所論は採るを得ない。
 同第三点について。
 しかし、原判決は、被控訴人(被上告人)主張の本訴請求原因たる事実は、すべて当事者間に争がない旨判示しているのであるから、被控訴人の本訴請求を認容するには、控訴人(上告人)の抗弁について判断すれば足り、所論の点について触れなくとも、所論の違法があるとはいえない。
 同第四点について。
 しかし、原判決は、本件和解は要素の錯誤により無効である旨判示しているから、所論のごとき実質的確定力を有しないこと論をまたない。それ故、所論は、その前提において採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

・制限既判力説
訴訟上の和解には既判力が生じるが、その和解に詐欺や要素の錯誤等の意思表示の瑕疵がある場合には、和解の効力が否定される。
←和解の紛争解決機能の充実、すなわち、第三者への拘束力も含めた法的安定性を図るためには既判力を肯定する必要がある。
訴訟上の和解が実体法上の合意という性質も有することからすると、意思表示の瑕疵による無効を認めず、再審事由がないかぎり既判力を覆すことができないとするのは行き過ぎである。

・既判力の範囲
訴訟物に関する条項のみならず他の条項についても既判力が生じる
←和解をする当事者の認識としては訴訟物であるか否かによってその重要度に違いがあるわけではなく、和解条項を全体として安定したものとする必要性があるため。

・既判力が生じる裁判上の和解の種類
即決和解や民事保全手続の過程で成立した和解も含め、裁判上の和解には上記のような意味での既判力がある。

(4)和解の無効原因の主張方法
制限的既判力説に立つ場合には、意思表示の瑕疵を主張するなどして和解の無効を主張することが許される。

判例・実務は、当該訴訟について期日指定の申立てをする方法、和解無効確認の訴えを提起する方法、和解が無効であることを前提とする請求意義の訴えを提起する方法の3通りのいずれも肯定している。

(5)和解の解除
・債務不履行を理由とする解除はできる。

・和解の解除によっても訴訟終了効はなくならない。
←解除事由は和解の後に発生するものであって和解自体に付着した瑕疵ではないこと、
民法の解除制度の趣旨からして訴訟終了効の消滅まで含むとは解されない。
+判例(S43.2.15)
理由
 上告代理人後藤英橘の上告理由第一点について。
 訴訟が訴訟上の和解によつて終了した場合においては、その後その和解の内容たる私法上の契約が債務不履行のため解除されるに至つたとしても、そのことによつては、単にその契約に基づく私法上の権利関係が消滅するのみであつて、和解によつて一旦終了した訴訟が復活するものではないと解するのが相当である。従つて右と異なる見解に立つて、本件の訴提起が二重起訴に該当するとの所論は採用し得ない。
 同第二点ないし第五点について。
 所論は違憲を主張する点もあるが、その実質は原判決の単なる法令違反の主張に過ぎず、原審の認定判断はすべて、原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠関係に照らし是認することができ、所論引用の判例はいずれも事案を異にし、本件に適切でない。また、原審の認定した事実関係のもとにおいては、被上告人の本訴請求が公序良俗に反するものとも認められない。原判決には何ら所論の違法はなく、所論は、原審の認定しない事実を主張して原判決を非難しまたは独自の見解に基づいて原審の判断を非難するもので採るを得ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

・解除の主張の方法は、
訴訟終了効はなくならないので、和解無効確認の訴えや請求意義の訴えなどの新訴の提起による。


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