民法 事例から民法を考える 2 その土地、誰にも売ってません。


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Ⅰ はじめに
・所有権に基づく妨害排除請求としての抹消登記請求

Ⅱ 契約の成立
・契約書であるとの認識なく契約書に署名したことをもって売買契約の成立が認められるのか・・・

+(売買)
第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

・外形上契約締結の意思表示に当たる行為が契約締結の認識なしにされていた場合に契約締結の意思表示となるか?
=意思表示が成立するためにいわゆる表示意識(または表示意思)を要するか?
→表示意識がなくても意思表示は成立する(表示意識不要説)

1.表示意識必要説による場合

2.表示意識不用説による場合
根底
意思表示の成立は容易に認めたうえで、意思表示・法律行為の効力に関する諸規定の解釈を通して、当該事情のもとで適切な結論を得られるようにすべきである。

Ⅲ 契約の効力
1.錯誤無効
+(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

・95条ただし書きは、意思表示の有効に対する相手方の信頼を保護するために、表意者に重大な過失がある場合に意思表示の無効の主張を退けるもの
→相手方がそのような保護に値しないときは、無効の主張を認めてもよいはず!
=相手方が錯誤を惹起したとき
相手方が錯誤を知っていた、又は重大な過失により知らなかった
相手方も表意者と同一の錯誤に陥っていた時

2.詐欺取消し
+(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

3.錯誤無効への96条3項類推適用
・錯誤者の帰責性は詐欺による表意者の帰責性と同等以上
→96条3項の基礎にある表見法理に照らせば、錯誤者が詐欺による表意者に比べて優遇されるべきではない!

Ⅳ 代理による契約の効果の帰属
1.有権代理
2.109条の表見代理
+(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

①AY間の契約締結の意思表示
②その際の顕名
③Xが①に先立って、Yに対して、Aに①の契約のための代理権を授与した旨の表示をしたこと!

・代理権授与表示は意思表示類似のものであり、その成立と効力につき基本的に意思表示に準じて考える!

3.110条の表見代理
+(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

①AY間の契約締結の意思表示
②その際の顕名
③Aが、①に先立って、①の契約以外の代理権(基本代理権)を取得したこと
④Yが、①の当時、Aが①の契約のための代理権を有すると信じたこと
⑤Yがそう信じることについて正当な理由があったと認められること

・「第三者」には転得者は含まれない。
←109条と併せて読めばわかる。
転得者の信頼の対象は、直接には前主が権利を有することであり、前主との間でその権利についての契約をした者がその契約をする代理権を有していたことではない!
←表見代理は、本人に契約の効力が本来帰属しない場合につき、代理権の存在に対する信頼を保護するために例外を認める法理

Ⅴ 94条2項類推適用による第三者の保護
1.94条2項の「類推適用」
+(虚偽表示)
第九十四条  相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2  前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

・意思表示の効力に関する規定であり、意思表示の有効に対する第三者の信頼を保護するためのもの。

・不動産取引において、意思表示の効力とは無関係に端的に登記への信頼を保護するために類推適用されている。
意思表示の効力が維持されることになるわけではない
第三者の信頼の対象も、意思表示の有効ではなく、登記名義人における登記どおりの権利の存在である

2.94条2項類推適用法理の射程
不動産登記に対する信頼保護のための94条2項の利用
①不実の登記の存在
②その登記の存在についての権利者の帰責性
③ある者が「第三者」に該当すること
④その者が登記の真正を信じたこと、または無過失で信じたこと

・第三者の善意であればよい場合(94条2項をそのまま類推)
a)権利者が意図的に不実の登記を作出
b)他人の作出した不実の登記を権利者が承認

・善意無過失であることを要する場合
c)abに同視すべき重大な帰責性が権利者にある
d)権利者が他人名義の不実の登記(第1登記)を作出し、その他人が第1登記を利用して第三者の信じた不実の登記を作出

dの場合
権利者は意図して不実の登記を作出しているが、その登記は第三者が信じたものと異なる。
94条2項と110条の法意に照らして、善意無過失の第三者の保護

cの場合
不注意な行為は、程度がいかに重大であっても、意図的な行為とは質的には異なる
→単純な類推適用ではない。

+判例(H18.2.23)
理由
上告代理人河野浩、同千野博之の上告受理申立て理由1について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人は、平成7年3月にその所有する土地を大分県土地開発公社の仲介により日本道路公団に売却した際、同公社の職員であるAと知り合った。
(2) 上告人は、平成8年1月11日ころ、Aの紹介により、Bから、第1審判決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)を代金7300万円で買い受け、同月25日、Bから上告人に対する所有権移転登記がされた。
(3) 上告人は、Aに対し、本件不動産を第三者に賃貸するよう取り計らってほしいと依頼し、平成8年2月、言われるままに、業者に本件不動産の管理を委託するための諸経費の名目で240万円をAに交付した。上告人は、Aの紹介により、同年7月以降、本件不動産を第三者に賃貸したが、その際の賃借人との交渉、賃貸借契約書の作成及び敷金等の授受は、すべてAを介して行われた。
(4) 上告人は、平成11年9月21日、Aから、上記240万円を返還する手続をするので本件不動産の登記済証を預からせてほしいと言われ、これをAに預けた。
また、上告人は、以前に購入し上告人への所有権移転登記がされないままになっていた大分市大字松岡字尾崎西7371番4の土地(以下「7371番4の土地」という。)についても、Aに対し、所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していたが、Aから、7371番4の土地の登記手続に必要であると言われ、平成11年11月30日及び平成12年1月28日の2回にわたり、上告人の印鑑登録証明書各2通(合計4通)をAに交付した。
なお、上告人がAに本件不動産を代金4300万円で売り渡す旨の平成11年11月7日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が存在するが、これは、時期は明らかでないが、上告人が、その内容及び使途を確認することなく、本件不動産を売却する意思がないのにAから言われるままに署名押印して作成したものである。
(5) 上告人は、平成12年2月1日、Aから7371番4の土地の登記手続に必要であると言われて実印を渡し、Aがその場で所持していた本件不動産の登記申請書に押印するのを漫然と見ていた。Aは、上告人から預かっていた本件不動産の登記済証及び印鑑登録証明書並びに上記登記申請書を用いて、同日、本件不動産につき、上告人からAに対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続をした(以下、この登記を「本件登記」という。)。
(6) Aは、平成12年3月23日、被上告人との間で、本件不動産を代金3500万円で売り渡す旨の契約を締結し、これに基づき、同年4月5日、Aから被上告人に対する所有権移転登記がされた。被上告人は、本件登記等からAが本件不動産の所有者であると信じ、かつ、そのように信ずることについて過失がなかった。
2 本件は、上告人が、被上告人に対し、本件不動産の所有権に基づき、Aから被上告人に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案であり、原審は、民法110条の類推適用により、被上告人が本件不動産の所有権を取得したと判断して、上告人の請求を棄却すべきものとした。
3 前記確定事実によれば、上告人は、Aに対し、本件不動産の賃貸に係る事務及び7371番4の土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが、そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにAに預けて数か月間にわたってこれを放置し、Aから7371番4の土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通をAに交付し、本件不動産を売却する意思がないのにAの言うままに本件売買契約書に署名押印するなど、Aによって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず、これを顧みることなく、さらに、本件登記がされた平成12年2月1日には、Aの言うままに実印を渡し、Aが上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに、その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。そうすると、Aが本件不動産の登記済証、上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは、上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり、Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして、前記確定事実によれば、被上告人は、Aが所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから、民法94条2項、110条の類推適用により、上告人は、Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において正当であり、論旨は理由がない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉德治 裁判官 才口千晴)

Ⅵ おわりに


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民法 事例から民法を考える 1 任せてくれてもいいんじゃない?


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Ⅰ はじめに

Ⅱ 被保佐人が保佐人の同意を得ずにした行為の取消しの結果の実現
1.被保佐人が保佐人の同意を得ずにした行為の取消し
(1)

+(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条  被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
四  訴訟行為をすること。
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3  保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる

+(制限行為能力者の詐術)
第二十一条  制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない

+(取消し及び追認の方法)
第百二十三条  取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。

+(取消権者)
第百二十条  行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる
2  詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

+(取り消すことができる行為の追認)
第百二十二条  取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。

+(法定追認)
第百二十五条  前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一  全部又は一部の履行
二  履行の請求
三  更改
四  担保の供与
五  取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六  強制執行

+(取消権の期間の制限)
第百二十六条  取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

+(取消しの効果)
第百二十一条  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

2.保佐人の代理権
・保佐開始の審判がされただけでは保佐人に代理権が与えられることはない!!!
→保佐人が被保佐人を代理するためには、一般的には代理権授与行為による。

+(保佐人に代理権を付与する旨の審判)
第八百七十六条の四  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる
2  本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない
3  家庭裁判所は、第一項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。

→保佐人の同意がないと代理権を得られない。
どうしよう・・・・本人の同意がなければ機能しない制度というね・・・
←被保佐人の自己決定権の尊重と被保佐人の保護の要請のいずれを重視するのかの問題!
被保佐人は事理弁識能力はもっているわけだし・・・

・被保佐人は、一定の行為について「する自由」を制限されるものの、「しない事由」をその意思によらず制限されることはないというのが民法の基本的な立場。

・取消しの目的を達成するために必要な行為については、保佐人に代理権(法定代理権)が認められるべきと考えることも・・・

Ⅲ 被保佐人(制限行為能力者)の返還義務の範囲
(1)

+(取消しの効果)
第百二十一条  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う

「現に利益を受けている限度」=「利益の存する限度」
+(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

・121項ただし書き
取消しの結果として生ずる返還義務の履行のための新たな負担(取り消された行為をしていなければ生じなかったはずの負担)を制限行為能力者に免れさせることにした
→返還義務の範囲
原物の価値変形物は返還
生活費も返還
浪費は返還する必要はない。

(2)
・競馬の80万は利得の消滅が認められる
・借金の返済の30万について利得の消滅は認められない
←債務の弁済は代金の取得にかかわりなくされるべきものだから。
・使途不明の50万は利得の消滅は認められない
←利得消滅が認められるべき事実の証明がされていないから。

・贈与部分について
AC間の贈与の効力が不確定である場合に、贈与金分の利得の消滅を単純に認めることは適当ではないのでは・・・

Ⅳ 被保佐人が保佐人の同意なしにした代理権授与に基づく代理行為の効力
1.被保佐人が保佐人の同意なしにした代理権授与行為の効力
(1)
+(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条  被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四  訴訟行為をすること。
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3  保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

・13条1項には、代理権の授与は含まれてはいないが・・・
任意代理の形式を用いるだけで保佐人の同意なしに得られるとすると、保佐人による被保佐人の保護という保佐制度の目的が達せられないことになりかねない。

・代理について
代理人行為説
代理権授与行為と代理行為は別個の法律行為であり、代理権授与行為によって代理人が代理権を取得し、その代理権の範囲内でされる代理行為によって本人と相手方との間に法律関係が生じる。

・別個の法律行為だとしても、代理行為と代理権授与行為との間にある関連性には留意する必要がある。
→代理行為が13条1項に掲げられた行為に該当する場合には、被保佐人がその代理行為のための代理権授与行為をするには保佐人の同意を必要とすると解すべきでは・・・

(2)
・代理権授与を包括的に考えるか、個別的に捉えて効力を考えるのか。
代理行為がされるまでは代理権授与を包括的に捉えるべきであるが、代理行為がなされたならば、その限りで代理権授与は具体化されて目的を達しており、抽象的包括的な内容にとどまる代理権授与行為の効力部分と別個に捉えることができる!

2.被保佐人が保佐人の同意なしにした代理権授与に基づく代理行為の効力
無権代理となる。
相手方保護のために表見代理規定が適用されることは原則としてない。
制限行為能力者の保護を第三者との関係でも貫く民法の立場と矛盾するから。

Ⅴ おわりに


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民法818条 親権者

民法818条 親権者


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(親権者)
第八百十八条  成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2  子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う

・親権とは、父母の養育者としての地位・職分から出てくる権利義務の総称。

・親権の内容として、
子の監護教育(身上監護権)
子の財産管理(財産管理権)
経済的扶養

・父母の一方が死亡し、又は失踪宣告を受けその他親権を行使できなくなったときは、他方が単独で親権者となる。

・非嫡出子の親権は母だけが行う。

・未成年者が養子になると、実父母の親権を脱して養親の親権に服する(818条2項)
養親にも共同親権の原則(818条3項)が妥当する。

・養父母双方が死亡したときは、実親の親権は回復せず、後見が開始する!!!!!

・養父母双方と離縁すれば、死亡と異なり、実父母の親権が回復する!!!!

・行為能力者でなければ親権者になれない!
←親権は子の身分上及び財産上の広い権限を含むため
→被保佐人の親権能力を否定。

・親が未成年者のときは、未成年者の親権者又は未成年後見人が親権をおこなう(833条、867条)。

・親が成年後見人のときは、後見人が選任される(838条2号)

・親権は父母の婚姻中は父母が共同して行う
=夫婦の協議や家庭裁判所の許可によっても一方の者を親権者とすることはできない。

・夫婦の一方が単独名義で法律行為を行う場合でも、他方の同意があれば共同親権の原則に反しない。

・母の婚姻中その子が母の夫から認知を受け、認知準正(789条)が生じた場合にも、親権共同行使の原則が適用される!

・父が認知した子は、その父母が婚姻することにより嫡出子の身分を取得する(婚姻準正789条1項)が、それによって父が当然に親権を得るわけではない!!!!!!

・共同親権を有する父母の婚姻が破綻して別居状態にあるときは、家庭裁判所は離婚後の子の監護に関する場合と同様、子と同居していない親権者とことの面接交渉について相当な処分を命じることができる!
+判例(H12.5.1)
理由
 抗告代理人樋口明男、同大脇久和、同太田吉彦の抗告理由について
 父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行い、親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うものであり(民法八一八条三項、八二〇条)、婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容であるということができる。そして、【要旨】別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法七六六条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である。そうすると、原審の判断は、右と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)

・幼児引渡請求を認める判決は憲法13条の個人の尊厳を侵害するとはいえない。
判例(S38.9.17)
理由
 上告代理人原田勇、同窪田・、同細田貞夫、同桂川達郎、同鈴木巖の上告理由第一点(一)について。
 原判決の引用する一審判決が、Aと被告(上告人)ら夫婦の間には、右Aの法定代理人である原告(被上告人)の代諾のもとに養子縁組の話がまとまつた上、原被告間に被告がAを引取り養育する旨の合意成立し、之に基づき被告はAを引取り養育しているのであつて、Aは被告の事実上の養子である旨の被告の主張は認められない旨認定したことは、挙示の証拠関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同点(二)について。
 原判決並びにこれに引用する一審判決の所論判示は、その挙示する証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところである。所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提として、原判決を非難するに帰し、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。
 同第二点(一)乃至(三)について。
 しかし、本件請求は、被上告人が右Aに対する親権を行使するにつき、これを妨害することの排除を、上告人に対し求めるものであつて、本件請求を認容する判決によつて、被上告人の親権行使に対する妨害が排除せられるとしても、右Aに対し被上告人の支配下に入ることを強制し得るものではなく、これは右Aが自ら居所を定める意思能力を有すると否とに関係のない事項であつて、憲法一三条の個人の尊重とも何ら関係のないものである。また原判決は右判決の強制執行の方法として民訴七三〇条の動産引渡請求権の執行方法によるべき旨を判示しているわけではなく、そのような強制執行があつたわけでもない。所論は、いずれもその前提を欠き採るを得ない。
 同第三点について。
 原審は所論証人Bの尋問は実施しているのであつてこの点の主張は前提を欠くものであり(同証人に対する一審の訴訟手続違背の主張は、上告適法の理由とならない。)、証人Aについては当事者よりその証拠調申請がないのであるから、原審がこれが取調べをなさなかつたことは当然である。また上告人夫婦(上告人C、証人D)については、当事者の申出た証拠方法については、それが唯一の証拠方法である場合を除き、審理の経過から見て必要がないと認めるときは、その取調べを要しないものであるところ(最高裁判所昭和二四年(オ)第九三号、同二七年一二月二五日第一小法廷判決、民集六巻一二号一二四〇頁参照)、本件記録によれば、右両名については一審において既に同一立証事項について証拠調が実施され、右口頭弁論の結果は原審において陳述されており、原審における右両名の承拠調申請は唯一の証拠方法ではないことが明らかであるから、原審が右両名の証拠調をしなかつたとしても、原審の措置に何らの違法は存しない。原判決に所論の違法は存せず、論旨はすべて採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

・人身保護法による幼児引渡請求が認められるためには、拘束者の監護のもとにおかれるよりも、請求者の監護のもとにおかれることの方が幼児の幸福に適することが明白であることを要する。
+判例(H6.4.26)
理由
  上告代理人高田良爾の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人(拘束者)と被上告人(請求者)とは、昭和五六年一二月二五日に婚姻し、同人らの間には、同五九年一二月二六日被拘束者Aが、同六二年二月二六日被拘束者Bがそれぞれ出生した。被上告人は、昭和六二年三月七日にくも膜下出血で倒れ、病院を退院後、翌六三年三月中ごろ自宅に戻ったが、右疾病により身体障害者障害程度等級表上二級に相当する右上下肢不全麻ひ及び失語症の障害が残った。被上告人は、上告人が家事等について協力してくれないことに不満を持ち、次第に上告人との仲が円満を欠くようになり、平成五年三月三一日、被拘束者らを連れて、枚方市の両親宅(被上告人肩書地)に帰った。
 ところが、上告人は、平成五年一一月二七日、被拘束者らが通学する小学校付近で、登校してきた同人らを車に同乗させ、大阪市西成区の上告人宅(上告人肩書地)に連れて行き、以後、同人らと生活している。
 2 上告人は、歯科技工士を職業とし、自宅内で仕事をすることが可能であるところ、上告人宅の近くに理髪店を営む義父と実母夫婦が居住しているが、被拘束者らの日常生活の面倒を実母にみてもらっている。被拘束者らは、上告人宅に移った後、近くの小学校に通うようになったが、普通の生活を送っている。
 3 被上告人は、いずれも小学校の教諭を定年退職した両親宅に居住し、身体障害者として年金を受給しており、また、両親の援助協力を受けることが将来とも可能であるほか、付近に居住する被上告人の実弟夫婦の協力も得られる。右両親宅は、その居住空間も広く、被上告人の入院期間中に被拘束者らが引き取られていたところでもあり、同人らにとってなじみのあるところである。同人らは気管支ぜん息にかかっているが、右被上告人の両親宅に移ってからはその発作が軽減し、病状が改善された。
 4 上告人、被上告人とも、被拘束者らに対する愛情に欠けるところはない。
 二 原審は、右事実関係の下において、(一)被拘束者らは被上告人の両親宅に移ってから地元の小学校に通学し、教育上十分に配慮の行き届いた安定した生活を送っていたところ、上告人宅に移るとこれらがすべて失われること、(二)被拘束者らの気管支ぜん息が被上告人の両親宅への転地により改善されたが、上告人宅のある地域は、環境的には被拘束者らの気管支ぜん息を悪化させるおそれがあること、(三)被拘束者らは幼女であって母親である被上告人の監護を欠くことは適当でないことを考慮すると、被拘束者らが上告人の監護の下に置かれるよりも被上告人の監護の下に置かれる方がその幸福に適すること、すなわち、被拘束者が上告人の監護の下に置かれる方が被上告人の監護の下に置かれるよりもその幸福に反することが明白であるとし、上告人による被拘束者らの監護・拘束は、人身保護規則四条にいう権限なしにされた違法なものに当たるとの判断に立って、被上告人の本件人身保護請求を認容した。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 夫婦の一方(請求者)が他方(拘束者)に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求した場合において、拘束者による幼児に対する監護・拘束が権限なしにされていることが顕著である(人身保護規則四条)ということができるためには、右幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者の監護の下に置かれることが子の幸福に適することが明白であること、いいかえれば、拘束者が幼児を監護することが、請求者による監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要すると解される(最高裁平成五年(オ)第六〇九号同年一〇月一九日第三小法廷判決・民集四七巻八号五〇九九頁)。そして、請求者であると拘束者であるとを問わず、夫婦のいずれか一方による幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情のない限り適法であることを考えると、右の要件を満たす場合としては、拘束者に対し、家事審判規則五二条の二又は五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが、更には、また、幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべきである。
 これを本件についてみるのに、前記の事実関係によると、原判決が判示する前記二(二)の事情は、被拘束者らが上告人の下で監護されると、環境的にみてその気管支ぜん息を悪化させるおそれがあるというにとどまり、具体的にその健康が害されるというものではなく、また、その余の事情も被拘束者らの幸福にとって相対的な影響を持つものにすぎないところ、上告人、被上告人とも、被拘束者らに対する愛情に欠けるところはなく、被拘束者らは上告人の監護の下にあっても、学童として支障のない生活を送っているというのであるから、被拘束者らの上告人による監護が、被上告人によるそれに比してその幸福に反することが明白であるということはできない。結局、原審は、被拘束者らにとっては上告人の下で監護されるより被上告人の下で監護される方が幸福であることが明白であるとはしているものの、その内容は単に相対的な優劣を論定しているにとどまるのであって、その結果、原審の判断には、人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 四 以上によれば、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、前記確定事実を前提とする限り、被上告人の本件請求はこれを失当とすべきところ、本件については、幼児である被拘束者らの法廷への出頭を確保する必要があり、この点をも考慮すると、前記説示するところに従い、原審において改めて審理判断させるのを相当と認め、これを原審に差し戻すこととする。
 よって、人身保護規則四六条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

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民法817条の11 離縁による実方との親族関係の回復

民法817条の11 離縁による実方との親族関係の回復

(離縁による実方との親族関係の回復)
第八百十七条の十一  養子と実父母及びその血族との間においては、離縁の日から特別養子縁組によって終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる

・特別養子と養親及びその血族との間の親族関係は終了する(729条)。

・子は縁組前の氏に復氏し(816条)、縁組前の戸籍に復籍する。

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民法817条の10 特別養子縁組の離縁

民法817条の10 特別養子縁組の離縁

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(特別養子縁組の離縁)
第八百十七条の十  次の各号のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求により、特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一  養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
二  実父母が相当の監護をすることができること。
2  離縁は、前項の規定による場合のほか、これをすることができない。
・請求権者に養親が入っていない点に注意。
・離縁は家庭裁判所の審判によって行う(×協議)
・「いずれにも該当する場合」が要求されているので、1号かつ2号である。

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民法817条の8 監護の状況

民法817条の8 監護の状況

(監護の状況)
第八百十七条の八  特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を六箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
2  前項の期間は、第八百十七条の二に規定する請求の時から起算する。ただし、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない

・試験養育を考慮するということ。

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民法817条の7 子の利益のための特別の必要性

民法817条の7 子の利益のための特別の必要性

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(子の利益のための特別の必要性)
第八百十七条の七  特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。

・「父母による養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは
=貧困その他客観的な事情によって子の適切な監護ができない場合をいう。

・「不適当である」とは
=父母による虐待や著しく偏った養育をしている場合をさす。

・「その他特別の事情がある場合」とは
=これらに準じる事情のある場合をいう。

+判例(東京高決14.12.16)
 第2 当裁判所の判断
 1 一件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
  (1) 抗告人(昭和39年6月29日生)は、青木晋平(養子となる者の父、昭和32年10月27日生、晋平)と平成2年12月26日に婚姻し、平成12年1月1日事件本人青木悠を出産した。なお、抗告人と晋平との間には、長女麻友実(平成3年11月7日生)、二女葉澄(平成10年5月12日生)がいる。
 抗告人は、現在長女及び二女を監護養育している。
  (2) 晋平は、事件本人が抗告人と第三者との間の子であるとして、事件本人を特別養子に出すことに積極的であった。他方、抗告人は、当初から事件本人を特別養子に出すことには消極的であったが、実父母の説得もあって渋々これを承諾した。
  (3) こうして事件本人は、平成12年1月24日、里親会の仲介で、相手方夫婦のもとに預けられた。
 事件本人は、キリスト教の牧師・教会教師である相手方ら(夫婦)とその子及び相手方夫婦のそれぞれの母とともに生活しており、今日まで順調に監護養育されており、相手方夫婦に健康面及び生活面で特に問題は見られない。
  (4) 抗告人と晋平は、事件本人が出生した当時から、事実上の別居状態にあり、晋平は、会社員として福岡県に単身赴任をしていた。他方、抗告人は、熊本市内の晋平の持家に長女及び二女と同居し、音楽教師等として稼働していたが、晋平が帰宅した際には、一人で実家に帰るという生活をしていた。
  (5) 抗告人は、平成13年9月27日、家庭裁判所調査官に対し、本件特別養子縁組に同意しない旨伝えるとともに、同意撤回書を作成・送付し、同書面は同年12月3日受理された。
 原審判は、本件について基礎的な事実を認定し、事件本人の父、事件本人の父母による監護の可否、未成年者の母(抗告人)による監護の適否等について検討した上、本件特別養子縁組について抗告人の同意はないものの、抗告人が、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることは、いたずらに事件本人の生活を不安定にし、事件本人の健全な成長に多大な悪影響を及ぼすものといえるから、本件については民法817条の6但書の事由があり、さらに、同法817条の7等の要件も満たしているとして、相手方らの本件申立てを認容したものである。
 2 しかしながら、当裁判所は、原審判は取消しを免れないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
  (1) 特別養子縁組の成立には、原則として養子となる者の父母の同意を要することとした趣旨は、特別養子縁組が成立すれば、特別養子となった子とその父母との法的親子関係は終了し(民法817条の9)、養親がその子の唯一の父母となり、子及びその父母の法律上及び事実上の地位に重大な変更が生ずることから、子及びその父母の利益を保護することにあると解される。したがって、民法817条の6の但書にいう「その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは、父母に虐待、悪意の遺棄に比肩するような事情がある場合、すなわち、父母の存在自体が子の利益を著しく害する場合をいうものと解すべきであり、原審が説示するところの、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることをもって直ちに、上記但書の事由に当たるものと結論付けることはできないというべきである。そうすると、原審において、上記事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるといわざるを得ない。
  (2) また、民法817条の7は、「特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。」と規定しているところ、ここにいう「父母による養子となる者の監護が著しく困難」である場合とは、貧困その他客観的な事情によって子の適切な監護ができない場合をいい、また「不適当である場合」とは、父母による虐待や著しく偏った養育をしている場合を指し、「その他特別の事情がある場合」とは、これらに準じる事情のある場合をいうものと解すべきである。したがって、原審が説示するところの、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることが、上記必要性の要件を満たしているということはできない。かえって、一件記録によれば、抗告人は、現在長女及び二女を監護養育しており、今後実家に転居した上で、実父母等の援助を受けることができる可能性も否定し得ないこと、抗告人は、原審判後の平成14年10月11日、熊本家庭裁判所に晋平と事件本人の親子関係不存在確認の調停を申し立てており(平成14年(家イ)×××号事件)、時間の経過はあるにしても、現在法的手続を進めていること、今後の同調停事件等の推移いかんによっては、本件にも重大な影響が生ずるおそれがあること、抗告人は、原審において一貫して事件本人を監護養育する意思があることを表明していることが認められるのであって、これらの事実によれば、本件において上記必要性の要件が満たされていると判断するには躊躇せざるを得ない。したがって、この点につき更に審理を尽くす必要がある。
  (3) 以上のとおりであるから、原審の審理は、不十分であるというほかない。
 なお、付言するに、差戻し後の原審における審理の結果、仮に本件特別養子縁組が認められないと判断される場合において、事件本人が相手方らのもとで3年近く監護され、既に心理的な親子関係が成立している事実があることから、事件本人の監護環境を急激に変化させることが福祉上好ましくないことは明らかであり、事件本人の監護養育を抗告人に移行するに当たっては、関係者全員が一致協力し、事件本人の福祉が損なわれることのないよう適切な方策が講じられなければならない。
 3 よって、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消した上、前記の諸点について更に審理を尽くさせるため、本件を長野家庭裁判所松本支部に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 大藤敏 裁判官 高野芳久 三木素子)

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民法817条の6 父母の同意

民法817条の6 父母の同意

(父母の同意)
第八百十七条の六  特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでない。

・父母の同意には、実父母のほか、養父母も含む。

・養子となる者の利益を著しく害する自由がある場合とは、父母の存在自体が子の利益を著しく害する場合をいう。

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民法817条の5 養子となる者の年齢

民法817条の5 養子となる者の年齢

(養子となる者の年齢)
第八百十七条の五  第八百十七条の二に規定する請求の時に六歳に達している者は、養子となることができない。ただし、その者が八歳未満であって六歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない。

・養子となる者が、養親となる者の家庭裁判所への請求時に6歳未満であることが原則として必要。

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民法817条の4 養親となる者の年齢

民法817条の4 養親となる者の年齢

(養親となる者の年齢)
第八百十七条の四  二十五歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、養親となる夫婦の一方が二十五歳に達していない場合においても、その者が二十歳に達しているときは、この限りでない

・養親が25歳以上であることが要求されている。

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