民法択一 物権 非典型担保 代理受領


・債権に譲渡禁止特約がある場合にも、債権者は第三者に対して当該債権の弁済を自己に代わって受領する権限を与えることはできる!!←代理受領は、債権者が第三者に債権の取立権限を委任するものであり、債権自体を譲渡するものではない!!ヘーー

・BがAからの融資を受けるに当たり、BがCに対し有する債権についての弁済の受領権限をAに与えた場合、CがAの弁済受領を承認したにもかかわらず、CがBに弁済してしまったときは、Cは、Aに対し、不法行為責任を負う。←代理受領における第三債務者の承認は、単に代理受領を承認するにとどまらず、代理受領によって得られる利益を承認し、正当な理由がなく利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解するべきであり、承認の趣旨に反し、利益を害することのないようにすべき義務がある。

+判例(S44.3.4)
上告代理人上田明信、同鎌田泰輝の上告理由(一)について。
所論は、訴外東海航空測量株式会社(以下、東海航空測量という。)は昭和三四年一一月下旬北海道開発局函館開発建設部(以下、函館開発建設部という。)に対し、訴外Aに対する代理受領の委任を解除した旨を通知し、右通知によつてAの代理受領の権限は消滅し、被上告人には、函館開発建設部のした本件請負代金の支払によつて侵害されるべき利益はない旨主張する。
しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定したところによれば、東海航空測量は昭和三四年五、六月頃Aに対して、東海航空測量の函館開発建設部に対する本件請負代金債権の受領の代理権を与えてその受領を委任したというのであるから、右認定にかかる代理権授与の契約は、右委任の契約と一体をなしているものと解すべきである。また一方、原判決によれば、東海航空測量がした右委任契約を解除する旨の意思表示はその効力を生じない旨判示されており、右原判示も正当として是認できるのである。そうすると、所論代理受領の権限は消滅することなくなお存続しているものと解すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当である。右代理権は、函館開発建設部に対する解除の通知によつて消滅したという所論の見解には賛成することができず、右見解を前提とする論旨は採用することができない。

同(二)について。
所論は、(イ)函館開発建設部は、代理受領権者であるAに対して本件請負代金の支払をすることを妨げないとともに、東海航空測量に対しても有効に支払ができるのであるから、右支払が被上告人に対する関係で当然に違法になることはない、(ロ)これを違法として不法行為の成立を認めた原判示は矛盾している旨主張する。
しかし、原判決において、原審が挙示の証拠により適法に確定したところによれば、本件請負代金債権は、被上告人の東海航空測量に対する本件手形金債権の担保となつており、函館開発建設部は、本件代理受領の委任状が提出された当時右担保の事実を知つて右代理受領を承認したというのである。そして右事実関係のもとにおいては、被上告人は、Aが同建設部から右請負代金を受領すれば、右手形金債権の満足が得られるという利益を有すると解されるが、また、右承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理受領によつて得られる被上告人の右利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり、したがつて、同建設部としては、右承認の趣旨に反し、被上告人の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。しかるに、原判決によれば、同建設部長Bは、右義務に違背し、原判示の過失により、右請負代金を東海航空測量に支払い、Aがその支払を受けることができないようにしたというのであるから、右Bの行為は違法なものというべく、したがつて、原審が結局上告人に不法行為責任を認めた判断は正当である。そして函館開発建設部の東海航空測量に対する支払が有効であるとしても、原審が、右支払のされたことのみによつて直ちに原判示の過失を認めたものでないことは、原判文により明らかであるから、原判決に所論の矛盾は存在しない。論旨は採ることができない。


民法択一 物権 非典型担保 所有権留保


・動産の所有権留保付割賦売買契約において、代金完済前に買主の債権者が目的物を差し押さえた場合、売主は、留保した所有権に基づき第三者異議の訴えを提起することができる!!!

+判例(S49.7.18)
原審が適法に確定したところによれば、(一) 訴外湯浅金物株式会社は、昭和四二年一一月二二日その所有にかかる本件土運船を含む二隻の土運船を代金二七〇三万円で訴外中村海工株式会社に売り渡したが、代金支払方法として、契約と同時に二〇〇万円を支払い、残代金は昭和四四年九月二五日までにこれを二五回に分割して支払い、右代金完済に至るまで土運船の所有権は湯浅金物株式会社に留保し、代金完済のとき中村海工株式会社に移転することとし、その間湯浅金物株式会社は右土運船を中村海工株式会社に無償で使用させる旨の特約が締結されたこと、(二) ところが、中村海工株式会社は、残代金三一八万五〇〇〇円の未払を残したまま昭和四四年七月一九日大阪地方裁判所に和議開始の申立をしたので、湯浅金物株式会社は、中村海工株式会社がみずから破産、和議開始あるいは会社更生手続の開始等の申立をしたときは契約を解除して土運船の返還を求めることができる旨の特約に基づき、同月二三日契約を解除して、同会社から土運船二隻の返還を受けたうえ、同月三一日これを訴外丸嘉機械株式会社に代金三三〇万円で売り渡し、さらに被上告人が同年九月一三日同会社からこれを買い受けたこと、(三) 昭和四五年三月二日上告人は中村海工株式会社に対する債務名義に基づき本件土運船を差し押えたこと、以上の事実が認められる、というのである。
おもうに、動産の割賦払約款付売買契約において、代金完済に至るまで目的物の所有権が売主に留保され、買主に対する所有権の移転は右代金完済を停止条件とする旨の合意がなされているときは、代金完済に至るまでの間に買主の債権者が目的物に対して強制執行に及んだとしても、売主あるいは右売主から目的物を買い受けた第三者は、所有権に基づいて第三者異議の訴を提起し、その執行の排除を求めることができると解するのが相当である。いまこれを本件についてみるに、前記原審の確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が湯浅金物株式会社から丸嘉機械株式会社を経て取得した本件土運船の所有権に基づき上告人の強制執行の排除を求めることができることは、右説示に照らして明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切とはいえない。原判決(その引用する第一審判決を含む。)に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

+++第三者異議の訴えとは
強制執行が行われた場合に,第三者が執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡または引渡しを妨げることのできる実体上の権利を主張し,執行の不許を求める訴え (民事執行法 38) 。訴えの性格については,学説が分れているが,第三者の異議権を訴訟物とする形成訴訟と解するのが通説である。

+民事執行法
(第三者異議の訴え)
第38条
1項 強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。
2項 前項に規定する第三者は、同項の訴えに併合して、債務者に対する強制執行の目的物についての訴えを提起することができる。
3項 第1項の訴えは、執行裁判所が管轄する。
4項 前二条の規定は、第一項の訴えに係る執行停止の裁判について準用する。


民法択一 物権 非典型担保 譲渡担保


・譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲は、強行法規や公序良俗に反しない限り、設定契約の当事者間において元本、利息及び遅延損害金について自由に定めることができる!!

+判例(S61.7.15)!!!大切
上告代理人山根晃の上告理由第一について
不動産の譲渡担保権者がその不動産に設定された先順位の抵当権又は根抵当権の被担保債権を代位弁済したことによつて取得する求償債権は、譲渡担保設定契約に特段の定めのない限り、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないと解するのが相当である。
けだし、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲については、強行法規又は公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ第三者に対する関係においても、抵当権に関する民法三七四条(375?)又は根抵当権に関する同法三九八条ノ三の規定に準ずる制約を受けないものと解すべきであるが、抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の負担のある不動産に譲渡担保権の設定を受けた債権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によつて担保される債権額を控除した価額についてのみ優先弁済権を有するにすぎず、そのような地位に立つことを承認し、右価額を引き当てにして譲渡担保権の設定を受けたのであるから先順位の抵当債務を弁済し、これによつて取得すべき求償債権をも当然に譲渡担保の被担保債権に含ませることまでは予定していないのが譲渡担保設定当事者の通常の意思であると解されるからである。もとより、かかる譲渡担保権者は、先順位の抵当債務を弁済するにつき正当な利益を有するものというべきであるから、代位弁済によつて求償権を取得するとともに、先順位抵当権者の債権及び抵当権について代位することはいうまでもないが(民法五〇〇条)、右求償権は代位によつて取得する抵当権によつて優先弁済を受けられるのであつて、求償権者としての利益はこれによつて十分保護されるというべきである。また、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は、目的物の物としての価値の減損を防ぐための費用ではなく、むしろ譲渡担保権者自身の担保権を保全するための出捐とみられるのであつて、これを担保物の保存の費用と解するのは相当でない。この点について原審は、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は担保物の保存の費用に該当するが、設定契約に特段の定めのない限り、右費用は譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないとしているのであつて、右弁済のための費用を担保物の保存の費用とした点は失当たるを免れないけれども、叙上と同旨の結論は正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

・譲渡担保における受戻権は形成権ではないから、20年の時効では消滅しない!!
+判例(S57.1.22)
四 ところで、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権の弁済に充てることができるが、他方、債務者は、債務の弁済期の到来後も、債権者による換価処分が完結するに至るまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すことができる、と解するのが相当である。そうすると、債務者によるいわゆる受戻の請求は、債務の弁済により債務者の回復した所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、又はこれに由来する抹消ないし移転登記請求権の行使として行われるものというべきであるから、原判示のように、債務の弁済と右弁済に伴う目的不動産の返還請求権等とを合体して、これを一個の形成権たる受戻権であるとの法律構成をする余地はなく!!、したがつてこれに民法一六七条二項の規定を適用することは許されないといわなければならない。
してみれば、前掲の見解を前提として、Aのした本件債務の弁済が形成権たる受戻権の二〇年の時効期間経過後にされたものであることを理由に弁済の効力を否定した原審の判断には、譲渡担保に関する法令の解釈、適用を誤つた違法があるものといわなければならない。そして、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件債務について、その本旨に従つた弁済がなされたかどうか、本件土地についてAが返還請求権を取得したかどうか等につき、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

+(債権等の消滅時効)
第167条
1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

・動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となり、占有改定により引渡しがなされた場合、当該先取特権者が先取特権に基づいて動産競売の申立てをしたときは、特段の事情がない限り、譲渡担保権者は訴えをもって動産競売の不許を求めることができる!!←「引き渡し」(333条)には占有改定も含まれる。譲渡担保権者は「第三取得者」(333条)に含まれる。
+判例(S62.11.10)
(四) 本件物件の価額は五八五万四五九〇円である、(五) 上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)第三二六五号)をした、というのである。
ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

+(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

・構成部分の変動する集合動産については、1個の集合物として譲渡担保権の目的物となりうる!
+判例(S54.2.15)
上告代理人美村貞夫、同高橋民二郎、同土橋頼光の上告理由第一点及び第二点について
構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。
原審が認定したところによれば、(1) 訴外川崎電機株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年八月二七日その所有する食用乾燥ネギフレーク(以下「乾燥ネギ」という。)のうち二八トンを上告会社に対する一四〇〇万円の債務の譲渡担保として提供すること、上告会社は右ネギをいつでも自由に売却処分することができることを約した、(2) 当時訴外会社は、被上告会社との間に締結した継続的倉庫寄託契約に基づきその所有する乾燥ネギ四四トン三〇三キログラムを被上告会社倉庫に寄託していた、(3) 同日訴外会社から上告会社あて交付された被上告会社作成の冷蔵貨物預証には、「品名青葱フレーク三五〇〇C/S」「数量8kg段ボール四mm」「右貨物正に当方冷蔵庫第No.5No.8No.11No.12号へ入庫しました出庫の際は必ず本証をご提示願います」と記載されていたが、右預証は在庫証明の趣旨で作成されたものであり、上告会社社員が被上告会社倉庫へ赴いたのも単に在庫の確認のためであつて、目的物の特定のためではなかつた、(4) 上告会社は、前記譲渡担保契約締結前に訴外会社から乾燥ネギ一七・六トンを買い受けたことがあつたが、そのうち八トンは訴外会社三重工場から直接上告会社に送付され、残り九・六トンについては被上告会社の上告会社あて冷蔵貨物預証が差し入れられ、その現実の引渡しとしては、上告会社から訴外会社に指示し、訴外会社がこれを承けて被上告会社から該当数量を受け出し、これを上告会社指定の荷送先に送付する方法によつてすることとされていたところ、本件譲渡担保契約においてもこれと異なる約定がされたわけではなく、右契約締結後訴外会社から上告会社に対し乾燥ネギ二八トンのうちの三トン二四八キログラムが六回にわたり引き渡されたが、うち二トン八四八キログラムは訴外会社三重工場から上告会社に直送され、うち四〇〇キログラムは、さきの場合と同様、上告会社の指示により訴外会社が被上告会社から受け出して上告会社指定の荷送先に送付したものであつた、というのである。右の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいては、末だ訴外会社が上告会社に対し被上告会社に寄託中の乾燥ネギのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・AのBに対する債務を担保するために自己所有の甲土地にBのために譲渡担保権を設定し、所有権移転登記をした。AのBに対する債務の弁済期経過前に、Bは甲土地をCに譲渡した。甲土地が譲渡担保目的物であることをCが知っていた場合でも、Cは、甲土地の所有権を取得することができる!!!=善意悪意を問わない!

・AのBに対する債務の弁済期経過後であっても、Bが担保権の実行を完了するまでの間は、Aは、Bに対する債務を弁済して甲土地の所有権を回復することができる!!!

+判例(S62.2.12)
上告代理人木幡尊の上告理由について
一 債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁参照)、他方、弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)。
けだし、譲渡担保契約の目的は、債権者が目的不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権取得はかかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられるからである。 !!!!
右のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである。もつとも、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である。

二 ところで、記録によれば、本件訴訟は次のような経過をたどつていることが明らかである。すなわち、上告人は、第一審において、被上告人に対し、原判決添付の物件目録1ないし21記載の各土地(以下、一括して「本件土地」という。)について譲渡担保の目的でされた、被上告人を権利者とする第一審判決添付の登記目録記載の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続を求めたところ、受戻権の要件たる債務弁済の事実が認められないとして、請求を棄却されたため、原審において、清算金の支払請求に訴えを交換的に変更した。そして、上告人は、本件譲渡担保が処分清算型の譲渡担保であることを前提としつつ、被上告人が昭和五七年五月一〇日にした訴外Aに対する本件土地の売却によつて被上告人の上告人に対する清算金支払義務が確定したとして、右の時点を基準時とし、被上告人・A間の裏契約による真実の売買代金額又は本件土地の客観的な適正価格に基づいて、清算金の額を算定すべきものと主張した。これに対し、被上告人は、右売却時を基準時として清算金の額を算定すること自体は争わず、Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるとし、右価額から被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を控除すると、上告人に支払うべき清算金は存在しない旨主張し、原審においては、専ら、(イ)Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるかどうか、(ロ)被上告人とAとの間に上告人主張の裏契約があつたか否か、(ハ)清算にあたつて控除されるべき費用等の範囲及びその額について主張・立証が行われ、(イ)の争点については、上告人の申請に基づき、右売却処分時における本件土地の適正評価額についての鑑定が行われた。そして、本件譲渡担保が帰属清算型であることについては、当事者双方から何らの主張もなく、その点についての立証が尽くされたとは認められず、原審がその点について釈明をした形跡も全くない
三 原審は、その認定した事実関係に基づき、本件譲渡担保は、期限までに被担保債務が履行されなかつたときは債権者においてその履行に代えて担保の目的を取得できる趣旨の、いわゆる帰属清算型の譲渡担保契約であると認定したうえ、被上告人は、昭和四六年五月四日付内容証明郵便をもつて、上告人に対し、本件譲渡担保の被担保債権である貸金を同月二〇日までに返済するよう催告するとともに、右期限までにその支払がないときは、本件土地を被上告人の所有とする旨の意思表示をしたが、上告人が右期限までにその支払をしなかつたので、右内容証明郵便による譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した同月七日をもつて、本件譲渡担保の目的たる本件土地に関する権利が終局的に被上告人に帰属するに至つたというべきであり、被上告人とAとの間の本件土地の売買契約は、右権利が終局的に被上告人に帰属した後にされたものであつて、譲渡担保権の行使としてされたものではなく、上告人と被上告人との間の清算は、譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した昭和四六年五月七日を基準時として、当時の本件土地に関する権利の適正な価格と右貸金の元利金合計額との間でされるべきであるところ、この場合の清算金の有無及びその金額につき上告人は何らの主張・立証をしないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人の請求は理由がないとして、これを棄却すべきものと判断している。
四 しかしながら、原審の右認定判断は、前示の審理経過に照らすと、いかにも唐突であつて不意打ちの感を免れず、本件において当事者が処分清算型と主張している譲渡担保契約を帰属清算型のものと認定することにより、清算義務の発生時期ひいては清算金の有無及びその額が左右されると判断するのであれば、裁判所としては、そのような認定のあり得ることを示唆し、その場合に生ずべき事実上、法律上の問題点について当事者に主張・立証の機会を与えるべきであるのに、原審がその措置をとらなかつたのは、釈明権の行使を怠り、ひいて審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。 
のみならず、譲渡担保権の行使に伴う清算義務に関する原審の判断は、到底これを是認することができない。前示のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは、債権者の清算義務は具体的に確定するものではないというべきであり、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務全額の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者は受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるに至るものと解されるのであつて、この観点に立つて本件をみると、本件譲渡担保が帰属清算型の譲渡担保であるとしても、被上告人が、本件土地を確定的に自己の所有に帰属させる旨の前記内容証明郵便による意思表示とともに又はその後において、上告人に対し清算金の支払若しくはその提供をしたこと又は本件土地の適正評価額が上告人の債務の額を上回らない旨の通知をしたこと、及び上告人が貸金債務の全額を弁済したことは、当事者において主張せず、かつ、原審の確定しないところであるから、被上告人が本件土地をAに売却した時点において、上告人は受戻権ひいては本件土地に関する権利を終局的に失い、他方被上告人の上告人に対する貸金債権が消滅するとともに、清算金の有無及びその額は右時点を基準時として確定されるべきことになる。そして、右清算義務の確定に関する事実関係は、原審において当事者により主張されていたものというべきである。そうとすれば、原審としては、被上告人が本件土地をAに売却した時点における本件土地の適正な評価額(同人への売却価額七五〇〇万円が適正な処分価額であつたか否か)並びに右時点における被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を認定して、清算金の有無及びその金額を確定すべきであつたのであり、漫然前記のように判示して上告人の請求を棄却した原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備ないし審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。

・AのBに対する債務の弁済期経過後に、Bが甲土地をCに譲渡した場合、CがAとの関係で背信的悪意者と評価されるときでも、Aは債務の全額を弁済し、甲土地の所有権を回復することはできない!!!
+判例(H6.2.22)
三 しかしながら、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、最高裁昭和六〇年(オ)五六八号同六二年二月一二日第一小法廷判決・民集四一巻一号六七頁参照)。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない
けだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。したがって、前記事実関係によると、被上告人Aの債務の最終弁済期後に、Bが本件建物を上告人に贈与したことによって、被上告人Aは残債務を弁済してこれを受け戻すことができなくなり、上告人はその所有権を確定的に取得したものというべきである。これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

++解説
三 譲渡担保について、大審院以来の判例は、譲渡担保についていわゆる所有権構成を採用している。同じ財産権移転形式の非典型担保である仮登記担保に関する一連の判例(最大判昭49・10・23民集二八巻七号一四七三頁、本誌三一四号一五二頁で集大成された。)の影響を受け、譲渡担保についても、清算を要すること(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)、債務者は債務の履行を遅滞した場合であっても、換価処分が完結するまでは債務を弁済して目的物を受け戻すことができること(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁、本誌四六六号八三頁)など、担保目的という実質を考慮した判例が表われているが、これらも、譲渡担保によって目的物の所有権が設定者から第三者に移転していること自体を否定するものではなく、所有権構成は維持されている。これに対して学説は、譲渡担保権の法的構成について、近時は、担保権的な構成をするものが有力になっている(学説については、差し当たり竹内俊雄「譲渡担保の法的構成と効力」『ジュリ増刊民法の争点Ⅰ』一八〇頁参照)。
本判決は、弁済期後に担保権者が目的物の所有権を移転した場合には、譲受人の主観的態様を問題とせず(対抗問題になぞらえると、いわゆる背信的悪意者に当たるような者であるかどうかを問わず)、受戻権が消滅することを判示し、受戻権の存続期間を明らかにしたものである。従来からの判例の立場である所有権構成を前提とすれば、譲渡担保権者は目的物の所有権者であり、弁済期後には目的物の処分権に対する制限もなくなるから、譲渡担保権者による弁済期経過後の目的物の第三者への譲渡は完全に有効であり、第三者は、その主観的態様いかんにかかわらず目的物の所有権を取得し、反面、受戻権は消滅することとなる。本判決は、所有権構成を前提とした上で、さらに、実質的な理由として、①担保権者から弁済期後に目的物を譲り受けた第三者が背信的悪意者に当たるような者である場合には清算金が支払われるまでは受戻権は消滅しないとすると、その後も債務者が債務を弁済せず、債権者も清算金を支払わない場合には、権利関係が浮動の状態が長く続くことになること、②譲渡担保権者から目的不動産を譲渡された第三者が「背信的悪意者」であるか否かは、債権者(譲渡担保権者)にとって明白であるとはいえないから、「背信的悪意者」であるかどうかによって受戻権が消滅するかどうかが定まるのであれば、譲渡担保権者が不測の損害を被るおそれがあること(例えば、第三者が「背信的悪意者」であったため、受戻権・債権債務関係が存続したのに、目的不動産を第三者に譲渡することによって債権債務関係は終了していると信じていたために何らの権利保全の手段を採らず、債権が時効によって消滅し、ひいて譲渡担保権も消滅することも考えられる。)を付加したものと思われる。フム
本判決が引用する最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁、本誌六三三号一一一頁は、直接には、帰属清算型の譲渡担保について清算金の有無及びその額の確定時期を明らかにしたものであるが、その理由中で清算金の提供若しくは目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知、又は債権者が目的不動産を第三者に売却等した場合に受戻権が消滅する旨を判示していた。本判決は、これを確認し、処分清算、帰属清算を問わずに、弁済期後の目的物の所有権の移転によって受戻権が消滅することを明らかにしたものである。
なお、受戻権が消滅するとすれば、設定者が清算金の支払を受けることを確保する手段の確保が次の課題となると思われる。本判決が、「清算金との引換給付を求める旨の主張」等について審理をさせるために本件を原審に差し戻している点は、留置権を肯定する含みを表すものという理解もある(松岡久和・民商一一一巻六号九四九頁)。

・AがBに対する債務を弁済した後に、Bが甲土地をCに譲渡し、所有権移転登記をした場合でも、Aが甲土地の所有権を回復できる場合がある。!=第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別!!
+判例(S62.11.12)
上告人菅沼志づ外五名の代理人山本祐子、同前田留里の上告理由第二並びに上告人菅沼愛子外二名の代理人宇津泰親の上告理由中被上告人水野誠道関係の第一点及び第二点について
不動産が譲渡担保の目的とされ、設定者から譲渡担保権者への所有権移転登記が経由された場合において、被担保債務の弁済等により譲渡担保権が消滅した後に目的不動産が譲渡担保権者から第三者に譲渡されたときは、右第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別、そうでない限り、譲渡担保設定者は、登記がなければ、その所有権を右第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。これと同旨の見解に立ち、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、第一審判決添付の目録(八)記載の土地の譲渡担保設定者である亡菅沼高雄の地位を相続により承継した上告人菅沼志づ外六名及び同目録(一五)記載の建物の譲渡担保設定者である上告人株式会社大和製作所は、譲渡担保権の消滅後に譲渡担保権者の訴外荒巻藤夫から右土地建物の譲渡を受けた被上告人水野誠道に対し、その所有権を対抗することができないものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・債務者が債務の履行を遅滞したときは、帰属清算型の譲渡担保であっても、譲渡担保権者は、目的不動産を処分する権限を取得する!!

・動産譲渡担保は、所有権移転の形式をとるので、債務者が引き続き担保目的物を占有している場合でも、譲渡担保権者は占有改定によりその引渡しを受けることができ、それによって担保目的物の所有権の取得を第三者に対抗することができる!!
+判例(S30.6.2)
そして、売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。果して然らば、原判決の認定したところによれば、上告人(被控訴人)は昭和二六年三月一八日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつたものといわなければならない。しかるに、原判決は、被控訴人(上告人)において占有改定による引渡を了したことを認むべき証拠がなく、被控訴人は右所有権の取得を以て控訴人に対抗し得ないものとし、被控訴人の本訴請求を排斥したのは違法であつて、論旨はその理由あるものというべく、原判決は破棄を免れない。

・債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、債務の弁済が目的物の返還に対し先履行の関係にある!

+判例(H6.9.8)
上告代理人長谷川安雄の上告理由について
債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し先履行の関係にあり、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから(最高裁昭和五六年(オ)第八九〇号同五七年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号三三頁、最高裁昭和五五年(オ)第四八八号同六一年四月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一四七号五一五頁参照)、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

++解説
一 Y会社は、訴外A会社に二一二五万円を貸し付け、Aの代表取締役であったXは、これを担保するために、Yとの間にB会社の株式をYに譲渡する旨の譲渡担保契約を締結し、Yに株券を交付した。Xは、Yに対し、被担保債権の弁済を受けるのと引換えに本件株券を返還するよう求めて、本訴を提起した
第一審は、Xに買戻しの権利がないとの理由で請求を棄却した。これに対し、原審は、債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対して先履行の関係にあり、同時履行の関係にはないから、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるとして、控訴を棄却した。
Xは、上告し、原判決の判断は最一小判昭46・3・25(民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)に反すると主張した。
二 右最一小判昭46・3・25は、不動産を譲渡担保とした債務者が弁済をしなかった場合について、債務者の債権者に対する不動産の引渡義務と債権者の債務者に対する清算金の支払義務とが、特段の事情のある場合を除き、同時履行の関係にあるとしたものである。これに対し、本訴で問題になっているのは、譲渡担保設定者が担保物を受け戻す場合における弁済と受戻しの関係であるから、右判例が本訴とは事案を異にするものであることは明らかである。
右最一小判昭46・3・25は、これに先だって最一小判昭45・9・24(民集二四巻一〇号一四五〇頁)が、代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と債務者の本登記手続義務ないし引渡義務との関係について、原則として同時履行の関係にあるとしていたのを、譲渡担保にまで押し及ぼしたものであるが、この判決の判例解説(小倉顕調査官)は、「清算金と債務者の有していた留保価値とが対価関係に立つから、これにつき売買が行われたと同じ実質をもつともいえる」ことをその理由としている。つまり、ここで問題となっているのは、譲渡担保契約における双方の対立債務であるから、民法五三三条が適用されるとしたものであろう。

三 これに対し、本訴で問題になっているのは、消費貸借契約に基づく弁済の債務と譲渡担保契約に基づく(又はこれから派生する)返還の債務との関係である。被担保債権が弁済その他の事由で消滅すれば、担保権の付従性によって譲渡担保権も消滅し、譲渡担保権者は、目的物を直接占有していればこれを設定者に返還する義務を負う。しかし、両者は別個の契約に基づく債務であるから、民法五三三条の要件を満たさず、同時履行の関係にはないことになる。判例・学説は、この見解を採っているということができる(大判昭2・10・26新聞二七七五号一三頁、注釈民法(9)三六七頁〔柚木=福地〕)。
譲渡担保については、この見解を明言する最高裁判例はまだなかったが、抵当権及び仮登記担保権については、同様の場合に同時履行関係を否定し、弁済が先給付の関係にあるとするのが、最高裁の判例である。すなわち、抵当権については、大判明37・10・14(民録一〇号一二五八頁)のその旨の判示を最二小判昭41・9・16(裁集民八四号三九七頁)と最三小判昭57・1・19(裁集民一三五号三三頁、本誌四六四号八六頁)が追認しており(いずれも、債務の弁済と抵当権設定登記の抹消登記手続との関係に関するもの)、また、仮登記担保権については、最二小判昭61・4・11(裁集民一四七号五一五頁)が、債務の弁済は仮登記の抹消登記手続の履行に対し先給付の関係にあると判示している。さらに、質権については、明文の規定があり(民法三四七条)、質権者が債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができるものとされている。譲渡担保について、これらの場合と結論を異にすべき理由は見いだし難いであろう。
もっとも、このような見解は形式的論理に過ぎ、実質的に考えれば、両者は双務契約における対立債務と同視し得る関係にあるとして、当事者の黙示的合意等を根拠に同時履行の関係を認めるべきであるとの見解もあり得るところかと思われる(抵当権についてはこのような学説も有力である。)。しかし、仮に同時履行の関係を認めると、債権者としては、弁済を受ける前から登記の抹消(不動産の場合)や担保物の返還の準備に着手しなければならなくなり、債権者に過重な負担を課することとなって相当でないともいえよう(仮登記担保に関する右最二小判昭61・4・11の判示するところである)。フム・・・

+(質物の留置)
第347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。

・譲渡担保権の設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知をしない間に、譲渡担保の受戻権を放棄したとしても、譲渡担保権者に対して清算金の支払いを請求することはできない!!!!!
+判例(H8.11.22)
三 しかしながら、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。
けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。
四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に判示したところによれば、被上告人の本件請求は理由がないから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、これを棄却すべきものである。

++解説
三 本判決は、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権実行の完結時点における譲渡担保目的物の価額から残存する被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権実行の完結前に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保目的物の所有権等を回復する権利であって、両者は発生原因を異にする別個の権利であるから、受戻権の放棄は清算金支払請求権を発生させる原因とはならないと判示した上、譲渡担保権者による譲渡担保権完結時期(譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をし、又は清算金がない旨の通知をした時点)前に譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権は発生しないとして、原判決を破棄し、一審判決を取り消して、原告の請求を棄却した。
四 本件の第一審判決(大阪地判平4・3・30、判時一四三六号七四頁)は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄して譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求し得るかという法律問題についての見解を示す唯一の公刊裁判例であった。受戻権に関する従来の議論は、設定者が受戻権をどの時点まで行使できるかという観点からのものであり、本件のように、設定者の側で受戻権を放棄した場合の法律関係について論じた文献は、本件一審判決の立場を支持する評釈が散見されるのみである。
譲渡担保権設定者による、受戻権の法的性質に関して、従来の判例は、譲渡担保権者は一般的に清算義務を負うこと(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁)、譲渡担保においては、債務者が被担保債務全額を弁済すれば、その効果として、譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づきその返還を求め得る(この権利が「受戻権」と定義されている)こと(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁)、債権者が担保権の実行を完結するまでの間(債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又のとき、又は目的不動産の適正評価額が被担保債務の額を上回らない旨の通知をしたとき)債務者の受戻権は消滅せず、債権者の清算義務は具体的に確定しないこと(最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁)を判示している。
これら判例によれば、受戻権は、債務者が被担保債務全額を弁済した効果として譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づき発生する権利であるから、被担保債権を消滅させないまま譲渡担保権者に清算金支払義務を負わせる理論的根拠は見出し難いであろう。また、実質的にも、抵当権については、抵当権者が権利を実行する時期を決定することができ、抵当権設定者はその時期を決定することができないのに対し、譲渡担保権設定者が受戻権を放棄することにより清算金の請求ができると解するならば、譲渡担保権設定者の側で譲渡担保権実行の時期を決定することができることになるが、このような結果は譲渡担保権者にとって酷であり、抵当権者との比較において妥当性を欠くといわざるを得ないであろう。
なお、本判決は、「譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、」と判示しながら、受戻権が放棄された後における譲渡担保権者及び設定者の権利関係について、それ以上の判示をしていない。受戻権の放棄によって清算金請求権が発生しないことを判示すれば、本件事案を解決するためには十分であるから、あえて傍論を展開することは避けたものであろう。したがって、清算金請求権以外の右権利関係については、今後の判例の動向が注目される。
本判決は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求することはできないという新たな法理を明らかにしたものであり、従来判例の存しない事項について、下級審裁判例及び学説と異なる結論を採った判例であって、金融実務などの実務に与える影響も極めて大きいといえよう。

・不動産の譲渡担保権設定者は、担保目的物の精算時までは、債務を弁済して担保目的物の完全な所有権を回復できる地位にあり、担保目的物を不法占有する者に対してその返還を請求することができる!!!!
+判例(S57.9.28)
上告代理人関康雄の上告理由一について
譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであつて、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによつて換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから(最高裁昭和三九年(オ)第四四〇号同四一年四月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、同昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、同昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。

・借地上の建物の譲渡担保の効力は、土地の賃借権に及ぶ!!!
+判例(S51.9.21)
上告代理人田中寿秋の上告理由について
債務者である土地の賃借人がその賃借地上に所有する建物を譲渡担保とした場合には、その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り、右譲渡担保権の効力は、原則として土地の賃借権に及び、債権者が担保権の実行としての換価処分により建物の所有権をみずから確定的に取得し又は第三者にこれを取得させたときは、これに随伴して土地の賃借権もまた債権者又は第三者に譲渡されると解すべきである。したがつて、債権者がいわゆる帰属清算の方法により建物の所有権を取得する場合において、債務者に交付すべき清算金額を算定するにあたつては、特段の事情のない限り、借地権付の建物として適正に評価された価額を基準としてすることを要する(この場合、土地賃借権の譲渡の承諾を得るにつき土地の賃貸人に対し適正な金額の給付を要するときは、右金額は、換価に要する相当な費用として、清算金額の算定上控除することができる。)。しかしながら、土地賃借権の譲渡について賃貸人の承諾(又はこれに代わる許可の裁判)を得ることが不可能又は著しく困難な事情にあつて、債権者が建物の所有権を取得しても借地法一〇条による建物買取請求権の行使をするほかはないと認められるときは、右買取請求権を行使した場合における建物の時価を基準として清算金額を算定することが許されると解するのが、相当である。 フムフムフム!!!
原判決は、措辞いささか明確を欠くが、結局において右と同旨の見解に立脚しつつ、本件の土地賃借権の残存期間や賃貸人が契約終了を理由に土地の明渡しを要求していることなどを含む従前の経過その他の諸事情をしんしやくしたうえ、本件建物を債権者である被上告人が取得するとしても、土地賃借権の譲渡につきとうてい賃貸人の承諾を得ることができず、建物買取請求権を行使する以外に方途がない旨の事情の存在を認定し、その場合における本件建物の時価をもつて本件建物の適正評価額としたうえ清算金額が金四〇万円を上回るものではないと算定したものと認められる。そして、原判決挙示の証拠関係に照らすと、所論の点に関する原審の認定判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


民法択一 物権 先取特権 先取特権の効力


・一般先取特権は、物を占有する権利を含まない物権であるから、それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することはできない!!!

・動産売買の先取特権を有する者は、物上代位権行使の目的である債権について、一般債権者が差押えをした後であっても、物上代位権を行使することができる!!!!
+判例(S60.7.19)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第九二七号同五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号四三一頁参照)。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、一般債権者たる被上告人らは、本件転売代金債権について仮差押の執行をしたにすぎないから、その後に上告人が本件物上代位権を行使することは妨げられないものというべきである。これと異なる原審の判断には民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。

+(物上代位)
第304条
1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

・動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する第三者に対する対抗要件が具備された後は、物上代位権を行使することはできない!!!!
+判例(H17.2.22)
3 民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
4 前記事実関係によれば、A社は、被上告人が本件転売代金債権を譲り受けて第三者に対する対抗要件を備えた後に、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから、上告人は、被上告人に対し、本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。

++解説
(2) ところで,抵当権は,第三者に対しても追及効がある担保物権であるとされている。これは,抵当権は,登記という形で公示制度が完備されていることから,第三者に対して追及効を認めても,第三者に不測の損害を与えるおそれがないことによるものである。ところで,債権譲渡により,債権が債務者から第三者に移転すると,債務者が第三債務者から金銭を受け取るべき関係がないことになるから,物上代位権を行使して差し押さえることができなくなるのではないかという疑問が生ずる。しかし,抵当権のみならず,抵当権の物上代位権にも追及効があると考えるならば,譲渡された債権についても有効に差し押さえることができるということになるのであって,平成10年最判は正にこのような考え方に立脚するものである(平10最判解説(民)(上)26頁以下)。そして,平成10年最判の理由付けの中で注目すべき点は,抵当権の効力が物上代位の目的債権にも及ぶことは,抵当権設定登記により公示されているとみることができるとしたことである。その上で,平成10年最判は,債権譲渡の対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れる場合には,もともと実体法上は抵当権者が優先すると考えられることから,債権譲渡後の物上代位権の行使を認めても,債権譲受人の立場は害されないと考えているものと推測される(前記最判解説26頁)。

これに対し,動産売買の先取特権は,債務者が,その目的物である動産を第三者に引き渡すと,その動産には先取特権の効力は及ばないこととされている(民法333条。先取特権は,先取特権者の占有を要件としていないため,目的物が動産の場合には公示方法が存在せず,追及効を制限することにより動産取引の第三者を保護しようとしたのであるそうとすれば,動産売買の先取特権に基づく物上代位権も目的債権が譲渡され,債権が債務者から第三者に移転すると,もはや追及効がなくなるものと解すべきである。このような場合にも追及効があるとすれば,抵当権とは異なり,動産売買の先取特権には公示方法がないことから,第三者(債権譲受人等)の立場を不当に害するおそれがあるものと考えられる。民法304条1項ただし書の規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである(内田貴・民法Ⅲ 債権総論・担保物権(第2版)511頁,道垣内弘人「昭和60年最判の判例批評」別冊ジュリ159号175頁等参照)。
以上によれば,本判決が判示するとおり,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

・債務者に対して破産手続開始の決定がされたときであっても、先取特権者は物上代位権を行使することができる!!!!
=甲動産を所有するAが、これをBに売却し、さらにBがCに譲渡したが、AがBから代金の支払いを受けていない場合であって、BからCへの甲動産の譲渡が売買に基づくものであるときには、Bに対して破産手続開始の決定がされたときであっても、Aは、動産売買先取特権の行使として、BのCに対する代金債権を差し押さえることができる!!
+判例(59.2.2)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持されこれにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもつて目的債権につき差押命令を取得したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使することを妨げられるとすべき理由はないというべきである。そして、債務者が破産宣告決定を受けた場合においても、その効果の実質的内容は、破産者の所有財産に対する管理処分権能が剥奪されて破産管財人に帰属せしめられるとともに、破産債権者による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり、これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではなく、これを前記一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。したがつて、先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。


民法択一 物権 先取特権 先取特権の順位


・共益費用についての一般の先取特権者は、雇用関係についての一般の先取特権者に優先して債務者の総財産から弁済を受けることができる!
+(一般の先取特権の順位)
第329条
1項 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第306条各号に掲げる順序に従う
2項 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

・動産保存の先取特権は、動産売買の先取特権に優先する!
+(動産の先取特権の順位)
第330条
1項 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
動産の保存の先取特権
動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2項 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3項 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。

・内容の衝突する物権相互間においては、その優先順位は、対抗要件具備の順序に従うのが原則である!ただし、登記をした不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権は、抵当権に先立って行使することができる!!!
=不動産先取特権、不動産質権、抵当権の順位は常に登記の先後によって決まるわけではない!

+(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第339条
前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。

+(不動産保存の先取特権の登記)
第337条
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

+(不動産工事の先取特権の登記)
第338条
1項 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2項 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

+++337条解説
先取特権というのは、担保物権の中の一つでしたが、その中でも法定担保物権の一つでした。つまり、抵当権などとは異なり当事者が契約をしなくても、法律上一定の事由があれば当然に発生するものなのです。そして、同一の不動産に対して、抵当権と不動産保存の先取特権が競合した場合、不動産保存の先取特権が抵当権に対して優先するのです。これは抵当権者からしたら、たまったものではありません。→抵当権者の保護のため。

++不動産保存の先取特権とは?
不動産に関する権利の保存費用を負担した人がいる場合に、その人がその旨を登記すれば、先取特権が発生し、不動産を競売して保存費用を取り戻せるという権利である。

・動産売買の先取特権と動産質権が競合する場合には、動産質権が優先する!!!

+(先取特権と動産質権との競合)
第334条
先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第330条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。

+(動産の先取特権の順位)
第330条
1項 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2項 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3項 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。


民法択一 物権 先取特権 意義・種類


・民法上、先取特権には、一般先取特権、動産先取特権、不動産先取特権の3つの種類が存在するが、この分類は優先弁済の対象となる目的物の種類に応じたものである!

・一般先取特権の優先弁済の対象は「債務者の総財産」(306条柱書)
+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

・動産先取特権については「債務者の特定の財産」(311柱書)
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務

・不動産先取特権については「債務者の特定の不動産」
+(不動産の先取特権)
第325条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一  不動産の保存
二  不動産の工事
三  不動産の売買

・雇用関係の先取特権は、定期に支払われる給料を担保する。使用人が退職する際に支払われるべき退職金も担保する!←雇用関係から生じた一切の債権だから
+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

+(雇用関係の先取特権)
第308条
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。

・日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月分の飲食料、燃料及び電気の供給について存在する!

+(日用品供給の先取特権)
第310条
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。

+解説
「債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な飲食料品、燃料及び電気の供給」をした者は、その代金債権に関しては、債務者の総財産について先取特権を有する。
 ただし、「一般の先取特権」として優先回収権が認められるのは、債務者の財産を差押た時点 又は 他の債権者が債務者の財産に対して申し立てた差押に配当要求をした時点 から さかのぼって6か月以内の債権だけだ という事を、『最後の6箇月間の』 という文言が表しているのです。
 例えば、米屋は、債務者が米代の売掛金の支払いをしないときは、債務者の有する財産(不動産・動産・債権等)を差押て回収する事が出来ますが、一般の先取特権として他の一般債権者(担保物権を有しない債権者)に優先して裁判所から配当が受けられるのは、差押の日から6か月以内に弁済期が来た部分だけで、それより前の売掛金は 他の一般債権者と同順位で各債権者の債権額按分で配当を受けられるに留まる。
←社会政策的配慮
・一般先取特権は、不動産につき登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができるが、登記をした第三者には対抗できない!!!←177条の例外。但し書きは取引の安全のため。
+(一般の先取特権の対抗力)
第336条
一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
・日用品の供給によって生じた債権を有する者は、当該日用品だけでなく、債務者の総財産を目的とする!!!!←一般先取特権!
・一般先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることはできない!!!
←例えば、先取特権者が10万円の債権を担保するために先取特権を行使してきたとします。そのときに、家に対して行使されるか、家の中に置いてあるテレビに対して行使されるか、どちらが嫌か?を考えてみる。
+(一般の先取特権の効力)
第335条
1項 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
2項 一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
3項 一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
4項 前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。
・動産の賃貸借によって生じた賃料債権の債権者は、債務者の特定の動産に対する先取特権を有しない!!!!!!!ナント
←311条に規定されていない
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務
・賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ!!!!!
+(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第314条
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。
・請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができない!!!
=請負工事に用いられた動産の売主は、請負人が注文者に対して有する請負代金債権を目的として動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないのを原則とするが、請負代金全体の中で売却した動産が占める価額の割合や請負契約における請負人の債務内容等に照らして請負代金の全部又は一部を当該動産の転売代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、その部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができる。
+判例(H10.12.18)
 動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法三〇四条)。これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。 
 これを本件について見ると、記録によれば、破産者エヤー・工販株式会社は、申立外松下電子部品株式会社からターボコンプレッサー(TX―二一〇キロワット型)の設置工事を代金二〇八○万円で請け負い、右債務の履行のために代金一五七五万円で右機械を相手方に発注し、相手方は破産会社の指示に基づいて右機械を申立外会社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、二〇八○万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当することが明らかである。右の事実関係の下においては、右の請負代金債権を相手方が破産会社に売り渡した右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、申立外会社が仮差押命令の第三債務者として右一七四〇万円の一部に相当する一五七五万円を供託したことによって破産会社が取得した供託金還付請求権が相手方の動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
++解説
 四 動産売買の先取特権は公示手段なしに優先弁済権を認める権利であるため、制度そのものに対する批判もあり、立法例も分かれている。我が国の民法において動産の売主に先取特権が認められた立法趣旨としては、①動産の売主は買主の信用を確かめることができない場合が多いため、売主に先取特権を与えることによって動産の売買を容易かつ安全ならしめることができること、②動産の売主は当該動産を提供することによって買主の一般財産を増加させたのであるから、当該動産によって売主の代金債権が担保されることが公平の原則に適うことなどが挙げられているが、動産売買の先取特権者には、目的動産を直接支配したり、目的動産が第三者に譲渡されることを阻止したりする権利が認められていないため、動産の売主による先取特権の行使を認めることがかえって債権者間の実質的な公平を損なうことになる、との指摘もされている(藤田耕三「動産売買先取特権に基づく保全処分」民事保全実務の諸問題二四頁)。実務上動産売買先取特権に基づいて転売代金の差押えを行うためには担保権の存在につき適切な書証による高度の証明が必要とされ、動産の買主がこれを用いて施工した請負工事代金についての民法三〇四条に基づく差押えの可否に関して原則的否定説に立つ下級審の裁判例が多いのも、動産売買先取特権の公示の方法が十分でないため、物上代位権の行使を安易に認めると、他の債権者や取引関係者の利益を害するおそれがあることを考慮したものではないかと考えられる。
 五 本件は、債務者が第三債務者から債権者の販売する本件機械の搬入工事を受注した上で、債権者に右機械を発注し、債権者が右機械を第三債務者に直接引き渡したと認められる事案であり、また、債務者が第三債務者に宛てて作成した見積書においては、本件機械の価格の部分とその余の費目とが区別され、本件機械の価格の部分(一七四〇万円)は、請負工事代金総額(二〇八〇万円)の八割以上を占めている。したがって、本件は、債権者から提出された書証によって債務者が本件機械を第三債務者に転売したと認めることのできる事案であり、前記三の(2)の動産同一性説又は(3)の肯定説に立つ場合はもとより、(1)の原則的否定説に立っても債権者による物上代位権の行使を肯定してよい事案であるといえる。
・建物の賃貸人は、賃借人に対する賃料債権を被担保債権として、当該建物内に持ち込まれた金銭について先取特権を有する!!!
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務
+(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第313条
1項 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
2項 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
++
「建物に備え付けた動産」(313条2項)とは、賃借人がその建物内にある期間継続して存置するために持ち込んだ動産を意味し、建物内に持ち込まれた金銭、有価証券、懐中時計、宝石類等にも先取特権が及ぶ!!!!
・不動産工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する!!!
+(不動産工事の先取特権)
第327条
1項 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2項 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
+++
工事をすれば、当然不動産の価値は上がる。しかし、時の経過とともにその価値はまた落ちる。ですから、先取特権を行使しようとする時点において、価値の増加が残存している部分についてのみ先取特権は成立するということ。
・不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する!!!!
+(不動産売買の先取特権)
第328条
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。

・甲動産をしょゆうするAが、これをBに売り、さらにBがCに譲渡したが、AがBから代金の支払いを受けないまま、甲動産がAからBへ、さらにBからCへ売買により引き渡された場合、Aは動産売買先取特権の行使として、甲動産を差し押さえることはできない!!!!!!
+(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない

+++解説引用参照。
333条の趣旨は、公示のない動産上の先取特権の追及力を制限し、動産取引の安全を図ることだと言われています。
少しわかりやすく解説するために、追及力のある担保物権である抵当権と比較します。
たとえば、AさんがBさんに1000万円を貸して、Bさんの土地に抵当権を設定したとします。抵当権は登記をすることができます。つまり、登記をすることにより、抵当権が設定されていることを公示することができるのです。とすると、ある土地を買おうとする人は、その土地を買う前に登記簿を調べれば、その土地に抵当権が設定されていることがわかるのです。ですから、抵当権が設定されていたとしても、取引の安全を害することはありません。だからこそ、抵当権には追及力というものが認められているのです。さきほどの事例で、抵当権が設定されているBさんの土地がCさん、さらにDさんに売り渡されていったとしても、ずーっと抵当権は設定されたままなのです。これを追及力と言います。
他方で、先取特権の場合はどうでしょうか?先取特権は、一般の先取特権、動産の先取特権、不動産の先取特権の3種類があり、一般の先取特権と動産の先取特権は登記をすることができないのです。とすると、ある物に対して先取特権が存在していたとしても、その物に先取特権が成立しているかどうか第三者は知ることができないのです。ある物を買ったのに、実はその物には先取り特権が設定されていましたということになると、その物を買った人からするとたまったものではありません。つまり、公示されていないので、取引の安全を害することになるのです。ですから、333条は、追求力を制限して、第三者に引き渡された後は、先取特権を行使することができないとすることによって、その物の取引をした第三者を保護しているのです。これが、333条の趣旨である、公示のない動産上の先取特権の追及力を制限し、動産取引の安全を図ること、という意味です。

+注意!!
「第三取得者」(333条)につき善意悪意を区別していない!!!→動産先取特権を有する者は、その目的物が第三者に売却され、引き渡された場合、第三者が、その動産が動産先取特権の目的であることを知っているときであっても、その動産につき先取特権を行為資することはできない!!!

・動産の買主が、当該動産を含む集合動産を第三者に譲渡したが、その譲渡が、第三者が買主に対して有する債権を担保するためのものである場合、当該動産につき占有改定がされたときは、当該動産の売主は、動産売買先取特権の行使として、当該動産を差し押さえることができない!!!!←集合動産担保権者は特段の事情がない限り333条の「第三取得者」に当たる!!!、333条の「引き渡し」には、占有改定も含まれる。

+判例(S62.11.10)
ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

・不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前に(×工事が完了した後)その費用の予算額を登記しなければならない!
+(不動産工事の先取特権の登記)
第338条
1項 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2項 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。


民法択一 物権 留置権 留置権の消滅


・留置物の占有を喪失した場合、原則として留置権は喪失する!!←留置物の占有は成立要件であるとともに存続要件である!!!
+(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
・留置権者が債務者である当該留置物の所有者の承諾を得ず留置物を賃貸した場合、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またはこれによって損害を受けたかどうかを問わず、留置権の消滅請求をすることができる!!!
+判例(S38。5.31)
同第二点について。
被控訴人がその占有する本件伐木に関し、前記訴外会社に対し、金一三一万八六七円の請負代金債権を有すること、右債権の弁済がないこと、被控訴人は、控訴人の承諾なくして、昭和三〇年三月一六日、訴外大野木工株式会社に対し原判決添付第二目録の(1)ないし(4)の伐木を売り渡す契約をし、その手付金として金五万円を受領し、同年同月頃、右伐木を担保として、訴外大野信用金庫から金四〇万円を借用したこと、控訴人が昭和三二年九月二五日本件留置権について消減請求の意思表示をしたことは、原審の確定するところであり、民法二九八条三項の法意に照せば、留置権者が同条一項および二項の規定に違反したときは、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またこれによつて損害を受けたかどうかを問わず、当該留置権の消滅を請求することができるものと解するのが相当である。したがつて、原判決が、前記確定事実に基づいて、本件留置権は、控訴人の消滅請求の意思表示により消滅したと判示したのは正当であり、所論は、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用のかぎりでない。
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
・留置物の所有権が第三者に移転した場合に、所有権移転につき対抗要件を具備するより前に、留置権者が債務者の承諾を受けて留置物を使用収益したとき、新所有者は、留置物の無断使用又は無断賃貸を理由として留置権の消滅を請求することはできない!!!
+判例(H9。7.3)
上告代理人安藤裕規、同安藤ヨイ子、同齊藤正俊の上告理由第二点について
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が民法二九八条二項所定の留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときには、留置権者は右承諾の効果を新所有者に対し対抗することができ、新所有者は右使用等を理由に同条三項による留置権の消滅請求をすることができないものと解するのが相当である。
++解説
三 民法二九八条二項は、留置権者は原則として被担保債権の「債務者」の承諾なく留置物の使用等をすることができない旨規定している。留置権者が右承諾を得ることなく留置物の使用等をした場合に留置物の新所有者が留置権の消滅請求をなし得ること(民法二九八条三項)については、既に最二小判昭38・5・31民集一七巻四号五七〇頁、本誌一五一号七三頁、最一小判昭40・7・15民集一九巻五号一二七五頁、本誌一八三号九七頁が判示していたところであるが、右の承諾がされた場合に新所有者との関係でいかなる効力が生ずるかについては、これまで、見るべき適切な裁判例はなく、学説上も必ずしも十分に論じられていなかった。本判決は、右についての解釈を明らかにしたものである。
1 上告理由は、留置権の本来的な効力は留置権者が被担保債権の弁済を受けるまで留置物の引渡しを拒むことができることにあるとの理解に立脚し、そうであるならば、留置物の使用等の承諾は債権的な効力を有するにとどまると解すべきであるとするものであった。
しかしながら、民法二九七条は、留置権者の果実収取権を定めているところ、留置権者は、留置物の使用等の承諾を得ることによって、消滅請求を受ける懸念なく、留置物を使用等し、これによって得た果実を被担保債権の弁済に充てることができることとなり、その意味で、留置物の使用等の承諾は、留置権者の果実収取権を確定的なものとするとの意味を有する。この点に関し、大判大7・10・29新聞一四九八号一六九頁は、建物を競落した者が同建物の賃借人に賃料の支払を請求し、賃借人が同建物について負担した修繕費の弁済に賃料を充てたとして争った事案において、民法二九七条所定の留置権者の果実収取権は物権である留置権の効力として認められた優先権であって、留置物の新所有者に対しても主張できるとしつつ、留置権者は、「自己が適法に留置物を他人に賃貸したる場合のみならず、自ら留置物を賃借したる場合に於ても、其賃貸人の何人たるを問わず、之が対価として賃貸人の受くべき賃金(注・賃料)に付、同条の規定に従ひ自己に優先弁済を受くる権利ある者と解するを当然とす。」(句読点を補った。)と判示していた。右は、当該事案との関係ではその一部において傍論にとどまるが、前記のような留置物の使用等の承諾の意義を明らかにするものであった。留置権の本来的な効力として上告理由が述べるところは、留置権の内容の理解としては、狭きに失するものであり、その立論の前提に問題があったということになる。
右の点に関し、原判決は、「留置権者は留置物の所有権が第三者に移転されたことを予め知りうる立場にはないのに、第三者に所有権が移転されたことによって、右第三者に対する関係では留置物の旧所有者から与えられた承諾は有効ではなくなり、留置権の使用状態は義務違反となって、右第三者は留置権消滅を請求することができるとすることは、留置権の第三者に対する対抗力を実質上無に帰するものであり採用することは」できないと述べている。右は、前記の趣旨を、別の角度から説明したものと理解することができよう。
2 ところで、民法二九八条二項は、留置物の使用等の承諾をなし得る主体について、「債務者」と規定しているところ、仮にこれを字義どおりに理解すると、留置権の被担保債権の債務者は、その地位にとどまっている限り、留置物の所有権の移転の有無を問わず、留置物の使用等の承諾ができるかのように見えないでもない。しかしながら、前記のとおり、留置物の使用等の承諾も!!留置物に関する右債務者の物権行為の一つ!!であると解すると、右承諾をすることは、当該留置物に関する右債務者の処分権限の帰すうと一種の対抗関係に立つこととなり、被担保債権の債務者であっても、第三者との関係で確定的に留置物に関する処分権限を失った後は、右承諾をすることはできなくなるのが、その論理的な帰結ということになる。本判決が、右承諾について、留置物の所有権の移転に関する対抗要件の具備との先後関係に着目しているのは、右のような考えに基づくものと理解され、これは、民法二九八条二項の文理に限定解釈を加えたことを意味する。!!!
もとより、留置権の被担保債権の債務者が留置物に対していかなる処分権限を有するかは、事案により様々であり、右債務者のなし得る留置物の使用等の承諾の内容がその処分権限との関係でいかなるものとなるかに関しては、学説の対立が見られたところである(注釈民法(8)五五頁(田中整爾)等参照)。本判決は、留置権の被担保債権の債務者が留置物の所有者でもあったという、いわば典型的な事態を踏まえ、前記の法理を明らかにしたものであり、およそ留置権の被担保債権の債務者の立場にありさえすれば、本件におけるような留置物の包括的な使用等の承諾をなし得るとの判断を示したものではないことは当然として、前記の学説の対立点についての解決を示したものとまでも、解し得ないであろう。
  3 ところで、留置権の被担保債権の債務者のする留置物の使用等の承諾が、物権行為としての性格を有するとして、留置物の新所有者に対して留置権者がその効果を主張する場合において、右承諾の存在につき何らかの形での公示を要するものとするかどうかは、一箇の問題である。
右の点に関し、そもそも、右承諾の基礎となる留置権そのものについて、法は、たとい不動産を対象とするものであっても、留置権者による占有以外には、公示を要求していないのであって(民法一七七条、不動産登記法一条)、留置物の使用等の承諾に関しても、民法二九八条二項は、承諾の意思表示のほかに、格別の要件を要求してはいない。留置物の新所有者にしてみれば、いずれにせよ留置物の占有使用は不可能なのであるから、旧所有者のした留置物の使用等の承諾に関して公示が存在しないからといって、これによる新たな不利益が現に発生するわけではなく、かえって、留置権の被担保債権が早期に回収されて留置権の負担からより速やかに解放されるというメリットも期待できる(なお、留置物の使用等の結果、留置権者においてその保存義務に違反した事態が発生すれば、留置物の新所有者は、これを理由に留置権の消滅請求をすることができることは、いうまでもない。民法二九八条一項、三項)。他方、留置権者にしてみれば、留置物の旧所有者から得た承諾を基礎に債権の回収に着手した後、留置権者にとっては予見することのできない留置物の所有権の移転や差押え等によって、その担保権者としての法的地位が左右されるということは、やはり酷というほかないであろう。
本件の原判決は、その結論を導き出す過程で、本件の事案において原告であるXが留置物である係争建物の所有権を取得した前後を通じて留置権者であるY会社がその使用状態を変更していないことに言及しており、留置権の使用等の承諾の公示方法として、留置物の現実の使用を問題としているかのようにも見えるが、そうであるならば、Xの係争建物の所有権取得は競売によるものであったのであるから、差押登記による係争建物に対する処分制限効の発生についての対抗要件の具備と、Y会社の係争建物の使用等の状況との比較も、問題となり得たはずである。本判決は、留置物の使用等の承諾に関しては、民法二九八条二項の文理どおり、意思表示のほかには格別の要件は必要とされないとの判断を示したもので、原判決の右のあいまいな説示については、本件におけるY会社の係争建物の使用等がAの与えた承諾の範囲を超えるものではなかったことを念のため明らかにしたにとどまると理解したものと見られる(なお、原判決の前記説示は、その内容から見て、最一小判昭47・3・30裁集民一〇五号四一三頁を参考としたものと見られないでもないが、右判例の事案は、建物の賃借人が賃借建物の修繕費を負担し、これについて留置権の主張をした場合において、賃借人による建物居住の継続が、「債務者」の承諾なくなし得る留置物の「保存ニ必要ナル使用」(民法二九八条二項ただし書)を超える使用に該当するか否かが問題とされたものであり、本件とは事案が異なっている。)。
・留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合であっても、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、特段の事情のない限り、当該債権の全部の弁済を受けるまで留置権の残部につき留置権を行使し得る!!!
+判例(H3.7.16)
 1 民法二九六条は、留置権者は債権の全部の弁済を受けるまで留置物の全部につきその権利を行使し得る旨を規定しているが、留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお右規定の適用があるのであって、この場合、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使し得るものと解するのが相当である。そして、この理は、土地の宅地造成工事を請け負った債権者が造成工事の完了した土地部分を順次債務者に引き渡した場合においても妥当するというべきであって、債権者が右引渡しに伴い宅地造成工事代金の一部につき留置権による担保を失うことを承認した等の特段の事情がない限り、債権者は、宅地造成工事残代金の全額の支払を受けるに至るまで、残余の土地につきその留置権を行使することができるものといわなければならない。 
 2 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、上告人は、本件造成地の工事残代金の全額の支払を受けるまで、本件造成地の全部につき留置権を行使し得るところ、本件土地は本件造成地の一部で、上告人はAから本件工事代金中一三〇〇万円の支払を受けていないというのであるから、右の特段の事情の存しない本件において、上告人は、Aから残代金一三〇〇万円全額の支払を受けるに至るまで、本件土地を留置し得るものというべきである。 
 3 そうすると、被上告人の請求は、上告人がAから一三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに本件土地上の本件建物を収去してその敷地の明渡しを求める限度で認容し、その余を棄却すべきものである。以上と異なる原判決には、民法二九六条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れず、第一審判決は右の趣旨に変更すべきものである。 
++解説
この点は、留置権の不可分性(民法二九六条)の問題であるが、その不可分性とは、一般に、「物の各部分をもって債権の全部を担保し、物の全部をもって債権の各部分を担保することをいう」などと概念づけられている(梅謙次郎・民法要義巻之二物権篇二七三頁、中島玉吉・民法釈義巻之二下六一八頁、田中整爾・注釈民法(8)四七頁等)。本件は、前記のとおり、本件造成地が三筆の土地からなり、また、造成工事の完了した部分が分筆されて引き渡されているが、このように留置物が可分の物又は数個の物でも、これによって前記の牽連性が否定される場合を除き、右の不可分性に変わりはないものと解される(田中・前掲四八頁等)。薬師寺師光・留置権論三〇頁は、「留置物が一個の場合に於て…留置物が分割された場合には、留置権は各分割物の上に存続し、孰れも債権全部を担保する。留置物が数個の場合に於て…留置物中の一個又は数個が滅失するも、残りの留置物が債権全部を担保する。」と説いて、この点を明らかにしている。原審(一審同旨)は、本件工事代金が本件造成地に関して生じた債権に該当するとしながら、Yが留置権を行使し得る被担保債権の範囲を残代金の一部に限定しているのであるが、その判断は、留置権の不可分性からして、是認し得ないものと思われる。なお、本判決は、特段の事情のない限りという留保を付けているが、具体的な個々の事案において、債権者が留置物の一部を債務者に引き渡す際、留置物の残部で担保される債権の範囲まで減縮するような合意をしている場合も考えられないわけではなく、そのような場合を除く趣旨に解されるが、本件において、もとより右の特段の事情は存しない。
 本件造成地と本件工事代金との牽連性が認められる以上、留置権の不可分性からして、本判決の結論は当然といえるが、留置権者が目的物の一部を債務者に引き渡した場合における被担保債権の範囲を明示する先例もなく、この点を判示した本判決の意義は少なくないものと思われる。
+(留置権の不可分性)
第296条
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。


民法択一 物権 留置権 留置権の効力


・留置権者は、留置物を担保に供することができるが、その際、債務者の承諾が必要である!!!
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・留置権者は善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない!

・留置権者が収受した果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない!
+(留置権者による果実の収取)
第297条
1項 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2項 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。

・家屋の賃借人が所有者の建物明渡請求に対して留置権を主張した事案において、賃借人が引き続き当該家屋に居住することは留置権の保存に必要な使用として許される!!!。しかし、留置権を行使して費用償還を受けるまで家屋を使用することにより受ける利益は家屋所有者に返還すべき!!!!!!
+理由もほしいところ・・・

・留置権は占有の喪失によって消滅するのであり、留置権に基づく物権的返還請求権は認められない!!!
+(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

・留置権の占有を継続しても、被担保債権の消滅時効は進行する!!!!!!!
+(留置権の行使と債権の消滅時効)
第300条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。


民法択一 物権 留置権 留置権の要件


・民法上の留置権の成立には、①目的物と牽連性のある債権の存在、②目的物の占有、が必要である。

・目的物の占有の要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りる!!=債権成立時に目的物を占有していなければ留置権を主張できないわけではない!!
+判例(H18.10.27)
(1) 民事執行法181条1項は、担保権の存在を同項所定の法定文書によって証すべき旨を規定するところ、民法上の留置権の成立には、〈1〉債権者が目的物に関して生じた債権を有していること(目的物と牽連性のある債権の存在)及び〈2〉債権者が目的物を占有していること(目的物の占有)が必要である。
留置権の成立要件のうち目的物の占有の要件については、債権者が目的物と牽連性のある債権を有していれば、当該債権の成立以後、その時期を問わず債権者が何らかの事情により当該目的物の占有を取得するに至った場合に、法律上当然に民法295条1項所定の留置権が成立するものであって、同要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りるものである。そして、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、執行官が登録自動車を占有している債権者から競売開始決定後速やかにその引渡しを受けることが予定されており、登録自動車の引渡しがされなければ、競売手続が取り消されることになるのであるから(民事執行法195条、民事執行規則176条2項、95条、97条、民事執行法120条参照)、債権者による目的物の占有という事実は、その後の競売手続の過程においておのずと明らかになるということができる。留置権の成立要件としての目的物の占有は、権利行使時に存在することが必要とされ、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、上記のとおり、競売開始決定後執行官に登録自動車を引き渡す時に債権者にその占有があることが必要なのであるから、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」としては、債権者による登録自動車の占有の事実が主要事実として確定判決中で認定されることが要求されるものではないと解すべきである。
したがって、登録自動車を目的とする民法上の留置権による競売においては、その被担保債権が当該登録自動車に関して生じたことが主要事実として認定されている確定判決であれば、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」に当たると解するのが相当である。

+++留置権者による形式競売
留置権の効力は主として、債権の弁済を受けるまで物を留置できるという効力です(民法295条1項)。目的物から生じる果実について以外(民法297条1項)、優先弁済権はありません。
しかしながらこれでは、債権の弁済が長期間得られなくても、たんに目的物を留置できるのみということにもなり、留置権者に負担となる場合もあります。
そこで、留置権者が留置の負担から解放されるための手段として、目的物を競売することが認められています(民執195条。これを形式競売といいます)。
ところで、形式競売により目的物が換価されると、換価金は留置権者に交付されますが、留置権者は所有者に対して換価金返還務を負うことになります。
しかしながら、所有者と債務者とが一致するときは、留置権者は、換価金返還務と自分が所有者に対して有している被担保債権と相殺することができます。その場合、事実上、優先弁済を受けることになります。(但し、形式競売に関して、他の債権者が配当要求をできるか否かについては議論があります)
これに対して、所有者と債務者が別個のときには、留置権者は、所有者に即時に換価金を返還せざるを得ません。すなわち、形式競売を行えば留置権を失うことになってしまいます。ヘーー

・留置権者は留置物について必要費を支出した場合、所有者に対してその償還を請求することができる!!
+(留置権者による費用の償還請求)
第299条
1項 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる
2項 留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

・留置権の必要費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使することも許される!!!!
+判例(S33.1.17)
同(ハ)について。
(イ)において述べたとおり、被上告人は管理契約終了前本件浴場建物に関し必要費の償還請求権を有し、契約終了後も右建物に対し留置権を有することは、原判決の確定するところである。そして、原判決は被上告人は右契約終了後その留置物について必要費、有益費を支出し、その有益費については、価格の増加が現存するものとなし、上告人に対しその償還請求権を有することを判示しているのであるから、この償還請求権もまた民法二九五条の所謂その物に関し生じた債権に外ならないものである。従つて契約終了前既に生じた費用償還請求権と共に、その弁済を受くるまでは、該浴場建物を留置し明渡を拒み得るものというべきである。しかして、所論の浴場経営が民法二九八条二項但書の物の保存に必要な使用の範囲を逸脱するものかどうかは、同条三項の留置権消滅の請求権を生ぜしめるか否かの問題となるに止まるのであるから、その消滅請求権を行使した事実のない本件においては、前段説示のとおり留置権の存続を認むるの外ないことは明らかである。

++(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・二重売買の買主が所有権移転登記を受けた買主から返還請求を受けた場合、売主の売買契約に基づく目的物引渡債務の不履行に基づく損害賠償請求権と目的物との間には、牽連性がなく、買主は目的物について留置権を行使することができない!!!
←本件の債権はその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その物に関し生じた債権とはいえないとして、牽連性を否定している!!!
+++基本書で追記を。

・確定的に不動産の所有権を取得した仮登記担保権者が、債務者に清算金を支払わないでその不動産を第三者に譲渡した場合。債務者は、清算金支払請求権を被担保債権として譲受人たる第三者に対してもその不動産につき留置権を行使することができる!!!!!!
+判例(58.3.31)
1 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、GとFとの間の本件合意は、代物弁済予約形式の担保の清算方法の合意としてその効力を否定すべき理由はないから、Gが右合意に基づき本件土地建物の所有権を確定的に取得したのちは、もはや上告人Aらは被担保債務の弁済によつて本件土地建物を取り戻すことはできなくなつたものというべきである。
したがつて、所論の弁済の提供等は、被上告人の本件土地建物についての所有権取得に影響を及ぼす理由とはなりえない。所論中、原判決が、被上告人において清算金支払義務の関係につきGと同一の地位にある旨判示していることをとらえて、右清算金が支払われるまでは右の取戻しをすることができることとなるべき理である旨をいう部分は、後記判示の点を措いても、原判決の趣旨を正解せず、原審の認定しない事実に基づくか、又は独自の見解に立つ主張というほかはない。なお、上告人らは、原審において、被上告人とFとの間において債権者の交替による更改契約が成立したことを前提として所論弁済の提供等を主張したものにすぎないところ、原審は右更改契約の締結の事実が認められない旨判断しており、右認定判断は原判決挙示の証拠関係によつて是認することができ、その過程に所論の違法はない。この点に関して弁済の提供等についての判断遺脱等をいう所論は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。
2 しかしながら、職権をもつて調査するのに、前記認定の事実によれば、Gは、Fとの間の本件合意に基づき本件土地建物につき確定的に所有権を取得して更に被上告人にこれを譲渡したのであるから、被上告人はこれによつて本件土地建物につき担保権の実行に伴う清算関係とは切り離された完全な所有権を取得したものというべきであり、たとい被上告人において、GのFに対する右清算金の支払が未了であることを知りながら本件土地建物を買い受けたものであつても、そのために右のような被上告人による所有権取得が妨げられ、清算金の支払義務と結びついた本件土地建物の所有者としてのGの法律上の地位をそのまま承継するにとどまるものと解さなければならない理由はないというべきである。そうすると、被上告人とGとの間で重畳的債務引受の合意がされるなどの特段の事情がない限り、上告人Aらは被上告人に対して清算金の支払請求権を有するものではないから、原審が、上告人AらはGに対するのと同様に被上告人に対しても清算金支払請求権を有するとし、これを前提として上告人Aらが被上告人から清算金の支払を受けるまで本件土地建物の明渡しを拒むことができるとした点には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきである。
もつとも、被上告人の上告人Aらに対する本件土地建物の明渡請求は、所有権に基づく物権的請求権によるものであるところ、上告人AらのGに対する清算金支払請求権は、Gによる本件土地建物の所有権の取得とともに同一の物である右土地建物に関する本件代物弁済予約から生じた債権であるから、民法二九五条の規定により、上告人Aらは、Gに対してはもとより、同人から本件土地建物を譲り受けた被上告人に対しても、Gから清算金の支払を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができる関係にあるといわなければならない(最高裁昭和三四年(オ)第一二二七号同三八年二月一九日第三小法廷判決・裁判集民事六四号四七三頁、同昭和四五年(オ)一〇五五号同四七年一一月一六日第一小法廷判決・民集二六巻九号一六一九頁参照)。
そして、被上告人又はGが清算金を支払うまで本件土地建物の明渡義務の履行を拒絶する旨の前記上告人Aらの主張は、単に同上告人らの本件土地明渡義務と右清算金支払義務とが同時履行関係にある旨の抗弁権を援用したにとどまらず、被上告人の本件土地建物明渡請求に対して、清算金支払請求権を被担保債権とする留置権が存在する旨の抗弁をも主張したものとみることができるから、本件においては上告人Aらの右留置権の抗弁を採用して引換給付の判決をすることができたわけである。しかし、この場合には、被上告人は上告人Aらに対して清算金支払義務を負つているわけではないから、被上告人による清算金の支払と引換えにではなく、Gから清算金の支払を受けるのと引換えに本件土地建物の明渡しを命ずべきものであり、したがつて、これと異なり、被上告人からの清算金の支払と引換えに本件土地建物の明渡しを命じた原判決には、結局、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであるが、原判決を右の趣旨に基づいて変更することは、上告人Aらに不利益をきたすことが明らかであるから、民訴法三九六条、三八五条により、この点に関する原判決を維持することとする。

ムズイネ・・・・・

++++前提知識・・・代物弁済予約と仮登記担保
代物弁済とは、借入金や買掛金が焦げ付いた場合にモノ(大抵は不動産)の所有権を債務者から債権者に移転することによって、借入金や買掛金などの債務の弁済をなすことをいいます。
債権の担保としてあらかじめ定めたモノを代物弁済契約に特定して、債権の回収が滞ったときにそのモノの所有権を移転することによって債務の弁済を受けるように考えられたのが「代物弁済予約」です。ヘーーー
不動産を代物弁済予約の目的物とする場合には、予約契約を締結した時点で、「代物弁済予約による所有権仮登記」を行います。この登記は、不動産登記簿の甲区欄に記載されます。不動産に対する代物弁済契約はこのように仮登記を行いますので「仮登記担保契約」と呼ばれることがあります。

仮登記担保法による保護
代物弁済契約によれば、本来、少ない債権の弁済のために高額の不動産の所有権の移転を受けることができます。例えば、1,500万円の債権の弁済に2,000万円の不動産の譲渡を受けるようなことができたわけです。いわば、差額の500万円は代物弁済契約による丸儲け部分(これを清算金という)です。
ところが、これではあまりに債務者の利益を害しますので、仮登記担保法では次のような規制をしています。すなわち、代物弁済予約に係る予約完結の意思表示に加えて、担保権者に2か月経過後における清算金の金額を通知すべきものとされました。予約完結の意思表示をして2か月後に清算金を支払って初めて、代物弁済が完結します。また、清算金は債務者に渡るのが原則ですが、後順位担保権者がいる場合には、後順位担保権者が差し押さえることができるものとされました。
このような規制があるので、担保権者はいわば丸儲け部分を手にすることができません。したがって、代物弁済予約は一部の金融業者を除いてあまり使われなくなっています。
なお、代物弁済予約の他にも、売買予約を原因として仮登記をする例もあります。この売買予約も、金銭債権の担保としてなされることがほとんどです。この場合にも、仮登記担保法の規制が働きます。
通常の事業者が行う債権保全策には、これらの手法を使うことは稀だと思いますが、これらの登記のある不動産には十分注意をする必要があります。

++++代物弁済予約のメリット
(1)決済が早い=抵当権による債権回収は、不動産の競売か任意売却により行いますが、大変時間がかかり、処分価値も低くなります。これに比べて、代物弁済予約では予約完結権を行使して所有権移転の本登記をすれば、不動産の所有権が移転するので決済が早く、処理が簡単。
(2)債権者は不動産を取得できる
(3)保全される債権の範囲が広い=抵当権では債権の利息・損害金は最後の2年分しか優先弁済を受けられず、根抵当権は極度の範囲が保全されるに過ぎませんが、代物弁済ではすべてについて優先弁済を受けられます。

・Aは、その所有する不動産を目的として、Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定したが、Bが当該不動産を担保目的以外で処分しないという義務に反して第三者Cに譲渡し、CがAに訴引き渡しを請求した。判例によれば、AはBに対する上記義務の不履行による損害賠償請求権を被担保債権としてCに対して当該不動産につき留置権を行使することはできない!!
←損害賠償請求権はBに対して有するものであり、所有権に基づく引渡請求をするCに対して有するものではない=牽連性がない!!!

・第1譲受人の売主に対する損害賠償請求権は、その物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その債権はその物に関して生じた債権とはいえない。

・借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことに基づくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、その借家人には費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置し得る権利は認められない!!!
+判例(S44.11.6)
上告代理人諌山博の上告理由第一点および第九点について。
借地上にある家屋の賃借人が借家契約のみにもとづきその敷地部分を直接または間接に適法に占有しうる権原は、もつぱら右家屋の所有者が借地の所有者との間に締結した借地契約にもとづきその借地を適法に占有しうる権原に依存しているのであるから、その借地契約が借地人の賃料不払を理由として有効に解除され、借地人が右借地を適法に占有しうる権原を喪失するに至つた場合には、右家屋の賃借人は、同人自身の家屋ないしその敷地部分の占有については何らの非難されるべき落度がなかつたとしても、その敷地部分を適法に占有しうる権原を当然に喪失し、右借地の所有者に対して、その家屋から退去してその敷地部分を明け渡すべき義務を負うに至るものといわざるをえない。以上と同旨の見解に立つて、被上告人の本訴請求を認容し、上告人に対して本件家屋部分からの退去およびその敷地たる本件土地の明渡を命じた原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。したがつてまた、その違法の存在を前提とするものと解される所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点および第三点について。
借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことにもとづくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、借地の賃貸借契約が有効に解除された後、その借地の所有者が借家人に対して右家屋からの退去およびその敷地部分の明渡を求めた場合においては、その借家人には右費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置しうる権利は認められない、との見解に立つて、上告人の所論の留置権にもとづく本件家屋部分からの退去拒絶の抗弁を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、したがつてまた、その違法の存在を前提とする所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、または、原判決の結論に影響のない問題について原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

・留置権は占有が不法行為によって始まった場合には成立しない(295条2項)。
+(留置権の内容)
第295条
1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない

・占有物についての有益費支出時に権原喪失について悪意・有過失であるような場合は、295条2項の類推適用により、有益費償還請求権を被担保債権とする留置権の成立を否定する!!
+判例(S51.6.17)
同第二点について
他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権をもつて、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが相当である。
蓋し、他人の物の売主は、その所有権移転債務が履行不能となつても、目的物の返還を買主に請求しうる関係になく、したがつて、買主が目的物の返還を拒絶することによつて損害賠償債務の履行を間接に強制するという関係は生じないため!!!!!!、右損害賠償債権について目的物の留置権を成立させるために必要な物と債権との牽連関係が当事者間に存在するとはいえないからである。原審の判断は、その結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について
国が自作農創設特別措置法に基づき、農地として買収したうえ売り渡した土地を、被売渡人から買い受けその引渡を受けた者が、土地の被買収者から右買収・売渡処分の無効を主張され所有権に基づく土地返還訴訟を提起されたのち、右土地につき有益費を支出したとしても、その後右買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により当初に遡つて無効とされ、かつ、買主が有益費を支出した当時右買収・売渡処分の無効に帰するかもしれないことを疑わなかつたことに過失がある場合には、買主は、民法二九五条二項の類推適用により、右有益費償還請求権に基づき土地の留置権を主張することはできないと解するのが相当である。
原審の適法に確定したところによれば、(一)本件土地は、被上告人の所有地であつたが、昭和二三年四月二八日、大阪市城東区農地委員会は、右土地が自作農創設特別措置法三条一項一号に該当する農地であるとして買収時期を同年七月二日とする買収計画を樹立し、公告、縦覧の手続を経たうえ、国がこれを被上告人から買収し、同農地委員会の樹立した売渡計画に従つて、昭和二六年七月一日上告人Aに対し、本件土地を売り渡したこと、(二)右買収計画は、本件土地が自作農創設特別措置法五条五号に該当する買収除外地であるにもかかわらず、これを看過した点において違法なものであつたので、被上告人は、昭和二三年七月右買収計画取消訴訟を提起し、被上告人の請求は、一審で棄却されたが、二審で認容され、その買収計画取消判決は、昭和四〇年一一月五日上告棄却判決により確定したこと、(三)上告人Bは、昭和三四年一一月一九日上告人Aから本件土地を買い受けてその引渡をも受けたが、昭和三五年一〇月被上告人から買収及び売渡は無効であるとして所有権に基づく本件土地明渡請求訴訟を提起され、その訴状は同月二五日上告人Bに送達されたこと、(四)上告人Bは、右明渡訴訟提起後の昭和三六、七年ころ、本件土地の地盛工事に一七万円、下水工事に七万円、水道引込工事に六万円の有益費を支出したこと、がそれぞれ認められるというのである。
土地占有者が所有者から所有権に基づく土地返還請求訴訟を提起され、結局その占有権原を立証できなかつたときは、特段の事情のない限り、土地占有が権原に基づかないこと又は権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては過失があると推認するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係のもとにおいて、右特段の事情があるとは未だ認められない。したがつて、右事実関係のもとにおいて、上告人Bが、所論の有益費を支出した当時、本件土地の占有が権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては、同上告人に過失があるとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。そうすると、右のような状況のもとで上告人Bが本件土地につき支出した所論の有益費償還請求権に基づき、本件土地について留置権を主張することが許されないことは、前判示に照らし、明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は正当である。その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

+悪意、有過失について・・・


民法択一 物権 質権 権利質・転質


・指名債権を質権の目的とする場合において、その債権に証書があるとき、証書を交付しなければ質権設定の効力が生じないわけではない!!
+(債権質の設定)
第363条
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするとき、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。

・指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又は承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要する!!!!

+判例(S58.6.30)
民法三六四条一項、四六七条の規定する指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又はその承諾は、第三債務者以外の第三者に対する関係でも対抗要件をなすものであるところ、この対抗要件制度は、第三債務者が質権設定の事実を認識し、かつ、これが右第三債務者によつて第三者に表示されうることを根幹として成立しているものであり(最高裁昭和四七年(オ)第五九六号同四九年三月七日第一小法廷判決・民集二八巻二号一七四頁参照)、第三債務者が当該質権の目的債権を取引の対象としようとする第三者から右債権の帰属関係等の事情を問われたときには、質権設定の有無及び質権者が誰であるかを告知、公示することができ、また、そうすることを前提とし、これにより第三者に適宜な措置を講じさせ、その者が不当に不利益を被るのを防止しようとするものであるから、第三者に対する関係での対抗要件となりうる第三債務者に対する通知又はその承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要するものと解すべき!!!!ナルホドネ!である。
本件において原審が適法に確定した事実関係によれば、第三債務者である両角善吉の質権設定についての確定日付のある承諾書には、単に抽象的に、債権者である若原行平が同人の債務の担保として本件敷金返還請求権を他に差し入れることを承諾する旨の記載があるにすぎず、両角善吉において若原行平が上告人のために本件敷金返還請求権に対し質権を設定することを承諾する趣旨で右承諾書を作成したものとは認められないというのであるから、右承諾書による承諾は、上告人が本件敷金返還請求権に対し質権の設定を受けたことをもつて被上告人に対抗するための対抗要件としての承諾にはあたらないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 フムフム

+(指名債権を目的とする質権の対抗要件)
第364条
指名債権を質権の目的としたときは、第467条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない
+(指名債権の譲渡の対抗要件)
第467条
1項 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

・質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
+(質権者による債権の取立て等)
第366条
1項 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2項 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3項 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4項 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。

・譲渡禁止特約のある指名債権を質権の目的とする場合、その特約につき質権者が悪意であれば、質権設定は無効である!!!
+理由を

・BはAから金銭を借り入れるに当たり、甲動産をAに引き渡し、質権を設定した場合、AはBの承諾なく、甲動産を第三者Cに質入れすることができる!!!
+(転質)
第348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う
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転質には、承諾転質と責任転質がある。承諾転質というのは、質権設定者の承諾を得て、転質を設定することで、責任転質というのは、質権設定者の承諾を得ずに、自分の責任で転質をすることと。
転質が認められている趣旨は、質権者が一度質物に固定させた資金を、被担保債権の弁済期前に再び流動させることを可能にしようとすること。