不法行為法 13 名誉棄損および人格権・プライバシー侵害

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1.名誉棄損と人格権・プライバシー侵害

2.名誉と名誉棄損の意義
・名誉とは、
人がその品性、徳行、名声、信用その他の人格的価値について社会から受ける客観的評価を言う
人には法人も含まれる。

・名誉棄損に当たっては、被害者の社会的評価が保護法益
主観的な名誉感情の侵害だけでは、いまだ名誉棄損とはならない。
(人格権侵害を理由とする救済の可能性はある)

・709条にいう権利侵害の要件を充たすためには、
被害者の社会的評価が低下したことがあれば足りる。
真実を告げたことによる社会的評価の低下も名誉棄損に該当する。

・新聞記事・テレビ報道による名誉棄損と社会的評価の低下
当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断する。

3.名誉棄損の免責法理~真実性の抗弁と相当性の抗弁
・真実性の抗弁
公表事項の公共性と、
公益目的での公表

・相当性の抗弁
指摘した事実が真実であると信じたことに過失がなかった

(1)真実性の抗弁
①指摘された事実が真実であること、
②指摘された事実が公共の利害に関する事実にかかるものであること
③事実適示がもっぱら公益を図る目的に出たこと
違法性がなくなる。

・適示された事実が真実かどうかの判断に当たっては、裁判所は、
事実審の口頭弁論終結時において客観的な判断をすべき。
→名誉棄損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮して、真実性についての客観的判断をすることも当然に許される。

指摘された事実が真実であることに関しては、
適示された事実は主要な部分において真実であることを主張立証すれば足りる

(2)真実と信じたことについての無過失の抗弁(相当性の抗弁)
・適示された事実が真実であることを立証できなくても、行為者において、その事実を真実と信じるについて相当の理由があったことを根拠付ける具体的事実を主張立証することで、名誉棄損を理由とする責任を免れる。

適示された事実が周知のものとなっていたという事実を主張立証するだけでは足りない
=周知性は、その事実が真実であるということへの信頼を基礎付けない。

・配信サービスの抗弁
掲載記事中で配信元が明確にされている場合には、
取材のための人的物的体制が整備され、一般的にその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信に基づく記事については、裏付け取材をしなくても、真実を伝えるものであると信じるについて相当の理由がある

私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とするものである場合には、このような配信サービスの抗弁を認めない。

・判断基準時
名誉棄損当時に存在していた資料に基づいて相当の理由の有無を判断

4.意見・論評による名誉棄損
・意見の表明によって社会的評価が下落したとしても、それが人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、その意見・論評が合理的か不合理かを問わず、およそ不法行為責任の成立が否定される!
なお、
意見や論評をする際の基礎ないし前提となった事実の適示により社会的評価が低下した点を捉えて、名誉棄損の不法行為責任を追及していく可能性はある。

・死者の名誉棄損
死者自身に対する権利侵害は否定し、虚偽の事実適示であることを要件として、死者の名誉・人格権を侵害するような行為を、遺族・近親者らの名誉棄損・人格権侵害という観点から捉え、不法行為責任の成否を論じるのが適切。

5.人格権・プライバシーの権利の意味~総論
人格権とは、
人間の尊厳に由来し、
人格の自由な展開の保障や、個人の私的生活領域の平穏の保護を目的とする権利

6.平穏生活権としてのプライバシーの権利

・私生活をみだりに更改されないという法的保障ないし権利
+判例(宴の後事件)

・平穏生活権としてのプライバシーへの侵害を判断するに当たっては
①一般人の感受性を基準に判断したとき、当該私人の立場に立ったならば公開を欲しないであろう事柄であって、
②一般の人にいまだ知られていないものであったかどうか
そのうえで、
③その事柄の公開によって、当該具体的個人が実際に不快・不安の念を覚えたことが必要
さらに、私事をみだりに公開されないことが権利として法的に保護されるためには、
④問題の事項につき社会が関心を持つことが正当とは言えないものであることが必要。

7.自己情報コントロール権としてのプライバシー権
・個人情報を排他的に支配管理できる権利が憲法上保護された基本権として情報主体である個人に与えられていると考え、私人関係レベルにおいても、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が不法行為法の保護の対象となる。

・氏名は人格権の1内容を構成する
+判例(S63.2.16)在日韓国人の氏名の日本語読み判決

・みだりに指紋の押なつを強制されない自由がある
採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険がある
同時に、
公共の福祉のために相当の制限
指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想良心等個人の内心に関する情報となるものではない

・肖像権

8.自己決定権としての人格権

9.名誉棄損、人格権・プライバシー侵害の効果(その1)~損害賠償

10.名誉棄損、人格権・プライバシー侵害の効果(その2)~差止請求
・人格権としての名誉権に基づき、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき損害を予防するために、侵害行為の差止めを求めることができる
←名誉は生命身体とともにきわめて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は物権の場合と同様に排他性を有する権利と考えられるから。
+判例(S61.6.11)北方ジャーナル事件

出版物が公務員または公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものであるときには、差止めは原則として許されず、
例外的に、
①その表現内容が真実でないか、またはもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、
②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る恐れがあるときに限り許される

11.名誉棄損、人格権・プライバシー侵害の効果(その3)~原状回復
+(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条  他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

・謝罪広告の掲載
単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度の謝罪広告を新聞に掲載すべきことを命じるのは、
公表事実が虚偽かつ不当であったことを広報機関を通じて発表することを求めるに帰するから、
屈辱的もしくは苦役的労苦を科し、または上告人の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない

・反論権、反論文の掲載については認められない。

12.パブリシティの権利
・氏名・肖像権
自己の氏名・肖像等をみだりに利用されない権利

・パブリシティ権
自己の氏名肖像等の持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利
人格の持つ財産的価値を保護の対象とした

・肖像の無断使用がパブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となるのは、
①氏名肖像等それ自体を独立して鑑賞の対償となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付し、
③氏名肖像等を商品等の広告として使用するなど、もっぱら氏名肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
+判例(H24.2.2)ピンクレディー事件


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不法行為法 12 差止請求と損害賠償


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1.差止請求を認めることの必要性
損害賠償は、一般的な事故抑止・予防機能は果たすが、あくまで事後的な救済手段にすぎない。

差止め請求を認めるにあたっては、
単に被害者の権利利益の保護の必要性のみならず、行為者の権利利益保護の必要性や、差し止められようとする行為が社会においてどのような価値を有しているのかも含めて、行為者の行動の自由への過剰な介入とならないように衡量を行う必要がある。

2.生活妨害の差止めとその法的根拠
・物権的請求権説
物権的請求権の1形態として差止請求を認める
受忍限度を超えたか否かを基準とする
⇔物権侵害が認められない場合にはどうするのか・・・

・人格権説
人格権に基づくに基づく妨害排除・妨害予防請求権を肯定
侵害者側の行動の自由を制限することによる損失と、被害者側のそれによって受ける利益との比較衡量
衡量を行う場として受忍限度
←人格権は人間の存在にとってもっとも基本的な事柄であり、法律上絶対的に保障されるべきものであって、何人もみだりに侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。

人格権
=生命・健康を人間が本来有する状態で維持し得る権利

人格権侵害
=個人の人格に本質的に付帯する個人の生命、身体、精神および生活に関する利益の侵害

・環境権説
環境権に基づく差止め

環境権
=よき環境を享受し、これを支配し、かつ、人間が健康で快適な生活を求める権利
←幸福追求権、生存権

⇔実定法上何らの根拠もなく、権利の主体・客体・内容の不明確な環境権を、排他的効力を有する私法上の権利であるとするのは法的安定性を害し許されない。

3.差止め請求と受忍限度
・全ての権利の行使は、その態様ないし結果において、社会通念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであって、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が、社会生活上一般的において忍容するを相当とする程度を超えたと認められるときは、その権利の行使は、社会通念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用にあたるものであって、違法性を帯び、不法行為の責任を生ぜしめる。
←一般市民が各種の企業によって受けるべき被害は無視できないが、企業がそのような被害を与えながらも他方においてより多くの利益を生み出しているという見方
+判例(S47.6.27)

・受忍限度に関する判断に当たって、
侵害行為の態様と侵害の程度
被侵害利益の性質と内容
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度
を比較検討するほか、
侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況
その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し
これらを総合的に考察

+判例(S56.12.16)大阪空港公害訴訟

+判例(H7.7.7)国道43号線訴訟・差止請求
理由
一 上告人らの代理人加藤和夫、同中野哲弘、同鈴木健太、同佐村浩之、同萩原秀紀、同原田勝治、同中村誠、同田中清、同赤西芳文、同山本恵三、同鈴井洋、同原後二郎、上告人国の代理人伊藤勝則、同増田憲樹、同米原睦裕、同大森雅夫、同吉崎収、同酒井利夫、同横田耕治、同油谷充寿、同足立徹、同大西宣二、同玉置稔、同松本瞭、同平野裕、同石原佶、同下孝二、同斉木真佐夫、同松寺克哲、同佐野正道、上告人阪神高速道路公団の代理人原井龍一郎、同吉村修、同占部彰宏、同田中宏、同小原正敏、同志野幸功の上告理由第一点について
 1 上告理由第一点の一の1について
  所論は、要するに、上告人らの設置又は管理に係る一般国道四三号、兵庫県道高速神戸西宮線及び同大阪西宮線(以下、これらを「本件道路」という。)の供用に伴い自動車から発せられる騒音、排気ガス等がその周辺住民に生活妨害等の被害をもたらす危険性を生じさせる騒音レベル、排気ガス濃度等の最低基準を確定しないで、本件道路の設置又は管理に瑕疵があるとした原判決には、理由不備の違法があるというものである。
  国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態、すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうのであるが、これには営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むものであり、営造物の設置・管理者において、このような危険性のある営造物を利用に供し、その結果周辺住民に社会生活上受忍すべき限度を超える被害が生じた場合には、原則として同項の規定に基づく責任を免れることができないものと解すべきである(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。そして、道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して同項の規定に基づき損害賠償の請求がされた場合において、右道路からの騒音、排気ガス等が右住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたときは、当然に右住民との関係において右道路が他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあったことが認定判断されたことになるから、右危険性を生じさせる騒音レベル、排気ガス濃度等の最低基準を確定した上でなければ右道路の設置又は管理に瑕疵があったという結論に到達し得ないものではない。原判決は、本件道路からの騒音、排気ガス等がその近隣に居住する被上告人らに対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことを認定判断した上で、本件道路の設置又は管理に瑕疵があったとの結論を導いたものであり、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 2 同第一点の一の3について
  所論は、要するに、本件道路の近隣に居住する被上告人らが暴露された屋外騒音レベルの認定に理由不備、理由齟齬、経験別違反、採証法則違反の違法があるというものである。
  営造物の供用に伴い発せられる騒音によって被害を受けたとして多数の周辺住民が損害の賠償を求める事件において、日常の各自の屋外騒音レベルを認定するに当たって、当該騒音の発生源の性質、音量、音の方向、発生源と居住地との位置関係等各住民が暴露された騒音レベルに影響を与える要因を勘案して、周辺住民を適切なグループに区分し、そのグループごとに右騒音レベルを推認することは、合理的な方法として許されるものと解すべきである。
  本件における騒音の発生源は本件道路を走行する自動車であって、その騒音はほぼ一日中続くものであるところ、原判決は、本件道路の周辺地域を、交通量によって三地域に、道路構造によって四区画に分類した上、さらに本件道路端からの遠近や本件道路への見通しの程度に基づき、本件道路の近隣に居住する被上告人らを合計一九のグループに分け、原審における鑑定(被上告人らの約三分の一に当たる四七戸を対象とするもの)の結果を基本にして、右のグループごとに上限と下限の等価騒音レベル(Leq)による数値を抽出し、その幅のある数値をもって同一のグループに属する各住民が日常暴露された原則的な屋外騒音レベルと推認するという方法によったものであるが、この方法は、原審の適法に確定した事実関係に照らし、合理的なものとして是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 3 同第一点のその余の点について
  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
二 同第二点について
  所論は、要するに、本件道路の設置又は管理に瑕疵があったとするには、財政的、技術的及び社会的制約の下で上告人らに被害を回避する可能性があったことが必要であるのに、この点の判断をしないまま、右の瑕疵を認めた原判決には、判断遺脱の違法又は国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法があるというものである。
  国家賠償法二条一項は、危険責任の法理に基づき被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体の責任発生の要件につき、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときと規定しているところ、所論の回避可能性があったことが本件道路の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件になるものではないと解すべきである。
  そして、原判決は、その理由の「第八 違法性(受忍限度)」と題する項目の二において、上告人らが実施した対策の内容とその実効性について詳細に検討した上、右項目の五において、上告人らが巨費を投じて種々の対策を実施したことは評価できるものの、十分に実効を収めているとまでは評価し難いとしているのであって、これらの判示を総合すると、原審は、国家賠償法二条一項の解釈について右と同旨の立場に立った上で、上告人らにおいて本件道路の供用に伴い被上告人らに被害が生じることを回避する可能性がなかったとはいえない旨判断しているものとみることができ、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 三 同第三点について
 1 同第三点の一について
  所論は、要するに、本件における侵害行為は本件道路の供用に伴い自動車から発せられる騒音、排気ガス等によるものであるが、自動車の走行それ自体は社会的に有用な行為であって、本件道路は高度の公共性を有しているところ、その侵害の程度は軽微であって、本件道路の近隣に居住する被上告人らの受けている被害は騒音等に対する不快感程度のものであるから、被上告人らの被害は社会生活上受忍すべき範囲内のものであるのに、受忍限度を超えるものとした原判決には、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法、理由不備、理由齟齬、経験別違反の違法があるというものである。
  営造物の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり、営造物の設置・管理者において賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである(前記大法廷判決参照)。
  これを本件についてみるのに、原審の適法に確定したところによれば、原審認定に係る騒音等がほぼ一日中沿道の生活空間に流入するという侵害行為によりそこに居住する被上告人らは、騒音により睡眠妨害、会話、電話による通話家庭の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循環による精神的苦痛を受け、また、本件道路端から二〇メートル以内に居住する被上告人らは、排気ガス中の浮遊粒子状物質により洗濯物の汚れを始め有形無形の負荷を受けていたというのである。他方、本件道路が主として産業物資流通のための地域間交通に相当の寄与をしており、自動車保有台数の増加と貨物及び旅客輸送における自動車輸送の分担率の上昇に伴い、その寄与の程度が高くなるに至っているというのであるが、本件道路は、産業政策等の各種政策上の要請に基づき設置されたいわゆる幹線道路であって、地域住民の日常生活の維持存続に不可欠とまではいうことのできないものであり、被上告人らの一部を含む周辺住民が本件道路の存在によってある程度の利益を受けているとしても、その利益とこれによって被る前記の被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はなく、さらに、本件道路の交通量等の推移はおおむね開設時の予測と一致するものであったから、上告人らにおいて騒音等が周辺住民に及ぼす影響を考慮して当初からこれについての対策を実施すべきであったのに、右対策が講じられないまま住民の生活領域を貫通する本件道路が開設され、その後に実施された環境対策は、巨費を投じたものであったが、なお十分な効果を上げているとまではいえないというのである。そうすると、本件道路の公共性ないし公益上の必要性のゆえに、被上告人らが受けた被害が社会生活上受忍すべき範囲内のものであるということはできず、本件道路の供用が違法な法益侵害に当たり、上告人らは被上告人らに対して損害賠償義務を負うべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
論旨は採用することができない。
 2 同第三点の二について
  所論は、要するに、本件道路からの騒音、排気ガス等により受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するためにした原判決の基準の設定に、理由不備、理由齟齬、経験則違反の違法、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法があるというものである。
  身体的被害に至らない程度の生活妨害を被害の中心とし、多数の被害者が全員に共通する限度において各自の被害につき一律の額の慰謝料という形でその賠償を求める事案において、各自の被害が受忍限度を超えるかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様及び被害の内容との関連性を考慮した共通の基準を設定して、これに基づき受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別することに合理性があるというべきである。原審の適法に確定した事実関係によれば、本件においては、共通の被害である生活妨害によって被る精神的苦痛の程度は侵害行為の中心である騒音の屋外騒音レベルに相応するものということができるところ、原審は、前記1の諸要素を考慮した上、公害対策基本法九条に基づく環境基準及び騒音規制法一七条一項にいう指定地域内における自動車騒音の限度の各値をも勘案して、(一) 居住地における屋外等価騒音レベルが六五以上の騒音に暴露された被上告人らは、本件道路端と居住地との距離の長短にかかわらず受忍限度を超える被害を受けた、(二) 本件道路端と居住地との距離が二〇メート以内の被上告人らは、(1) その全員が排気ガス中の浮遊粒子状物質により受忍限度を超える被害を受けた、(2) 騒音及び排気ガスによる被害以外の心理的被害等を併せ考えると、屋外等価騒音レベルが六〇を超える騒音に暴露された者が受忍限度を超える被害を受けたと判断したものである。要するに、原判決は、受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するため、居住地における屋外等価騒音レベルを主要な基準とし、本件道路端と居住地との距離を補助的な基準としたものであって、この基準の設定に不合理なところがあるということはできず、所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するところに帰し、採用することができない。
四 同第四点について
  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
  なお、被上告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5は、当審において訴えの一部を取り下げたので、原判決主文において引用する損害賠償認容額一覧表(一)の原告番号71及び75、同表(二)の原告番号114、116及び152の各弁護士費用欄及び総額欄は、別表のとおり変更された。
五 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

4.請求の特定性
求められた作為不作為については、執行ができる程度に内容が明確でなければならない。

・抽象的不作為命令(具体的な措置を明示しない)を求める訴え
抽象的不作為命令を求める訴えも、請求の特定性に欠けるものということはできない
←一定の生活関係における具体的な危険ないし危険発生源と侵害結果との特定により差止め請求権を特定できる
企業活動等によって一般人の権利が侵害される場面で、侵害発生のメカニズムを被害者が覚知できず、請求すべき侵害防除措置の具体的特定が困難な場合が生じる場合も少なくない

5.差止めと損害賠償~将来の損害の賠償可能性
・将来給付の訴え
①現在すでに請求の基礎となる事実関係が存在し、かつ、
②請求内容が明確である場合において
③あらかじめ請求をする必要性のあるときに限って、
将来給付の訴えを提起することが許される!

+判例(S56.12.16)大阪空港公害訴訟

6.関連問題 将来損害項目と事情変更

ⅰ)判決確定後の後遺症の発症
明示の一部請求訴訟についての確定判決の既判力は、残部の請求に及ばない
→問題の追加請求は前訴の最終口頭弁論期日後に生じた事情によって生じた費用を損害として賠償請求するものであり、
前訴と本件訴訟はそれぞれ訴訟物を異にするから、前訴の確定判決の既判力は本件訴訟に及ばない

ⅱ)不動産の継続的不法行為
判決確定後に土地の価格が急騰し、公租公課が増加した場合。
判決の既判力は、右の差額に相当する損害金の請求には及ばず、所有者が不法占拠者に対し新たに訴えを提起してその支払いを求めることを妨げるべきものではない。
←当事者の意思や借地借家法11条に照らすと一部請求だったといえるから。


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不法行為法 11 共同不法行為・競合的不法行為

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1.競合的不法行為と共同不法行為

2.競合的不法行為(不法行為責任の競合)
個別の不法行為責任が競合

+(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

加害者不明の不法行為に関しては、明文の規定で因果関係の主張・立証責任が転換されている。
=択一的競合

・請求原因
①Xの権利侵害
②損害の発生(およびその金額)
③権利侵害行為および行為者として考えられるのがABCであること
④ABCのほかに行為者はいないこと
⑤Aに故意があったこと、または過失の評価根拠事実
⑥Bに・・・同上
⑦Cに・・・同上

・抗弁
自分の行為とXの権利侵害(・損害)との間に因果関係がなかったこと

3.共同不法行為の基本的な仕組み(その1)~伝統的な考え方による場合
・各人の行為が関連共同していることが相当性判断に影響を与え、個々の行為者ごとに損害賠償責任を考えたときには相当性がないとして賠償が認められない損害についても、賠償対象となり得る。

・請求原因
①Xの権利侵害
②Aに故意があったこと、または過失があったとの評価を根拠付ける具体的事実
③Bに故意があったこと、または過失があったとの評価を根拠付ける具体的事実
④Cに・・・同上
⑤損害の発生(およびその金額)
⑥Aの行為と権利侵害(・損害)との間の因果関係
⑦Bの・・・同上
⑧Cの・・・同上
⑨Aの行為、Bの行為およびCの行為が関連共同すること

⑨の関連共同性の要件が加わることで、因果関係の相当性判断が被害者に有利に緩和される。

4.共同不法行為の基本的な仕組み(その2)~最近の考え方による場合
・各人の行為と関連共同性と、共同行為と発生した結果との間の因果関係を問えば足り、個別的因果関係を問題としない!

・請求原因
①Xの権利侵害
②Aに故意があったこと、または過失の評価根拠事実
③Bに・・・同上
④Cに・・・同上
⑤損害の発生(およびその金額)
⑥Aの行為、Bの行為およびCの行為が関連共同すること
⑦ABCの共同行為と権利侵害(・損害)との間の因果関係

5.関連共同性の意味
・主観的共同説
行為者相互の意思の連絡を必要とする
←共同関係にある他人の行為という、自己の行為の結果でない損害についても責任を負わなければならないのは、各自が他人の行為を利用し、他方、自己の行為が他人に利用されるのを認容する意思を持つ場合に限られるべき

・客観的共同説(通説)
意思の連絡は不要であり、客観的に見て関連しあっていれば足りる
←主観的共同説
+判例(S43.4.23)山王川事件

・最近の共同不法行為の要件の考え方の判例
+判例(大阪地判S51.2.19)
各人の行為と結果発生との間の因果関係については、共同行為と結果発生との間の因果関係の存在をもって足りる
←各人の行為と結果発生との間の個別的因果関係の存在を必要とするときは、その立証がされた場合は各人は当然に民法709条による責任を負うことになり、行為の関連共同性という要件を付加するところの共同不法行為の規定は無用のものとなるから。

6.共同不法行為の効果~全額連帯責任とその緩和
・寄与度減責の理論
複数原因が競合する場合において、各行為者の賠償額を決定するに当たり、個々の原因の寄与度を考慮する
←因果関係という事実認定レベルではなく、規範的価値判断レベルでの賠償限定基準として「寄与度」を捉えるもの(評価的寄与度)

・強い関連共同性
寄与度減責の抗弁を認めない

・弱い関連共同性
寄与度減責の抗弁を認める

・共同行為に客観的関連性が認められ、加えて、共同行為者間に主観的な要素が存在したり、結果に対し質的にかかわり、その関与の度合いが高い場合や、量的な関与であっても自己の行為のみによっても全部または主要な結果を惹起する場合など(強い共同関係)は、共同行為の結果生じた損害の全部に対し責任を負わせることは相当
主観的な要素が存在しないか希薄であり、共同行為への関与の程度が低く、自己の行為のみでは結果発生の危険が少ないなど、共同行為への参加の態様、そこにおける帰責性の強弱、結果への寄与の程度等を判断して、連帯して損害賠償義務を負担させることが具体的妥当性を欠く場合(弱い共同関係)には、各人の寄与の程度を合理的に分解することができる限り、責任の分割を認めるのが相当。

・強い関連共同性と弱い関連共同性の峻別と条文上の根拠
強い関連共同性がある場合には719条1項前段を適用
弱い関連共同性しかない場合には719条1項後段を類推適用

7.共同不法行為者間の求償権
共同不法行為者は各自が連帯して損害賠償をする義務を負う
不真正連帯債務

不真正連帯債務にあっては、負担部分を観念することができないから、連帯債務であることを理由とする求償は認められない!!

共同行為者の内部的負担部分は、各自の過失割合によって決まる!
→この過失割合で確定された自己の内部負担額を超えて被害者に弁済をした共同行為者の1人は、他の共同行為者に対して求償することができる。

8.共同行為者の1人について生じた事由の影響
他の債務者にも影響の及ぶ事由を定めた連帯債務の諸規定は、不真正連帯債務には適用されない!
被害者が共同行為者の1人に請求したからといって、他の共同行為者に請求したということにはならない(434条の適用を否定)
被害者が共同行為者の1人に対して損害賠償義務を免除しても、他の共同行為者を免除したことにはならない
ただ、免除の意思表示が共同行為者全員の損害賠償義務を免除する意思でおこなわれたものであるときには、その限りで他の共同行為者の債務も消滅する。


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不法行為法 10 物による権利侵害~工作物責任・映像物責任・製造物責任・動物占有者の責任

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1.物による権利侵害と損害賠償責任
・土地の工作物等から生じた権利侵害と、その工作物の占有者・所有者の損害賠償責任(717条)

・動物から生じた権利侵害と、その動物の占有者の損害賠償責任(718条)

・営造物から生じた権利侵害と、国・公共団体の損害賠償責任(国賠2条)

・製造物から生じた権利侵害と、その物の製造者らの損害賠償責任(製造物責任法3条)

2.工作物責任の概要
+(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2  前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3  前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

・請求原因
①甲が工作物であること
②Yが甲を事故時に占有していたこと
③甲の設置保存に瑕疵があったことの評価を根拠付ける具体的事実
④Xの権利侵害
⑤損害の発生(およびその金額)
⑥設置保存の瑕疵と権利侵害(・損害)との間の因果関係

・抗弁
損害を発生を防止するのに必要な注意をしたとの評価を根拠付ける具体的事実

3.工作物の意味
土地に接着している物のみならず、土地の工作物としての機能を有するもの

4.設置・保存の瑕疵
工作物が、その種類に応じて、通常予想される危険に対し、通常備えているべき安全性を欠いていること
=第三者や被害者の異常な行動による危険とか、異常な自然力(不可抗力)により生じた危険に対する安全性まで備えている必要はない
+判例(S45.8.20)高知落石事件

+判例(H5.3.30)

瑕疵が工作物の設置時に存在しているか(設置の瑕疵)、設置後に生じたものか(保存の瑕疵)を問わない。

・判断の仕方
まず、具体的に問題となった危険を視野の外に置いたうえで
工作物に対して通常予想される危険が何かを確定し
その通常予想される危険に対して工作物が通常備えているべき安全性は何かを確定する。

・工作物の設置保存の瑕疵を判断する際には、
工作物の設置管理者がどのような注意をつくして保存管理行為をすべきであったかということは問題にならない!!
通常予想される危険に対して通常備えているべき安全性を欠いていたかどうかを判断する(客観説)!

・基準時
事故時の評価を基準に「通常予想される危険に対して通常備えるべき安全性」を欠いていたかどうかを判断
その工作物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを証拠に基づいて確定したうえで、さらに、被害者の権利・利益侵害がその時点以降に生じたものか否か、また、瑕疵と権利・法益侵害との間に因果関係を認めることができるか否かなどを審理して初めて判断できる

+判例(S61.3.25)点字ブロック訴訟

+判例(H25.7.12)アスベスト事件

5.因果関係
危険の種類・性質は通常予想される危険と同じであったけれども、程度が違っていたという場合や、第三者の行為が共同作用したという場合には、設置保存の瑕疵により生じた損害のすべてを占有者が負担するべきなのかという問題。

6.占有者の免責立証
(1)工作物の占有者
占有者
=工作物を事実上占有する者
直接占有者のみならず、間接占有者も含まれる

・占有機関による占有の場合には、工作物責任を負うのは占有者であって、占有機関ではない。

・通説は、工作物に直接占有者と間接占有者がいる場合に、間接占有者が工作物を支配することが必ずしも可能ではないことを理由に、直接占有者が第一次責任を負い、直接占有者が717条1項ただし書きの免責事由を立証したことによって免責される場合にはじめて、間接占有者が責任を負う。

(2)占有者の免責立証
717条1項ただし書き

7.所有者の無過失責任
・717条1項にいう所有者とは
被害者への権利・法益侵害が生じた時点の所有者
前所有者が所有していた時期に瑕疵が生じたものであっても、権利・法益侵害が生じた時点の所有者が同項に基づく責任を負う。

・所有者に損害賠償請求をする場合の請求原因
①甲が工作物である
②甲の設置保存に瑕疵があったとの評価を根拠付ける具体的事実
③Xの権利侵害
④損害の発生(およびその金額)
⑤設置保存の瑕疵と権利侵害(・損害)との間の因果関係
⑥権利侵害が生じた時点で、Aが甲を所有していたこと

・抗弁
権利侵害が生じた時点で、Yが甲を占有していたこと

・再抗弁
Yが損害の発生を防止するのに必要な注意を怠らなかったとの評価根拠事実

8.被害者に賠償した占有者・所有者の求償権
+(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2  前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3  前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる

9.工作物責任と類似する制度~映像物責任
・国家賠償法
+第二条  道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

・公の営造物管理主体による危険の管理・支配に注目した無過失責任

・不可抗力を理由とした免責の余地はある。
←無過失責任とはいえ、みずからの危険の支配可能性を超えたところにある統制することの困難な出来事については、責任を問われるべきではない。

・公の営造物とは、
国・公共団体が特定の公の目的に供する有体物及び物的設備のこと

・営造物の設置・管理の瑕疵とは
営造物が通常予想される危険に対して通常備えておくべき安全性を欠いている状態

・請求原因
①Yが国・公共団体であること
②甲がYの営造物であること
③甲の設置・管理の瑕疵があったとの評価を根拠付ける具体的事実
④Xの権利侵害
⑤損害の発生(およびその金額)
⑥設置・管理の瑕疵と権利侵害(・損害)との間の因果関係

10.製造物責任
・製造物責任法
+(目的)
第一条  この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
2  この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3  この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一  当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
二  自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三  前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者

(製造物責任)
第三条  製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

・製造物責任は欠陥を要件とする無過失責任

・引渡時とは、
製造物を物流に置いた時点

・欠陥および因果関係についての主張立証責任は被害者が負担する。

・請求原因
①甲が製造物であること
②甲について、Yが引き渡した時に欠陥が存在していたとの評価を根拠付ける具体的事実
③Xの権利侵害
④損害の発生(およびその金額)
⑤甲の欠陥と権利侵害(・損害)との因果関係
⑥Yが甲の製造業者等であること

・抗弁
ⅰ)製造物に引き渡し時に欠陥が存在していたとの評価を妨げる具体的事実(欠陥の評価障害事実)

ⅱ)開発危険の抗弁
+(免責事由)
第四条  前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一  当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二  当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

ⅲ)部品・原材料製造者の抗弁
・4条2号

ⅳ)消滅時効の抗弁
+(期間の制限)
第五条  第三条に規定する損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から三年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から十年を経過したときも、同様とする。
2  前項後段の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する。

ⅴ)除斥期間の抗弁
上記1項後段

11.動物占有者の損害賠償責任
+(動物の占有者等の責任)
第七百十八条  動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2  占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。

占有者保管者が動物の保管に必要な注意を怠った過失を理由とする責任
動物の保管に際しての過失についての立証責任を転換したもの

・請求原因
①甲が「動物」であること
②Xの権利侵害
③損害の発生(およびその金額)
④甲の行動と権利侵害(・損害)との間の因果関係
⑤事故当時Yが甲を占有していたこと

・抗弁
その動物の種類及び性質に従い相当の注意をもって保管したこと
相当の注意とは、
通常払うべき程度の注意義務


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不法行為法 9 使用者の責任・注文者の責任

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1.使用者責任の意味
被用者の不法行為を理由として、被害者が使用者に対して損害賠償請求をする

+(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

・使用者責任を支える基本的な考え方
①危険責任の原理
使用者が被用者を用いることで新たな危険を創造したり、拡大したりしている以上、使用者は被用者による危険の実現につき責任を負担すべきである。

②報償責任の原理
使用者が自分の業務のために被用者を用いることによって事業活動上の利益を上げている以上、使用者は被用者による事業活動の危険も負担すべきである。

・使用者が負担する責任の性質
①自己責任説
使用者固有の責任
被用者の選任監督上の過失を根拠にする715条では、1項ただし書きが設けられることによって、使用者側へと主張立証責任が転化されており、この点が709条とは異なる
=使用者責任は中間責任である

②代位責任説(判例通説)
被用者が負担する責任を使用者が代わって負担するもの
被用者の行為は、それ自体として不法行為の成立要件を充足するものでなければならない
715条1項ただし書きにいう使用者の専任監督上の過失は、709条の故意過失と違い、一種の政策的考慮に出た免責事由である!!!

2.使用者責任の要件事実~概観
715条1項に基づく請求をする場合
・請求原因
①Xの権利侵害
②Hの行為につき、Hに故意があったこと、または過失があったとの評価を根拠付ける具体的事実
③損害の発生(およびその金額)
④Hの行為とXの権利侵害(・損害)との間の因果関係
⑤行為当時、Y・H間に使用関係があったこと
⑥Hの不法行為がYの事業の執行につきおこなわれたものであること

・抗弁
ⅰ)Hに過失があったとの評価を妨げる具体的事実

ⅱ)行為当時、Hに責任能力がなかったこと(712条、713条)

ⅲ)YがHの選任およびその事業の監督につき相当の注意をしたこと(715条ただし書き前段)

ⅳ)YがHの選任・監督につき相当の注意をしても損害が生じたであろうこと(715条ただし書き後段)

・失火責任法と使用者責任
被用者の行為につき重過失判断をすべき
←使用者責任を代位責任的に捉えて処理

ちなみに、監督義務者の責任については、
監督義務者の監督上の行為について重過失判断をすべき
←判例は714条の監督義務者の責任を自己責任説的に捉えて処理しようとした

3.使用関係
使用する関係の存在が必要。
雇用関係までは必要ない。

両者の間に契約関係が存在するか、行われる事業が一時的か継続的か、営利目的かどうか、適法か違法かなどといった点は重要ではなく、
実質的に見て使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足りる。

実質的指揮監督関係は、
使用者が被用者を実際に指揮監督していたかどうかという点に即して判断されるわけではなく、
指揮監督をすべき地位が使用者に認められるかどうかという点に即して判断される!!!!

+判例(S41.6.10)

+判例(S56.11.27)

4.事業執行性
被用者の不法行為は、使用者の業務の執行につき、行われたものでなければならない。

・業務の執行につきとは、
外形標準説
被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為が外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含するものと解すべき!!

←信頼保護の観点から
外形標準説の意義は、取引行為に関する限り、行為の外形に対する第三者の信頼を保護しようとするところに存在する

被用者の行為が職務執行行為に該当する場合には、そもそも外形標準説の定式を持ち出す必要はない。

・外観を信頼したどのような被害者であっても、保護に値するのか?
被用者のなした取引行為が、その行為の外形から見て、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、
その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものでもなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながら、または、少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたときは、その行為に基づく損害は715条所定の損害とはいえない。
この場合の重過失とは、故意に準じる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまったく保護を与えないことが相当と認められる状態

+判例(S42.11.2)

・上記外形標準説は、取引的不法行為を対象に展開されたもの。
では、交通事故のような事実的不法行為について、「事業の執行につき」は、どのように捉えるべきか。

交通事故の事例
外形から客観的に見て職務の範囲内にあたるかどうかを判断

暴力行為の事例
被用者が、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えた損害と認められるかどうかという基準

この場合には外観への信頼という視点は現れてこない。

5.715条1項ただし書きの免責立証
危険責任が免責されるためには、一般には、不可抗力程度のものが必要
→免責はほぼ認められない。

6.使用者が賠償した場合の、被用者に対する求償権
+(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

・損害の公平な分担という見地から、信義則に照らし、求償権が制限される!
事業活動におけるリスクの一部は使用者も負担しなければならない。

求償権を信義則上制限すべきことを根拠付ける具体的事実については、使用者から求償を受けた被用者が、抗弁として主張立証しなければならない。

・信義則による求償権の制限
事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の文さんについての使用者の配慮の程度その他諸般の事情
というように複数の抽象的な指標掲げている。

7.代理監督者の責任
代理監督者
=使用者に代わって事業を監督する者

・代理監督者といえるためには、
現実に被用者の具体的な選任監督にあたっていることが必要

・要件事実について
①~⑥は同様。
⑦使用者がDに対して事業を監督する権限を与えたこと

8.709条に基づく被用者の損害賠償責任
・被害者に対する被用者の損害賠償債務と、被害者に対する使用者の損害賠償債務とは不真正連帯債務の関係に立つ。

・被用者に対する損害賠償請求権についての消滅時効の完成は使用者に対する損害賠償請求権に影響を与えない。
←不真正連帯債務

・被用者に対する免除は使用者の損害賠償債務に影響を与えない
←不真正連帯債務

・被用者が賠償した場合の逆求償
被用者が賠償した場合には代位責任の考え方を貫き、逆求償を認めない!

9.709条に基づく法人自身の不法行為責任(法人過失論)
法人の活動を組織的に一体のものとして捉えて、法人としての活動にあたる被用者の行為を「法人の行為」のなかに吸収し、この意味での「法人の行為」が社会生活において必要とされる注意を尽くしていないと評価されるときに、法人の過失を認め、709条の過失を認める。

10.使用者責任に類似する制度(その1)~国家賠償法1条に基づく国・地方公共団体の損害賠償責任

ⅰ)公権力の行使にあたる公務員の加害行為であること
公権力の行使とは、
国・公共団体の作用の中から純然たる私経済作用と営造物の設置管理作用を除いた一切の公行政作用を意味する。
純然たる私経済作用は715条で処理

・一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意過失による違法行為があったのでなければ当該被害が生じなかったであろうと認められ、かつ、国または公共団体が法律上賠償責任を負うべき関係が存在するときは、
加害行為の不特定を理由として国家賠償法または民事法上の損害賠償請求を免れることはできない。

ⅱ)加害行為が職務を行うにつきされたものであること
外形標準説

ⅲ)加害行為について公務員に故意があったこと、または過失の評価根拠事実

ⅳ)加害行為に違法性が認められる
ここでの違法性とは、
職務行為規範に対する違反
職務上尽くすべき注意義務に違反して当該国民に損害を加えたとき

ⅴ)被害者の権利の侵害

ⅵ)損害の発生(およびその金額)

ⅶ)ⅰ)の加害行為と権利侵害(・損害)との間の因果関係

・715条との相違点~公務員の個人責任
国がその被害者に対して賠償責任を負うのであって、公務員個人はその責任を負わない!

11.使用者責任に類似する制度(その2)~代表者の不法行為を理由とする法人の損害賠償責任
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条

12.使用者責任に類似する制度(その3)~注文者の責任
+(注文者の責任)
第七百十六条  注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

請負人が独立の業者であり、注文者の指揮監督を受けない点を考慮した。


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不法行為法 8 損害賠償請求に対する抗弁(2)

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1.前章からのの続き

2.抗弁(その1)~過失の評価障害事実~

3.抗弁(その2)~過失相殺~
+(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条  第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2  被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる

=被害者の過失を認定しても、これを考慮するかどうかは裁判所の裁量にゆだねられている。

・過失相殺の制度趣旨
被害者に発生した損害を被害者と加害者との間で公平に分配する

・被害者の過失
=自己危険回避義務違反
損害軽減義務違反

・被害者たる未成年者の過失を斟酌する場合においても、未成年者に事理を弁識する能力が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しない!!!!!
=過失相殺をするためには、責任能力が具わっている必要はないとしつつ、
事理を弁識する能力は必要!!!

・責任能力
=行為の違法性認識能力
自分の行為の善悪について認識できる能力

・事理弁識能力
自分がこれから何をしようとしているのかについて認識できる能力

・過失相殺の割合の決め方~加害者複数の場合~
相対的過失割合による過失相殺
+判例(H13.3.13)
主文
1 原判決主文第1項を次のとおり変更する。
 第1審判決を次のとおり変更する。
 (1) 被上告人は、上告人ら各自に対し、1900万4634円及びうち1810万4634円に対する昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 上告人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを3分し、その1を上告人らの、その余を被上告人の負担とし、参加によって生じた費用は、これを3分し、その1を上告補助参加人らの、その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人森永友健の上告受理申立て理由第一ないし第三及び第五について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 (1) 上告人らの長男であるA(昭和57年1月13日生)は、昭和63年9月12日午後3時40分ころ、埼玉県上福岡市ab丁目c番d号先路上において、自転車を運転し、一時停止を怠って時速約15㎞の速度で交通整理の行われていない交差点内に進入したところ、同交差点内に減速することなく進入しようとした上告補助参加人川越乗用自動車株式会社の従業員である同B運転に係る普通乗用自動車と接触し、転倒した(以下「本件交通事故」という。)。
 (2) Aは、本件交通事故後直ちに、救急車で被上告人が経営する上福岡第二病院(以下「被上告人病院」という。)に搬送された。被上告人の代表者で被上告人病院院長であるC医師は、Aを診察し、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが、Aの意識が清明で外観上は異常が認められず、Aが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説明をし、前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから、Aの歩行中の軽微な事故であると考えた。そして、C医師は、Aの頭部正面及び左側面から撮影したレントゲン写真を検討し、頭がい骨骨折を発見しなかったことから、さらにAについて頭部のCT検査をしたり、病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はないと判断し、前記負傷部分を消毒し、抗生物質を服用させる治療をした上、A及び上告人Dに対し、「明日は学校へ行ってもよいが、体育は止めるように。明日も診察を受けに来るように。」「何か変わったことがあれば来るように。」との一般的指示をしたのみで、Aを帰宅させた。
 (3) 上告人Dは、Aとともに午後5時30分ころ帰宅したが、Aが帰宅直後におう吐し、眠気を訴えたため、疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ、Aは、夕食を欲しがることもなく午後6時30分ころに寝入った。Aは、同日午後7時ころには、いびきをかいたり、よだれを流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていたが、上告人らは、多少の異常は感じたものの、Aは普段でもいびきをかいたりよだれを流したりして寝ることがあったことから、この容態を重大なこととは考えず、同日午後7時30分ころ、氷枕を使用させ、そのままにしておいた。しかし、Aは、同日午後11時ころには、体温が39度まで上昇してけいれん様の症状を示し、午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため、上告人らは初めてAが重篤な状況にあるものと疑うに至り、翌13日午前0時17分ころ、救急車を要請した。救急車は同日午前0時25分に上告人方に到着したが、Aは、既に脈が触れず呼吸も停止しており、同日午前0時44分、三芳厚生病院に搬送されたが、同日午前0時45分、死亡した(以下「本件医療事故」という。)。
 (4) Aは、頭がい外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血しゅにより死亡したものであり、被上告人病院から帰宅したころには、脳出血による脳圧の亢進によりおう吐の症状が発現し、午後6時ころには傾眠状態を示し、いびき、よだれを伴う睡眠、脳の機能障害が発生し、午後11時ころには、治療が困難な程度であるけいれん様の症状を示す除脳硬直が始まり、午後11時50分には自発呼吸が不可能な容態になったものである。
 硬膜外血しゅは、骨折を伴わずに発生することもあり、また、当初相当期間の意識清明期が存することが特徴であって、その後、頭痛、おう吐、傾眠、意識障害等の経過をたどり、脳障害である除脳硬直が開始した後はその救命率が著しく減少し、仮に救命に成功したとしても重い後遺障害をもたらすおそれが高いものであるが、早期に血しゅの除去を行えば予後は良く、高い確率での救命可能性があるものである。したがって、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存したのであって、C医師にはこれを懈怠した過失がある。
 (5) 他方、上告人らにおいても、除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまでAが重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、Aの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり、その過失割合は1割が相当である。
 (6) なお、本件交通事故は、本件交差点に進入するに際し、自動車運転手として遵守すべき注意義務を懈怠した、上告補助参加人Bの過失によるものであるが、Aにも、交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があり、その過失割合は3割が相当である。
 (7) 上告人らは、Aの本件交通事故及び本件医療事故による次の損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。Aの死亡による上告人らの弁護士費用分を除く全損害は、次のとおりである。
  逸失利益 2378万8076円
  慰謝料 1600万円
  葬儀費用 100万円
 なお、上告人らは、上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として50万円の支払を受けた。
2 本件は、上告人らが、C医師の診療行為の過失によりAが死亡したとして、被上告人に対し、民法709条に基づき損害賠償を求めている事案である。
 原審は、前記事実関係の下において、概要次のとおり判断した。
 (1) 被害者であるAの死亡事故は、本件交通事故と本件医療事故が競合した結果発生したものであるところ、原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難を伴うので、被害者保護の見地から、本件交通事故における上告補助参加人Bの過失行為と本件医療事故におけるC医師の過失行為とを共同不法行為として、被害者は、各不法行為に基づく損害賠償請求を分別することなく、全額の損害の賠償を請求することもできると解すべきである。
 (2) しかし、本件の場合のように、個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、その行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき、被害者側に過失相殺すべき事由が存する場合には、各不法行為者は、各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張することができ、かつ、個別的に過失相殺の主張をすることができるものと解すべきである。すなわち、被害者の被った損害の全額を算定した上、各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け、その上で個々の不法行為についての過失相殺をして、各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
 (3) 本件においては、Aの死亡の経過等を総合して判断すると、本件交通事故と本件医療事故の各寄与度は、それぞれ5割と推認するのが相当であるから、被上告人が賠償すべき損害額は、Aの死亡による弁護士費用分を除く全損害4078万8076円の5割である2039万4038円から本件医療事故における被害者側の過失1割を過失相殺した上で弁護士費用180万円を加算した2015万4634円と算定し、上告人らの請求をこの金員の2分の1である各1007万7317円及びうち917万7317円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものである。

3 しかしながら、原審の前記2(2)(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 原審の確定した事実関係によれば、本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入された被上告人病院において、Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある。したがって、【要旨1】本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。けだし、共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。
 したがって原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
 4 本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする二つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。ところで、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、【要旨2】本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない
 本件において被上告人の負担すべき損害額は、Aの死亡による上告人らの損害の全額(弁護士費用を除く。)である4078万8076円につき被害者側の過失を1割として過失相殺による減額をした3670万9268円から上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し、これに弁護士費用相当額180万円を加算した3800万9268円となる。したがって、上告人ら各自の請求できる損害額は、この2分の1である1900万4634円となる。
 5 以上によれば、上告人らの本件請求は、各自1900万4634円及びうち1810万4634円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決は、主文第1項のとおり変更するのが相当である。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

絶対的過失割合による過失相殺
全ての過失の割合を認定することができる時
+判例(H15.7.11)
理由
第1 事案の概要
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人の被用者であるAは、平成9年9月20日午前2時25分ころ、片側1車線の三重県松阪市五反田町1丁目1277番先道路(以下「本件道路」という。)上に、普通貨物自動車(以下「上告人車」という。)を西側路側帯から北行車線にはみ出るような状態で駐車させ、非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった。被上告人堀口運輸有限会社(以下「被上告会社」という。)の被用者であるBは、そのころ、被上告会社の保有する普通貨物自動車(以下「被上告人車」という。)を運転して、本件道路を南方から北方に向けて進行し、上告人車を避けるため、中央線からはみ出して進行したところ、本件道路を北方から南方に向けて、最高速度として規制されている時速40㎞を上回る時速80㎞以上で進行してきたCの運転に係る普通乗用自動車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
 本件道路は、終日駐車禁止の交通規制がされていたが、追越しのための右側部分はみ出し禁止の交通規制はされていなかった。また、本件道路は、北方から南方に向かう場合、本件交通事故現場の手前約60m付近で左にカーブしており、Cは、被上告人車を左カーブを抜けた地点で発見した。本件交通事故現場付近に街灯はなく、Cの進行方向からは、上記左カーブを抜けた地点より手前で被上告人車を発見することは容易ではなかった。
 (2) Aには非常点滅表示灯等を点灯させることなく、上告人車を駐車禁止の車道にはみ出して駐車させた過失、Bには被上告人車を対向車線にはみ出して進行させた過失、Cには速度違反、安全運転義務違反の過失がある。A、B、Cの各過失割合は1対4対1である。
 (3) 本件交通事故により、被上告会社は270万3110円の損害を被り、Cは581万1400円の損害を被った。
 (4) 被上告人車につき、被上告人三重県交通共済協同組合(以下「被上告組合」という。)を保険者として、自動車共済契約が締結されており、また、被上告人車につき、自動車損害賠償保障法により自動車損害賠償責任保険契約(以下、「自賠責保険」といい、自賠責保険に基づいて支払われる保険金を「自賠責保険金」という。)が締結されていた。
 (5) 被上告会社とCとの間では、本件交通事故による損害賠償につき示談が成立し、被上告会社は、Cから、36万5174円の支払を受け、被上告組合は、Cに対し、上記自動車共済契約に基づき、被上告会社に代わって、本件交通事故による損害賠償として474万7654円を支払った。
 (6) 被上告会社が本件交通事故による自己の損害額270万3110円のうち上告人及びCに対して請求し得る額の合計は、自己の過失割合6分の4を控除した6分の2に相当する90万1036円である。
 (7) 被上告組合は、Cに支払った損害賠償金につき自賠責保険金120万円の支払を受けた。
 2 本件は、上告人に対し、被上告会社が自動車損害賠償保障法3条又は民法715条に基づき損害賠償を請求し、Cに損害賠償金を支払った被上告組合が保険代位に基づいて上告人が被上告会社に対して負う求償義務の履行を求める事案である。
第2 上告代理人西村英一郎の上告理由について
 1 上告代理人西村英一郎の上告理由第1の2(2)について
 原審は、被上告会社が本件交通事故による自己の損害額のうち上告人及びCに対して請求し得る額の合計を90万1036円とし、Cから36万5174円の支払を受けたとしているので、被上告会社が上告人に対して請求し得る額は53万5862円となる。しかし、原審は、上告人に対し、これを上回る53万8242円の支払を命じており、原判決には理由の食違いがある。この点をいう論旨は理由がある。
 2 その余の上告理由について
 その余の上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
第3 上告代理人西村英一郎の上告受理申立て理由第3の2(3)について
 1 原審は、概要次のとおり判断して、被上告組合の上告人に対する請求を170万6109円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
 (1) Cは、本件交通事故による自己の損害につき、自己の過失割合である6分の1を控除した6分の5の限度で、被上告会社及び上告人に対して、各当事者ごとの相対的な過失割合に従って損害賠償を請求することができる。したがって、Cは、581万1400円の6分の5である484万2833円を上限として、被上告会社に対しては581万1400円をCの過失割合5分の1による過失相殺をした後の464万9120円、上告人に対してはCの過失割合2分の1による過失相殺をした後の290万5700円を請求し得るものというべきである。
 (2) 被上告会社及び上告人の損害賠償義務が競合する範囲は、上記464万9120円と290万5700円を加え、484万2833円を控除した271万1987円であり、被上告会社のみが損害賠償義務を負うのは、上記464万9120円から上記271万1987円を控除した193万7133円である。
 被上告会社の負担部分は、上記271万1987円に5分の1を乗じ、上記193万7133円を加えた247万9530円である。
 被上告会社は、上告人に対し、Cに対して支払った474万7654円から上記247万9530円を控除した226万8124円を求償することができる。
 (3) 被上告組合が支払を受けた自賠責保険金120万円は、被上告会社のみが損害賠償義務を負う範囲、上告人のみが損害賠償義務を負う範囲及び被上告会社と上告人の損害賠償義務が競合する範囲に案分して充当される。したがって、上記120万円のうち、被上告会社の求償金から控除すべき金額は56万2015円である。
 (4) よって、被上告組合は、上告人に対し、226万8124円から56万2015円を控除した170万6109円を請求することができる。

 2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 【要旨】複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。これに反し、各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは、被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。
 (2) 以上説示したところによれば、被上告会社及び上告人は、Cの損害581万1400円につきCの絶対的過失割合である6分の1による過失相殺をした後の484万2833円(円未満切捨て。以下同じ。)の限度で不真正連帯責任を負担する。このうち、被上告会社の負担部分は5分の4に当たる387万4266円であり、上告人の負担部分は5分の1に当たる96万8566円である。被上告会社に代わりCに対し損害賠償として474万7654円を支払った被上告組合は、上告人に対し、被上告会社の負担部分を超える87万3388円の求償権を代位取得したというべきである。
 なお、自賠責保険金は、被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから、共同不法行為者間の求償関係においては、被保険者の負担部分に充当されるべきである。したがって、自賠責保険金120万円は、被上告組合が支払った被上告会社の負担部分に充当される。
 そうすると、論旨はこの限度で理由があり、これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
第4 結論
 以上によれば、被上告会社の請求は、上告人に対し、53万5862円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被上告組合の請求は、上告人に対し、87万3388円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被上告人らのその余の請求は理由がないから棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 梶谷玄 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

4.抗弁(その3)~被害者側の過失
・本人以外の者の過失を被害者側の過失として斟酌するのが公平の理念に照らし相当な場合がある

・被害者側に当たるかどうか
被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者


保母×
夫○
職場の同僚×
交際中の者×
内縁配偶者○

・被害者側の過失の枠とは異なる減額
+判例(H20.7.4)
理由
 上告代理人田野壽、同宮崎隆博の上告受理申立て理由第3の3について
 1 本件は、A(当時22歳)運転の自動二輪車とパトカーとが衝突し、自動二輪車に同乗していたB(当時19歳)が死亡した交通事故につき、Bの相続人である被上告人らが、パトカーの運行供用者である上告人に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づく損害賠償を請求する事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
  (1) A及びBは、中学校時代の先輩と後輩の関係であり、平成13年8月13日午後9時ころから、友人ら約20名と共に、自動二輪車3台、乗用車数台に分乗して、集合、離散しながら、空吹かし、蛇行運転、低速走行等の暴走行為を繰り返した。Bは、ヘルメットを着用せずに、消音器を改造した自動二輪車(以下「本件自動二輪車」という。)にAと二人乗りし、交代で運転をしながら走行していた。
  (2) 岡山県警察勝山警察署のC警察官らは、付近の住民から暴走族が爆音を立てて暴走している旨の通報を受け、同日午後11時20分ころ、これを取り締まるためにC警察官が運転するパトカー(以下「本件パトカー」という。)及び他の警察官が運転する小型パトカー(以下「本件小型パトカー」という。)の2台で出動した。上告人は、本件パトカーの運行供用者である。
  (3) C警察官は、国道313号線(以下「本件国道」という。)を走行中、同日午後11時35分ころ、本件自動二輪車が対向車線を走行してくるのを発見し追跡したが、本件自動二輪車が転回して逃走したためこれを見失い、いったん本件国道に面した商業施設の駐車場(以下「本件駐車場」という。)に入って本件パトカーを停車させた。また、本件小型パトカーも本件駐車場に入って停車していた。本件駐車場先の本件国道は片側1車線で、制限速度は時速40㎞であった。
  (4) 同日午後11時49分ころ、Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が本件国道を時速約40㎞で走行してきたため、C警察官は、これを停止させる目的で、本件パトカーを本件国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ、本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。付近の道路は暗く、本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが、本件自動二輪車に遠くから発見されないように、赤色の警光灯はつけず、サイレンも鳴らしていなかった。
  (5) Aは、本件駐車場内に本件小型パトカーが停車しているのに気付き、時速約70~80㎞に加速して本件駐車場前を通過し逃走しようとしたが、その際、友人が捕まっているのではないかと思い、本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、前方に停車した本件パトカーを発見するのが遅れ、回避する間もなく、その側面に衝突した(以下「本件事故」という。)。
  (6) Bは、本件事故により頭がい骨骨折等の傷害を負い、同月14日午前1時13分ころ死亡した。
  (7) 本件事故によりBが受けた損害の額は合計6600万5364円であり、Bの両親である被上告人らは、Bの有する損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。被上告人らの固有の損害の額は各100万円である。
  また、被上告人らは、損害の一部てん補として、56万5000円の支払を受けた。

 3 原審は、次のとおり判断して、被上告人らの上告人に対する請求を、各2961万9645円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。
  (1) C警察官が本件自動二輪車を停止させるために執った措置は、赤色の警光灯をつけず、サイレンも鳴らさずに片側1車線を完全にふさいで本件パトカーを停車させるという交通事故発生の危険が高いものであり、相当と認められる限度を超えるもので、自賠法3条ただし書所定の免責事由は存しないし、正当業務行為として違法性が阻却されるものでもない。したがって、上告人は、同条本文に基づき、被上告人らに対し損害賠償責任を負う。
  (2) Aには前方注視義務違反及び制限速度違反が、Bにはヘルメット着用義務違反及びAと共に暴走行為をしてパトカーに追跡される原因を作ったという事情があることを考慮すれば、A、B、C警察官の過失割合は6対2対2である。本件事故は、Bとの関係では、AとC警察官との共同不法行為により発生したものである。そして、AとBとの間に身分上、生活関係上の一体性はないから、過失相殺をするに当たってAの過失をいわゆる被害者側の過失として考慮することはできない。
  したがって、上告人は、被上告人らに対して、Aと連帯して損害の8割を賠償する責任を負う。損害の一部てん補額を控除し、弁護士費用を加算すると、被上告人らの上告人に対する損害賠償の請求は、各2961万9645円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

 4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  前記事実関係によれば、AとBは、本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し、午後11時35分ころ、本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され、いったんこれを逃れた後、午後11時49分ころ、Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中、本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け、再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに、一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ、本件事故が発生したというのである(以下、本件小型パトカーを見付けてからのAの運転行為を「本件運転行為」という。)。
  以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきであるしたがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。
  これと異なり、Aの過失はBの過失として考慮することができないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上の見解の下にBとC警察官との過失割合等につき更に審理を尽くさせるため、上記部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき、本件を原審に差し戻すこととする。
  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋)

5.抗弁(その4)~被害者の素因
素因
=損害の発生・拡大の原因となった被害者の素質
・心的素因が損害の拡大に寄与している事件で、722条2項を類推適用することで賠償額の減額を認めた
・疾患とは言えない被害者の身体的特徴を賠償額算定に当たり考慮するかどうか
特段の事情がない限り考慮しない!
←個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されている
6.抗弁(その5)~損益相殺
・損益相殺とは
被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受けた場合には、損害と利益との間に同質性と相互補完性がある限り、その利益の額を賠償されるべき損害額から控除する。
・損益相殺の抗弁
①被害者に生じた利益とその額
出費節約による利益も含む
②その利益が不法行為を原因として生じたものであること
生命保険金が支払われたとしても、控除すべきではない
損害保険は損害の填補を目的としたものであるから、生命保険と異なり、第三者の負担する損害賠償債務の履行との間で重複填補の問題が生じる
③その損益が損害と同質性と相互補完性を有すること
養育費は控除されない
生活費は損益相殺の対象となる
居住利益について、建物自体に社会的経済的価値のないほどの瑕疵がある場合には、控除はできない
+判例(H22.6.17)
7.抗弁(その6)~損益相殺的な調整
・不法行為による被害者の死亡によって相続人が社会保険給付ほかの利益を得た場合に、被害者が相続した損害賠償請求権につき、子の相続人が得た利益を控除することができるか?
被害者が不法行為により死亡し、その損害賠償請求を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合に、相続人が得た利益を賠償額から控除する!!!

・不法行為の被害者らに社会保険給付がされるとき、これが損益相殺の対象とされて賠償額から控除されるのは、被害者やその相続人が現実に損害を填補されたということができる範囲またはこれと同視し得る範囲に限られる。

8.過失相殺と損益相殺の順序
・相殺後控除説
労災保険金と損害賠償との重複填補が問題となっている場合に判例の採る立場。
過失相殺により減額された損害の総額が上限となり、この上限額から損益相殺がされるべき。
←被害者が不法行為により取得できる賠償額は被害者の損害を填補する以上に出るものではないうえに、被害者の過失に基づく部分については、過失相殺制度の趣旨から見てこれを加害者のみならず第三者にも転化することはできないと考えるのが相当。

・控除後相殺説

9.抗弁(その7)~3年の消滅時効

+(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

・理由
証拠の散逸・立証困難
被害者感情の鎮静化

・加害者を知った時とは、
加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する

・損害を知った時
被害者が損害の発生を現実に認識したとき
損害の程度や金額まで知る必要はない。
被害者が損害の発生を現実に認識していない場合には、被害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待できないから

・後遺障害の残存による逸出利益を理由とする損害賠償請求
後遺障害としての症状が固定したときが、損害を知った時にあたる。

・潜伏していた後遺障害の発生
およそ事故当時に医学的にも予想できなかった後遺症が生じたのであれば、その後遺症が顕在化したときが、消滅時効の起算点とされる。

・弁護士費用相当額の損害賠償請求権
不法行為時ではなく、弁護士への委任契約時を起算点とする。

・継続的不法行為の場合の損害賠償請求権
損害が性質上分断可能な被害の場合には、分割して把握可能な個々の損害の発生ごとに損害賠償請求権を観念でき、個々に消滅時効を観念できる。

継続的不法行為による被害を集積し、統一的に把握すべき累積的被害の場合は、全体として1個の損害賠償請求権を観念することにより、その累積的性質を損害賠償に反映させる。全体としての1個の損害賠償請求権につき消滅時効を観念し、被害者との関係で継続的加害行為が終了した時点を起算点とすべき

加害行為継続中に被害者が死亡したときは、被害者死亡時を起算点とすべき。

10.抗弁(その8)~20年の除斥期間
・除斥期間とは
被害者の認識の如何を問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの
←権利不行使の継続という事実により権利を消滅させることで権利関係の安定を図るという公益的要請に出たものであるから、私人たる権利者の意思を考慮する余地がない!

消滅時効との違い
①期間の延長が画一的・絶対的に遮断されること(中断・停止を認めないこと)
②援用が必要とされない
③20年の機関の抗弁が権利濫用・信義則違反の再抗弁の対抗を受けない

・除斥期間の始期
損害発生時説
損害が現実化した時点
←加害行為時と損害発生時との間に時間的間隔がある場合を考慮すると、損害発生前に機関の進行を認めるのはおかしい

判例は、不法行為の時とは、
①加害行為がされた時に損害が発生する不法行為の場合は加害行為の時。
②身体に蓄積した場合に人の健康を害することになる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、不法行為にり発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合は、
当該損害の全部または一部が発生したとき

・除斥期間の伸長
20年を経過する前6か月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しなかった場合につき、
民法158条の法意に照らし、724条後段の効果は生じないとするのは相当!

+(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
第百五十八条  時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2  未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。

・除斥期間の伸長(例その2)
民法160条の法意に照らすと、被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知りえない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま除斥期間が経過した場合にも、相続人は一切の権利行使をすることが許されず、相続人が確定しないということの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは、著しく正義公平の理念に反する!!!!
=724条後段の効果は生じない

+(相続財産に関する時効の停止)
第百六十条  相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。


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不法行為法 7 損害賠償請求に対する抗弁(1)

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1.責任無能力の抗弁
責任能力は抗弁と位置づけられる。

+(責任能力)
第七百十二条  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない

第七百十三条  精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

2.責任能力の意義
責任能力は、
法の命令・禁止を理解しえない人間を、損害賠償責任から解放することによって保護するとの政策的価値判断に基づきたてられた概念。
保護されるか否かを振り分けるための知的・精神的能力
←共同体主義の観点から。

・責任能力の定義
=自己の行為の是非を判断できるだけの知能
(善悪の判断能力・違法性認識能力)

・責任能力の有無は、
個々の具体的行為者の能力を基準に判断される
⇔過失の有無が判断されるときには合理人の注意が基準になるのとは対照的

・責任能力の有無は、加害行為の種類態様ごとに異なってくる

3.誰が責任無能力者か
・+(責任能力)
第七百十二条  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

一律には判断できないが大体12歳くらい

・+第七百十三条  精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

4.責任無能力者の監督義務者の責任
(1)帰責と免責の仕組み
+(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条  前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

・家族関係の特殊性を考慮して、監督義務者が家族共同体内で責任無能力者の福利厚生・教育を図るという身分上の監護権ないし監護をすることのできる地位にある点に注目し、監督義務者に監督上の過失(監督過失)があることを根拠として、この者に損害賠償責任を課している。

・監督過失についての主張・立証責任が被害者側から監督義務者側に転換されている。
=中間責任

・請求原因
①Xの権利が侵害されたこと
②A(責任無能力者)の行為につき、Aに故意があったこと、またはAに過失があったことの評価を根拠付ける具体的事実
③損害の発生(およびその金額)
④①の権利侵害(③の損害)と②の行為との間の因果関係
⑤②の行為の当時、Aに責任能力がなかったこと
⑥②の行為当時、YがAの監督義務者であったこと

・抗弁
自らが責任無能力者の監督義務を怠らなかったこと
ここでいう監督義務とは、結果の発生を回避するための包括的な監督義務を意味する

監督上の過失と権利侵害との間の因果関係の不存在を主張立証

(2)監督義務を怠らなかったといえる場合
ⅰ)総論
・判例は、714条1項ただし書きにいう監督義務も門峰709条にいう過失の前提となる行為義務と異ならず、他人の権利・法益を害しないように注意して行動すべき義務(結果回避義務)であると捉えている。
=身分関係・生活関係から導かれる監護教育義務・身上配慮義務(820条・858条など)とは異質なものである。
→民法714条1項ただし書きによる免責の抗弁は、監督面での無過失の抗弁に他ならない!!

監督義務者と被監督者との身分関係・生活関係に照らして捉えられる結果回避のための包括的な監督義務とその違反の有無が問われる
=当該権利法益侵害を回避するために監督義務者がどのような個別具体的な監督行為をするべきであったかが問われているわけではない!

ⅱ)未成年者の不法行為と監督義務者の免責可能性
・責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないように注意して行動するよう日頃から指導監督する義務がある
通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特段の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない。

+判例(H27.4.9)サッカーゴール事件

714条1項ただし書きの監督義務違反を民法709条の過失と同義と捉え、かつ、
日常的に見られる通常は人身の危険が及ぶようなものではない行為から常態ではない経緯を経た結果であって、この結果を行為者がその意思により招致させたものでないものについては、責任無能力者の当該行為について具体的に予見可能であったなどの特段の事情があったと認められない限り、一般的な監護義務を尽くしていていれば、監督義務違反を問わない。

ⅲ)認知症高齢者の不法行為と監督義務者の免責可能性

・+(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条  成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

←民法858条の身上配慮義務は、成年後見人の権限等に照らすと、成年後見人が契約等の法律行為をする際に成年後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって、成年後見人に対し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや、成年被後見人の行動を監視することを求めるものと解すことはできない!!!!
=保護者や成年後見人であることだけでは、直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。

・+(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条  夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

←夫婦間で同居協力扶助の義務を負うのであって、第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課すものではない。
同居の義務については性質上履行を強制できないものであり、それ自体抽象的
→752条の規定をもって、714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできない。

・もっとも、法定の監督義務者に該当しない者であっても、
責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、
衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視して、その者に対し714条に基づく損害賠償責任を問うことができる!!!!!
=「法定の監督責任者に準ずべき者」として、714条1項が類推適用される

・法定の監督義務者に準ずべき者かの考慮要素など
その者自身の生活状況や心身の状況
精神障害者との親族関係の有無・濃淡
同居の有無その他の日常的な接触の程度
精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者とのかかわりの実情
精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
これらに対応しておこなわれている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して、

その者が精神障害者を現に監督しているか、または監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断。

+判例(H28.3.1)JR東海事件

5.行為者に責任能力がある場合の保護者の損害賠償責任
・不法行為者に責任能力があった時には、被害者は、714条に基づき監督義務者に損害賠償請求をすることはできない。
→709条で。

監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する
714条の規定が右解釈を妨げるものではない。

714条の場合のように広範かつ包括的な監督義務違反とは違い、
結果回避に向けられた具体的かつ特定の監督措置を内容とするもの

6.その他の抗弁~違法性阻却事由といわれているもの~
(1)正当防衛の抗弁
+(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2  前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

・他人の不法行為が原因となっていること
第三者に対する不法行為でもよい

・自己または第三者の権利を防衛するために加害行為をしたこと

・加害行為がやむを得ないものであったこと
防衛行為の必要性と加害行為の相当性

・要件事実
①Yまたは第三者の権利
②①の権利に対する他人の侵害行為
③請求原因に挙げられたYの故意過失行為(加害行為)が、②の行為から①の権利を防衛するために行われたものであること
④③の行為がやむを得ずに行われたものであること(必要性と相当性)

(2)緊急避難(対物防衛)の抗弁
+(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2  前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する

民法における緊急避難とは主に対物防衛
民法の場合は、反撃を加える対象が危難を生じさせたその物に場合に限定される!

・要件事実
緊急避難の抗弁
①Yの権利
②①の権利に対して、請求原因に挙げられたXの物から急迫の危難が生じた事
③請求原因に挙げられたYの故意過失行為(物の損傷行為)が、②の危難を避けるためにされたものであること
④③の行為がやむを得ずに行われたものであること(必要性と相当性)

(3)法令による行為・正当業務行為の抗弁

(4)被害者承諾の抗弁
被害者は、みずから処分権限を有する事項についてのみ、承諾をすることができる。

(5)自力救済の抗弁
判例は自力救済を原則として禁止

法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存在する場合においてのみ、その必要な限度を超えない範囲内で、例外的に許される。


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不法行為法 6 損害賠償請求の主体

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1.前章までとのパターンとの違い
相続人が損害賠償請求権を相続したと主張
会社にとって不可欠な従業員が死亡した会社などの間接被害者

・損害賠償請求権と共同相続
不法行為を理由とする損害賠償請求権は金銭債権であり、かつ、可分の給付を目的とする債権である。よって、損害賠償請求権は、相続により法律上当然に相続分に応じて分割され、共同相続人に承継される。

もっとも、損害賠償請求権も遺産の一部であるから、共同相続人が合意して、遺産分割協議の対象とすることは可能。

2.生命侵害と損害賠償請求権の相続問題~問題の所在
・不法行為による負傷者が判決までに死亡した場合の処理
継続説
傷害を理由とする逸出利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事情が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特別の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきではない
←労働能力の一部喪失による損害は、不法行為の時に既に一定の内容のものとして発生しているものであって、その後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではない
不法行為の被害者がその後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務者がその義務の全部または一部を免れ、他方、被害者ないしその遺族が不法行為によって生じた損害の填補を受けられなくなるのは公平の理念に反する。

+判例(H8.4.25)
+判例(H8.5.31)

・傷害を理由とする損害賠償請求権については相続の対象となる。

・生命侵害を理由とする損害賠償請求権については争いがある。
←前提として請求権が被相続人に帰属していなければならないが、死者は死亡と同時に権利主体ではなくなっているから。

3.生命侵害と損害賠償請求権の相続問題~財産的損害賠償請求権の相続可能性

・相続肯定説
負傷後の死亡であれ、即死であれ、生命侵害を理由とする財産的損害賠償請求権が被害者(死者)に発生し、ついで相続人がこれを相続するとする立場を採用。

・固有損害説(相続否定説)
生命侵害を理由とする損害賠償請求権は死者自身には帰属せず、相続の問題も起こらない。
むしろ、直接被害者の生命侵害の結果として遺族が被った固有の財産的損害を捉え、近親者固有の損害の賠償請求を認めていくべき。

その中でも
扶養侵害説
扶養を受ける利益が侵害されたことによる近親者固有の損害を観念していく

生活利益侵害説
遺族の生活利益が侵害されたことによる近親者固有の損害を観念していく

4.生命侵害と損害賠償請求権の相続問題~慰謝料請求権の相続可能性

・判例は、711条が定める近親者固有の慰謝料請求権と並んで、生命侵害を理由とする死者自身の慰謝料請求権を認め、その相続を肯定している!!!
=慰謝料についても、財産的損害と同様に、被害者の意思表示を必要とすることなく、当然に相続される

民法は、その損害が財産的なものであるか、財産以外のものであるかによって、別異の取り扱いをしていない。
慰謝料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるが、これを侵害したことによって生じる慰謝料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はない。
711条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰謝料請求権とは別に、固有の慰謝料請求権を取得し得るが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存可能なものである。
被害者の相続人は、必ずしも、711条の規定により慰謝料請求権を取得できるとは限らないので、同条があるからといって、慰謝料請求権が相続の対償とはなりえないと解すべきではない。

・711条について
+(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条  他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

請求者の範囲については、実質的に見て711条に列挙されている者と同視できるものにも固有の慰謝料請求権を認めるべき。

生命侵害に限らず、傷害を負うに止まった場合でも、死亡したときにも比肩できるような精神上の苦痛を近親者が受けたものと評価できる時には、近親者固有の慰謝料請求権を認めている。

5.間接被害者の損害賠償請求権~問題の所在

・間接被害者とは、
被害者への加害行為により間接的に損害を被った者のこと

間接被害者の損害を不法行為者が賠償すべきか
間接被害者の損害賠償請求の問題を直接被害者の損害賠償請求の問題と違えて法律構成すべきか

6.間接被害者の損害賠償請求~肩代わり損害の場合
自らは権利を侵害されていない者が不法行為を契機として何らかの出費をしたところ、同じ出費を直接損害者がしたならば、これを自己の損害として請求することが可能。

論理構成
加害者の不法行為と間接損害者の損害との間の相当因果関係の問題とする。

422条を類推適用する説もある。

7.間接被害者の損害賠償請求~定型的付随損害の場合
・定型的不象損害とは、
直接損害者に対する権利侵害をきっかけとして、直接被害者以外の者に随伴的に財産的損害や精神的損害を生じること

8.間接被害者の損害賠償請求~企業損害の場合

・加害者に企業の営業活動上の利益の保護を目的とした行為義務を加害者に課すことが正当化される事例は例外と考えるべき。

もっとも、問題の会社が法人とは名ばかりの個人企業である場合には、この者に会社の機関としての代替性がなく、かつ代表者と会社が経済的に一体をなす関係にある状況にあるのであれば、代表者が個人としての逸出利益を請求した場合と、個人企業の固有損害で請求した場合とで原則として差があってはならない点に鑑み、企業損害の損害賠償請求を認めてもよい。

9.胎児の損害賠償請求権
・父母の損害賠償請求権の相続
+(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条  胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2  前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

相続した損害賠償請求権を出生を条件として行使することができる。

・胎児固有の損害賠償請求権
+(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条  胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。

私権の享有は出生に始まるとの3条1項を修正し、胎児が固有の損害賠償請求権の主体となり得ることを認めている。


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不法行為法 5 損害


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1.損害の意義~差額説
・差額説
不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額が損害である。

・損害事実説
損害とは、不法行為によって被害者に生じた不利益な事実である

修正
損害と損害額を切り離して、損害については損害事実説に近い扱いをする。

2.個別損害項目積上げ方式による差額計算
・財産的損害
被害者が有している財産を失ったという積極的損害
被害者が将来得ることができたであろう利益を得られなかったという消極的損害

・非財産的損害

3.具体的損害計算の原則とその修正
・個別損害項目を積算しながら差額計算をしていく際に、「損害項目として何を選定するか」「その損害項目にどのような金額を当てるか」という点について

具体的損害計算←判例
権利侵害を受けた当該具体的な被害者を基準に決定していく
←損害賠償の目的は被害者個人に生じた実損害の填補にあるのだから、被害者の個人的事情を斟酌しなければならない。

抽象的損害計算
社会生活においてその被害者が属するグループの平均的な人を基準に決定していく
←実損害についての主張立証面での負担軽減。
権利に割り当てられる価値の代替物である損害賠償請求権についても、私法秩序がその権利にどれだけの金銭的な価値を与えたのかを個々の被害者から離れて確定し、少なくともそうして算定された金額については、被害者が誰であれ最低限賠償してやるべきだという理念。

・個別の被害者の逸失利益について、具体的な個人固有の収入額や算定資料が存在しない場合
経験則を通じての損害額の認定、したがって抽象的損害計算を行っている・・・

+判例(S39.6.24)
理由
 上告代理人三宅厚三の上告理由第一点について。
 (一)上告人らは、論旨一、において、総論的に、本件のごとく被害者が満八才の少年の場合には、将来何年生存し、何時からどのような職業につき、どの位の収入を得、何才で妻を迎え、子供を何人もち、どのような生活を営むかは全然予想することができず、したがつて「将来得べかりし収入」も、「失うべかりし支出」も予想できないから、結局、「得べかりし利益」は算定不可能であると主張する。なるほど、不法行為により死亡した年少者につき、その者が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を算定することがきわめて困難であることは、これを認めなければならないが、算定困難の故をもつて、たやすくその賠償請求を否定し去ることは妥当なことではないけだし、これを否定する場合における被害者側の救済は、主として、精神的損害の賠償請求、すなわち被害者本人の慰藉料(その相続性を肯定するとして)又は被害者の遺族の慰藉料(民法七一一条)の請求にこれを求めるほかはないこととなるが、慰藉料の額の算定については、諸般の事情がしんしゃくされるとはいえ、これらの精神的損害の賠償のうちに被害者本人の財産的損害の賠償の趣旨をも含ませること自体に無理があるばかりでなく、その額の算定は、結局において、裁判所の自由な裁量にこれを委ねるほかはないのであるから、その額が低きに過ぎて被害者測の救済に不十分となり、高きに失して不法行為者に酷となるおそれをはらんでいることは否定しえないところである。したがつて、年少者死亡の場合における右消極的損害の賠償請求については、一般の場合に比し不正確さが伴うにしても、裁判所は、被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、ことに右蓋然性に疑がもたれるときは、被害者側にとつて控え目な算定方法(たとえば、収入額につき疑があるときはその額を少な目に、支出額につき疑があるときはその額を多めに計算し、また遠い将来の収支の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法)を採用することにすれば、慰藉料制度に依存する場合に比較してより客観性のある額を算出することができ、被害者側の救済に資する反面、不法行為者に過当な責任を負わせることともならず、損失の公平な分担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念にも副うのではないかと考えられる。要するに、問題は、事案毎に、その具体的事情に即応して解決されるべきであり、所論のごとく算定不可能として一概にその請求を排斥し去るべきではない。
 (二)よつて、以上の観点に立ちながら、進んで、上告人らが、論旨二、以下において各論的に、原判決の算定方法の違法を主張する諸点につき判断することとする。
 (い)上告人らは、まず、原審が、統計表に基づいて余命年数を求め、二〇才から五五才まで三五年間を稼働可能期間とし、国民の収入及び支出の平均又は標準を示すものとは認められない判示諸表によつて「得べかりし収入」と「失うべかりし支出」を想定して「得べかりし利益」を算出しているのは不合理であると主張する。
 (イ)稼働可能期間について。
 しかしながら、原審は、本件被害者らは、本件事故当時満八才余の普通健康体を有する男子であること、判示統計表により同人らの通常の余命は五七年六月余であり、二〇才から少くとも五五才まで三五年間は稼働可能であることを認定しているのであり、右認定は、平均年令の一般的伸長、医学の進歩、衛生思想の普及という顕著な事実をも合せ考えれば、相当としてこれを肯認することができ、この点に所論のごとき不合理は認められない。
 (ロ)収入額について。
 つぎに、原審は、本件被害者らは、右稼働可能期間中、毎年、判示証拠資料により認めうる昭和三三年四月から九月までの間のわが国における通常男子の一ヵ月の平均労働賃金二万六四八円、元年分にして二四万七七七六円の金額を下らない収入を得べきものと推認し、その年収額から後出の支出年額を控除した額を基準としてホフマン式計算方法による一時払いの損害額を算出しているのであるが、被害者らがいかなる職業につくか予測しえない本件のごとき場合においては、通常男子の平均労賃を算定の基準とすることは、将来の賃金ベースが現在より下らないということを前提にすれば、一応これを肯認しえないではないが、収入も一応安定した者につき、将来の昇給を度外視した控え目な計算方法を採用する場合とは異なり、本件のごとき年少者の場合においては、初任給は平均労賃よりも低い反面、次第に昇給するものであることを考えれば、三五年間を通じてその年収額を右平均労賃と同額とし、これを基準にホフマン式計算方法により一時払いの額を求めている原審の算出方法は、これを肯認するに足る別段の理由が明らかにされないかぎり、不合理というほかはないところ、原判決はこの点につきなんら説明するところがないので、少くとも右の点において原判決には理由不備の違法があるものといわなければならない。
 (ハ)支出額について。
 (A) 原審は、本件被害者らの稼働可能期間中における毎年の生活費は、判示証拠資料により認めうる昭和三三年度における勤労者の平均世帯(世帯員数四・四六人)の実支出額一カ月三万六三八円、一人平均六八六九円、その元年分である八万二四二八円と同額と認めるのを相当としているところ、上告人らは、本件被害者らは何時結婚し、何人の子供をもち、いかなる生活を営むか不明であるばかりでなく、世帯主の生活費は他の世帯員のそれより多いことは経験則上顕著であるから、世帯の支出額を均分したものを世帯主と認められる被害者らの生活費とすることは不合理であると主張する。ところで、被害者らが独身で生活するという特別の事情が認められない本件のごとき場合においては、平均世帯を基準として被害者ら各自の生活費を算出すること自体は、一応これを肯認しえないではないが、原判決が、首肯するに足る理由をなんら示すことなく、右三五年間を通じて被害者らの生活費が昭和三三年度の前示生活費と同額であるとしていること、及び前示世帯の支出額を世帯員数で均分したものが被害者ら(男子であり、世帯主となるものと推認される)の生活費であるとしているのは、理由不備の違法があるものといわなければならない。
 (B) 上告人らは、さらに、論旨二の後段において、被害者らの収入からは、被害者本人の生活費のみならず、被害者らの負担すべき扶養家族の生活費をも控除すべきであると主張するが、収入から被害者本人の生活費を控除するのは、本人の生活費は、一応、収入を得るために必要な支出と認められるからであるが(収入を失うことによる損失と支出を免れたことによる利益の間には直接の関係がある)、扶養家族の生活費の支出と被害者本人の収入の間には右のごとき関係はなんら認められないのであるから、扶養家族の生活費の額は、収入額からこれを控除すべきではなく、この点に関する原判旨は、簡に失しているが、結論において正当であり、所論は採用し難い。
 (C) 上告人らは、また、論旨三において、被害者らの得べかりし収入額から、稼働可能期間経過後(五五才より後)に被害者らが支出すべかりし生活費を控除すべきであると主張するが、右支出も前記収入と前述のごとき直接の関係に立つものでないばかりでなく、五五才を超えても無収入であるとはかぎらず、また、第三者による扶養もありうることであるから、その間の生活費を前記収入から当然に控除しなければならない理由はない(二〇才までの期間における生活費についても同様であり、上告人らも右生活費を右の意味において控除すべしとは主張していない)。この点に関する原判旨もまた簡に失しているが、結局において正当であり、所論は採用しえない。
 (D) 上告人らは、さらに二〇才ないし五五才を基準として損害額を算定すれば、一才の幼児が死亡した場合と一八・九才の青年が死亡した場合とでは、その「得べかりし利益」は同額となり、二五・六才以上の成年が死亡した場合のそれは、一才の幼児が死亡した場合のそれより少額となつて不合理であると主張するが、所論は、ホフマン式計算方法を度外視し、かつ、稼働可能期間の長短を忘れた議論であり、採用のかぎりでない。
 (E) 上告人らは、また、論旨三において、本件損害賠償請求権を相続した被上告人らは、他面において、被害者らの死亡により、その扶養義務者として当然に支出すべかりし二〇才までの扶養費の支出を免れて利得をしているから、損益相殺の理により、賠償額から右扶養費の額を控除すべきであると主張するが、損益相殺により差引かれるべき利得は、被害者本人に生じたものでなければならないと解されるところ、本件賠償請求権は被害者ら本人について発生したものであり、所論のごとき利得は被害者本人に生じたものでないことが明らかであるから、本件賠償額からこれを控除すべきいわれはない。所論は、採用に価しない。
 (ろ)なお、上告人らは、論旨四において、原判決のホフマン式計算方法の適用の誤りを主張するが、不法行為による損害賠償の額は、不法行為時を基準として算定するのを本則とするのであるから、原審が、ホフマン式計算方法を適用するについて本件事故の時を基準とし、その時における一時払いの額を算出したのは正当である。所論は、ひつきよう、独自の見解の下に原判決を非難するものであり、採用のかぎりでない。
 (三)以上、要するに、本訴請求中、得べかりし利益の喪失による損害の賠償を求める部分については、原判決に少くとも前示のごとき諸点につき理由不備の違法があることが明らかであり、所論は、結局において理由があるので、原判決は、右限度において破棄を免れない。
 同第二点について。
 上告人らは、原判決が損害額を算定するにつき、被上告人らの監督義務者としての過失をしんしやくしなかつたのは違法であると主張するが、原審認定の事実関係の下においては、被上告人らに監督上の過失が認められないとした原審の判断は、これを肯認しえないではない。所論は、ひつきよう、原審の認定しない事実に基づき又は独自の見解の下に、原判決を論難するに過ぎないものであり、採用し難い。
 よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)

4.統計値を用いた逸出利益算定と男女間格差
・判例は、女子学生の逸出利益が問題になった事件で、家事労働分加算という算定方法を認めなかった。
=女子労働者の平均賃金を基準
+判例(S62.1.19)

・その後、全労働者の平均賃金を基準とするようになる。
←未就労年少者は、多様な就労可能性を有するから、現在就労する労働者の労働の結果として現れる労働市場における男女間の賃金格差を将来の逸出利益の算定に直接的に反映させるのは、将来の収入の認定ないし蓋然性の判断として合理的な者とは言い難い。
未就労年少者の多様な発展可能性を性により差別することになり、個人の尊厳ないし男女平等の理念に照らして適当ではない。
女性の職業領域の拡大。

・一時滞在外国人の逸出利益
予想される我が国での就労可能期間ないし滞在期間内は我が国での収入等を基礎とし
その後は想定される出国先での収入等を基礎として逸出利益を算定するのが合理的

・公的年金の逸出利益性
公的年金の受給権者が不法行為の被害者その人である場合に、退職手当、老齢年金などの受給権の喪失を拠り所として逸出利益を捉える。
被害者が平均余命期間に受給できたであろう年金の額を基礎に、被害者の逸出利益を算定する。
被害者が死亡したときは、相続人が相続によってこれを取得。

これに対し、
不法行為の被害者が死亡した場合における子や配偶者への年金過給分や、遺族が受給権者となる遺族年金については、死亡被害者自身の逸出利益であることを否定する。

5.物損の場合
・修理が不可能ならば、同種同等の物を市場で調達するのに要する価格相当額が賠償の対象となる。
調達費用から、つぶれた物の交換価値を控除

・修理が可能な場合は、修理費用相当額の賠償
代物を賃借した場合の賃貸料相当額も。

6.損害の主張・立証責任
財産的損害については被害者が主張立証責任を負う。
差額説によれば、損害とは金額なので、損害項目のほか、金額についても主張立証。

もっとも、民事訴訟法248条により、相当な賠償額を認定することもできる。

7.慰謝料の算定~慰謝料の果たす機能
慰謝料の認定については、
裁判官の裁量的・創造的役割に全面的にゆだねられている。
→①慰謝料の算定に当たっては、裁判官はその額を認定するに至った根拠をいちいち示す必要がない
②被害者が慰謝料額の証明をしていなくても諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができる
③その際に斟酌すべき事情に制限はなく、被害者の地位職業はもとより、加害者の社会的地位や財産状態も斟酌できる

慰謝料には精神的苦痛を填補する機能(損害填補機能)だけでなく、財産的損害を補完する機能(補完的機能)がある。
制裁的機能については認めていない。
←被害者の被った現実の損害の補てんを目的とする我が国の不法行為損害賠償制度の基本理念と相いれない。

・損害賠償制度と訴訟物の個数
同一の事故による同一の法益への侵害を理由とする財産的損害と被財産的損害の損害賠償請求は、実体法上1個と考えられており、したがって、訴訟物も1個であるとされる。

8.損害賠償請求の方法~「一時金」方式と「定期金」方式
・損害賠償請求権者が一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払いを命じる判決をすることはできない。

・一時金賠償と中間利息の控除
運用利益分も含めてみたときに被害者が不法行為をきっかけとして利得しないよう、中間利息分をあらかじめ控除して一時金を支払わせる。

9.賠償されるべき損害の確定~加害行為(・権利侵害)と損害との相当因果関係、416条の類推適用論


どこまでの損害項目が損害賠償の範囲に取り込まれることになるのか
差額の算定に当たって、どの金額で評価することになるのか

判例通説は、
賠償されるべき損害は、加害行為(もしくは権利侵害)と相当因果関係にある損害に限られる!!

当該項目が、加害行為と相当因果関係にある損害項目かという判断と、
どこまでの金額が加害行為と相当因果関係にある金額化という判断が含まれる

・判例通説は、損害の範囲を確定するに当たり、金銭評価の点をも含めて相当因果関係論を採用したうえで、民法416条を類推適用することにより、相当性判断を行っている。

①賠償されるべき損害は、加害行為と相当因果関係にある損害であるところ、
②債務不履行の効果としての損害賠償の範囲を定める416条は、相当因果関係を定めた規定であるから、
③不法行為による損害賠償についても、416条が類推適用されるという論法。

・この判例通説によると、
416条1項は、通常生ずべき損害を賠償すべきだとすることで、相当因果関係の考え方を採用しているところ、不法行為の場合も、当該不法行為により通常生ずべき損害の賠償が求められるべきであり、
416条2項は、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がこの特別事情を予見し、または予見すべきであったときには賠償が認められるとしているから、不法行為の場合も、被害者としては特別事情を加害者が予見していたこと、または予見すべきであったことを主張・立証することで特別損害が賠償の範囲に入ってくる。

・相当因果関係論に対する批判
不法行為においては、故意の場合はともかく過失による場合には、損害の予見可能性がほとんど問題にならない。にもかかわらず、416条を類推適用すると、特別損害の賠償が困難になり、その不都合を回避するために、通常損害や予見可能性を擬制せざるえなくなる。

10.弁護士費用の賠償
かつての判例は、
不当訴訟に対する応訴のためにやむを得ず支出した弁護士費用に限って賠償を認めていた。
←我が国は訴訟手続について弁護士強制主義を採用していない
訴訟費用にも含まれていない

現在の判例は、
被害者が自己の損害賠償請求権を実現するための訴えを提起した場合一般につき、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲のものに限って、不法行為による損害として損害賠償できる!!!!(だいたい額の2~3割くらいだが・・・)
弁護士費用相当額の損害賠償請求権が認められるには、当事者と弁護士との間で報酬の支払合意が成立しておればよく、報酬がいまだ支払われていなくてもかまわない。

11.遅延損害金はいつから起算されるか
不法行為によって損害が発生し、加害者がその支払いをしないとき、損害金を元本として、遅延損害金が発生する。
遅延損害金の算定利率は年5%(民法404条)

不法行為に基づく損害賠償債務は、「履行期の定めのない債務」
とすると、412条3項により、被害者からの催告(請求)を待って遅滞に陥るのか?

判例は、
不法行為に基づく損害賠償債務は、何ら催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る
=損害賠償債務は損害の発生と同時に遅滞に陥る。初日算入の原則も妥当しない。

・示談後に生じた事態を理由とする損害賠償
一般に、不法行為による損害賠償について示談がされ、被害者が一定額の支払を受けることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在していたとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上回る損害について、示談後には請求することができない。
もっとも、全損害を正確に把握することが困難な状況下で、早急に少額の賠償額で満足する旨の示談がされた場合には、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきである。当事者の合理的意思に合致するかどうか。


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不法行為法 4 因果関係

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1.何と何の因果関係か?
①加害行為(故意過失のある行為)と損害との因果関係を問題とすれば足りるとの考え方。
←損害の発生を出発点に考える

②加害行為(故意過失のある行為)と権利侵害との間の因果関係と、
権利侵害と損害との間の因果関係
前者=権利侵害の結果を加害行為に帰すことができるかという、責任設定の因果関係
後者=権利侵害から派生する不利益のうちどこまでを賠償範囲に組み入れるかという、賠償範囲の因果関係

2.責任設定の因果関係の判断構造
・学説1
被害者に生じた権利侵害の原因が加害者の故意過失であるということができるためには、
被害者に生じた権利侵害と被害者の故意過失行為との間に事実レベルでの条件関係が認められることが必要
被害者の権利侵害と加害者の故意過失の間に、被害者に生じた権利侵害を加害者の故意過失行為に帰することが法的規範的に見て相当であると評価することができるだけの相当性が認められなければならない。
=因果関係=法的因果関係=相当因果関係

・学説2
因果関係=事実的因果関係
相当性についての判断は、因果関係の問題ではなく、規範の保護目的(保護範囲)のレベルで捉える。

・学説3
因果関係=評価的因果関係=帰責相当性

3.因果関係判断の基礎~条件関係(事実的因果関係)
あれなければ、これなし(不可欠条件公式)

4.不可欠条件公式による条件関係の判断の限界
(1)不作為の因果関係
①まず、行為者に作為義務があったかどうかの判断を先行させる
作為義務は、先行行為、契約、事務管理、条理などから生じる
②作為義務を尽くした行為がされたと仮定したならば、問題の結果は発生しなかったのか

(2)原因の重畳的競合
競合する原因を取り去ったうえで不可欠条件公式を適用し、行為と結果との条件関係を肯定する。

5.因果関係の判断基準時
事実審最終口頭弁論終結時の科学技術の知見を基準として判断すべき

6.因果関係の主張立証責任~被害者側
被害者側が主張立証責任を負う

7.因果関係の証明度~高度の蓋然性
一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の核心を持ちうるものであることを必要と私、かつ、それで足りる。
+判例(S50.10.24)ルンバール事件

8.因果関係の立証の緩和
(1)因果関係についての主張・立証責任の転換(法律上の事実推定)

・加害者不明の共同不法行為
+(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

(2)因果関係の事実上の推定
「因果関係を直接に決定づける事実」とは言えないまでも、間接事実があれば、その事実をもとに、経験的に、裁判官が「加害行為と結果との間には因果関係があった」という心証を抱く場合

被告側は間接反証で足りる。
=真偽不明に追い込めばよい。

・疫学的因果関係
特定の集団における疾病の多発と印紙の間の集団的因果関係だけであって、これによってその集団に属する特定の個人の疾病と印紙との間の個別的因果関係を立証したことにはならない。
=間接事実に過ぎないことに注意

9.「相当因果関係」の理論について
①条件関係が認められること
②その行為の結果発生にとって相当性を有すること
ここでの相当性は、行為時に当該行為者が予見していた事情および予見できた事情を基礎として、発生した結果を行為者に負担させるのが適切か否かという観点から判断。


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