不法行為法 4 因果関係

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1.何と何の因果関係か?
①加害行為(故意過失のある行為)と損害との因果関係を問題とすれば足りるとの考え方。
←損害の発生を出発点に考える

②加害行為(故意過失のある行為)と権利侵害との間の因果関係と、
権利侵害と損害との間の因果関係
前者=権利侵害の結果を加害行為に帰すことができるかという、責任設定の因果関係
後者=権利侵害から派生する不利益のうちどこまでを賠償範囲に組み入れるかという、賠償範囲の因果関係

2.責任設定の因果関係の判断構造
・学説1
被害者に生じた権利侵害の原因が加害者の故意過失であるということができるためには、
被害者に生じた権利侵害と被害者の故意過失行為との間に事実レベルでの条件関係が認められることが必要
被害者の権利侵害と加害者の故意過失の間に、被害者に生じた権利侵害を加害者の故意過失行為に帰することが法的規範的に見て相当であると評価することができるだけの相当性が認められなければならない。
=因果関係=法的因果関係=相当因果関係

・学説2
因果関係=事実的因果関係
相当性についての判断は、因果関係の問題ではなく、規範の保護目的(保護範囲)のレベルで捉える。

・学説3
因果関係=評価的因果関係=帰責相当性

3.因果関係判断の基礎~条件関係(事実的因果関係)
あれなければ、これなし(不可欠条件公式)

4.不可欠条件公式による条件関係の判断の限界
(1)不作為の因果関係
①まず、行為者に作為義務があったかどうかの判断を先行させる
作為義務は、先行行為、契約、事務管理、条理などから生じる
②作為義務を尽くした行為がされたと仮定したならば、問題の結果は発生しなかったのか

(2)原因の重畳的競合
競合する原因を取り去ったうえで不可欠条件公式を適用し、行為と結果との条件関係を肯定する。

5.因果関係の判断基準時
事実審最終口頭弁論終結時の科学技術の知見を基準として判断すべき

6.因果関係の主張立証責任~被害者側
被害者側が主張立証責任を負う

7.因果関係の証明度~高度の蓋然性
一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の核心を持ちうるものであることを必要と私、かつ、それで足りる。
+判例(S50.10.24)ルンバール事件

8.因果関係の立証の緩和
(1)因果関係についての主張・立証責任の転換(法律上の事実推定)

・加害者不明の共同不法行為
+(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

(2)因果関係の事実上の推定
「因果関係を直接に決定づける事実」とは言えないまでも、間接事実があれば、その事実をもとに、経験的に、裁判官が「加害行為と結果との間には因果関係があった」という心証を抱く場合

被告側は間接反証で足りる。
=真偽不明に追い込めばよい。

・疫学的因果関係
特定の集団における疾病の多発と印紙の間の集団的因果関係だけであって、これによってその集団に属する特定の個人の疾病と印紙との間の個別的因果関係を立証したことにはならない。
=間接事実に過ぎないことに注意

9.「相当因果関係」の理論について
①条件関係が認められること
②その行為の結果発生にとって相当性を有すること
ここでの相当性は、行為時に当該行為者が予見していた事情および予見できた事情を基礎として、発生した結果を行為者に負担させるのが適切か否かという観点から判断。


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民法 事例から民法を考える 23 同じ兄弟なのに・・・・・


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Ⅰ はじめに
・相続させる旨の遺言の性質及び効果は?
贈与か遺産分割方法の指定か・・・

Ⅱ 遺言の自由と遺言の撤回
1.遺言の自由とその限界
・遺言制度は遺言者の最終意思を尊重することを趣旨

・厳格な様式性
+(遺言の方式)
第九百六十条  遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

+(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条  遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない
2  自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(公正証書遺言)
第九百六十九条  公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一  証人二人以上の立会いがあること。
二  遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三  公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること
四  遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五  公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二  口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2  前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3  公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。

(秘密証書遺言)
第九百七十条  秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一  遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと
二  遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三  遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四  公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2  第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条  秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する

(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条  口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2  前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3  第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。

(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条  成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない
2  遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条  次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない
一  未成年者
二  推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三  公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

(共同遺言の禁止)
第九百七十五条  遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない

・緩和された能力要件
+(遺言能力)
第九百六十一条  十五歳に達した者は、遺言をすることができる
第九百六十二条  第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

・遺言の自由に対する制限
遺言で行えることは民法に限定列挙された事項に限られる(遺言事項法定主義)
遺留分による制約

・遺留分制度の趣旨
不可侵的な相続分と考えるか
生活保障と考えるか・・・

2.遺言の撤回
+(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条  前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす
2  前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

Ⅲ 共同相続人の1人に特定の財産を相続させる旨の遺言
1.遺言者の意思
・特定相続人型相続させる遺言
=共同相続人のうち1人に対して、特定の財産を指定して相続させる
・受益相続人
=指定された相続人

2.遺言の性質と効果
・遺産分割を要さずに、被相続人の死亡時、すなわち遺言の効力発生と同時に特定された財産が受益相続人に物権的に帰属することを認めた。
=遺産分割方法の指定という相続承継の性質を持ちながら、遺贈的な効果を有する、折衷的な新しい類型の遺言による処分を創設したものといえる!
+判例(H3.4.19)
理由
上告代理人小川正燈、同小川まゆみの上告理由第一点、第二点及び第三点について
Aが第一審判決別紙物件目録記載の一ないし六の土地を前所有者から買い受けてその所有権を取得したとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原審は、登記簿の所有名義がAになったことだけから右事実を認定したのではなく、同人が台東不動産株式会社の社長として相応の収入を得ていたことなどの事実をも適法に確定した上で、Aの売買による所有権取得の事実を認定しているのであり、原審の右認定の過程に、所論の立証責任に関する法令違反、経験則違反、釈明義務違反等の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第五点及び第六点について
一 原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。
1 第一審共同被告BはAの夫、上告人(第一審被告)はAの長女、被上告人(第一審原告)はAの二女、第一審共同原告CはAの三女で、いずれもAの相続人であり、第一審共同原告Dは被上告人の夫であるが、Aは昭和六一年四月三日死亡した。
2 Aは、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし八の土地(ただし、八の土地については四分の一の共有持分)を所有していたが、(1) 昭和五八年二月一一日付け自筆証書により右三ないし六の土地について「上出一家の相続とする」旨の遺言を、(2) 同月一九日付け自筆証書により右一及び二の土地について「上出の相続とする」との遺言を、(3) 同五九年七月一日付け自筆証書により右七の土地について「Dに譲る」との遺言を、(4) 同日付け自筆証書により右八の土地のAの持分四分の一について「Cに相続させて下さい」旨の遺言をそれぞれした。右各遺言書は、昭和六一年六月二三日東京家庭裁判所において検認を受けたが、右の遺言のうち、(1)の遺言は、被上告人とその夫Dに各二分の一の持分を与える趣旨であり、(2)の遺言の「上出」は被上告人を、(4)の遺言の「C」はCをそれぞれ指すものである。なお、Cは、右八の土地についてAの持分とは別に四分の一の共有持分を有していた。
二 原審は、右事実関係に基づき、次のように判断した。
右(1)、(3)におけるAの相続人でないDに対する「相続とする」「譲る」旨の遺言の趣旨は、遺贈と解すべきであるが、右(1)における被上告人に対する「相続とする」との遺言、(2)の「相続とする」との遺言及び(4)の「相続させて下さい」との遺言の趣旨は、民法九〇八条に規定する遺産分割の方法を指定したものと解すべきである。そして、右遺産分割の方法を指定した遺言によって、右(1)、(2)又は(4)の遺言に記載された特定の遺産が被上告人又はCの相続により帰属することが確定するのは、相続人が相続の承認、放棄の自由を有することを考え併せれば、当該相続人が右の遺言の趣旨を受け容れる意思を他の共同相続人に対し明確に表明した時点であると解するのが合理的であるところ、被上告人については遅くとも本訴を提起した昭和六一年九月二五日、Cについては同じく同年一〇月三一日のそれぞれの時点において右の意思を明確に表明したものというべきであるから、相続開始の時に遡り、被上告人は前記一及び二の土地の所有権と三ないし六の土地の二分の一の共有持分を、Cは前記八の土地のAの四分の一の共有持分をそれぞれ相続により取得したものというべきであり、Dは、前記(3)の遺言の効力が生じた昭和六一年四月三日、前記七の土地の所有権を遺贈により取得したものというべきである。したがって、被上告人の請求のうち前記一及び二の土地の所有権並びに三ないし六の土地の二分の一の共有持分を有することの確認を求める部分、Dの前記七の土地の所有権を有することの確認を求める請求及びCの前記八の土地の四分の一を超え二分の一の共有持分を有することの確認を求める請求は、いずれも認容すべきであり、被上告人のその余の請求(三ないし六の土地の右共有持分を超える所有権の確認を求める請求)は理由がない。

三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、その者が所定の相続の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり、また、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない
原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり、被上告人が前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

・受益相続人が相続放棄したとき、遺贈と解すれば当該相続人は遺言で特定された財産を取得することができるが、遺産分割方法の指定の場合には相続承継である以上、相続放棄をした相続人は当該財産を取得できない・・・

・遺贈の場合は、遺言者の意思表示による物権変動であり、受遺者が遺言に従った財産取得の登記を得るためには、登記権利者たる受遺者と登記義務者たる遺贈義務者の共同申請が必要になる(不動産登記法60条)
+(共同申請)
第六十条  権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

・判例の生みだした遺産分割方法の指定(転用型)では、相続承継であるがゆえに登記の単独申請が可能(不動産登記法63条2項)とされ、かつ、相続でありながら遺産分割は不要とされるため、受益相続人が他の相続人に知られることなく、遺言内容通りの権利を取得し、登記まで備えることが可能・・・
既成事実化を憂慮・・・・
+(判決による登記等)
第六十三条  第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2  相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる

Ⅳ 設問1について
1.第2遺言の効果

2.遺留分減殺請求

特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言に対する減殺請求を遺贈の場合と同様に扱う傾向
+判例(H10.2.26)
理由
上告代理人鶴田岬の上告理由二の1について相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たるものというべきである。ただし、右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても、以上と同様に解すべきである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

+判例(H11.12.16)
理由
第一 本件事案の概要
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 F(以下「被相続人」という。)は、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし五の土地(以下「本件各土地」といい、各個の土地は「本件一土地」のようにいう。)等を所有しており、本件各土地の登記名義人であったが、平成五年一月二二日に死亡し、相続が開始した。
2 G、平成一〇年(オ)第一四九九号被上告人・同第一五〇〇号上告人B(以下「一審被告B」という。)、H、同第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人補助参加人I(以下「補助参加人」という。)、J及びKの六名は、いずれも被相続人の子であり、同第一五〇〇号上告人C(以下「一審被告C」という。)は、一審被告Bの子であって被相続人の養子である。また、同第一四九九号・同第一五〇〇号各被上告人D及び同E(以下「当事者参加人ら」という。)は、被相続人の長男である亡Lの子であり、その代襲相続人である。
3 被相続人は、昭和五七年一〇月一五日、公正証書により、その所有する財産全部を一審被告Bに相続させる旨の遺言(以下「旧遺言」という。)をした。
4 被相続人は、昭和五八年二月一五日、公正証書により、旧遺言を取り消した上、改めて次の内容の遺言(以下「新遺言」という。)をした。
(一) 本件一土地をG、H、補助参加人、J及びKの五名(以下「Gら」という。)に各五分の一ずつ相続させる。
(二) 本件二ないし五土地を一審被告B及び一審被告Cに各二分の一ずつ相続させる。
(三) 被相続人所有のその他の財産は、相続人全員に平等に相続させる。
(四) 遺言執行者として平成一〇年(オ)第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人A(以下「一審原告」という。)を指定する。
5 しかるに、一審被告Bは、平成五年二月五日、旧遺言の遺言書を用い、本件各土地について、自己名義に相続を原因とする所有権移転登記をし、さらに、本件訴訟が第一審に係属中である平成七年四月六日、本件三ないし五土地の各持分二分の一について、一審被告Cに対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記をした。
6 当事者参加人らは、平成五年九月二九日、他の相続人ら及び一審原告に対して遺留分減殺の意思表示をし、右意思表示は、同年九月三〇日から同年一〇月八日までの間にそれぞれ到達した。
二 記録によって認められる本件訴訟の概要は、次のとおりである。
1 一審原告は、新遺言の遺言執行者として、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Cへの各真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Bは、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言(以下「相続させる遺言」という。)がされた場合には遺言執行の余地はないとして、一審原告の原告適格を争うとともに、Gらが、平成五年一月二三日、一審被告Bに対して相続分の放棄又は譲渡をし、本件一土地の共有持分権を失ったと主張する。
2 当事者参加人らは、遺留分減殺の意思表示をした上、本件各土地についてそれぞれ三二分の一の共有持分権を取得したとして右1の訴訟に独立当事者参加をし、右共有持分権に基づき、(1) 一審原告に対し、右共有持分権の確認を求めるとともに、(2) 一審被告Bに対し、右共有持分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Bは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たり、一審被告Bの寄与分を考慮すべきであると主張するほか、Gらが右遺留分減殺請求権の行使より前に本件一土地の共有持分を一審被告Bに対して譲渡したから、民法一〇四〇条一項本文により、当事者参加人らは一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができないと主張する。
3 また、当事者参加人らは、遺留分減殺により取得した共有持分権に基づき、右2の訴訟とは別個に、一審被告Cに対し、本件三ないし五土地についての共有持分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Cは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たると主張する。
三 原審は、一審原告の一審被告Bに対する訴え(二1)及び当事者参加人らの一審原告に対する訴え(二2(1))については、遺言執行者である一審原告は当事者適格を有しないとして、いずれもこれを却下し、当事者参加人らの一審被告Bに対する請求(二2(2))及び一審被告Cに対する請求(二3)については、いずれもこれを認容すべきものとした。平成一〇年(オ)第一四九九号事件は、一審原告が提起した上告であり、同第一五〇〇号事件は、一審被告らが提起した上告である。

第二 平成一〇年(オ)第一四九九号上告代理人浅見雄輔の上告理由について
一 上告理由は、被相続人の遺言執行者である一審原告が、一審被告Bに対し、本件一土地及び本件二土地の持分二分の一について持分移転登記手続を求める訴えの当事者適格(原告適格)を有するか否かに関するものである。
二 原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判断し、一審原告の一審被告Bに対する右訴えを不適法として却下した。
1 新遺言は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、右相続人らは、被相続人の死亡の時に遺言に指定された持分割合により本件各土地の所有権を取得したものというべきである。そして、この場合には、当該相続人は、自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容に反する登記がされたとしても、自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴えを提起することができるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言執行者は、遺言の執行として相続人への所有権移転登記手続をする権利又は義務を有するものではない。
2 新遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれていることは、右のように解する妨げにはならない。また、本件において、他に、遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど、直ちに権利が承継されると解すべきでない特段の事情は存しない。
3 したがって、被相続人の遺言執行者である一審原告は、一審被告Bに対する本件一土地及び本件二土地の持分二分の一の持分移転登記手続請求に係る訴えについて、当事者適格を有しないというべきであり、右訴えは不適法である。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない
2 そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法一〇一二条一項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法二七条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成三年(オ)第一〇五七号同七年一月二四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁参照)。しかし、【要旨】本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない
3 したがって、一審原告は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告Bに対する本件訴えの原告適格を有するというべきである。
そうすると、これと異なる原審の右判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、理由がある。

第三 平成一〇年(オ)第一五〇〇号上告代理人奥川貴弥、同川口里香の上告理由について
一 前記の事実関係によれば、当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有するものであるところ、上告理由は、当事者参加人らが一審被告らに対し、本件各土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができるか否かに関するものである。
二 原審は、次のとおり判断し、一審被告らの抗弁をいずれも排斥して、当事者参加人らの本訴請求を認容すべきものとした。
1 当事者参加人らの父である亡Lが、被相続人の夫である亡Mから多数の不動産の贈与を受け、亡Mの相続に際して相続の放棄をした事実は認められるが、亡Lないし当事者参加人らが被相続人の相続に関して相続を放棄し、又は遺留分を主張しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、全証拠によるも、当事者参加人らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めることはできない。
2 寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって、遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。
3 一審被告Bの主張事実をもってしても、Gらは、被相続人の遺産相続についての話合いの結果、相続分の放棄をし、又は共同相続人である一審被告Bに相続分を譲渡したというのであって、これが民法一〇四〇条一項にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかである。
三 右1及び2の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。したがって、一審被告Cの上告は既に理由がない。
四 しかしながら、原審の右3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がされた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したときは、民法一〇四〇条一項が類推適用され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当である。また、同項にいう「他人」には、甲の共同相続人も含まれるものというべきである。したがって、当事者参加人らが遺留分減殺請求をする前に、Gらが一審被告Bに本件一土地の共有持分を譲り渡したとすれば、当事者参加人らは、同項ただし書に当たる場合を除き、一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができない筋合いである。原審は、一審被告Bの主張を相続分の放棄又は譲渡をいうものと解し、その主張自体からして同項に該当しないと判断したものと見られるが、記録によれば、一審被告Bは、本件一土地についてGらが共有持分を譲渡したとも主張していることが明らかであるから、原審としては、一審被告Bの主張する共有持分の譲渡の事実の有無を認定し、同項本文の適用の可否について判断すべきものであった。
そうすると、これと異なる原審の右3の判断には、法令の解釈適用の誤りないし判断遺脱の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある(付言するに、仮に当事者参加人らの一審被告Bに対する持分移転登記手続請求に理由があるとしても、本件一土地の登記原因については検討を要する。本件二土地の持分二分の一の登記原因についても、同様である。)。
第四 さらに、職権により次のとおり判断する。
一 原審は、当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき一審原告に対して本件各土地について共有持分権の確認を求める訴えについても、本件においては遺言執行の余地がなく、一審原告は当事者適格(被告適格)を有しないとして、当事者参加人らの一審原告に対する右訴えを不適法として却下した。
二 しかしながら、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有しており、一方、遺言執行者である一審原告は、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Cへの各持分移転登記手続を求めていて、これが遺言の執行に属することは前記のとおりである。そして、一審原告の右請求の成否と当事者参加人らの本件一及び二土地についての遺留分減殺請求の成否とは、表裏の関係にあり、合一確定を要するから、本件一及び二土地について当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求める訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当事者適格(被告適格)を有するものと解するのが相当である(これに対し、本件三ないし五土地については、被相続人の新遺言の内容に符合する所有権移転登記が経由されるに至っており、もはや遺言の執行が問題となる余地はないから、一審原告は、右各土地について共有持分権の確認を求める訴訟に関しては被告適格を有しない。)。
そうすると、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第五 結論
以上の次第で、原判決中、当事者参加人らが一審被告B及び一審被告Cに対し本件三ないし五土地について共有持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を除く、その余の部分を破棄した上、更に所要の審理判断を尽くさせるため右破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととし、一審被告Bの上告中、本件三ないし五土地に関する部分及び一審被告Cの上告は理由がないので、これを棄却することとする。
なお、一審被告Bの上告中、本件二土地に関する部分は理由がないが(ただし、その持分二分の一の登記原因については、前記のとおりである。)、本件一及び二土地に関する本件訴訟は、一審原告、一審被告B及び当事者参加人らの間において訴訟の目的を合一に確定すべき場合に当たるから、右部分については、主文において上告棄却の言渡しをしない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

・遺留分分減殺請求の効果は現物返還が原則!!
・しかし、請求権者は複数の遺贈の1つだけを狙い打ちにして、当該遺贈のもくてきぶつのみ遺留分を満たすことは認められていない!!!!!!!!

・+(遺贈の減殺の割合)
第千三十四条  遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

・Fが価格弁済を選ばなかった場合、遺留分減殺請求の結果、甲乙丙各不動産はFBCの物権的な共有状態となり、BCが分割を希望するときには、遺産分割ではなく、共有物分割を求めることになる!!!

・Fが価格弁済を選択した場合、Fはどの財産を現物返還し、どの財産を価格弁済するかを自由に決めることができる!!!!!!
+判例(H12.7.11)
理由
一 事案の概要
本件は、亡Aの共同相続人の一人であり相続財産全部の包括遺贈を受けた上告人に対して、遺留分減殺請求をした他の共同相続人である被上告人らが、共有に帰した相続財産中の株式等について共有物の分割及び分割された株式に係る株券の引渡し等を請求したものである。
二 上告代理人高崎英雄の上告受理申立て理由第一について
1 上告人は、遺贈を受け被上告人らからの遺留分減殺請求の対象となっている財産の一部である第一審判決別紙株式目録記載六の株式のみについて、本件訴訟で民法一〇四一条一項に基づく価額の弁償を主張している。
2 原審は、同項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、贈与又は遺贈された財産全体の価額を指すものと解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者において任意に選択した一部の財産について価額の弁償をすることは、遺留分減殺請求権を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものというべきであり、そう解しないときは、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財産についての共有物分割手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の財産を優先的に取得することができることとなり、遺留分権利者の利益を不当に害することになるとして、上告人の価額弁償の主張を排斥し、右株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
3 しかし、【要旨1】受贈者又は受遺者は、民法一〇四一条一項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和五三年(オ)第九〇七号同五四年七月一〇日第三小法廷判決・民集三三巻五号五六二頁)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、右に説示したことが妥当するのである。
そうすると、原審の前記判断には民法一〇四一条一項の解釈を誤った違法があるというべきである。

三 同第二の三について
1 原審は、第一審判決別紙株式目録一ないし四記載の新日本製鉄株式会社外三社の各株式について、株式は一株を単位として可分であり、かつ、分割することによる価値の減少が認められないことを理由として、右各株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
2 しかし、右各株式は証券取引所に上場されている株式であることは公知の事実であり、これらの株式については、一単位未満の株券の発行を請求することはできず、一単位未満の株式についてはその行使し得る権利内容及び譲渡における株主名簿への記載に制限がある(昭和五六年法律第七四号商法等の一部を改正する法律附則一五条一項一号、一六条、一八条一、三項)。したがって、【要旨2】分割された株式数が一単位の株式の倍数であるか、又はそれが一単位未満の場合には当該株式数の株券が現存しない限り、当該株式を表象する株券の引渡しを強制することはできず、一単位未満の株式では株式本来の権利を行使することはできないから、新たに一単位未満の株式を生じさせる分割方法では株式の現物分割の目的を全うすることができない。 
 そうすると、このような株式の現物分割及び分割された株式数の株券の引渡しの可否を判断するに当たっては、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等をも考慮すべきであり、この点について考慮することなく、右各株式の現物分割を命じた原審の判断には、民法二五八条二項の解釈を誤った違法があり、これを前提として株券の引渡しを命じた原審の判断にも違法があるというべきである。
四 結論
以上によれば、原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六記載の各株式の分割及び株券の引渡しを命じた部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって、論旨は理由があり、原判決中、右部分は破棄を免れず、同目録記載一ないし四の各株式に関する請求については、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等を考慮した現物分割の可否について、同目録記載六の株式に関する請求については、弁償すべき価額について、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田昌道)

3.養子縁組の効力
・普通養子縁組は、婚姻と同様に、縁組意思の存在を前提に届出によって成立し、縁組石を各縁組は無効!
実質的意思説
当事者間に社会観念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思の合致があるか

Ⅴ 最判平成3年判決が残した課題~権利取得の第三者に対する対抗

・特定の相続財産を相続させる旨の遺言に基づいて財産を取得した受益相続人が、他の共同相続人の法定相続分について利害関係を有するに至った第三者に対して遺言に従った所有権取得を対抗するために登記を要するか?

登記不要
この局面では相続承継の性質に従った解決!
+判例(H14.6.10)
理由
上告代理人永盛敦郎、同滝沢香の上告受理申立て理由について
1 原審の認定によれば、本件の経過は、次のとおりである。被上告人は、夫である被相続人乙川次男がした、原判決添付物件目録記載の不動産の権利一切を被上告人に相続させる旨の遺言によって、上記不動産ないしその共有持分権を取得した。法定相続人の一人である乙川一男の債権者である上告人らは、一男に代位して一男が法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上、一男の持分に対する仮差押え及び強制競売を申し立て、これに対する仮差押え及び差押えがされたところ、被上告人は、この仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
2 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。このように、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはないそして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁、最高裁平成元年(オ)第七一四号同五年七月一九日第二小法廷判決・裁判集民事一六九号二四三頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる
3 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

←遺贈による所有権移転の完全な実現のために相続人に登記協力義務があるのに対して、相続させる旨の遺言による所有権移転の場合には他の共同相続人が関与する余地が全くない点で遺贈の構造と異なる

・遺贈による財産取得の対抗には登記を要する
・相続承継であれば、相続に基づく法定又は指定相続分の財産取得は登記なしに対抗可能。
ただ、遺産分割による法定又は指定相続分をこえる財産取得には登記が必要!!

Ⅵ おわりに

・受益相続人が遺言者よりも先に死亡したときの遺言の効力
+判例(H23.2.22)
理 由
上告代理人岡田進,同中西祐一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。
(2) Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。
(3) Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。
(4) Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。

3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。

4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。

被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)

←遺贈に近づけた解決。


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労働法 事例演習労働法 U9 解雇 C9-1


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1.
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求
解雇期間中の賃金請求
違法な解雇に基づく損害の賠償請求

2.
(1)休職命令の有効性と休職事由消滅の有無
(a)休職規定(就業規則の規定)の合理性
・労働契約法
+第七条  労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

・休職制度は一般に解雇猶予措置としての性格をもち、休職期間も妥当
→この規定には合理性あり

・傷病期間満了に伴う解雇が当然に有効となるわけではない。

(b)治癒の有無
原則として労働契約上想定されている職務を遂行できる状態まで回復することが必要!!
⇔治癒していなくとも、将来的に相当期間内に従前の職務への復帰可能性がある場合には、治癒するまでの間、使用者は信義則を根拠により軽い業務へ配置すべき義務を負うとした判例もある・・・

(2)本権解雇の効力

・相当性の判断
触手の限定を超えてXに就労可能な職務があり、Y社がXをその職務に配置することに特段の支障が認められない場合には、Y社はXをその職種に配置すべき信義則上の義務を負う・・・
→配転可能性をなんら検討することなく、直ちに解雇することは相当性を欠く。

+(労働契約の原則)
第三条  労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2  労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3  労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4  労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5  労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

key
+判例(大阪地判H11.10.18)全日本空輸退職強要事件

+判例(大阪高判H13.3.14)全日本空輸事件


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民法 事例で学ぶ民法演習 9 他人物売買・無権代理と相続


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1.小問1

・所有権の移転時期
+判例(S33.6.30)
要旨
特定物売買において特約がないときは所有権は原則として契約成立時に移転

・他人物売買の場合売主が目的物の所有権を取得すると同時に買主へ移転する!
+判例(S40.11.19)
理由
上告代理人渡部利佐久の上告理由第一および第二について。
原判決は、つぎの事実を確定したものであつて、このことは判文上明らかである。
すなわち、訴外桑田汽船株式会社(以下桑田汽船という。)は、訴外今井造船株式会社(以下今井造船という。)に汽船幸春丸の建造を注文し、昭和三六年五月ごろ完成して今井造船よりその備品である本件物件を含めて右船舶の引渡を受けその所有権を取得した。しかし、桑田汽船は、右船舶の建造代金を支払つていなかつたので、間もなく右船舶物件を再び今井造船に返還譲渡し、今井造船所在の高知市に右船舶を回航させた。
桑田汽船は、同年六月一〇日被控訴人(被上告人)に対し、本件物件を右会社の所有として譲り渡し、かつ爾後右会社において被控訴人のため右物件を占有する旨を約した。しかし、当時桑田汽船は右物件の所有権を失つていたので(桑田汽船被控訴人間の前記契約が桑田汽船が物件を今井造船に返還した後であることは判文七窺われる。)、被控訴人は、右行為によつては直ちに右物件の所有権を取得しなかつた。
同年七月初めに今井造船と桑田汽船との間に代金の支払についての話合がつき、同月八日改めて右船舶および本件備付物件の所有権を桑田汽船に戻し、おそくとも同日桑田汽船は右船舶、物件の引渡を受けその占有を取得した。
以上の事実関係の下において、今井造船より被控訴人への本件物件の所有権および占有移転の時期、方法につき特段の約定ないし意思表示がない限り(原判決は、右特段の事実があることを確定していない。)、桑田汽船が昭和三六年七月八日今井造船より本件物件の所有権を取得すると同時に被控訴人が桑田汽船より本件物件の所有権を得し、また、桑田汽船の占有取得と同時に被控訴人が前記約定に基き占有改定の方法により桑田汽船よりその占有を取得するに至つたものと解すべきである(被控訴人の所有権取得につき、大審院大正八年(オ)第一一四号大正八年七月五日判決、民録二五輯一二五八頁参照)。原判決に所論の法令解釈の誤り、理由不備、理由齟齬の違法がなく、論旨はすべて採用できない。
同第三について。
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠により肯認できるから、原判決に所論の採証法則違反等の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

+(無権代理人の責任)
第百十七条  他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2  前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

・無権代理と相続

+判例(S37.4.20)
理由
上告代理人長尾章の上告理由は、本判決末尾添付の別紙記載のとおりである。
右上告理由第一点ないし第三点について。
原判決は、無権代理人が本人を相続した場合であると本人が無権代理人を相続した場合であるとを問わず、いやしくも無権代理人たる資格と本人たる資格とが同一人に帰属した以上、無権代理人として民法一一七条に基いて負うべき義務も本人として有する追認拒絶権も共に消滅し、無権代理行為の瑕疵は追完されるのであつて、以後右無権代理行為は有効となると解するのが相当である旨判示する。
しかし、無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するのが相当であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論ずることはできない。後者の場合においては、相続人たる本人那被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
然るに、原審が、本人たる上告人において無権代理人亡Aの家督を相続した以上、原判示無権代理行為はこのときから当然有効となり、本件不動産所有権は被上告人に移転したと速断し、これに基いて本訴および反訴につき上告人敗訴の判断を下したのは、法令の解釈を誤つた結果審理不尽理由不備の違法におちいつたものであつて、論旨は結局理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

+判例(S40.6.18)
理由
上告代理人諏訪徳寿の上告理由について。
原審の確定するところによれば、亡Aは上告人に対し何らの代理権を付与したことなく代理権を与えた旨を他に表示したこともないのに、上告人はAの代理人として訴外Bに対しA所有の本件土地を担保に他から金融を受けることを依頼し、Aの印鑑を無断で使用して本件土地の売渡証書にAの記名押印をなし、Aに無断で同人名義の委任状を作成し同人の印鑑証明書の交付をうけこれらの書類を一括してBに交付し、Bは右書類を使用して昭和三三年八月八日本件土地を被上告人Cに代金二四万五千円で売渡し、同月一一日右売買を原因とする所有権移転登記がなされたところ、Aは同三五年三月一九日死亡し上告人においてその余の共同相続人全員の相続放棄の結果単独でAを相続したというのであり、原審の前記認定は挙示の証拠により是認できる。
ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり(大判・大正一五年(オ)一〇七三号昭和二年三月二二日判決、民集六巻一〇六頁参照)、この理は、無権代理人が本人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当すると解すべきである。したがつて、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、前記認定の事実によれば、上告人はBに対する前記の金融依頼が亡Aの授権に基づかないことを主張することは許されず、Bは右の範囲内においてAを代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判示の事実関係のもとにおいては、Bが右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を被上告人Cに売り渡すに際し、同被上告人においてBに右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断し、結局、上告人が同被上告人に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。所論は、ひつきよう、原審の前記認定を非難し、右認定にそわない事実を前提とする主張であり、原判決に所論の違法は存しないから、所論は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

+判例(H5.1.21)
理由
上告代理人野口敬二郎の上告理由第一点の一について
無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない
以上と同旨の見地に立って、被上告人真通真平が無権代理人としてした本件譲渡担保設定行為の本人である真通平吉が死亡し、被上告人真通真平が他の共同相続人と共に平吉の相続人となったとしても、右無権代理行為が当然に有効になるものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定に沿わない事実に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官三好達の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
裁判官三好達の反対意見は、次のとおりである。
私は、多数意見と異なり、原判決を破棄すべきものと考えるので、以下その理由を述べる。
一 無権代理人が本人を単独相続した場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であるとされている(最高裁昭和三九年(オ)第一二六七号同四〇年六月一八日第二小法廷判決・民集一九巻四号九八六頁)。これは、大審院以来裁判実務が一貫して採用し、また理論付けにおいて異なるところがあるにしても、その結論は、学説の大方の支持も得てきていたところである。しかし、本来追認という行為によってのみ有効となるべき無権代理行為につき、本人の死亡により開始した相続の効果だけから、本人又は相続人による何らの行為なくして、これを有効なものとするには、理論的に困難な点があることは否定できないのであって、この結論を導く理論付けについて判例、学説等が必ずしも一致していないのもその故である。それにもかかわらず、そのような法理が採られてきている根底にあるものは、自ら無権代理行為をした者が本人を相続した場合に、本人の資格において追認を拒み、その行為の効果が自己に帰属するのを回避するのは、身勝手に過ぎるという素朴な衡平感覚であるといえよう。してみれば、右法理は、次のように理論付けるのが相当である。すなわち、本人を相続した無権代理人が、自らした無権代理行為につき、相手方からその行為の効果を主張された場合に、本人を保護するために設けられた追認拒絶権を本人の資格において行使して、追認を拒むことは、信義則に違背し、許されないといわなければならず、このように無権代理人において追認を拒み得ない以上、相手方は、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対しその行為の効果を主張することができることとなり、結局相続人は、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位におかれる結果となる(最高裁昭和三五年(オ)第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻四号九五五頁参照)。
二 これまで、この法理が採られてきたのは、本人の相続人が無権代理人のみである場合、あるいは無権代理人が共同相続人の一人であるが、他の共同相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合についてであるが、無権代理人が他の相続人と共に共同相続をした場合においても、相手方から、その相続分に相当する限度において、無権代理行為の効果を主張されたときには、同様に考えるのが相当である。けだし、その行為の効果が自己に帰属するのを回避するため、その追認を拒むことが信義則に違背することは、唯一の相続人であったときと同様であるのみならず、他の共同相続人が追認しておらず、又は拒絶した事実を自己の利益のために主張することもまた、自ら無権代理行為をした者としては、同じく信義則に違背するものとして、許されないというべきであるからである。そうしてみると、無権代理人は、相手方から、自己の相続分に相当する限度において、その行為の効果を主張された場合には、共同相続人全員の追認がないことを主張して、その効果を否定することは信義則上許されず、このように無権代理人において追認がないことを主張し得ない以上、相手方は、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対して、その相続分に相当する限度において、その行為の効果を主張することができることとなり、無権代理人たる相続人は、右の限度において本人が自ら法律行為をしたと同様な法律上の地位におかれる結果となるというべきである。
多数意見は、無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合は、共同相続人全員において追認をしなければ、無権代理行為が有効となることはないとするが、この点は私も肯認するところである。私の意見も、共同相続人全員の追認がない場合に、無権代理行為それ自体が、たとえ無権代理人の相続分に相当する限度においても、当然に有効となるとするものではなく、ただ、信義則適用の効果として、相手方は、右の限度においては、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対しその行為の効果を主張することができることとなるというのである。
三 付言するに、私の意見は、二に述べたように、無権代理行為それ自体がその相続分に相当する限度において有効となると説くものではない。したがって、これを有効とすることに伴う難点が生ずることはなく、それを理由とする批判は当たらないといえる。すなわち、部分的に有効とすることに伴う難点は、部分的有効は相手方に不利益をもたらし、かえってその保護に欠けるというものであるが、私の意見は、無権代理人が相手方からその相続分に相当する限度で無権代理行為の効果を主張された場合には、追認がないことを理由として、これを否定することはできないとするものであるにすぎないから、相手方において、民法一一五条の取消権を行使し、あるいは同法一一七条により無権代理人の責任を追及するという法的手段を採ることを妨げるものでないことはいうまでもなく、相手方に対し何ら不利益をもたらすことはないのである。
なお、このように、相続分に相当する限度において、相手方に対して無権代理行為の効果を否定することができないとすることは、特定物の取引行為等に関しては、相手方と他の相続人その他関係人との法律関係を複雑にするとの批判があり得よう。しかし、相手方は、右の限度での無権代理行為の効果を主張した以上、たとえその結果複雑な法律関係を生じても、それは自らの選択によるものといわなければならないし、他の相続人その他の当該特定物に法律関係を有する者に及ぼす影響としては、共同相続人の一人が、相続財産たる物件につき、自己の相続分と共に、他の共同相続人の相続分についてもその無権代理人として、他と取引をした場合、あるいは当該物件につきその相続分の限度において他と取引をした場合に生ずる法律関係の複雑さと径庭はないといえるから、他の相続人その他においては、これを甘受せざるを得ないというべきである。
四 原審は、被上告人真通真平が無権代理人としてした本件譲渡担保設定行為の本人である真通平吉が死亡し、被上告人真通真平が他の共同相続人と共に平吉の相続人となったとしても、右無権代理行為が当然に有効になるものではないとし、本件譲渡担保設定契約の成否について確定しないまま、被上告人らの請求を認容すべきものとしたが、右契約が成立していたならば、被上告人真通真平の相続分の限度においては、被上告人らの本訴請求は棄却されるべきものであり、この部分の請求を認容した原判決はこの限度で破棄を免れない。そこで、本件譲渡担保設定契約の成否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
(裁判長裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平 裁判官味村治 裁判官小野幹雄 裁判官三好達)

++解説
《解  説》
無権代理人が単独で本人を相続したときには、無権代理行為は有効になるというのが判例の立場である。しかしながら、その根拠として、最二小判昭40・6・18民集一九巻四号九八六頁、本誌一七九号一二四頁が、「無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するに至った場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である」との趣旨を述べ、他方では、信義則違反を理由とするものがあったりするなど(最二小判昭37・4・20民集一六巻四号九五五頁。ただし傍論。事案は、本人が無権代理人を相続した場合のもの)、理論上の整合性が問題となっていた。いずれにせよ、無権代理人が単独で本人を相続した場合に、結果として無権代理行為が有効となるとされてきたことに変わりはなかった(この問題について判例学説を分析した最近の文献として、安永正昭「『無権代理と相続』における理論上の諸問題」曹時四二巻四号一頁を参照)。
しかし、この理論上の根拠の混乱から、無権代理人が他の相続人と共同で本人を相続した場合に、無権代理行為の効果がどうなるかが必ずしも明らかではなかった。これにつき、他の相続人の相続放棄がない場合には、無権代理行為は当然に有効となるものではないとする考えが多数の学説であった(品川孝次「無権代理と相手方保護」ロースクール三〇号四二頁など)。本判決は、他の共同相続人が無権代理行為を追認しない限り、相続人に無権代理人が含まれているとしても、無権代理行為は有効になるものではないとしたものである。
本件の一審段階において、無権代理行為の本人Aは、Aから被告の一人への登記が原因を欠くとして、登記の抹消を求めていた。Aは一審判決後に死亡し、相続人である子らと妻が本訴を承継し、X(被控訴人・被上告人)の地位に立った。無権代理行為をした者も、承継したXの中に含まれている。Aから所有権移転登記を受けた会社及びその転得者も、本判決に表示されているY(上告人)と共に被告となっていたが、上告審で本判決の被告とは別に上告手続をとったため、本判決と同日に言い渡された別の判決でその敗訴が確定している。本判決のY(上告人)は、右の転得者から根抵当権設定登記を得た信用組合である。Aから前記会社に対する所有権移転登記が無権代理行為に基づくもので無効のものであれば、信用組合に対する根抵当権設定登記も実体を欠くものとなり、この登記の抹消を求めるXらの請求は理由があるという関係に立つ。
原審判決は、Xらの主張を理由ありとして請求を認容した。その理由は、次の点にあった。Yらが主張した登記原因行為(Aから前記会社への所有権移転登記の原因行為)である本件譲渡担保契約については、無権代理行為が成立すると考える余地はある。しかしながら、本件譲渡担保契約が無権代理行為であるとしても、無権代理人は、他のXらと共同でAを相続したので、無権代理人が単独でした右無権代理行為がAの死亡により当然に有効となるものではないと解される。相続により無権代理人が取得する共有持分の限度で有効になると考えることも相当でない。共同相続の場合、無権代理行為を追認するか、追認を拒絶するかの権利は相続人全員の準共有に属するが、この権利は、共有持分の割合に応じて分割して行使できる性質のものとはいいがたく、民法二六四条、二五一条により相続人全員の同意に基づき一つの権利として行使されるべきものと解するのが相当であり、かつ、無権代理人以外の共同相続人の立場を考慮すると、そのように行使すべきものとすることが信義則に反するともいえない。また、無権代理行為を相続持分に応じて分割しその一部を有効とすることは、他の共同相続人の利益を損なうおそれがある上、法律関係を複雑にする。これらのことを考えあわせると、共同相続人の一部に無権代理人がいる場合に、相続によって当然に、無権代理人の共有持分に限り無権代理行為が有効になると解すべきではない。以上が理由である。本判決は、その判旨を導くに際し、追認権が相続人全員に不可分的に帰属することを挙げているが、このことは、原審判決が、無権代理行為の追認権が準共有であるとした説示と実質的には変わりがないものと思われる。
また、本判決と同日に言い渡された最一小判(仙台高判昭63・8・31本誌六七九号一七六頁の関連事件の上告審判決。民集四七巻一号登載予定)も、本判決と同じ法理を示した上、連帯保証の無権代理人が本人を共同相続した事案につき、その相続分に相当する部分においても連帯保証契約が有効になるものではないとしている。
本件の原審判決に対するコメントとして、辻朗・本誌七九四号五三頁、後藤巻則・法セ四五六号一三二頁がある。
本判決には、三好裁判官の反対意見が付されている。

2.小問2
(1)小問2(1)
・他人物売買をした者を本人が相続
+判例(S49.9.4)
理由
上告人らの上告理由について。
他人の権利を目的とする売買契約においては、売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負い、売主がこの義務を履行することができない場合には、買主は売買契約を解除することができ、買主が善意のときはさらに損害の賠償をも請求することができる。他方、売買の目的とされた権利の権利者は、その権利を売主に移転することを承諾するか否かの自由を有しているのである。
ところで、他人の権利の売主が死亡し、その権利者において売主を相続した場合には、権利者は相続により売主の売買契約上の義務ないし地位を承継するが、そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものでないことはもちろん、これによつて売買の目的とされた権利が当然に買主に移転するものと解すべき根拠もない。また、権利者は、その権利により、相続人として承継した売主の履行義務を直ちに履行することができるが、他面において、権利者としてその権利の移転につき諾否の自由を保有しているのであつて、それが相続による売主の義務の承継という偶然の事由によつて左右されるべき理由はなく、また権利者がその権利の移転を拒否したからといつて買主が不測の不利益を受けるというわけでもない。それゆえ、権利者は、相続によつて売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができるものと解するのが、相当である。
このことは、もつぱら他人に属する権利を売買の目的とした売主を権利者が相続した場合のみでなく、売主がその相続人たるべき者と共有している権利を売買の目的とし、その後相続が生じた場合においても同様であると解される。それゆえ、売主及びその相続人たるべき者の共有不動産が売買の目的とされた後相続が生じたときは、相続人はその持分についても右売買契約における売主の義務の履行を拒みえないとする当裁判所の判例(昭和三七年(オ)第八一〇号同三八年一二月二七日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一八五四頁)は、右判示と牴触する限度において変更されるべきである。
そして、他人の権利の売主をその権利者が相続した場合における右の法理は、他人の権利を代物弁済に供した債務者をその権利者が相続した場合においても、ひとしく妥当するものといわなければならない。
しかるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。)は、亡Aが被上告人に代物弁済として供した本件土地建物が、Aの所有に属さず、上告人Bの所有に属していたとしても、その後Aの死亡によりBが、共同相続人の一人として、右土地建物を取得して被上告人に給付すべきAの義務を承継した以上、これにより右物件の所有権は当然にBから被上告人に移転したものといわなければならないとしているが、この判断は前述の法理に違背し、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
以上のとおりであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、本件土地建物がだれの所有に属するか等につきさらに審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 大隅健一郎 裁判官 関根小郷 裁判官 藤林益三 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 岸上康夫 裁判官 江里口清雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 髙辻正己 裁判官 吉田豊)

(2)小問2(2)

3.小問3
(1)Gが追認も追認拒絶もしないうちに死亡した場合

+判例(H5.1.21)前掲もう一方の方も
理由
上告代理人佐々木健次の上告理由について
一 原審が適法に確定した事実は、次のとおりである。
(一) 訴外Aは、昭和五七年二月二日、訴外Bから二〇〇万円の融資を依頼されたが、Bに対し、さきにAがBに貸し付け、未回収となっていた貸金債権六〇〇万円に金利を加え、これに依頼された新規の融資分二〇〇万円を加えた八五〇万円について、改めてBが借用証書を書き換え、上告人の父であるCがそれに連帯保証人として署名捺印することを求めた。そこで、Bは、上告人に対し、短期間内に自己の責任で債務全額の処理をすることを誓って、借用証書に連帯保証人としてのCの名による署名捺印を依頼した。
(二) 上告人は、前同日、Cから代理権を授与されていなかったにもかかわらず、その了解を得ずにBの依頼に応じ、貸金額八五〇万円、借主B、弁済期昭和五七年四月二〇日、遅延損害金年三割、公正証書を作成すべきこと等を内容とする借用証書に連帯保証人としてCの名を記載し、預かっていた同人の実印を押捺し、同人が右貸金債務について連帯保証をする旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。
(三) 被上告人は、昭和五七年五月一一日、Aから、Bに対する前記八五〇万円の貸金債権の譲渡を受けた。
(四) Cは、昭和六二年四月二〇日に死亡し、同人の妻の訴外D及び上告人が、Cの権利義務を各二分の一の割合で相続により承継した。
二 原審は、右事実関係の下において、無権代理人が単独で本人を相続した場合に限らず、無権代理人と他の者とが共同で本人を相続した場合であっても、その無権代理人が承継すべき被相続人(本人)の法的地位の限度では、本人自らしたのと同様の効果が生じるとした上、本件においては、Dと無権代理人たる上告人とが、金銭債務について、本件連帯保証契約の当事者たる本人の地位を各二分の一の割合により相続承継し、この地位は既に確定的なものとなっているのであるから、無権代理人たる上告人が相続により本人たるCの地位を承継した分について、本人自らが本件連帯保証契約をしたのと同様の効果が生じ、上告人がその連帯保証責任を負うべきであり、上告人は、被上告人に対し、Cの連帯保証のうち上告人が相続承継した二分の一に相当する部分、すなわち、被上告人の請求額の二分の一の四二五万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五七年四月二一日から完済まで約定の年三割の割合による遅延損害金の支払をすべきことを命じた。

三 しかし、原審の右判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
すなわち、無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。そして、以上のことは、無権代理行為が金銭債務の連帯保証契約についてされた場合においても同様である。
これを本件についてみるに、前記の事実関係によれば、上告人は、Cの無権代理人として本件連帯保証契約を締結し、Cの死亡に伴い、Dと共にCの権利義務を各二分の一の割合で共同相続したものであるが、右無権代理行為の追認があった事実について被上告人の主張立証のない本件においては、上告人の二分の一の相続分に相当する部分においても本件連帯保証契約が有効になったものということはできない
四 そうすると、以上判示したところと異なる見解に立って、被上告人の上告人に対する請求を前記のとおり一部認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は、理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決中の上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、右説示に徴すれば、被上告人の請求は棄却すべきものであり、これと結論を同じくする第一審判決は正当であり、被上告人の右部分に対する控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官三好達の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(2)Gが追認拒絶後に死亡した場合

+判例(H10.7.17)
理由
上告人Bの代理人八代紀彦、同佐伯照道、同西垣立也、上告人C及びDの代理人新原一世、同田口公丈、同浜口卯一の上告理由二について
一 原審の適法に確定した事実等の概要は、次のとおりである。
1 Eは、第一審判決別紙物件目録記載の各物件(以下「本件各物件」という。なお、右各物件は、同目録記載の番号に従い「物件(一)」のようにいう。)を所有していたが、遅くとも昭和五八年一一月には、脳循環障害のために意思能力を喪失した状態に陥った。
2 昭和六〇年一月二一日から同六一年四月一九日までの間に、被上告人兵庫県信用保証協会は物件(一)ないし(三)について第一審判決別紙登記目録記載の(一)の各登記(以下「登記(一)」という。なお、同目録記載の他の登記についても、同目録記載の番号に従い右と同様にいう。)を、被上告人株式会社第一勧業銀行(以下「被上告銀行」という。)は物件(一)ないし(三)について各登記(二)を、被上告人Aは物件(一)ないし(三)について各登記(三)、物件(三)について登記(四)、物件(四)について登記(五)を、被上告人株式会社コミティ(以下「被上告会社」という。)は物件(一)について登記(六)、物件(二)について登記(七)、物件(三)について登記(八)及び登記(九)をそれぞれ経由した。しかし、右各登記は、同六〇年一月一日から同六一年四月一九日までの間に、Eの長男であるFがEの意思に基づくことなくその代理人として被上告人らとの間で締結した根抵当権設定契約等に基づくものであった。
3 Fは、昭和六一年四月一九日、Eの意思に基づくことなくその代理人として、被上告会社との間で、Eが有限会社あざみの被上告会社に対する商品売買取引等に関する債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
4 Fは、昭和六一年九月一日、死亡し、その相続人である妻のG及び子の上告人らは、限定承認をした。
5 Eは、昭和六二年五月二一日、神戸家庭裁判所において禁治産者とする審判を受け、右審判は、同年六月九日、確定した。そして、Eは、同人の後見人に就職したGが法定代理人となって、同年七月七日、被上告人らに対する本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起したが、右事件について第一審において審理中の同六三年一〇月四日、Eが死亡し、上告人らが代襲相続により、本件各物件を取得するとともに、訴訟を承継した。
二 本件訴訟において、上告人らは、被上告人らに対し、本件各物件の所有権に基づき、本件各登記の抹消登記手続を求め、被上告会社は、反訴として、上告人らに対し、Eの相続人として前記連帯保証債務を履行するよう求めている。被上告人らは、本件各登記の原因となる根抵当権設定契約等がFの無権代理行為によるものであるとしても、上告人らは、Fを相続した後に本人であるEを相続したので、本人自ら法律行為をしたと同様の地位ないし効力を生じ、Fの無権代理行為についてEがした追認拒絶の効果を主張すること又はFの無権代理行為による根抵当権設定契約等の無効を主張することは信義則上許されないなどと主張するとともに、被上告銀行及び被上告会社は、Fの右行為について表見代理の成立をも主張する。これに対し、上告人らは、Eが本訴を提起してFの無権代理行為について追認拒絶をしたから、Fの無権代理行為がEに及ばないことが確定しており、また、上告人らはFの相続について限定承認をしたから、その後にEを相続したとしても、本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果は生じないし、前記根抵当権設定契約等が上告人らに対し効力を生じないと主張することは何ら信義則に反するものではないなどと主張する。
三 原審は、前記事実関係の下において、次の理由により、上告人らの請求を棄却し被上告会社の反訴請求を認容すべきものとした。
1 Eは被上告銀行及び被上告会社が主張する表見代理の成立時点以前に意思能力を喪失していたから、右被上告人らの表見代理の主張は前提を欠く。
2 上告人らは、無権代理人であるFを相続した後、本人であるEを相続したから、本人と代理人の資格が同一人に帰したことにより、信義則上本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人であるEの資格において本件無権代理行為について追認を拒絶する余地はなく、本件無権代理行為は当然に有効になるものであるから、本人が訴訟上の攻撃防御方法の中で追認拒絶の意思を表明していると認められる場合であっても、その訴訟係属中に本人と代理人の資格が同一人に帰するに至った場合、無権代理行為は当然に有効になるものと解すべきである。

四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。けだし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義則に反するものであるということはできない
これを本件について見ると、Eは、被上告人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起したから、Fの無権代理行為について追認を拒絶したものというべく、これにより、Fがした無権代理行為はEに対し効力を生じないことに確定したといわなければならない。そうすると、その後に上告人らがEを相続したからといって、既にEがした追認拒絶の効果に影響はなく、Fによる本件無権代理行為が当然に有効になるものではない。そして、前記事実関係の下においては、その他に上告人らが右追認拒絶の効果を主張することが信義則に反すると解すべき事情があることはうかがわれない。
したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れない。そして、前記追認拒絶によってFの無権代理行為が本人であるEに対し効力を生じないことが確定した以上、上告人らがF及びEを相続したことによって本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じたとする被上告人らの主張は採用することができない。また、前記事実関係の下においては、被上告銀行及び被上告会社の表見代理の主張も採用することができない。上告人らの請求は理由があり、被上告会社の反訴請求は理由がないから、第一審判決を取り消し、上告人らの請求を認容し、被上告会社の反訴請求を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

++解説
《解  説》
本件は、本人に無断で不動産に抵当権設定登記等が設定されたとして、本人がこの抵当権設定登記等の抹消登記手続を求めるなどの訴訟であり、本人と無権代理人の死亡によって両者を相続した場合の法律関係が問題になった。
事実関係は、次のとおりである。Aは、本件不動産を所有していたが、当時、脳循環障害のために意思能力を喪失した状態であった。Aの子であるBは、Aに無断で本件不動産にYらのために抵当権設定登記等をした。その後、Bが死亡し、その相続人である妻Cと子Xらは、Bの相続について限定承認をした。Aが禁治産宣告を受け、その後見人になったCは、本件訴訟を提起した。そして、一審係属中にAが死亡したため、孫であるXらが代襲相続するとともに本件の訴訟承継をした。
本件の争点は、第一に、Aの相続人であり、無権代理人Bの相続人であるXらは、Bの無権代理行為について追認拒絶をすることができるか、第二に、Aが本件訴訟の提起により追認拒絶をしたことになるとした場合、Xらは、Aのした追認拒絶の効果を主張することができるかである。
一審、原審とも、Xらが無権代理人を相続した後、本人を相続したから、本人と代理人の資格が同一人に帰したことにより、信義則上本人自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人の資格で追認を拒絶する余地はなく、また、無権代理行為は当然に有効になったとして、Xの請求を棄却した。
これに対し、Xらは、原審の判断には、前記第一、第二の争点に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとして、上告した。
本判決は、第二の争点(Aが追認拒絶した後にA、Bの相続人であるXらが追認拒絶の効果を主張することができるか)について、本人であるAが追認を拒絶した以上、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないとして、原判決を破棄してXらの請求を認容する判決を言い渡した。
従来、本人が無権代理人を相続した場合や無権代理人が本人を相続した場合等、本人が無権代理行為の追認拒絶をする前に相続が生じた場合に、相続人は無権代理行為の追認拒絶ができるかについては、多いに論じられ、多数の判例がある(本人が無権代理人を相続した場合につき、最二小判昭37・4・20民集一六巻四号九五五頁、無権代理人が本人を相続した場合につき、最二小判昭40・6・18民集一九巻四号九八六頁、無権代理人を相続した者が更に本人を相続した場合につき、最三小判昭63・3・1本誌六九七号一九五頁、判時一三一二号九二頁等)。これに対し、本人が無権代理行為を追認拒絶した後に相続が開始された場合の法律関係については、あまり論じられてこなかったところであり、奥田昌道・法学論叢一三四巻五~六号二〇頁の相続人は追認拒絶の効果を当然に主張することができるとする見解と、安永正昭・曹時四二巻四号七九二頁のこれを否定する見解がある程度であった。本判決は、本人が無権代理行為を追認拒絶することにより、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定するから、本人を相続した無権代理人も追認拒絶の効果を主張することができるとしたものである。なお、本判決は、追認拒絶の効果に関する原則を述べたものであり、信義則の適用を排除する趣旨ではないものと思われる。すなわち、相続人が本人の追認拒絶の効果を主張することが信義則に反するような特段の事情がある場合には、例外として、右相続人は追認拒絶の効果を主張することはできないことになるであろう。本件において、一方でBの相続について限定承認をし、他方でAの相続について単純承認をすることにより、Xらは、何の負担もない不動産を取得することになるが、これが信義則に反しないか一応問題になる。しかし、本判決は、相続において単純承認するか限定承認するかは、法律の規定に基づくものであることから、右のような事情だけでは信義則に反することにはならないとしたのである(Yらは、右以外に信義則に反するような具体的事実を主張しなかった。なお、最三小判平6・9・13民集四八巻六号一二六三頁、本誌八六七号一五九頁(禁治産者の後見人がその就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かの判断についての考慮すべき要素)、最一小判平7・11・9本誌九〇一号一三一頁、判時一五五七号七四頁(禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起等の効力を再審の訴えにおいて否定することの可否)参照)。仮にYらが右の具体的事情を主張していた場合には、最高裁としては、自判することはできず、原審に差し戻すことになった可能性もあると思われる。
また、本判決は、第二の争点で本件の決着をつけたため、第一の争点(無権代理人を限定承認相続した後、本人を相続した者は、無権代理行為の追認拒絶ができるか)について、何ら判断しておらず、これは残された問題である。
以上のとおり、本判決は、本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力について最高裁として初めて判断したものであるので、ここに紹介する。

4.小問4
・双方相続の場合
+判例(S63.3.1)
理由
上告代理人成田薫、同成田清、同池田桂子の上告理由第一点について
原審は、(一) 第一審判決別紙目録一ないし四、七、九、一一、一三の各土地(以下「本件各土地」という。)は、もと分筆前の愛知県小牧市大字大草字七重三六六〇番一の土地の一部をなし、亀谷峰の所有であった、(二) 峰の妻亀谷と〓は、昭和三五年七月ころ、峰の代理人として、野崎峯男に対し、右三六六〇番一の土地を売り渡した(以下「本件売買」という。)が、峰から本件売買に必要な代理権を授与されていなかった、(三) と〓は昭和四四年三月二二日に死亡し、夫である峰及び子である被上告人らが同女の法律上の地位を相続により承継した、(四) 峰は昭和四八年六月一八日に死亡し、被上告人らが同人の法律上の地位を相続により承継した、(五) 本件各土地について、いずれも上告人を権利者とする原判決主文第二項掲記の各登記(以下「本件各登記」という。)がされている、との事実を確定した上、無権代理人が本人を相続した場合に、無権代理行為の追認を拒絶することが信義則上許されないとされるのは、当該無権代理行為を無権代理人自らがしたという点にあるから、自ら無権代理行為をしていない無権代理人の相続人は、その点において無権代理人を相続した本人と変わるところがなく、したがって、無権代理人及び本人をともに相続した者は、相続の時期の先後を問わず、特定物の給付義務に関しては、無権代理人を相続した本人の場合と同様に、信義に反すると認められる特別の事情のない限り、無権代理行為を追認するか否かの選択権及び無権代理人の履行義務についての拒絶権を有しているものと解するのが相当であるとの見解のもとに、本件売買に関して無権代理人であると〓及び本人である峰をともに相続した被上告人らは、信義に反すると認められる特別の事情のない限り、本人の立場において本件売買の追認を拒絶することができ、また、無権代理人の立場においても本件各土地を含む前記土地の所有権移転義務を負担しないものであり、しかも、右の追認ないし履行拒絶が信義に反すると認められる特別の事情があるということはできず、本件売買が有効となることはないとして、上告人の抗弁を認めず、本件各土地の共有持分権に基づいて本件各登記の抹消登記手続を求める被上告人らの本訴請求を認容すべきものと判断している。

しかしながら、原審の右の判断を是認することはできない。その理由は次のとおりである。
すなわち、無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては、当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。けだし、無権代理人が本人を相続した場合においては、本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、右のような法律上の地位ないし効果を生ずるものと解すべきものであり(大審院大正一五年(オ)第一〇七三号昭和二年三月二二日判決・民集六巻一〇六頁、最高裁昭和三九年(オ)第一二六七号同四〇年六月一八日第二小法廷判決・民集一九巻四号九八六頁参照)、このことは、信義則の見地からみても是認すべきものであるところ(最高裁昭和三五年(オ)第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻四号九五五頁参照)、無権代理人を相続した者は、無権代理人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、一亘無権代理人を相続した者が、その後本人を相続した場合においても、この理は同様と解すべきであって、自らが無権代理行為をしていないからといって、これを別異に解すべき根拠はなく(大審院昭和一六年(オ)第七二八号同一七年二月二五日判決・民集二一巻一六四頁参照)、更に、無権代理人を相続した者が本人と本人以外の者であった場合においても、本人以外の相続人は、共同相続であるとはいえ、無権代理人の地位を包括的に承継していることに変わりはないから、その後の本人の死亡によって、結局無権代理人の地位を全面的に承継する結果になった以上は、たとえ、同時に本人の地位を承継したものであるとしても、もはや、本人の資格において追認を拒絶する余地はなく、前記の場合と同じく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当であるからである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係によれば、と〓は、峰の無権代理人として、本件各土地を含む前記土地を野崎に売却した後に死亡し、被上告人ら及び峰が同女の無権代理人としての地位を相続により承継したが、その後に峰も死亡したことにより、被上告人らがその地位を相続により承継したというのであるから、前記の説示に照らし、もはや、被上告人らが峰の資格で本件売買の追認を拒絶する余地はなく、本件売買は本人である峰が自ら法律行為をしたと同様の効果を生じたものと解すべきものである。そうすると、これと異なる見解に立って、無権代理行為である本件売買が有効になるものではないとして、上告人の抗弁を排斥し、被上告人らの本訴請求を認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、右違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、以上の見地に立って、上告人の抗弁の当否について、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すべきである。
よって、その余の論旨に関する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官長島敦 裁判官伊藤正己 裁判官安岡滿彦 裁判官坂上壽夫)

5.相続人が限定承認した場合
+(限定承認)
第九百二十二条  相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。


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