民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

(離婚による復氏の際の権利の承継)
第七百六十九条  婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。

・離婚復氏の際の系譜・祭具・墳墓の所有権の承継に関する規定。

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民法768条 財産分与 家族法 親族 離婚

民法768条 財産分与

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(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める

・内縁については死亡の場合には類推適用されない。

・慰謝料請求権と財産分与請求権について、権利者はいずれをも選択的に主張することができる。

・すでに財産分与を受けていても、その額が精神的苦痛を慰謝するに足りないときは、別に慰謝料請求が可能である。

+判例(S46.7.23)
理由
 上告代理人吉永嘉吉の上告理由第一点について。
 本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となつた上告人の虐待等、被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知つたこととなるものと解するのが相当である。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実に照らせば、本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後三年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していないものであり、原判決は、措辞適切を欠く部分もあるが、ひつきよう、右の趣旨により上告人の消滅時効の主張を排斥したものと解されるのであるから、その判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 同第二点について。
 離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有毒な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。所論引用の判例(最高裁昭和二六年(オ)四六九号同三一年二月二一日第三小法廷判決、民集一〇巻二号一二四頁)は、財産分与を請求しうる立場にあることは離婚による慰藉料の請求を妨げるものではないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるから、前記の見解は右判例に牴触しない。
 本件において、原判決の確定したところによれば、さきの上告人と被上告人との間の離婚訴訟の判決は、上告人の責任のある離婚原因をも参酌したうえ、整理タンス一棹、水屋一個の財産分与を命じ、それによつて被上告人が右財産の分与を受けたというのであるけれども、原審は、これをもつて、離婚によつて被上告人の被つた精神的損害をすべて賠償する趣旨を含むものであるとは認定していないのである。のみならず、離婚につき上告人を有責と認めるべき原判決確定の事実関係(右離婚の判決中で認定された離婚原因もほぼこれと同様であることが記録上窺われる。)に照らし、右のごとき僅少な財産分与がなされたことは、被上告人の上告人に対する本訴慰藉料請求を許容することの妨げになるものではないと解すべきであり、また、右財産分与の事実を考慮しても、原判決の定めた慰藉料の額をとくに不当とすべき理由はなく、本訴請求の一部を認容した原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

・財産分与の法的性質
婚姻中における夫婦財産関係の清算
離婚後における配偶者の扶養
離婚における慰謝料

・夫婦の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも財産分与に含めることができる。
+判例(S53.11.14)
理由
 上告代理人竹下甫、同小山稔の上告理由第一点について
 離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて所論の点についてした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 原審において所論の乙第一六号証の一ないし四及び同第一七号証の一ないし四につき証拠調べがされていること、また、原判決の事実摘示には右の事実の記載がなく、理由中の判断においても右書証の取捨が明らかにされていないことは、所論のとおりである。しかし、本件記録に徴すると、右書証が所論の点に関する原審の事実認定(これは、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。)を左右するものとまでは認められないから、前記の瑕疵は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背に当たらないものというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 服部髙顯 裁判官 江里口清雄 裁判官 髙辻正己)

・財産分与の当事者が財産分与者に対する課税を知らなかった場合には、動機の錯誤となり、動機が明示的又は黙示的に表示されれば当該財産分与の意思表示は無効(95条)となる
+判例(H1.9.14)
  理  由
 上告代理人菅原信夫、國生肇の上告理由二について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、昭和三七年六月一五日被上告人と婚姻し、二男一女をもうけ、東京都新宿区市谷砂土原町所在の第一審判決別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)に居住していたが、勤務先銀行の部下女子職員と関係を生じたことなどから、被上告人が離婚を決意し、昭和五九年一一月上告人にその旨申し入れた。
 2 上告人は、職業上の身分の喪失を懸念して右申入れに応ずることとしたが、被上告人は、本件建物に残って子供を育てたいとの離婚条件を提示した。
 3 そこで、上告人は、右女子職員と婚姻して裸一貫から出直すことを決意し、被上告人の意向にそう趣旨で、いずれも自己の特有財産に属する本件建物、その敷地である前記物件目録一記載の土地及び右地上の同目録三記載の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)全部を財産分与として被上告人に譲渡する旨約し(以下「本件財産分与契約」という。)、その旨記載した離婚協議書及び離婚届に署名捺印して、その届出手続及び右財産分与に伴う登記手続を被上告人に委任した。
 4 被上告人は、右委任に基づき、昭和五九年一一月二四日離婚の届出をするとともに、同月二九日本件不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記を経由し、上告人は、その後本件不動産から退去して前記女子職員と婚姻し一男をもうけた。
 5 本件財産分与契約の際、上告人は、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたが、上告人に課税されることは話題にならなかったところ、離婚後、上告人が自己に課税されることを上司の指摘によって初めて知り、税理士の試算によりその額が二億二二二四万余円であることが判明した。

 二 上告人は、本件財産分与契約の際、これより自己に譲渡所得税が課されないことを合意の動機として表示したものであり、二億円を超える課税がされることを知っていたならば右意思表示はしなかったから、右契約は要素の錯誤により無効である旨主張して、被上告人に対し、本件不動産のうち、本件建物につき所有権移転登記の抹消登記手続を求め、被上告人において、これを争い、仮に要素の錯誤があったとしても、上告人の職業、経験、右契約後の経緯等からすれば重大な過失がある旨主張した。原審は、これに対し、前記一の事実関係に基づいて次のような判断を示し、上告人の請求を棄却した第一審判決を維持した。
 1 離婚に伴う財産分与として夫婦の一方が他方に対してする不動産の譲渡が譲渡所得税の対象となることは判例上確定した解釈であるところ、分与者が、分与に伴い自己に課税されることを知らなかったため、財産分与契約において課税につき特段の配慮をせず、その負担についての条項を設けなかったからといって、かかる法律上当然の負担を予期しなかったことを理由に要素の錯誤を肯定することは相当でない。
 2 本件において、前示事実関係からすると、上告人が本件不動産を分与した場合に前記のような高額の租税債務の負担があることをあらかじめ知っていたならば、本件財産分与契約とは異なる内容の財産分与契約をしたこともあり得たと推測されるが、右課税の点については、上告人の動機に錯誤があるにすぎず、同人に対する課税の有無は当事者間において全く話題にもならなかったのであって、右課税のないことが契約成立の前提とされ、上告人においてこれを合意の動機として表示したものとはいえないから、上告人の錯誤の主張は失当である。

 三 しかしながら、右判断はにわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要するところ(最高裁昭和二七年(オ)第九三八号同二九年一一月二六日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇八頁、昭和四四年(オ)第八二九号同四五年五月二九日第二小法廷判決・裁判集民事九九号二七三頁参照)、右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない
 本件についてこれをみると、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することが右「資産の譲渡」に当たり、譲渡所得を生ずるものであることは、当裁判所の判例(最高裁昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁、昭和五一年(行ツ)第二七号同五三年二月一六日第一小法廷判決・裁判集民事一二三号七一頁)とするところであり、離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも上告人において右の点を誤解していたものというほかはないが、上告人は、その際、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば、上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。上告人に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。
 以上によれば、右の点について認定判断することなく、上告人の錯誤の主張が失当であるとして本訴請求を棄却すべきものとした原判決は、民法九五条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯すものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

・離婚により生ずる可能性のある財産分与請求権は、協議・審判等によりその具体的内容が形成される以前には代位行使の対象にならない!!
=具体的内容が確定すればできる

・離婚に伴う財産分与は、本条第3項の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認められるような特段の事情がない限り、詐害行為とならない。
+判例(S58.12.19)
理由
 上告代理人中村健太郎、同中村健の上告理由第一点及び第二点について
 離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法七六八条三項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによつて、なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがつて、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であつてもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。
 そこで、右のような見地に立つて本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) Aは、昭和二二年七月二五日被上告人と婚姻し、昭和三一年から、兵庫県津名郡a町b番cの土地上のAの父B所有の建物でクリーニング業を始めたが、昭和四九年ころからはクリーニング業は被上告人に任せ、自らは不動産業、金融業を始めるようになつた、(2) そして、Aは、同年九月一七日上告人と信用組合取引契約を締結し、上告人より手形貸付、手形割引等を受け、更に有限会社寿宝商事あるいは富洋設備という会社を設立して右会社名義においても上告人と信用組合取引契約を結び一時は盛大に事業を行つていたが、昭和五一年一一月手形の不渡を出して倒産するに至つた、(3) 被上告人とAとの間には二男三女があるが、Aは、Cと情交関係を結んで子供まで儲けたうえ、多額の負債をかかえて倒産するに及んだので、被上告人は、その精神的苦痛だけではなく、経済的にも自己及び子供の将来が危ぶまれると考えて離婚を決意し、Aと協議の結果、被上告人においてこれまで子供らとともにやつて来た家業であるクリーニング業を続けてやつて行くことによつて二人の子供の面倒をみることとし、その基盤となる本件土地(前記b番cの土地、前同所b番dの土地の二筆の土地)を慰藉料を含めた財産分与としてAより被上告人に譲渡することになつた、(4) そこで、被上告人は、昭和五一年一二月二二日Aと離婚し、本件土地について代物弁済を原因とする被上告人のための所有権移転登記がなされた、(5) 本件土地のうち、b番cの土地は、昭和三五年ころ家業のクリーニング業の利益で買つて昭和五一年五月三一日所有権移転登記手続をしたものであり、b番dの土地は、昭和四三年六月ころ同じくクリーニング業の利益で取得したものであつて、いずれもAの不動産業とは関係なく取得したものである、(6) 被上告人らが住みクリーニング業を営んでいた家屋は、Bの所有であつてb番cの土地上にあつたが、室津川の河川改修のため兵庫県より立退きを迫られ、本件土地の一部は国に売却し、一部は他人の所有地と交換したため、結局被上告人は、分筆後のb番dの土地と交換により取得した前同所e番fの土地を所有することになつた、(7) そこで、被上告人は、昭和五二年三月前記家屋を取り毀し、同年一一月ころ右両土地上に本件建物を代金一九〇〇万円で建築し、同年一二月一日被上告人名義に所有権保存登記をしたが、被上告人は、右建築代金のみならず、設計料及び旧家屋取毀費用もすべて自ら完済しているので、本件建物は建築の当初から被上告人の所有に属しているものである、(8) 本件土地はAの唯一の不動産ではないが、同人所有の不動産であつて上告人のために担保として提供されている財産はごく僅かな価値しかないため、唯一に近い不動産であり、その価格は約九八九万円であるが、被上告人はb番cの土地に対する根抵当権を抹消するため約五三六万円を支払つた、というのであり、原審の右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯認することができる。
 そして、右の事実関係のもとにおいて、本件土地は被上告人の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての被上告人の寄与はAのそれに比して大であつて、もともと被上告人は実質的にAより大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、被上告人とAとの離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、被上告人にとつては本件土地は従来から生活の基盤となつてきたものであり、被上告人及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、被上告人の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地がAにとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしやくしてもなお、被上告人に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 被上告人に対する本件土地の譲渡が詐害行為にあたるとすることができないとした原審の認定判断が正当として是認することができるものであることは、前記に判示するとおりであるから、論旨は、ひつきよう、原判決の傍論部分の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 宮﨑梧一 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)

・離婚請求を認容するにあたって、単独で子の監護にあたっている妻の夫に対する別居後離婚までの間の子の監護費用の支払いを命ずることができる
+判例(H9.4.10)
理由
 上告代理人伊藤伴子の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、民法七七一条、七六六条一項を類推適用し、人事訴訟手続法一五条一項により、右申立てに係る子の監護費用の支払を命ずることができるものと解するのが相当である。けだし、民法の右規定は、父母の離婚によって、共同して子の監護に当たることができなくなる事態を受け、子の監護について必要な事項等を定める旨を規定するものであるところ、離婚前であっても父母が別居し共同して子の監護に当たることができない場合には、子の監護に必要な事項としてその費用の負担等にいての定めを要する点において、離婚後の場合と異なるところがないのであって、離婚請求を認容するに際し、離婚前の別居期間中における子の監護費用の分担についても一括して解決するのが、当事者にとって利益となり、子の福祉にも資するからである。
 被上告人の本件申立てに係る養育費とは、右にいう監護費用の趣旨であると解されるところ、原審が、被上告人の本件離婚請求を認容するに際し、被上告人の申立てに基づき「同人と上告人との間の長女A(平成元年三月一六日生まれ)の監護に関して、離婚の裁判が確定する日(本判決言渡しの日)の翌日からAが成年に達する平成二一年三月までの間の監護費用のみなりず、上告人と被上告人が別居し、被上告人が単独でAの監護に当たるようになった後の平成四年一月から右裁判確定の日までの間の監護費用の支払をも上告人に命じた点に、所論の違法はない。原審の右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

・裁判所は、離婚請求に併せて監護費用の支払いを求める旨の申立てを受けた場合、審理判断しなければならない!
+判例(H19.3.30)
理由
 上告代理人石原寛ほかの上告受理申立て理由1の(1)から(7)までについて
 1 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人と被上告人とは、平成12年10月2日に婚姻の届出をした夫婦である。上告人は、平成13年7月16日から現在まで被上告人と別居しているが、同年10月3日には被上告人の子である長男を出産し、単独でその監護に当たっている。
 (2) 本件訴訟において、上告人は、本訴として、被上告人に対し、離婚を請求するとともに、平成14年10月から長男が成年に達する日の属する月までの間の長男の養育費、すなわち監護費用の分担の申立てなどをし、被上告人は、反訴として、上告人に対し、離婚等を請求した。
 (3) 第1審は、本訴及び反訴の各離婚請求をいずれも認容して長男の親権者を上告人と定めるなどしたほか、被上告人の支払うべき監護費用の分担額について、長男が出生した平成13年10月から第1審口頭弁論終結時の前月である平成16年11月までの間の未払監護費用の合計を150万円と定めるとともに、平成16年12月から長男が成年に達する日の属する月まで1か月8万円と定め、これらの支払を命じた。
 (4) これに対し、被上告人は、監護費用分担の申立てなどに関する第1審の判断に不服があるとして控訴した。なお、第1審判決中の離婚及び親権者の指定に関する部分に対しては、不服申立てがされなかった。
 2 原審は、離婚の効力が生ずる原判決確定の日から長男が成年に達する日までの間における監護費用については、その分担額を1か月8万円と定め、被上告人に対しその支払を命じたが、平成14年10月から離婚の効力が生ずるまでの間における長男の監護費用分担の申立て(以下「本件申立て」という。)については、離婚の訴えに附帯してそのような申立てをすることができないから不適法であるとし、第1審判決を変更して本件申立てを却下した。
 3 しかしながら、本件申立てに係る原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、民法771条、766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である(最高裁平成7年(オ)第1933号同9年4月10日第一小法廷判決・民集51巻4号1972頁参照)。そうすると、当該申立ては、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから、裁判所は、離婚請求を認容する際には、当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきである。
 以上と異なる見解に立って、本件申立てを不適法として却下した原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち本件申立てに関する部分は破棄を免れない。そして、同部分につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求及び申立てに関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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民法762条 夫婦間における財産の帰属 家族法 親族 婚姻

民法762条 夫婦間における財産の帰属

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(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条  夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

・別産制の原則を定めた規定である。

・所得税法が、生計を一にする夫婦の所得を合算折半して計算することにしていないことは、憲法24条に違反しない。

+判例(S36.9.6)
理由
 上告人の上告理由について。
 所論は、民法七六二条一項は、憲法二四条に違反するものであると主張し、これを理由として、原審において右民法の条項が憲法二四条に違反するものとは認められず、ひいて右民法の規定を前提として、所得ある者に所得税を課することとした所得税法もまた違憲ではないとした原判決の判示を非難するのである。
 そこで、先ず憲法二四条の法意を考えてみるに、同条は、「婚姻は……夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しているが、それは、民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係について定めたものであり、男女両性は本質的に平等であるから、夫と妻との間に、夫たり妻たるの故をもつて権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたものであつて、結局、継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享有することを期待した趣旨の規定と解すべく、個々具体の法律関係において、常に必らず同一の権利を有すべきものであるというまでの要請を包含するものではないと解するを相当とする
 次に、民法七六二条一項の規定をみると、夫婦の一方が婚姻中の自己の名で得た財産はその特有財産とすると定められ、この規定は夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であつて、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる。しからば、民法七六二条一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない
 それ故、本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。
 されば右説示と同趣旨に出た原判決は正当であつて、所論は採るを得ない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助)

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民法761条 日常家事に関する債務の連帯責任 家族法 親族 婚姻

民法761条 日常家事に関する債務の連帯責任

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(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

・内縁についても準用される。

・日常家事に関する法律行為とは
単に夫婦の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的にその法律行為の種類・性質等をも十分考慮して判断すべきである!!
→借財については金額が一番重要な判断要素になる。

・110条の趣旨の日常家事への類推適用
相手方において、その行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときには110条の趣旨を類推適用することにより第三者を保護する

+判例(S44.12.18)
理由
 上告代理人小宮正己の上告理由第一点について。
 本件売買契約締結の当時、被上告人が訴外Aに対しその売買契約を締結する代理権またはその他の何らかの代理権を授与していた事実は認められない、とした原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係および本件記録に照らし、首肯することができないわけではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について。
 民法七六一条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
 そして、民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである
 しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。
 したがつて、民法七六一条および一一〇条の規定の解釈に関して以上と同旨の見解に立つものと解される原審の判断は、正当である。
 ところで、原審の確定した事実関係、とくに、本件売買契約の目的物は被上告人の特有財産に属する土地、建物であり、しかも、その売買契約は上告人の主宰する訴外株式会社千代田べヤリング商会が訴外Aの主宰する訴外株式会社西垣商店に対して有していた債権の回収をはかるために締結されたものであること、さらに、右売買契約締結の当時被上告人は右Aに対し何らの代理権をも授与していなかつたこと等の事実関係は、原判決挙示の証拠関係および本件記録に照らして、首肯することができないわけではなく、そして、右事実関係のもとにおいては、右売買契約は当時夫婦であつた右Aと被上告人との日常の家事に関する法律行為であつたといえないことはもちろん、その契約の相手方である上告人においてその契約が被上告人ら夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由があつたといえないことも明らかである。
 してみれば、上告人の所論の表見代理の主張を排斥した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を争い、または、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

・連帯責任の内容
連帯債務を負担するという意味
夫婦は同一内容の債務を併存的に負担し、一方について生じた事由(相殺・免除・時効)は両者に無制限に効力を及ぼす。

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民法760条 婚姻費用の分担 家族法 親族 婚姻

民法760条 婚姻費用の分担


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(婚姻費用の分担)
第七百六十条  夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

・婚姻が事実上破綻し別居生活に入ったとしても、離婚しない限り婚姻費用分担義務は消滅しないが、別居・婚姻破綻につき帰責性のある者が自己の生活碑文の婚姻費用分担請求をすることは権利濫用(1条3項)にあたる

+判例(東京高決S58.12.16)
   理  由
 一 本件抗告の趣旨は、「原審判を取消す。相手方の婚姻費用分担の申立てを却下する。相手方は抗告人に対し当事者間の二女石黒雅子を引渡せ。」との裁判を求めるというのであり、その理由の要旨は「原審判中、婚姻費用分担を命じた部分は、抗告人が相手方の不当な言動によつて昭和五七年八月三一日に○○○○公社(以下公社という。)を退職せざるをえなくなり、以後、失業中で無収入であること、また、相手方が昭和四五年の別居に際して結婚以来の抗告人の蓄財をすべて持ち去り、これがその後の子供の監護費用に余りあるほどであることを無視した点で不当である。さらに、相手方は原審判認定の収入のほかに、実姉の経営する病院から一か月一〇万円の収入をえ、また児童扶養手当として一か月四万六六〇〇円を受給しており、長女啓子は昭和五七年四月から○○○○工業株式会社に就職して相当の収入をえており、これらを考慮しなかつた点でも、原審判は不当である。また、原審判中二女雅子の監護養育についての申立てを却下した部分は、一度の調停、審判期日も開かないまま判断したものであつて不当である。」というのである。
 二 そこで、検討するに、抗告人と相手方との婚姻関係に関して、記録によれば、次の各事実が認められる。
  1 抗告人と相手方とは、共に勤務していた名古屋市内の公社の職場で知合い、昭和三七年八月ころ東京都内で同棲生活をはじめて、同年一二月婚姻届出をし、両者間に、昭和三八年三月一七日長女啓子が、
昭和四二年六月三〇日二女雅子が出生した。
  2 抗告人は昭和四一年ころ課長に昇進したが、そのころから深酒して深夜に帰宅することが多くなり、昭和四二年八月これを非難した相手方と口論となり、家財を投げつけたりしたことをきつかけに、相手方は出生間もない二女雅子を連れ、長女啓子は残したまま名古屋市内の実家に帰つた。抗告人は同年一〇月相手方と面談すべく名古屋市に赴き、一週間滞在したが、相手方及びその親族に面談を拒ばまれて帰京した。そして、抗告人は、同年一一月この間の無断欠勤を理由に公社から降格処分をうけた。
  3 その後、相手方も、婚姻関係改善の努力をする気になつて、同年一二月から翌四三年一月にかけて二女雅子を連れずに帰宅し、さらに同年五月には二女雅子を連れ戻して、抗告人との共同生活を再開し、その後は、抗告人が酒をのんであばれることが時にはあつたものの、概して平穏な状態が続いた。
  4 ところが、昭和四五年五月二五日、かねてそううつ病と診断されていた抗告人は医師から入院治療をすすめられたがこれを拒絶した。そして、公社から入院についての同意を要請された相手方は、抗告人の親族にも相談したが、判断がつけられず同意しないまま、同月三〇日に二人の子を連れて名古屋市内の実家に帰つてしまつた。その後、抗告人は、同年六月実母ヒサノを保護義務者として入院したが、相手方は主治医の病歴照会にも応ぜず、また同年一〇月末に抗告人が退院するまで全く面会にも行かず、この間の同年八月二六日には、二人の子と共に、各古屋市への転出手続をした。
  5 抗告人は、昭和四六年二月職場に復帰し、その後、電話等で相手方に同居するよう話合いを求めたが、相手方は終始これを避け、昭和四七年以降昭和五四年までは互いに全く音信のない状態が続いた。
昭和五四年一月、抗告人は久野比呂子(昭和一四年生)と見合をし、交際をはじめ、同年二月から三月にかけて、離婚問題を話合うべく三回にわたり相手方の実家に行つたが、相手方と直接話合うことはできなかつたので、相手方との離婚を前提として、同年四月久野と同棲生活をはじめた。他方、相手方は昭和五一年四月短期大学に入学し昭和五三年三月これを卒業し、その後も、実母や姉などの助力をえながら○○○○株式会社に勤務して、二人の子供の養育を続けた。
  6 抗告人は、昭和五四年四月東京家庭裁判所に離婚調停を申立て、同年一二月これを取下げたが、昭和五六年五月同庁に再び離婚調停を申立て、これが同年一二月不成立になつたので、昭和五七年七月東京地方裁判所に離婚訴訟を提起した。

 三 民法七六〇条、七五二条に照らせば、婚姻が事実上破綻して別居生活に入つたとしても、離婚しないかぎりは夫婦は互に婚姻費用分担の義務があるというべきであるが、夫婦の一方が他方の意思に反して別居を強行し、その後同居の要請にも全く耳を藉さず、かつみずから同居生活回復のための真摯な努力を全く行わず、そのために別居生活が継続し、しかも右別居をやむを得ないとするような事情が認められない場合には、前記各法条の趣旨に照らしても、少なくとも自分自身の生活費にあたる分についての婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されずただ、同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるというべきである。そして、右認定事実によれば、相手方は抗告人の意思に反して別居を強行し、その後の抗告人の再三の話合いの要請にも全く応ぜず、かつみずからは全く同居生活回復の努力を行わず、しかも右別居についてやむを得ない事情があるとは到底いいがたい状態で一〇年以上経過してから本件婚姻費用分担の申立てをしたものと評価すべきであるから、自己の生活費を婚姻費用の分担として抗告人に請求するのは、まさに権利の濫用であつて許されず、ただ相手方と同居する長女啓子、二女雅子の実質的監護費用だけを婚姻費用の分担として抗告人に請求しうるにとどまるというべきである。なお、抗告人主張のような多額な金品を別居に際して相手方が持去つたことを認めるに十分な証拠はないし、もつとも若干の金品を相手方が持去つたことは窺えないでもないが、これとても、本件婚姻費用分担申立てに至るまでの二人の子の監護費用に充ててなお余りあるものとは認められないから、この点は、婚姻費用分担請求の当否には影響するものではない。

 四 そして、右のような婚姻費用分担額(実質的監護費用額)の算定の前提となる事情として、記録によれば、次の各事実が認められる。
  1 抗告人は、本件婚姻費用分担申立て当時、公社に勤務し、昭和五六年における租税、社会保険料控除後の平均月収は約三一万九〇〇〇円であり、相手方は、当時前記○○○○に勤務し、昭和五六年における同様の平均月収は約四万七〇〇〇円であつた。
  2 相手方は、児童扶養手当法に基づく同手当として、本件婚姻費用分担申立て当時は月額三万四三〇〇円、昭和五六年四月以降は月額二万九三〇〇円を受給している(その受給額がこれを上まわることについては適確な証拠がない。)。
  3 抗告人は、昭和五七年八月三一日に公社を退職し、そのころ、退職手当約一四六三万円(ただし、租税、共済弁済金等を控除後の手取額は約七〇二万円)の支払をうけ、その後は、うつ状態で通院加療中で就職せず、公社から減額退職年金一四一万八〇〇〇円(月額一一万八〇〇〇円)を受給して、久野比呂子と同棲生活を続けている。
  4 長女啓子は、本件婚姻費用分担申立て当時、私立高校に通学していたが、昭和五七年三月これを卒業し、以後○○○○工業株式会社で工員として働いている。また、二女雅子は同当時、中学生であつたが、昭和五八年四月から私立高校に通学している。
 五 そこで、右認定したところに従つて、労働科学研究所の総合消費単位(以下消費単位という。)をも参酌して、相手方が抗告人に分担を求めうる婚姻費用額について検討する。
  1 昭和五五年一〇月三一日(抗告人に婚姻費用分担申立てによる呼出通知が到達した日)から昭和五七年三月三一日(長女啓子の就職)まで
 相手方の収入からは二人の子の監護費用にまわす余裕がないことは生活保護基準に照らしても明らかであり(相手方にこれ以上の収入があることを認めるに足りる証拠はなく、相手方が二人の子の監護のために、その親族から借金するなどの援助をうけていたとしても、婚姻費用分担額算定にあたり、これを考慮する余地はない。)、抗告人は、その収入をもつて、二人の子が自分と同一水準の生活を営みうるだけの費用を婚姻費用として分担すべきである。ただし、前記認定のような事情の下で抗告人が久野比呂子と同棲生活をして、その必要生計費の増加がある以上、これも考慮すべきであり、また、この期間、相手方は月額三万円内外の児童扶養手当を受給し、これが二人の子の監護費用に現実に充てられた以上、親の未成年の子に対する生活保持義務は公的扶助に優先して履行されるべきであるといつても、これを婚姻費用分担額算定にあたつて考慮しないわけにはいかない。
 以上のような諸事情に、この期間の各人の消費単位(抗告人一〇五、久野八〇、啓子九〇、雅子八〇)を参酌すると、相手方が、この期間に抗告人に対して求めうる婚姻費用分担額は月額一二万円をもつて相当とするというべきである。すると、この期間の分担額総額は二〇四万四〇〇〇円(一七か月プラス一日分)となる。
  2 昭和五七年四月一日(啓子の就職)から同年八月三一日(抗告人の退職)まで
 昭和五七年四月一日以降は、啓子は工員として稼働して相当の収入を得ているから、婚姻費用分担額算定にあたり同女の監護費用は考慮する必要がなくなつたものというべきであり、このような事情の変化を勘案すると、相手方が抗告人に求めうるこの期間の婚姻費用分担額は月額七万五〇〇〇円をもつて相当とするというべきである。すると、この期間の分担額総額は三七万五〇〇〇円(五か月分)となる。
  3 昭和五七年九月一日(抗告人の退職)以降
 昭和五七年九月一日以降は、抗告人の継続的収入は減額退職年金(年一四一万八〇〇〇円)だけとなつたのであるが、退職手当金手取額が約七〇二万円あつたことも考慮すべきである(なお、右手取額のうち七〇〇万円が久野比呂子からの借入金の弁済に充てられたとの抗告人の主張については、これに副う久野作成の受領証は直ちに措信しがたく、他にこれを証するに足りる証拠はない。)。
 そこで、これら事情の変化及びこれに伴う消費単位の変動(抗告人は退職により一〇五から一〇〇へ、雅子は高校進学により昭和五八年四月以降、八〇から九〇へ)を勘案すると、相手方が抗告人に求めうる昭和五七年九月一日以降の婚姻費用分担額は月額四万円をもつて相当とするというべきである。すると、昭和五七年九月一日から昭和五八年一一月末日までの分担額総額は六〇万円(一五か月分)となる。
 六 すでに認定したとおり、雅子は三歳ころから抗告人と別居して相手方に監護され、現に名古屋市内の高校に通学しており、別居以来抗告人とはほとんど面会したこともないのであるから、その別居の事情を考慮しても、抗告人の同女引渡しの申立ては理由がないことが明らかである(なお、この申立ては昭和五六年一二月三日の調停期日で合意成立の見込みがないとして審判に移行されたものであることが記録上明らかである。)。
 七 したがつて、本件抗告のうち、婚姻費用分担審判の取消しを求める部分は、その一部について理由があるので、みずから審判に代わる裁判をするのを相当と認め、原審判主文第一項を、本決定主文第一項のとおり変更することとし、本件抗告のうち、子の監護に関する処分審判の取消しを求める部分は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり、決定する。
 (裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 片岡安夫 小林克巳)


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民法759条 財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件 家族法 親族 婚姻

民法759条 財産の管理者の変更及び共有財産分割の対抗要件

(財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件)
第七百五十九条  前条の規定又は第七百五十五条の契約の結果により、財産の管理者を変更し、又は共有財産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

・758条1項による夫婦財産不変原則の例外。

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民法758条 夫婦の財産関係の変更の制限等

民法758条 夫婦の財産関係の変更の制限等

(夫婦の財産関係の変更の制限等)
第七百五十八条  夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない
2  夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。
3  共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる。

・婚姻後夫婦が締結された夫婦財産契約を解約したり、その内容を変更したりすることは、たとえ第三者の利害に影響がなかった場合でも許されない。

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民法756条 夫婦財産契約の対抗要件 家族法 親族 婚姻

民法756条 夫婦財産契約の対抗要件

(夫婦財産契約の対抗要件)
第七百五十六条  夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

・登記されていない夫婦財産契約は夫婦間では有効であるが、夫婦の承継人や第三者に対し対抗力はない。

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民法755条 夫婦の財産関係 家族法 親族 婚姻

民法755条 夫婦の財産関係

(夫婦の財産関係)
第七百五十五条  夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

・婚姻後の夫婦の財産関係について、民法は契約財産制度と法廷財産制度を用意している。本条は契約による財産制度を優先させている。

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民法754条 夫婦間の契約の取消権 家族法 親族 婚姻

民法754条 夫婦間の契約の取消権

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(夫婦間の契約の取消権)
第七百五十四条  夫婦間でした契約は、婚姻中いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

・取消権の行使は婚姻中に限られる!

・婚姻中ならばいつでも取消権を行使できる
=一般的な取消権の行使期間を制限する126条は適用されない
=20年以上前に婚姻中締結された契約の取消しもできる

・取消しの効果は遡及し、履行完了後でも回復を求められる。

・婚姻が実質的に破たんしている場合は、夫婦間の契約を取り消すことはできない!!!

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