民事実務の基礎 3 要件事実総論




要件事実総論

 

1.売買契約を例に

(1)請求の趣旨

認容判決の主文に該当

(2)訴訟物

訴訟物の個数は債権的請求の場合、契約の個数で定まる

(3)請求原因

訴訟物である権利又は法律関係の発生原因のこと

ⅰ)実体法上の成立要件と請求原因

・(売買)
第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

請求原因は、売買契約の締結(財産権移転の約束+代金支払の約束)

 

ⅱ)要件事実の具体的内容

・目的物と代金額を主張しなければならない。

・代金債務の期限の合意は本質的要素ではなく、売買契約の付款に過ぎない

付款の主張立証責任は、それにより利益を受ける当事者が負う。

=支払期限の合意及び到来は請求原因として主張立証しなくてもよい。

・売主の目的物所有は成立要件ではない←他人物売買でも成立するから

・諾成の売買契約は目的物の引渡しがなくとも合意によって成立。=引渡しは成立要件ではない。同時履行の抗弁に対する再抗弁になる。

 

ⅲ)主張している事実と証拠により認定できる事実との同一性

当事者の主張した事実と裁判所の認定する事実との間に、事実の態様や日時等の点について食い違いがあっても、社会通念上同一性が認められる限り、当事者の主張しない事実を認定したことにはならない。

 

(4)権利の発生と判決の基準時

権利は、過去の一時点に成立すると、相手方でその消滅事由等を主張立証しない限り、現在も存続。

 

2.要件事実とは

(1)要件事実の意義

発生

障害=権利の発生を傷害

消滅=発生後に権利を消滅させる

阻止=権利行使を阻止

 

(2)主張立証責任の分配と要件事実

ⅰ)立証責任

要件事実の存在が争われた場合、証拠によって立証しなければならない。

・立証責任=訴訟上ある要件事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方当事者の負う不利益

ⅱ)主張責任

ある法律効果の発生要件に該当する事実が主張されないことによって、当該法律効果の発生が認められないという一方当事者の不利益のこと。

ⅲ)主張立証責任の分配(法律要件分類説)

一定の法律効果の存在を主張する者は、その効果のその効果の発生を定める適用法規の要件事実について立証責任を負う。

実体法規の規定の文言形式を基本としつつ、法の目的趣旨・類似関連する法規との体系的整合性、要件の一般性と特別性、原則例外との関係、立証の難易度なども考慮して決める。

 

(3)否認と抗弁

ⅰ)否認と抗弁の区別

抗弁=請求原因と両立し、請求原因から発生する法律効果を障害消滅阻止する事実

否認=請求原因と両立せずに単に請求原因の存在を否認しているに過ぎない主張

ⅱ)抗弁の種類

・障害の抗弁=法律効果の発生が(最初から)認められなくなる

・消滅の抗弁=事後的にその発生した請求権を消滅させる

・阻止の抗弁=権利行使を一時的に阻止(留置権・同時履行の抗弁)

 

(4)再抗弁

抗弁と両立し、抗弁から発生する法律効果を障害消滅阻止し請求原因の法律効果を復活させる事実

 

(5)検討

請求原因:売買契約の締結

抗弁:錯誤

再抗弁:重過失

 

・478条と480条の主張立証責任

(債権の準占有者に対する弁済)
第四百七十八条  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

(受取証書の持参人に対する弁済)
第四百八十条  受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない

 

(6)ポイント

ⅰ)必要最小限の事実と本質的要素の抽出

当事者の合意を立証しなければ法律効果を得ることができないかという観点から考える。

本質的要素で不可分一体をなす事実はどこまでか。

ⅱ)実体法上の要件の抽出と主張立証責任の分配

ⅲ)事実と評価の峻別

事実の評価を要件事実として摘示してはいけない

例:×Aは未成年 ○Aは19歳

未成年とは法的評価概念!

 

ⅳ)時的因子と時的要素

・時的因子=いつの時点の事実か。事実を特定するもの。

・時的要素=いつの時点の事実かが本質的な要素となっている場合。(取得時効の占有開始時など)

・要件事実が事実状態である場合(悪意などの心理状態等)には、時的要素を明確に示す必要。(占有開始時の善意等)



渋谷秀樹 憲法への招待 3 憲法は私たちが守らなくてはならないものか




憲法とは何か
憲法は私たちが守らなくてはならないものか

1.法の支配と人の支配

・プラトン
人の支配は必ず誤りをおかすので、統治者を法で縛る「法の支配」を採らざるを得ない。

・法の支配にいう法は政府の統治活動を拘束する。
・人の支配にいう法は拘束しない

・法治主義
議会の作る法が行政部司法部を拘束する。
⇔議会を拘束する者がなければ暴走の危険ので不完全

・法の支配の原理は、統治活動を担当するすべての人間に対する不信に根差したものである。

2.高次法思想と自然権思想の合流
・「法の支配」の原理を生み出した高次法思想

・高次法とは、
統治者が作るものではなく、その上にあらかじめ存在するもの。

客観的に存在する正義を認識し確認する

市民に権利を保障する法が統治活動を拘束すべきである

・高次法は形式主義。支配すべき法の内容は時代時代の正義の観念を反映している。

 

 

3.日本国憲法と「法の支配」

法の支配を直接に明言する規定はないが、

97条は基本的人権の重要性を強調。

98条は最高法規性、憲法の支配を規定しており、法の支配の原理を示している。

99条は統治活動にかかわる者を拘束。

81条は違憲審査制

⇒これらで法の支配が制度的に完成

 

・憲法を守らなければならないのは統治活動を担当する政府でありそれを担う人。

一般市民に憲法を守れと命じた規定がないのは法の支配の考えから当然の論理的帰結。



ロバートBライシュ 最後の資本主義 8 執行のメカニズム




執行のメカニズム

 

何を執行しないかについての判断は公表されない。

 

1.執行体制の空洞化

・議会が法律の執行に必要な予算を割り振れないようにする。

・特定の法律を望ましく思っていないが、明白に反対の立場をとって国民の反発を買うことを避けたい場合は、法の執行資金を潤沢に与えないように動く。

 

2.骨抜きにされる「法」

事実上執行不可能になるように、法文に抜け穴や例外を書き込む。

先物取引により消費者物価が高騰→富裕層への再分配

・政府は費用対効果を図るべきである。だが、大企業は計測してくれる専門家を抱えており、有利。

・資本主義に対する不信と政治の荒廃

 

3.痛くない罰金

潜在的な利益に比べて罰金が小さい場合、事業を遂行する上での単なるコストとみなされてしまう。

 

4.罪と罰のアンバランス

法律に反対しているとは思われたくないが、骨抜きにしたい場合に、罰を軽く設定。

政府は、わずかな予算では長期の裁判に耐えられないため、和解を希望することになる。法執行メカニズムの弱体化。

 

5.裁判官と選挙資金

判事が企業側からもらう資金が多ければ多いほど企業に有利な判決をする傾向

 

6.難しくなる集団代表訴訟

弁護団を結成できる大企業は有利。

義務的仲裁条項が訴訟をやりにくくしている。



ロバートBライシュ 最後の資本主義 7 新しい時代の倒産の形




 

新しい時代の倒産の形

 

・やり直しがきくのは破産法を自分に都合よく変えられるだけの政治的影響力を持つ大企業等。

倒産:犠牲の分かち合い

クレジットカード会社と銀行が大部分を作成。

 

1.逃げ切るCEO

・労働組合との間の契約を反故にするための倒産。

 

2.破産できない住宅ローン

住宅ローンのコストが高くなるという主張

 

3.解消できない学費ローン

 

4.富めるデトロイト、貧するデトロイト

オークランド郡とデトロイト市

郊外へ裕福な市民は逃げ出した。

 

5.犠牲は分かち合えるか

痛みを分かち合う「私たち」とはだれか?

 


ロバートBライシュ 最後の資本主義 6 新しい時代の契約の形




 

新しい時代の契約の形

 

新しい時代の契約にまつわる事柄に政治的な影響が入り込む素地

売春:貧困層からの搾取につながるおそれ

契約したがっている特定の契約を禁じても、闇市場で履行されてしまう。

 

1.ウォール街の「法貨」

超高速取引の出現により、インサイダー取引を定義することが難しくなっている。

証券市場において秘密情報は法貨である。

⇔欧州では秘密情報に基づく取引は違法

インサイダー取引を禁じると市場の効率性は落ちるが、、、小口投資家が不利益を

 

2.強要される契約

大企業が市場を封じ込めた場合、契約に選択肢がなくなる。

利用条件に同意させて、ユーザーに法的権利を放棄させる。

・独占企業は、犠牲者からすべての法的手段を効果的に奪う契約を強要することに独占的権力を使っている

・契約は受け入れを強要する力を持った巨大企業が生み出す既成事実

・大企業は、契約が法的にどの程度許容され、どの程度強制可能かを決めることにおいてまで、強大な力を持つ。

 


ロバートBライシュ 最後の資本主義 5 新しい時代の独占の形




新しい時代の独占の形

 

・十分な市場支配力があれば、投資やイノベーションを起こそうという動機づけになる。一方消費者価格を上昇させる。

・市場支配力は政治力へも転換される。

・問題は特定の企業が過度に市場支配力を持つことが許されるか、判断がどのようになされ、社会にどんな影響を与えるのか。

・市場独占により、新規企業の参入が難しくなる。

 

1.米国のインターネットが遅いワケ

ケーブル業界における独占の問題。コムキャスト。

敷設を行った者が独占をしてしまう。

組織ぐるみの主張に説得力があると思いがち。

 

2.農業にもある独占

モンサント社。取引業者に競合他社の趣旨を補完することを禁じ、残った会社を買収。種を作らない作物の開発。

趣旨の価格の上昇。遺伝的多様性の減少。

経済力を駆使して政治的権力を得て、その政治力を使って市場支配力を高める。

 

3.ICTにみる「独占」

主要な特許を取得→特許を守り他社を特許侵害で訴える→ライセンス契約を締結して自社製品を使うことを強要→業界標準を確立→政治力を駆使して全経済分野への拡大。

・プラットフォームの所有者が持つ力が増大するにつれ、イノベーターが自分の貢献への対価を有利に交渉する力は縮小する。

・ルールが標準プラットフォームの所有者に都合よく変えられている。

ネットワークを支配する。

 

4.ウォール街の支配

企業の上場を事実上支配

政界とウォール街の癒着

金融市場の操作

 

5.保険業界のパワー

保険会社と巨大病院

 

6.独禁法の効用

経済支配力の集結によって過度な政治的影響力が生じるのを防ぐ

・エドワードGライアン

「社会を支配するのは富なのか人間なのか。主導するのはカネなのか知性なのか。」

抑制のきかない経済力と政治力

・自由は富を生み、富は自由を壊す。



民事実務の基礎 2 訴訟物




 

訴訟物

1.旧訴訟物理論と新訴訟物理論

訴訟物=原告が主張する一定の権利または法律関係

旧訴訟物理論→実体法上の個別的具体的な請求権の主張

 

 

2.既判力の客観的範囲

旧訴訟物理論をとり、訴訟物が別であったとしても、前訴において審理され、それについて裁判所の判断が示されているのと同じ請求をした場合には、原則として信義則に反する。

 

3.処分権主義

(1)訴訟物の選択

・処分権主義

+(判決事項)
第二百四十六条  裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。

原告が訴訟物として何を選択したのかは、原告の主張(訴状の記載)を合理的に解釈して判断する。被告の主張から推察してはならない!

例 自賠法3条か709条か

・売買契約に基づく土地明渡請求権

XY甲土地売買

 

・所有権に基づく土地明渡請求権

Y売買当時甲土地所有

XY甲土地売買

Y甲土地占有

 

・消滅時効が問題となる場合の配慮

売買契約に基づく明渡し請求権は10年で時効により消滅してしまう。

⇔所有権に基づく請求権は消滅しない。

 

+α 不法行為に基づく損害賠償請求権(3年)

 

(2)選択的併合と予備的併合

・選択的併合=請求のいずれかが認容されることを解除条件として他の請求について判断をもとめるもの。

・予備的併合=まず主位的請求について判断、主位的請求が認容されることを解除条件として予備的な請求をしている

 

・主張については、原則として、当事者はどれから判断してもらいたいという順位をつけることはできない。

ただし、相殺の抗弁については既判力が生じるので、他の抗弁について判断した後に判断する必要がある。

 

 

4.訴訟物の特定と個数

(1)訴訟物の特定

・債権的請求権の場合

訴訟物の特定←権利義務の主体、権利の内容、権利の発生原因

どこまで具体化するかは、他との誤認混同を生じる可能性があるか否かという相対的な問題

・物権的請求権の場合

訴訟物の特定←主体と内容

 

(2)訴訟物の個数

・債権的請求の場合=契約の個数

・物権的請求の場合=侵害されている所有権の個数と所有権侵害の個数

(侵害されている側と侵害する側の両方から訴訟物の個数を検討)

 

(3)留意点

強制執行ができる程度に特定

 

5.債務不存在確認請求と給付請求

給付訴訟が提起されると、債務不存在確認訴訟は、確認の利益がなくなる。

 

6.演習

・証拠上認められるのに、主要事実の主張がない場合、裁判所としては、その主張をするかについて釈明しておくのが相当。

・+(訴状等の陳述の擬制)
第百五十八条  原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる。

・+(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

 

・間接事実は証拠と同列であり、主張レベルの問題。自由心証主義により、自白の問題は生じない。

 


ロバートBライシュ 最後の資本主義 4 新しい時代の所有権




新しい時代の所有権

 

・私有財産とは、自由市場に基づく資本主義において最も基本的な構成要素

ただ、政府は所有権を規定し強制する方法を多く持っている。

・私有財産は共有財産に比べてメリットがある。

共有地の悲劇=合理的だが利己的な個人は共有資源を大切にしないおそれ。

 

・何をどのような条件でどれくらいの期間所有することができるのか。

 

1.現代の所有権

・所有は自由市場がかくあれと指定するわけではなく、財産取り決めや契約によって規定される。

・会社は誰のものか?

企業の業績に利害を持つすべての者→株主のもの??

・将来に備えて希少な資源を促進するとか、希少資源を必要とする人たちがそれをきちんと使えるようにする技術に投資を促す場合にも、所有権が使われる。

 

2.ニューエコノミーの所有権

知的財産・・・誰がどの部分をどのような条件で所有できるかを政府が決める。

・発明しようという気になるほど十分な所有権を発明家に付与することと、発見の成果物を一般の人々が負担可能な費用で利用できるようにするバランスを。

 

3.法曹界と特許

所有権を持つ者の経済的な力が、その権利をさらに強力で永続的にするための政治力や法的な力に変容する。

 

4.製薬ビジネスと著作権

一時的独占権が、特許が切れるはずの期間が満了した後もなお継続されている問題。

←既存特許に対する些細な変更をも新規情報とみなして、特許が延長されるため。

処方薬のマーケティング

海外薬局からの購入禁止

処方した医師への報酬支払

ジェネリックへの遅延料契約

 

5.ミッキーマウス法のカラクリ

著作権者の利益が増大するに従い、政治的影響力も高まった。

企業がより多くの利益を得る一方、消費者は高いコストを支払う

 


ロバートBライシュ 最後の資本主義 3 自由と権力




 

自由と権力

合理的で不変な自由市場を支持している者ほど市場メカニズムに影響力を持ち、ルールを都合よく変えている。

・企業に言論の自由を認めた→相対的に市民の「聞いてもらう自由」が損なわれる

・大企業と富豪がゲームのルールに影響力を行使しようと企てる方策として「自由」が利用される。

選挙戦への献金、裁判所を使用したルール作り、公務員に転職先を紹介する子どで癒着、自らに有利なシンクタンクや広告の作成

・言論の自由・・・誰にとっての自由か

・見込まれる経済的利益が十分に大きければ、個人の自由を侵害するおそれが大きい。

・自由とは権力について触れることなしには意味をなさない。

 


ロバートBライシュ 最後の資本主義 2 資本主義の5つの構成要素




 

資本主義の5つの構成要素

自由市場を実現するために

・所有権→所有できるものは何か

・独占→どの程度の市場支配力が許容されるか

・契約→売買可能なものは何で、それはどんな条件か

・破産→買い手が代金を支払えないときはどうなるか

・執行→ルールを欺くことがないようにするにはどうするか

 

これらの決まりそのものが自由市場を構成している

ルールが公正に選ばれたものであれば、平均的な市民の考え方が反映されているはず。自由市場は大多数の人々の福利にかなうような結果を生み出すはず。

 

・市場の勝者と敗者を分かつのに大きな影響を及ぼしているのは政府による市場構築の仕方である。

・権力や影響力は市場ルール形成過程に潜んでいるため、そこから出てくる経済的な損益は非人間的な市場の力によってもたらされる中立的な結果であると誤解されている。