不法行為法 12 差止請求と損害賠償


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1.差止請求を認めることの必要性
損害賠償は、一般的な事故抑止・予防機能は果たすが、あくまで事後的な救済手段にすぎない。

差止め請求を認めるにあたっては、
単に被害者の権利利益の保護の必要性のみならず、行為者の権利利益保護の必要性や、差し止められようとする行為が社会においてどのような価値を有しているのかも含めて、行為者の行動の自由への過剰な介入とならないように衡量を行う必要がある。

2.生活妨害の差止めとその法的根拠
・物権的請求権説
物権的請求権の1形態として差止請求を認める
受忍限度を超えたか否かを基準とする
⇔物権侵害が認められない場合にはどうするのか・・・

・人格権説
人格権に基づくに基づく妨害排除・妨害予防請求権を肯定
侵害者側の行動の自由を制限することによる損失と、被害者側のそれによって受ける利益との比較衡量
衡量を行う場として受忍限度
←人格権は人間の存在にとってもっとも基本的な事柄であり、法律上絶対的に保障されるべきものであって、何人もみだりに侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。

人格権
=生命・健康を人間が本来有する状態で維持し得る権利

人格権侵害
=個人の人格に本質的に付帯する個人の生命、身体、精神および生活に関する利益の侵害

・環境権説
環境権に基づく差止め

環境権
=よき環境を享受し、これを支配し、かつ、人間が健康で快適な生活を求める権利
←幸福追求権、生存権

⇔実定法上何らの根拠もなく、権利の主体・客体・内容の不明確な環境権を、排他的効力を有する私法上の権利であるとするのは法的安定性を害し許されない。

3.差止め請求と受忍限度
・全ての権利の行使は、その態様ないし結果において、社会通念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであって、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が、社会生活上一般的において忍容するを相当とする程度を超えたと認められるときは、その権利の行使は、社会通念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用にあたるものであって、違法性を帯び、不法行為の責任を生ぜしめる。
←一般市民が各種の企業によって受けるべき被害は無視できないが、企業がそのような被害を与えながらも他方においてより多くの利益を生み出しているという見方
+判例(S47.6.27)

・受忍限度に関する判断に当たって、
侵害行為の態様と侵害の程度
被侵害利益の性質と内容
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度
を比較検討するほか、
侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況
その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し
これらを総合的に考察

+判例(S56.12.16)大阪空港公害訴訟

+判例(H7.7.7)国道43号線訴訟・差止請求
理由
一 上告人らの代理人加藤和夫、同中野哲弘、同鈴木健太、同佐村浩之、同萩原秀紀、同原田勝治、同中村誠、同田中清、同赤西芳文、同山本恵三、同鈴井洋、同原後二郎、上告人国の代理人伊藤勝則、同増田憲樹、同米原睦裕、同大森雅夫、同吉崎収、同酒井利夫、同横田耕治、同油谷充寿、同足立徹、同大西宣二、同玉置稔、同松本瞭、同平野裕、同石原佶、同下孝二、同斉木真佐夫、同松寺克哲、同佐野正道、上告人阪神高速道路公団の代理人原井龍一郎、同吉村修、同占部彰宏、同田中宏、同小原正敏、同志野幸功の上告理由第一点について
 1 上告理由第一点の一の1について
  所論は、要するに、上告人らの設置又は管理に係る一般国道四三号、兵庫県道高速神戸西宮線及び同大阪西宮線(以下、これらを「本件道路」という。)の供用に伴い自動車から発せられる騒音、排気ガス等がその周辺住民に生活妨害等の被害をもたらす危険性を生じさせる騒音レベル、排気ガス濃度等の最低基準を確定しないで、本件道路の設置又は管理に瑕疵があるとした原判決には、理由不備の違法があるというものである。
  国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態、すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうのであるが、これには営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むものであり、営造物の設置・管理者において、このような危険性のある営造物を利用に供し、その結果周辺住民に社会生活上受忍すべき限度を超える被害が生じた場合には、原則として同項の規定に基づく責任を免れることができないものと解すべきである(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。そして、道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して同項の規定に基づき損害賠償の請求がされた場合において、右道路からの騒音、排気ガス等が右住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたときは、当然に右住民との関係において右道路が他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあったことが認定判断されたことになるから、右危険性を生じさせる騒音レベル、排気ガス濃度等の最低基準を確定した上でなければ右道路の設置又は管理に瑕疵があったという結論に到達し得ないものではない。原判決は、本件道路からの騒音、排気ガス等がその近隣に居住する被上告人らに対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことを認定判断した上で、本件道路の設置又は管理に瑕疵があったとの結論を導いたものであり、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 2 同第一点の一の3について
  所論は、要するに、本件道路の近隣に居住する被上告人らが暴露された屋外騒音レベルの認定に理由不備、理由齟齬、経験別違反、採証法則違反の違法があるというものである。
  営造物の供用に伴い発せられる騒音によって被害を受けたとして多数の周辺住民が損害の賠償を求める事件において、日常の各自の屋外騒音レベルを認定するに当たって、当該騒音の発生源の性質、音量、音の方向、発生源と居住地との位置関係等各住民が暴露された騒音レベルに影響を与える要因を勘案して、周辺住民を適切なグループに区分し、そのグループごとに右騒音レベルを推認することは、合理的な方法として許されるものと解すべきである。
  本件における騒音の発生源は本件道路を走行する自動車であって、その騒音はほぼ一日中続くものであるところ、原判決は、本件道路の周辺地域を、交通量によって三地域に、道路構造によって四区画に分類した上、さらに本件道路端からの遠近や本件道路への見通しの程度に基づき、本件道路の近隣に居住する被上告人らを合計一九のグループに分け、原審における鑑定(被上告人らの約三分の一に当たる四七戸を対象とするもの)の結果を基本にして、右のグループごとに上限と下限の等価騒音レベル(Leq)による数値を抽出し、その幅のある数値をもって同一のグループに属する各住民が日常暴露された原則的な屋外騒音レベルと推認するという方法によったものであるが、この方法は、原審の適法に確定した事実関係に照らし、合理的なものとして是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 3 同第一点のその余の点について
  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
二 同第二点について
  所論は、要するに、本件道路の設置又は管理に瑕疵があったとするには、財政的、技術的及び社会的制約の下で上告人らに被害を回避する可能性があったことが必要であるのに、この点の判断をしないまま、右の瑕疵を認めた原判決には、判断遺脱の違法又は国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法があるというものである。
  国家賠償法二条一項は、危険責任の法理に基づき被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体の責任発生の要件につき、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときと規定しているところ、所論の回避可能性があったことが本件道路の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件になるものではないと解すべきである。
  そして、原判決は、その理由の「第八 違法性(受忍限度)」と題する項目の二において、上告人らが実施した対策の内容とその実効性について詳細に検討した上、右項目の五において、上告人らが巨費を投じて種々の対策を実施したことは評価できるものの、十分に実効を収めているとまでは評価し難いとしているのであって、これらの判示を総合すると、原審は、国家賠償法二条一項の解釈について右と同旨の立場に立った上で、上告人らにおいて本件道路の供用に伴い被上告人らに被害が生じることを回避する可能性がなかったとはいえない旨判断しているものとみることができ、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 三 同第三点について
 1 同第三点の一について
  所論は、要するに、本件における侵害行為は本件道路の供用に伴い自動車から発せられる騒音、排気ガス等によるものであるが、自動車の走行それ自体は社会的に有用な行為であって、本件道路は高度の公共性を有しているところ、その侵害の程度は軽微であって、本件道路の近隣に居住する被上告人らの受けている被害は騒音等に対する不快感程度のものであるから、被上告人らの被害は社会生活上受忍すべき範囲内のものであるのに、受忍限度を超えるものとした原判決には、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法、理由不備、理由齟齬、経験別違反の違法があるというものである。
  営造物の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり、営造物の設置・管理者において賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである(前記大法廷判決参照)。
  これを本件についてみるのに、原審の適法に確定したところによれば、原審認定に係る騒音等がほぼ一日中沿道の生活空間に流入するという侵害行為によりそこに居住する被上告人らは、騒音により睡眠妨害、会話、電話による通話家庭の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循環による精神的苦痛を受け、また、本件道路端から二〇メートル以内に居住する被上告人らは、排気ガス中の浮遊粒子状物質により洗濯物の汚れを始め有形無形の負荷を受けていたというのである。他方、本件道路が主として産業物資流通のための地域間交通に相当の寄与をしており、自動車保有台数の増加と貨物及び旅客輸送における自動車輸送の分担率の上昇に伴い、その寄与の程度が高くなるに至っているというのであるが、本件道路は、産業政策等の各種政策上の要請に基づき設置されたいわゆる幹線道路であって、地域住民の日常生活の維持存続に不可欠とまではいうことのできないものであり、被上告人らの一部を含む周辺住民が本件道路の存在によってある程度の利益を受けているとしても、その利益とこれによって被る前記の被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はなく、さらに、本件道路の交通量等の推移はおおむね開設時の予測と一致するものであったから、上告人らにおいて騒音等が周辺住民に及ぼす影響を考慮して当初からこれについての対策を実施すべきであったのに、右対策が講じられないまま住民の生活領域を貫通する本件道路が開設され、その後に実施された環境対策は、巨費を投じたものであったが、なお十分な効果を上げているとまではいえないというのである。そうすると、本件道路の公共性ないし公益上の必要性のゆえに、被上告人らが受けた被害が社会生活上受忍すべき範囲内のものであるということはできず、本件道路の供用が違法な法益侵害に当たり、上告人らは被上告人らに対して損害賠償義務を負うべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
論旨は採用することができない。
 2 同第三点の二について
  所論は、要するに、本件道路からの騒音、排気ガス等により受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するためにした原判決の基準の設定に、理由不備、理由齟齬、経験則違反の違法、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法があるというものである。
  身体的被害に至らない程度の生活妨害を被害の中心とし、多数の被害者が全員に共通する限度において各自の被害につき一律の額の慰謝料という形でその賠償を求める事案において、各自の被害が受忍限度を超えるかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様及び被害の内容との関連性を考慮した共通の基準を設定して、これに基づき受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別することに合理性があるというべきである。原審の適法に確定した事実関係によれば、本件においては、共通の被害である生活妨害によって被る精神的苦痛の程度は侵害行為の中心である騒音の屋外騒音レベルに相応するものということができるところ、原審は、前記1の諸要素を考慮した上、公害対策基本法九条に基づく環境基準及び騒音規制法一七条一項にいう指定地域内における自動車騒音の限度の各値をも勘案して、(一) 居住地における屋外等価騒音レベルが六五以上の騒音に暴露された被上告人らは、本件道路端と居住地との距離の長短にかかわらず受忍限度を超える被害を受けた、(二) 本件道路端と居住地との距離が二〇メート以内の被上告人らは、(1) その全員が排気ガス中の浮遊粒子状物質により受忍限度を超える被害を受けた、(2) 騒音及び排気ガスによる被害以外の心理的被害等を併せ考えると、屋外等価騒音レベルが六〇を超える騒音に暴露された者が受忍限度を超える被害を受けたと判断したものである。要するに、原判決は、受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するため、居住地における屋外等価騒音レベルを主要な基準とし、本件道路端と居住地との距離を補助的な基準としたものであって、この基準の設定に不合理なところがあるということはできず、所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するところに帰し、採用することができない。
四 同第四点について
  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
  なお、被上告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5は、当審において訴えの一部を取り下げたので、原判決主文において引用する損害賠償認容額一覧表(一)の原告番号71及び75、同表(二)の原告番号114、116及び152の各弁護士費用欄及び総額欄は、別表のとおり変更された。
五 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

4.請求の特定性
求められた作為不作為については、執行ができる程度に内容が明確でなければならない。

・抽象的不作為命令(具体的な措置を明示しない)を求める訴え
抽象的不作為命令を求める訴えも、請求の特定性に欠けるものということはできない
←一定の生活関係における具体的な危険ないし危険発生源と侵害結果との特定により差止め請求権を特定できる
企業活動等によって一般人の権利が侵害される場面で、侵害発生のメカニズムを被害者が覚知できず、請求すべき侵害防除措置の具体的特定が困難な場合が生じる場合も少なくない

5.差止めと損害賠償~将来の損害の賠償可能性
・将来給付の訴え
①現在すでに請求の基礎となる事実関係が存在し、かつ、
②請求内容が明確である場合において
③あらかじめ請求をする必要性のあるときに限って、
将来給付の訴えを提起することが許される!

+判例(S56.12.16)大阪空港公害訴訟

6.関連問題 将来損害項目と事情変更

ⅰ)判決確定後の後遺症の発症
明示の一部請求訴訟についての確定判決の既判力は、残部の請求に及ばない
→問題の追加請求は前訴の最終口頭弁論期日後に生じた事情によって生じた費用を損害として賠償請求するものであり、
前訴と本件訴訟はそれぞれ訴訟物を異にするから、前訴の確定判決の既判力は本件訴訟に及ばない

ⅱ)不動産の継続的不法行為
判決確定後に土地の価格が急騰し、公租公課が増加した場合。
判決の既判力は、右の差額に相当する損害金の請求には及ばず、所有者が不法占拠者に対し新たに訴えを提起してその支払いを求めることを妨げるべきものではない。
←当事者の意思や借地借家法11条に照らすと一部請求だったといえるから。


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