債権総論 3-6 債権の効力 第三者による権利侵害

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第6節 第三者による権利侵害

一.債権の性質と第三者による権利侵害

・債権は債務者に対してのみ主張できる相対的な権利であり、第三者には効力が及ばない。また、排他性もない。

・債権が相対的なものであるとしても、債権者を保護する必要はある

→債権の対外的効力
債権侵害の場合に債権者の保護のために第三者に対して認められる債権の効力。

二.債権侵害による不法行為

1.債権侵害による不法行為

2.権利侵害の態様
(1)債権の帰属自体を侵害した場合
・無権限の者が有効な弁済を受けた場合
不法行為の成立要件として過失があれば足りる

(受取証書の持参人に対する弁済)
第四百八十条  受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

(債権の準占有者に対する弁済)
第四百七十八条  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

(2)債権の目的である給付を侵害して債権を消滅させた場合
債務者の責めに帰すべき事由によらない履行不能として債権が消滅
→不法行為

(3)給付を侵害したが、債権は消滅しない場合
債権は消滅しないで損害賠償債権として残るが、債権本来の内容が実現できないので、不法行為が成立。
不法行為責任を追及するには、第三者に故意があり、かつ、第三者の行為の違法性が強いことが必要。

三.債権侵害に対する妨害排除請求

・賃借権に基づく妨害排除請求権

・二重賃借の場合
先に対抗力を備えた賃借人は、妨害排除請求権を行使できる。

+(不動産賃貸借の対抗力)
第六百五条  不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。

借地借家法
+(借地権の対抗力等)
第十条  借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2  前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条第一項 及び第三項 の規定は、前二項の規定により第三者に対抗することができる借地権の目的である土地が売買の目的物である場合に準用する。
4  民法第五百三十三条 の規定は、前項の場合に準用する。

+(建物賃貸借の対抗力等)
第三十一条  建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
2  民法第五百六十六条第一項 及び第三項 の規定は、前項の規定により効力を有する賃貸借の目的である建物が売買の目的物である場合に準用する。
3  民法第五百三十三条 の規定は、前項の場合に準用する。

・不法占有者に対しては
賃借権が対抗力を有するときは妨害排除請求権を認める。

・賃借権が対抗力を備えていない場合は
占有を開始していた時は
+(占有保持の訴え)
第百九十八条  占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

不動産賃借権保全のために、債権者代位権を用いて、賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使することができる。

+(債権者代位権)
第四百二十三条  債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2  債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。


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債権総論 3-5 債権の効力 受領遅滞

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第5節 受領遅滞

一.受領遅滞の意義と性質

1.意義

・受領遅滞とは、
債務者が履行の提供をしたにもかかわらず、債権者が履行を受けることを拒み(受領拒絶)または履行を受けることができない(受領不能)場合をいう(413条)
+(受領遅滞)
第四百十三条  債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。

2.法的性質

受領遅滞を債権者の債務不履行とみるかどうか。

(1)法定責任説

債権者には弁済を受領する権利があるだけで、受領すべき義務はない。
受領遅滞は、債権者の債務不履行ではなく、債権者が受領しないことによって債務者が不利益を受けないように、法律が特別に債権者に一定の責任を認めたものと解する説。
受領遅滞の効果を履行提供の効果と同じものとみる。
債権者の帰責事由は不要であるので、受領遅滞を理由とする債務者による契約の解除や損害賠償場問題にならない。

(2)債務不履行説

債権者には一般的に債務者の弁済を受領する義務があり、受領遅滞は、子の債権者の受領義務の不履行であると解する説。

(3)折衷説

一般に債権者には受領義務はないが、売買請負寄託などの場合には、債権者に信義則に基づく付随義務としての目的物の引き取り義務が認められることを理由に、
受領遅滞はこの引き取り義務の違反であり、債権者の債務不履行になる。

二.受領遅滞の要件

1.債務の本旨に従った履行の提供

債務の本旨に従った履行の提供であるかは、
取引観念・信義則・契約内容・法律の規定などを基準として判断される。

2.債権者の受領拒絶または受領不能

(1)受領拒絶と受領不能

(2)受領不能と履行不能

不能の原因が債権者と債務者のどちらの支配する領域の事由に基づいているかによって履行不能か受領不能かを判断する。

三.受領遅滞の効果

1.債務不履行責任を負わないこと

法定責任説は、受領遅滞が履行の提供を要件とすることから、受領遅滞の効果と履行の提供の効果を同一視する。
+(弁済の提供の効果)
第四百九十二条  債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
具体的には
①債権者から損害の賠償を受けない
②契約を解除されない
③担保責任を実行されない
④約定利息が発生しない
⑤違約金を支払う必要がない
⑥双務契約の場合には債権者の同時履行の抗弁権がなくなる

2.供託

+(供託)
第四百九十四条  債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。
法定責任説と折衷説は、供託を受領遅滞の効果と解する
債務不履行説は、供託は履行の提供を要件としないので受領遅滞の効果でも履行提供の効果でもないとする。

3.注意義務の軽減

善管注意義務の軽減
どの程度まで軽減するかには争いあり
①善管注意義務を著しく怠った重過失があるときに債務者は責任を負うとする説
②自己の財産に対すると同一の注意義務を怠ったとき(具体的軽過失があるとき)に債務者は責任を負うとする説

4.増加費用の性質

債権者は受領遅滞のために増加した目的物の保管費用や弁済費用を債権者に請求できる

5.危険負担の移転

債務者が負担していた危険は受領遅滞によって債権者に移転する
=この効果は、危険負担において債務者主義が働く場合に意味がある。

6.損害賠償の請求と契約の解除

(1)学説

(ア)法定責任説
債権者には弁済を受領する義務がないから、受領遅滞は債権者の債務不履行ではない
→債務者は、受領遅滞を理由に損害賠償の請求や契約の解除をすることができない。
双務契約から生じた債務であれば、受領遅滞に陥っている債権者は通常自己の債務についても不履行の場合が多いので、債務者は債権者の不履行を理由に損害賠償の請求や契約の解除ができる。
(イ)債務不履行責任説
受領遅滞を理由に損害賠償請求や契約の解除ができる
(ウ)折衷説

(2)判例

・請負契約で注文者の受領遅滞を理由とする請負人の契約解除を否定
+判例(S40.12.3)
理由 
 上告代理人伊藤仁の上告理由第一点について。 
 論旨は、債権者にも信義則の要求する程度において給付の実現に協力すべき法律上の義務があり、給付の不受領はあたかも債務者が履行しない場合と同じく債務不履行となるものと解すべきである、と主張し、債権者は債権の目的物を受領する義務なく債権者の受領遅滞を理由として債務者は契約解除をなしえない旨の原判決の判断は、民法の基本原則である信義則に違反する、という。 
 しかし、債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法はの予想していないところというべきである。民法四一四条・四一五条・五四一条等は、いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては、供託・自動売却等の規定を設けているのである。されば、特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない旨の原判決は正当であつて、論旨は採用することができない。 
 同第二点について。 
 上告人の本訴は損害賠償の請求であつて、請負代金の支払を求めるものでないこと明らかであるから、論旨は無用の論議に帰し、排斥を免れない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外) 
・硫黄鉱石の継続的な売買契約において買主に引き取り義務を認め、この義務違反を理由に売主の損害賠償請求を認めた
+判例(S46.12.16)
理由 
 上告代理人浅沼澄次、同神田洋司(以下、上告代理人浅沼澄次らという。)の上告理由第一点および第三点について。 
 本件記録によれば、原判決の理由第一の一の(四)の事実は当事者間に争いがないとの説示は、相当である。また、所論甲第二号証にいわゆる別紙買鉱契約の成立の有無および甲第二号証の契約と甲第三号証(鉱石売買契約書)との関係に関する原判決の認定判断は、その拳示する証拠に照らして、首肯するに足りる。論旨は、採用しがたい。 
 同第二点の一、二および上告代理人浜本一夫、同二宮節二郎(以下、上告代理人浜本一夫らという。)の上告理由第一点ないし第三点について。 
 本件硫黄鉱石売買契約においては、被上告人北海硫黄鉱業株式会社(以下、被上告会社という。)が本件鉱区から採掘する硫黄鉱石の全量が売買の対象となつていたものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠および原審が右証拠により適法に認定した諸事実によれば、首肯しえないものではない。そして、記録によれば、被上告人らは、第一審以来、右のとおり被上告会社の採掘する鉱石の全量が売買の対象となつていた旨主張していたものと認めるのが相当であつて、上告代理人浜本一夫らの上告理由が指摘する被上告人らの主張の趣旨は、売買の対象となつていたのは、前述のとおり、採掘鉱石の全量であるが、本件において、被上告人らが上告人にその引取義務があると主張している二四〇〇トン(湿鉱量)の鉱石は、実際に、品位七〇パーセント以上のものであつたというにあるものと解すべきである。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰するものであるか、または、被上告人らの主張を正解しないで、原判決に民訴法二五七条、一八六条の違反があると主張するものであつて、採用することができない。 
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第四点について。 
 原審が適法に確定した事実によれば、本件甲第二号証の契約においては、被上告会社が上告人に対し昭和三二年中に引き渡す硫黄鉱石の代金中、前渡金四〇〇万円への充当は、乾鉱量一トンにつき金一〇〇〇円の割合によるとの約旨であつたというのであるから、原審が、所論のいう同年一一月の四車分の鉱石についても、右の割合で計算を行ない、同年末における前渡金残額は金三八三万円となつた旨判示したのは相当であつて、何ら所論の違法はない。
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第五点、第六点および第八点ならびに同浜本一夫らの上告理由第四点について。 
 本件硫黄鉱石売買契約は、その期間が更新されて、昭和三三年一二月末日まで存続することとなつたものである等所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らして、首肯しえないものではない(原判決一三枚目裏末行および一五枚目表三行目に、それぞれ、「昭和三二年」とあるのは「昭和三三年」の誤記と認める。)。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用のかぎりでない。 
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第七点、第九点および第一一点ならびに同浜本一夫らの上告理由第六点の一および第七点について。 
 原判決は、つぎのとおり事実を確定している。すなわち、被上告会社は、昭和三二年四月一六日上告人との間に、期間を同年一二月末日とし、被上告会社が本件硫黄鉱区から採掘する硫黄鉱石の全量(所論は、全量ではなく、品位七〇パーセント以上のものにかぎると主張するが、その採用できないことは、すでに説示したとおりである。)を対象として、原判示硫黄鉱石売買契約(その内容は甲第三号証と同旨)を締結したが、その後、右契約期間は更新されて昭和三三年一二月末日までとなつた。ところで、被上告会社は、右契約に基づいて採掘をはじめ、まず昭和三二年中に鉱石約一七〇トン(乾鉱量)を上告人に引き渡した。ついで同三三年六月鉱石一一三・九一トン(乾鉱量)を出荷し、その旨を上告人に通知したが、上告人から市況の悪化を理由に出荷中止を要請され、ここにおいて被上告会社は、上告人を翻意させるべく折衝したが成功せず、同年九月一一日頃には採掘を中止するのやむなきに至り、採掘分(乾鉱量にして一六一二・六九トン)は集積して出荷を準備したにとどまつた。そして、右一一三・九一トンの鉱石は、ともかく上告人において引き取つたのであるが、その後は引取を拒絶したまま、同年一〇月二九日被上告会社に対し、前渡金の返還を要求する通知書(乙第五号証の一)を発するに至り、右鉱石売買契約の関係は、前記契約期間の満了日である昭和三三年一二月末日の経過をもつて終了するに至つた、というのである。 
 ところで、右事実関係によれば、前記鉱石売買契約においては、被上告会社が右契約期間を通じて採掘する鉱石の全量が売買されるべきものと定められており、被上告会社は上告人に対し右鉱石を継続的に供給すべきものなのであるから、信義則に照らして考察するときは、被上告会社は、右約旨に基づいて、その採掘した鉱石全部を順次上告人に出荷すべく、上告人はこれを引き取り、かつ、その代金を支払うべき法律関係が存在していたものと解するのが相当である。したがつて、上告人には、被上告会社が採掘し、提供した鉱石を引き取るべき義務があつたものというべきであり、上告人の前示引取の拒絶は、債務不履行の効果を生ずるものといわなければならない。 
 所論は、被上告会社には、信義にもとる不履行の責任があり、重大な過失があると非難し、その根拠として、被上告会社が昭和三二年の出鉱を遅延したこと、同会社が昭和三三年六月上告人に何の予告もなく鉱石を送つてきたこと、被上告会社は、鉱石価格の下降を辿る業界の実情をよそに、みずから危険を冒して採掘を続行したこと等を列挙し、これらが斟酌されるべきであると主張する。しかし、原判決は、その理由の六において、被上告会社が昭和三二年度中僅少の出鉱をなしたにとどまつた事情について詳細説示しており、また、上告人側が本件鉱石売買契約の存続について明確な認識をもたず、ひいて市況の変化に対処して適切な協議の方法をとらなかつた事実も、原審の認定判示するところであつて、こうした事実関係のもとにおいては、被上告会社において信義則に違反し、重大な過失があるとする所論は、採用のかぎりでない。 
 よつて、上告人に引取義務を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。右のとおりであるから、所論中、売主側が、買主側の要求により、履行の準備に相当の努力を費した場合には信義則上も買主の引取義務を肯定すべきである旨の原判示を非難する部分は、その当否を論ずるまでもなく、原判決に影響を及ぼしえないものとして、排斥を免れない。 
 論旨は、いずれも採用することができない。 
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一〇点および同浜本一夫らの上告理由第六点の二について。 
 所論は、原判決が、上告人に対し、引取義務の履行不能による損害賠償義務を認めたことを非難する。 
 しかし、原審の確定した前記事実関係によれば、本件のような継続的供給契約において、被上告会社がその採掘にかかる鉱石を上告人に送付し、上告人がこれを引き取るべき義務を負うのは、本件硫黄鉱石売買契約関係の存続を前提とするものと解されるところ、上告人が、その義務に違反し、前示鉱石一六一二・六九トンの引取を拒絶したまま、昭和三三年末をもつて右契約関係を終了するに至らしめたのである以上、右引取義務は、上告人の責に帰すべき事由により履行不能になつたものというべきであり、所論原判示は正当である。論旨は採用することができない。
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一二点ないし第一五点ならびに同浜本一夫らの上告理由第五点および第八点について。 
 所論は、被上告会社が被つた損害の額に関する原判決の判断は違法である旨種々主張する。 
 しかし、被上告会社が引取を拒絶された原判示硫黄鉱石一九四三トン(湿鉱量)には、甲第三号証における純硫黄一〇キログラムにつき九〇円の約定が適用されるべきであるとした原判決の説示は、正当として是認することができる。所論は、昭和三二年七月以降の分については、当事者間の協議によつて価格が定められることを要するのであり、当事者間の協議により右価格が定められなかつた以上、価格のない状態にとどまると主張する。しかし、本件のような採掘される鉱石の全量が対象とされている売買契約において、かような結果を認めることは、却つて不条理である。のみならず、原判示によれば、昭和三二年秋以後、とくに昭和三三年になつてから硫黄の市況がとみに悪化したというのであるから、こうした場合には、むしろ買主の立場にある上告人の側から協議を求めることが期待されるべきである。しかるに、その協議が行なわれなかつた(この旨の原審の認定は是認できる。)というのであるから、右原判示は相当であるというべく、所論は、採ることができない。その他の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の拳示する証拠に照らして、首肯しえないものではなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰する。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない(原判決一七枚目裏一行目に「一四八一・四立方メートル」とあるのは「一四八五・四立方メートル」の、同五行目に「控訴会社」とあるのは「被控訴会社」の、一九枚目表末行に「金六六八万一八七六円」とあるのは「金六五八万一八七六円」の、同裏九行目に「六八・九一トン」とあるのは「六八・四九トン」の、二〇枚目表六行目および同裏九行目に、それぞれ、「三四六万八二八六円」とあるのは「三三六万八二八六円」の、各明白な誤りであると認める。)。 
 上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一六点および同浜本一夫らの上告理由第九点について。 
 所論は、被上告会社の上告人に対する原判示損害賠償請求権は成立しないとするその前提において失当であるから、採用のかぎりでない。 
 なお、右に説示したところによれば、原判決主文第二項に「金三四六万八二八六円」とあるのは、「金三三六万八二八六円」の明白な誤りであるから、民訴法一九四条により、職権で右のとおり更正する。 
 よつて、民説法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 藤林益二 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)


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債権総論 3-4 債権の効力 損害賠償

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一.はじめに
損害とは何か
損害発生と債務不履行との間の因果関係

二.損害賠償の方法と損害の概念・種類
1.損害賠償の方法
金銭賠償
=債務不履行による損害を金銭に見積りその金額を支払う方法

原状回復
=債務不履行による損害がなかったのと同じような状態を現実に再現する方法

日本の民法では金銭賠償が原則
+(損害賠償の方法)
第四百十七条  損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

2.損害賠償の概念・種類
(1)損害の概念
損害概念の捉え方
(ア)差額説
債務不履行がなければ債権者が有したであろう財産状態と債務不履行の結果債権者が現に有する財産状態の差を損害として捉える
差額説によれば、債務不履行後に債権の目的物の価格が変動した場合には、損害自体が変動することになる。
→損害算定の基準時が問題となる

(イ)損害=事実説
損害の事実とその金銭評価を区別して、損害とは損害の事実をいうと考える説
事実である損害を金銭に換算
債務不履行後の目的物価格の変動は、損害ン金銭評価のために資料が変化したに過ぎない

(2)損害の種類
(ア)財産的損害・精神的損害
財産的損害
=債務不履行によって債権者に生じた財産上の不利益

精神的損害
=債務不履行によって債権者に生じた精神的な苦痛または不利益

精神的損害の賠償を慰謝料という。
債務不履行についても慰謝料請求を認めている

(イ)積極的損害・消極的損害
積極的損害とは
債権者の既存の財産の減少

消極的損害とは
債権者が将来取得すると考えられる利益を取得できなくなること
すなわち債権者の逸出利益または得べかりし利益の喪失をいう

+α履行利益・信頼利益
・履行利益とは、
契約が完全に履行されたならば債権者が得たであろう利益

・信頼利益
契約が無効または不成立であるのに、それが有効に成立すると信じたことによって債権者が被った損害
ex契約締結の費用や代金支払いのための費用

三.債務不履行の類型と損害賠償
1.履行遅滞と損害賠償
(1)遅延賠償
債務の履行が遅れたことによる損害

(2)金銭債務と履行遅滞
金銭債務の不履行は常に履行遅滞である。

+(金銭債務の特則)
第四百十九条  金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2  前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3  第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

(3)履行遅滞と填補賠償
・填補賠償とは、
履行に代わる損害の賠償

・履行遅滞の場合は、履行が可能であるので本来の契約関係は維持されている。
→債権者は、契約を解除しない限り、填補賠償を請求することはできない!!!
しかし、
履行遅滞の後、債権者が相当の期間を定めて催告している場合には(541条)、期間経過後は契約を解除しなくても填補賠償を請求できる

・債権者が本来の給付を請求すると同時に、その強制執行が不能な場合に備えてあらかじめ填補賠償を請求する訴え(代償請求)を提起することも認められる。
+判例(S30.1.21)

2.履行不能と賠償請求
履行不能によって生じる損害の賠償は填補賠償

3.不完全履行と損害賠償
(1)追完が可能な場合
代物請求や修補請求ができる
履行が遅れたことを理由として遅延賠償

(2)追完が不能な場合
填補賠償
拡大損害の賠償

四.損害賠償の範囲
1.因果関係
債務不履行と損害との間の因果関係
ここでいう因果関係とは、債務不履行がなければ損害が発生しなかったであろうという条件関係であり、事実的因果関係。
相当因果関係とは区別しておく。

2.損害賠償の範囲
(1)制限賠償主義
損害賠償の範囲を制限
+(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

(2)民法416条
(ア)416条の趣旨
・416条1項は通常損害
その種の債務不履行があれば、社会一般の観念に従って通常発生すると考えられる範囲の損害。
通常損害については予見可能性の有無は問われない。

・2項は特別損害
特別事情から通常生じる損害が賠償されることを規定
予見可能性の有無によって損害賠償の範囲に含まれるかどうかを決めていく。

・契約類型・当事者の種類・目的物の性質・契約内容など種々の要素を総合的に考慮して、通常損害か特別損害か判断される

(イ)予見可能性
条文では当事者(債権者債務者)となっているが、
債務者が予見可能でなければならず!!、
履行期までに予見可能でなければならない!!

・債権者は、債務者に予見可能性があったことを立証しなければならない!!!!
予見可能性の対象は特別事情!!!

(3)相当因果関係説
(ア)意義
当該債務不履行によって現実に生じた損害の中で、そのような債務不履行があれば一般に生じるであろうと考えられる損害だけが賠償されるという考え方
事実的因果関係にある損害に相当因果関係という一定の絞りをかける

(イ)相当因果関係説による416条の解釈
①416条1項は相当因果関係の原則を定めたもの
②416条2項は、相当因果関係の基礎とすべき特別事情の範囲を示すもの
=特別事情について債務者の予見可能性があれば、特別損害も相当因果関係にある損害に含まれる

(ウ)相当因果関係説の批判

3.賠償額算定の基準時(中間最高価格の問題)
相当因果関係説は、どの時点の価格を基準として損害額を算定するかという問題を損害賠償の犯意の問題ととらえている。

①物の減失による損害賠償額は、債務不履行時の物の価格が通常損害となる
②中間最高価格による損害賠償額の請求について
中間最高価格による損害は特別損害であり、債権者が中間最高価格による利益を確実に取得したはずであるという特別事情について、債務不履行時に債務者に予見可能性があった場合にのみ賠償請求が認められる!

しかし、最高裁は
目的物の価格が履行不能後も上昇し続けた事案について
履行不能時に価格上昇という特別事情について債務者に予見可能性があれば、転売などによって債権者が上昇価格による利益を確実に取得したであろうことを要求せずに、上昇した現在価格による損害賠償を認めている

五.損害賠償額の調整
1.過失相殺
債務の不履行に関して債権者にも過失があったときは、これを考慮して損害賠償責任および賠償額を軽減すること(418条)
+(過失相殺)
第四百十八条  債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

・要件
債務の不履行に関して債権者に過失があること

債務の不履行に関してには、
債務の不履行自体に債権者の過失が加わった場合と、
損害の発生拡大に債権者の過失が加わった場合が含まれる。

・過失の意義
帰責事由としての通常の過失と同じであるとする見解
広く債務者の賠償責任や賠償額の軽減を適当とする債権者側の事情を医務するという見解

・債権者の過失となるべき事実については、債務者が立証責任を負う!

・裁判所は債権者の過失を認定したときには、常にそれを考慮して賠償額を軽減し、場合によっては債務者の賠償責任を否定しなければならない。
債務不履行の場合には賠償額の減額は必要的であり、場合によっては全面的。
⇔不法行為の場合は、減額は任意的で、全額の免責はない。

2.損益相殺
債務不履行によって、債権者が損害を受けただけでなく、同時に利益を受けた場合に、損害賠償額からその利益を控除すること

六.損害賠償の特則
1.賠償額の予定
(1)賠償額の予定
当事者が債務不履行の場合に賠償すべき損害額をあらかじめ定めておくこと(420条1項前段)
+(賠償額の予定)
第四百二十条  当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2  賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3  違約金は、賠償額の予定と推定する。

←契約自由の原則により有効

・賠償額の予定がなされると債権者は、債務不履行の事実を立証するだけで予定された賠償額を請求できる

・裁判所は、当事者の合意に拘束され予定賠償額を増減することはできない(420条1項後段)
=債権者は、実際の損害額が予定賠償額よりも大きいことを立証して、予定賠償額の増額を主張することができない。
債務者も、実損害額が予定賠償額よりも少ないことを立証して、予定賠償額の減額を求めることができない。
あまりにも額に差がある場合は、公序良俗に反して無効。

+第四百二十一条  前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。

(2)違約金
債務者が債務不履行の場合に支払うことを約束した金銭。
違約罰
賠償額の予定

・違約罰は債務不履行に対する私的な制裁。
違約金の性質が違約罰であれば、債権者はそれとは別に実際の損害額を証明して、その支払いを請求することができる。
しかし、民法は違約罰を賠償額の予定と推定(420条3項)!!
→当事者の約束した違約金が違約罰の意味であれば、債権者はそのことを証明して、子の民法の推定を覆すことができる。

2.損害賠償による代位
債権者が、損害賠償として、債権の目的である物または権利の価格の全部の支払を受けたときに、債務者が、その物または権利について当然に債権者に代位する(422条)

+(損害賠償による代位)
第四百二十二条  債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。

・ここでいう代位とは
物または権利が法律上当然に債務者に移転することをいう。
当然に移転するので、何らの譲渡行為も対抗要件も必要としない。

3.代償請求権
履行不能が生じたのと同じ原因によって債務者が目的物の代償と考えられる利益を得た場合に、債権者が被った損害の限度でその利益の償還を債務者に請求できる権利

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債権総論 3-3 債権の効力 債務不履行

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一.債務不履行の意義
債務不履行とは、
債務者が債務の本旨に従った履行をしないこと

履行の強制
損害賠償の請求
契約の解除
という手段がある

・損害賠償請求や、契約の解除をするためには、
単に債務の本旨に従った履行がされないというだけではなく、履行がなされないことについての「責めに帰すべき事由」(帰責事由)がなければならない
履行の強制については帰責事由は必要ない

二.債務不履行の態様
1.債務不履行の三つの態様
+(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

①履行遅滞
債務の履行が可能であるのに、履行期を過ぎても債務が履行されない場合をいう

②履行不能
債権の成立後に債務を履行することが不可能になった場合(後発的不能)

③不完全履行
履行期に債務の履行が一応なされたが、履行が不完全である場合をいう。

2.履行遅滞
(1)履行遅滞の意義・要件
①債務の履行が可能
②履行期を過ぎても履行しないこと
③履行しないことが違法である
④履行しないことが債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと

履行の強制を求めるためには①~③の要件で足りる。

(ア)履行が可能なこと

(イ)履行期を過ぎても履行しないこと
履行期とは、履行すべき時期のことであり、履行した時ではない。

+(履行期と履行遅滞)
第四百十二条  債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う
2  債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3  債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

 a)確定期限(412条1項)
確定期限とは、いつ期限が到来するかが確定しているものをいい、確定期限については、その期限の到来したときが履行期となる。

 b)不確定期限(412条2項)
期限は将来必ず到来するが、それがいつ到来するか不確定なもの

 c)履行期の定めのない場合
・原則として履行の請求を受けたときから地帯となる(412条3項)
債権者の請求(催告)は、どの債務についての請求なのかわからなければならない。
債務の同一性が判断できればよい

・例外:返還時期を定めなかった消費貸借による返還債務
相当の期間を定めないで催告したときには、催告の時から相当の期間が経過した後に遅滞が生じる。
+(返還の時期)
第五百九十一条  当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2  借主は、いつでも返還をすることができる。

・例外:不法行為による損害賠償債務
債権者(被害者側)の請求を待たずに不法行為と同時に履行期が到来する
不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用についても同様。

(ウ)履行しないことが違法であること
留置権
同時履行の抗弁権

(エ)債務者の帰責事由
 a)帰責事由の必要性
民法は一般に過失責任主義をとっていること、および、履行不能と履行遅滞・不完全履行を区別する理由がないことから、履行遅滞や不完全履行についても債務者の帰責事由が必要とされる

 b)帰責事由の意義
・帰責事由とは、
債務者の故意過失または信義則上これと同視すべき事由と解される。

・故意とは
債務不履行が生じることを知りながら、あえて何事かをすることまたは何もしないこと

・過失とは
債務者としての注意義務を怠ること
ここでの注意義務は、原則として400条の善管注意義務を指す。

c)履行補助者の故意過失
ⅰ)履行補助者の意義
履行補助者
債務者が債務の履行のために使用する者
自己責任の原則から言えば、人は自己の行為についてのみ責任を負う
しかし、
利用者は被用者を雇うことによって営業活動を活発に行い利益を得ているのであるから、被用者の過失についても利用者の債務不履行責任を認める必要がある。

履行補助者の分類
①債務者が自分の手足として使用する真の意味の履行補助者と、
②債務者に代わって履行の全部または一部を行う履行代行者・履行代用者

ⅱ)履行補助者の故意過失と債務者の責任
①真の意味での履行補助者
債務者は常に責任を負う
履行行為の範囲におては真の意味の履行補助者の行為は債務者本人の行為にほかならず、この履行補助者の故意過失は債務者自身の故意過失と同視されるから。

②履行代行者(履行代用者)
・規定上または契約上履行代行者の使用が許されない場合
債務者が履行代行者を使用すること自体が債務不履行となるので、債務が履行されなかったことについて履行代行者に故意ても過失がなくても債務者は責任を負う

・規定上または契約上履行代行者の使用が許される場合
債務者は、履行代行者の選任監督に過失があった時にのみ責任を負う

・履行代行者の使用が禁止もされず許可もされていない場合
給付の性質上使用が許されるかどうかで場合分け。

ⅲ)履行補助者理論と利用補助者
・履行補助者の理論を賃貸借契約における賃借人の家族・同居人や転借人についても用いる!

・利用補助者
賃借人の家族・同居人や転借人

・賃借人の家族・同居人は、賃借人の目的物保管義務に協力すべき義務を負担しているので、その故意過失によって目的物の損傷・減失が生じたときには、債務者である賃借人は当然に債務不履行責任を負う

・承諾ある転貸借における転借人の故意過失について、判例は賃借人の責任を肯定する。
反対意見もあるが・・・

ⅳ)履行補助者の過失の程度
債務者が責任を負う履行補助者の過失の程度は、一般的には抽象的過失
例外的に債務者の注意義務が軽減されて具体的軽過失について責任を負うとされる場合には、履行補助者の過失もそこまで軽減される。

d)帰責事由の立証責任
ⅰ)帰責事由の立証責任
帰責事由の立証責任は債務者にある
債権者は履行遅滞の事実を立証すればよい

ⅱ)金銭債務の特則
+(金銭債務の特則)
第四百十九条  金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2  前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3  第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない

・帰責事由があるといえるためには債務者に責任能力があることも必要。

(2)履行遅滞の効果
(ア)履行の請求・契約の解除

(イ)損害賠償の請求
遅延賠償
契約を解除したときは填補賠償も。

3.履行不能
(1)履行不能の意義・要件
債権の成立後履行が不能になった場合をいう。

・履行不能に基づく損害賠償請求・契約の解除の要件
①履行が不能
②履行の不能が違法である
③履行の不能が債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと

(ア)履行の不能
 a)不能の態様
①物理的不能
②取引通念上不能
③法律の規定による不能

 b)後発的不能
原始的不能の場合には債権がそもそも成立しない

 c)金銭債務と履行不能
金銭債務については履行不能は問題にならない。

(イ)履行の不能が違法なこと

(ウ)債務者の帰責事由

(2)履行不能の効果
債権者は本来の履行に代わる損害の賠償(填補賠償)を請求することができる。
履行不能となった債権は消滅せず、損害賠償請求権に転化する。

4.不完全履行
(1)不完全履行の意義と要件
債務者が債務の履行をしたが、それが不完全であったために債務の本旨に従った履行とならない場合をいう

要件
①不完全な履行
②不完全な履行が債務者の責めに帰すべき事由による
③不完全な履行がなされたことが違法

(ア)不完全な履行
 a)引渡債務
①給付の目的物に瑕疵がある場合
不完全履行とともに瑕疵担保責任も問題となる

②給付の目的物に瑕疵があったために債権者の生命・身体・財産的利益に損害(拡大損害)を与えた場合

③債務者が履行に際して必要な注意を怠った場合

 b)行為債務

(イ)債務者の帰責事由

(2)不完全履行の効果
(ア)追完が可能な場合
追完とは、
不完全な履行を完全なものにすること

追完請求権
債権者の完全な履行を請求できる権利

追完請求権の内容
瑕疵のない物の引渡請求(代物請求)または瑕疵の除去の請求(修補請求)
債権者の追完請求は、不完全な履行が債務者の帰責事由に基づくかどうかを問わず認められる。

(イ)追完が不能な場合
損害賠償請求

+α 安全配慮義務
本来の給付義務に付随した信義則上みと認められる義務

(1)意義
安全配慮義務とは、
使用者が被用者の生命・身体健康を危険から保護するよう配慮する義務
+判例(S50.2.25)

ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの

(2)適用範囲安全配慮義務は必ずしも契約の存在を前提とせず、「特別な社会的接触の関係」に基づいて発生すると解されることから、
下請業者の従業員に対する元請業者の安全配慮義務が肯定される
+判例(H3.4.11)

(3)安全配慮義務違反に関する判例理論
①安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の機関は、167条1項による10年とされる
←契約上の債務不履行と同視
+判例(S50.2.25)

②安全配慮義務違反による損害賠償債務は、期限の定めのない債務であり、412条3項により債務者が債権者から債務の履行を受けたときから遅滞に陥る
+判例(S55.12.18)

③使用者の安全配慮義務違反によって死亡した被用者の両親は、使用者との間で雇用契約またはこれに準ずる法律関係が存在しないので、遺族固有の慰謝料請求権を取得しない
=両親が取得できるのは、死亡した被用者から相続した分だけ


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債権総論 3-2 債権の効力 履行の強制

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一.意義
1.履行の強制の意義
国家機関による債権内容の強制的実現

2.債務名義
債権の存在を確認した公的な文書であり、履行の強制の基礎となるもの

・債務名義の種類
確定判決
仮執行宣言付き判決
執行証書

二.履行の強制の方法
1.直接強制・代替執行・間接強制
(1)直接強制
債務者の意思にかかわらず、国家機関が債権の内容を直接的・強制的に実現する方法
与える債務に適した強制方法

(2)代替執行
債務者以外の者に債権の内容を実現させて、その費用を国家機関が債権者から取り立てる方法
+(履行の強制)
第四百十四条  債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3  不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4  前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

為す債務のうち、代替的作為債務について許される。

・414条の解釈についてえきさ
1項の「強制履行」は直接強制と間接強制を意味
2項の「強制履行」は直接強制を意味

(3)間接強制
債務者が履行するまでの間裁判所が債務者に一定額の金銭の支払義務を課し、これにより債務者を心理的に圧迫して、間接的に債権の内容を実現させる方法(民事執行法172条)

(4)履行の強制の要件
要件
①債権が存在すること
②債権が履行期にあること
③履行が可能であること
④債務の性質が履行の強制に適さないものでないこと
※債務がりこうされないことについて債務者に帰責事由のあることは必要とされない!

(5)履行の強制と損害賠償の請求
・履行の強制は損害賠償の請求を妨げない(414条4項)

2.各種債務の履行の強制
(1)金銭債務
・金銭債務の履行の強制は、直接強制による。
扶養義務等にかかる金銭債権については間接強制も認められる

(2)不動産の引渡義務
債権者は直接強制または間接強制を選択できる(民事執行法173条1項)

(3)動産の引渡債務
債権者は、直接強制または間接強制を選択できる(民事執行法173条1項)

(4)意思表示をすべき債務
意思表示を命ずる判決その他の裁判があれば、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる(414条2項ただし書き。判決代用)。
判決の確定時に債務者が意思表示をしたものとされる(民事執行法174条)

(5)不作為債務
①不作為債務に違反する行為が行われる場合
債権者は間接強制によりこれをやめさせることができる(民事執行法172条)

②不作為債務の違反によって一定の結果が生じた場合
代替執行または間接強制によってこの結果を除去できる。

③不作為債務の違反行為を防止するため、「将来のため適当な処分をすること」を裁判所に求めること(414条3項)

(6)問題となるケース
(ア)幼児の引渡し
幼児は物ではないので、直接強制は許されず、間接強制によるべきだとする説

(イ)謝罪広告
+(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条  他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

強制の方法として、代替執行が認められる

・代替執行を認めることと憲法19条の思想良心の自由との兼ね合い
単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものであれば、代替執行が許される。
+判例(S31.7.4)


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債権総論 3-1 債権の効力 序説

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一.債権の効力概観
・債権の対内的効力
債権実現のために債務者に対して認められる債権の効力
①請求力と給付保持力
債務者に任意の履行を請求する場合にかかわる効力

②訴求力と執行力
債務者が任意に履行しない場合に履行の強制と損害賠償の請求

・債権の対外的効力
第三者との関係で、第三者による違法な債権実現の妨害から債権を保護するための効力

・債権の保全的効力
債務者の一般財産(責任財産)の異時・充実を図るための効力

二.債権の実現
1.債務者による任意の履行
・請求力
=債権者が債務者に対して給付を請求できる効力

・給付保持力
債権者が債務者のなした給付を受領して適法に保持できる効力

2.国家機関による債権の実現
実現のためには
①判決手続き
②強制執行手続
が必要。

・訴求力
債権者が裁判所に訴えて判決を得、それによって債務者に履行を請求できる効力

・執行力
債権者が強制執行の手続をとることによって債権の内容を実現することができる効力
①貫徹力
物の引渡しなど債権の内容をそのまま実現させる効力
②摑取力
金銭債権において、債権者が債務者の一般財産に対して強制執行をかけることができる効力

三.特殊な効力の債権
請求力・給付保持力・訴求力・執行力をすべて備えたものが完全な債権。
債権のなかには一部が欠けている自然債権と呼ばれるものがある。

1.自然債務
(1)意義
自然債務とは、
債務者が任意に履行するときは有効な弁済になるが、債務者が履行しないときには、債権者から裁判所に訴えて履行を請求することができない債務をいう。
請求力と給付保持力はあるが、訴求力・執行力を欠く。

(2)自然債務の例
(ア)合意による自然債務
+判例(S10.4.25)カフェー丸玉事件

(イ)不訴求特約のある債務

(ウ)法律上遡及できない債務
消滅時効が援用された債務
公序良俗に反する契約による債務

債権者は遡及できないが、債務者が任意に履行すればもはや返還は請求できない。
ex

2.責任なき債務
(1)債務と責任
・債務とは、
債権に基づいて債務者が行うべき給付義務

・責任とは、
債務者の一般財産が債権の引き当てになっていることをいう

(2)責任なき債務
債務不履行の場合に債務者の一般財産への強制執行ができない債務(摑取力を欠く)
ex強制執行をしない不執行特約
裁判所に訴えを提起して履行を命じる判決を得ることはできる。

・不執行特約に違反して強制執行がなされたときは、請求意義の訴えによってその排除が求められる。

(3)債務なき責任
責任を負う者が債務を負担しない場合
ex物上保証人や抵当不動産の第三取得者


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債権総論 2-4 債権の目的 選択債権

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一.意義
1.選択債権の意義
選択債権とは、
数個の給付の中から選択によって決まる1個の給付を目的とする債権

2.選択債権の発生
当事者の法律行為によって発生。

二.選択債権の特定
1.特定の必要性
(1)選択権
給付を選択によって特定することが必要
選択によって給付を特定する権限を選択権という

・誰が選択権を持つのかは、
当事者の合意によって決める
+(第三者の選択権)
第四百九条  第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。
2  前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。

・誰が選択権を持つか明らかでない場合、
+(選択債権における選択権の帰属)
第四百六条  債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する

(2)選択権の移転
選択権者が選択権を行使しない場合には、選択権は移転する
+(選択権の移転)
第四百八条  債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。

(第三者の選択権)
第四百九条  第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。
2  前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。

2.特定の方法
(1)選択による特定
・選択権は形成権であり、選択の意思表示が到達すると直ちに効力が生じる
=選択された給付が債権発生時にさかのぼってその債権の目的であったことになる。

・411条ただし書きは無用の規定。
+(選択の効力)
第四百十一条  選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(2)給付不能による特定
+(不能による選択債権の特定)
第四百十条  債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する
2  選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない

・任意債権とは、
特定の給付を目的とする債権であるが、債権者又は債務者がほかの給付に代えることのできる債権。
本来の給付が特定していて他の給付は補充的に過ぎない。


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債権総論 2-3 債権の目的 金銭債権・利息債権

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一.金銭債権
1.意義
金銭債権
=一定額の金銭の支払を目的とする債権

・金銭債権は、種類債権の一種ともいえるが、目的物の個性は失われている。
種類債権における目的物の特定も生じないし、履行の不能も考えられない。

2.金銭債権の弁済方法
(1)通貨による支払い
+(金銭債権)
第四百二条  債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。
2  債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない。
3  前二項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。

(2)特定種類の通貨による支払い
402条ただし書き

(3)外国通貨による支払い
+第四百三条  外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。

3.通貨価値の変動と金銭債権
通貨価値の極端な下落の場合に、信義則による事情変更の原則適用の可能性

二.利息債権
1.意義
(1)利息債権と利息
利息の支払いを目的とする債権
利息は金銭などの元本の使用の対価

(2)基本権たる利息債権と支分権たる利息債権
・基本権たる利息債権
元本に対して一定期間の経過後に一定額の利息を発生させることを内容とする利息債権

・支分権たる利息債権
基本権たる利息債権に基づいて一定期間の経過後に現実に発生した利息の支払いを目的とする具体的な利息債権

・元本債権に対する付従性の違い
基本権たる利息債権は元本債権に付従し、元本債権が消滅すれば消滅する。
支分権たる利息債権は、元本債権から独立して存在し、元本債権が弁済によって消滅しても、利息が支払われない限り残存。元本債権が譲渡されても随伴しない。元本債権とは独立して消滅時効にかかる。

2.約定利率・法定利率と単利・重利
(1)約定利率・法定利率
(ア)約定利率
当事者の合意により発生。
民法では、金銭の貸借で利息を支払うかどうかは当事者の合意に委ねられており、利息を支払う合意がないかぎり、金銭の貸借は無利息。

(イ)法定利率
+(法定利率)
第四百四条  利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。

(2)単利・重利
単利
当初の元本についてのみ利息を付ける

重利
弁済期に達した利息を元本に組み入れ

・法定重利
+(利息の元本への組入れ)
第四百五条  利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。

405条は、債権者の元本組み入れの意思表示(形成権)が必要。

3.利息の規制
(1)法律による規制
・利息制限法
法律の制限を超えた利息契約を無効とする民事法規

・出資取締法
法律の制限を超えた利息契約について刑罰を科す刑罰法規

・貸金業法
貸金業務の適正化を図るために貸金業の規制を行う行政法規

(2)全ての金融消費貸借に対する規制
(ア)利息の制限
・利息制限法
+(利息の制限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一  元本の額が十万円未満の場合 年二割
二  元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三  元本の額が百万円以上の場合 年一割五分

・出資取締法
+(高金利の処罰)
第五条  金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2  前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3  前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

(イ)利息の天引き
貸付金額からあらかじめ利息額を差し引いて金銭を交付し、期日に貸付金額の弁済を受けることをいう。

(ウ)みなし利息
・利息制限法
+(みなし利息)
第三条  前二条の規定の適用については、金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他いかなる名義をもってするかを問わず、利息とみなす。ただし、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。

(エ)賠償額予定の制限
・利息制限法
+(賠償額の予定の制限)
第四条  金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2  前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。

(3)営業的金銭消費貸借に対する規制
・利息制限法
+(元本額の特則)
第五条  次の各号に掲げる利息に関する第一条の規定の適用については、当該各号に定める額を同条に規定する元本の額とみなす。
一  営業的金銭消費貸借(債権者が業として行う金銭を目的とする消費貸借をいう。以下同じ。)上の債務を既に負担している債務者が同一の債権者から重ねて営業的金銭消費貸借による貸付けを受けた場合における当該貸付けに係る営業的金銭消費貸借上の利息 当該既に負担している債務の残元本の額と当該貸付けを受けた元本の額との合計額
二  債務者が同一の債権者から同時に二以上の営業的金銭消費貸借による貸付けを受けた場合におけるそれぞれの貸付けに係る営業的金銭消費貸借上の利息 当該二以上の貸付けを受けた元本の額の合計額


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債権総論 2-2 債権の目的 特定物債権・種類債権

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一.特定物債権
1.意義
・特定物債権とは
特定物の引渡しを目的とする債権をいう

+(特定物の引渡しの場合の注意義務)
第四百条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

・特定物とは
具体的な取引において、当事者が物の個性に着目して「この物」と定めて合意した物をいう

2.善管注意義務
(1)意義
善管注意義務
=債務者と同じ職業や社会的経済的地位・立場にある標準的な人が払うべき注意

・抽象的過失
善管注意義務を怠ることを抽象的過失という
⇔具体的過失
人が自分の財産の保存に際して払う注意をいい、具体的な債務者の能力を基準とした注意

(2)善管注意義務を負う時期
現実に引渡しをする時まで負う(400条)。

他方で、特定物については
+(特定物の現状による引渡し)
第四百八十三条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない

・上記二つの規定の関係性
債務者は履行期の経過後であっても現実の引渡時まで善管注意義務を負い、そして、現実の引渡時における現状で引き渡せばよい

・履行期後も400条が適用されるのは、履行遅滞や受領遅滞でない場合に限られる

(3)特定物の減失・損傷
・483条

・給付危険
債務者が善管注意義務を尽くしたにもかかわらず目的物が減失または損傷した場合、減失または損傷による損失は債権者が負担する

・対価危険
双務契約において一方の債務者の帰責事由によらないで目的物が減失または損傷し履行が不可能となった場合に、それが相手方の債務にどのような影響を与えるか

3.目的物引渡義務
・特定物の引渡し場所
+(弁済の場所)
第四百八十四条  弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

4.その他

二.種類債権
1.意義
種類債権とは、
一定の種類に属する物の一定量の引渡しを目的とする債権
その目的物を種類物または不特定物という
+(種類債権)
第四百一条  債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2  前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

・種類債権では、債務者が引渡しを予定していた物が減失・損傷しただけでは債務不履行にならず、それと同種の物が市場に存在する限り、債務者は新たに同種の物を調達する義務がある。

2.目的物の品質
・どの品質の物を引き渡すべきか
第一に、法律行為の性質または当事者の意思によって決まる。
次に、中等の品質の物

3.目的物の特定
(1)種類債権の特定(集中)
引き渡すべき物が特定され、それ以後種類債権が特定された物の引渡しを目的とする債権に転換すること

(2)目的物特定の事由
(ア)当事者の合意
契約自由の原則から認められる

(イ)債権者の同意を得た債務者の指定
+(種類債権)
第四百一条  債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2  前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

債権者と債務者が合意をして指定した場合ではなく、債権者が債務者に指定権を与え、それに基づいて債務者が指定した場合のこと。

(ウ)債務者の行為
物の給付に必要な行為の完了とは、
債務者が物の引渡しのために必要な行為をすべて行ったことをいう。

 a)持参債務の場合
持参債務とは、
債務者が債権者の住所に目的物を持参して引き渡すべき債務
+(弁済の場所)
第四百八十四条  弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

持参債務の場合には、債務者が債権者の住所に目的物を持参して、債権者がいつでも受け取れる状態にしないと、目的物の特定は生じない。
=債権者の住所での現実の提供が必要
債権者に向けて発送しただけでは特定は生じない

 b)取立債務の場合
債権者が債務者の住所に来て目的物を受け取る債務
①債務者が引き渡すべき目的物を他の物と分離して、債権者が取りに来ればいつでも引き渡すことができる状態にし、
②そのことを債権者に通知すれば、
目的物の特定が生じる。

※取立債務の特定のための行為と493条ただし書きの「口頭の提供」「弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告」をすることとは区別しておく!
後者は債務者に債務不履行を丸枯れさせるための行為。
前者は目的物の分離を必要とし、後者は目的物の分離を必要としない。

+判例(S30.10.18)漁業用タール

 c)送付債務の場合
送付債務とは、
債権者又は債務者の住所以外の第三地に目的物を送付すべき債務。
債務者が分離して第三地へ発送することによって特定が生じる。

(3)特定の効果
 (ア)善管注意義務の発生

 (イ)目的物減失による免責と危険負担
その物が減失すると引渡債務を免れる

 (ウ)所有権の移転
特約がなければ、特定したときに目的物の所有権が移転

(4)債務者の変更権
・債務者は一度特定した目的物を他の同種・同量の物に変更することができるか?
債権者はとくに不利益がない限り、信義則によって債務者に特定した目的物を他の同種同量の物に変更して引き渡す権利(変更権)が認められる
→債務者に帰責事由があり、債務不履行による損害賠償責任を負う場合であっても、債務者は、他の物を引き渡すことによって責任を免れることができる。

4.制限種類債権
種類と数量のほかに一定の制限を加えて、目的物の範囲をさらに限定している債権

(1)履行不能の成否
特定以前であっても、その制限された範囲内の物が全部減失すれば履行不能
債務者は可能であったとしても、もはや他から同種の物を調達して引き渡す義務を負わない。

(2)目的物の品質
目的物の品質は問題とならない

(3)目的物の保管義務
制限種類債権であれば、特定前であっても保管義務を負うという見解
保管については自己の財産と同一の注意義務


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債権総論2-1 債権の目的 序説

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一.債権の目的
1.債権の目的の意義
(1)意義
・債権の目的とは、
請求の対象(客体)である債務者のなすべき一定の行為
=債務の内容

・債権の目的と債権の目的物とは区別しておく。

(2)債権の発生原因
・法律行為
・法律の規定(法定債権)
・信義則
契約関係にないが、一定の社会的接触関係にある者の間で信義則上の義務が発生し、それに違反した場合に、損害賠償請求権が発生することがある。
契約の交渉を開始した後に、その交渉を一方的に破棄した者に対して、契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任が肯定されることもある。

+判例(S59.9.18)
理由
 上告代理人伊藤茂昭の上告理由について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を肯定した原審の判断は、是認することができ、また、上告人及び被上告人双方の過失割合を各五割とした原審の判断に所論の違法があるとはいえない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する過失割合の判断の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(木戸口久治 伊藤正己 安岡滿彦長島敦)

2.債権の目的の要件
債権が有効に発生するためには、債権の目的である給付(債権の内容)が一定の要件を満たすことが必要。
給付の適法性
実現可能性
特定性

(1)給付の適法性
給付の内容は法律上適法であり、社会的に妥当なものでなければならない。

(2)給付の実現可能性
 (ア)不能の態様
・原始的不能・後発的不能
原始的不能とは、法律行為時(契約締結時)においてすでに給付が実現不可能。
後発的不能とは、法律行為後に給付が実現不可能になる場合

・客観的不能・主観的不能
客観的不能
=すべての人にとって給付の実現が不可能
主観的不能
=当該債権者にとって給付の実現が不可能

・全部不能・一部不能
一部不能では、それによって給付全体が価値を失う場合を除いて、残部について債権が有効に成立する

 (イ)原始的不能と後発的不能の効果
・原始的不能の場合には、契約は無効となり、債権は成立しない。
ただし、契約時にすでに存在しない物の売主が過失によって相手方に契約を締結させ、買主が契約が有効だと信じたために損害を受けた場合には、売主は契約締結上の過失に基づく損害賠償責任を負うことがある!
この場合の損害賠償は、履行利益(契約が有効に成立して履行されていれば得られたであろう利益)ではなく、信頼利益(無効な契約を有効と信じたために被った損害)の賠償に限られる!!!!
ここにいう過失とは、信義則上の注意義務違反

・後発的不能の場合は、契約は有効であり、債権も有効に成立する。
しかし、不能につき売主に帰責事由があれば売主の債務不履行の問題(415条後段・543条)
売主に帰責事由がなければ危険負担の問題になる(534条)

(3)給付の確定性
給付の内容は確定していなければならない。
←債務者がどのような給付をすればよいか判断できないし、裁判所も債権の強制的実現に助力できないから。
ただし、給付の内容は契約成立時に確定している必要はなく、後に何らかの方法で確定できればよい!!

(4)給付の経済的価値
+(債権の目的)
第三百九十九条  債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる

二.債権の種類
1.作為債務・不作為債務
・作為債務
=債務者の積極的な行為(作為)を給付の内容とする債務
与える債務と為す債務がある。

・不作為債務
=債務者の消極的な行為(不作為)を給付の内容とする債務

2.与える債務・為す債務
与える債務
=物の引渡しを内容とする債務
為す債務
=物の引渡し以外の作為を内容とする債務

与える債務では、物の引渡し自体が重要であり、債務者の引渡行為自体にはあまり重点が置かれていないのに対し、
為す債務では、債務者の行為自体が重要とされる。

3.可分債務不可分債務
給付の本質や価値を損なわずに、給付を分割して実現できるかどうか
給付が可分か不可分かは、
給付の性質または当事者の意思によって決まる。

4.結果債務・手段債務
結果債務
一定の結果の実現を内容とする債務
結果が実現されなければ、債務者は、原則として債務不履行責任を負う

手段債務
一定の結果の実現に向けて最善を尽くすことを内容とする債務


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