7-1 事案の解明 弁論主義

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1.弁論主義の意義
(1)弁論主義の趣旨
弁論主義とは、
裁判における事実の認定に必要な資料の収集および訴訟の場への提出が、当事者の「権能」でありかつ「責任」であるとする原則。

当事者の権能
=当事者による自治が裁判所による職権に優先することを意味する!

当事者の責任
=訴訟資料が不十分なときは当事者の自己責任として処理されること。

・弁論主義は、当事者と裁判所の関係を規律する原理であり、当事者相互の関係までを規律するものではない。

・公益性の高い訴訟要件の審理については、弁論主義ではなく職権探知主義が妥当。

(2)弁論主義の根拠
本質説
民事訴訟の対象たる訴訟物は「私人間」の権利であり、当事者の自由な処分を認める「私的自治の原則」が妥当するので、訴訟物の判断のための訴訟資料の収集と提出についても、同じく私的自治の原則が妥当することに弁論主義の実質的根拠を求める。

手段説
有利な結果を得たいという当事者の利己心を通じて、もっとも効果的に事案の解明ができることに根拠を求める見解!

(3)弁論主義の内容
ⅰ)主張原則
・裁判所は、当事者のいずれもが主張しない事実を、裁判の基礎にしてはならない。
=どのような事実を審理対象とするかについては、当事者が決定する権限を有している!

・証拠資料と主張資料の峻別
裁判所は、たとえ証拠調べの結果からある事実の存否について心証を得たとしても、その事実が当事者のいずれかからも口頭弁論で主張されていなければ、その事実を基礎として裁判をすることはできない。

・弁論主義の不意打ち防止機能

ⅱ)自白原則
裁判所は、当事者の間で争いのない事実については、証拠調べなしに裁判の基礎にしなければならない

+(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

+(証明することを要しない事実)
第百七十九条  裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない

ⅲ)証拠原則
当事者間に争いのある事実について証拠調べをするときは、当事者の申し出た証拠によらなければならない。
職権証拠調べの禁止

一方で
裁判所は、当事者の申し出た証拠方法を取り調べるかどうかの裁量権を有する。
また、当事者尋問(207条1項)や調査嘱託(186条)では職権証拠調べが許されている。

←証拠原則において、当事者自治が徹底していないのは、証拠調べの段階に至った後では、当事者自治よりも事案解明の要請が高くなるものと立法者が考えたから。

(4)主張責任
当事者の一方にとって有利な事実が口頭弁論に現れないことによって、当事者の一方が裁判において不利益を受ける場合の不利益

(5)主張共通の原則
主張責任を負わない当事者によって主張された場合でも、ある事実が口頭弁論に現れていれば、裁判所はこれを裁判の基礎とすることができる。

2.弁論主義の対象
(1)事実の種類

要件事実
=訴訟物の発生・障害・消滅・阻止などを導く実体法上の抽象的な法律要件に当たる事実

主要事実
=抽象的な要件事実に該当する具体的な事実

間接事実
=主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的な事実

補助事実
=証拠の評価に関わる事実
=証拠能力や証明力に影響を与える事実

事情
=事件の由来や経過など紛争の背後に存在する事実関係

(2)弁論主義が適用される事実
ⅰ)伝統的な見解
弁論主義が適用されるのは主要事実のみ
←間接事実と証拠の等質性
自由心証主義の制約の廃除

=間接事実と証拠はともに主要事実の存否を推認させるという点で同様の機能を営むから、間接事実も証拠と同じく当事者の主張の有無による制約を受けないと解すべき
間接事実にも弁論主義が及ぶものとすると、裁判所は既に証拠から判明している間接事実を用いることができなくなり、不自然で窮屈な判断を強いられることになるので、自由心証主義を認めた趣旨に反することになる。

ⅱ)弁論主義と間接事実
有力説
間接事実については、重要な間接事実に限って弁論主義が適用される。
重要な間接事実とは、主要事実の存否を推認する蓋然性の程度が高い事実であり、訴訟の勝敗を左右し得る事実、あるいは訴訟の勝敗に直結する事実

ⅲ)弁論主義と補助事実
補助事実は、証拠の証拠能力や証明力に対して影響を与える事実であり、基本的には争点が設定された後の段階で問題になる事実。
補助事実は、争点の設定には関与しないことが普通であるし、証拠調べの段階では、むしろ裁判所の自由心証を尊重することが必要であることを考えると、原則として補助事実には主張原則は適用されない。

(3)規範的要件と弁論主義
ⅰ)規範的要件における主要事実
過失のような規範的要件は事実ではなく、事実に対する法的な評価(評価根拠概念)であって、評価の対象であるわき見運転や整備不良などの事実こそが、主要事実であると解する。

ⅱ)公益性の高い規範的要件
・公序良俗違反のような公益性の高い規範的要件については弁論主義が適用されない!!
←弁論主義は当事者の私的自治に根拠を有するものであるが、公益性の高い規範的要件は、私的自治の範疇を超えるから。

・裁判所は、一定の事実が公序良俗違反と評価されることについては、法的観点詩的義務を負うものと解すべき!

3.職権探知主義
(1)職権探知主義の趣旨
職権探知主義とは、
裁判に必要な訴訟資料の収集を当事者の権限と責任にのみ委ねるのではなく、裁判所が必要に応じて補完すべきであるとする原則

職権探知主義のもとでも、訴訟資料の収集における主導的な役割は当事者が担っている。

職権探知主義のもとでも結果責任としての主張責任や証明責任は存在する。

・職権探知主義がとられる理由
裁判の対象が当事者の自由な処分を許す法律関係ではないから
真実発見の要請が優先されるため、裁判所の後見的な関与の可能性を確保しておく必要がある

(2)職権探知主義の内容
①裁判所は、当事者のいずれもが主張しない事実であっても、裁判の基礎として採用することができる
②裁判所は、当事者間で争いのない事実であっても、裁判の基礎にしないことができる。
③裁判所は、当事者の申し出ていない証拠であっても、職権で取り調べることができる。

・裁判所の権能のみならず、職権探知主義は、職権探知の義務をも内包する。

(3)職権探知主義と弁論権
職権探知主義のもとにおいても、弁論権は否定されない!
弁論権は、訴訟において問題となる事項について、訴訟資料を提出する機会の補償を受ける権利であるが、これは憲法の裁判を受ける権利に由来するものであって、弁論主義であると職権探知主義であるとを問わず、等しく妥当する!

4.釈明権及び釈明義務
(1)釈明権・釈明義務の意義
・釈明権
=裁判所は、当事者の主張や立証を正確に受領するためや、当事者にできるだけ十分な手続保障の機会を与えるために、当事者に対して事実上または法律上の事項について問いを発し、または立証を促すことができる。

・釈明権と釈明義務の関係
釈明権と釈明義務は表裏の関係にあり、両者の範囲は一致するが、上告審での破棄事由となるのは釈明義務違反の一部にとどまるとする考え方。
←事実審の行為規範としての釈明義務の範囲は釈明権と一致するが、上告審の評価規範としての釈明義務は行為規範としての釈明義務よりも狭くなるものと解すべきだから。

・釈明権は、個々の裁判官ではなく「裁判所」に帰属する権能である
+(釈明権等)
第百四十九条  裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる
2  陪席裁判官は、裁判長に告げて、前項に規定する処置をすることができる
3  当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる
4  裁判長又は陪席裁判官が、口頭弁論の期日外において、攻撃又は防御の方法に重要な変更を生じ得る事項について第一項又は第二項の規定による処置をしたときは、その内容を相手方に通知しなければならない。

(訴訟指揮等に対する異議)
第百五十条  当事者が、口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令又は前条第一項若しくは第二項の規定による裁判長若しくは陪席裁判官の処置に対し、異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。

・釈明処分
+(釈明処分)
第百五十一条  裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、次に掲げる処分をすることができる。
一  当事者本人又はその法定代理人に対し、口頭弁論の期日に出頭することを命ずること。
二  口頭弁論の期日において、当事者のため事務を処理し、又は補助する者で裁判所が相当と認めるものに陳述をさせること。
三  訴訟書類又は訴訟において引用した文書その他の物件で当事者の所持するものを提出させること。
四  当事者又は第三者の提出した文書その他の物件を裁判所に留め置くこと。
五  検証をし、又は鑑定を命ずること。
六  調査を嘱託すること。
2  前項に規定する検証、鑑定及び調査の嘱託については、証拠調べに関する規定を準用する。

・裁判所から釈明を求められた当事者は、これに応じる義務があるわけではない。しかし、釈明に応じなかったことによって、結果としてふりな判決を受けることはあり得る。

(2)釈明権と弁論主義の関係
・釈明権は弁論主義と対立関係にはなく、むしろ弁論主義を補完するものである。
=弁論主義を形式的に適用すると当事者の注意力や力不足などによって不当な結果が生じ、適正かつ公平な裁判の実現が阻害されるおそれがある。そこで、こうした弁論主義に伴う不都合を補完するものとして釈明権がもうけられている。

・釈明権の趣旨
①当事者の真意が適切に訴訟手続に反映されることを確保することにより、当事者の弁論権ないし手続保障を実質化する
②訴訟の結果に対する当事者の納得や受容を確保するために必要な制度

(3)釈明権の範囲
・裁判所の行為規範として、釈明権の行使にどのような限界があるか

釈明権が過渡にわたる場合の危険
①裁判所に対する依存を助長するおそれ
②当事者の公平を損なう危険
③真相を裁判所の意向に沿って曲げる恐れ
④判決による紛争解決の受容を妨げるおそれ
⑤司法の中立に対する社会の信頼を失わせるおそれ

→それまでの審理経過や訴訟資料から合理的に予想できる範囲を超えて一方当事者に申立てや主張を促したり、実質的に職権証拠調べに当たるような形で証拠の提出を示唆するなどの釈明権の行使は許されない!

・もっとも、上級審がとりうる効果的な是正手段はない!!
←違法不当な釈明権の行使がなされ、それに応じて当事者が主張や立証を行った場合に、これを無効として処理すると、かえって当事者にとって不利になってしまうから!

・結局、釈明権の犯意については、評価規範としての違法はほとんど考えられず、基本的には裁判所の行為規範にとどまる。

(4)釈明義務の範囲
・釈明義務については、裁判所の行為規範としてのみならず、評価規範として上級審による違法審査の対象となり得る。
控訴審が釈明権を適切に行使すれば、下級審における釈明義務違反の瑕疵は治癒される。

・消極的釈明
=当事者の申立てや主張が不明瞭または矛盾している場合に、その趣旨を問いただす釈明権の行使

・積極的釈明
=当事者が申立てや主張をしていない場合に、これを積極的に示唆する釈明権の行使

・消極的釈明がなされない場合には、釈明義務違反が認められやすい。

・積極的釈明が釈明義務違反となる場合の考慮要素
判決における逆転可能性
当事者による法的構成の当否
当事者自治の期待可能性
当事者の実質的公平

(5)法的観点指摘義務
裁判官が当該事案に関して採用を考えている法的観点について、そのことを当事者に示すべき義務
=当事者が事実の主張や立証に際してある法的観点を前提としているときに、裁判所が別の法的構成の方が妥当であると考えた場合には、裁判所がこれを当事者に示すことによって、当事者に裁判所と議論する機会や再考の機会を与える
これを怠ると、当事者は不意打ちを受けることになって手続保障の侵害が生じる。

・弁論主義のと関係では
裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とするわけではないので、弁論主義違反の問題は直接的には生じない。

・弁論権との関係では、
攻撃防御を行うのに必要な情報が与えられていないことになるので、裁判所が法的観点指摘義務を十分に果たさない場合には弁論権の侵害となる!


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6-4 審理の準備 情報収集制度

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1.情報依収集制度の必要性

2.当事者照会
+(当事者照会)
第百六十三条  当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張又は立証を準備するために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一  具体的又は個別的でない照会
二  相手方を侮辱し、又は困惑させる照会
三  既にした照会と重複する照会
四  意見を求める照会
五  相手方が回答するために不相当な費用又は時間を要する照会
六  第百九十六条又は第百九十七条の規定により証言を拒絶することができる事項と同様の事項についての照会

・照会を受けた者は、信義則に基づく解答義務を負うものと解されるが、回答拒絶等に対する制裁はない。

3.提訴前の証拠収集処分等
・提訴前の照会
+(訴えの提起前における照会)
第百三十二条の二  訴えを提起しようとする者が訴えの被告となるべき者に対し訴えの提起を予告する通知を書面でした場合(以下この章において当該通知を「予告通知」という。)には、その予告通知をした者(以下この章において「予告通知者」という。)は、その予告通知を受けた者に対し、その予告通知をした日から四月以内に限り、訴えの提起前に、訴えを提起した場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一  第百六十三条各号のいずれかに該当する照会
二  相手方又は第三者の私生活についての秘密に関する事項についての照会であって、これに回答することにより、その相手方又は第三者が社会生活を営むのに支障を生ずるおそれがあるもの
三  相手方又は第三者の営業秘密に関する事項についての照会
2  前項第二号に規定する第三者の私生活についての秘密又は同項第三号に規定する第三者の営業秘密に関する事項についての照会については、相手方がこれに回答することをその第三者が承諾した場合には、これらの規定は、適用しない。
3  予告通知の書面には、提起しようとする訴えに係る請求の要旨及び紛争の要点を記載しなければならない。
4  第一項の照会は、既にした予告通知と重複する予告通知に基づいては、することができない。

第百三十二条の三  予告通知を受けた者(以下この章において「被予告通知者」という。)は、予告通知者に対し、その予告通知の書面に記載された前条第三項の請求の要旨及び紛争の要点に対する答弁の要旨を記載した書面でその予告通知に対する返答をしたときは、予告通知者に対し、その予告通知がされた日から四月以内に限り、訴えの提起前に、訴えを提起された場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。この場合においては、同条第一項ただし書及び同条第二項の規定を準用する。
2  前項の照会は、既にされた予告通知と重複する予告通知に対する返答に基づいては、することができない。

・証拠収集処分の制度
+(訴えの提起前における証拠収集の処分)
第百三十二条の四  裁判所は、予告通知者又は前条第一項の返答をした被予告通知者の申立てにより、当該予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものについて、申立人がこれを自ら収集することが困難であると認められるときは、その予告通知又は返答の相手方(以下この章において単に「相手方」という。)の意見を聴いて、訴えの提起前に、その収集に係る次に掲げる処分をすることができる。ただし、その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。
一  文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。以下この章において同じ。)の所持者にその文書の送付を嘱託すること。
二  必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体(次条第一項第二号において「官公署等」という。)に嘱託すること。
三  専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託すること。
四  執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずること。
2  前項の処分の申立ては、予告通知がされた日から四月の不変期間内にしなければならない。ただし、その期間の経過後にその申立てをすることについて相手方の同意があるときは、この限りでない。
3  第一項の処分の申立ては、既にした予告通知と重複する予告通知又はこれに対する返答に基づいては、することができない。
4  裁判所は、第一項の処分をした後において、同項ただし書に規定する事情により相当でないと認められるに至ったときは、その処分を取り消すことができる。

4.証拠保全
+(証拠保全)
第二百三十四条  裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる

・改ざんの誘惑の大きい状況にあるという抽象的なおそれで足りる。

+(管轄裁判所等)
第二百三十五条  訴えの提起後における証拠保全の申立ては、その証拠を使用すべき審級の裁判所にしなければならない。ただし、最初の口頭弁論の期日が指定され、又は事件が弁論準備手続若しくは書面による準備手続に付された後口頭弁論の終結に至るまでの間は、受訴裁判所にしなければならない。
2  訴えの提起前における証拠保全の申立ては、尋問を受けるべき者若しくは文書を所持する者の居所又は検証物の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にしなければならない
3  急迫の事情がある場合には、訴えの提起後であっても、前項の地方裁判所又は簡易裁判所に証拠保全の申立てをすることができる。

+(職権による証拠保全)
第二百三十七条  裁判所は、必要があると認めるときは、訴訟の係属中、職権で、証拠保全の決定をすることができる。

+(不服申立ての不許)
第二百三十八条  証拠保全の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

=証拠保全の申立てを却下する決定に対しては広告できる!!

+(口頭弁論における再尋問)
第二百四十二条  証拠保全の手続において尋問をした証人について、当事者が口頭弁論における尋問の申出をしたときは、裁判所は、その尋問をしなければならない。

証拠保全で証人尋問が行われれば、本案でも証人尋問が行われたことになるのであり、証人尋問調書が書証として扱われるわけではない!

5.弁護士会照会
照会先は、公務所または公私の団体であり、個人に対する照会はできない。

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6-3 審理の準備 審理の計画

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1.進行協議期日
口頭弁論をスムーズに進行させるために、口頭弁論の期日外で、裁判所と双方の当事者が、訴訟の進行に関して必要な事項を協議するために、民事訴訟法上に設けられた特別の期日

2.計画審理
(1)計画的進行主義
+(訴訟手続の計画的進行)
第百四十七条の二  裁判所及び当事者は、適正かつ迅速な審理の実現のため、訴訟手続の計画的な進行を図らなければならない。

(2)審理計画
+(審理の計画)
第百四十七条の三  裁判所は、審理すべき事項が多数であり又は錯そうしているなど事件が複雑であることその他の事情によりその適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認められるときは、当事者双方と協議をし、その結果を踏まえて審理の計画を定めなければならない
2  前項の審理の計画においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  争点及び証拠の整理を行う期間
二  証人及び当事者本人の尋問を行う期間
三  口頭弁論の終結及び判決の言渡しの予定時期
3  第一項の審理の計画においては、前項各号に掲げる事項のほか、特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間その他の訴訟手続の計画的な進行上必要な事項を定めることができる。
4  裁判所は、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況その他の事情を考慮して必要があると認めるときは、当事者双方と協議をし、その結果を踏まえて第一項の審理の計画を変更することができる。

+(審理の計画が定められている場合の攻撃防御方法の却下)
第百五十七条の二  第百四十七条の三第三項又は第百五十六条の二(第百七十条第五項において準用する場合を含む。)の規定により特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間が定められている場合において、当事者がその期間の経過後に提出した攻撃又は防御の方法については、これにより審理の計画に従った訴訟手続の進行に著しい支障を生ずるおそれがあると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。ただし、その当事者がその期間内に当該攻撃又は防御の方法を提出することができなかったことについて相当の理由があることを疎明したときは、この限りでない。


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6-2 審理の準備 争点整理手続

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1.争点整理手続の意義
・争点とは、
実体法規の適用において意味のある事実であって、当事者間に争いのある事実を指す(事実上の争点)

・争点整理の目的
争点の範囲を縮小するとともに争点の中味を深化させること。

・争点の範囲の縮小
争点を相手方の争い方や提出が可能な証拠との関係などを通して、真の争点に絞り込んでいく作業

・争点の中身の深化
争点の対象を主要事実から間接事実や補助事実などへと展開していくこと

2.争点整理手続
(1)各種の手続とその選択

(2)準備的口頭弁論
公開法廷で双方当事者の対席のもとに実施される

+(準備的口頭弁論の開始)
第百六十四条  裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、この款に定めるところにより、準備的口頭弁論を行うことができる。

準備的口頭弁論はあくまでも口頭弁論の一種であるから、その実施について当事者の意見を聴くことは要求されない。

証人尋問や当事者尋問も含めて、およそ口頭弁論において実施が認められているあらゆる行為を行うことができる。

+(当事者の不出頭等による終了)
第百六十六条  当事者が期日に出頭せず、又は第百六十二条の規定により定められた期間内に準備書面の提出若しくは証拠の申出をしないときは、裁判所は、準備的口頭弁論を終了することができる。

(2)弁論準備手続
ⅰ)弁論準備手続の意義
弁論準備手続
=口頭弁論期日以外の期日において、受訴裁判所または受命裁判官が主宰して行う争点整理手続

+(受命裁判官による弁論準備手続)
第百七十一条  裁判所は、受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができる
2  弁論準備手続を受命裁判官が行う場合には、前二条の規定による裁判所及び裁判長の職務(前条第二項に規定する裁判を除く。)は、その裁判官が行う。ただし、同条第五項において準用する第百五十条の規定による異議についての裁判及び同項において準用する第百五十七条の二の規定による却下についての裁判は、受訴裁判所がする。
3  弁論準備手続を行う受命裁判官は、第百八十六条の規定による調査の嘱託、鑑定の嘱託、文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)を提出してする書証の申出及び文書(第二百二十九条第二項及び第二百三十一条に規定する物件を含む。)の送付の嘱託についての裁判をすることができる。

+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

ⅱ)弁論準備手続の実施
+(弁論準備手続の開始)
第百六十八条  裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる。

←当事者の協力が得られなければ、弁論準備手続における円滑な争点整理は期待できないから

+(弁論準備手続に付する裁判の取消し)
第百七十二条  裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、弁論準備手続に付する裁判を取り消すことができる。ただし、当事者双方の申立てがあるときは、これを取り消さなければならない

・実施の時期
訴え提起後にまず第1回口頭弁論期日を開き、審理の進め方を決定したうえで事件を弁論準備手続に付すことが一般的。

ⅲ)弁論準備手続でなしうる行為
証拠調べは原則として実施できないが、例外的に文書の証拠調べは行うことができる(170条2項後段)。
←争点整理には書証の認否を経ることが不可欠であること、人証の必要性の判断には文書の取調べが必要であること、文書の取調べには裁判官が閲読して行うので公開法廷で行う意味が少ないこと

ⅳ)公開主義との関係
関係者公開
+(弁論準備手続の期日)
第百六十九条  弁論準備手続は、当事者双方が立ち会うことができる期日において行う。
2  裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない

ⅴ)双方審尋主義との関係
当事者双方が立ち会うことができる期日において行う(169条1項)

・交互面接方式
交互面接方式は原則として双方審尋主義に反して許されないが、弁論準備手続では当事者が同席面接を受ける権利を行使しないことはできるので、当事者が裁判所の要請に応じて任意に退席した場合は適法とする見解がある。

(4)書面による準備手続
+(書面による準備手続の開始)
第百七十五条  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を書面による準備手続(当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいう。以下同じ。)に付することができる
(書面による準備手続の方法等)
第百七十六条  書面による準備手続は、裁判長が行う。ただし、高等裁判所においては、受命裁判官にこれを行わせることができる。
2  裁判長又は高等裁判所における受命裁判官(次項において「裁判長等」という。)は、第百六十二条に規定する期間を定めなければならない。
3  裁判長等は、必要があると認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について、当事者双方と協議をすることができる。この場合においては、協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる。
4  第百四十九条(第二項を除く。)、第百五十条及び第百六十五条第二項の規定は、書面による準備手続について準用する。

3.争点整理手続の終結
・準備的口頭弁論、弁論準備手続の場合。
+(証明すべき事実の確認等)
第百六十五条  裁判所は、準備的口頭弁論を終了するに当たり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。
2  裁判長は、相当と認めるときは、準備的口頭弁論を終了するに当たり、当事者に準備的口頭弁論における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる。

+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

・書面による弁論準備手続の場合
+(証明すべき事実の確認)
第百七十七条  裁判所は、書面による準備手続の終結後の口頭弁論の期日において、その後の証拠調べによって証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。

←書面による弁論準備手続の終了の場合は、争点及び証拠の整理は完成していないので、その手続内において、その後の証拠調べによって証明すべき事実の確認をすることができないから。

4.口頭弁論への移行
・弁論準備手続の場合
+(弁論準備手続の結果の陳述)
第百七十三条  当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない。

5.攻撃防御方法の提出制限
(1)争点整理手続後の攻撃防御方法の提出
+(準備的口頭弁論終了後の攻撃防御方法の提出)
第百六十七条  準備的口頭弁論の終了後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論の終了前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない

+(弁論準備手続終結後の攻撃防御方法の提出)
第百七十四条  第百六十七条の規定は、弁論準備手続の終結後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者について準用する。

+(書面による準備手続終結後の攻撃防御方法の提出)
第百七十八条  書面による準備手続を終結した事件について、口頭弁論の期日において、第百七十六条第四項において準用する第百六十五条第二項の書面に記載した事項の陳述がされ、又は前条の規定による確認がされた後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、その陳述又は確認前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。

(2)時機に後れた攻撃防御方法
+(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
第百五十七条  当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる
2  攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。

・適時提出主義(156条)の理念を実現するため

・要件
①時機に後れた提出であること
②当事者の故意または重過失に基づくこと
③それを審理することで訴訟の完結が遅延すること

・時機に後れた
=より早期の適切な時機に提出できたことを意味する。
争点整理手続が行われたときは、その終了後の提出は特段の事情のない限り、時機に後れたものと判断される。
控訴審での提出は、続審制がとられているので、控訴審の手続のみで判断するのではなく、第1審からの手続の経過を通じて判断すべき!
+判例(S30.4.5)
理由
 上告代理人青柳孝、同青柳洋の上告理由第一点について。
 所論引用の大審院判例(昭和八年二月七日判決)が、控訴審における民訴一三九条の適用について、第一審における訴訟手続の経過をも通観して時機に後れたるや否やを考うべきものであり、そして時機に後れた攻撃防禦の方法であつても、当事者に故意又は重大な過失が存すること及びこれがため訴訟の完結を延滞せしめる結果を招来するものでなければ、右の攻撃防禦の方法を同条により却下し得ない趣旨を判示していることは所論のとおりであつて、この解釈は現在もなお維持せらるべきものと認められる。
 記録によつて調べてみると、所論の買取請求権行使は、原審第二回の口頭弁論において(第一回は控訴代理人の申請により延期)はじめて陳述されたものであるところ、上告人が第一審第一回口頭弁論において陳述した答弁書によれば、本件賃借権の譲渡について被上告人の承諾を得ないことを認め、右不承諾を以て権利らん用であると抗弁していることがうかがわれるから、すでに第一審において少くとも前記買取請求権行使に関する主張を提出することができたものと認めるのを相当とし、所論のように、上告人が第一審において当初の主張にのみ防禦を集中したというだけの理由をもつて、上告人が第二審において始めてなした買取請求権行使に関する主張が、故意又は重大なる過失により時機に後れてなされた防禦方法でないと断定することはできない。しかし時機に遅れた防禦方法なるが故に上告人の右主張を却下するためには、その主張を審理するために具体的に訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来する場合でなければならないこと前示のとおりであるところ、借地法第一〇条の規定による買取請求権の行使あるときは、これと同時に目的家屋の所有権は法律上当然に土地賃貸人に移転するものと解すベきであるから、原審の第二回口頭弁論期日(実質上の口頭弁論が行われた最初の期日)において、上告人が右買取請求権を行使すると同時に本件家屋所有権は被上告人に移転したものであり、この法律上当然に発生する効果は、前記買取請求権行使に関する主張が上告人の重大なる過失により時期に後れた防禦方法として提出されたものであるからといつて、なんらその発生を妨げるものではなく、またこのため特段の証拠調をも要するものではないから、上告人の前記主張に基き本件家屋所有権移転の効果を認めるについて、訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来するものとはいえない。従って訴訟の完結を遅延せしめることを理由として、前記所有権移転の効果を無視し、なんらの判断をも与えずに判決することは許されないものといわなければならない。
 以上のとおりであるから、右第二回口頭弁論期日において結審することなく第六回の口頭弁論期日において弁論を終結したこと記録上明らかな本件において前記上告人の主張を時機に後れた抗弁として排斥し、本件家屋所有権移転の効果を無視したものと認められる原判決は、民訴一三九条の解釈適用を誤つた違法があるを免れない。所論はこの点において理由があるから他の論点について判断するまでもなく、原判決を破棄し右の点につき更に審理をなさしめるため本件を原審に差戻すのを相当とする。
 よつて民訴四〇七条により全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

・故意または重過失
故意または重過失の判断は、攻撃防御方法の種類を考慮して判断

・訴訟の完結の遅延
攻撃防御方法を却下した場合に想定される訴訟完結時と、その攻撃防御方法の審理を続行したい場合に想定される訴訟完結時とを比較して判断する。
その場ですぐに取り調べが可能な証拠の申出などは、訴訟の完結を遅延させるとはいえない。


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6-1 審理の準備 準備書面

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1.準備書面の意義
準備書面とは、
口頭弁論や弁論準備手続などの期日における当事者の陳述内容を相手方に予告する書面

+(準備書面)
第百六十一条  口頭弁論は、書面で準備しなければならない
2  準備書面には、次に掲げる事項を記載する。
一  攻撃又は防御の方法
二  相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
3  相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載した事実でなければ、主張することができない

・準備書面の機能
当事者が次回期日に陳述する内容を事前に予告しておくことによって、相手方は、それに対する認否や反論を準備することができるし、裁判所も、事前に内容を理解して必要に応じて釈明を求めるなどの準備ができるなどの、迅速かつ充実した手続の進行に資するとことにある。

2.準備書面の記載事項
自らの攻撃防御方法と、相手方の請求および攻撃防御方法に対する応答

3.準備書面の提出
+(準備書面等の提出期間)
第百六十二条  裁判長は、答弁書若しくは特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出又は特定の事項に関する証拠の申出をすべき期間を定めることができる。

4.準備書面の効果
・尋び書面に記載のない事実は、相手方が期日に出席していれば主張することができるが、相手方が欠席しているときは、主張することができない(161条3項)

・事実の主張には証拠の申出を含む
証拠調べに立ち会う機会やその結果に対する陳述の機会を奪うことも同様に不公平であるから。

ただし、相手方が出席当事者による事実の主張や証拠の申出を合理的に予測できた場合には、相手方に対して不公平とはいえないので、主張や証拠の申出を認めてよい。

・陳述擬制
+(訴状等の陳述の擬制)
第百五十八条  原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる。

+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

←原告に陳述の擬制を認めるのであれば被告にも認めないと均衡を失することになるから、最初の期日に限って陳述の擬制を認めることにした。


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5-3 審理の原則 審理手続の進行


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1.手続の進行に関する諸制度
(1)職権進行主義と訴訟指揮権
・訴訟手続の進行については、裁判所が権限と責任を持つ職権進行主義がとられている。

・訴訟指揮に関する裁判はいつでも取り消すことができる
+(訴訟指揮に関する裁判の取消し)
第百二十条  訴訟の指揮に関する決定及び命令は、いつでも取り消すことができる。

←絶対的に拘束されるとすると、かえって手続の適正または円滑を阻害するから。

(2)期日
裁判所、当事者等の訴訟関係人が会合して、訴訟に関する行為をするために定められる時間のことをいう。

+(期日の指定及び変更)
第九十三条  期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定する。
2  期日は、やむを得ない場合に限り、日曜日その他の一般の休日に指定することができる。
3  口頭弁論及び弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限り許す。ただし、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許す。
4  前項の規定にかかわらず、弁論準備手続を経た口頭弁論の期日の変更は、やむを得ない事由がある場合でなければ、許すことができない。

+(期日の呼出し)
第九十四条  期日の呼出しは、呼出状の送達、当該事件について出頭した者に対する期日の告知その他相当と認める方法によってする。
2  呼出状の送達及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない当事者、証人又は鑑定人に対し、法律上の制裁その他期日の不遵守による不利益を帰することができない。ただし、これらの者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、この限りでない。

・期日の変更
=期日が開始する前に、その指定を取消し、新たな期日を指定すること

・期日の延期
=期日を開始したうえで、予定の訴訟行為を全くしないで、次回以降の期日を指定すること

・期日の続行
=期日を実施し、訴訟行為をしたうえで、これを継続して行うために、次回以降の期日を指定すること。

(3)期間
・裁定期間と法定期間のうちの通常期間は裁判所が伸縮することができるが、不変期間は伸縮できない。
+(期間の伸縮及び付加期間)
第九十六条  裁判所は、法定の期間又はその定めた期間を伸長し、又は短縮することができる。ただし、不変期間については、この限りでない。
2  不変期間については、裁判所は、遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができる。

(4)訴訟行為の追完

+(訴訟行為の追完)
第九十七条  当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。
2  前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。

訴訟代理人に過失があったことは、当事者の責めに帰することができない事由があるとはいえない。

(5)口頭弁論における訴訟指揮
・口頭弁論の制限
+(口頭弁論の併合等)
第百五十二条  裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消すことができる
2  裁判所は、当事者を異にする事件について口頭弁論の併合を命じた場合において、その前に尋問をした証人について、尋問の機会がなかった当事者が尋問の申出をしたときは、その尋問をしなければならない。

口頭弁論の制限
=弁論や証拠調べの対象となる事項が複数ある場合に、そのうちの一部についてのみ弁論を集中して行うよう当事者に命じ、その部分についてのみ審理をするという裁判所の決定。

・口頭弁論の終結
裁判所がその審級での審理を終えること

・口頭弁論の再開
+(口頭弁論の再開)
第百五十三条  裁判所は、終結した口頭弁論の再開を命ずることができる。

口頭弁論の終結後、判決の言渡しまでの間に、裁判所が、さらに審理が必要であると考えることにより口頭弁論の再開
事情によっては義務となる。

(6)訴訟記録
各訴訟事件について、裁判所、当事者その他の関係人が作成または提出した書類の総体

・訴訟記録の閲覧は誰でも請求することができる
+(訴訟記録の閲覧等)
第九十一条  何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる
2  公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については、当事者及び利害関係を疎明した第三者に限り、前項の規定による請求をすることができる。
3  当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができる
4  前項の規定は、訴訟記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、これらの物について当事者又は利害関係を疎明した第三者の請求があるときは、裁判所書記官は、その複製を許さなければならない。
5  訴訟記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。

訴訟記録の一般公開(91条1項)は、憲法82条1項の定める一般公開主義から当然に導かれるものではないが、その趣旨をより実質化するもの。

2.送達
(1)送達の意義
送達とは、
当事者その他の訴訟関係人に対して、訴訟上の書類の内容を知らせるために、法定の方式に従って書類を交付する、または、交付を受ける機会を与える裁判所の訴訟行為

(2)送達しなければならない書類
訴状
期日の呼出状
反訴状
など

(3)送達に関する機関
職権送達の原則
+(職権送達の原則等)
第九十八条  送達は、特別の定めがある場合を除き、職権でする。
2  送達に関する事務は、裁判所書記官が取り扱う。

(4)受送達者
当事者に訴訟代理人がいる場合は、訴訟代理人が受送達者となるのが通常であるが、本人に対する送達も適法である。

数人が共同して代理権を行うべき場合には、送達はその1人に対してすればよい。
+(訴訟無能力者等に対する送達)
第百二条  訴訟無能力者に対する送達は、その法定代理人にする。
2  数人が共同して代理権を行うべき場合には、送達は、その一人にすれば足りる。
3  刑事施設に収容されている者に対する送達は、刑事施設の長にする。

(5)送達の方法
ⅰ)交付送達
交付送達の原則
+(交付送達の原則)
第百一条  送達は、特別の定めがある場合を除き、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。

+(送達場所)
第百三条  送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。

・就業場所送達(103条2項)

・出会送達
+(出会送達)
第百五条  前二条の規定にかかわらず、送達を受けるべき者で日本国内に住所等を有することが明らかでないもの(前条第一項前段の規定による届出をした者を除く。)に対する送達は、その者に出会った場所においてすることができる。日本国内に住所等を有することが明らかな者又は同項前段の規定による届出をした者が送達を受けることを拒まないときも、同様とする。

・補充送達
+(補充送達及び差置送達)
第百六条  就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
2  就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において、第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは、これらの者に書類を交付することができる。
3  送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。

7歳9か月の女子は相当のわきまえのある者ではない。

同居人であっても受送達者の訴訟の相手方である場合には代人となりえない。

他方、受送達者と同居人が対立当事者ではなく、実質的に利害関係が対立するにとどまる場合、判例は、同居人に対する訴状や期日呼び出し状の補充送達を適法とする!!!
+判例(H19.3.20)
理由
 抗告代理人伊藤諭、同田中栄樹の抗告理由について
 1 本件は、抗告人が、相手方の抗告人に対する請求を認容した確定判決につき、民訴法338条1項3号の再審事由があるとして申し立てた再審事件である。
 2 記録によれば、本件の経過は次のとおりである。
 (1) 相手方は、平成15年12月5日、横浜地方裁判所川崎支部に、抗告人及びAを被告とする貸金請求訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。
 相手方は、前訴において、〈1〉B1及びB2は、平成9年10月31日及び同年11月7日、Aに対し、いずれも抗告人を連帯保証人として、各500万円を貸し付けた、〈2〉相手方は、Bらから、BらがAに対して有する上記貸金債権の譲渡を受けたなどと主張して、抗告人及びAに対し、上記貸金合計1000万円及びこれに対する約定遅延損害金の連帯支払を求めた。
 (2) Aは、抗告人の義父であり、抗告人と同居していたところ、平成15年12月26日、自らを受送達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日(平成16年1月28日午後1時10分)の呼出状等の交付を受けるとともに、抗告人を受送達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状等(以下「本件訴状等」という。)についても、抗告人の同居者として、その交付を受けた。
 (3) 抗告人及びAは、前訴の第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書その他の準備書面も提出しなかったため、口頭弁論は終結され、第2回口頭弁論期日(平成16年2月4日午後1時10分)において、抗告人及びAが相手方の主張する請求原因事実を自白したものとみなして相手方の請求を認容する旨の判決(以下「前訴判決」という。)が言い渡された。
 (4) 抗告人及びAに対する前訴判決の判決書に代わる調書の送達事務を担当した横浜地方裁判所川崎支部の裁判所書記官は、抗告人及びAの住所における送達が受送達者不在によりできなかったため、平成16年2月26日、抗告人及びAの住所あてに書留郵便に付する送達を実施した。上記送達書類は、いずれも、受送達者不在のため配達できず、郵便局に保管され、留置期間の経過により同支部に返還された。
 (5) 抗告人及びAのいずれも前訴判決に対して控訴をせず、前訴判決は平成16年3月12日に確定した。
 (6) 抗告人は、平成18年3月10日、本件再審の訴えを提起した。
 3 抗告人は、前訴判決の再審事由について、次のとおり主張している。
 前訴の請求原因は、抗告人がAの債務を連帯保証したというものであるが、抗告人は、自らの意思で連帯保証人になったことはなく、Aが抗告人に無断で抗告人の印章を持ち出して金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に抗告人の印章を押印したものである。Aは、平成18年2月28日に至るまで、かかる事情を抗告人に一切話していなかったのであって、前訴に関し、抗告人とAは利害が対立していたというべきである。したがって、Aが抗告人あての本件訴状等の交付を受けたとしても、これが遅滞なく抗告人に交付されることを期待できる状況にはなく、現に、Aは交付を受けた本件訴状等を抗告人に交付しなかった。以上によれば、前訴において、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達(民訴法106条1項)としての効力を生じていないというべきであり、本件訴状等の有効な送達がないため、抗告人に訴訟に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたのであるから、前訴判決には民訴法338条1項3号の再審事由がある(最高裁平成3年(オ)第589号同4年9月10日第一小法廷判決・民集46巻6号553頁参照)。
 4 原審は、前訴において、抗告人の同居者であるAが抗告人あての本件訴状等の交付を受けたのであるから、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として有効であり、前訴判決に民訴法338条1項3号の再審事由がある旨の抗告人の主張は理由がないとして、抗告人の再審請求を棄却すべきものとした。
 5 原審の判断のうち、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として有効であるとした点は是認することができるが、前訴判決に民訴法338条1項3号の再審事由がある旨の抗告人の主張は理由がないとした点は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 民訴法106条1項は、就業場所以外の送達をすべき場所において受送達者に出会わないときは、「使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるもの」(以下「同居者等」という。)に書類を交付すれば、受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしており、その後、書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か、同居者等が上記交付の事実を受送達者に告知したか否かは、送達の効力に影響を及ぼすものではない(最高裁昭和42年(オ)第1017号同45年5月22日第二小法廷判決・裁判集民事99号201頁参照)。
 したがって、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が、その訴訟において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として(民法108条参照)、その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には、当該同居者等に対して上記書類を交付することによって、受送達者に対する送達の効力が生ずるというべきである。
 そうすると、仮に、抗告人の主張するような事実関係があったとしても、本件訴状等は抗告人に対して有効に送達されたものということができる
 以上と同旨の原審の判断は是認することができる。
 (2) しかし、本件訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって、直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならない同事由の存否は、当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならない
 すなわち、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に、その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため、同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において、実際にもその交付がされなかったときは、受送達者は、その訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると、上記の場合において、当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず、そのため、受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには、当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから、民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である。
 抗告人の主張によれば、前訴において抗告人に対して連帯保証債務の履行が請求されることになったのは、抗告人の同居者として抗告人あての本件訴状等の交付を受けたAが、Aを主債務者とする債務について、抗告人の氏名及び印章を冒用してBらとの間で連帯保証契約を締結したためであったというのであるから、抗告人の主張するとおりの事実関係が認められるのであれば、前訴に関し、抗告人とその同居者であるAとの間には事実上の利害関係の対立があり、Aが抗告人あての訴訟関係書類を抗告人に交付することを期待することができない場合であったというべきである。したがって、実際に本件訴状等がAから抗告人に交付されず、そのために抗告人が前訴が提起されていることを知らないまま前訴判決がされたのであれば、前訴判決には民訴法338条1項3号の再審事由が認められるというべきである。
 抗告人の前記3の主張は、抗告人に前訴の手続に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたことに民訴法338条1項3号の再審事由があるというものであるから、抗告人に対する本件訴状等の補充送達が有効であることのみを理由に、抗告人の主張するその余の事実関係について審理することなく、抗告人の主張には理由がないとして本件再審請求を排斥した原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、上記事由の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)

・差置送達(106条3項)

・裁判所書記官送達
+(裁判所書記官による送達)
第百条  裁判所書記官は、その所属する裁判所の事件について出頭した者に対しては、自ら送達をすることができる。

ⅱ)書留郵便等に付する送達(付郵便送達)
+(書留郵便等に付する送達)
第百七条  前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成十四年法律第九十九号)第二条第六項 に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項 に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項 に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。
一  第百三条の規定による送達をすべき場合
     同条第一項に定める場所
二  第百四条第二項の規定による送達をすべき場合
     同項の場所
三  第百四条第三項の規定による送達をすべき場合
     同項の場所(その場所が就業場所である場合にあっては、訴訟記録に表れたその者の住所等)
2  前項第二号又は第三号の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その後に送達すべき書類は、同項第二号又は第三号に定める場所にあてて、書留郵便等に付して発送することができる。
3  前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。

ⅲ)公示送達
+(公示送達の方法)
第百十一条  公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。

+(公示送達の要件)
第百十条  次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一  当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二  第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三  外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四  第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2  前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3  同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。

+(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条  公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2  外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3  前二項の期間は、短縮することができない。

(6)送達場所等の届出
+(送達場所等の届出)
第百四条  当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては、送達受取人をも届け出ることができる。
2  前項前段の規定による届出があった場合には、送達は、前条の規定にかかわらず、その届出に係る場所においてする。
3  第一項前段の規定による届出をしない者で次の各号に掲げる送達を受けたものに対するその後の送達は、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める場所においてする。
一  前条の規定による送達
     その送達をした場所
二  次条後段の規定による送達のうち郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。第百六条第一項後段において同じ。)においてするもの及び同項後段の規定による送達
     その送達において送達をすべき場所とされていた場所
三  第百七条第一項第一号の規定による送達
     その送達においてあて先とした場所

3.当事者欠席の場合の取扱い
(1)当事者の一方の欠席
・陳述擬制
+(訴状等の陳述の擬制)
第百五十八条  原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる

+(準備書面)
第百六十一条  口頭弁論は、書面で準備しなければならない。
2  準備書面には、次に掲げる事項を記載する。
一  攻撃又は防御の方法
二  相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
3  相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載した事実でなければ、主張することができない

・擬制自白
+(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない

・続行期日には擬制陳述はできない。

・審理の現状に基づく判決
+第二百四十四条  裁判所は、当事者の双方又は一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合において、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当と認めるときは、終局判決をすることができる。ただし、当事者の一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合には、出頭した相手方の申出があるときに限る。

・訴え取り下げの擬制
+(訴えの取下げの擬制)
第二百六十三条  当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。

(2)当事者双方の欠席
・当事者双方が欠席した場合、証拠調べ(183条)および判決の言渡し(251条2項)はできるが、それ以外の行為はすることができない。

・訴え取り下げの擬制(263条)

4.申立権と責問権
(1)申立権
当事者がその申立てについて裁判所に判断を求めることができる権利

+(抗告をすることができる裁判)
第三百二十八条  口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定又は命令に対しては、抗告をすることができる。
2  決定又は命令により裁判をすることができない事項について決定又は命令がされたときは、これに対して抗告をすることができる。

(2)責問権(異議権)の意義
+(訴訟手続に関する異議権の喪失)
第九十条  当事者が訴訟手続に関する規定の違反を知り、又は知ることができた場合において、遅滞なく異議を述べないときは、これを述べる権利を失う。ただし、放棄することができないものについては、この限りでない。

(3)責問権の放棄・喪失
ⅰ)責問権の放棄・喪失の意義と趣旨
・責問権の喪失
私益保護の意味の強い訴訟手続規定違反の場合に、これによって利益を保護されている当事者が、その違反を知り、または知ることができたのに、遅滞なく異議を述べなかったときには、異議を述べる権利を失うとした
訴訟行為をできるだけ有効として手続きの安定化を図り、訴訟経済を害さないようにしている。

・責問権の放棄
当事者の裁判所に対する意思表示によって放棄することも可能
責問権の放棄は、違法となる訴訟行為が行われた後にすることを要し、あらかじめこれを放棄することはできない。
←任意訴訟禁止の原則に反するから。

ⅱ)責問権の放棄・喪失が認められない場合
公益を保護する趣旨の規定に違反する訴訟行為については、当事者の異議が遅れたことを理由として、有効と取り扱うことはできないし、責問権の放棄もできない。

6.訴訟手続の停止
(1)訴訟手続きの停止の意義と効果
全ての当事者が攻撃防御方法の提出を十分に尽くす機会を平等に与えられる必要があるという双方審尋主義の要請から。

停止期間中に裁判所や当事者がした行為は原則として無効(132条1項の反対解釈)

ただし、訴訟手続の停止はもっぱら当事者の利益保護のための制度であり、公益的理由に基づくものではないので、停止によって利益を保護されたはずの当事者が責問権を喪失・放棄したときは、無効の主張ができなくなり、その瑕疵は治癒される。

(2)訴訟手続きの中断の意義と要件
+(訴訟手続の中断及び受継)
第百二十四条  次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一  当事者の死亡
     相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
二  当事者である法人の合併による消滅
     合併によって設立された法人又は合併後存続する法人
三  当事者の訴訟能力の喪失又は法定代理人の死亡若しくは代理権の消滅
     法定代理人又は訴訟能力を有するに至った当事者
四  次のイからハまでに掲げる者の信託に関する任務の終了 当該イからハまでに定める者
イ 当事者である受託者 新たな受託者又は信託財産管理者若しくは信託財産法人管理人
ロ 当事者である信託財産管理者又は信託財産法人管理人 新たな受託者又は新たな信託財産管理者若しくは新たな信託財産法人管理人
ハ 当事者である信託管理人 受益者又は新たな信託管理人
五  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの死亡その他の事由による資格の喪失
     同一の資格を有する者
六  選定当事者の全員の死亡その他の事由による資格の喪失
     選定者の全員又は新たな選定当事者
2  前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない。
3  第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
4  第一項第二号の規定は、合併をもって相手方に対抗することができない場合には、適用しない。
5  第一項第三号の法定代理人が保佐人又は補助人である場合にあっては、同号の規定は、次に掲げるときには、適用しない。
一  被保佐人又は被補助人が訴訟行為をすることについて保佐人又は補助人の同意を得ることを要しないとき。
二  被保佐人又は被補助人が前号に規定する同意を得ることを要する場合において、その同意を得ているとき。

当然承継
=当事者の死亡等の要件の発生によって法律上当然に効果が生じるもの

・訴訟手続の受継
中断していた訴訟手続きを進行させるためには、新追行者に訴訟を受け継がせるための一定の訴訟行為が必要。
受継の申立て(124条、126条)と裁判所による受継の裁判(128条)

+(相手方による受継の申立て)
第百二十六条  訴訟手続の受継の申立ては、相手方もすることができる。

+(受継についての裁判)
第百二十八条  訴訟手続の受継の申立てがあった場合には、裁判所は、職権で調査し、理由がないと認めるときは、決定で、その申立てを却下しなければならない。
2  判決書又は第二百五十四条第二項(第三百七十四条第二項において準用する場合を含む。)の調書の送達後に中断した訴訟手続の受継の申立てがあった場合には、その判決をした裁判所は、その申立てについて裁判をしなければならない。

+(受継の通知)
第百二十七条  訴訟手続の受継の申立てがあった場合には、裁判所は、相手方に通知しなければならない。

+(職権による続行命令)
第百二十九条  当事者が訴訟手続の受継の申立てをしない場合においても、裁判所は、職権で、訴訟手続の続行を命ずることができる。

(3)訴訟手続きの中止
+(裁判所の職務執行不能による中止)
第百三十条  天災その他の事由によって裁判所が職務を行うことができないときは、訴訟手続は、その事由が消滅するまで中止する。
(当事者の故障による中止)
第百三十一条  当事者が不定期間の故障により訴訟手続を続行することができないときは、裁判所は、決定で、その中止を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の決定を取り消すことができる。


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5-2 審理の原則 訴訟行為

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1.意義と種類
(1)訴訟行為の意義
訴訟行為とは、
訴訟手続において訴訟の主体が行う行為であって、訴訟法上の効果を発生させるもの。

(2)当事者の訴訟行為
申立て
=裁判その他の裁判所の訴訟行為を求めることを目的とする当事者の訴訟行為

主張
=申立てを理由づけ、または、理由のないものとするために当事者が裁判所に提出する訴訟行為

2.訴訟行為と私法行為
(1)訴訟行為と私法行為の区別
訴訟行為か私法行為かの区別をする実益は、当事者の一定の行為について、私法行為を規律する実体法上の規定を適用すべきかどうかが問題になったときに、訴訟法的な特別の考慮をする必要があるかどうかを分けるところにある!

(2)訴訟に関する合意の効力
・訴訟に関する合意
=現在または将来の訴訟に関し、訴訟手続や訴訟追行の方法等に関して当事者がする合意をいう。

・任意訴訟の禁止の原則
=訴訟手続は、民訴法等の訴訟法規の定めに従って統一的な方式で進められる必要があり、個々の事件において裁判所や当事者が任意に手続を定めることは、原則として許されない。

・当事者の意思を尊重しても訴訟法規の趣旨や公益に反しない場合が考えられる。
→処分権主義や弁論主義の妥当する範囲内の事実については、その内容が合理的かつ明確なものであれば、ほかに無効事由がない限りは、当事者の合意が有効と認められることになる!!!!

(3)訴訟行為についての実体法規適用の有無
・行為能力に関する民法の規定の適用については
制限行為能力者にとって保護がより厚い訴訟能力制度によるべき

・意思の欠缺・瑕疵に関する規定については
①訴訟手続内で行われ、一連の手続の起点または通過点となる行為の場合には、手続の安定を考慮して適用が認められない!
②訴訟前または訴訟外でされる訴訟行為や訴訟を終了させる訴訟行為には、手続の安定等の要請が低いので、適用を認めやすい。

・公序良俗については
法秩序一般に準ずるものとして訴訟行為にも適用させるべき場合がある。

3.訴訟行為と信義則

4.訴訟行為の撤回
・訴訟を終了させる行為など、一定の効果が直ちに発生する場合には、その行為をした当事者が自由に撤回することはできない。

・申立てについては、裁判所が裁判や証拠調べによりこれに応答するまでは、その撤回が可能。

・事実や法的事項に関する当事者の主張は、原則として撤回が自由であると解されるが、主張の撤回も攻撃防御方法の提出の1つの形態であるから、適時にされなければ時機に後れたもの(157条1項)にあたることになる

5.訴訟行為と条件
訴訟行為に条件や期限を付することについては、訴訟手続の安定および明確性の要請や、裁判所の判断を無用に拘束しないようにする必要があるとの配慮から、原則として許されない。

ただし、相殺の抗弁については例外。

6.実体法上の形成権の行使に関する主張とその却下の効果
・形成権の行使が時機に後れたものであるとして裁判所に却下された場合(157条)、裁判所にその主張の内容について判断させるという訴訟法上の効果は発生しないことになるが、
このような場合に、形成権行使の実体法上の効果はどうなるのか???

行為の性質
実体法上の法律行為(意思表示)と、そのような法律行為がされたことを法律上主張する訴訟行為との2つの行為がされていると解するのが相当である。(併存説)
→訴訟法上は効果がなくとも実体法上は効果がのこる。

しかし、形成権を行使する当事者の合理的な効果意思がどのようなものかを考えて、当該訴訟において主張の内容に関する裁判所の判断を受けなかった場合には実体法上の効果を残さないという条件付きでされた形成権の行使であると考えるのが妥当。(新併存説)
→当該訴訟で判断の対象とならなかった場合には実体法上の効力も存在しないことになる。

・形成権の訴訟外行使
請求される可能性のある相手方の受働債権について訴訟外で総裁の意思表示をし、その事実を訴訟で主張したが却下された場合。
この場合は実体法上の効果が確定的に生じる(民法506条)!!
訴訟外の相殺の意思表示は、相殺の要件を満たしている限り、これにより確定的に相殺の効果が生じる。


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5-1 審理の原則 審理の方式

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1.民事訴訟における口頭弁論の意義
(1)口頭弁論の概念
・審理方式としての口頭弁論
+(口頭弁論の必要性)
第八十七条  当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
2  前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる
3  前二項の規定は、特別の定めがある場合には、適用しない。

・手続の時間的・場所的空間としての口頭弁論
+(期日の指定及び変更)
第九十三条  期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定する。
2  期日は、やむを得ない場合に限り、日曜日その他の一般の休日に指定することができる。
3  口頭弁論及び弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限り許す。ただし、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許す。
4  前項の規定にかかわらず、弁論準備手続を経た口頭弁論の期日の変更は、やむを得ない事由がある場合でなければ、許すことができない。

・当事者等の訴訟行為としての口頭弁論

(2)口頭弁論の必要性
ⅰ)必要的口頭弁論
・当事者に口頭弁論をする義務があるわけではなく、裁判所が当事者に口頭弁論をする機会を与えなければならないということ。

・一定の基本原則に従った方式である口頭弁論を経ることが、審理の手続の公正さや正統性を基礎付ける。

・必要的口頭弁論
=判決手続きにおいて口頭弁論が必要とされること、または、そのことに基づいて実施される口頭弁論手続

ⅱ)任意的口頭弁論
決定で完結すべき事件は、迅速な処理を要し、当事者間の実体的な権利義務や法律関係の確定をもたらすものではないことから、簡易な手続でも足り、口頭弁論が任意的とされている。

審尋とは、
当事者や利害関係人に対し、書面または口頭で、陳述する機会を与えることをいう。

ⅲ)必要的口頭弁論の例外
法律で例外的規定
当事者に口頭弁論の機会を与える必要性が実質的に低いことから。

2.口頭弁論の諸原則
(1)双方審尋主義
当事者双方が、攻撃防御方法の提出(主張や立証)を十分に尽くす機会を平等に与えられること

趣旨
当事者に十分な手続上の権限を保障し(手続保障)、裁判の公正を実現し、訴訟の結果に対する当事者の満足・納得や、裁判制度に対する社会の信頼を確保

(2)公開主義
訴訟の審理および判決の言渡しを一般公衆に公開すること(一般公開主義)
公開主義違反は312条2項5号で絶対的上告理由となる。

・一般主義の例外が認められる場合でも当事者公開主義の制限はできない!

(3)口頭主義
判決の基礎となる申立て、主張、証拠申出、証拠調べの結果は裁判所に口頭で陳述ないし顕出されなければならないという原則
⇔書面主義

(4)直接主義
判決をする裁判官自身が直接、当事者の弁論を聴取し、証拠調べをするという原則

趣旨
裁判官自身の認識を判決に直接反映できるようにすることで、事案の適切な把握や真実発見という意味で内容的に適正な判決がされるようにすること。

直接主義に違反して判決したことは、判決の手続の違法事由(306条)や絶対的上告事由(312条2項1号)となる。

+(直接主義)
第二百四十九条  判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする
2  裁判官が代わった場合には、当事者は、従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならない。
3  単独の裁判官が代わった場合又は合議体の裁判官の過半数が代わった場合において、その前に尋問をした証人について、当事者が更に尋問の申出をしたときは、裁判所は、その尋問をしなければならない。

3.審理の効率化のための諸原則
(1)適時提出主義
攻撃防御方法は訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない。

+(攻撃防御方法の提出時期)
第百五十六条  攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない。

・156条にいう適時より後に提出された攻撃防御方法は、それが故意または重過失によるもので、訴訟の簡潔を遅延させるものであれば、157条1項によって却下されることになる。

+(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
第百五十七条  当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2  攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。

(2)集中証拠調べの原則
証人及び当事者本人の尋問を、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行うこととする原則
+(集中証拠調べ)
第百八十二条  証人及び当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない。

(3)計画的進行主義
+(訴訟手続の計画的進行)
第百四十七条の二  裁判所及び当事者は、適正かつ迅速な審理の実現のため、訴訟手続の計画的な進行を図らなければならない
(審理の計画)
第百四十七条の三  裁判所は、審理すべき事項が多数であり又は錯そうしているなど事件が複雑であることその他の事情によりその適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認められるときは、当事者双方と協議をし、その結果を踏まえて審理の計画を定めなければならない
2  前項の審理の計画においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  争点及び証拠の整理を行う期間
二  証人及び当事者本人の尋問を行う期間
三  口頭弁論の終結及び判決の言渡しの予定時期
3  第一項の審理の計画においては、前項各号に掲げる事項のほか、特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間その他の訴訟手続の計画的な進行上必要な事項を定めることができる。
4  裁判所は、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況その他の事情を考慮して必要があると認めるときは、当事者双方と協議をし、その結果を踏まえて第一項の審理の計画を変更することができる。


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4-5 当事者 第三者による訴訟担当

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1.訴訟担当の意義と分類
・第三者による訴訟担当とは
訴訟物たる権利義務の主体とはされていない第三者が、その訴訟物について当事者適格を認められ、その第三者の受けた判決の効力が実体法上の権利義務の主体とされている者に対しても及ぶ場合をいう。

・担当者
訴訟の当事者となる者

・被担当者
権利義務の主体とされている者

・訴訟担当の場合には、担当者が自ら当事者となり、被担当者は訴訟外の第三者にとどまる

2.法定訴訟担当
(1)法定訴訟担当の諸類型
ⅰ)担当者のための法定訴訟担当
債権者代位訴訟など

ⅱ)職務上の当事者
破産管財人
遺言執行者など
相続財産管理人については、判例は相続人の法定代理人であるとする。

+α遺言執行者の当事者適格
・遺産に属する財産の保全や回復のための訴えについては、遺言執行者と受遺者等とがいずれも原告適格を有する
・受遺者が遺贈の対象とされた不動産の移転登記請求を求める訴えの被告適格は遺言執行者のみにある(×登記名義人である相続人)
・遺言無効を理由として相続による共有持分権の確認を求める訴えについても、遺言執行者が被告適格を有する

(2)債権者代位訴訟の取り扱い
・代位債権者の請求を棄却する判決の効力が被担当者に及ぶことが十分に正当化できるか?
①担当者と被担当者の利害が対立する場合には、担当者の受けた判決が有利な場合のみ被担当者に判決効が及ぶとする考え方
⇔第三債務者の立場からすると、代位債権者に対して勝訴しても、再度債務者からの提起があれば応訴を強いられてしまうという問題がある

②代位債権者は、もっぱら自己の固有の利益のために訴訟追行するのであるから、これを訴訟担当とみることは適切でなく、むしろ、第三者の権利の確認訴訟などの場合と同様に、固有の当事者適格に基づいて訴訟追行する者である。
第三債務者としては、債務者を代位訴訟に引き込むこともできる
→訴訟担当ではないから、代位債権者の受けた判決の効力が債務者に及ぶことはない。
⇔第三債務者の二重応訴の負担

③債権者代位訴訟が法定訴訟担当であること、代位債権者の受けた判決の効力が有利にも不利にも債務者に及ぶことを前提としつつ、代位債権者による訴訟担当が認められるための条件として、債務者に告知することを要求するという考え
第三債務者としては、債務者の引き込みという措置をとるという負担なく、二重応訴の危険を免れることになる

3.任意的訴訟担当
(1)任意的訴訟担当の意義
任意的訴訟担当
権利義務の帰属主体とされる者からの授権に基づいて第三者に訴訟担当者としての当事者適格が認められる場合をいう

明文の場合
+(選定当事者)
第三十条  共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。
2  訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3  係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4  第一項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5  選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。

(2)任意的訴訟担当の適法性
ⅰ)問題の所在
①弁護士代理の原則(54条1項本文)や信託法における訴訟信託の禁止(信託10条)のように、権利義務主体以外の第三者による訴訟追行を制限する規律が潜脱される。
これらの規律は、一方では訴訟手続きの円滑な進行という訴訟制度運営者や相手方当事者の利益にかかわる。
他方では、三百代言といった職業の発生を防止し、弁護士による訴訟代理の基盤を保障するという点で、訴訟制度の他の利用者の利益にもかかわるものであることから、権利義務主体による任意の手段を許さない強行法規とされている。

②権利義務主体による授権があるだけで、担当者の受けた判決の効力を被担当者に及ぼしてよいかという点も自明ではない。
判決効は、当事者として手続き保証を与えられたものだけに及ぶのが原則だから。

③当事者が権利義務主体ではなく担当者だということになれば、訴訟費用の負担者などの点で、不利益を受ける可能性がある。

ⅱ)学説
実質的関係説
担当者側の利益を考慮
①担当者自身が訴訟の結果について補助参加の利益と同様の利害関係を有している場合
②担当者が権利関係の発生・管理に現実に密接に関与し、権利主体と同程度に権利関係に知識を有する場合
③緊急避難的な場合

まあだいたいの学説は
①権利義務主体側の必要性・要保護性
②訴訟物、権利義務主体の実体法上の地位と、担当者の実体法上の地位の関連性

ⅲ)裁判例
・弁護士代理の原則および訴訟信託の禁止の規律を回避潜脱するおそれがなく、任意的訴訟担当を認める合理的必要がある場合には許される。
+判例(S45.11.11)
理由
 上告代理人酒見哲郎の上告理由第一点について。
 記録によれば、本訴は、被上告人が「互」建設工業共同企業体との間に締結した請負契約を解除したことによつて同企業体の蒙つた損害の賠償を、上告人が原告として訴求するものであるところ、原審は、上告人が本訴につき当事者適格を有しないことを理由に、次のように説示して、本件訴を不適法として却下した。すなわち、「互」建設工業共同企業体は、和歌山県知事の発注にかかる七、一八水害復旧建設工事の請負及びこれに付帯する事業を共同で営むことを目的とし、上告人ほか四名の構成員によつて組織された民法上の組合であり、その規約上、代表者たる上告人は、建設工事の施行に関し企業体を代表して発注者及び監督官庁等第三者と折渉する権限ならびに自己の名義をもつて請負代金の請求、受領及び企業体に属する財産を管理する権限を有するものと定められているものである。しかるところ、右企業体は民法上の組合であるから、訴訟の目的たる右損害賠償請求権は組合員である企業体の各構成員に本来帰属するものであるが、上告人は、前示組合規約によつて、組合代表者として、自己の名で前記の請負代金の請求、受領、組合財産の管理等の対外的業務を執行する権限を与えられているのであるから、上告人は、自己の名で右損害賠償請求権を行使し、必要とあれば、自己の名で訴訟上これを行使する権限、すなわち訴訟追行権をも与えられたものというべきである。したがつて、本件は、組合員たる企業体の各構成員が上告人に任意に訴訟追行権を与えたいわゆる任意的訴訟信託の関係にあるが、訴訟追行権は訴訟法上の権能であり、民訴法四七条のような法的規制によらない任意の訴訟信託は許されないものと解すべきであり、上告人が実体上前記の権限を与えられたからといつて、これが訴訟追行権を認めることはできず、上告人は、本訴につき当事者適格を有しないというのである。
 ところで、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがつて、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのであるしかし、それに限られるものでないのはもとよりであつて、たとえば、第三者であつても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。
 そして、このようないわゆる任意的訴訟信託については、民訴法上は、同法四七条が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制度を設けこれを許容しているのであるから、通常はこの手続によるべきものではあるが、同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。
 そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであつて、民訴法四七条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。したがつて、当裁判所の判例(昭和三四年(オ)第五七七号・同三七年七月一三日言渡第二小法廷判決・民集一六巻八号一五一六頁)は、右と見解を異にする限度においてこれを変更すべきものである。
 そして、本件の前示事実関係は記録によりこれを肯認しうるところ、その事実関係によれば、民法上の組合たる前記企業体において、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員たる上告人は、組合財産に関する訴訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、本訴につき自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するものというべきである。しかるに、これと異なる見解のもとに上告人が右の当事者適格を欠くことを理由に本件訴を不適法として却下した原判決は、民訴法の解釈を誤るもので、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官松田二郎は退官につき評議に関与しない。
 (裁判長裁判官 石田和外 裁判官 入江俊郎 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 田中二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷)

任意的訴訟担当を許容するにあたって、担当者の実体法上の地位・権限を重視している!

5選定当事者
(1)選定当事者制度の意義
・選定当事者とは、
共同の利益を有する多数の者が、その中から全員のために当事者となるべき者を選定し、その者に訴訟追行をさせることを認める制度(30条)
+(選定当事者)
第三十条  共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。
2  訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3  係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4  第一項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5  選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。

・選定する側を選定者
選定されて当事者となる側を選定当事者と呼ぶ。

・共同の利益を有する多数の者がそのまま共同訴訟人として訴訟を追行するのでは、手続の信仰が複雑かつ負担の重い者になることから、当事者を少数の者に絞ることによって、訴訟手続の単純化を可能にした。

(2)選定当事者の要件
・共同の利益を有するとは、
38条の共同訴訟の要件を相互に満たす者であって、主要な攻撃防御の方法を共通する者であれば足り、必要的共同訴訟の要件や、38条前段の要件を満たす必要はない。

・共同の利益を有する多数者が29条にいう法人でない社団をを構成する場合には、社団による訴訟追行が可能であることから、選定当事者制度の適用はない。

・選定行為は特定の訴訟に対して個別的にされる必要がある。

(3)選定後の手続
・訴訟係属前の選定
選定当事者が原告として訴訟追行する場合、選定者の請求についても当事者適格を取得し、自己の請求と選定者の請求とを併合して訴えを提起することになる

被告として訴訟追行をする場合
相手方である原告の知らないうちに選定行為がされたことによって選定者を被告とした訴えが不適法とされるのでは、原告の保護にかける結果となるから、36条2項を類推して、訴訟係属前に選定の通知をしない限り、選定の効果は生じないと解すべき。

・訴訟係属後の選定
既存当事者による選定であれば、選定者は当然に訴訟から脱退し、以後、選定当事者のみが当事者として訴訟を追行することになる。

・選定当事者は、訴えの取り下げや訴訟上の和解、請求の放棄認諾等についても、特別の授権を受けることなく可能。そうした権限に制限を加えても無効。
+判例(S43.8.27)
 理  由
 上告人らの上告理由について。
 論旨は、強迫を理由に本件和解の意思表示を取り消す旨を主張するが、記録に照らしても、上告人らが原審において強迫にあたる具体的事実を主張した形跡はないから、原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ。)が右取消しの主張を採用しなかつたことに違法はない。
 次に論旨は、選定当事者である上告人らが選定者竹村昭夫から和解の権根を与えられていなかつたから、本件和解は無効であると主張する。しかし、選定当事者は、訴訟代理人ではなく当事者であるから、その権限については民訴法八一条二項の適用を受けず、訴訟上の和解を含むいつさいの訴訟行為を特別の委任なしに行なうことができるものであり、かつ、選定行為においてもその権限を制限することのできないものであつて、たとい和解を禁ずる等権限の制限を付した選定をしても、その選定は、制限部分が無効であり、無制限の選定としての効力を生ずるものと解するのが相当である。原判決は本件和解当時竹村昭夫が上告人らを当事者として選定していた事実を認定しているものと解されないことはなく、右認定は記録に照らして是認できないものではないから、その選定において、特に和解の権限が授与されず、かえつて所論のようにその権限を与えない旨の留保が示されていたとしても、上告人らが訴訟上の和解をすることは当然にその訴訟上の権限に属するところであつて、それが選定者に対する受任義務に反するかどうかは別として、そのために和解の効力が妨げられるものではないというべきである。
 したがつて、本件和解が有効に成立したものと認めた原判決の結論は正当であつて、その判断に所論の違法はなく、なお論旨中違憲をいう部分もその実質は右と異なる見解に出で原判決の判断の違法を主張するものであつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)


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4-4 当事者 訴訟上の代理


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1.訴訟上の代理の意義と種類
(1)訴訟上の代理制度の意義
・訴訟上の代理が認められる理由
①当事者が訴訟無能力者である場合、自分で訴訟行為をすることができないから、代理人に訴訟追行をゆだねざるをえない。
②訴訟追行は専門的な知識や経験を必要とすることから、そうした知識や経験を持つ他人に委ねることに合理性がある。

・訴訟上の代理人
=当事者本人の名において、自己の意思に基づいて、訴訟行為を行い、または訴訟行為の相手方となる者。
自己の名において訴訟を行う訴訟担当者とは区別される。
自己の意思に基づいてという点で、単に当事者本人の訴訟行為を伝達する死者とも区別される。

(2)訴訟上の代理権の効果
・訴訟係属の基礎となる行為について代理権を欠いていた場合には、訴えは不適法になる。
ただし、追認は可能であり、代理権の欠缺を発見した場合、裁判所としてはそれまでの手続に対して補正を命じる。
+(法定代理の規定の準用)
第五十九条  第三十四条第一項及び第二項並びに第三十六条第一項の規定は、訴訟代理について準用する。
+(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
3  前二項の規定は、選定当事者が訴訟行為をする場合について準用する。

・更正権
+(当事者による更正)
第五十七条  訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し、又は更正したときは、その効力を生じない。

←事実関係については、訴訟代理人よりもむしろ当事者本人の方がよく知っていると考えられるから。

(3)訴訟上の代理人の種類
法定代理人
=代理人の地位が当事者本人の意思に基づくことなく特定人に与えられる場合

任意代理人
=代理人の地位が、特定人をその地位につける旨の当事者本人の意思に基づいて与えられる場合をいう。

(4)補佐人
+(補佐人)
第六十条  当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
2  前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
3  補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。

2.法定代理
(1)実体法の規定に基づく法定代理人
・民法上、未成年者及び成年被後見人の法定代理人とされる者は、訴訟法上も、法定代理人として訴訟行為を行うことができる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

・遺言執行者は、民法上は相続人の法定代理人とする規定があるが(民法1015条)、訴訟法上は、法定代理人ではなく訴訟担当者になる。

(2)訴訟上の特別代理人
民訴法の規定に従い、個々の訴訟のために裁判所が選任する代理人

・訴訟無能力者のための特別代理人
+(特別代理人)
第三十五条  法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる
2  裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。
3  特別代理人が訴訟行為をするには、後見人と同一の授権がなければならない。

←無能力者に対して訴え提起その他の訴訟行為をしようとする相手方を保護するための制度

・規定上は死手形当事者に限られているが、地帯による損害が発生っすることは、無能力者の側にもありうることから、無能力者の親族など、無能力者側からの申立ても認めて差支えない。
+判例(S41.7.28)
理由
 上告代理人楠本昇三の上告理由第一の一について。
 原審の認定した事実によれば、先に上告人は弁護士でないのにかかわらず弁護士であるといつて、被上告会社の代表取締役であつたAに対し慰籍料を請求したことのあるものであるが、これを機会にAと知合い、遂にA方に寄食するに至り、次いで被上告会社の財政状態が不良に陥り、その所有財産が債権者から差押を受ける虞が生じたところ、上告人は当時被上告会社の財産管理、処分の任に当つていた取締役Bと図り、被上告会社所有の本件不動産について売買を仮装して、昭和八年一〇月五日上告人名義にその所有権移転登記をしたというのであつて、右認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして右認定の事実関係の下においては、当事者は右不動産について所有権移転の意思を欠き、上告人としてはやがて被上告会社に対し本件不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたものというべきである。
 思うに、刑法は強制執行を免れる目的をもつて財産を仮装譲渡する者を処罰するが(刑法九六条ノ二)、このような目的のために財産を仮装譲渡したとの一事によつて、その行為がすべて当然に、民法七〇八条にいう不法原因給付に該当するとしてその給付したものの返還を請求し得なくなるのではない(最高裁判所昭和三三年(オ)第一八三号同三七年六月一二日第三小法廷判決、民集一六巻七号一三〇五頁参照)(もつとも本件の仮装譲渡の行われた昭和八年一〇月五日当時は、右刑法の新設規定施行前であり、従つて、本件行為は犯罪を構成していない)。しかして、今本件についてみるに、前示認定の事実関係の下においては、被上告会社の右不動産についての返還請求を否定することは、却つて当事者の意思に反するものと認められるのみならず、一面においていわれなく仮装上の譲受人たる上告人を利得せしめ、他面において被上告会社の債権者はもはや右財産に対して強制執行をなし得ないこととなり、その債権者を害する結果となるおそれがあるのである。これは、右刑法の規定による仮装譲渡を抑制しようとする法意にも反するものというべきである。しからば、本件について、前記仮装譲渡は民法七〇八条にいう不法原因給付にあたらないとした原審の判断は正当として是認すべきである。それ故、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
 同二について。
 原審が確定した事実関係の下において、本訴請求がいわゆる失効の原則によって許されなくなるものとは解されない。所論は独自の見解であつて採用し得ない。
 同第二について。
 株式会社は解散のときの清算の結了、合併、その他法律の定めるところに従つてのみ人格が消滅するものであるところ、本件においてこのような事実の認められない以上、所論はそれ自体失当であつて、論旨は採用し得ない。
 同第三について。
 株式会社において代表取締役を欠くに至つた場合、会社を代表して訴訟を提起しその訴訟を追行するためには、利害関係人は商法二六一条三項、二五八条二項に従い、仮代表取締役の選任を裁判所に請求し得るのであるが、この方法によるとせば遅滞のため損害を受けるおそれがあるときは、民訴法五八条、五六条の規定を類推し利害関係人は特別代理人の選任を裁判所に申請し得るものと解するの相当である(大審院昭和九年一月二三日判決、民集一三巻一号五七頁参照)。しからば、右民訴法の規定によつて被上告会社の特別代理人として選任されたCのなした本件訴訟の追行は適法というべきである。これに反する見解に立つ所論は採用し得ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)

(3)法定代理人の権限
・法定代理人の権限
実体法上の法定代理人の権限については、原則として民法などの実体法の定めに従う(28条)

・代理権の消滅
実体法上の法定代理人の権限の消滅についても、消滅自由については民法などの実体法に従う。

・消滅の効力発生の時点については訴訟法上特則があり、法定代理権の消滅は相手方に通知しなければ効力を生じない!(民法112条の特則)
+(法定代理権の消滅の通知)
第三十六条  法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない
2  前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。

3.法人等の代表者
・法人や法人格はないが当事者能力が認められる団体の場合、団体自身は法律上の存在にすぎず、自ら訴訟行為を行うことはできない。
→代表者が訴訟行為をする。

・法人等の代表者の地位は、団体の機関としての代表であって、代理とは区別されるが、実質的には当事者が訴訟無能力の場合の法定代理と類似することから、法定代理の規定が準用される。
+(法人の代表者等への準用)
第三十七条  この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。

・法人の代表者についての表見法理適用の可否
実体法上の表見法理を適用して、外観を信頼した相手方を保護すべきではないのか?

判例は表見法理の適用を否定
←表見法理は取引の安全の保護を目的とするもので、取引行為と異なる訴訟行為には適用がない。
商法24条は、表見支配人について、支配人と同一の権限を認めて善意の相手方を保護しているが、裁判上の行為をその適用範囲から除外しており、訴訟行為については相手方の保護を否定している。
+判例(S45.12.15)
理由
 上告代理人大竹謙二の上告理由について。
 記録によれば、本訴は、上告人より被上告会社を被告として提起された売買代金請求の訴であるが、これに対し、原審は、次のように判断したうえ、本件訴は不適法であるとし、上告人の請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人の本件訴を却下する旨判決した。すなわち、被上告会社の登記簿には、訴外Aが同会社の代表取締役として記載されているが、同人は、同会社の代表取締役ではなく、同会社の代表者としての資格を有するものではない。なんとなれば、被上告会社の臨時社員総会議事録その他の書類には、被上告会社は、昭和四二年八月二四日臨時社員総会を開催し、従来の取締役は辞任し、選挙の結果あらたにA外一名が取締役に選任され、即日同人らより就任の承諾をえた旨その他の記載があり、その議事録の末尾に出席取締役としてAの記名押印がなされており、また、同日取締役の互選の結果、同人が被上告会社の代表取締役に選任され、同人の承諾をえた旨の記載があるが、Aは、当時他所で自動車運転手として勤務し、右の臨時社員総会に出席したこともなければ、被上告会社の取締役および代表取締役に就任することを承諾したこともない。ただ、事後にその承諾を求められたことはあるが、同人はこれを拒絶したものであることが認められる。そうだとすると、Aは、被上告会社の代表取締役ではなく、同会社の代表者としての資格を有するものではないから、Aを被上告会社の代表者として提起された本件訴は、不適法として却下を免れない、とするものである。
 ところで、所論は、まず、民法一〇九条、商法二六二条の規定により被上告会社についてAにその代表権限を肯認すべきであるとする。しかし、民法一〇九条および商法二六二条の規定は、いずれも取引の相手方を保護し、取引の安全を図るために設けられた規定であるから、取引行為と異なる訴訟手続において会社を代表する権限を有する者を定めるにあたつては適用されないものと解するを相当とするこの理は、同様に取引の相手方保護を図つた規定である商法四二条一項が、その本文において表見支配人のした取引行為について一定の効果を認めながらも、その但書において表見支配人のした訴訟上の行為について右本文の規定の適用を除外していることから考えても明らかである。したがつて、本訴において、Aには被上告会社の代表者としての資格はなく、同人を被告たる被上告会社の代表者として提起された本件訴は不適法である旨の原審の判断は正当である。
 そうして、右のような場合、訴状は、民訴法五八条、一六五条により、被上告会社の真正な代表者に宛てて送達されなければならないところ、記録によれば、本件訴状は、被上告会社の代表者として表示されたAに宛てて送達されたものであることが認められ、Aに訴訟上被上告会社を代表すべき権限のないことは前記説示のとおりであるから、代表権のない者に宛てた送達をもつてしては、適式を訴状送達の効果を生じないものというべきである。したがつて、このような場合には、裁判所としては、民訴法二二九条二項、二二八条一項により、上告人に対し訴状の補正を命じ、また、被上告会社に真正な代表者のない場合には、上告人よりの申立に応じて特別代理人を選任するなどして、正当な権限を有する者に対しあらためて訴状の送達をすることを要するのであつて、上告人において右のような補正手続をとらない場合にはじめて裁判所は上告人の訴を却下すべきものである。そして、右補正命令の手続は、事柄の性質上第一審裁判所においてこれをなすべきものと解すべきであるから、このような場合、原審としては、第一審判決を取り消し、第一審裁判所をして上告人に対する前記補正命令をさせるべく、本件を第一審裁判所に差し戻すべきものと解するを相当とする。しかるに、原審がAに被上告会社の代表権限がない事実よりただちに本件訴を不適法として却下したことは、民訴法の解釈を誤るものであつて、この点に関する論旨は理由がある。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八九条により原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

⇔批判
訴訟行為は取引行為と異なるという点については訴訟行為に表見法理を適用しない積極的な理由とは言い難い。
少なくとも取引行為に関する訴訟においては、訴え提起を取引関係の延長として理解する余地もある。
表見支配人に関する規定も、騰貴を信頼した者の保護まで否定するものと考える必然性はない。
民訴法36条は、代理権の消滅時点について、代理権があるという外観を重視した規律であり、表見法理と趣旨を共通するものである。

4.訴訟委任に基づく代理人
(1)弁護士代理の原則
ⅰ)弁護士代理の原則の意義
・訴訟委任に基づく訴訟代理人とは、
特定の事件ごとに委任を受けて、訴訟追行のための包括的な代理権を付与されたもの

・弁護士代理の原則
=訴訟委任に基づく訴訟代理人は、地方裁判所以上の裁判所においては、弁護士でなければならない。

・弁護士代理の原則の意義
劣悪な代理人によって当事者の利益が損なわれるのを防ぐとともに、手続の円滑な進行を図る趣旨

ⅱ)弁論能力
期日において現実に弁論をするために必要な能力
+(弁論能力を欠く者に対する措置)
第百五十五条  裁判所は、訴訟関係を明瞭にするために必要な陳述をすることができない当事者、代理人又は補佐人の陳述を禁じ、口頭弁論の続行のため新たな期日を定めることができる。
2  前項の規定により陳述を禁じた場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、弁護士の付添いを命ずることができる。

ⅲ)弁護士代理の原則の例外
簡易裁判所における司法書士

(2)弁護士代理原則違反の効果
ⅰ)弁護士資格のない者による訴訟追行
・裁判所は以後の手続からその者を排除しなければならない。

・無資格者がすでに行った訴訟行為の能力
弁護士資格の存在を訴訟代理人の地位の前提条件だとしつつ、当該訴訟行為は、本人の追認がないかぎり、本人に対して効力を生じない
+理由
 上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点について。
 弁護士が、懲戒処分を受けて弁護士業務を停止され、弁護士活動をすることを禁止されているときでも、裁判所によつて訴訟手続への関与を禁じられ、同手続から排除されないかぎり、その者のその間にした訴訟行為を有効と解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第六二〇号、同四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九五九頁)。したがつて、上告人の本件第一、二審の訴訟代理人であつた弁護士Aが業務停止の懲戒処分中すなわち昭和四〇年六月一三日から同年九月二一日までにした訴訟行為および同弁護士に対して同期間にした訴訟行為は有効であるから、原審はその第二回口頭弁論期日呼出状を同弁護士に有効に送達したうえ、同年九月一七日の第二回口頭弁論期日において同弁護士不出頭のまま適法に弁論を終結したものというべきである。そして、同弁護士が同年九月二二日登録取消となつたことは本件記録中の第一東京弁護士会長発行の昭和四〇年一二月六日付証明書によつて明らかであるが、原審裁判所は、前記同年九月一七日の口頭弁論期日において、被上告人の代理人出頭、上告人の代理人(A)不出頭のまま口頭弁論を終結し、同裁判所の裁判長が判決言渡期日を同年一〇月一日と指定して当事者に告知したことは、本件記録によつて認められる。そして、このような判決言渡期日の告知が在廷しない当事者に対しても効力を有するものであることは当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二三年(オ)第一九号、同年五月一八日第三小法廷判決、民集二巻五号一一五頁)。したがつて、本件判決言渡期日の告知および右判決言渡期日である同年一〇月一日上告人不出頭のままされた判決の言渡は、いずれも適法であるといわなければならない。そして、Aが同年九月二二日弁護士の登録取消となつたことは前記のとおりであり、これによつて同人は同日以後非弁護士として上告人の訴訟代理人たる地位を失つたものというべきであるから、裁判所および当事者がこれに対して同日以後した訴訟行為は、上告人本人または権限ある者が追認しないかぎり、違法で、上告人本人に対して効力を生ぜず、したがつて、同年一〇月四日Aに対してされた原判決の送達(この送達の事実は本件記録中の送達報告書の記載に照らし明らかである)は、特段の事情のないかぎり、違法である。しかしながら、上告人はAに対して原判決が送達されてから二週間以内に原判決に対して本件上告を提起し、かつ上告理由書提出期間内に上告理由書を提出し、原判決の内容について詳細に攻撃していることは本件記録および上告代理人鹿野琢見の上告理由書および同(第二)によつて明らかであるから、右Aに送達された原判決の正本が上告人の手に現実に入つたものと認めるのが相当である。ところで、判決正本が誤つて第三者に送達された場合でも、送達を受くべき訴訟当事者がこれを現実に入手したときは送達が有効となることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和三七年(オ)第一五号、昭和三八年四月一二日第二小法廷判決、民集一七巻三号二六八頁)から、本件においては、結局、原判決の送達は有効となり、上告も適法にされたと解すべき特段の事情があるものというべきである。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

 同第二点二、第三点二および上告理由書(第二)について。
 甲第一号証の末尾四行の部分を除いても原審の認定判断はその他の挙示の証拠によつて首肯でき、また、原審裁判所が上告人の代理人であつたAに対する関係でその登録取消前にした訴訟上の行為が有効であることは前記のとおりである。そうとすれば、所論は判決に影響しない違法を主張するか、原判決の認定と異なる事実あるいは原判決の認定しない事実に基づいて原判決の判断を非難するものであるか、あるいは原審裁判所が有効にした訴訟上の行為の効力を無効と主張するものである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第二点一および第三点一について。
 所論の口頭弁論期日の呼出状が当時上告人の代理人であつた弁護士A宛に送達され、同人が現実に右呼出状を受領したことは本件記録上明らかであるから、右受領のときにおいて有効な送達があつたものというべきである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点、第三点一および二に対する業務停止の懲戒処分の効果についての裁判官奥野健一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

ⅱ)弁護士会の懲戒処分
・弁護士が、弁護士資格自体は失っていないが、懲戒処分によって業務停止となった場合
+判例(S42.9.27)
理由
 上告代理人辻武夫の上告理由一について。
 弁護士法(以下法という。)は、弁護士の使命および職務の特殊性にかんがみ、弁護士会および日本弁護士連合会(以下日弁連という。)に対し、公の権能を付与するとともに、その自主・自律性を尊重し、その一還として、その会員である弁護士に一定の事由がある場合には、弁護士会または日弁連が、自主的に、これに対する懲戒を行なうことができるものとしている。この意味において、弁護士会または日弁連が行なう懲戒は、弁護士法の定めるところにより、自己に与えられた公の権能の行使として行なうものであつて、広い意味での行政処分に属するものと解すべきである。所属弁護士会がした懲戒について、日弁連に行政不服審査法(以下審査法という。)による審査請求をすることができるものとし(法五九条参照)、さらに、日弁連のした裁決または懲戒に不服があるときは、行政事件訴訟法による「取消しの訴え」を提起することができることにしている(法六二条)のも、右懲戒が一種の行政処分であることを示しているものということができる。そして、このような特定の相手方に対する処分である懲戒については、当該懲戒が当該弁護士に告知された時にその効力を生ずるものと解すべきであつて、この点については、他の一般の行政処分と区別すべき理由はない。もつとも、当該処分に対しては、叙上のように審査法による審査請求、さらには、行政事件訴訟法の定める「取消しの訴え」の途が開かれているが、これらの手段がとられた場合においても、審査法三四条または行政事件訴訟法二五条に基づく執行停止がなされないかぎり、その処分の効力が妨げられないことは、一般の行政処分の場合と同様であつて、このような執行停止に関する特別の規定が設けられているのも、処分は、その告知によつて直ちにその効力が生ずることを当然の前提としていることを示すものということができる。
 叙上の理由により、弁護士に対する懲戒は、それが当該弁護士に告知された時にその効力を生じ、業務停止懲戒を受けた者は、その時から業務に従事することができなくなるものと解すべきである。もつとも、法一七条には、弁護士について退会命令、除名等が確定したときは、日弁連は、弁護士名簿の登録を取り消さなければならないと規定されているので、これらの懲戒については、その確定をまつてはじめてその効力が生ずるものとなし、したがつて、業務の停止という懲戒についても、規定の有無にかかわらず、同様の趣旨で、それが確定しなければその効力が生じないとする見解がないわけではない。しかし、法一七条は、弁護士名簿の登録に関する日弁連の事務処理について、登録を取り消さなければならない場合を明示するとともに、弁護士の使命および職務の重要性にかんがみ、退会命令、除名等の処分があつても、それが確定し、もはや争いの余地がなくなつたのちでなければ、登録の取消をさせないように配慮した趣旨の規定にすぎないと解すべきである。けだし、法一七条一号、三号等の場合における弁護士名簿の登録の取消は、これによって弁護士としての身分または資格そのものを失わしめる行為ではなく、弁護士としての身分または資格を失つているという事実を公に証明する行為なのである。したがつて、たとえば弁護士が法六条の定める欠格事由に該当するに至つたような場合には、直ちに弁護士としての身分または資格を失うのであつて、仮りに弁護士名簿の登録が取り消されないままに残つていたとしても、もはや弁護士ではありえず、弁護士の職務を行なうことはできないのである(公証人法一六条、国家公務員法七六条参照)。要するに、法一七条は、審査法一条二項および行政事件訴訟法一条にいう特別の定めにはあたらないのであるから、これを根拠として、懲戒は確定しなければ効力を生じないとすることはできない(なお、昭和八年法律第五三号の旧弁護士法施行当時における弁護士の懲戒手続には、明治二三年法律第六八号判事懲戒法が準用され、同法四六条の規定により、懲戒裁判所による懲戒の裁判は、確定の後でなければこれを執行することができないものとし、同法五一条の定めるところにより、必要のある場合には懲戒裁判手続の結了に至るまで職務を停止することを決定することができるものとしていた。これは、懲戒が裁判の形式をとつて行なわれたことに伴う結果であつて、当時と懲戒の手続・構造を異にする現在の法制のもとにおいて、旧法時代の考え方を類推することは許されない。)。
 ところで、法五七条二号に定める業務の停止は、一定期間、弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであつて、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によつて直ちに当該期間中、弁護士としての一切の職務を行なうことができないことになると解する。したがつて、この禁止に違背したときは重ねて懲戒を受けることがあるばかりでなく、禁止に違背してなされた職務上の行為もまた、違法であることを免れないというべきである。そうである以上、業務停止期間中、訴訟行為をすることが許されないのはもちろんであつて、もし裁判所が右のような懲戒の事実を知つたときは、裁判所は、当該弁護士に対し、訴訟手続への関与を禁止し、これを訴訟手続から排除しなければならない
 しかし、裁判所が右の事実を知らず、訴訟代理人としての資格に欠けるところがないと誤認したために、右弁護士を訴訟手続から排除することなく、その違法な訴訟行為を看過した場合において、当該訴訟行為の効力が右の瑕疵によつてどのような影響を受けるかは自ら別個の問題であつて、当裁判所は、右の瑕疵は、当該訴訟行為を直ちに無効ならしめるものではないと解する。いうまでもなく、業務停止の懲戒を受けた弁護士が、その処分を無視し、訴訟代理人として、あえて法廷活動をするがごときは、弁護士倫理にもとり、弁護士会の秩序をみだるものではあるが、これについては、所属弁護士会または日弁連による自主・自律的な適切な処置がとられるべきであり、これを理由として、その訴訟行為の効力を否定し、これを無効とすべきではない。けだし、弁護士に対する業務停止という懲戒処分は、弁護士としての身分または資格そのものまで剥奪するものではなく、したがつて、その訴訟行為を、直ちに非弁護士の訴訟行為たらしめるわけではないのみならず、このような場合には、訴訟関係者の利害についてはもちろん、さらに進んで、広く訴訟経済・裁判の安定という公共的な見地からの配慮を欠くことができないからである。もともと、弁護士の懲戒手続は公開されているわけではないし、その結果としての処分についても、広く一般に周知徹底が図られているわけでもないから、当該弁護士の依頼者すら、右の事実を知り得ないことが多く、裁判所もまた、右の事実を看過することがあり得るのである。それにもかかわらず、当該弁護士によつてなされた訴訟行為が、業務停止中の弁護士によつてなされたという理由によつて、のちになつて、すべて無効であつたとされるならば、当該事件の依頼者に対してはもちろん、時としては、その相手方に対してまで、不測の損害を及ぼすこととなり、ひいては、裁判のやり直しを余儀なくされ、無用の手続の繰返しとなり、裁判の安定を害し、訴訟経済に反する結果とならさるを得ない要するに、弁護士業務を停止され、弁護士活動をすることを禁止されている者の訴訟行為であつても、その事実が公にされていないような事情のもとにおいては、一般の信頼を保護し、裁判の安定を図り、訴訟経済に資するという公共的見地から当該弁護士のした訴訟行為はこれを有効なものであると解すべきである。
 ところで、本件を検討するに、一件記録によれば、弁護士Aが原審において被上告人の訴訟代理人として引き続き訴訟行為をしたこと、しかも裁判所が同人の訴訟関与を禁止した事実のないことがうかがわれるのであつて、同人に対し、所論のような懲戒がされ、しかもその処分が前示のようにすでにその効力を生じていたとしても、以上述べた理由により、同人が原審でした訴訟行為が無効となるものではないから、論旨は、結局、採用することができない。
 同二について。
 原判決のした判断は、原判決挙示の証拠関係のもとにおいては、これを肯認することができる。所論は、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提として、原判決を非難するものであつて、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告代理人辻武夫の上告理由一に対する業務停止の懲戒処分の効果についての裁判官奥野健一の意見があるほか、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

ⅲ)弁護士法25条違反
・双方代理に類する場合などについて弁護士が職務を行ってはならない旨定める。

・以後の訴訟追行については当該弁護士を訴訟追行から排除すべき。

・従前の訴訟追行の効力について
相手方当事者は弁護士法25条違反の事実を知った場合には異議を述べることができ、意義が述べられた場合には、当該行為は無効になる。
しかし、相手方当事者が違反について知りまたは知りうべき場合であったのに、遅滞なく異議を述べなかった場合には、後で無効主張をすることは許されない。
ふりな結論になった場合に限って異議を主張して従前の手続を覆すという訴訟戦術を防ぐ趣旨。

(3)訴訟代理権の範囲
+(訴訟代理権の範囲)
第五十五条  訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる
2  訴訟代理人は、次に掲げる事項については、特別の委任を受けなければならない。
一  反訴の提起
二  訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
三  控訴、上告若しくは第三百十八条第一項の申立て又はこれらの取下げ
四  第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
五  代理人の選任
3  訴訟代理権は、制限することができない。ただし、弁護士でない訴訟代理人については、この限りでない。
4  前三項の規定は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人の権限を妨げない。

この規定は例示列挙であり、訴訟代理人の権限は、当該事件において当事者を勝訴させるために必要な一切の行為を含むと解する。
包括的なものとされている趣旨は、手続の安定の要請と弁護士資格を有する者に対する信頼

・勝訴判決を取得するという授権の通常の意思を逸脱するもの、あるいは、当事者本人に重大な結果をもたらす事項については特別授権事項とされる。

・和解について、いかなる内容の和解に代理権の範囲が及ぶのか?
訴訟物以外の権利義務関係であっても、訴訟物と一定の関連性を有する事項であれば、訴訟代理人弁護士の和解権限が及ぶ。

+判例(38.2.21)
理由
 上告代理人木村鉱の上告理由第一点について。
 原審が当事者間に争いのない事実として確定したところによれば、本件においていわゆる前事件(徳島地方裁判所富岡支部昭和三一年(ワ)第一八号貸金請求事件)において上告人が訴訟代理人弁護士Aに対し民訴八一条二項所定の和解の権限を授与し、かつ、右委任状(書面)が前事件の裁判所に提出されているというのである。また原審が適法に認定したところによれば、右前事件は、前事件原告(本件被上告人先代)Bから前事件被告(本件控訴人、上告人)に対する金銭債権に関する事件であり、この弁済期日を延期し、かつ分割払いとするかわりに、その担保として上告人所有の不動産について、被上告人先代のために抵当権の設定がなされたものであつて、このような抵当権の設定は、訴訟物に関する互譲の一方法としてなされたものであることがうかがえるのである。しからば、右のような事実関係の下においては、前記A弁護士が授権された和解の代理権限のうちに右抵当権設定契約をなす権限も包含されていたものと解するのが相当であつて、これと同趣旨に出た原判決の判断は、正当であり、この点に関する原判決の説示はこれを是認することができる。
 更に、原判決は、前事件において上告人(控訴人)が前記A弁護士に対する和解の授権を撤回したとの事実、またこれを裁判所や相手方に明示の方法で通知したとの事実は認められない旨を認定しており、右認定は、挙示の証拠関係に照らしこれを肯認し得る。それ故、上告人が前事件において右A弁護士に対する和解の代理権授権を撤回し、これを関係人に通知した旨の論旨は、原審の認定に副わない事実関係を前提として原判決を非難し、または原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同第二点について。
 本件においていわゆる前事件における和解においてなされたような抵当権設定契約をなす権限が、前記A弁護士に授与された和解の代理権限のうちに包含されるものとした原判決の判断が是認し得るものであることは、前記上告理由第一点に対する説示において述べたとおりである。従つて原判決には所論のように民訴八一条一項違反の点は認められない。所論は、右原審の判断と異なる独自の見解に立脚して原判決の違法をいうものであつて、採るを得ない。
 同第三点について。
 原判決は、本件においていわゆる前事件において前記A弁護士に右事件における和解の代理権が適法に存し、かつ、これが撤回されたことのないこと、そして前記抵当権設定契約をなす権限が右和解の代理権限のうちに包含されるものであることを判示して、上告人の主張を排斥していることは判文上明らかであつて、その間何ら所論のごとき訴訟法違反の点は認められない。所論は採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七 裁判官 斎藤朔郎)

+判例(H12.3.24)
理由
 上告代理人一岡隆夫の上告理由について
 一 本件は、承継前上告人C(以下「一審被告」という。)に対する債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受けたとする被上告人がその支払を求めるものであるところ、一審被告は、右請求権はその譲渡人との間の別訴における訴訟上の和解により放棄されて消滅したと主張し、これに対し、被上告人は、右譲渡人の訴訟代理人は和解において右請求権を放棄する権限を有していなかったから放棄は無効であると主張した。
 二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 一審被告は、平成元年一〇月一日、所有する保養所施設二棟(以下「本件保養所」という。)について、被上告人が代表者を務めていた株式会社D(以下「訴外会社」という。)との間で、現実の管理運営には一審被告が当たり、訴外会社が諸経費を負担して、訴外会社において本件保養所を厚生年金基金等に利用させることを目的とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 2 訴外会社は、平成二年七月三一日、全国情報処理産業厚生年金基金と本件保養所の利用契約を締結したが、間もなく一審被告と訴外会社の間で紛争を生じ、一審被告は、訴外会社に対し本件契約の更新を拒絶して、平成三年三月二七日、右基金との間で直接に本件保養所の利用契約(以下「本件直接契約」という。)を締結した。そのため、訴外会社は、右基金から、同年四月以降における保養所利用契約の更新を拒絶された。
 3 訴外会社は、平成三年六月二〇日ころ、本件契約上訴外会社が負担すべき諸経費を一審被告が水増し請求したとして、一審被告に対し、本件契約に基づき損害賠償を請求する訴訟を提起し、他方、一審被告は、同年八月一二日ころ、右諸経費の一部が未払であるとして、訴外会社に対し、本件契約に基づき、その支払を請求する訴訟を提起した。訴外会社は、坂和優弁護士に対し、両事件についての訴訟代理を委任したが、その際、和解についても委任した。
 4 右両事件(以下「前訴事件」という。)は併合され、平成四年一月二〇日の口頭弁論期日において、訴外会社訴訟代理人の坂和弁護士及び一審被告の訴訟代理人が出頭し、(一)双方の請求権の存在を認めた上、これらが対当額において相殺され、同額において消滅したことを確認すること、(二)双方は、大津簡裁平成三年(ロ)第四五五号督促事件に係る債権を除くその余の権利を放棄し、双方の間に何らの権利義務がないことを確認すること(以下「本件放棄清算条項」という。)などを内容とする和解が成立したが、訴外会社の代表者であった被上告人は、右和解期日に出頭しなかった。
 5 訴外会社は、その後、一審被告が本件直接契約をしたことが本件契約についての債務不履行ないし不法行為に当たり、一審被告に対して損害賠償請求権(以下「本件請求権」という。)を有するとして、これを被上告人に譲渡した。
 三 原審は、本件請求権は前訴事件において請求されていた権利とは別個の権利であり、訴外会社が坂和弁護士に本件請求権を放棄する旨の和解をする権限を与えていたとは認められないから、本件請求権については本件放棄清算条項は無効であるとして、本件請求権につき本件放棄清算条項の効力を認めて本件請求を棄却すべきものとした第一審判決を取り消し、本件を第一審に差し戻した。

 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 【要旨】前記二の事実関係によれば、本件請求権と前訴における各請求権とは、いずれも、本件保養所の利用に関して同一当事者間に生じた一連の紛争に起因するものということができる。そうすると、坂和弁護士は、訴外会社から、前訴事件について訴訟上の和解をすることについて委任されていたのであるから、本件請求権について和解をすることについて具体的に委任を受けていなかったとしても、前訴事件において本件請求権を含めて和解をする権限を有していたものと解するのが相当である。
 五 したがって、これと異なる判断の下に、右和解において坂和弁護士が本件請求権を放棄する権限を有しなかったことを理由に、本件請求権について本件放棄清算条項は無効であるとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の請求を棄却した第一審判決の結論は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

←訴訟物の枠にとらわれない柔軟な解決という和解の利点を最大限生かすとともに、いったん成立した和解の効力をできる限り維持して法的安定性を確保するため。

(4)訴訟代理権の発生消滅
ⅰ)訴訟代理権の授与
本人による代理権授与の意思表示によって行われる。
代理権授与行為は単独行為であり、その有効性に対する疑義を防ぐため、訴訟行為の一種として、行為能力ではなく訴訟能力の規律に服する。

ⅱ)訴訟代理権の証明
・訴訟代理権の行使をするためには、代理権の存在及び範囲を書面で証明しなければならない(規則23条1項)
←代理権の存否に関する審査を簡易迅速に行うため。

・代理行為の時点で書面による証明がないと認める場合、裁判所はその行為を無効として扱う。
しかし、既になされた代理行為について事後的に代理権が争われる場合には、他の証拠方法によって代理権を認定することも差支えない
+判例(S36.1.26)
理由
 上告代理人一条清の上告理由について。
 しかし原判決は、挙示の証拠により原判決(一)ないし(五)の各事実を認定した上、これを綜合して、上告人が訴外Aに対し上告人を代理して所論調停をなす代理権限を与えた事実を判示しているのであつて、原審の右認定、判示は挙示の証拠に照し首肯し得られなくはない。
 民事調停に準用される民訴八〇条一項の代理権の証明に関する規定は、将来に向つて代理行為をする場合の規定であつて、既になされた代理行為について、その権限があつたか否かを判断するに際しては、必ずしも委任状その他の書面の有無にとらわれることはないと解すべきであるから、原審が前記の如き証拠を綜合して前記の如き判断をしたからといつて所論の違法ありということを得ない。
 また、訴外Aが原判示調停において上告人の代理人兼利害関係人として関与した事実は、原審において当事者間に争いがなかつた事実であり、右代理許可の裁判がなかつた事実は、上告人の主張も立証もしなかつたところであるから、当審において新しく主張することは許されない。
 次に民事調停規則八条は、当事者の出頭できる場合に代理人を出頭させても、それを違法とする趣旨とは解されず他にこれを違法と解さなければならない根拠を見出し得ないから、原審が右代理人によつてなされた調停に効力を認めたとしても所論の違法ありとは認められない。
 その他の主張は、すべて原審が適法にした事実認定の非難に帰するから採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

ⅲ)訴訟代理権の消滅
代理権の消滅自由は、原則として民法上の代理権消滅事由に準じ、ただ、民訴法58条でその例外を定めている。
+(訴訟代理権の不消滅)
第五十八条  訴訟代理権は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一  当事者の死亡又は訴訟能力の喪失
二  当事者である法人の合併による消滅
三  当事者である受託者の信託に関する任務の終了
四  法定代理人の死亡、訴訟能力の喪失又は代理権の消滅若しくは変更
2  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの訴訟代理人の代理権は、当事者の死亡その他の事由による資格の喪失によっては、消滅しない。
3  前項の規定は、選定当事者が死亡その他の事由により資格を喪失した場合について準用する。

・58条が例外を定めているのは、代理権を維持することによる訴訟手続きの迅速化と弁護士資格を持つものに対する高い信頼とを理由とする。

・訴訟代理権の消滅は、相手方に通知をしなければ効力を生じない
+(法定代理の規定の準用)
第五十九条  第三十四条第一項及び第二項並びに第三十六条第一項の規定は、訴訟代理について準用する。
+(法定代理権の消滅の通知)
第三十六条  法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。
2  前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。

5.法令上の訴訟代理人
本人の意思に基づいて一定の法的地位につく者に対して法令が訴訟代理権を認めている結果として、当然に訴訟代理権を取得する者をいう。
その基礎となる地位への就任が本人の意思によるものである点で法定代理人ではなく、任意代理人に分類される。

・もっぱら弁護士でない者に訴訟行為をさせる目的で、名目的に支配人等を選任した場合とうするか
→法の禁止の潜脱を図るという本人側の主観的悪性と、禁止規定の公益性から考える。
→無効主張を認める。
ただ、本人からの無効主張は信義則に反することも。

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