4-4 当事者 訴訟上の代理


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1.訴訟上の代理の意義と種類
(1)訴訟上の代理制度の意義
・訴訟上の代理が認められる理由
①当事者が訴訟無能力者である場合、自分で訴訟行為をすることができないから、代理人に訴訟追行をゆだねざるをえない。
②訴訟追行は専門的な知識や経験を必要とすることから、そうした知識や経験を持つ他人に委ねることに合理性がある。

・訴訟上の代理人
=当事者本人の名において、自己の意思に基づいて、訴訟行為を行い、または訴訟行為の相手方となる者。
自己の名において訴訟を行う訴訟担当者とは区別される。
自己の意思に基づいてという点で、単に当事者本人の訴訟行為を伝達する死者とも区別される。

(2)訴訟上の代理権の効果
・訴訟係属の基礎となる行為について代理権を欠いていた場合には、訴えは不適法になる。
ただし、追認は可能であり、代理権の欠缺を発見した場合、裁判所としてはそれまでの手続に対して補正を命じる。
+(法定代理の規定の準用)
第五十九条  第三十四条第一項及び第二項並びに第三十六条第一項の規定は、訴訟代理について準用する。
+(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
3  前二項の規定は、選定当事者が訴訟行為をする場合について準用する。

・更正権
+(当事者による更正)
第五十七条  訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し、又は更正したときは、その効力を生じない。

←事実関係については、訴訟代理人よりもむしろ当事者本人の方がよく知っていると考えられるから。

(3)訴訟上の代理人の種類
法定代理人
=代理人の地位が当事者本人の意思に基づくことなく特定人に与えられる場合

任意代理人
=代理人の地位が、特定人をその地位につける旨の当事者本人の意思に基づいて与えられる場合をいう。

(4)補佐人
+(補佐人)
第六十条  当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
2  前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
3  補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。

2.法定代理
(1)実体法の規定に基づく法定代理人
・民法上、未成年者及び成年被後見人の法定代理人とされる者は、訴訟法上も、法定代理人として訴訟行為を行うことができる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

・遺言執行者は、民法上は相続人の法定代理人とする規定があるが(民法1015条)、訴訟法上は、法定代理人ではなく訴訟担当者になる。

(2)訴訟上の特別代理人
民訴法の規定に従い、個々の訴訟のために裁判所が選任する代理人

・訴訟無能力者のための特別代理人
+(特別代理人)
第三十五条  法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる
2  裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。
3  特別代理人が訴訟行為をするには、後見人と同一の授権がなければならない。

←無能力者に対して訴え提起その他の訴訟行為をしようとする相手方を保護するための制度

・規定上は死手形当事者に限られているが、地帯による損害が発生っすることは、無能力者の側にもありうることから、無能力者の親族など、無能力者側からの申立ても認めて差支えない。
+判例(S41.7.28)
理由
 上告代理人楠本昇三の上告理由第一の一について。
 原審の認定した事実によれば、先に上告人は弁護士でないのにかかわらず弁護士であるといつて、被上告会社の代表取締役であつたAに対し慰籍料を請求したことのあるものであるが、これを機会にAと知合い、遂にA方に寄食するに至り、次いで被上告会社の財政状態が不良に陥り、その所有財産が債権者から差押を受ける虞が生じたところ、上告人は当時被上告会社の財産管理、処分の任に当つていた取締役Bと図り、被上告会社所有の本件不動産について売買を仮装して、昭和八年一〇月五日上告人名義にその所有権移転登記をしたというのであつて、右認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして右認定の事実関係の下においては、当事者は右不動産について所有権移転の意思を欠き、上告人としてはやがて被上告会社に対し本件不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたものというべきである。
 思うに、刑法は強制執行を免れる目的をもつて財産を仮装譲渡する者を処罰するが(刑法九六条ノ二)、このような目的のために財産を仮装譲渡したとの一事によつて、その行為がすべて当然に、民法七〇八条にいう不法原因給付に該当するとしてその給付したものの返還を請求し得なくなるのではない(最高裁判所昭和三三年(オ)第一八三号同三七年六月一二日第三小法廷判決、民集一六巻七号一三〇五頁参照)(もつとも本件の仮装譲渡の行われた昭和八年一〇月五日当時は、右刑法の新設規定施行前であり、従つて、本件行為は犯罪を構成していない)。しかして、今本件についてみるに、前示認定の事実関係の下においては、被上告会社の右不動産についての返還請求を否定することは、却つて当事者の意思に反するものと認められるのみならず、一面においていわれなく仮装上の譲受人たる上告人を利得せしめ、他面において被上告会社の債権者はもはや右財産に対して強制執行をなし得ないこととなり、その債権者を害する結果となるおそれがあるのである。これは、右刑法の規定による仮装譲渡を抑制しようとする法意にも反するものというべきである。しからば、本件について、前記仮装譲渡は民法七〇八条にいう不法原因給付にあたらないとした原審の判断は正当として是認すべきである。それ故、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
 同二について。
 原審が確定した事実関係の下において、本訴請求がいわゆる失効の原則によって許されなくなるものとは解されない。所論は独自の見解であつて採用し得ない。
 同第二について。
 株式会社は解散のときの清算の結了、合併、その他法律の定めるところに従つてのみ人格が消滅するものであるところ、本件においてこのような事実の認められない以上、所論はそれ自体失当であつて、論旨は採用し得ない。
 同第三について。
 株式会社において代表取締役を欠くに至つた場合、会社を代表して訴訟を提起しその訴訟を追行するためには、利害関係人は商法二六一条三項、二五八条二項に従い、仮代表取締役の選任を裁判所に請求し得るのであるが、この方法によるとせば遅滞のため損害を受けるおそれがあるときは、民訴法五八条、五六条の規定を類推し利害関係人は特別代理人の選任を裁判所に申請し得るものと解するの相当である(大審院昭和九年一月二三日判決、民集一三巻一号五七頁参照)。しからば、右民訴法の規定によつて被上告会社の特別代理人として選任されたCのなした本件訴訟の追行は適法というべきである。これに反する見解に立つ所論は採用し得ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)

(3)法定代理人の権限
・法定代理人の権限
実体法上の法定代理人の権限については、原則として民法などの実体法の定めに従う(28条)

・代理権の消滅
実体法上の法定代理人の権限の消滅についても、消滅自由については民法などの実体法に従う。

・消滅の効力発生の時点については訴訟法上特則があり、法定代理権の消滅は相手方に通知しなければ効力を生じない!(民法112条の特則)
+(法定代理権の消滅の通知)
第三十六条  法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない
2  前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。

3.法人等の代表者
・法人や法人格はないが当事者能力が認められる団体の場合、団体自身は法律上の存在にすぎず、自ら訴訟行為を行うことはできない。
→代表者が訴訟行為をする。

・法人等の代表者の地位は、団体の機関としての代表であって、代理とは区別されるが、実質的には当事者が訴訟無能力の場合の法定代理と類似することから、法定代理の規定が準用される。
+(法人の代表者等への準用)
第三十七条  この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。

・法人の代表者についての表見法理適用の可否
実体法上の表見法理を適用して、外観を信頼した相手方を保護すべきではないのか?

判例は表見法理の適用を否定
←表見法理は取引の安全の保護を目的とするもので、取引行為と異なる訴訟行為には適用がない。
商法24条は、表見支配人について、支配人と同一の権限を認めて善意の相手方を保護しているが、裁判上の行為をその適用範囲から除外しており、訴訟行為については相手方の保護を否定している。
+判例(S45.12.15)
理由
 上告代理人大竹謙二の上告理由について。
 記録によれば、本訴は、上告人より被上告会社を被告として提起された売買代金請求の訴であるが、これに対し、原審は、次のように判断したうえ、本件訴は不適法であるとし、上告人の請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人の本件訴を却下する旨判決した。すなわち、被上告会社の登記簿には、訴外Aが同会社の代表取締役として記載されているが、同人は、同会社の代表取締役ではなく、同会社の代表者としての資格を有するものではない。なんとなれば、被上告会社の臨時社員総会議事録その他の書類には、被上告会社は、昭和四二年八月二四日臨時社員総会を開催し、従来の取締役は辞任し、選挙の結果あらたにA外一名が取締役に選任され、即日同人らより就任の承諾をえた旨その他の記載があり、その議事録の末尾に出席取締役としてAの記名押印がなされており、また、同日取締役の互選の結果、同人が被上告会社の代表取締役に選任され、同人の承諾をえた旨の記載があるが、Aは、当時他所で自動車運転手として勤務し、右の臨時社員総会に出席したこともなければ、被上告会社の取締役および代表取締役に就任することを承諾したこともない。ただ、事後にその承諾を求められたことはあるが、同人はこれを拒絶したものであることが認められる。そうだとすると、Aは、被上告会社の代表取締役ではなく、同会社の代表者としての資格を有するものではないから、Aを被上告会社の代表者として提起された本件訴は、不適法として却下を免れない、とするものである。
 ところで、所論は、まず、民法一〇九条、商法二六二条の規定により被上告会社についてAにその代表権限を肯認すべきであるとする。しかし、民法一〇九条および商法二六二条の規定は、いずれも取引の相手方を保護し、取引の安全を図るために設けられた規定であるから、取引行為と異なる訴訟手続において会社を代表する権限を有する者を定めるにあたつては適用されないものと解するを相当とするこの理は、同様に取引の相手方保護を図つた規定である商法四二条一項が、その本文において表見支配人のした取引行為について一定の効果を認めながらも、その但書において表見支配人のした訴訟上の行為について右本文の規定の適用を除外していることから考えても明らかである。したがつて、本訴において、Aには被上告会社の代表者としての資格はなく、同人を被告たる被上告会社の代表者として提起された本件訴は不適法である旨の原審の判断は正当である。
 そうして、右のような場合、訴状は、民訴法五八条、一六五条により、被上告会社の真正な代表者に宛てて送達されなければならないところ、記録によれば、本件訴状は、被上告会社の代表者として表示されたAに宛てて送達されたものであることが認められ、Aに訴訟上被上告会社を代表すべき権限のないことは前記説示のとおりであるから、代表権のない者に宛てた送達をもつてしては、適式を訴状送達の効果を生じないものというべきである。したがつて、このような場合には、裁判所としては、民訴法二二九条二項、二二八条一項により、上告人に対し訴状の補正を命じ、また、被上告会社に真正な代表者のない場合には、上告人よりの申立に応じて特別代理人を選任するなどして、正当な権限を有する者に対しあらためて訴状の送達をすることを要するのであつて、上告人において右のような補正手続をとらない場合にはじめて裁判所は上告人の訴を却下すべきものである。そして、右補正命令の手続は、事柄の性質上第一審裁判所においてこれをなすべきものと解すべきであるから、このような場合、原審としては、第一審判決を取り消し、第一審裁判所をして上告人に対する前記補正命令をさせるべく、本件を第一審裁判所に差し戻すべきものと解するを相当とする。しかるに、原審がAに被上告会社の代表権限がない事実よりただちに本件訴を不適法として却下したことは、民訴法の解釈を誤るものであつて、この点に関する論旨は理由がある。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八九条により原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

⇔批判
訴訟行為は取引行為と異なるという点については訴訟行為に表見法理を適用しない積極的な理由とは言い難い。
少なくとも取引行為に関する訴訟においては、訴え提起を取引関係の延長として理解する余地もある。
表見支配人に関する規定も、騰貴を信頼した者の保護まで否定するものと考える必然性はない。
民訴法36条は、代理権の消滅時点について、代理権があるという外観を重視した規律であり、表見法理と趣旨を共通するものである。

4.訴訟委任に基づく代理人
(1)弁護士代理の原則
ⅰ)弁護士代理の原則の意義
・訴訟委任に基づく訴訟代理人とは、
特定の事件ごとに委任を受けて、訴訟追行のための包括的な代理権を付与されたもの

・弁護士代理の原則
=訴訟委任に基づく訴訟代理人は、地方裁判所以上の裁判所においては、弁護士でなければならない。

・弁護士代理の原則の意義
劣悪な代理人によって当事者の利益が損なわれるのを防ぐとともに、手続の円滑な進行を図る趣旨

ⅱ)弁論能力
期日において現実に弁論をするために必要な能力
+(弁論能力を欠く者に対する措置)
第百五十五条  裁判所は、訴訟関係を明瞭にするために必要な陳述をすることができない当事者、代理人又は補佐人の陳述を禁じ、口頭弁論の続行のため新たな期日を定めることができる。
2  前項の規定により陳述を禁じた場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、弁護士の付添いを命ずることができる。

ⅲ)弁護士代理の原則の例外
簡易裁判所における司法書士

(2)弁護士代理原則違反の効果
ⅰ)弁護士資格のない者による訴訟追行
・裁判所は以後の手続からその者を排除しなければならない。

・無資格者がすでに行った訴訟行為の能力
弁護士資格の存在を訴訟代理人の地位の前提条件だとしつつ、当該訴訟行為は、本人の追認がないかぎり、本人に対して効力を生じない
+理由
 上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点について。
 弁護士が、懲戒処分を受けて弁護士業務を停止され、弁護士活動をすることを禁止されているときでも、裁判所によつて訴訟手続への関与を禁じられ、同手続から排除されないかぎり、その者のその間にした訴訟行為を有効と解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第六二〇号、同四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九五九頁)。したがつて、上告人の本件第一、二審の訴訟代理人であつた弁護士Aが業務停止の懲戒処分中すなわち昭和四〇年六月一三日から同年九月二一日までにした訴訟行為および同弁護士に対して同期間にした訴訟行為は有効であるから、原審はその第二回口頭弁論期日呼出状を同弁護士に有効に送達したうえ、同年九月一七日の第二回口頭弁論期日において同弁護士不出頭のまま適法に弁論を終結したものというべきである。そして、同弁護士が同年九月二二日登録取消となつたことは本件記録中の第一東京弁護士会長発行の昭和四〇年一二月六日付証明書によつて明らかであるが、原審裁判所は、前記同年九月一七日の口頭弁論期日において、被上告人の代理人出頭、上告人の代理人(A)不出頭のまま口頭弁論を終結し、同裁判所の裁判長が判決言渡期日を同年一〇月一日と指定して当事者に告知したことは、本件記録によつて認められる。そして、このような判決言渡期日の告知が在廷しない当事者に対しても効力を有するものであることは当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二三年(オ)第一九号、同年五月一八日第三小法廷判決、民集二巻五号一一五頁)。したがつて、本件判決言渡期日の告知および右判決言渡期日である同年一〇月一日上告人不出頭のままされた判決の言渡は、いずれも適法であるといわなければならない。そして、Aが同年九月二二日弁護士の登録取消となつたことは前記のとおりであり、これによつて同人は同日以後非弁護士として上告人の訴訟代理人たる地位を失つたものというべきであるから、裁判所および当事者がこれに対して同日以後した訴訟行為は、上告人本人または権限ある者が追認しないかぎり、違法で、上告人本人に対して効力を生ぜず、したがつて、同年一〇月四日Aに対してされた原判決の送達(この送達の事実は本件記録中の送達報告書の記載に照らし明らかである)は、特段の事情のないかぎり、違法である。しかしながら、上告人はAに対して原判決が送達されてから二週間以内に原判決に対して本件上告を提起し、かつ上告理由書提出期間内に上告理由書を提出し、原判決の内容について詳細に攻撃していることは本件記録および上告代理人鹿野琢見の上告理由書および同(第二)によつて明らかであるから、右Aに送達された原判決の正本が上告人の手に現実に入つたものと認めるのが相当である。ところで、判決正本が誤つて第三者に送達された場合でも、送達を受くべき訴訟当事者がこれを現実に入手したときは送達が有効となることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和三七年(オ)第一五号、昭和三八年四月一二日第二小法廷判決、民集一七巻三号二六八頁)から、本件においては、結局、原判決の送達は有効となり、上告も適法にされたと解すべき特段の事情があるものというべきである。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

 同第二点二、第三点二および上告理由書(第二)について。
 甲第一号証の末尾四行の部分を除いても原審の認定判断はその他の挙示の証拠によつて首肯でき、また、原審裁判所が上告人の代理人であつたAに対する関係でその登録取消前にした訴訟上の行為が有効であることは前記のとおりである。そうとすれば、所論は判決に影響しない違法を主張するか、原判決の認定と異なる事実あるいは原判決の認定しない事実に基づいて原判決の判断を非難するものであるか、あるいは原審裁判所が有効にした訴訟上の行為の効力を無効と主張するものである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第二点一および第三点一について。
 所論の口頭弁論期日の呼出状が当時上告人の代理人であつた弁護士A宛に送達され、同人が現実に右呼出状を受領したことは本件記録上明らかであるから、右受領のときにおいて有効な送達があつたものというべきである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点、第三点一および二に対する業務停止の懲戒処分の効果についての裁判官奥野健一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

ⅱ)弁護士会の懲戒処分
・弁護士が、弁護士資格自体は失っていないが、懲戒処分によって業務停止となった場合
+判例(S42.9.27)
理由
 上告代理人辻武夫の上告理由一について。
 弁護士法(以下法という。)は、弁護士の使命および職務の特殊性にかんがみ、弁護士会および日本弁護士連合会(以下日弁連という。)に対し、公の権能を付与するとともに、その自主・自律性を尊重し、その一還として、その会員である弁護士に一定の事由がある場合には、弁護士会または日弁連が、自主的に、これに対する懲戒を行なうことができるものとしている。この意味において、弁護士会または日弁連が行なう懲戒は、弁護士法の定めるところにより、自己に与えられた公の権能の行使として行なうものであつて、広い意味での行政処分に属するものと解すべきである。所属弁護士会がした懲戒について、日弁連に行政不服審査法(以下審査法という。)による審査請求をすることができるものとし(法五九条参照)、さらに、日弁連のした裁決または懲戒に不服があるときは、行政事件訴訟法による「取消しの訴え」を提起することができることにしている(法六二条)のも、右懲戒が一種の行政処分であることを示しているものということができる。そして、このような特定の相手方に対する処分である懲戒については、当該懲戒が当該弁護士に告知された時にその効力を生ずるものと解すべきであつて、この点については、他の一般の行政処分と区別すべき理由はない。もつとも、当該処分に対しては、叙上のように審査法による審査請求、さらには、行政事件訴訟法の定める「取消しの訴え」の途が開かれているが、これらの手段がとられた場合においても、審査法三四条または行政事件訴訟法二五条に基づく執行停止がなされないかぎり、その処分の効力が妨げられないことは、一般の行政処分の場合と同様であつて、このような執行停止に関する特別の規定が設けられているのも、処分は、その告知によつて直ちにその効力が生ずることを当然の前提としていることを示すものということができる。
 叙上の理由により、弁護士に対する懲戒は、それが当該弁護士に告知された時にその効力を生じ、業務停止懲戒を受けた者は、その時から業務に従事することができなくなるものと解すべきである。もつとも、法一七条には、弁護士について退会命令、除名等が確定したときは、日弁連は、弁護士名簿の登録を取り消さなければならないと規定されているので、これらの懲戒については、その確定をまつてはじめてその効力が生ずるものとなし、したがつて、業務の停止という懲戒についても、規定の有無にかかわらず、同様の趣旨で、それが確定しなければその効力が生じないとする見解がないわけではない。しかし、法一七条は、弁護士名簿の登録に関する日弁連の事務処理について、登録を取り消さなければならない場合を明示するとともに、弁護士の使命および職務の重要性にかんがみ、退会命令、除名等の処分があつても、それが確定し、もはや争いの余地がなくなつたのちでなければ、登録の取消をさせないように配慮した趣旨の規定にすぎないと解すべきである。けだし、法一七条一号、三号等の場合における弁護士名簿の登録の取消は、これによって弁護士としての身分または資格そのものを失わしめる行為ではなく、弁護士としての身分または資格を失つているという事実を公に証明する行為なのである。したがつて、たとえば弁護士が法六条の定める欠格事由に該当するに至つたような場合には、直ちに弁護士としての身分または資格を失うのであつて、仮りに弁護士名簿の登録が取り消されないままに残つていたとしても、もはや弁護士ではありえず、弁護士の職務を行なうことはできないのである(公証人法一六条、国家公務員法七六条参照)。要するに、法一七条は、審査法一条二項および行政事件訴訟法一条にいう特別の定めにはあたらないのであるから、これを根拠として、懲戒は確定しなければ効力を生じないとすることはできない(なお、昭和八年法律第五三号の旧弁護士法施行当時における弁護士の懲戒手続には、明治二三年法律第六八号判事懲戒法が準用され、同法四六条の規定により、懲戒裁判所による懲戒の裁判は、確定の後でなければこれを執行することができないものとし、同法五一条の定めるところにより、必要のある場合には懲戒裁判手続の結了に至るまで職務を停止することを決定することができるものとしていた。これは、懲戒が裁判の形式をとつて行なわれたことに伴う結果であつて、当時と懲戒の手続・構造を異にする現在の法制のもとにおいて、旧法時代の考え方を類推することは許されない。)。
 ところで、法五七条二号に定める業務の停止は、一定期間、弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであつて、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によつて直ちに当該期間中、弁護士としての一切の職務を行なうことができないことになると解する。したがつて、この禁止に違背したときは重ねて懲戒を受けることがあるばかりでなく、禁止に違背してなされた職務上の行為もまた、違法であることを免れないというべきである。そうである以上、業務停止期間中、訴訟行為をすることが許されないのはもちろんであつて、もし裁判所が右のような懲戒の事実を知つたときは、裁判所は、当該弁護士に対し、訴訟手続への関与を禁止し、これを訴訟手続から排除しなければならない
 しかし、裁判所が右の事実を知らず、訴訟代理人としての資格に欠けるところがないと誤認したために、右弁護士を訴訟手続から排除することなく、その違法な訴訟行為を看過した場合において、当該訴訟行為の効力が右の瑕疵によつてどのような影響を受けるかは自ら別個の問題であつて、当裁判所は、右の瑕疵は、当該訴訟行為を直ちに無効ならしめるものではないと解する。いうまでもなく、業務停止の懲戒を受けた弁護士が、その処分を無視し、訴訟代理人として、あえて法廷活動をするがごときは、弁護士倫理にもとり、弁護士会の秩序をみだるものではあるが、これについては、所属弁護士会または日弁連による自主・自律的な適切な処置がとられるべきであり、これを理由として、その訴訟行為の効力を否定し、これを無効とすべきではない。けだし、弁護士に対する業務停止という懲戒処分は、弁護士としての身分または資格そのものまで剥奪するものではなく、したがつて、その訴訟行為を、直ちに非弁護士の訴訟行為たらしめるわけではないのみならず、このような場合には、訴訟関係者の利害についてはもちろん、さらに進んで、広く訴訟経済・裁判の安定という公共的な見地からの配慮を欠くことができないからである。もともと、弁護士の懲戒手続は公開されているわけではないし、その結果としての処分についても、広く一般に周知徹底が図られているわけでもないから、当該弁護士の依頼者すら、右の事実を知り得ないことが多く、裁判所もまた、右の事実を看過することがあり得るのである。それにもかかわらず、当該弁護士によつてなされた訴訟行為が、業務停止中の弁護士によつてなされたという理由によつて、のちになつて、すべて無効であつたとされるならば、当該事件の依頼者に対してはもちろん、時としては、その相手方に対してまで、不測の損害を及ぼすこととなり、ひいては、裁判のやり直しを余儀なくされ、無用の手続の繰返しとなり、裁判の安定を害し、訴訟経済に反する結果とならさるを得ない要するに、弁護士業務を停止され、弁護士活動をすることを禁止されている者の訴訟行為であつても、その事実が公にされていないような事情のもとにおいては、一般の信頼を保護し、裁判の安定を図り、訴訟経済に資するという公共的見地から当該弁護士のした訴訟行為はこれを有効なものであると解すべきである。
 ところで、本件を検討するに、一件記録によれば、弁護士Aが原審において被上告人の訴訟代理人として引き続き訴訟行為をしたこと、しかも裁判所が同人の訴訟関与を禁止した事実のないことがうかがわれるのであつて、同人に対し、所論のような懲戒がされ、しかもその処分が前示のようにすでにその効力を生じていたとしても、以上述べた理由により、同人が原審でした訴訟行為が無効となるものではないから、論旨は、結局、採用することができない。
 同二について。
 原判決のした判断は、原判決挙示の証拠関係のもとにおいては、これを肯認することができる。所論は、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提として、原判決を非難するものであつて、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告代理人辻武夫の上告理由一に対する業務停止の懲戒処分の効果についての裁判官奥野健一の意見があるほか、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

ⅲ)弁護士法25条違反
・双方代理に類する場合などについて弁護士が職務を行ってはならない旨定める。

・以後の訴訟追行については当該弁護士を訴訟追行から排除すべき。

・従前の訴訟追行の効力について
相手方当事者は弁護士法25条違反の事実を知った場合には異議を述べることができ、意義が述べられた場合には、当該行為は無効になる。
しかし、相手方当事者が違反について知りまたは知りうべき場合であったのに、遅滞なく異議を述べなかった場合には、後で無効主張をすることは許されない。
ふりな結論になった場合に限って異議を主張して従前の手続を覆すという訴訟戦術を防ぐ趣旨。

(3)訴訟代理権の範囲
+(訴訟代理権の範囲)
第五十五条  訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる
2  訴訟代理人は、次に掲げる事項については、特別の委任を受けなければならない。
一  反訴の提起
二  訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
三  控訴、上告若しくは第三百十八条第一項の申立て又はこれらの取下げ
四  第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
五  代理人の選任
3  訴訟代理権は、制限することができない。ただし、弁護士でない訴訟代理人については、この限りでない。
4  前三項の規定は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人の権限を妨げない。

この規定は例示列挙であり、訴訟代理人の権限は、当該事件において当事者を勝訴させるために必要な一切の行為を含むと解する。
包括的なものとされている趣旨は、手続の安定の要請と弁護士資格を有する者に対する信頼

・勝訴判決を取得するという授権の通常の意思を逸脱するもの、あるいは、当事者本人に重大な結果をもたらす事項については特別授権事項とされる。

・和解について、いかなる内容の和解に代理権の範囲が及ぶのか?
訴訟物以外の権利義務関係であっても、訴訟物と一定の関連性を有する事項であれば、訴訟代理人弁護士の和解権限が及ぶ。

+判例(38.2.21)
理由
 上告代理人木村鉱の上告理由第一点について。
 原審が当事者間に争いのない事実として確定したところによれば、本件においていわゆる前事件(徳島地方裁判所富岡支部昭和三一年(ワ)第一八号貸金請求事件)において上告人が訴訟代理人弁護士Aに対し民訴八一条二項所定の和解の権限を授与し、かつ、右委任状(書面)が前事件の裁判所に提出されているというのである。また原審が適法に認定したところによれば、右前事件は、前事件原告(本件被上告人先代)Bから前事件被告(本件控訴人、上告人)に対する金銭債権に関する事件であり、この弁済期日を延期し、かつ分割払いとするかわりに、その担保として上告人所有の不動産について、被上告人先代のために抵当権の設定がなされたものであつて、このような抵当権の設定は、訴訟物に関する互譲の一方法としてなされたものであることがうかがえるのである。しからば、右のような事実関係の下においては、前記A弁護士が授権された和解の代理権限のうちに右抵当権設定契約をなす権限も包含されていたものと解するのが相当であつて、これと同趣旨に出た原判決の判断は、正当であり、この点に関する原判決の説示はこれを是認することができる。
 更に、原判決は、前事件において上告人(控訴人)が前記A弁護士に対する和解の授権を撤回したとの事実、またこれを裁判所や相手方に明示の方法で通知したとの事実は認められない旨を認定しており、右認定は、挙示の証拠関係に照らしこれを肯認し得る。それ故、上告人が前事件において右A弁護士に対する和解の代理権授権を撤回し、これを関係人に通知した旨の論旨は、原審の認定に副わない事実関係を前提として原判決を非難し、または原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同第二点について。
 本件においていわゆる前事件における和解においてなされたような抵当権設定契約をなす権限が、前記A弁護士に授与された和解の代理権限のうちに包含されるものとした原判決の判断が是認し得るものであることは、前記上告理由第一点に対する説示において述べたとおりである。従つて原判決には所論のように民訴八一条一項違反の点は認められない。所論は、右原審の判断と異なる独自の見解に立脚して原判決の違法をいうものであつて、採るを得ない。
 同第三点について。
 原判決は、本件においていわゆる前事件において前記A弁護士に右事件における和解の代理権が適法に存し、かつ、これが撤回されたことのないこと、そして前記抵当権設定契約をなす権限が右和解の代理権限のうちに包含されるものであることを判示して、上告人の主張を排斥していることは判文上明らかであつて、その間何ら所論のごとき訴訟法違反の点は認められない。所論は採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七 裁判官 斎藤朔郎)

+判例(H12.3.24)
理由
 上告代理人一岡隆夫の上告理由について
 一 本件は、承継前上告人C(以下「一審被告」という。)に対する債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受けたとする被上告人がその支払を求めるものであるところ、一審被告は、右請求権はその譲渡人との間の別訴における訴訟上の和解により放棄されて消滅したと主張し、これに対し、被上告人は、右譲渡人の訴訟代理人は和解において右請求権を放棄する権限を有していなかったから放棄は無効であると主張した。
 二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 一審被告は、平成元年一〇月一日、所有する保養所施設二棟(以下「本件保養所」という。)について、被上告人が代表者を務めていた株式会社D(以下「訴外会社」という。)との間で、現実の管理運営には一審被告が当たり、訴外会社が諸経費を負担して、訴外会社において本件保養所を厚生年金基金等に利用させることを目的とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 2 訴外会社は、平成二年七月三一日、全国情報処理産業厚生年金基金と本件保養所の利用契約を締結したが、間もなく一審被告と訴外会社の間で紛争を生じ、一審被告は、訴外会社に対し本件契約の更新を拒絶して、平成三年三月二七日、右基金との間で直接に本件保養所の利用契約(以下「本件直接契約」という。)を締結した。そのため、訴外会社は、右基金から、同年四月以降における保養所利用契約の更新を拒絶された。
 3 訴外会社は、平成三年六月二〇日ころ、本件契約上訴外会社が負担すべき諸経費を一審被告が水増し請求したとして、一審被告に対し、本件契約に基づき損害賠償を請求する訴訟を提起し、他方、一審被告は、同年八月一二日ころ、右諸経費の一部が未払であるとして、訴外会社に対し、本件契約に基づき、その支払を請求する訴訟を提起した。訴外会社は、坂和優弁護士に対し、両事件についての訴訟代理を委任したが、その際、和解についても委任した。
 4 右両事件(以下「前訴事件」という。)は併合され、平成四年一月二〇日の口頭弁論期日において、訴外会社訴訟代理人の坂和弁護士及び一審被告の訴訟代理人が出頭し、(一)双方の請求権の存在を認めた上、これらが対当額において相殺され、同額において消滅したことを確認すること、(二)双方は、大津簡裁平成三年(ロ)第四五五号督促事件に係る債権を除くその余の権利を放棄し、双方の間に何らの権利義務がないことを確認すること(以下「本件放棄清算条項」という。)などを内容とする和解が成立したが、訴外会社の代表者であった被上告人は、右和解期日に出頭しなかった。
 5 訴外会社は、その後、一審被告が本件直接契約をしたことが本件契約についての債務不履行ないし不法行為に当たり、一審被告に対して損害賠償請求権(以下「本件請求権」という。)を有するとして、これを被上告人に譲渡した。
 三 原審は、本件請求権は前訴事件において請求されていた権利とは別個の権利であり、訴外会社が坂和弁護士に本件請求権を放棄する旨の和解をする権限を与えていたとは認められないから、本件請求権については本件放棄清算条項は無効であるとして、本件請求権につき本件放棄清算条項の効力を認めて本件請求を棄却すべきものとした第一審判決を取り消し、本件を第一審に差し戻した。

 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 【要旨】前記二の事実関係によれば、本件請求権と前訴における各請求権とは、いずれも、本件保養所の利用に関して同一当事者間に生じた一連の紛争に起因するものということができる。そうすると、坂和弁護士は、訴外会社から、前訴事件について訴訟上の和解をすることについて委任されていたのであるから、本件請求権について和解をすることについて具体的に委任を受けていなかったとしても、前訴事件において本件請求権を含めて和解をする権限を有していたものと解するのが相当である。
 五 したがって、これと異なる判断の下に、右和解において坂和弁護士が本件請求権を放棄する権限を有しなかったことを理由に、本件請求権について本件放棄清算条項は無効であるとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の請求を棄却した第一審判決の結論は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

←訴訟物の枠にとらわれない柔軟な解決という和解の利点を最大限生かすとともに、いったん成立した和解の効力をできる限り維持して法的安定性を確保するため。

(4)訴訟代理権の発生消滅
ⅰ)訴訟代理権の授与
本人による代理権授与の意思表示によって行われる。
代理権授与行為は単独行為であり、その有効性に対する疑義を防ぐため、訴訟行為の一種として、行為能力ではなく訴訟能力の規律に服する。

ⅱ)訴訟代理権の証明
・訴訟代理権の行使をするためには、代理権の存在及び範囲を書面で証明しなければならない(規則23条1項)
←代理権の存否に関する審査を簡易迅速に行うため。

・代理行為の時点で書面による証明がないと認める場合、裁判所はその行為を無効として扱う。
しかし、既になされた代理行為について事後的に代理権が争われる場合には、他の証拠方法によって代理権を認定することも差支えない
+判例(S36.1.26)
理由
 上告代理人一条清の上告理由について。
 しかし原判決は、挙示の証拠により原判決(一)ないし(五)の各事実を認定した上、これを綜合して、上告人が訴外Aに対し上告人を代理して所論調停をなす代理権限を与えた事実を判示しているのであつて、原審の右認定、判示は挙示の証拠に照し首肯し得られなくはない。
 民事調停に準用される民訴八〇条一項の代理権の証明に関する規定は、将来に向つて代理行為をする場合の規定であつて、既になされた代理行為について、その権限があつたか否かを判断するに際しては、必ずしも委任状その他の書面の有無にとらわれることはないと解すべきであるから、原審が前記の如き証拠を綜合して前記の如き判断をしたからといつて所論の違法ありということを得ない。
 また、訴外Aが原判示調停において上告人の代理人兼利害関係人として関与した事実は、原審において当事者間に争いがなかつた事実であり、右代理許可の裁判がなかつた事実は、上告人の主張も立証もしなかつたところであるから、当審において新しく主張することは許されない。
 次に民事調停規則八条は、当事者の出頭できる場合に代理人を出頭させても、それを違法とする趣旨とは解されず他にこれを違法と解さなければならない根拠を見出し得ないから、原審が右代理人によつてなされた調停に効力を認めたとしても所論の違法ありとは認められない。
 その他の主張は、すべて原審が適法にした事実認定の非難に帰するから採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

ⅲ)訴訟代理権の消滅
代理権の消滅自由は、原則として民法上の代理権消滅事由に準じ、ただ、民訴法58条でその例外を定めている。
+(訴訟代理権の不消滅)
第五十八条  訴訟代理権は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一  当事者の死亡又は訴訟能力の喪失
二  当事者である法人の合併による消滅
三  当事者である受託者の信託に関する任務の終了
四  法定代理人の死亡、訴訟能力の喪失又は代理権の消滅若しくは変更
2  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの訴訟代理人の代理権は、当事者の死亡その他の事由による資格の喪失によっては、消滅しない。
3  前項の規定は、選定当事者が死亡その他の事由により資格を喪失した場合について準用する。

・58条が例外を定めているのは、代理権を維持することによる訴訟手続きの迅速化と弁護士資格を持つものに対する高い信頼とを理由とする。

・訴訟代理権の消滅は、相手方に通知をしなければ効力を生じない
+(法定代理の規定の準用)
第五十九条  第三十四条第一項及び第二項並びに第三十六条第一項の規定は、訴訟代理について準用する。
+(法定代理権の消滅の通知)
第三十六条  法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。
2  前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。

5.法令上の訴訟代理人
本人の意思に基づいて一定の法的地位につく者に対して法令が訴訟代理権を認めている結果として、当然に訴訟代理権を取得する者をいう。
その基礎となる地位への就任が本人の意思によるものである点で法定代理人ではなく、任意代理人に分類される。

・もっぱら弁護士でない者に訴訟行為をさせる目的で、名目的に支配人等を選任した場合とうするか
→法の禁止の潜脱を図るという本人側の主観的悪性と、禁止規定の公益性から考える。
→無効主張を認める。
ただ、本人からの無効主張は信義則に反することも。

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