憲法択一 人権 基本的人権の原理 人権の享有主体性 八幡 国労広島 南九州 群馬


・天皇も人権享有主体となると考えることができるが、天皇は国政に関する権能を有しないため、選挙権や被選挙権等の参政権は認められない!!
+第四条
1項 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない
2項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

・憲法第3章の人権規定は、法人についても性質上可能な限り適用される!
+判例(45.6.24 八幡)

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第二点ならびに上告人の上告理由第一および第二について。
原審の確定した事実によれば、訴外八幡製鉄株式会社は、その定款において、「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」を目的として定める会社であるが、同会社の代表取締役であつた被上告人両名は、昭和三五年三月一四日、同会社を代表して、自由民主党に政治資金三五〇万円を寄附したものであるというにあるところ、論旨は、要するに、右寄附が同会社の定款に定められた目的の範囲外の行為であるから、同会社は、右のような寄附をする権利能力を有しない、というのである。
会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである(最高裁昭和二四年(オ)第六四号・同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号・同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)。

ところで、会社は、一定の営利事業を営むことを本来の目的とするものであるから、会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに直接必要な行為に存することはいうまでもないところである。しかし、会社は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとつても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあつても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。災害救援資金の寄附、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力などはまさにその適例であろう。会社が、その社会的役割を果たすために相当を程度のかかる出捐をすることは、社会通念上、会社としてむしろ当然のことに属するわけであるから、毫も、株主その他の会社の構成員の予測に反するものではなく、したがつて、これらの行為が会社の権利能力の範囲内にあると解しても、なんら株主等の利益を害するおそれはないのである。

以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのである。論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。上告人のその余の論旨は、すべて独自の見解というほかなく、採用することができない。要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。
原判決は、右と見解を異にする点もあるが、本件政治資金の寄附が八幡製鉄株式会社の定款の目的の範囲内の行為であるとした判断は、結局、相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第一点および上告人の上告理由第四について。論旨は、要するに、株式会社の政治資金の寄附が、自然人である国民にのみ参政権を認めた憲法に反し、したがつて、民法九〇条に反する行為であるという。
憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。ヘーー のみならず、憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。論旨は、会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であるとするのであるが、政党への寄附は、事の性質上、国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく、政党の資金の一部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても、それはたまたま生ずる病理的現象に過ぎず、しかも、かかる非違行為を抑制するための制度は厳として存在するのであつて、いずれにしても政治資金の寄附が、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたい。会社が政治資金寄附の自由を有することは既に説示したとおりであり、それが国民の政治意思の形成に作用することがあつても、あながち異とするには足りないのである。所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであつて、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。 
以上説示したとおり、株式会社の政治資金の寄附はわが憲法に反するものではなく、したがつて、そのような寄附が憲法に反することを前提として、民法九〇条に違反するという論旨は、その前提を欠くものといわなければならない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。

上告代理人有賀正明、同吉田元、同長岡邦の上告理由第三点および上告人の上告理由第三について。論旨は、要するに、被上告人らの本件政治資金の寄附は、商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反するというのである。
商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項民法六四四条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであつて、所論のように、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することができない。
ところで、もし取締役が、その職務上の地位を利用し、自己または第三者の利益のために、政治資金を寄附した場合には、いうまでもなく忠実義務に反するわけであるが、論旨は、被上告人らに、具体的にそのような利益をはかる意図があつたとするわけではなく、一般に、この種の寄附は、国民個々が各人の政治的信条に基づいてなすべきものであるという前提に立脚し、取締役が個人の立場で自ら出捐するのでなく、会社の機関として会社の資産から支出することは、結果において会社の資産を自己のために費消したのと同断だというのである。会社が政治資金の寄附をなしうることは、さきに説示したとおりであるから、そうである以上、取締役が会社の機関としてその衝にあたることは、特段の事情のないかぎり、これをもつて取締役たる地位を利用した、私益追及の行為だとすることのできないのはもちろんである。論旨はさらに、およそ政党の資金は、その一部が不正不当に、もしくは無益に、乱費されるおそれがあるにかかわらず、本件の寄附に際し、被上告人らはこの事実を知りながら敢て目をおおい使途を限定するなど防圧の対策を講じないまま、漫然寄附をしたのであり、しかも、取締役会の審議すら経ていないのであつて、明らかに忠実義務違反であるというのである。ところで、右のような忠実義務違反を主張する場合にあつても、その挙証責任がその主張者の負担に帰すべきことは、一般の義務違反の場合におけると同様であると解すべきところ、原審における上告人の主張は、一般に、政治資金の寄附は定款に違反しかつ公序を紊すものであるとなし、したがつて、その支出に任じた被上告人らは忠実義務に違反するものであるというにとどまるのであつて、被上告人らの具体的行為を云々するものではない。もとより上告人はその点につき何ら立証するところがないのである。したがつて、論旨指摘の事実は原審の認定しないところであるのみならず、所論のように、これを公知の事実と目すべきものでないことも多言を要しないから、被上告人らの忠実義務違反をいう論旨は前提を欠き、肯認することができない。いうまでもなく取締役が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたつては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲を越え、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきであるが、原審の確定した事実に即して判断するとき、八幡製鉄株式会社の資本金その他所論の当時における純利益、株主配当金等の額を考慮にいれても、本件寄附が、右の合理的な範囲を越えたものとすることはできないのである。
以上のとおりであるから、被上告人らがした本件寄附が商法二五四条ノ二に定める取締役の忠実義務に違反しないとした原審の判断は、結局相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨はこの点についても採用することができない。

上告人の上告理由第五について。
所論は、原判決の違法をいうものではないから、論旨は、採用のかぎりでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官入江俊郎、同長部謹吾、同松田二郎、同岩田誠、同大隅健一郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

++裁判官松田二郎の意見もあったりする・・・今後補足。

・信教の自由(20条1項前段)のうちの信仰の自由は、個人の内面的精神活動に関する自由であることから、自然人についてのみ認められる!!!

・信教の自由のうちの宗教的行為の自由、宗教的結社の自由については、その性質上、宗教法人などの法人にも認められる!!!

・法人は、自然人である国民と同様に、国や政党の特定の政策を推進し又は反対するなどの政治的行為をなす自由を有する!

・憲法上の選挙権その他の参政権は自然人である国民にのみ認められたものである!!

・会社は、自然人たる国民と同様、政治的行為をなす自由を有し、政治資金の寄付もまさにその自由の一環であるとしたうえで、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請はない!!!

・労働組合による統制と組合員が市民又は人間として有する自由や権利とが矛盾衝突する場合、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較衡量して、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えるべきである!!

+判例(S50.11.28)国労広島地本
上告代理人大野正男、同西田公一、同外山佳昌の上告状記載の上告理由及び上告理由書記載の上告理由について
一 原判決によれば、上告組合がその組合員から徴収することを決定した本件各臨時組合費のうち、(1) 原判示の炭労資金三五〇円(組合員一人あたりの額。以下同じ。)及び春闘資金中の三〇円は、上告組合が日本炭鉱労働組合(以下「炭労」という。)の三井三池炭鉱を中心とする企業整備反対闘争を支援するための資金、(2) 原判示の安保資金五〇円は、昭和三五年に行われたいわゆる安保反対闘争により上告組合の組合員多数が民事上又は刑事上の不利益処分を受けたので、これら被処分者を救援するための資金(ただし、右資金は、いつたん上部団体である日本労働組合総評議会に上納され、他組合からの上納金と一括されたうえ、改めて救援資金として上告組合に配分されることになつていた。)、(3) 原判示の政治意識昂揚資金二〇円は、上告組合が昭和三五年一一月の総選挙に際し同組合出身の立候補者の選挙運動を応援するために、それぞれの所属政党に寄付する資金である、というのである。本件は、上告組合がその組合員であつた被上告人らに対して右各臨時組合費の支払を請求する事案であるが、原審は、労働組合は組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上という目的の遂行のために現実に必要な活動についてのみ組合員から臨時組合費を徴収することができるとの見解を前提としたうえ、右(1)については、上告組合が炭労の企業整備反対闘争を支援することは右目的の範囲外であるとし、(2)については、いわゆる安保反対闘争自体が右目的の達成に必要な行為ではないから、これに参加して違法行為をしたことにより処分を受けた組合員を救援することも目的の範囲を超えるものであるとし、更に、(3)については、選挙応援資金の拠出を強制することは組合員の政治的信条の自由に対する侵害となるから許されないとし、結局、右いずれの臨時組合費の徴収決議も法律上無効であつて、被上告人らにはこれを納付する義務がない、と判断している。
論旨は、要するに、原審の前提とした労働組合の目的の範囲に関する一般的判断につき民法四三条、労働組合法二条、上告組合規約三条、四条の解釈適用の誤り及び理由齟齬の違法を主張するとともに、右(1)に関する判断には、同組合規約三条、四条の解釈適用を誤り、社会通念及び経験則に違反した違法、同(2)に関する判断には、憲法二八条、労働組合法二条、同組合規約三条、四条の解釈適用を誤り、条理及び判例に違反した違法、同(3)に関する判断には、憲法一九条、二一条、二八条、労働組合法二条、民法九〇条の解釈適用を誤り、条理及び判例に違反した違法がある、というのである。

二 思うに、労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない
しかし、このように労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり、組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
そこで、以上のような見地から本件の前記各臨時組合費の徴収の許否について判断する。

三 炭労資金(春闘資金中三〇円を含む。)について
右資金は、上告組合自身の闘争のための資金ではなく、他組合の闘争に対する支援資金である。労働組合が他の友誼組合の闘争を支援する諸活動を行うことは、しばしばみられるところであるが、労働組合ないし労働者間における連帯と相互協力の関係からすれば、労働組合の目的とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他組合との連帯行動によつてこれを実現することが予定されているのであるから、それらの支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合においてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりそれが決定された場合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。右支援活動の一環としての資金援助のための費用の負担についても同様である。
のみならず、原判決は、本件支援の対象となつた炭労の闘争が、石炭産業の合理化に伴う炭鉱閉鎖と人員整理を阻止するため、使用者に対して企業整備反対の闘争をすると同時に、政府に対して石炭政策転換要求の闘争をすることを内容としたものであつて、右石炭政策転換闘争において炭労が成功することは、当時上告組合自身が行つていた国鉄志免炭鉱の閉山反対闘争を成功させるために有益であつたとしながら、本件支援資金が、炭労の右石炭政策転換闘争の支援を直接目的としたものでなく、主としてその企業整備反対闘争を支援するための資金であつたことを理由に、これを拠出することが上告組合の目的達成に必要なものではなかつたと判断しているのであるが、炭労の前記闘争目的から合理的に考えるならば、その石炭政策転換闘争と企業整備反対闘争とは決して無関係なものではなく、企業整備反対闘争の帰すうは石炭政策転換闘争の成否にも影響するものであつたことがうかがわれるのであり、そうである以上、直接には企業整備反対闘争を支援するための資金であつても、これを拠出することが石炭政策転換闘争の支援につながり、ひいて上告組合自身の前記闘争の効果的な遂行に資するものとして、その目的達成のために必要のないものであつたとはいいがたいのである。
してみると、前記特別の場合にあたるとは認められない本件において、被上告人らが右支援資金を納付すべき義務を負うことは明らかであり、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りというほかなく、その違法をいう論旨は理由がある。

四 安保資金について
右資金は、いわゆる安保反対闘争に参加して処分を受けた組合員を救援するための資金であるが、後記五の政治意識昂揚資金とともに、労働組合の政治的活動に関係するので、以下においては、まず労働組合の政治的活動に対する組合員の協力義務について一般的に考察し、次いで右政治的活動による被処分者に対する救援の問題に及ぶこととする。
1 既に述べたとおり、労働組合が労働者の生活利益の擁護と向上のために、経済的活動のほかに政治的活動をも行うことは、今日のように経済的活動と政治的活動との間に密接ないし表裏の関係のある時代においてはある程度まで必然的であり、これを組合の目的と関係のない行為としてその活動領域から排除することは、実際的でなく、また当を得たものでもない。それゆえ、労働組合がかかる政治的活動をし、あるいは、そのための費用を組合基金のうちから支出すること自体は、法的には許されたものというべきであるが、これに対する組合員の協力義務をどこまで認めうるかについては、更に別個に考慮することを要する。
すなわち、一般的にいえば、政治的活動は一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものであり、労働組合の政治的活動の基礎にある政治的思想、見解、判断等は、必ずしも個々の組合員のそれと一致するものではないから、もともと団体構成員の多数決に従つて政治的行動をすることを予定して結成された政治団体とは異なる労働組合としては、その多数決による政治的活動に対してこれと異なる政治的思想、見解、判断等をもつ個々の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないと考えるべきである。かかる義務を一般的に認めることは、組合員の個人としての政治的自由、特に自己の意に反して一定の政治的態度や行動をとることを強制されない自由を侵害することになるからである。
しかしながら、労働組合の政治的活動とそれ以外の活動とは実際上しかく截然と区別できるものではなく、一定の行動が政治的活動であると同時に経済的活動としての性質をもつことは稀ではないし、また、それが政治的思想、見解、判断等と関係する度合いも必ずしも一様ではない。したがつて、労働組合の活動がいささかでも政治的性質を帯びるものであれば、常にこれに対する組合員の協力を強制することができないと解することは、妥当な解釈とはいいがたい。例えば、労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置の促進又は反対のためにする活動のごときは、政治的活動としての一面をもち、そのかぎりにおいて組合員の政治的思想、見解、判断等と全く無関係ではありえないけれども、それとの関連性は稀薄であり、むしろ組合員個人の政治的立場の相違を超えて労働組合本来の目的を達成するための広い意味における経済的活動ないしはこれに付随する活動であるともみられるものであつて、このような活動について組合員の協力を要求しても、その政治的自由に対する制約の程度は極めて軽微なものということができる。それゆえ、このような活動については、労働組合の自主的な政策決定を優先させ、組合員の費用負担を含む協力義務を肯定すべきである。
これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。もつとも、この種の活動に対する費用負担の限度における協力義務については、これによつて強制されるのは一定額の金銭の出捐だけであつて、問題の政治的活動に関してはこれに反対する自由を拘束されるわけではないが、たとえそうであるとしても、一定の政治的活動の費用としてその支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金についてその拠出を強制することは、かかる活動に対する積極的協力の強制にほかならず、また、右活動にあらわされる一定の政治的立場に対する支持の表明を強制するにも等しいものというべきであつて、やはり許されないとしなければならない。
2 次に、右安保反対闘争のような政治的活動に参加して不利益処分を受けた組合員に対する救援の問題について考えると、労働組合の行うこのような救援そのものは、組合の主要な目的の一つである組合員に対する共済活動として当然に許されるところであるが、それは同時に、当該政治的活動のいわば延長としての性格を有することも否定できないしかし、労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから、右救援費用を拠出することが直ちに処分の原因たる政治的活動に積極的に協力することになるものではなく、また、その活動のよつて立つ一定の政治的立場に対する支持を表明することになるものでもないというべきである。したがつて、その拠出を強制しても、組合員個人の政治的思想、見解、判断等に関係する程度は極めて軽微なものであつて、このような救援資金については、先に述べた政治的活動を直接の目的とする資金とは異なり、組合の徴収決議に対する組合員の協力義務を肯定することが、相当である。なお、処分の原因たる被処分者の行為は違法なものでもありうるが、右に述べた救援の目的からすれば、そのことが当然には協力義務を否定する理由となるものではない(当裁判所昭和四八年(オ)第四九八号組合費請求事件同五〇年一一月二八日第三小法廷判決参照)。
3 ところで、本件において原審の確定するところによれば、前記安保資金は、いわゆる安保反対闘争による処分が行われたので専ら被処分者を救援するために徴収が決定されたものであるというのであるから、右の説示に照らせば、被上告人らはこれを納付する義務を負うことが明らかであるといわなければならない。それゆえ、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りであり、その違法をいう論旨は理由がある。

五 政治意識昂揚資金について
右資金は、総選挙に際し特定の立候補者支援のためにその所属政党に寄付する資金であるが、政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(当裁判所昭和三八年(あ)第九七四号同四三年一二月四日大法廷判決・刑集二二巻一三号一四二五頁参照)、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべきことは、既に述べたところから明らかである。これと同旨の理由により本件政治意識昂揚資金について被上告人らの納付義務を否定した原審の判断は正当であつて、所論労働組合法又は民法の規定の解釈適用を誤つた違法はない。また、所論違憲の主張は、その実質において原判決に右違法のあることをいうものであるか、独自の見解を前提として原判決の違憲を主張するものにすぎないから、失当であり、更に、所諭引用の判例も、事案を異にし、本件に適切でない。この点に関する論旨は、採用することができない。
六 以上のとおりであるから、原判決及び第一審判決中、本件炭労資金(春闘資金中三〇円を含む。)及び安保資金について上告人の請求を認めなかつた部分は違法として破棄又は取消を免れず、右部分に関する上告人の請求はすべてこれを認容すべきであり、また、その余の上告は、理由がないものとして棄却すべきである。

++補足意見もあり

・労働組合が、その実施する政治闘争に必要となる費用を臨時組合費として徴収する旨の組合決議を行った場合でも、組合員に納付義務はない!!
←上の判決の政治意識昂揚資金についての判断?

・政治資金規正法上の政治団体に寄付するか否かは選挙における投票の自由と表裏をなし、各人が個人的な政治思想に基づいて自主的に決定すべき事項であるから、会員に脱退の自由のない強制加入団体である税理士会が、上記寄付のために特別会費の納入を会員に強制することは許されない。

+(H8.3.19)南九州税理士会事件
上告代理人馬奈木昭雄、同板井優、同浦田秀徳、同加藤修、同椛島敏雅、同田中利美、同西清次郎、同藤尾順司、同吉井秀広の上告理由第一点、第四点、第五点、上告代理人上条貞夫、同松井繁明の上告理由、上告代理人諌山博の上告理由及び上告人の上告理由について
一 右各上告理由の中には、被上告人が政治資金規正法(以下「規正法」という。)上の政治団体へ金員を寄付することが彼上告人の目的の範囲外の行為であり、そのために本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるから、これと異なり、右の寄付が被上告人の目的の範囲内であるとした上、本件特別会費の納入義務を肯認した原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があるとの論旨が含まれる。以下、右論旨について検討する。

二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、税理士法(昭和五五年法律第二六号による改正前のもの。以下単に「法」という。)四九条に基づき、熊本国税局の管轄する熊本県、大分県、宮崎県及び鹿児島県の税理士を構成員として設立された法人であり、日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)の会員である(法四九条の一四第四項)。被上告人の会則には、被上告人の目的として法四九条二項と同趣旨の規定がある。
2 南九州税理士政治連盟(以下「南九税政」という。)は、昭和四四年一一月八日、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として設立されたもので、被上告人に対応する規正法上の政治団体であり、日本税理士政治連盟の構成員である。
3 熊本県税理士政治連盟、大分県税理士政治連盟、宮崎県税理士政治連盟及び鹿児島県税理士政治連盟(以下、一括して「南九各県税政」という。)は、南九税政傘下の都道府県別の独立した税政連として、昭和五一年七、八月にそれぞれ設立されたもので、規正法上の政治団体である。
4 被上告人は、本件決議に先立ち、昭和五一年六月二三日、被上告人の第二〇回定期総会において、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、全額を南九各県税政へ会員数を考慮して配付するものとして、会員から特別会費五〇〇〇円を徴収する旨の決議をした。被上告人は、右決議に基づいて徴収した特別会費四七〇万円のうち四四六万円を南九各県税政へ、五万円を南九税政へそれぞれ寄付した。
5 被上告人は、昭和五三年六月一六日、第二二回定期総会において、再度、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、各会員から本件特別会費五〇〇〇円を徴収する、納期限は昭和五三年七月三一日とする、本件特別会費は特別会計をもって処理し、その使途は全額南九各県税政へ会員数を考慮して配付する、との内容の本件決議をした。
6 当時の被上告人の特別会計予算案では、本件特別会費を特別会計をもって処理し、特別会費収入を五〇〇〇円の九六九名分である四八四万五〇〇〇円とし、その全額を南九各県税政へ寄付することとされていた。
7 上告人は、昭和三七年一一月以来、被上告人の会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった
8 被上告人の役員選任規則には、役員の選挙権及び被選挙権の欠格事由として「選挙の年の三月三一日現在において本部の会費を滞納している者」との規定がある。
9 被上告人は、右規定に基づき、本件特別会費の滞納を理由として、昭和五四年度、同五六年度、同五八年度、同六〇年度、同六二年度、平成元年度、同三年度の各役員選挙において、上告人を選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した。

三 上告人の本件請求は、南九各県税政へ被上告人が金員を寄付することはその目的の範囲外の行為であり、そのための本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるなどと主張して、被上告人との間で、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求め、さらに、被上告人が本件特別会費の滞納を理由として前記のとおり各役員選挙において上告人の選挙権及び被選挙権を停止する措置を採ったのは不法行為であると主張し、被上告人に対し、これにより被った慰謝料等の一部として五〇〇万円と遅延損害金の支払を求めるものである。

四 原審は、前記二の事実関係の下において、次のとおり判断し、上告人の右各請求はいずれも理由がないと判断した。
1 法四九条の一二の規定や同趣旨の被上告人の会則のほか、被上告人の法人としての性格にかんがみると、被上告人が、税理士業務の改善進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である。
2 南九各県税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を掲げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない。
3 本件決議は、南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められず、また、上告人に本件特別会費の拠出義務を肯認することがその思想及び信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、結局、公序良俗に反して無効であるとは認められない。本件決議の結果、上告人に要請されるのは五〇〇〇円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、上告人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動を行うことにつき何らかの制約を受けるような状況にもないから、上告人は、本件決議の結果、社会通念上是認することができないような不利益を被るものではない。
4 上告人は、本件特別会費を滞納していたものであるから、役員選任規則に基づいて選挙人名簿に上告人を登載しないで役員選挙を実施した被上告人の措置、手続過程にも違法はない。

  五 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。すなわち、
(一) 民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され(最高裁昭和二四年(オ)第六四号同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる(最高裁昭和四一年(オ)第四四四号同四五年六月二四日大法廷判決・民集二四巻六号六二五頁参照)。
(二) しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない
税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられ(法四九条一項)、税理士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の税理士会は、日税連を設立しなければならず、日税連は法人とされ、各税理士会は、当然に日税連の会員となる(法四九条の一四第一、第三、四項)。
税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法四九条二項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするとされ(法四九条の二第二項では税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、法四九条の一二第一項においては、税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。
また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法四九条の一一)、大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、役員についてはこれを解任すべきことを命ずることができ(法四九条の一八)、税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法四九条の一九第一項)とされている。
さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法五二条)。
(三) 以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない(なお、前記昭和五五年法律第二六号による改正により、税理士は税理士名簿への登録を受けた時に、当然、税理士事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員になるとされ、税理士でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとされたが、前記の諸点に関する法の内容には基本的に変更がない。)。
税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。
(四) そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。
特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。
法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。
(五) そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない
2 以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として五〇〇〇円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。
原審は、南九各県税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活動の範囲に限定されていることを理由に、南九各県税政へ金員を寄付することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、南九各県税政の活動の範囲が法所定の税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、南九各県税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体である南九税政への負担金等として相当額の金員を支出したことは、原審も認定しているとおりである。

六 したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について検討するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上判示したところによれば、上告人の本件請求のうち、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求める請求は理由があり、これを認容した第一審判決は正当であるから、この部分に関する被上告人の控訴は棄却すべきである。また、上告人の損害賠償請求については更に審理を尽くさせる必要があるから、本件のうち右部分を原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+++解説
二 甲は、本件訴訟を提起し、公的性質をもつ強制加入団体である税理士会乙が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するのは税理士会の目的の範囲外の行為であって、そのために会員から特別会費を徴収する旨の本件決議は、結局、特定の政党や候補者への寄付を会員に強制することになり、反対の意思を有していた甲の思想、信条の自由(憲法一九条)を侵害するもので無効である、本件特別会費の滞納を理由として役員選挙における甲の選挙権及び被選挙権を停止した乙の措置は不法行為である、などと主張して、乙に対し、① 本件特別会費五〇〇〇円の納入義務が存在しないことの確認、② 損害賠償として慰謝料五〇〇万円等の支払を求めた。
乙は、税理士法改正について政治的活動をすることは、税理士の社会的経済的地位の向上を図ることに直結するから、税理士会自体が右政治的活動をすることは無論、右の政治活動を行うことを目的とする南九各県税政に寄付をすることも乙の権利能力の範囲内の行為である、などと主張した。

三 第一審判決(本誌五八四号七六頁)は、詳細な理由説示をして、本件決議は、乙が権利能力を有しない事柄を内容とする議案につき決議したもので民法四三条に違反して無効である、仮に有効であるとしても、本件決議に反対していた甲に本件特別会費の納入を強制することはできない、甲についての役員の選挙権、被選挙権の停止措置はXに対する不法行為である、などと判断し、甲の①の請求を認め、②の請求も一五〇万円と遅延損害金の限度で認めた。
原審判決(本誌七八六号一一九頁)は、一審とは逆に、甲の①②の請求を全部排斥した。その判断の要旨は、(1) 本件決議は、本件特別会費をもって南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められない、(2) 政治団体である南九各県税政への寄付は、乙の目的の範囲外の行為であるとはいえない、(3) 本件決議により甲に本件特別会費の拠出義務を肯認することが、甲の思想、信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、本件決議が公序良俗に反して無効であるとは認められない、(4) 本件決議により乙が南九各県税政へ寄付をし、南九各県税政が特定の政治家の後援会等に寄付をすると、本件特別会費の支出が、結局、特定政治家の一般的な政治的立場の支援になるという関係が生じないわけではないが、それは迂遠且つ希薄である、(5) 甲は、本件特別会費を滞納していたから、選挙人名簿に甲を登載しないで役員選挙を実施した乙の措置等にも違法はない、というものであった。
甲から上告。上告理由は多岐にわたるが、本判決が問題とするのは、税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることが税理士会の目的の範囲外の行為かどうか、そのために会員から特別会費を徴収する旨の決議が無効かどうかについての点である。

四 本判決は、前記判決要旨のとおり判断し、原判決を破棄して、甲の①の請求は理由があるとして自判し、②の請求についてはさらに審理を尽くさせる必要があるとして原審に差し戻した。

五 ところで、八幡製鉄政治献金事件の最高裁大法廷判決(①最大判昭45・6・24民集二四巻六号六二五頁、本誌二四九号一一六頁)は、営利法人である会社が政党にする政治献金と国民の選挙権その他の参政権との関係につき、会社は、自然人たる国民と同様に、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有し、政治資金の寄付もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない、などと判示するとともに、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄付が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためではなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄付をする能力がないとはいえないなどと判示し、結局、会社が政党に政治献金をすることも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないと判断した。
その後、国労広島地方本部事件の最高裁判決(②最三小判昭50・11・28民集二九巻一〇号一六九八頁、本誌三三〇号二一三頁)は、労働組合の構成員の協力義務について、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすもので、個人が市民としての個人的な政治思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、労働組合(国労)が、総選挙において出身候補者の支持を決定し、右立候補者の所属政党に国労政治連盟を通じて寄付をするため、臨時組合費を徴収する決議をしたとしても、組合員は右臨時組合費を納付する義務を負わないと判断し、構成員個人の思想、信条の自由の観点から労働組合の構成員の協力義務に一定の限界を認めた。

六 本判決は、法で設立が義務付けられ、その目的も法で特定されている税理士会について、その目的の範囲について会社と同一に論ずることはできないとした上、法に具体的に規定されている税理士会の目的の範囲の内容を検討し、税理士会がいわゆる強制加入団体であって、会員には様々の思想、信条の者がいることが当然に予定されているところから、法が予定した税理士会の活動の範囲にも限界があるもので、税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、会員個人が市民としての個人的な政治的思想、見解等に基づいて自主的に決定すべき事柄であり、かような事柄を税理士会が多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないだけでなく、そもそも税理士会がそのような活動をすることを法は全く予定していないと解し、結局、そのような行為は目的の範囲外の行為であると判断したものである。

七 すでに、大阪合同税理士会を被告として、右税理士会に所属する税理士らが、本件と同様の主張をして、納入した特別会費分の不当利得返還請求をした事案について、最高裁(最一小判平5・5・27本誌八四二号一二〇頁)は、原告らの請求を排斥した原審の判断を維持する判決をした(要件事実の構成が不十分であったため、法廷意見はその点を説示して上告棄却した。)。三好裁判官は、右判決の補足意見において、税理士会が政治活動をし、又は政治団体に対し金員を拠出することは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関してであっても、構成員である税理士会の政治活動の自由を侵害する結果となることを免れず、税理士会の権利能力の範囲を逸脱することは明らかである、との判断を明らかにしている。
本判決の判断も、結論的には三好補足意見と同旨であり、その理由も基本的には三好補足意見と同趣旨の部分が多いが、細部については若干異なる説示もみられる。まず、三好補足意見が、営利を目的としない団体についても、それが任意加入団体である限り①の八幡製鉄政治献金事件の大法廷判決の判断が原則として妥当すると解しているのに対し、本判決は、会社については①の判例がある旨説示するだけで、会社以外の公益法人について右判例が妥当するとの説示はない。むしろ、本判決の理由においては、①の判例を引用しながらも、これとは一歩距離を置いたともみられる説示がされている。また、三好補足意見は、金員の寄付以外の税理士会の政治活動一般についても、構成員の政治活動の自由の観点から問題にしているのに対し、本判決は、政党など政治団体の活動一般に対する支援になる金員の寄付に限って説示しており、税理士会のその他の政治活動については触れていない(法四九条の一二第一項の「建議」以外にも、その延長線上にある政治的アピールの範囲内で政治的活動が可能であるとする見解として西鳥羽和明・判評四三二号五六頁がある。)。

八 会社についての前記①の判例には、わが国の政治の現状に対する評価とも関連して様々の批評があるが(純粋に法的な視点からの近時の批判として武藤春光・商事一三四三号三七頁)、右の判決の理由説示には法人の構成員(株主)の個人的な思想・信条の自由に対する配慮は特に窺えない。労働組合についての前記②の判例は、労働組合の活動については、その範囲を民法四三条の目的の範囲で制約せずに広く解した上で、労働組合と組合員との関係では、多数決の原理に基づくその統制力をもってしても、投票の自由と表裏をなすような、組合員個人が市民としての個人的な思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄について、労働組合が組合員の協力を強制することはできないと判断したもので、これは、団体の多数決原理による決議や活動にも憲法で保障された構成員の思想信条との関係からの制約があることを前提とした注目すべき重要な判断であったといえる。
対象とする団体の法的性質はそれぞれ異なり、構成員の脱退の自由や困難性の問題もあるが、①②の各判例の理由説示と本判決の理由説示を比較してみると、①の判例が法人実在説的な考え方を徹底させた説示をしているのに対し、②の判例や本判決は、法人が行う政治活動とその構成員個人の思想・信条の自由という問題について、憲法で保障された個々の構成員の思想信条の自由を重視した説示がされていることが注目される。

九 平成六年の政治改革関連の法改正の一つとしての政治資金規正法の改正により、会社、労組その他の団体(税理士会も含まれる。)は、政党、政治資金団体及び資金管理団体以外の政治団体(税理士政治連盟のようないわばトンネル機関としての政治団体も含まれる。)に政治献金をすることが禁止されるに至った。しかし、右改正の後も、法律の明文上は、税理士会が政党や政治資金団体に対して政治献金をすることを禁止した規定は存在しない。
本判決は、税理士会が政党などの規制法上の政治団体に金員の寄付をすることがその目的の範囲外の行為であると判断した初めての最高裁判決であり、その判断は、税理士会のような公的性格を有する法人の政治献金の問題のみならず、前記のとおり、法人の活動とその構成員の思想・信条の自由の問題についての最高裁としての極めて重要な判断ということができると思われる。

・税理士会は公益法人であり、また、その会員である税理士に実質的に脱退の事由が認められていないから、税理士会がする政治資金規正法上の政治団体に対する政治献金は、それが税理士法改正にかかわるものであったとしても、税理士会の目的の範囲外の行為と解される!!!

・群馬司法書士会事件
+判例(H14.4.25)
理由
上告代理人樋口和彦、同大谷豊、同平山知子及び同遠藤秀幸、上告人ら並びに上告補助参加人の各上告受理申立て理由について
1 本件は、司法書士法一四条に基づいて設立された司法書士会である被上告人が、阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の復興支援拠出金(以下「本件拠出金」という。)を寄付することとし、その資金は役員手当の減額等による一般会計からの繰入金と被上告人の会員から登記申請事件一件当たり五〇円の復興支援特別負担金(以下「本件負担金」という。)の徴収による収入をもって充てる旨の総会決議(以下「本件決議」という。)をしたところ、被上告人の会員である上告人らが、(1)本件拠出金を寄付することは被上告人の目的の範囲外の行為であること、(2)強制加入団体である被上告人は本件拠出金を調達するため会員に負担を強制することはできないこと等を理由に、本件決議は無効であって会員には本件負担金の支払義務がないと主張して、債務の不存在の確認を求めた事案である。
2 原審の適法に確定したところによれば、本件拠出金は、被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく、被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。
司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法一四条二項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして、三〇〇〇万円という本件拠出金の額については、それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると、その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。
そうすると、被上告人は、本件拠出金の調達方法についても、それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。これを本件についてみると、被上告入がいわゆる強制加入団体であること(同法一九条)を考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、また、本件負担金の額も、登記申請事件一件につき、その平均報酬約二万一〇〇〇円の0.2%強に当たる五〇円であり、これを三年間の範囲で徴収するというものであって、会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。したがって、本件決議の効力は被上告人の会員である上告人らに対して及ぶものというべきである。
3 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、いずれも採用することができない。
よって、裁判官深澤武久、同横尾和子の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
裁判官深澤武久の反対意見は、次のとおりである。
1 私は、本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものではなく、その調達方法についても、会員の協力義務を否定すべき特段の事情は認められないとし、また、被上告人が強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、会員に社会通念上過大な負担を課するものではない、とする法廷意見に賛同することができない。
その理由は次のとおりである。
2(1) 司法書士となる資格を有する者が司法書士となるには、その者が事務所を設けようとする地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域内に設立された司法書士会を経由して日本司法書士会連合会に登録をしなければならない(司法書士法六条一項、六条の二第一項)。登録をしないで司法書士の業務を行った場合は一年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金が定められている(同法一九条一項、二五条一項)。このように被上告人は、司法書士になろうとする者に加入を強制するだけでなく、会員が司法書士の業務を継続する間は脱退の自由を有しない公的色彩の強い厳格な強制加入団体である。
(2) このことは会員の職業選択の自由、結社の自由を制限することになるが、これは司法書士法が、司法書士の業務の適正を図り、国民の権利の保全に寄与することを目的とし(同法一条)、司法書士会が業務の改善を図るため会員の指導・連絡に関する事務を行う(同法一四条二項)という公共の福祉の要請による規制として許容されているのである。このように公的な性格を有する司法書士会は、株式会社等営利を目的とする法人とは法的性格を異にし、その目的の範囲も会の目的達成のために必要な範囲内で限定的に解釈されなければならない
(3) 被上告人も社会的組織として相応の社会的役割を果たすべきものであり、本件拠出金の寄付も相当と認められる範囲においてその権利能力の範囲内にあると考えられる。ところで、本件決議当時、被上告人の会員は二八一名で年間予算は約九〇〇〇万円であり、経常費用に充当される普通会費は一人月額九〇〇〇円でその年間収入は三〇三四万八〇〇〇円であるから、本件拠出金は、被上告人の普通会費の年間収入にほぼ匹敵する額であり、被上告人より多くの会員を擁すると考えられる東京会の五〇〇万円、広島会の一〇〇〇万円、京都会の一〇〇〇万円の寄付に比して突出したものとなっている。これに加えて被上告人は本件決議に先立ち、一般会計から二〇〇万円、会員からの募金一〇〇万円とワープロ四台を兵庫県司法書士会に寄付している。司法書士会設立の目的、法的性格、被上告人の規模、財政状況(本件記録によれば、被上告人においては、平成七年一月頃、同年度の予算編成について、会費の増額が話題になったこともうかがえる。)などを考慮すれば、本件拠出金の寄付は、その額が過大であって強制加入団体の運営として著しく慎重さを欠き、会の財政的基盤を揺るがす危険を伴うもので、被上告人の目的の範囲を超えたものである。
3(1) 被上告人は2(1)のような性格を有する強制加入団体であるから、多数決による決定に基づいて会員に要請する協力義務にも自ずから限界があるというべきである。
(2) 本件決議は、本件拠出金の調達のために特別負担金規則を改正して、従前の取扱事件数一件につき二五〇円の特別負担金に、復興支援特別負担金として五〇円を加えることとしたのであるが、決議に従わない会員に対しては、会長が随時注意を促し、注意を受けた会員が義務を履行しないときはその一〇倍相当額を会に納入することを催告するほか、会則に、ア 被上告人の定める顕彰規則による顕彰を行わない、イ 共済規則が定める傷病見舞金、休業補償金、災害見舞金、脱会一時金の共済金の給付及び共済融資を停止し、既に給付又は貸付を受けた者は直ちにその額を返還しなければならない、ウ 注意勧告を行ったときは、被上告人が備える会員名簿に注意勧告決定の年月日及び決定趣旨を登載することなどの定めがあり、また、総会決議の尊重義務を定めた会則に違反するものとして、その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に報告し(司法書士法一五条の六、一六条)、同法務局又は地方法務局の長の行う懲戒の対象(同条一二条)にもなり得るのである。
(3) 本件拠出金の寄付は、被上告人について法が定める本来の目的(同法一四条二項)ではなく、友会の災害支援という間接的なものであるから、そのために会員に対して(2)記載のような厳しい不利益を伴う協力義務を課することは、目的との間の均衡を失し、強制加入団体が多数決によって会員に要請できる協力義務の限界を超えた無効なものである
4 以上のとおり、本件決議は、被上告人の目的の範囲を逸脱し、かつ、本件負担金の徴収は多数決原理によって会員に協力を求め得る限界を超えた無効なものであるから、これと異なる原判決は破棄し、被上告人の控訴は理由がないものとして棄却すべきである。

+反対意見
裁判官横尾和子の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件拠出金を寄付することは被上告人の目的の範囲外の行為であると考える。その理由は、次のとおりである。
司法書士法一四条二項は、「司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。」と規定している。この定めは、基本的には、当該司法書士会の会員である同司法書士を対象とするものであるが、司法書士業務の改善進歩を図るために、被災した他の司法書士会又はその会員に見舞金を寄付することも、それが社会的に相当と認められる応分の寄付の範囲内のものである限り、司法書士会の権利能力の範囲内にあるとみる余地はある。しかしながら、原審が適法に確定した事実関係によれば、<1>本件決議がされた前後の被上告人の年間予算は約九〇〇〇万円であった、<2>本件決議以前に発生した新潟地震や北海道奥尻島沖地震、長崎県雲仙普賢岳噴火災害等の災害に対し儀礼の範囲を超える義援金が送られたことはない、<3>被上告人の会員について火災等の被災の場合拠出される見舞金は五〇万円である(共済規則一八条)というのであり、このような事実を考慮すると、後記のような趣旨、性格を有する本件の三〇〇〇万円の寄付は、社会的に相当と認められる応分の寄付の範囲を大きく超えるものであるといわざるを得ず、それが被上告人の権利能力の範囲内にあるとみることはできないというべきである。
原審が適法に確定した事実関係によれば、<1>本件決議の決議案の提案理由(平成七年二月一〇日ころ臨時総会の開催通知とともに被上告人の会員に送付された。)及び本件決議の行われた臨時総会議事録によれば、本件決議案の提案理由の中には、「被災会員の復興に要する費用の詳細は(中略)、最低一人当たり数百万円から千万円を超える資金が必要になると思われる。」との記載があり、被災司法書士事務所の復興に要する費用をおよそ三五億円とみて、その半額を全国の司法書士会が拠出すると仮定して被上告人の拠出金額三〇〇〇万円を試算していること等からすると、本件拠出金の使途としては、主として被災司法書士の事務所再建の支援資金に充てられることが想定されていたとみる余地がある、<2>本件拠出金については、その後、司法書士会又は司法書士の機能の回復に資することを目的とするものであるという性格付けがされていったとしても、前記のように試算した三〇〇〇万円という金額は変更されなかった、<3>本件拠出金の具体的な使用方法は、挙げて寄付を受ける兵庫県司法書士会の判断運用に任せたものであったというのであり、このような事実等によれば、本件拠出金については、被災した司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てんや見舞金の趣旨、性格が色濃く残っていたものと評価せざるを得ない。
よって、本件拠出金を寄付することが被上告人の権利能力の範囲内であるとして上告人らの請求を棄却した原判決はこれを破棄し、上記と同旨の第一審の判断は正当であるから、被上告人の控訴は理由がないものとして棄却すべきである。

++解説
一 事案の概要
1 本件は、司法書士会である被告(被上告人)がした、阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の復興支援拠出金を送金するために、被告の会員から登記申請一件当たり五〇円の復興支援特別負担金の徴収を行う旨の総会決議について、被告の会員である原告(上告人)らが、同決議は無効であると主張して、同決議に基づく債務の不存在確認を求めた事案である。
なお、司法書士会は、司法書士法一四条により、法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立が義務づけられている団体であり、司法書士会に入会している司法書士でない者は司法書士の業務を行ってはならないとされている(同法一九条一項)。
2 原告らの主張は、次のとおりである。
① 本件拠出金の支出は被告の目的の範囲外の行為であるから、本件決議は無効である。
② 義務なき行為を強制する本件決議は、強制加入の公益法人としてなし得る範囲を超えており、法律に基づかずに原告らの財産権を侵害するものであり、さらに、強制される者の思想・信条を害するものであるから、公序良俗に反し無効である。
3 一審の前橋地裁は、本件拠出金の支出は司法書士法一四条二項所定の司法書士会の目的の範囲外の行為であるなどとして、原告らの請求を認容した。これに対し、二審の東京高裁は、本件拠出金は、被災司法書士会・司法書士の業務の円滑な遂行を経済的に支援することにより、司法書士会・司法書士の機能の回復に資することを目的とするもので、その使途目的及び拠出方法の公的性格に着目していうならば、被告からの「公的支援金」ともいえるものであるとした上で、これを司法書士会の目的の範囲内の行為であると認め、多数決によりそれが決定された以上は、これに反対の意見をもつ会員にも協力義務があると判断して、一審判決を取り消し、原告らの請求を棄却した。
4 上告受理申立ての理由は、民法四三条、九〇条、司法書士法一四条二項等の解釈適用の誤り、判例違反などをいうものであった

二 本判決は、司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法一四条二項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきであるとして、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被告の権利能力の範囲内にあるというべきであるとした上で、被告がいわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、また、本件負担金の額も会員に社会通念上過大な負担を課するものではないから、本件負担金の徴収について公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められず、本件決議の効力は被告の会員である原告らに対して及ぶとして、本件上告を棄却した。
なお、本判決には、深澤裁判官及び横尾裁判官の各反対意見がある。深澤裁判官の反対意見は、本件拠出金の寄付は、被告の目的の範囲を超えるものであり、また、強制加入団体が多数決によって会員に要請できる協力義務の限界を超えた無効なものであるというものである。横尾裁判官の反対意見は、本件拠出金の寄付は被告の目的の範囲外の行為であるというものである。

三1 まず、本件拠出金の寄付は被告の目的の範囲内の行為であるか、という点については、法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)のであるが、その目的の範囲内の行為とは、定款等に目的として記載された個々の行為に限られるものではなく、その目的達成のために必要な行為についても、一定の範囲でこれに包含されるものと解するのが通説(我妻榮・新訂民法総則一五七頁等参照)であり、判例の基本的立場でもあるところ、本判決はこれと同旨をいうものである。司法書士法一四条二項に規定する「司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため」という目的の対象となるのは基本的には当該司法書士会の会員たる司法書士であるとしても、他の司法書士会又はその会員への支援によって司法書士全体の品位を保持し、その業務の改善進歩を図ること等は、自己の会員の品位を保持する等という目的の達成に資すると考えることもできるのであるから、被災した他の司法書士会又はその会員に対する支援も、それが、被災者の相談活動等を行う司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったという本件の事実関係の下においては、上記の目的達成に必要な行為として、被告の目的の範囲に含まれると解することができると考えられる。
ところで、司法書士会は、法律によってその設立が義務付けられた強制加入団体であって、その会員には実質的には脱退の自由が保障されていない。司法書士会のこのような法的性格は、税理士会等とよく似ている。そこで、「税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為である。」とした最三小判平8・3・19民集五〇巻三号六一五頁(南九州税理士会政治献金事件)との関係が問題となる。しかしながら、被災した司法書士会又は司法書士のために復興支援拠出金を支出することは、政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることとは性質の大きく異なる行為であると考えられる。すなわち、政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をするかどうかは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題であり、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人がその政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。これに対し、阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に対して復興支援拠出金を寄付することは、特定の政治的立場を支援するものではないのであるから、必ずしも会員各人がその個人的な思想等に基づいて自主的に決定しなければならない事柄ではなく、司法書士会が団体として決定することができる事柄であると考えられる。
この点に関して、同旨を述べるものとして、西原博史・法教二三四号別冊・セレクト’99(憲法)六頁、市川正人・ジュリ一一七九号一〇頁、甲斐道太郎・NBL六二五号五九頁、山田創一・山梨学院大学法学論集三九巻一八八頁、倉田原志・法セ五三九号一〇七頁等があり、反対の見解を述べるものとして、大野秀夫・判評四七四号四一号、渡辺康行・法教二一二号三六頁がある。また、参考となるその他の判例として、いわゆるスパイ活動防止法に反対する総会決議をすることが日弁連の権利能力の範囲内にあるとした東京高判平4・12・21自正四四巻二号九九頁及びその上告審判決である最二小判平10・3・13自正四九巻五号二一三頁、弁護士会は、警察官の特別公務員暴行陵虐被告事件につき、弁護士会自身として告発をし、付審判請求をする権能を有すると判示した最三小決昭36・12・26刑集一五巻一二号二〇五八頁、本誌一二六号五〇頁等がある。
2 次に、原告らは本件決議に従うべき義務を負うか、という点については、構成員個人の思想、信条の自由の観点から労働組合の構成員の協力義務に一定の限界を認めた最三小判昭50・11・28民集二九巻一〇号一六九八頁、本誌三三〇号二一三頁(国労広島地方本部事件)との関係が問題となる。この判例は、労働組合が、いわゆる安保反対闘争実施の費用として、又は公職選挙に際し特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金として、徴収する臨時組合費について、このような政治的要求に賛成するか反対するか、又は選挙においてどの政党を支持するかは、本来、組合員各人が市民としての個人の思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、組合員に対して協力を強制することはできないとしたものである。しかし、本件の復興支援拠出金の支出は、阪神大震災で被災した兵庫県司法書士会に対してされるものであり、政治的活動に対する積極的協力の強制や、一定の政治的立場に対する支持表明の強制などとは異なり、この拠出金について一定の負担を強制しても、会員個人の思想、信条等に関係する程度は軽微なものであるから、本件はこの判例とは事案を異にするものである。また、本件決議によって会員に課される負担が不当に重いものであるなどの事情もないのであるから、そのような観点からも、これへの協力を強制することが公序良俗違反になるとはいえない。
四 本判決の判示する内容は、特に目新しいものでないが、これまでに問題となった前記各判例の事例とは異なり、被災した他の司法書士会に対する寄付の当否が問題となったものであって、事例的な意義があり、また、二人の裁判官の反対意見が付されていることからも、注目されるべき判例であると考えられる。
なお、司法書士法は、本判決が言い渡された後の平成一四年五月七日に公布された同年法律第三三号(施行日平成一五年四月一日)によって改正され、一四条は、若干の修正の上五二条とされている。


民法択一 債権各論 契約総論 解除


・XがYに対して、不動産甲を期間10年で賃貸する契約において、期間の経過後、Xが、賃借権の無断譲渡を理由として賃貸借契約を解除したと主張して、不動産甲の返還請求をした場合、Yは、Xが解除権を長期にわたって行使せず、Yにおいてもはやその権利を行使されないものと信頼すべき正当の事由を有することを基礎付ける事実を抗弁として主張することができる!!!
+(判例S30.11.22)
上告代理人成富信夫の上告理由第一点について。
権利の行使は、信義誠実にこれをなすことを要し、その濫用の許されないことはいうまでもないので、解除権を有するものが、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと解するのを相当とする。ところで、本件において所論解除権が久しきに亘り行使せられなかったことは、正に論旨のいうとおりであるが、しかし原審判示の一切の事実関係を考慮すると、いまだ相手方たる上告人において右解除権がもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有し、本件解除権の行使が信義誠実に反するものと認むべき特段の事由があつたとは認めることができない。それ故、原審が本件解除を有効と判断したのは正当であつて、原判決には所論の違法はない。なお、論旨中には憲法二九条違反を主張しているけれども、その実質は、要するに民法上本件解除が許されないという見解に帰着するものであるから、違憲の論旨として採用することはできない。

・売買契約に基づく代金支払い請求訴訟において、被告が履行遅滞に基づく解除の抗弁を主張する場合、被告は催告以前に売買代金の提供をしたこと、または、目的物の引渡しを先履行とする合意の存在を主張立証する必要がある!!!
=売買契約の締結により目的物引渡債務に対して同時履行の抗弁権(533条)が付着していることが基礎付けられるので、履行遅滞解除を主張する者は、同時履行の抗弁権の発生生涯事実を主張立証する必要がある!

履行遅滞により契約を解除するための催告について、履行を請求する債務の同一性が認識できればよく金銭債務であっても金額を明示する必要はない!!!!

・催告の内容は、債務者に対して債務の履行を促すものであれば足り、履行がなければ解除する旨まで付け加える必要はない!!!

・賃貸借契約における賃料延滞を理由とする解除について、賃借人の給付すべき賃料より過大の額を示した過大催告がなされた場合でも、賃貸人が催告金額の全額でなければ受領を拒絶する意思のない限り、当該催告は無効とはならない!!!
+判例(S37.3.9)
上告代理人上原隼三の上告理由第一点について。
原審は、被上告人Aの延滞家賃額七、三五三円に対しこれを二九、九三〇円として催告した上告人の所論過大催告を無効とし、該催告に基く上告人の所論契約解除の主張を排斥しているが、右の無効をいうためには、上告人が右催告に当り前示催告額全額の提供を得なければその受領を拒絶する意思を有した点の認定判断が必要であるところ、原判示過大の程度を以てしては直ちに右受領拒否の意思を推認することはできないし、原判文上右の点の審理判断を尽した跡は見あたらない。原判決には、この点につき理由不備の違法あるものというべく、所論第一点中これを指摘する論旨は理由がある。

・賃貸借契約の継続中に、当事者の一方にその信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があった場合には、相手方は催告を要せず賃貸借契約を将来に向かって解除することができる。!!!
+(S27.4.25)
上告理由第一点について。
およそ、賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、賃貸借を将来に向つて、解除することができるものと解しなければならない、そうして、この場合には民法五四一条所定の催告は、これを必要としないものと解すべきである。
本件において原判決の確定するところによれば、被上告人は上告人に対し昭和一〇年九月二五日本件家屋を畳建具等造作一式附属のまゝ期間の定めなく賃貸したのであるが、上告人は昭和一三年頃出征し、一時帰還したこともあるが終戦後まで不在勝ちでその間本件家屋には上告人の妻及び男子三人が居住していたが、妻は職業を得て他に勤務し昼間は殆んど在宅せず、留守中を男子三人が室内で野球をする等放縦な行動を為すがまゝに放置し、その結果建具類を破壊したり、又これ等妻子は燃料に窮すれば何時しか建具類さえも燃料代りに焼却して顧みず、便所が使用不能となればそのまゝ放置して、裏口マンホールで用便し、近所から非難の声を浴びたり、室内も碌々掃除せず塵芥の推積するにまかせて不潔極りなく、昭和一六年秋たまたま上告人が帰還した時なども、上告人宅が不潔の故を以て隣家に一泊を乞うたこともあり、現に被上告人の原審で主張したごとき格子戸、障子、硝子戸、襖等の建具類(第一審判決事実摘示の項参照)は、全部なくなつており、外壁数ヶ所は破損し、水洗便所は使用不能の状態にある。そして、これ等はすべて、上告人の家族等が多年に亘つて、本件家屋を乱暴に使用した結果によるものであるというのである。(上告人主張の不可抗力の抗弁は原審は排斥している、)かつ、被上告人は上告人に対し、昭和二二年六月二〇日、一四日の期間を定めて、右破損箇所の修覆を請求したけれども、上告人がこれに応じなかつたことも、また、原判決の確定するところである。
とすれば、如上上告人の所為は、家屋の賃借人としての義務に違反すること甚しく(賃借人は善良な管理者の注意を以て賃借物を保管する義務あること、賃借人は契約の本旨又は目的物の性質に因つて定まつた用方に従つて目的物の使用をしなければならないことは民法の規定するところである)その契約関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為であるといわなければならない。従つて、被上告人は、民法五四一条の催告を須いず直ちに賃貸借を解除する権利を有するものであることは前段説明のとおりであるから、本件解除を是認した原判決は、結局正当である。論旨は、被上告人がした催告期間の当、不当を争うに帰著するものであるからその理由のないことは明らかである。

+ 藤田裁判官の補足意見
自分は本文の判旨に賛成するものではあるが、更に、本件第一審および原審の判断と同じように、被上告人のした本件解除は、民法五四一条の要件に適つたものとしても有効と解してよいのではないかと考える。すなわち、賃借人は契約又はその目的物の性質によつて定まつた用方に従いその物の使用をしなければならないことは民法六一六条、五九四条の規定するところであり、これに違反した場合、賃貸人はその違反行為の停止を請求し若し賃貸人がこれに応じないときは、賃貸人は民法五四一条に従つて賃貸借契約を解除することのできることは勿論であつて、本件の如く賃借人が原判決認定のように甚しく前記賃借人としての義務に違反し目的物を損壊して、そのまゝ使用を継続するがごとき場合には、賃貸人は右違反行為の停止を求め契約の本旨に適した使用を求める意味において目的物の損壊の修覆を請求する権利があり、賃借人はこれに応ずる義務があるものと解するを相当と思料する従つて本件において被上告人が相当の期間を定めて上告人に対し右義務の履行を求め上告人がこれに応じなかつたためにした本件被上告人の解除はこれを有効と解しなければならない。

+(履行遅滞等による解除権)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

+(使用貸借の規定の準用)
第616条
第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

+(借主による使用及び収益)
第594条
1項 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない
2項 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3項 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。

・履行期の定めのない債務の履行遅滞を理由とする解除の場合において、債務者を遅滞に付するための催告をした後は、さらに541条所定の催告をする必要はない!=債権者は、相手方に相当な期間を定めて履行を催告し、債務者を遅滞に付すると同時に、その期間内に履行のない場合には、契約を解除することができる!!

・履行すべき相当の期間内を定めない催告も有効であり、催告の後、客観的にみて相当な期間を経過すれば解除権が発生する!
+判例(S29.12.21)
上告代理人藤原一嘉の上告理由(後記)について。
所論一前段の主張である被上告人が残代金支払を昭和二三年八月一日まで猶予したということを前提とする論旨及び二後段の主張である本件不動産のうち家屋一棟は訴外人に所有権移転登記が完了しているから、その抹消登記手続を命ずる原判決は上告人に対し不能を命ずることとなり違法であるという論旨は、原審においてなんら主張せずまた原判決も判断をしなかつた事項であるから、適法な上告理由に当らない。また所論一後段の主張については、債務者が遅滞に陥つたときは、債権者が期間を定めずに催告をした場合でも、その催告から相当の期間を経過すれば解除できると解すべきことは、すでに大審院判例の趣旨とするところであり(大審院大正一五年(オ)第八八二号昭和二年二月二日判決、民集六巻一三三頁参照)今なおこの解釈を改めるの要を認めない。

・ABは、AがBに対し甲不動産を売却する旨の売買契約を締結したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。Bが、甲の引き渡しの履行を催告したにもかかわらず、履行がなされなかったことを理由とする解除の抗弁を主張する場合、Bは、催告の際に相当の期間を定めたことを主張立証する必要はない!!!!!!
←期間を定めないでした催告、不相当な期間を定めてした催告でも有効!=解除の抗弁の要件事実とはならない!

・催告の期間内に履行しないことを条件として催告と共にした解除の意思表示も有効である!!

・同一当事者間で形式上は2つの契約が締結されていた場合でも、それらを目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、いずれかの契約が履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないというような場合には、一方の契約の債務不履行を理由としてその契約のみならず他方の契約をも解除することが可能である!!!!

+判例(H8.11.12)
上告代理人齋藤護の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、不動産の売買等を目的とする株式会社であり、兵庫県佐用郡に別荘地を開発し、いわゆるリゾートマンションである佐用コンドミニアム(以下「本件マンション」という)を建築して分譲するとともに、スポーツ施設である佐用フュージョン倶楽部(以下「本件クラブ」という)の施設を所有し、管理している。
2(一) 上告人らは、平成三年一一月二五日、被上告人から、持分を各二分の一として、本件マンションの一区分である本件不動産を代金四四〇〇万円で買い受け(以下「本件売買契約」という)、同日手付金四四〇万円を、同年一二月六日残代金を支払った。本件売買契約においては、売主の債務不履行により買主が契約を解除するときは、売主が買主に手付金相当額を違約金及び損害賠償として支払う旨が合意されている。(二)上告人Aは、これと同時に、被上告人から本件クラブの会員権一口である本件会員権を購入し(以下「本件会員権契約」という)、登録料五〇万円及び入会預り金二〇〇万円を支払った。
3(一) 被上告人が書式を作成した本件売買契約の契約書には、表題及び前書きに「佐用フュージョン倶楽部会員権付」との記載があり、また、特約事項として、買主は、本件不動産購入と同時に本件クラブの会員となり、買主から本件不動産を譲り受けた者についても本件クラブの会則を遵守させることを確約する旨の記載がある。(二)被上告人による本件マンション分譲の新聞広告には、「佐用スパークリンリゾートコンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)」との物件の名称と共に、本件マンションの区分所有権の購入者が本件クラブを会員として利用することができる旨の記載がある。(三)本件クラブの会則には、本件マンションの区分所有権は、本件クラブの会員権付きであり、これと分離して処分することができないこと、区分所有権を他に譲渡した場合には、会員としての資格は自動的に消滅すること、そして、区分所有権を譲り受けた者は、被上告人の承認を得て新会員としての登録を受けることができる旨が定められている。
4(一) 被上告人は、本件マンションの区分所有権及び本件クラブの会員権を販売するに際して、新聞広告、案内書等に、本件クラブの施設内容として、テニスコート、屋外プール、サウナ、レストラン等を完備しているほか、さらに、平成四年九月末に屋内温水プール、ジャグジー等が完成の予定である旨を明記していた。(二)その後、被上告人は、上告人らに対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げるとともに、完成の遅延に関連して六〇万円を交付した。上告人らは、被上告人に対し、屋内プールの建設を再三要求したが、いまだに着工もされていない。(三)上告人らは、被上告人に対し、屋内プール完成の遅延を理由として、平成五年七月一二日到達の書面で、本件売買契約及び本件会員権契約を解除する旨の意思表示をした。

二 本件訴訟は、(1)上告人らがそれぞれ、被上告人に対し、本件不動産の売買代金から前記の六〇万円を控除し、これに手付金相当額を加えた金額の半額である各二三九〇万円の支払を、(2)上告人Aが、被上告人に対し、本件会員権の登録料及び入会預り金の額である二五〇万円の支払を請求するものである。
原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人らの請求をいずれも棄却した。すなわち、(一)本件不動産と本件会員権とは別個独立の財産権であり、これらが一個の客体として本件売買契約の目的となっていたものとみることはできない。(二)本件のように、不動産の売買契約と同時にこれに随伴して会員権の購入契約が締結された場合において、会員権購入契約上の義務が約定どおり履行されることが不動産の売買契約を締結した主たる目的の達成に必須であり、かつ、そのことが不動産の売買契約に表示されていたときは、売買契約の要素たる債務が履行されないときに準じて、会員権購入契約上の義務の不履行を理由に不動産の売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。(三)しかし、上告人らが本件不動産を買い受けるについては、本件クラブの屋内プールを利用することがその重要な動機となっていたことがうかがわれないではないが、そのことは本件売買契約において何ら表示されていなかった。(四)したがって、屋内プールの完成の遅延が本件会員権契約上の被上告人の債務不履行に当たるとしても、上告人らがこれを理由に本件売買契約を解除することはできない。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 前記一4(一)の事実によれば、本件クラブにあっては、既に完成しているテニスコート等の外に、その主要な施設として、屋外プールとは異なり四季を通じて使用の可能である屋内温水プールを平成四年九月末ないしこれからそれほど遅れない相当な時期までに完成することが予定されていたことが明らかであり、これを利用し得ることが会員の重要な権利内容となっていたものというべきであるから、被上告人が右の時期までに屋内プールを完成して上告人らの利用に供することは、本件会員権契約においては、単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部であったといわなければならない。
2 前記一3の事実によれば、本件マンションの区分所有権を買い受けるときは必ず本件クラブに入会しなければならず、これを他に譲渡したときは本件クラブの会員たる地位を失うのであって、本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とは密接に関連付けられている。すなわち、被上告人は、両者がその帰属を異にすることを許容しておらず、本件マンションの区分所有権を買い受け、本件クラブに入会する者は、これを容認して被上告人との間に契約を締結しているのである。
このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。 
3 これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。

四 したがって、上告人らが本件売買契約を解除することはできないとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決は正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。

++解説
三 まず問題になるのは、本件会員権契約の上で屋内プールの建設がYの債務となっているかどうか(Yは、この点も争っていた)、債務であるとしてそれが付随的義務ではなく要素たる債務であるかどうかである。これがいずれも肯定されなければ、本件会員権契約だけの解除すら認められないということになる。
屋内プールの建設は契約書に明記された義務となっていたわけではないが、新聞広告の記載内容等の本判決がその一4(一)に摘示する事実によれば、本件会員権契約において、スポーツクラブの重要な施設である屋内プールを建設し、これを会員の使用に供することは、Yの債務となっていたと考えるのが当然であろう。
履行遅滞を理由として民法五四一条により契約を解除するには、その債務が付随的義務ではなく、要素たる債務でなければならない(大判昭13・9・30民集一七巻一七七五頁、最三小判昭36・11・21民集一五巻一〇号二五〇七頁、通説)。ただし、外見上は契約の付随的約款で定められている義務の不履行であっても、その不履行が契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるときは、この債務は契約の要素たる債務であり、これを理由に契約を解除することができるとするのが、判例である(最二小判昭43・2・23民集二二巻二号二八一頁)。すなわち、要素たる債務であるか付随的義務であるかは、契約の外見・形式によっては決まらず、その不履行があれば契約の目的が達成されないような債務は、付随的義務ではなく、要素たる債務であるということになる(浜田稔「付随的債務の不履行と解除」契約法大系Ⅰ三一五頁以下ほか。なお、星野英一・民法概論Ⅳ七五頁以下も参照)。この基準によれば、スポーツクラブというものの特質を考えると、屋内プールを建設して会員の使用に供するというYの債務は、要素たる債務であると考えられる。本判決は、その三1において、まずこのことを判示している。

四 次に問題になるのは、会員権契約上の債務不履行(履行遅滞)を理由として売買契約を解除することができるかということであり、本判決の判例要旨とされた点である。
この両契約が、二個の契約ではなく、実は不動産の売買契約にスポーツクラブの入会契約の要素が付加された一個の混合契約であるとすれば、屋内プールを建設して会員の使用に供するというYの債務は、この混合契約においても要素たる債務であるといえるであろうから、Xらは契約の全体を解除することができるということになる。本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とが前記のように密接に関連付けられていることからすれば、一個の混合契約であると見ることが全く不可能というわけでもない。しかし、本件クラブの施設は、本件マンションの共用施設となっているわけではなく、マンションそのものの区分所有権とは別個に、本件クラブに入会することによって初めてこれを使用し得ることになるのであるから、両者は密接に関連付けられているものの、二個の独立した契約であると見るのが相当であろう。本判決は、正面からこれについて論じていないが、両者が二個の独立した契約であることを前提として、前記の問題を論じている。
そこで、両者が二個の独立した契約であっても、一方の契約上の債務不履行(履行遅滞)を理由として他方の契約を解除することができるかという問題になるのであるが、民法五四一条は一個の契約を想定した条文であると考えられ、学説上もこの問題はほとんど論じられていなかったようである(多少参考になる裁判例として、不動産の小口持分の売買とその持分の賃貸借の契約に関する東京地判平4・7・27判時一四六四号七六頁、金法一三五四号四六頁、その控訴審東京高判平5・7・13金法一三九二号四五頁、これらの評釈として星野豊「不動産小口化商品の解約」ジュリ一〇六七号一三一頁がある。)。
しかし、契約解除の可否という観点から同一当事者間の債権債務関係を見る場合に、その間の契約の個数が一個であるか二個以上であるかは、それほど本質的な問題であるとはいえないであろう。形式的にはこれが二個以上の契約に分解されるとしても、両者の目的とするところが有機的に密接に結合されていて、社会通念上、一方の契約のみの実現を強制することが相当でないと認められる場合(一方のみでは契約の目的が達成されない場合)には、民法五四一条により一方の契約の債務不履行を理由に他方の契約をも解除することができるとするのが、契約当事者の意識にも適合した常識的な解釈であると思われる。
本判決は、「要旨一」のとおりの法理を説示して右の問題を肯定した。そして、民法五四一条をこのように解する場合には、原判決のように契約解除の可否を動機の表示の有無に懸からせることも相当ではないから、本件においても、その表示の有無にかかわらず、屋内プールの完成の遅延というYの履行遅滞を理由に、Xらは、民法五四一条により本件売買契約を解除することができるとして、原判決を破棄し、Yの控訴を棄却したのである。

五 本判決は、常識的な内容を説示するものではあるが、基本的である割には先例の乏しい法律問題について最高裁が法理を示したものとして、その意義は少なくないものと思われる。

・履行不能を理由とする解除の場合において、債務者の帰責事由によらない不能であっても、債権者が解除権を有する場合がある!!
債務者の責めに帰すべき事由によって履行期を徒過した後の不能の場合は債権者は解除権を有する!!!
+(履行不能による解除権)
第543条
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない

・解除原因を明示しないで行った解除の意思表示も有効である!!!
←契約解除の意思表示に解除原因を明示することを必要とする理由はない

・契約を解除すると契約の効力は遡及的に消滅することになるが、民法上、明文により解除の効果が訴求しないことが規定されている契約類型がある!
=賃貸借、雇用、委任及び組合といった継続的契約においては、解除は将来に向かってのみその効力を生ずる!

・直接効果説によれば、解除により契約が遡及的に消滅するから、解除前に目的物と権利関係を有するに至った者もその目的物に対する権利を失うことになるため、その者を保護することを目的として、545条1項ただし書きが解除の遡及効を制限していると解することになる。
第三者が同項ただし書きにより保護されるためには登記を具備しなければならない!!!!!

・解除後に不動産を買い受けたCは、登記を経由しなければAにその所有権の取得を対抗することはできない!
←あたかもBからA、BからCへと二重譲渡があったのと同様に見て、177条を適用するとしている。

+判例(S33.6.14)
上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及び第三点について。
原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人Aは自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人Bに売り渡し、上告人Bは同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつても民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上告人が上告人Bに代位して上告人Aに対し上告人B名義に本件土地の前示売買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とした被上告人の上告人Bに対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞれ容認したものであることは、判文上明らかである。
思うに、いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない(右合意解約の結果上告人Bは本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人Aにこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、上告人Aは被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従つて原判示の如く被上告人は上告人Aに対し自己の登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判決は上告人Bが上告人Aに対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、上告人Aが被上告人に対し右売買契約は上告人Bとの間の合意解約によつてすでに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。けだし上告人Aとしては上告人Bから前示移転登記手続方を直接に請求された場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人Bに代位して移転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審以来主張している事情の立証されたときは格別である。
以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告はその理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。

・545条1項ただし書きの「第三者」とは、解除の対象となった契約により給付された物につき、解除前に新たな権利を取得した者を指し、契約により発生した債権を譲り受けた者は「第三者」にはあたらない。

・契約当事者が、解除によって金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない!!!!
+(解除の効果)
第545条
1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

・売主が他人の動産を売買の目的とした場合において、売主が当該動産を買主に引き渡したが、売主が当該動産の所有権を買主に移転することができず、そのことを理由として買主が売買契約を解除したときは、買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間に当該動産を使用したことによる利益を売主に返還する義務を負う!!!!
+判例(S51.2.13)
同三について
原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。
中古自動車の販売業者である上告人は、訴外Aから買い受けた本件自動車を、昭和四二年九月四日被上告人に転売し、被上告人は、同日代金五七万五〇〇〇円全額を支払つてその引渡を受けた。ところが、本件自動車は、訴外いすず販売金融株式会社(以下「訴外会社」という。)が所有権留保特約付で割賦販売したものであつて、その登録名義も訴外会社のままであり、Aは、本件自動車を処分する権限を有していなかつた。そして、訴外会社が、留保していた所有権に基づき、昭和四三年九月一一日本件自動車を執行官の保管とする旨の仮処分決定を得、翌一二日その執行をしたため、本件自動車は、被上告人から引き揚げられた。被上告人は、右仮処分の執行を受けて、はじめて本件自動車が上告人の所有に属しないものであることを知り、上告人に対し、民法五六一条の規定により、同年一二月二二日限り本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
右事実によると、上告人が、他人の権利の売主として、本件自動車の所有権を取得してこれを被上告人に移転すべき義務を履行しなかつたため、被上告人は、所有権者の追奪により、上告人から引渡を受けた本件自動車の占有を失い、これを上告人に返還することが不能となつたものであつて、このように、売買契約解除による原状回復義務の履行として目的物を返還することができなくなつた場合において、その返還不能が、給付受領者の責に帰すべき事由ではなく、給付者のそれによつて生じたものであるときは、給付受領者は、目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わないものと解するのが相当である。これと同旨と解される原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二及び四について
売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法五六一条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。
けだし、解除によつて売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかつたと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり、売主が、目的物につき使用権限を取得しえず、したがつて、買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあつたとしても、このことは右の結論を左右するものではないと解するのが、相当だからである。
そうすると、他人の権利の売主には、買主の目的物使用による利得に対応する損失がないとの理由のみをもつて、被上告人が本件自動車の使用利益の返還義務を負わないとした原審の判断は、解除の効果に関する法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右使用利益の点について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが、相当である。

+(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第561条
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。

・不動産売買契約に基づいて目的物の引渡しを受けていた買主が、解除までの間に目的物を使用収益して得た利益を売主へ返還する義務は、原状回復義務に基づく一種の不当利得返還義務(×不法占有に基づく損害賠償義務)である。!!

+判例(S34.9.22)
上告代理人森信一の上告理由は末尾記載のとおりである。原審が、本件催告に示された残代金額は金三七五〇〇〇円であり、真の残代金債務金三二五〇〇〇円を超過すること五〇〇〇〇円なる旨認定していることは所論のとおりである。しかし、この一事によつて、被上告人は催告金額に満たない提供があつてもこれを受領する意思がないものとは推定し難く、その他かかる意思がないと推認するに足りる事情は原審の認定しないところであるから、本件催告は、たとえ前記の如く真の債務額を多少超過していても、契約解除の前提たる催告としての効力を失わないものと解すべきである。

次に、原判決の確定するところによると、被上告人は、本件売買契約から約二週間後に支払を受ける約であつた本件残代金につき、履行期到来後再三上告人に支払を求めたが応じないので、遂に履行期から四ケ月余をを経て改めて本件催告に及んだというのである。このような事実関係のもとでは、たとえ三十万円をこえる金員の支払につき定めた催告期間が三日にすぎなくても、必ずしも不相当とはいい難い

更に、特定物の売買により買主に移転した所有権は、解除によつて当然遡及的に売に復帰すると解すべきであるから、その間買主が所有者としてその物を使用収益した利益は、これを売主に償還すべきものであること疑いない(大審院昭一)一・五・一一言渡判決、民集一五卷一〇号八〇八頁参照)。そして、右償還の義務の法律的性質は、いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならないのであつて、不法占有に基く損害賠償義務と解すべきではない。ところで、被上告人の本訴における事実上及法律上の陳述中には、不法占拠若しくは損害金というような語が用いられているけれども、その求めるところは前記使用収益による利益の償還にほかならない部分のあることが明らかであるから、その部分の訴旨を一種の不当利得返還請求と解することは何ら違法ではない。
けだし、被上告人は、不当利得返還請求権と損害賠償請求権の競合して成立すべき場合に後者を主張したわけではなく、本来不当利得返還請求権のみが成立すべき場合に、該権利を主張しながら、その法律的評価ないし表現を誤つたにすぎないからである。
されば、以上の諸点に関する原審の判断はすべて正当なるに帰し、これらの点に関する所論はすべて理由がない。その他の論旨は、原審の適法な事実認定を争うのでなければ、原判示にそわない事実又は原審において主張立証しなかつた事実を前提として原判決を非難し、或は、独自の見解に立脚して原審の正当な判断を攻撃するものであつて、採用のかぎりでない。

・解除権の行使につき期間の定めがない場合、相手方が解除権を有する者に対して、相当の期間を定めて、その期間内に解除するかどうかを確答するように催告をなし、その期間内に解除権者から解除の通知を受けなかった場合は、解除権は消滅する!!!
+(催告による解除権の消滅)
第547条
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。

・特定物を目的物とする売買契約が締結され、買主に目的物が引き渡された後、買主が過失により目的物を紛失してしまった場合、その目的物に隠れた瑕疵があったとしても、買主は当該契約を解除することはできない!!!
+(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第548条
1項 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。
2項 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。

・解除権が発生した後、それを行使するまでの間に、債務者が本来の給付と遅延損害金を合わせて提供したときは、解除権は消滅する!!!!
=売主が買主に対して催告をして相当の期間が経過したとしても、売主が売買契約の解除の意思表示をする前に、買主が代金と遅延損害金を提供した場合には、売主は契約の解除をすることができない!!!

・合意解除前の第三者についても、545条1項ただし書きの類推適用により保護されうる!!!!
法定解除の場合と同様に、第三者は登記がなければ所有権を主張することができない!!!
+判例(S33.6.14)
上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及び第三点について。
原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人Aは自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人Bに売り渡し、上告人Bは同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつても民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上告人が上告人Bに代位して上告人Aに対し上告人B名義に本件土地の前示売買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とした被上告人の上告人Bに対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞれ容認したものであることは、判文上明らかである。
思うに、いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない(右合意解約の結果上告人Bは本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人Aにこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、上告人Aは被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従つて原判示の如く被上告人は上告人Aに対し自己の登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判決は上告人Bが上告人Aに対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、上告人Aが被上告人に対し右売買契約は上告人Bとの間の合意解約によつてすでに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。けだし上告人Aとしては上告人Bから前示移転登記手続方を直接に請求された場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人Bに代位して移転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審以来主張している事情の立証されたときは格別である。
以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告はその理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。


民法択一 債権各論 契約総論 契約存続中の関係 その2


・Xは、Yに対して不特定物であるプリンターを売却し、入荷次第XがY宅に持参する契約を締結したところ、Xがプリンターを持参する前にXの店が第三者の放火によりプリンターごと焼失した場合、Xの引渡債務もYの代金支払債務も消滅しない!!!
←Xの債務は持参債務である。持参債務の目的物の特定(401条2項)のためには、目的物を履行地に持参して提供することが必要となる!本件では通知したにすぎず、目的物が特定していないので、債務者は依然として履行義務を負う!
+(種類債権)
第401条
1項 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2項 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする

・第三者のためにする契約においては、第三者の受益の意思表示は契約の成立要件とはならない!!=受益者の権利の発生要件に過ぎない!
+(第三者のためにする契約)
第537条
1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2項 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する

・XY間の契約において、X所有の不動産をZに譲渡する旨を約した。この場合、Zが、受益の意思表示をしたときに所有権は移転する。所有権移転のために受益者と諾約者との間で契約を締結することまでは必要ない。

・胎児を受益者とする第三者のための契約も有効である!!!!!
+判例(S37.6.26)
同第二点について。
上告人と被上告人先代Aとの間に成立した判示契約における大本教本部とは、当時官憲の弾圧に因り潰滅の状態にひんしていた大本教が、将来再興した場合の本部即ち本件の宗教法人愛善苑を指すものであることは、原判文上明らかであり、またいわゆる第三者のためにする契約において、その第三者はたとい契約の当時に存在していなくても、将来出現するであろうと予期した者をもつて第三者となした場合でも足りるものと解すべきであるから(大審院大正七年(オ)第六五一号、同年一一月五日判決、民録二一三一頁参照)、右判示契約の場合にあつても、右契約の当時前記宗教法人愛善苑が存在していなくても、何等右契約の成立は左右されないものといわねばならぬ。原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

・Aが宝石をBに売り、代金の支払いに代えて、BがCに対して有する債権を放棄するとの契約を締結した場合、Cが受益の意思表示をすれば、BのCに対する債務免除の意思表示を要せずに、Cの債務は消滅する!!!
+解説もほしいい

・Aが宝石をBに売り、代金は、BがCに対して負っている借入金債務を弁済するため、BがCに支払うとの契約を締結した場合、既にDがCに対する債務を弁済していたときは、Cが受益の意思表示をした後であれば、Aは、Bとの契約を合意解除することはできない!!!←AC間の原因関係は契約の内容とはならず、第三者のためにする契約は有効に成立する!!
+解説ほしいいいい

+(第三者の権利の確定)
第538条
前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。

・要約者をX、諾約者をY、受益者をZとする第三者のためにする契約において、Zが受益の意思表示をした後においては、XYは、Zの権利の内容を変更することはできない!!!

・要約者をX、諾約者をY、受益者をZとして、YがZに不動産甲を引き渡す契約において、Zが受益の意思表示をした後に、Yに対して甲の引渡し請求をした場合、Yは、Zが受益の意思表示をする前に、XY間で、目的物を不動産乙に変更したとの合意を抗弁として主張することができる!!!

・諾約者が履行の提供をしない場合、第三者の受益の意思表示前でも、諾約者は要約者に対して遅滞の責任を負う!!!!!

・諾約者が履行の提供をしない場合、第三者の受益の意思表示前でも、諾約者は第三者に対して遅滞の責任を負わない!!!!
←第三者が履行請求権を取得するためには、第三者による受益の意思表示が必要であるから!!
+(第三者のためにする契約)
第537条
1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2項 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

・第三者のためにする契約の受益者は、契約の当事者ではないから、瑕疵担保責任に基づく解除権(570条・566条1項)を有しない!!!!ナントオオオオオオオオ
=Aが自動車をBから買い、その自動車をBからCに引き渡すとの契約を締結した場合、Cが引渡しを受けた当該自動車に隠れた瑕疵があったときでも、Cは、AB間の売買契約を解除することはできない!!!!!

・Aが宝石をBに売り、その代金をBがCに支払うとの契約を締結し、Cが受益の意思表示をした場合、BがAの詐欺を理由にこの契約を取り消したとき、CがAの詐欺について善意無過失であったとしても、Bは詐欺取消しをCに対抗することができる!!
←539条。また、受益者は96条3項の「第三者」には当たらない。
+(債務者の抗弁)
第539条
債務者は、第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。

+(詐欺又は強迫)
第96条
1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

・Aが宝石をBに売り、その代金をBがCに支払うとの契約を締結し、Cが受益の意思表示をした場合、Aが宝石をBに引き渡したが、Bが代金をCに支払わないときは、CはBに対して代金を事故に支払うよう請求することができる。AもBに対して代金をCに支払うように請求することができる!!
+(第三者のためにする契約)
第537条
1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する
2項 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

・要約者X、諾約者Y、受益者Zとする第三者のためにする契約において、Zが受益の意思表示をした後においても、XはYに対してZへの履行を求めることができる!!
←第三者のためにする契約の当事者(要約者と諾約者)の間においては、通常の契約と同様の権利義務が発生→受益の意思表示によっても、要約者が諾約者に対して受益者への履行を求める権利を失うことはない!!

・XY間で特定物の売買契約が締結され、売主YがZに目的物を引渡すことを約した場合、Zが受益の意思表示をした後においても、YはZからの履行請求に対し、Xの代金の提供がないことを理由に、同時履行の抗弁を主張することができる!!
+(債務者の抗弁)
第539条
債務者は、第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。

・契約により相手方以外の第三者に対してある給付をすることを約した者が、相手方の詐欺を理由にこれを取り消す場合において、既に第三者が受益の意思表示をしていたときは、その取消しは、当該契約の相手方に対して行う(×第三者に対して)!!!!
+(取消し及び追認の方法)
第123条
取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。


民法択一 債権各論 契約総論 契約存続中の関係 その1


・甲は乙との間で、乙の保管している特定物である壺の売買契約を締結したが、契約締結前に地震により壺は減失していた。乙は甲に対し、壺の売買代金の支払いを請求することはできない!!←甲乙間の売買契約は、原始的不能のため無効!

・売買契約に基づく代金の支払請求に対し、被告が目的物の引き渡しをするまで代金の支払いを拒絶するという権利主張を同時履行の抗弁として主張する場合、被告は相手方の債務が履行期にあること、相手方が債務の履行又はその提供をしないことを主張立証する必要はない!!!!!
←売買契約において債務の履行期限は付款であることから、被告が抗弁において、目的物引渡債務の履行期の定め及びその到来を主張立証する必要はない!!また、原告が目的物引渡債務の履行又はその提供をしたことは、原告が再抗弁として主張立証。

・上記場合、被告は目的物引渡債務と代金支払債務とが同時履行の関係にあることを基礎づける売買契約の締結の事実を合わせて主張立証しなくてもよい!!!
←請求原因で売買契約締結の事実が主張立証された時点で、同時履行の抗弁権の存在は既に基礎づけられている!

・AはBに対し甲動産を売却したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。AがBの同時履行の抗弁権に対し、AB間において代金支払いの10日後に甲動産を引き渡す旨の合意をしたと主張すると、再抗弁になる!!!←同時履行の抗弁権が認められる要件としては、相手方の債務が履行期にあることが必要である。そして、先履行の合意の存在は、533条ただし書きの再抗弁となる!
+(同時履行の抗弁)
第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない

・売買代金支払請求訴訟において、被告の同時履行の抗弁権が認められた場合、裁判所は引換給付判決をするべきである(×請求棄却)

・双務契約の相手方に履行の請求をする者が、自己の債務の履行を提供していない場合において、請求を受けた者が同時履行の抗弁権を主張していないときは、裁判所は同時履行の抗弁権を認めて引換給付判決をすることはできない!!!!!!=当事者が抗弁権を訴訟上行使しなければならない!!

・相互の債務が同時履行の関係にある場合、履行期を経過していれば解除者は自己の債務について給付の提供をせずには、催告をして履行遅滞による解除をすることはできない!!!
+判例(S29.7.27)
同理由第一点について。
しかし、原判決の認定したところによれば、本件売買代金三十万円の支払については、昭和二六奪二月二十三日被上告人は内金として既に支払つた金八万円のほか更に金五万円を上告人に支払ひ、同年三月中までに、被上告人において訴外飯塚信用組合に対する上告人の債務を弁済し、抵当権設定登記の抹消を済ませた後、残代金の支払と引換に、本件建物につき、被上告人名儀に所有権移転登記を受けると共に、その明渡並に動産の引渡を受けることに話が決まり、被上告人はこの約定に基き、同年三月十日、右信用組合に対する上告人の債務金六万四千円を支払ひ、同月十六日建物抵当権設定登記の抹消登記を済ませ(上告人が被上告人より本件売買代金の内金として、前記信用組合に対する債務弁済金を含め、合計金十九万四千円の支払を受けたことは争がない)たものであるというのである。
してみれば、本件においては、売買の残代金支払と所有権移転登記、建物明渡並に動産引渡とは同時履行の関係にあるものと言うべきであり、反対給付の提供なき上告人の右残代金支払の催告は被上告人を遅滞に陥らしあるに足らず、従つてこの催告に基く解除は効力を生じ得ないものである。されば、この点に関する原判示は正当であり、所論のような解除に関する法律の適用を誤つた違法もなく、審理不尽もない、論旨は理由がない。

・同時履行の抗弁権が存在することが履行遅滞の違法性を阻却するとの見解によると、同時履行の抗弁権を有する者は、自己の債務を履行しないまま履行期を渡過しても、債務不履行責任を負わない!!!←同時履行の抗弁権に基づいて債務の履行をしないことは違法ではないので、「債務の本旨に従った履行をしないとき」には当たらない!
+(債務不履行による損害賠償)
第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

・同時履行の抗弁権が、双務契約から生じた対価的な債務間で生じる抗弁権であるのに対し、留置権の被担保債権は、物に関して生じたものであれば足り、契約から生じたものに限られない!!

同時履行の抗弁権は、原則として契約当事者でのみ行使し得るのに対し、留置権は、契約当事者以外の者に対しても行使し得る!!!

・売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟において、被告は同時履行の抗弁を主張することができる!!!=不動産売買契約における売主の登記協力義務と買主の代金支払債務は同時履行の関係に立つ!!!!!

・売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟において、被告は留置権の抗弁を主張することはできない!!!!=登記は有体物ではないから!!!!
+判例(S52.12.8)
上告代理人片岡成弘の上告理由一について
所論上告人の昭和五二年二月四日付準備書面の記載は、「上告人の主張は従来からの主張どおりであつて、被上告人が上告人に対し、無条件で建物明渡し、及び所有権移転登記手続を請求することは許されない。」というのであり、本件記録に徴すると、従来の主張とは上告人の本件建物買取請求権行使に基づく留置権の抗弁を指すものであり、上告人は、被上告人が右建物買取請求に応じて従前の本件建物収去本件土地明渡の請求を本件建物明渡及び本件建物につき所有権移転登記手続の請求に変更したのに対し、変更された請求についても留置権の抗弁を維持する旨を右準備書面によつて主張したものであることが明らかである。右事情のもとにおいては、原審が、有体物である本件建物について留置権の成立を認め、本件建物明渡を求める請求部分についてのみ建物買取代金の支払と引換えにこれを認容し、有体物とはいえない登記に関する請求部分については、無条件でこれを認容したことは正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二について
建物買取請求権を行使した者は、同請求権行使後、当該建物の占有によりその敷地を占有している限り、敷地の賃料相当額を敷地占有に基づく不当利得として敷地所有者に返還すべき義務を負うものと解すべきところ(大審院昭和一〇年(オ)第二六七〇号同一一年五月二六日判決・民集一五巻九九八頁、最高裁判所昭和三三年(オ)第五一八号同三五年九月二〇日第三小法廷判決・民集一四巻一一号二二二七頁参照)、原判決は、上告人が、本件建物買取請求権行使の翌日以降、本件建物の敷地である本件土地賃料相当額だけでなく、これを含む本件建物賃料相当額を不当利得として被上告人に返還すべき義務を負うかのごとき判断を示した点において、措辞妥当を欠くが、原審が上告人に対し不当利得として返還することを命じたのは、本件土地賃料とその額を同じくする一か月一三五〇円の割合による額であり、原審は結局被告に対し本件建物の敷地である本件土地賃料相当額を不当利得として返還することを命じたものにすぎないから、原審のこの判断は結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、採用することができない。

債務の履行期限の合意は付款であるから、被告が同時履行の抗弁を主張する場合は、被告は代金支払債務の履行期限の合意及びその起源の到来を主張立証する必要はない!!

・留置権を主張する場合、295条1項ただし書きに基づいて被担保債権に弁済期の約定があることが再抗弁になるので、被告は履行期限の合意及びその起源の到来を主張立証する必要はない!!
+(留置権の内容)
第295条
1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

・留置権者が留置権の被担保債権を譲渡した場合、留置権者は、留置権を主張することはできなくなる。

・債権者が債権を譲渡したとしても、債務者は、債権者に対して主張することができた同時履行の抗弁権を譲受債権者に主張することができる!!
+(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条
1項 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2項 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる

・債務者は、相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができるが、同時履行の抗弁権についてはこのような制度はない!!
+(担保の供与による留置権の消滅)
第301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

・ビール10ダースの売買契約において、売主が5ダースだけを引渡した場合、買主は代金の半額についてのみ同時履行の抗弁権を行使することができる!!!!!!!
←債務の履行が不完全な場合、それが一部のみの履行であることが明確であり、かつ、対価関係にある債務も可分であるときは、履行のなされた範囲でのみ支払い義務がある!!!!!

・契約の解除の効果として当事者双方に生ずる原状回復義務は同時履行の関係に立つ!明文あるよ!
+(契約の解除と同時履行)
第546条
第533条の規定は、前条の場合について準用する。

+(同時履行の抗弁)
第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

・売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、当事者双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ!!!=533条の類推
+判例(S47.9.7)
上告代理人猪股喜蔵、同井口英一の上告理由第一点について。
原審の適法に確定したところによれば、上告人は、昭和三九年六月八日その代理人訴外Aを介して被上告人に対し、上告人所有の本件土地を代金八五〇万円で売り渡したが、その経過はつぎのとおりであつた。すなわち、Aは、上告人に対し、「土地を売つてその代金を金融に回わし、その利息収入によつて気楽に暮した方がよい。金融については協力する。」旨申し向けたところ、上告人はAの言にうごかされ、両名の間で、土地売却代金はこれをAが預つて他に融資し、利殖の途を講ずることに意見が一致した。ところが、Aの真意は、売却代金中少なくとも二五〇万円はこれを自己の被上告人に対する借金の返済に利用することにあつたのであつて、そのために上告人を欺罔して本件土地の売買契約を締結させようと企てたのである。したがつて、上告人は、Aの右意図を知つていたならば、右土地を売却する意思は全くなかつたのであるが、Aの言を信じ、同人がその代金全額を自己のために運用利殖してくれるものと誤信して、同人を代理人として被上告人と右売買契約を締結するにいたつたのである。一方被上告人は、おそくとも右売買契約締結までの間には、上告人がAに欺かれて本件土地を売り渡すものであることをそれとなく知つたにもかかわらずあえて右売買契約を締結したのである。被上告人は、上告人の代理人であるAに対して右売買代金の内金として、昭和三九年六月一二日現金五〇万円宛二回計一〇〇万円を支払つた。まもなく、Aに騙されたことを知つた上告人は、昭和三九年七月二九日被上告人に到達した書面をもつて右売買契約を取り消す旨の意思表示をした。なお、本件(一)の土地については、仮登記仮処分命令に基づき、被上告人のため、昭和三九年七月二二日付をもつて同年六月一一日売買を原因とする所有権移転の仮登記手続がなされ、また、本件(二)の土地は、上告人がこれをさきに昭和三七年六月頃訴外Bから買い受けたのであるが、登記名義は同人のままにしてあつたので、昭和三九年六月二三日付をもつてBから被上告人へ中間省略で所有権移転登記手続がなされている、というのである。
右のような事実関係のもとにおいては、右売買契約は、Aの詐欺を理由とする上告人の取消の意思表示により有効に取り消されたのであるから、原状に回復するため、被上告人は、上告人に対し、本件(一)の土地について右仮登記の抹消登記手続を、本件(二)の土地について上告人へ所有権移転登記手続をそれぞれなすべき義務があり、また、上告人は、被上告人に対し、右一〇〇万円の返還義務を負うものであるところ、上告人、被上告人の右各義務は、民法五三三条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきであつて、被上告人は、上告人から一〇〇万円の支払を受けるのと引き換えに右各登記手続をなすべき義務があるとした原審の判断は、正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

・売買のような双務契約において、双方の債務の履行が済んだ後に契約が第三者による詐欺を理由として取り消された場合(96条2項)、双方に不当利得返還義務が生じ、両者は同時履行の関係に立つ!!

・双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失わない!!!!!!he—
+判例(S34.5.14)
上告代理人弁護士山沢和三郎の上告理由第一点について。
双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があつても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでないことは所論のとおりである。しかし、原判示によれば売主たる被上告人は本件機械全部を買主たるAに昭和二九年六月二八日までに約束通り引渡したというのであるから、Aは右引渡を受けたことによつて所論同時履行の抗弁権を失つたものというべきであり、従つてその以後において、被上告人の代理人Bが右機械の「あひる」を取外して持ち帰つたからといつて、同人に別個の責任の生ずる可能性のあることは別論として既になされた被上告人の債務の履行に消長を来し、一旦消滅した同時履行の抗弁権が復活する謂れはない。されば右と同趣旨に帰する原判決の判断は正当であり所論る述の要旨は右に反する見解の下に原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

・AはBに対し甲動産を売却したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。この場合、判例によれば、AがBの同時履行の抗弁に対し、訴えの提起前に到来した甲動産の引渡しの履行期に甲動産の引渡しの準備をし、取りに来るようにBに電話で伝えたことを主張しても、再抗弁にはならない!!!!!←Aが訴えの提起前に履行の提供をしても、Bの同時履行の抗弁権は失われない!=提供の継続がない

・双務契約における一方債務の不能が債務者の責めに帰すべき事由によって生じた場合、その債務が不能となったことについて債権者の責めに帰すべき事由があったとしても危険負担の問題にはならない。=債権者の責めに帰すべき事由は過失相殺の問題になる!

・債務者の帰責事由により履行不能が生じた場合は、債務者の債務は損害賠償債務に転化するので(415条)危険負担の問題は生じない!
=土地の売買契約が締結された後、売主が当該土地をさらに他に譲渡し、第2譲受人が先に所有権移転登記を具備した場合、売主の第1譲受人に対する債務は履行不能となり損害賠償債務に転化する!

・契約締結以前に特定物である絵画が不可抗力により減失していた場合、履行が原始的に不能であるといえ、契約は無効となる。
=XがYに対して特定物である絵画を売却する契約を締結していたところ、契約締結以前に絵画が不可抗力により減失していたが、XYともに契約を締結した後にその事実を知った場合でも、無効!!!

・XがYに対して特定物である絵画を売却する契約を締結していたところ、Xの責めに帰すべき事由により引渡しを遅滞しているうちに第三者の放火により絵画が焼失してしまった場合でも、YはXに対して代金支払債務を負う!!!!!!
←履行遅滞中に債務者の責めに帰す事の出来ない事由によって履行が不能となったときは、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能と評価され、債務者は債務不履行責任を負う!!!!=危険負担の問題とはならない!!!!!

・甲が乙に建物を賃貸し、その賃貸期間中、当事者双方の責めに帰することができない事由で賃貸目的物たる建物が焼失してしまった場合、賃貸人甲の使用収益させる債務が焼失すれば、賃借人乙の賃料債務も消滅する!!!←賃貸借契約は物権の設定又は移転を目的とした双務契約ではない!!!!!!から534条1項の債権者主義の適用はない!→536条1項
+(債務者の危険負担等)
第536条
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

+(債権者の危険負担)
第534条
1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2項 不特定物に関する契約については、第401条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

・AはBから「自己の肖像画を描いてほしい。完成した肖像画と引き換えに報酬100万円を支払う。」と頼まれて請け負い、その後、Bの肖像画を完成させ、A宅に保管していたところ、引渡期日前に、隣人の失火により肖像画が焼失した。この場合、Aは反対給付である100万円を受ける権利を有しない!!!!←536条1項
+解説ほしいいいい

・Aは、Bに対して、A所有の中古住宅を代金3000万円で売却し、Bへの所有権移転登記と同時に代金全額を受け取るという約束でBにこの住宅を引渡したが、Bに引き渡した2日後に、この住宅は隣人の放火によって全焼した。この場合、BはAに対して代金3000万円を支払わなければならない!!!←534条。A=債務者。B=債権者。!!
債務者・債権者とは目的物引渡債権を基準としていっています

・特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合に、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって減失したとき、債務者は反対給付を受け取ることができる。←534条1項

・XがYとの請負契約を締結していたところ、注文者Yの責めに帰すべき事由により契約の目的である工事の完成が不能となった場合、危険負担の債権者主義が妥当するので、Xは全額について請負代金支払債権を有するが、Xが残債務を免れたことによって得る利益についてYに返還しなくてはならない。!!!
+判例(S52.2.22)
上告代理人莇立明の上告理由について
原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 住宅電気設備機器の設置販売等を業とする被上告人は、昭和四五年五月一二日訴外Aから、上告人所有家屋の冷暖房工事を、代金四三〇万円、工事完成時現金払の約旨で請け負い、上告人は被上告人に対し、Aが被上告人に負担すべき債務につき連帯保証した。
2 右冷暖房工事は、Aが同年五月初旬ころ上告人から請け負つたものであるが、Aは、従来規模の大きい工事を請け負つたときは、みずからこれを施行することなく、更に他と請負契約を締結して工事を完成させ、みずからは仲介料を得ていたところから、本件の場合も、これを被上告人に請け負わせたものである。
3 被上告人は、同年一一月中旬ころ、右冷暖房工事のうちボイラーとチラーの据付工事を残すだけとなつたので、右残余工事に必要な器材を用意してこれを完成させようとしたところ、上告人が、ボイラーとチラーを据え付けることになつていた地下室の水漏れに対する防水工事を行う必要上、その完了後に右据付工事をするよう被上告人に要請し、その後、被上告人及びAの再三にわたる請求にもかかわらず、上告人は右防水工事を行わずボイラーとチラーの据付工事を拒んでいるため、被上告人において本件冷暖房工事を完成させることができず、もはや工事の完成は不能と目される。
以上の事実関係のもとにおいては、被上告人の行うべき残余工事は、おそくとも被上告人が本訴を提起した昭和四七年一月一九日の時点では、社会取引通念上、履行不能に帰していたとする原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
そして、Aと被上告人との間の本件契約関係のもとにおいては、前記防水工事は、本来、Aがみずからこれを行うべきものであるところ、同人が上告人にこれを行わせることが容認されていたにすぎないものというべく、したがつて、上告人の不履行によつて被上告人の残余工事が履行不能となつた以上、右履行不能はAの責に帰すべき事由によるものとして、同人がその責に任ずべきものと解するのが、相当である。
ところで、請負契約において、仕事が完成しない間に、注文者の真に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法五三六条二項によつて、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎないものというべきである。これを本件についてみると、本件冷暖房設備工事は、工事未完成の間に、注文者であるAの責に帰すべき事由により被上告人においてこれを完成させることが不能となつたというべきことは既述のとおりであり、しかも、被上告人が債務を免れたことによる利益の償還につきなんらの主張立証がないのであるから、被上告人はAに対して請負代金全額を請求しうるものであり、上告人はAの右債務につき連帯保証責任を免れないものというべきである。したがつて、原判決が被上告人はAに対し工事の出来高に応じた代金を請求しうるにすぎないとしたのは、民法五三六条二項の解釈を誤つた違法があるものといわなければならないところ、被上告人は、本訴請求のうち右工事の出来高をこえる自己の敗訴部分につき不服申立をしていないから、結局、右の違法は判決に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は、いずれも採用することができない。

+(債務者の危険負担等)
第536条
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


・XがYとの間で、YがA県への転勤を命じられていることを条件として、A県にあるX所有の一軒家を5000万円で譲渡する契約を締結していたところ、その一軒家が大地震により一部損傷し、その後、YがA県への転勤を命じられた場合、YはXに対して5000万円全額については支払い義務を負う!!!
+(停止条件付双務契約における危険負担)
第535条
1項 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷!したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する
3項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

+++解説
民法535条1項では、前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しないと規定しています。つまり、債務者主義になるということなので前条民法534条「債権者主義」は適用しないとなっています。債務者には泣いてもらうことになります。
1項と違うのは、2項は一部損傷であるということです。535条2項では、停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。つまり、今度は債権者主義になると言っています。
1項では、自転車が全壊した場合=債務者主義
2項では、損傷にとどまる場合で=債権者主義ということです。
ちなみに過失があれば危険負担ではないです。3項では、債務者に過失がある場合で損傷した場合に条件が成就した場合について規定しています。

・Aは、Bとの間で、「Bが大学を卒業した際には、Aは、A所有の特定の自動車を10万円でBに売り渡す。」という契約をしたが、A宅敷地内の車庫に保管されていたこの自動車は、隣人の失火により焼失し、その後Bは大学を卒業した。この場合、BはAに対して代金10万円を支払わなくてもよい!!!!!!!←535条1項

・上記事例で、Aの失火により自動車が焼失し、その後Bが大学を卒業した場合、Bは子の売買契約を解除することができる!!
←目的物が債務者の過失により減失した場合、危険負担ではなく債務不履行となる!!!=543条による解除。

+(債務不履行による損害賠償)
第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

+(履行不能による解除権)
第543条
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

・事情変更の理由により当事者に解除権を認めるためには、その事情変更が、客観的に観察して、信義誠実の原則上当事者を契約によって拘束することが著しく不合理と認められる場合であることを要する!!!
+判例(S30.12.20)
同第三点について。
所論は、履行不能と事情変更の理論によつて上告人の解除の有効を主張し、この抗弁を採用しなかつた原判決は、上告人が本件土地につき政府と被上告人の双方に対し二重の義務を負担することを認めるのであると非難する。しかし本件土地に対する借地権は、原判決が正当に判示するように、いわゆる接収が解除されるに至るまで一時的に事実上行使し得ない状態におかれているにすぎないのであるから、これを一時的履行不能と見るのを相当とし、このような場合は、たとえ債権者の責に帰すべき事由、または当事者双方の責に帰すべからざる事由による場合であつても、債務を消滅せしめるものではなく、単に債務者をして履行遅滞の責を免れしめるに止まるものと解するを相当とし、所論のように債務者がこのことを理由として契約を解除し得るものでないことはいうまでもない。また事情変更の理由により当事者に解除権を認めることは、その事情変更が、客観的に観察して信義誠実の原則上当事者を契約によつて拘束することが著しく不合理と認められる場合であることを要するところ、本件土地の接収は、占領状態の出現という当事者の予見しない事情によつて発生したとはいえ、接収が結局将来解除されることは明らかであり、かつ被上告人は、、上告人に対し借地権存在の確認を求めるだけで現実に特段の義務の履行を求めるわけではないから所論のように上告人に解除権の成立を認めなければ不当であるという理由は認められない。所論は結局採用できない。

・事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であるが、上記の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合は、契約締結当時の契約当事者について判断すべきである!!!!

+判例(H9.7.1)
一 本件は、大日本ゴルフ観光株式会社の経営するゴルフ場「阪神カントリークラブ」(現在の名称は「パインヒルズゴルフ」。以下「本件ゴルフ場」という。)の会員たる地位を取得した上告人ら(ただし、上告人Aについては、その被承継人である亡Bのことをいう。以下同様とする。)が、本件ゴルフ場の営業を譲り受け会員に対する権利義務を承継した被上告人に対し、本件ゴルフ場の会員資格を有することの確認を求める事案である。被上告人は、上告人らは、本件会員資格のうち預託金返還請求権及び会員権譲渡権を有するが、本件ゴルフ場施設の優先的優待的利用権については、事情変更の原則又は権利濫用の法理の適用により、これを有しないと主張している。

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 大日本ゴルフ観光は、本件ゴルフ場の造成工事を完成させた上、昭和四八年七月二五日、東コース・中コース・西コース(二七ホール)を有する本件ゴルフ場を開設した。上告人らは、同社と会員契約を締結し、又は本件ゴルフ場の会員から同社の承認を受けて会員権を譲り受けることにより、本件ゴルフ場の会員たる地位を取得した。上告人らが同社に対して有していた会員としての権利の内容は、(一) 本件ゴルフ場の開業日に非会員よりも優先的条件かつ優待的利用料金でゴルフコース及び付属施設の一切を利用する権利、(二) 第一審判決添付会員権目録の「入会日」欄記載の日から一〇年間の据え置き期間経過後に同目録の「入会金金額」欄記載の預託金の返還を請求する権利、(三) 会員権を第三者に譲渡する権利である。
2 株式会社モーリーインターナショナルは、昭和六二年九月二一日、大日本ゴルフ観光から本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。被上告人は、平成四年三月二日、モーリーインターナショナルから同月三一日現在の本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。
3 本件ゴルフ場は、谷筋を埋めた盛土に施工不良があること及び盛土の基礎地盤と切土地盤に存在する強風化花こう岩のせん断強度が小さいことから、被圧地下水のわき出しなどにより、のり面の崩壊が生じやすくなっており、開業以来度々のり面の崩壊が発生していた。
本件ゴルフ場は、平成二年五月に、同元年九月から閉鎖されていた中コースの一部と営業中であった東コースの一部ののり面が崩壊し、応急措置としての修復はされたものの、それ以前におけるのり面の崩壊状況とあいまって、営業が不可能になった。モーリーインターナショナルは、同二年五月末日にすべてのコースを閉鎖し、同年六月一日から本件ゴルフ場の全面改良工事に着手した。兵庫県は、平成二年五月二二日から同三年六月三日まで四回にわたり、本件ゴルフ場に対して防災処置をとるよう要請していた。
4 本件改良工事の内容は、(一) 降雨時に上昇した地山の地下水が盛土内に侵入してもこれを速やかに排除できる岩砕盛土、地下排水管、地表面排水の構造とすること、(二) せん断破壊に強い材料を盛土材料として使用し、全体構造としてすべりに強い盛土体とし、土砂盛土内にせん断抵抗力の大きい岩砕盛土を盛土規模に応じ複数箇所に設けること、(三) 旧盛土箇所の崩壊土砂及び軟弱土の排土と岩砕盛土、地下排水管、地表面排水工、排水井等による修復工事を実施するというものであり、これらとともにクラブハウスの建築も含まれていた。本件改良工事にかかった費用は、右クラブハウスの建築も含め、約一三〇億円である。
5 上告人らは、既に預託している預託金以外には、多額の費用を要した本件改良工事後の本件ゴルフ場を使用するための新たな預託金などの経済的負担を負うことを拒否している。

三 原審は、前記二の事実関係に加えて、さらに、(一) モーリーインターナショナルは、大日本ゴルフ観光から営業を譲り受けた時点において、本件ゴルフ場について、のり面崩壊に対する防災処置を施す必要が生じることを予見していなかったとはいえないが、本件改良工事のような大規模な防災処置を施す必要が生じることまでは予見しておらず、かつ予見不可能であった、(二) 本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円は、本件ゴルフ場ののり面崩壊に対する防災という観点からみて、必要最小限度のやむを得ないものであった、(三) 大日本ゴルフ観光は、昭和六二年一一月の時点において既に営業実態のない会社になっており、その資産状態も明らかでなく、同社に対して本件改良工事についての費用負担を求めることは事実上不可能である、と説示した上、右事実関係及び前記二の事実関係を総合すると、上告人らに対し本件ゴルフ場の会員資格のうち施設の優先的優待的利用権を当初の契約で取得した権利の内容であるとして認めることは、信義衡平上著しく不当であって、事情変更の原則の適用により上告人らは右優先的優待的利用権を有しないと解すべきであると判断し、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消して、右請求を全部棄却した。

四 しかしながら、上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 上告人らと大日本ゴルフ観光の会員契約については、本件ゴルフ場ののり面の崩壊とこれに対し防災措置を講ずべき必要が生じたという契約締結後の事情の変更があったものということができる。
2 しかし、事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約当事者について!!!!これを判断すべきである。したがって、モーリーインターナショナルにとっての予見可能性について説示したのみで、契約締結当時の契約当事者である大日本ゴルフ観光の予見可能性及び帰責事由について何ら検討を加えることのないまま本件に事情変更の原則を適用すべきものとした原審の判断は、既にこの点において、是認することができない
3 さらに進んで検討するのに、一般に、事情変更の原則の適用に関していえば、自然の地形を変更しゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社は、特段の事情のない限り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったとはいえず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。けだし、自然の地形に手を加えて建設されたかかる施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、将来にわたり災害の生ずる可能性を否定することはできず、これらの危険に対して防災措置を講ずべき必要の生ずることも全く予見し得ない事柄とはいえないからである。
本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した前記二の事実関係によれば、本件ゴルフ場は自然の地形を変更して造成されたものであり、大日本ゴルフ観光がこのことを認識していたことは明らかであるところ、同社に右特段の事情が存在したことの主張立証もない本件においては、事情変更の原則の適用に当たっては、同社が本件ゴルフ場におけるのり面の崩壊の発生について予見不可能であったとはいえず、また、帰責事由がなかったということもできない。そうすると、本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円が必要最小限度のやむを得ないものであったか否か並びに大日本ゴルフ観光に対して本件改良工事の費用負担を求めることが事実上不可能か否かについて判断するまでもなく、事情変更の原則を本件に適用することはできないといわなければならない。
4 また、前記二及び三の事実関係によっても上告人らの本件請求が権利の濫用であるということはできず、他に被上告人らの権利濫用の主張を基礎付けるべき事情の主張立証もない本件においては、右権利濫用の主張が失当であることも明らかである。
五 原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、論旨は理由があり、その余の論旨につい判断するまでもなく原判決中上告人らの請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上の説示によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決の結論は正当であるから、右部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。

++解説
二 事情変更の原則とは「契約締結後、その基礎となった事情が、当事者の予見し得ない事実の発生によって変更し、このため当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて苛酷になった場合に、契約の解除又は改訂が認められるか」という問題であり、通説(我妻榮・債権各論上巻二五・一七八頁等)はこれを肯定し、根拠を信義則に求め、その要件は、(一) 事情の変更があったこと(契約締結後に契約の客観的基礎となっていた事情が変更すること)、(二) 事情の変更が当事者に予見可能でなかったこと、(三) 事情の変更が当事者の責に帰することのできない事情(戦争、大災害、インフレによる著しい対価関係の破壊、法令の変更等)により生じたこと、(四) 事情の変更により当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められることとされている(新版注釈民法(13)六九頁以下〔五十嵐清〕)。
具体的事例において事情変更の原則の適用を肯定した最高裁判例は一件もない(大判昭19・12・6民集二三巻六一三号が唯一の適用例)が、判例は事情変更の原則の適用可能性を一般的に否定するものではないと理解されており(最三小判昭26・2・6民集五巻三号三六頁、本誌一〇号五一頁、最一小判昭29・1・28民集八巻一号二三四頁、最二小判昭29・2・12民集八巻二号四四八頁、本誌三八号五七頁、最三小判昭30・12・20民集九巻一四号二〇二七頁本誌五四号二五頁)、本判決も、従来の最高裁判例の立場の延長線上にあるものである。

三 判決要旨一は、事情変更の原則を適用するための要件の一部を示したものである。すなわち、(一) 契約締結後の事情の変更について契約当事者に予見可能性がないことを要する、(二) 右事情の変更について契約当事者に帰責事由がないことを要する、(三) 以上の予見可能性及び帰責事由の有無は契約上の地位の譲渡があった場合でも契約締結時の契約当事者について判断する、ことを示したものである。これらの要件の一部が欠ければ事情変更の原則は適用できないことを明らかにした点に、本判決の一つの意義がある。原審判断は、契約締結時の契約当事者であるA社ではなく、本件ゴルフ場の全面改修工事を実施した当時の契約当事者であるB社についての(A社から営業譲渡〔契約上の地位の譲渡〕を受けた時点における)予見可能性を判断要素とした点において、事情変更の原則の適用要件の誤りを犯したことになる。

四 判決要旨二は、判決要旨一における予見可能性及び帰責事由の有無の判断基準を、本件事案における事情の変更の内容(ゴルフ場ののり面崩壊及びこれに対する防災工事の必要性)に即して示したものである。
事情変更の原則の適用要件としての予見可能性・帰責事由を判断するに当たっては、のり面崩壊についての具体的な危険が指摘されていたとか、現実に小規模な崩壊が生じていたとかいうような事実の認識は必要でない「自然の地形を造成した」という事実の認識(又は認識可能性)のみから、のり面崩壊の予見可能性もあったとみるべきである!!!。自然の地形に手を加えて建設された施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、災害を被る危険性から免れることのできないものであって、ゴルフ場経営はこのような災害の生じるリスクを常に背負っているものであり、具体的なのり面崩壊の兆候等がなかったからといって、事情変更の原則を適用してゴルフ場経営会社を免責するのは、適当でないからである。また、激しい大雨や地震によってのり面崩壊が生じたとしても、数十年に一度生じる程度の災害を理由に事情変更の原因を適用して当初の契約の拘束から当事者を免れさせることは、適当であるとは思われない。のり面崩壊の原因が施工当時の技術水準によれば予見不可能な工事の瑕疵が原因であったとしても、ゴルフ場の会員とゴルフ場経営会社との関係を判断するに当たっては、施工工事の契約当事者間の請負契約上の契約責任を判断する場合と異なり、予見可能性及び帰責事由がなかったとして事情変更の原因を適用して当初の契約の拘束から当事者を免れさせることは適当であるとは思われない。
事情変更の原則の適用要件としての予見可能性及び帰責事由は、予見可能性及び帰責事由が他の法律効果の発生要件となる場合(例えば、民法四一六条二項の特別損害の賠償の要件としての予見可能性や同法四一五条の債務不履行による損害賠償の要件としての帰責事由)と比較して、質的に大きく異なるものであるといえよう。!!!

五 なお、本件改良工事費用一三〇億円にはクラブハウス(のり面崩壊により破損したわけではない)の建築費を含むから、これが必要最小限度のやむを得ないものであったという原審認定には経験則上問題がないではない。また、ゴルフ場の維持管理費用はグリーンフィーなどの収入の中からゴルフ場経営会社が負担すべきものであるし、会員はゴルフ場資産についての所有権等の権利を有するものではないから、預託金額の多寡はゴルフ場の資産価値とは直接的な関係がなく、預託金の追加をしないで(利用料金は支払って)改良後のゴルフ場を利用することに対価関係の著しい破壊があるとも断言できない。しかしながら、本件は予見可能性及び帰責事由についての判断により結論を出すことができる事案であったため、本判決は、原審認定の経験則違反や対価関係の著しい破壊の論点については判断を示さなかった。


民法択一 債権各論 契約総論 契約の成立過程


・電話通信事業者が、加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話にかかる通話料についても特段の事情がない限り請求することができるという約款は、契約自由の原則の範囲を逸脱するものではなく、無効とはならない!!

+判例(H13.3.27)Q2事件
第3 前記事実関係の下において、原審は、次のとおり判示して、被上告人には本件通話料の支払義務はなく、上告人の本訴請求のうち本件通話料に係る分を棄却すべきものと判断した。
上告人が、各加入電話契約者の意思を具体的に確認することなく、Q2情報サービスを既設の電話回線から一般的に利用可能なものとしてダイヤルQ2事業を創設し、第三者利用やこれによる利用料金の高額化等の危険が十分予想されるにもかかわらず、上記サービスの内容やその利用規制等につき加入電話契約者に告知しておらず、被上告人もその存在すら知らなかったこと、Q2情報サービスの目的が情報の授受にあり、情報提供時間に比例して通話料も増加していく関係にあって、この場合の通話料は、同サービスの利用に係る情報の授受によって初めて発生し、通話それ自体から生ずる一般通話における通話料とは発生経緯を異にしていること、Q2情報サービスに係る情報料と通話料は、最終的な帰属先を異にするとはいえ、本件加入電話からの通話により情報提供者との情報提供を目的とする契約が成立する関係にあり、上告人においても、電話加入契約者に対し、情報料と通話料の区別なく一体として請求していたこと、本件通話料の金額が、本件加入電話の従前の通話料に比して著しく高額であり、被上告人にとって予想外の金額であることなどにかんがみれば、上告人が、被上告人に対し、本件通話料につき、本件約款118条に基づいてその支払を請求することは、信義則に反し許されない。

第4 しかしながら、原審の前記判断のうち、上告人の本件通話料請求について信義則を考慮した点は是認し得るとしても、同請求が信義則に反するとしてこれをすべて棄却すべきものとした点は、直ちにこれを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 加入電話契約者は、加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話に係る通話料についても、特段の事情のない限り、上告人に対し、支払義務を負う。このことは、本件約款118条1項の定めるところであり、この定めは、大規模な組織機構を前提として一般大衆に電気通信役務を提供する公共的事業においては、その業務の運営上やむを得ない措置であって、通話料徴収費用を最小限に抑え、低廉かつ合理的な料金で電気通信役務の提供を可能にするという点からは、一般利用者にも益するものということができる。したがって、被上告人は、本件約款の文言上は、上告人に対して本件通話料の支払義務を負うものといえる。
しかし、加入電話契約は、いわゆる普通契約約款によって契約内容が規律されるものとはいえ、電気通信役務の提供とこれに対する通話料等の支払という対価関係を中核とした民法上の双務契約であるから、契約一般の法理に服することに変わりはなく、その契約上の権利及び義務の内容については、信義誠実の原則に照らして考察すべきである。そして、当該契約のよって立つ事実関係が変化し、そのために契約当事者の当初の予想と著しく異なる結果を招来することになるときは、その程度に応じて、契約当事者の権利及び義務の内容、範囲にいかなる影響を及ぼすかについて、慎重に検討する必要があるといわなければならない。

2 今日のように、一般家庭に広く電話が普及し、日常生活上不可欠な通信手段となったのは、通常の家庭における日常の電話利用を前提とする限り、特段の注意を払わなくても、家族等による電話利用が契約当事者の予想の範囲内にとどまり、また、その利用に伴う料金も日常の生活経費に織り込まれた金額の範囲内に納まっているからである。このような事実関係を前提として、加入電話契約者は、日常の電話利用から生ずる通話料について、それが誰の利用によるものかを問わず、原則として、そのすべてについて支払義務を負うことを承認しているのであり、他方、上告人は、電気通信役務の提供に必要な機構を構築してその機能及び情報を管理し、加入電話契約者に対して予定された電気通信役務を提供することを期待されているのである。

3 ところで、今日、通信に関する高度技術の発展に伴い、電気通信事業が急激に拡大し、市民の生活を豊かにするとともに、その生活様式さえも一変しつつあることは公知の事実である。従来、国営企業として電気通信役務の提供を一手に引き受けていた電電公社が民営化されて一般企業と同様な株式会社となり、電気通信事業の拡大に乗り出すとともに、電気通信事業法に基づく電気通信事業が自由化され、これに伴って従来固有の電気通信設備を有しなかった事業者にも上告人の電気通信設備が開放されて、ダイヤルQ2事業のような新たな事業が創設されるに至ったのも、こうした流れに沿うものであって、その発足当初、Q2情報サービスの内容やその料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、そのこと自体から上記のような事業の存在そのものを否定的に評価することは相当でない。
しかし、Q2情報サービスは、既設の電話回線から直接情報提供者に対して電話をかけることにより多種多様な情報を取得することができ、その情報内容によっては時間的に制限のない娯楽を提供することも可能であり、しかも情報提供者は加入電話契約者と同一市内に限られず全国に広域化していたというのであるから、従来の日常生活において予定された通話者間の意思伝達手段としての通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していた。そして、本件当時においては、青少年に対する誘惑的要素を多分に含んだ番組も相当数に上っていたために、加入電話契約者の監護下にあって経済的能力のない青少年が加入電話契約者に隠れてひそかにQ2情報サービスを利用し、加入電話契約者は、上告人からの電話料金の支払請求を受けて同サービスの利用に係る料金が著しく高額化したことを初めて知らされ、それまではその利用の事実を認識することができないという事態が生じたということができる。すなわち、このようなQ2情報サービスの開始は、日常生活上の意思伝達手段という従来の一般家庭における加入電話契約のよって立つ事実関係を変化させたものということができるのである。

4 そうすると、加入電話契約において、加入電話の管理、ひいてはいかなる者にいかなる程度の電話利用を許すかは加入電話契約者の決し得るところであるとしても、上告人は、他方において、電気通信役務提供の条件やそのあり方を自ら決定し、事業の内容等についての情報を独占的に保有する立場にあるのであるから、ダイヤルQ2事業の創設に伴ってQ2情報サービスの無断利用による料金高額化の危険が存在していた以上、上告人には、本件当時既に生活必需品として一般家庭に広く普及していた電話に関わる公益的事業者として、ダイヤルQ2事業の開始に当たり、あらかじめ、加入電話契約者に対して、同サービスの内容や危険性等について具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき信義則上の責務があったということができる。
確かに、ダイヤルQ2事業の創設が電気通信事業の自由化に伴う初めての試みであることから、上告人において、当時、前記危険が広範に現実化するという事態までは想定していなかったとしても、上告人は、その分野における専門家として、我が国に先立って米国で実施された同種事業において既に生じた種々の問題やこれに対する対策等についても知り得る立場にあったことなどからすれば、上記の点は、上告人の前記責務を否定しあるいは軽減する理由にはならないというべきである。
そして、上告人が前記責務を十分に果たさなかったために、加入電話契約者がQ2情報サービスの存在やその危険性等についての十分な認識を有しない状態の下に適切な対応策を講ずることができず、加入電話契約者以外の者、とりわけ生計を同じくする未成年の子等によるQ2情報サービスの多数回・長時間にわたる無断利用により通話料が日常生活上の利用による通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し、加入電話契約者において上記通話料の負担を余儀なくされるといった契約当事者の予想と著しく異なる結果を招来した場合には、上告人が加入電話契約者に対して上記通話料の支払を請求するに当たって、信義則上相応の制約を受けることになってもやむを得ないといわなければならない。

5 【要旨】以上を要するに、ダイヤルQ2事業は電気通信事業の自由化に伴って新たに創設されたものであり、Q2情報サービスは当時における新しい簡便な情報伝達手段であって、その内容や料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、それ自体としてはすべてが否定的評価を受けるべきものではない。しかし、同サービスは、日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから、公益的事業者である上告人としては、一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。
本件についてこれを見ると、上記危険性等の周知及びこれに対する対策の実施がいまだ十分とはいえない状況にあった平成3年当時、加入電話契約者である被上告人が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で、被上告人の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために本件通話料が高額化したというのであって、この事態は、上告人が上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものということができる。こうした点にかんがみれば、被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで、本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは、信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。そして、その限度は、加入電話の使用とその管理については加入電話契約者においてこれを決し得る立場にあることなどの事情に加え、前記の事実関係を考慮するとき、本件通話料の金額の5割をもって相当とし、上告人がそれを超える部分につき被上告人に対してその支払を請求することは許されないと解するのが相当である。

6 そうすると、これと異なる見解に立って、上告人が本件通話料につき本件約款118条1項の規定に基づいてその支払を請求することは信義則上許されないとして、上告人の同請求を全部棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの限度で理由がある。そして、前記説示に照らせば、上告人の同請求は、本件通話料の5割に相当する金額、すなわち、平成3年2月分として4万0762円(円未満切捨て。以下同じ。)及び同年3月分として9777円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みの前日まで年14.5%の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものである。
第5 以上に説示するところに従い、第1審判決中上告人敗訴の部分は前記のとおり変更されるべきであるから、原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとする。
よって、裁判官千種秀夫、同奥田昌道の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・保証契約は、成立のために当事者の合意のほか書面が必要である!=要式契約
+(保証人の責任等)
第446条
1項 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない
3項 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

・明示的な承諾の通知がなくとも、承諾の意思表示と認められるべき行為があれば契約が成立する場合がある!!!!=意思実現による契約の成立!
+(隔地者間の契約の成立時期)
第526条
1項 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2項 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

・新聞の織り込みチラシとしてスーパーマーケットの広告が入っていたときは、その広告は申し込みの誘因に過ぎない!!
=法律上、契約の申込みといえるためには、申込みに対して相手方から承諾がされれば、契約に拘束されるとの意思を有していなければならないから

・承諾の期間を定めてした契約の申し込みを、制限行為能力を理由として取り消すことはできる!!!!=521条は適用されない
+(承諾の期間の定めのある申込み)
第521条
1項 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない
2項 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う

・承諾の期間を定めずに隔地者に対してした契約の申し込みは、相当な期間が経過するまでは、撤回することができない。
+(承諾の期間の定めのない申込み)
第524条
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない

・申込者が、承諾期間を定めてした契約の申込みに、承諾期間中に諾否の通知がなければ承諾したものとみなす旨の表示をした場合、申込受領者が承諾期間中に諾否の通知をしなくても、契約は成立しない!!!

・申込者が、契約の申込みの通知を発信した後に死亡した場合に、相手方が承諾の通知を発し、これが申込者に到達したときは、申し込みの通知の到達前から相手方が申込者の死亡の事実知っていたら、契約は成立しない!!!!
+(隔地者に対する意思表示)
第97条
1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2項 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない

+(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第525条
第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない

・契約申込みの通知を発した後、その通知が相手方に到達するより前に、相手方への契約申込みの意思表示を撤回する通知が到達した場合、契約申込みの撤回が認められる!!!!!!ナント!!!
+理由もほしい・・・。

・承諾期間を定めてした動産甲を売る旨の申込みに対して、その承諾の通知が承諾期間経過後に到着した場合であっても、申込者が再び甲を売る旨の通知をし、これが相手方に到達すれば、甲についての売買契約は成立する!!!!
+(遅延した承諾の効力)
第523条
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる

・承諾者が契約の申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾し、これが申込者に到達した後に、改めて無条件の承諾をしても、契約は成立しない!!!!
+(申込みに変更を加えた承諾)
第528条
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。

・契約の申込みに承諾期間の定めがある場合には、承諾期間経過後に到達した承諾は当然に無効ではない!
+(承諾の通知の延着)
第522条
1項 前条第1項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
2項 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第1項の期間内に到達したものとみなす

・隔地者間の契約は、承諾の通知を発したときに成立する!!!!
+(隔地者間の契約の成立時期)
第526条
1項 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2項 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。


民法択一 物権 非典型担保 代理受領


・債権に譲渡禁止特約がある場合にも、債権者は第三者に対して当該債権の弁済を自己に代わって受領する権限を与えることはできる!!←代理受領は、債権者が第三者に債権の取立権限を委任するものであり、債権自体を譲渡するものではない!!ヘーー

・BがAからの融資を受けるに当たり、BがCに対し有する債権についての弁済の受領権限をAに与えた場合、CがAの弁済受領を承認したにもかかわらず、CがBに弁済してしまったときは、Cは、Aに対し、不法行為責任を負う。←代理受領における第三債務者の承認は、単に代理受領を承認するにとどまらず、代理受領によって得られる利益を承認し、正当な理由がなく利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解するべきであり、承認の趣旨に反し、利益を害することのないようにすべき義務がある。

+判例(S44.3.4)
上告代理人上田明信、同鎌田泰輝の上告理由(一)について。
所論は、訴外東海航空測量株式会社(以下、東海航空測量という。)は昭和三四年一一月下旬北海道開発局函館開発建設部(以下、函館開発建設部という。)に対し、訴外Aに対する代理受領の委任を解除した旨を通知し、右通知によつてAの代理受領の権限は消滅し、被上告人には、函館開発建設部のした本件請負代金の支払によつて侵害されるべき利益はない旨主張する。
しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定したところによれば、東海航空測量は昭和三四年五、六月頃Aに対して、東海航空測量の函館開発建設部に対する本件請負代金債権の受領の代理権を与えてその受領を委任したというのであるから、右認定にかかる代理権授与の契約は、右委任の契約と一体をなしているものと解すべきである。また一方、原判決によれば、東海航空測量がした右委任契約を解除する旨の意思表示はその効力を生じない旨判示されており、右原判示も正当として是認できるのである。そうすると、所論代理受領の権限は消滅することなくなお存続しているものと解すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当である。右代理権は、函館開発建設部に対する解除の通知によつて消滅したという所論の見解には賛成することができず、右見解を前提とする論旨は採用することができない。

同(二)について。
所論は、(イ)函館開発建設部は、代理受領権者であるAに対して本件請負代金の支払をすることを妨げないとともに、東海航空測量に対しても有効に支払ができるのであるから、右支払が被上告人に対する関係で当然に違法になることはない、(ロ)これを違法として不法行為の成立を認めた原判示は矛盾している旨主張する。
しかし、原判決において、原審が挙示の証拠により適法に確定したところによれば、本件請負代金債権は、被上告人の東海航空測量に対する本件手形金債権の担保となつており、函館開発建設部は、本件代理受領の委任状が提出された当時右担保の事実を知つて右代理受領を承認したというのである。そして右事実関係のもとにおいては、被上告人は、Aが同建設部から右請負代金を受領すれば、右手形金債権の満足が得られるという利益を有すると解されるが、また、右承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理受領によつて得られる被上告人の右利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり、したがつて、同建設部としては、右承認の趣旨に反し、被上告人の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。しかるに、原判決によれば、同建設部長Bは、右義務に違背し、原判示の過失により、右請負代金を東海航空測量に支払い、Aがその支払を受けることができないようにしたというのであるから、右Bの行為は違法なものというべく、したがつて、原審が結局上告人に不法行為責任を認めた判断は正当である。そして函館開発建設部の東海航空測量に対する支払が有効であるとしても、原審が、右支払のされたことのみによつて直ちに原判示の過失を認めたものでないことは、原判文により明らかであるから、原判決に所論の矛盾は存在しない。論旨は採ることができない。


民法択一 物権 非典型担保 所有権留保


・動産の所有権留保付割賦売買契約において、代金完済前に買主の債権者が目的物を差し押さえた場合、売主は、留保した所有権に基づき第三者異議の訴えを提起することができる!!!

+判例(S49.7.18)
原審が適法に確定したところによれば、(一) 訴外湯浅金物株式会社は、昭和四二年一一月二二日その所有にかかる本件土運船を含む二隻の土運船を代金二七〇三万円で訴外中村海工株式会社に売り渡したが、代金支払方法として、契約と同時に二〇〇万円を支払い、残代金は昭和四四年九月二五日までにこれを二五回に分割して支払い、右代金完済に至るまで土運船の所有権は湯浅金物株式会社に留保し、代金完済のとき中村海工株式会社に移転することとし、その間湯浅金物株式会社は右土運船を中村海工株式会社に無償で使用させる旨の特約が締結されたこと、(二) ところが、中村海工株式会社は、残代金三一八万五〇〇〇円の未払を残したまま昭和四四年七月一九日大阪地方裁判所に和議開始の申立をしたので、湯浅金物株式会社は、中村海工株式会社がみずから破産、和議開始あるいは会社更生手続の開始等の申立をしたときは契約を解除して土運船の返還を求めることができる旨の特約に基づき、同月二三日契約を解除して、同会社から土運船二隻の返還を受けたうえ、同月三一日これを訴外丸嘉機械株式会社に代金三三〇万円で売り渡し、さらに被上告人が同年九月一三日同会社からこれを買い受けたこと、(三) 昭和四五年三月二日上告人は中村海工株式会社に対する債務名義に基づき本件土運船を差し押えたこと、以上の事実が認められる、というのである。
おもうに、動産の割賦払約款付売買契約において、代金完済に至るまで目的物の所有権が売主に留保され、買主に対する所有権の移転は右代金完済を停止条件とする旨の合意がなされているときは、代金完済に至るまでの間に買主の債権者が目的物に対して強制執行に及んだとしても、売主あるいは右売主から目的物を買い受けた第三者は、所有権に基づいて第三者異議の訴を提起し、その執行の排除を求めることができると解するのが相当である。いまこれを本件についてみるに、前記原審の確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が湯浅金物株式会社から丸嘉機械株式会社を経て取得した本件土運船の所有権に基づき上告人の強制執行の排除を求めることができることは、右説示に照らして明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切とはいえない。原判決(その引用する第一審判決を含む。)に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

+++第三者異議の訴えとは
強制執行が行われた場合に,第三者が執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡または引渡しを妨げることのできる実体上の権利を主張し,執行の不許を求める訴え (民事執行法 38) 。訴えの性格については,学説が分れているが,第三者の異議権を訴訟物とする形成訴訟と解するのが通説である。

+民事執行法
(第三者異議の訴え)
第38条
1項 強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。
2項 前項に規定する第三者は、同項の訴えに併合して、債務者に対する強制執行の目的物についての訴えを提起することができる。
3項 第1項の訴えは、執行裁判所が管轄する。
4項 前二条の規定は、第一項の訴えに係る執行停止の裁判について準用する。


民法択一 物権 非典型担保 譲渡担保


・譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲は、強行法規や公序良俗に反しない限り、設定契約の当事者間において元本、利息及び遅延損害金について自由に定めることができる!!

+判例(S61.7.15)!!!大切
上告代理人山根晃の上告理由第一について
不動産の譲渡担保権者がその不動産に設定された先順位の抵当権又は根抵当権の被担保債権を代位弁済したことによつて取得する求償債権は、譲渡担保設定契約に特段の定めのない限り、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないと解するのが相当である。
けだし、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲については、強行法規又は公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ第三者に対する関係においても、抵当権に関する民法三七四条(375?)又は根抵当権に関する同法三九八条ノ三の規定に準ずる制約を受けないものと解すべきであるが、抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の負担のある不動産に譲渡担保権の設定を受けた債権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によつて担保される債権額を控除した価額についてのみ優先弁済権を有するにすぎず、そのような地位に立つことを承認し、右価額を引き当てにして譲渡担保権の設定を受けたのであるから先順位の抵当債務を弁済し、これによつて取得すべき求償債権をも当然に譲渡担保の被担保債権に含ませることまでは予定していないのが譲渡担保設定当事者の通常の意思であると解されるからである。もとより、かかる譲渡担保権者は、先順位の抵当債務を弁済するにつき正当な利益を有するものというべきであるから、代位弁済によつて求償権を取得するとともに、先順位抵当権者の債権及び抵当権について代位することはいうまでもないが(民法五〇〇条)、右求償権は代位によつて取得する抵当権によつて優先弁済を受けられるのであつて、求償権者としての利益はこれによつて十分保護されるというべきである。また、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は、目的物の物としての価値の減損を防ぐための費用ではなく、むしろ譲渡担保権者自身の担保権を保全するための出捐とみられるのであつて、これを担保物の保存の費用と解するのは相当でない。この点について原審は、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は担保物の保存の費用に該当するが、設定契約に特段の定めのない限り、右費用は譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないとしているのであつて、右弁済のための費用を担保物の保存の費用とした点は失当たるを免れないけれども、叙上と同旨の結論は正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

・譲渡担保における受戻権は形成権ではないから、20年の時効では消滅しない!!
+判例(S57.1.22)
四 ところで、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権の弁済に充てることができるが、他方、債務者は、債務の弁済期の到来後も、債権者による換価処分が完結するに至るまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すことができる、と解するのが相当である。そうすると、債務者によるいわゆる受戻の請求は、債務の弁済により債務者の回復した所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、又はこれに由来する抹消ないし移転登記請求権の行使として行われるものというべきであるから、原判示のように、債務の弁済と右弁済に伴う目的不動産の返還請求権等とを合体して、これを一個の形成権たる受戻権であるとの法律構成をする余地はなく!!、したがつてこれに民法一六七条二項の規定を適用することは許されないといわなければならない。
してみれば、前掲の見解を前提として、Aのした本件債務の弁済が形成権たる受戻権の二〇年の時効期間経過後にされたものであることを理由に弁済の効力を否定した原審の判断には、譲渡担保に関する法令の解釈、適用を誤つた違法があるものといわなければならない。そして、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件債務について、その本旨に従つた弁済がなされたかどうか、本件土地についてAが返還請求権を取得したかどうか等につき、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

+(債権等の消滅時効)
第167条
1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

・動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となり、占有改定により引渡しがなされた場合、当該先取特権者が先取特権に基づいて動産競売の申立てをしたときは、特段の事情がない限り、譲渡担保権者は訴えをもって動産競売の不許を求めることができる!!←「引き渡し」(333条)には占有改定も含まれる。譲渡担保権者は「第三取得者」(333条)に含まれる。
+判例(S62.11.10)
(四) 本件物件の価額は五八五万四五九〇円である、(五) 上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)第三二六五号)をした、というのである。
ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

+(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

・構成部分の変動する集合動産については、1個の集合物として譲渡担保権の目的物となりうる!
+判例(S54.2.15)
上告代理人美村貞夫、同高橋民二郎、同土橋頼光の上告理由第一点及び第二点について
構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。
原審が認定したところによれば、(1) 訴外川崎電機株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年八月二七日その所有する食用乾燥ネギフレーク(以下「乾燥ネギ」という。)のうち二八トンを上告会社に対する一四〇〇万円の債務の譲渡担保として提供すること、上告会社は右ネギをいつでも自由に売却処分することができることを約した、(2) 当時訴外会社は、被上告会社との間に締結した継続的倉庫寄託契約に基づきその所有する乾燥ネギ四四トン三〇三キログラムを被上告会社倉庫に寄託していた、(3) 同日訴外会社から上告会社あて交付された被上告会社作成の冷蔵貨物預証には、「品名青葱フレーク三五〇〇C/S」「数量8kg段ボール四mm」「右貨物正に当方冷蔵庫第No.5No.8No.11No.12号へ入庫しました出庫の際は必ず本証をご提示願います」と記載されていたが、右預証は在庫証明の趣旨で作成されたものであり、上告会社社員が被上告会社倉庫へ赴いたのも単に在庫の確認のためであつて、目的物の特定のためではなかつた、(4) 上告会社は、前記譲渡担保契約締結前に訴外会社から乾燥ネギ一七・六トンを買い受けたことがあつたが、そのうち八トンは訴外会社三重工場から直接上告会社に送付され、残り九・六トンについては被上告会社の上告会社あて冷蔵貨物預証が差し入れられ、その現実の引渡しとしては、上告会社から訴外会社に指示し、訴外会社がこれを承けて被上告会社から該当数量を受け出し、これを上告会社指定の荷送先に送付する方法によつてすることとされていたところ、本件譲渡担保契約においてもこれと異なる約定がされたわけではなく、右契約締結後訴外会社から上告会社に対し乾燥ネギ二八トンのうちの三トン二四八キログラムが六回にわたり引き渡されたが、うち二トン八四八キログラムは訴外会社三重工場から上告会社に直送され、うち四〇〇キログラムは、さきの場合と同様、上告会社の指示により訴外会社が被上告会社から受け出して上告会社指定の荷送先に送付したものであつた、というのである。右の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいては、末だ訴外会社が上告会社に対し被上告会社に寄託中の乾燥ネギのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・AのBに対する債務を担保するために自己所有の甲土地にBのために譲渡担保権を設定し、所有権移転登記をした。AのBに対する債務の弁済期経過前に、Bは甲土地をCに譲渡した。甲土地が譲渡担保目的物であることをCが知っていた場合でも、Cは、甲土地の所有権を取得することができる!!!=善意悪意を問わない!

・AのBに対する債務の弁済期経過後であっても、Bが担保権の実行を完了するまでの間は、Aは、Bに対する債務を弁済して甲土地の所有権を回復することができる!!!

+判例(S62.2.12)
上告代理人木幡尊の上告理由について
一 債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁参照)、他方、弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)。
けだし、譲渡担保契約の目的は、債権者が目的不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権取得はかかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられるからである。 !!!!
右のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである。もつとも、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である。

二 ところで、記録によれば、本件訴訟は次のような経過をたどつていることが明らかである。すなわち、上告人は、第一審において、被上告人に対し、原判決添付の物件目録1ないし21記載の各土地(以下、一括して「本件土地」という。)について譲渡担保の目的でされた、被上告人を権利者とする第一審判決添付の登記目録記載の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続を求めたところ、受戻権の要件たる債務弁済の事実が認められないとして、請求を棄却されたため、原審において、清算金の支払請求に訴えを交換的に変更した。そして、上告人は、本件譲渡担保が処分清算型の譲渡担保であることを前提としつつ、被上告人が昭和五七年五月一〇日にした訴外Aに対する本件土地の売却によつて被上告人の上告人に対する清算金支払義務が確定したとして、右の時点を基準時とし、被上告人・A間の裏契約による真実の売買代金額又は本件土地の客観的な適正価格に基づいて、清算金の額を算定すべきものと主張した。これに対し、被上告人は、右売却時を基準時として清算金の額を算定すること自体は争わず、Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるとし、右価額から被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を控除すると、上告人に支払うべき清算金は存在しない旨主張し、原審においては、専ら、(イ)Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるかどうか、(ロ)被上告人とAとの間に上告人主張の裏契約があつたか否か、(ハ)清算にあたつて控除されるべき費用等の範囲及びその額について主張・立証が行われ、(イ)の争点については、上告人の申請に基づき、右売却処分時における本件土地の適正評価額についての鑑定が行われた。そして、本件譲渡担保が帰属清算型であることについては、当事者双方から何らの主張もなく、その点についての立証が尽くされたとは認められず、原審がその点について釈明をした形跡も全くない
三 原審は、その認定した事実関係に基づき、本件譲渡担保は、期限までに被担保債務が履行されなかつたときは債権者においてその履行に代えて担保の目的を取得できる趣旨の、いわゆる帰属清算型の譲渡担保契約であると認定したうえ、被上告人は、昭和四六年五月四日付内容証明郵便をもつて、上告人に対し、本件譲渡担保の被担保債権である貸金を同月二〇日までに返済するよう催告するとともに、右期限までにその支払がないときは、本件土地を被上告人の所有とする旨の意思表示をしたが、上告人が右期限までにその支払をしなかつたので、右内容証明郵便による譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した同月七日をもつて、本件譲渡担保の目的たる本件土地に関する権利が終局的に被上告人に帰属するに至つたというべきであり、被上告人とAとの間の本件土地の売買契約は、右権利が終局的に被上告人に帰属した後にされたものであつて、譲渡担保権の行使としてされたものではなく、上告人と被上告人との間の清算は、譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した昭和四六年五月七日を基準時として、当時の本件土地に関する権利の適正な価格と右貸金の元利金合計額との間でされるべきであるところ、この場合の清算金の有無及びその金額につき上告人は何らの主張・立証をしないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人の請求は理由がないとして、これを棄却すべきものと判断している。
四 しかしながら、原審の右認定判断は、前示の審理経過に照らすと、いかにも唐突であつて不意打ちの感を免れず、本件において当事者が処分清算型と主張している譲渡担保契約を帰属清算型のものと認定することにより、清算義務の発生時期ひいては清算金の有無及びその額が左右されると判断するのであれば、裁判所としては、そのような認定のあり得ることを示唆し、その場合に生ずべき事実上、法律上の問題点について当事者に主張・立証の機会を与えるべきであるのに、原審がその措置をとらなかつたのは、釈明権の行使を怠り、ひいて審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。 
のみならず、譲渡担保権の行使に伴う清算義務に関する原審の判断は、到底これを是認することができない。前示のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは、債権者の清算義務は具体的に確定するものではないというべきであり、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務全額の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者は受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるに至るものと解されるのであつて、この観点に立つて本件をみると、本件譲渡担保が帰属清算型の譲渡担保であるとしても、被上告人が、本件土地を確定的に自己の所有に帰属させる旨の前記内容証明郵便による意思表示とともに又はその後において、上告人に対し清算金の支払若しくはその提供をしたこと又は本件土地の適正評価額が上告人の債務の額を上回らない旨の通知をしたこと、及び上告人が貸金債務の全額を弁済したことは、当事者において主張せず、かつ、原審の確定しないところであるから、被上告人が本件土地をAに売却した時点において、上告人は受戻権ひいては本件土地に関する権利を終局的に失い、他方被上告人の上告人に対する貸金債権が消滅するとともに、清算金の有無及びその額は右時点を基準時として確定されるべきことになる。そして、右清算義務の確定に関する事実関係は、原審において当事者により主張されていたものというべきである。そうとすれば、原審としては、被上告人が本件土地をAに売却した時点における本件土地の適正な評価額(同人への売却価額七五〇〇万円が適正な処分価額であつたか否か)並びに右時点における被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を認定して、清算金の有無及びその金額を確定すべきであつたのであり、漫然前記のように判示して上告人の請求を棄却した原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備ないし審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。

・AのBに対する債務の弁済期経過後に、Bが甲土地をCに譲渡した場合、CがAとの関係で背信的悪意者と評価されるときでも、Aは債務の全額を弁済し、甲土地の所有権を回復することはできない!!!
+判例(H6.2.22)
三 しかしながら、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、最高裁昭和六〇年(オ)五六八号同六二年二月一二日第一小法廷判決・民集四一巻一号六七頁参照)。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない
けだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。したがって、前記事実関係によると、被上告人Aの債務の最終弁済期後に、Bが本件建物を上告人に贈与したことによって、被上告人Aは残債務を弁済してこれを受け戻すことができなくなり、上告人はその所有権を確定的に取得したものというべきである。これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

++解説
三 譲渡担保について、大審院以来の判例は、譲渡担保についていわゆる所有権構成を採用している。同じ財産権移転形式の非典型担保である仮登記担保に関する一連の判例(最大判昭49・10・23民集二八巻七号一四七三頁、本誌三一四号一五二頁で集大成された。)の影響を受け、譲渡担保についても、清算を要すること(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)、債務者は債務の履行を遅滞した場合であっても、換価処分が完結するまでは債務を弁済して目的物を受け戻すことができること(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁、本誌四六六号八三頁)など、担保目的という実質を考慮した判例が表われているが、これらも、譲渡担保によって目的物の所有権が設定者から第三者に移転していること自体を否定するものではなく、所有権構成は維持されている。これに対して学説は、譲渡担保権の法的構成について、近時は、担保権的な構成をするものが有力になっている(学説については、差し当たり竹内俊雄「譲渡担保の法的構成と効力」『ジュリ増刊民法の争点Ⅰ』一八〇頁参照)。
本判決は、弁済期後に担保権者が目的物の所有権を移転した場合には、譲受人の主観的態様を問題とせず(対抗問題になぞらえると、いわゆる背信的悪意者に当たるような者であるかどうかを問わず)、受戻権が消滅することを判示し、受戻権の存続期間を明らかにしたものである。従来からの判例の立場である所有権構成を前提とすれば、譲渡担保権者は目的物の所有権者であり、弁済期後には目的物の処分権に対する制限もなくなるから、譲渡担保権者による弁済期経過後の目的物の第三者への譲渡は完全に有効であり、第三者は、その主観的態様いかんにかかわらず目的物の所有権を取得し、反面、受戻権は消滅することとなる。本判決は、所有権構成を前提とした上で、さらに、実質的な理由として、①担保権者から弁済期後に目的物を譲り受けた第三者が背信的悪意者に当たるような者である場合には清算金が支払われるまでは受戻権は消滅しないとすると、その後も債務者が債務を弁済せず、債権者も清算金を支払わない場合には、権利関係が浮動の状態が長く続くことになること、②譲渡担保権者から目的不動産を譲渡された第三者が「背信的悪意者」であるか否かは、債権者(譲渡担保権者)にとって明白であるとはいえないから、「背信的悪意者」であるかどうかによって受戻権が消滅するかどうかが定まるのであれば、譲渡担保権者が不測の損害を被るおそれがあること(例えば、第三者が「背信的悪意者」であったため、受戻権・債権債務関係が存続したのに、目的不動産を第三者に譲渡することによって債権債務関係は終了していると信じていたために何らの権利保全の手段を採らず、債権が時効によって消滅し、ひいて譲渡担保権も消滅することも考えられる。)を付加したものと思われる。フム
本判決が引用する最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁、本誌六三三号一一一頁は、直接には、帰属清算型の譲渡担保について清算金の有無及びその額の確定時期を明らかにしたものであるが、その理由中で清算金の提供若しくは目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知、又は債権者が目的不動産を第三者に売却等した場合に受戻権が消滅する旨を判示していた。本判決は、これを確認し、処分清算、帰属清算を問わずに、弁済期後の目的物の所有権の移転によって受戻権が消滅することを明らかにしたものである。
なお、受戻権が消滅するとすれば、設定者が清算金の支払を受けることを確保する手段の確保が次の課題となると思われる。本判決が、「清算金との引換給付を求める旨の主張」等について審理をさせるために本件を原審に差し戻している点は、留置権を肯定する含みを表すものという理解もある(松岡久和・民商一一一巻六号九四九頁)。

・AがBに対する債務を弁済した後に、Bが甲土地をCに譲渡し、所有権移転登記をした場合でも、Aが甲土地の所有権を回復できる場合がある。!=第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別!!
+判例(S62.11.12)
上告人菅沼志づ外五名の代理人山本祐子、同前田留里の上告理由第二並びに上告人菅沼愛子外二名の代理人宇津泰親の上告理由中被上告人水野誠道関係の第一点及び第二点について
不動産が譲渡担保の目的とされ、設定者から譲渡担保権者への所有権移転登記が経由された場合において、被担保債務の弁済等により譲渡担保権が消滅した後に目的不動産が譲渡担保権者から第三者に譲渡されたときは、右第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別、そうでない限り、譲渡担保設定者は、登記がなければ、その所有権を右第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。これと同旨の見解に立ち、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、第一審判決添付の目録(八)記載の土地の譲渡担保設定者である亡菅沼高雄の地位を相続により承継した上告人菅沼志づ外六名及び同目録(一五)記載の建物の譲渡担保設定者である上告人株式会社大和製作所は、譲渡担保権の消滅後に譲渡担保権者の訴外荒巻藤夫から右土地建物の譲渡を受けた被上告人水野誠道に対し、その所有権を対抗することができないものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・債務者が債務の履行を遅滞したときは、帰属清算型の譲渡担保であっても、譲渡担保権者は、目的不動産を処分する権限を取得する!!

・動産譲渡担保は、所有権移転の形式をとるので、債務者が引き続き担保目的物を占有している場合でも、譲渡担保権者は占有改定によりその引渡しを受けることができ、それによって担保目的物の所有権の取得を第三者に対抗することができる!!
+判例(S30.6.2)
そして、売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。果して然らば、原判決の認定したところによれば、上告人(被控訴人)は昭和二六年三月一八日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつたものといわなければならない。しかるに、原判決は、被控訴人(上告人)において占有改定による引渡を了したことを認むべき証拠がなく、被控訴人は右所有権の取得を以て控訴人に対抗し得ないものとし、被控訴人の本訴請求を排斥したのは違法であつて、論旨はその理由あるものというべく、原判決は破棄を免れない。

・債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、債務の弁済が目的物の返還に対し先履行の関係にある!

+判例(H6.9.8)
上告代理人長谷川安雄の上告理由について
債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し先履行の関係にあり、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから(最高裁昭和五六年(オ)第八九〇号同五七年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号三三頁、最高裁昭和五五年(オ)第四八八号同六一年四月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一四七号五一五頁参照)、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

++解説
一 Y会社は、訴外A会社に二一二五万円を貸し付け、Aの代表取締役であったXは、これを担保するために、Yとの間にB会社の株式をYに譲渡する旨の譲渡担保契約を締結し、Yに株券を交付した。Xは、Yに対し、被担保債権の弁済を受けるのと引換えに本件株券を返還するよう求めて、本訴を提起した
第一審は、Xに買戻しの権利がないとの理由で請求を棄却した。これに対し、原審は、債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対して先履行の関係にあり、同時履行の関係にはないから、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるとして、控訴を棄却した。
Xは、上告し、原判決の判断は最一小判昭46・3・25(民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)に反すると主張した。
二 右最一小判昭46・3・25は、不動産を譲渡担保とした債務者が弁済をしなかった場合について、債務者の債権者に対する不動産の引渡義務と債権者の債務者に対する清算金の支払義務とが、特段の事情のある場合を除き、同時履行の関係にあるとしたものである。これに対し、本訴で問題になっているのは、譲渡担保設定者が担保物を受け戻す場合における弁済と受戻しの関係であるから、右判例が本訴とは事案を異にするものであることは明らかである。
右最一小判昭46・3・25は、これに先だって最一小判昭45・9・24(民集二四巻一〇号一四五〇頁)が、代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と債務者の本登記手続義務ないし引渡義務との関係について、原則として同時履行の関係にあるとしていたのを、譲渡担保にまで押し及ぼしたものであるが、この判決の判例解説(小倉顕調査官)は、「清算金と債務者の有していた留保価値とが対価関係に立つから、これにつき売買が行われたと同じ実質をもつともいえる」ことをその理由としている。つまり、ここで問題となっているのは、譲渡担保契約における双方の対立債務であるから、民法五三三条が適用されるとしたものであろう。

三 これに対し、本訴で問題になっているのは、消費貸借契約に基づく弁済の債務と譲渡担保契約に基づく(又はこれから派生する)返還の債務との関係である。被担保債権が弁済その他の事由で消滅すれば、担保権の付従性によって譲渡担保権も消滅し、譲渡担保権者は、目的物を直接占有していればこれを設定者に返還する義務を負う。しかし、両者は別個の契約に基づく債務であるから、民法五三三条の要件を満たさず、同時履行の関係にはないことになる。判例・学説は、この見解を採っているということができる(大判昭2・10・26新聞二七七五号一三頁、注釈民法(9)三六七頁〔柚木=福地〕)。
譲渡担保については、この見解を明言する最高裁判例はまだなかったが、抵当権及び仮登記担保権については、同様の場合に同時履行関係を否定し、弁済が先給付の関係にあるとするのが、最高裁の判例である。すなわち、抵当権については、大判明37・10・14(民録一〇号一二五八頁)のその旨の判示を最二小判昭41・9・16(裁集民八四号三九七頁)と最三小判昭57・1・19(裁集民一三五号三三頁、本誌四六四号八六頁)が追認しており(いずれも、債務の弁済と抵当権設定登記の抹消登記手続との関係に関するもの)、また、仮登記担保権については、最二小判昭61・4・11(裁集民一四七号五一五頁)が、債務の弁済は仮登記の抹消登記手続の履行に対し先給付の関係にあると判示している。さらに、質権については、明文の規定があり(民法三四七条)、質権者が債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができるものとされている。譲渡担保について、これらの場合と結論を異にすべき理由は見いだし難いであろう。
もっとも、このような見解は形式的論理に過ぎ、実質的に考えれば、両者は双務契約における対立債務と同視し得る関係にあるとして、当事者の黙示的合意等を根拠に同時履行の関係を認めるべきであるとの見解もあり得るところかと思われる(抵当権についてはこのような学説も有力である。)。しかし、仮に同時履行の関係を認めると、債権者としては、弁済を受ける前から登記の抹消(不動産の場合)や担保物の返還の準備に着手しなければならなくなり、債権者に過重な負担を課することとなって相当でないともいえよう(仮登記担保に関する右最二小判昭61・4・11の判示するところである)。フム・・・

+(質物の留置)
第347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。

・譲渡担保権の設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知をしない間に、譲渡担保の受戻権を放棄したとしても、譲渡担保権者に対して清算金の支払いを請求することはできない!!!!!
+判例(H8.11.22)
三 しかしながら、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。
けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。
四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に判示したところによれば、被上告人の本件請求は理由がないから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、これを棄却すべきものである。

++解説
三 本判決は、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権実行の完結時点における譲渡担保目的物の価額から残存する被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権実行の完結前に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保目的物の所有権等を回復する権利であって、両者は発生原因を異にする別個の権利であるから、受戻権の放棄は清算金支払請求権を発生させる原因とはならないと判示した上、譲渡担保権者による譲渡担保権完結時期(譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をし、又は清算金がない旨の通知をした時点)前に譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権は発生しないとして、原判決を破棄し、一審判決を取り消して、原告の請求を棄却した。
四 本件の第一審判決(大阪地判平4・3・30、判時一四三六号七四頁)は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄して譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求し得るかという法律問題についての見解を示す唯一の公刊裁判例であった。受戻権に関する従来の議論は、設定者が受戻権をどの時点まで行使できるかという観点からのものであり、本件のように、設定者の側で受戻権を放棄した場合の法律関係について論じた文献は、本件一審判決の立場を支持する評釈が散見されるのみである。
譲渡担保権設定者による、受戻権の法的性質に関して、従来の判例は、譲渡担保権者は一般的に清算義務を負うこと(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁)、譲渡担保においては、債務者が被担保債務全額を弁済すれば、その効果として、譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づきその返還を求め得る(この権利が「受戻権」と定義されている)こと(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁)、債権者が担保権の実行を完結するまでの間(債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又のとき、又は目的不動産の適正評価額が被担保債務の額を上回らない旨の通知をしたとき)債務者の受戻権は消滅せず、債権者の清算義務は具体的に確定しないこと(最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁)を判示している。
これら判例によれば、受戻権は、債務者が被担保債務全額を弁済した効果として譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づき発生する権利であるから、被担保債権を消滅させないまま譲渡担保権者に清算金支払義務を負わせる理論的根拠は見出し難いであろう。また、実質的にも、抵当権については、抵当権者が権利を実行する時期を決定することができ、抵当権設定者はその時期を決定することができないのに対し、譲渡担保権設定者が受戻権を放棄することにより清算金の請求ができると解するならば、譲渡担保権設定者の側で譲渡担保権実行の時期を決定することができることになるが、このような結果は譲渡担保権者にとって酷であり、抵当権者との比較において妥当性を欠くといわざるを得ないであろう。
なお、本判決は、「譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、」と判示しながら、受戻権が放棄された後における譲渡担保権者及び設定者の権利関係について、それ以上の判示をしていない。受戻権の放棄によって清算金請求権が発生しないことを判示すれば、本件事案を解決するためには十分であるから、あえて傍論を展開することは避けたものであろう。したがって、清算金請求権以外の右権利関係については、今後の判例の動向が注目される。
本判決は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求することはできないという新たな法理を明らかにしたものであり、従来判例の存しない事項について、下級審裁判例及び学説と異なる結論を採った判例であって、金融実務などの実務に与える影響も極めて大きいといえよう。

・不動産の譲渡担保権設定者は、担保目的物の精算時までは、債務を弁済して担保目的物の完全な所有権を回復できる地位にあり、担保目的物を不法占有する者に対してその返還を請求することができる!!!!
+判例(S57.9.28)
上告代理人関康雄の上告理由一について
譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであつて、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによつて換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから(最高裁昭和三九年(オ)第四四〇号同四一年四月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、同昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、同昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。

・借地上の建物の譲渡担保の効力は、土地の賃借権に及ぶ!!!
+判例(S51.9.21)
上告代理人田中寿秋の上告理由について
債務者である土地の賃借人がその賃借地上に所有する建物を譲渡担保とした場合には、その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り、右譲渡担保権の効力は、原則として土地の賃借権に及び、債権者が担保権の実行としての換価処分により建物の所有権をみずから確定的に取得し又は第三者にこれを取得させたときは、これに随伴して土地の賃借権もまた債権者又は第三者に譲渡されると解すべきである。したがつて、債権者がいわゆる帰属清算の方法により建物の所有権を取得する場合において、債務者に交付すべき清算金額を算定するにあたつては、特段の事情のない限り、借地権付の建物として適正に評価された価額を基準としてすることを要する(この場合、土地賃借権の譲渡の承諾を得るにつき土地の賃貸人に対し適正な金額の給付を要するときは、右金額は、換価に要する相当な費用として、清算金額の算定上控除することができる。)。しかしながら、土地賃借権の譲渡について賃貸人の承諾(又はこれに代わる許可の裁判)を得ることが不可能又は著しく困難な事情にあつて、債権者が建物の所有権を取得しても借地法一〇条による建物買取請求権の行使をするほかはないと認められるときは、右買取請求権を行使した場合における建物の時価を基準として清算金額を算定することが許されると解するのが、相当である。 フムフムフム!!!
原判決は、措辞いささか明確を欠くが、結局において右と同旨の見解に立脚しつつ、本件の土地賃借権の残存期間や賃貸人が契約終了を理由に土地の明渡しを要求していることなどを含む従前の経過その他の諸事情をしんしやくしたうえ、本件建物を債権者である被上告人が取得するとしても、土地賃借権の譲渡につきとうてい賃貸人の承諾を得ることができず、建物買取請求権を行使する以外に方途がない旨の事情の存在を認定し、その場合における本件建物の時価をもつて本件建物の適正評価額としたうえ清算金額が金四〇万円を上回るものではないと算定したものと認められる。そして、原判決挙示の証拠関係に照らすと、所論の点に関する原審の認定判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


刑事訴訟法 判例 捜索差押え その1


判例(H6.9.8)
弁護人若松芳也の上告趣意は、違憲をいう点を含め、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
なお、原判決の是認する第一審判決の認定によれば、京都府中立売警察署の警察は、被告人の内妻であったAに対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、平成三年一月二三日・右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが、その際、同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって・右のような事実関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当であるから、これと同旨に出た第一審判決を是認した原判決は正当である。

++解説
一 本件は、被告人が覚せい剤約三三〇・八五グラムを営利目的で所持したという事案において、右覚せい剤が違法収集証拠であるとしてその証拠能力が争われたものである。すなわち、右覚せい剤の発見押収の経過は、捜査官が、被告人の内妻に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、右許可状に基づき右居室の捜索を実施した際、同室にいた被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索し、本件覚せい剤を発見したことから、覚せい剤営利目的所持の被疑事実により被告人を現行犯逮捕するとともに、逮捕の現場における差押えとして右覚せい剤を差し押さえたというものであり、右捜索差押手続の適法性が争われたものである。
二 本決定は、本件場所に対する捜索差押許可状によってその場所に居住する被告人がその場で携帯するボストンバッグについて捜索できるかとの争点につき、これを肯定した一、二審判決を是認する旨の職権判断をした。
三 本件のような場合における捜索の適否に関する最高裁の判断はこれまでなく、下級裁の裁判例としては、場所に対する捜索差押許可状によってその場所で生活していた者がその場から持ち出そうとしたバッグにつき捜索したことを適法としたものがあり(京都地決昭48・12・11本誌三〇七号三〇五頁、判時七四三号一一七頁)、学説も、通常そこにいる人の所持する物については、「その場所にある物」として捜索差押えの対象になるとするもの(山本正樹・同志社法学二六巻四号七六頁)、捜索場所に居合わせた者の携帯する手提げ鞄等について、もともと捜索場所にあった物と認められるものであれば捜索の対象として差し支えないとするもの(田宮裕編著・刑事訴訟法Ⅰ三七六頁〔青木吉彦〕)など、肯定的見解が目につく。
なお、場所に対する捜索令状によって捜索場所に居合わせた者の身体の捜索が許されるかについては、多くの見解があるが、下級裁裁判例は、一定の条件の下でこれを肯定しており(東京高判平6・5・11本誌八六一号二九九頁等)、学説も同様の見解が有力である(島田仁郎・新版令状基本問題五七四頁)。
四 本決定の理由としては、① 捜索場所の居住者は、被疑事件又は被疑者となんらかの関係があって差押えの目的物を所持しているのではないかとの疑いを抱かせるものであるから、その者の所持品につき捜索する必要性は大きいこと、② 人が携帯するバッグ等の捜索は、例えば上着ポケット内の財布等身体に密着させて所持する物の捜索と異なり、これを携帯する人の身体の捜索を伴うものではなく、あくまで当該物の捜索にすぎないから、これを捜索することによる権利の侵害は身体の捜索の場合に比較して小さいといってよいこと、③ 捜索場所の居住者がその場でバッグ等を携帯している場合には、右バッグ等は未だ捜索場所から離脱したものではないと見ることが可能であり、これらを捜索場所にある物と同一視して捜索場所に含ませて考えても不合理と思われないことが挙げられよう。


民法択一 物権 先取特権 先取特権の効力


・一般先取特権は、物を占有する権利を含まない物権であるから、それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することはできない!!!

・動産売買の先取特権を有する者は、物上代位権行使の目的である債権について、一般債権者が差押えをした後であっても、物上代位権を行使することができる!!!!
+判例(S60.7.19)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第九二七号同五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号四三一頁参照)。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、一般債権者たる被上告人らは、本件転売代金債権について仮差押の執行をしたにすぎないから、その後に上告人が本件物上代位権を行使することは妨げられないものというべきである。これと異なる原審の判断には民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。

+(物上代位)
第304条
1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

・動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する第三者に対する対抗要件が具備された後は、物上代位権を行使することはできない!!!!
+判例(H17.2.22)
3 民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
4 前記事実関係によれば、A社は、被上告人が本件転売代金債権を譲り受けて第三者に対する対抗要件を備えた後に、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから、上告人は、被上告人に対し、本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。

++解説
(2) ところで,抵当権は,第三者に対しても追及効がある担保物権であるとされている。これは,抵当権は,登記という形で公示制度が完備されていることから,第三者に対して追及効を認めても,第三者に不測の損害を与えるおそれがないことによるものである。ところで,債権譲渡により,債権が債務者から第三者に移転すると,債務者が第三債務者から金銭を受け取るべき関係がないことになるから,物上代位権を行使して差し押さえることができなくなるのではないかという疑問が生ずる。しかし,抵当権のみならず,抵当権の物上代位権にも追及効があると考えるならば,譲渡された債権についても有効に差し押さえることができるということになるのであって,平成10年最判は正にこのような考え方に立脚するものである(平10最判解説(民)(上)26頁以下)。そして,平成10年最判の理由付けの中で注目すべき点は,抵当権の効力が物上代位の目的債権にも及ぶことは,抵当権設定登記により公示されているとみることができるとしたことである。その上で,平成10年最判は,債権譲渡の対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れる場合には,もともと実体法上は抵当権者が優先すると考えられることから,債権譲渡後の物上代位権の行使を認めても,債権譲受人の立場は害されないと考えているものと推測される(前記最判解説26頁)。

これに対し,動産売買の先取特権は,債務者が,その目的物である動産を第三者に引き渡すと,その動産には先取特権の効力は及ばないこととされている(民法333条。先取特権は,先取特権者の占有を要件としていないため,目的物が動産の場合には公示方法が存在せず,追及効を制限することにより動産取引の第三者を保護しようとしたのであるそうとすれば,動産売買の先取特権に基づく物上代位権も目的債権が譲渡され,債権が債務者から第三者に移転すると,もはや追及効がなくなるものと解すべきである。このような場合にも追及効があるとすれば,抵当権とは異なり,動産売買の先取特権には公示方法がないことから,第三者(債権譲受人等)の立場を不当に害するおそれがあるものと考えられる。民法304条1項ただし書の規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである(内田貴・民法Ⅲ 債権総論・担保物権(第2版)511頁,道垣内弘人「昭和60年最判の判例批評」別冊ジュリ159号175頁等参照)。
以上によれば,本判決が判示するとおり,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

・債務者に対して破産手続開始の決定がされたときであっても、先取特権者は物上代位権を行使することができる!!!!
=甲動産を所有するAが、これをBに売却し、さらにBがCに譲渡したが、AがBから代金の支払いを受けていない場合であって、BからCへの甲動産の譲渡が売買に基づくものであるときには、Bに対して破産手続開始の決定がされたときであっても、Aは、動産売買先取特権の行使として、BのCに対する代金債権を差し押さえることができる!!
+判例(59.2.2)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持されこれにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもつて目的債権につき差押命令を取得したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使することを妨げられるとすべき理由はないというべきである。そして、債務者が破産宣告決定を受けた場合においても、その効果の実質的内容は、破産者の所有財産に対する管理処分権能が剥奪されて破産管財人に帰属せしめられるとともに、破産債権者による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり、これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではなく、これを前記一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。したがつて、先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。