民法択一 物権 先取特権 先取特権の効力


・一般先取特権は、物を占有する権利を含まない物権であるから、それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することはできない!!!

・動産売買の先取特権を有する者は、物上代位権行使の目的である債権について、一般債権者が差押えをした後であっても、物上代位権を行使することができる!!!!
+判例(S60.7.19)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第九二七号同五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号四三一頁参照)。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、一般債権者たる被上告人らは、本件転売代金債権について仮差押の執行をしたにすぎないから、その後に上告人が本件物上代位権を行使することは妨げられないものというべきである。これと異なる原審の判断には民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえない。

+(物上代位)
第304条
1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

・動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する第三者に対する対抗要件が具備された後は、物上代位権を行使することはできない!!!!
+判例(H17.2.22)
3 民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
4 前記事実関係によれば、A社は、被上告人が本件転売代金債権を譲り受けて第三者に対する対抗要件を備えた後に、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから、上告人は、被上告人に対し、本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。

++解説
(2) ところで,抵当権は,第三者に対しても追及効がある担保物権であるとされている。これは,抵当権は,登記という形で公示制度が完備されていることから,第三者に対して追及効を認めても,第三者に不測の損害を与えるおそれがないことによるものである。ところで,債権譲渡により,債権が債務者から第三者に移転すると,債務者が第三債務者から金銭を受け取るべき関係がないことになるから,物上代位権を行使して差し押さえることができなくなるのではないかという疑問が生ずる。しかし,抵当権のみならず,抵当権の物上代位権にも追及効があると考えるならば,譲渡された債権についても有効に差し押さえることができるということになるのであって,平成10年最判は正にこのような考え方に立脚するものである(平10最判解説(民)(上)26頁以下)。そして,平成10年最判の理由付けの中で注目すべき点は,抵当権の効力が物上代位の目的債権にも及ぶことは,抵当権設定登記により公示されているとみることができるとしたことである。その上で,平成10年最判は,債権譲渡の対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れる場合には,もともと実体法上は抵当権者が優先すると考えられることから,債権譲渡後の物上代位権の行使を認めても,債権譲受人の立場は害されないと考えているものと推測される(前記最判解説26頁)。

これに対し,動産売買の先取特権は,債務者が,その目的物である動産を第三者に引き渡すと,その動産には先取特権の効力は及ばないこととされている(民法333条。先取特権は,先取特権者の占有を要件としていないため,目的物が動産の場合には公示方法が存在せず,追及効を制限することにより動産取引の第三者を保護しようとしたのであるそうとすれば,動産売買の先取特権に基づく物上代位権も目的債権が譲渡され,債権が債務者から第三者に移転すると,もはや追及効がなくなるものと解すべきである。このような場合にも追及効があるとすれば,抵当権とは異なり,動産売買の先取特権には公示方法がないことから,第三者(債権譲受人等)の立場を不当に害するおそれがあるものと考えられる。民法304条1項ただし書の規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである(内田貴・民法Ⅲ 債権総論・担保物権(第2版)511頁,道垣内弘人「昭和60年最判の判例批評」別冊ジュリ159号175頁等参照)。
以上によれば,本判決が判示するとおり,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

・債務者に対して破産手続開始の決定がされたときであっても、先取特権者は物上代位権を行使することができる!!!!
=甲動産を所有するAが、これをBに売却し、さらにBがCに譲渡したが、AがBから代金の支払いを受けていない場合であって、BからCへの甲動産の譲渡が売買に基づくものであるときには、Bに対して破産手続開始の決定がされたときであっても、Aは、動産売買先取特権の行使として、BのCに対する代金債権を差し押さえることができる!!
+判例(59.2.2)
民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持されこれにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもつて目的債権につき差押命令を取得したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使することを妨げられるとすべき理由はないというべきである。そして、債務者が破産宣告決定を受けた場合においても、その効果の実質的内容は、破産者の所有財産に対する管理処分権能が剥奪されて破産管財人に帰属せしめられるとともに、破産債権者による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり、これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではなく、これを前記一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。したがつて、先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。