民法択一 物権 非典型担保 譲渡担保


・譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲は、強行法規や公序良俗に反しない限り、設定契約の当事者間において元本、利息及び遅延損害金について自由に定めることができる!!

+判例(S61.7.15)!!!大切
上告代理人山根晃の上告理由第一について
不動産の譲渡担保権者がその不動産に設定された先順位の抵当権又は根抵当権の被担保債権を代位弁済したことによつて取得する求償債権は、譲渡担保設定契約に特段の定めのない限り、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないと解するのが相当である。
けだし、譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲については、強行法規又は公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ第三者に対する関係においても、抵当権に関する民法三七四条(375?)又は根抵当権に関する同法三九八条ノ三の規定に準ずる制約を受けないものと解すべきであるが、抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の負担のある不動産に譲渡担保権の設定を受けた債権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によつて担保される債権額を控除した価額についてのみ優先弁済権を有するにすぎず、そのような地位に立つことを承認し、右価額を引き当てにして譲渡担保権の設定を受けたのであるから先順位の抵当債務を弁済し、これによつて取得すべき求償債権をも当然に譲渡担保の被担保債権に含ませることまでは予定していないのが譲渡担保設定当事者の通常の意思であると解されるからである。もとより、かかる譲渡担保権者は、先順位の抵当債務を弁済するにつき正当な利益を有するものというべきであるから、代位弁済によつて求償権を取得するとともに、先順位抵当権者の債権及び抵当権について代位することはいうまでもないが(民法五〇〇条)、右求償権は代位によつて取得する抵当権によつて優先弁済を受けられるのであつて、求償権者としての利益はこれによつて十分保護されるというべきである。また、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は、目的物の物としての価値の減損を防ぐための費用ではなく、むしろ譲渡担保権者自身の担保権を保全するための出捐とみられるのであつて、これを担保物の保存の費用と解するのは相当でない。この点について原審は、譲渡担保権者が先順位の抵当債務を弁済するために要した費用は担保物の保存の費用に該当するが、設定契約に特段の定めのない限り、右費用は譲渡担保権によつて担保されるべき債権の範囲に含まれないとしているのであつて、右弁済のための費用を担保物の保存の費用とした点は失当たるを免れないけれども、叙上と同旨の結論は正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

・譲渡担保における受戻権は形成権ではないから、20年の時効では消滅しない!!
+判例(S57.1.22)
四 ところで、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権の弁済に充てることができるが、他方、債務者は、債務の弁済期の到来後も、債権者による換価処分が完結するに至るまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すことができる、と解するのが相当である。そうすると、債務者によるいわゆる受戻の請求は、債務の弁済により債務者の回復した所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、又はこれに由来する抹消ないし移転登記請求権の行使として行われるものというべきであるから、原判示のように、債務の弁済と右弁済に伴う目的不動産の返還請求権等とを合体して、これを一個の形成権たる受戻権であるとの法律構成をする余地はなく!!、したがつてこれに民法一六七条二項の規定を適用することは許されないといわなければならない。
してみれば、前掲の見解を前提として、Aのした本件債務の弁済が形成権たる受戻権の二〇年の時効期間経過後にされたものであることを理由に弁済の効力を否定した原審の判断には、譲渡担保に関する法令の解釈、適用を誤つた違法があるものといわなければならない。そして、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件債務について、その本旨に従つた弁済がなされたかどうか、本件土地についてAが返還請求権を取得したかどうか等につき、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

+(債権等の消滅時効)
第167条
1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

・動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となり、占有改定により引渡しがなされた場合、当該先取特権者が先取特権に基づいて動産競売の申立てをしたときは、特段の事情がない限り、譲渡担保権者は訴えをもって動産競売の不許を求めることができる!!←「引き渡し」(333条)には占有改定も含まれる。譲渡担保権者は「第三取得者」(333条)に含まれる。
+判例(S62.11.10)
(四) 本件物件の価額は五八五万四五九〇円である、(五) 上告会社は、本件物件につき動産売買の先取特権を有していると主張して、昭和五四年一二月、福岡地方裁判所所属の執行官に対し、右先取特権に基づき、競売法三条による本件物件の競売の申立(福岡地裁昭和五四年(執イ)第三二六五号)をした、というのである。
ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

+(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

・構成部分の変動する集合動産については、1個の集合物として譲渡担保権の目的物となりうる!
+判例(S54.2.15)
上告代理人美村貞夫、同高橋民二郎、同土橋頼光の上告理由第一点及び第二点について
構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。
原審が認定したところによれば、(1) 訴外川崎電機株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年八月二七日その所有する食用乾燥ネギフレーク(以下「乾燥ネギ」という。)のうち二八トンを上告会社に対する一四〇〇万円の債務の譲渡担保として提供すること、上告会社は右ネギをいつでも自由に売却処分することができることを約した、(2) 当時訴外会社は、被上告会社との間に締結した継続的倉庫寄託契約に基づきその所有する乾燥ネギ四四トン三〇三キログラムを被上告会社倉庫に寄託していた、(3) 同日訴外会社から上告会社あて交付された被上告会社作成の冷蔵貨物預証には、「品名青葱フレーク三五〇〇C/S」「数量8kg段ボール四mm」「右貨物正に当方冷蔵庫第No.5No.8No.11No.12号へ入庫しました出庫の際は必ず本証をご提示願います」と記載されていたが、右預証は在庫証明の趣旨で作成されたものであり、上告会社社員が被上告会社倉庫へ赴いたのも単に在庫の確認のためであつて、目的物の特定のためではなかつた、(4) 上告会社は、前記譲渡担保契約締結前に訴外会社から乾燥ネギ一七・六トンを買い受けたことがあつたが、そのうち八トンは訴外会社三重工場から直接上告会社に送付され、残り九・六トンについては被上告会社の上告会社あて冷蔵貨物預証が差し入れられ、その現実の引渡しとしては、上告会社から訴外会社に指示し、訴外会社がこれを承けて被上告会社から該当数量を受け出し、これを上告会社指定の荷送先に送付する方法によつてすることとされていたところ、本件譲渡担保契約においてもこれと異なる約定がされたわけではなく、右契約締結後訴外会社から上告会社に対し乾燥ネギ二八トンのうちの三トン二四八キログラムが六回にわたり引き渡されたが、うち二トン八四八キログラムは訴外会社三重工場から上告会社に直送され、うち四〇〇キログラムは、さきの場合と同様、上告会社の指示により訴外会社が被上告会社から受け出して上告会社指定の荷送先に送付したものであつた、というのである。右の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいては、末だ訴外会社が上告会社に対し被上告会社に寄託中の乾燥ネギのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・AのBに対する債務を担保するために自己所有の甲土地にBのために譲渡担保権を設定し、所有権移転登記をした。AのBに対する債務の弁済期経過前に、Bは甲土地をCに譲渡した。甲土地が譲渡担保目的物であることをCが知っていた場合でも、Cは、甲土地の所有権を取得することができる!!!=善意悪意を問わない!

・AのBに対する債務の弁済期経過後であっても、Bが担保権の実行を完了するまでの間は、Aは、Bに対する債務を弁済して甲土地の所有権を回復することができる!!!

+判例(S62.2.12)
上告代理人木幡尊の上告理由について
一 債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁参照)、他方、弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)。
けだし、譲渡担保契約の目的は、債権者が目的不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権取得はかかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられるからである。 !!!!
右のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである。もつとも、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である。

二 ところで、記録によれば、本件訴訟は次のような経過をたどつていることが明らかである。すなわち、上告人は、第一審において、被上告人に対し、原判決添付の物件目録1ないし21記載の各土地(以下、一括して「本件土地」という。)について譲渡担保の目的でされた、被上告人を権利者とする第一審判決添付の登記目録記載の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続を求めたところ、受戻権の要件たる債務弁済の事実が認められないとして、請求を棄却されたため、原審において、清算金の支払請求に訴えを交換的に変更した。そして、上告人は、本件譲渡担保が処分清算型の譲渡担保であることを前提としつつ、被上告人が昭和五七年五月一〇日にした訴外Aに対する本件土地の売却によつて被上告人の上告人に対する清算金支払義務が確定したとして、右の時点を基準時とし、被上告人・A間の裏契約による真実の売買代金額又は本件土地の客観的な適正価格に基づいて、清算金の額を算定すべきものと主張した。これに対し、被上告人は、右売却時を基準時として清算金の額を算定すること自体は争わず、Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるとし、右価額から被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を控除すると、上告人に支払うべき清算金は存在しない旨主張し、原審においては、専ら、(イ)Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるかどうか、(ロ)被上告人とAとの間に上告人主張の裏契約があつたか否か、(ハ)清算にあたつて控除されるべき費用等の範囲及びその額について主張・立証が行われ、(イ)の争点については、上告人の申請に基づき、右売却処分時における本件土地の適正評価額についての鑑定が行われた。そして、本件譲渡担保が帰属清算型であることについては、当事者双方から何らの主張もなく、その点についての立証が尽くされたとは認められず、原審がその点について釈明をした形跡も全くない
三 原審は、その認定した事実関係に基づき、本件譲渡担保は、期限までに被担保債務が履行されなかつたときは債権者においてその履行に代えて担保の目的を取得できる趣旨の、いわゆる帰属清算型の譲渡担保契約であると認定したうえ、被上告人は、昭和四六年五月四日付内容証明郵便をもつて、上告人に対し、本件譲渡担保の被担保債権である貸金を同月二〇日までに返済するよう催告するとともに、右期限までにその支払がないときは、本件土地を被上告人の所有とする旨の意思表示をしたが、上告人が右期限までにその支払をしなかつたので、右内容証明郵便による譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した同月七日をもつて、本件譲渡担保の目的たる本件土地に関する権利が終局的に被上告人に帰属するに至つたというべきであり、被上告人とAとの間の本件土地の売買契約は、右権利が終局的に被上告人に帰属した後にされたものであつて、譲渡担保権の行使としてされたものではなく、上告人と被上告人との間の清算は、譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した昭和四六年五月七日を基準時として、当時の本件土地に関する権利の適正な価格と右貸金の元利金合計額との間でされるべきであるところ、この場合の清算金の有無及びその金額につき上告人は何らの主張・立証をしないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人の請求は理由がないとして、これを棄却すべきものと判断している。
四 しかしながら、原審の右認定判断は、前示の審理経過に照らすと、いかにも唐突であつて不意打ちの感を免れず、本件において当事者が処分清算型と主張している譲渡担保契約を帰属清算型のものと認定することにより、清算義務の発生時期ひいては清算金の有無及びその額が左右されると判断するのであれば、裁判所としては、そのような認定のあり得ることを示唆し、その場合に生ずべき事実上、法律上の問題点について当事者に主張・立証の機会を与えるべきであるのに、原審がその措置をとらなかつたのは、釈明権の行使を怠り、ひいて審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。 
のみならず、譲渡担保権の行使に伴う清算義務に関する原審の判断は、到底これを是認することができない。前示のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは、債権者の清算義務は具体的に確定するものではないというべきであり、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務全額の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者は受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるに至るものと解されるのであつて、この観点に立つて本件をみると、本件譲渡担保が帰属清算型の譲渡担保であるとしても、被上告人が、本件土地を確定的に自己の所有に帰属させる旨の前記内容証明郵便による意思表示とともに又はその後において、上告人に対し清算金の支払若しくはその提供をしたこと又は本件土地の適正評価額が上告人の債務の額を上回らない旨の通知をしたこと、及び上告人が貸金債務の全額を弁済したことは、当事者において主張せず、かつ、原審の確定しないところであるから、被上告人が本件土地をAに売却した時点において、上告人は受戻権ひいては本件土地に関する権利を終局的に失い、他方被上告人の上告人に対する貸金債権が消滅するとともに、清算金の有無及びその額は右時点を基準時として確定されるべきことになる。そして、右清算義務の確定に関する事実関係は、原審において当事者により主張されていたものというべきである。そうとすれば、原審としては、被上告人が本件土地をAに売却した時点における本件土地の適正な評価額(同人への売却価額七五〇〇万円が適正な処分価額であつたか否か)並びに右時点における被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を認定して、清算金の有無及びその金額を確定すべきであつたのであり、漫然前記のように判示して上告人の請求を棄却した原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備ないし審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。

・AのBに対する債務の弁済期経過後に、Bが甲土地をCに譲渡した場合、CがAとの関係で背信的悪意者と評価されるときでも、Aは債務の全額を弁済し、甲土地の所有権を回復することはできない!!!
+判例(H6.2.22)
三 しかしながら、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、最高裁昭和六〇年(オ)五六八号同六二年二月一二日第一小法廷判決・民集四一巻一号六七頁参照)。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない
けだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。したがって、前記事実関係によると、被上告人Aの債務の最終弁済期後に、Bが本件建物を上告人に贈与したことによって、被上告人Aは残債務を弁済してこれを受け戻すことができなくなり、上告人はその所有権を確定的に取得したものというべきである。これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

++解説
三 譲渡担保について、大審院以来の判例は、譲渡担保についていわゆる所有権構成を採用している。同じ財産権移転形式の非典型担保である仮登記担保に関する一連の判例(最大判昭49・10・23民集二八巻七号一四七三頁、本誌三一四号一五二頁で集大成された。)の影響を受け、譲渡担保についても、清算を要すること(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)、債務者は債務の履行を遅滞した場合であっても、換価処分が完結するまでは債務を弁済して目的物を受け戻すことができること(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁、本誌四六六号八三頁)など、担保目的という実質を考慮した判例が表われているが、これらも、譲渡担保によって目的物の所有権が設定者から第三者に移転していること自体を否定するものではなく、所有権構成は維持されている。これに対して学説は、譲渡担保権の法的構成について、近時は、担保権的な構成をするものが有力になっている(学説については、差し当たり竹内俊雄「譲渡担保の法的構成と効力」『ジュリ増刊民法の争点Ⅰ』一八〇頁参照)。
本判決は、弁済期後に担保権者が目的物の所有権を移転した場合には、譲受人の主観的態様を問題とせず(対抗問題になぞらえると、いわゆる背信的悪意者に当たるような者であるかどうかを問わず)、受戻権が消滅することを判示し、受戻権の存続期間を明らかにしたものである。従来からの判例の立場である所有権構成を前提とすれば、譲渡担保権者は目的物の所有権者であり、弁済期後には目的物の処分権に対する制限もなくなるから、譲渡担保権者による弁済期経過後の目的物の第三者への譲渡は完全に有効であり、第三者は、その主観的態様いかんにかかわらず目的物の所有権を取得し、反面、受戻権は消滅することとなる。本判決は、所有権構成を前提とした上で、さらに、実質的な理由として、①担保権者から弁済期後に目的物を譲り受けた第三者が背信的悪意者に当たるような者である場合には清算金が支払われるまでは受戻権は消滅しないとすると、その後も債務者が債務を弁済せず、債権者も清算金を支払わない場合には、権利関係が浮動の状態が長く続くことになること、②譲渡担保権者から目的不動産を譲渡された第三者が「背信的悪意者」であるか否かは、債権者(譲渡担保権者)にとって明白であるとはいえないから、「背信的悪意者」であるかどうかによって受戻権が消滅するかどうかが定まるのであれば、譲渡担保権者が不測の損害を被るおそれがあること(例えば、第三者が「背信的悪意者」であったため、受戻権・債権債務関係が存続したのに、目的不動産を第三者に譲渡することによって債権債務関係は終了していると信じていたために何らの権利保全の手段を採らず、債権が時効によって消滅し、ひいて譲渡担保権も消滅することも考えられる。)を付加したものと思われる。フム
本判決が引用する最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁、本誌六三三号一一一頁は、直接には、帰属清算型の譲渡担保について清算金の有無及びその額の確定時期を明らかにしたものであるが、その理由中で清算金の提供若しくは目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知、又は債権者が目的不動産を第三者に売却等した場合に受戻権が消滅する旨を判示していた。本判決は、これを確認し、処分清算、帰属清算を問わずに、弁済期後の目的物の所有権の移転によって受戻権が消滅することを明らかにしたものである。
なお、受戻権が消滅するとすれば、設定者が清算金の支払を受けることを確保する手段の確保が次の課題となると思われる。本判決が、「清算金との引換給付を求める旨の主張」等について審理をさせるために本件を原審に差し戻している点は、留置権を肯定する含みを表すものという理解もある(松岡久和・民商一一一巻六号九四九頁)。

・AがBに対する債務を弁済した後に、Bが甲土地をCに譲渡し、所有権移転登記をした場合でも、Aが甲土地の所有権を回復できる場合がある。!=第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別!!
+判例(S62.11.12)
上告人菅沼志づ外五名の代理人山本祐子、同前田留里の上告理由第二並びに上告人菅沼愛子外二名の代理人宇津泰親の上告理由中被上告人水野誠道関係の第一点及び第二点について
不動産が譲渡担保の目的とされ、設定者から譲渡担保権者への所有権移転登記が経由された場合において、被担保債務の弁済等により譲渡担保権が消滅した後に目的不動産が譲渡担保権者から第三者に譲渡されたときは、右第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別、そうでない限り、譲渡担保設定者は、登記がなければ、その所有権を右第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。これと同旨の見解に立ち、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、第一審判決添付の目録(八)記載の土地の譲渡担保設定者である亡菅沼高雄の地位を相続により承継した上告人菅沼志づ外六名及び同目録(一五)記載の建物の譲渡担保設定者である上告人株式会社大和製作所は、譲渡担保権の消滅後に譲渡担保権者の訴外荒巻藤夫から右土地建物の譲渡を受けた被上告人水野誠道に対し、その所有権を対抗することができないものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

・債務者が債務の履行を遅滞したときは、帰属清算型の譲渡担保であっても、譲渡担保権者は、目的不動産を処分する権限を取得する!!

・動産譲渡担保は、所有権移転の形式をとるので、債務者が引き続き担保目的物を占有している場合でも、譲渡担保権者は占有改定によりその引渡しを受けることができ、それによって担保目的物の所有権の取得を第三者に対抗することができる!!
+判例(S30.6.2)
そして、売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。果して然らば、原判決の認定したところによれば、上告人(被控訴人)は昭和二六年三月一八日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつたものといわなければならない。しかるに、原判決は、被控訴人(上告人)において占有改定による引渡を了したことを認むべき証拠がなく、被控訴人は右所有権の取得を以て控訴人に対抗し得ないものとし、被控訴人の本訴請求を排斥したのは違法であつて、論旨はその理由あるものというべく、原判決は破棄を免れない。

・債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、債務の弁済が目的物の返還に対し先履行の関係にある!

+判例(H6.9.8)
上告代理人長谷川安雄の上告理由について
債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し先履行の関係にあり、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから(最高裁昭和五六年(オ)第八九〇号同五七年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号三三頁、最高裁昭和五五年(オ)第四八八号同六一年四月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一四七号五一五頁参照)、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

++解説
一 Y会社は、訴外A会社に二一二五万円を貸し付け、Aの代表取締役であったXは、これを担保するために、Yとの間にB会社の株式をYに譲渡する旨の譲渡担保契約を締結し、Yに株券を交付した。Xは、Yに対し、被担保債権の弁済を受けるのと引換えに本件株券を返還するよう求めて、本訴を提起した
第一審は、Xに買戻しの権利がないとの理由で請求を棄却した。これに対し、原審は、債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対して先履行の関係にあり、同時履行の関係にはないから、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるとして、控訴を棄却した。
Xは、上告し、原判決の判断は最一小判昭46・3・25(民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)に反すると主張した。
二 右最一小判昭46・3・25は、不動産を譲渡担保とした債務者が弁済をしなかった場合について、債務者の債権者に対する不動産の引渡義務と債権者の債務者に対する清算金の支払義務とが、特段の事情のある場合を除き、同時履行の関係にあるとしたものである。これに対し、本訴で問題になっているのは、譲渡担保設定者が担保物を受け戻す場合における弁済と受戻しの関係であるから、右判例が本訴とは事案を異にするものであることは明らかである。
右最一小判昭46・3・25は、これに先だって最一小判昭45・9・24(民集二四巻一〇号一四五〇頁)が、代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と債務者の本登記手続義務ないし引渡義務との関係について、原則として同時履行の関係にあるとしていたのを、譲渡担保にまで押し及ぼしたものであるが、この判決の判例解説(小倉顕調査官)は、「清算金と債務者の有していた留保価値とが対価関係に立つから、これにつき売買が行われたと同じ実質をもつともいえる」ことをその理由としている。つまり、ここで問題となっているのは、譲渡担保契約における双方の対立債務であるから、民法五三三条が適用されるとしたものであろう。

三 これに対し、本訴で問題になっているのは、消費貸借契約に基づく弁済の債務と譲渡担保契約に基づく(又はこれから派生する)返還の債務との関係である。被担保債権が弁済その他の事由で消滅すれば、担保権の付従性によって譲渡担保権も消滅し、譲渡担保権者は、目的物を直接占有していればこれを設定者に返還する義務を負う。しかし、両者は別個の契約に基づく債務であるから、民法五三三条の要件を満たさず、同時履行の関係にはないことになる。判例・学説は、この見解を採っているということができる(大判昭2・10・26新聞二七七五号一三頁、注釈民法(9)三六七頁〔柚木=福地〕)。
譲渡担保については、この見解を明言する最高裁判例はまだなかったが、抵当権及び仮登記担保権については、同様の場合に同時履行関係を否定し、弁済が先給付の関係にあるとするのが、最高裁の判例である。すなわち、抵当権については、大判明37・10・14(民録一〇号一二五八頁)のその旨の判示を最二小判昭41・9・16(裁集民八四号三九七頁)と最三小判昭57・1・19(裁集民一三五号三三頁、本誌四六四号八六頁)が追認しており(いずれも、債務の弁済と抵当権設定登記の抹消登記手続との関係に関するもの)、また、仮登記担保権については、最二小判昭61・4・11(裁集民一四七号五一五頁)が、債務の弁済は仮登記の抹消登記手続の履行に対し先給付の関係にあると判示している。さらに、質権については、明文の規定があり(民法三四七条)、質権者が債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができるものとされている。譲渡担保について、これらの場合と結論を異にすべき理由は見いだし難いであろう。
もっとも、このような見解は形式的論理に過ぎ、実質的に考えれば、両者は双務契約における対立債務と同視し得る関係にあるとして、当事者の黙示的合意等を根拠に同時履行の関係を認めるべきであるとの見解もあり得るところかと思われる(抵当権についてはこのような学説も有力である。)。しかし、仮に同時履行の関係を認めると、債権者としては、弁済を受ける前から登記の抹消(不動産の場合)や担保物の返還の準備に着手しなければならなくなり、債権者に過重な負担を課することとなって相当でないともいえよう(仮登記担保に関する右最二小判昭61・4・11の判示するところである)。フム・・・

+(質物の留置)
第347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。

・譲渡担保権の設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知をしない間に、譲渡担保の受戻権を放棄したとしても、譲渡担保権者に対して清算金の支払いを請求することはできない!!!!!
+判例(H8.11.22)
三 しかしながら、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。
けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。
四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に判示したところによれば、被上告人の本件請求は理由がないから、右請求を認容した第一審判決を取り消し、これを棄却すべきものである。

++解説
三 本判決は、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権実行の完結時点における譲渡担保目的物の価額から残存する被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権実行の完結前に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保目的物の所有権等を回復する権利であって、両者は発生原因を異にする別個の権利であるから、受戻権の放棄は清算金支払請求権を発生させる原因とはならないと判示した上、譲渡担保権者による譲渡担保権完結時期(譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をし、又は清算金がない旨の通知をした時点)前に譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権は発生しないとして、原判決を破棄し、一審判決を取り消して、原告の請求を棄却した。
四 本件の第一審判決(大阪地判平4・3・30、判時一四三六号七四頁)は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄して譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求し得るかという法律問題についての見解を示す唯一の公刊裁判例であった。受戻権に関する従来の議論は、設定者が受戻権をどの時点まで行使できるかという観点からのものであり、本件のように、設定者の側で受戻権を放棄した場合の法律関係について論じた文献は、本件一審判決の立場を支持する評釈が散見されるのみである。
譲渡担保権設定者による、受戻権の法的性質に関して、従来の判例は、譲渡担保権者は一般的に清算義務を負うこと(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁)、譲渡担保においては、債務者が被担保債務全額を弁済すれば、その効果として、譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づきその返還を求め得る(この権利が「受戻権」と定義されている)こと(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁)、債権者が担保権の実行を完結するまでの間(債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又のとき、又は目的不動産の適正評価額が被担保債務の額を上回らない旨の通知をしたとき)債務者の受戻権は消滅せず、債権者の清算義務は具体的に確定しないこと(最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁)を判示している。
これら判例によれば、受戻権は、債務者が被担保債務全額を弁済した効果として譲渡担保目的物の担保的拘束を解かれた所有権に基づき、又は譲渡担保権設定契約に由来する債権的目的物返還請求権に基づき発生する権利であるから、被担保債権を消滅させないまま譲渡担保権者に清算金支払義務を負わせる理論的根拠は見出し難いであろう。また、実質的にも、抵当権については、抵当権者が権利を実行する時期を決定することができ、抵当権設定者はその時期を決定することができないのに対し、譲渡担保権設定者が受戻権を放棄することにより清算金の請求ができると解するならば、譲渡担保権設定者の側で譲渡担保権実行の時期を決定することができることになるが、このような結果は譲渡担保権者にとって酷であり、抵当権者との比較において妥当性を欠くといわざるを得ないであろう。
なお、本判決は、「譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、」と判示しながら、受戻権が放棄された後における譲渡担保権者及び設定者の権利関係について、それ以上の判示をしていない。受戻権の放棄によって清算金請求権が発生しないことを判示すれば、本件事案を解決するためには十分であるから、あえて傍論を展開することは避けたものであろう。したがって、清算金請求権以外の右権利関係については、今後の判例の動向が注目される。
本判決は、譲渡担保権設定者が譲渡担保目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対し清算金の支払を請求することはできないという新たな法理を明らかにしたものであり、従来判例の存しない事項について、下級審裁判例及び学説と異なる結論を採った判例であって、金融実務などの実務に与える影響も極めて大きいといえよう。

・不動産の譲渡担保権設定者は、担保目的物の精算時までは、債務を弁済して担保目的物の完全な所有権を回復できる地位にあり、担保目的物を不法占有する者に対してその返還を請求することができる!!!!
+判例(S57.9.28)
上告代理人関康雄の上告理由一について
譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであつて、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによつて換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから(最高裁昭和三九年(オ)第四四〇号同四一年四月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、同昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、同昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。

・借地上の建物の譲渡担保の効力は、土地の賃借権に及ぶ!!!
+判例(S51.9.21)
上告代理人田中寿秋の上告理由について
債務者である土地の賃借人がその賃借地上に所有する建物を譲渡担保とした場合には、その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り、右譲渡担保権の効力は、原則として土地の賃借権に及び、債権者が担保権の実行としての換価処分により建物の所有権をみずから確定的に取得し又は第三者にこれを取得させたときは、これに随伴して土地の賃借権もまた債権者又は第三者に譲渡されると解すべきである。したがつて、債権者がいわゆる帰属清算の方法により建物の所有権を取得する場合において、債務者に交付すべき清算金額を算定するにあたつては、特段の事情のない限り、借地権付の建物として適正に評価された価額を基準としてすることを要する(この場合、土地賃借権の譲渡の承諾を得るにつき土地の賃貸人に対し適正な金額の給付を要するときは、右金額は、換価に要する相当な費用として、清算金額の算定上控除することができる。)。しかしながら、土地賃借権の譲渡について賃貸人の承諾(又はこれに代わる許可の裁判)を得ることが不可能又は著しく困難な事情にあつて、債権者が建物の所有権を取得しても借地法一〇条による建物買取請求権の行使をするほかはないと認められるときは、右買取請求権を行使した場合における建物の時価を基準として清算金額を算定することが許されると解するのが、相当である。 フムフムフム!!!
原判決は、措辞いささか明確を欠くが、結局において右と同旨の見解に立脚しつつ、本件の土地賃借権の残存期間や賃貸人が契約終了を理由に土地の明渡しを要求していることなどを含む従前の経過その他の諸事情をしんしやくしたうえ、本件建物を債権者である被上告人が取得するとしても、土地賃借権の譲渡につきとうてい賃貸人の承諾を得ることができず、建物買取請求権を行使する以外に方途がない旨の事情の存在を認定し、その場合における本件建物の時価をもつて本件建物の適正評価額としたうえ清算金額が金四〇万円を上回るものではないと算定したものと認められる。そして、原判決挙示の証拠関係に照らすと、所論の点に関する原審の認定判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。