民法択一 債権各論 契約総論 契約の成立過程


・電話通信事業者が、加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話にかかる通話料についても特段の事情がない限り請求することができるという約款は、契約自由の原則の範囲を逸脱するものではなく、無効とはならない!!

+判例(H13.3.27)Q2事件
第3 前記事実関係の下において、原審は、次のとおり判示して、被上告人には本件通話料の支払義務はなく、上告人の本訴請求のうち本件通話料に係る分を棄却すべきものと判断した。
上告人が、各加入電話契約者の意思を具体的に確認することなく、Q2情報サービスを既設の電話回線から一般的に利用可能なものとしてダイヤルQ2事業を創設し、第三者利用やこれによる利用料金の高額化等の危険が十分予想されるにもかかわらず、上記サービスの内容やその利用規制等につき加入電話契約者に告知しておらず、被上告人もその存在すら知らなかったこと、Q2情報サービスの目的が情報の授受にあり、情報提供時間に比例して通話料も増加していく関係にあって、この場合の通話料は、同サービスの利用に係る情報の授受によって初めて発生し、通話それ自体から生ずる一般通話における通話料とは発生経緯を異にしていること、Q2情報サービスに係る情報料と通話料は、最終的な帰属先を異にするとはいえ、本件加入電話からの通話により情報提供者との情報提供を目的とする契約が成立する関係にあり、上告人においても、電話加入契約者に対し、情報料と通話料の区別なく一体として請求していたこと、本件通話料の金額が、本件加入電話の従前の通話料に比して著しく高額であり、被上告人にとって予想外の金額であることなどにかんがみれば、上告人が、被上告人に対し、本件通話料につき、本件約款118条に基づいてその支払を請求することは、信義則に反し許されない。

第4 しかしながら、原審の前記判断のうち、上告人の本件通話料請求について信義則を考慮した点は是認し得るとしても、同請求が信義則に反するとしてこれをすべて棄却すべきものとした点は、直ちにこれを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 加入電話契約者は、加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話に係る通話料についても、特段の事情のない限り、上告人に対し、支払義務を負う。このことは、本件約款118条1項の定めるところであり、この定めは、大規模な組織機構を前提として一般大衆に電気通信役務を提供する公共的事業においては、その業務の運営上やむを得ない措置であって、通話料徴収費用を最小限に抑え、低廉かつ合理的な料金で電気通信役務の提供を可能にするという点からは、一般利用者にも益するものということができる。したがって、被上告人は、本件約款の文言上は、上告人に対して本件通話料の支払義務を負うものといえる。
しかし、加入電話契約は、いわゆる普通契約約款によって契約内容が規律されるものとはいえ、電気通信役務の提供とこれに対する通話料等の支払という対価関係を中核とした民法上の双務契約であるから、契約一般の法理に服することに変わりはなく、その契約上の権利及び義務の内容については、信義誠実の原則に照らして考察すべきである。そして、当該契約のよって立つ事実関係が変化し、そのために契約当事者の当初の予想と著しく異なる結果を招来することになるときは、その程度に応じて、契約当事者の権利及び義務の内容、範囲にいかなる影響を及ぼすかについて、慎重に検討する必要があるといわなければならない。

2 今日のように、一般家庭に広く電話が普及し、日常生活上不可欠な通信手段となったのは、通常の家庭における日常の電話利用を前提とする限り、特段の注意を払わなくても、家族等による電話利用が契約当事者の予想の範囲内にとどまり、また、その利用に伴う料金も日常の生活経費に織り込まれた金額の範囲内に納まっているからである。このような事実関係を前提として、加入電話契約者は、日常の電話利用から生ずる通話料について、それが誰の利用によるものかを問わず、原則として、そのすべてについて支払義務を負うことを承認しているのであり、他方、上告人は、電気通信役務の提供に必要な機構を構築してその機能及び情報を管理し、加入電話契約者に対して予定された電気通信役務を提供することを期待されているのである。

3 ところで、今日、通信に関する高度技術の発展に伴い、電気通信事業が急激に拡大し、市民の生活を豊かにするとともに、その生活様式さえも一変しつつあることは公知の事実である。従来、国営企業として電気通信役務の提供を一手に引き受けていた電電公社が民営化されて一般企業と同様な株式会社となり、電気通信事業の拡大に乗り出すとともに、電気通信事業法に基づく電気通信事業が自由化され、これに伴って従来固有の電気通信設備を有しなかった事業者にも上告人の電気通信設備が開放されて、ダイヤルQ2事業のような新たな事業が創設されるに至ったのも、こうした流れに沿うものであって、その発足当初、Q2情報サービスの内容やその料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、そのこと自体から上記のような事業の存在そのものを否定的に評価することは相当でない。
しかし、Q2情報サービスは、既設の電話回線から直接情報提供者に対して電話をかけることにより多種多様な情報を取得することができ、その情報内容によっては時間的に制限のない娯楽を提供することも可能であり、しかも情報提供者は加入電話契約者と同一市内に限られず全国に広域化していたというのであるから、従来の日常生活において予定された通話者間の意思伝達手段としての通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していた。そして、本件当時においては、青少年に対する誘惑的要素を多分に含んだ番組も相当数に上っていたために、加入電話契約者の監護下にあって経済的能力のない青少年が加入電話契約者に隠れてひそかにQ2情報サービスを利用し、加入電話契約者は、上告人からの電話料金の支払請求を受けて同サービスの利用に係る料金が著しく高額化したことを初めて知らされ、それまではその利用の事実を認識することができないという事態が生じたということができる。すなわち、このようなQ2情報サービスの開始は、日常生活上の意思伝達手段という従来の一般家庭における加入電話契約のよって立つ事実関係を変化させたものということができるのである。

4 そうすると、加入電話契約において、加入電話の管理、ひいてはいかなる者にいかなる程度の電話利用を許すかは加入電話契約者の決し得るところであるとしても、上告人は、他方において、電気通信役務提供の条件やそのあり方を自ら決定し、事業の内容等についての情報を独占的に保有する立場にあるのであるから、ダイヤルQ2事業の創設に伴ってQ2情報サービスの無断利用による料金高額化の危険が存在していた以上、上告人には、本件当時既に生活必需品として一般家庭に広く普及していた電話に関わる公益的事業者として、ダイヤルQ2事業の開始に当たり、あらかじめ、加入電話契約者に対して、同サービスの内容や危険性等について具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき信義則上の責務があったということができる。
確かに、ダイヤルQ2事業の創設が電気通信事業の自由化に伴う初めての試みであることから、上告人において、当時、前記危険が広範に現実化するという事態までは想定していなかったとしても、上告人は、その分野における専門家として、我が国に先立って米国で実施された同種事業において既に生じた種々の問題やこれに対する対策等についても知り得る立場にあったことなどからすれば、上記の点は、上告人の前記責務を否定しあるいは軽減する理由にはならないというべきである。
そして、上告人が前記責務を十分に果たさなかったために、加入電話契約者がQ2情報サービスの存在やその危険性等についての十分な認識を有しない状態の下に適切な対応策を講ずることができず、加入電話契約者以外の者、とりわけ生計を同じくする未成年の子等によるQ2情報サービスの多数回・長時間にわたる無断利用により通話料が日常生活上の利用による通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し、加入電話契約者において上記通話料の負担を余儀なくされるといった契約当事者の予想と著しく異なる結果を招来した場合には、上告人が加入電話契約者に対して上記通話料の支払を請求するに当たって、信義則上相応の制約を受けることになってもやむを得ないといわなければならない。

5 【要旨】以上を要するに、ダイヤルQ2事業は電気通信事業の自由化に伴って新たに創設されたものであり、Q2情報サービスは当時における新しい簡便な情報伝達手段であって、その内容や料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、それ自体としてはすべてが否定的評価を受けるべきものではない。しかし、同サービスは、日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから、公益的事業者である上告人としては、一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。
本件についてこれを見ると、上記危険性等の周知及びこれに対する対策の実施がいまだ十分とはいえない状況にあった平成3年当時、加入電話契約者である被上告人が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で、被上告人の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために本件通話料が高額化したというのであって、この事態は、上告人が上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものということができる。こうした点にかんがみれば、被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで、本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは、信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。そして、その限度は、加入電話の使用とその管理については加入電話契約者においてこれを決し得る立場にあることなどの事情に加え、前記の事実関係を考慮するとき、本件通話料の金額の5割をもって相当とし、上告人がそれを超える部分につき被上告人に対してその支払を請求することは許されないと解するのが相当である。

6 そうすると、これと異なる見解に立って、上告人が本件通話料につき本件約款118条1項の規定に基づいてその支払を請求することは信義則上許されないとして、上告人の同請求を全部棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの限度で理由がある。そして、前記説示に照らせば、上告人の同請求は、本件通話料の5割に相当する金額、すなわち、平成3年2月分として4万0762円(円未満切捨て。以下同じ。)及び同年3月分として9777円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みの前日まで年14.5%の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものである。
第5 以上に説示するところに従い、第1審判決中上告人敗訴の部分は前記のとおり変更されるべきであるから、原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとする。
よって、裁判官千種秀夫、同奥田昌道の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・保証契約は、成立のために当事者の合意のほか書面が必要である!=要式契約
+(保証人の責任等)
第446条
1項 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない
3項 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

・明示的な承諾の通知がなくとも、承諾の意思表示と認められるべき行為があれば契約が成立する場合がある!!!!=意思実現による契約の成立!
+(隔地者間の契約の成立時期)
第526条
1項 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2項 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

・新聞の織り込みチラシとしてスーパーマーケットの広告が入っていたときは、その広告は申し込みの誘因に過ぎない!!
=法律上、契約の申込みといえるためには、申込みに対して相手方から承諾がされれば、契約に拘束されるとの意思を有していなければならないから

・承諾の期間を定めてした契約の申し込みを、制限行為能力を理由として取り消すことはできる!!!!=521条は適用されない
+(承諾の期間の定めのある申込み)
第521条
1項 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない
2項 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う

・承諾の期間を定めずに隔地者に対してした契約の申し込みは、相当な期間が経過するまでは、撤回することができない。
+(承諾の期間の定めのない申込み)
第524条
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない

・申込者が、承諾期間を定めてした契約の申込みに、承諾期間中に諾否の通知がなければ承諾したものとみなす旨の表示をした場合、申込受領者が承諾期間中に諾否の通知をしなくても、契約は成立しない!!!

・申込者が、契約の申込みの通知を発信した後に死亡した場合に、相手方が承諾の通知を発し、これが申込者に到達したときは、申し込みの通知の到達前から相手方が申込者の死亡の事実知っていたら、契約は成立しない!!!!
+(隔地者に対する意思表示)
第97条
1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2項 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない

+(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第525条
第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない

・契約申込みの通知を発した後、その通知が相手方に到達するより前に、相手方への契約申込みの意思表示を撤回する通知が到達した場合、契約申込みの撤回が認められる!!!!!!ナント!!!
+理由もほしい・・・。

・承諾期間を定めてした動産甲を売る旨の申込みに対して、その承諾の通知が承諾期間経過後に到着した場合であっても、申込者が再び甲を売る旨の通知をし、これが相手方に到達すれば、甲についての売買契約は成立する!!!!
+(遅延した承諾の効力)
第523条
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる

・承諾者が契約の申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾し、これが申込者に到達した後に、改めて無条件の承諾をしても、契約は成立しない!!!!
+(申込みに変更を加えた承諾)
第528条
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。

・契約の申込みに承諾期間の定めがある場合には、承諾期間経過後に到達した承諾は当然に無効ではない!
+(承諾の通知の延着)
第522条
1項 前条第1項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
2項 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第1項の期間内に到達したものとみなす

・隔地者間の契約は、承諾の通知を発したときに成立する!!!!
+(隔地者間の契約の成立時期)
第526条
1項 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2項 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。