民法択一 債権各論 契約総論 契約存続中の関係 その1


・甲は乙との間で、乙の保管している特定物である壺の売買契約を締結したが、契約締結前に地震により壺は減失していた。乙は甲に対し、壺の売買代金の支払いを請求することはできない!!←甲乙間の売買契約は、原始的不能のため無効!

・売買契約に基づく代金の支払請求に対し、被告が目的物の引き渡しをするまで代金の支払いを拒絶するという権利主張を同時履行の抗弁として主張する場合、被告は相手方の債務が履行期にあること、相手方が債務の履行又はその提供をしないことを主張立証する必要はない!!!!!
←売買契約において債務の履行期限は付款であることから、被告が抗弁において、目的物引渡債務の履行期の定め及びその到来を主張立証する必要はない!!また、原告が目的物引渡債務の履行又はその提供をしたことは、原告が再抗弁として主張立証。

・上記場合、被告は目的物引渡債務と代金支払債務とが同時履行の関係にあることを基礎づける売買契約の締結の事実を合わせて主張立証しなくてもよい!!!
←請求原因で売買契約締結の事実が主張立証された時点で、同時履行の抗弁権の存在は既に基礎づけられている!

・AはBに対し甲動産を売却したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。AがBの同時履行の抗弁権に対し、AB間において代金支払いの10日後に甲動産を引き渡す旨の合意をしたと主張すると、再抗弁になる!!!←同時履行の抗弁権が認められる要件としては、相手方の債務が履行期にあることが必要である。そして、先履行の合意の存在は、533条ただし書きの再抗弁となる!
+(同時履行の抗弁)
第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない

・売買代金支払請求訴訟において、被告の同時履行の抗弁権が認められた場合、裁判所は引換給付判決をするべきである(×請求棄却)

・双務契約の相手方に履行の請求をする者が、自己の債務の履行を提供していない場合において、請求を受けた者が同時履行の抗弁権を主張していないときは、裁判所は同時履行の抗弁権を認めて引換給付判決をすることはできない!!!!!!=当事者が抗弁権を訴訟上行使しなければならない!!

・相互の債務が同時履行の関係にある場合、履行期を経過していれば解除者は自己の債務について給付の提供をせずには、催告をして履行遅滞による解除をすることはできない!!!
+判例(S29.7.27)
同理由第一点について。
しかし、原判決の認定したところによれば、本件売買代金三十万円の支払については、昭和二六奪二月二十三日被上告人は内金として既に支払つた金八万円のほか更に金五万円を上告人に支払ひ、同年三月中までに、被上告人において訴外飯塚信用組合に対する上告人の債務を弁済し、抵当権設定登記の抹消を済ませた後、残代金の支払と引換に、本件建物につき、被上告人名儀に所有権移転登記を受けると共に、その明渡並に動産の引渡を受けることに話が決まり、被上告人はこの約定に基き、同年三月十日、右信用組合に対する上告人の債務金六万四千円を支払ひ、同月十六日建物抵当権設定登記の抹消登記を済ませ(上告人が被上告人より本件売買代金の内金として、前記信用組合に対する債務弁済金を含め、合計金十九万四千円の支払を受けたことは争がない)たものであるというのである。
してみれば、本件においては、売買の残代金支払と所有権移転登記、建物明渡並に動産引渡とは同時履行の関係にあるものと言うべきであり、反対給付の提供なき上告人の右残代金支払の催告は被上告人を遅滞に陥らしあるに足らず、従つてこの催告に基く解除は効力を生じ得ないものである。されば、この点に関する原判示は正当であり、所論のような解除に関する法律の適用を誤つた違法もなく、審理不尽もない、論旨は理由がない。

・同時履行の抗弁権が存在することが履行遅滞の違法性を阻却するとの見解によると、同時履行の抗弁権を有する者は、自己の債務を履行しないまま履行期を渡過しても、債務不履行責任を負わない!!!←同時履行の抗弁権に基づいて債務の履行をしないことは違法ではないので、「債務の本旨に従った履行をしないとき」には当たらない!
+(債務不履行による損害賠償)
第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

・同時履行の抗弁権が、双務契約から生じた対価的な債務間で生じる抗弁権であるのに対し、留置権の被担保債権は、物に関して生じたものであれば足り、契約から生じたものに限られない!!

同時履行の抗弁権は、原則として契約当事者でのみ行使し得るのに対し、留置権は、契約当事者以外の者に対しても行使し得る!!!

・売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟において、被告は同時履行の抗弁を主張することができる!!!=不動産売買契約における売主の登記協力義務と買主の代金支払債務は同時履行の関係に立つ!!!!!

・売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟において、被告は留置権の抗弁を主張することはできない!!!!=登記は有体物ではないから!!!!
+判例(S52.12.8)
上告代理人片岡成弘の上告理由一について
所論上告人の昭和五二年二月四日付準備書面の記載は、「上告人の主張は従来からの主張どおりであつて、被上告人が上告人に対し、無条件で建物明渡し、及び所有権移転登記手続を請求することは許されない。」というのであり、本件記録に徴すると、従来の主張とは上告人の本件建物買取請求権行使に基づく留置権の抗弁を指すものであり、上告人は、被上告人が右建物買取請求に応じて従前の本件建物収去本件土地明渡の請求を本件建物明渡及び本件建物につき所有権移転登記手続の請求に変更したのに対し、変更された請求についても留置権の抗弁を維持する旨を右準備書面によつて主張したものであることが明らかである。右事情のもとにおいては、原審が、有体物である本件建物について留置権の成立を認め、本件建物明渡を求める請求部分についてのみ建物買取代金の支払と引換えにこれを認容し、有体物とはいえない登記に関する請求部分については、無条件でこれを認容したことは正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二について
建物買取請求権を行使した者は、同請求権行使後、当該建物の占有によりその敷地を占有している限り、敷地の賃料相当額を敷地占有に基づく不当利得として敷地所有者に返還すべき義務を負うものと解すべきところ(大審院昭和一〇年(オ)第二六七〇号同一一年五月二六日判決・民集一五巻九九八頁、最高裁判所昭和三三年(オ)第五一八号同三五年九月二〇日第三小法廷判決・民集一四巻一一号二二二七頁参照)、原判決は、上告人が、本件建物買取請求権行使の翌日以降、本件建物の敷地である本件土地賃料相当額だけでなく、これを含む本件建物賃料相当額を不当利得として被上告人に返還すべき義務を負うかのごとき判断を示した点において、措辞妥当を欠くが、原審が上告人に対し不当利得として返還することを命じたのは、本件土地賃料とその額を同じくする一か月一三五〇円の割合による額であり、原審は結局被告に対し本件建物の敷地である本件土地賃料相当額を不当利得として返還することを命じたものにすぎないから、原審のこの判断は結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、採用することができない。

債務の履行期限の合意は付款であるから、被告が同時履行の抗弁を主張する場合は、被告は代金支払債務の履行期限の合意及びその起源の到来を主張立証する必要はない!!

・留置権を主張する場合、295条1項ただし書きに基づいて被担保債権に弁済期の約定があることが再抗弁になるので、被告は履行期限の合意及びその起源の到来を主張立証する必要はない!!
+(留置権の内容)
第295条
1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

・留置権者が留置権の被担保債権を譲渡した場合、留置権者は、留置権を主張することはできなくなる。

・債権者が債権を譲渡したとしても、債務者は、債権者に対して主張することができた同時履行の抗弁権を譲受債権者に主張することができる!!
+(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条
1項 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2項 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる

・債務者は、相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができるが、同時履行の抗弁権についてはこのような制度はない!!
+(担保の供与による留置権の消滅)
第301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

・ビール10ダースの売買契約において、売主が5ダースだけを引渡した場合、買主は代金の半額についてのみ同時履行の抗弁権を行使することができる!!!!!!!
←債務の履行が不完全な場合、それが一部のみの履行であることが明確であり、かつ、対価関係にある債務も可分であるときは、履行のなされた範囲でのみ支払い義務がある!!!!!

・契約の解除の効果として当事者双方に生ずる原状回復義務は同時履行の関係に立つ!明文あるよ!
+(契約の解除と同時履行)
第546条
第533条の規定は、前条の場合について準用する。

+(同時履行の抗弁)
第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

・売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、当事者双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ!!!=533条の類推
+判例(S47.9.7)
上告代理人猪股喜蔵、同井口英一の上告理由第一点について。
原審の適法に確定したところによれば、上告人は、昭和三九年六月八日その代理人訴外Aを介して被上告人に対し、上告人所有の本件土地を代金八五〇万円で売り渡したが、その経過はつぎのとおりであつた。すなわち、Aは、上告人に対し、「土地を売つてその代金を金融に回わし、その利息収入によつて気楽に暮した方がよい。金融については協力する。」旨申し向けたところ、上告人はAの言にうごかされ、両名の間で、土地売却代金はこれをAが預つて他に融資し、利殖の途を講ずることに意見が一致した。ところが、Aの真意は、売却代金中少なくとも二五〇万円はこれを自己の被上告人に対する借金の返済に利用することにあつたのであつて、そのために上告人を欺罔して本件土地の売買契約を締結させようと企てたのである。したがつて、上告人は、Aの右意図を知つていたならば、右土地を売却する意思は全くなかつたのであるが、Aの言を信じ、同人がその代金全額を自己のために運用利殖してくれるものと誤信して、同人を代理人として被上告人と右売買契約を締結するにいたつたのである。一方被上告人は、おそくとも右売買契約締結までの間には、上告人がAに欺かれて本件土地を売り渡すものであることをそれとなく知つたにもかかわらずあえて右売買契約を締結したのである。被上告人は、上告人の代理人であるAに対して右売買代金の内金として、昭和三九年六月一二日現金五〇万円宛二回計一〇〇万円を支払つた。まもなく、Aに騙されたことを知つた上告人は、昭和三九年七月二九日被上告人に到達した書面をもつて右売買契約を取り消す旨の意思表示をした。なお、本件(一)の土地については、仮登記仮処分命令に基づき、被上告人のため、昭和三九年七月二二日付をもつて同年六月一一日売買を原因とする所有権移転の仮登記手続がなされ、また、本件(二)の土地は、上告人がこれをさきに昭和三七年六月頃訴外Bから買い受けたのであるが、登記名義は同人のままにしてあつたので、昭和三九年六月二三日付をもつてBから被上告人へ中間省略で所有権移転登記手続がなされている、というのである。
右のような事実関係のもとにおいては、右売買契約は、Aの詐欺を理由とする上告人の取消の意思表示により有効に取り消されたのであるから、原状に回復するため、被上告人は、上告人に対し、本件(一)の土地について右仮登記の抹消登記手続を、本件(二)の土地について上告人へ所有権移転登記手続をそれぞれなすべき義務があり、また、上告人は、被上告人に対し、右一〇〇万円の返還義務を負うものであるところ、上告人、被上告人の右各義務は、民法五三三条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきであつて、被上告人は、上告人から一〇〇万円の支払を受けるのと引き換えに右各登記手続をなすべき義務があるとした原審の判断は、正当としてこれを是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

・売買のような双務契約において、双方の債務の履行が済んだ後に契約が第三者による詐欺を理由として取り消された場合(96条2項)、双方に不当利得返還義務が生じ、両者は同時履行の関係に立つ!!

・双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失わない!!!!!!he—
+判例(S34.5.14)
上告代理人弁護士山沢和三郎の上告理由第一点について。
双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があつても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでないことは所論のとおりである。しかし、原判示によれば売主たる被上告人は本件機械全部を買主たるAに昭和二九年六月二八日までに約束通り引渡したというのであるから、Aは右引渡を受けたことによつて所論同時履行の抗弁権を失つたものというべきであり、従つてその以後において、被上告人の代理人Bが右機械の「あひる」を取外して持ち帰つたからといつて、同人に別個の責任の生ずる可能性のあることは別論として既になされた被上告人の債務の履行に消長を来し、一旦消滅した同時履行の抗弁権が復活する謂れはない。されば右と同趣旨に帰する原判決の判断は正当であり所論る述の要旨は右に反する見解の下に原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

・AはBに対し甲動産を売却したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。この場合、判例によれば、AがBの同時履行の抗弁に対し、訴えの提起前に到来した甲動産の引渡しの履行期に甲動産の引渡しの準備をし、取りに来るようにBに電話で伝えたことを主張しても、再抗弁にはならない!!!!!←Aが訴えの提起前に履行の提供をしても、Bの同時履行の抗弁権は失われない!=提供の継続がない

・双務契約における一方債務の不能が債務者の責めに帰すべき事由によって生じた場合、その債務が不能となったことについて債権者の責めに帰すべき事由があったとしても危険負担の問題にはならない。=債権者の責めに帰すべき事由は過失相殺の問題になる!

・債務者の帰責事由により履行不能が生じた場合は、債務者の債務は損害賠償債務に転化するので(415条)危険負担の問題は生じない!
=土地の売買契約が締結された後、売主が当該土地をさらに他に譲渡し、第2譲受人が先に所有権移転登記を具備した場合、売主の第1譲受人に対する債務は履行不能となり損害賠償債務に転化する!

・契約締結以前に特定物である絵画が不可抗力により減失していた場合、履行が原始的に不能であるといえ、契約は無効となる。
=XがYに対して特定物である絵画を売却する契約を締結していたところ、契約締結以前に絵画が不可抗力により減失していたが、XYともに契約を締結した後にその事実を知った場合でも、無効!!!

・XがYに対して特定物である絵画を売却する契約を締結していたところ、Xの責めに帰すべき事由により引渡しを遅滞しているうちに第三者の放火により絵画が焼失してしまった場合でも、YはXに対して代金支払債務を負う!!!!!!
←履行遅滞中に債務者の責めに帰す事の出来ない事由によって履行が不能となったときは、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能と評価され、債務者は債務不履行責任を負う!!!!=危険負担の問題とはならない!!!!!

・甲が乙に建物を賃貸し、その賃貸期間中、当事者双方の責めに帰することができない事由で賃貸目的物たる建物が焼失してしまった場合、賃貸人甲の使用収益させる債務が焼失すれば、賃借人乙の賃料債務も消滅する!!!←賃貸借契約は物権の設定又は移転を目的とした双務契約ではない!!!!!!から534条1項の債権者主義の適用はない!→536条1項
+(債務者の危険負担等)
第536条
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

+(債権者の危険負担)
第534条
1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2項 不特定物に関する契約については、第401条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

・AはBから「自己の肖像画を描いてほしい。完成した肖像画と引き換えに報酬100万円を支払う。」と頼まれて請け負い、その後、Bの肖像画を完成させ、A宅に保管していたところ、引渡期日前に、隣人の失火により肖像画が焼失した。この場合、Aは反対給付である100万円を受ける権利を有しない!!!!←536条1項
+解説ほしいいいい

・Aは、Bに対して、A所有の中古住宅を代金3000万円で売却し、Bへの所有権移転登記と同時に代金全額を受け取るという約束でBにこの住宅を引渡したが、Bに引き渡した2日後に、この住宅は隣人の放火によって全焼した。この場合、BはAに対して代金3000万円を支払わなければならない!!!←534条。A=債務者。B=債権者。!!
債務者・債権者とは目的物引渡債権を基準としていっています

・特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合に、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって減失したとき、債務者は反対給付を受け取ることができる。←534条1項

・XがYとの請負契約を締結していたところ、注文者Yの責めに帰すべき事由により契約の目的である工事の完成が不能となった場合、危険負担の債権者主義が妥当するので、Xは全額について請負代金支払債権を有するが、Xが残債務を免れたことによって得る利益についてYに返還しなくてはならない。!!!
+判例(S52.2.22)
上告代理人莇立明の上告理由について
原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 住宅電気設備機器の設置販売等を業とする被上告人は、昭和四五年五月一二日訴外Aから、上告人所有家屋の冷暖房工事を、代金四三〇万円、工事完成時現金払の約旨で請け負い、上告人は被上告人に対し、Aが被上告人に負担すべき債務につき連帯保証した。
2 右冷暖房工事は、Aが同年五月初旬ころ上告人から請け負つたものであるが、Aは、従来規模の大きい工事を請け負つたときは、みずからこれを施行することなく、更に他と請負契約を締結して工事を完成させ、みずからは仲介料を得ていたところから、本件の場合も、これを被上告人に請け負わせたものである。
3 被上告人は、同年一一月中旬ころ、右冷暖房工事のうちボイラーとチラーの据付工事を残すだけとなつたので、右残余工事に必要な器材を用意してこれを完成させようとしたところ、上告人が、ボイラーとチラーを据え付けることになつていた地下室の水漏れに対する防水工事を行う必要上、その完了後に右据付工事をするよう被上告人に要請し、その後、被上告人及びAの再三にわたる請求にもかかわらず、上告人は右防水工事を行わずボイラーとチラーの据付工事を拒んでいるため、被上告人において本件冷暖房工事を完成させることができず、もはや工事の完成は不能と目される。
以上の事実関係のもとにおいては、被上告人の行うべき残余工事は、おそくとも被上告人が本訴を提起した昭和四七年一月一九日の時点では、社会取引通念上、履行不能に帰していたとする原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
そして、Aと被上告人との間の本件契約関係のもとにおいては、前記防水工事は、本来、Aがみずからこれを行うべきものであるところ、同人が上告人にこれを行わせることが容認されていたにすぎないものというべく、したがつて、上告人の不履行によつて被上告人の残余工事が履行不能となつた以上、右履行不能はAの責に帰すべき事由によるものとして、同人がその責に任ずべきものと解するのが、相当である。
ところで、請負契約において、仕事が完成しない間に、注文者の真に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法五三六条二項によつて、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎないものというべきである。これを本件についてみると、本件冷暖房設備工事は、工事未完成の間に、注文者であるAの責に帰すべき事由により被上告人においてこれを完成させることが不能となつたというべきことは既述のとおりであり、しかも、被上告人が債務を免れたことによる利益の償還につきなんらの主張立証がないのであるから、被上告人はAに対して請負代金全額を請求しうるものであり、上告人はAの右債務につき連帯保証責任を免れないものというべきである。したがつて、原判決が被上告人はAに対し工事の出来高に応じた代金を請求しうるにすぎないとしたのは、民法五三六条二項の解釈を誤つた違法があるものといわなければならないところ、被上告人は、本訴請求のうち右工事の出来高をこえる自己の敗訴部分につき不服申立をしていないから、結局、右の違法は判決に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は、いずれも採用することができない。

+(債務者の危険負担等)
第536条
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


・XがYとの間で、YがA県への転勤を命じられていることを条件として、A県にあるX所有の一軒家を5000万円で譲渡する契約を締結していたところ、その一軒家が大地震により一部損傷し、その後、YがA県への転勤を命じられた場合、YはXに対して5000万円全額については支払い義務を負う!!!
+(停止条件付双務契約における危険負担)
第535条
1項 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷!したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する
3項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

+++解説
民法535条1項では、前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しないと規定しています。つまり、債務者主義になるということなので前条民法534条「債権者主義」は適用しないとなっています。債務者には泣いてもらうことになります。
1項と違うのは、2項は一部損傷であるということです。535条2項では、停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。つまり、今度は債権者主義になると言っています。
1項では、自転車が全壊した場合=債務者主義
2項では、損傷にとどまる場合で=債権者主義ということです。
ちなみに過失があれば危険負担ではないです。3項では、債務者に過失がある場合で損傷した場合に条件が成就した場合について規定しています。

・Aは、Bとの間で、「Bが大学を卒業した際には、Aは、A所有の特定の自動車を10万円でBに売り渡す。」という契約をしたが、A宅敷地内の車庫に保管されていたこの自動車は、隣人の失火により焼失し、その後Bは大学を卒業した。この場合、BはAに対して代金10万円を支払わなくてもよい!!!!!!!←535条1項

・上記事例で、Aの失火により自動車が焼失し、その後Bが大学を卒業した場合、Bは子の売買契約を解除することができる!!
←目的物が債務者の過失により減失した場合、危険負担ではなく債務不履行となる!!!=543条による解除。

+(債務不履行による損害賠償)
第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

+(履行不能による解除権)
第543条
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

・事情変更の理由により当事者に解除権を認めるためには、その事情変更が、客観的に観察して、信義誠実の原則上当事者を契約によって拘束することが著しく不合理と認められる場合であることを要する!!!
+判例(S30.12.20)
同第三点について。
所論は、履行不能と事情変更の理論によつて上告人の解除の有効を主張し、この抗弁を採用しなかつた原判決は、上告人が本件土地につき政府と被上告人の双方に対し二重の義務を負担することを認めるのであると非難する。しかし本件土地に対する借地権は、原判決が正当に判示するように、いわゆる接収が解除されるに至るまで一時的に事実上行使し得ない状態におかれているにすぎないのであるから、これを一時的履行不能と見るのを相当とし、このような場合は、たとえ債権者の責に帰すべき事由、または当事者双方の責に帰すべからざる事由による場合であつても、債務を消滅せしめるものではなく、単に債務者をして履行遅滞の責を免れしめるに止まるものと解するを相当とし、所論のように債務者がこのことを理由として契約を解除し得るものでないことはいうまでもない。また事情変更の理由により当事者に解除権を認めることは、その事情変更が、客観的に観察して信義誠実の原則上当事者を契約によつて拘束することが著しく不合理と認められる場合であることを要するところ、本件土地の接収は、占領状態の出現という当事者の予見しない事情によつて発生したとはいえ、接収が結局将来解除されることは明らかであり、かつ被上告人は、、上告人に対し借地権存在の確認を求めるだけで現実に特段の義務の履行を求めるわけではないから所論のように上告人に解除権の成立を認めなければ不当であるという理由は認められない。所論は結局採用できない。

・事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であるが、上記の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合は、契約締結当時の契約当事者について判断すべきである!!!!

+判例(H9.7.1)
一 本件は、大日本ゴルフ観光株式会社の経営するゴルフ場「阪神カントリークラブ」(現在の名称は「パインヒルズゴルフ」。以下「本件ゴルフ場」という。)の会員たる地位を取得した上告人ら(ただし、上告人Aについては、その被承継人である亡Bのことをいう。以下同様とする。)が、本件ゴルフ場の営業を譲り受け会員に対する権利義務を承継した被上告人に対し、本件ゴルフ場の会員資格を有することの確認を求める事案である。被上告人は、上告人らは、本件会員資格のうち預託金返還請求権及び会員権譲渡権を有するが、本件ゴルフ場施設の優先的優待的利用権については、事情変更の原則又は権利濫用の法理の適用により、これを有しないと主張している。

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 大日本ゴルフ観光は、本件ゴルフ場の造成工事を完成させた上、昭和四八年七月二五日、東コース・中コース・西コース(二七ホール)を有する本件ゴルフ場を開設した。上告人らは、同社と会員契約を締結し、又は本件ゴルフ場の会員から同社の承認を受けて会員権を譲り受けることにより、本件ゴルフ場の会員たる地位を取得した。上告人らが同社に対して有していた会員としての権利の内容は、(一) 本件ゴルフ場の開業日に非会員よりも優先的条件かつ優待的利用料金でゴルフコース及び付属施設の一切を利用する権利、(二) 第一審判決添付会員権目録の「入会日」欄記載の日から一〇年間の据え置き期間経過後に同目録の「入会金金額」欄記載の預託金の返還を請求する権利、(三) 会員権を第三者に譲渡する権利である。
2 株式会社モーリーインターナショナルは、昭和六二年九月二一日、大日本ゴルフ観光から本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。被上告人は、平成四年三月二日、モーリーインターナショナルから同月三一日現在の本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。
3 本件ゴルフ場は、谷筋を埋めた盛土に施工不良があること及び盛土の基礎地盤と切土地盤に存在する強風化花こう岩のせん断強度が小さいことから、被圧地下水のわき出しなどにより、のり面の崩壊が生じやすくなっており、開業以来度々のり面の崩壊が発生していた。
本件ゴルフ場は、平成二年五月に、同元年九月から閉鎖されていた中コースの一部と営業中であった東コースの一部ののり面が崩壊し、応急措置としての修復はされたものの、それ以前におけるのり面の崩壊状況とあいまって、営業が不可能になった。モーリーインターナショナルは、同二年五月末日にすべてのコースを閉鎖し、同年六月一日から本件ゴルフ場の全面改良工事に着手した。兵庫県は、平成二年五月二二日から同三年六月三日まで四回にわたり、本件ゴルフ場に対して防災処置をとるよう要請していた。
4 本件改良工事の内容は、(一) 降雨時に上昇した地山の地下水が盛土内に侵入してもこれを速やかに排除できる岩砕盛土、地下排水管、地表面排水の構造とすること、(二) せん断破壊に強い材料を盛土材料として使用し、全体構造としてすべりに強い盛土体とし、土砂盛土内にせん断抵抗力の大きい岩砕盛土を盛土規模に応じ複数箇所に設けること、(三) 旧盛土箇所の崩壊土砂及び軟弱土の排土と岩砕盛土、地下排水管、地表面排水工、排水井等による修復工事を実施するというものであり、これらとともにクラブハウスの建築も含まれていた。本件改良工事にかかった費用は、右クラブハウスの建築も含め、約一三〇億円である。
5 上告人らは、既に預託している預託金以外には、多額の費用を要した本件改良工事後の本件ゴルフ場を使用するための新たな預託金などの経済的負担を負うことを拒否している。

三 原審は、前記二の事実関係に加えて、さらに、(一) モーリーインターナショナルは、大日本ゴルフ観光から営業を譲り受けた時点において、本件ゴルフ場について、のり面崩壊に対する防災処置を施す必要が生じることを予見していなかったとはいえないが、本件改良工事のような大規模な防災処置を施す必要が生じることまでは予見しておらず、かつ予見不可能であった、(二) 本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円は、本件ゴルフ場ののり面崩壊に対する防災という観点からみて、必要最小限度のやむを得ないものであった、(三) 大日本ゴルフ観光は、昭和六二年一一月の時点において既に営業実態のない会社になっており、その資産状態も明らかでなく、同社に対して本件改良工事についての費用負担を求めることは事実上不可能である、と説示した上、右事実関係及び前記二の事実関係を総合すると、上告人らに対し本件ゴルフ場の会員資格のうち施設の優先的優待的利用権を当初の契約で取得した権利の内容であるとして認めることは、信義衡平上著しく不当であって、事情変更の原則の適用により上告人らは右優先的優待的利用権を有しないと解すべきであると判断し、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消して、右請求を全部棄却した。

四 しかしながら、上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 上告人らと大日本ゴルフ観光の会員契約については、本件ゴルフ場ののり面の崩壊とこれに対し防災措置を講ずべき必要が生じたという契約締結後の事情の変更があったものということができる。
2 しかし、事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約当事者について!!!!これを判断すべきである。したがって、モーリーインターナショナルにとっての予見可能性について説示したのみで、契約締結当時の契約当事者である大日本ゴルフ観光の予見可能性及び帰責事由について何ら検討を加えることのないまま本件に事情変更の原則を適用すべきものとした原審の判断は、既にこの点において、是認することができない
3 さらに進んで検討するのに、一般に、事情変更の原則の適用に関していえば、自然の地形を変更しゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社は、特段の事情のない限り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったとはいえず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。けだし、自然の地形に手を加えて建設されたかかる施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、将来にわたり災害の生ずる可能性を否定することはできず、これらの危険に対して防災措置を講ずべき必要の生ずることも全く予見し得ない事柄とはいえないからである。
本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した前記二の事実関係によれば、本件ゴルフ場は自然の地形を変更して造成されたものであり、大日本ゴルフ観光がこのことを認識していたことは明らかであるところ、同社に右特段の事情が存在したことの主張立証もない本件においては、事情変更の原則の適用に当たっては、同社が本件ゴルフ場におけるのり面の崩壊の発生について予見不可能であったとはいえず、また、帰責事由がなかったということもできない。そうすると、本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円が必要最小限度のやむを得ないものであったか否か並びに大日本ゴルフ観光に対して本件改良工事の費用負担を求めることが事実上不可能か否かについて判断するまでもなく、事情変更の原則を本件に適用することはできないといわなければならない。
4 また、前記二及び三の事実関係によっても上告人らの本件請求が権利の濫用であるということはできず、他に被上告人らの権利濫用の主張を基礎付けるべき事情の主張立証もない本件においては、右権利濫用の主張が失当であることも明らかである。
五 原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、論旨は理由があり、その余の論旨につい判断するまでもなく原判決中上告人らの請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上の説示によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決の結論は正当であるから、右部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。

++解説
二 事情変更の原則とは「契約締結後、その基礎となった事情が、当事者の予見し得ない事実の発生によって変更し、このため当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて苛酷になった場合に、契約の解除又は改訂が認められるか」という問題であり、通説(我妻榮・債権各論上巻二五・一七八頁等)はこれを肯定し、根拠を信義則に求め、その要件は、(一) 事情の変更があったこと(契約締結後に契約の客観的基礎となっていた事情が変更すること)、(二) 事情の変更が当事者に予見可能でなかったこと、(三) 事情の変更が当事者の責に帰することのできない事情(戦争、大災害、インフレによる著しい対価関係の破壊、法令の変更等)により生じたこと、(四) 事情の変更により当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められることとされている(新版注釈民法(13)六九頁以下〔五十嵐清〕)。
具体的事例において事情変更の原則の適用を肯定した最高裁判例は一件もない(大判昭19・12・6民集二三巻六一三号が唯一の適用例)が、判例は事情変更の原則の適用可能性を一般的に否定するものではないと理解されており(最三小判昭26・2・6民集五巻三号三六頁、本誌一〇号五一頁、最一小判昭29・1・28民集八巻一号二三四頁、最二小判昭29・2・12民集八巻二号四四八頁、本誌三八号五七頁、最三小判昭30・12・20民集九巻一四号二〇二七頁本誌五四号二五頁)、本判決も、従来の最高裁判例の立場の延長線上にあるものである。

三 判決要旨一は、事情変更の原則を適用するための要件の一部を示したものである。すなわち、(一) 契約締結後の事情の変更について契約当事者に予見可能性がないことを要する、(二) 右事情の変更について契約当事者に帰責事由がないことを要する、(三) 以上の予見可能性及び帰責事由の有無は契約上の地位の譲渡があった場合でも契約締結時の契約当事者について判断する、ことを示したものである。これらの要件の一部が欠ければ事情変更の原則は適用できないことを明らかにした点に、本判決の一つの意義がある。原審判断は、契約締結時の契約当事者であるA社ではなく、本件ゴルフ場の全面改修工事を実施した当時の契約当事者であるB社についての(A社から営業譲渡〔契約上の地位の譲渡〕を受けた時点における)予見可能性を判断要素とした点において、事情変更の原則の適用要件の誤りを犯したことになる。

四 判決要旨二は、判決要旨一における予見可能性及び帰責事由の有無の判断基準を、本件事案における事情の変更の内容(ゴルフ場ののり面崩壊及びこれに対する防災工事の必要性)に即して示したものである。
事情変更の原則の適用要件としての予見可能性・帰責事由を判断するに当たっては、のり面崩壊についての具体的な危険が指摘されていたとか、現実に小規模な崩壊が生じていたとかいうような事実の認識は必要でない「自然の地形を造成した」という事実の認識(又は認識可能性)のみから、のり面崩壊の予見可能性もあったとみるべきである!!!。自然の地形に手を加えて建設された施設は、自然現象によるものであると人為的原因によるものであるとを問わず、災害を被る危険性から免れることのできないものであって、ゴルフ場経営はこのような災害の生じるリスクを常に背負っているものであり、具体的なのり面崩壊の兆候等がなかったからといって、事情変更の原則を適用してゴルフ場経営会社を免責するのは、適当でないからである。また、激しい大雨や地震によってのり面崩壊が生じたとしても、数十年に一度生じる程度の災害を理由に事情変更の原因を適用して当初の契約の拘束から当事者を免れさせることは、適当であるとは思われない。のり面崩壊の原因が施工当時の技術水準によれば予見不可能な工事の瑕疵が原因であったとしても、ゴルフ場の会員とゴルフ場経営会社との関係を判断するに当たっては、施工工事の契約当事者間の請負契約上の契約責任を判断する場合と異なり、予見可能性及び帰責事由がなかったとして事情変更の原因を適用して当初の契約の拘束から当事者を免れさせることは適当であるとは思われない。
事情変更の原則の適用要件としての予見可能性及び帰責事由は、予見可能性及び帰責事由が他の法律効果の発生要件となる場合(例えば、民法四一六条二項の特別損害の賠償の要件としての予見可能性や同法四一五条の債務不履行による損害賠償の要件としての帰責事由)と比較して、質的に大きく異なるものであるといえよう。!!!

五 なお、本件改良工事費用一三〇億円にはクラブハウス(のり面崩壊により破損したわけではない)の建築費を含むから、これが必要最小限度のやむを得ないものであったという原審認定には経験則上問題がないではない。また、ゴルフ場の維持管理費用はグリーンフィーなどの収入の中からゴルフ場経営会社が負担すべきものであるし、会員はゴルフ場資産についての所有権等の権利を有するものではないから、預託金額の多寡はゴルフ場の資産価値とは直接的な関係がなく、預託金の追加をしないで(利用料金は支払って)改良後のゴルフ場を利用することに対価関係の著しい破壊があるとも断言できない。しかしながら、本件は予見可能性及び帰責事由についての判断により結論を出すことができる事案であったため、本判決は、原審認定の経験則違反や対価関係の著しい破壊の論点については判断を示さなかった。