民法 事例から民法を考える 2 その土地、誰にも売ってません。


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Ⅰ はじめに
・所有権に基づく妨害排除請求としての抹消登記請求

Ⅱ 契約の成立
・契約書であるとの認識なく契約書に署名したことをもって売買契約の成立が認められるのか・・・

+(売買)
第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

・外形上契約締結の意思表示に当たる行為が契約締結の認識なしにされていた場合に契約締結の意思表示となるか?
=意思表示が成立するためにいわゆる表示意識(または表示意思)を要するか?
→表示意識がなくても意思表示は成立する(表示意識不要説)

1.表示意識必要説による場合

2.表示意識不用説による場合
根底
意思表示の成立は容易に認めたうえで、意思表示・法律行為の効力に関する諸規定の解釈を通して、当該事情のもとで適切な結論を得られるようにすべきである。

Ⅲ 契約の効力
1.錯誤無効
+(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

・95条ただし書きは、意思表示の有効に対する相手方の信頼を保護するために、表意者に重大な過失がある場合に意思表示の無効の主張を退けるもの
→相手方がそのような保護に値しないときは、無効の主張を認めてもよいはず!
=相手方が錯誤を惹起したとき
相手方が錯誤を知っていた、又は重大な過失により知らなかった
相手方も表意者と同一の錯誤に陥っていた時

2.詐欺取消し
+(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

3.錯誤無効への96条3項類推適用
・錯誤者の帰責性は詐欺による表意者の帰責性と同等以上
→96条3項の基礎にある表見法理に照らせば、錯誤者が詐欺による表意者に比べて優遇されるべきではない!

Ⅳ 代理による契約の効果の帰属
1.有権代理
2.109条の表見代理
+(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

①AY間の契約締結の意思表示
②その際の顕名
③Xが①に先立って、Yに対して、Aに①の契約のための代理権を授与した旨の表示をしたこと!

・代理権授与表示は意思表示類似のものであり、その成立と効力につき基本的に意思表示に準じて考える!

3.110条の表見代理
+(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

①AY間の契約締結の意思表示
②その際の顕名
③Aが、①に先立って、①の契約以外の代理権(基本代理権)を取得したこと
④Yが、①の当時、Aが①の契約のための代理権を有すると信じたこと
⑤Yがそう信じることについて正当な理由があったと認められること

・「第三者」には転得者は含まれない。
←109条と併せて読めばわかる。
転得者の信頼の対象は、直接には前主が権利を有することであり、前主との間でその権利についての契約をした者がその契約をする代理権を有していたことではない!
←表見代理は、本人に契約の効力が本来帰属しない場合につき、代理権の存在に対する信頼を保護するために例外を認める法理

Ⅴ 94条2項類推適用による第三者の保護
1.94条2項の「類推適用」
+(虚偽表示)
第九十四条  相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2  前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

・意思表示の効力に関する規定であり、意思表示の有効に対する第三者の信頼を保護するためのもの。

・不動産取引において、意思表示の効力とは無関係に端的に登記への信頼を保護するために類推適用されている。
意思表示の効力が維持されることになるわけではない
第三者の信頼の対象も、意思表示の有効ではなく、登記名義人における登記どおりの権利の存在である

2.94条2項類推適用法理の射程
不動産登記に対する信頼保護のための94条2項の利用
①不実の登記の存在
②その登記の存在についての権利者の帰責性
③ある者が「第三者」に該当すること
④その者が登記の真正を信じたこと、または無過失で信じたこと

・第三者の善意であればよい場合(94条2項をそのまま類推)
a)権利者が意図的に不実の登記を作出
b)他人の作出した不実の登記を権利者が承認

・善意無過失であることを要する場合
c)abに同視すべき重大な帰責性が権利者にある
d)権利者が他人名義の不実の登記(第1登記)を作出し、その他人が第1登記を利用して第三者の信じた不実の登記を作出

dの場合
権利者は意図して不実の登記を作出しているが、その登記は第三者が信じたものと異なる。
94条2項と110条の法意に照らして、善意無過失の第三者の保護

cの場合
不注意な行為は、程度がいかに重大であっても、意図的な行為とは質的には異なる
→単純な類推適用ではない。

+判例(H18.2.23)
理由
上告代理人河野浩、同千野博之の上告受理申立て理由1について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人は、平成7年3月にその所有する土地を大分県土地開発公社の仲介により日本道路公団に売却した際、同公社の職員であるAと知り合った。
(2) 上告人は、平成8年1月11日ころ、Aの紹介により、Bから、第1審判決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)を代金7300万円で買い受け、同月25日、Bから上告人に対する所有権移転登記がされた。
(3) 上告人は、Aに対し、本件不動産を第三者に賃貸するよう取り計らってほしいと依頼し、平成8年2月、言われるままに、業者に本件不動産の管理を委託するための諸経費の名目で240万円をAに交付した。上告人は、Aの紹介により、同年7月以降、本件不動産を第三者に賃貸したが、その際の賃借人との交渉、賃貸借契約書の作成及び敷金等の授受は、すべてAを介して行われた。
(4) 上告人は、平成11年9月21日、Aから、上記240万円を返還する手続をするので本件不動産の登記済証を預からせてほしいと言われ、これをAに預けた。
また、上告人は、以前に購入し上告人への所有権移転登記がされないままになっていた大分市大字松岡字尾崎西7371番4の土地(以下「7371番4の土地」という。)についても、Aに対し、所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していたが、Aから、7371番4の土地の登記手続に必要であると言われ、平成11年11月30日及び平成12年1月28日の2回にわたり、上告人の印鑑登録証明書各2通(合計4通)をAに交付した。
なお、上告人がAに本件不動産を代金4300万円で売り渡す旨の平成11年11月7日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が存在するが、これは、時期は明らかでないが、上告人が、その内容及び使途を確認することなく、本件不動産を売却する意思がないのにAから言われるままに署名押印して作成したものである。
(5) 上告人は、平成12年2月1日、Aから7371番4の土地の登記手続に必要であると言われて実印を渡し、Aがその場で所持していた本件不動産の登記申請書に押印するのを漫然と見ていた。Aは、上告人から預かっていた本件不動産の登記済証及び印鑑登録証明書並びに上記登記申請書を用いて、同日、本件不動産につき、上告人からAに対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続をした(以下、この登記を「本件登記」という。)。
(6) Aは、平成12年3月23日、被上告人との間で、本件不動産を代金3500万円で売り渡す旨の契約を締結し、これに基づき、同年4月5日、Aから被上告人に対する所有権移転登記がされた。被上告人は、本件登記等からAが本件不動産の所有者であると信じ、かつ、そのように信ずることについて過失がなかった。
2 本件は、上告人が、被上告人に対し、本件不動産の所有権に基づき、Aから被上告人に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案であり、原審は、民法110条の類推適用により、被上告人が本件不動産の所有権を取得したと判断して、上告人の請求を棄却すべきものとした。
3 前記確定事実によれば、上告人は、Aに対し、本件不動産の賃貸に係る事務及び7371番4の土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが、そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにAに預けて数か月間にわたってこれを放置し、Aから7371番4の土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通をAに交付し、本件不動産を売却する意思がないのにAの言うままに本件売買契約書に署名押印するなど、Aによって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず、これを顧みることなく、さらに、本件登記がされた平成12年2月1日には、Aの言うままに実印を渡し、Aが上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに、その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。そうすると、Aが本件不動産の登記済証、上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは、上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり、Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして、前記確定事実によれば、被上告人は、Aが所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから、民法94条2項、110条の類推適用により、上告人は、Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において正当であり、論旨は理由がない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉德治 裁判官 才口千晴)

Ⅵ おわりに


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