民法択一 物権 先取特権 先取特権の順位


・共益費用についての一般の先取特権者は、雇用関係についての一般の先取特権者に優先して債務者の総財産から弁済を受けることができる!
+(一般の先取特権の順位)
第329条
1項 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第306条各号に掲げる順序に従う
2項 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

・動産保存の先取特権は、動産売買の先取特権に優先する!
+(動産の先取特権の順位)
第330条
1項 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
動産の保存の先取特権
動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2項 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3項 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。

・内容の衝突する物権相互間においては、その優先順位は、対抗要件具備の順序に従うのが原則である!ただし、登記をした不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権は、抵当権に先立って行使することができる!!!
=不動産先取特権、不動産質権、抵当権の順位は常に登記の先後によって決まるわけではない!

+(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第339条
前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。

+(不動産保存の先取特権の登記)
第337条
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

+(不動産工事の先取特権の登記)
第338条
1項 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2項 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

+++337条解説
先取特権というのは、担保物権の中の一つでしたが、その中でも法定担保物権の一つでした。つまり、抵当権などとは異なり当事者が契約をしなくても、法律上一定の事由があれば当然に発生するものなのです。そして、同一の不動産に対して、抵当権と不動産保存の先取特権が競合した場合、不動産保存の先取特権が抵当権に対して優先するのです。これは抵当権者からしたら、たまったものではありません。→抵当権者の保護のため。

++不動産保存の先取特権とは?
不動産に関する権利の保存費用を負担した人がいる場合に、その人がその旨を登記すれば、先取特権が発生し、不動産を競売して保存費用を取り戻せるという権利である。

・動産売買の先取特権と動産質権が競合する場合には、動産質権が優先する!!!

+(先取特権と動産質権との競合)
第334条
先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第330条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。

+(動産の先取特権の順位)
第330条
1項 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2項 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3項 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。


民法択一 物権 先取特権 意義・種類


・民法上、先取特権には、一般先取特権、動産先取特権、不動産先取特権の3つの種類が存在するが、この分類は優先弁済の対象となる目的物の種類に応じたものである!

・一般先取特権の優先弁済の対象は「債務者の総財産」(306条柱書)
+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

・動産先取特権については「債務者の特定の財産」(311柱書)
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務

・不動産先取特権については「債務者の特定の不動産」
+(不動産の先取特権)
第325条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一  不動産の保存
二  不動産の工事
三  不動産の売買

・雇用関係の先取特権は、定期に支払われる給料を担保する。使用人が退職する際に支払われるべき退職金も担保する!←雇用関係から生じた一切の債権だから
+(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

+(雇用関係の先取特権)
第308条
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。

・日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月分の飲食料、燃料及び電気の供給について存在する!

+(日用品供給の先取特権)
第310条
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。

+解説
「債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な飲食料品、燃料及び電気の供給」をした者は、その代金債権に関しては、債務者の総財産について先取特権を有する。
 ただし、「一般の先取特権」として優先回収権が認められるのは、債務者の財産を差押た時点 又は 他の債権者が債務者の財産に対して申し立てた差押に配当要求をした時点 から さかのぼって6か月以内の債権だけだ という事を、『最後の6箇月間の』 という文言が表しているのです。
 例えば、米屋は、債務者が米代の売掛金の支払いをしないときは、債務者の有する財産(不動産・動産・債権等)を差押て回収する事が出来ますが、一般の先取特権として他の一般債権者(担保物権を有しない債権者)に優先して裁判所から配当が受けられるのは、差押の日から6か月以内に弁済期が来た部分だけで、それより前の売掛金は 他の一般債権者と同順位で各債権者の債権額按分で配当を受けられるに留まる。
←社会政策的配慮
・一般先取特権は、不動産につき登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができるが、登記をした第三者には対抗できない!!!←177条の例外。但し書きは取引の安全のため。
+(一般の先取特権の対抗力)
第336条
一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
・日用品の供給によって生じた債権を有する者は、当該日用品だけでなく、債務者の総財産を目的とする!!!!←一般先取特権!
・一般先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることはできない!!!
←例えば、先取特権者が10万円の債権を担保するために先取特権を行使してきたとします。そのときに、家に対して行使されるか、家の中に置いてあるテレビに対して行使されるか、どちらが嫌か?を考えてみる。
+(一般の先取特権の効力)
第335条
1項 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
2項 一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
3項 一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
4項 前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。
・動産の賃貸借によって生じた賃料債権の債権者は、債務者の特定の動産に対する先取特権を有しない!!!!!!!ナント
←311条に規定されていない
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務
・賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ!!!!!
+(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第314条
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。
・請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができない!!!
=請負工事に用いられた動産の売主は、請負人が注文者に対して有する請負代金債権を目的として動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないのを原則とするが、請負代金全体の中で売却した動産が占める価額の割合や請負契約における請負人の債務内容等に照らして請負代金の全部又は一部を当該動産の転売代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、その部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができる。
+判例(H10.12.18)
 動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法三〇四条)。これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。 
 これを本件について見ると、記録によれば、破産者エヤー・工販株式会社は、申立外松下電子部品株式会社からターボコンプレッサー(TX―二一〇キロワット型)の設置工事を代金二〇八○万円で請け負い、右債務の履行のために代金一五七五万円で右機械を相手方に発注し、相手方は破産会社の指示に基づいて右機械を申立外会社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、二〇八○万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当することが明らかである。右の事実関係の下においては、右の請負代金債権を相手方が破産会社に売り渡した右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、申立外会社が仮差押命令の第三債務者として右一七四〇万円の一部に相当する一五七五万円を供託したことによって破産会社が取得した供託金還付請求権が相手方の動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
++解説
 四 動産売買の先取特権は公示手段なしに優先弁済権を認める権利であるため、制度そのものに対する批判もあり、立法例も分かれている。我が国の民法において動産の売主に先取特権が認められた立法趣旨としては、①動産の売主は買主の信用を確かめることができない場合が多いため、売主に先取特権を与えることによって動産の売買を容易かつ安全ならしめることができること、②動産の売主は当該動産を提供することによって買主の一般財産を増加させたのであるから、当該動産によって売主の代金債権が担保されることが公平の原則に適うことなどが挙げられているが、動産売買の先取特権者には、目的動産を直接支配したり、目的動産が第三者に譲渡されることを阻止したりする権利が認められていないため、動産の売主による先取特権の行使を認めることがかえって債権者間の実質的な公平を損なうことになる、との指摘もされている(藤田耕三「動産売買先取特権に基づく保全処分」民事保全実務の諸問題二四頁)。実務上動産売買先取特権に基づいて転売代金の差押えを行うためには担保権の存在につき適切な書証による高度の証明が必要とされ、動産の買主がこれを用いて施工した請負工事代金についての民法三〇四条に基づく差押えの可否に関して原則的否定説に立つ下級審の裁判例が多いのも、動産売買先取特権の公示の方法が十分でないため、物上代位権の行使を安易に認めると、他の債権者や取引関係者の利益を害するおそれがあることを考慮したものではないかと考えられる。
 五 本件は、債務者が第三債務者から債権者の販売する本件機械の搬入工事を受注した上で、債権者に右機械を発注し、債権者が右機械を第三債務者に直接引き渡したと認められる事案であり、また、債務者が第三債務者に宛てて作成した見積書においては、本件機械の価格の部分とその余の費目とが区別され、本件機械の価格の部分(一七四〇万円)は、請負工事代金総額(二〇八〇万円)の八割以上を占めている。したがって、本件は、債権者から提出された書証によって債務者が本件機械を第三債務者に転売したと認めることのできる事案であり、前記三の(2)の動産同一性説又は(3)の肯定説に立つ場合はもとより、(1)の原則的否定説に立っても債権者による物上代位権の行使を肯定してよい事案であるといえる。
・建物の賃貸人は、賃借人に対する賃料債権を被担保債権として、当該建物内に持ち込まれた金銭について先取特権を有する!!!
+(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一  不動産の賃貸借
二  旅館の宿泊
三  旅客又は荷物の運輸
四  動産の保存
五  動産の売買
六  種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七  農業の労務
八  工業の労務
+(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第313条
1項 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
2項 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
++
「建物に備え付けた動産」(313条2項)とは、賃借人がその建物内にある期間継続して存置するために持ち込んだ動産を意味し、建物内に持ち込まれた金銭、有価証券、懐中時計、宝石類等にも先取特権が及ぶ!!!!
・不動産工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する!!!
+(不動産工事の先取特権)
第327条
1項 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2項 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
+++
工事をすれば、当然不動産の価値は上がる。しかし、時の経過とともにその価値はまた落ちる。ですから、先取特権を行使しようとする時点において、価値の増加が残存している部分についてのみ先取特権は成立するということ。
・不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する!!!!
+(不動産売買の先取特権)
第328条
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。

・甲動産をしょゆうするAが、これをBに売り、さらにBがCに譲渡したが、AがBから代金の支払いを受けないまま、甲動産がAからBへ、さらにBからCへ売買により引き渡された場合、Aは動産売買先取特権の行使として、甲動産を差し押さえることはできない!!!!!!
+(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない

+++解説引用参照。
333条の趣旨は、公示のない動産上の先取特権の追及力を制限し、動産取引の安全を図ることだと言われています。
少しわかりやすく解説するために、追及力のある担保物権である抵当権と比較します。
たとえば、AさんがBさんに1000万円を貸して、Bさんの土地に抵当権を設定したとします。抵当権は登記をすることができます。つまり、登記をすることにより、抵当権が設定されていることを公示することができるのです。とすると、ある土地を買おうとする人は、その土地を買う前に登記簿を調べれば、その土地に抵当権が設定されていることがわかるのです。ですから、抵当権が設定されていたとしても、取引の安全を害することはありません。だからこそ、抵当権には追及力というものが認められているのです。さきほどの事例で、抵当権が設定されているBさんの土地がCさん、さらにDさんに売り渡されていったとしても、ずーっと抵当権は設定されたままなのです。これを追及力と言います。
他方で、先取特権の場合はどうでしょうか?先取特権は、一般の先取特権、動産の先取特権、不動産の先取特権の3種類があり、一般の先取特権と動産の先取特権は登記をすることができないのです。とすると、ある物に対して先取特権が存在していたとしても、その物に先取特権が成立しているかどうか第三者は知ることができないのです。ある物を買ったのに、実はその物には先取り特権が設定されていましたということになると、その物を買った人からするとたまったものではありません。つまり、公示されていないので、取引の安全を害することになるのです。ですから、333条は、追求力を制限して、第三者に引き渡された後は、先取特権を行使することができないとすることによって、その物の取引をした第三者を保護しているのです。これが、333条の趣旨である、公示のない動産上の先取特権の追及力を制限し、動産取引の安全を図ること、という意味です。

+注意!!
「第三取得者」(333条)につき善意悪意を区別していない!!!→動産先取特権を有する者は、その目的物が第三者に売却され、引き渡された場合、第三者が、その動産が動産先取特権の目的であることを知っているときであっても、その動産につき先取特権を行為資することはできない!!!

・動産の買主が、当該動産を含む集合動産を第三者に譲渡したが、その譲渡が、第三者が買主に対して有する債権を担保するためのものである場合、当該動産につき占有改定がされたときは、当該動産の売主は、動産売買先取特権の行使として、当該動産を差し押さえることができない!!!!←集合動産担保権者は特段の事情がない限り333条の「第三取得者」に当たる!!!、333条の「引き渡し」には、占有改定も含まれる。

+判例(S62.11.10)
ところで、構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第九二五号同五四年二月一五日第一小法廷判決・民集三三巻一号五一頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有するものというべきであり、また、訴外会社がその構成部分である動産の占有を取得したときは被上告会社が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、現に訴外会社が右動産の占有を取得したというを妨げないから、被上告会社は、右集合物について対抗要件の具備した譲渡担保権を取得したものと解することができることは、前記の説示の理に照らして明らかである。そして、右集合物とその後に構成部分の一部となつた本件物件を包含する集合物とは同一性に欠けるところはないから、被上告会社は、この集合物についての譲渡担保権をもつて第三者に対抗することができるものというべきであり、したがつて、本件物件についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができるものというべきであるところ、被担保債権の金額及び本件物件の価額は前記のとおりであつて、他に特段の事情があることについての主張立証のない本件においては、被上告会社は、本件物件につき民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、上告会社が前記先取特権に基づいてした動産競売の不許を求めることができるものというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

・不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前に(×工事が完了した後)その費用の予算額を登記しなければならない!
+(不動産工事の先取特権の登記)
第338条
1項 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2項 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。


民法択一 物権 留置権 留置権の消滅


・留置物の占有を喪失した場合、原則として留置権は喪失する!!←留置物の占有は成立要件であるとともに存続要件である!!!
+(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
・留置権者が債務者である当該留置物の所有者の承諾を得ず留置物を賃貸した場合、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またはこれによって損害を受けたかどうかを問わず、留置権の消滅請求をすることができる!!!
+判例(S38。5.31)
同第二点について。
被控訴人がその占有する本件伐木に関し、前記訴外会社に対し、金一三一万八六七円の請負代金債権を有すること、右債権の弁済がないこと、被控訴人は、控訴人の承諾なくして、昭和三〇年三月一六日、訴外大野木工株式会社に対し原判決添付第二目録の(1)ないし(4)の伐木を売り渡す契約をし、その手付金として金五万円を受領し、同年同月頃、右伐木を担保として、訴外大野信用金庫から金四〇万円を借用したこと、控訴人が昭和三二年九月二五日本件留置権について消減請求の意思表示をしたことは、原審の確定するところであり、民法二九八条三項の法意に照せば、留置権者が同条一項および二項の規定に違反したときは、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またこれによつて損害を受けたかどうかを問わず、当該留置権の消滅を請求することができるものと解するのが相当である。したがつて、原判決が、前記確定事実に基づいて、本件留置権は、控訴人の消滅請求の意思表示により消滅したと判示したのは正当であり、所論は、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用のかぎりでない。
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
・留置物の所有権が第三者に移転した場合に、所有権移転につき対抗要件を具備するより前に、留置権者が債務者の承諾を受けて留置物を使用収益したとき、新所有者は、留置物の無断使用又は無断賃貸を理由として留置権の消滅を請求することはできない!!!
+判例(H9。7.3)
上告代理人安藤裕規、同安藤ヨイ子、同齊藤正俊の上告理由第二点について
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が民法二九八条二項所定の留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときには、留置権者は右承諾の効果を新所有者に対し対抗することができ、新所有者は右使用等を理由に同条三項による留置権の消滅請求をすることができないものと解するのが相当である。
++解説
三 民法二九八条二項は、留置権者は原則として被担保債権の「債務者」の承諾なく留置物の使用等をすることができない旨規定している。留置権者が右承諾を得ることなく留置物の使用等をした場合に留置物の新所有者が留置権の消滅請求をなし得ること(民法二九八条三項)については、既に最二小判昭38・5・31民集一七巻四号五七〇頁、本誌一五一号七三頁、最一小判昭40・7・15民集一九巻五号一二七五頁、本誌一八三号九七頁が判示していたところであるが、右の承諾がされた場合に新所有者との関係でいかなる効力が生ずるかについては、これまで、見るべき適切な裁判例はなく、学説上も必ずしも十分に論じられていなかった。本判決は、右についての解釈を明らかにしたものである。
1 上告理由は、留置権の本来的な効力は留置権者が被担保債権の弁済を受けるまで留置物の引渡しを拒むことができることにあるとの理解に立脚し、そうであるならば、留置物の使用等の承諾は債権的な効力を有するにとどまると解すべきであるとするものであった。
しかしながら、民法二九七条は、留置権者の果実収取権を定めているところ、留置権者は、留置物の使用等の承諾を得ることによって、消滅請求を受ける懸念なく、留置物を使用等し、これによって得た果実を被担保債権の弁済に充てることができることとなり、その意味で、留置物の使用等の承諾は、留置権者の果実収取権を確定的なものとするとの意味を有する。この点に関し、大判大7・10・29新聞一四九八号一六九頁は、建物を競落した者が同建物の賃借人に賃料の支払を請求し、賃借人が同建物について負担した修繕費の弁済に賃料を充てたとして争った事案において、民法二九七条所定の留置権者の果実収取権は物権である留置権の効力として認められた優先権であって、留置物の新所有者に対しても主張できるとしつつ、留置権者は、「自己が適法に留置物を他人に賃貸したる場合のみならず、自ら留置物を賃借したる場合に於ても、其賃貸人の何人たるを問わず、之が対価として賃貸人の受くべき賃金(注・賃料)に付、同条の規定に従ひ自己に優先弁済を受くる権利ある者と解するを当然とす。」(句読点を補った。)と判示していた。右は、当該事案との関係ではその一部において傍論にとどまるが、前記のような留置物の使用等の承諾の意義を明らかにするものであった。留置権の本来的な効力として上告理由が述べるところは、留置権の内容の理解としては、狭きに失するものであり、その立論の前提に問題があったということになる。
右の点に関し、原判決は、「留置権者は留置物の所有権が第三者に移転されたことを予め知りうる立場にはないのに、第三者に所有権が移転されたことによって、右第三者に対する関係では留置物の旧所有者から与えられた承諾は有効ではなくなり、留置権の使用状態は義務違反となって、右第三者は留置権消滅を請求することができるとすることは、留置権の第三者に対する対抗力を実質上無に帰するものであり採用することは」できないと述べている。右は、前記の趣旨を、別の角度から説明したものと理解することができよう。
2 ところで、民法二九八条二項は、留置物の使用等の承諾をなし得る主体について、「債務者」と規定しているところ、仮にこれを字義どおりに理解すると、留置権の被担保債権の債務者は、その地位にとどまっている限り、留置物の所有権の移転の有無を問わず、留置物の使用等の承諾ができるかのように見えないでもない。しかしながら、前記のとおり、留置物の使用等の承諾も!!留置物に関する右債務者の物権行為の一つ!!であると解すると、右承諾をすることは、当該留置物に関する右債務者の処分権限の帰すうと一種の対抗関係に立つこととなり、被担保債権の債務者であっても、第三者との関係で確定的に留置物に関する処分権限を失った後は、右承諾をすることはできなくなるのが、その論理的な帰結ということになる。本判決が、右承諾について、留置物の所有権の移転に関する対抗要件の具備との先後関係に着目しているのは、右のような考えに基づくものと理解され、これは、民法二九八条二項の文理に限定解釈を加えたことを意味する。!!!
もとより、留置権の被担保債権の債務者が留置物に対していかなる処分権限を有するかは、事案により様々であり、右債務者のなし得る留置物の使用等の承諾の内容がその処分権限との関係でいかなるものとなるかに関しては、学説の対立が見られたところである(注釈民法(8)五五頁(田中整爾)等参照)。本判決は、留置権の被担保債権の債務者が留置物の所有者でもあったという、いわば典型的な事態を踏まえ、前記の法理を明らかにしたものであり、およそ留置権の被担保債権の債務者の立場にありさえすれば、本件におけるような留置物の包括的な使用等の承諾をなし得るとの判断を示したものではないことは当然として、前記の学説の対立点についての解決を示したものとまでも、解し得ないであろう。
  3 ところで、留置権の被担保債権の債務者のする留置物の使用等の承諾が、物権行為としての性格を有するとして、留置物の新所有者に対して留置権者がその効果を主張する場合において、右承諾の存在につき何らかの形での公示を要するものとするかどうかは、一箇の問題である。
右の点に関し、そもそも、右承諾の基礎となる留置権そのものについて、法は、たとい不動産を対象とするものであっても、留置権者による占有以外には、公示を要求していないのであって(民法一七七条、不動産登記法一条)、留置物の使用等の承諾に関しても、民法二九八条二項は、承諾の意思表示のほかに、格別の要件を要求してはいない。留置物の新所有者にしてみれば、いずれにせよ留置物の占有使用は不可能なのであるから、旧所有者のした留置物の使用等の承諾に関して公示が存在しないからといって、これによる新たな不利益が現に発生するわけではなく、かえって、留置権の被担保債権が早期に回収されて留置権の負担からより速やかに解放されるというメリットも期待できる(なお、留置物の使用等の結果、留置権者においてその保存義務に違反した事態が発生すれば、留置物の新所有者は、これを理由に留置権の消滅請求をすることができることは、いうまでもない。民法二九八条一項、三項)。他方、留置権者にしてみれば、留置物の旧所有者から得た承諾を基礎に債権の回収に着手した後、留置権者にとっては予見することのできない留置物の所有権の移転や差押え等によって、その担保権者としての法的地位が左右されるということは、やはり酷というほかないであろう。
本件の原判決は、その結論を導き出す過程で、本件の事案において原告であるXが留置物である係争建物の所有権を取得した前後を通じて留置権者であるY会社がその使用状態を変更していないことに言及しており、留置権の使用等の承諾の公示方法として、留置物の現実の使用を問題としているかのようにも見えるが、そうであるならば、Xの係争建物の所有権取得は競売によるものであったのであるから、差押登記による係争建物に対する処分制限効の発生についての対抗要件の具備と、Y会社の係争建物の使用等の状況との比較も、問題となり得たはずである。本判決は、留置物の使用等の承諾に関しては、民法二九八条二項の文理どおり、意思表示のほかには格別の要件は必要とされないとの判断を示したもので、原判決の右のあいまいな説示については、本件におけるY会社の係争建物の使用等がAの与えた承諾の範囲を超えるものではなかったことを念のため明らかにしたにとどまると理解したものと見られる(なお、原判決の前記説示は、その内容から見て、最一小判昭47・3・30裁集民一〇五号四一三頁を参考としたものと見られないでもないが、右判例の事案は、建物の賃借人が賃借建物の修繕費を負担し、これについて留置権の主張をした場合において、賃借人による建物居住の継続が、「債務者」の承諾なくなし得る留置物の「保存ニ必要ナル使用」(民法二九八条二項ただし書)を超える使用に該当するか否かが問題とされたものであり、本件とは事案が異なっている。)。
・留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合であっても、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、特段の事情のない限り、当該債権の全部の弁済を受けるまで留置権の残部につき留置権を行使し得る!!!
+判例(H3.7.16)
 1 民法二九六条は、留置権者は債権の全部の弁済を受けるまで留置物の全部につきその権利を行使し得る旨を規定しているが、留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお右規定の適用があるのであって、この場合、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使し得るものと解するのが相当である。そして、この理は、土地の宅地造成工事を請け負った債権者が造成工事の完了した土地部分を順次債務者に引き渡した場合においても妥当するというべきであって、債権者が右引渡しに伴い宅地造成工事代金の一部につき留置権による担保を失うことを承認した等の特段の事情がない限り、債権者は、宅地造成工事残代金の全額の支払を受けるに至るまで、残余の土地につきその留置権を行使することができるものといわなければならない。 
 2 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、上告人は、本件造成地の工事残代金の全額の支払を受けるまで、本件造成地の全部につき留置権を行使し得るところ、本件土地は本件造成地の一部で、上告人はAから本件工事代金中一三〇〇万円の支払を受けていないというのであるから、右の特段の事情の存しない本件において、上告人は、Aから残代金一三〇〇万円全額の支払を受けるに至るまで、本件土地を留置し得るものというべきである。 
 3 そうすると、被上告人の請求は、上告人がAから一三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに本件土地上の本件建物を収去してその敷地の明渡しを求める限度で認容し、その余を棄却すべきものである。以上と異なる原判決には、民法二九六条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れず、第一審判決は右の趣旨に変更すべきものである。 
++解説
この点は、留置権の不可分性(民法二九六条)の問題であるが、その不可分性とは、一般に、「物の各部分をもって債権の全部を担保し、物の全部をもって債権の各部分を担保することをいう」などと概念づけられている(梅謙次郎・民法要義巻之二物権篇二七三頁、中島玉吉・民法釈義巻之二下六一八頁、田中整爾・注釈民法(8)四七頁等)。本件は、前記のとおり、本件造成地が三筆の土地からなり、また、造成工事の完了した部分が分筆されて引き渡されているが、このように留置物が可分の物又は数個の物でも、これによって前記の牽連性が否定される場合を除き、右の不可分性に変わりはないものと解される(田中・前掲四八頁等)。薬師寺師光・留置権論三〇頁は、「留置物が一個の場合に於て…留置物が分割された場合には、留置権は各分割物の上に存続し、孰れも債権全部を担保する。留置物が数個の場合に於て…留置物中の一個又は数個が滅失するも、残りの留置物が債権全部を担保する。」と説いて、この点を明らかにしている。原審(一審同旨)は、本件工事代金が本件造成地に関して生じた債権に該当するとしながら、Yが留置権を行使し得る被担保債権の範囲を残代金の一部に限定しているのであるが、その判断は、留置権の不可分性からして、是認し得ないものと思われる。なお、本判決は、特段の事情のない限りという留保を付けているが、具体的な個々の事案において、債権者が留置物の一部を債務者に引き渡す際、留置物の残部で担保される債権の範囲まで減縮するような合意をしている場合も考えられないわけではなく、そのような場合を除く趣旨に解されるが、本件において、もとより右の特段の事情は存しない。
 本件造成地と本件工事代金との牽連性が認められる以上、留置権の不可分性からして、本判決の結論は当然といえるが、留置権者が目的物の一部を債務者に引き渡した場合における被担保債権の範囲を明示する先例もなく、この点を判示した本判決の意義は少なくないものと思われる。
+(留置権の不可分性)
第296条
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。


民法択一 物権 留置権 留置権の効力


・留置権者は、留置物を担保に供することができるが、その際、債務者の承諾が必要である!!!
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・留置権者は善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない!

・留置権者が収受した果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない!
+(留置権者による果実の収取)
第297条
1項 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2項 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。

・家屋の賃借人が所有者の建物明渡請求に対して留置権を主張した事案において、賃借人が引き続き当該家屋に居住することは留置権の保存に必要な使用として許される!!!。しかし、留置権を行使して費用償還を受けるまで家屋を使用することにより受ける利益は家屋所有者に返還すべき!!!!!!
+理由もほしいところ・・・

・留置権は占有の喪失によって消滅するのであり、留置権に基づく物権的返還請求権は認められない!!!
+(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

・留置権の占有を継続しても、被担保債権の消滅時効は進行する!!!!!!!
+(留置権の行使と債権の消滅時効)
第300条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。


民法択一 物権 留置権 留置権の要件


・民法上の留置権の成立には、①目的物と牽連性のある債権の存在、②目的物の占有、が必要である。

・目的物の占有の要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りる!!=債権成立時に目的物を占有していなければ留置権を主張できないわけではない!!
+判例(H18.10.27)
(1) 民事執行法181条1項は、担保権の存在を同項所定の法定文書によって証すべき旨を規定するところ、民法上の留置権の成立には、〈1〉債権者が目的物に関して生じた債権を有していること(目的物と牽連性のある債権の存在)及び〈2〉債権者が目的物を占有していること(目的物の占有)が必要である。
留置権の成立要件のうち目的物の占有の要件については、債権者が目的物と牽連性のある債権を有していれば、当該債権の成立以後、その時期を問わず債権者が何らかの事情により当該目的物の占有を取得するに至った場合に、法律上当然に民法295条1項所定の留置権が成立するものであって、同要件は、権利行使時に存在することを要し、かつ、それで足りるものである。そして、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、執行官が登録自動車を占有している債権者から競売開始決定後速やかにその引渡しを受けることが予定されており、登録自動車の引渡しがされなければ、競売手続が取り消されることになるのであるから(民事執行法195条、民事執行規則176条2項、95条、97条、民事執行法120条参照)、債権者による目的物の占有という事実は、その後の競売手続の過程においておのずと明らかになるということができる。留置権の成立要件としての目的物の占有は、権利行使時に存在することが必要とされ、登録自動車を目的とする留置権による競売においては、上記のとおり、競売開始決定後執行官に登録自動車を引き渡す時に債権者にその占有があることが必要なのであるから、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」としては、債権者による登録自動車の占有の事実が主要事実として確定判決中で認定されることが要求されるものではないと解すべきである。
したがって、登録自動車を目的とする民法上の留置権による競売においては、その被担保債権が当該登録自動車に関して生じたことが主要事実として認定されている確定判決であれば、民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」に当たると解するのが相当である。

+++留置権者による形式競売
留置権の効力は主として、債権の弁済を受けるまで物を留置できるという効力です(民法295条1項)。目的物から生じる果実について以外(民法297条1項)、優先弁済権はありません。
しかしながらこれでは、債権の弁済が長期間得られなくても、たんに目的物を留置できるのみということにもなり、留置権者に負担となる場合もあります。
そこで、留置権者が留置の負担から解放されるための手段として、目的物を競売することが認められています(民執195条。これを形式競売といいます)。
ところで、形式競売により目的物が換価されると、換価金は留置権者に交付されますが、留置権者は所有者に対して換価金返還務を負うことになります。
しかしながら、所有者と債務者とが一致するときは、留置権者は、換価金返還務と自分が所有者に対して有している被担保債権と相殺することができます。その場合、事実上、優先弁済を受けることになります。(但し、形式競売に関して、他の債権者が配当要求をできるか否かについては議論があります)
これに対して、所有者と債務者が別個のときには、留置権者は、所有者に即時に換価金を返還せざるを得ません。すなわち、形式競売を行えば留置権を失うことになってしまいます。ヘーー

・留置権者は留置物について必要費を支出した場合、所有者に対してその償還を請求することができる!!
+(留置権者による費用の償還請求)
第299条
1項 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる
2項 留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

・留置権の必要費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使することも許される!!!!
+判例(S33.1.17)
同(ハ)について。
(イ)において述べたとおり、被上告人は管理契約終了前本件浴場建物に関し必要費の償還請求権を有し、契約終了後も右建物に対し留置権を有することは、原判決の確定するところである。そして、原判決は被上告人は右契約終了後その留置物について必要費、有益費を支出し、その有益費については、価格の増加が現存するものとなし、上告人に対しその償還請求権を有することを判示しているのであるから、この償還請求権もまた民法二九五条の所謂その物に関し生じた債権に外ならないものである。従つて契約終了前既に生じた費用償還請求権と共に、その弁済を受くるまでは、該浴場建物を留置し明渡を拒み得るものというべきである。しかして、所論の浴場経営が民法二九八条二項但書の物の保存に必要な使用の範囲を逸脱するものかどうかは、同条三項の留置権消滅の請求権を生ぜしめるか否かの問題となるに止まるのであるから、その消滅請求権を行使した事実のない本件においては、前段説示のとおり留置権の存続を認むるの外ないことは明らかである。

++(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・二重売買の買主が所有権移転登記を受けた買主から返還請求を受けた場合、売主の売買契約に基づく目的物引渡債務の不履行に基づく損害賠償請求権と目的物との間には、牽連性がなく、買主は目的物について留置権を行使することができない!!!
←本件の債権はその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その物に関し生じた債権とはいえないとして、牽連性を否定している!!!
+++基本書で追記を。

・確定的に不動産の所有権を取得した仮登記担保権者が、債務者に清算金を支払わないでその不動産を第三者に譲渡した場合。債務者は、清算金支払請求権を被担保債権として譲受人たる第三者に対してもその不動産につき留置権を行使することができる!!!!!!
+判例(58.3.31)
1 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、GとFとの間の本件合意は、代物弁済予約形式の担保の清算方法の合意としてその効力を否定すべき理由はないから、Gが右合意に基づき本件土地建物の所有権を確定的に取得したのちは、もはや上告人Aらは被担保債務の弁済によつて本件土地建物を取り戻すことはできなくなつたものというべきである。
したがつて、所論の弁済の提供等は、被上告人の本件土地建物についての所有権取得に影響を及ぼす理由とはなりえない。所論中、原判決が、被上告人において清算金支払義務の関係につきGと同一の地位にある旨判示していることをとらえて、右清算金が支払われるまでは右の取戻しをすることができることとなるべき理である旨をいう部分は、後記判示の点を措いても、原判決の趣旨を正解せず、原審の認定しない事実に基づくか、又は独自の見解に立つ主張というほかはない。なお、上告人らは、原審において、被上告人とFとの間において債権者の交替による更改契約が成立したことを前提として所論弁済の提供等を主張したものにすぎないところ、原審は右更改契約の締結の事実が認められない旨判断しており、右認定判断は原判決挙示の証拠関係によつて是認することができ、その過程に所論の違法はない。この点に関して弁済の提供等についての判断遺脱等をいう所論は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。
2 しかしながら、職権をもつて調査するのに、前記認定の事実によれば、Gは、Fとの間の本件合意に基づき本件土地建物につき確定的に所有権を取得して更に被上告人にこれを譲渡したのであるから、被上告人はこれによつて本件土地建物につき担保権の実行に伴う清算関係とは切り離された完全な所有権を取得したものというべきであり、たとい被上告人において、GのFに対する右清算金の支払が未了であることを知りながら本件土地建物を買い受けたものであつても、そのために右のような被上告人による所有権取得が妨げられ、清算金の支払義務と結びついた本件土地建物の所有者としてのGの法律上の地位をそのまま承継するにとどまるものと解さなければならない理由はないというべきである。そうすると、被上告人とGとの間で重畳的債務引受の合意がされるなどの特段の事情がない限り、上告人Aらは被上告人に対して清算金の支払請求権を有するものではないから、原審が、上告人AらはGに対するのと同様に被上告人に対しても清算金支払請求権を有するとし、これを前提として上告人Aらが被上告人から清算金の支払を受けるまで本件土地建物の明渡しを拒むことができるとした点には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきである。
もつとも、被上告人の上告人Aらに対する本件土地建物の明渡請求は、所有権に基づく物権的請求権によるものであるところ、上告人AらのGに対する清算金支払請求権は、Gによる本件土地建物の所有権の取得とともに同一の物である右土地建物に関する本件代物弁済予約から生じた債権であるから、民法二九五条の規定により、上告人Aらは、Gに対してはもとより、同人から本件土地建物を譲り受けた被上告人に対しても、Gから清算金の支払を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができる関係にあるといわなければならない(最高裁昭和三四年(オ)第一二二七号同三八年二月一九日第三小法廷判決・裁判集民事六四号四七三頁、同昭和四五年(オ)一〇五五号同四七年一一月一六日第一小法廷判決・民集二六巻九号一六一九頁参照)。
そして、被上告人又はGが清算金を支払うまで本件土地建物の明渡義務の履行を拒絶する旨の前記上告人Aらの主張は、単に同上告人らの本件土地明渡義務と右清算金支払義務とが同時履行関係にある旨の抗弁権を援用したにとどまらず、被上告人の本件土地建物明渡請求に対して、清算金支払請求権を被担保債権とする留置権が存在する旨の抗弁をも主張したものとみることができるから、本件においては上告人Aらの右留置権の抗弁を採用して引換給付の判決をすることができたわけである。しかし、この場合には、被上告人は上告人Aらに対して清算金支払義務を負つているわけではないから、被上告人による清算金の支払と引換えにではなく、Gから清算金の支払を受けるのと引換えに本件土地建物の明渡しを命ずべきものであり、したがつて、これと異なり、被上告人からの清算金の支払と引換えに本件土地建物の明渡しを命じた原判決には、結局、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであるが、原判決を右の趣旨に基づいて変更することは、上告人Aらに不利益をきたすことが明らかであるから、民訴法三九六条、三八五条により、この点に関する原判決を維持することとする。

ムズイネ・・・・・

++++前提知識・・・代物弁済予約と仮登記担保
代物弁済とは、借入金や買掛金が焦げ付いた場合にモノ(大抵は不動産)の所有権を債務者から債権者に移転することによって、借入金や買掛金などの債務の弁済をなすことをいいます。
債権の担保としてあらかじめ定めたモノを代物弁済契約に特定して、債権の回収が滞ったときにそのモノの所有権を移転することによって債務の弁済を受けるように考えられたのが「代物弁済予約」です。ヘーーー
不動産を代物弁済予約の目的物とする場合には、予約契約を締結した時点で、「代物弁済予約による所有権仮登記」を行います。この登記は、不動産登記簿の甲区欄に記載されます。不動産に対する代物弁済契約はこのように仮登記を行いますので「仮登記担保契約」と呼ばれることがあります。

仮登記担保法による保護
代物弁済契約によれば、本来、少ない債権の弁済のために高額の不動産の所有権の移転を受けることができます。例えば、1,500万円の債権の弁済に2,000万円の不動産の譲渡を受けるようなことができたわけです。いわば、差額の500万円は代物弁済契約による丸儲け部分(これを清算金という)です。
ところが、これではあまりに債務者の利益を害しますので、仮登記担保法では次のような規制をしています。すなわち、代物弁済予約に係る予約完結の意思表示に加えて、担保権者に2か月経過後における清算金の金額を通知すべきものとされました。予約完結の意思表示をして2か月後に清算金を支払って初めて、代物弁済が完結します。また、清算金は債務者に渡るのが原則ですが、後順位担保権者がいる場合には、後順位担保権者が差し押さえることができるものとされました。
このような規制があるので、担保権者はいわば丸儲け部分を手にすることができません。したがって、代物弁済予約は一部の金融業者を除いてあまり使われなくなっています。
なお、代物弁済予約の他にも、売買予約を原因として仮登記をする例もあります。この売買予約も、金銭債権の担保としてなされることがほとんどです。この場合にも、仮登記担保法の規制が働きます。
通常の事業者が行う債権保全策には、これらの手法を使うことは稀だと思いますが、これらの登記のある不動産には十分注意をする必要があります。

++++代物弁済予約のメリット
(1)決済が早い=抵当権による債権回収は、不動産の競売か任意売却により行いますが、大変時間がかかり、処分価値も低くなります。これに比べて、代物弁済予約では予約完結権を行使して所有権移転の本登記をすれば、不動産の所有権が移転するので決済が早く、処理が簡単。
(2)債権者は不動産を取得できる
(3)保全される債権の範囲が広い=抵当権では債権の利息・損害金は最後の2年分しか優先弁済を受けられず、根抵当権は極度の範囲が保全されるに過ぎませんが、代物弁済ではすべてについて優先弁済を受けられます。

・Aは、その所有する不動産を目的として、Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定したが、Bが当該不動産を担保目的以外で処分しないという義務に反して第三者Cに譲渡し、CがAに訴引き渡しを請求した。判例によれば、AはBに対する上記義務の不履行による損害賠償請求権を被担保債権としてCに対して当該不動産につき留置権を行使することはできない!!
←損害賠償請求権はBに対して有するものであり、所有権に基づく引渡請求をするCに対して有するものではない=牽連性がない!!!

・第1譲受人の売主に対する損害賠償請求権は、その物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、その債権はその物に関して生じた債権とはいえない。

・借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことに基づくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、その借家人には費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置し得る権利は認められない!!!
+判例(S44.11.6)
上告代理人諌山博の上告理由第一点および第九点について。
借地上にある家屋の賃借人が借家契約のみにもとづきその敷地部分を直接または間接に適法に占有しうる権原は、もつぱら右家屋の所有者が借地の所有者との間に締結した借地契約にもとづきその借地を適法に占有しうる権原に依存しているのであるから、その借地契約が借地人の賃料不払を理由として有効に解除され、借地人が右借地を適法に占有しうる権原を喪失するに至つた場合には、右家屋の賃借人は、同人自身の家屋ないしその敷地部分の占有については何らの非難されるべき落度がなかつたとしても、その敷地部分を適法に占有しうる権原を当然に喪失し、右借地の所有者に対して、その家屋から退去してその敷地部分を明け渡すべき義務を負うに至るものといわざるをえない。以上と同旨の見解に立つて、被上告人の本訴請求を認容し、上告人に対して本件家屋部分からの退去およびその敷地たる本件土地の明渡を命じた原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。したがつてまた、その違法の存在を前提とするものと解される所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点および第三点について。
借地上にある家屋の賃借人がその家屋について工事を施したことにもとづくその費用の償還請求権は、借地自体に関して生じた債権でもなければ、借地の所有者に対して取得した債権でもないから、借地の賃貸借契約が有効に解除された後、その借地の所有者が借家人に対して右家屋からの退去およびその敷地部分の明渡を求めた場合においては、その借家人には右費用の償還を受けるまでその家屋の敷地部分を留置しうる権利は認められない、との見解に立つて、上告人の所論の留置権にもとづく本件家屋部分からの退去拒絶の抗弁を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、したがつてまた、その違法の存在を前提とする所論違憲の主張も不適法である。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、または、原判決の結論に影響のない問題について原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

・留置権は占有が不法行為によって始まった場合には成立しない(295条2項)。
+(留置権の内容)
第295条
1項 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない

・占有物についての有益費支出時に権原喪失について悪意・有過失であるような場合は、295条2項の類推適用により、有益費償還請求権を被担保債権とする留置権の成立を否定する!!
+判例(S51.6.17)
同第二点について
他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権をもつて、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが相当である。
蓋し、他人の物の売主は、その所有権移転債務が履行不能となつても、目的物の返還を買主に請求しうる関係になく、したがつて、買主が目的物の返還を拒絶することによつて損害賠償債務の履行を間接に強制するという関係は生じないため!!!!!!、右損害賠償債権について目的物の留置権を成立させるために必要な物と債権との牽連関係が当事者間に存在するとはいえないからである。原審の判断は、その結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について
国が自作農創設特別措置法に基づき、農地として買収したうえ売り渡した土地を、被売渡人から買い受けその引渡を受けた者が、土地の被買収者から右買収・売渡処分の無効を主張され所有権に基づく土地返還訴訟を提起されたのち、右土地につき有益費を支出したとしても、その後右買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により当初に遡つて無効とされ、かつ、買主が有益費を支出した当時右買収・売渡処分の無効に帰するかもしれないことを疑わなかつたことに過失がある場合には、買主は、民法二九五条二項の類推適用により、右有益費償還請求権に基づき土地の留置権を主張することはできないと解するのが相当である。
原審の適法に確定したところによれば、(一)本件土地は、被上告人の所有地であつたが、昭和二三年四月二八日、大阪市城東区農地委員会は、右土地が自作農創設特別措置法三条一項一号に該当する農地であるとして買収時期を同年七月二日とする買収計画を樹立し、公告、縦覧の手続を経たうえ、国がこれを被上告人から買収し、同農地委員会の樹立した売渡計画に従つて、昭和二六年七月一日上告人Aに対し、本件土地を売り渡したこと、(二)右買収計画は、本件土地が自作農創設特別措置法五条五号に該当する買収除外地であるにもかかわらず、これを看過した点において違法なものであつたので、被上告人は、昭和二三年七月右買収計画取消訴訟を提起し、被上告人の請求は、一審で棄却されたが、二審で認容され、その買収計画取消判決は、昭和四〇年一一月五日上告棄却判決により確定したこと、(三)上告人Bは、昭和三四年一一月一九日上告人Aから本件土地を買い受けてその引渡をも受けたが、昭和三五年一〇月被上告人から買収及び売渡は無効であるとして所有権に基づく本件土地明渡請求訴訟を提起され、その訴状は同月二五日上告人Bに送達されたこと、(四)上告人Bは、右明渡訴訟提起後の昭和三六、七年ころ、本件土地の地盛工事に一七万円、下水工事に七万円、水道引込工事に六万円の有益費を支出したこと、がそれぞれ認められるというのである。
土地占有者が所有者から所有権に基づく土地返還請求訴訟を提起され、結局その占有権原を立証できなかつたときは、特段の事情のない限り、土地占有が権原に基づかないこと又は権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては過失があると推認するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係のもとにおいて、右特段の事情があるとは未だ認められない。したがつて、右事実関係のもとにおいて、上告人Bが、所論の有益費を支出した当時、本件土地の占有が権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては、同上告人に過失があるとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。そうすると、右のような状況のもとで上告人Bが本件土地につき支出した所論の有益費償還請求権に基づき、本件土地について留置権を主張することが許されないことは、前判示に照らし、明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は正当である。その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

+悪意、有過失について・・・


民法択一 物権 質権 権利質・転質


・指名債権を質権の目的とする場合において、その債権に証書があるとき、証書を交付しなければ質権設定の効力が生じないわけではない!!
+(債権質の設定)
第363条
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするとき、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。

・指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又は承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要する!!!!

+判例(S58.6.30)
民法三六四条一項、四六七条の規定する指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又はその承諾は、第三債務者以外の第三者に対する関係でも対抗要件をなすものであるところ、この対抗要件制度は、第三債務者が質権設定の事実を認識し、かつ、これが右第三債務者によつて第三者に表示されうることを根幹として成立しているものであり(最高裁昭和四七年(オ)第五九六号同四九年三月七日第一小法廷判決・民集二八巻二号一七四頁参照)、第三債務者が当該質権の目的債権を取引の対象としようとする第三者から右債権の帰属関係等の事情を問われたときには、質権設定の有無及び質権者が誰であるかを告知、公示することができ、また、そうすることを前提とし、これにより第三者に適宜な措置を講じさせ、その者が不当に不利益を被るのを防止しようとするものであるから、第三者に対する関係での対抗要件となりうる第三債務者に対する通知又はその承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要するものと解すべき!!!!ナルホドネ!である。
本件において原審が適法に確定した事実関係によれば、第三債務者である両角善吉の質権設定についての確定日付のある承諾書には、単に抽象的に、債権者である若原行平が同人の債務の担保として本件敷金返還請求権を他に差し入れることを承諾する旨の記載があるにすぎず、両角善吉において若原行平が上告人のために本件敷金返還請求権に対し質権を設定することを承諾する趣旨で右承諾書を作成したものとは認められないというのであるから、右承諾書による承諾は、上告人が本件敷金返還請求権に対し質権の設定を受けたことをもつて被上告人に対抗するための対抗要件としての承諾にはあたらないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 フムフム

+(指名債権を目的とする質権の対抗要件)
第364条
指名債権を質権の目的としたときは、第467条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない
+(指名債権の譲渡の対抗要件)
第467条
1項 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

・質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
+(質権者による債権の取立て等)
第366条
1項 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2項 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3項 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4項 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。

・譲渡禁止特約のある指名債権を質権の目的とする場合、その特約につき質権者が悪意であれば、質権設定は無効である!!!
+理由を

・BはAから金銭を借り入れるに当たり、甲動産をAに引き渡し、質権を設定した場合、AはBの承諾なく、甲動産を第三者Cに質入れすることができる!!!
+(転質)
第348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う
+++
転質には、承諾転質と責任転質がある。承諾転質というのは、質権設定者の承諾を得て、転質を設定することで、責任転質というのは、質権設定者の承諾を得ずに、自分の責任で転質をすることと。
転質が認められている趣旨は、質権者が一度質物に固定させた資金を、被担保債権の弁済期前に再び流動させることを可能にしようとすること。


民法択一 物権 質権 不動産質権


・不動産質権者が第三者に対して不動産の質権を対抗するには、当該不動産の登記が必要!←不動産質権の対抗要件は登記(177条、361条・373条)

+(抵当権の規定の準用)
第361条
不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。
+(抵当権の順位)
第373条
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。

・不動産質権の登記は対抗要件であり、効力発生要件ではない!

・不動産質権者は、質権設定者の承諾なく、当該不動産をその用法に従い、その使用収益をすることができる!!!!←質権者による質物の使用・収益には、質権設定者の承諾を要するのが原則である(350条・298条2項)が、不動産が誰も使用収益しないことは、社会経済上不利益となるため、356条が設けられた!
+(不動産質権者による使用及び収益)
第356条
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

・Aの所有する甲不動産を不動産質権に基づいて占有しているBが、甲建物の固定資産税を支払った場合でも、BはAに対し償還を求めることはできない!!
+(不動産質権者による管理の費用等の負担)
第357条
不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う
++(設定行為に別段の定めがある場合等)
第359条
前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法 (昭和54年法律第4号)第180条第二号 に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない

・不動産質権者は原則として、その債権の利息を請求することはできない!!
+(不動産質権者による利息の請求の禁止)
第358条
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。

まあ、359条の例外はある。
+++
356条が、不動産質権者は、不動産を使用・収益することができると規定したことと対応して、この民法358条が規定されている。

不動産質権の存続期間は10年を超えることができず、設定行為で存続期間を定めなかった場合は、その存続期間は10年となる!←定めのない場合については規定はないが10年!
+(不動産質権の存続期間)
第360条
1項 不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。
2項 不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。
+++
不動産質権は、所有権者の使用・収益権を奪い、質権者に使用・収益させるものであるから、あまり長期間になると、不動産の使用・収益が不十分になり社会経済的利益を害する可能性があるからです。ヘーーー

・不動産質権について抵当権の規定が準用されるが、不動産質権者は質権の使用収益権を有するため、果実を収取することができる!!!!!!
+(抵当権の規定の準用)
第361条
不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。
+(不動産質権者による使用及び収益)
第356条
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

・不動産質権者相互間及び不動産質権と抵当権の優劣は登記の先後によって決まる!


民法択一 物権 質権 動産質権


・動産には二重に質権を設定することができる!!←355条とか予定している。
+(動産質権の順位)
第355条
同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。

・動産質権者は占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる(×質権に基づく返還請求権とか)。
+(質物の占有の回復)
第353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。

・(動産質権の実行)
第354条
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り!!、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。


民法択一 物権 質権 質権の意義


譲渡することのできない物は質権の目的とすることはできない!!!!!←質権が優先弁済的効力を有するから。+債権者が質権の目的物を換価してその代金をもって弁済を受けることが質権の目的であるため、譲渡できないものは換価性がないと評価されるわけである。また特別法で譲渡を禁じているものも同様である。
+(質権の目的)
第343条
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。

・質権設定の効力発生要件たる占有の移転は、簡易の引渡しでもよい。=引渡しには現実の引渡しだけでなく、簡易の引渡しや、指図による占有移転も含まれる。しかし、占有改定は含まれない!!
+(質権の設定)
第344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

・質権と抵当権は担保物の所有者と債権者との間の設定契約により設定される約定担保物権である。

・質権者は、設定者に担保物を代理占有させることはできない。!!
+(質権設定者による代理占有の禁止)
第345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。

・質権者が任意に質権設定者に質物を返還した場合でも、質権は消滅しない!!!
=動産質においては質権を第三者に対抗できなくなるに過ぎない(352条)
不動産質においては質権の効力に何らの影響も及ぼさない!
+第352条
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。

・質権設定者は設定行為又は債務の弁済前の契約において、質権者に弁済として質権の所有権を取得させることはできない!!=流質契約の禁止
+第349条
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
++
いわゆる流質契約を禁止する規定である。
債務者の弱みに付け込んで、経済的に強者である債権者が、債権額と比べて不当に高額の質物について流質契約をさせるような不合理を防止することをその趣旨としている。
質物の処分は法律に定める方法(民法第354条、民法第366条、民事執行法第180条以降等)によらねばならず、それ以外の方法を当事者間で取り決めても無効である。本条は強行規定である。
+++(動産質権の実行)
第354条
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
+++(質権者による債権の取立て等)
第366条
1項 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2項 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3項 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4項 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。

・動産質権者が質物を使用するためには、債務者の承諾が必要であり、承諾なく称した場合には、債務者は、質権消滅請求をすることができる。
+(留置権及び先取特権の規定の準用)
第350条
第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

・質権者は善良な管理者の注意義務をもって、質権を占有しなければならない!←350条、298条1項

・敷金返還請求権が質権の目的とされた場合、質権設定者である賃借人が正当な理由なく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは、質権設定者の負う担保価値維持義務に違反する!!!
+判例(H18.12.21)
1 債権が質権の目的とされた場合において、質権設定者は、質権者に対し、当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、債権の放棄、免除、相殺、更改等当該債権を消滅、変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは、同義務に違反するものとして許されないと解すべきである。そして、建物賃貸借における敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物の明渡しがされた時において、敷金からそれまでに生じた賃料債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を控除し、なお残額があることを条件として、その残額につき発生する条件付債権であるが(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)、このような条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において、質権設定者である賃借人が、正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは、質権者に対する上記義務に違反するものというべきである。
また、質権設定者が破産した場合において、質権は、別除権として取り扱われ(旧破産法92条)、破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており(同法95条)、他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから、破産管財人は、質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。

2 以上の見地から本件についてみると、上告人は、被上告人に対し、本件各賃貸借に関し、正当な理由に基づくことなく未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害してはならない義務を負っていたと解すべきところ、前記事実関係によれば、上告人は、本件各賃貸借がすべて合意解除された平成11年10月までの間、破産財団に本件賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており、現実にこれを支払うことに支障がなかったにもかかわらず、これを現実に支払わないでBとの間で本件敷金をもって充当する旨の合意をし、本件敷金返還請求権の発生を阻害したのであって、このような行為(以下「本件行為」という。)は、特段の事情がない限り、正当な理由に基づくものとはいえないというべきである。本件行為が破産財団の減少を防ぎ、破産債権者に対する配当額を増大させるために行われたものであるとしても、破産宣告の日以後の賃料等の債権は旧破産法47条7号又は8号により財団債権となり、破産債権に優先して弁済すべきものであるから(旧破産法49条、50条)、これを現実に支払わずに敷金をもって充当することについて破産債権者が保護に値する期待を有するとはいえず、本件行為に正当な理由があるとはいえない。そして、本件において他に上記特段の事情の存在をうかがうことはできない。

3 以上によれば、上告人の本件行為により本件敷金返還請求権の発生が阻害されたことによって、破産財団が法律上の原因なく本件賃料等4185万9428円の支出を免れ、その結果、同額の本件敷金返還請求権が消滅し、質権者が優先弁済を受けることができなくなったのであるから、破産財団は、質権者の損失において上記金額を利得したということができる。したがって、上告人は、4185万9428円の262分の30に相当する479万3064円につき、これを不当利得として被上告人に返還すべき義務を負うというべきである。

++判例続き
第4 職権による検討
1 原審は、被上告人の不当利得返還請求を認容するに際し、上告人が悪意の受益者であることを前提に、上告人に対し本件充当合意の日から年5分の割合による利息の支払を命じた。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
民法704条の「悪意の受益者」とは、法律上の原因がないことを知りながら利得した者をいうと解するのが相当である(最高裁昭和34年(オ)第478号同37年6月19日第三小法廷判決・裁判集民事61号251頁参照)。これを本件についてみると、上告人の利得が法律上の原因を欠くことになるのは、本件行為によって破産財団の減少を防ぐことに正当な理由があるとは認められず、本件行為が質権者に対する義務に違反するからであるが、上記正当な理由があるか否かは、破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって、この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや、記録によれば上告人は本件行為(本件第3賃貸借に係るものを除く。)につき破産裁判所の許可を得ていることがうかがわれることを考慮すると、上告人が正当な理由のないこと、すなわち法律上の原因のないことを知りながら本件行為を行ったということはできず、上告人を悪意の受益者であるということはできないというべきである。ヘーー そうすると、原判決中、上告人が悪意の受益者であることを前提に本件充当合意の日以降の利息の支払請求を認容した部分は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、破棄を免れない。そして、上記説示によれば、被上告人の上記利息の支払請求は、訴状送達の日の翌日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり(なお、被上告人の上記利息の支払請求には、訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める請求が含まれると解される。)、その余は棄却すべきである。また、上記説示によれば、上告人が本件行為につき善管注意義務違反の責任を負うともいえないから、不当利得返還請求と選択的にされている旧破産法164条2項、47条4号に基づく損害賠償請求に基づき本件充当合意の日以降の遅延損害金の支払請求を認容することもできない。したがって、以上と異なる原判決を主文のとおり変更するのが相当である。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・質物の占有を継続していても、被担保債権の消滅時効は進行する!!!←350条・300条
+(留置権の行使と債権の消滅時効)
第300条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。

・質権の目的物の返還と被担保債務の弁済とでは、債務の弁済が先履行であり、債務者が債務を弁済しないで目的物の返還を請求しても、弁済との引換給付判決ではなく単に請求が棄却される。!!

・留置権は物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置することを得るに過ぎないものであって、物に関して生じた債権を他の債権に優先して弁済を受けしめることを趣旨とするものではない→引換給付判決!

・留置権は、目的物の譲受人や競落人など、すべての人に対して行使することができるが、質権は留置権と異なり、その質権に対して優先権を有する債権者に対抗することができない!!
+(質物の留置)
第347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない
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質権は指図による占有移転によっては成立するので、二重に設定されるということは論理的にあり得るの。その場合、自分より優先する者には対抗することができないということになり、それを規定しているのが、但し書きということになる。留置的効力によって、債務者に心理的圧迫を加えて、間接的に債務の履行を実現させようとするのが趣旨で、この点は留置権の留置的効力と同じなのですが、但し書きの存在がある点で留置権とは異なるのです。ヘー


刑法プラス 207条関係


 第一、控訴趣意二の(一)(2)に対する判断。
原判決は、公訴事実第一については、被告人C、同Dの共犯関係を否定し、各自の単独犯行と被告人Dの―被告人Cに対する―幇助が成立するとした。原判決挙示のGの検祭官に対する昭和三一年九月二八日附供述調書(記録一六一丁)、被告人C、同D、同Bの各検察官に対する供述調書によれば、被告人C、同Dの両名が、被害者Fを強姦すべく共謀した事実はなくかつ、被告人Dの原判示第二の(二)の犯行の際には、被告人Cは既に現場を去つて、全然関与しなかつたことが明らかであるから、原判決が、被告人Cの原判示第一の所為と被告人Dの原判示第二の(二)の所為とを共犯とはせず、後者を被告人Dの単独犯行としたのは正当である。
しかしながら、被告人Dの被告人Cに対する原判示第二の(一)の幇助の成否については疑点がある。即ち、原判決の認定した被告人Dの第二の(一)の事実というのは「被告人Dは―中略―前記稗畑に馳せつけたところ、当時被告人Cは、連行したFを稗束の側に立たせていたが、間もなく同被告人が同女を稗束の上に仰向けに押し倒し、側に来た被告人Dや、G等に対して「押えてろや」と声を掛けて助勢を求めたので、既に、被告人Cの行動から、同被告人がまさにFを姦淫しようとしていることを熟知しながら、その意を受け、両手を以て右Cに乗りかかられて危難を避けようとして抵抗を続けている同女の左大腿部及び左膝の下附近を押えた―後略」というのであつて、この事実は、原判決挙示の証拠によつて、優に認定し得る。この事実によれば、被告人Cが被害者Fを強姦すべく、既に、その実行行為に着手したのに対し、被告人Dは、自身ではFを姦淫する意思はなかつたが、被告人Cの姦淫を遂げさせるために、抵抗するFの左大腿部及び左膝の下辺を圧えつけて、その反抗を抑圧したということになる。
ところで、刑法六二条にいわゆる幇助とは、犯罪の実行行為以外の助言、助力等によつて、正犯の犯罪の実行を容易ならしめることをいうのであつて、さらに進んで実行行為そのものを分担した場合には、それが専ら他人の犯罪を幇助する意思で為されたとしても、既に従犯ではなく、共同正犯を以て論ずべきものである。
本件においても、被告人Cは、自身の力では―原判示第一のとおり―Fを抑えつけることが容易でなかつたため、それまで傍観していた被告人Dその他に声をかけて助力を求め、なおも必死に抵抗するFの手足を押さえ、頭部、顔面を上衣で覆わせるなどして、ようやくFの反抗を抑圧したことは、証拠上明白であるから、この場合、被告人Dが、被告人Cの求めに応じて、Fの左大腿部、左膝の下辺を押えつけたのは、とりもなおさずFの反抗を抑圧する行為で、強姦罪の実行行為中重要部分を担当したものに外ならない。しかも、被告人Cの求めに応じたもので、両者間に意思の連絡のあつたことも、また、明白であるから、被告人Dは被告人Cの強姦の所為に共同加功したもので、共同正犯の責任を免れることはできない。従つて、原判決が、原判示第一の所為を被告人Cの単独犯行とし、被告人Dの原判示第二の(一)の所為を幇助としたのは事実を誤認したもので、この誤りは、原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において、原判決中被告人C、同Dに関する部分は破棄を免れない。論旨は、この限度において理由がある。

第三、控訴趣意二の(一)(3)について。
いわゆる同時犯に関する刑法二〇七条は、法文上明らかなとおり、傷害の結果またはその軽重について法律上の推定をなすのであるから、個人責任の原則に反し、刑法上重大な特例である。従つて、これを厳格に解釈し、みだりに外形上類似の犯罪にまで拡張適用すべきものではない。強姦罪は、本来性道徳に関する犯罪で、それが致傷の結果を伴う場合には、強姦致傷罪として刑を加重するに過ぎないのであるから、これと全く保護法益を異にする暴行、傷害に関する特例規定である刑法二〇七条の適用はないと解すべきである。!!!!!!ナントオオオオ
かく解することによつて、所論のように、刑の不均衡、犯罪捜査の困難を来たすことがあろうとも、右明文上の重大な特例に加えて、さらに解釈上の特例を設けることは、罪刑法定主義の建前からも厳に慎まなければならない。従つて、原判決が、被告人等の原判示各所為に対して、右法条を適用せず、全被告人を強姦罪もしくは強姦未逐罪を以て処断したことは正しく、この点において所論法令の道用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。