民法770条 裁判上の離婚 家族法 親族 離婚

民法770条 裁判上の離婚

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(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる

・裁判上の離婚とは、協議離婚・調停離婚が成立せず(調停前置主義)、審判離婚がなされていないときに夫婦の一方の一定の原因に基づく離婚の請求に対して、裁判所が判決によって婚姻を解消させることをいう。

・「不貞な行為」とは、貞操義務に違反する行為全般を指すのではなく、自由な意思に基づき、自己の配偶者以外の者(異性)と性関係を結ぶこと(性交)をいう。

・異性との性交以外の態様による貞操義務違反行為は、1号ではなく5号の問題になる。

・「悪意で遺棄」とは積極的な意思で夫婦の共同生活を行わないことをいう。

・精神病を理由とする離婚請求は、2項により、諸般の事情を考慮しある程度病者の前途に方途の見込みがついたうえでなければ認められない

・もっとも、病者の配偶者が療養費を誠実に支払っているなどの事情により離婚請求が認められることもある
+判例(S45.11.24)
理由
 上告代理人渡辺弥三次の上告理由第一点について。
 Aのかかつている精神病はその性質上強度の精神病というべく、一時よりかなり軽快しているとはいえ、果して完全に回復するかどうか、また回復するとしてもその時期はいつになるかは予測し難いばかりか、かりに近い将来一応退院できるとしても、通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務にたえられる程度にまで回復できる見込みは極めて乏しいものと認めざるをえないから、Aは現在なお民法七七〇条一項四号にいわゆる強度の精神病にかかり、回復の見込みがないものにあたるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 民法七七〇条一項四号と同条二項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二八年(オ)第一三八九号、同三三年七月二五日第二小法廷判決、民集一二巻一二号一八二三頁)。ところで、Aは、婚姻当初から性格が変つていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人ともつきあわず、被上告人の店の従業員とも打ちとけず、店の仕事に無関心で全く協力しなかつたのであり、そして、昭和三二年一二月二一日頃から上告人である実家の許に別居し、そこから入院したが、Aの実家は、被上告人が支出をしなければAの療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、被上告人は、Aのため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、Aの過去の療養費については、昭和四〇年四月五日上告人との間で、Aが発病した昭和三三年四月六日以降の入院料、治療費および雑費として金三〇万円を上告人に分割して支払う旨の示談をし、即日一五万円を支払い、残額をも昭和四一年一月末日までの間に約定どおり全額支払い、上告人においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に係属してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、被上告人とAの間の長女Bは被上告人が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。そして、これら諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、右諸般の事情その他原審の認定した一切の事情を斟酌考慮しても、前示Aの病状にかかわらず、被上告人とAの婚姻の継続を相当と認める場合にはあたらないものというべきであるから、被上告人の民法七七〇条一項四号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

・「婚姻を継続しがたい重大な事由」 とは、夫婦の一方が他方の行動、生活や生活環境からその婚姻を継続しがたいと考えた場合と、双方が婚姻についての意思を失い夫婦生活が回復し難く破綻している状態を指す。

・有責配偶者の離婚請求であることのみをもって離婚請求を棄却(770条2項)することは許されない。ただし、信義則による裁量棄却の余地はある。
+判例(S62.9.2)
理由
 上告代理人菊地一夫の上告理由について
 所論は、要するに、上告人と被上告人との婚姻関係は破綻し、しかも、両者は共同生活を営む意思を欠いたまま三五年余の長期にわたり別居を継続し、年齢も既に七〇歳に達するに至つたものであり、また、上告人は別居に当たつて当時有していた財産の全部を被上告人に給付したのであるから、上告人は被上告人に対し、民法七七〇条一項五号に基づき離婚を請求しうるものというべきところ、原判決は右請求を排斥しているから、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
 一1 民法七七〇条は、裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号。以下同じ。)八一三条を全面的に改め、一項一号ないし四号において主な離婚原因を具体的に示すとともに、五号において「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」との抽象的な事由を掲げたことにより、同項の規定全体としては、離婚原因を相対化したものということができる。また、右七七〇条は、法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法八一四条ないし八一七条の規定の趣旨の一部を取り入れて、二項において、一項一号ないし四号に基づく離婚請求については右各号所定の事由が認められる場合であつても二項の要件が充足されるときは右請求を棄却することができるとしているにもかかわらず、一項五号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしており、二項のほかには、離婚原因に該当する事由があつても離婚請求を排斥することができる場合を具体的に定める規定はない。以上のような民法七七〇条の立法経緯及び規定の文言からみる限り、同条一項五号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて、同号所定の事由(以下「五号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない
 他方、我が国においては、離婚につき夫婦の意思を尊重する立場から、協議離婚(民法七六三条)、調停離婚(家事審判法一七条)及び審判離婚(同法二四条一項)の制度を設けるとともに、相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け、前示のように離婚原因を法定し、これが存在すると認められる場合には、夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。このような裁判離婚制度の下において五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない

 2 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない

 3 そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
 そうであつてみれば、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。
 4 以上説示するところに従い、最高裁昭和二四年(オ)第一八七号同二七年二月一九日第三小法廷判決・民集六巻二号一一〇頁、昭和二九年(オ)第一一六号同年一一月五日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇二三頁、昭和二七年(オ)第一九六号同二九年一二月一四日第三小法廷判決・民集八巻一二号二一四三頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきものである。

 二 ところで、本件について原審が認定した上告人と被上告人との婚姻の経緯等に関する事実の概要は、次のとおりである。
 (一) 上告人と被上告人とは、昭和一二年二月一日婚姻届をして夫婦となつたが、子が生まれなかつたため、同二三年一二月八日訴外Aの長女B及び二女Cと養子縁組をした。(二) 上告人と被上告人とは、当初は平穏な婚姻関係を続けていたが、被上告人が昭和二四年ころ上告人とAとの間に継続していた不貞な関係を知つたのを契機として不和となり、同年八月ころ上告人がAと同棲するようになり、以来今日まで別居の状態にある。なお、上告人は、同二九年九月七日、Aとの間にもうけたD(同二五年一月七日生)及びE(同二七年一二月三〇日生)の認知をした。(三) 被上告人は、上告人との別居後生活に窮したため、昭和二五年二月、かねて上告人から生活費を保障する趣旨で処分権が与えられていた上告人名義の建物を二四万円で他に売却し、その代金を生活費に当てたことがあるが、そのほかには上告人から生活費等の交付を一切受けていない。(四) 被上告人は、右建物の売却後は実兄の家の一部屋を借りて住み、人形製作等の技術を身につけ、昭和五三年ころまで人形店に勤務するなどして生活を立てていたが、現在は無職で資産をもたない。(五) 上告人は、精密測定機器の製造等を目的とする二つの会社の代表取締役、不動産の賃貸等を目的とする会社の取締役をしており、経済的には極めて安定した生活を送つている。(六) 上告人は、昭和二六年ころ東京地方裁判所に対し被上告人との離婚を求める訴えを提起したが、同裁判所は、同二九年二月一六日、上告人と被上告人との婚姻関係が破綻するに至つたのは上告人がAと不貞な関係にあつたこと及び被上告人を悪意で遺棄してAと同棲生活を継続していることに原因があるから、右離婚請求は有責配偶者からの請求に該当するとして、これを棄却する旨の判決をし、この判決は同年三月確定した。(七) 上告人は、昭和五八年一二月ころ被上告人を突然訪ね、離婚並びにB及びCとの離縁に同意するよう求めたが、被上告人に拒絶されたので、同五九年東京家庭裁判所に対し被上告人との離婚を求める旨の調停の申立をし、これが成立しなかつたので、本件訴えを提起した。なお、上告人は、右調停において、被上告人に対し、財産上の給付として現金一〇〇万円と油絵一枚を提供することを提案したが、被上告人はこれを受けいれなかつた。

 三 前記一において説示したところに従い、右二の事実関係の下において、本訴請求につき考えるに、上告人と被上告人との婚姻については五号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約三六年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである
 したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官角田禮次郎、同林藤之輔の補足意見、裁判官佐藤哲郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

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民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

(離婚による復氏の際の権利の承継)
第七百六十九条  婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。

・離婚復氏の際の系譜・祭具・墳墓の所有権の承継に関する規定。

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民法768条 財産分与 家族法 親族 離婚

民法768条 財産分与

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(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める

・内縁については死亡の場合には類推適用されない。

・慰謝料請求権と財産分与請求権について、権利者はいずれをも選択的に主張することができる。

・すでに財産分与を受けていても、その額が精神的苦痛を慰謝するに足りないときは、別に慰謝料請求が可能である。

+判例(S46.7.23)
理由
 上告代理人吉永嘉吉の上告理由第一点について。
 本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となつた上告人の虐待等、被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知つたこととなるものと解するのが相当である。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実に照らせば、本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後三年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していないものであり、原判決は、措辞適切を欠く部分もあるが、ひつきよう、右の趣旨により上告人の消滅時効の主張を排斥したものと解されるのであるから、その判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 同第二点について。
 離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有毒な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。所論引用の判例(最高裁昭和二六年(オ)四六九号同三一年二月二一日第三小法廷判決、民集一〇巻二号一二四頁)は、財産分与を請求しうる立場にあることは離婚による慰藉料の請求を妨げるものではないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるから、前記の見解は右判例に牴触しない。
 本件において、原判決の確定したところによれば、さきの上告人と被上告人との間の離婚訴訟の判決は、上告人の責任のある離婚原因をも参酌したうえ、整理タンス一棹、水屋一個の財産分与を命じ、それによつて被上告人が右財産の分与を受けたというのであるけれども、原審は、これをもつて、離婚によつて被上告人の被つた精神的損害をすべて賠償する趣旨を含むものであるとは認定していないのである。のみならず、離婚につき上告人を有責と認めるべき原判決確定の事実関係(右離婚の判決中で認定された離婚原因もほぼこれと同様であることが記録上窺われる。)に照らし、右のごとき僅少な財産分与がなされたことは、被上告人の上告人に対する本訴慰藉料請求を許容することの妨げになるものではないと解すべきであり、また、右財産分与の事実を考慮しても、原判決の定めた慰藉料の額をとくに不当とすべき理由はなく、本訴請求の一部を認容した原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

・財産分与の法的性質
婚姻中における夫婦財産関係の清算
離婚後における配偶者の扶養
離婚における慰謝料

・夫婦の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも財産分与に含めることができる。
+判例(S53.11.14)
理由
 上告代理人竹下甫、同小山稔の上告理由第一点について
 離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて所論の点についてした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 原審において所論の乙第一六号証の一ないし四及び同第一七号証の一ないし四につき証拠調べがされていること、また、原判決の事実摘示には右の事実の記載がなく、理由中の判断においても右書証の取捨が明らかにされていないことは、所論のとおりである。しかし、本件記録に徴すると、右書証が所論の点に関する原審の事実認定(これは、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。)を左右するものとまでは認められないから、前記の瑕疵は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背に当たらないものというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 服部髙顯 裁判官 江里口清雄 裁判官 髙辻正己)

・財産分与の当事者が財産分与者に対する課税を知らなかった場合には、動機の錯誤となり、動機が明示的又は黙示的に表示されれば当該財産分与の意思表示は無効(95条)となる
+判例(H1.9.14)
  理  由
 上告代理人菅原信夫、國生肇の上告理由二について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、昭和三七年六月一五日被上告人と婚姻し、二男一女をもうけ、東京都新宿区市谷砂土原町所在の第一審判決別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)に居住していたが、勤務先銀行の部下女子職員と関係を生じたことなどから、被上告人が離婚を決意し、昭和五九年一一月上告人にその旨申し入れた。
 2 上告人は、職業上の身分の喪失を懸念して右申入れに応ずることとしたが、被上告人は、本件建物に残って子供を育てたいとの離婚条件を提示した。
 3 そこで、上告人は、右女子職員と婚姻して裸一貫から出直すことを決意し、被上告人の意向にそう趣旨で、いずれも自己の特有財産に属する本件建物、その敷地である前記物件目録一記載の土地及び右地上の同目録三記載の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)全部を財産分与として被上告人に譲渡する旨約し(以下「本件財産分与契約」という。)、その旨記載した離婚協議書及び離婚届に署名捺印して、その届出手続及び右財産分与に伴う登記手続を被上告人に委任した。
 4 被上告人は、右委任に基づき、昭和五九年一一月二四日離婚の届出をするとともに、同月二九日本件不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記を経由し、上告人は、その後本件不動産から退去して前記女子職員と婚姻し一男をもうけた。
 5 本件財産分与契約の際、上告人は、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたが、上告人に課税されることは話題にならなかったところ、離婚後、上告人が自己に課税されることを上司の指摘によって初めて知り、税理士の試算によりその額が二億二二二四万余円であることが判明した。

 二 上告人は、本件財産分与契約の際、これより自己に譲渡所得税が課されないことを合意の動機として表示したものであり、二億円を超える課税がされることを知っていたならば右意思表示はしなかったから、右契約は要素の錯誤により無効である旨主張して、被上告人に対し、本件不動産のうち、本件建物につき所有権移転登記の抹消登記手続を求め、被上告人において、これを争い、仮に要素の錯誤があったとしても、上告人の職業、経験、右契約後の経緯等からすれば重大な過失がある旨主張した。原審は、これに対し、前記一の事実関係に基づいて次のような判断を示し、上告人の請求を棄却した第一審判決を維持した。
 1 離婚に伴う財産分与として夫婦の一方が他方に対してする不動産の譲渡が譲渡所得税の対象となることは判例上確定した解釈であるところ、分与者が、分与に伴い自己に課税されることを知らなかったため、財産分与契約において課税につき特段の配慮をせず、その負担についての条項を設けなかったからといって、かかる法律上当然の負担を予期しなかったことを理由に要素の錯誤を肯定することは相当でない。
 2 本件において、前示事実関係からすると、上告人が本件不動産を分与した場合に前記のような高額の租税債務の負担があることをあらかじめ知っていたならば、本件財産分与契約とは異なる内容の財産分与契約をしたこともあり得たと推測されるが、右課税の点については、上告人の動機に錯誤があるにすぎず、同人に対する課税の有無は当事者間において全く話題にもならなかったのであって、右課税のないことが契約成立の前提とされ、上告人においてこれを合意の動機として表示したものとはいえないから、上告人の錯誤の主張は失当である。

 三 しかしながら、右判断はにわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要するところ(最高裁昭和二七年(オ)第九三八号同二九年一一月二六日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇八頁、昭和四四年(オ)第八二九号同四五年五月二九日第二小法廷判決・裁判集民事九九号二七三頁参照)、右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない
 本件についてこれをみると、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することが右「資産の譲渡」に当たり、譲渡所得を生ずるものであることは、当裁判所の判例(最高裁昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁、昭和五一年(行ツ)第二七号同五三年二月一六日第一小法廷判決・裁判集民事一二三号七一頁)とするところであり、離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも上告人において右の点を誤解していたものというほかはないが、上告人は、その際、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば、上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。上告人に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。
 以上によれば、右の点について認定判断することなく、上告人の錯誤の主張が失当であるとして本訴請求を棄却すべきものとした原判決は、民法九五条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯すものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

・離婚により生ずる可能性のある財産分与請求権は、協議・審判等によりその具体的内容が形成される以前には代位行使の対象にならない!!
=具体的内容が確定すればできる

・離婚に伴う財産分与は、本条第3項の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認められるような特段の事情がない限り、詐害行為とならない。
+判例(S58.12.19)
理由
 上告代理人中村健太郎、同中村健の上告理由第一点及び第二点について
 離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法七六八条三項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによつて、なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがつて、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であつてもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。
 そこで、右のような見地に立つて本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) Aは、昭和二二年七月二五日被上告人と婚姻し、昭和三一年から、兵庫県津名郡a町b番cの土地上のAの父B所有の建物でクリーニング業を始めたが、昭和四九年ころからはクリーニング業は被上告人に任せ、自らは不動産業、金融業を始めるようになつた、(2) そして、Aは、同年九月一七日上告人と信用組合取引契約を締結し、上告人より手形貸付、手形割引等を受け、更に有限会社寿宝商事あるいは富洋設備という会社を設立して右会社名義においても上告人と信用組合取引契約を結び一時は盛大に事業を行つていたが、昭和五一年一一月手形の不渡を出して倒産するに至つた、(3) 被上告人とAとの間には二男三女があるが、Aは、Cと情交関係を結んで子供まで儲けたうえ、多額の負債をかかえて倒産するに及んだので、被上告人は、その精神的苦痛だけではなく、経済的にも自己及び子供の将来が危ぶまれると考えて離婚を決意し、Aと協議の結果、被上告人においてこれまで子供らとともにやつて来た家業であるクリーニング業を続けてやつて行くことによつて二人の子供の面倒をみることとし、その基盤となる本件土地(前記b番cの土地、前同所b番dの土地の二筆の土地)を慰藉料を含めた財産分与としてAより被上告人に譲渡することになつた、(4) そこで、被上告人は、昭和五一年一二月二二日Aと離婚し、本件土地について代物弁済を原因とする被上告人のための所有権移転登記がなされた、(5) 本件土地のうち、b番cの土地は、昭和三五年ころ家業のクリーニング業の利益で買つて昭和五一年五月三一日所有権移転登記手続をしたものであり、b番dの土地は、昭和四三年六月ころ同じくクリーニング業の利益で取得したものであつて、いずれもAの不動産業とは関係なく取得したものである、(6) 被上告人らが住みクリーニング業を営んでいた家屋は、Bの所有であつてb番cの土地上にあつたが、室津川の河川改修のため兵庫県より立退きを迫られ、本件土地の一部は国に売却し、一部は他人の所有地と交換したため、結局被上告人は、分筆後のb番dの土地と交換により取得した前同所e番fの土地を所有することになつた、(7) そこで、被上告人は、昭和五二年三月前記家屋を取り毀し、同年一一月ころ右両土地上に本件建物を代金一九〇〇万円で建築し、同年一二月一日被上告人名義に所有権保存登記をしたが、被上告人は、右建築代金のみならず、設計料及び旧家屋取毀費用もすべて自ら完済しているので、本件建物は建築の当初から被上告人の所有に属しているものである、(8) 本件土地はAの唯一の不動産ではないが、同人所有の不動産であつて上告人のために担保として提供されている財産はごく僅かな価値しかないため、唯一に近い不動産であり、その価格は約九八九万円であるが、被上告人はb番cの土地に対する根抵当権を抹消するため約五三六万円を支払つた、というのであり、原審の右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯認することができる。
 そして、右の事実関係のもとにおいて、本件土地は被上告人の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての被上告人の寄与はAのそれに比して大であつて、もともと被上告人は実質的にAより大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、被上告人とAとの離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、被上告人にとつては本件土地は従来から生活の基盤となつてきたものであり、被上告人及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、被上告人の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地がAにとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしやくしてもなお、被上告人に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 被上告人に対する本件土地の譲渡が詐害行為にあたるとすることができないとした原審の認定判断が正当として是認することができるものであることは、前記に判示するとおりであるから、論旨は、ひつきよう、原判決の傍論部分の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 宮﨑梧一 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)

・離婚請求を認容するにあたって、単独で子の監護にあたっている妻の夫に対する別居後離婚までの間の子の監護費用の支払いを命ずることができる
+判例(H9.4.10)
理由
 上告代理人伊藤伴子の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、民法七七一条、七六六条一項を類推適用し、人事訴訟手続法一五条一項により、右申立てに係る子の監護費用の支払を命ずることができるものと解するのが相当である。けだし、民法の右規定は、父母の離婚によって、共同して子の監護に当たることができなくなる事態を受け、子の監護について必要な事項等を定める旨を規定するものであるところ、離婚前であっても父母が別居し共同して子の監護に当たることができない場合には、子の監護に必要な事項としてその費用の負担等にいての定めを要する点において、離婚後の場合と異なるところがないのであって、離婚請求を認容するに際し、離婚前の別居期間中における子の監護費用の分担についても一括して解決するのが、当事者にとって利益となり、子の福祉にも資するからである。
 被上告人の本件申立てに係る養育費とは、右にいう監護費用の趣旨であると解されるところ、原審が、被上告人の本件離婚請求を認容するに際し、被上告人の申立てに基づき「同人と上告人との間の長女A(平成元年三月一六日生まれ)の監護に関して、離婚の裁判が確定する日(本判決言渡しの日)の翌日からAが成年に達する平成二一年三月までの間の監護費用のみなりず、上告人と被上告人が別居し、被上告人が単独でAの監護に当たるようになった後の平成四年一月から右裁判確定の日までの間の監護費用の支払をも上告人に命じた点に、所論の違法はない。原審の右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

・裁判所は、離婚請求に併せて監護費用の支払いを求める旨の申立てを受けた場合、審理判断しなければならない!
+判例(H19.3.30)
理由
 上告代理人石原寛ほかの上告受理申立て理由1の(1)から(7)までについて
 1 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人と被上告人とは、平成12年10月2日に婚姻の届出をした夫婦である。上告人は、平成13年7月16日から現在まで被上告人と別居しているが、同年10月3日には被上告人の子である長男を出産し、単独でその監護に当たっている。
 (2) 本件訴訟において、上告人は、本訴として、被上告人に対し、離婚を請求するとともに、平成14年10月から長男が成年に達する日の属する月までの間の長男の養育費、すなわち監護費用の分担の申立てなどをし、被上告人は、反訴として、上告人に対し、離婚等を請求した。
 (3) 第1審は、本訴及び反訴の各離婚請求をいずれも認容して長男の親権者を上告人と定めるなどしたほか、被上告人の支払うべき監護費用の分担額について、長男が出生した平成13年10月から第1審口頭弁論終結時の前月である平成16年11月までの間の未払監護費用の合計を150万円と定めるとともに、平成16年12月から長男が成年に達する日の属する月まで1か月8万円と定め、これらの支払を命じた。
 (4) これに対し、被上告人は、監護費用分担の申立てなどに関する第1審の判断に不服があるとして控訴した。なお、第1審判決中の離婚及び親権者の指定に関する部分に対しては、不服申立てがされなかった。
 2 原審は、離婚の効力が生ずる原判決確定の日から長男が成年に達する日までの間における監護費用については、その分担額を1か月8万円と定め、被上告人に対しその支払を命じたが、平成14年10月から離婚の効力が生ずるまでの間における長男の監護費用分担の申立て(以下「本件申立て」という。)については、離婚の訴えに附帯してそのような申立てをすることができないから不適法であるとし、第1審判決を変更して本件申立てを却下した。
 3 しかしながら、本件申立てに係る原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、民法771条、766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である(最高裁平成7年(オ)第1933号同9年4月10日第一小法廷判決・民集51巻4号1972頁参照)。そうすると、当該申立ては、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから、裁判所は、離婚請求を認容する際には、当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきである。
 以上と異なる見解に立って、本件申立てを不適法として却下した原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち本件申立てに関する部分は破棄を免れない。そして、同部分につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求及び申立てに関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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民法767条 離婚による復氏等 家族法 親族 離婚

民法767条 離婚による復氏等

(離婚による復氏等)
第七百六十七条  婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する
2  前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる

・復氏によって称する氏は、婚姻前の氏である。婚姻前の氏とは、婚姻直前の氏をいい、婚姻前に称した氏の総称ではない。

・婚姻中の身分行為により潜在的に氏が変更された場合には、婚姻直前の氏に復するとはえないときがある

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民法766条 離婚後の子の監護に関する事項の定め等

民法766条 離婚後の子の監護に関する事項の定め等

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(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める
3  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4  前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

・766条は、離婚の際に親権者とは別に子の監護をすべき者を定めることができるとしている。

・本条は裁判離婚(711条)および父が認知する場合(788条)に準用される

・親権者とは別に監護者が定められた場合の監護者の地位については明示されていないが、通説は、親権者の身上監護権が監護者に分属され、親権者には財産管理権のみが残るとしている!
また、子の法定代理権は戸籍上明確である親権者のみに認められると解している。

・親権者とならなかった父母の一方も第三者と同様に監護権者になることを認めている

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民法765条 離婚届出の受理 家族法 親族 離婚

民法765条 離婚届出の受理

(離婚の届出の受理)
第七百六十五条  離婚の届出は、その離婚が前条において準用する第七百三十九条第二項の規定及び第八百十九条第一項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。
2  離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない

・受理要件及びそれに違反して受理されたときの離婚の効力について定める。

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民法764条 婚姻の規定の準用 家族法 親族 離婚

民法764条 婚姻の規定の準用


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(婚姻の規定の準用)
第七百六十四条  第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協議上の離婚について準用する。

・成年後見人が離婚するには、その後見人の同意を要しない(764条、738条)
意思能力は、届出書作成または委託の時にあれば足り、届出の時に喪失していてもその受理前に翻意していない限り、その届出は有効

・協議離婚は届出によって効力が生じる(764条、739条)
+裁判による離婚は認容判決が確定した時点で効力が生じる

・協議離婚の無効
総則の無効に関する規定を適用すべきではなく、婚姻の無効に関する規定(742条)を類推適用すべきである!!!
→離婚の無効原因は、離婚意思の不存在と離婚届の未提出である。

・無効な離婚の追認は許される!!
←第三者は届出の外観に従って行動するのが通常であるから、第三者の利益を不当に害することにはならない!!

・詐欺・強迫による離婚は、取り消すことができる。この取消権は、当事者が詐欺を発見し、もしくは強迫を免れた後3か月が経過し、又は追認したときは消滅する(767条、747条)
→取消しの効果は、婚姻取消しの場合とは異なり、届出の時に遡及する(764条は748条を準用していない)!!!!!!!


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民法763条 協議上の離婚 家族法 親族 離婚

民法763条 協議上の離婚

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(協議上の離婚)
第七百六十三条  夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

・協議とは離婚意思の合致をいう。

・離婚意思
=届出に向けられた意思(形式的意思説)
→方便のための離婚の届出であっても、当事者が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてした者である以上、離婚意思がないとはいえず、離婚は無効とはいえない。
(法律上の婚姻関係を解消する意思は届出意思とは異なる・・・)

ex
債権者の強制執行を免れるための協議離婚は有効
生活扶助を受けるための協議離婚は有効

+判例(S57.3.26)
理由
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであつて、本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は、その説示に徴し、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
   (宮﨑梧一 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進)

・協議離婚届作成後の翻意
協議離婚の届出は協議離婚意思の表示とみるべきであるから、当該届出の当時婚姻の意思を有せざることが明確になった以上、当該届出による協議離婚は無効である!!!

+判例(S34.8.7)
理由
 上告代理人丸茂忍の上告理由第一点について。
 原審の引用する第一審判決によれば、本件協議離婚届書は判示の如き経緯によつて作成されたこと、右届出書の作成後被上告人は右届出を上告人に委託し、上告人においてこれを保管していたところ、その後右届出書が光市長に提出された昭和二七年三月一一日の前日たる同月一〇日被上告人は光市役所の係員Aに対して上告人から離婚届が出されるかもしれないが、被上告人としては承諾したものではないから受理しないでほしい旨申し出でたことおよび右事実によると被上告人は右届出のあつた前日協議離婚の意思をひるがえしていたことが認められるというのであつて、右認定は当裁判所でも肯認できるところである。そうであるとすれば上告人から届出がなされた当時には被上告人に離婚の意思がなかつたものであるところ、協議離婚の届出は協議離婚意思の表示とみるべきであるから、本件の如くその届出の当時離婚の意思を有せざることが明確になつた以上、右届出による協議離婚は無効であるといわなければならない。そして、かならずしも所論の如く右翻意が相手方に表示されること、または、届出委託を解除する等の事実がなかつたからといつて、右協議離婚届出が無効でないとはいいえない。従つて、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 原判決挙示の関係証拠中、証人Aの「離婚届出の前、昭和二七年三月一〇日と思う(届書を受付ける前であることは確実である)が被上告人から戸籍吏員たる同証人に対し上告人との離婚届が出されるかも知れないが被上告人としては承諾したものではないのだから受理しないでほしいとの申入れがあつた」旨の証言(記録四四丁裏)によれば、被上告人が協議離婚を翻意した事実を充分に推認することができるから原審に所論の違法はない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官藤田八郎の補足意見があるほか、全裁判官一致の意見によるものである。

・協議離婚は離婚意思の合致と届出により成立する!
→この監護について必要な事項に関する協議の不調、財産分与の協議の不調によって妨げられるものではない!!!!

・協議上の離婚によって、婚姻の効力は将来に向かって解消する!!!

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民法762条 夫婦間における財産の帰属 家族法 親族 婚姻

民法762条 夫婦間における財産の帰属

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(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条  夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

・別産制の原則を定めた規定である。

・所得税法が、生計を一にする夫婦の所得を合算折半して計算することにしていないことは、憲法24条に違反しない。

+判例(S36.9.6)
理由
 上告人の上告理由について。
 所論は、民法七六二条一項は、憲法二四条に違反するものであると主張し、これを理由として、原審において右民法の条項が憲法二四条に違反するものとは認められず、ひいて右民法の規定を前提として、所得ある者に所得税を課することとした所得税法もまた違憲ではないとした原判決の判示を非難するのである。
 そこで、先ず憲法二四条の法意を考えてみるに、同条は、「婚姻は……夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しているが、それは、民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係について定めたものであり、男女両性は本質的に平等であるから、夫と妻との間に、夫たり妻たるの故をもつて権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたものであつて、結局、継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享有することを期待した趣旨の規定と解すべく、個々具体の法律関係において、常に必らず同一の権利を有すべきものであるというまでの要請を包含するものではないと解するを相当とする
 次に、民法七六二条一項の規定をみると、夫婦の一方が婚姻中の自己の名で得た財産はその特有財産とすると定められ、この規定は夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であつて、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる。しからば、民法七六二条一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない
 それ故、本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。
 されば右説示と同趣旨に出た原判決は正当であつて、所論は採るを得ない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助)

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民法761条 日常家事に関する債務の連帯責任 家族法 親族 婚姻

民法761条 日常家事に関する債務の連帯責任

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(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

・内縁についても準用される。

・日常家事に関する法律行為とは
単に夫婦の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的にその法律行為の種類・性質等をも十分考慮して判断すべきである!!
→借財については金額が一番重要な判断要素になる。

・110条の趣旨の日常家事への類推適用
相手方において、その行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときには110条の趣旨を類推適用することにより第三者を保護する

+判例(S44.12.18)
理由
 上告代理人小宮正己の上告理由第一点について。
 本件売買契約締結の当時、被上告人が訴外Aに対しその売買契約を締結する代理権またはその他の何らかの代理権を授与していた事実は認められない、とした原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係および本件記録に照らし、首肯することができないわけではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について。
 民法七六一条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
 そして、民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである
 しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。
 したがつて、民法七六一条および一一〇条の規定の解釈に関して以上と同旨の見解に立つものと解される原審の判断は、正当である。
 ところで、原審の確定した事実関係、とくに、本件売買契約の目的物は被上告人の特有財産に属する土地、建物であり、しかも、その売買契約は上告人の主宰する訴外株式会社千代田べヤリング商会が訴外Aの主宰する訴外株式会社西垣商店に対して有していた債権の回収をはかるために締結されたものであること、さらに、右売買契約締結の当時被上告人は右Aに対し何らの代理権をも授与していなかつたこと等の事実関係は、原判決挙示の証拠関係および本件記録に照らして、首肯することができないわけではなく、そして、右事実関係のもとにおいては、右売買契約は当時夫婦であつた右Aと被上告人との日常の家事に関する法律行為であつたといえないことはもちろん、その契約の相手方である上告人においてその契約が被上告人ら夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由があつたといえないことも明らかである。
 してみれば、上告人の所論の表見代理の主張を排斥した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を争い、または、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

・連帯責任の内容
連帯債務を負担するという意味
夫婦は同一内容の債務を併存的に負担し、一方について生じた事由(相殺・免除・時効)は両者に無制限に効力を及ぼす。

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