民法775条 嫡出否認の訴え 家族法 親族 親子

民法775条 嫡出否認の訴え

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(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条  前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

・推定される嫡出子で推定の及ぶ場合に使用。

・提訴権者は原則として夫のみ(×妻
←夫婦間の問題に第三者の干渉をいれさせないようにするため。
例外
夫が成年後見人の場合における後見監督人又は後見人(人事訴訟法14条)
夫が訴えを起こさずに死亡した場合において、その子のために相続権を侵害される者、その他亡き夫の3親等内の親族(人事訴訟法41条1項)

・訴えの相手方は
子又は親権を行う母、特別代理人

・提訴期間は知った時から1年(777条)

・婚外子を妻の子として嫡出子出生届をしたときは、嫡出否認の訴え(775条)によって父子関係を争うことはできず、親子関係不存在確認の訴えによって争うこととなる。

+親子関係不存在確認の訴え
・推定される嫡出子で推定の及ばない場合、推定されない嫡出子の場合に使用される。

・提訴権者は利害関係者

・相手方は
確認を求める当事者
当事者の一方が死亡した場合は検察官

・第三者からの親子関係不存在確認の訴えがあったときで、その親子の一方が死亡している場合は生存している者のみを被告とすれば足り、死亡した者について検察官を相手に加える必要はない
+判例(S56.10.1)
理由
 上告代理人川坂二郎の上告理由について
 第三者が親子関係存否確認の訴を提起する場合において、親子の双方が死亡しているときには、第三者は検察官を相手方として右訴を提起することが必要であるが(最高裁昭和四三年(オ)第一七九号同四五年七月一五日大法廷判決・民集二四巻七号八六一頁)、親子のうちの一方のみが死亡し他方が生存しているときには、第三者は生存している者のみを相手方として右訴を提起すれば足り、死亡した者について検察官を相手方に加える必要はないものと解するのが相当である(人事訴訟手続法二条二項の類推適用)。そして、本件において、亡A及び亡Bへと上告人との間に親子関係があるかどうかを確定することは、単に現に係属中の遺産分割申立事件との関連において相続人の範囲を決定するためばかりでなく、被上告人と上告人との間の身分関係を明らかにし、戸籍の記載を真実の身分関係に適合するように訂正し、また、右親子関係を基本的前提とする諸般の法律関係を明確にする等のためにも必要であるから、右遺産分割申立事件の前提問題として親子関係の存否を争うことができるからといつて、そのために本訴についての訴の利益がないということはできない。更に、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人がした本件訴の提起は信義則に反し権利の濫用にわたるものではないと認められる。
 原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する
 (裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗)

・他人夫婦の子として出生届がなされ、その旨戸籍に記載されている場合、子の戸籍の記載を改めるには、まず親子関係不存在確認の訴えが必要である。

・母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を待たず、分娩の事実により当然に発生するため、親子関係存否確認の訴えの対象となる!
+判例(S37.4.27)
理由
 上告代理人敦沢八郎の上告理由について。
 被上告人が上告人を分娩した旨の原審(その引用する第一審判決)の事実認定は、その挙示する証拠に徴し、首肯するに足り、これに所論のような違法は認められない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を争うこ帰し、採用するをえない。
 なお、附言するに、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により当然発生すると解するのが相当であるから、被上告人が上告人を認知した事実を確定することなく、その分娩の事実を認定したのみで、その間に親子関係の存在を認めた原判決は正当である
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

・真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則
ただし、権利の濫用とされる場合もある。
+判例(H18.7.7)
理由
 上告代理人木津川迪洽、同石川慶一郎の上告受理申立て理由について
 1 本件は、被上告人が、戸籍上被上告人の子とされている上告人との間の実親子関係が存在しないことの確認を求める事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 被上告人(明治41年生まれ)と亡A(明治40年生まれ)は、昭和12年▲月▲日、婚姻の届出をした。同年▲月▲日、被上告人とAの夫婦(以下「A夫婦」という。)の間に長男Bが出生した。
 (2) Aは、上告人について、A夫婦間に昭和18年▲月▲日に出生した子として出生の届出をしたが、上告人はA夫婦の実子ではなく、この届出は虚偽の届出であった。上告人は、同月ころから、A夫婦の下でその子として養育され、高校卒業後、Aが経営していたそば店を手伝うようになった。
 (3) Aは、昭和51年▲月▲日に死亡した。上告人は、Aの相続人としてAの遺産の約3分の1相当を取得したものとされた。
 (4) 被上告人は、平成6年ころ、上告人を相手方として、実親子関係不存在確認を求める調停を申し立てたが、後でこれを取り下げた。
 (5) 被上告人は、平成16年4月ころ、上告人を相手方として、再度、実親子関係不存在確認を求める調停を申し立てたが、同調停は、同年6月、不成立により終了した。
 3 上告人は、被上告人が上告人との間で長期間親子としての社会生活を送ってきたものであり、Aの死後も平成6年まで実親子関係不存在確認調停の申立て等の手続を採ることなく、しかも、同年に申し立てた調停を取下げにより終了させていること、本訴請求は被上告人の相続を有利にしようとするBの意向によること、判決をもって上告人の戸籍上の地位が訂正されると上告人が精神的苦痛を受けることなどの事情に照らすと、本訴請求は権利の濫用であると主張した。

 4 原審は、次のとおり判断して、被上告人の請求を認容すべきものとした。
 身分関係存否確認訴訟は、身分法秩序の根幹を成す基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、ひいてはこれにより身分関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有する。被上告人は真実の身分関係の確定を求めて本件訴訟を提起したものであるから、上告人と被上告人との間で長年にわたり親子と同様の生活の実体があったこと、被上告人がAの死亡後も長期間にわたり実親子関係不存在確認訴訟を提起しなかったことなどを考慮しても、被上告人の本訴請求が権利の濫用に当たるとはいえない。仮に本訴請求が相続を有利にしようとするBの意向によるものであるとしても、上記判断を左右しない。

 5 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 実親子関係不存在確認訴訟は、実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから、真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。しかしながら、上記戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは、民法が一定の場合に戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること(776条、777条、782条、783条、785条)などから明らかである。真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されている乙が、甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し、関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において、実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは、乙に軽視し得ない精神的苦痛、経済的不利益を強いることになるばかりか、関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。また、虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がないのに対し、そのような届出を自ら行い、又はこれを容認した甲が、当該届出から極めて長期間が経過した後になり、戸籍の記載が真実と異なる旨主張することは、当事者間の公平に著しく反する行為といえる。そこで、甲がその戸籍上の子である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合においては、甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛、経済的不利益、甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである
 そして、本件においては、前記事実関係によれば、次のような事情があることが明らかである。
 (1) 上告人は、昭和18年5月ころ以降、A夫婦の下で実子として養育され、被上告人が平成6年に第1回目の調停を申し立てるまでの約51年間にわたり、上告人と被上告人との間で実の親子と同様の生活の実体があり、かつ、被上告人は、第1回目の調停申立てまでの間、上告人が被上告人の実子であることを否定したことはなかった。
 (2) 判決をもって上告人と被上告人との間の実親子関係の不存在が確定されるならば、上告人が受ける精神的苦痛は、軽視し得ないものであることが予想され、また、被上告人は、Aの遺産の相当部分を相続したことがうかがわれるので、被上告人の相続が発生した場合に、上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないものである可能性が高い。
 (3) 被上告人が、上記第1回目の調停申立てをした動機、目的は明らかでないし、その申立てを取り下げた理由も明らかではない。その後、約10年が経過して再度調停を申し立て、更には本件訴訟を提起するに至ったことについても、被上告人が上告人との間の実親子関係を否定しなければならないような合理的な事情があることはうかがわれない
 以上によれば、上告人と被上告人との間で長期間にわたり実親子と同様の生活の実体があったことを重視せず、また、上告人が受ける精神的苦痛、経済的不利益、被上告人が上告人との実親子関係を否定するため再度調停を申し立てるなどした動機、目的等を十分検討することなく、被上告人において上記実親子関係の存在しないことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上の見解の下に被上告人の上記確認請求が権利の濫用に当たるかどうかについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋)

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民法773条 父を定めることを目的とする訴え 家族法 親族 親子

民法733条 父を定めることを目的とする訴え

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(父を定めることを目的とする訴え)
第七百七十三条  第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める

・二重の推定が及ぶ場合に使用される。

・提訴権者は
子・母・前夫・後夫

・子又は母が原告の場合
前夫及び後夫に対して

・後夫が原告の場合
前夫に対して

・前夫が原告の場合
後夫に対して

・被告となるべき者が死亡している場合
検察官に対して

・提訴期間に制限はない。

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民法772条 嫡出の推定 家族法 親族 親子

民法772条 嫡出の推定

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(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
・嫡出子
=婚姻関係にある男女間に懐胎出生した子
~訴えについての整理~
1.推定される嫡出子(=772条に該当する子)で推定が及ぶ場合
嫡出否認の訴えで争う
・内縁成立の日から200日以後であっても、婚姻届出の日から200日以内に出生した子は、推定される嫡出子とはいえない!
→推定されない嫡出子になる。
・772条の嫡出推定の及ぶ子について、夫と妻の婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、嫡出否認の訴えの提起期間経過後に親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係を争うことはできない
+判例(H12.3.14)
理由
 上告代理人藤原晃の上告理由について
 一 本件は、被上告人が、戸籍上同人の嫡出子とされている上告人に対し、両者の間の親子関係不存在の確認を求める訴えを提起した事案である。記録によって認められる事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 被上告人と甲野花子は、平成三年二月二日、婚姻の届出をした。
  2 花子は、平成三年九月二日、上告人を出産した。被上告人は、同月一一日、上告人の出生の届出をし、上告人は、戸籍上、被上告人と花子の嫡出子(長男)として記載されている。
  3 被上告人と花子は、平成六年六月二〇日、上告人の親権者を花子と定めて協議離婚した。
  4 被上告人は、平成七年二月一六日、本件訴えを提起した。

 二 第一審は、本件訴えを却下したが、原審は、本件訴えの適法性につき次のとおり判断し、第一審判決を取り消して事件を第一審に差し戻す旨の判決をした。
  1 民法上嫡出の推定を受ける子に対し、父がその嫡出性を否定するためには、同法の規定にのっとり嫡出否認の訴えによることを原則とするが、嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となった場合には、同法七七七条所定の期間が経過した後においても、父は、父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱くべき事実を知った後相当の期間内であれば、例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
  2 本件においては、被上告人と花子との婚姻関係は消滅しているのであるから、被上告人と上告人をめぐる家族共同体の実体が失われていることは明らかである。また、被上告人が上告人との間に自然的血縁関係がないのではないかとの疑いを高めたのは、平成七年一月二二日に花子からその旨の電話を受けた時であり、被上告人は、その後速やかに本件訴えを提起している。
  3 したがって、本件においては、被上告人は、上告人に対し、親子関係不存在確認の訴えを提起し得るものと解すべきであり、本件訴えは適法といえる。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民法七七二条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、右訴えにつき一年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性を有するものということができる(最高裁昭和五四年(オ)第一三三一号同五五年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一二九号三五三頁参照)。そして、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である
 もっとも、民法七七二条二項所定の期間内に妻が出産した子について、妻が右子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、右子は実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法七七四条以下の規定にかかわらず、夫は右子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第一一八四号同四四年五月二九日第一小法廷判決・民集二三巻六号一〇六四頁、最高裁平成七年(オ)第二一七八号同一〇年八月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一八九号四九七頁参照)。しかしながら、本件においては、右のような事情は認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。
 そうすると、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴えは却下すべきものであるから、右と結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣 裁判官奥田昌道)

2.推定される嫡出子で推定の及ばない子
親子関係不存在確認の訴えで争う。
推定の及ばない子とは、妻が夫によって懐胎することが不可能な事情があるが本条に該当する子をいう
ex
事実上の離婚状態にあり夫婦関係が断絶していた場合
夫は行方不明の場合、夫が海外滞在中や在監中であった場合

+判例(H10.8.31)
理由
 上告代理人池上徹、同石井宏治の上告理由について
 一 本件は、上告人の戸籍上の父とされているA男が死亡した後、その遺産相続をめぐって紛争が生じ、A男の養子である被上告人が上告人に対し、亡A男と上告人との間の親子関係不存在確認を求める訴えを提起した事案である。記録によって認められる事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 A男とB女は、昭和一八年一〇月一日に結婚式を挙げ、同居生活を開始した。なお、婚姻の届出は同月二二日にされた。
  2 A男は、昭和一八年一〇月一三日に応召し、同月一九日に下関港から出征して、南方各地の戦場を転々とした後、昭和二一年五月二八日に名古屋港に帰還し、翌二九日に復員の手続がとられた。
  3 この間、B女は、C男と性的関係を持った。
  4 B女は、昭和二一年一一月一七日に上告人を分娩した。
  5 上告人は、A男により、A男・B女夫婦の嫡出子として届け出られたが、昭和二二年八月四日にC男の養子とされた。以来、上告人は、C男の下で暮らし、C男・D女夫婦(昭和二七年一一月二四日婚姻)の子として育てられ、A男・B女夫婦とは没交渉の状態にあった。
  6 一方、A男・B女夫婦は、昭和二六年三月一六日に被上告人(昭和二四年一月二二日生まれ)を養子とし、同居生活を送ってきた。
  7 A男は、平成四年四月二九日に死亡した。
  8 ところで、妊娠週数が二四週以上二八週未満の分娩は、現在では早産と扱われているが、上告人出生当時は流産と扱われていた。ちなみに、昭和五三年及び同五四年の各人口動態統計によれば、妊娠週数二四週以上二八週未満の分娩による出生数の総出生数に対する構成割合は、いずれの年においても0.1パーセント程度にすぎない。
  9 仮に、B女が、A男が帰還した昭和二一年五月二八日に同人と性的関係を持ち、上告人を懐胎したとすると、B女は妊娠週数にして最長でも二六週目に上告人を分娩したことになる。
 二 右一の事実によれば、A男は、応召した昭和一八年一〇月一三日から名古屋港に帰還した昭和二一年五月二八日の前日までの間、B女と性的関係を持つ機会がなかったことが明らかである。そして、右一の事実のほか、昭和二一年当時における我が国の医療水準を考慮すると、当時、妊娠週数二六週目に出生した子が生存する可能性は極めて低かったものと判断される。そうすると、B女が上告人を懐胎したのは昭和二一年五月二八日より前であると推認すべきところ、当時、A男は出征していまだ帰還していなかったのであるから、B女がA男の子を懐胎することが不可能であったことは、明らかというべきである。したがって、上告人は実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子であり、A男の養子である被上告人が亡A男と上告人との間の父子関係の存否を争うことが権利の濫用に当たると認められるような特段の事情の存しない本件においては、被上告人は、親子関係不存在確認の訴えをもって、亡A男と上告人との間の父子関係の存否を争うことができるものと解するのが相当である。
 三 以上によれば、被上告人の本件親子関係不存在確認の訴えが適法なものであるとした原審の判断は、結論において是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官福田博の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

3.推定されない嫡出子(772条に該当しない嫡出子)
内縁関係が先行し、婚姻成立後200日以内に出生した子など
親子関係不存在確認の訴えで争う!

4.二重の推定が及ぶ嫡出子
前婚の推定と後婚の推定とが重複する場合の嫡出子
父を定めることを目的とする訴えを使う!
ex
再婚禁止期間に違反して再婚した場合や重婚関係が生じた場合

5.非嫡出子
非嫡出父子関係については、認知によらずに親子関係不存在確認の訴えによることはできない


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民法771条 協議上の離婚の規定の準用 家族法 親族 離婚

民法771条 協議上の離婚の規定の準用

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(協議上の離婚の規定の準用)
第七百七十一条  第七百六十六条から第七百六十九条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。

・裁判所が当事者の証すべき氏を定めなければならないわけではない(771条、767条1項2項)

・妻が婚姻中に他男との間にもうけた子の監護費用を夫に請求することは、もはや夫に親子関係を否定する法的手段が残されておらず、夫がこれまで妻に高額の生活費を交付してきており、妻は夫との離婚に伴い相当多額の財産分与を受けることになる事例では権利の濫用に当たる
+判例(H23.3.18)
理 由
上告代理人伊豆隆義,同阿部泰彦の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,上告人が,本訴として,被上告人に対し,離婚等を請求するなどし,被上告人が,反訴として,上告人に対し,離婚等を請求するとともに,長男,二男及び三男の養育費として,判決確定の日の翌日から,長男,二男及び三男がそれぞれ成年に達する日の属する月まで,1人当たり月額20万円の支払を求める旨の監護費用の分担の申立てなどをする事案である。上告人は,二男との間には自然的血縁関係がないから,上告人には監護費用を分担する義務はないなどと主張している。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人(昭和37年▲月▲日生)と被上告人(昭和36年▲月▲日生)とは,平成3年▲月▲日に婚姻の届出をした夫婦である。被上告人は,平成8年▲月▲日に上告人の子である長男Bを,平成11年▲月▲日に上告人の子である三男Cをそれぞれ出産したが,その間の平成9年▲月▲日ころ上告人以外の男性と性的関係を持ち,平成10年▲月▲日に二男Aを出産した。二男と上告人との間には,自然的血縁関係がなく,被上告人は,遅くとも同年▲月ころまでにそのことを知ったが,それを上告人に告げなかった。
(2) 上告人は,平成9年ころから,被上告人に通帳やキャッシュカードを預け,その口座から生活費を支出することを許容しており,平成11年ころ,一定額の生活費を被上告人に交付するようになった後も,被上告人の要求に応じて,平成12年1月ころから平成15年末まで,ほぼ毎月150万円程度の生活費を被上告人に交付してきた。
(3) 上告人と被上告人との婚姻関係は,上告人が被上告人以外の女性と性的関係を持ったことなどから,平成16年1月末ころ破綻した。その後,上告人に対して,被上告人に婚姻費用として月額55万円を支払うよう命ずる審判がされ,同審判は確定した。
(4) 上告人は,平成17年4月に初めて,二男との間には自然的血縁関係がないことを知った。上告人は,同年7月,二男との間の親子関係不存在確認の訴え等を提起したが,同訴えを却下する判決が言い渡され,同判決は確定した。
(5) 上告人が被上告人に分与すべき積極財産は,合計約1270万円相当である。
3 原審は,上告人と被上告人とを離婚し,長男,二男及び三男の親権者をいずれも被上告人と定めるべきものとするなどした上,二男の監護費用につき,次のとおり判断した。
上告人と二男との間に法律上の親子関係がある以上,上告人はその監護費用を分担する義務を負い,その分担額については,長男及び三男と同額である月額14万円と定めるのが相当である。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば,被上告人は,上告人と婚姻関係にあったにもかかわらず,上告人以外の男性と性的関係を持ち,その結果,二男を出産したというのである。しかも,被上告人は,それから約2か月以内に二男と上告人との間に自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず,そのことを上告人に告げず,上告人がこれを知ったのは二男の出産から約7年後のことであった。そのため,上告人は,二男につき,民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され,もはや上告人が二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない
他方,上告人は,被上告人に通帳等を預けてその口座から生活費を支出することを許容し,その後も,婚姻関係が破綻する前の約4年間,被上告人に対し月額150万円程度の相当に高額な生活費を交付することにより,二男を含む家族の生活費を負担しており,婚姻関係破綻後においても,上告人に対して,月額55万円を被上告人に支払うよう命ずる審判が確定している。このように,上告人はこれまでに二男の養育・監護のための費用を十分に分担してきており,上告人が二男との親子関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,上告人に離婚後も二男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課するものというべきである
さらに,被上告人は上告人との離婚に伴い,相当多額の財産分与を受けることになるのであって,離婚後の二男の監護費用を専ら被上告人において分担することができないような事情はうかがわれない。そうすると,上記の監護費用を専ら被上告人に分担させたとしても,子の福祉に反するとはいえない。
(2) 以上の事情を総合考慮すると,被上告人が上告人に対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たるというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
5 以上によれば,原判決中,二男の監護費用の分担に関する部分は破棄を免れず,第1審判決中,同部分を取り消して,同部分に関する被上告人の申立てを却下すべきである。
なお,長男及び三男の監護費用の分担に関する上告については,上告人は上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないので,これを却下することとし,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理決定において排除されたので,これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
( 裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 古田佑紀 裁判官 須藤正彦 裁判官千葉勝美)

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民法770条 裁判上の離婚 家族法 親族 離婚

民法770条 裁判上の離婚

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(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる

・裁判上の離婚とは、協議離婚・調停離婚が成立せず(調停前置主義)、審判離婚がなされていないときに夫婦の一方の一定の原因に基づく離婚の請求に対して、裁判所が判決によって婚姻を解消させることをいう。

・「不貞な行為」とは、貞操義務に違反する行為全般を指すのではなく、自由な意思に基づき、自己の配偶者以外の者(異性)と性関係を結ぶこと(性交)をいう。

・異性との性交以外の態様による貞操義務違反行為は、1号ではなく5号の問題になる。

・「悪意で遺棄」とは積極的な意思で夫婦の共同生活を行わないことをいう。

・精神病を理由とする離婚請求は、2項により、諸般の事情を考慮しある程度病者の前途に方途の見込みがついたうえでなければ認められない

・もっとも、病者の配偶者が療養費を誠実に支払っているなどの事情により離婚請求が認められることもある
+判例(S45.11.24)
理由
 上告代理人渡辺弥三次の上告理由第一点について。
 Aのかかつている精神病はその性質上強度の精神病というべく、一時よりかなり軽快しているとはいえ、果して完全に回復するかどうか、また回復するとしてもその時期はいつになるかは予測し難いばかりか、かりに近い将来一応退院できるとしても、通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務にたえられる程度にまで回復できる見込みは極めて乏しいものと認めざるをえないから、Aは現在なお民法七七〇条一項四号にいわゆる強度の精神病にかかり、回復の見込みがないものにあたるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 民法七七〇条一項四号と同条二項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二八年(オ)第一三八九号、同三三年七月二五日第二小法廷判決、民集一二巻一二号一八二三頁)。ところで、Aは、婚姻当初から性格が変つていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人ともつきあわず、被上告人の店の従業員とも打ちとけず、店の仕事に無関心で全く協力しなかつたのであり、そして、昭和三二年一二月二一日頃から上告人である実家の許に別居し、そこから入院したが、Aの実家は、被上告人が支出をしなければAの療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、被上告人は、Aのため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、Aの過去の療養費については、昭和四〇年四月五日上告人との間で、Aが発病した昭和三三年四月六日以降の入院料、治療費および雑費として金三〇万円を上告人に分割して支払う旨の示談をし、即日一五万円を支払い、残額をも昭和四一年一月末日までの間に約定どおり全額支払い、上告人においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に係属してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、被上告人とAの間の長女Bは被上告人が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。そして、これら諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、右諸般の事情その他原審の認定した一切の事情を斟酌考慮しても、前示Aの病状にかかわらず、被上告人とAの婚姻の継続を相当と認める場合にはあたらないものというべきであるから、被上告人の民法七七〇条一項四号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

・「婚姻を継続しがたい重大な事由」 とは、夫婦の一方が他方の行動、生活や生活環境からその婚姻を継続しがたいと考えた場合と、双方が婚姻についての意思を失い夫婦生活が回復し難く破綻している状態を指す。

・有責配偶者の離婚請求であることのみをもって離婚請求を棄却(770条2項)することは許されない。ただし、信義則による裁量棄却の余地はある。
+判例(S62.9.2)
理由
 上告代理人菊地一夫の上告理由について
 所論は、要するに、上告人と被上告人との婚姻関係は破綻し、しかも、両者は共同生活を営む意思を欠いたまま三五年余の長期にわたり別居を継続し、年齢も既に七〇歳に達するに至つたものであり、また、上告人は別居に当たつて当時有していた財産の全部を被上告人に給付したのであるから、上告人は被上告人に対し、民法七七〇条一項五号に基づき離婚を請求しうるものというべきところ、原判決は右請求を排斥しているから、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
 一1 民法七七〇条は、裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号。以下同じ。)八一三条を全面的に改め、一項一号ないし四号において主な離婚原因を具体的に示すとともに、五号において「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」との抽象的な事由を掲げたことにより、同項の規定全体としては、離婚原因を相対化したものということができる。また、右七七〇条は、法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法八一四条ないし八一七条の規定の趣旨の一部を取り入れて、二項において、一項一号ないし四号に基づく離婚請求については右各号所定の事由が認められる場合であつても二項の要件が充足されるときは右請求を棄却することができるとしているにもかかわらず、一項五号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしており、二項のほかには、離婚原因に該当する事由があつても離婚請求を排斥することができる場合を具体的に定める規定はない。以上のような民法七七〇条の立法経緯及び規定の文言からみる限り、同条一項五号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて、同号所定の事由(以下「五号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない
 他方、我が国においては、離婚につき夫婦の意思を尊重する立場から、協議離婚(民法七六三条)、調停離婚(家事審判法一七条)及び審判離婚(同法二四条一項)の制度を設けるとともに、相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け、前示のように離婚原因を法定し、これが存在すると認められる場合には、夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。このような裁判離婚制度の下において五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない

 2 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない

 3 そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
 そうであつてみれば、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。
 4 以上説示するところに従い、最高裁昭和二四年(オ)第一八七号同二七年二月一九日第三小法廷判決・民集六巻二号一一〇頁、昭和二九年(オ)第一一六号同年一一月五日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇二三頁、昭和二七年(オ)第一九六号同二九年一二月一四日第三小法廷判決・民集八巻一二号二一四三頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきものである。

 二 ところで、本件について原審が認定した上告人と被上告人との婚姻の経緯等に関する事実の概要は、次のとおりである。
 (一) 上告人と被上告人とは、昭和一二年二月一日婚姻届をして夫婦となつたが、子が生まれなかつたため、同二三年一二月八日訴外Aの長女B及び二女Cと養子縁組をした。(二) 上告人と被上告人とは、当初は平穏な婚姻関係を続けていたが、被上告人が昭和二四年ころ上告人とAとの間に継続していた不貞な関係を知つたのを契機として不和となり、同年八月ころ上告人がAと同棲するようになり、以来今日まで別居の状態にある。なお、上告人は、同二九年九月七日、Aとの間にもうけたD(同二五年一月七日生)及びE(同二七年一二月三〇日生)の認知をした。(三) 被上告人は、上告人との別居後生活に窮したため、昭和二五年二月、かねて上告人から生活費を保障する趣旨で処分権が与えられていた上告人名義の建物を二四万円で他に売却し、その代金を生活費に当てたことがあるが、そのほかには上告人から生活費等の交付を一切受けていない。(四) 被上告人は、右建物の売却後は実兄の家の一部屋を借りて住み、人形製作等の技術を身につけ、昭和五三年ころまで人形店に勤務するなどして生活を立てていたが、現在は無職で資産をもたない。(五) 上告人は、精密測定機器の製造等を目的とする二つの会社の代表取締役、不動産の賃貸等を目的とする会社の取締役をしており、経済的には極めて安定した生活を送つている。(六) 上告人は、昭和二六年ころ東京地方裁判所に対し被上告人との離婚を求める訴えを提起したが、同裁判所は、同二九年二月一六日、上告人と被上告人との婚姻関係が破綻するに至つたのは上告人がAと不貞な関係にあつたこと及び被上告人を悪意で遺棄してAと同棲生活を継続していることに原因があるから、右離婚請求は有責配偶者からの請求に該当するとして、これを棄却する旨の判決をし、この判決は同年三月確定した。(七) 上告人は、昭和五八年一二月ころ被上告人を突然訪ね、離婚並びにB及びCとの離縁に同意するよう求めたが、被上告人に拒絶されたので、同五九年東京家庭裁判所に対し被上告人との離婚を求める旨の調停の申立をし、これが成立しなかつたので、本件訴えを提起した。なお、上告人は、右調停において、被上告人に対し、財産上の給付として現金一〇〇万円と油絵一枚を提供することを提案したが、被上告人はこれを受けいれなかつた。

 三 前記一において説示したところに従い、右二の事実関係の下において、本訴請求につき考えるに、上告人と被上告人との婚姻については五号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約三六年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである
 したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官角田禮次郎、同林藤之輔の補足意見、裁判官佐藤哲郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

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民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

民法769条 離婚による復氏の際の権利の承継

(離婚による復氏の際の権利の承継)
第七百六十九条  婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。

・離婚復氏の際の系譜・祭具・墳墓の所有権の承継に関する規定。

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民法768条 財産分与 家族法 親族 離婚

民法768条 財産分与

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(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める

・内縁については死亡の場合には類推適用されない。

・慰謝料請求権と財産分与請求権について、権利者はいずれをも選択的に主張することができる。

・すでに財産分与を受けていても、その額が精神的苦痛を慰謝するに足りないときは、別に慰謝料請求が可能である。

+判例(S46.7.23)
理由
 上告代理人吉永嘉吉の上告理由第一点について。
 本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となつた上告人の虐待等、被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知つたこととなるものと解するのが相当である。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実に照らせば、本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後三年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していないものであり、原判決は、措辞適切を欠く部分もあるが、ひつきよう、右の趣旨により上告人の消滅時効の主張を排斥したものと解されるのであるから、その判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 同第二点について。
 離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有毒な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。所論引用の判例(最高裁昭和二六年(オ)四六九号同三一年二月二一日第三小法廷判決、民集一〇巻二号一二四頁)は、財産分与を請求しうる立場にあることは離婚による慰藉料の請求を妨げるものではないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるから、前記の見解は右判例に牴触しない。
 本件において、原判決の確定したところによれば、さきの上告人と被上告人との間の離婚訴訟の判決は、上告人の責任のある離婚原因をも参酌したうえ、整理タンス一棹、水屋一個の財産分与を命じ、それによつて被上告人が右財産の分与を受けたというのであるけれども、原審は、これをもつて、離婚によつて被上告人の被つた精神的損害をすべて賠償する趣旨を含むものであるとは認定していないのである。のみならず、離婚につき上告人を有責と認めるべき原判決確定の事実関係(右離婚の判決中で認定された離婚原因もほぼこれと同様であることが記録上窺われる。)に照らし、右のごとき僅少な財産分与がなされたことは、被上告人の上告人に対する本訴慰藉料請求を許容することの妨げになるものではないと解すべきであり、また、右財産分与の事実を考慮しても、原判決の定めた慰藉料の額をとくに不当とすべき理由はなく、本訴請求の一部を認容した原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

・財産分与の法的性質
婚姻中における夫婦財産関係の清算
離婚後における配偶者の扶養
離婚における慰謝料

・夫婦の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも財産分与に含めることができる。
+判例(S53.11.14)
理由
 上告代理人竹下甫、同小山稔の上告理由第一点について
 離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて所論の点についてした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 原審において所論の乙第一六号証の一ないし四及び同第一七号証の一ないし四につき証拠調べがされていること、また、原判決の事実摘示には右の事実の記載がなく、理由中の判断においても右書証の取捨が明らかにされていないことは、所論のとおりである。しかし、本件記録に徴すると、右書証が所論の点に関する原審の事実認定(これは、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。)を左右するものとまでは認められないから、前記の瑕疵は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背に当たらないものというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 服部髙顯 裁判官 江里口清雄 裁判官 髙辻正己)

・財産分与の当事者が財産分与者に対する課税を知らなかった場合には、動機の錯誤となり、動機が明示的又は黙示的に表示されれば当該財産分与の意思表示は無効(95条)となる
+判例(H1.9.14)
  理  由
 上告代理人菅原信夫、國生肇の上告理由二について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、昭和三七年六月一五日被上告人と婚姻し、二男一女をもうけ、東京都新宿区市谷砂土原町所在の第一審判決別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)に居住していたが、勤務先銀行の部下女子職員と関係を生じたことなどから、被上告人が離婚を決意し、昭和五九年一一月上告人にその旨申し入れた。
 2 上告人は、職業上の身分の喪失を懸念して右申入れに応ずることとしたが、被上告人は、本件建物に残って子供を育てたいとの離婚条件を提示した。
 3 そこで、上告人は、右女子職員と婚姻して裸一貫から出直すことを決意し、被上告人の意向にそう趣旨で、いずれも自己の特有財産に属する本件建物、その敷地である前記物件目録一記載の土地及び右地上の同目録三記載の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)全部を財産分与として被上告人に譲渡する旨約し(以下「本件財産分与契約」という。)、その旨記載した離婚協議書及び離婚届に署名捺印して、その届出手続及び右財産分与に伴う登記手続を被上告人に委任した。
 4 被上告人は、右委任に基づき、昭和五九年一一月二四日離婚の届出をするとともに、同月二九日本件不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記を経由し、上告人は、その後本件不動産から退去して前記女子職員と婚姻し一男をもうけた。
 5 本件財産分与契約の際、上告人は、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたが、上告人に課税されることは話題にならなかったところ、離婚後、上告人が自己に課税されることを上司の指摘によって初めて知り、税理士の試算によりその額が二億二二二四万余円であることが判明した。

 二 上告人は、本件財産分与契約の際、これより自己に譲渡所得税が課されないことを合意の動機として表示したものであり、二億円を超える課税がされることを知っていたならば右意思表示はしなかったから、右契約は要素の錯誤により無効である旨主張して、被上告人に対し、本件不動産のうち、本件建物につき所有権移転登記の抹消登記手続を求め、被上告人において、これを争い、仮に要素の錯誤があったとしても、上告人の職業、経験、右契約後の経緯等からすれば重大な過失がある旨主張した。原審は、これに対し、前記一の事実関係に基づいて次のような判断を示し、上告人の請求を棄却した第一審判決を維持した。
 1 離婚に伴う財産分与として夫婦の一方が他方に対してする不動産の譲渡が譲渡所得税の対象となることは判例上確定した解釈であるところ、分与者が、分与に伴い自己に課税されることを知らなかったため、財産分与契約において課税につき特段の配慮をせず、その負担についての条項を設けなかったからといって、かかる法律上当然の負担を予期しなかったことを理由に要素の錯誤を肯定することは相当でない。
 2 本件において、前示事実関係からすると、上告人が本件不動産を分与した場合に前記のような高額の租税債務の負担があることをあらかじめ知っていたならば、本件財産分与契約とは異なる内容の財産分与契約をしたこともあり得たと推測されるが、右課税の点については、上告人の動機に錯誤があるにすぎず、同人に対する課税の有無は当事者間において全く話題にもならなかったのであって、右課税のないことが契約成立の前提とされ、上告人においてこれを合意の動機として表示したものとはいえないから、上告人の錯誤の主張は失当である。

 三 しかしながら、右判断はにわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要するところ(最高裁昭和二七年(オ)第九三八号同二九年一一月二六日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇八頁、昭和四四年(オ)第八二九号同四五年五月二九日第二小法廷判決・裁判集民事九九号二七三頁参照)、右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない
 本件についてこれをみると、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり、夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することが右「資産の譲渡」に当たり、譲渡所得を生ずるものであることは、当裁判所の判例(最高裁昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁、昭和五一年(行ツ)第二七号同五三年二月一六日第一小法廷判決・裁判集民事一二三号七一頁)とするところであり、離婚に伴う財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも上告人において右の点を誤解していたものというほかはないが、上告人は、その際、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば、上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。上告人に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。
 以上によれば、右の点について認定判断することなく、上告人の錯誤の主張が失当であるとして本訴請求を棄却すべきものとした原判決は、民法九五条の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯すものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

・離婚により生ずる可能性のある財産分与請求権は、協議・審判等によりその具体的内容が形成される以前には代位行使の対象にならない!!
=具体的内容が確定すればできる

・離婚に伴う財産分与は、本条第3項の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認められるような特段の事情がない限り、詐害行為とならない。
+判例(S58.12.19)
理由
 上告代理人中村健太郎、同中村健の上告理由第一点及び第二点について
 離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法七六八条三項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによつて、なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがつて、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であつてもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。
 そこで、右のような見地に立つて本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) Aは、昭和二二年七月二五日被上告人と婚姻し、昭和三一年から、兵庫県津名郡a町b番cの土地上のAの父B所有の建物でクリーニング業を始めたが、昭和四九年ころからはクリーニング業は被上告人に任せ、自らは不動産業、金融業を始めるようになつた、(2) そして、Aは、同年九月一七日上告人と信用組合取引契約を締結し、上告人より手形貸付、手形割引等を受け、更に有限会社寿宝商事あるいは富洋設備という会社を設立して右会社名義においても上告人と信用組合取引契約を結び一時は盛大に事業を行つていたが、昭和五一年一一月手形の不渡を出して倒産するに至つた、(3) 被上告人とAとの間には二男三女があるが、Aは、Cと情交関係を結んで子供まで儲けたうえ、多額の負債をかかえて倒産するに及んだので、被上告人は、その精神的苦痛だけではなく、経済的にも自己及び子供の将来が危ぶまれると考えて離婚を決意し、Aと協議の結果、被上告人においてこれまで子供らとともにやつて来た家業であるクリーニング業を続けてやつて行くことによつて二人の子供の面倒をみることとし、その基盤となる本件土地(前記b番cの土地、前同所b番dの土地の二筆の土地)を慰藉料を含めた財産分与としてAより被上告人に譲渡することになつた、(4) そこで、被上告人は、昭和五一年一二月二二日Aと離婚し、本件土地について代物弁済を原因とする被上告人のための所有権移転登記がなされた、(5) 本件土地のうち、b番cの土地は、昭和三五年ころ家業のクリーニング業の利益で買つて昭和五一年五月三一日所有権移転登記手続をしたものであり、b番dの土地は、昭和四三年六月ころ同じくクリーニング業の利益で取得したものであつて、いずれもAの不動産業とは関係なく取得したものである、(6) 被上告人らが住みクリーニング業を営んでいた家屋は、Bの所有であつてb番cの土地上にあつたが、室津川の河川改修のため兵庫県より立退きを迫られ、本件土地の一部は国に売却し、一部は他人の所有地と交換したため、結局被上告人は、分筆後のb番dの土地と交換により取得した前同所e番fの土地を所有することになつた、(7) そこで、被上告人は、昭和五二年三月前記家屋を取り毀し、同年一一月ころ右両土地上に本件建物を代金一九〇〇万円で建築し、同年一二月一日被上告人名義に所有権保存登記をしたが、被上告人は、右建築代金のみならず、設計料及び旧家屋取毀費用もすべて自ら完済しているので、本件建物は建築の当初から被上告人の所有に属しているものである、(8) 本件土地はAの唯一の不動産ではないが、同人所有の不動産であつて上告人のために担保として提供されている財産はごく僅かな価値しかないため、唯一に近い不動産であり、その価格は約九八九万円であるが、被上告人はb番cの土地に対する根抵当権を抹消するため約五三六万円を支払つた、というのであり、原審の右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯認することができる。
 そして、右の事実関係のもとにおいて、本件土地は被上告人の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての被上告人の寄与はAのそれに比して大であつて、もともと被上告人は実質的にAより大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、被上告人とAとの離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、被上告人にとつては本件土地は従来から生活の基盤となつてきたものであり、被上告人及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、被上告人の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地がAにとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしやくしてもなお、被上告人に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 被上告人に対する本件土地の譲渡が詐害行為にあたるとすることができないとした原審の認定判断が正当として是認することができるものであることは、前記に判示するとおりであるから、論旨は、ひつきよう、原判決の傍論部分の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 宮﨑梧一 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)

・離婚請求を認容するにあたって、単独で子の監護にあたっている妻の夫に対する別居後離婚までの間の子の監護費用の支払いを命ずることができる
+判例(H9.4.10)
理由
 上告代理人伊藤伴子の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、民法七七一条、七六六条一項を類推適用し、人事訴訟手続法一五条一項により、右申立てに係る子の監護費用の支払を命ずることができるものと解するのが相当である。けだし、民法の右規定は、父母の離婚によって、共同して子の監護に当たることができなくなる事態を受け、子の監護について必要な事項等を定める旨を規定するものであるところ、離婚前であっても父母が別居し共同して子の監護に当たることができない場合には、子の監護に必要な事項としてその費用の負担等にいての定めを要する点において、離婚後の場合と異なるところがないのであって、離婚請求を認容するに際し、離婚前の別居期間中における子の監護費用の分担についても一括して解決するのが、当事者にとって利益となり、子の福祉にも資するからである。
 被上告人の本件申立てに係る養育費とは、右にいう監護費用の趣旨であると解されるところ、原審が、被上告人の本件離婚請求を認容するに際し、被上告人の申立てに基づき「同人と上告人との間の長女A(平成元年三月一六日生まれ)の監護に関して、離婚の裁判が確定する日(本判決言渡しの日)の翌日からAが成年に達する平成二一年三月までの間の監護費用のみなりず、上告人と被上告人が別居し、被上告人が単独でAの監護に当たるようになった後の平成四年一月から右裁判確定の日までの間の監護費用の支払をも上告人に命じた点に、所論の違法はない。原審の右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

・裁判所は、離婚請求に併せて監護費用の支払いを求める旨の申立てを受けた場合、審理判断しなければならない!
+判例(H19.3.30)
理由
 上告代理人石原寛ほかの上告受理申立て理由1の(1)から(7)までについて
 1 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人と被上告人とは、平成12年10月2日に婚姻の届出をした夫婦である。上告人は、平成13年7月16日から現在まで被上告人と別居しているが、同年10月3日には被上告人の子である長男を出産し、単独でその監護に当たっている。
 (2) 本件訴訟において、上告人は、本訴として、被上告人に対し、離婚を請求するとともに、平成14年10月から長男が成年に達する日の属する月までの間の長男の養育費、すなわち監護費用の分担の申立てなどをし、被上告人は、反訴として、上告人に対し、離婚等を請求した。
 (3) 第1審は、本訴及び反訴の各離婚請求をいずれも認容して長男の親権者を上告人と定めるなどしたほか、被上告人の支払うべき監護費用の分担額について、長男が出生した平成13年10月から第1審口頭弁論終結時の前月である平成16年11月までの間の未払監護費用の合計を150万円と定めるとともに、平成16年12月から長男が成年に達する日の属する月まで1か月8万円と定め、これらの支払を命じた。
 (4) これに対し、被上告人は、監護費用分担の申立てなどに関する第1審の判断に不服があるとして控訴した。なお、第1審判決中の離婚及び親権者の指定に関する部分に対しては、不服申立てがされなかった。
 2 原審は、離婚の効力が生ずる原判決確定の日から長男が成年に達する日までの間における監護費用については、その分担額を1か月8万円と定め、被上告人に対しその支払を命じたが、平成14年10月から離婚の効力が生ずるまでの間における長男の監護費用分担の申立て(以下「本件申立て」という。)については、離婚の訴えに附帯してそのような申立てをすることができないから不適法であるとし、第1審判決を変更して本件申立てを却下した。
 3 しかしながら、本件申立てに係る原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、民法771条、766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である(最高裁平成7年(オ)第1933号同9年4月10日第一小法廷判決・民集51巻4号1972頁参照)。そうすると、当該申立ては、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから、裁判所は、離婚請求を認容する際には、当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきである。
 以上と異なる見解に立って、本件申立てを不適法として却下した原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち本件申立てに関する部分は破棄を免れない。そして、同部分につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求及び申立てに関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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民法767条 離婚による復氏等 家族法 親族 離婚

民法767条 離婚による復氏等

(離婚による復氏等)
第七百六十七条  婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する
2  前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる

・復氏によって称する氏は、婚姻前の氏である。婚姻前の氏とは、婚姻直前の氏をいい、婚姻前に称した氏の総称ではない。

・婚姻中の身分行為により潜在的に氏が変更された場合には、婚姻直前の氏に復するとはえないときがある

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民法766条 離婚後の子の監護に関する事項の定め等

民法766条 離婚後の子の監護に関する事項の定め等

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(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める
3  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4  前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

・766条は、離婚の際に親権者とは別に子の監護をすべき者を定めることができるとしている。

・本条は裁判離婚(711条)および父が認知する場合(788条)に準用される

・親権者とは別に監護者が定められた場合の監護者の地位については明示されていないが、通説は、親権者の身上監護権が監護者に分属され、親権者には財産管理権のみが残るとしている!
また、子の法定代理権は戸籍上明確である親権者のみに認められると解している。

・親権者とならなかった父母の一方も第三者と同様に監護権者になることを認めている

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