民法772条 嫡出の推定 家族法 親族 親子

民法772条 嫡出の推定

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(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
・嫡出子
=婚姻関係にある男女間に懐胎出生した子
~訴えについての整理~
1.推定される嫡出子(=772条に該当する子)で推定が及ぶ場合
嫡出否認の訴えで争う
・内縁成立の日から200日以後であっても、婚姻届出の日から200日以内に出生した子は、推定される嫡出子とはいえない!
→推定されない嫡出子になる。
・772条の嫡出推定の及ぶ子について、夫と妻の婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、嫡出否認の訴えの提起期間経過後に親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係を争うことはできない
+判例(H12.3.14)
理由
 上告代理人藤原晃の上告理由について
 一 本件は、被上告人が、戸籍上同人の嫡出子とされている上告人に対し、両者の間の親子関係不存在の確認を求める訴えを提起した事案である。記録によって認められる事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 被上告人と甲野花子は、平成三年二月二日、婚姻の届出をした。
  2 花子は、平成三年九月二日、上告人を出産した。被上告人は、同月一一日、上告人の出生の届出をし、上告人は、戸籍上、被上告人と花子の嫡出子(長男)として記載されている。
  3 被上告人と花子は、平成六年六月二〇日、上告人の親権者を花子と定めて協議離婚した。
  4 被上告人は、平成七年二月一六日、本件訴えを提起した。

 二 第一審は、本件訴えを却下したが、原審は、本件訴えの適法性につき次のとおり判断し、第一審判決を取り消して事件を第一審に差し戻す旨の判決をした。
  1 民法上嫡出の推定を受ける子に対し、父がその嫡出性を否定するためには、同法の規定にのっとり嫡出否認の訴えによることを原則とするが、嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となった場合には、同法七七七条所定の期間が経過した後においても、父は、父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱くべき事実を知った後相当の期間内であれば、例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
  2 本件においては、被上告人と花子との婚姻関係は消滅しているのであるから、被上告人と上告人をめぐる家族共同体の実体が失われていることは明らかである。また、被上告人が上告人との間に自然的血縁関係がないのではないかとの疑いを高めたのは、平成七年一月二二日に花子からその旨の電話を受けた時であり、被上告人は、その後速やかに本件訴えを提起している。
  3 したがって、本件においては、被上告人は、上告人に対し、親子関係不存在確認の訴えを提起し得るものと解すべきであり、本件訴えは適法といえる。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民法七七二条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、右訴えにつき一年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性を有するものということができる(最高裁昭和五四年(オ)第一三三一号同五五年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一二九号三五三頁参照)。そして、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である
 もっとも、民法七七二条二項所定の期間内に妻が出産した子について、妻が右子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、右子は実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法七七四条以下の規定にかかわらず、夫は右子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第一一八四号同四四年五月二九日第一小法廷判決・民集二三巻六号一〇六四頁、最高裁平成七年(オ)第二一七八号同一〇年八月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一八九号四九七頁参照)。しかしながら、本件においては、右のような事情は認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。
 そうすると、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴えは却下すべきものであるから、右と結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣 裁判官奥田昌道)

2.推定される嫡出子で推定の及ばない子
親子関係不存在確認の訴えで争う。
推定の及ばない子とは、妻が夫によって懐胎することが不可能な事情があるが本条に該当する子をいう
ex
事実上の離婚状態にあり夫婦関係が断絶していた場合
夫は行方不明の場合、夫が海外滞在中や在監中であった場合

+判例(H10.8.31)
理由
 上告代理人池上徹、同石井宏治の上告理由について
 一 本件は、上告人の戸籍上の父とされているA男が死亡した後、その遺産相続をめぐって紛争が生じ、A男の養子である被上告人が上告人に対し、亡A男と上告人との間の親子関係不存在確認を求める訴えを提起した事案である。記録によって認められる事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 A男とB女は、昭和一八年一〇月一日に結婚式を挙げ、同居生活を開始した。なお、婚姻の届出は同月二二日にされた。
  2 A男は、昭和一八年一〇月一三日に応召し、同月一九日に下関港から出征して、南方各地の戦場を転々とした後、昭和二一年五月二八日に名古屋港に帰還し、翌二九日に復員の手続がとられた。
  3 この間、B女は、C男と性的関係を持った。
  4 B女は、昭和二一年一一月一七日に上告人を分娩した。
  5 上告人は、A男により、A男・B女夫婦の嫡出子として届け出られたが、昭和二二年八月四日にC男の養子とされた。以来、上告人は、C男の下で暮らし、C男・D女夫婦(昭和二七年一一月二四日婚姻)の子として育てられ、A男・B女夫婦とは没交渉の状態にあった。
  6 一方、A男・B女夫婦は、昭和二六年三月一六日に被上告人(昭和二四年一月二二日生まれ)を養子とし、同居生活を送ってきた。
  7 A男は、平成四年四月二九日に死亡した。
  8 ところで、妊娠週数が二四週以上二八週未満の分娩は、現在では早産と扱われているが、上告人出生当時は流産と扱われていた。ちなみに、昭和五三年及び同五四年の各人口動態統計によれば、妊娠週数二四週以上二八週未満の分娩による出生数の総出生数に対する構成割合は、いずれの年においても0.1パーセント程度にすぎない。
  9 仮に、B女が、A男が帰還した昭和二一年五月二八日に同人と性的関係を持ち、上告人を懐胎したとすると、B女は妊娠週数にして最長でも二六週目に上告人を分娩したことになる。
 二 右一の事実によれば、A男は、応召した昭和一八年一〇月一三日から名古屋港に帰還した昭和二一年五月二八日の前日までの間、B女と性的関係を持つ機会がなかったことが明らかである。そして、右一の事実のほか、昭和二一年当時における我が国の医療水準を考慮すると、当時、妊娠週数二六週目に出生した子が生存する可能性は極めて低かったものと判断される。そうすると、B女が上告人を懐胎したのは昭和二一年五月二八日より前であると推認すべきところ、当時、A男は出征していまだ帰還していなかったのであるから、B女がA男の子を懐胎することが不可能であったことは、明らかというべきである。したがって、上告人は実質的には民法七七二条の推定を受けない嫡出子であり、A男の養子である被上告人が亡A男と上告人との間の父子関係の存否を争うことが権利の濫用に当たると認められるような特段の事情の存しない本件においては、被上告人は、親子関係不存在確認の訴えをもって、亡A男と上告人との間の父子関係の存否を争うことができるものと解するのが相当である。
 三 以上によれば、被上告人の本件親子関係不存在確認の訴えが適法なものであるとした原審の判断は、結論において是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官福田博の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

3.推定されない嫡出子(772条に該当しない嫡出子)
内縁関係が先行し、婚姻成立後200日以内に出生した子など
親子関係不存在確認の訴えで争う!

4.二重の推定が及ぶ嫡出子
前婚の推定と後婚の推定とが重複する場合の嫡出子
父を定めることを目的とする訴えを使う!
ex
再婚禁止期間に違反して再婚した場合や重婚関係が生じた場合

5.非嫡出子
非嫡出父子関係については、認知によらずに親子関係不存在確認の訴えによることはできない


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