4-3 当事者 当事者に関する能力

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1.実体法との関係
・訴訟法上の各種の能力は、基本的には実体法上の各種の能力に準ずる形で規律される。

・実体法上の法律関係においては、権利義務の主体となり得る資格として権利能力が要求され、さらに、法律行為を自ら有効に行うための要件として、意思能力および行為能力が要求される。
訴訟上も基本的には同様の能力が必要。

2.当事者能力
・当事者能力とは、
民事訴訟の当事者として本案判決の名宛人となることのできる一般的な資格をいう。

・基本的には実体法上の権利能力に対応する概念

・当事者能力の判断は、基本的には実体法上の権利能力の有無の判断に準じて行われる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

胎児・外国人・法人格の認められる団体など。

・民訴法は、実体法上は権利能力を認められない者についても、一定の要件を満たすものについては、独自の観点から当事者能力を認めている。
+(法人でない社団等の当事者能力)
第二十九条  法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

3.訴訟能力
(1)訴訟能力の意義
訴訟能力とは、
単独で有効に訴訟行為をし、または受けるために必要な能力をいう。
実体法上の行為能力に対応する。

(2)訴訟能力が認められる者
・民法上完全な行為能力が認められる者については、訴訟能力もまた認められる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

(3)訴訟能力が要求される行為の範囲
・証人として証言する場合、あるいは、当事者尋問において当事者本人として陳述する場合には訴訟能力は必要ではない。
←陳述の内容が裁判所の事実認定の資料となるにすぎず、陳述という行為に何らかの訴訟上の効果が直ちに結びつくわけではないため。

・訴訟代理人として他人のために訴訟行為をする場合にも、訴訟能力は要求されない。
←訴訟行為の効果が係属するのはあくまで本人である訴訟当事者であり、訴訟代理人ではないため、その効果を否定することによって行為者を保護する必要に乏しい。
そのような者を代理人として選任すること自体は原則として当事者の自由。

(4)訴訟能力欠缺の効果
訴訟能力を欠いた者のした訴訟行為は、はじめから無効とされる。
←訴訟は実体法上の取引と異なり、多くの訴訟行為が積み重なって進んでいくという性格を持つことから、実体法上の取引以上に法的安定性が要求されるため。

・訴訟能力の欠缺が発見された場合においても、その瑕疵を当事者に治癒させる余地を認めている。
+(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる
3  前二項の規定は、選定当事者が訴訟行為をする場合について準用する。

・訴訟能力者に有利なもののみ追認し、不利なものの追認を拒むことは許されない。
←それまでの手続が不可分一体のものであるから。
追認者の恣意的な判断で相手方当事者の地位を害すべき理由はないから。

・当事者が訴訟能力を喪失した場合
+(訴訟手続の中断及び受継)
第百二十四条  次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一  当事者の死亡
     相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
二  当事者である法人の合併による消滅
     合併によって設立された法人又は合併後存続する法人
三  当事者の訴訟能力の喪失又は法定代理人の死亡若しくは代理権の消滅
     法定代理人又は訴訟能力を有するに至った当事者
四  次のイからハまでに掲げる者の信託に関する任務の終了 当該イからハまでに定める者
イ 当事者である受託者 新たな受託者又は信託財産管理者若しくは信託財産法人管理人
ロ 当事者である信託財産管理者又は信託財産法人管理人 新たな受託者又は新たな信託財産管理者若しくは新たな信託財産法人管理人
ハ 当事者である信託管理人 受益者又は新たな信託管理人
五  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの死亡その他の事由による資格の喪失
     同一の資格を有する者
六  選定当事者の全員の死亡その他の事由による資格の喪失
     選定者の全員又は新たな選定当事者
2  前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない
3  第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
4  第一項第二号の規定は、合併をもって相手方に対抗することができない場合には、適用しない。
5  第一項第三号の法定代理人が保佐人又は補助人である場合にあっては、同号の規定は、次に掲げるときには、適用しない。
一  被保佐人又は被補助人が訴訟行為をすることについて保佐人又は補助人の同意を得ることを要しないとき。
二  被保佐人又は被補助人が前号に規定する同意を得ることを要する場合において、その同意を得ているとき。

(5)訴訟要件としての当事者能力
・訴訟係属自体を基礎付ける訴訟行為について訴訟能力を欠く場合には、当該訴訟行為が無効になる結果、その訴え自体が不適法となることがある。
=訴訟要件としても機能

・却下判決については、訴訟無能力者または制限的訴訟能力者が自らの訴訟能力を主張して上訴することができる。
→上訴の不適法却下ではなく、上訴棄却の判決をする。

・訴えが訴訟能力の欠缺により不適法であることを看過して訴訟無能力者または制限行為能力者敗訴の本案判決がなされた場合においても、上訴または再審により判決の取り消しを求めることができる。

4.未成年者
+(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

←訴訟行為の効力を法定代理人による同意の有無に係らしめると手続の円滑な進行を阻害するおそれがあること、また、訴訟手続きは実体法上の法律行為よりも専門性や技術性が高く、未成年者を保護する必要性も大きいことから。

・婚姻や認知など、人の身分の変動をもたらす行為については、通常の財産関係と比較して、本人の意思を尊重する必要性が大きいことから、民法上、行為能力の規定は適用されない。

5.成年被後見人
人事訴訟においては民事訴訟法31条の規定は除外(人事訴訟法13条1項)
だとしても、成年被後見人が自ら有効に訴訟行為をするためには意思能力を備えていることが必要になるが・・・

6.被保佐人および被補助人
(1)保佐人等の同意による訴訟行為

・民法
+(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条  被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四  訴訟行為をすること
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3  保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

+(補助人の同意を要する旨の審判等)
第十七条  家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができるただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る
2  本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3  補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

・民事訴訟法
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

・訴訟行為の場合には、同意の欠缺の効果は、訴訟無能力の場合と同様に、当該行為の無効(取消しではない)!!!

・保佐人等による同意は、個々の訴訟行為に対するものではなく、少なくとも当該審級における手続の全体にわたる包括的なものでなければならない。

(2)同意が不要な場合
+(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)
第三十二条  被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない
2  被保佐人、被補助人又は後見人その他の法定代理人が次に掲げる訴訟行為をするには、特別の授権がなければならない。
一  訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
二  控訴、上告又は第三百十八条第一項の申立ての取下げ
三  第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意

←相手方当事者の裁判を受ける権利を不当に害する可能性が生じるから。

7.意思無能力者
意思能力とは、
自己の行為の法的な効果を認識判断することができる能力。

意思能力を欠いたままでされた法律行為は、もはや行為者の自由な意思決定によるものと評価することができず、私的自治の原則を適用するための前提を欠くことから民法上無効とされる!!
同様の考慮は訴訟行為についても妥当。
→行為の時点において意思能力を欠いていた場合には無効。


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4-2 当事者 当事者の確定

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1.当事者確定の意義と基準
(1)当事者の特定と当事者の確定
・当事者の特定とは、
誰が誰に対して当該訴えを提起するのかを明らかにする原告の行為をいう。
←処分権主義

・当事者の確定とは、
裁判所が特定の事件の当事者が誰であるかを判断する作業

(2)当事者確定の基準
・形式的当事者概念からは、具体的な事件において、誰が自己の名において訴え又は訴えられているのかを判断する基準は当然には導かれない。
では、どのような基準を採用するか。

・意思説
=特定の者の意思を基準として当事者を確定

・行動説
=訴訟手続上当事者らしく行動した者、または当事者として実際に取り扱われた者が当事者であるとする見解

・表示説
=訴状の記載を基準として当事者を確定すべき

・表示説(実質的表示説)
=当事者欄の記載に限らず、請求の趣旨・原因その他の記載事項も含めて訴状の全体から総合的に当事者を確定すればよい。

・問題となる局面
氏名冒用訴訟
死者を当事者とする訴訟
別会社に対する訴訟

(3)手続段階との関係
当事者の確定という作業の持つ意味は、手続のどの段階において当事者に関する疑義が生じたかによって異なる。

①原告から提出された訴状を受理した段階において当事者の確定は、もっぱら、誰を当事者としてこれからの手続を進めていくかという問題にかかわる。
→処分権主義の原則から、訴えを提起する原告の意思が尊重される必要があるが、原告の意思は訴状によって表示することが要求されているから、訴状の記載によって当事者を確定することが合理的。
訴状の記載以外の事情を当事者確定の判断資料とすることを認めると、被告の地位を不安定なものにするとともに、手続の遅延を招きかねない。

②手続がある程度進行した段階においては、当事者の確定は、誰を当事者としてこれからの手続を進めていくのかという点に加えて、従前の手続の有効性という問題にも影響する。
→任意的当事者変更、表示の訂正

③当該事件が終結し、判決が確定した後の段階においては、これからの手続の進行についてはもはや問題にならず、誰に対して当該判決の効力が及ぶのか、終結した事件の当事者とされる者に対して、再審の訴えなどの救済手段を用意するのかどうかといった事後的な処理が問われる。
従前の手続の効果を維持するのかという問題。
→当事者概念の内容を柔軟なものにする。
→規範分類説
当事者確定基準に関して行為規範の側面と評価規範の側面と評価規範の側面を区別。
①の局面ではもっぱら行為規範が問題となり、基準の明確性が重視されるべきであるから、表示説に従う。
②③の局面では、従前の手続を維持するかという評価規範の考慮が重視されることから、実際に訴訟手続に関与してきた者を当事者として評価するという行動説的な処理をする。

⇔実質的表示説では・・・
訴状の全体を考慮し得るとすることで事後的な解釈の余地を一定程度確保。
②の局面では任意的当事者変更の可否
③の局面では再審の訴えを認めるか

(4)裁判例

・法人格否認の法理と当事者の確定
+判例(S48.10.26)
理由
 上告代理人磯崎良誉、同鎌田俊正の上告理由について。
 原判決が適法に確定したところによれば、
 (一) 石川地所株式会社(旧商号日本築土開発株式会社、以下旧会社と称する。)が昭和四二年一〇月中被上告人から本件居室に関する賃貸借解除の通知を受け、かつ占有移転禁止の仮処分を執行されたところ、同会社代表者Aは、被上告人の旧会社に対する本件居室明渡、延滞賃料支払債務等の履行請求の手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、同年一一月一五日旧会社の商号を従前の日本築土開発株式会社から現商号の石川地所株式会社に変更して、同月一七日その登記をなすとともに、同日旧会社の前商号と同一の商号を称し、その代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員が旧会社のそれと同一であり、営業目的も旧会社のそれとほとんど同一である新会社を設立したが、右商号変更、新会社設立の事実を賃貸人である被上告人に通知しなかつたこと、
 (二) 被上告人は右事実を知らなかつたので同年一二月一三日「日本築土開発株式会社(代表取締役A)」を相手方として本訴を提起したこと、
 (三) Aは第一審口頭弁論期日に出頭しないで判決を受け、原審における約一年にわたる審理の期間中も、右商号変更、新会社設立の事実についてなんらの主張をせず、また、旧会社が昭和三八年一二月以降本件居室を賃借し、昭和四〇年一二月一日当時の賃料が月額一六万二二〇〇円であることならびに前記被上告人から賃貸借解除の通知を受けたことをそれぞれ認めていたにもかかわらず、上告人は、いつたん口頭弁論が終結されたのち弁論の再開を申請し、その再開後初めて、上告人が昭和四二年一一月一七日設立された新会社であることを明らかにし、このことを理由に、前記自白は事実に反するとしてこれを撤回し、旧会社の債務について責任を負ういわれはないと主張するにいたつたこと、
 以上の事実が認められるというのであり、論旨は右自白の撤回を許さず、上告人が旧会社の債務について責任を負うとした原審の判断を非難するのである。
 おもうに、株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であつて、このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追求することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年(オ)第八七七号同四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号五一一頁参照)。
 本件における前記認定事実を右の説示に照らして考えると、上告人は、昭和四二年一一月一七日前記のような目的、経緯のもとに設立され、形式上は旧会社と別異の株式会社の形態をとつてはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないことが明らかである。これと結論において同旨に出た原判決の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。したがつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

2.表示の訂正と任意的当事者変更
(1)表示の訂正
・表示の訂正とは、
AとBが同一人物を表示している場合に、訴状等におけるAという表示をBと変更することをいう。
表示の訂正は単に訴状等の記載の修正にすぎないものであり、当事者の変更を伴うものではない。
表示の訂正は、訴訟手続き中いつでもすることができる。
表示の訂正をしたからといって、従前の手続の有効性に影響が及ぶことはない。

(2)任意的当事者変更
ⅰ)任意的当事者変更の意義
・従来の当事者がAである場合、当事者の表示をAとは別人格を表示するBへ変更する場合には、訴状の記載だけでなく、当事者そのものをAからBへと変更。

・任意的当事者変更とは、当然承継や参加承継・引受承継の要件に該当しない場合に当事者の申立てによって当事者を変更することをいう。

ⅱ)任意的当事者変更の許容性
・法律構成
神当事者に取る、または神当事者に対する新たな訴えの提起と、旧当事者による、または旧当事者に対する訴えの取り下げが複合されたもの。
→新訴について、旧訴との共同訴訟の要件(38条)を満たすとともに、旧被告による同意など、旧訴の取り下げの要件を満たすことが要求される。

+(共同訴訟の要件)
第三十八条  訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。

+(訴えの取下げ)
第二百六十一条  訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
2  訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
3  訴えの取下げは、書面でしなければならない。ただし、口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)においては、口頭ですることを妨げない。
4  第二項本文の場合において、訴えの取下げが書面でされたときはその書面を、訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされたとき(相手方がその期日に出頭したときを除く。)はその期日の調書の謄本を相手方に送達しなければならない。
5  訴えの取下げの書面の送達を受けた日から二週間以内に相手方が異議を述べないときは、訴えの取下げに同意したものとみなす。訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは訴えの取下げがあった日から、相手方がその期日に出頭しなかったときは前項の謄本の送達があった日から二週間以内に相手方が異議を述べないときも、同様とする。

・1審係属中にのみ許される。

・任意的当事者変更が認められた場合の効果
原則として、当事者を異にする事件の弁論が併合された場合に準ずる。
事実主張については承継されないが、証拠調べの結果については承継される。


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4-1 当事者 当事者の概念とその意義

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1.当事者概念
当事者とは、
自己の名において訴え、または訴えられることによって、判決の名宛人となる者をいう。

・形式的当事者概念
=当事者を事件の実体の問題とは区別して考える考え方

・実体的当事者概念
=訴訟物である権利義務関係の主体を当事者ととらえる考え方

2.二当事者対立構造
・二当事者対立構造
=民事訴訟が互いに対立する2人の当事者から構成される。

3.当事者権
・当事者権
=当事者の地位にある者に対して訴訟手続上認められている諸権能の総称

・弁論権
=裁判の基礎となる資料を提出する権利
+(口頭弁論の必要性)
第八十七条  当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
2  前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
3  前二項の規定は、特別の定めがある場合には、適用しない。


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3-3 裁判所 裁判官の除斥・忌避・回避

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1.除斥
(1)除斥の意義
除斥とは、
法定の原因がある場合に、裁判官が法律上当然に職務を執行できなくなること。
+(裁判官の除斥)
第二十三条  裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。
一  裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。
二  裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。
三  裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。
四  裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。
五  裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。
六  裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。
2  前項に規定する除斥の原因があるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、除斥の裁判をする。

(2)除斥原因

2.忌避
(1)忌避の意義
忌避とは、法定の除斥原因以外の事由により、裁判の公正を妨げるべき事情がある場合に、当事者の申立てに基づき、裁判によって裁判官を職務執行から排除すること。
+(裁判官の忌避)
第二十四条  裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる
2  当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。

(2)忌避の原因
当該裁判官と、当該事件または当事者との関係からみて、一方当事者が不公平な裁判がされるおそれがあると考えるのももっともだといえる客観的事情。

具体的な事件や当事者と直接関係のない、裁判官の行状、思想、法律上の意見などは忌避の原因に当たらない。

(3)除斥・忌避の裁判
+(除斥又は忌避の裁判)
第二十五条  合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が、決定で、裁判をする。
2  地方裁判所における前項の裁判は、合議体でする。
3  裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができない。
4  除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5  除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(4)訴訟手続きの停止
+(訴訟手続の停止)
第二十六条  除斥又は忌避の申立てがあったときは、その申立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならない。ただし、急速を要する行為については、この限りでない。

3.回避
裁判官が除斥原因や忌避原因があると自ら判断する場合に、自発的に職務執行を避けること


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3-2 管轄

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1.管轄の意義
管轄とは、
特定の事件についてどの裁判所が裁判権を行使するかについての定め

2.管轄の種類
法定管轄
指定管轄
合意管轄
応訴管轄

法定管轄は、当事者の意思や態度によって変更できるかという拘束力の違いにより専属管轄と任意管轄に分けられる

法定管轄の定めは、管轄分割の指標の違いにより、職分管轄、事物管轄、土地管轄にわけられる

(1)管轄の発生根拠

ⅰ)法定管轄
法律の規定により、指定、合意等によらず直ちに特定の裁判所の管轄が生じる。

ⅱ)指定管轄
上級裁判所が決定で定めることによって発生する管轄
+(管轄裁判所の指定)
第十条  管轄裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、その裁判所の直近上級の裁判所は、申立てにより、決定で、管轄裁判所を定める
2  裁判所の管轄区域が明確でないため管轄裁判所が定まらないときは、関係のある裁判所に共通する直近上級の裁判所は、申立てにより、決定で、管轄裁判所を定める。
3  前二項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

ⅲ)合意管轄
当事者の合意によって生じる裁判所の管轄
+(管轄の合意)
第十一条  当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる
2  前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3  第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

・法令に専属管轄の定めがある場合には合意管轄は認められない。
+(専属管轄の場合の適用除外等)
第十三条  第四条第一項、第五条、第六条第二項、第六条の二、第七条及び前二条の規定は、訴えについて法令に専属管轄の定めがある場合には、適用しない
2  特許権等に関する訴えについて、第七条又は前二条の規定によれば第六条第一項各号に定める裁判所が管轄権を有すべき場合には、前項の規定にかかわらず、第七条又は前二条の規定により、その裁判所は、管轄権を有する。

・合意管轄は、専属管轄以外の法定管轄(任意管轄)が当事者間の訴訟追行上の利害の調整や公平を主に考慮して定められているので、当事者双方が合意して法定管轄と異なる管轄を定める場合にはその意思に基づいて管轄を認めることが妥当。

・専属管轄は、公益上の要請に基づいて定められているので、これを当事者の合意で変更することはできない。

・その当事者間の生来のすべての訴訟について管轄を合意するという定めは、訴えを起こされる側(被告)の利益を著しく害し、無効である。

ⅳ)応訴管轄
+(応訴管轄)
第十二条  被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。

・本案とは、請求の理由の有無に関する事項をいう。

(2)専属管轄と任意管轄
・専属管轄
裁判の適正や迅速等の公益上の要請に基づいて、法律がとくにその裁判所のみが管轄権を管轄権を有すると定めている法定管轄であって、当事者の意思や態度によって法律の定めと異なる管轄を生じさせることを許さない趣旨のもの

・任意管轄
主として当事者間の訴訟追行上の利害の調整や公平を図るために定められた法定管轄であり、当事者がその意思や態度によってこれと異なる管轄を定めることができる。

・専属管轄の違反は控訴の理由になる
+(第一審の管轄違いの主張の制限)
第二百九十九条  控訴審においては、当事者は、第一審裁判所が管轄権を有しないことを主張することができないただし、専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)については、この限りでない
2  前項の第一審裁判所が第六条第一項各号に定める裁判所である場合において、当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときは、前項ただし書の規定は、適用しない。

・絶対的上告理由にもなる。
+(上告の理由)
第三百十二条  上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2  上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二  日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三  専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五  口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六  判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3  高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。

・1審が任意管轄に違反していても、訴訟経済の要請から、控訴裁判所はそれを理由に第1審を取り消せない。

(3)管轄分割の指標
ⅰ)職分管轄は、
各種の事件に対する裁判権の作用をどの裁判所の役割とするかの定め

ⅱ)事物管轄は、
第1審裁判所を地方裁判所と簡易裁判所とのいずれにするかの定め
訴訟の目的の価格が140万円以下かどうか

ⅲ)土地管轄とは、
管轄地域が異なる同種の裁判所が同種の職分を分担するための定め。

・普通裁判籍
訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の土地管轄に属する。
+(普通裁判籍による管轄)
第四条  訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2  人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3  大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4  法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5  外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6  国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。

←訴えを起こされる側(被告)の生活の拠点に訴えを起こす側(原告)が出向くことが公平であるとの考慮。

・特別裁判籍
特定の種類の事件について方が認められた裁判籍

特別裁判籍(独立裁判籍)
+(財産権上の訴え等についての管轄)
第五条  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
一  財産権上の訴え
     義務履行地
二  手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え
     手形又は小切手の支払地
三  船員に対する財産権上の訴え
     船舶の船籍の所在地
四  日本国内に住所(法人にあっては、事務所又は営業所。以下この号において同じ。)がない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え
     請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地
五  事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの
     当該事務所又は営業所の所在地
六  船舶所有者その他船舶を利用する者に対する船舶又は航海に関する訴え
     船舶の船籍の所在地
七  船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え
     船舶の所在地
八  会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの
     社団又は財団の普通裁判籍の所在地
イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、社員としての資格に基づくもの
ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基づくもの
ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの
ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員としての資格に基づくもの
九  不法行為に関する訴え
     不法行為があった地
十  船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償の訴え
     損害を受けた船舶が最初に到達した地
十一  海難救助に関する訴え
     海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地
十二  不動産に関する訴え
     不動産の所在地
十三  登記又は登録に関する訴え
     登記又は登録をすべき地
十四  相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え
     相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
十五  相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないもの
     同号に定める地

義務履行地に土地管轄が認められることは、実体法上の持参債務の定め(民法484条、商法516条1項)が広く適用されることと相まって、原告となる債権者の住所、営業所等の所在地で債務者をうったえることが多くの場合に可能となり、被告の普通裁判籍の所在地をもって一般的な土地管轄の根拠とした4条1項の趣旨が損なわれるのではないかという問題。
→被告に不利益が生じて当事者間の衡平を害する場合には、17条に基づく移送によって対処される!!!

・特別裁判籍(関連裁判籍)
+(併合請求における管轄)
第七条  一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る

数人の被告に対する請求に関しては、原告の併合請求をする利益は客観的併合と同様に認められるが、被告のうち1人について管轄があるというだけで、他の被告が住所地から遠く離れた裁判所に訴えられるのでは、その被告の利益を不当に害するのではないかという問題。
→7条ただし書きは、共同訴訟の要件が認められる場合のうち、姓旧相互の関連性が比較的強い38条前段の場合にかぎっって併合請求の裁判籍を肯定。

+(共同訴訟の要件)
第三十八条  訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。

3.管轄の調査
・職権調査事項である
+(職権証拠調べ)
第十四条  裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。

・管轄違いの訴えは却下されるわけではなく、移送の対象となるにとどまる
+(管轄違いの場合の取扱い)
第十六条  裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する
2  地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合は、この限りでない。

4.管轄の標準時
標準時は訴えの提起時である。
+(管轄の標準時)
第十五条  裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。

5.移送
ある裁判所に訴えられた訴訟を、その裁判所の裁判によって、他の裁判所に移すことをいう

(1)管轄違いの場合の移送(16条)

+判例(H20.7.18)
理由
 抗告代理人西尾剛の抗告理由について
 1 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。
 (1) 抗告人は、貸金業者である相手方との間で利息制限法1条1項所定の制限利率を超える利息の約定で金銭の借入れと弁済を繰り返した結果、過払金が発生しており、かつ、相手方は過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして、相手方に対し、不当利得返還請求権に基づく過払金664万3639円及び民法704条前段所定の利息の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を抗告人の住所地を管轄する大阪地方裁判所に提起した。
 (2) 相手方は、抗告人の主張に係る金銭消費貸借契約の契約証書には「訴訟行為については、大阪簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判所とします。」との条項があり、大阪簡易裁判所を専属的管轄とする合意が成立していると主張して、民訴法16条1項に基づき、本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送することを求める申立てをした。
 (3) これに対し、抗告人は、上記専属的管轄の合意の成立及び効力を争った上、本件訴訟においては期限の利益の喪失の有無及び悪意を否定する特段の事情の有無等が争点となることが予想されるから、地方裁判所において審理及び裁判をするのが相当であると主張した。
 2 原々審は、相手方主張の専属的管轄の合意の成立及びその効力が過払金の返還等を求める本件訴訟にも及ぶことを認めた上で、本件訴訟が、その訴額において簡易裁判所の事物管轄に属する訴額をはるかに超えるものであり、その判断にも相当の困難を伴うものであること等を理由に、本件訴訟は、民訴法16条2項本文の適用に当たり地方裁判所において自ら審理及び裁判をする(以下「自庁処理」という。)のが相当と認められるものであるから、相手方の移送申立ては理由がないとして、これを却下する旨の決定をした。
 原審は、専属的管轄の合意により簡易裁判所に専属的管轄が生ずる場合に地方裁判所において自庁処理をするのが相当と認められるのは、上記合意に基づく専属的管轄裁判所への移送を認めることにより訴訟の著しい遅滞を招いたり当事者間の衡平を害することになる事情があるときに限られ、本件訴訟において上記事情があるとはいえないから、地方裁判所において自庁処理をするのが相当とは認められないと判断して、原々決定を取り消し、本件訴訟を大阪簡易裁判所に移送する旨の決定をした。
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民訴法16条2項の規定は、簡易裁判所が少額軽微な民事訴訟について簡易な手続により迅速に紛争を解決することを特色とする裁判所であり(裁判所法33条、民訴法270条参照)、簡易裁判所判事の任命資格が判事のそれよりも緩やかである(裁判所法42条、44条、45条)ことなどを考慮して、地方裁判所において審理及び裁判を受けるという当事者の利益を重視し、地方裁判所に提起された訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属するものであっても、地方裁判所が当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当と判断したときはその判断を尊重する趣旨に基づくもので、自庁処理の相当性の判断は地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。そうすると、地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され、被告から同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合においても、当該訴訟を簡易裁判所に移送すべきか否かは、訴訟の著しい遅滞を避けるためや、当事者間の衡平を図るという観点(民訴法17条参照)からのみではなく、同法16条2項の規定の趣旨にかんがみ、広く当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当であるかどうかという観点から判断されるべきものであり、簡易裁判所への移送の申立てを却下する旨の判断は、自庁処理をする旨の判断と同じく、地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられており、裁量の逸脱、濫用と認められる特段の事情がある場合を除き、違法ということはできないというべきである。このことは、簡易裁判所の管轄が専属的管轄の合意によって生じた場合であっても異なるところはない(同法16条2項ただし書)
 4 以上によれば、原審の前記判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、原々審が本件訴訟の事案の内容に照らして自庁処理を相当と認め、相手方の移送申立てを却下したのは正当であるから、原々決定に対する抗告を棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

(2)遅滞を避ける等ための移送(17条)
裁量移送
当事者の住所、証拠の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、または、当事者間の衡平を図るため必要があること。

(3)簡易裁判所から地方裁判所への裁量移送(18条)
+(簡易裁判所の裁量移送)
第十八条  簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。

(4)必要的移送(19条)
+(必要的移送)
第十九条  第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならないただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をした後にされたものであるときは、この限りでない
2  簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない。ただし、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでない。

(5)移送の裁判
+(即時抗告)
第二十一条  移送の決定及び移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告をすることができる
(移送の裁判の拘束力等)
第二十二条  確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する
2  移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない。
3  移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたものとみなす。


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3-1 裁判所 裁判所の概念

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1.裁判所の意義
・官署としての裁判所
=国法上の意味の裁判所

・裁判機関としての裁判所
=訴訟法上の意味の裁判所
民事訴訟手続を取り扱う場合には受訴裁判所という。

2.裁判体
(1)合議制と単独制
裁判体
=裁判機関としての裁判所の構成

合議制
=裁判体を複数の裁判官で構成する

単独制
=1人の裁判官で構成

(2)合議体の構成、裁判長の権限等
裁判長が行使すべき権限は、合議体の代表者としての権限と、裁判長が合議体から独立して行使する権限とに分けられる。
前者については、当事者の異議に基づく合議体の裁判によって裁判長の行為の効果が覆されることがある。

(3)受命裁判官・受託裁判官
受命裁判官
=合議制の場合、法定の事項の処理を構成員である一部の裁判官に委任することができ、委任を受けた裁判官を受命裁判官という。

受託裁判官
=受訴裁判所は、裁判所間の共助に基づき、他の裁判所に法定の事項の処理を委託することができ、その処理を担当する裁判官を受託裁判官という

3.裁判官の種類

4.裁判所書記官等
・固有の権限
送達に関する事務(98条2項)
口頭弁論調書の作成(160条1項)
訴訟費用の負担額の確定(71条1項)

5.専門委員
+(専門委員の関与)
第九十二条の二  裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の説明は、裁判長が書面により又は口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日において口頭でさせなければならない。
2  裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる
3  裁判所は、和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことができる和解を試みる期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

(音声の送受信による通話の方法による専門委員の関与)
第九十二条の三  裁判所は、前条各項の規定により専門委員を手続に関与させる場合において、専門委員が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、同条各項の期日において、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が専門委員との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、専門委員に同条各項の説明又は発問をさせることができる。

(専門委員の関与の決定の取消し)
第九十二条の四  裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、専門委員を手続に関与させる決定を取り消すことができる。ただし、当事者双方の申立てがあるときは、これを取り消さなければならない


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民法818条 親権者

民法818条 親権者


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(親権者)
第八百十八条  成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2  子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う

・親権とは、父母の養育者としての地位・職分から出てくる権利義務の総称。

・親権の内容として、
子の監護教育(身上監護権)
子の財産管理(財産管理権)
経済的扶養

・父母の一方が死亡し、又は失踪宣告を受けその他親権を行使できなくなったときは、他方が単独で親権者となる。

・非嫡出子の親権は母だけが行う。

・未成年者が養子になると、実父母の親権を脱して養親の親権に服する(818条2項)
養親にも共同親権の原則(818条3項)が妥当する。

・養父母双方が死亡したときは、実親の親権は回復せず、後見が開始する!!!!!

・養父母双方と離縁すれば、死亡と異なり、実父母の親権が回復する!!!!

・行為能力者でなければ親権者になれない!
←親権は子の身分上及び財産上の広い権限を含むため
→被保佐人の親権能力を否定。

・親が未成年者のときは、未成年者の親権者又は未成年後見人が親権をおこなう(833条、867条)。

・親が成年後見人のときは、後見人が選任される(838条2号)

・親権は父母の婚姻中は父母が共同して行う
=夫婦の協議や家庭裁判所の許可によっても一方の者を親権者とすることはできない。

・夫婦の一方が単独名義で法律行為を行う場合でも、他方の同意があれば共同親権の原則に反しない。

・母の婚姻中その子が母の夫から認知を受け、認知準正(789条)が生じた場合にも、親権共同行使の原則が適用される!

・父が認知した子は、その父母が婚姻することにより嫡出子の身分を取得する(婚姻準正789条1項)が、それによって父が当然に親権を得るわけではない!!!!!!

・共同親権を有する父母の婚姻が破綻して別居状態にあるときは、家庭裁判所は離婚後の子の監護に関する場合と同様、子と同居していない親権者とことの面接交渉について相当な処分を命じることができる!
+判例(H12.5.1)
理由
 抗告代理人樋口明男、同大脇久和、同太田吉彦の抗告理由について
 父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行い、親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うものであり(民法八一八条三項、八二〇条)、婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容であるということができる。そして、【要旨】別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法七六六条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である。そうすると、原審の判断は、右と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)

・幼児引渡請求を認める判決は憲法13条の個人の尊厳を侵害するとはいえない。
判例(S38.9.17)
理由
 上告代理人原田勇、同窪田・、同細田貞夫、同桂川達郎、同鈴木巖の上告理由第一点(一)について。
 原判決の引用する一審判決が、Aと被告(上告人)ら夫婦の間には、右Aの法定代理人である原告(被上告人)の代諾のもとに養子縁組の話がまとまつた上、原被告間に被告がAを引取り養育する旨の合意成立し、之に基づき被告はAを引取り養育しているのであつて、Aは被告の事実上の養子である旨の被告の主張は認められない旨認定したことは、挙示の証拠関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
 同点(二)について。
 原判決並びにこれに引用する一審判決の所論判示は、その挙示する証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところである。所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提として、原判決を非難するに帰し、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。
 同第二点(一)乃至(三)について。
 しかし、本件請求は、被上告人が右Aに対する親権を行使するにつき、これを妨害することの排除を、上告人に対し求めるものであつて、本件請求を認容する判決によつて、被上告人の親権行使に対する妨害が排除せられるとしても、右Aに対し被上告人の支配下に入ることを強制し得るものではなく、これは右Aが自ら居所を定める意思能力を有すると否とに関係のない事項であつて、憲法一三条の個人の尊重とも何ら関係のないものである。また原判決は右判決の強制執行の方法として民訴七三〇条の動産引渡請求権の執行方法によるべき旨を判示しているわけではなく、そのような強制執行があつたわけでもない。所論は、いずれもその前提を欠き採るを得ない。
 同第三点について。
 原審は所論証人Bの尋問は実施しているのであつてこの点の主張は前提を欠くものであり(同証人に対する一審の訴訟手続違背の主張は、上告適法の理由とならない。)、証人Aについては当事者よりその証拠調申請がないのであるから、原審がこれが取調べをなさなかつたことは当然である。また上告人夫婦(上告人C、証人D)については、当事者の申出た証拠方法については、それが唯一の証拠方法である場合を除き、審理の経過から見て必要がないと認めるときは、その取調べを要しないものであるところ(最高裁判所昭和二四年(オ)第九三号、同二七年一二月二五日第一小法廷判決、民集六巻一二号一二四〇頁参照)、本件記録によれば、右両名については一審において既に同一立証事項について証拠調が実施され、右口頭弁論の結果は原審において陳述されており、原審における右両名の承拠調申請は唯一の証拠方法ではないことが明らかであるから、原審が右両名の証拠調をしなかつたとしても、原審の措置に何らの違法は存しない。原判決に所論の違法は存せず、論旨はすべて採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

・人身保護法による幼児引渡請求が認められるためには、拘束者の監護のもとにおかれるよりも、請求者の監護のもとにおかれることの方が幼児の幸福に適することが明白であることを要する。
+判例(H6.4.26)
理由
  上告代理人高田良爾の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人(拘束者)と被上告人(請求者)とは、昭和五六年一二月二五日に婚姻し、同人らの間には、同五九年一二月二六日被拘束者Aが、同六二年二月二六日被拘束者Bがそれぞれ出生した。被上告人は、昭和六二年三月七日にくも膜下出血で倒れ、病院を退院後、翌六三年三月中ごろ自宅に戻ったが、右疾病により身体障害者障害程度等級表上二級に相当する右上下肢不全麻ひ及び失語症の障害が残った。被上告人は、上告人が家事等について協力してくれないことに不満を持ち、次第に上告人との仲が円満を欠くようになり、平成五年三月三一日、被拘束者らを連れて、枚方市の両親宅(被上告人肩書地)に帰った。
 ところが、上告人は、平成五年一一月二七日、被拘束者らが通学する小学校付近で、登校してきた同人らを車に同乗させ、大阪市西成区の上告人宅(上告人肩書地)に連れて行き、以後、同人らと生活している。
 2 上告人は、歯科技工士を職業とし、自宅内で仕事をすることが可能であるところ、上告人宅の近くに理髪店を営む義父と実母夫婦が居住しているが、被拘束者らの日常生活の面倒を実母にみてもらっている。被拘束者らは、上告人宅に移った後、近くの小学校に通うようになったが、普通の生活を送っている。
 3 被上告人は、いずれも小学校の教諭を定年退職した両親宅に居住し、身体障害者として年金を受給しており、また、両親の援助協力を受けることが将来とも可能であるほか、付近に居住する被上告人の実弟夫婦の協力も得られる。右両親宅は、その居住空間も広く、被上告人の入院期間中に被拘束者らが引き取られていたところでもあり、同人らにとってなじみのあるところである。同人らは気管支ぜん息にかかっているが、右被上告人の両親宅に移ってからはその発作が軽減し、病状が改善された。
 4 上告人、被上告人とも、被拘束者らに対する愛情に欠けるところはない。
 二 原審は、右事実関係の下において、(一)被拘束者らは被上告人の両親宅に移ってから地元の小学校に通学し、教育上十分に配慮の行き届いた安定した生活を送っていたところ、上告人宅に移るとこれらがすべて失われること、(二)被拘束者らの気管支ぜん息が被上告人の両親宅への転地により改善されたが、上告人宅のある地域は、環境的には被拘束者らの気管支ぜん息を悪化させるおそれがあること、(三)被拘束者らは幼女であって母親である被上告人の監護を欠くことは適当でないことを考慮すると、被拘束者らが上告人の監護の下に置かれるよりも被上告人の監護の下に置かれる方がその幸福に適すること、すなわち、被拘束者が上告人の監護の下に置かれる方が被上告人の監護の下に置かれるよりもその幸福に反することが明白であるとし、上告人による被拘束者らの監護・拘束は、人身保護規則四条にいう権限なしにされた違法なものに当たるとの判断に立って、被上告人の本件人身保護請求を認容した。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 夫婦の一方(請求者)が他方(拘束者)に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求した場合において、拘束者による幼児に対する監護・拘束が権限なしにされていることが顕著である(人身保護規則四条)ということができるためには、右幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者の監護の下に置かれることが子の幸福に適することが明白であること、いいかえれば、拘束者が幼児を監護することが、請求者による監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要すると解される(最高裁平成五年(オ)第六〇九号同年一〇月一九日第三小法廷判決・民集四七巻八号五〇九九頁)。そして、請求者であると拘束者であるとを問わず、夫婦のいずれか一方による幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情のない限り適法であることを考えると、右の要件を満たす場合としては、拘束者に対し、家事審判規則五二条の二又は五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが、更には、また、幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべきである。
 これを本件についてみるのに、前記の事実関係によると、原判決が判示する前記二(二)の事情は、被拘束者らが上告人の下で監護されると、環境的にみてその気管支ぜん息を悪化させるおそれがあるというにとどまり、具体的にその健康が害されるというものではなく、また、その余の事情も被拘束者らの幸福にとって相対的な影響を持つものにすぎないところ、上告人、被上告人とも、被拘束者らに対する愛情に欠けるところはなく、被拘束者らは上告人の監護の下にあっても、学童として支障のない生活を送っているというのであるから、被拘束者らの上告人による監護が、被上告人によるそれに比してその幸福に反することが明白であるということはできない。結局、原審は、被拘束者らにとっては上告人の下で監護されるより被上告人の下で監護される方が幸福であることが明白であるとはしているものの、その内容は単に相対的な優劣を論定しているにとどまるのであって、その結果、原審の判断には、人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 四 以上によれば、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、前記確定事実を前提とする限り、被上告人の本件請求はこれを失当とすべきところ、本件については、幼児である被拘束者らの法廷への出頭を確保する必要があり、この点をも考慮すると、前記説示するところに従い、原審において改めて審理判断させるのを相当と認め、これを原審に差し戻すこととする。
 よって、人身保護規則四六条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

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刑法94条 中立命令違反

刑法94条 中立命令違反

(中立命令違反)
第九十四条  外国が交戦している際に、局外中立に関する命令に違反した者は、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

・国際紛争の原因を作り、我が国の国際関係的地位を危うくすることを禁止する規定。

・本条は、現行刑法典唯一の白地刑罰法規である。
どのような行為が中立命令違反となるかは、その行為時に発令されている局外中立命令の内容次第である。

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刑法93条 私戦予備及び陰謀

刑法93条 私戦予備及び陰謀

(私戦予備及び陰謀)
第九十三条  外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。

・本条は目的犯である。

・私的に外国に武力を行使することにより、我が国の外交関係を悪化させたり、我が国の国際関係上の地位や国家の存立を危うくすることを禁止する規定。

・現行刑法は、私戦予備・陰謀だけを処罰対象としており、それが実行に移された場合(=私戦の未遂既遂)につき、規定はない。

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刑法92条 外国国章損壊等

刑法92条 外国国章損壊等

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(外国国章損壊等)
第九十二条  外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

・国家の外交作用を保護法益としている。

・本条は目的犯である。

・「損壊」とは
国章自体を破壊または毀損する方法によって、外国の威信尊厳表徴の効用を減失または減少せしめること

・「除去」とは
国章自体を損壊することなく場所的に移転する場合のほか
一時的のものでない遮蔽等の方法により、国章が現に所在する場所において果たしている威信尊厳表徴の効用を減失または減少せしめることをいう。

・「汚損」とは
人に嫌悪の感を抱かせる物を付着または付置して国章自体に対して嫌悪の感を抱かせる方法により、上記効用を減失または減少させることをいう。

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