4-3 当事者 当事者に関する能力

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.実体法との関係
・訴訟法上の各種の能力は、基本的には実体法上の各種の能力に準ずる形で規律される。

・実体法上の法律関係においては、権利義務の主体となり得る資格として権利能力が要求され、さらに、法律行為を自ら有効に行うための要件として、意思能力および行為能力が要求される。
訴訟上も基本的には同様の能力が必要。

2.当事者能力
・当事者能力とは、
民事訴訟の当事者として本案判決の名宛人となることのできる一般的な資格をいう。

・基本的には実体法上の権利能力に対応する概念

・当事者能力の判断は、基本的には実体法上の権利能力の有無の判断に準じて行われる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

胎児・外国人・法人格の認められる団体など。

・民訴法は、実体法上は権利能力を認められない者についても、一定の要件を満たすものについては、独自の観点から当事者能力を認めている。
+(法人でない社団等の当事者能力)
第二十九条  法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

3.訴訟能力
(1)訴訟能力の意義
訴訟能力とは、
単独で有効に訴訟行為をし、または受けるために必要な能力をいう。
実体法上の行為能力に対応する。

(2)訴訟能力が認められる者
・民法上完全な行為能力が認められる者については、訴訟能力もまた認められる。
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

(3)訴訟能力が要求される行為の範囲
・証人として証言する場合、あるいは、当事者尋問において当事者本人として陳述する場合には訴訟能力は必要ではない。
←陳述の内容が裁判所の事実認定の資料となるにすぎず、陳述という行為に何らかの訴訟上の効果が直ちに結びつくわけではないため。

・訴訟代理人として他人のために訴訟行為をする場合にも、訴訟能力は要求されない。
←訴訟行為の効果が係属するのはあくまで本人である訴訟当事者であり、訴訟代理人ではないため、その効果を否定することによって行為者を保護する必要に乏しい。
そのような者を代理人として選任すること自体は原則として当事者の自由。

(4)訴訟能力欠缺の効果
訴訟能力を欠いた者のした訴訟行為は、はじめから無効とされる。
←訴訟は実体法上の取引と異なり、多くの訴訟行為が積み重なって進んでいくという性格を持つことから、実体法上の取引以上に法的安定性が要求されるため。

・訴訟能力の欠缺が発見された場合においても、その瑕疵を当事者に治癒させる余地を認めている。
+(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる
3  前二項の規定は、選定当事者が訴訟行為をする場合について準用する。

・訴訟能力者に有利なもののみ追認し、不利なものの追認を拒むことは許されない。
←それまでの手続が不可分一体のものであるから。
追認者の恣意的な判断で相手方当事者の地位を害すべき理由はないから。

・当事者が訴訟能力を喪失した場合
+(訴訟手続の中断及び受継)
第百二十四条  次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一  当事者の死亡
     相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
二  当事者である法人の合併による消滅
     合併によって設立された法人又は合併後存続する法人
三  当事者の訴訟能力の喪失又は法定代理人の死亡若しくは代理権の消滅
     法定代理人又は訴訟能力を有するに至った当事者
四  次のイからハまでに掲げる者の信託に関する任務の終了 当該イからハまでに定める者
イ 当事者である受託者 新たな受託者又は信託財産管理者若しくは信託財産法人管理人
ロ 当事者である信託財産管理者又は信託財産法人管理人 新たな受託者又は新たな信託財産管理者若しくは新たな信託財産法人管理人
ハ 当事者である信託管理人 受益者又は新たな信託管理人
五  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの死亡その他の事由による資格の喪失
     同一の資格を有する者
六  選定当事者の全員の死亡その他の事由による資格の喪失
     選定者の全員又は新たな選定当事者
2  前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない
3  第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
4  第一項第二号の規定は、合併をもって相手方に対抗することができない場合には、適用しない。
5  第一項第三号の法定代理人が保佐人又は補助人である場合にあっては、同号の規定は、次に掲げるときには、適用しない。
一  被保佐人又は被補助人が訴訟行為をすることについて保佐人又は補助人の同意を得ることを要しないとき。
二  被保佐人又は被補助人が前号に規定する同意を得ることを要する場合において、その同意を得ているとき。

(5)訴訟要件としての当事者能力
・訴訟係属自体を基礎付ける訴訟行為について訴訟能力を欠く場合には、当該訴訟行為が無効になる結果、その訴え自体が不適法となることがある。
=訴訟要件としても機能

・却下判決については、訴訟無能力者または制限的訴訟能力者が自らの訴訟能力を主張して上訴することができる。
→上訴の不適法却下ではなく、上訴棄却の判決をする。

・訴えが訴訟能力の欠缺により不適法であることを看過して訴訟無能力者または制限行為能力者敗訴の本案判決がなされた場合においても、上訴または再審により判決の取り消しを求めることができる。

4.未成年者
+(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

←訴訟行為の効力を法定代理人による同意の有無に係らしめると手続の円滑な進行を阻害するおそれがあること、また、訴訟手続きは実体法上の法律行為よりも専門性や技術性が高く、未成年者を保護する必要性も大きいことから。

・婚姻や認知など、人の身分の変動をもたらす行為については、通常の財産関係と比較して、本人の意思を尊重する必要性が大きいことから、民法上、行為能力の規定は適用されない。

5.成年被後見人
人事訴訟においては民事訴訟法31条の規定は除外(人事訴訟法13条1項)
だとしても、成年被後見人が自ら有効に訴訟行為をするためには意思能力を備えていることが必要になるが・・・

6.被保佐人および被補助人
(1)保佐人等の同意による訴訟行為

・民法
+(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条  被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四  訴訟行為をすること
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3  保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

+(補助人の同意を要する旨の審判等)
第十七条  家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができるただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る
2  本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3  補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
4  補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

・民事訴訟法
+(原則)
第二十八条  当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

・訴訟行為の場合には、同意の欠缺の効果は、訴訟無能力の場合と同様に、当該行為の無効(取消しではない)!!!

・保佐人等による同意は、個々の訴訟行為に対するものではなく、少なくとも当該審級における手続の全体にわたる包括的なものでなければならない。

(2)同意が不要な場合
+(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)
第三十二条  被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない
2  被保佐人、被補助人又は後見人その他の法定代理人が次に掲げる訴訟行為をするには、特別の授権がなければならない。
一  訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
二  控訴、上告又は第三百十八条第一項の申立ての取下げ
三  第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意

←相手方当事者の裁判を受ける権利を不当に害する可能性が生じるから。

7.意思無能力者
意思能力とは、
自己の行為の法的な効果を認識判断することができる能力。

意思能力を欠いたままでされた法律行為は、もはや行為者の自由な意思決定によるものと評価することができず、私的自治の原則を適用するための前提を欠くことから民法上無効とされる!!
同様の考慮は訴訟行為についても妥当。
→行為の時点において意思能力を欠いていた場合には無効。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

刑事訴訟法 事例演習刑事訴訟法 18 法律上の推定


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
1.挙証責任の所在
・実質的挙証責任
一定の法的効果の発生如何を左右する事実の存在・不存在が自由心証のもとではいずれとも積極的に認定できない場合に、不利益を受ける当事者の地位。

・形式的挙証責任
訴訟の経過に応じて両当事者間を移動。

・利益原則
+判例(S50.5.20)
理由
(抗告趣意に対する判断)
弁護人杉之原舜一ら連名の抗告趣意第一、第三、第四について所論は、申立人提出の所論証拠弾丸に関する証拠が、いまだ刑訴法四三五条六号所定の再審理由にあたるものではないとした原決定の判断を論難する事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、同法四三三条所定の適法な抗告理由にあたらない。
同抗告趣意第二について
所論は、申立人の本件再審請求が刑訴法四三五条一号、二号、四三七条所定の再審理由のある場合にあたるとして、原決定の違憲(憲法三一条、三七条違反)をいうが、記録によると、申立人の本件再審請求は、刑訴法四三五条六号所定の再審理由にあたる事実があるものとしてなされたことが朋らかであるところ、再審請求受理裁判所は、再審請求の理由の有無を判断するにあたり、再審請求者の主張する事実に拘束され、原裁判所も右再審請求受理裁判所の判断の当否について審査することができるにとどまるから、右の事実以外のあらたな事実を主張して原決定の判断を論難することは許されないものというべく、結局、所論は、原決定の説示に副わない事実を前提として原決定の違憲を主張するものに帰し、同法四三三条所定の適法な抗告理由にあたらない。
同抗告趣意第五について
所論のうち、違憲(憲法三一条違反)をいう点は、その実質は、すべて事実誤認、単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、いずれも刑訴法四三三条所定の適法な抗告理由にあたらない。
なお、同法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり、この判断忙際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである。
この見地に立つて本件をみると、原決定の説示中には措辞妥当を欠く部分もあるが、その真意が申立人に無罪の立証責任を負担させる趣旨のものでないことは、その説示全体に照らし明らかであつて、申立人提出の所論証拠弾丸に関する証拠が前述の明らかな証拠にあたらないものとした原決定の判断は、その結論において正当として首肯することができる。申立人本人の抗告趣意について所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四三三条所定の適法な抗告理由にあたらない。
(原決定の結論を正当と認める理由)なお、弁護人及び申立人の所論にかんがみ、当審が原決定の判断はその結論において正当として首肯することができるものとする理由を付言すれば、以下のとおりである。
一 所論は、要するに、申立人が本件再審請求にあたり提出し原決定において新規性があるものとされた証拠、すなわち、発射弾丸の腐食実験に関する鑑定書、所論証拠弾丸の綫痕の幅、角度、キズ等の比較対照・測定に関する鑑定書等(以下「新証拠」という。)によれば、原確定判決(以下「原判決」という。)が有罪認定の証拠として挙示する二個の弾丸(札幌高等裁判所昭和三二年領第八八号の証二〇七号及び同二〇八号の各弾丸、以下「証拠弾丸」一という。)の腐食状況からして、その証拠弾丸が発見押収されるまで一九箇月または二七箇月もの長期間にわたり札幌市郊外幌見峠滝ノ沢山中の土中に埋没していたものとは認められず、また、a課長の体内から摘出された弾丸(前回領号の証二〇六号の弾丸、以下「摘出弾丸」という。)と証拠弾丸とを比較すると、両者は、そり綫丘痕等の状況からして、同一の拳銃から発射されたものとは認められないにもかかわらず、原判決は、これに反する認定をしたのに対し、原決定は、これらの点に関し、新証拠である右鑑定書等の見解に従つて判断したものであるから、結局、原決定は、証拠弾丸が捜査機関によつて偽造されたものであることを承認しながら、一方におやて原判決の事実認定において証拠弾丸の占める重要性を不当に過小評価し、結論として新証拠が刑訴法四三五条六号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(以下「証拠の明白性」という。)にあたらないとしたのは、不当であるというのである。
なるほど、原決定は、申立人提出の新証拠に基づき、証拠弾丸が「一九月ないし二七月幌見峠の土中に埋没していた可能性は、絶無であるかどうかは別としてきわめて小さくなつたと考えられる」とし、また、証拠弾丸と摘出弾丸とが「同一の拳銃から発射されたことについては、その可能性が絶無であるかどうかは別として、少くとも大きな疑問を生じたといわなければならない」と説示している。
しかし、原決定は、右説示に引き続き、「前記二点が完全に否定されるかどうかは、しばらくこれを措くとし、かりに右二点を消極に解した場合、それが原確定判決の認定に、どのような影響を与えることとなるかとの観点から、検討を進めることとする」として、証拠弾丸の長期埋没の可能性及び三弾丸の発射拳銃の同一性の可能性をいずれも否定した場合における原判決の証拠関係を検討した結果、原判決の有罪認定はこれを覆すに足りず、申立人提出の新証拠は、いまだ証拠の明白性の要件を具備するものではないとの結論に到達しているのであつて、このことは、原決定の説示に照らし明らかなところである。したがつて、原決定は、所論が主張するように、証拠弾丸の証拠価値を完全に否定し、証拠弾丸が前記幌見峠の山中に長期間埋没していたものとは認められないとか、また、証拠弾丸と摘出弾丸とが同一拳銃から発射されたものとは認められないとか、ひいては証拠弾丸が捜査機関によつて偽造されたものであるなどと断定しているものでないことが明らかであるから、原決定は証拠弾丸が偽造されたものである旨を認定したとの前提に立つて原決定を論難する所論は、その前提自体において失当というほかはない。
二 ところで、申立人は、本件再審請求の審理の過程で、証拠弾丸に関する新証拠を多数提出しており、その中でも下平三郎教授らの弾丸の応力腐食割れに関する実験結果についての新証拠(とくに、証二九号、証三〇号)は、科学的根拠のあるものとして尊重すべきものと認められる。もつとも、合成金属の応力腐食割れ現象が環境条件によつて大きく左右されることは、一般に承認されているところであり、下平教授らのした右実験の際の環境条件と証拠弾丸が発見押収されるまでの環境条件とが全く同一であつたという保障はないのであるから(記録によると、右実験は、証拠弾丸の発見当時の埋没状態と同一の状態を実験期間中保守してなされたものであるが、証拠弾丸が発見当時と終始同一の埋没状態にあつたという保障はなく、また、証拠弾丸の発見場所は、右実験当時、既に石材採取場となつていて、現場実験を行うことができないので、右実験は証拠弾丸の発見された場所から少し上方の場所で行われたことが明らかである。)、右実験結果がそのまま直ちに本件証拠弾丸にあてはまるとするには疑問が残るとしなければならない。しかし、この点の疑問を考慮に入れても、原決定の説示するとおり、証拠弾丸の証拠価値が「原判決当時に比べ大幅に減退したと言わざるを得ない」のであるとするならば、それが原判決の証拠判断に影響を及ぼす可能性のあることは否定しがたいところである。すなわち、原判決は、有罪認定の証拠として多数の関係証拠とともに証拠弾丸を挙示しており、一般に、総合認定における各証拠は、相互に関連するものとして裁判官の心証形成に作用するものであるから、証拠弾丸の証拠価値が原判決当時に比べ大幅に減退したことを前提とするかぎり、単に証拠弾丸の証拠価値の低下という問題にとどまらず、証拠弾丸と相互に関連する他の証拠の信憑性に影響を及ぼすことのありうるのはもとより、証拠弾丸の証拠価値の低下の反射的効果ないしこれと相互関係にあるものとして、証拠弾丸に関し第三者の作為ひいては不公正な捜査の介在に対する疑念が生じうることも否定しがたいといわなければならない(しかし、それはあくまでも疑念にとどまるものであつて、それ以上に出るものではない。)。刑訴法四三五条六号の運用は、同条一号、七号等との権衡を考えて同条全体の総合的理解の上に立つてなされるべきものであり、したがつて、もし、かりに右のような疑念があるとすれば、新証拠と他の全証拠との総合的な評価により原判決の認定に合理的な疑いを生じることになるかどうかを判断するにあたつて、このことを充分に念頭に置き、とくに厳密な審査を加えることを要するものといわなければならない。そこで、右のような見地に立つて、原決定の当否を審査することとする。
三 証拠弾丸の証拠価値の変動が他の証拠の信憑性にどのような影響を及ぼし、ひいては原判決の事実認定にどのような影響を及ぼすことになるかを検討するにあたつては、何よりもまず、原判決の有罪認定とその証拠関係の中で、証拠弾丸が有罪認定の証拠としてどのような位置を占め、裁判官の心証形成上どの程度の比重をもつものであるかを明らかにすることが必要である。そこで、原判決の有罪認定とその証拠関係を見ると、その骨子は次のとおりである。
(一)申立人が本件再審請求の対象とする事実は、原判決が引用する第一審判決(以下「第一審判決」という。)判示第二の(七)の事実、すなわち、原決定が要約するとおり、「昭和二七年一月申立人bがc、dらとa警備課長の殺害を共謀し、dらをしてa課長の動静調査を行なわせ、その間dを殺害の実行担当者に選び・ブローニンダ拳銃を携行させ、a課長殺害の企図実現に努めるうお、同月二一日午後七時四二分ころdにおいて、札幌市ab丁目c(原決定に「三輪」とあるは誤記と認める。)方前附近で、所携のブローニング拳銃を二発発射してa課長を殺害したしという事案(以下「要証事実という。)である。また、第一審判決は、右要証事実に関連する事実の一つとして、申立人が昭和二六年一〇月ごcら共謀のうえ、eを介してブローング拳銃一丁及びその実包約一〇〇発を入手して保管していたとの事実(第一審判決判示第二の(二)の(2)の(イ)の事実)を認定しており、原判決及びその引用する第一審判決は、申立人らが入手し保管していた拳銃とdがa課長の殺害に使用した拳銃とは同一拳銃であるという趣旨り認定をしていることが、その説示に照らし一て明らかである。(二)ところで、第一審判決は、要証事実の認定資料として多数の証拠を挙示しているが、その補足説明において、要証事実を推認ずるための間接事実として二七箇の事実を認定し(原判決が除外した事実を除く。)、各事実につき関係証拠を挙
示している。すなわち、(A) 証拠弾丸に直接関係する間捧事実として「fらがブローニング拳銃の射撃訓練をした場所から発見された二個の弾丸とa課長の体内より発見された弾丸は、いずれも公称口径七・六五粍ブローニング自動装填式拳銃または同型式の腔綫を有する拳銃より発射されたものと認められること、右の三弾丸の綫条痕には極めて類似する一致点が存すること」との事実を認定し、その証拠として、証拠弾丸、摘出弾丸、証拠弾丸の発見差押に関する捜索差押調書、各弾丸の綫条痕の類似性に関するg作成の鑑定書、第一審裁判所の証人gに対する尋問調書等を挙示している。(B) 他方、h、f、iの第一審公判廷における各証言(以下、公判廷における証言は、便宜上「公判証言」と略称する。)を中心として、j、k、lの各公判証言、m、n、oの検察官に対する各供述調書(以下、検察官に対する供述調書は、便宜上「検察官調書」と略称する。)(以上の供述者は、いずれも事件当時p党関係者である。)等を証拠として、その余の間接事実を認定しているが、その中で注目すべきものを摘記すると、(1) 当時a課長は、p党員から弾圧者として敵視されていたこと、(2) 申立人は、昭和二六年一二月下旬幹部教育の席上、「aは、もう殺してもいいやつだな。」と述べていたこと、(3) hは同月一下旬ブローニング拳銃を携行しているcに会つた際、同人が「年末警戒で警察官も出ているし、何か言つたら一発ぶつ致してやるんだ。」などと言つたので、その二、三日後申立人に会つてその話をしたところ、申立人は、「全党に模範を示すんだろう。警察官の一人や二人やつたたて浮かないさ。」「p党を名乗つて堂々とaを襲撃しようか。」などと言つていたこと、(4) 申立人は、同月末fら中核自衛隊員に対し、いわゆる坐込み事件を契機とするq市長宅、r検事宅への投石等の闘争を指示した際、a課長は警察官でもあるし、年が明けてから慎重に計画し徹底的にやる旨述べていたこと(ちなみに、右坐込み事件とは、第一審判決の認定したところによると、昭和二六年一二月二七日s労働組合所属の日傭労務者らが札幌市役所において札幌市長qに対し「餅代よこせ」などと要求して坐り込み、これに参加したp党員らが住居侵入により同市警察本部警備課長aの指揮する警察官に検挙された事件を指し、申立人は、これを不当弾圧であるとして、右事件の責任者であるq市長、取調べに当つた札幌地方検察庁検事t及び右a課長を目標として反撃し、いわゆる反フアツシヨ闘争を開始することを企て、中核自衛隊員らと共謀のうえ、同月二九日及び三一日q市長、r検事の各居宅の玄関ガラス等に石、コンクリート塊等を投げつけ、これを投棄したとされており、この事実は、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条一項〔当時の規定〕の罪として、有罪が確定している。第一審判決判示第二の(四)の事案参照)、(5) 申立人は、昭和二七年一月四日fら中核自衛隊員に対し、a課長に対する攻撃は拳銃をもつてやる旨を告げ、そのため直ちにその動静を調査するよう指示し、その日からa課長の動静調査が開始されたこと、(6) 右動静調査開始後一両日中にdがfらの調査活動に加わつたこと、(7) 同月中旬dは路上でa課長と遭遇し、これを射殺すべく所携のブローニング拳銃の引金を引いたが発射しなかつたため、未遂に終つたこと、(8) 申立人は、dのa課長殺害未遂の事実を知つており、後にこれをhに語つていたヒと、(9) dも拳銃の射撃訓練を行つたことがあり、同月初旬ごろ二回にわたり、hに対し、a課長は生かしておく必要がない旨を語つていたこと、(10) dは、同月二一日のa事件に近いころ、自宅においてブローニング拳銃を所持していたこと、(11) dは、同月二二日ごろuに対し、a課長の殺害犯人は自分である旨打ち明け、犯行の状況を詳細に説明していたこと、(12) 申立人は、hに対し、a課長を射殺したのはdである旨を語つていたこと、(13) 事件の翌日の同月二二日午前、fが北大寮の一室を訪ねた際、申立人がいわゆる天誅ビラの原稿を書いていたこと、(14) 申立人は、右ビラを印刷させこれを札幌市内に頒布させたが、右ビラには、「見よ天誅遂に下る!」「sの凶敵!a市警課長の醜い末路こそ全フアシスト官憲共の落ちゆく運命である」との見出しのもとに、「人も知る悪名高いフアシストの親分!a市警課長が殺されたことは、彼がながいあいだ権力をかさにきて悪行のかぎりをつくしてきたことからみてあまりにも当然のことである。、(中略)aはこのような市民弾圧の総指揮官であり(中略)
四 右に検討した原判決及びその引用する第一審判決の基礎となつた証拠関係から明らかなとおり、原判決は、証拠弾丸及びこれに関連するその他の証拠により前記三(二)(A)の間接事実を認定するとともに、他方、証拠弾丸を除くその余の証拠、殊にh、f、iを中心とする当時のp党関係者らの公判証言等により前記三(二)(B)の(1)ないし(19)の事実を含む合計二六個の間接事実を認定しているが、このうち前者は要証事実との関係においては直接の関連性に乏しく、せいぜい保管拳銃と凶器拳銃との同一性を推断するための一つの間接事実にすぎないのに反し、後者の二六個の間接事実は、いずれも多義的に解釈される余地のあるものではなく、相互に密接に関連しながら一義的に要証事実と結びつくものであり、決して証明力が弱いかまたは充分でない情況証拠を漫然と量的に積み重ねたにすぎないものではないのである。このように、まず、原判決の基礎となつた証拠関係に占める証拠弾丸の位置という見地から全般的に考察するかぎり、原判決の認定は証拠弾丸に依拠しているものではなく、かりに原決定の説示するとおり、証拠弾丸の証拠価値が原判決当時に比べ大幅に減退しそのために前記三(二)(A)の間接事実の認定に動揺を来たすとしても、これによつて直ちに原判決のその余の間接事実の認定、ひいては要証事実の認定に合理的な疑いが生じる関係にあるものでないことは明らかである。そこで、このことを前提としながら、さらに個々の部分に立ち入つて検討することにする。(1) 他の証拠の信憑性への影響についてもとより、新証拠を他の全証拠から切り離し、新証拠のみに基づいて原判決の有罪認定が動揺するかどうかを判断すべきでないことは、既に説示したとおりであるが、同時にまた、証拠弾丸の証拠価値の変動による他の証拠の信憑性への影響を厳密に審査しなくてはならない。(イ)f証言への影響について既に明らかにした原判決の証拠関係からすれば、原決定の説示するとおり、証拠弾丸の腐食状況から、証拠弾丸が「一九月ないし二七月幌見峠の土中に埋没していた可能性は、きわめて小さくなつた」とすると、何よりもまず、証拠弾丸の発見きれた場所で拳銃の射撃訓練をしたというfの公判証言の信憑性、ひいては原判決の要証事実認定の上で重要な証拠とされている同人の証言全般の信憑性が、問題となりうるであろう。しかし、fは、拳銃の射撃訓練に関し、同時に手りゆう弾の爆発実験をも行つた旨の証言をしており、これを裏付ける物的証拠く前回領号の証一号、領置にかかる不発の手りゆう弾)がある等、原決定の詳しく説示する理由により、同人の公判証言全般について、証拠弾丸の証拠価値の変動を充分考慮に入れても、なおその証言の信憑性を否定しがたいとした原決定の判断は、正当として是認することができる。(ロ)その他の証言等への影響について次に、原決定の判断に従い、証拠弾丸の証拠価値に大幅な変動があつたことを前提として、証拠弾丸と直接関連する証拠ではないが要証事実についての原判決の認定の上で重要な証拠とされたh、iの各公判証言の信憑性を慎重に検討しても、その信憑性を否定しがたいとした原決定の判断は、正当として是認することができるのであり、その余の関係証拠についても、確定記録に基づいて慎重な検討を加えたが、なんらその信憑性を疑うべき資料は発見することができなかつたのである。(2) 拳銃の同一性に関する認定への影響について原判決は、保管拳銃と凶器拳銃とが同一の拳銃であり、fらは保管拳銃を用いて射撃訓練をしたとの前提に立つものであり、また、証拠弾丸と摘出弾丸とが原判決の右拳銃の同一性認定に関する物的証拠として唯一のものであつて、右認定が要証事実についての原判決の認定の重要な基礎とされていることは、原判文に照らして明らかである。したがつて、原決定の説示するとおり、証拠弾丸と摘出弾丸との綫丘痕等の状況から、三弾丸が「同一の拳銃から発射されたことについては、少くとも大きな疑問が生じたといわなければならない」とすると、原判決の右拳銃の同一性に関する認定ひいては要証事実についての原判決の認定の当否が問題となりうるであろう。
しかし、既に明らかにした原判決の証拠関係からすれば、原判決は証拠弾丸と摘出弾丸とを証拠として直接に両者の発射拳銃の同一性を認定しているわけではなく、証拠弾丸、摘出弾丸その他の証拠から右事実を認定しているのである。すなわち、摘出弾丸とfらが拳銃の射撃訓練をした現場から後日発見されたという証拠弾丸との綫条痕に類似性があるとの事実(前記三(二)(A)参照)は、保管拳銃と凶器拳銃との同一性を認めるべき一つの間接事実にすぎないのであり、原判決は、この間接事実のほか、前記三(二)(C)において説明したとおり、証拠弾丸及び摘出弾丸以外の証拠によつて認定した間接事実に基づき右拳銃の同一性を認定しているのであつて、証拠弾丸と摘出弾丸とり綫条痕の類似性のみに基づいて右拳銃の同一性を認定しているものではないから、証拠弾丸と摘出弾丸との綫丘痕等の状況から三弾丸が同一の拳銃から発射されたことについて大きな疑問を生じたとしても、そのこどから直ちに原判決の右拳銃の同一性に関する認定、ひいては要証事実についての認定が動揺するものとは認めがたいのである。
なお、所論の証拠弾丸に関する新証拠は、たかだか本件の証拠弾丸が前記射撃訓練当時のものでないことを指示するにすぎず、「射撃訓練当時のものであつて、しかも摘出弾丸を発射した拳銃とは異なる拳銃によつて発射されたものである」という趣旨のものではないのであるから、右拳銃の同一性を否定する積極的な意義をもつものではないのである。(3) 原判決の基礎となつた証拠の特殊性原判決の事実認定の重要な基礎となつたh、f、iらの各公判証言は、いわゆる転向者の証言であるとはいえ、いずれも公判廷におけるきびしい反対尋問に耐えたものであつて、捜査官側の作成した供述調書がそのまま有罪認定の証拠とされているものではない。これらの公判証言の信憑性が否定しがたいことは、既に説示したとおりであつて、これらの証言が虚偽のものとされないかぎり、要証事実についての原判決の認定は、容易に動揺するものではないのである。もし申立人らにおいてこれらの証言が虚偽であると信じていたのであれば、つとにしかるべき法的手段をとつていたはずである。(4)原判決を支持しうる積極的証拠原判決の認定する要証事実の骨子は、dがa課長射殺の実行犯人であり、申立人が右殺害につきdと共謀関係にあつたというものであつて、dが右殺害の実行犯人であるとの原判決の認定は、右殺害現場に通り合わせた目撃者の供述、事件発生の直後にdから犯行状況の説明を受けたとするiの公判証言、原判決が認定するdの事件発生前の言動に照らし、証拠弾丸の証拠価値の変動にかかわらず、覆しがたいものといわなければならない。しかも、dが事件発生の直後に逃亡し現在に至るまで行方不明となつていることは、本件記録上明らかであるところ、原判決の挙示する証拠によれば、申立人が当時dの逃亡に関与したものと推認しうることは、原判決の判示するとおりである。そして、原判決が要証事実を推断するために認定した多数の間接事実によつて明らかにされた事件発生前後における申立人の言動、p党北海道地方委員会が申立人を含む同党札幌委員会全体に自己批判を迫つた事情等に照らせば、当時同党札幌委員会の委員長の地位にあつた申立人と当時申立人の下で活動していたdとが、a課長の殺害につき、共謀関係にあつたとする原判決の認定は、証拠弾丸の証拠価値の変動にかかわらず、覆しがたいものといわざるをえないのである。
以上(1)ないし(4)にわたつて試みた分析的な検討は、既述の全般的考察とあいまつて、原判決の正当であることを基礎づけるものである。
五 要するに、所論の証拠弾丸に関する新証拠は、原判決の認定について合理的な疑いをいだかせるに足りないというべく、右新証拠が刑訴法四三五条六号所定の証拠の明白性の要件を具備しないとした原決定の判断は、その結論において正当として是認することができる。
よつて、同法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 団藤重光)

・利益原則の法的根拠
憲法31条、刑事訴訟法336条
+第三百三十六条  被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。

・利益原則の実質的根拠
①刑罰重大不利益説
②証拠能力不均衡是正説
③不正義比較論

2.「法律上の推定」規定と利益原則

・義務的推定
・前提事実が証明されれば推定事実を認定してもよいというにとどまる(許容的推定)との考え方も・・・
→推定規定の存在により、証拠の不提出という態度(弁論の全趣旨)を犯罪事実の認定のために考慮してもよいことになる。

・合理性の基準
①検察官にとって推定事実の立証が困難であるため、推定事実を設ける必要がある(必要性基準)
②前提事実の存在から推定事実の存在を推認することに合理性がある(合理的関連性基準)
③被告人において推認を破る証拠や推定事実の不存在を示す証拠を提出することが容易であること(便宜性基準)

3.「挙証責任の転換」規定と利益原則

①検察官にとって立証が困難なため、挙証責任転換の必要性が高いこと(必要性基準)
②検察官立証事実から挙証責任転換事実への推認が合理性を有すること(合理的関連性基準)
③被告人において挙証責任を負担する事実の証明に支障が大きくない(便宜性基準)
④被告人が挙証責任を負担する事実を除いても、犯罪としての可罰性が否定されないこと(包摂基準)

4.設問の解決


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

刑法 刑事実体法演習 不法領得の意思、親族相盗例、盗品等に関する罪


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
1.設例へのアプローチ
(1)Aの罪責について
(2)Bの罪責について
(3)罪数処理

2.クレジットカードの不正使用
(1)問題の所在
(2)判例・学説
ア 他人名義のクレジットカードの不正使用
(ア)クレジットカードシステムの基本構造
(イ)他人名義のクレジットカードの不正使用
①正当な利用権限を有するかのように装う行為
②代金を支払う意思及び能力がないのにカードを提示する行為

イ クレジットカード名義人の承諾
(ア)学説等
(イ)最高裁決定
・名義人の承諾の有無にかかわらず、名義の偽りのみで詐欺罪が成立する(積極説)
+判例(H16.2.9)
理由
弁護人渡邉靖子の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ、詐欺罪の成否について、職権をもって判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。
(1) Aは、友人のBから、同人名義の本件クレジットカードを預かって使用を許され、その利用代金については、Bに交付したり、所定の預金口座に振り込んだりしていた。
その後、本件クレジットカードを被告人が入手した。その入手の経緯はつまびらかではないが、当時、Aは、バカラ賭博の店に客として出入りしており、暴力団関係者である被告人も、同店を拠点に賭金の貸付けなどをしていたものであって、両者が接点を有していたことなどの状況から、本件クレジットカードは、Aが自発的に被告人を含む第三者に対し交付したものである可能性も排除できない。なお、被告人とBとの間に面識はなく、BはA以外の第三者が本件クレジットカードを使用することを許諾したことはなかった。
(2) 被告人は、本件クレジットカードを入手した直後、加盟店であるガソリンスタンドにおいて、本件クレジットカードを示し、名義人のBに成り済まして自動車への給油を申し込み、被告人がB本人であると従業員を誤信させてガソリンの給油を受けた。上記ガソリンスタンドでは、名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっていた。
(3) 本件クレジットカードの会員規約上、クレジットカードは、会員である名義人のみが利用でき、他人に同カードを譲渡、貸与、質入れ等することが禁じられている。また、加盟店規約上、加盟店は、クレジットカードの利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することなどが定められている。

2 以上の事実関係の下では、被告人は、本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし、同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから、被告人の行為は詐欺罪を構成する仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない。したがって、被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は、正当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

++解説
《解  説》
 1 本件起訴状記載の詐欺の訴因の要旨は,「被告人は,不正に入手した他人名義Aのクレジットカードを使用し,加盟店であるガソリンスタンドの従業員に対し,A本人に成り済まし,同カードの正当な利用権限がなく,かつ,同カード会員規約に従いカードの利用代金を支払う意思及び能力がないのにこれがあるように装い,同カードを提示して給油を申し込み,店員らをしてその旨誤信させてガソリンの給油を受け,もって人を欺いて財物の交付を受けた。」というものである。
 上記詐欺は,1審における検察官の主張によると,Bが本件クレジットカードの名義人Aから同カードの使用を許されてこれを所持していたところ,市中で強盗の被害に遭って同カードを奪われ,その直後,被告人がこれを不正に入手して本件利用行為に及んだという事実関係を前提とするものであり,①被告人が名義人A本人に成り済まして名義を偽ったこと,②利用代金の支払意思・能力を偽ったことの2点をとらえ,2重の欺もう行為による詐欺として訴因が構成されている。
 2 ところが,審理において,Bが強盗に遭ったというのは実は狂言であって,Bは,賭博場で金を借りるため自発的に被告人を含む第三者に対し本件クレジットカードを交付したのではないかとの合理的な疑いが生じ,その結果,被告人は,名義人Aから同カードの使用を許されており,名義人Aにおいて利用代金が決済されるものと誤信して同カードを使用した可能性も排除できないこととなった。
 そこで,1審判決は,上記詐欺の訴因のうち,②の「利用代金の支払意思・能力を偽った」点の欺もう行為を認定から落とし,①の「名義の偽り」の点のみの欺もう行為による詐欺罪の成立を認めた。
 これに対し,被告人が控訴し,弁護人は,「クレジットカードの名義人本人から使用を許され,名義人が利用代金の決済を引き受けている場合には,利用者が名義を偽っても,決済が円滑に行なわれ,関係者に財産的損害は生じないから,詐欺罪は成立しない。したがって,被告人が,名義人から使用を許されていたなどと誤信していた以上,詐欺の故意は認められない。」として法令解釈の誤りを主張したが,原判決は,その主張をしりぞけた。
 被告人が上告し,上告趣意においても,上記と同旨の主張がされたが,本決定は,本件の事実関係を摘示した上で,その事実関係の下では,「被告人は,本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし,同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い,その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから,被告人の行為は詐欺罪を構成する。仮に,被告人が,本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており,かつ,自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても,本件詐欺罪の成立は左右されない。」と判示し,上告を棄却した。
 3 本件の論点は,クレジットカードの名義人から使用を許され,かつ,自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していた場合において,被告人が名義人本人に成り済ましてクレジットカードを使用する行為が詐欺罪に当たるか否かという点である。
 通常,名義人がクレジットカードの使用を許している場合は,本人と偽っても,決済が円滑にされて問題が顕在化しないため,「名義の偽り」のみの欺もう行為による詐欺で起訴されることは実際上ほとんどないと思われる。しかし,不正にクレジットカードを入手してこれを使用したとして起訴された詐欺事案において,本件のような弁解がされることはまま見られるところであり,その場合,弁解を排斥できないときに本件の論点が法的問題として顕在化することになる。
 下級審の裁判例をみると,本件と同様にクレジットカードの名義人の許諾を得ていた旨の弁解が通った事案において,詐欺罪の成立を否定した裁判例として,東京地八王子支判平8.2.26刑裁資料273号130頁があり,「クレジットカード・システムが私的な経済取引のためのシステムに過ぎず,それ自体強度の公的利益を含まない以上,名義の偽りのみの詐欺の成立を肯定してシステムを保護する必要はない。また,実質的な財産的法益侵害が発生していないのに財産犯として処罰するのは行き過ぎである。」旨を判示している。なお,名義人の許諾を得てクレジットカードを使用したが名義人自身に代金決済の意思がなく,その旨被告人も認識していた事案について,詐欺の成立を肯定した裁判例として,大阪地判平9.9.22判タ997号293頁がある。
 これに対し,事案は異なるが,一般論として,クレジットカード・システム上,「名義の偽り」自体が欺もう行為を構成することを肯定した裁判例として,東京高判昭60.5.9刑月17巻5・6号519頁,東京高判平3.12.26判タ787号272頁がある。
 このうち,上記東京高判平3.12.26は,他人名義の既存のクレジットカードを不正に入手して使用した事案において,「クレジットカード制度は,カード名義人本人に対する個別的な信用を供与することが根幹となっているのであるから,カード使用者がカードを利用する正当な権限を有するカード名義人本人であるかどうかがクレジットカード制度の極めて重要な要素であることは明らかで,カード名義人を偽り自己がカード使用の正当な権限を有するかのように装う行為はまさに欺もう行為そのものというべきである」旨を説示し,1審判決が,「カード名義人であるかの如く装った点や,代金決済の能力を装った点は,代金決済意思の有無という要証事実を検討するための重要な間接事実にすぎない」とし,これらの点をことさら欺もう行為として判示しなかったことについて,クレジットカードの不正使用に関する欺もう行為の解釈について誤りを冒すものであるとしている。
 4 学説あるいは実務家の見解をみると,①クレジットカード・システムでは名義人自身による利用行為のみが予定されているとして,名義の偽りのみで詐欺罪が成立するとする積極説(和田正隆「クレジットカードシステムと犯罪(4)」月間消費者金融1983年12月号86頁,片岡聡「クレジットカードと犯罪」捜査研究34巻9号11頁),②「名義の偽り」それ自体は欺もう行為には当たらず,「クレジットカード・システムにより最終的に代金が決済される状況がないにも関わらずこれがあるかのように装ったこと」が欺もう行為となるとする消極説(石井芳光「クレジットカードの不正利用と法律問題」手研160号54頁,山中敬一「他人名義のクレジットカードの不正使用と詐欺の成否」法セ455号127頁等),③その中間的な見解として,名義人がごく近い近親者であって名義人本人と同視し得る者については詐欺が成立しないが,それ以外の者が名義を偽った場合には詐欺が成立するという説(平井義丸「消費者信用をめぐる犯罪の実態と法律上の問題点について」法務研究74集1号56頁)とに分かれている。
 5 クレジットカード・システムは,カード名義人の個別的な信用に基づいて担保的措置をも講ずることなく一定限度内の信用を供与することが根幹となっている。
 規約上,名義人本人以外の利用は許さず,加盟店に本人確認義務を負わせていることなどからすると,加盟店は,名義人本人が使用を許諾している等の事情が確認できたとしても,名義人本人でない者の利用を許してはならないというのが制度の建前といえる。取引の実態として,仮に,名義人本人以外の者の利用を許す不正規な運用があるとしても,それはあくまで加盟店の判断で行う事実上の措置とみるべきであると思われる。
 このようなクレジットカード・システムについての理解を前提とするならば,利用者と名義人の同一性はカード利用の極めて重要な要素であり,この点を偽ることは,名義人の許諾の有無にかかわらず,加盟店に対する欺もう行為を構成するという積極説が支持されよう。
 本決定は,基本的にはこのような考え方から詐欺罪の成立を肯定したものといえるが,一方で,③の中間説が述べるように,名義人の近親者がその許諾の下に利用するようなごく例外的な場合においては,実質的違法性がない等の理由により詐欺罪の成立が否定される余地もないではないことから,本件の事案に即した判示がされたのではないかと推察される。
 6 本決定は,学説上,積極,消極と見解が分かれており,消極説に立った下級審裁判例も存した法解釈上の論点について,最高裁として初めて判断を示したものである。事例判例にとどまるが,実質的には一般法理を含むものであり,先例として重要な意義があり,実務に与える影響も少なくないと思われる。
(3)設例の検討
+(私文書偽造等)
第百五十九条  行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2  他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3  前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
+(偽造私文書等行使)
第百六十一条  前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2  前項の罪の未遂は、罰する。
+(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
3.住居侵入罪
(1)問題の所在
+(住居侵入等)
第百三十条  正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(2)住居侵入罪の保護法益
「侵入」とは何かを考えるうえで保護法益を考える。
新住居権説
=事実上の支配・管理権
(3)侵入の意義
「侵入」=住居権者の意思に反する立入り
+判例(S58.4.8)
理由 
 一 検察官の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は、いずれも事案を異にして本件に適切でなく、同第二点は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。 
 二 しかしながら、所論にかんがみ職権により調査すると、原判決は、以下に述べる理由により破棄を免れない。 
 刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。 
 ところで、原判決は、被告人らが、全逓の春季闘争の一環として、多数のビラを貼付する目的で、大槌郵便局舎内に管権者であるA局長の事前の了解を受けることなく立ち入つたものであること、局舎等におけるビラ貼りは、郵政省庁管理規程によると、法令等に定めのある場合のほかは、管理権者が禁止すべき事項とされていること、被告人らは、夜、多人数で土足のまま局舎内に立ち入り、縦約二五糎、横約九糎大の西洋紙に「大巾賃上げ」「スト権奪還」などとガリ版印刷をしたビラ約一〇〇〇枚を局舎の各所に乱雑に貼付したものであり、被告人らの右ビラ貼りは、右庁舎管理規程に反し、前記A局長の許諾しないものであることが明らかであること、右ビラ貼りは、その規模等からみて外形上軽犯法違反に該当する程度の評価が可能であり、それが組合の闘争手段としてなされたものであるとはいえ、庁舎施設の管理権を害し、組合活動の正当性を超えた疑いがあるから、管理権者としては、このような目的による立入りを受忍する義務はなく、これを拒否できるものと考えられること、組合のビラ貼りについては、東北郵政局から警戒するよう指示されていたこともあつて、前記A局長は、当夜、B局長代理と交代で局舎に立ち寄り、局舎の外側からビラ貼りを警戒していたが、被告人らが局舎内に立ち入りビラ貼りをしているのを確認するや、右局長代理とともに局舎に入り被告人らに退去を求めたことなどを認定している。これらの事実によれば、記録上他に特段の事情の認められない本件においては、告人らの本件局舎内への立入りは管理権者である右局長の意思に反するものであり、被告人らもこれを認識していたものと認定するのが合理的である。局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、右宿直員は管理権者ら右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。 
 しかるに、原判決は、A局長が、被告人らのビラ貼り目的による局舎内への立入りを予測しながら、事前にこれを阻するための具体的措置をとらなかつたということなどから、本件においては、被告人らの立入りを拒否する管理権者の意思が外部に表明されていたとはいえないとし、被告人らの所為は、結局、管理権者の意思に反したといえないから、建造物侵入罪の構成要件に該当しないとしているのであつて、右は、ひつきよう、法令の解釈適用を誤つたか、重大な事実認をした疑いがあり、原判決の右違法は、判決に影響を及ぼし、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 
 三 よつて、刑訴法四一一条一号、三号を適用して原判決を破棄し、同法四一三条本文により本件を原裁判所である仙台高判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 検察官増山登、同俵谷利幸 公判出席 
 (裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮﨑梧一 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次) 
(4)住居権者の同意と錯誤(違法目的での立入り)
錯誤に基づく同意を無効として、住居侵入罪の成立を肯定している。
+判例(S23.5.20)
理由 
 各被告人の弁護人長谷川俊夫の上告趣旨第一点について。 
 しかし、刑法住居侵入罪の「故なく」とは正当の事由なくしての意であるから強盗殺人の目的を以て他人の店舗内に侵入したのは、すなわち、故なくこれに侵入したものに外ならない。そして住居権者の承諾ある場合は違法を阻却すること勿論であるけれども被害者において顧客を装い来店した犯人の申出を信じ店内に入ることを許容したからと言つて、強盗殺人の目的を以て店内に入ることの承諾を与えたとは言い得ない。果して然らば被告人等の本件店屋内の侵入行為が住居侵入罪を構成すること言うまでもないから論旨はその理由がない。 
 同第二点について。 
 所論は刑の量定を不当なりと主張するものであるから上告適法の理由とならない。 
 各被告人の上告趣意について。 
 各被告人の上告趣旨は、いずれも、要するに、原判決認定の本件犯罪の動機実行等に関する事実の誤認と各被告人に科した刑が均衡を失し過重であると主張するものである。しかし事実の認定及び刑の量定については最終の事実裁判所である原審裁判所において諸般の証拠に依り適正に判断決定するところに一任されているものであるから、これらの点に対する本件各被告人の論旨はいずれも適法な上告の理由とすることができない。 
 よつて刑訴第四四六条により主文のとおり判決する。 
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。 
 検察官 茂見義勝関与 
 (裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎) 
+判例(S24.7.22)
理由 
 弁護人原田左武郎の上告趣意第一点について。 
 記録を調べてみると、原審の公判においては、昭和二三年六月二二日裁判長判事岡村連、判事前田寛、判事萩原敏一が裁判所を構成して本件の審理を終結し、次いで同月二九日前記岡村、前田両判事のほか、判事三野盛一が裁判所を構成して判決を言渡したこと所論の通りである。 
 しかし、原判決書によれば、右判決書に署名捺印しているのは、本件の審理に関与した前記岡村、前田、萩原の三判事であつて、判事三野盛一はこれに署名捺印していないことが明らかである。されば、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。 
 同第二点について。 
 強盗の意図を隠して「今晩は」と挨拶し、家人が「おはいり」と答えたのに応じて住居にはいつた場合には、外見上家人の承諾があつたように見えても、真実においてはその承諾を欠くものであることは、言うまでもないことである。されば、原判決が挙げている証拠中に論旨に摘録するような問答があるとしても、これらの証拠によれば原判示のような住居侵入の事実を肯認することができるのである。また、原判決の挙げている証拠によれば、被告人は原審共同被告人等と共謀の上、原判示第二事実のように、深夜A方に侵入し、ナイフ又はヒ首を右節一に示し「金を出せ、騒ぐと殺すぞ」と申向けて脅迫し、よつて節一所有の現金一万円を強取した事実を肯認することができる。されば、原判決には所論のように証拠によらないで事実を認定した違法はなく論旨は理由がない。 
 同第三点について。 
 原判決は、その挙示する証拠によつて、原判示の強盗の事実を認定して、これに強盗罪の規定を適用したのであるから、所論のように擬律錯誤の違法はない。論旨は、原審と異つた証拠判断に基き、原審の認定していない事実を前提とする立論であるから採用することができない。 
 よつて、旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。 
 以上は、裁判官全員の一致した意見である。 
 検察官 十蔵寺宗雄関与 
 (裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠) 
一般的に立入が許容されている場所への立ち入りについても、目的の違法性を考慮
+判例(H19.7.2)
理由 
弁護人安川幸雄の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。 
所論にかんがみ、職権で判断する。 
 1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。 
  (1) 被告人は、共犯者らと、本件銀行の現金自動預払機を利用する客のカードの暗証番号、名義人氏名、口座番号等を盗撮するため、現金自動預払機が複数台設置されており、行員が常駐しない同銀行支店出張所(看守者は支店長)に営業中に立ち入り、うち1台の現金自動預払機を相当時間にわたって占拠し続けることを共謀した。 
  (2) 共謀の内容は、次のようなものであった。 
  ア 同銀行の現金自動預払機には、正面に広告用カードを入れておくための紙箱(以下「広告用カードホルダー」という。)が設置されていたところ、これに入れる広告用カードの束に似せたビデオカメラで現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する。盗撮された映像は、受信機に無線で送られ、それが更に受像機に送られて記録される。 
  イ 被告人らは、盗撮用ビデオカメラと受信機及び受像機の入った紙袋を持って、目標の出張所に立ち入り、1台の現金自動預払機の前に行き、広告用カードホルダーに入っている広告用カードを取り出し、同ホルダーに盗撮用ビデオカメラを設置する。そして、その隣の現金自動預払機の前の床に受信機等の入った紙袋を置く。盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機の前からは離れ、隣の受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機の前に、交替で立ち続けて、これを占拠し続ける。このように隣の現金自動預払機を占拠し続けるのは、受信機等の入った紙袋が置いてあるのを不審に思われないようにするためと、盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機に客を誘導するためである。その間、被告人らは、入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い、受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機で適当な操作を繰り返すなどする。 
  ウ 相当時間経過後、被告人らは、再び盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機の前に行き、盗撮用ビデオカメラを回収し、受信機等の入った紙袋も持って、出張所を出る。 
  (3) 被告人らは、前記共謀に基づき、前記盗撮目的で、平成17年9月5日午後0時9分ころ、現金自動預払機が6台設置されており、行員が常駐しない同銀行支店出張所に営業中に立ち入り、1台の現金自動預払機の広告用カードホルダーに盗撮用ビデオカメラを設置し、その隣の現金自動預払機の前の床に受信機等の入った紙袋を置き、そのころから同日午後1時47分ころまでの1時間30分間以上、適宜交替しつつ、同現金自動預払機の前に立ってこれを占拠し続け、その間、入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い、同現金自動預払機で適当な操作を繰り返すなどした。また、被告人らは、前記共謀に基づき、翌6日にも、現金自動預払機が2台設置されており、行員が常駐しない同銀行支店の別の出張所で、午後3時57分ころから午後5時47分ころまでの約1時間50分間にわたって、同様の行為に及んだ。なお、被告人らがそれぞれの銀行支店出張所で上記の行為に及んでいた間には、被告人ら以外に他に客がいない時もあった。 
 2 以上の事実関係によれば、被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するものというべきである。 
  また、被告人らは、盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣に位置する現金自動預払機の前の床にビデオカメラが盗撮した映像を受信する受信機等の入った紙袋が置いてあるのを不審に思われないようにするとともに、盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機に客を誘導する意図であるのに、その情を秘し、あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い、適当な操作を繰り返しながら、1時間30分間以上、あるいは約1時間50分間にわたって、受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機を占拠し続け、他の客が利用できないようにしたものであって、その行為は、偽計を用いて銀行が同現金自動預払機を客の利用に供して入出金や振込等をさせる業務を妨害するものとして、偽計業務妨害罪に当たるというべきである。 
  以上と同旨の原判断は相当である。 
  よって、刑訴法414条、386条1項3号、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 
 (裁判長裁判官 才口千晴 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治) 
++解説
《解  説》
 1 本件は,被告人らが,現金自動預払機(以下「ATM」という。)利用客のカードの暗証番号等を盗撮すべく銀行店舗に立ち入るなどしたことをもって,建造物侵入,偽計業務妨害罪に問われた事案である。
 2 事実関係は,本決定が1で判示しているところであるが,次のようなものである。被告人らは,本件銀行のATM利用客のカードの暗証番号,名義人氏名,口座番号等を盗撮するため,ATMが複数台設置されている,行員が常駐しない無人の銀行支店出張所に営業中に立ち入り,うち1台のATMを相当時間にわたって占拠し続けることを共謀した。共謀の内容は,次のようなものであった。すなわち,①本件銀行のATMには,正面に広告用カードを入れておくための紙箱(以下「広告用カードホルダー」という。)が設置されていたところ,これに入れる広告用カードの束に似せたビデオカメラでATM利用客のカードの暗証番号等を盗撮する。盗撮された映像は,受信機に無線で送られ,更に受像機に送られて記録される。②被告人らは,盗撮用ビデオカメラと受信機及び受像機の入った紙袋を持って,目標の出張所に立ち入る。1台のATMの前に行き,広告用カードホルダーに入っている広告用カードを取り出し,同ホルダーに盗撮用ビデオカメラを設置する。その隣のATMの前の床に受信機等の入った紙袋を置く。盗撮用ビデオカメラを設置したATMの前からは離れ,隣の受信機等の入った紙袋を置いたATMの前に,交替で立ち続け,これを占拠し続ける。このように隣のATMを占拠し続けるのは,受信機等の入った紙袋が置いてあるのを不審に思われないようにし,併せて盗撮用ビデオカメラを設置したATMに客を誘導するためである。その間,被告人らは,入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い,受信機等の入った紙袋を置いたATMで適当な操作を繰り返すなどする。③相当時間経過後,再び盗撮用ビデオカメラを設置したATMの前に行き,盗撮用ビデオカメラを回収し,受信機等の入った紙袋も持って,出張所を出る。以上である。このような共謀に基づき,被告人らは,2日にわたり,2か所の無人出張所(ATM設置台数は6台と2台)で,共謀にあるとおりの行為に及んだ。なお,それぞれの事件におけるATMの占拠時間は,1時間30分以上,あるいは約1時間50分間であった。おって,被告人らがそれぞれの出張所で上記の行為に及んでいた間には,被告人ら以外に他に客がいない時もあった。
 3 このような事案について,まず,建造物侵入罪の成否が問題になった。「侵入」の意義については,最二小判昭58.4.8刑集37巻3号215頁,判タ497号112頁が,「刑法130条前段にいう『侵入シ』とは,他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきである」とし,「管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても,該建造物の性質,使用目的,管理状況,管理権者の態度,立入りの目的などからみて,現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは,……同条の罪の成立を免れないというべきである。」としている。これによれば,本件のようなATM利用客のカードの暗証番号等を盗撮するための銀行支店出張所への立入りは(なお,本件出張所は,無人店舗であったが,客の出入口は1か所であり,同所には〔自動〕ドアが設置されていたものであって,看守性に問題はなかったものと思われる〔「看守」の意義については,最三小判昭59.12.18刑集38巻12号3026頁,判タ546号128頁が,「刑法130条にいう『人ノ看守スル建造物』とは,人が事実上管理・支配する建造物をいうと解すべき」としており,一般に,看守は人の存在を前提とする態様のものに限られないと解されている。〕。おって,本件出張所の看守者・管理権者は,銀行支店長である。),同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかと思われ(ATM利用客のカード情報が盗撮され,その情報を基にそのカードが正当な所持人の意思に反して悪用されるようなことがあれば,カードを発行して利用客の利便に供している銀行の業務に多大な障害が生ずることは明らかであり,そのような盗撮〔更には,そのための店舗への立入り〕を銀行が容認しているはずがない。カード情報盗撮のための立入り拒否の意思があらかじめ積極的に明示されていなくても,ATMを設置して店舗を開いている趣旨,被告人らの立入り目的等の事情を考慮すれば,銀行側の意思が上記のようなものであることは,優に合理的に判断されるところと思われる。),侵入に当たるということになろう。
 しかるに,現在でも,住居侵入罪の保護法益をどのように考えるかについての対立(すなわち,建造物の管理権か,それとも建造物の事実上の平穏かの対立である。)とも絡んで,侵入をもって平穏を害する態様の立入りをいうとする学説もあるようであり(そのような考え方によれば,本件では,本決定がいうように〔後記参照〕,「その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでな」かったわけであるから,侵入に当たるかどうかについては消極の判断になるものと思われる。),取り分け,本件出張所のように,一般に客等の立入りが許容されているような場所にあっては,平穏かつ公然の立入りにつき建造物侵入罪の成立を否定するものと思われる有力学説が少なからずあるという状況にある(内田文昭『刑法各論〔第2版〕』174頁,曽根威彦『刑法各論〔第3版補正3版〕』87頁,西田典之『刑法各論〔第4版〕』97頁,松宮孝明『刑法各論講義〔補訂版〕』122頁,山口厚『刑法各論〔補訂版〕』123頁,山中敬一『刑法各論(1)』160頁,163頁〔著者名50音順〕参照)。高裁判例には,このような場合についても,建造物侵入罪の成立につき積極の判断を示した例がなかったわけではないが(例えば,東京高判昭27.4.24高刑5巻5号666頁〔警察署庁舎内に日本共産党の宣伝ビラを警察官等に配布するために立ち入った事案について積極。「その立ち入りがよしんば平穏公然になされたものであったとしても,いやしくも看守者の意に反してなされる限り『侵入』たるを妨げるものではない。」と判示している。〕,東京高判昭48.3.27東高時報24巻3号41頁,判タ306号288頁〔共同通信会館への立入りについて積極。「禁止事項を目的に立入る者も外見上,それと明らかに認め得ない限り一般人と識別することは不可能であり,事実上その立入りを阻止することはできないが,管理者の意思に反する立入りであることは否定できない。……管理者の意思に反して立入ることが建造物に故なく侵入する要件を充たすこというまでもない。」と判示している。〕,仙台高判平6.3.31判時1513号175頁〔国体の開会式場に開会式を妨害する目的で一般観客を装い立ち入った事案について積極。「一般に,管理権者の意思に反する立入り行為は,たとえそれが平穏,公然に行われた場合においても,建造物利用の平穏を害するものということができる」などと判示している。〕),大審院・最高裁判例では,そのような例は見当たらない。
 このような状況の下にあって,本決定は,「被告人らは,現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で,現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり,そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから,その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立するものというべきである。」と判示して,このような場合についても,建造物侵入罪の成立につき積極と判断すべきことを明らかにした。
 4 次に,偽計業務妨害罪の成否も問題となった。同罪にいう「偽計」の意義について一般的に判示した大審院・最高裁判例は見当たらない(高裁判例では,大阪高判昭29.11.12高刑7巻11号1670頁が,「刑法第233条にいう『偽計ヲ用ヒ』とは人の業務を妨害するため,他人の不知或は錯誤を利用する意図を以て錯誤を生ぜしめる手段を施すことをいう」と,東京高判昭48.8.7高刑26巻3号322頁,判タ301号278頁が,「刑法233条にいう偽計を用いるとは,……欺罔行為により相手方を錯誤におちいらせる場合に限定されるものではなく,相手方の錯誤あるいは不知の状態を利用し,または社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させるような手段術策を用いる場合を含むものと解するのが相当である。」とそれぞれ判示している。)。その性質上,一般的定義に困難があると考えられたものであろうか,事例を集積してその内容を明らかにするという態度が採られてきたものと思われる。下級審裁判例を含めて,その該当性が肯定された事例を通覧してみると,積極的に人を欺く行為を手段とする場合のみならず,何らかのひそかな手段,あるいは,あたかも通常,正常であるかのような外観,真実と異なる外観を作出する手段が用いられることが多いようである。
 このような状況の下,本決定は,「被告人らは,盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣に位置する現金自動預払機の前の床にビデオカメラが盗撮した映像を受信する受信機等の入った紙袋が置いてあるのを不審に思われないようにするとともに,盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機に客を誘導する意図であるのに,その情を秘し,あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い,適当な操作を繰り返しながら,1時間30分間以上,あるいは約1時間50分間にわたって,受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機を占拠し続け,他の客が利用できないようにしたものであって,その行為は,偽計を用いて銀行が同現金自動預払機を客の利用に供して入出金や振込等をさせる業務を妨害するものとして,偽計業務妨害罪に当たるというべきである。」と,従前の(裁)判例についての前記のとおりの理解に沿う判示をして,本件の偽計業務妨害罪該当性を肯定した(なお,業務妨害罪については,業務妨害の結果の発生を必要とせず,結果を発生させるおそれのある行為があれば足りると解されているところ〔大判昭11.5.7刑集15巻8号573頁は,「業務妨害罪ハ虚偽ノ風説ヲ流布シ又ハ偽計ヲ用ヒ人ノ業務ノ執行又ハ其ノ経営ニ対シ妨害ノ結果ヲ発生セシムヘキ虞アル行為ヲ為スニ依リ成立シ現実ニ妨害ノ結果ヲ生セシメタルコトヲ必要トセス」と判示している。〕,これによれば,当該ATM〔盗撮用ビデオカメラを設置したATMの隣の受信機等の入った紙袋を置いたATM〕が占拠され続けて,その利用が妨げられている以上,現実に他の客がいない場合であっても〔本件では,そのような時間帯があったわけである。〕,同機を客の利用に供して入出金や振込等をさせるという銀行支店の業務の妨害という結果を発生させるおそれのある行為がなされたということになろうから〔もし客が来たら当該ATMを使えないわけであるからである。〕,人の業務を妨害したということができるものと思われる。)。
 5 このように,本決定は,事例判断ではあるが,一般に客等の立入りが許容されている場所への平穏公然な立入りについて建造物侵入罪の成立を否定する有力学説のある中,このような場合も建造物侵入罪の成立につき積極と解すべきことを明らかにしたもので,同罪の「侵入」の意義をより明確にしたものというべきであり,また,事例を集積してその内容を明らかにするという態度が採られてきた偽計業務妨害罪にいう「偽計」の意義に関し,従前の(裁)判例に現れていない態様の事案につき,その該当性を判断要素を明らかにしつつ肯定したもので,これまた同罪の「偽計」の意義をより明確にしたものというべきであって,いずれも参照価値には高いものがあるものと思われる。
・法益関係的錯誤説という有力説もある。
(5)設例の検討
・他人の住居か?
+判例(S23.11.25)
理由 
 弁護人岸達也上告趣意第一点について。 
 しかし、原審引用の証拠、殊にA、B、並びにC等に対する司法警察官の各訊問調書の記載によれば、被告人等は共謀して強盗の目的でD方に侵入したのであるが、はじめは家人が就眠していたのに乗じ、ひそかに箪笥その他から衣類等を取り出し得たのであるが、その間に、家女Cが目をさました為、同女に対し交々「静かにしろ騒ぐな」「動くとピストルを撃つぞ」「金を出せ」などと脅し、或はナイフを示めして同女を畏怖せしめた上、さきに取り集めてあつた金品を持ち同家を立去つたものであることを推断し得るのである。そして右の事実によれば、被告人等はDの保管にかかる財物の所持を侵奪し了らないうちに、家人が目をさましたのでこれに暴行脅迫を加えて畏怖させた上、その侵奪を完了して、これを強取したものであると見るべきであつて、論旨の主張するように、「竊盗財物ヲ得タル後脅迫ヲ為シタル迄ニシテ脅迫ト財物ノ取得トノ間因果関係ナシ」とはいい得ないのである。所謂原審認定の事実は原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認し得るというべきである。論旨は畢竟事実審である原審の自由裁量に属する事実認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。 
 同第二点について。 
 住居侵入の罪は故なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し又は要求を受けてその場所から退去しないことによつて成立するものであつて、犯人の身分により構成され又は刑の軽重を来たすべき犯罪ではない唯犯人と被害者との間に、特別な身分関係―例えば親子の関係―が存在するようなときは、かかる身分関係のない者の場合よりも、その侵入が「故なく」為されたものでないと見るのを相当とする場合が比較的多いであろうといい得るに過ぎない。本件において、原審は「被告人が第一審相被告人等三名と共謀して、当時出奔していた実父D方に、共犯者にはその実父の家であることを告げず、午後一一時三〇分頃強盗の目的を以て侵入した」との事実を認定しているのであるこの場合、もし被告人が家出したことを後悔して父に謝罪するつもりで涙の帰宅をしていたものとすれば、たといかかる深夜戸締りを破つての侵入であつたとしても、父にとつてそれは迷える羊の帰還であり、心からの歓喜そのものであつたかも知れないのであつて、もとより住居侵入罪の成立しよう筈はないのである。しかし、これが強盗の目的で、しかも共犯者三名をも帯同して深夜家宅内に侵入したとあつては、たといそれが嘗ては自らも住み慣れたなつかしい実父の家であるとしても、父としても、世間としても、これを目して正当な「故ある」家宅の侵入とは認みえないであろう。されば原審の確定した被告人等の右所為は、数人共同して住居侵入罪を実行した場合に該当すること勿論であつて、刑法第一三〇条第六〇条により問擬せらるべきものなのである。しかるに、原審は右事実を認定しながら刑法第六〇条を適用せず、犯人の身分により構成すべき犯罪行為に加功したその身分なき者をなお共犯とする同法第六五条第一項を適用したのは論旨主張の通り擬律の錯誤あるものといわざるを得ない。原判決はこの点において全部破棄を免れ得ないのである。 
 よつて刑訴第四四七条第四四八条に従つて、原審の確定した事実に法律を適用すれば、被告人の所為の中住宅侵入の点は刑法第一三〇条第六〇条に、強盗の点は同法第二三六条第一項第六〇条に各該当するが右両所為はその間手段結果の関係があるから同法第五四条第一項後段第一〇条により重い強盗罪に従い、その所定刑期範囲内で被告人を懲役六年に処し、主文第三項掲記の物件は本件犯行の用に供したものであつて犯人以外の者に属しないから同法第一九条第一項第二号第二項によりいずれもこれを没収すべきである。よつて主文の通り判決する。 
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。 
 検察官 安平政吉関与 
 (裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔) 
4.窃盗罪をめぐる問題
(1)不法領得の意思と毀棄目的
ア 問題の所在
・破棄するための持ち出し
イ 判例・学説
(ア)不法領得の意思の要否及び内容
不法領得の意思
=権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思
+判例(S26.7.13)
理由 
 被告人Aの弁護人須々木平次の上告趣意第一点について。 
 原判決挙示の証拠によれば、窃盗犯人である被告人Aが相被告人Bと共に逮捕を免れるたあ、判示Cに対し判示のような暴行を加え、よつて同人に対し全治約五日間を要する打撲症兼擦過症を与えた事実を認めることができるのである。さすれば、右被告人等の所為が強盗傷人罪を構成することは勿論であるから、原判決が被告人等の所為に対し刑法第二四〇条前段(第二三八条)第六〇条を適用処断したのは相当であつて、原判決には所論のような違法は少しもない。よつて論旨は理由がない。 
 同第二点について。 
 原判決が本件窃盗の事実として確定したところは、本件強盗傷人の犯行後被告人等は追跡せられ一旦陸に上つて逃走したが、更に陸地から船で逃走しようと企て、判示場所に繋留してあつた判示D所有の肥料船一艘に乗り込み岸から約半丁位の海上まで漕ぎ出したというのであるから、右事実自体によつて、たとえ短時間であつても、被告人等が右肥料船に対するDの所持を侵し該船を自己の所持に移したものであることは明白であるばかりでなく、更に挙示の証拠によれば被告人等は右肥料船が対岸に着けば当然その場にこれを乗り捨てる意思であつたことが認められるのである。そもそも、刑法上窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいうのであつて、永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としないのであるから、被告人等が対岸に該船を乗り捨てる意思で前記肥料船に対するDの所持を奪つた以上、一時的にも該船の権利者を排除し終局的に自ら該船に対する完全な支配を取得して所有者と同様の実を挙げる意思即ち右にいわゆる不正領得の意思がなかつたという訳にはゆかない。これを要するに、原判決の摘示事実及びこれが証拠によつて、被告人に本件窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思のあつたことが認め得るから、原判決には所論のような理由不備等の違法はなく、論旨は採用し得ない。 
 同第三点について。 
 本件強盗傷人と窃盗の所為が短時間内に相前後してなされたことは洵に所論のとおりであるが、被告人等が本件強盗傷人の罪を犯す当時には未だ本件窃盗罪を犯す意思は全然なく、右強盗傷人罪が既遂となり逃走の途中偶然の機会において新たに本件窃盗の犯意を生じたものであることは原判決挙示の証拠上疑いのないところであるばかうでなく、それ等の行為自体から見ても、はた又被害法益の点から見ても、本件が強盗傷人と窃盗の二罪を構成し、所論のように単一の犯罪を構成するものと認めるべきでないことは多言を要しないところである。従つて、原判決において本件強盗傷人と窃盗の二罪の成立を認め、これを刑法第四五条前段の併合罪として処断したのは相当であつて所論のように法律の適用を誤つた違法は更にない。よつて論旨は理由がない。 
 被告人Bの弁護人緒方浩の上告趣意第一点について。 
 所論は畢竟原判決において認定した強盗傷人の事実は誤つているということに帰着するがかかる論旨は上告適法の理由にならない。よつて論旨は理由がない。 
 同第二点について。 
 論旨は相被告人Aの弁護人須々木平次の上告趣意第二点と同趣旨であつて、論旨に対する判断は前叙のとおりである。論旨はもとより理由がない。 
 よつて、刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条に則り、主文のとおり判決する。 
 この判決は裁判官全員一致の意見である。 
 検察官 平出禾関与 
 (裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎) 
(イ)利用処分意思に関する判例の動向
+判例(H16.11.30)
理由 
  弁護人明石博隆の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。所論にかんがみ、第1審判決判示第3の犯罪事実について、職権で判断する。 
  1原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。 
  被告人は、金員に窮し、支払督促制度を悪用して叔父の財産を不正に差し押さえ、強制執行することなどにより金員を得ようと考え、被告人が叔父に対して6000万円を超える立替金債権を有する旨内容虚偽の支払督促を申し立てた上、裁判所から債務者とされた叔父あてに発送される支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本について、共犯者が叔父を装って郵便配達員から受け取ることで適式に送達されたように外形を整え、叔父に督促異議申立ての機会を与えることなく支払督促の効力を確定させようと企てた。そこで、共犯者において、2回にわたり、あらかじめ被告人から連絡を受けた日時ころに叔父方付近で待ち受け、支払督促正本等の送達に赴いた郵便配達員に対して、自ら叔父の氏名を名乗り出て受送達者本人であるように装い、郵便配達員の求めに応じて郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に叔父の氏名を記載して郵便配達員に提出し、共犯者を受送達者本人であると誤信した郵便配達員から支払督促正本等を受け取った。なお、被告人は、当初から叔父あての支払督促正本等を何らかの用途に利用するつもりはなく速やかに廃棄する意図であり、現に共犯者から当日中に受け取った支払督促正本はすぐに廃棄している。 
 2 以上の事実関係の下では、郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は、同人名義の受領書を偽造したものとして、有印私文書偽造罪を構成すると解するのが相当であるから、被告人に対して有印私文書偽造、同行使罪の成立を認めた原判決は、正当として是認できる。 
  他方、本件において、被告人は、前記のとおり、郵便配達員から正規の受送達者を装って債務者あての支払督促正本等を受領することにより、送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ、債務者から督促異議申立ての機会を奪ったまま支払督促の効力を確定させて、債務名義を取得して債務者の財産を差し押さえようとしたものであって、受領した支払督促正本等はそのまま廃棄する意図であった。このように、郵便配達員を欺いて交付を受けた支払督促正本等について、廃棄するだけで外に何らかの用途に利用、処分する意思がなかった場合には、支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできないというべきであり、このことは、郵便配達員からの受領行為を財産的利得を得るための手段の一つとして行ったときであっても異ならないと解するのが相当である。そうすると、被告人に不法領得の意思が認められるとして詐欺罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。 
  しかしながら、本件事実中、有印私文書偽造、同行使罪の成立は認められる外、第1審判決の認定判示したその余の各犯行の罪質、動機、態様、結果及びその量刑などに照らすと、本件においては、上記法令の解釈適用の誤りを理由として原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。 
  よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 
 (裁判長裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷玄 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修) 
++解説
《解  説》
 1 本件は,被告人が,共犯者2名と共謀の上,支払督促制度を悪用して叔父の財産を差し押さえるなどして多額の金員を得ようと企て,叔父を債務者とする内容虚偽の支払督促を申し立て,支払督促正本,仮執行宣言付支払督促正本を送達してきた郵便配達員に対して,共犯者において叔父を装い,郵便送達報告書中の受領書を偽造,行使して,各正本を詐取した,との事実で起訴された事案である。その事実関係の概要は,本決定の1にまとめられているとおりである。なお,被告人は,外にも有印私文書偽造,同行使,詐欺,公正証書原本不実記載,同行使の事実で起訴されていた。
 本件では,事実関係については基本的に争いがなかったが,被告人は,支払督促正本等について,何の利用もするつもりはなく,廃棄する意図で取得し,現に何の利用もしていないから,不法領得の意思が認められない旨主張した。
 しかし,1審判決は,次のように判示して詐欺罪の成立を認めた。「詐欺罪の成立には,犯人に不法領得の意思,すなわち『権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思』が必要であるが,財物は,一般的には,その存在ないし利用に価値があるから,騙取した財物を廃棄するつもりであったときには,不法領得の意思を欠くことになる。しかし,ある種の財物(約束手形や借用証書)は,その不存在ないしは利用を妨げることがそのまま特定の者(約束手形の振出人や消費貸借の借主)の経済的利益等になることがあるから,その不存在ないしは利用を妨げることがそのまま特定の者の利益になる財物については,その特定の者が廃棄するつもりでその財物を騙取したとしても,その特定の者については,その財物を廃棄することが,『その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する』ことになると解するべきであり,やはり不法領得の意思を認めるのが相当である。被告人らは,支払督促正本等を郵便配達員から騙し取り,正当な受領者である債務者の叔父に送達されないようにして,その利用を妨げることにより,仮執行宣言付支払督促正本に基づき叔父の財産を差し押さえることが可能な経済的利益を不正に得ようとしていたものであるから,騙取した支払督促正本等については廃棄するつもりであったとしても,被告人らにとっては,それが『その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する』意思にほかならない。」
 また,原判決も,次のように判示して,被告人の控訴を棄却した。「不法領得の意思とは,その財物の経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思であって,その財物を毀棄・隠匿するかどうかと,不法領得の意思があるかどうかとは直接に論理的な関係にあるわけではない。財物を最終的に毀棄・隠匿する場合であっても,財物を騙し取ることが財物を積極的に経済的ないし本来的用法に従って利用して処分する目的に基づくものであることは十分にあり得る。被告人らは,支払督促手続を不正に利用して,債務者とされた叔父の財産を差し押さえるために,郵便配達員から支払督促正本等を債務者本人を装って騙し取って,支払督促の効力を生じさせるとともに,債務者から督促異議申立ての機会を奪いながら,仮執行宣言を付すための期間の計算を開始させ,仮執行宣言により強制執行力を得,仮執行宣言付支払督促の確定する期間の計算を開始させるなど,権利義務に関する法律文書である支払督促正本等の本来の法的,経済的効用を発現させようとしていたのであるから,被告人らが債務者本人を装って郵便配達員から支払督促正本等を騙し取ったのは,その財物の経済的ないし本来的用法に従いこれを利用若しくは処分するという積極的な利用・処分意思に基づくものといえる。」
 これに対して,被告人から上告し,併せて,郵便送達報告書への署名は私署名偽造に過ぎない旨も主張した。
 本決定は,(1)郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に他人の氏名を冒書し,郵便配達員に提出する行為は,有印私文書偽造,同行使罪に該当するか,署名偽造,同使用罪が成立するにとどまるか,という点につき,郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成する旨判示して,有印私文書偽造,同行使罪の成立を認めた原判決を是認した。次に,(2)債務者に知られることなく支払督促の効力を生じさせるため,裁判所から債務者あてに送達される支払督促正本を,受領後は廃棄する意図で,債務者を装って郵便配達員から騙し取る行為について,不法領得の意思を認めることができるか,という点については,本件の事実関係の下では,詐欺罪における不法領得の意思を認めることはできない旨判示した。しかし,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められないとして,上告は棄却した。
 2 有印私文書偽造,同行使罪について
 本件では,被告人の共犯者は,郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に名宛人の署名をしただけであるため,その行為が,有印私文書偽造に当たるかが問題となった。
 判例は,文書とは「文字等により,一定期間永続する状態で,ある物体の上に人の意思又は観念を表示したもの」をいうとして,その表示された内容が文章の形式をとる必要はなく,簡略化されたものでもよいとしており,(署名の機能である)人の同一性を表示することを超えて,文書の実質的意義である一定の意思・観念をも表示するものとみられるかどうかによって,文書に当たるかどうかを決しているものとみられる(条解刑法394頁)。
 学説は,署名と簡略文書との区別について,判例の結論に賛同するのが多数説であるが(山口厚・刑法各論425,490頁等),署名と同視できる程度に簡略化された形の文書は署名と解すべきであるとの見解もあり(平川宗信・刑法各論470頁等),さらに,他の文書から外形上独立した文書とみられないものは,文書としての独立性が認められないという理由で,文書性を否定すべきであるという見解もみられる(木藤繁夫・研修456号77頁)。
 このような判例・学説の状況の中で,弁護人は,配達証書の一部である受取人証印欄に捺印する行為は,配達証書と別個の受取証という私文書を作成したことにはならない旨判示した大判大8.7.17刑録25輯875頁や,上記木藤説に影響を受けたとみられる福岡高判平15.2.13判時1840号156頁を援用して,本件は署名偽造にとどまる旨主張した。
 しかし,本件郵便送達報告書と上記大審院判例が対象とする書留通常郵便物配達証書とは,制度の趣旨や実際の取扱いを異にしているし,両者の書面を比較しても,その体裁,記載事項等の面で大きく異なっている。郵便送達報告書については,郵便法規上,記載事項,様式等が定められており,書面の体裁や実際の取扱いをみても,送達書類を受領した者において,押印又は署名をすることは,その上部にあらかじめ記載されている送達書類を受け取ったことを認める趣旨になるものと考えるのが一般的であろう。受領者の押印又は署名は,その他の記載と相まって,当該受領者が送達書類を受領したという観念を表示する文書とみることが相当であると思われる。郵便送達報告書を主として取り扱う裁判所書記官としても,そのように理解するのが通常で,その記載を見た通常人の理解も同様と思われる。また,郵便送達報告書が送達の適法性を判断する際に占める重要性に照らすと,上記のような「受領者の押印又は署名」が持つ意味に対する公共の信用は,文書偽造罪において保護すべきものとみるのが相当といえよう。
 本決定は,このような点を考慮して,郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人の氏名を冒書する行為が有印私文書偽造罪を構成する旨判示したものと思われる。郵便送達報告書が裁判手続上有する重要な意味,機能に照らし,本決定は,重要な意義を有するものと思われる。
 3 詐欺罪について
 財産犯の成立には不法領得の意思を要することは,確立した判例であり(最二小判昭26.7.13刑集5巻8号1437頁等),このことは詐欺罪についても同様であると思われる(大判大11.12.15刑集1巻763頁等)。そして,判例は,不法領得の意思について「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」をいうものとされるが,不法領得の意思を認めた判例の中には,投票用紙の持ち出し(最一小判昭33.4.17刑集12巻6号1079頁),下着盗(最三小決昭37.6.26裁判集刑143号201頁)などのように,厳密な意味での「その経済的用法」に従って利用又は処分する意思としてはとらえられないものも見受けられる。しかし,もともと「経済的用法に従って利用又は処分する意思」が必要とされる趣旨は,単純な毀棄,隠匿の意思による場合を排除するためにあると考えられることからすれば(栗田正・昭33最判解説(刑)241頁),実質的に何らかの意味で「その物の本来的用法」に従って利用又は処分する意思があれば足りるとされてきたとしても,そのこと自体は合理的といえる。より端的に,「毀棄,隠匿の意思を除外した何らかの用途に利用・処分する意思」とみることも可能と思われる。これまでの判例は,おおむね,この「毀棄,隠匿の意思を除外した何らかの用途に利用・処分する意思」があるかどうかによって,不法領得の意思の存否を決しているようにみられるのである。学説上も,判例と同様の見解が多数説であるといえよう(山口・前掲195頁等)。
 これを本件の事案に当てはめてみると,本件では,被告人らは当初から廃棄する意図で犯行に及び,実際にも犯行後速やかに廃棄するなどしているのであるから,これまでの判例の流れに即す限り,「毀棄,隠匿の意思を除外した何らかの用途に利用・処分する意思」ではなく,正に「そのまま廃棄する意思」であったとみられる。そうすると,本件において,不法領得の意思を認めることには無理があり,詐欺罪は成立しないとするのが相当と思われる。
 一方,本件の1審判決は,債務者が借用証書を盗み出して破棄する場合は不法領得の意思が肯定される旨の近時の学説の見解(佐伯仁志・研修645号11頁)を本件に適用しているものとみられる。しかし,本件では被告人らの目的を達成するには,適式な送達の外形を装うために郵便配達員から騙し取ることが必須なのであるから,このことからしても,直ちに同様に考えることはできないと思われる。
 さらに,原判決は,被告人らは,郵便配達員から支払督促正本等を詐取して,それ本来の法的,経済的効用を発現させようとしていたから,その行為は,財物の経済的ないし本来的用法に従いこれを利用若しくは処分するという積極的な利用・処分意思に基づくものといえるとする。しかし,支払督促により債務名義を得ること(その前提として支払督促の効力が生じること)になるのは,支払督促正本等自体がその本来的ないし経済的効用として有する効果ではなく,支払督促正本等が債務者に適式に送達されること(それに加えて,債務者から督促異議申立て等がないこと)によって生じる効果である。このことは,本件で被告人らが債務者を装って支払督促正本等を詐取するのではなく,郵便配達員から窃取した場合を想定すれば明らかであると思われる。
 本決定は,以上のようなところから,詐欺罪における不法領得の意思を否定したものとみられ,その判示内容は事例に即した判断ではあるが,不法領得の意思の存否について,新たな判断事例を付加するものとして,理論的にも実務的にも意義を有するものと思われる(本決定の評釈として,松宮孝明・法セ603号121頁,山口厚・法教249号131頁がある。)。
(ウ)若干の整理
ウ 設例の検討
+(私用文書等毀棄)
第二百五十九条  権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。
(2)占有の有無(占有の意思)
ア 問題の所在
・自分が持っているのを忘れている場合。
イ 判例・学説
・物が占有者の支配の及ぶ場所に存在するを以て足りる。
+判例(S32.11.8)
理由 
 弁護人関原勇の上告趣意(補充訂正書を含む)について。 
 論旨第一点は要するに、被告人は本件写真機を拾つたもので盗んだものではないから占有離脱物横領罪を構成することあるも窃盗罪は成立しないとし、原判決は引用の判例に違反すると主張する。よつて本件写真機が果して被害者(占有者)の意思に基かないでその占有を離脱したものかどうかを考えてみるのに、刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない。 
 ところで原判決が本件第一審判決挙示の証拠によつて説示したような具体的状況(本件写真機は当日昇仙峡行のパスに乗るため行列していた被害者がバスを待つ間に身辺の左約三〇糎の判示個所に置いたものであつて、同人は行列の移動に連れて改札口の方に進んだが、改札口の手前約二間(三・六六米)の所に来たとき、写真機を置き忘れたことに気がつき直ちに引き返したところ、既にその場から持ち去られていたものであり、行列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間は約五分に過ぎないもので、且つ写真機を置いた場所と被害者が引き返した点との距離は約一九・五八米に過ぎないと認められる)を客観的に考察すれば、原判決が右写真機はなお被害者の実力的支配のうちにあつたもので、未だ同人の占有を離脱したものとは認められないと判断したことは正当である。引用の仙台高等裁判所判例は事案を異にし本件に適切でない(なお、引用の昭和二三年(れ)第七九七号事件は同年八月一六日上告取下により終了したものである)。また、原判決が、当時右写真機はバス乗客中の何人かが一時その場所においた所持品であることは何人にも明らかに認識しうる状況にあつたものと認め、被告人がこれを遺失物と思つたという弁解を措信し難いとした点も、正当であつて所論の違法は認められない。 
 論旨第二点は、判例違反をいうけれども、原判決は右判例と相反する判断をしたものとは認められないから、論旨は採るをえない。 
 よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一政の意見で主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一) 
+判例(H16.8.25)
理由 
 弁護人滝谷滉の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ、本件における窃盗罪の成否につき、職権で判断する。 
 1 原判決の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。 
 (1) 被害者は、本件当日午後3時30分ころから、大阪府内の私鉄駅近くの公園において、ベンチに座り、傍らに自身のポシェット(以下「本件ポシェット」という。)を置いて、友人と話をするなどしていた。 
 (2) 被告人は、前刑出所後いわゆるホームレス生活をし、置き引きで金を得るなどしていたものであるが、午後5時40分ころ、上記公園のベンチに座った際に、隣のベンチで被害者らが本件ポシェットをベンチ上に置いたまま話し込んでいるのを見掛け、もし置き忘れたら持ち去ろうと考えて、本を読むふりをしながら様子をうかがっていた。 
 (3) 被害者は、午後6時20分ころ、本件ポシェットをベンチ上に置き忘れたまま、友人を駅の改札口まで送るため、友人と共にその場を離れた。被告人は、被害者らがもう少し離れたら本件ポシェットを取ろうと思って注視していたところ、被害者らは、置き忘れに全く気付かないまま、駅の方向に向かって歩いて行った。 
 (4) 被告人は、被害者らが、公園出口にある横断歩道橋を上り、上記ベンチから約27mの距離にあるその階段踊り場まで行ったのを見たとき、自身の周りに人もいなかったことから、今だと思って本件ポシェットを取り上げ、それを持ってその場を離れ、公園内の公衆トイレ内に入り、本件ポシェットを開けて中から現金を抜き取った。 
 (5) 他方、被害者は、上記歩道橋を渡り、約200m離れた私鉄駅の改札口付近まで2分ほど歩いたところで、本件ポシェットを置き忘れたことに気付き、上記ベンチの所まで走って戻ったものの、既に本件ポシェットは無くなっていた。 
 (6) 午後6時24分ころ、被害者の跡を追って公園に戻ってきた友人が、機転を利かせて自身の携帯電話で本件ポシェットの中にあるはずの被害者の携帯電話に架電したため、トイレ内で携帯電話が鳴り始め、被告人は、慌ててトイレから出たが、被害者に問い詰められて犯行を認め、通報により駆けつけた警察官に引き渡された。 
 2 以上のとおり、被告人が本件ポシェットを領得したのは、被害者がこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では、その時点において、被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても、被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず、被告人の本件領得行為は窃盗罪に当たるというべきであるから、原判断は結論において正当である。 
 よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 
 (裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)
++解説
《解  説》
 1 本件は,被害者が公園のベンチ上に置き忘れたポシェット(以下「被害品」という。)をその立ち去った直後に領得した被告人の行為が,窃盗罪に当たるか占有離脱物横領罪にとどまるかという,窃盗罪の要件たる被害者の占有継続の有無が問題となった事案である。
 2 本決定は,窃盗罪の成立を認めた原判決の結論を是認したものであるが,その理由付けが原判決と異なっていることも,併せて注目されると思われる。すなわち,原判決は,被害者が,被害品をベンチ上に置き忘れた後,2分位歩いて,約200m位離れた駅改札口付近まで来た際に置き忘れに気付き,公園まで走って戻ったことや,それから被害品を取り戻し,被告人を犯人として警察官に引き渡すまでの事実経過を詳しく摘示した上,①被害者が被害品の現実的握持から離れた距離及び時間は,極めて短かった,②この間,公園内はそれほど人通りがなかった,③被害者は置き忘れた場所を明確に認識していた,④持ち去った者についての心当たりを有していた,⑤実際にも,すぐさま携帯電話を使って所在を探り出す工夫をするなどして,まもなく被害品を被告人から取り戻すことができている,といった事実を挙げた上,被告人が被害品を不法に領得した際,被害者の被害品に対する実力支配は失われていなかったとして,被害者の占有継続を認めた。これに対し,本決定は,「被告人が被害品を領得したのは,被害者がベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であった」という,原決定が判示していない事実を記録により認定した上,原判決が挙げた上記①~⑤の点には格別言及せず,そのような事実関係の下では,その時点において,被害者が被害品のことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても,被害者の被害品に対する占有はなお失われていなかったとして,窃盗罪の成立を認めている。つまり,原判決は,被害者が被害品を取り戻すまでの事情を検討しているのに対し,本決定は,端的に被告人が被害品を領得した時点の事情を問題としていると理解されるのである。
 3 被害者の現実的握持から離れた財物を犯人が領得した行為が窃盗罪に当たるかどうかが問題となるケースには,被害者が意識して特定の場所に置いた場合と,本件のように公衆が自由に出入りする場所に置き忘れた場合等とあるが,後者では前者に比して被害者の占有継続が認められる範囲が限定される傾向にあると指摘される(前田雅英・刑法各論講義〔第3版〕169頁,池田耕平・研修527号25頁等)。後者に属する最高裁判例には,バス待ちの行列に並んでいた被害者が,近くの台の上に写真機を置き忘れたまま行列の移動に伴って離れ,置き忘れに気づいて引き返すまでの間に,犯人がそれを持ち去ったという事案に係る(1)最二小判昭32.11.8刑集11巻12号3061頁がある。この判決は,刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であるが,必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく,社会通念上物が占有者の支配内にあるといえれば足りる旨を判示した上,当該事案では,「行列が動き始めてから引き返すまでの時間」が約5分にすぎず,「置き忘れた場所と引き返した地点との距離」が20m弱にすぎなかったことなどを指摘し,写真機はなお被害者の実力的支配のうちにあったとして,窃盗罪の成立を認めたものである。
 このような置き忘れの事例に係る下級審裁判例には,被害者の占有継続を肯定したものとして,(2)東京高判昭35.7.15東高刑時報11巻7号191頁(ただし故意を否定),(3)東京高判昭35.7.26東高刑時報11巻7号202頁,判タ107号53頁,(4)東京高判昭54.4.12判時938号133頁,否定したものとして,(5)東京高判平3.4.1判時1400号128頁等がある。これら裁判例も,前記(1)の最判と同様,時間や場所の近接性等を検討して,被害品がなお被害者の実力的支配のうちにあったといえるかどうかを判断していると見られるが,被害者が置き忘れてからいつの時点までの近接性を問題にするのか(被告人の領得行為時までか,被害者が置き忘れに気付いた時点までか,被害品を取り戻した時点までか等)については,判文上は必ずしも軌を一にしていないことが指摘できるところであった。
 学説においては,近時は前記(1)の最判の結論を支持する立場が一般的であるといってよいと思われる(反対説として,小暮得雄・刑法判例百選Ⅱ133頁等)が,その理由付けにおいては,時間的・場所的近接性を重視する立場(前田・前掲,山口厚・刑法各論177頁,田中利幸「刑法における『占有』の概念」刑法理論の現代的展開・各論192頁等)と,同事案では行列が続いていることから他人の事実的支配の継続を推認させる状況があったことを重要な根拠とする立場(西田典之・刑法各論143頁,大谷實・刑法各論202頁)とに分かれている。そして,後者の立場からは,「被害者が駅の窓口に財布を置き忘れ,1~2分後,15~16mのところで引き返した」という前記(4)の事案では,占有の継続は認められないと主張されている(もっとも,同事案では,「被告人は,被害者が窓口に財布を置き忘れて立ち去る一部始終を5~6m離れた地点で見ていて,被害者がその場を離れるや直ちに窓口に近付き財布を手中に収めた」という事実も判決中に認定されているのであるが,この点に意識的に言及した学説は見当たらないようである。)。
 4 このような中で出された本決定の第1の意義は,本件のような事案において占有継続の有無の判断に当たり考慮されるべきものは,被害者が置き忘れてから被告人の領得行為の時点までの時間的・場所的近接性であることを明確にしている点にあるといえよう。確かに,窃盗罪の成立には,領得行為時に被害者の占有の侵害が認められるのであればそれで必要十分であって,被害者がそのまま立ち去ったことから,たとえ当該領得行為がなかったとしても,いずれ被害者は占有を喪失したはずであったと考えられるとしても,いったん成立した窃盗罪が消滅するはずはないであろう。逆に,領得行為より以前に被害者の占有が失われていたのであれば,窃盗罪が成立しないことは当然であって,その後たまたま被害者が犯人から被害品を取り返して占有を回復したとしても,占有離脱物横領罪が窃盗罪に格上げされるわけはないであろう。これに対し,前記(1)の最判の事案では,被告人が犯行を否認していたこと等のために領得行為の時点を特定できなかったことから,疑わしきは被告人の利益にとの立場で,被害者の供述を基にして想定される最大限の時間的・場所的間隔を前提として,占有継続の有無を判断しているため,「被害者が離れてから引き返すまでの時間」や「置き忘れた場所と引き返した地点との距離」を判断要素としたように読めるものとなっていると理解されよう。このように考えてみると,この点はあまり異論がないところではないかと思われるが,従来の下級審裁判例の一部に混乱があったことは否定できないし,学説も,上記最判の判文上の表現をそのまま受け入れて論ずるものが一般であったようであるから,本決定の意義は小さくないものと思われる。
 5 さらに,本決定が被害者の占有継続を肯定した点自体にも事例的な意義があると思われる。本件では,領得行為は,被害者が友人を駅まで送るため歩き出して約27m離れた場所に達した時点で行われたというのであり,時間的にも置き忘れてからせいぜい数十秒が経過した程度であったと考えられるから,時間的・場所的近接性に着目する限り,前記(1)~(5)等の従来の裁判例の一般的傾向に照らしても,被害者の占有継続を肯定することは可能であるように思われる。また,学説がいう,「気が付いて探せば容易に発見し得る状態」にあったかどうか(昭32最判解説(刑)578頁(寺尾正二),木村静子・判例刑法研究6巻29頁等)や,「眼の届く範囲内でのごく短時間の握持・監視の喪失」にとどまるかどうか(田中・前掲190頁)といった考え方を当てはめても,本件では占有継続を肯定する結論に至るのではないかと考えられる(なお,本決定では,「被告人が約27m先に被害者の姿を見たとき,今だと思って被害品を取り上げた」ことが認定されているから,逆に言えば,仮に被害者がその時点で振り返れば,被告人の姿や被害品を目にすることもできたと思われることなども,本件で占有継続を肯定する方向の事情として指摘できるであろう。)。これに対し,前記(1)の最判の事案では行列が続いていたからこそ占有継続が肯定されたとする前記学説によれば,そのような事情がない本件では占有を否定するという結論もあり得ないではないが,本決定はこのような考え方を採らなかったものと思われる(鈴木左斗志「刑法における『占有』概念の再構成」学習院大学法学会雑誌34巻2号153頁等参照)。
 6 本決定は,刑法の基本的かつ古典的な論点に係るものであるが,事例判断としての意義に加え,従来必ずしも明確でなかったこの種事案に関する判断の枠組みを示した意義も有している。この種事件の審理,ひいて立件・捜査に当たっては,領得行為の時点をできる限り明らかにし,その時点における被害者の占有継続の有無に焦点を当てた事案の解明を尽くすべきであることを改めて明確にしたものとして,刑事実務にとって注目すべき決定であると思われる。
ウ 設例の検討
・閉鎖敵支配領域内にあった。→事実上の支配
包括的な占有の意思
(3)共謀共同正犯
自己の犯罪を犯したといえるか・・・。
(4)親族相盗例
ア 問題の所在
イ 親族相盗例に関する判例・学説
(ア)親族相盗例の趣旨(法的性質)
+(親族間の犯罪に関する特例)
第二百四十四条  配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2  前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3  前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

+判例(H20.2.18)
理由
被告人3名の弁護人宗像紀夫、同武藤正隆の上告趣意のうち、憲法違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、原判決は刑法244条所定の親族の範囲につき民法の定めるところと異なる判示をしたものではないから、所論は前提を欠き、その余は単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ、被告人Aの業務上横領罪について、職権で判断する(以下、同被告人を、単に「被告人」という。)。
1 本件は、家庭裁判所から選任された未成年後見人である被告人が、共犯者2名と共謀の上、後見の事務として業務上預かり保管中の未成年被後見人の貯金を引き出して横領したという業務上横領の事案であるところ、所論は、被告人は、未成年被後見人の祖母であるから、刑法255条が準用する同法244条1項により刑を免除すべきであると主張する。
2 しかしながら、刑法255条が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年(れ)第1284号同年12月12日第三小法廷判決・刑集4巻12号2543頁参照)。
一方、家庭裁判所から選任された未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項)、その権限の行使に当たっては、未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条、644条)、家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また、家庭裁判所は、未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは、職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように、民法上、未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。したがって、本件に同条項の準用はなく、被告人の刑は免除されないとした原判決の結論は、正当として是認することができる。
よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)

(イ)親族相盗例の適用要件
a 親族の意義
・民法725条

b 親族相盗例が適用されるために必要な親族関係の範囲
・親族関係は、窃盗犯人と所有者・占有者双方との間に必要!
+判例(H6.7.19)
理由
弁護人上田誠吉の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、職権で判断すると、本件は、被告人が、A株式会社(代表取締役B)の所有し、被告人と六親等の血族の関係にあるCの保管する現金を窃取したという事案であるところ、窃盗犯人が所有者以外の者の有するる財物を窃取した場合において、刑法一四四条一項が適用されるためには、同条一項所定の親族関係はへ窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要するものと解するのが相当であるから、これと同旨の見解に立ち、被告人と財物の所有者との間に右の親族関係が認められない本件には、同条一項後段は適用されないとした原判断は、正当である。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也)

(ウ)親族関係の錯誤

・政策説・一身的刑罰阻却事由説
=親族関係は客観的に存在することを要し、かつ、それで十分であって、犯人の認識は問わないから、親族関係が客観的に存在しないのに存在すると誤信していても親族相盗例は適用されない!
+判例(大阪高判S28.11.18)
理由
弁護人吉田勘三の控訴趣意について。
原判示事実は、要するに、被告人が別居中の実兄Aの所有であると誤信して親族でないB所有のラジオ一台と雨靴一足を窃取したというのであつて、所論は、これに対し、右は事実の錯誤に該当するから刑法第三八条第二項を適用して親族相盗の例に準じ軽きに従つて処断すべきものである。というのである。
思うに、故意は罪となるべき事実の認識をいうのであるから、事実の錯誤が故意を阻却する可能性のあるのは、その錯誤が罪となるべき事実について存する場合に限るのであり、刑法第三八条第二項もまた右の場合に限つて適用されるに止るのである。しかして、窃取した財物が別居の親族の所有である場合においては、告訴を待つてその罪を論ずるだけのことであつて、進んで窃盗罪の成立を阻却するものでないことは刑法第二四四条第一項が「第二百三十五条ノ罪及ヒ其未遂罪ヲ犯シタル者」と規定していることからしても明かであるから窃盗罪の客体としてはその財物が他人の所有であるを以て足り、その他人が刑法第二四四条第一項所定の親族であるや否やは窃罪盗の成否に影響を及ぼすものではない従つて、財物の所有者たる他人が別居の親族であるとの錯誤は窃盗罪の故意の成立を阻却するものではなく、この点については刑法第三八条第二項もまた適用の余地がないのであるただBの財物をAの財物であると誤信した点において罪となるべき事実に関する具体的の錯誤が存するけれども、他人の物を他人の物と信じたことは相違がなく、その認識とその発生せしめた事実との間には法定的事実の範囲内において符合が存するから、右の錯誤を以て窃盗の故意を阻却するものということができず、この点についても刑法第三八条第二項を適用することができない。被告人の本件所為に対し刑法第三二五条を適用した原審の措置は結局相当であつて、その間所論のような違法があるということはできない。論旨引用の福岡高等裁判例は同居の親族の物と誤信した場合に関するものであつて、本件には適切ではない。
(なお大正一二年四月二七日大審院判例参照)。
よつて刑事訴訟法第三九六条刑法第二一条に則り主文のように判決する。
第1刑事部
(裁判長判事 梶田幸治 判事 井関照夫 判事 西尾貢一)

ウ 設例の検討
(ア)Aのペンダントの窃盗について
(イ)Aの腕時計の窃盗について
(ウ)Bの罪責

5.盗品等に関する罪をめぐる問題
(1)問題の所在
(2)盗品等関与罪の罪質
ア 学説
+(盗品譲受け等)
第二百五十六条  盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。
2  前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、十年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。

・罪質
追及権説
=財産犯罪の被害者が被害財物に対して有する回復請求権の実現を困難にする行為
本犯助長的性格も重視

イ 判例

+判例(S23.11.9)
理由
被告人A同B両名弁護人本間大吉の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
しかし、贓物に関する罪の本質は、贓物を転々して被害者の返還請求権の行使を困難もしくは不能ならしめる点にあるのであるから、いやしくも贓物たるの情を知りながら贓物の売買を仲介周旋した事実があれば、既に被害者の返還請求権の行使を困難ならしめる行為をしたといわなければならないから、其周旋にかかる贓物の売買が成立しなくとも、贓物牙保罪の成立をさまたげるものではない、そして原審においては被告人はC某の依頼を受け昭和二二年八月二八日頃山口市a町D旅館等において、蒲団側一七八点外衣類手袋等を盗贓品たることの情を知りながらE某外一名に対し売却の周旋をした事実を認定し、これに対して刑法第二五六条第二項を適用したことは判文上明白であるから、何等の違法はない。
論旨は贓物牙保罪の成立するには、被告人において贓物たるの情を知りながら、売主買主間に介在して売買を遂げさせることを要するものであつて周旋にかかる売買が成立しなければ贓物牙保罪は成立しないものであるという独自の見解に基いて原判決の理由不備を非難するのであるから、理由なきものである。よつて刑事訴訟法第四四六条により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

+判例(S34.2.9)
理由
弁護人岡崎耕三の上告趣意について。
所論は憲法違反を主張するけれども、その実質は単なる法令違反を主張するものであつて、上告の適法な理由とならない。(賍物に関する罪は、被害者の財産権の保護を目的とするものであり、被害者が民法の規定によりその物の回復を請求する権利を失わない以上、その物につき賍物罪の成立することあるは原判示のとおりである。)
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 膝田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

(3)窃盗本犯・共犯による盗品等関与罪の成否
ア 本犯
・財産罪の刑に吸収され、盗品等関与罪は成立しない。
←本犯助長的性格が考えられない。

+判例(S24.10.1)
理由
弁護人中野峰夫の上告趣意はその第一点について。
原判決は所論強盗幇助(判示第一)の事実については、証人Aの証言の外その挙示する各証拠を綜合してこれを認定しているのであつて、所論のごとく右Aの証言を唯一の証拠としているのではない。しかして右各証拠を綜合すれば、被告人がA等に本件拳銃を貸与した際における諸般の情況が判明し、これと右Aの証言と相まつて、被告人は、判示のごとく、A等が「或は強盗の用に供することがあるやも知れないことを認識しながら拳銃一挺を貸与し」た事実を認定することができるのであつて、この点に関する論旨は原判決の証拠説明の趣意を正解しないで、これを攻撃するものであつて、採用に値しない。又、原判決が引用したAの証言中「その時被告人は自分等が悪いことをするということは知つて居つた」というのは、右証言を録取した原審公判調書によれば、「知つて居つたと思います」とあることは所論のとおりであるけれども、いづれにしても、これは、同証人が当時実験した事実から推測した、その際における被告人の心裡状態についての自己の判断を述べたもので、所論のごとく単なる証人の意見若しくは想像を述べたものではないのであつてかくのごとき証言は旧刑訴第二〇六条によつて、その証拠能力を認められているのである。従つて、原判決は、所論のごとく証拠として採用することのできない証人の供述を証拠に供した違法があるということはできない。論旨は理由がない。
同第二点について。従犯は他人の犯罪に加功する意思をもつて、有形、無形の方法によりこれを幇助し、他人の犯罪を容易ならしむるものであつて、自ら、当該犯罪行為、それ自体を実行するものでない点においては、教唆と異るところはないのである。しかして、自ら強窃盗を実行するものについては、その窃取した財物に関して、重ねて賍物罪の成立を認めることのできないことは疑のないところであるけれども、従犯は前に述べたごとく、自ら強窃盗の行為を実行するものではないのであるから、本件におけるがごとく、強盗の幇助をした者が正犯の盗取した財物を、その賍物たるの情を知りながら買受けた場合においては、教唆の場合と同じく従犯について賍物故買の罪は成立するものとみとめなければならない。(昭和二四年(れ)六四号同年七月三〇日第二小法廷判決参照)従つてこの点に関する所論の見解はこれを採用することができない。たゞ原判決はその判示第三の事実において、被告人が、その故買にかかる賍物を他に運搬した事実を認定し、これに対して刑法第二五六条第二項の規定を適用していることは、原判文上明らかであるが、同一人が既に故買した物件を他に運搬するがごときは、犯罪に因て得たものの事後処分たるに過ぎないのであつて、刑法はかゝる行為をも同法第二五六条第二項によつて処罰する法意でないことはあきらかである。しからば原判決は罪とならない行為を罪として処断した違法があるものと云わなければならない。この点において論旨は理由あり、原判決は刑訴施行法第二条旧刑訴第四四七条により破毀を免れないものである。
よつて、旧刑訴第四四八条に従い原判決を破毀した上、更に本件につき判決することとし原判決の確定した事実に対し法律を適用するに、判示第一の強盗幇助の点は、刑法第二三六条第一項第六二条第一項に、判示第二の賍物故買の点は、同法第二五六条第二項に、、判示第三の公務執行妨害の点は同法第九五条第一項に、判示第四の拳銃不法所持の点は銃砲等所持禁止令第二条第一条第一項に、各該当するところ、強盗幇助の点については刑法第六三条第六八条第三号を適用して法律上の減軽をし、公務執行妨害罪並に拳銃不法所持罪については、その所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条に則り、懲役刑につき最も重い賍物故買罪の所定刑に併合罪の加重をした刑期及び賍物故買罪につき定める罰金額の各範囲内において(罰金額については昭和二三年法律第二五一号によつて変更があつたので、刑法第六条に従い軽い行為当時のものによる)被告人を懲役六年及び罰金一、〇〇〇円に処し、被告人がこの罰金を完納することができないときは同法第一八条により金五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収にかゝる拳銃一挺(東京高等検察庁昭和二三年押第三、〇三一号の六)は判示第四の拳銃不法所持罪の組成物件で、犯人以外の者に属さないから同法第一九条第一項第一号第二項に従つて、これを没収する。
以上の理由により主文の如く判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

イ 共犯
・共同正犯は、盗品等関与罪は成立しない。
・教唆犯・ほう助犯は盗品等関与罪は成立する。両罪は併合罪!!
←本犯助長的性格から。

(4)本犯の被害者に対する盗品等有償処分あっせん罪の成否
←追及権が害されていないようにも見えるため問題となる。

+判例(H14.7.1)
理由
弁護人石坂基の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
【要旨】なお、所論にかんがみ、職権で判断するに、盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」に当たると解するのが相当である(最高裁昭和25年(れ)第194号同26年1月30日第三小法廷判決・刑集5巻1号117頁、最高裁昭和26年(あ)第1580号同27年7月10日第一小法廷決定・刑集6巻7号876頁、最高裁昭和31年(あ)第3533号同34年2月9日第二小法廷決定・刑集13巻1号76頁参照)。これと同旨の見解に立ち、被告人の行為が盗品等処分あっせん罪に当たるとした原判断は、正当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)

++解説
《解  説》
一 本件は、被告人らが手形ブローカーから入手した盗品である約束手形を窃盗の被害に遭った会社の子会社に売却し、有償の処分のあっせんをしたという事案である。すなわち、A社は、約束手形一八一通(額面合計約七億八〇〇〇万円)等を盗まれたが、被告人は、共犯者と共謀の上、氏名不詳者から、このうちの約束手形一三一通(額面合計約五億五〇〇〇万円)の売却を依頼され、これらが盗品であることを知りながら、A社の子会社であるB社に代金約八〇〇〇万円で売却し、盗品の有償の処分のあっせんをしたというのである。
一、二審において、弁護人は、被告人らの本件行為は、被害者に盗品等を回復させるものであるから、刑法二五六条二項の盗品等処分あっせん罪に当たらないと争ったが、一、二審判決は、いずれも同罪の成立を認めた。
弁護人の上告趣意は、被告人らの行為は被害者の盗品に対する追求権を害したものではないから、盗品等処分あっせん罪に当たらないというものであった。本決定は、弁護人の上告趣意が適法な上告理由に当たらないとした上、盗品等処分あっせん罪の成否について、職権で、「盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法二五六条二項にいう盗品等の『有償の処分のあっせん』に当たると解するのが相当である」と判示し、これと同旨の原判決の判断を是認した。

二 盗品等に関する罪(刑法第三九章)は、かつては、「賍物罪」と呼ばれていたが、平成七年の法改正により、罪名を改められた。本件で問題となっている盗品等処分あっせん罪(刑法二五六条二項)も、かつては「賍物牙保罪」と呼ばれていた。従前、「賍物」の意義に関しては、賍物罪の本質を財産犯罪の被害者が被害財物に対して有する回復請求権(追求権)の実現を困難にする行為と解し、賍物とは、財産犯によって領得された物をいうとする見解(追求権説)が判例、通説であった。しかし、刑法二五六条一項と二項の法定刑の差等を考慮すると、賍物罪を追求権侵害のみで理解することは困難であり、本犯助長的性格や利益関与的性格をも併せもつものとして理解するのが一般である(中谷瑾子「刑法講座6」一四五頁)。判例も、賍物罪のこのような性質を指摘して、その成立範囲を純然たる追求権侵害にとどまらず、その周辺の行為をも取り込んでいたとみることができる(最三小決昭26・1・30刑集五巻一号一一七頁、本誌一〇号五八頁、最二小決昭34・2・9刑集一三巻一号七六頁等)。
例えば、最一小決昭27・7・10刑集六巻七号八七六頁、本誌二三号四〇頁は、窃盗の被害者から賍物の回復を依頼されて、これを被害者宅に運搬し返還したとしても、窃盗犯人に協力してその利益のために賍物の返還を条件に被害者をして多額の金員を交付させるなど、賍物の正常な回復を困難にした場合は、賍物運搬罪が成立するとしている。この事案においては、被告人は、盗品を被害者宅に運搬し返還したのであるから、被害者の追求権に対する侵害がないとして、この判例に反対する見解(西田典之「刑法各論」〔第二版〕二六四頁)もある。しかし、この判例は、このような行為も「盗品等の正常な回復を困難にする」ものとして、追求権の意義を実質的に把握するとともに、賍物罪の利益関与的性質をも考慮に入れて、賍物運搬罪の成立を認めたものと解することができる(前田雅英「刑法各論講義」〔第三版〕二九一頁参照)。

三 本件において被告人らが盗難手形を売却した相手方は、被害者であるA社ではなく、その子会社であるB社である。しかし、A社とB社は、代表者や役員構成が共通しており、被告人らは、当初からA社の役員と接触して盗難手形の売込みを打診し、交渉を行っている上、A社においても、同社の役員や従業員が対応に当たり、最終的にA社の事情でB社の従業員が買取りを担当したため、B社との間で売買契約が成立したという事情がある。それゆえ、被告人らは、実質的には被害者に対して有償処分のあっせんを行ったといえる。
このような事実関係の下で、本件については、基本的に前記最一小決昭27・7・10の考え方が妥当するといえよう。被害者は、盗品である約束手形が善意取得されない限り、所持人である被告人らから無償で約束手形の返還を求める権利を有しており、また、盗難手形の善意取得を阻止するため、公示催告の上除権判決を申し立てることもできる。しかし、これらの法的手段には費用や手間がかかることから、被害者が、取引先に対する信用を害することを恐れ、盗難手形を簡易迅速に回収するため、あえて有償での回収に応じることもあり得るところである。また、被告人らのように、あえて被害者に盗難手形の買取りをあっせんする行為も、実際には世上広く行われているようである。このような被告人らの行為は、被害者にとって法的に正常な盗品等の回復といえないことはもとより、窃盗等の犯罪を助長するという意味では、被害者以外の者に買取りをあっせんする場合と異なるところはないといえよう。また、刑法二五六条二項の文言上も、有償処分のあっせんの相手方に制限はなく、被害者に対して盗品等の有償処分のあっせんを行った場合を除外する趣旨であるとは解されないであろう。本決定は、このような考慮から、前記のような解釈を示して、本件における盗品等処分あっせん罪の成立を肯定したものと考えられる。
四 本決定のような考え方においては、窃盗等の被害者の依頼を受けて盗品等の買取り等の交渉を行った場合にも、盗品等処分あっせん罪の成立を認めることになるのではないかという疑問も生じ得るところである。しかし、そのような場合には、被害者の承諾があるので、違法性が阻却され、同罪の成立が否定される場合が多いと考えられるから、本決定のような考え方を採る妨げとはならないであろう。
五 このように、本決定は、従前の判例の流れに沿ったものであるが、これまでに同種の判例はなく、新たな判断を示したものであり、かつ、盗品等に関する罪の性質を考える上で貴重な先例となるものであるので、紹介する次第である。

+判例(S27.7.10)
理由
被告人Aの弁護人内田八三郎、同横地秋二の上告趣意並びに被告人A、同Bの弁護人端元隆一の上告趣意第二点について。
しかし、原判決は、結局証拠に基き被告人A並びに原審相被告人C等の本件賍物の運搬は被害者のためになしたものではなく、窃盗犯人の利益のためにその領得を継受して賍物の所在を移転したものであつて、これによつて被害者をして該賍物の正常なる回復を全く困難ならしめたものであると認定判示して賍物運搬罪の成立を肯定したものであるから、何等所論判例と相反する判断をしていない。されば、所論は、いずれも原判決の認定と異つた事実関係を前提とするものであつてその前提を欠き刑訴四〇五条の適法な上告理由として採用し難い。
被告人両名の弁護人端元隆一の上告趣意第三点について。
所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
そして、記録を精査しても、本件につき被告人等に対し同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、刑訴四一四条、三八六条一項三号によう、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

(5)盗品等有償処分あっせん罪の成立時期

・あっせん行為が行われれば足り、盗品等の移転はもとより、契約の成立も不要である
+判例(S26.1.30)
理由
被吉人Cの弁護人梅山実明の上告趣意について
論旨は結局原審の量刑不当を主張することに帰するから上告適法の理由とならないものである。
被告人B上告趣意について
論旨は原判決事実摘示第三の強盗強姦の事実の内被告人がDを強姦したという点を否認しているが、被告人は原審において所論強姦の事実を認めており、原判決挙示の証拠によれば判示事実を認定するに十分である、そして論旨は結局原審の事実誤認と、犯罪の動機、現在の心境、家庭の事情、等を述べているにすぎないので上告適法の理由とならないものである。
被告人E上告趣意について
論旨は結局寛大な処置によつて執行猶予の判決をたまわりたいということに帰着する、しかしかような主張は上告適法の理由とならないものである。
被告人Aの上告趣意について。
論旨は原判決事実摘示第五の(一)の強盗傷人の事実につき自分は被害者Fを縛つたことなく、同人の受けたと称する切傷は本件強盗の際受けたものか否か疑わしく、仮に然りとするも、被告人には傷害の意思はなく、不可抗力によつて生じたものではないかと思うと主張する外、自己の生い立ち、戰災による環境の変化、敗戰後の世相、家庭の事情、犯罪の動機、犯罪事実の顛末、現在の心境等を述べているにすぎない、しかし所論強盗傷人の事実は原判決挙示の証拠により、これを認めることができるばかりでなく、被告人Aにおいて被害者を縛つたのではなく、又傷害の意思がなかつたとしても他の共犯者が爲した行爲に対しては共同正犯者として其責を負わなくてはならない、從つて此点に関する論旨は理由がないし、共余の論旨は上告適法の理由とならないものである。
被告人A、同Gの弁護人松尾菊太郎の上告趣意について
第一点について
しかし、原判決の基本となつた原審第五回公判調書には証拠調の手続に関し所論のような記載があるが、その記載中には押收物件を展示し其の都度、これについて意見弁解の有無を問うた旨の記載があるから、押收にかかる所論各証拠物について適法な証拠調が爲されたこと極めて明らかである、從つて論旨は理由がない。
第二点について
所論の聽取書及び被害品明細書というのは別冊記録三一五丁以下に編綴されているが右明細書は聽取書の末尾に編綴されて居り、両者の問には聽取書の作成者たる、巡査部長Hの契印が押されているばかりでなく聽取書の末項には所論の如く「私方被害品別に差出しました被害品明細表の通りであります」とのIの供述記載があるから、右明細書は聽取書と一体をなし、その記載は有効にIの供述の内容をなすものと認めるを相当とする、從つて右明細書に作成者たる被害者の署名捺印がなくとも、証拠能力に欠けるところはないといわなければならない。論旨は理由がない。
第三点一について
しかし、原判決はことさらに被告人Aが被害者を蹴つたとは認定していない、そして被告人等共犯者中の何人かゞ被害者に傷害を與えた事実は原判決挙示の証拠により、これを認め得るばかりでなく、強盗の共犯者が強盗の機会に他人を傷害した以上は強盗致傷の責を負わなければならないから、判示傷害が被告人の如何なる行爲に由來したか明らかでないとしても被告人の責罪に消長を來すものではない、從つて論旨は採用できない。
被告人Jの弁護人鈴村金一の上告趣意について
第一点について
論旨は上告人は本件賍物を買受入たるKに示しておらず、同人をして買受の意思を決定せしめるに至つていない、從つて賍物牙保罪は成立しないと主張する。しかし被告人はLから同人等が窃取した衣類二百六十余点の賣却方を依頼され賍物たる情を知りながら、Kに対し本件賍物を買受けられたき旨を申向けて斡旋し、同人と同道して賍物の所在場所に出向いた途中逮捕されたというのであつて、被告人の行為はL等が判示犯罪によつて得た賍物に関して同人等の為め不公正な取引を仲介周旋したものであつて一般に強窃盗等を誘発するおそれが十分にあるといわなければならない、されば被告人の右周旋行爲によつて未だ賍物の賣買は完成するに至らず、また本犯の被害者の賍物返還請求権行使を不能又は困難ならしめるおそれはなかつたとしても、尚行爲自体は既に賍物牙保罪の成立に必要な周旋行爲に該当するものと認めるを相当とする、論旨は賍物牙保罪は賍物に対する被害者の返還請求権の行使を不能、又は困難ならしめるおそれのある犯罪であると前提し被告人の無罪を主張するのであるが、賍物に関する罪を一概に所論の如く被害者の返還請求権に対する罪とのみ狹く解するのは妥当でない、(法が賍物牙保を罰するのはこれにより被害者の返還請求権の行使を困難ならしめるばかりでなく、一般に強窃盗の如き犯罪を助成し誘発せしめる危險があるからである)、從つて原判決が判示事実を以て賍物牙保罪は成立すると判断したことは正当であつて、所論の如き違法はなく論旨は理由がない。
第二点について
論旨は結局原審の事実誤認と量刑不当を主張することに帰着する、しかしかような主張は上告適法の理由となし得ないものであるから論旨は採用しがたい。
よつて旧刑訴四四六條により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
検察官 茂見義勝関與
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官穗積重遠は差支えの爲署名捺印することができない。裁判長裁判官 長谷川太一郎)

(6)設例の検討


・窃盗罪によって評価しつくされている範囲内のものであれば別罪を構成しないが、盗品でないかのように装って売却した場合には、新たに買主の法益を侵害したものとして詐欺罪の成立が認められる!!
+判例(S29.2.27)
理由
弁護人坂本英雄の上告趣意について。
論旨第一点は單なる法令解釋の違反を理由とする主張であり、同第二点は、判例違反をいうが、所論引用の判例は当裁判所昭和二四年(れ)第二八五号同二五年二月二四日判決(集四巻二号二五五頁)によつて変更されたものと認むべきであるから、本件に適切でなく、同第二点は、事実誤認の主張であつていずれも刑訴四〇五条の適法な上告理由とならない。(なお窃盗犯入が賍物を自己の所有物と詐つて第三者を欺罔して金員を騙取したばあいにおいては賍物についての事実上の処分行為をなすに止る場合と異り、第三者に對する関係において新な法益侵害を伴うものであるから窃盗罪の外に詐欺罪の成立を認むべきを相当とする)なお記録を精査しても本件につき刑訴四一一条に該当する事由はない。
よつて同四一四条三八六条一項三号一八一条により主文のとおり決定する。
この決定は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

・盗品かなと相手が思っていた場合は、相手が錯誤に陥っていないから、詐欺未遂。

6.まとめ


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です