(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
1.
+(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
+(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
+(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
+(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
909条からすると、共同相続人は遺産を合有ではなく、共有していることになる!
・共有物分割訴訟を提起できない!
+判例(S62.9.4)
理 由
上告人の上告理由第一点について
遺産相続により相続人の共有となつた財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によつてこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。したがつて、これと同趣旨の見解のもとに、上告人の本件共有物分割請求の訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決の結論に影響を及ぼさない説示部分を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 長島敦 坂上壽夫)
・第三者に譲渡したとき
+判例(S50.11.7)
理由
上告人らの上告理由について
上告人らの訴訟被承継人であるAが訴外Bからその有する本件土地建物の持分二分の一の贈与を受けてその共有権者になつたとし被上告人を相手として提起した共有権確認及び共有物分割訴訟につき、原判決は、本件土地建物は亡Cまたは亡Dの遺産であつて、被上告人と訴外Bが各二分の一の持分をもつて相続したものであるが、遺産の分割については当事者間においていまだ協議が調つていないことを確定したうえ、共有持分権の譲受人であつても遺産分割以前に遺産を構成する個々の財産につき民法二五八条に基づく共有物分割訴訟を提起することは許されないとして、Aの右訴を却下したものである。
しかし、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法二四九条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であつて(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以下の共有としての性質を有するものであることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法二五八条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。けだし、共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければならないものではない。のみならず、遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法九〇六条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づき、これらの者を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものであるところ、第三者が共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、共同相続人に対して全遺産を対象とし前叙の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によつて処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもなく、さらに、第三者に対し右のような遺産分割審判手続上の地位を与えることは前叙遺産分割の本旨にそわず、同審判手続を複雑にし、共同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができないという著しい負担をかけることがありうる。これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動産のうち共同相続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、なお遺産分割の対象とされるべきものであり、第三者が右持分権に基づいて当該不動産につき提起した共有物分割訴訟は、ひつきよう、当該不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割することを目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決が共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することはないということができる。このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、本件分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相当とすべきである。
したがつて、これに反する原審の判断には法令解釈を誤つた違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
なお、共有権確認の訴について、原審はなんら理由を開示することなく該訴を却下しているが、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産についての共有持分権を譲り受けたと主張するAが右譲受を争う被上告人を相手として提起した共有権確認の訴が当然に不適法になる理由はないから、原審の右判断には法令の解釈を誤つたか理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理をつくす必要があるから、これを原審に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 吉田豊 裁判官 本林讓)
+(相続分の取戻権)
第九百五条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
2.
+(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
+(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
・一人で占有する少数持分権者に対して
+判例(S41.5.19)
理由
上告代理人小島成一、同平井直行の上告理由第一点ないし第三点について。
原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認しえないわけではなく、右事実関係のもとにおいては、Aにおいて本件宅地買受当時内心において上告人に対し将来適当な時期に本件宅地を贈与しようと考えていたが、その後当初の考えをかえて上告人に対しこれを贈与する意思をすてたから、本件宅地の贈与はついに実現されず、かつ、本件建物についての贈与も認められないとする原判決の判断は、当審も正当として是認しうる。
原判決には、所論のような違法があるとは断じがたく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・判断、事実認定を非難するに帰し、採用しがたい。
同第四点の第二・第三について。
所論の点に関する事実認定は挙示の証拠により肯認でき、その事実関係のもとでは、本件宅地の所有者はAであつて、上告人でないとした原判決の判断は、正当であり、原判決には、所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。
同第五点について。
本件一件記録に徴しても、原審に所論のごとき違法があるとは認めがたく、所論は採用しがたい。
同第四点の第一について。
思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
しかるに、今本件についてみるに、原審の認定したところによればAの死亡により被上告人らおよび上告人にて共同相続し、本件建物について、被上告人Bが三分の一、その余の被上告人七名および上告人が各一二分の一ずつの持分を有し、上告人は現に右建物に居住してこれを占有しているというのであるが、多数持分権者である被上告人らが上告人に対してその占有する右建物の明渡を求める理由については、被上告人らにおいて何等の主張ならびに立証をなさないから、被上告人らのこの点の請求は失当というべく、従つて、この点の論旨は理由があるものといわなければならない。
よつて、原判決は被上告人らの上告人に対して本件家屋の明渡を求める部分について失当であり、その余は正当であるから、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、三八六条、九六条、九二条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)
+(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
3.
・不当利得の主張
+判例(H12.4.7)
理由
一 上告代理人隅田誠一の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
二 職権により、原審の判断の適否につき判断する。
本件訴訟において、上告人は、被上告人高橋培之に対し、原判決別紙家屋目録二記載の建物(以下「本件建物二」という。)の収去及び原判決別紙土地目録一、二記載の土地(以下「本件各土地」という。)のうち本件建物二の敷地部分の明渡し、右収去等までの間の地代相当額の金員の支払並びに本件各土地の登記済権利証の引渡しを、被上告人山田瑞子に対し、右家屋目録一記載の建物(以下「本件建物一」という。)の収去及び本件各土地のうち本件建物一の敷地部分の明渡し並びに右収去等までの間の地代相当額の金員の支払を、被上告人山田佳生に対し、本件建物一からの退去を、それぞれ請求している。その請求原因として、上告人は、(1) 上告人の亡夫である高橋達枝が昭和三一年一二月二五日及び同三三年三月一八日に国有林の払下げを受けて本件各土地を取得し、同五九年一二月四日に達枝が死亡したことにより上告人がこれを相続により取得した、(2) そうでないとしても、高橋坦が前記各日に本件各土地の払下げを受け直ちにこれらを達枝に贈与し、達枝の死亡により上告人がこれらを相続取得した、などと主張している。被上告人らは、上告人の所有権取得を争い、被上告人培之は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのは高橋廣子であり、被上告人瑞子は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのは坦であると主張している。
原審は、上告人の右(1)の主張事実のうち達枝が本件各土地の払下げを受けたことは認められず、右(2)の主張事実のうち、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのが坦であることは認められるが、坦から達枝が贈与を受けたことは認められないとして、第一審判決のうち上告人の建物収去土地明渡し及び建物退去の請求を認めた部分を取り消して、右請求及び原審で拡張した本件各土地の登記済権利証の引渡請求を棄却し、同判決のうち上告人の金員支払の請求を棄却した部分に対する上告人の控訴を棄却する趣旨の判決をした。
しかしながら、原審は、坦が昭和四二年五月二二日に死亡したこと、坦には妻廣子並びに達枝、被上告人培之及び同瑞子の三人の子があったこと、達枝が同五九年一二月四日に、廣子が平成四年五月二四日に、それぞれ死亡したこと、坦が昭和二九年ないし三〇年に本件建物一及び本件建物二を建築してこれらを取得した上、同四二年四月ころに廣子にこれらを贈与し、同五三年四月一〇日に廣子から被控訴人瑞子に本件建物一が同培之に本件建物二が各贈与されたことを併せて認定している。以上の事実によれば、特段の事情のない限り、坦の死亡に伴い、法定相続人の一人である達枝が本件各土地の九分の二の持分を相続により取得したはずのものである。そうすると、上告人が達枝の右持分を相続により取得したというのであれば、上告人は、同様に坦及び廣子の死亡に伴い本件各土地の持分を相続により取得した共有者である被上告人培之及び同瑞子に対して本件各土地の地上建物の収去及び本件各土地の明渡しを当然には請求することができず(最高裁昭和三八年(オ)第一〇二一号同四一年五月一九日第一小法廷判決・民集二〇巻五号九四七頁参照)、同培之に本件各土地の登記済権利証の引渡しを請求することや同瑞子の所有する本件建物一に居住している同佳生に対して退去を請求することもできないものというべきである。しかし、同培之及び同瑞子が共有物である本件各土地の各一部を単独で占有することができる権原につき特段の主張、立証のない本件においては、上告人は、右占有により上告人の持分に応じた使用が妨げられているとして、右両名に対して、持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することはできるものと解すべきである。そして、上告人は右の坦の死亡によるその持分の相続取得の主張をしていないが、原審としては、前記各事実を当事者の主張に基づいて確定した以上は、適切に釈明権を行使するなどした上でこれらをしんしゃくし、上告人の請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきものである(最高裁平成七年(オ)第一五六二号同九年七月一七日第一小法廷判決・裁判集民事一八三号一〇三一頁参照)。そうすると、原審の前記判断には、法令の適用を誤る違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、原判決のうち上告人の被上告人培之及び同瑞子に対する金員の支払請求に係る部分は破棄を免れず、右部分につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)
・戦前の許諾による占有補助者
+判例(H8.12.17)
理由
上告代理人小室貴司の上告理由第一点について
一 本件上告に係る被上告人らの請求は、上告人ら及び被上告人らは第一審判決添付物件目録記載の不動産の共有者であるが、上告人らは本件不動産の全部を占有、使用しており、このことによって被上告人らにその持分に応じた賃料相当額の損害を発生させているとして、上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、被上告人ら各自の持分に応じた本件不動産の賃料相当額の支払を求めるものである。
二 原審の確定した事実関係の概要は、(一) aは昭和六三年九月二四日に死亡した、(二) 被上告人bはaの遺言により一六分の二の割合による遺産の包括遺贈を受けた者であり、上告人ら及びその余の被上告人らはaの相続人である、(三) 本件不動産はaの遺産であり、一筆の土地と同土地上の一棟の建物から成る、(四) 上告人らは、aの生前から、本件不動産においてaと共にその家族として同居生活をしてきたもので、相続開始後も本件不動産の全部を占有、使用している、というのである。
三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきものとした。
四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
本件についてこれを見るのに、上告人らは、aの相続人であり、本件不動産においてaの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、aと上告人らの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないということはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これらの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分については、使用貸借契約の成否等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)
4.
+(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
+(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
・現物分割、価格分割以外にも
+判例(S62.4.22)
理由
上告代理人藤本猛の上告理由について
所論は、要するに、森林法一八六条を合憲とした原判決には憲法二九条の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。
一 憲法二九条は、一項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、二項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至つたため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる、としているのである。
二 財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、右のとおり立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。したがつて、財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法二九条二項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)。
三 森林法一八六条は、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者(持分価額の合計が二分の一以下の複数の共有者を含む。以下同じ。)に民法二五六条一項所定の分割請求権を否定している。
そこでまず、民法二五六条の立法の趣旨・目的について考察することとする。共有とは、複数の者が目的物を共同して所有することをいい、共有者は各自、それ自体所有権の性質をもつ持分権を有しているにとどまり、共有関係にあるというだけでは、それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。そして、共有の場合にあつては、持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐつて、意見の対立、紛争が生じやすく、いつたんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、同条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし、しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け、不分割契約は右制限を超えては効力を有しないとして、共有者に共有物の分割請求権を保障しているのである。このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至つたものである。
したがつて、当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り、分割請求権を共有者に否定することは、憲法上、財産権の制限に該当し、かかる制限を設ける立法は、憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合することを要するものと解すべきところ、共有森林はその性質上分割することのできないものに該当しないから、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を否定している森林法一八六条は、公共の福祉に適合するものといえないときは、違憲の規定として、その効力を有しないものというべきである。
四 1 森林法一八六条は、森林法(明治四〇年法律第四三号)(以下「明治四〇年法」という。)六条の「民法第二百五十六条ノ規定ハ共有ノ森林ニ之ヲ適用セス但シ各共有者持分ノ価格ニ従ヒ其ノ過半数ヲ以テ分割ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス」との規定を受け継いだものである。明治四〇年法六条の立法目的は、その立法の過程における政府委員の説明が、長年を期して営むことを要する事業である森林経営の安定を図るために持分価格二分の一以下の共有者の分割請求を禁ずることとしたものである旨の説明に尽きていたことに照らすと、森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図ることにあつたものというべきであり、当該森林の水資源かん養、国土保全及び保健保全等のいわゆる公益的機能の維持又は増進等は同条の直接の立法目的に含まれていたとはいい難い。昭和二六年に制定された現行の森林法は、明治四〇年法六条の内容を実質的に変更することなく、その字句に修正を加え、規定の位置を第七章雑則に移し、一八六条として規定したにとどまるから、同条の立法目的は、明治四〇年法六条のそれと異なつたものとされたとはいえないが、森林法が一条として規定するに至つた同法の目的をも考慮すると、結局、森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。
同法一八六条の立法目的は、以上のように解される限り、公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえない。
2 したがつて、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を否定していることが、同条の立法目的達成のための手段として合理性又は必要性に欠けることが明らかであるといえない限り、同条は憲法二九条二項に違反するものとはいえない。以下、この点につき検討を加える。
(一) 森林が共有となることによつて、当然に、その共有者間に森林経営のための目的的団体が形成されることになるわけではなく、また、共有者が当該森林の経営につき相互に協力すべき権利義務を負うに至るものではないから、森林が共有であることと森林の共同経営とは直接関連するものとはいえない。したがつて、共有森林の共有者間の権利義務についての規制は、森林経営の安定を直接的目的とする前示の森林法一八六条の立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、合理的関連性があるとはいえない。
森林法は、共有森林の保存、管理又は変更について、持分価額二分の一以下の共有者からの分割請求を許さないとの限度で民法第三章第三節共有の規定の適用を排除しているが、そのほかは右共有の規定に従うものとしていることが明らかであるところ、共有者間、ことに持分の価額が相等しい二名の共有者間において、共有物の管理又は変更等をめぐつて意見の対立、紛争が生ずるに至つたときは、各共有者は、共有森林につき、同法二五二条但し書に基づき保存行為をなしうるにとどまり、管理又は変更の行為を適法にすることができないこととなり、ひいては当該森林の荒廃という事態を招来することとなる。同法二五六条一項は、かかる事態を解決するために設けられた規定であることは前示のとおりであるが、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に民法の右規定の適用を排除した結果は、右のような事態の永続化を招くだけであつて、当該森林の経営の安定化に資することにはならず、森林法一八六条の立法目的と同条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を否定したこととの間に合理的関連性のないことは、これを見ても明らかであるというべきである。
(二) (1) 森林法は森林の分割を絶対的に禁止しているわけではなく、わが国の森林面積の大半を占める単独所有に係る森林の所有者が、これを細分化し、分割後の各森林を第三者に譲渡することは許容されていると解されるし、共有森林についても、共有者の協議による現物分割及び持分価額が過半数の共有者(持分価額の合計が二分の一を超える複数の共有者を含む。)の分割請求権に基づく分割並びに民法九〇七条に基づく遺産分割は許容されているのであり、許されていないのは、持分価額二分の一以下の共有者の同法二五六条一項に基づく分割請求のみである。共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を認めた場合に、これに基づいてされる分割の結果は、右に述べた譲渡、分割が許容されている場合においてされる分割等の結果に比し、当該共有森林が常により細分化されることになるとはいえないから、森林法が分割を許さないとする場合と分割等を許容する場合との区別の基準を遺産に属しない共有森林の持分価額の二分の一を超えるか否かに求めていることの合理性には疑問があるが、この点はさておいても、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者からの民法二五六条一項に基づく分割請求の場合に限つて、他の場合に比し、当該森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図らなければならない社会的必要性が強く存すると認めるべき根拠は、これを見出だすことができないにもかかわらず、森林法一八六条が分割を許さないとする森林の範囲及び期間のいずれについても限定を設けていないため、同条所定の分割の禁止は、必要な限度を超える極めて厳格なものとなつているといわざるをえない。
まず、森林の安定的経営のために必要な最小限度の森林面積は、当該森林の地域的位置、気候、植栽竹木の種類等によつて差異はあつても、これを定めることが可能というべきであるから、当該共有森林を分割した場合に、分割後の各森林面積が必要最小限度の面積を下回るか否かを問うことなく、一律に現物分割を認めないとすることは、同条の立法目的を達成する規制手段として合理性に欠け、必要な限度を超えるものというべきである。
また、当該森林の伐採期あるいは計画植林の完了時期等を何ら考慮することなく無期限に分割請求を禁止することも、同条の立法目的の点からは必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。
(2) 更に、民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであり、また、分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、これらの不動産が外形上一団とみられるときはもとより、数か所に分かれて存在するときでも、右不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許されるものというべきところ、かかる場合においても、前示のような事態の生じるときは、右の過不足の調整をすることが許されるものと解すべきである(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁、昭和四一年(オ)第六四八号同四五年一一月六日第二小法廷判決・民集二四巻一一一号一八〇三頁は、右と抵触する限度において、これを改める。)。また、共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。
以上のように、現物分割においても、当該共有物の性質等又は共有状態に応じた合理的な分割をすることが可能であるから、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、同条二項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがつて、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に一律に分割請求権を否定しているのは、同条の立法目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。
五 以上のとおり、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に民法二五六条一項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法一八六条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであつて、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。したがつて、同条は、憲法二九条二項に違反し、無効というべきであるから、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者についても民法二五六条一項本文の適用があるものというべきである。
六 本件について、原判決は、森林法一八六条は憲法二九条二項に違反するものではなく、森林法一八六条に従うと、本件森林につき二分の一の持分価額を有するにとどまる上告人には分割請求権はないとして、本件分割請求を排斥しているが、右判断は憲法二九条二項の解釈適用を誤つたものというべきであるから、この点の違憲をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、右部分については、上告人の分割請求に基づき民法二五八条に従い本件森林を分割すべきものであるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官坂上壽夫、同林藤之輔の補足意見、裁判官髙島益郎、同大内恒夫の意見、裁判官香川保一の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
・全面価格賠償
+判例(H8.10.31)
理由
上告代理人川岸伸隆の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経過等は、次のとおりである。
1 亡A、亡B夫婦の長女である上告人C、その夫であり同夫婦の養子であるD及び二女であるE(承継前の被上告人。以下「E」という。)の三名は、昭和四〇年七月八日、甲信用組合から原判決添付物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を持分各三分の一の割合で買い受けた。本件不動産は、かつて亡A及びその先代が所有していたものであり、一時甲信用組合に所有権が移転していたのを、右三名が共同して買い戻したものであった。
2 Dは、昭和六一年一一月三日に死亡し、同人の右持分は、上告人C及び子であるその余の上告人らがそれぞれ法定相続分に従って取得した。その結果、本件不動産についての共有持分は、上告人Cが一八分の九、その余の上告人らが各一八分の一、Eが一八分の六となった。
3 本件不動産のうち原判決添付物件目録記載一ないし三の土地上には、ほぼ一杯に同目録記載四の建物(以下「本件建物」という。)が存在しており、しかも、本件建物は、構造上一体を成していることから、上告人らとEの持分に応じた区分所有とすることができず、したがって、本件不動産を現物分割することは不可能である。
4 Eは、昭和四八年以来、本件建物に居住し、本件建物に接する平家建ての建物において薬局を営み、その営業収入によって生活してきたが、そのことについては、上告人らとの間に特段の争いもなく推移してきた。他方、上告人らは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はない。
5 上告人らは、Eが本件不動産の分割協議に応じないため、本件不動産の共有物分割等を求める本件訴えを提起したものであるが、本件不動産の分割方法として、競売による分割を希望している。これに対し、Eは、自らが本件不動産を単独で取得し、上告人らに対してその持分の価格を賠償する方法(以下「全面的価格賠償の方法」という。)による分割を希望していた。
6 原審で実施された鑑定の結果によれば、本件不動産の評価額は合計八二六万三〇〇〇円であり、仮にこれを競売に付したとしても、これより高価に売却することができる可能性は低い。
二 原審は、(1)民法二五八条による共有物分割の方法として、全面的価格賠償の方法を採ることも許される旨を判示した上で、(2)右一の事実関係等の下においては、本件不動産の分割方法として全面的価格賠償の方法を採用するのが相当であるとし、競売による分割を命じた第一審判決を変更して、本件不動産をEの単独所有とした上、Eに対して上告人らの持分の価格の賠償を命じた。所論は、原審の右(1)、(2)の判断に民法二五八条の解釈適用の誤りがあるというものである。
三 そこで検討するに、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
1 民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。
したがって、これと同旨の原審の前記(1)の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の前記大法廷判決は、価格賠償をもって現物分割の場合の過不足を調整することができる旨を判示しているにとどまり、右の判断はこれに抵触するものではない。この点に関する論旨は採用することができない。
2 次に、本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存するか否かをみるに、本件不動産は、現物分割をすることが不可能であるところ、Eにとってはこれが生活の本拠であったものであり、他方、上告人らは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はなく、本件不動産の分割方法として競売による分割を希望しているなど、前記一の事実関係等にかんがみると、本件不動産をEの取得としたことが相当でないとはいえない。
しかしながら、前記のとおり、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるのは、これにより共有者間の実質的公平が害されない場合に限られるのであって、そのためには、賠償金の支払義務を負担する者にその支払能力があることを要するところ、原審で実施された鑑定の結果によれば、上告人らの持分の価格は合計五五〇万円余であるが、原審は、Eにその支払能力があった事実を何ら確定していない。したがって、原審の認定した前記一の事実関係等をもってしては、いまだ本件について前記特段の事情の存在を認めることはできない。
そうすると、本件について、前記特段の事情の存在を認定することなく、全面的価格賠償による共有物分割の方法を採用し、本件不動産をEの単独所有とした上、Eに対して上告人らの持分の価格の賠償を命じた原判決には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があるから、原判決中、共有物分割請求に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});