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1.時効とは
+(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
+(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(所有権以外の財産権の取得時効)
第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
+(債権等の消滅時効)
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
+(時効の中断事由)
第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
+(時効の利益の放棄)
第百四十六条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
2.小問1
(1)小問1(1)
+(消滅時効の進行等)
第百六十六条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
+(催告)
第百五十三条 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事事件手続法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
・援用
+判例(S61.3.17)
理由
上告代理人小倉勲の上告理由一ないし四について
原判決は、(一)(1)原判決別紙物件目録記載の一三筆の土地(以下「本件土地」という。)は、もとAの所有であり、農地であつたが、同人は、昭和三一年一二月一五日本件土地を含む第一審判決物件目録記載の土地をBに売り渡し(以下「本件売買」という。)、売買代金全額の支払を受け、右土地につき同人に対し神戸地方法務局赤穂出張所昭和三二年五月六日受付第九二二号をもつて所有権移転請求権保全仮登記(以下「本件仮登記」という。)をしたが、Aは昭和三七年三月四日死亡し、被上告人らがその地位を相続した、(2)Cは、昭和四三年一一月四日Bから本件売買契約上の買主たる地位の譲渡を受け(以下「本件地位譲渡契約」という。)、第一審判決物件目録記載の土地につき同月一一日同出張所受付第六二五九号をもつて本件仮登記につき右所有権移転請求権移転の附記登記(以下「本件附記登記」という。)を受けたが、昭和五六年一一月一二日死亡し、上告人らが、Cの地位を相続し、本件土地を占有しているとの事実を確定したうえ、(二)(1)被上告人らの次の主張、すなわち、本件土地は本件売買当時から農地であつたので、本件売買は農地法所定の県知事の許可が法定条件となつていたところ、上告人らが本件売買に基づき被上告人らに対して有していた県知事に対する許可申請協力請求権(以下「本件許可申請協力請求権」という。)は、本件売買の成立した昭和三一年一二月一五日から一〇年を経た同四一年一二月一五日の経過とともに時効により消滅し、これにより右法定条件は不成就に確定し、本件土地の所有権はBに移転しないことが確定したから、本件土地は被上告人らに帰属することに確定した旨の主張を認め、本件土地の所有権に基づき、上告人らに対しその明渡と本件附記登記の抹消登記手続を求める被上告人らの本訴請求を認容すべきであるとし、(2)したがつてまた、本件売買及び本件地位譲渡契約により本件土地が上告人らの所有に帰属するに至つたとの上告人らの主張は排斥を免れないとし、被上告人らに対し本件土地につき本件附記登記に基づく本登記手続を求める上告人らの本件反訴請求を棄却すべきであるとしている。
しかしながら、原審の右判断は、首肯し難い。その理由は次のとおりである。
民法一六七条一項は「債権ハ十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス」と規定しているが、他方、同法一四五条及び一四六条は、時効による権利消滅の効果は当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしていることが明らかであるから、時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当であり、農地の買主が売主に対して有する県知事に対する許可申請協力請求権の時効による消滅の効果も、一〇年の時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、売主が右請求権についての時効を援用したときにはじめて確定的に生ずるものというべきであるから、右時効の援用がされるまでの間に当該農地が非農地化したときには、その時点において、右農地の売買契約は当然に効力を生じ、買主にその所有権が移転するものと解すべきであり、その後に売主が右県知事に対する許可申請協力請求権の消滅時効を援用してもその効力を生ずるに由ないものというべきである。そして、本件記録によると、被上告人らが本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用したのは昭和五一年二月九日に提起した本件本訴の訴状においてであること、これに対し、上告人らは、原審において、本件土地はすくなくとも昭和四六年八月五日以降は雑木等が繁茂し原野となつたから、本件売買は効力を生じた旨主張し、右主張に副う証拠として乙第三号証を提出していたことが認められるところ、上告人らの右主張事実を認めうるときには、本件売買は、本件土地が右非農地化した時点において、当然にその効力を生じ、被上告人らは本件土地の所有権を喪失するに至つたものというべきであり、したがつて、本件許可申請協力請求権の時効消滅は問題とする余地がなく、また、Bが本件売買契約上の買主の義務をすべて履行しているという原審確定の事実関係のもとにおいては、本件地位譲渡契約は被上告人らとの間においてもその効力を生じうる余地があるものというべきである。したがつて、上告人らの右主張について審理判断しなかつた原判決には、民法一四五条、一六七条一項の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであり、この違法をいう論旨は、理由があるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れないところ、上告人らの右主張について審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭)
・消滅時効完成後の承認の場合は、時効利益(援用権)の放棄又は喪失に当たるのか。
+判例(S41.4.20)
理由
上告代理人古沢斐、同古沢彦造の上告理由第一点について。
論旨は、要するに、上告人が本件債務の承認をしなかつたことを認めうる事情ないし証拠があるのに、原判決が、なんら首肯するに足りる事情の存在について判示することなく、上告人は、該債務が時効によつて消滅したのち、これを承認したと認定したのは、違法であるというにある。
しふしながら、原審の右認定は、原判決挙示の証拠により肯認しえないことはなく、所論引用の判例は本件に適切でない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の判断および事実の認定を非難するに帰するから、採用できない。
同第二点について。
論旨は、要するに、原判決が、上告人は商人であり本件債務の承認をした事実を前提として、上告人は同債務について時効の利益を放棄したものと推定するのが相当であるとしたのは、経験則に違背して事実を推定したものであり、この点で原判決は破棄を免れないというにある。
案ずるに、債務者は、消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知つているのはむしろ異例で、知らないのが通常であるといえるから、債務者が商人の場合でも、消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知つてされたものであると推定することは許されないものと解するのが相当である。したがつて、右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和三五年六月二三日言渡第一小法廷判決、民集一四巻八号一四九八頁参照)は、これを変更すべきものと認める。しからば、原判決が、上告人は商人であり、本件債務について時効が完成したのちその承認をした事実を確定したうえ、これを前提として、上告人は本件債務について時効の完成したことを知りながら右承認をし、右債務について時効の利益を放棄したものと推定したのは、経験則に反する推定をしたものというべきである。しかしながら、債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろらから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。また、かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして、この見地に立ては、前記のように、上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから、もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないというわざるをえない。しからば、原判決が上告人の消滅時効の抗弁を排斥したのは、結局、正当であることに帰するから、論旨は、採用できない。
同第三点について。
論旨は、要するに、所論一引用の上告人の主張は、本件当事者間に和解契約が成立し、本件公正証書に表示された債務は消滅し、右公正証書に基づく強制執行は許されないという趣旨であるのに、原審が右主張についてなんら釈明することなく、また、これについて判断しなかつたのは、審理不尽、判断遺脱の違法を犯したものであるというにある。
しかし、上告人が原審で前記所論一引用のような主張をしていることは記録上明らかであるが、原審における本件口頭弁論の全趣旨をしんしやくしても、右主張が右論旨主張のような趣旨であるとは到底解しえないから、原審の手続に所論の違法はないというべきである。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を前提として原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
・援用権の喪失後
+判例(S45.5.21)
理由
上告代理人山田直記の上告理由第二点について。
原審は、上告人は、昭和二八年一〇月一七日、被上告人から自己の経営する製材業の営業資金として、一〇万円を弁済期同年一一月五日利息月三分の約で借り受けた旨、および上告人は、昭和三七年五月二九日頃、被上告人に対し右債務の支払猶予を求めた旨の事実を確定したうえ、右債務は商事債務として五年の短期消滅時効の適用を受けるものであるところ、右支払猶予を求めたことは消滅時効完成後の債務承認というべきであり、かかる債務承認は、時効による債務消滅の主張とはあい容れないものであつて、債権者としてはこれにより債務者は以後もはや時効を援用しないものと考えるのが通常であるから、債務者がその後相当期間を経過した後においてその債務につき時効を援用することは信義則上許されないものと解するのが相当であると判示して、上告人の消滅時効の抗弁を排斥している。
しかしながら、債務者が消滅時効の完成後に債権者に対し当該債務を承認した場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることが許されないことは、当裁判所の判例の示すところであるけれども(最高裁判所昭和三七年(オ)第一三一六号同四一年四月二〇日大法廷判決、民集二〇巻四号七〇二頁参照)、右は、すでに経過した時効期間について消滅時効を援用しえないというに止まり、その承認以後再び時効期間の進行することをも否定するものではない。けだし、民法一五七条が時効中断後にもあらたに時効の進行することを規定し、さらに同法一七四条ノ二が判決確定後もあらたに時効が進行することを規定していることと対比して考えれば、時効完成後であるからといつて債務の承認後は再び時効が進行しないと解することは、彼此権衡を失するものというべきであり、また、時効完成後の債務の承認がその実質においてあらたな債務の負担行為にも比すべきものであることに鑑みれば、これにより、従前に比して債務者がより不利益となり、債権者がより利益となるような解釈をすべきものとはいえないからである。
ところで、本件記録によれば、本訴の提起されたのは、昭和四二年一〇月九日であることが明らかであり、原審の確定するところによれば、前記債務の承認は昭和三七年五月二九日頃であるというのであるから、その間再び五年四月余の期間が経過していることが明らかである。そうであれば、本訴提起前さらに時効が中断された等特段の事情のないかぎり、前記債務は再び五年の消滅時効によつて消滅しているものといわなければならない。したがつて、この点についてなんら判示することなく、漫然と、時効完成後に債務を承認したことにより、以後時効を援用することは信義則上許されないとした原判決は、法令の解釈適用を誤つたものというべく、この誤りは原判決の結論に影響すること明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決中右請求に関する部分は、その余の点について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、右部分については、さらに審理を尽す必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。しかしながら、その余の請求に関する部分については、原判決に特段の違法は認められないから、その余の本件上告は棄却を免れない。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官長部謹吾は海外出張中につき、本件評議に関与しない。
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
(2)小問2(2)について
時効の援用をしない趣旨であると考えないような事案であれば、時効の援用を認めてもよいのでは・・・。
3.小問2
(1)小問2(1)について
+(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
当事者=時効によって直接利益を受ける者
物上保証人は被担保債権の消滅時効を援用できる!
+判例(S42.10.27)
理由
昭和三九年(オ)第五二三号事件上告代理人東里秀の上告理由について。
論旨は、訴外トキワ工業株式会社の債務のため自己所有の不動産を譲渡担保に供したにすぎないAは物上保証人とはいえず、また右債務の時効消滅によつて直接利益を受ける者とはいえないとして、Aの承継人たる昭和三九年(オ)第五二三号事件上告人B外四名(以下上告人Bらと略称する)のした右債務の消滅時効の援用を認めなかつた原判決には、民法一四五条の解釈適用を誤つた違法があるという。
時効は当事者でなければこれを援用しえないことは、民法一四五条の規定により明らかであるが、右規定の趣旨は、消滅時効についていえば、時効を援用しうる者を権利の時効消滅により直接利益を受ける者に限定したものと解されるところ、他人の債務のために自己の所有物件につき質権または抵当権を設定したいわゆる物上保証人も被担保債権の消滅によつて直接利益を受ける者というを妨げないから、同条にいう当事者にあたるものと解するのが相当であり、これと見解を異にする大審院判例(明治四三年一月二五日大審院判決・民録一六輯二二頁)は変更すべきものである。そして、原審(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば、上告人Bからの先代Aは、訴外トキワ工業株式会社のCに対して負担する合計三二〇万円弁済期日昭和三〇年一二月末日の貸金債務のためCに対してその所有の本性土地建物をいわゆる弱い譲渡担保に供していたところ、右訴外会社は弁済期日を経過しても右債務を弁済しなかつたが、本件土地建物については、右譲渡担保契約締結後CおよびつづいてAが死亡したためいまだにCへの所有権移転登記手続がなされていないというのである。右事実関係のもとでは、Aは、他人の債務のためその所有不動産を担保に供した者であつて、被担保債権の消滅によつて利益を受けるものである点において、物上保証人となんら異るものではないから、同様に当事者として被担保債権の消滅時効を援用しうるものと解するのが相当である。しからば、上告人Bらもまた、Aの承継人として右被担保債権の消滅時効を援用しうるものというべきである。したがつて、上告人Bらに消滅時効の援用権なしとして前記債務の消滅時効完成の抗弁を排斥した原判決には、民法一四五条の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるを得ない。そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、前記訴外会社のCに対する債務は商事債務であり、前記弁済期日から五年を経過した昭和三五年一二月末日までの間時効中断のあつたことの主張立証のない本件においては、同日の終了とともに消滅時効が完成したことが明らかである。もつとも被上告人らは、原審において、右訴外会社の承継人たるモダン建築工芸株式会社が昭和三六年六月一五日發上告人らに対して本件貸金債務を承認し、もつて事項の利益を放棄したと抗争しているが、時効の利益の放棄の効果は相対的であり、被担保債権の消滅時効完成の利益を債務者が放棄しても、その効果は物上保証人ないし本件のように右債権につき自己の所有物件を譲渡担保に供した者に影響を及ぼすものではないから、被上告人らの右抗弁も、上告人Bらの消滅時効完成の主張を妨げる理由にはならない。したがつて、被上告人らは前記消滅時効の完成とともに本件土地建物に対する譲渡担保権を失い、本件土地建物の所有権は突然に上告人Bらに復帰したものというべきであるから、いまだ譲渡担保契約が存続しているとして、右契約に基づき本件土地建物の省有権が被上告人らに復帰することを前提とする被上告人らの本件土地建物所有権移転登記手続および本件建物明渡の各請求はいずれも理由がないものといわなければならない。しからば、本件被担保債権の消滅時効が閑静した弗の上告人Bらの抗弁を排斥して被上告人らの右請求を認容した第一審料決およびこれを是認した原判決には、民法一四五条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があるものというべく、原判決および第一審判決は、この点において破棄、取消を免駐ない。しかして、右請求については、叙上の事実関係に照らしてその理由のないことが明らかであるから、請求を棄却すべきものである。
昭和三九年(オ)第五二四号事件上告人兼上告代理人滝内礼作の上告理由について。
被上告人らの昭和三九年(オ)第五二四号事件上告人滝内および同神保(以下上告人滝内らと略称する)に対する本訴請求は、要するに、本件土地建物の所有権に基づいて上告人滝内らに対して本件土地建物になされた抵当権設定登記等の抹消登記手続を求めるものであるところ、原判決(引用の第一審判決)の確定したところによれば、上告人Bらの先代Aは訴外トキワ工業株式会社のCに対して負担する原判示債務につきその所有の本件土地建物をいわゆる弱い譲渡担保に供していたというのであり、しかして、右債務につき消滅時効が完成し右譲渡担保契約が消滅して本件土地建物の所有権が上告人Bらに復帰したものと認めるべきことは、上告人Bらの上告代理人東里秀の上告理由に対する判断に説示したとおりである。右のように被上告人らにおいてすでに本件土地建物の所有権を有しないことが明らかである以上、いまだ譲渡担保契約が存続するものとして、被上告人らにおいて本件土地建物の所有権を有することを前提とする被上告人らの請求を認容した第一審判決およびこれを是認した原判決は、いずれも違法であり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決および第一審判決は、この点において破棄、取消を免れない。しかして、叙上の事実関係のもとでは前記のとおり右請求はその理由のないことが明らかであるから、これを棄却すべきものである。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
+第百五十五条 差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。
・抵当権者が物上保証人に対する抵当権の実行を申し立てたときは、競売開始決定の正本が被担保債務者に送達されたときに155条の通知があったものとする
+判例(S50.11.21)
理由
上告代理人菅井俊明、同塩谷脩の上告理由第一点について
抵当権実行のためにする競売法による競売は、被担保債権に基づく強力な権利実行手段であるから、時効中断の事由として差押と同等の効力を有すると解すべきことは、判例(大審院大正九年(オ)第一〇九号同年六月二九日判決・民録二六輯九四九頁、同昭和一三年(ク)第二一九号同年六月二七日決定・民集一七巻一四号一三二四頁)の趣旨とするところである。そして、差押による時効中断の効果は、原則として中断行為の当事者及びその承継人に対してのみ及ぶものであることは、民法一四八条の定めるところであるが、他人の債務のために自己所有の不動産につき抵当権を設定した物上保証人に対する競売の申立は、被担保債権の満足のための強力な権利実行行為であり、時効中断の効果を生ずべき事由としては、債務者本人に対する差押と対比して、彼此差等を設けるべき実質上の理由はない。民法一五五条は、右のような場合について、同法一四八条の前記の原則を修正し、時効中断の効果が当該中断行為の当事者及びその承継人以外で時効の利益を受ける者にも及ぶべきことを定めるとともに、これにより右のような時効の利益を受ける者が中断行為により不測の不利益を蒙ることのないよう、その者に対する通知を要することとし、もつて債権者と債務者との間の利益の調和を図つた趣旨の規定であると解することができる。
したがつて、債権者より物上保証人に対し、その被担保債権の実行として任意競売の申立がされ、競売裁判所がその競売開始決定をしたうえ、競売手続の利害関係人である債務者に対する告知方法として同決定正本を当該債務者に送達した場合には、債務者は、民法一五五条により、当該被担保債権の消滅時効の中断の効果を受けると解するのが相当である。同条所定の差押等を受ける者の範囲を所論の如く限定しなければならない理由はなく(所論引用の当裁判所昭和三九年(オ)第五二三号、第五二四号同四二年一〇月二七日第二小法廷判決・民集二一巻八号二一一〇頁及び昭和四一年(オ)第七七号同四三年九月二六日第一小法廷判決・民集二二巻九号二〇〇二頁各判例は、同条にいわゆる「時効ノ利益ヲ受クル者」の範囲について判示したものではない。)、また、競売裁判所による前記の競売開始決定の送達は債務者に対する同条所定の通知として十分であり、右通知が所論の如く債権者から発せられねばならないと解すべき理由も見出し難い。これと同趣旨の原審の判断は正当であり、所論はこれと異なる独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、論旨は採用することができない。
同第二点について
所論の点に関する原審の判断は正当であり、その過程に所論の違法はなく、原判決に所論の法令違背のあることを前提とする所論違憲の主張もまた理由がない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 吉田豊 裁判官 本林讓)
+判例(H8.7.12)
理由
上告代理人戸田隆俊の上告理由について
一 本件請求は、上告人らが被上告人に対し、上告人らの所有する不動産に設定された被上告人のAに対する求償債権等を被担保債権とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定登記の抹消を求めるものである。原審の確定したところによれば、被上告人からAに対して本件根抵当権の被担保債務の履行を求める訴訟が提起され、昭和五七年四月一八日に被上告人勝訴の判決が確定しているところ、被上告人は、平成四年四月三日に本件根抵当権の実行としての不動産競売を申し立て、これに基づいて、同月七日に競売開始決定がされ、同年六月一三日に債務者であるAに右競売開始決定正本が送達されたものである。
上告人らは右判決確定の時から一〇年を経過した平成四年四月一八日に本件根抵当権の被担保債権は時効によって消滅した旨を主張し、被上告人は不動産競売の申立てをした同月三日に右債権についての時効中断の効力が生じた旨を主張している。したがって、本件においては、物上保証人に対する不動産競売の申立てによって時効中断の効力が生ずる時期が、債権者が競売を申し立てた時であると解するか、競売開始決定正本が債務者に送達された時であると解するかによって、消滅時効の成否の判断が左右されることになる。
二 原審は、物上保証人に対する不動産競売の申立てによる被担保債権の消滅時効の中断の効力は、債権者が執行裁判所に競売の申立てをした時に生ずると解するのが相当であるところ、本件においては、時効期間の満了前に本件根抵当権の実行としての不動産競売の申立てがされているから、これにより本件根抵当権の被担保債権の消滅時効は中断されたとして、上告人らの本件請求を棄却すべきものとした。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
債権者から物上保証人に対する不動産競売の申立てがされ、執行裁判所のした競売開始決定による差押えの効力が生じた後、同決定正本が債務者に送達された場合には、民法一五五条により、債務者に対し、当該担保権の実行に係る被担保債権についての消滅時効の中断の効力が生ずるが(最高裁昭和四七年(オ)第七二三号同五〇年一一月二一日第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五三七頁、最高裁平成七年(オ)第三七四号同年九月五日第三小法廷判決・民集四九巻八号二七八四頁参照)、右の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずると解するのが相当である。けだし、民法一五五条は、時効中断の効果が当該時効中断行為の当事者及びその承継人以外で時効の利益を受ける者に及ぶべき場合に、その者に対する通知を要することとし、もって債権者と債務者との間の利益の調和を図った趣旨の規定であると解されるところ(前掲昭和五〇年一一月二一日第二小法廷判決参照)、競売開始決定正本が時効期間満了後に債務者に送達された場合に、債権者が競売の申立てをした時にさかのぼって時効中断の効力が生ずるとすれば、当該競売手続の開始を了知しない債務者が不測の不利益を被るおそれがあり、民法一五五条が時効の利益を受ける者に対する通知を要求した趣旨に反することになるからである。
したがって、右の場合に、債権者が競売の申立てをした時をもって消滅時効の中断の効力が生ずるとの見解に立って、上告人らの本件請求を棄却した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件においては、被上告人は、債務者であるAが昭和五七年一二月二二日に本件根抵当権の被担保債務を承認したとの主張をしているので、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すことにする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)
(2)小問2(2)
・物上保証人が、債務者の承諾により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することは、担保権の付従性に抵触し、396条の趣旨にも反し、許されないものと解するのが相当
+判例(H7.3.10)
理由
上告代理人吉成重善の上告理由について
他人の債務のために自己の所有物件につき根抵当権等を設定したいわゆる物上保証人が、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することは、担保権の付従性に抵触し、民法三九六条の趣旨にも反し、許されないものと解するのが相当である。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治 裁判官河合伸一)
++解説
《解 説》
一 Xは、Sに対する貸金債権の回収が滞ったため、連帯保証人であるAの所有物件につき強制競売の申立てをした。Y信用組合も、Sに対して貸金債権を有し、右Aの被相続人(父)から右物件につきSのために信用組合取引による債権等を被担保債権とする根抵当権の設定を受けていたため、債権届出をした。本件は、Xが、右根抵当権による被担保債権は民法三九八条ノ二〇第一項四号により元本確定したところ、その債権は既に時効消滅しているとして、Aに代位し、Yに対し、右根抵当権設定登記の抹消登記手続を請求した事案である。
二 原審は、時効完成前にSが本件債務を逐次承認した事実が認められ、順次時効が中断したといえるから、本件債務は有効に存在し、そうである以上、本件根抵当権は別個に時効消滅することはないから、本件請求は認容できないとして、請求を棄却した。これに対し、Xは上告して、債務者の時効利益の放棄は物上保証人(当該事案では、自己所有物を弱い譲渡担保に供した者)に影響を及ぼさないとした最二小判昭42・10・27民集二一巻八号二一一〇頁を援用し、債務承認の効果が相対的であることは、時効利益の放棄と時効中断とで異なる理由はないとして、Sの債務承認によりA(に代位したX)の時効援用も認められないとした原審の判断は、右判例に反すると主張した。
三 上告理由の引用する右最二小判昭42・10・27は、他人の債務のために自己の所有物件につき抵当権等を設定した物上保証人は、民法一四五条にいう当事者に当たり、独自の時効援用権を有することを認めている。したがって、物上保証人であるAはSと別に本件債務の消滅時効について固有の時効援用権を有することになる。そこで、Aは、被担保債権の消滅時効につき債務者Sの承認により時効中断が生じた場合でも、自己の時効援用権の行使に当たっては、それを否定し得るのかどうかが問題となる。民法一四八条は、「時効中断は当事者及びその承継人の間においてのみその効力を有す」と規定しており、主たる債務者に対する時効の中断は保証人に対してもその効力を生ずるとする民法四五七条一項のような例外規定は、物上保証人との関係については存在しない。したがって、債務者の承認による時効中断効は物上保証人には及ばず、物上保証人は独自に中断されていない時効を援用し得るとする見解もないわけではない(鈴木祿弥・民法総則講義二三二頁)。しかし、民法一四八条は、事物の性質上、中断の効力を他者に及ぼすべき場合があることを否定するものではない。抵当権設定者との間だけで中断されないことを認めることは、抵当権の付従性に反し、抵当権は債務者及び抵当権設定者に対しては被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しないとする民法三九六条の趣旨にも反することとなろう。保証人の場合は、保証人自身も保証債務を負うものであり、主債務に生じた事由が保証債務にどのような影響を与えるかが問題となるため、民法四五七条一項のような規定を設ける必要があるところ、物上保証人については、中断が問題となる権利義務関係は被担保債権に係る債権債務関係以外にはなく、その債権債務当事者間に生じた事由を物上保証人において否定することができると解すべき理由はないため、特に規定を設ける必要がなかったものと考えられる。したがって、債務者の承認による中断の効力は、物上保証人が債務の時効を援用する場合にもこれを否定することはできないものと解される(四宮和夫「時効」新民法演習1二四八~二五〇頁、松久三四彦・民法注解財産法1民法総則七一二頁、塩崎勤・金法一二四七号一四頁参照。なお、保証債務に関する民法四五七条一項の類推適用を理由に同様の結論を採るものとして、柳川俊一・金法七二三号一六~一七頁、丸山昌一「被担保債権の消滅時効の中断」裁判実務大系14三七頁)。前記最二小判昭42・10・27は、時効利益の放棄の効果は相対的であって、被担保債権の消滅時効の利益を債務者が放棄しても、それは物上保証人に影響を及ぼすものではないとしている。しかし、時効利益の放棄は、既に時効が完成していることを前提として、各人がそれぞれの援用権の行使に当たりこれを援用するかどうかという形で個別に判断し得る問題である。これに対し、その債務について時効が完成しているかどうかを判断する際の中断事由の有無の問題は相対的認定に親しまない事実の問題である。両者を同視することはできないであろう。
他方、物上保証人は時効中断としての承認をすることはできず、物上保証人が被担保債権の存在を承認していても、当該物上保証人に対する関係においても時効中断の効力を生ずる余地はないと解されている。(最一小判昭62・9・3裁集民一五一号六三三頁、判時一三一六号九一頁)。したがって、債権者としては、担保権を実行してそれが債務者に通知されない限り、債務者との間で中断の措置をとるほかはなく、仮に債務者との間での中断事由を生じさせても物上保証人に及ばないと解すると、債権者としては不測の不利益を受けることになる。金融実務は、右のような見解に従った時効管理をしているものとされ、同様の判断を判示する下級審裁判例(大阪高判平5・10・27金判九四八号三〇頁)も見られるところであった。本判決は、こうした多数説的見解を明示的に是認したものとして意義がある。なお、参考文献として、本文中に記したもののほか、菅野佳夫「時効の中断効について」本誌八六四号五六頁などがある。
・詐害行為取消権と消滅時効
+判例(H10.6.22)
理由
上告代理人松村博文の上告理由第一点の三について
一 本件は、被上告人が、上告人に対し、詐害行為取消権に基づき債務者と上告人との間の贈与契約の取消し及び贈与された不動産につき経由された所有権移転登記の抹消登記手続を求める事件であり、原審の確定した事実関係は次のとおりである。
1 被上告人は、AことB次が代表取締役をする株式会社三協に対して、金銭消費貸借契約及び準消費貸借契約に基づき昭和五六年八月二二日から昭和五九年二月四日の間に生じた合計二一五〇万円の債権を有し、三協の連帯保証人であるBに対して、右同額の連帯保証債務履行請求権を有していた。
2 また、被上告人は、Bに対して、昭和五二年七月六日から昭和五六年一二月二一日の間にBの依頼で立て替えた費用合計一一八九万八九〇二円につき、右同額の求償債権を有していた。
3 Bは多額の債務を負担していたところ、Bと上告人は、他の債権者を害することを知りながら、昭和六一年二月一日、Bの所有する第一審判決別紙物件目録(一)ないし(四)記載の不動産につき贈与契約を締結し、同年四月一八日、上告人への所有権移転登記を経由した。
4 上告人は、本訴において、被上告人の三協に対する債権は期限の定めのない商事債権であり、五年の経過により時効によって消滅したから、Bに対する連帯保証債務履行請求権も消滅し、また、Bに対する求償債権は立替後一〇年の経過により時効によって消滅したとして、消滅時効を援用した。
二 原審は、右事実関係の下において、上告人は、債務者Bがした贈与契約の受益者にすぎず、被上告人の有する債権について消滅時効を援用し得る立場にないとして、上告人の消滅時効の抗弁を排斥し、被上告人の請求を認容した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
民法一四五条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるところ(最高裁平成二年(オ)第七四二号同四年三月一九日第一小法廷判決・民集四六巻三号二二二頁参照)、詐害行為の受益者は、詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上、これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にあり、その反面、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すれば右の利益喪失を免れることができる地位にあるから、右債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、右債権について消滅時効を援用することができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大審院昭和三年(オ)第九〇一号同年一一月八日判決・民集七巻九八〇頁)は、変更すべきものである。
これを本件についてみると、前示の事実関係によれば、上告人は、Bから本件不動産の贈与を受けた詐害行為の受益者であるから、詐害行為取消権を行使する債権者である被上告人のBに対する求償債権の消滅時効を援用し得るというべきであり、被上告人の三協に対する債権についても、右債権が消滅すればBに対する連帯保証債務履行請求権は当然に消滅するので、その消滅時効を援用し得るというべきである。
したがって、以上と異なり、上告人は右各債権の消滅時効を援用し得る立場にないと判断した原判決には、民法一四五条の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。そして、記録によれば、被上告人が債務者の承認による時効の中断等の再抗弁を主張していることがうかがわれるから、消滅時効の成否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)
++解説
《解 説》
一 原告X(被上告人)は、Aに対して、保証債務履行請求権と立替払により生じた求償債権とを有していた。保証債務の主債務は、株式会社B(代表取締役A)がXに対して負っていた貸金債務等であった。Aは多額の債務を負っていたが、自分の内妻である被告Y(上告人)に対して、他の債権者を害することを知りながら、所有不動産を贈与した。そこで、Xが、贈与が詐害行為に該当するとして、その取消を求めるとともに、移転登記の抹消を求めたのが本件訴訟である。
Yは、抗弁として、詐害行為取消権の被保全債権について消滅時効を主張した。すなわち、求償債権については、一〇年の消滅時効を援用し、保証債務履行請求権については、Xの主債務者(B社)に対する債権(商事債権)について五年の消滅時効を援用した。
これに対し、原審(一審判決を引用)は、「Yは、債務者Aのなした贈与契約の受益者にすぎず、右各債務につき消滅時効を援用し得る立場にない」として、右抗弁を退けた。
Yは、時効援用権に関する右判断等を争って上告した。
二 本判決は、(1)民法一四五条所定の当事者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるが、詐害行為の受益者は、詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上、これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にあり、その反面、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すれば右の利益喪失を免れることができる地位にある、との理由から、詐害行為の受益者は、取消債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、右債権について消滅時効を援用することができるものと解するのが相当であると判示し、(2)詐害行為の受益者であるYによるXの求償債権の消滅時効の援用を認め、さらに、XのB社に対する債権についても、右債権が消滅すればAに対する連帯保証債務履行請求権は当然に消滅するので、その消滅時効を援用し得ると判示して、原判決を破棄し、事件を原審に差し戻した。
三 民法一四五条所定の時効を援用し得る「当事者」の範囲につき、大審院判例は、時効により直接利益を受ける者及びその承継人すなわち取得時効により権利を取得し、又は消滅時効により権利の制限若しくは義務を免れる者に限られ、間接的に利益を受ける者は当事者ではないとし(大判明43・1・25民録一六輯二二頁、大判昭9・5・2民集一三巻六七〇頁など)、抵当不動産の第三取得者、物上保証人、売買予約に基づく仮登記の経由された不動産について所有権を取得した者などについて、時効援用権を否定していた。
これに対して、学説は、よって立つ時効援用権の性質論に相違はあるものの、結論的に援用権者の範囲を拡張すべきであるという点においては、等しく大審院の判例を批判し、このような学説の批判を受けて、最高裁が、次のとおり援用権者の範囲を広げる判決を示し、大審院の判例を変更してきたことは周知のとおりである。①最二小判昭42・10・27民集二一巻八号二一一〇頁(他人の債務のために自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者)、②最一小判昭43・9・26民集二二巻九号二〇〇二頁(物上保証人)、③最二小判昭48・12・14民集二七巻一一号一五八六頁(抵当不動産の第三取得者)、④最三小判昭60・11・26民集三九巻七号一七〇一頁(所有権移転予約形式の仮登記担保権が設定された不動産の第三者取得者)、⑤最三小判平2・6・5民集四四巻四号五九九頁(所有権移転請求権保全仮登記の経由された不動産の抵当権者)、⑥最一小判平4・3・19民集四六巻三号二二二頁(所有権移転請求権保全仮登記の経由された不動産の第三取得者)。
これらの最高裁判決は、時効援用権者とは、時効により直接利益を受ける者であるとの大審院以来の基準を堅持しつつ、その範囲を拡張してきたものである。
四 詐害行為の受益者による被保全債権の消滅時効の援用についても、判文中に示された大判昭3・11・8民集七巻九八〇頁はこれを否定していた。
この判例に対しても学説の多数は批判的であり、詐害行為の取消は、債権者と受益者との関係で詐害行為の効力を失わせるものであるから、受益者はむしろ直接の当事者というべきであると主張されていた(我妻栄・新訂民法総則四四八頁。その他肯定説として、新井英夫・判例民事法昭和三年度九三事件、柚木馨・判例民法総論下巻三五二頁、川島武宣・民法総則四五四頁、幾代通・民法総則第二版五四〇頁、川井健・注釈民法(5)四七頁、松久三四彦「時効援用権者の範囲」金法一二六六号一二頁ほか)。
これに対して、受益者の援用権を否定する学説もあり、特に、末弘厳太郎「時効を援用しうる『当事者』」民法雑記帳(上巻)一九九頁は、詐害行為による受益者は、詐害行為の加担者として信義誠実の原則上非難に値するので、時効制度の精神にかんがみ時効の恩恵を受けえざるものとすべきだと主張していた。しかし、末弘説に対しては、詐害行為をした張本人である債務者には援用権があるのであるから、受益者による時効の援用が信義に反するとはいえないとの批判が加えられていたところであった(新井前掲、松久前掲)。
なお、最二小判45・1・23裁判集民事九八号三三頁が否定説に立った判決として紹介される場合があるが、右判決は、手形所持人の裏書人に対する原因関係上の債権につき時効が完成したが、裏書人が右時効を援用しない場合に、振出人に対する手形債権の行使が許されるかとの問題を含む事例で、詐害行為の受益者の援用権を一般的に否定する見解に基づくものとは考えられないので、この問題に関する先例とはならないと解される。
五 本件判決は、以上のような最高裁判決の流れ、学説の動向を受けて、前記の理由から、受益者に時効援用権を肯定し、大審院の判例を変更したものである。
また、本件は、被保全債権の一つである保証債務履行請求権に関して、その主たる債務者であるB社に対する債権についても時効の援用権を肯定したが、被保全債権について時効を援用できることから、当然に派生する結論と考えられたものと思われる。
六 なお、本件が、原判決を破棄し、事件を原審に差し戻す理由として、Xが、債務者(すなわち、AとB社)の承認による時効の中断を主張していたことを挙げている点は、債務者について生じた時効中断の効力を受益者は否定できないことを前提にしたものと思われる。
債権者にとって受益者の出現を予期することはできないから、債権者が債務者との関係で時効中断措置を取っているのに、受益者がその中断の効力を否定できるとすれば、債権者に不測の不利益を与えることになり不当であることはいうまでもない。したがって、受益者に時効援用権を肯定する以上、債権者と債務者の間に生じた時効中断効を、受益者も否定できないとの結論には異論のないところと思われるが、民法一四八条が、「時効中断ハ当事者及ヒ其承継人ノ間ニ於イテノミ其効力ヲ有ス」としていることとの関係で、これを理論的にどのように説明するかは、残された問題であり、明文の規定(民法二九二条、四三四条、四五七条参照)はないが、事物の性質上中断の効力が及ぶ例外的な場合と考えることになろう(四宮和夫「時効」新民法演習1二四八頁、最二小判平7・3・10裁判集民一七四号八一一頁参照)。これに対して、民法一四八条の独自の解釈から同一の結論に至る見解(松久三四彦「民法一四八条の意味」金沢法学三一巻二号四一頁)がある。
七 本件は、大審院の判例を変更し、学説の多数説を採用して詐害行為の受益者に取消債権者の債権の消滅時効の援用権を肯定した判例であり、実務に与える影響も大きいと思われる。
4.小問3
(1)小問3(1)について
(a)
連帯保証人Dが債務者Bの主たる債務を援用すると、AD間ではBの債務が消滅した者として扱われ(援用の相対効)、保証債務の付従性によりDの連帯保証債務は消滅する。
(b)
時効利益放棄の相対効
(2)小問3(2)について
(a)
・連帯保証債務が承認により中断しても、Bの主たる債務の消滅時効は中断しない。
・連帯保証人に対する履行の請求であれば、おもたる債務の消滅時効も中断する。
+(連帯保証人について生じた事由の効力)
第四百五十八条 第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。
+(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第四百三十四条 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。
←148条の例外。
・主債務の消滅時効が中断するときは、一定の中断事由に限ることなく、保証債務の消滅時効も中断する
+(主たる債務者について生じた事由の効力)
第四百五十七条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
・保証人の時効完成前の債務弁済があっても、特段の事情のない限り、その時効援用権は再現されない!
+判例(H7.9.8)
要旨
1.連帯保証人が主債務の時効完成の前後にわたって債務の弁済をなしていた場合において、連帯保証人による右行為は、主債務について時効中断の効力を生じさせることはなく、主債務が時効により消滅するときには保証債務は主債務に付従して消滅することになり、また、主債務者の破産後に連帯保証人が主債務者に対して求償できないことを知りつつ債務を弁済しても、それだけでは、連帯保証人が主債務の時効消滅にかかわらず債務を弁済する意思を表明したものとはいえず、連帯保証人は主債務の時効を援用する権利を失わない。
(b)
+(委託を受けた保証人の求償権)
第四百五十九条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。
2 第四百四十二条第二項の規定は、前項の場合について準用する
+(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
+(通知を怠った保証人の求償の制限)
第四百六十三条 第四百四十三条の規定は、保証人について準用する。
2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第四百四十三条の規定は、主たる債務者についても準用する。
+(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
第四百四十三条 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
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