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Ⅰ はじめに
・相続させる旨の遺言の性質及び効果は?
贈与か遺産分割方法の指定か・・・
Ⅱ 遺言の自由と遺言の撤回
1.遺言の自由とその限界
・遺言制度は遺言者の最終意思を尊重することを趣旨
・厳格な様式性
+(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
+(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
(共同遺言の禁止)
第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
・緩和された能力要件
+(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
・遺言の自由に対する制限
遺言で行えることは民法に限定列挙された事項に限られる(遺言事項法定主義)
遺留分による制約
・遺留分制度の趣旨
不可侵的な相続分と考えるか
生活保障と考えるか・・・
2.遺言の撤回
+(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
Ⅲ 共同相続人の1人に特定の財産を相続させる旨の遺言
1.遺言者の意思
・特定相続人型相続させる遺言
=共同相続人のうち1人に対して、特定の財産を指定して相続させる
・受益相続人
=指定された相続人
2.遺言の性質と効果
・遺産分割を要さずに、被相続人の死亡時、すなわち遺言の効力発生と同時に特定された財産が受益相続人に物権的に帰属することを認めた。
=遺産分割方法の指定という相続承継の性質を持ちながら、遺贈的な効果を有する、折衷的な新しい類型の遺言による処分を創設したものといえる!
+判例(H3.4.19)
理由
上告代理人小川正燈、同小川まゆみの上告理由第一点、第二点及び第三点について
Aが第一審判決別紙物件目録記載の一ないし六の土地を前所有者から買い受けてその所有権を取得したとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原審は、登記簿の所有名義がAになったことだけから右事実を認定したのではなく、同人が台東不動産株式会社の社長として相応の収入を得ていたことなどの事実をも適法に確定した上で、Aの売買による所有権取得の事実を認定しているのであり、原審の右認定の過程に、所論の立証責任に関する法令違反、経験則違反、釈明義務違反等の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第五点及び第六点について
一 原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。
1 第一審共同被告BはAの夫、上告人(第一審被告)はAの長女、被上告人(第一審原告)はAの二女、第一審共同原告CはAの三女で、いずれもAの相続人であり、第一審共同原告Dは被上告人の夫であるが、Aは昭和六一年四月三日死亡した。
2 Aは、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし八の土地(ただし、八の土地については四分の一の共有持分)を所有していたが、(1) 昭和五八年二月一一日付け自筆証書により右三ないし六の土地について「上出一家の相続とする」旨の遺言を、(2) 同月一九日付け自筆証書により右一及び二の土地について「上出の相続とする」との遺言を、(3) 同五九年七月一日付け自筆証書により右七の土地について「Dに譲る」との遺言を、(4) 同日付け自筆証書により右八の土地のAの持分四分の一について「Cに相続させて下さい」旨の遺言をそれぞれした。右各遺言書は、昭和六一年六月二三日東京家庭裁判所において検認を受けたが、右の遺言のうち、(1)の遺言は、被上告人とその夫Dに各二分の一の持分を与える趣旨であり、(2)の遺言の「上出」は被上告人を、(4)の遺言の「C」はCをそれぞれ指すものである。なお、Cは、右八の土地についてAの持分とは別に四分の一の共有持分を有していた。
二 原審は、右事実関係に基づき、次のように判断した。
右(1)、(3)におけるAの相続人でないDに対する「相続とする」「譲る」旨の遺言の趣旨は、遺贈と解すべきであるが、右(1)における被上告人に対する「相続とする」との遺言、(2)の「相続とする」との遺言及び(4)の「相続させて下さい」との遺言の趣旨は、民法九〇八条に規定する遺産分割の方法を指定したものと解すべきである。そして、右遺産分割の方法を指定した遺言によって、右(1)、(2)又は(4)の遺言に記載された特定の遺産が被上告人又はCの相続により帰属することが確定するのは、相続人が相続の承認、放棄の自由を有することを考え併せれば、当該相続人が右の遺言の趣旨を受け容れる意思を他の共同相続人に対し明確に表明した時点であると解するのが合理的であるところ、被上告人については遅くとも本訴を提起した昭和六一年九月二五日、Cについては同じく同年一〇月三一日のそれぞれの時点において右の意思を明確に表明したものというべきであるから、相続開始の時に遡り、被上告人は前記一及び二の土地の所有権と三ないし六の土地の二分の一の共有持分を、Cは前記八の土地のAの四分の一の共有持分をそれぞれ相続により取得したものというべきであり、Dは、前記(3)の遺言の効力が生じた昭和六一年四月三日、前記七の土地の所有権を遺贈により取得したものというべきである。したがって、被上告人の請求のうち前記一及び二の土地の所有権並びに三ないし六の土地の二分の一の共有持分を有することの確認を求める部分、Dの前記七の土地の所有権を有することの確認を求める請求及びCの前記八の土地の四分の一を超え二分の一の共有持分を有することの確認を求める請求は、いずれも認容すべきであり、被上告人のその余の請求(三ないし六の土地の右共有持分を超える所有権の確認を求める請求)は理由がない。
三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、その者が所定の相続の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり、また、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。
原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり、被上告人が前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)
・受益相続人が相続放棄したとき、遺贈と解すれば当該相続人は遺言で特定された財産を取得することができるが、遺産分割方法の指定の場合には相続承継である以上、相続放棄をした相続人は当該財産を取得できない・・・
・遺贈の場合は、遺言者の意思表示による物権変動であり、受遺者が遺言に従った財産取得の登記を得るためには、登記権利者たる受遺者と登記義務者たる遺贈義務者の共同申請が必要になる(不動産登記法60条)
+(共同申請)
第六十条 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
・判例の生みだした遺産分割方法の指定(転用型)では、相続承継であるがゆえに登記の単独申請が可能(不動産登記法63条2項)とされ、かつ、相続でありながら遺産分割は不要とされるため、受益相続人が他の相続人に知られることなく、遺言内容通りの権利を取得し、登記まで備えることが可能・・・
既成事実化を憂慮・・・・
+(判決による登記等)
第六十三条 第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
Ⅳ 設問1について
1.第2遺言の効果
2.遺留分減殺請求
特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言に対する減殺請求を遺贈の場合と同様に扱う傾向
+判例(H10.2.26)
理由
上告代理人鶴田岬の上告理由二の1について相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たるものというべきである。ただし、右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても、以上と同様に解すべきである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
+判例(H11.12.16)
理由
第一 本件事案の概要
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 F(以下「被相続人」という。)は、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし五の土地(以下「本件各土地」といい、各個の土地は「本件一土地」のようにいう。)等を所有しており、本件各土地の登記名義人であったが、平成五年一月二二日に死亡し、相続が開始した。
2 G、平成一〇年(オ)第一四九九号被上告人・同第一五〇〇号上告人B(以下「一審被告B」という。)、H、同第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人補助参加人I(以下「補助参加人」という。)、J及びKの六名は、いずれも被相続人の子であり、同第一五〇〇号上告人C(以下「一審被告C」という。)は、一審被告Bの子であって被相続人の養子である。また、同第一四九九号・同第一五〇〇号各被上告人D及び同E(以下「当事者参加人ら」という。)は、被相続人の長男である亡Lの子であり、その代襲相続人である。
3 被相続人は、昭和五七年一〇月一五日、公正証書により、その所有する財産全部を一審被告Bに相続させる旨の遺言(以下「旧遺言」という。)をした。
4 被相続人は、昭和五八年二月一五日、公正証書により、旧遺言を取り消した上、改めて次の内容の遺言(以下「新遺言」という。)をした。
(一) 本件一土地をG、H、補助参加人、J及びKの五名(以下「Gら」という。)に各五分の一ずつ相続させる。
(二) 本件二ないし五土地を一審被告B及び一審被告Cに各二分の一ずつ相続させる。
(三) 被相続人所有のその他の財産は、相続人全員に平等に相続させる。
(四) 遺言執行者として平成一〇年(オ)第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人A(以下「一審原告」という。)を指定する。
5 しかるに、一審被告Bは、平成五年二月五日、旧遺言の遺言書を用い、本件各土地について、自己名義に相続を原因とする所有権移転登記をし、さらに、本件訴訟が第一審に係属中である平成七年四月六日、本件三ないし五土地の各持分二分の一について、一審被告Cに対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記をした。
6 当事者参加人らは、平成五年九月二九日、他の相続人ら及び一審原告に対して遺留分減殺の意思表示をし、右意思表示は、同年九月三〇日から同年一〇月八日までの間にそれぞれ到達した。
二 記録によって認められる本件訴訟の概要は、次のとおりである。
1 一審原告は、新遺言の遺言執行者として、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Cへの各真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Bは、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言(以下「相続させる遺言」という。)がされた場合には遺言執行の余地はないとして、一審原告の原告適格を争うとともに、Gらが、平成五年一月二三日、一審被告Bに対して相続分の放棄又は譲渡をし、本件一土地の共有持分権を失ったと主張する。
2 当事者参加人らは、遺留分減殺の意思表示をした上、本件各土地についてそれぞれ三二分の一の共有持分権を取得したとして右1の訴訟に独立当事者参加をし、右共有持分権に基づき、(1) 一審原告に対し、右共有持分権の確認を求めるとともに、(2) 一審被告Bに対し、右共有持分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Bは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たり、一審被告Bの寄与分を考慮すべきであると主張するほか、Gらが右遺留分減殺請求権の行使より前に本件一土地の共有持分を一審被告Bに対して譲渡したから、民法一〇四〇条一項本文により、当事者参加人らは一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができないと主張する。
3 また、当事者参加人らは、遺留分減殺により取得した共有持分権に基づき、右2の訴訟とは別個に、一審被告Cに対し、本件三ないし五土地についての共有持分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Cは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たると主張する。
三 原審は、一審原告の一審被告Bに対する訴え(二1)及び当事者参加人らの一審原告に対する訴え(二2(1))については、遺言執行者である一審原告は当事者適格を有しないとして、いずれもこれを却下し、当事者参加人らの一審被告Bに対する請求(二2(2))及び一審被告Cに対する請求(二3)については、いずれもこれを認容すべきものとした。平成一〇年(オ)第一四九九号事件は、一審原告が提起した上告であり、同第一五〇〇号事件は、一審被告らが提起した上告である。
第二 平成一〇年(オ)第一四九九号上告代理人浅見雄輔の上告理由について
一 上告理由は、被相続人の遺言執行者である一審原告が、一審被告Bに対し、本件一土地及び本件二土地の持分二分の一について持分移転登記手続を求める訴えの当事者適格(原告適格)を有するか否かに関するものである。
二 原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判断し、一審原告の一審被告Bに対する右訴えを不適法として却下した。
1 新遺言は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、右相続人らは、被相続人の死亡の時に遺言に指定された持分割合により本件各土地の所有権を取得したものというべきである。そして、この場合には、当該相続人は、自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容に反する登記がされたとしても、自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴えを提起することができるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言執行者は、遺言の執行として相続人への所有権移転登記手続をする権利又は義務を有するものではない。
2 新遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれていることは、右のように解する妨げにはならない。また、本件において、他に、遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど、直ちに権利が承継されると解すべきでない特段の事情は存しない。
3 したがって、被相続人の遺言執行者である一審原告は、一審被告Bに対する本件一土地及び本件二土地の持分二分の一の持分移転登記手続請求に係る訴えについて、当事者適格を有しないというべきであり、右訴えは不適法である。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
2 そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法一〇一二条一項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法二七条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成三年(オ)第一〇五七号同七年一月二四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁参照)。しかし、【要旨】本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。
3 したがって、一審原告は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告Bに対する本件訴えの原告適格を有するというべきである。
そうすると、これと異なる原審の右判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、理由がある。
第三 平成一〇年(オ)第一五〇〇号上告代理人奥川貴弥、同川口里香の上告理由について
一 前記の事実関係によれば、当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有するものであるところ、上告理由は、当事者参加人らが一審被告らに対し、本件各土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができるか否かに関するものである。
二 原審は、次のとおり判断し、一審被告らの抗弁をいずれも排斥して、当事者参加人らの本訴請求を認容すべきものとした。
1 当事者参加人らの父である亡Lが、被相続人の夫である亡Mから多数の不動産の贈与を受け、亡Mの相続に際して相続の放棄をした事実は認められるが、亡Lないし当事者参加人らが被相続人の相続に関して相続を放棄し、又は遺留分を主張しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、全証拠によるも、当事者参加人らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めることはできない。
2 寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって、遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。
3 一審被告Bの主張事実をもってしても、Gらは、被相続人の遺産相続についての話合いの結果、相続分の放棄をし、又は共同相続人である一審被告Bに相続分を譲渡したというのであって、これが民法一〇四〇条一項にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかである。
三 右1及び2の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。したがって、一審被告Cの上告は既に理由がない。
四 しかしながら、原審の右3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がされた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したときは、民法一〇四〇条一項が類推適用され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当である。また、同項にいう「他人」には、甲の共同相続人も含まれるものというべきである。したがって、当事者参加人らが遺留分減殺請求をする前に、Gらが一審被告Bに本件一土地の共有持分を譲り渡したとすれば、当事者参加人らは、同項ただし書に当たる場合を除き、一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができない筋合いである。原審は、一審被告Bの主張を相続分の放棄又は譲渡をいうものと解し、その主張自体からして同項に該当しないと判断したものと見られるが、記録によれば、一審被告Bは、本件一土地についてGらが共有持分を譲渡したとも主張していることが明らかであるから、原審としては、一審被告Bの主張する共有持分の譲渡の事実の有無を認定し、同項本文の適用の可否について判断すべきものであった。
そうすると、これと異なる原審の右3の判断には、法令の解釈適用の誤りないし判断遺脱の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある(付言するに、仮に当事者参加人らの一審被告Bに対する持分移転登記手続請求に理由があるとしても、本件一土地の登記原因については検討を要する。本件二土地の持分二分の一の登記原因についても、同様である。)。
第四 さらに、職権により次のとおり判断する。
一 原審は、当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき一審原告に対して本件各土地について共有持分権の確認を求める訴えについても、本件においては遺言執行の余地がなく、一審原告は当事者適格(被告適格)を有しないとして、当事者参加人らの一審原告に対する右訴えを不適法として却下した。
二 しかしながら、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有しており、一方、遺言執行者である一審原告は、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Cへの各持分移転登記手続を求めていて、これが遺言の執行に属することは前記のとおりである。そして、一審原告の右請求の成否と当事者参加人らの本件一及び二土地についての遺留分減殺請求の成否とは、表裏の関係にあり、合一確定を要するから、本件一及び二土地について当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求める訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当事者適格(被告適格)を有するものと解するのが相当である(これに対し、本件三ないし五土地については、被相続人の新遺言の内容に符合する所有権移転登記が経由されるに至っており、もはや遺言の執行が問題となる余地はないから、一審原告は、右各土地について共有持分権の確認を求める訴訟に関しては被告適格を有しない。)。
そうすると、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第五 結論
以上の次第で、原判決中、当事者参加人らが一審被告B及び一審被告Cに対し本件三ないし五土地について共有持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を除く、その余の部分を破棄した上、更に所要の審理判断を尽くさせるため右破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととし、一審被告Bの上告中、本件三ないし五土地に関する部分及び一審被告Cの上告は理由がないので、これを棄却することとする。
なお、一審被告Bの上告中、本件二土地に関する部分は理由がないが(ただし、その持分二分の一の登記原因については、前記のとおりである。)、本件一及び二土地に関する本件訴訟は、一審原告、一審被告B及び当事者参加人らの間において訴訟の目的を合一に確定すべき場合に当たるから、右部分については、主文において上告棄却の言渡しをしない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
・遺留分分減殺請求の効果は現物返還が原則!!
・しかし、請求権者は複数の遺贈の1つだけを狙い打ちにして、当該遺贈のもくてきぶつのみ遺留分を満たすことは認められていない!!!!!!!!
・+(遺贈の減殺の割合)
第千三十四条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
・Fが価格弁済を選ばなかった場合、遺留分減殺請求の結果、甲乙丙各不動産はFBCの物権的な共有状態となり、BCが分割を希望するときには、遺産分割ではなく、共有物分割を求めることになる!!!
・Fが価格弁済を選択した場合、Fはどの財産を現物返還し、どの財産を価格弁済するかを自由に決めることができる!!!!!!
+判例(H12.7.11)
理由
一 事案の概要
本件は、亡Aの共同相続人の一人であり相続財産全部の包括遺贈を受けた上告人に対して、遺留分減殺請求をした他の共同相続人である被上告人らが、共有に帰した相続財産中の株式等について共有物の分割及び分割された株式に係る株券の引渡し等を請求したものである。
二 上告代理人高崎英雄の上告受理申立て理由第一について
1 上告人は、遺贈を受け被上告人らからの遺留分減殺請求の対象となっている財産の一部である第一審判決別紙株式目録記載六の株式のみについて、本件訴訟で民法一〇四一条一項に基づく価額の弁償を主張している。
2 原審は、同項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、贈与又は遺贈された財産全体の価額を指すものと解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者において任意に選択した一部の財産について価額の弁償をすることは、遺留分減殺請求権を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものというべきであり、そう解しないときは、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財産についての共有物分割手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の財産を優先的に取得することができることとなり、遺留分権利者の利益を不当に害することになるとして、上告人の価額弁償の主張を排斥し、右株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
3 しかし、【要旨1】受贈者又は受遺者は、民法一〇四一条一項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和五三年(オ)第九〇七号同五四年七月一〇日第三小法廷判決・民集三三巻五号五六二頁)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、右に説示したことが妥当するのである。
そうすると、原審の前記判断には民法一〇四一条一項の解釈を誤った違法があるというべきである。
三 同第二の三について
1 原審は、第一審判決別紙株式目録一ないし四記載の新日本製鉄株式会社外三社の各株式について、株式は一株を単位として可分であり、かつ、分割することによる価値の減少が認められないことを理由として、右各株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
2 しかし、右各株式は証券取引所に上場されている株式であることは公知の事実であり、これらの株式については、一単位未満の株券の発行を請求することはできず、一単位未満の株式についてはその行使し得る権利内容及び譲渡における株主名簿への記載に制限がある(昭和五六年法律第七四号商法等の一部を改正する法律附則一五条一項一号、一六条、一八条一、三項)。したがって、【要旨2】分割された株式数が一単位の株式の倍数であるか、又はそれが一単位未満の場合には当該株式数の株券が現存しない限り、当該株式を表象する株券の引渡しを強制することはできず、一単位未満の株式では株式本来の権利を行使することはできないから、新たに一単位未満の株式を生じさせる分割方法では株式の現物分割の目的を全うすることができない。
そうすると、このような株式の現物分割及び分割された株式数の株券の引渡しの可否を判断するに当たっては、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等をも考慮すべきであり、この点について考慮することなく、右各株式の現物分割を命じた原審の判断には、民法二五八条二項の解釈を誤った違法があり、これを前提として株券の引渡しを命じた原審の判断にも違法があるというべきである。
四 結論
以上によれば、原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六記載の各株式の分割及び株券の引渡しを命じた部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって、論旨は理由があり、原判決中、右部分は破棄を免れず、同目録記載一ないし四の各株式に関する請求については、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等を考慮した現物分割の可否について、同目録記載六の株式に関する請求については、弁償すべき価額について、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田昌道)
3.養子縁組の効力
・普通養子縁組は、婚姻と同様に、縁組意思の存在を前提に届出によって成立し、縁組石を各縁組は無効!
実質的意思説
当事者間に社会観念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思の合致があるか
Ⅴ 最判平成3年判決が残した課題~権利取得の第三者に対する対抗
・特定の相続財産を相続させる旨の遺言に基づいて財産を取得した受益相続人が、他の共同相続人の法定相続分について利害関係を有するに至った第三者に対して遺言に従った所有権取得を対抗するために登記を要するか?
登記不要
この局面では相続承継の性質に従った解決!
+判例(H14.6.10)
理由
上告代理人永盛敦郎、同滝沢香の上告受理申立て理由について
1 原審の認定によれば、本件の経過は、次のとおりである。被上告人は、夫である被相続人乙川次男がした、原判決添付物件目録記載の不動産の権利一切を被上告人に相続させる旨の遺言によって、上記不動産ないしその共有持分権を取得した。法定相続人の一人である乙川一男の債権者である上告人らは、一男に代位して一男が法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上、一男の持分に対する仮差押え及び強制競売を申し立て、これに対する仮差押え及び差押えがされたところ、被上告人は、この仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
2 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。このように、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁、最高裁平成元年(オ)第七一四号同五年七月一九日第二小法廷判決・裁判集民事一六九号二四三頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。
3 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)
←遺贈による所有権移転の完全な実現のために相続人に登記協力義務があるのに対して、相続させる旨の遺言による所有権移転の場合には他の共同相続人が関与する余地が全くない点で遺贈の構造と異なる
・遺贈による財産取得の対抗には登記を要する
・相続承継であれば、相続に基づく法定又は指定相続分の財産取得は登記なしに対抗可能。
ただ、遺産分割による法定又は指定相続分をこえる財産取得には登記が必要!!
Ⅵ おわりに
・受益相続人が遺言者よりも先に死亡したときの遺言の効力
+判例(H23.2.22)
理 由
上告代理人岡田進,同中西祐一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。
(2) Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。
(3) Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。
(4) Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。
3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。
4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。
5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)
←遺贈に近づけた解決。
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