12-4 多数当事者訴訟 必要的共同訴訟

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1.必要的共同訴訟の意義
必要的共同訴訟
=訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定する必要のある共同訴訟

合一確定の必要とは、
共同訴訟人間で訴訟資料と手続進行を統一することによって判決の内容を統一することが要求されること

・固有必要的共同訴訟
訴訟共同の必要がある場合。複数人が共同原告となり、または複数人を共同被告として訴えを提起しなければ当事者適格を欠くことになるために訴えが不適法になる場面。
共同原告または共同被告は訴訟追行権を共同でのみ行使することができることから、その結果として合一確定がもたらされる。

・類似必要的共同訴訟
訴訟共同の必要があるわけではないが、共同訴訟となった場合は、合一確定が要請される。
合一確定の要請は、
互いに判決効が拡張する場合があることから、判決効の矛盾抵触を回避するためには判決内容を統一する必要があるという観点から説明。

2.固有必要的共同訴訟
(1)固有必要的共同訴訟の意義
訴訟共同の必要がある訴訟形態。

固有必要的共同訴訟の範囲は、個別の実体法の規定の趣旨を探り、時には訴訟的な考慮も加味することによって確定される。

(2)共同の管理処分権の行使が必要とされている場合
管理処分権を共同行使すべき場合である以上、訴訟追行権も共同して行使する必要がある。

(3)他人間の法律関係に変動を生じさせる訴訟
他人間の法律関係に変動を生じさせる形成訴訟の場合、当該法律関係の主体全員を共同被告としなければならない。

(4)共同所有の場合
ⅰ)共同所有者から第三者に対する訴え
  a)総有以外の場合
・共有持分権の確認を求める訴訟は固有必要的共同訴訟ではない
←共有持分権は各共同所有者に帰属する権利である以上、訴訟追行も各共同所有者の自由に委ねられるべき。

+判例(S40.5.20)
理由
 上告代理人柴田健太郎の上告理由第一点について。
 共有持分権の及ぶ範囲は、共有地の全部にわたる(民法二四九条)のであるから、各共有者は、その持分権はもとづき、その土地の一部が自己の所有に属すると主張する第三者に対し、単独で、係争地が自己の共有持分権に属することの確認を訴求することができるのは当然である(昭和三年一二月一七日大審院判決、民集七巻一〇九五頁参照)。これと同趣旨にでた原判決の判断は正当であり、論旨は独自の見解であつて、採用できない。
 同第二点について。
 本件において所有権の帰属につき争があるのは、被上告人らの主張する共有地の全部ではなく、その一部であること原判文上明らかであるのに、原判決は、共有地の全部が被上告人らの共有持分の及ぶ範囲であることを確認していること論旨指摘のとおりである。一筆の土地であつても、所有権確認の利益があるのは、相手方の争つている地域のみであつて、争のない地域については確認の利益がないこというまでもない。すなわち、原判決は、確認の利益のない部分について確認の判決をした違法があるといわざるをえない。論旨は理由があり、原判決中確認の訴を認容した部分を破棄し、争のある土地の範囲を特定させるため、原審に差し戻すべきものとする。
 同第三点について。
 甲乙両山林の境界についての原判決の事実認定は、挙示する証拠関係に照らして首肯しえなくはない。論旨は、原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用することができない。
 よつて、その余の部分に対する上告を棄却し、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)

・ABCの共有に属することの確認を求める訴えを第三者に対して提起する場合は、ABC全員が原告にならなければならない。
←共同所有者全員の有する1個の所有権そのものが紛争の対象となっている以上、共同所有者全員が共同して訴訟追行権を行使すべきであること、その紛争の解決いかんについては共同所有者全員が法律上利害関係を有することから、判決による解決は全員に矛盾なくされることが要請される。

+判例(S46.10.7)
理由
 上告代理人荒井素佐夫、同山本孝の上告理由第四点について。
 本件記録によれば、被上告人らの本訴請求は、被上告人らが共同して本件土地を訴外Aから買い受けてその所有権を取得したが、都合により上告人名義に所有権移転登記を経由したもので、その登記は実体関係に合致しないものであるとの理由で、上告人に対し本件土地の共有権の確認および右登記の抹消登記手続に代えて所有権移転登記手続を求めるものであるところ、被上告人Bは、本件第一審係属中に本訴を取り下げる旨の昭和三七年九月一〇日付書面を提出し、上告人がその取下げに同意する旨の同月一一日付書面を提出していることが明らかである。
 そして、原審は、被上告人Bのした右訴の取下げは無効であると判示しているところ、論旨は、要するに、被上告人らの提起した本件訴訟は、通常の共同訴訟であつて、被上告人Bの取下げによつて、同人と上告人との間の訴訟は終了したものというべく、原判決には民訴法六二条の解釈適用を誤つた違法があるというのである。
 思うに、一個の物を共有する数名の者全員が、共同原告となり、いわゆる共有権(数人が共同して有する一個の所有権)に基づき、その共有権を争う第三者を相手方として、共有権の確認を求めているときは、その訴訟の形態はいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である(大審院大正一一年(オ)第八二一号同一三年五月一九日判決、民集三巻二一一頁参照)。けだし、この場合には、共有者全員の有する一個の所有権そのものが紛争の対象となつているのであつて、共有者全員が共同して訴訟追行権を有し、その紛争の解決いかんについては共有者全員が法律上利害関係を有するから、その判決による解決は全員に矛盾なくなされることが要請され、かつ、紛争の合理的解決をはかるべき訴訟制度のたてまえからするも、共有者全員につき合一に確定する必要があるというべきだからである。また、これと同様に、一個の不動産を共有する数名の者全員が、共同原告となつて、共有権に基づき所有権移転登記手続を求めているときは、その訴訟の形態も固有必要的共同訴訟と解するのが相当であり(大審院大正一一年(オ)第二五六号同年七月一〇日判決、民集一巻三八六頁参照)、その移転登記請求が真正な所有名義の回復の目的に出たものであつたとしても、その理は異ならない。
 それゆえ、このような訴訟の係属中に共同原告の一人が訴の取下げをしても、その取下げは効力を生じないものというべきである。これと同趣旨の原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は、いずれも本件と事案を異にして適切ではない。したがつて、論旨は採用することができない。
 同第一点、第二点、第三点一ないし三について。
 本件土地は被上告人両名が訴外Aから買い受けてその所有権を取得したものであり、単に所有権移転登記を経由するに際して便宜上上告人名義を用いたにすぎない旨の原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして肯認するに足り、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実をも合わせ主張して原判決の認定判断を非難するか、または、原判決を正解しないでその判断を非難するにすぎず、採用することができない。
 同第三点四について。
 原判決は、本件土地の所有権の帰属を証拠によつて適法に認定判断しているのであるから、もはや登記の推定力を問題とする余地のないことは明らかである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 岩田誠 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

・不動産の共同所有者の1人が当該不動産の登記簿上の所有名義者に対してその登記の抹消を求める訴えは固有必要的共同訴訟ではない。
持分権は共有物全体に及んでおり、持分権に基づく妨害排除請求権として自らの持分割合を超えた部分についても抹消登記を請求できるため、各持分権者が提訴できてよいから
+(抹消登記請求は民法252条ただし書きの保存行為(現状を維持するもので、他の共同所有者の不利益にならない行為)に属するから。)

+判例(S31.5.10)
理由
 上告代理人弁護士桑江常善の上告理由第一点について。
 本件におけるがごとくある不動産の共有権者の一人がその持分に基ずき当該不動産につき登記簿上所有名義者たるものに対してその登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求に外ならずいわゆる保存行為に属するものというべく、従つて、共同相続人の一人が単独で本件不動産に対する所有権移転登記の全部の抹消を求めうる旨の原判示は正当であると認められるから、論旨は採ることができない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠によれば、Aが実弟たる控訴人(上告人)名義に仮装して本件登記をなしたとの原判示認定を肯認することができるし、また、原判決は、第一審判決とは異つて被上告人等が共同相続をしたとの被上告人の主張事実を是認したものであるから、所論の審理不尽は認められない。なお、不法原因給付であるとの主張は、原審で主張しなかつたところであるから、原判決が民法七〇八条の解釈を誤つたとの主張は採用することができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

・共有地全体に関する移転登記請求訴訟は固有必要的共同訴訟である。
←共有地全体についての移転登記請求は持分権を基礎としてできるわけではない。
移転登記請求の場合、いかなる持分割合での移転登記をするかが原告の意思にかかっており、保存行為の範疇をこえる。

  b)総有の場合
・ある土地が複数の入会権者の総有に属することの確認を求める訴訟においては総有権者たる入会権者全員が原告とならなければならない。

+判例(S41.11.25)
理由
 職権をもつて調査するに、入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴は、権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである(明治三九年二月五日大審院判決・民録一二輯一六五頁参照)。この理は、入会権が共有の性質を有するものであると、共有の性質を有しないものであるとで異なるとこるがない。したがつて、上告人らが原審において訴の変更により訴求した「本件土地につき共有の性質を有する入会権を有することを確認する。若し右請求が理由がないときは、共有の性質を有しない入会権を有することを確認する」旨の第四、五次請求は、入会権者全員によつてのみ訴求できる固有必要的共同訴訟であるというべきところ、本件右請求が入会権者と主張されている部落民全員によつて提起されたものでなく、その一部の者によつて提起されていることは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、右請求は当事者適格を欠く不適法なものである。本件土地を上告人らが総有することを請求原因として被上告人に対しその所有権取得登記の抹消を求める第二次請求もまた同断である。
 さらに、上告人らの本件第三次請求は、本件土地が又重財産区の所有に属することを請求原因として、被上告人に対しその所有権取得登記の抹消を求めるものである。そうとすれば、本請求の正当な原告は又重財産区であつて、上告人らは当事者適格を有しないものというべきである。本訴もまた不適法である。
 よつて、上告人ら代理人森吉義旭、同浅石大和の上告理由中前文および第一点ないし第一〇点に対する判断を省略し、本件第二ないし第五次請求について本案の判断をした第一、二審判決を破棄し、右請求を却下すべきものとする。
 同第一一、一二点について。
 論旨は、上告人らが時効により本件土地の共有権を取得したことを請求原因とし、被上告人に対しそれぞれ持分三三〇分の一の移転登記を求める上告人らの第一次請求を排斥した原判決の判断に、法令違背、事実誤認、判断遺脱の違法がある、という。
 しかし、上告人らが時効取得の基礎として主張する占有は、又重部落民全員ないしは又重部落としての団体的占有であることもその主張自体に照して明らかであるところ、このような団体的占有によつて個人的色彩の強い民法上の共有権が時効取得されるとは認めらないから、本請求は、その主張自体失当であるというべきである。そうとすれば、論旨はすべて無用の論議に帰するから採用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官山田作之助は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 奥野健一)

・入会地に関する地上権設定登記の抹消を求める訴訟についても入会権者全員が原告にならなければならない。
←総有においては、通常の享有におけるような持分権を観念できない以上、構成員各自において入会権自体に対する妨害排除としての抹消登記を請求することはできない。民法252条ただし書きを経由した個別訴訟の可能性を否定。

+判例(S57.7.1)
理由
 上告代理人奥野健一、同伊豆鉄次郎、同早瀬川武の上告理由第一点について
 入会部落の構成員が入会権の対象である山林原野において入会権の内容である使用収益を行う権能は、入会部落の構成員たる資格に基づいて個別的に認められる権能であつて、入会権そのものについての管理処分の権能とは異なり、部落内で定められた規律に従わなければならないという拘束を受けるものであるとはいえ、本来、各自が単独で行使することができるものであるから、右使用収益権を争い又はその行使を妨害する者がある場合には、その者が入会部落の構成員であるかどうかを問わず、各自が単独で、その者を相手方として自己の使用収益権の確認又は妨害の排除を請求することができるものと解するのが相当である。これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、当事者参加人らは、本件山林について入会権を有する山中部落の構成員の一部であつて、各自が本件山林において入会権に基づきその内容である立木の小柴刈り、下草刈り及び転石の採取を行う使用収益権を有しているというのであり、右使用収益権の行使について特別の制限のあることは原審のなんら認定しないところであるから、当事者参加人らの上告人及び被上告人神社に対する右使用収益権の確認請求については、当事者参加人らは当然各自が当事者適格を有するものというべく、また、上告人に対する地上権設定仮登記の抹消登記手続請求についても、それが当事者参加人らの右使用収益権に基づく妨害排除の請求として主張されるものである限り、当事者参加人ら各自が当事者適格を有するものと解すべきである。これと同旨の原審の判断は正当であつて、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、入会部落の構成員の一部の者が入会部落民に総有的に帰属する入会権そのものの確認及びこれに基づく妨害排除としての抹消登記手続を求めた場合に関するものであつて、事案を異にし本件に適切でない。
 しかしながら、職権をもつて、当事者参加人らの請求中本件山林について経由された地上権設定仮登記の抹消登記手続請求の当否について検討するに、当事者参加人らが有する使用収益権を根拠にしては右抹消登記手続を請求することはできないものと解するのが相当である。けだし、原審が適法に確定したところによれば、当事者参加人らが入会部落の構成員として入会権の内容である使用収益を行う権能は、本件山林に立ち入つて採枝、採草等の収益行為を行うことのできる権能にとどまることが明らかであるところ、かかる権能の行使自体は、特段の事情のない限り、単に本件山林につき地上権設定に関する登記が存在することのみによつては格別の妨害を受けることはないと考えられるからである。もつとも、かかる地上権設定に関する登記の存在は、入会権自体に対しては侵害的性質をもつといえるから、入会権自体に基づいて右登記の抹消請求をすることは可能であるが、かかる妨害排除請求権の訴訟上の主張、行使は、入会権そのものの管理処分に関する事項であつて、入会部落の個々の構成員は、右の管理処分については入会部落の一員として参与しうる資格を有するだけで、共有におけるような持分権又はこれに類する権限を有するものではないから、構成員各自においてかかる入会権自体に対する妨害排除としての抹消登記を請求することはできないのである。しかるに、原審は、なんら前記特段の事情のあることを認定することなしに、当事者参加人らが入会権の内容として有する使用収益権に特別の効力を認め、右使用収益権はその法的効力においてはいわば内容において限定を受けた持分権叉は地上権と同様の性質を持つものと解したうえ、当事者参加人らは、右各自の使用収益権に基づく保存行為として本件山林について経由された地上権設定仮登記の抹消登記手続を請求することができるものと判断しているのであつて、右判断には、入会権に関する法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法が原判決中右抹消登記手続請求に関する部分に影響を及ぼすことは明らかである。
 したがつて、論旨は、理由がなく、採用の限りでないが、原審が当事者参加人らの請求中本件山林について経由された地上権設定仮登記の抹消登記手続請求を認容したことは失当であるから、原判決中右請求に関する部分を破棄し、第一審判決中右請求に関する部分を取り消し、右請求を棄却すべきである。
 同第二点について
 記録によれば、所論の主張は、本件山林が被上告人神社の所有であつて同神社は上告人との間で適法かつ有効に地上権設定契約を締結したことを強調する趣旨に出たものにとどまり、独立の抗弁として主張する趣旨と解することはできないから、原審が所論の主張について判断を加えていないからといつて所論の違法があるとはいえない。のみならず、記録によれば、当事者参加人らは、上告人主張の地上権設定契約は本件山林について処分権限のない被上告人神社との間で締結された無効なものであると主張して民訴法七一条に基づき本件訴訟に当事者として参加し、上告人及び被上告人神社の双方に対し、右地上権設定契約に基づく上告人の請求とは両立しえない請求をしていることが明らかであつて、本件山林はその実質においては山中部落の総有であつて被上告人神社はなんらの処分権限を有しないものとして当事者参加人らの入会権の内容である使用収益権の確認請求を認容する限り、右地上権設定契約を有効なものと認めて上告人の被上告人神社に対する請求を認容することは、論理的に不可能であるといわなければならない。そうとすれば、たとえ所論のように、被上告人神社には上告人との関係で右地上権設定契約の無効を主張することの許されない特段の事情があるとしても、処分権限のない被上告人神社が締結した右契約を有効なものと認めて上告人の請求を認容する余地はないから、仮に原審において所論の主張がされていたにもかかわらず原審がこれについての判断を遺脱したものであるとしても、右は判決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。論旨は、結局、採用することができない。
 同第三点について
 原審が確定したところによれば、本件山林について被上告人神社名義に所有権移転登記が経由されたのは、入会部落である山中部落が独立の法人格を有せず、払下げを受けるにあたつて部落有地としての登記方法がなかつたためやむをえず行つたもので、所有権の信託的譲渡があつたものではない、というのであり、右事実は原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができる。もつとも、右事実によれば、被上告人神社に対する右所有権移転登記が入会権者である山中部落民の承諾を得て経由されたものであることを否定することはできないが、入会権については現行法上これを登記する途が開かれていないため(不動産登記法一条参照)、入会権の対象である山林原野についての法律関係は、登記によつてではなく実質的な権利関係によつて処理すべきものであるから、本件山林について被上告人神社名義に所有権移転登記が経由されていることをとらえて、入会権者と被上告人神社との間で仮装の譲渡契約があつたとか又はこれと同視すべき事情があつたものとして、民法九四条二項を適用又は類推適用するのは相当でないものというべきである(最高裁昭和四二年(オ)第五二四号同四三年一一月一五日第二小法廷判決・裁判集民事九三号二三三頁)。右と結論を同じくする原審の判断は正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九三条、九二条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 本山亨 裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

・使用収益権の確認を各入会権者が単独で求めることはできる。

  c)共同所有者の一部が提訴を拒否する場合
・提訴に同調しない入会権者を被告とすることでこの訴えを適法に提起することができる。
←提訴を拒否する構成員は被告とされる限り、訴訟に関与することができる以上、利害を害されるとはいえないから。

+判例(H20.7.17)
理由
 上告代理人中尾英俊、同増田博、同蔵元淳の上告受理申立て理由について
 1 本件は、上告人らが、第1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地(以下、同目録記載の土地を、その番号に従い「本件土地1」などといい、併せて「本件各土地」という。)は鹿児島県西之表市A集落の住民を構成員とする入会集団(以下「本件入会集団」という。)の入会地であり、上告人ら及び被上告人Y2(以下「被上告会社」という。)を除く被上告人ら(以下「被上告人入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して、被上告人入会権者ら及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被上告会社に対し、上告人ら及び被上告人入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。
 2 原審が確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 被上告会社は、本件土地1についてはその登記名義人である被上告人Y3及び同Y4から、本件土地2~4についてはその登記名義人である被上告人Y5及び同Y6から、それぞれ買い受け、その所有権を取得したとして、平成13年5月29日、共有持分移転登記を了した。
 3 原審は、次のとおり判示して、本件訴えを却下すべきものとした。
 (1) 入会権は権利者である入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴えは、権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であるというべきである。
 (2) 本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは、本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく、その一部の者によって提起されたものであるため、原告適格を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。本件のような場合において、訴訟提起に同調しない者は本来原告となるべき者であって、民訴法にはかかる者を被告にすることを前提とした規定が存しないため、同調しない者を被告として訴えの提起を認めることは訴訟手続的に困難というべきである上、入会権は入会集団の構成員全員に総有的に帰属するものであり、その管理処分については構成員全員でなければすることができないのであって、構成員の一部の者による訴訟提起を認めることは実体法と抵触することにもなるから、上告人らに当事者適格を認めることはできない。
 4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 上告人らは、本件各土地について所有権を取得したと主張する被上告会社に対し、本件各土地が本件入会集団の入会地であることの確認を求めたいと考えたが、本件入会集団の内部においても本件各土地の帰属について争いがあり、被上告人入会権者らは上記確認を求める訴えを提起することについて同調しなかったので、対内的にも対外的にも本件各土地が本件入会集団の入会地であること、すなわち上告人らを含む本件入会集団の構成員全員が本件各土地について共有の性質を有する入会権を有することを合一的に確定するため、被上告会社だけでなく、被上告人入会権者らも被告として本件訴訟を提起したものと解される。
 特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは、原審の上記3(1)の説示のとおり、入会集団の構成員全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。そして、入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、入会権の存否について争いのあるときは、民事訴訟を通じてこれを確定する必要があることは否定することができず、入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。そこで、入会集団の構成員のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には、入会権の存在を主張する構成員が原告となり、同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて、同訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。このような訴えの提起を認めて、判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても、構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから、構成員の利益が害されることはないというべきである
 最高裁昭和34年(オ)第650号同41年11月25日第二小法廷判決・民集20巻9号1921頁は、入会権の確認を求める訴えは権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟というべきであると判示しているが、上記判示は、土地の登記名義人である村を被告として、入会集団の一部の構成員が当該土地につき入会権を有することの確認を求めて提起した訴えに関するものであり、入会集団の一部の構成員が、前記のような形式で、当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないと解するのが相当である。
 したがって、特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり、入会集団の一部の構成員が、当該第三者を被告として、訴訟によって当該土地が入会地であることの確認を求めたいと考えた場合において、訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは、上記一部の構成員は、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で当該土地が入会地であること、すなわち、入会集団の構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され、構成員全員による訴えの提起ではないことを理由に当事者適格を否定されることはないというべきである。
 以上によれば、上告人らと被上告人入会権者ら以外に本件入会集団の構成員がいないのであれば、上告人らによる本件訴えの提起は許容されるべきであり、上告人らが本件入会集団の構成員の一部であることを理由に当事者適格を否定されることはない。
 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、第1審判決を取り消した上、上告人らと被上告人入会権者ら以外の本件入会集団の構成員の有無を確認して本案につき審理を尽くさせるため、本件を第1審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)

・提訴拒否者がいる場合のほかの共同所有者による提訴困難という問題について。
給付訴訟においては権利の帰属主体と主張する者のみが原告適格を有するという原則が妥当する。提訴拒否者を被告に回すという処理をすることは、第三者の権利を確認対象とすることも当然には否定されない確認訴訟以上に困難では。

・境界確定訴訟における固有必要的共同訴訟
提訴を拒否する共同所有者を被告に回すという処理
←公簿上の境界を定めるにあたって、裁判所は当事者の主張に拘束されずに境界線を定めることができるという境界確定訴訟の特殊性

+判例(H11.11.9)
理由
 上告代理人森脇勝、同河村吉晃、同今村隆、同植垣勝裕、同小沢満寿男、同岩松浩之、同田中泰彦、同山本了三、同麦谷卓也の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、(1) Bの相続人である被上告人らは、第一審判決別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)を持分各四分の一ずつの割合で相続した、(2) 本件土地は、その北側が上告人所有の道路敷(以下「本件道路敷」という。)に、南側が同人所有の河川敷(以下「本件河川敷」という。)に、それぞれ隣接している(以下、本件道路敷及び本件河川敷を併せて「上告人所有地」という。)、(3) 被上告人らの間においてBの遺産の分割について協議が調わず、被上告人Cを除く同Aら三名(以下「被上告人Aら」という。)が同Cを相手方として申し立てた遺産分割の審判が京都家庭裁判所に係属しているところ、本件土地と上告人所有地との境界が確定していないために右手続が進行しないでいる、(4) 被上告人Aらは、本件土地と上告人所有地との境界を確定するために、被上告人Cと共同して、上告人を被告として境界確定の訴えを提起しようとしたが、被上告人Cがこれに同調しなかったことから、同人及び上告人を被告として、本件境界確定の訴えを提起した、というものである。
 二 第一審は、本件土地と本件道路敷との境界は第一審判決別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニの各点を結ぶ直線であり、本件土地と本件河川敷との境界は同図面記載ホ、ヘ、トの各点を結ぶ直線であると確定した。上告人は、被上告人Aらを被控訴人として控訴を提起し、原審において、土地の共有者が隣接する土地との境界の確定を求める訴えは共有者全員が原告となって提起すべきものであると主張し、本件訴えの却下を求めた。原審は、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした上で、被上告人Aらと上告人との間及び被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ第一審と同一の境界を確定した。
 三 境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解される(最高裁昭和四四年(オ)第二七九号同四六年一二月九日第一小法廷判決・民集二五巻九号一四五七頁参照)。したがって、共有者が右の訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきものであるということができるしかし、【要旨】共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
 けだし、境界確定の訴えは、所有権の目的となるべき公簿上特定の地番により表示される相隣接する土地の境界に争いがある場合に、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、所有権の目的となる土地の範囲を確定するものとして共有地については共有者全員につき判決の効力を及ぼすべきものであるから、右共有者は、共通の利益を有する者として共同して訴え、又は訴えられることが必要となる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、隣接する土地との境界に争いがあるときにはこれを確定する必要があることを否定することはできないところ、右の訴えにおいては、裁判所は、当事者の主張に拘束されないで、自らその正当と認めるところに従って境界を定めるべきであって、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定に違反するものではないのである(最高裁昭和三七年(オ)第九三八号同三八年一〇月一五日第三小法廷判決・民集一七巻九号一二二〇頁参照)。このような右の訴えの特質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要はなく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すこともないからである
 そして、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合には、この共有者間には公簿上特定の地番により表示されている共有地の範囲に関する対立があるというべきであるとともに、隣地の所有者は、相隣接する土地の境界をめぐって、右共有者全員と対立関係にあるから、隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている者のみを相手方として上訴した場合には、民訴法四七条四項を類推して、同法四〇条二項の準用により、この上訴の提起は、共有者のうちの被告となっている者に対しても効力を生じ、右の者は、被上訴人としての地位に立つものと解するのが相当である。
 右に説示したところによれば、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の各判例のうち、最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決・民集二一巻七号一九二五頁は、本件と事案を異にし適切でなく、その余の各判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない。なお、原審は、主文三項の1において被上告人Aらと上告人との間で、同項の2において被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ本件土地と上告人所有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
 よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

ⅱ)第三者から共同所有者に対する訴え
・土地所有者の相続人に対する買主からの移転登記請求訴訟について、
各相続人の移転登記義務は不可分債務であり、買主は各相続人に対して全部の履行を請求し得る。
=共同訴訟の必要はない。

・所有権に基づく建物収去土地明渡しを求める訴えについて、
建物の共同所有者全員を被告にする必要はない。
←建物収去土地明渡しの義務は不可分債務に当たる
建物の共同所有者を具体的に把握することの困難さを考えれば、固有必要的共同訴訟とするのはいたずらに原告に大きな負担を課すことになる。
訴訟共同の必要を否定しても、原告は共同所有者に対して債務名義を取得するか、あるいはその同意を得たうえでなければ、その強制執行をすることが許されない以上は、他の共同所有者の保護に欠けることはない。

+判例(S43.3.15)
理由
 上告代理人金綱正己、同根本孔衛、同鶴見祐策の上告理由第一、二点について。
 所論の準備書面には所論のような記載があるが、右準備書面が原審口頭弁論期日に陳述された形跡は認められない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するにすぎず、所論引用の原判示に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 同第四点について。
 所論違憲の主張は前提を欠くことが明らかであるから、採用できない。
 同第五点について。
 被上告人の被告Aに対する本訴請求が本件土地の所有権に基づいてその地上にある建物の所有者である同被告に対し建物収去土地明渡を求めるものであることは記録上明らかであるから、同被告が死亡した場合には、かりにBが同被告の相続人の一人であるとすれば、Bは当然に同被告の地位を承継し、右請求について当事者の地位を取得することは当然である。しかし、土地の所有者がその所有権に基づいて地上の建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではないと解すべきである。けだし、右の場合、共同相続人らの義務はいわゆる不可分債務であるから、その請求において理由があるときは、同人らは土地所有者に対する関係では、各自係争物件の全部についてその侵害行為の全部を除去すべき義務を負うのであつて、土地所有者は共同相続人ら各自に対し、順次その義務の履行を訴求することができ、必ずしも全員に対して同時に訴を提起し、同時に判決を得ることを要しないからである。もし論旨のいうごとくこれを固有必要的共同訴訟であると解するならば、共同相続人の全部を共同の被告としなければ被告たる当事者適格を有しないことになるのであるが、そうだとすると、原告は、建物収去土地明渡の義務あることについて争う意思を全く有しない共同相続人をも被告としなければならないわけであり、また被告たる共同相続人のうちで訴訟進行中に原告の主張を認めるにいたつた者がある場合でも、当該被告がこれを認諾し、または原告がこれに対する訴を取り下げる等の手段に出ることができず、いたずらに無用の手続を重ねなければならないことになるのである。のみならず、相続登記のない家屋を数人の共同相続人が所有してその敷地を不法に占拠しているような場合には、その所有者が果して何びとであるかを明らかにしえないことが稀ではない。そのような場合は、その一部の者を手続に加えなかつたために、既になされた訴訟手続ないし判決が無効に帰するおそれもあるのである。以上のように、これを必要的共同訴訟と解するならば、手続上の不経済と不安定を招来するおそれなしとしないのであつて、これらの障碍を避けるためにも、これを必要的共同訴訟と解しないのが相当である。また、他面、これを通常の共同訴訟であると解したとしても、一般に、土地所有者は、共同相続人各自に対して債務名義を取得するか、あるいはその同意をえたうえでなければ、その強制執行をすることが許されないのであるから、かく解することが、直ちに、被告の権利保護に欠けるものとはいえないのである。そうであれば、本件において、所論の如く、他に同被告の承継人が存在する場合であつても、受継手続を了した者のみについて手続を進行し、その者との関係においてのみ審理判決することを妨げる理由はないから、原審の手続には、ひつきよう、所論の違法はないことに帰する。したがつて、論旨は採用できない。
 上告人C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同有限会社舘野箔押所、同L、同M、同Nの各上告理由について。
 所論は、いずれも、原判決に憲法の解釈の誤り、その他憲法の違背あること、または判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背のあることを主張するものではないから、論旨はすべて採用に値しない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

・共同所有者に対する所有権移転登記の抹消を求める訴えについては固有必要的共同訴訟になる・・・。

ⅲ)共同所有者間の訴え
・持分確認訴訟は固有必要的共同訴訟ではない。
←持分権については各共同所有者が管理処分権を有しており、個別に訴えを提起することができるから。

・共有関係の管理処分権が全法定相続人に帰属するうえ、遺産帰属性は遺産分割の前提問題である以上、相続人間で合一的に確定している必要が高いことから、全法定相続人を当事者としなければならない固有必要的共同訴訟である。

訴訟法的な考慮は、相続人の地位不存在確認訴訟を相続人全員が当事者とならなければならない固有必要的共同訴訟であるとした判決においてより色濃く表れている。

3.類似必要的共同訴訟
(1)類似必要的共同訴訟の意義
権利関係の合一確定の必要が高いため、第三者での判決効の拡張が予定されている訴訟類型。
婚姻取消しの訴え
株主代表訴訟

(2)類似必要的共同訴訟の要件
ある共同訴訟人の受けた判決の既判力が、勝訴の場合も敗訴の場合も他の共同訴訟人に及ぶ場合。

反射効の拡張は類似必要的共同訴訟を基礎付けない。
反射効は実体法上の効果であって、既判力の矛盾抵触とは関係がないから。

4.必要的共同訴訟の審理と判決
訴訟資料と手続進行を統一しなければならない

+(必要的共同訴訟)
第四十条  訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる
2  前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
3  第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人について訴訟手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、全員についてその効力を生ずる。
4  第三十二条第一項の規定は、第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人が提起した上訴について他の共同訴訟人である被保佐人若しくは被補助人又は他の共同訴訟人の後見人その他の法定代理人のすべき訴訟行為について準用する。

・訴えの取り下げ
訴訟共同の必要を伴う固有必要的共同訴訟は、共同訴訟人全員が行わなければ効力を生じない。
類似必要的共同訴訟においては、訴訟共同の必要がないため、訴えの取り下げは各共同訴訟人が自由になし得る。

・上訴
固有必要的共同訴訟においては、全共同訴訟人が上訴人となる。
類似必要的共同訴訟は、他の共同訴訟人は上訴人にならない。
←訴訟共同の必要がない訴訟類型であるから、全体として確定が遮断し、移審するという効果が確保されていれば足りるから。


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労働法 事例演習労働法 U8 懲戒 C8


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1.
本件処分の無効確認
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
解雇期間中の賃金支払い
本件処分によって生じた損害の賠償

予備的に
本件処分が有効であるとした場合、30日分の賃金の支払い(労基法20条参照)

2.
+(懲戒)
第十五条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(1)Xの兼業の懲戒事由該当性←「できる場合」の判断
・就業規則で兼業を許可制とすることの可否について
兼業は、労働者に職業選択の自由が認められることや、就業時間外に行われる私生活行上の行為であるということから、使用者がこれを全面的に禁止することは許されないと解される。
しかし、兼業によって働きすぎによる業務遂行への悪影響や機密漏えい等の危険が生じ得ることなどからすれば、全面禁止ではなく許可制にすることには合理性がある。
合理性+周知→労働契約の内容となる。

・労働契約法
+第七条  労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

・懲戒が制裁罰として刑事処罰と類似性を持つことから、罪刑法定主義類似の要請により、あらかじめ懲戒の種別および事由を就業規則で定めておく必要がある。

・懲戒事由に該当するか否か
就業規則の懲戒規定について合理的限定解釈を
兼業が実際に企業秩序に影響を与えたか否かを考慮しつつ、実質的に懲戒事由該当性を判断する。

(2)本権懲戒処分の権利濫用性
客観的合理性

相当性
重すぎるのではないか

(3)本権懲戒処分の手続の適正さ等
・懲戒処分は刑事罰と類似性を持つことから、二重処罰の禁止、遡及処罰の禁止、労働者に対する弁明の機会の付与(適正な手続)といった罪刑法定主義類似の諸原則を満たすことが求められる!
反すると公序良俗違反

(4)即時解雇の適法性
・労働基準法
+(解雇の予告)
第二十条  使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
○2  前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
○3  前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

・帰責事由があるといえるか、すなわち、予告なしの解雇も適法といえるかという問題は、懲戒解雇の有効性とは理論的に別の問題として検討されるべき

労働者の非違行為の悪質性が高くこれ以上継続して雇用すると企業経営に支障が生じるといえるような場合には、即時に解雇しても同項違反にはならない。

・違反の効果
使用者が即時解雇に固執しない限り、解雇後30日間の経過又は予告手当が支払われた時点で解雇の効力が発生するものと解される

即時解雇時から30日後に解雇の効果が発生したとして、30日分の賃金支払いを請求できる。

(5)結論

key

+判例(H15.10.10)フジ興産事件
理由
上告人の上告受理申立て理由について
1 本件は、フジ興産株式会社(以下「フジ興産」という。)の従業員であった上告人が、懲戒解雇されたため、当時のフジ興産の代表者であった被上告人A外3名に対し、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、民法709条、商法266条の3に基づき、損害賠償を請求する事案である。
2 原審が確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) フジ興産は、化学プラント・産業機械プラントの設計、施工を目的とする株式会社であり、大阪市αに本社を置くほか、平成4年4月、門真市に設計請負部門である「エンジニアリングセンター」(以下「センター」という。)を開設した。センターにはセンター長の下に設計者が勤務しており、同6年当時のセンター長は被上告人Bであった。上告人は、同5年2月、フジ興産に雇用され、センターにおいて設計業務に従事していた。
(2) 同6年6月15日当時、フジ興産の取締役は、被上告人A、同C及び同Bであり、被上告人Aは代表取締役であった。
(3) フジ興産は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以下「旧就業規則」という。)を作成し、同年10月30日、大阪西労働基準監督署長に届け出た。旧就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていた
(4) フジ興産は、平成6年4月1日から旧就業規則を変更した就業規則(以下「新就業規則」という。)を実施することとし、同年6月2日、労働者代表の同意を得た上で、同月8日、大阪西労働基準監督署長に届け出た新就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めている
(5) フジ興産は、同月15日、新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して、上告人を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。その理由は、上告人が、同5年9月から同6年5月30日までの間、得意先の担当者らの要望に十分応じず、トラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、上司に対して暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したりしたなどというものであった。
(6) 上告人は、本件懲戒解雇以前に、被上告人Bに対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが、この際には、旧就業規則はセンターに備え付けられていなかった
3 以上の事実関係の下において、原審は、次のとおり判断して、本件懲戒解雇を有効とし、上告人の請求をすべて棄却すべきものとした。
(1) フジ興産が新就業規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり、それまでに新就業規則がフジ興産の労働者らに周知されていたと認めるべき証拠はないから、上告人の同日以前の行為については、旧就業規則における懲戒解雇事由が存するか否かについて検討すべきである。
(2) 前記2(3)の事実が認められる以上、上告人がセンターに勤務中、旧就業規則がセンターに備え付けられていなかったとしても、そのゆえをもって、旧就業規則がセンター勤務の労働者に効力を有しないと解することはできない。
(3) 上告人には、旧就業規則所定の懲戒解雇事由がある。フジ興産は、新就業規則に定める懲戒解雇事由を理由として上告人を懲戒解雇したが、新就業規則所定の懲戒解雇事由は、旧就業規則の懲戒解雇事由を取り込んだ上、更に詳細にしたものということができるから、本件懲戒解雇は有効である。

4 しかしながら、原審の判断のうち、上記(2)は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
【要旨1】使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして、
【要旨2】就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
原審は、フジ興産が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを大阪西労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。
5 そこで、原判決を破棄し、上記の点等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄 裁判官 滝井繁男)

++解説
《解  説》
一 本件は、A株式会社(以下「A」という。)の従業員であったXが、懲戒解雇されたため、当時のAの取締役(代表取締役を含む。)であったYらに対し、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、民法七〇九条、商法二六六条の三に基づき、損害賠償を請求する事案である。Aは、大阪市西区に本社を置くほか、平成四年四月、門真市に設計請負部門の事業場(以下「センター」という。)を開設した。Xは、同五年二月、Aに雇用され、センターにおいて設計業務に従事していた。Aは、昭和六一年八月一日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以下「本件就業規則」という。)を作成し、同年一〇月三〇日、大阪西労働基準監督署長に届け出た。本件就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていた。本件就業規則は本社には備え付けられていたようであり、本社において周知性を備えていたことがうかがわれる。しかし、センターにおいて本件就業規則の内容を従業員に周知させる手続がとられていた事実は、原審において確定されていない。原審は、かえって、Xが、本件懲戒解雇以前に、センター長(Yのうちの一人)に対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問した際には、本件就業規則はセンターに備え付けられていなかったという事実を確定している。
以上、本件の事実関係をやや簡略化して述べたが、このような事実関係の下で、原判決は、本件就業規則に基づくXに対する懲戒解雇を有効と認めた。これに対し、本判決は、原判決を破棄し、センターにおいて本件就業規則の内容を従業員に周知させる手続がとられていた事実の有無等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。本判決の考え方は、使用者が労働者を懲戒するには、①あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならず、②懲戒の種別及び事由を定める就業規則が法的規範として拘束力を生じていなければならないが、そのためには、適用を受ける事業場の労働者にその内容を周知させる手続が採られていることを要するというものである。

二 就業規則における懲戒に関する定めの要否(判示事項一)
企業が労働者に対して懲戒処分を行うには就業規則において懲戒の種別及び懲戒事由を定めておくことを要するかどうかをめぐって、かつては争いがあったが、今日では就業規則上の根拠規定を要するとする見解が一般的である(菅野和夫・労働法[第六版]四〇〇頁以下)。懲戒は、一種の制裁罰であるから、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び懲戒事由を定めておくことを要すると解するのが相当であり、最高裁判所の先例中にも、就業規則上の根拠規定を要するとする立場であると解されるものがある(最三小判昭54・10・30民集三三巻六号六四七頁、本誌四〇〇号一三八頁)。判示事項一は、このような考え方を法理として確認したものである。

三 就業規則の拘束力発生の要件(判示事項二)
就業規則は、事業場ごとに定められる(労働基準法〔平一〇法一一二号改正前〕八九条一項一〇号、労働基準法九〇条一項、九二条は、このことを前提にしていると解される。菅野・前掲一一〇頁)のであり、作成された就業規則は、当該事業場において実質的に周知されることによってその効力を生ずる。このように解するのが通説(菅野・前掲一二一頁、厚生労働省労働基準局編著・全訂七版解釈通覧労働基準法三四六頁、下井隆史・労働基準法[第三版]二九九頁等)であり、下級審裁判例の主流である。
このように解すべき理由は、次のとおりである。就業規則は、当該事業場内での法的規範としての性質を有し、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものと解されている(最大判昭43・12・25民集二二巻一三号三四五九頁、本誌二三〇号一二二頁)。就業規則がこのような法的規範としての効力を生ずるには、その適用を受ける当該事業場の労働者が、就業規則の内容を知り得る状態に置かれることを要すると解するのが相当だからである。上記大法廷判決を受け、最高裁判所において、就業規則の不利益変更に関して判断した判決が相当数言い渡されている。これらは、変更後の就業規則が周知性を備えていることに必ずしも明示的に言及しているわけではないが、いずれも変更後の就業規則が周知性を備えていることを当然の前提として、当該変更に合理性があるかどうかを判断している。例えば、最二小判平12・9・22裁判集民一九九号六六五頁(上告人函館信用金庫、週休二日制の実施に伴う就業規則の変更)は、企業が、就業規則の変更案を作成し、労働組合に対し、これを交付して就業規則の変更を申し入れ、就業規則の変更につき団体交渉をしたが、同意を得られなかったので、上記の案のとおりの就業規則の実施を全従業員に通知したという原審確定事実を摘示した上で、就業規則の変更の効力について判断している。判示事項二は、上記のとおり従来から当然の前提とされてきたことを法理として確認するものである。
もっとも、当該事業場において実質的に周知されれば足りるから、必ずしも同法一〇六条一項による周知方法を講じなければならないというわけではない。最大判昭27・10・22民集六巻九号八五七頁、本誌二五号四二頁(萩沢清彦「就業規則の周知と効力」ジュリ臨増一九六二年六月号三〇頁)は、この趣旨を述べるものと解される。これに対し、下級審裁判例の一部には、就業規則が当該事業場において実質的に周知されていることを要件として取り扱わない考え方を採っていると推測されるものも散見される。これは、上記最大判が、「仮に被上告人会社側において所論の如く労基法一〇六条一項所定の周知の方法を欠いていたとしても、(中略)当該就業規則は既に従業員側にその意見を求めるため提示され且つその意見書が附されて届出られたものであるから、被上告人会社側においてたとえ右労基法一〇六条一項所定の爾後の周知方法を欠いていたとしても、これがため同法一二〇条一号所定の罰則の適用問題を生ずるは格別、そのため就業規則自体の効力を否定するの理由とはならないものと解するを相当とする。」と判示しているのを就業規則の効力の発生に周知性が要件とならないと理解したものであろう。しかし、上記最大判は、就業規則が当該事業場において既に実質的に周知されており、労働者側が一、二審では就業規則の周知性の点を争っていなかった事案において、論旨が、同法一〇六条一項による周知方法を備えていないことを理由に就業規則が無効であると主張したことを受けて、「たとえ右労基法一〇六条一項所定の爾後の周知方法を欠いていたとしても」就業規則の効力を否定する理由とならないと判示したにすぎず、事業場において実質的に周知されることも不要であるとしているわけではないと考えられる。
四 判示事項一及び二は、いずれも今日では異論がないところといってよい。本判決は、これを明確に確認した点に意義がある。


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民法 事例で学ぶ民法演習 22 譲渡担保・その2~不動産譲渡担保


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1.

2.小問1
・設定者留保権
不法行為者に対しては登記なくとも主張できる。
+判例(S57.9.28)
理由
上告代理人関康雄の上告理由一について
譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであつて、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによつて換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから(最高裁昭和三九年(オ)第四四〇号同四一年四月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、同昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、同昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。
したがつて、右と結論を同じくする原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同二について
記録によれば、所論の証人は唯一の証拠方法ではないことが明らかであるから、原審がこれを採用しなかつたことに所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 伊藤正己 寺田治郎 木戸口久治)

・不法占拠者に対する抵当権に基づく抵当権者の妨害排除請求権
+判例(H17.3.10)
理由
第1 事案の概要
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、平成元年9月5日、A社(以下「A社」という。)との間で、A社所有の土地上に地下1階付9階建ホテル(以下「本件建物」という。)を請負代金17億9014万円で建築する旨の請負契約を締結し、平成3年4月30日、本件建物を建築して完成させたものの、A社が請負代金の大部分を支払わなかったため、その引渡しを留保した。
(2) A社は、平成4年4月ころ、被上告人との間で、請負残代金が17億2906万円余であることを確認し、これを同年5月から8月まで毎月末日限り500万円ずつ支払い、同年9月末日に残りの全額を支払うこと、被上告人の請負残代金債権を担保するため、本件建物及びその敷地につき、いずれも被上告人を権利者として、抵当権(以下「本件抵当権」という。)及び停止条件付賃借権(以下「本件停止条件付賃借権」という。)を設定すること、本件建物を他に賃貸する場合には被上告人の承諾を得ることを合意した(以下「本件合意」という。)。本件停止条件付賃借権は、本件抵当権の実行としての競売が申し立てられることなどを停止条件とするものであって、本件建物の使用収益を目的とするものではなく、本件建物及びその敷地の交換価値の確保を目的とするものであった。そして、A社は、本件合意に基づき、同年5月8日、本件抵当権設定登記と本件停止条件付賃借権設定仮登記を了した。そこで、被上告人は、A社に対し、本件建物を引き渡した。
(3) ところが、A社は、本件合意に違反し、上記分割金の弁済を一切行わず、しかも、平成4年12月18日、被上告人の承諾を得ずに、B社(以下「B社」という。)に対し、賃料月額500万円、期間5年、敷金5000万円の約定で本件建物を賃貸して引き渡した(以下、この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。その後、平成5年3月に敷金を1億円に増額し、同年5月1日に賃料を月額100万円に減額するとの合意がそれぞれされたが、敷金が実際に交付されたか否かは定かでない。
(4) B社は、平成5年4月1日、被上告人の承諾を得ずに、上告人に対し、賃料月額100万円、期間5年、保証金1億円の約定で本件建物を転貸して引き渡した(以下、この転貸借契約を「本件転貸借契約」という。)。不動産鑑定士の意見書によれば、本件建物の適正賃料額は、平成7年1月31日時点で月額592万円、平成10年10月26日時点で月額613万円とされており、本件転貸借契約の賃料額は、適正な額を大幅に下回るものであった。
(5) 上告人とB社の代表取締役は同一人である。また、A社の代表取締役は、平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者である。なお、A社は、平成8年8月6日に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
(6) 被上告人は、平成10年7月6日、東京地方裁判所八王子支部に対し、本件建物及びその敷地につき、本件抵当権の実行としての競売を申し立てた。本件建物の最低売却価額は、平成12年2月23日に6億4039万円であったものが、同年10月16日には4億8029万円に引き下げられたものの、本件建物及びその敷地の売却の見込みは立っていない。このように、本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で、A社の代表取締役は、被上告人に対し、本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。
2 被上告人は、上告人に対し、第1審において、上告人による本件建物の占有により本件停止条件付賃借権が侵害されたことを理由に、賃借権に基づく妨害排除請求として、本件建物を明け渡すこと及び賃借権侵害による不法行為に基づき賃料相当損害金を支払うことを請求したところ、第1審はこの請求をいずれも棄却した。これに対し、被上告人が、控訴し、原審において、上記請求と選択的に、上告人による本件建物の占有により本件抵当権が侵害されたことを理由に、抵当権に基づく妨害排除請求として、本件建物を明け渡すこと及び抵当権侵害による不法行為に基づき賃料相当損害金を支払うことを追加して請求したところ、原審はこの追加請求をいずれも認容した。

第2 上告代理人相澤建志、同藤井秀夫の上告受理申立て理由1について
1 所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる(最高裁平成8年(オ)第1697号同11年11月24日大法廷判決・民集53巻8号1899頁)。そして、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである。なぜなら、抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。
また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。
2 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、次のことが明らかである。
本件建物の所有者であるA社は、本件抵当権設定登記後、本件合意に基づく被担保債権の分割弁済を一切行わなかった上、本件合意に違反して、B社との間で期間を5年とする本件賃貸借契約を締結し、その約4か月後、B社は上告人との間で同じく期間を5年とする本件転貸借契約を締結した。B社と上告人は同一人が代表取締役を務めており、本件賃貸借契約の内容が変更された後においては、本件賃貸借契約と本件転貸借契約は、賃料額が同額(月額100万円)であり、敷金額(本件賃貸借契約)と保証金額(本件転貸借契約)も同額(1億円)である。そして、その賃料額は適正な賃料額を大きく下回り、その敷金額又は保証金額は、賃料額に比して著しく高額である。また、A社の代表取締役は、平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者であるが、本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で、被上告人に対し、本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。
以上の諸点に照らすと、本件抵当権設定登記後に締結された本件賃貸借契約、本件転貸借契約のいずれについても、本件抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるものというべきであり、しかも、上告人の占有により本件建物及びその敷地の交換価値の実現が妨げられ、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるということができる。 
 また、上記のとおり、本件建物の所有者であるA社は、本件合意に違反して、本件建物に長期の賃借権を設定したものであるし、A社の代表取締役は、上告人の関係者であるから、A社が本件抵当権に対する侵害が生じないように本件建物を適切に維持管理することを期待することはできない
3 そうすると、被上告人は、上告人に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、直接自己への本件建物の明渡しを求めることができるものというべきである。被上告人の本件建物の明渡請求を認容した原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
第3 上告代理人相澤建志、同藤井秀夫の上告理由について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、上記各項に規定する事由に該当しない。

第4 職権による検討
1 原審は、上告人の占有により本件抵当権が侵害され、被上告人に賃料額相当の損害が生じたとして、前記のとおり、抵当権侵害による不法行為に基づく被上告人の賃料相当損害金の支払請求を認容した。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
抵当権者は、抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないというべきである。なぜなら、抵当権者は、抵当不動産を自ら使用することはできず、民事執行法上の手続等によらずにその使用による利益を取得することもできないし、また、抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求により取得する占有は、抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理することを目的とするものであって、抵当不動産の使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではないからである。そうすると、原判決中、上記請求を認容した部分は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、破棄を免れない。そして、上記説示によれば、上記請求は理由がないから、これを棄却することとする。
3 また、上記請求と選択的にされている賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求については、前記事実関係によれば、本件停止条件付賃借権は、本件建物の使用収益を目的とするものではなく、本件建物及びその敷地の交換価値の確保を目的とするものであったのであるから、上告人による本件建物の占有により被上告人が賃料額相当の損害を被るということはできない。そうすると、第1審判決中、賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求を棄却した部分は正当であるから、これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉德治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

++解説
《解  説》
1 本件は,抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求権を行使し,抵当不動産の占有者に対し抵当不動産の明渡しを請求するに当たり,その要件,効果等が問題となった事案である。
2 X社は,A社の注文により,A社所有の土地上にホテル(本件建物)を建築した。A社は,請負代金の大部分を支払わなかったが,X社のために本件建物及びその敷地に抵当権を設定してその旨の登記を了し,X社との間で,本件建物を他に賃貸する場合にはX社の承諾を得ること等を合意した上で,X社から本件建物の引渡しを受けた。ところが,A社は,合意に違反し,X社の承諾を得ずに,B社に対し本件建物を賃貸して引き渡し,更にB社は,Y社に対しこれを転貸して引き渡した。その賃貸借契約及び転貸借契約は,いずれも期間を5年とする長期のもので,その賃料額は適正な額を大幅に下回り,敷金・保証金額が賃料額に比して著しく高額であり,契約当事者であるA社,B社及びY社の役員が一部共通するなどの事情からみて,X社の抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるものであった。X社は,本件建物及びその敷地につき,抵当権の実行としての競売を申し立てたが売却に至らず,現在,その売却の見込みは立っていない。
X社は,Y社による本件建物の占有により抵当権が侵害されたことを理由に,抵当権に基づく妨害排除請求として,本件建物を明け渡すこと及び抵当権侵害による不法行為に基づき賃料相当損害金を支払うことを請求し,原審(東京高判平13.1.30判タ1058号180頁)は,これらの請求をいずれも認容した。これに対し,Y社から上告及び上告受理申立てがされた。
本判決は,原審が抵当権に基づく妨害排除請求を認容した部分はこれを維持して上告を棄却したが,原審が賃料相当損害金請求を認容した部分は破棄して請求を棄却した。
3 抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求(いわゆる物上請求)の可否について,最大判平11.11.24民集53巻8号1899頁,判タ1019号78頁(平成11年最判)は,それまでの判例を変更し,「第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権に基づく妨害排除請求として,抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。」とし,一般論として,物上請求が可能であることを判示した。もっとも,平成11年最判は,代位請求(抵当権者が所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を所有者に代位して行使する請求)の事案であったために,物上請求の要件・効果等を具体的に判示するものではなく,この点は,後日の判例にゆだねられることとなった。
そして,本件は物上請求の事案として最高裁に係属したものである。本件で問題となる点は,第1に,平成11年最判は,抵当不動産の占有者が全くの無権原者であった事案であり,第三者が抵当不動産を「不法占有」する場合を前提に抵当権に基づく妨害排除請求が可能であることを説示するが,本件のY社は,所有者の使用収益権に由来する転借権を有するとみられる者であり,そのような「有権原占有者」に対する妨害排除請求が可能か否かという点である。無権原占有者であれば,その占有は抵当不動産の所有者の使用収益権行使に基づくとはいえないが,有権原占有者の場合,その占有権原は所有者に由来するものであるから,抵当権が所有者の使用収益を排除することができない権利であることからみて,当然には妨害排除の対象とはならないものということができる。もっとも,平成11年最判以降の学説では,広狭の差はあるが,妨害排除を肯定する見解が多数であった。この点について,本判決は,抵当不動産の所有者は,使用収益に当たり,競売手続を妨害する目的の占有権原を設定をすることは許されないから,有権原占有者であっても,抵当権設定登記後に占有権原が設定され,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられるなどの状態があるときは,これに対し抵当権に基づく妨害排除請求ができるとし,有権原占有者に対し妨害排除請求ができる場合があることを明らかにし,本件の事案でこれを肯定した。もともと,平成11年最判は,「抵当不動産の所有者は,抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている」と説示していたが,本判決の考え方は,この説示の延長線上にあるものと考えられる。なお,平成11年最判以降の学説においては,有権原であっても抵当権者に対抗できない占有者に対しては,抵当権実行着手後,広く妨害排除請求ができるとする見解が少なからず示されていたが,本判決は,その説示からみて,同見解を採用するものではないと解される(同見解に対しては,民事執行法188条により準用される同法59条2項,46条2項の規定を併せ考えると,抵当不動産の所有者には,抵当不動産が売却されるまでの間「通常の用法に従って」抵当不動産を使用収益することが許されているものと解されることから,同法55条,187条のような特段の規定がなければ,抵当権者は,そのような所有者の通常の用法に従った使用収益の過程で生じた劣後的利用権に基づく抵当不動産の占有に対しては,当然には介入できないのではないかという疑問が残る。八木一洋・平成11年度最判解説(民)(下)847頁参照)。
第2に,平成11年最判は,代位請求において,抵当権者が,不法占有者に対し,抵当不動産を直接抵当権者に明け渡すよう求めることができるとしたが,本件のように物上請求の事案で,そのような直接の明渡しを求めることができるか否かという点が問題となる。平成11年最判の法廷意見は,この点に触れておらず,奥田裁判官補足意見は,この点を「更に検討を要する問題である」としていた。平成11年最判以降の学説は,直接明渡請求を認める見解が多数であるが,抵当権が抵当不動産を占有する権利を包含しない権利であること等から,これを否定する見解もあった。下級審では,東京地判平12.11.14判タ1069号170頁が,長期賃借人に対し,賃貸借契約を解除する判決の確定を条件とする抵当権者への明渡請求を認容していた(1審で確定)。この点について,本判決は,抵当不動産の所有者において抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,直接抵当権者に明け渡すよう求めることができるとし,物上請求においても,代位請求と同様に抵当権者が直接明渡しを請求することができる場合があることを明らかにし,本件の事案でこれを肯定した。これにより,抵当権者が取得する抵当不動産の占有は,抵当不動産の維持管理を目的とする占有(平成11年最判奥田裁判官補足意見が指摘する「管理占有」)となるものと考えられる。

第3に,原審は,抵当権者の賃料相当損害金請求を認容したが,抵当権について,賃料額相当の損害が発生するか否かという点が問題となる。これまで学説及び下級審において,この点を正面から肯定する見解は見当たらないものであった。この点について,本判決は,抵当権者には,抵当不動産の使用収益権がなく,妨害排除請求権行使の結果抵当権者が取得する抵当不動産に対する占有は抵当不動産の使用収益等を目的としない占有であるから,抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないとし,原判決中同請求を認容した部分を破棄し,X社の請求を棄却した。この判示は,上記の「管理占有」が抵当不動産の使用収益等を目的としない占有であることを改めて示した点に意味があると考えられるが,これによれば,抵当権者に,抵当不動産の使用収益の妨害を理由とする賃料額相当の損害の発生を肯定することはできないこととなる。もっとも,抵当権に基づく競売手続を妨害する目的を持った抵当不動産の占有は,抵当物そのものを毀損する行為ではないが,抵当権に基づく換価権能の行使を妨害することにより抵当権者に損害を生じさせ得る行為であるということができ,本判決がこの点を否定する趣旨を含むものではないと考えられる。しかし,そのように第三者の占有によって換価権能の行使を妨害されたことにより,抵当権者に,いつ,どのような損害が確定的に生じ,その賠償請求が可能となるのかについては,今後,民事執行手続との関係をも含めて,議論が深められる必要があろう。
4 本件は,物上請求の事案において,平成11年最判の判断をふまえて,抵当権者の有権原占有者に対する直接の明渡請求が可能な場合があることを明らかにしたものであり,平成11年最判の射程の及ぶ範囲を検討する上で有益であるとともに,有権原占有者が競売手続を妨害する目的で抵当不動産を占有する場合や所有者の抵当不動産管理能力が乏しい場合においても抵当権に基づく妨害排除請求が一定の役割を果たし得ることを示した点で,実務上重要な意義を有するものと考えられるので,紹介する。
(本判決で検討された問題点のほか,「管理占有」における法律問題を含めて実務的に検討したものとして,村上正敏「抵当権に基づく妨害排除請求について」判タ1053号53頁がある。)

3.小問2
+(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条  賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

+(主物及び従物)
第八十七条  物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
2  従物は、主物の処分に従う。
←賃借権について類推。

・借地権の無断転貸。解除権を取得するのは、転借人が実際に土地の消臭液を開始した時。
+判例(S62.10.8)
理由
上告代理人菅生浩三、同葛原忠知、同川崎全司、同丸山恵司、同甲斐直也、同川本隆司、同藤田整治の上告理由第一点について
所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第二点について
賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法一六七条一項が適用され、その権利を行使することができる時から一〇年を経過したときは時効によつて消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となつたものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(1) 本件(一)土地の所有者であるAは、大正初年ころ、六ノ坪合資会社(以下「訴外会社」という。)を設立し、同社をして右土地を含む自己所有不動産の管理をさせてきたものであるところ、上告人は、昭和三四年六月二二日、相続により、本件(一)土地の所有権を取得した、(2) Bは、前賃借人の賃借期間を引き継いで、昭和一一年七月二九日、訴外会社から本件(一)土地を昭和一五年九月三〇日までの約定で賃借し、同地上に三戸一棟の建物(家屋番号二二番、二二番の二及び二二番の三)を所有していたものであるところ、被上告人Cは、昭和二〇年三月一七日、家督相続によりBの権利義務を承継した(右賃貸借契約は昭和一五年九月三〇日及び同三五年九月三〇日にそれぞれ法定更新された。)、(3) 被上告人伊藤染工株式会社(以下「被上告人伊藤染工」という。)は、昭和二五年一二月七日、被上告人Cから前記二二番の三の建物を譲り受けるとともに、本件(一)土地のうち右建物の敷地に当たる本件(四)土地を訴外会社の承諾を受けることなく転借し、同日以降これを使用収益している、(4) 訴外会社は、昭和五一年七月一六日到達の書面をもつて被上告人Cに対し、右無断転貸を理由として本件(一)土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、というのであり、また、被上告人伊藤染工及び同Dを除くその余の被上告人らが、本訴において、右無断転貸を理由とする本件(一)土地の賃貸借契約の解除権の消滅時効を援用したことは訴訟上明らかである。以上の事実関係のもとにおいては、右の解除権は、被上告人伊藤染工が本件(四)土地の使用収益を開始した昭和二五年一二月七日から一〇年後の昭和三五年一二月七日の経過とともに時効により消滅したものというべきであるから、上告人主張に係る訴外会社の被上告人Cに対する前記賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第三点について
原判決が上告人の被上告人伊藤染工及び同Dに対する請求に関して所論指摘の判示をしているものでないことは、その説示に照らし明らかであるから、原判決に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
同第四点について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人伊藤染工は、訴外会社ひいて上告人に対抗できる転借権を時効により取得したものということができるものというべきであるから、これと同旨の原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、ひつきよう、判決の結論に影響しない事由について原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 髙島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖)

・譲渡担保の場合
+判例(9.7.17)
理由
上告代理人内山辰雄、同巻嶋健治の上告理由一について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、その所有する原判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)をAに賃貸し、Aは、同土地上に同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して、これに居住していた。なお、本件建物の登記簿上の所有名義人は、Aの父であるBとなっていた。
2 Aは、平成元年二月、本件建物を譲渡担保に供してCから一三〇〇万円を借り受けたが、同月二一日、Bをして、同建物を譲渡担保としてCに譲渡する旨の譲渡担保権設定契約書及び登記申請書類に署名押印させ、これらをCに交付した。Cは、同日、Aから交付を受けた右登記申請書類を利用して、本件建物につき、代物弁済予約を原因としてCを権利者とする所有権移転請求権仮登記を経由するとともに、売買を原因として所有名義人をCの妻であるDとする所有権移転登記を経由した。
3 Aは、同月、本件建物から退去して転居したが、その後は、上告人に対して何の連絡もせず、Cとの間の連絡もなく、行方不明となっている。
4 被上告人は、同年六月一〇日、有限会社和晃商事の仲介で本件建物を賃借する契約を締結して、それ以後、同建物に居住している。右の賃貸借契約書には、契約書前文に賃貸人としてAとCの両名が併記され、末尾に「賃貸人A」「権利者C」と記載されているが、賃料の振込先としてCの銀行預金口座が記載されており、また、右契約書に添付された重要事項説明書には、本件建物の貸主及び所有者はCと記載され、和晃商事はCの代理人と記載されている。
5 本件土地の地代は、従前はAが上告人方に持参して支払っていたところ、Aが本件建物から退去した後は、同年三月にCから上告人の銀行預金口座に振り込まれ。これを不審に思った上告人がCの口座に右振込金を返還すると、同年四月から一二月までCからA名義で振り込まれた。
6 上告人は、本件建物につきD名義への所有権移転登記がされていることを知り、Dに対し、平成二年四月一三日到達の内容証明郵便により、同建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めたところ、Cは、同年五月一四日、D名義への右所有権移転登記を錯誤を原因として抹消した。
7 上告人は、Aに対して、平成四年七月一六日に到達したとみなされる公示による意思表示により、賃借権の無断譲渡を理由として本件土地の賃貸借契約を解除した。

二 本件請求は、上告人が、本件土地の所有権に基づき、同土地上の本件建物を占有する被上告人に対して、同建物から退去して同土地を明け渡すことを求めるものである。被上告人は、抗弁として、本件土地の賃借人であるAから本件建物を賃借している旨を主張しているところ、上告人は、再抗弁として、民法六一二条に基づきAとの間の同土地の賃貸借契約を解除した旨を主張している。
原審は、被上告人の抗弁について明示の判断を示さないまま、上告人の本件土地の賃貸借契約の解除の主張につき次のとおり判断し、上告人の請求を棄却した。
1 前記事実関係の下においては、Cは、Aに一三〇〇万円を貸し付け、右貸金債権を担保するために本件建物に譲渡担保権の設定を受け、貸金の利息として被上告人から同建物の賃料を受領している可能性が大きいということができるから、Cが本件建物の所有権を終局的、確定的に取得したものと認めることはできない。
2 AのCに対する右貸金債務は、弁済期が既に経過しているにもかかわらず弁済されていないが、Cが譲渡担保権を実行したと認めるに足りる証拠はないから、本件建物の所有権の確定的譲渡はいまだされていない。
3 そうすると、本件土地の賃借権も、Cに終局的、確定的に譲渡されていないから、同土地について、民法六一二条所定の解除の原因である賃借権の譲渡がされたものとはいえず、上告人の本件賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生じない。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 借地人が借地上に所有する建物につき譲渡担保権を設定した場合には、建物所有権の移転は債権担保の趣旨でされたものであって、譲渡担保権者によって担保権が実行されるまでの間は、譲渡担保権設定者は受戻権を行使して建物所有権を回復することができるのであり、譲渡担保権設定者が引き続き建物を使用している限り、右建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたと解することはできない(最高裁昭和三九年(オ)第四二二号同四〇年一二月一七日第二小法廷判決・民集一九巻九号二一五九頁参照)。しかし、地上建物につき譲渡担保権が設定された場合であっても、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときは、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当であり、他に賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のない限り、賃貸人は同条二項により土地賃貸借契約を解除することができるものというべきである。けだし、(1) 民法六一二条は、賃貸借契約における当事者間の信頼関係を重視して、賃借人が第三者に賃借物の使用又は収益をさせるためには賃貸人の承諾を要するものとしているのであって、賃借人が賃借物を無断で第三者に現実に使用又は収益させることが、正に契約当事者間の信頼関係を破壊する行為となるものと解するのが相当であり、(2) 譲渡担保権設定者が従前どおり建物を使用している場合には、賃借物たる敷地の現実の使用方法、占有状態に変更はないから、当事者間の信頼関係が破壊されるということはできないが、(3) 譲渡担保権者が建物の使用収益をする場合には、敷地の使用主体が替わることによって、その使用方法、占有状態に変更を来し、当事者間の信頼関係が破壊されるものといわざるを得ないからである。
2 これを本件についてみるに、原審の前記認定事実によれば、Cは、Aから譲渡担保として譲渡を受けた本件建物を被上告人に賃貸することによりこれの使用収益をしているものと解されるから、AのCに対する同建物の譲渡に伴い、その敷地である本件土地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと認めるのが相当である。本件において、仮に、Cがいまだ譲渡担保権を実行しておらず、Aが本件建物につき受戻権を行使することが可能であるとしても、右の判断は左右されない。
3 そうすると、特段の事情の認められない本件においては、上告人の本件賃貸借契約解除の意思表示は効力を生じたものというべきであり、これと異なる見解に立って、本件土地の賃貸借について民法六一二条所定の解除原因があるとはいえないとして、上告人による契約解除の効力を否定した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前に説示したところによれば、上告人の再抗弁は理由があるから、上告人の本件請求は、これを認容すべきである。右と結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友)

・借地借家法
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条  借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができるこの場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる
2  裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3  第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
4  前項の申立ては、第一項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。
5  第三項の裁判があった後は、第一項又は第三項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。
6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項又は第三項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。
7  前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

+(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
第二十条  第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。
2  前条第二項から第六項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。
3  第一項の申立ては、建物の代金を支払った後二月以内に限り、することができる。
4  民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第十九条 の規定は、同条 に規定する期間内に第一項 の申立てをした場合に準用する。
5  前各項の規定は、転借地権者から競売又は公売により建物を取得した第三者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第二項において準用する前条第三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

4.小問3
・帰属清算型
差額を提供して引き渡しを求める。
この場合、清算金を受け取るまでは受け戻し可能。
+判例(S62.2.12)
理由
上告代理人木幡尊の上告理由について
一 債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁参照)、他方、弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)。けだし、譲渡担保契約の目的は、債権者が目的不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権取得はかかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられるからである。
右のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである。もつとも、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である。
二 ところで、記録によれば、本件訴訟は次のような経過をたどつていることが明らかである。すなわち、上告人は、第一審において、被上告人に対し、原判決添付の物件目録1ないし21記載の各土地(以下、一括して「本件土地」という。)について譲渡担保の目的でされた、被上告人を権利者とする第一審判決添付の登記目録記載の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続を求めたところ、受戻権の要件たる債務弁済の事実が認められないとして、請求を棄却されたため、原審において、清算金の支払請求に訴えを交換的に変更した。そして、上告人は、本件譲渡担保が処分清算型の譲渡担保であることを前提としつつ、被上告人が昭和五七年五月一〇日にした訴外Aに対する本件土地の売却によつて被上告人の上告人に対する清算金支払義務が確定したとして、右の時点を基準時とし、被上告人・A間の裏契約による真実の売買代金額又は本件土地の客観的な適正価格に基づいて、清算金の額を算定すべきものと主張した。これに対し、被上告人は、右売却時を基準時として清算金の額を算定すること自体は争わず、Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるとし、右価額から被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を控除すると、上告人に支払うべき清算金は存在しない旨主張し、原審においては、専ら、(イ)Aに対する売却価額七五〇〇万円が適正な価額であるかどうか、(ロ)被上告人とAとの間に上告人主張の裏契約があつたか否か、(ハ)清算にあたつて控除されるべき費用等の範囲及びその額について主張・立証が行われ、(イ)の争点については、上告人の申請に基づき、右売却処分時における本件土地の適正評価額についての鑑定が行われた。そして、本件譲渡担保が帰属清算型であることについては、当事者双方から何らの主張もなく、その点についての立証が尽くされたとは認められず、原審がその点について釈明をした形跡も全くない。

三 原審は、その認定した事実関係に基づき、本件譲渡担保は、期限までに被担保債務が履行されなかつたときは債権者においてその履行に代えて担保の目的を取得できる趣旨の、いわゆる帰属清算型の譲渡担保契約であると認定したうえ、被上告人は、昭和四六年五月四日付内容証明郵便をもつて、上告人に対し、本件譲渡担保の被担保債権である貸金を同月二〇日までに返済するよう催告するとともに、右期限までにその支払がないときは、本件土地を被上告人の所有とする旨の意思表示をしたが、上告人が右期限までにその支払をしなかつたので、右内容証明郵便による譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した同月七日をもつて、本件譲渡担保の目的たる本件土地に関する権利が終局的に被上告人に帰属するに至つたというべきであり、被上告人とAとの間の本件土地の売買契約は、右権利が終局的に被上告人に帰属した後にされたものであつて、譲渡担保権の行使としてされたものではなく、上告人と被上告人との間の清算は、譲渡担保権行使の意思表示が上告人に到達した昭和四六年五月七日を基準時として、当時の本件土地に関する権利の適正な価格と右貸金の元利金合計額との間でされるべきであるところ、この場合の清算金の有無及びその金額につき上告人は何らの主張・立証をしないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人の請求は理由がないとして、これを棄却すべきものと判断している。

四 しかしながら、原審の右認定判断は、前示の審理経過に照らすと、いかにも唐突であつて不意打ちの感を免れず、本件において当事者が処分清算型と主張している譲渡担保契約を帰属清算型のものと認定することにより、清算義務の発生時期ひいては清算金の有無及びその額が左右されると判断するのであれば、裁判所としては、そのような認定のあり得ることを示唆し、その場合に生ずべき事実上、法律上の問題点について当事者に主張・立証の機会を与えるべきであるのに、原審がその措置をとらなかつたのは、釈明権の行使を怠り、ひいて審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない
のみならず、譲渡担保権の行使に伴う清算義務に関する原審の判断は、到底これを是認することができない。前示のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは、債権者の清算義務は具体的に確定するものではないというべきであり、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務全額の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者は受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるに至るものと解されるのであつて、この観点に立つて本件をみると、本件譲渡担保が帰属清算型の譲渡担保であるとしても、被上告人が、本件土地を確定的に自己の所有に帰属させる旨の前記内容証明郵便による意思表示とともに又はその後において、上告人に対し清算金の支払若しくはその提供をしたこと又は本件土地の適正評価額が上告人の債務の額を上回らない旨の通知をしたこと、及び上告人が貸金債務の全額を弁済したことは、当事者において主張せず、かつ、原審の確定しないところであるから、被上告人が本件土地をAに売却した時点において、上告人は受戻権ひいては本件土地に関する権利を終局的に失い、他方被上告人の上告人に対する貸金債権が消滅するとともに、清算金の有無及びその額は右時点を基準時として確定されるべきことになる。そして、右清算義務の確定に関する事実関係は、原審において当事者により主張されていたものというべきである。そうとすれば、原審としては、被上告人が本件土地をAに売却した時点における本件土地の適正な評価額(同人への売却価額七五〇〇万円が適正な処分価額であつたか否か)並びに右時点における被上告人の上告人に対する債権額及び上告人の負担に帰すべき費用等の額を認定して、清算金の有無及びその金額を確定すべきであつたのであり、漫然前記のように判示して上告人の請求を棄却した原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備ないし審理不尽の違法を犯したものといわざるを得ない。
そして、右の各違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないものというべきであり、本件については、さらに審理を尽くさせる必要があるから、これを原裁判所に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 髙島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)

・処分清算型
+判例(H6.2.22)
理由
上告代理人梶原暢二の上告理由二の(一)ないし(三)について
一 原審は、(1) 被上告人Aは昭和三二年三月二一日までに、Bから五二万円を同月から昭和四〇年一〇月二一日まで毎月二一日限り五〇〇〇円ずつ返済するとの約定で借り受け、その担保のため、自己所有の第一審判決別紙物件目録記載(一)の土地及び同(二)の建物(以下「本件建物」という)の所有権をBに移転し、贈与を原因とする所有権移転登記を経由したが、昭和三八年五月以降その返済を怠った、(2) Bは昭和五四年八月二九日、前記土地及び本件建物を上告人に贈与し、同月三一日その旨の所有権移転登記を経由した、(3) 被上告人Aは昭和五六年八月二〇日、残元金及び同日までの遅延損害金を供託した、との事実を確定した。
二 上告人は、Bからの贈与により本件建物の所有権を取得したとして、所有権に基づいて本件建物の明渡しを請求するものであるが、原審は、債権者が弁済期後に譲渡担保の目的不動産を第三者に譲渡した場合であっても、譲受人がいわゆる背信的悪意者であるときは、債務者はその清算が行われるまでは債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができ、その所有権をもって登記なくして譲受人に対抗することができるところ、上告人は背信的悪意者に当たるから、被上告人Aは右の供託によって本件建物を受け戻し、その所有権をもって上告人に対抗することができると判断して、上告人の請求を棄却した。

三 しかしながら、不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、最高裁昭和六〇年(オ)五六八号同六二年二月一二日第一小法廷判決・民集四一巻一号六七頁参照)。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはないけだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。したがって、前記事実関係によると、被上告人Aの債務の最終弁済期後に、Bが本件建物を上告人に贈与したことによって、被上告人Aは残債務を弁済してこれを受け戻すことができなくなり、上告人はその所有権を確定的に取得したものというべきである。これと異なる原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れず、本件については、被上告人らの清算金との引換給付を求める旨の主張等その余の抗弁について更に審理を尽くさせるため原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

++解説
《解  説》
一 議渡担保権者から弁済期後に譲渡担保の目的建物の贈与を受けたXが、所有権に基づいてその建物を占有しているY1、Y2に対しその明渡しを請求した事件であって、譲渡担保権者による弁済期後の目的物の処分と受戻権の関係が争点となった。事案の概要は、次のとおり。本件建物は、Y1がその妻Y2の姉婿Aから昭和三二年に五二万円を昭和四〇年一〇月まで割賦弁済との約定で借り入れて建築したものであるが、右貸金債務を担保するため、その敷地とともにAに対して所有権を移転していた。Xは、弁済期を経過した昭和五四年八月にAから本件建物を贈与されてその所有権を取得したとして、Y1、Y2に対して本件建物の明渡しを求めたのが本件である。訴訟が一審に係属中に、Y1は右五二万円の残元本と遅延損害金をAに提供した上弁済供託して、本件建物を受け戻した旨を主張した。
二 一審は、Xの請求を認容したが、二審は、譲渡担保権者が目的不動産の所有権を第三者に譲渡して所有権移転登記を経由した場合においても、第三者が背信的悪意者であるときには、清算が行われない限り、債務を弁済して譲渡担保権者から目的不動産を受け戻すことができ、債務者は受け戻した所有権をもって登記なくして第三者に対抗することができるとし、A・X間の贈与契約は、XがY1において早晩債務を弁済して本件建物を受け戻すことを予期し、これを封じ、Y2がAから清算金を取得することを事実上不可能とすることを意図して締結されたものであるから、Xは、背信的悪意者に当たり、Y1は債務を弁済して目的建物を受け戻すことができ、登記なくして受け戻した所有権をXに対抗することができるとして、Xの請求を棄却した。
Xから上告。上告理由の要旨は、弁済期経過後に譲渡担保権者が担保目的物を処分した場合には、設定者は受戻権を失い、譲受人は確定的に目的物の所有権を取得すると解すべきであるというものである。
本判決は、判決要旨のとおりの判断を示して、二審判決を破棄し、事件を原審に差し戻した。

三 譲渡担保について、大審院以来の判例は、譲渡担保についていわゆる所有権構成を採用している。同じ財産権移転形式の非典型担保である仮登記担保に関する一連の判例(最大判昭49・10・23民集二八巻七号一四七三頁、本誌三一四号一五二頁で集大成された。)の影響を受け、譲渡担保についても、清算を要すること(最一小判昭46・3・25民集二五巻二号二〇八頁、本誌二六一号一九六頁)、債務者は債務の履行を遅滞した場合であっても、換価処分が完結するまでは債務を弁済して目的物を受け戻すことができること(最二小判昭57・1・22民集三六巻一号九二頁、本誌四六六号八三頁)など、担保目的という実質を考慮した判例が表われているが、これらも、譲渡担保によって目的物の所有権が設定者から第三者に移転していること自体を否定するものではなく、所有権構成は維持されている。これに対して学説は、譲渡担保権の法的構成について、近時は、担保権的な構成をするものが有力になっている(学説については、差し当たり竹内俊雄「譲渡担保の法的構成と効力」『ジュリ増刊民法の争点Ⅰ』一八〇頁参照)。
本判決は、弁済期後に担保権者が目的物の所有権を移転した場合には、譲受人の主観的態様を問題とせず(対抗問題になぞらえると、いわゆる背信的悪意者に当たるような者であるかどうかを問わず)、受戻権が消滅することを判示し、受戻権の存続期間を明らかにしたものである。従来からの判例の立場である所有権構成を前提とすれば、譲渡担保権者は目的物の所有権者であり、弁済期後には目的物の処分権に対する制限もなくなるから、譲渡担保権者による弁済期経過後の目的物の第三者への譲渡は完全に有効であり、第三者は、その主観的態様いかんにかかわらず目的物の所有権を取得し、反面、受戻権は消滅することとなる。本判決は、所有権構成を前提とした上で、さらに、実質的な理由として、①担保権者から弁済期後に目的物を譲り受けた第三者が背信的悪意者に当たるような者である場合には清算金が支払われるまでは受戻権は消滅しないとすると、その後も債務者が債務を弁済せず、債権者も清算金を支払わない場合には、権利関係が浮動の状態が長く続くことになること、②譲渡担保権者から目的不動産を譲渡された第三者が「背信的悪意者」であるか否かは、債権者(譲渡担保権者)にとって明白であるとはいえないから、「背信的悪意者」であるかどうかによって受戻権が消滅するかどうかが定まるのであれば、譲渡担保権者が不測の損害を被るおそれがあること(例えば、第三者が「背信的悪意者」であったため、受戻権・債権債務関係が存続したのに、目的不動産を第三者に譲渡することによって債権債務関係は終了していると信じていたために何らの権利保全の手段を採らず、債権が時効によって消滅し、ひいて譲渡担保権も消滅することも考えられる。)を付加したものと思われる。
本判決が引用する最一小判昭62・2・12民集四一巻一号六七頁、本誌六三三号一一一頁は、直接には、帰属清算型の譲渡担保について清算金の有無及びその額の確定時期を明らかにしたものであるが、その理由中で清算金の提供若しくは目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知、又は債権者が目的不動産を第三者に売却等した場合に受戻権が消滅する旨を判示していた。本判決は、これを確認し、処分清算、帰属清算を問わずに、弁済期後の目的物の所有権の移転によって受戻権が消滅することを明らかにしたものである。
なお、受戻権が消滅するとすれば、設定者が清算金の支払を受けることを確保する手段の確保が次の課題となると思われる。本判決が、「清算金との引換給付を求める旨の主張」等について審理をさせるために本件を原審に差し戻している点は、留置権を肯定する含みを表すものという理解もある(松岡久和・民商一一一巻六号九四九頁)。
本判決の評釈等として、道垣内弘人・法教一六七号一一八頁、湯浅道男・判例セレクト94(法教一七四)二四頁、松岡・前掲九三七頁、吉田光碩・判タ八七四号七四頁、山野目章夫・平6重判解説(ジュリ一〇六八号)七九頁、鳥谷部茂・リマークス一一号五二頁、安永正昭・金法一四二八(金融判例研究五)号四八頁、大西武士・NBL五七三号六三頁がある。

・留置権の主張
+判例(S58.3.31)
理由
上告代理人大橋茂美、同石田新一の上告理由第一点及び第五点について
一 本件記録によれば、本件請求につき、つぎの事実を認めることができる。
1 被上告人は、原判決引用の第一審判決添付第一目録記載の土地及び同第二目録記載の建物(以下「本件土地建物」という。)の所有権に基づいて、上告人らに対し、本件建物から退去してこれを明け渡すことを、上告人A、同B、同C、同D、同E(以下「上告人Aら」という。)に対し、原判決引用の第一審判決添付第三目録記載の各建物(以下「係争建物」という。)を収去して本件土地のうち右建物の敷地部分を明け渡すことを、上告人横田鉄工株式会社(以下「上告会社」という。)に対し、係争建物から退去して本件土地のうち右建物の敷地部分を明け渡すことを、また、本件土地建物の不法占有を理由として、上告人らに対し、不法占有後の昭和三四年八月二一日から各自の明渡義務の履行が完了するまで原判決主文第三項記載のとおりの賃料相当損害金の支払を求めた。これに対し、上告人Aらは、FとGとの間の本件土地建物に関する代物弁済予約(以下「本件代物弁済予約」という。)は清算を必要とするものであり、被上告人はGとFとの間の本件代物弁済予約に基づく清算が未了であることを熟知しながら本件土地建物を取得したものであるから、上告人Aらは、Gに対してだけでなく、被上告人に対しても清算金の支払を請求することができ、G又は被上告人が右清算金を支払うまで本件土地建物の明渡義務及び賃料相当損害金の支払義務の履行を拒絶する旨を主張した。
2 これに対して原審は、つぎの事実を確定した。
(一) Gは、昭和三一年一〇月二八日Fに対し、一〇〇万円を利息月二分五厘の約束で弁済期を定めずに貸し付け(以下「本件貸金債権」という。)、その際、同人との間で右債権の担保のため本件土地建物について本件代物弁済予約及び抵当権設定契約を締結し、これらを登記原因として右土地建物について停止条件付所有権移転請求権保全仮登記及び抵当権設定登記を経由した。
(二) しかし、Gは、昭和三二年三月頃Fが事業不振のため本件貸金債権についての利息さえも支払えない状況に陥つたので、Fから前記一〇〇万円の弁済を受けられるかどうかについて不安となり、同月二二日本件貸金債権の担保を更に確実なものとする目的で、Fに対して本件代物弁済予約の完結権を行使し、同月二五日本件土地建物について前記仮登記の本登記を経由したが、Fは、その後二年四か月余りを経過した昭和三四年八月に至つても右の元利金を返済することができない状態にあつた。
(三) そこでFは、同月一八日頃Gとの間で、自己のGに対する前記借受金債務の弁済に代えて本件土地建物の所有権を確定的にGに移転させ、これにより右債務を消滅させる旨合意し(以下「本件合意」という。)、Fにおいて、本件代物弁済予約の完結権が行使されたことによつて本件土地建物がGの所有に帰したことを認める、Fは本件土地建物の取戻権を失いGがこれを処分することに異議がない旨を確認した。
(四) 被上告人は、同月二〇日Gから本件土地建物を代金一八〇万円で買い受け、同日所有権移転登記を経由したが、当時、本件土地建物に対してHらのために後順位の抵当権設定登記が経由されていた等の理由でGに対して右代金の内金一〇〇万円を支払つたにすぎないし、また、本件土地建物はGが本件貸金債権の代物弁済としてこれを取得したものであり、かつ、GがFに対して交付すべき清算金を支払つていないことを知つていた。
(五) Fは、昭和四四年五月二日死亡し、上告人AらがFの権利義務一切を相続した。
3 そして、原審は、右事実関係のもとにおいて、
(一) 上告人らは被上告人に対して本件土地建物を明け渡すべき義務があるところ、GはFに対して本件土地建物の処分時の価額と本件貸金債権の元利合計額との差額三八六万九三五七円を清算金として支払うべき義務があり、被上告人はGと同一の地位にあるというべきであるから、上告人Aらは、G及び被上告人のいずれに対しても、清算金の支払を受けるまで本件土地建物の明渡しを拒むことができ、したがつて、被上告人から清算金三八六万九三五七円の支払を受けるのと引換えに、各自本件建物から退去してこれを明け渡し、かつ、係争建物を収去して右建物の敷地部分を明け渡すべき義務がある旨判断し、被上告人の本件土地建物及び係争建物に関する請求につき、上告人Aらについては右の限度で認容すべきであるとし、上告会社については全部認容すべきであるとし、また、
(二) 上告人らは、被上告人が本件土地建物の所有権を取得した日の翌日である昭和三四年八月二一日から本件土地建物を権原なくして不法に占有しているものであるから、各自の明渡義務が完了するまで被上告人主張の賃料相当損害金の支払義務があると判断し、この点についての被上告人の請求を全部認容すべきであるとしている。

二 そこで、まず、上告理由第一点において本件土地建物の明渡義務の存否に関する違法をいう部分について検討する。
1 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、GとFとの間の本件合意は、代物弁済予約形式の担保の清算方法の合意としてその効力を否定すべき理由はないから、Gが右合意に基づき本件土地建物の所有権を確定的に取得したのちは、もはや上告人Aらは被担保債務の弁済によつて本件土地建物を取り戻すことはできなくなつたものというべきである。したがつて、所論の弁済の提供等は、被上告人の本件土地建物についての所有権取得に影響を及ぼす理由とはなりえない。所論中、原判決が、被上告人において清算金支払義務の関係につきGと同一の地位にある旨判示していることをとらえて、右清算金が支払われるまでは右の取戻しをすることができることとなるべき理である旨をいう部分は、後記判示の点を措いても、原判決の趣旨を正解せず、原審の認定しない事実に基づくか、又は独自の見解に立つ主張というほかはない。なお、上告人らは、原審において、被上告人とFとの間において債権者の交替による更改契約が成立したことを前提として所論弁済の提供等を主張したものにすぎないところ、原審は右更改契約の締結の事実が認められない旨判断しており、右認定判断は原判決挙示の証拠関係によつて是認することができ、その過程に所論の違法はない。この点に関して弁済の提供等についての判断遺脱等をいう所論は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。
2 しかしながら、職権をもつて調査するのに、前記認定の事実によれば、Gは、Fとの間の本件合意に基づき本件土地建物につき確定的に所有権を取得して更に被上告人にこれを譲渡したのであるから、被上告人はこれによつて本件土地建物につき担保権の実行に伴う清算関係とは切り離された完全な所有権を取得したものというべきであり、たとい被上告人において、GのFに対する右清算金の支払が未了であることを知りながら本件土地建物を買い受けたものであつても、そのために右のような被上告人による所有権取得が妨げられ、清算金の支払義務と結びついた本件土地建物の所有者としてのGの法律上の地位をそのまま承継するにとどまるものと解さなければならない理由はないというべきである。そうすると、被上告人とGとの間で重畳的債務引受の合意がされるなどの特段の事情がない限り、上告人Aらは被上告人に対して清算金の支払請求権を有するものではないから、原審が、上告人AらはGに対するのと同様に被上告人に対しても清算金支払請求権を有するとし、これを前提として上告人Aらが被上告人から清算金の支払を受けるまで本件土地建物の明渡しを拒むことができるとした点には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきである。
もつとも、被上告人の上告人Aらに対する本件土地建物の明渡請求は、所有権に基づく物権的請求権によるものであるところ、上告人AらのGに対する清算金支払請求権は、Gによる本件土地建物の所有権の取得とともに同一の物である右土地建物に関する本件代物弁済予約から生じた債権であるから、民法二九五条の規定により、上告人Aらは、Gに対してはもとより、同人から本件土地建物を譲り受けた被上告人に対しても、Gから清算金の支払を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができる関係にあるといわなければならない(最高裁昭和三四年(オ)第一二二七号同三八年二月一九日第三小法廷判決・裁判集民事六四号四七三頁、同昭和四五年(オ)一〇五五号同四七年一一月一六日第一小法廷判決・民集二六巻九号一六一九頁参照)。
そして、被上告人又はGが清算金を支払うまで本件土地建物の明渡義務の履行を拒絶する旨の前記上告人Aらの主張は、単に同上告人らの本件土地明渡義務と右清算金支払義務とが同時履行関係にある旨の抗弁権を援用したにとどまらず、被上告人の本件土地建物明渡請求に対して、清算金支払請求権を被担保債権とする留置権が存在する旨の抗弁をも主張したものとみることができるから、本件においては上告人Aらの右留置権の抗弁を採用して引換給付の判決をすることができたわけである。しかし、この場合には、被上告人は上告人Aらに対して清算金支払義務を負つているわけではないから、被上告人による清算金の支払と引換えにではなく、Gから清算金の支払を受けるのと引換えに本件土地建物の明渡しを命ずべきものであり、したがつて、これと異なり、被上告人からの清算金の支払と引換えに本件土地建物の明渡しを命じた原判決には、結局、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであるが、原判決を右の趣旨に基づいて変更することは、上告人Aらに不利益をきたすことが明らかであるから、民訴法三九六条、三八五条により、この点に関する原判決を維持することとする。

三 つぎに、上告理由第五点において賃料相当額の損害賠償義務に関する違法をいう部分について検討する。
1 所論中、上告会社に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審において主張しない事項に基づいて原判決を非難するか、又は原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
2 所論中、上告人Aらに関する部分についてみるのに、前述のとおり、上告人Aらは、被上告人の本件土地建物の明渡請求に対して留置権を行使することができ、Gから清算金の支払を受けるまで本件土地建物の占有を継続することになんら違法はないのであるから、右占有の継続が違法であることを理由とする賃料相当損害金の支払請求は失当として棄却すべきである。しかるに、原審がなんら首肯するに足りる理由なくして被上告人の上告人Aらに対する金員請求を認容した点には、民法七〇九条、二九五条の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。それゆえ、被上告人の上告人Aらに対する金員請求に関する部分(第一審における請求部分及び原審における附帯控訴に基づく新たな請求部分)につき、原判決を破棄し、第一審における請求部分を認容した第一審判決を取り消したうえ、右請求部分全部について請求を棄却すべきである。
同第二点について
原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、清算金についての所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうか、又は原審の認定しない事項に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
同第三点について
原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、係争建物につき法定地上権の成立する余地がないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九五条、九三条、九二条、八九条の規定に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一)

・被担保債権の弁済期前の譲渡の場合

+判例(H18.10.20)
理由
上告代理人千田適ほかの上告受理申立て理由について
1 不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできないと解するのが相当である。なぜなら、設定者が債務の履行を遅滞したときは、譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから(最高裁昭和55年(オ)第153号同57年1月22日第二小法廷判決・民集36巻1号92頁参照)、被担保債権の弁済期後は、設定者としては、目的不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ、譲渡担保権者の債権者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権者による換価処分と同様に受忍すべきものということができるのであって、目的不動産を差し押さえた譲渡担保権者の債権者との関係では、差押え後の受戻権行使による目的不動産の所有権の回復を主張することができなくてもやむを得ないというべきだからである。
上記と異なり、被担保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえた場合は、少なくとも、設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的不動産を受け戻したときは、設定者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができると解するのが相当であるなぜなら、弁済期前においては、譲渡担保権者は、債権担保の目的を達するのに必要な範囲内で目的不動産の所有権を有するにすぎず、目的不動産を処分する権能を有しないから、このような差押えによって設定者による受戻権の行使が制限されると解すべき理由はないからである。
2 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実関係によれば、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者である被上告人が目的不動産を差し押さえ、その差押登記後に設定者である上告人が受戻権を行使したというのであるから、上告人は、受戻権の行使による目的不動産の所有権の回復を差押債権者である被上告人に主張することができず、第三者異議の訴えによって強制執行の不許を求めることはできないというべきである。原審の判断は以上の趣旨をいうものとして是認することができ、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

5.小問4
・差押債権者は177条にいう「第三者」に当たる・・・。


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