債権総論 4ー1 責任財産の保全 債権者代位権

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債権者代位権

1.債権者代位権の意義
(1)意義
債権者が債務者に代わって第三債務者に対する財産権を行使して、債務者の責任財産の保全を図る
+(債権者代位権)
第四百二十三条  債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2  債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
被保全債権
=保全される債権者の債権
被代位権利
=代位行使される債務者の権利
(2)債権者代位権と強制執行制度

強制執行と比べて債権者代位権は
①債務名義が要らない
②代位行使できる権利が債務者の債権に限られない。
形成権(取消権解除権)や保存行為等
③非金銭債権を保全するために行使できる

2.債権者代位権の要件
要件
①保全の必要性
②債務者が自己の権利を行使していないこと
③被代位権利が債務者の一身専属権ではない
④被保全債権が履行期にある

(1)債権保全の必要性
債権者代位権は強制執行準備のために債務者の責任財産を維持することを目的としていた
→債務者の無資力を意味する

転用事例の時は無資力は要求されない

(2)債務者の権利不行使
・債務者に対する不当な干渉にならないように
・債務者による行使の方法結果にかかわらず行使できなくなる

++判例(S28.12.14)

・債権者はその訴訟に補助参加や独立当事者参加をする

・この要件の主張立証責任について
代位債権者が債務者の権利不行使を主張(請求原因説)
第三者が、債務者が権利を行使したことを主張(抗弁説)

(3)被代位債権の要件
ⅰ)代位行使できる権利
請求権
形成権
消滅時効の援用権
債権者代位権
登記所への登記申請行為

ⅱ)代位行使できない権利
~債務者の一身専属権~
行使上の一身専属権=権利を行使するかどうかが権利者の自由な意思にゆだねられていて、他人が行使できない=債務者の意思決定に対する干渉となる
(⇔帰属上の一身専属権=権利者のみに帰属し、譲渡や相続できない)

①一定の親族法条の身分と結びついた純粋の身分権
=婚姻・養子縁組の取消権
嫡出否認権
認知請求権
親権

②身分上の権利であるが、財産的内容を有する身分財産権
夫婦間の契約の取消権
親族間の扶養請求権
遺留分減殺請求権については
遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合にのみ代位行使できる

+判例(H13.11.22.)
理由
 上告代理人冨永長建の上告理由について
 1 本件は、遺言によって被上告人が相続すべきものとされた不動産につき、当該遺言で相続分のないものとされた相続人に対して貸金債権を有する上告人が、当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相続登記を経由した上、当該相続人の持分に対する強制競売を申し立て、これに対する差押えがされたところ、被上告人がこの強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟である。上告人は、上記債権を保全するため、当該相続人に代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、その遺留分割合に相当する持分に対する限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
 2 【要旨】遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。
 遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条、1043条参照)。そうすると、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。民法1031条が、遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは、この権利がいわゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げとはならない。なお、債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、これを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない
 3 以上と同旨の見解に基づき、本件において遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることはできないとして、被上告人の第三者異議を全部認容すべきとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、所論の趣旨を判示したものではなく、上記判断はこれと抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田顯)

③人格権侵害による慰謝料請求権
精神的苦痛を賠償させるかは被害者自身の自由な意思により決定されるべきものである
ただし、合意や判決で具体的な慰謝料額が決定した場合や、それ以前の段階で被害者が死亡した場合は、代位行使の対象となる

~差押禁止の債権~
差押禁止の部分において責任財産を構成しないので、代位行使の対象とならない

(4)被保全債権の履行期の到来
被保全債権が履行期にあること

・例外的に
①裁判上の代位(423条2項本文)
履行期前に代位権を行使しないと債権者の債権の保全が不可能または困難になる場合は、債権者は、裁判所の許可を得て代位権を行使できる

+(債権者代位権)
第四百二十三条  債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2  債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない

②保存行為の代位(同条同項ただし書き)
保存行為
債務者の財産の減少を防ぐ行為(消滅時効中断行為等)
←債務者の不利益にならないし、急を要するから
裁判所の許可は必要ない

3.債権者代位権の行使
(1)行使の方法
債権者は自己の名において債務者の債権を行使
裁判上でも裁判外でも行使可能
(詐害行為取消権は裁判上の行使しかできない)

(2)代位行使の範囲
債権保全に必要な範囲に限られる

(3)代位権行使の相手方の抗弁
代位権行使の相手方は、債務者に対して持っているすべての抗弁を代位債権者に対して主張できる。

(4)請求の内容
直接代位債権者自身への支払や引渡しを請求できる
←債務者が第三者から給付目的物を自発的に受け取らないときは、代位権行使の目的が達成されないことになるから。

4.債権者代位権の効果
(1)債務者の処分権の制限
・履行期前の債権に基づく裁判上の代位の場合
裁判上の代位の申請が許可されると、許可の裁判は職権で債務者に告知され、子の告知を受けた債務者はこの権利を行使できなくなる

+非訟事件手続法
(代位の許可等)
第八十八条  裁判所は、第八十五条の規定による申立てを理由があると認めるときは、担保を立てさせて、又は立てさせないで、裁判上の代位を許可することができる。
2  前項の規定による許可の裁判は、債務者に告知しなければならない
3  前項の規定による告知を受けた債務者は、その代位に係る権利の処分をすることができない
4  第七十二条第二項及び第三項の規定は、第一項の規定により担保を立てる場合における供託及び担保について準用する。

・履行期後の債権に基づく代位権行使の場合
債権者が債務者にこれを通知するか、または債務者がこれを知った後は債務者は権利を処分できない。

+判例(S48.4.24)※
理由
 上告代理人今野佐内の上告理由(一)について。
 所論は、参加人(被上告人)の被告(上告人)に対する訴の訴訟物は、原告(被上告人)の被告に対する訴の訴訟物と同一であつて重複起訴になり不適法である、というのである。
 所論に関する本件の訴訟関係は、つぎのとおりである。すなわち、原告は参加人からその所有の第一審判決添付別紙目録(一)の土地(以下「本件土地」という。)を含む土地を賃借しているとして、その一部である本件土地につき賃貸人たる参加人に代位しその所有権にもとづき本件土地上に同目録(二)の建物部分(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している被告に対し、本件建物収去本件土地明渡を求めたのが本訴であるところ、参加人は、原告が本件土地を被告に無断転貸したから本件土地についての賃貸借契約を解除したとして、原告に対し原告が本件土地について賃借権を有しないことの確認を求めるとともに、被告に対し所有権にもとづき本件建物収去本件土地明渡を求めて民訴法七一条により本訴に参加したものである。

 思うに、債権者が民法四二三条一項の規定により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合であつても、債務者が民訴法七一条により右代位訴訟に参加し第三債務者に対し右代位訴訟と訴訟物を同じくする訴を提起することは、民訴法二三一条の重複起訴禁止にふれるものではないと解するのが相当である。けだし、この場合は、同一訴訟物を目的とする訴訟の係属にかかわらず債務者の利益擁護のため訴を提起する特別の必要を認めることができるのであり、また、債務者の提起した訴と右代位訴訟とは併合審理が強制され、訴訟の目的は合一に確定されるのであるから、重複起訴禁止の理由である審判の重複による不経済、既判力抵触の可能性および被告の応訴の煩という弊害がないからである。したがつて、債務者の右訴は、債権者の代位訴訟が係属しているというだけでただちに不適法として排斥されるべきものと解すべきではない。もつとも、債権者が適法に代位権行使に着手した場合において、債務者に対しその事実を通知するかまたは債務者がこれを了知したときは、債務者は代位の目的となつた権利につき債権者の代位権行使を妨げるような処分をする権能を失い、したがつて、右処分行為と目される訴を提起することができなくなる(大審院昭和一三年(オ)第一九〇一号同一四年五月一六日判決・民集一八巻九号五五七頁参照)のであつて、この理は、債務者の訴提起が前記参加による場合であつても異なるものではない。したがつて、審理の結果債権者の代位権行使が適法であること、すなわち、債権者が代位の目的となつた権利につき訴訟追行権を有していることが判明したときは、債務者は右権利につき訴訟追行権を有せず、当事者適格を欠くものとして、その訴は不適法といわざるをえない反面、債権者が右訴訟追行権を有しないことが判明したときは、債務者はその訴訟追行権を失つていないものとして、その訴は適法ということができる

 本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定した事実関係によれば、原告の代位原因たる本件土地の賃借権は、その発生原因である賃貸借契約が原告において被告に対してした無断転貸を理由として参加人により解除されたため消滅したものということができるから、原告の代位訴訟はその代位原因を欠くものとして却下を免れず、したがつて、参加人が本訴に参加し被告に対して所有権にもとづいて本件建物収去本件土地明渡を求めた訴は適法というべきである。
 右と結論を同じくする原判決は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同(二)について。
 所論は、参加人の被告に対する請求は権利の濫用である、というのである。
 しかし、原判決が適法に確定した事実関係によれば、参加人の右請求が権利の濫用に当らないとした原判決の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。引用の判例は本件に適切でなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄)

(2)効果の帰属
代位行使の効果はすべて債務者に帰属する

Q。直接目的物の引渡しを受けた代位債権者は弁済としてそれを取得できるか
・目的物が動産の場合
自己の債権の弁済に充てることはできず、債務者に返却しなければならない
←債権者代位権は債務者の責任財産を保全する制度だから
→強制執行の手続きを取る必要がある
ただ、代位権行使のために費やした費用について共益費用の一般先取特権を有する

+(一般の先取特権)
第三百六条  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一  共益の費用
二  雇用関係
三  葬式の費用
四  日用品の供給

(共益費用の先取特権)
第三百七条  共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
2  前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

・目的物が金銭の場合
自己の被保全債権を自働債権として、返還債権(不当利得による返還債務)と相殺することができる
=事実上の優先弁済

・目的物が不動産の場合
代位債権者への明渡請求を認める必要はない
←債務者への明渡し請求と移転登記請求ができれば十分だから

ただし、不動産賃借人による妨害排除請求権の代位行使の場合には、代位債権者(賃借人)への明渡し請求が認められる

(4)代位訴訟の判決の効力
Q.既判力は債務者にも及ぶか

・債務者が代位訴訟に独立当事者参加をした場合、債務者に対して訴訟告知がされた場合には、既判力が債務者に及ぶ。

・訴訟参加や訴訟告知がない場合は
債権者は法定訴訟担当当事者に当たるとして、代位訴訟の既判力は債務者にも及ぶとする

5.債権者代位権の転用
(1)債権者代位権制度の二分的構成
・本来型
責任財産の保全のために行使
債務者の無資力が要件

・転用型
特定債権の実現を図る目的
債務者の無資力は要件とされない

(2)債権者代位権の転用例
ⅰ)登記請求権の代位行使
登記は共同申請が原則

中間者の同意がなければ、中間省略登記請求権は認められない
→移転登記請求権を代位行使

ⅱ)不動産賃借人による賃貸人の妨害排除請求権の代位行使
賃借人が第三者の妨害排除をするための方法

①占有の訴え(占有訴権)の行使
引渡しを受けて占有している場合
+(占有保持の訴え)
第百九十八条  占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

②賃借権に基づく妨害排除請求権
不動産賃借権が対抗力を備えている場合、賃借権に基づく妨害排除請求権

③賃貸人の妨害排除請求権の代位行使
賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使
直接賃借人に明け渡すよう請求できる

ⅲ)金銭債権保全のための登記請求権の代位行使
・債務者の有する同時履行の抗弁権を消滅させるために、債務者の無資力を問題とせずに金銭債権者による債権者代位権の行使が認められたケース

+判例(S50.3.6)
理由
 上告人の上告理由第一点及び第二点について。
 被相続人が生前に土地を売却し、買主に対する所有権移転登記義務を負担していた場合に、数人の共同相続人がその義務を相続したときは、買主は、共同相続人の全員が登記義務の履行を提供しないかぎり、代金全額の支払を拒絶することができるものと解すべく、したがつて、共同相続人の一人が右登記義務の履行を拒絶しているときは、買主は、登記義務の履行を提供して自己の相続した代金債権の弁済を求める他の相続人に対しても代金支払を拒絶することができるものと解すべきである。そして、この場合、相続人は、右同時履行の抗弁権を失わせて買主に対する自己の代金債権を保全するため、債務者たる買主の資力の有無を問わず、民法四二三条一項本文により、買主に代位して、登記に応じない相続人に対する買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができるものと解するのが相当である。原審の判断はこれと同旨であつて、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切ではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 同第三点について。
 金銭債権の相続については、各共同相続人はその相続分に応じて法律上当然に分割された権利を承継するというのが、当裁判所の判例とするところであつて(最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決・民集八巻四号八一九頁参照)、いまこれを変更する要をみない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、その前提を欠くことになり、採用することができない。

 同第四点について。
 本件記録によれば、原審において、上告人は、本件売買契約が買主の債務不履行を理由とする上告人の解除の意思表示により消滅したと主張するにあたり、その前提として、買主がその残代金の一部につき先履行義務を負担する旨所論の主張をしているものであるところ、原審は、多数当事者の契約関係にあつては当事者一人による解除は許されないとして、上告人の右解除の主張を排斥していることが、原判決に照らして明らかである。右原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、判決の結論に影響を及ぼさない部分を非難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

+α 抵当権者が抵当不動産の不法占拠者を排除するために、債権者代位権を使用
判例(H11.11.24)
理由
 上告代理人佐久間信司の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、平成元年一一月一〇日、Bとの間で、同人所有の第一審判決別紙物件目録記載の土地及び建物(以下、「本件不動産」といい、このうち建物を「本件建物」という。)について、債務者をB、極度額を三五〇〇万円、被担保債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定契約を締結した。
 2 被上告人は、平成元年一一月一七日、Bに対し、二八〇〇万円を、平成二年二月以降毎月一五日に元金一一万七〇〇〇円を当月分の利息と共に支払うなどの約定により貸し付けた(以下、これによる債権を「本件貸金債権」という。)。
 3 上告人らは、平成五年五月ころから、本件建物を権原なく占有している。
 4 被上告人は、本件貸金債権の残額につき期限の利益が失われた後である平成五年九月八日、名古屋地方裁判所に対し、本件不動産につき本件根抵当権の実行としての競売を申し立て、同裁判所は、同日、不動産競売の開始決定をした。右事件の開札期日は平成七年五月一七日と指定されたが、上告人らが本件建物を占有していることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたため、入札がなく、その後競売手続は進行していない。

 二 本件は、被上告人が、上告人らが本件建物を権原なく占有していることが不動産競売手続の進行を阻害し、そのために本件貸金債権の満足を受けることができないとして、上告人らに対し、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権を保全するため、Bの本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、本件建物の明渡しを求めるものである。
 原審は、次のように判示し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
 1 本件不動産についての不動産競売手続が進行しないのは、上告人らが本件建物を占有していることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたためであり、この結果、被上告人は、本件貸金債権の満足を受けることができなくなっている。したがって、被上告人には、本件貸金債権を保全するため、Bの本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する必要があると認められる。
 2 被上告人が請求することができるのは、本件建物の所有者であるBへの明渡しに限定されるものではなく、被上告人は、保全のために必要な行為として、上告人らに対し、本件建物を被上告人に明け渡すことを求めることができる。

 三 抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない
 しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。そうすると、【要旨第一】当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。
 なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。
 最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
 四 本件においては、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が到来し、被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、上告人らが占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより、本件不動産の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられているというのであるから、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推認することができる
 【要旨第二】右事実関係の下においては、被上告人は、所有者であるBに対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、Bの上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、Bのために本件建物を管理することを目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。
 五 本件請求は、本件根抵当権の被担保債権をもって代位の原因とするが、本件根抵当権に基づいて、その交換価値の実現を阻害する上告人らの占有の排除を求めるため、所有者に代位して、上告人らに対して本件建物の明渡しを請求する趣旨を含むものと解することができるから、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官奥田昌道の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


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