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2.証人尋問
(1)証人尋問の意義
証人尋問とは、証人に対して口頭で質問して口頭で証言を得るという方法で行われる証拠調べ
ⅰ)証人の概念
・証人とは、
過去に自分が認識した経験事実を裁判所において報告することを求められる第三者である
当事者本人およびその法定代理人以外の者
・証人と当事者の識別は、
当事者が形式的当事者概念により定まるので、比較的容易
・証人と鑑定人の識別は、
証人が事故の経験した過去の事実を報告する者であるのに対し、鑑定人は客観的な立場から意見や知識を報告する者
・鑑定証人
専門的な学識があることで得られた知見を報告する者
鑑定証人は、過去に自分が認識した経験事実を報告する者であるので、その本質は証人であり、証人尋問に関する手続きが適用される
+(鑑定証人)
第二百十七条 特別の学識経験により知り得た事実に関する尋問については、証人尋問に関する規定による。
ⅱ)証人能力
証人になり得る能力
原則として、誰でも証人能力を有する
訴訟の結果について利害関係を有する者であっても証人能力が認められる。
たとえ宣誓能力を欠くことはあっても、証人能力は有する。ただしその証言の証明力に影響する。
+(宣誓)
第二百一条 証人には、特別の定めがある場合を除き、宣誓をさせなければならない。
2 十六歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することができない者を証人として尋問する場合には、宣誓をさせることができない。
3 第百九十六条の規定に該当する証人で証言拒絶の権利を行使しないものを尋問する場合には、宣誓をさせないことができる。
4 証人は、自己又は自己と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者に著しい利害関係のある事項について尋問を受けるときは、宣誓を拒むことができる。
5 第百九十八条及び第百九十九条の規定は証人が宣誓を拒む場合について、第百九十二条及び第百九十三条の規定は宣誓拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に証人が正当な理由なく宣誓を拒む場合について準用する。
(2)証人義務
ⅰ)証人義務の意義
公法上の一般義務として証人義務が規定されている
+(証人義務)
第百九十条 裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができる。
ⅱ)証人義務の内容
・出頭義務
適法な呼出しに応じて、指定された日時に指定の場所に出頭し、退去を許されるまでとどまる義務
出頭義務が具体化するのは、裁判所が特定の者を証人として尋問する旨決定し(181条1項参照)、適法な呼出し(94条1項)をしたときである。
正当な理由なく出頭しないとき
+(不出頭に対する過料等)
第百九十二条 証人が正当な理由なく出頭しないときは、裁判所は、決定で、これによって生じた訴訟費用の負担を命じ、かつ、十万円以下の過料に処する。
2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(不出頭に対する罰金等)
第百九十三条 証人が正当な理由なく出頭しないときは、十万円以下の罰金又は拘留に処する。
2 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。
(勾引)
第百九十四条 裁判所は、正当な理由なく出頭しない証人の勾引を命ずることができる。
2 刑事訴訟法 中勾引に関する規定は、前項の勾引について準用する。
・宣誓義務
証言に際して法定の方式に従って先生する義務。
宣誓をした証人が偽証をすれば、刑法上の偽証罪が成立する。
・証言義務
尋問に応じて真実を供述する義務。
証言義務は、一定の限度における調査義務を伴なうことになる。
(3)証言拒絶権
ⅰ)証言拒絶権の意義
証言拒絶権
一般証人義務を負う者が証言を求められた場合に、一定の事項について証言を拒絶し得る公法上の権利。
←公平かつ適正な司法を場合によっては犠牲にしても、守られるべき社会的価値があるとの理念から。
ⅱ)証言拒絶権の内容
+(証言拒絶権)
第百九十六条 証言が証人又は証人と次に掲げる関係を有する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するときは、証人は、証言を拒むことができる。証言がこれらの者の名誉を害すべき事項に関するときも、同様とする。
一 配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族の関係にあり、又はあったこと。
二 後見人と被後見人の関係にあること。
第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
一 第百九十一条第一項の場合
二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。
(証言拒絶の理由の疎明)
第百九十八条 証言拒絶の理由は、疎明しなければならない。
(証言拒絶についての裁判)
第百九十九条 第百九十七条第一項第一号の場合を除き、証言拒絶の当否については、受訴裁判所が、当事者を審尋して、決定で、裁判をする。
2 前項の裁判に対しては、当事者及び証人は、即時抗告をすることができる。
拒絶権の行使の方法不行使の方法
証言のみを拒む
宣誓のみを拒む
両方拒む
両方拒まない
ⅲ)証言拒絶の種類
・自己負罪拒否権・名誉
証人の基本的人権が実質的に危険にさらされるような場合。
←自己負罪供述拒否権(憲法38条1項)およびプライバシー権(憲法13条)などの証人自身が有する基本的人権の保護。
・公務員の秘密保護義務
+第百九十一条 公務員又は公務員であった者を証人として職務上の秘密について尋問する場合には、裁判所は、当該監督官庁(衆議院若しくは参議院の議員又はその職にあった者についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣又はその職にあった者については内閣)の承認を得なければならない。
2 前項の承認は、公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合を除き、拒むことができない。
実質秘であることを要する。
公務員等による疎明の正当性を裁判所が判断する権限を有するか?
肯定説
証人義務について裁判所が判断権限を有さないと解することは不当であるし、198条が証言拒絶の理由の疎明を求めている以上、それに対する応答として裁判所が正当性を判断するのは当然。
監督官庁に承認を求めたところ、その承認が拒絶された場合、裁判所がその判断の内容を審査して覆すことができるか?
否定的
監督官庁は、秘密の管理について権限と義務を持ち、一定の裁量権を有するから。
・法定専門職の守秘義務
秘密主体である患者や依頼者等の信頼を保護する趣旨
「黙秘すべきもの」
=一般的に知られていない事実のうち、それを隠すことについて秘密主体が利益を有し、公表されれば経済的損失が生じるもの
単に主観的利益があるだけでは足りず、客観的に見て保護に値する利益でなければならない
+判例(H16.11.26)
理由
第1 事案の概要
1 記録によれば、本件の経緯等は次のとおりである。
(1) 本件の本案訴訟(東京高等裁判所平成15年(ネ)第833号損害賠償請求本訴、利益配当金支払請求反訴事件)のうち、本訴請求事件は、生命保険事業を営む株式会社である相手方が、損害保険事業を営む相互会社である抗告人を被告として、抗告人から抗告人についての虚偽の会計情報を提供されたことにより抗告人に対し300億円の基金を拠出させられたなどとして、不法行為による損害賠償を求めるものであり、反訴請求事件は、抗告人が、相手方を被告として、相手方の株主たる地位に基づく利益配当金の支払を求めるものである。
本件は、相手方が、抗告人の旧役員らが故意又は過失により虚偽の財務内容を公表し、真実の財務内容を公表しなかったという事実を証明するためであると主張して、抗告人が所持する原決定別紙文書目録記載1の調査報告書(以下「本件文書」という。)につき文書提出命令を申し立てた事案である。抗告人は、本件文書は、民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たり、かつ、同号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たると主張している。
(2) 抗告人は、平成12年5月1日、金融監督庁長官により、保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項、241条に基づき、業務の一部停止命令並びに保険管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け、公認会計士真砂由博及び弁護士山岸良太が保険管理人(以下「本件保険管理人」という。)に選任された。
金融監督庁長官は、同法313条1項、242条3項に基づき、本件保険管理人に対し、抗告人の破たんにつき、その旧役員等の経営責任を明らかにするため、弁護士、公認会計士等の第三者による調査委員会を設置し、調査を行うことを命じた。これを受けて本件保険管理人は、同月25日、弁護士及び公認会計士による調査委員会(以下「本件調査委員会」という。)を設置した。本件調査委員会は、抗告人の従業員等から、任意に資料の提出を受けたり、事情を聴取するなどの方法によって調査を進め、その調査の結果を記載した本件文書を作成して、本件保険管理人に提出した。本件保険管理人は、本件文書等に基づき、平成13年3月29日、抗告人の経営難が平成7年から始まったことを公表するとともに、抗告人が、平成11年3月に関係会社に対し所有不動産を時価よりも高い価格で売却し、決算で利益を計上し、税金9億3000万円を支払ったこと、平成12年3月に債務超過であったにもかかわらず基金を拠出していた企業に利息を支払ったことなどにつき、旧役員11名に対し、21億2075万円の損害賠償請求をすることを公表した。抗告人は、平成13年4月1日、保険契約の全部を他に移転したことにより、保険業法152条3項1号に基づき解散した。
2 原審は、本件文書は、民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないし、本件保険管理人が本件文書等に基づき旧役員に対する損害賠償請求をすることを公表したことによって本件文書に記載された事実につき黙秘の義務が免除されたものであるから、同号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」にも当たらないなどと判断して、抗告人に対して本件文書の提出を命じた。
第2 抗告代理人相原亮介ほかの抗告理由第2について
ある文書が、作成の目的、記載の内容、現在の所持者がこれを所持するに至るまでの経緯などの事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成されたものであり、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されることによって個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思の形成が阻害されたりするなど、開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。
これを本件についてみるに、前記第1の1(2)記載の本件の経緯等によれば、次のことが明らかである。
1 本件保険管理人は、金融監督庁長官から、保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項、242条3項に基づき、抗告人の破たんにつき、その旧役員等の経営責任を明らかにするため、調査委員会を設置し、調査を行うことを命じられたので、上記命令の実行として、弁護士及び公認会計士を委員とする本件調査委員会を設置し、本件調査委員会に上記調査を行わせた。本件文書は、本件調査委員会が上記調査の結果を記載して本件保険管理人に提出したものであり、法令上の根拠を有する命令に基づく調査の結果を記載した文書であって、専ら抗告人の内部で利用するために作成されたものではない。また、本件文書は、調査の目的からみて、抗告人の旧役員等の経営責任とは無関係な個人のプライバシー等に関する事項が記載されるものではない。
2 保険管理人は、保険会社の業務若しくは財産の状況に照らしてその保険業の継続が困難であると認めるとき、又はその業務の運営が著しく不適切であり、その保険業の継続が保険契約者等の保護に欠ける事態を招くおそれがあると認めるときに、金融監督庁長官によって、保険会社の業務及び財産の管理を行う者として選任されるものであり(同法313条1項、241条)、保険管理人は、保険業の公共性にかんがみ、保険契約者等の保護という公益のためにその職務を行うものであるということができる。また、本件調査委員会は、本件保険管理人が、金融監督庁長官の上記命令に基づいて設置したものであり、保険契約者等の保護という公益のために調査を行うものということができる。
以上の点に照らすと、本件文書は、民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には当たらないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。なお、所論引用の最高裁平成11年(許)第26号同12年3月10日第一小法廷決定・裁判集民事197号341頁は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。
第3 同第3について
民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である。前記のとおり、本件文書は、法令上の根拠を有する命令に基づく調査の結果を記載した文書であり、抗告人の旧役員等の経営責任とは無関係なプライバシー等に関する事項が記載されるものではないこと、本件文書の作成を命じ、その提出を受けた本件保険管理人は公益のためにその職務を行い、本件文書を作成した本件調査委員会も公益のために調査を行うものであること、本件調査委員会に加わった弁護士及び公認会計士は、その委員として公益のための調査に加わったにすぎないことにかんがみると、本件文書に記載されている事実は、客観的にみてこれを秘匿することについて保護に値するような利益を有するものとはいえず、同号所定の「黙秘すべきもの」には当たらないと解するのが相当である。
したがって、本件文書は、同法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」には当たらないというべきである。所論の点に関する原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷玄 裁判官 津野修)
・技術または職業の秘密
秘密主体が有する技術や従事する職業自体の社会的価値の保護を目的とする
証人自身が法律上の秘密主体でなくともよいが、契約その他の法律関係に基づいて秘密主体に準ずる立場になければならない。
「技術の秘密」
=その秘密が公開されると技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が不可能または困難になるものをいう。
「職業の秘密」
=その秘密が公開されるとその職業に深刻な影響を与え、以後の遂行が困難になるもの
証言拒絶の対象となるのは、技術または職業の秘密のうちで、とくに保護に値するものだけであり、
保護に値するかどうかは、秘密の公表によって秘密主体が受ける不利益と、証言拒絶によって犠牲になる真実発見および裁判の公正との比較衡量によって決定される。
比較衡量に際しては、秘密の重大性、代替証拠の有無、立証事項の証明責任の所在、当該事件の公共性の程度などが斟酌されるべき
+判例(H18.10.3)
理由
抗告代理人松尾翼、同松本貴一朗、同青木龍一の抗告理由について
1 抗告人らは、アメリカ合衆国を被告として合衆国アリゾナ州地区連邦地方裁判所に提起した損害賠償請求事件(以下「本件基本事件」という。)における開示(ディスカバリー)の手続として、日本に居住する相手方の証人尋問を申請した。そこで、同裁判所は、この証人尋問を日本の裁判所に嘱託し、同証人尋問は、国際司法共助事件として新潟地方裁判所(原々審)に係属した。記者として本件基本事件の紛争の発端となった報道に関する取材活動をしていた相手方は、原々審での証人尋問において、取材源の特定に関する証言を拒絶し、原々審はその証言拒絶に理由があるものと認めた。これに対し、抗告人らは、上記証言拒絶に理由がないことの裁判を求めて抗告したが、原審がこれを棄却したために、当審への抗告の許可を申し立て、これが許可されたものである。
2 記録によれば、本件の経緯等は次のとおりである。
(1) A社(以下「A社」という。)は、健康・美容アロエ製品を製造、販売する企業グループの日本における販売会社である。抗告人X1は、上記企業グループの合衆国における関連会社であり、その余の抗告人らは、A社の社員持分の保有会社、その役員等である。
(2) 日本放送協会(以下「NHK」という。)は、平成9年10月9日午後7時のニュースにおいて、A社が原材料費を水増しして77億円余りの所得隠しをし、日本の国税当局から35億円の追徴課税を受け、また、所得隠しに係る利益が合衆国の関連会社に送金され、同会社の役員により流用されたとして、合衆国の国税当局も追徴課税をしたなどの報道をし(以下「本件NHK報道」という。)、翌日、主要各新聞紙も同様の報道をし、合衆国内でも同様の報道がされた(以下、これらの報道を一括して「本件報道」という。)。相手方は、本件NHK報道当時、記者として、NHK報道局社会部に在籍し、同報道に関する取材活動をした。
(3) 抗告人らは、合衆国の国税当局の職員が、平成8年における日米同時税務調査の過程で、日本の国税庁の税務官に対し、国税庁が日本の報道機関に違法に情報を漏えいすると知りながら、無権限でしかも虚偽の内容の情報を含むA社及び抗告人らの徴税に関する情報を開示したことにより、国税庁の税務官が情報源となって本件報道がされ、その結果、抗告人らが、株価の下落、配当の減少等による損害を被ったなどと主張して、合衆国を被告として、上記連邦地方裁判所に対し、本件基本事件の訴えを提起した。
(4) 本件基本事件は開示(ディスカバリー)の手続中であるところ、上記連邦地方裁判所は、今後の事実審理(トライアル)のために必要であるとして、平成17年3月3日付けで、二国間共助取決めに基づく国際司法共助により、我が国の裁判所に対し、上記連邦地方裁判所の指定する質問事項について、相手方の証人尋問を実施することを嘱託した。
(5) 上記嘱託に基づき、平成17年7月8日、相手方の住所地を管轄する原々審において相手方に対する証人尋問が実施されたが、相手方は、上記質問事項のうち、本件NHK報道の取材源は誰かなど、その取材源の特定に関する質問事項について、職業の秘密に当たることを理由に証言を拒絶した(以下「本件証言拒絶」という。)。
(6) 原々審は、抗告人ら及び相手方を書面により審尋した上、本件証言拒絶に正当な理由があるものと認める決定をし、抗告人らは、本件証言拒絶に理由がないことの裁判を求めて原審に抗告したが、原審は、報道関係者の取材源は民訴法197条1項3号所定の職業の秘密に該当するなどとして、本件証言拒絶には正当な理由があるものと認め、抗告を棄却した。
3 民訴法は、公正な民事裁判の実現を目的として、何人も、証人として証言をすべき義務を負い(同法190条)、一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができる旨定めている(同法196条、197条)。そして、同法197条1項3号は、「職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合」には、証人は、証言を拒むことができると規定している。ここにいう「職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解される(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)。もっとも、ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合においても、そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして、保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるというべきである。
報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである。そして、当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。
そして、この比較衡量にあたっては、次のような点が考慮されなければならない。
すなわち、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由と並んで、事実報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁参照)。取材の自由の持つ上記のような意義に照らして考えれば、取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有するというべきである。そうすると、当該報道が公共の利益に関するものであって、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり、証人は、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができると解するのが相当である。
4 これを本件についてみるに、本件NHK報道は、公共の利害に関する報道であることは明らかであり、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれず、一方、本件基本事件は、株価の下落、配当の減少等による損害の賠償を求めているものであり、社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく、また、本件基本事件はその手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり、公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない。
したがって、相手方は、民訴法197条1項3号に基づき、本件の取材源に係る事項についての証言を拒むことができるというべきであり、本件証言拒絶には正当な理由がある。
以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平)
・取材機関の取材源の秘匿
上記判例を参照。
(4)証人尋問の手続
ⅰ)証人尋問の申出
ⅱ)証人の出頭
呼出証人
=裁判所から呼び出しを受けて出頭する証人
+(期日の呼出し)
第九十四条 期日の呼出しは、呼出状の送達、当該事件について出頭した者に対する期日の告知その他相当と認める方法によってする。
2 呼出状の送達及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない当事者、証人又は鑑定人に対し、法律上の制裁その他期日の不遵守による不利益を帰することができない。ただし、これらの者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、この限りでない。
・同行証人
=証人尋問を申し出た当事者が、期日に同行して出頭させることを約束した証人
ⅲ)宣誓の実施
+(宣誓)
第二百一条 証人には、特別の定めがある場合を除き、宣誓をさせなければならない。
2 十六歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することができない者を証人として尋問する場合には、宣誓をさせることができない。
3 第百九十六条の規定に該当する証人で証言拒絶の権利を行使しないものを尋問する場合には、宣誓をさせないことができる。
4 証人は、自己又は自己と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者に著しい利害関係のある事項について尋問を受けるときは、宣誓を拒むことができる。
5 第百九十八条及び第百九十九条の規定は証人が宣誓を拒む場合について、第百九十二条及び第百九十三条の規定は宣誓拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に証人が正当な理由なく宣誓を拒む場合について準用する。
ⅳ)交互尋問の実施
+(尋問の順序)
第二百二条 証人の尋問は、その尋問の申出をした当事者、他の当事者、裁判長の順序でする。
2 裁判長は、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、前項の順序を変更することができる。
3 当事者が前項の規定による変更について異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。
・隔離尋問の原則
後の証人が、前の証人による証言に暗示を受けたり、迎合した証言をしたりすることがあるので、それを防ぐため。
⇔同席尋問にも長所があるので厳格に適用すべきでない。
ⅴ)公開主義・直接主義の原則とその例外
公開法廷で受訴裁判所の面前で行うのが原則
例外
+(受命裁判官等による証人尋問)
第百九十五条 裁判所は、次に掲げる場合に限り、受命裁判官又は受託裁判官に裁判所外で証人の尋問をさせることができる。
一 証人が受訴裁判所に出頭する義務がないとき、又は正当な理由により出頭することができないとき。
二 証人が受訴裁判所に出頭するについて不相当な費用又は時間を要するとき。
三 現場において証人を尋問することが事実を発見するために必要であるとき。
四 当事者に異議がないとき。
+(裁判所外における証拠調べ)
第百八十五条 裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる。この場合においては、合議体の構成員に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができる。
2 前項に規定する嘱託により職務を行う受託裁判官は、他の地方裁判所又は簡易裁判所において証拠調べをすることを相当と認めるときは、更に証拠調べの嘱託をすることができる。
+(大規模訴訟に係る事件における受命裁判官による証人等の尋問)
第二百六十八条 裁判所は、大規模訴訟(当事者が著しく多数で、かつ、尋問すべき証人又は当事者本人が著しく多数である訴訟をいう。)に係る事件について、当事者に異議がないときは、受命裁判官に裁判所内で証人又は当事者本人の尋問をさせることができる。
+(映像等の送受信による通話の方法による尋問)
第二百四条 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。
一 証人が遠隔の地に居住するとき。
二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。
ⅵ)口頭陳述の原則
+(書類に基づく陳述の禁止)
第二百三条 証人は、書類に基づいて陳述することができない。ただし、裁判長の許可を受けたときは、この限りでない。
←書類を見て自己の経験しない事実を陳述することを防ぐため。
例外
++規則
(文書等の質問への利用)
第百十六条 当事者は、裁判長の許可を得て、文書、図面、写真、模型、装置その他の適当な物件(以下この条において「文書等」という。)を利用して証人に質問することができる。
2 前項の場合において、文書等が証拠調べをしていないものであるときは、当該質問の前に、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。
3 裁判長は、調書への添付その他必要があると認めるときは、当事者に対し、文書等の写しの提出を求めることができる。
++規則
(書面による質問又は回答の朗読・法第百五十四条)
第百二十二条 耳が聞こえない証人に書面で質問したとき、又は口がきけない証人に書面で答えさせたときは、裁判長は、裁判所書記官に質問又は回答を記載した書面を朗読させることができる。
+法(尋問に代わる書面の提出)
第二百五条 裁判所は、相当と認める場合において、当事者に異議がないときは、証人の尋問に代え、書面の提出をさせることができる。
ⅶ)陳述書
第三者又は当事者が見聞した事実に関する供述を記載した書面
主尋問の相当部分に代替するものとして、書証の形で利用されることが多い。この場合、口頭陳述の原則との抵触が問題になる。
主尋問では、争いのある主要な争点を導くために、先行的に争いのない事項や事実の経過を尋問することがあるが、こうした部分については陳述書を利用することに格別の問題はなく、むしろ効果的に利用すべき。
しかし、主尋問のすべてを陳述書で代替することは許されない。実質的に争いのある主要な争点については、供述者の態度やニュアンスをみることのできる口頭尋問によるべき。
ⅷ)証人保護の措置
(付添い)
第二百三条の二 裁判長は、証人の年齢又は心身の状態その他の事情を考慮し、証人が尋問を受ける場合に著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、その不安又は緊張を緩和するのに適当であり、かつ、裁判長若しくは当事者の尋問若しくは証人の陳述を妨げ、又はその陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を、その証人の陳述中、証人に付き添わせることができる。
2 前項の規定により証人に付き添うこととされた者は、その証人の陳述中、裁判長若しくは当事者の尋問若しくは証人の陳述を妨げ、又はその陳述の内容に不当な影響を与えるような言動をしてはならない。
3 当事者が、第一項の規定による裁判長の処置に対し、異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。
(遮へいの措置)
第二百三条の三 裁判長は、事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係(証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者であることを含む。次条第二号において同じ。)その他の事情により、証人が当事者本人又はその法定代理人の面前(同条に規定する方法による場合を含む。)において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
2 裁判長は、事案の性質、証人が犯罪により害を被った者であること、証人の年齢、心身の状態又は名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
3 前条第三項の規定は、前二項の規定による裁判長の処置について準用する。
(映像等の送受信による通話の方法による尋問)
第二百四条 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。
一 証人が遠隔の地に居住するとき。
二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。
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