7-5-1 事案の解明 証拠調べ 総説

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1.総説
(1)集中証拠調べ
+(集中証拠調べ)
第百八十二条  証人及び当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない。

(2)証拠の申出
ⅰ)証拠申出の意義
証拠の申出
=裁判所に対して特定の証拠方法を取り調べることを求める当事者の申立て

ⅱ)証拠申出の時期
+(証拠の申出)
第百八十条  証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない。
2  証拠の申出は、期日前においてもすることができる

+(準備書面等の提出期間)
第百六十二条  裁判長は、答弁書若しくは特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出又は特定の事項に関する証拠の申出をすべき期間を定めることができる

・争点及び証拠の整理のために、準備的口頭弁論、弁論準備手続または書面による準備手続が行われた場合には、手続の終了までに証拠の申出を完了しなければならない。
提出する場合、説明義務を果たさなければならない。
場合によっては時機に後れた攻撃防御方法として却下される。

ⅲ)証拠申出の方式
+(証拠の申出)
第百八十条  証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない。
2  証拠の申出は、期日前においてもすることができる。

ⅳ)証拠申出の撤回
・証拠の申出は、証拠調べが実際に行われるまでは、いつでも撤回することができる。

・証拠調べが開始された後は、証拠共通の原則が働く結果、相手方に有利な結果を生ずる可能性があるので、相手方の同意がなければ撤回はできない。

・証拠調べが完了した後は、既に証拠の申出は目的を達成しているし、裁判官の心証も形成されているので、もはや撤回は許されない。
+判例(S58.5.26)
理由
 上告代理人安田進の上告理由について
 記録によれば、所論の鑑定結果については、原審第一二回口頭弁論期日において、上告人からその結果の陳述があり、原審の心証形成のための資料に供されたこと、同第一三回口頭弁論期日において、上告人が右鑑定結果を援用しない旨陳述したことが明らかである。ところで、一たん受訴裁判所の心証形成の資料に供された証拠については、その証拠の申出を撤回することは許されず、また、裁判所は右証拠がその申出をした者にとつて有利であるか否かにかかわらず当事者双方に共通する証拠としてその価値の判断をしなければならないものであつて、原審が右鑑定結果を証拠として事実認定をしたことに所論の違法はないというべきである。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝 和田誠一)

(3)証拠の採否
+(証拠調べを要しない場合)
第百八十一条  裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しない
2  証拠調べについて不定期間の障害があるときは、裁判所は、証拠調べをしないことができる。

・証拠を取り調べる範囲、順序、時期についても、裁判所の裁量に委ねられえている。
+判例(S38.11.7)
理由
 上告代理人白井源喜の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、上告人は本件立木所有権に基づく引渡請求権の執行保全のため、「被上告人の右立木の占有を解き、執行吏の占有に移し、被上告人に対し売買、譲渡、伐採その他一切の処分を禁ずる、執行吏は右条項につき適当なる公示方法を施せ」との仮処分命令を得て執行したのであるから、右仮処分執行は本件立木所有権が上告人に属することの公示方法として十分であり、被上告人に対抗できると解すべきであるのに、これを認容しなかつた原判決は法解釈を誤り、判例に違背すると主張する。しかし、立木の物権変動の対抗要件たる明認方法たるためには、何人がその立木の現在所有者であるかを明らかならしめることを要するのであつて、所有権に基づく引渡請求権ありとして、その執行を保全するため、仮処分命令を得てこれが執行として該立木の占有を執行吏に移し且これが売買、譲渡、伐採その他一切の処分を禁ずる旨の公示をなさしめても、右公示によつては、当該立木の所有権が係争中であつて、その占有が国家機関である執行吏の手中に存することが一般世人に公示さるるのみであつて、未だ該立木の所有権が右仮処分債権者に属することの公示方法とするには足らないことは、従来の判例(昭和一二年(オ)第一、一三四号同年一〇月三〇日大審院判決民集一、五六五頁参照)とするところであり、今ここに右判例を変更する要を見ない。従つて、これと同趣旨の判断をした原判決には所論違法はなく、引用の判例は本件に適切でないから、所論は採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、原審が弁論期日に出頭しなかつた上告代理人に対し判決言渡期日を通知せず、又上告人が予備的請求について唯一の証拠であるA外一名の証人申請をしたのに、これを取調べずに結審したのは審理不尽の違法があると主張する。しかし、適法な呼出をうけて期日に欠席した当事者に対しては、期日における言渡期日の告知は効力を有し、更に呼出状の送達を要しないことは当裁判所の判例(昭和二三年(オ)第一九号同年五月一八日第三小法廷判決民集二巻五号一一五頁参照)とするところである。又申請の証拠調の範囲、時期、順序は裁判所の訴訟指揮に任せられている事項であり、立証事項が証明を必要とする事項でなければ、たとい、唯一の証拠方法であつても取調べる必要はないのである本件において、上告人の予備的請求は、所論仮処分執行が法律上明認方法として効力を有することを前提としているのであるから、これを有効と認めなかつた原審が、その余の上告人の主張事実について証拠調をするまでもなく、上告人の請求を排斥したのは当然であつて、右証拠調をしなかつたことを以つて審理不尽として攻撃することは当らない。よつて論旨は採用しない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤朔郎)

・証拠の採否の判断が裁判所の裁量に属することから、証拠の申出を却下する場合にも、却下の理由は示さなくてもよい!!!

・文書提出命令の申立てを却下する場合も、文書提出義務がないことを理由とするのではなく、証拠調べの必要性を欠くことを理由とする場合は、証拠採否に関する受訴裁判所の裁量の問題なので、その必要性があることを理由として不服申し立てをすることはできない!!!
+判例(H12.3.10)
理由
 抗告代理人井上俊治、同松葉知幸、同小野範夫、同水間頼孝の抗告理由第一について
 【要旨一】証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできないと解するのが相当である。論旨は採用することができない。

 同第二について
 一 記録によれば、主文第一項の文書に係る本件の経緯は次のとおりである。
 1 本件の本案の請求は、大阪地方裁判所平成四年(ワ)第八一七八号事件判決別紙電話機目録記載の電話機器類(以下「本件機器」という。)を購入し利用している抗告人らが、本件機器にしばしば通話不能になる瑕疵があるなどと主張して、相手方に対し、不法行為等に基づく損害賠償を請求するものである。
 2 本件は、抗告人らが、本件機器の瑕疵を立証するためであるとして、本件機器の回路図及び信号流れ図(以下「本件文書」という。)につき文書提出命令の申立てをした事件であり、相手方は、本件文書は民訴法二二〇条四号ロ所定の「第百九十七条第一項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」及び同号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとして、本件文書につき文書提出の義務を負わないと主張した。
 二 原審は、本件文書は、本件機器を製造したメーカーが持つノウハウなどの技術上の情報が記載されたものであって、これが明らかにされると右メーカーが著しく不利益を受けることが予想されるから、民訴法二二〇条四号ロ所定の文書に当たり、また、本件文書は、本件機器のメーカーがこれを製造するために作成し、外部の者に見せることは全く予定せず専ら当該メーカー、相手方及びその関連会社の利用に供するための文書であるから、同号ハ所定の文書にも当たり、相手方は本件文書を提出すべき義務を負わないとして、本件文書提出命令の申立てを却下した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 【要旨二】民訴法一九七条一項三号所定の「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解するのが相当である
 本件において、相手方は、本件文書が公表されると本件機器のメーカーが著しい不利益を受けると主張するが、本件文書に本件機器のメーカーが有する技術上の情報が記載されているとしても、相手方は、情報の種類、性質及び開示することによる不利益の具体的内容を主張しておらず、原決定も、これらを具体的に認定していない。したがって、本件文書に右技術上の情報が記載されていることから直ちにこれが「技術又は職業の秘密」を記載した文書に当たるということはできない
 2 ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法二二〇条四号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるということは、当審の判例とするところである(平成一一年(許)第二号同年一一月一二日第二小法廷決定・民集五三巻八号登載予定)。
 これを本件についてみると、原決定は、本件文書が外部の者に見せることを全く予定せずに作成されたものであることから直ちにこれが民訴法二二〇条四号ハ所定の文書に当たると判断しており、その具体的内容に照らし、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生じるおそれがあるかどうかについて具体的に判断していない
 四 以上によれば、本件文書に関する原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は裁判の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原決定中、本件文書に係る部分は破棄を免れない。そして、右に説示したところに従い更に審理を尽くさせるため、右部分について本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

ⅱ)唯一証拠の原則
当事者が申し出た証拠が、争点ごとに審級全体を通じて唯一である場合には、その申出を却下することは原則として違法である。

例外
証拠申出が時機に後れたものである場合
証拠方法が争点の判断に適切ではない場合
申請者の怠慢のために適切に証拠調べができない場合
証拠調べに不定期間の障害がある場合

ⅲ)証拠決定
当事者の証拠申出に対して、裁判所による証拠調べをするかどうかについての判断は、決定で行う。

・裁判所が証拠の採否を判断する場合、常に使用子決定すべきか。
必ずしも証拠決定をする必要はないという考え方。
黙示の証拠決定がなされたと考えることも。

・証拠決定は、相当と認める方法で告知すれば足りる(119条)
+(決定及び命令の告知)
第百十九条  決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。

(4)証拠調べの実施
ⅰ)方式に応じた証拠調べ
自由な証明が許される場合はこの限りではない。

ⅱ)直接主義・公開主義
証拠調べは、直接主義・公開主義の要請から、受訴裁判所が裁判所の法廷で行うのが原則である。

・法定外での証拠調べ
+(裁判所外における証拠調べ)
第百八十五条  裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる。この場合においては、合議体の構成員に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができる
2  前項に規定する嘱託により職務を行う受託裁判官は、他の地方裁判所又は簡易裁判所において証拠調べをすることを相当と認めるときは、更に証拠調べの嘱託をすることができる。

書証については、文書の記載内容を裁判官が閲読して行うという性格上、公開主義の要請は必ずしも働かないので、一般公開がなされない弁論準備手続でも行うことができる(170条2項)
+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

ⅲ)証拠調べにおける当事者の手続権
当事者の反論の機会やその他の当事者権を確保するために、裁判所は証拠調べに立ち会う機会を保障する必要がある。

・裁判所は、証拠調べが実施される期日と場所を当事者に告知して、呼び出さなければならない(240条・94条)!
+(期日の呼出し)
第二百四十条  証拠調べの期日には、申立人及び相手方を呼び出さなければならない。ただし、急速を要する場合は、この限りでない。

+(期日の呼出し)
第九十四条  期日の呼出しは、呼出状の送達、当該事件について出頭した者に対する期日の告知その他相当と認める方法によってする。
2  呼出状の送達及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない当事者、証人又は鑑定人に対し、法律上の制裁その他期日の不遵守による不利益を帰することができない。ただし、これらの者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、この限りでない。

・ただし、呼び出しを受けた当事者の一方または双方が期日に欠席した場合であっても、裁判所は証拠調べを実施することができる(183条)
←当事者の手続保障のためには証拠調べに立ち会う機会を与えれば足り、また出頭した証人等の迷惑を避ける必要もあるから。
+(当事者の不出頭の場合の取扱い)
第百八十三条  証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる。

・証拠調べが実施されたときは、当事者に証拠弁論の機会を与えることが必要。
証拠弁論とは、証拠調べの結果について、受訴裁判所の面前で意見を述べること。


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