2-4 訴訟手続きの開始 訴訟開始の効果

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

1.訴え提起の効果
(1)訴訟係属の発生
訴訟係属とは
特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態のこと。
被告が訴えの提起について了知する機会を与えられないまま、訴訟係属が発生するというのは不適切であるから、訴訟係属は被告への訴状の送達によって生じる。

(2)時効中断の効果
・訴えの提起による時効の中断の効果は訴状が提出された時点で、訴訟係属の発生を待たずに生じる(民法147条)

・訴えの提起によって時効の中断が発生する理由
①訴状の提出によって権利行使の態度が明確になるから(権利行使説)
②時効中断効は本来的には判決の確定効によって生じるところ、たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に時効が完成するのは相当でないことから、訴え提起時に時効中断効を発生させたものであるとする説明(権利確定説)

・時効中断の効果は訴訟物である権利について生じる

・判例は、債務不存在確認訴訟において、被告が債権の存在を主張し、請求棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張したときに訴訟物たる債権の消滅時効は中断する。

~~訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効力を認める余地があるかについて~~
・所有権に基づく土地明渡請求訴訟の提起は、所有権の取得時効を中断する効果を持つ。
+判例(S16.3.7)

・根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は、討議債権の消滅時効を中断する効力を持つ
+判例(S44.11.27)
理由
 上告代理人真田幸雄の上告理由第一点について。
 訴外合名会社田辺商店が上告人および訴外Aを共同の取引相手として文房具類の卸販売をして、昭和三二年四月二六日当時五四万六〇九二円の売掛代金債権を有し、右訴外会社と上告人との間において、右債権および以後の取引から生ずることあるべき売掛代金債権を担保するため、本件不動産につき根抵当権を設定することを合意してその登記を経た旨の原判決の事実認定は、その挙示する証拠に照らして正当として是認することができないものではない。所論のような原審における被上告人の主張の変更が自白の取消にあたるものと解することはできないし、また、論旨引用の各証拠および被上告人の弁論の趣旨に照らしても、右事実認定の過程に所論の違法を認めるに足りない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実認定を非難するものであつて、採用することができない。
 同第二点について。
 所論の債権譲渡による代物弁済の事実が認められないとした原判決の認定は、証拠関係に照らして正当として是認することができ、この点の認定判示に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用することができない。
 同第三点について。
 上告人およびAが、原判決判示のころ本件売掛代金債権につき債務の承認をした旨の原判決の事実認定、判断は、その挙示する証拠に照らし、是認することができないものではない。しかして、その後二年以内に、上告人は、債務負担の事実がないことを主張して、本件根抵当権設定登記および同移転登記の各抹消登記手続を求める本訴を提起し、これに対し被上告人は第一審第一回口頭弁論期日における答弁書の陳述をもつて、請求棄却の判決を求めるとともに、確定債権五〇万円の取得およびこれに基づく右各登記の有効なことを主張したのであつて、これによつて被上告人の本件売掛代金債権についての権利行使がされたものと認められないことはない。このような場合においては、被上告人の前示答弁書に基づく主張は、裁判上の請求に準じるものとして、本件売掛代金債権につき消滅時効中断の効力を生じるものと解するのが相当である。したがつて、右債権について消滅時効が中断されているものとした原審の判断は正当であつて、これに所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

・訴訟物たる請求権と請求競合の関係にある請求権について、前者の請求権に係る訴訟の継続中、民法153条の催告の効果が継続する。
+判例(H10.12.17)
理由
 上告代理人長谷川靖晃、同森山博の上告理由第一、第二について
 一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
  1 被上告人らと上告人鳥谷部喜代治は、いずれも昭和五〇年八月二日に死亡した鳥谷部運太郎の相続人である。
 上告人喜代治は、昭和四八年一〇月一日から昭和五〇年七月一六日までの間に、運太郎が株式会社弘前相互銀行青森支店の同人名義の貸金庫内に保管していた同人所有の銀行預金証書、株券等の全部をひそかに持ち出した上、順次預金の払戻しを受け、あるいは株券を売却して、払戻金や株券売却代金を着服した。
  2 運太郎及び被上告人鳥谷部清春は、昭和五〇年七月一六日、上告人喜代治が右貸金庫内の運太郎所有の預金証書、株券等の全部を持ち出していることを知り、同上告人に対し、持ち出した預金証書等を返還するよう求めたが、これを拒まれた。
 同上告人は、運太郎死亡後にされた遺産分割協議の席上でも、持ち出した財産の内容や処分の全容等を秘匿して明かさなかった。
  3 被上告人らは、昭和五八年六月六日、上告人喜代治を被告として本件訴訟を提起し、同上告人が着服した預金払戻金及び株券(弘前相互銀行の株券を除く。)の売却代金相当額につき、被上告人らの相続分に応じた損害賠償を請求するとともに、弘前相互銀行の株券につき、同上告人がいまだ売却せずに所持しているものと考えて、共有物の保管者である被上告人清春への引渡し等を請求した。
  4 被上告人らは、昭和六三年四月一四日の第一審口頭弁論期日において、前記弘前相互銀行の株券は既に上告人喜代治により売却されていることが判明したとして、引渡し等の請求を右株券の売却時における価額相当額についての被上告人らの相続分に応じた損害賠償請求に変更した。
  5 また、被上告人らは、同年一一月三〇日の第一審口頭弁論期日において、上告人喜代治による預金払戻金及び前記各株券売却代金の着服を理由とする不当利得返還請求を追加した上、平成元年二月一五日の第一審口頭弁論期日において、従前の損害賠償請求の訴えを取り下げた。
  6 その後の第一審口頭弁論期日において、上告人喜代治は、抗弁として、被上告人らが追加した不当利得返還請求については、被上告人らが貸金庫内からの預金証書等の持出事実を知った日である前記昭和五〇年七月一六日から一〇年の時効期間の経過により、右請求を追加する以前に消滅時効が完成している旨主張し、時効を援用した。

 二1 右事実関係の下においては、被上告人らが追加した不当利得返還請求は、上告人喜代治が預金払戻金及び株券売却代金を不当に着服したと主張する点において、昭和五八年六月六日に提起した本件訴訟の訴訟物である不法行為に基づく損害賠償請求とその基本的な請求原因事実を同じくする請求であり、また、同上告人が不法に着服した預金払戻金及び株券売却代金につき被上告人らの相続分に相当する金額の返還を請求する点において、前記損害賠償請求と経済的に同一の給付を目的とする関係にあるということができるから、前記損害賠償を求める訴えの提起により、本件訴訟の係属中は、右同額の着服金員相当額についての不当利得返還を求める権利行使の意思が継続的に表示されているものというべきであり、右不当利得返還請求権につき催告が継続していたものと解するのが相当である。そして、被上告人らが第一審口頭弁論期日において、右不当利得返還請求を追加したことにより、右請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものというべきである。
 また、前判示のとおり、上告人喜代治が持ち出した前記弘前相互銀行の株券を既に売却していたことを秘匿していたため、被上告人らは、当初、同上告人が右株券を所持しているものとして右株券の引渡し等を求める訴えを提起したものであって、その時点で右株券が売却されていることを知っていれば、訴え提起時に他の株券と同様、相続分に応じた売却代金相当額の損害賠償請求権を行使する意思を有していたことは明らかというべきである。したがって、被上告人らのした右株券の引渡し等の請求には、被上告人らの当該株券売却代金相当額の損害賠償又は不当利得の返還を求める権利行為の意思が表れていたとみることができるから、本件訴訟の係属中、右不当利得返還請求についても催告が継続していたものと解するのが相当であり、その後の口頭弁論期日において被上告人らが不当利得返還請求を追加したことにより、右請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものと解すべきである。
  2 原審は、被上告人清春が本訴を提起したのが昭和五八年六月六日であり、不当利得返還請求権の消滅時効は本訴の提起により、中断したというべきであるとして、上告人喜代治の消滅時効の抗弁を排斥したものであるが、右に判示したところによれば、原審の右判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないで若しくは原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官井嶋一友 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

・時効中断の効果は、訴えの却下又は訴えの取り下げがあった場合には失われる(民法149条)
理由
権利確定説からは判決により権利が確定する余地がなくなったため。
権利行使説からは、訴えの取り下げの場合には、権利行使が行われなかったとみなされる。訴え却下の場合には、不適法な訴え提起では権利行使として認められないから。
・債権者の破産手続き申し立て
+判例(S45.9.10)
理由 
 上告人らの上告理由について。 
 原審の適法に確定したところによると、本訴請求にかかる貸金債権については、その消滅時効期間の経過前に、被上告人の先代Aが、外六名と共同で上告人両名を被申立人として破産の申立をし、その審理手続上、破産原因の存在を明らかにするため、右債権の元利金の明細を記載した計算書およびその立証方法たる約束手形等を提出して、上告人らに対し権利行使の意思を表示したが、右吉助の相続人たる被上告人およびその余の選定者において、本訴を提起したのち、右破産の申立を取り下げたというのであり、右認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯することができる。 
 右のような事実関係のもとにおいては、被上告人の先代が破産手続上においてした右権利行使の意思の表示は、破産の申立が申立の適法要件として申述された債権につき消滅時効の中断事由となるのと同様に、一種の裁判上の請求として、当該権利の消滅時効の進行を中断する効力を有するものというべきであり、かつ、破産の申立がのちに取り下げられた場合でも、破産手続上権利行使の意思が表示されていたことにより継続してなされていたものと見るべき催告としての効力は消滅せず、取下後六ケ月内に他の強力な中断事由に訴えることにより、消滅時効を確定的に中断することができるものと解するのを相当とする。それゆえ、破産申立の取下前にされた本訴の提起をもつて、時効完成前にされたものと認めた原審の判断は結局正当であり、論旨は、これと異なる独自の見解に立つて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。 
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎) 
(3)出訴期間遵守の効果
期間遵守の効力は、訴状定期時に発生し、訴えの取下げまたは訴えの却下によって遡って失われる。
(4)その他実体法上の効果
+民法
(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条  善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2  善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす
(悪意の占有者による果実の返還等)
第百九十条  悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う
2  前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
法文上は、訴え定期時に悪意が擬制されると表現されているが、占有者が本権の訴えが提起されたことについて知る機会を与えられていない段階で悪意が擬制されるのは相当ではなく、悪意が擬制されるのは本件の訴えの訴状が送達された時点と解すべきである。
2.訴訟係属の効果
二重起訴の禁止の効果を生ずる。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

刑事訴訟法 事例演習刑事訴訟法 15 訴因変更の要否


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
1訴因変更の要否
・審判対象は訴因(訴因対象説)
・訴因は罪となるべき事実の記載(事実記載説)

+判例(H13.4.11)
理由
弁護人石田恒久、同石岡隆司の上告趣意のうち、憲法38条違反をいう点は、被告人の自白調書の任意性を肯定した原判断は相当であるから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ、職権で判断する。
本件のうち殺人事件についてみると、その公訴事実は、当初、「被告人は、Aと共謀の上、昭和63年7月24日ころ、青森市大字合子沢所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において、Bに対し、殺意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ、そのころ窒息死させて殺害した」というものであったが、被告人がAとの共謀の存在と実行行為への関与を否定して、無罪を主張したことから、その点に関する証拠調べが実施されたところ、検察官が第1審係属中に訴因変更を請求したことにより、「被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森市安方2丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Bの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した」旨の事実に変更された。この事実につき、第1審裁判所は、審理の結果、「被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、A又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した」旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。
まず、以上のような判示が殺人罪に関する罪となるべき事実の判示として十分であるかについて検討する。【要旨1】上記判示は、殺害の日時・場所・方法が概括的なものであるほか、実行行為者が「A又は被告人あるいはその両名」という択一的なものであるにとどまるが、その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるというのであるから、この程度の判示であっても、殺人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべきであって、罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないものと解される。
次に、実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、【要旨2】実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。
そこで、本件について検討すると、記録によれば、次のことが認められる。第1審公判においては、当初から、被告人とAとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事前に成立していたか、両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争点となり、多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間、被告人は、Aとの共謀も実行行為への関与も否定したが、Aは、被告人との共謀を認めて被告人が実行行為を担当した旨証言し、被告人とAの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は、Aの証言及び被告人の自白調書の信用性等を争い、特に、Aの証言については、自己の責任を被告人に転嫁しようとするものであるなどと主張した。審理の結果、第1審裁判所は、被告人とAとの間で事前に共謀が成立していたと認め、その点では被告人の主張を排斥したものの、実行行為者については、被告人の主張を一部容れ、検察官の主張した被告人のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし、その結果、実行行為者がAのみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。【要旨3】以上によれば、第1審判決の認定は、被告人に不意打ちを与えるものとはいえず、かつ、訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから、実行行為者につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって、更に訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない
したがって、罪となるべき事実の判示に理由不備の違法はなく、訴因変更を経ることなく実行行為者につき択一的認定をしたことに訴訟手続の法令違反はないとした原判決の判断は、いずれも正当である。
また、本件のうち死体遺棄事件及びC方放火事件において、実行行為者の認定が択一的であることなどについても、殺人事件の場合と同様に考えられる。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、平成7年法律第91号による改正前の刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

2.第2段階の判断枠組みの有する意味

・一般的に被告人の防御にとって重要な事項であって、訴因に明示されたときは、「同等の手続」である訴因の変更手続によって不意打ちを防止すべきとする厳格な態度をとっている・・・

・第2段階の判断の枠組みについて
+判例(H24.2.29)
理 由
 弁護人梅田尚彦の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,職権で判断する。
 1 本件公訴事実は,要旨,「被告人は,借金苦等からガス自殺をしようとして,平成20年12月27日午後6時10分頃から同日午後7時30分頃までの間,長崎市内に所在するAらが現に住居に使用する木造スレート葺2階建ての当時の被告人方(総床面積約88.2㎡)1階台所において,戸を閉めて同台所を密閉させた上,同台所に設置されたガス元栓とグリル付ガステーブル(以下「本件ガスコンロ」という。)を接続しているガスホースを取り外し,同元栓を開栓して可燃性混合気体であるP13A都市ガスを流出させて同台所に同ガスを充満させたが,同ガスに一酸化炭素が含まれておらず自殺できなかったため,同台所に充満した同ガスに引火,爆発させて爆死しようと企て,同日午後7時30分頃,同ガスに引火させれば爆発し,同被告人方が焼損するとともにその周辺の居宅に延焼し得ることを認識しながら,本件ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し,同ガスに引火,爆発させて火を放ち,よって,上記Aらが現に住居に使用する同被告人方を全焼させて焼損させるとともに,Bらが現に住居として使用する木造スレート葺2階建て居宅(総床面積約84.93㎡)の軒桁等約8.6㎡等を焼損させたものである」というものである。第1審判決は,被告人が上記ガスに引火,爆発させた方法について,訴因の範囲内で,被告人が点火スイッチを頭部で押し込み,作動させて点火したと認定した。しかし,原判決は,このような被告人の行為を認定することはできないとして第1審判決を破棄し,訴因変更手続を経ずに,上記ガスに引火,爆発させた方法を特定することなく,被告人が「何らかの方法により」上記ガスに引火,爆発させたと認定した。

 2 所論は,原判決が訴因変更手続を経ずに上記ガスに引火,爆発させた方法について訴因と異なる認定をしたことは違法であると主張する。
 そこで検討するに,被告人が上記ガスに引火,爆発させた方法は,本件現住建造物等放火罪の実行行為の内容をなすものであって,一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるから,判決において訴因と実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するが,例外的に,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えず,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為を認定することも違法ではないと解される(最高裁平成11年(あ)第423号同13年4月11日第三小法廷決定・刑集55巻3号127頁参照)。
 原審において訴因変更手続が行われていないことは前記のとおりであるから,本件が上記の例外的に訴因と異なる実行行為を認定し得る場合であるか否かについて検討する。第1審及び原審において,検察官は,上記ガスに引火,爆発した原因が本件ガスコンロの点火スイッチの作動による点火にあるとした上で,被告人が同スイッチを作動させて点火し,上記ガスに引火,爆発させたと主張し,これに対して被告人は,故意に同スイッチを作動させて点火したことはなく,また,上記ガスに引火,爆発した原因は,上記台所に置かれていた冷蔵庫の部品から出る火花その他の火源にある可能性があると主張していた。そして,検察官は,上記ガスに引火,爆発した原因が同スイッチを作動させた行為以外の行為であるとした場合の被告人の刑事責任に関する予備的な主張は行っておらず,裁判所も,そのような行為の具体的可能性やその場合の被告人の刑事責任の有無,内容に関し,求釈明や証拠調べにおける発問等はしていなかったものである。このような審理の経過に照らせば,原判決が,同スイッチを作動させた行為以外の行為により引火,爆発させた具体的可能性等について何ら審理することなく「何らかの方法により」引火,爆発させたと認定したことは,引火,爆発させた行為についての本件審理における攻防の範囲を越えて無限定な認定をした点において被告人に不意打ちを与えるものといわざるを得ない。そうすると,原判決が訴因変更手続を経ずに上記認定をしたことには違法があるものといわざるを得ない。
 3 しかしながら訴因と原判決の認定事実を比較すると,犯行の日時,場所,目的物,生じた焼損の結果において同一である上,放火の実行行為についても,上記台所に充満したガスに引火,爆発させて火を放ったという点では同一であって,同ガスに引火,爆発させた方法が異なるにすぎない。そして,引火,爆発時に被告人が1人で台所にいたことは明らかであることからすれば,引火,爆発させた方法が,本件ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火する方法である場合とそれをも含め具体的に想定し得る「何らかの方法」である場合とで,被告人の防御は相当程度共通し,上記訴因の下で現実に行われた防御と著しく異なってくることはないものと認められるから,原判決の認定が被告人に与えた防御上の不利益の程度は大きいとまではいえない。のみならず,原判決は被告人が意図的な行為により引火,爆発させたと認定している一方,本件ガスコンロの点火スイッチの作動以外の着火原因の存在を特にうかがわせるような証拠は見当たらないことからすれば,訴因の範囲内で実行行為を認定することも可能であったと認められるから,原審において更に審理を尽くさせる必要性が高いともいえない。また,原判決の刑の量定も是認することができる。そうすると,上記の違法をもって,いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官千葉勝美の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

・過失犯について
訴因
①注意義務を課する根拠となる具体的事実
②注意義務の内容
③注意義務に違反する具体的行動

①について
訴因としての拘束力は認められない。
+判例(S63.10.24)
理由
一 弁護人戸田隆俊の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
二 所論にかんがみ職権で調査するに、記録により明らかな本件訴訟の経過は、次のとおりである。
起訴状記載の公訴事実の要旨は、被告人が、普通乗用自動車を業務として運転し、時速約三〇ないし三五キロメートルで進行中、前方道路は付近の石灰工場の粉塵等が路面に凝固していたところへ、当時降雨のためこれが溶解して車輪が滑走しやすい状況にあつたから、対向車を認めた際不用意な制動措置をとることのないよう、あらかじめ減速して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、前記速度で進行した過失により、対向車を認め急制動して自車を道路右側部分に滑走進入させ、折かち対向してきた普通乗用自動車に自車を衝突させ、右自動車の運転者に傷害を負わせたというものであつたが、検察官は、第一審の途中(第六回公判)で、右公訴事実中、「前方道路は付近の石灰工場の粉塵等が路面に凝固していたところへ、当時降雨のためこれが溶解して車輪が滑走しやすい状況にあつたから」という部分を、「当時降雨中であつて、アスフアルト舗装の道路が湿潤し、滑走しやすい状況であつたから」と変更する旨の訴因変更請求をし、右請求が許可された。
第一審裁判所は、右変更後の訴因につき、本件事故現場付近の道路が格別滑走しやすい状況にあつたことを被告人が認識し、あるいは認識し得たと認めるには疑問が存するので、被告人には前記速度以下に減速すべき注意義務があつたとは認められない旨の判断を示し、被告人に対して無罪を言い渡した。
検察官は、右判決に対して控訴を申し立て、原審において、当初の訴因と同内容のものを予備的に追加する旨の訴因追加請求をしたところ、原審裁判所は、右請求を許可し、事故現場の状況とそれに対する被告人の認識等についての証拠調を行つた。
原判決は、第一審及び原審で取り調べられた証拠によれば、本件事故現場付近の道路は、石灰が路面に付着凝固していたところへ折からの降雨で湿潤して滑走しやすくなつており、被告人がそのような状況を認識していたものと認められるから、被告人が右状況を認識していたとは認められない旨判断した第一審判決には事実誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとして、右判決を破棄した。そのうえで、原判決は、原審において予備的に追加された訴因に基づき、被告人が、普通乗用自動車を業務として運転し、時速約三〇ないし三五キロメートルで進行中、対向進行してきた普通乗用自動車を進路前方に認めたが、当時被告人の走行していた道路左側部分は、付近の石灰工場から排出された石灰の粉塵が路面に堆積凝固していたところへ折からの降雨で路面が湿潤し、車輪が滑走しやすい状況にあつたのであるから、対向車と離合するため減速するにあたり、不用意な制動措置をとることのないようあらかじめ適宜速度を調節して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然右同速度で進行し、前記対向車に約三四メートルに接近して強めの制動をした過失により、自車を道路右側部分に滑走進入させて同対向車に自車前部を衝突させ、同対向車の運転者に傷害を負わせたとの事実を認定し、被告人を罰金八万円に処した。
三 とごろで、過失犯に関し、一定の注意義務を課す根拠となる具体的事実については、たとえそれが公訴事実中に記載されたとしても、訴因としての拘束力が認められるものではないから、右事実が公訴事実中に一旦は記載されながらその後訴因変更の手続を経て撤回されたとしても、被告人の防禦権を不当に侵害するものでない限り、右事実を認定することに違法はないものと解される
本件において、降雨によつて路面が湿潤したという事実と、石灰の粉塵が路面に堆積凝固したところに折からの降雨で路面が湿潤したという事実は、いずれも路面の滑りやすい原因と程度に関するものであつて、被告人に速度調節という注意義務を課す根拠となる具体的事実と考えられる。それらのうち、石灰の粉塵の路面への堆積凝固という事実は、前記のように、公訴事実中に一旦は記載され、その後訴因変更の手続を経て撤回されたものではあるが、そのことによつて右事実の認定が許されなくなるわけではない。また、本件においては、前記のとおり、右事実を含む予備的訴因が原審において追加され、右事実の存否とそれに対する被告人の認識の有無等についての証拠調がされており、被告人の防禦権が侵害されたとは認められない。したがつて、原判決が、降雨による路面の湿潤という事実のみでなく、石灰の粉塵の路面への堆積凝固という事実をも併せ考慮したうえ、事実誤認を理由に第一審判決を破棄し有罪判決をしたことに違法はない。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

③について
=過失の態様に関するもの
訴因の変更を要する
+判例(S46.6.22)
理由
弁護人金子作造の上告趣意第一点は、憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であり、同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張、同第三点は、量刑不当の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、記録によれば、本件起訴状記載の公訴事実第一は、「被告人は、自動車の運転業務に従事しているものであるが、昭和四十二年十月二日午後三時三十五分頃普通乗用自動車を運転し、江見町方面から天津方面に向つて進行し、千葉県安房郡a町bc番地先路上に差掛つた際、前方交差点の停止信号で自車前方を同方向に向つて一時停止中のA(当三十四年)運転の普通乗用自動車の後方約〇・七五米の地点に一時停止中前車の先行車の発進するのを見て自車も発進しようとしたものであるが、かゝる場合自動車運転者としては前車の動静に十分注意し、かつ発進に当つてはハンドル、ブレーキ等を確実に操作し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、前車の前の車両が発進したのを見て自車を発進させるべくアクセルとクラツチべダルを踏んだ際当時雨天で濡れた靴をよく拭かずに履いていたため足を滑らせてクラツチべダルから左足を踏みはずした過失により自車を暴進させ未だ停止中の前車後部に自車を追突させ、因つて前記Aに全治約二週間を要する鞭打ち症、同車に同乗していたB(当四十四年)に全治約三週間を要する鞭打ち症の各傷害を負わせた。」旨の事実であつたところ、第一審は、訴因変更の手続を経ないで、罪となるべき事実の第一として「被告人は、自動車の運転業務に従事している者であるが、昭和四二年一〇月二日午後三時三五分頃普通乗用自動車を運転し、江見町方面から天津方面に向つて進行し、安房郡a町bc番地先路上に差しかかつた際、自車の前に数台の自動車が一列になつて一時停止して前方交差点の信号が進行になるのを待つていたのであるが、この様な場合はハンドル、ブレーキ等を確実に操作し事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、ブレーキをかけるのを遅れた過失により自車をその直前に一時停止中のA(当三四年)運転の普通乗用自動車に追突させ、よつて、右Aに対し全治二週間を要する鞭打ち症の、同車の助手席に同乗していたB(当四四年)に対し全治約三週間を要する鞭打ち症の各傷害を負わせた。」旨の事実を認定判示した。
そして、原審弁護人が、本件においては起訴事実と認定事実との間で被告人の過失の態様に関する記載が全く相異なるから訴因変更の手続を必要とする旨の主張をしたのに対し、原判決は、その差は同一の社会的事実につき同一の業務上注意義務のある場合における被告人の過失の具体的行為の差異に過ぎず、本件においてはこのような事実関係の変更により被告人の防禦に何ら実質的不利益を生じたものとは認められないから、第一審が訴因変更の手続を経ないで訴因と異なる事実を認定したことは何ら不法ではない旨の判断を示して、原審弁護人の前記主張をしりぞけ、第一審判決を維持しているのである。
しかしながら、前述のように、本件起訴状に訴因として明示された被告人の過失は、濡れた靴をよく拭かずに履いていたため、一時停止の状態から発進するにあたりアクセルとクラツチペダルを踏んだ際足を滑らせてクラツチぺダルから左足を踏みはずした過失であるとされているのに対し、第一審判決に判示された被告人の過失は、交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際ブレーキをかけるのを遅れた過失であるとされているのであつて、両者は明らかに過失の態様を異にしており、このように、起訴状に訴因として明示された態様の過失を認めず、それとは別の態様の過失を認定するには、被告人に防禦の機会を与えるため訴因の変更手続を要するものといわなければならない
してみれば、第一審がこの手続をとらないで判決したことは達法であり、これを是認した原判決には法令の解釈を誤つた違法がある。そして、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、これを破棄しなければいちじるしく正義に反するものといわなければならない。
よつて、刑訴法四一一条一号により原判決および第一審判決を破棄し、同法四一三条本文により本件を千葉地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
検察官臼井滋夫 公判出席
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷 裁判官田中二郎は、外国出張のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松本正雄)

・過失犯はいわゆる開かれた構成要件要素であって、過失の態様(注意義務違反)は、過失犯の構成要件要素であり、罪となるべき事実を記載するためには過失の態様を記載することが不可欠。

・同一の法条であっても、過失の態様が異なれば構成要件的に別個の法規範違反がある。

3.縮小認定と訴因変更の要否

・縮小認定の場合に訴因変更手続きを要しない理由
①裁判所の認定事実が訴因事実に含まれているときは、検察官により黙示的・予備的に主張されているとみられ
②定型的に、被告人の防御に不利益を与えることがないから

・縮小認定の位置づけ
例外というよりも枠外。第1段階判断以前の問題。訴因の記載通りの認定の一態様

①行為の共通性②防御の包摂③法定刑が軽い④防御が尽くされている
+判例(S55.3.4)
理由
弁護人満園武尚の上告趣意は、憲法三一条、三五条違反をいうが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、道路交通法一一七条の二第一号の酒酔い運転も同法一一九条一項七号の二の酒気帯び運転も基本的には同法六五条一項違反の行為である点で共通し、前者に対する被告人の防禦は通常の場合後者のそれを包含し、もとよりその法定刑も後者は前者より軽く、しかも本件においては運転開始前の飲酒量、飲酒の状況等ひいて運転当時の身体内のアルコール保有量の点につき被告人の防禦は尽されていることが記録上明らかであるから、前者の訴因に対し原判決が訴因変更の手続を経ずに後者の罪を認定したからといつて、これにより被告人の実質的防禦権を不当に制限したものとは認められず、原判決には所論のような違法はない
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 江里口清雄 裁判官 環昌一 裁判官 伊藤正己)

4.設問の解決

・共同正犯事実と幇助事実とは、包摂・被包摂の関係にあるので、食い違いがあるとはいえず、縮小認定が許される。
+判例(S29.1.21)
理由
弁護人宮田勝吉の上告趣意について。
昭和二六年四月一二日宣告の原判決が、「法が訴因及びその変更手続の規定を定めた趣旨は、審理の対象、範囲を明確にして被告人の利益を保護する目的にあるのであるから、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがないときは、公訴事実の同一性を害しない限り、訴因の変更手続をしなくても訴因と異る事実を認定してもさしつかえがないものと解するのを相当とする」として、訴因変更の手続をとらずに窃盗の共同正犯を同幇助と認定した第一審判決を維持したこと、並びに、同二四年五月二日宣告の名古屋高等裁判所の判決(高等裁判所刑事判決特報第一号六頁以下参照)が、「仮令公訴事実の同一性を害さぬ場合でも法定の手続による追加、撤回、変更がなされぬ限り、起訴状に訴因を以て明示されていない事実は、それが被告人に実質的に不利益を与えると否とを問わず審判の対象とすることを禁止し当事者に対して不測の事実認定を受けないことを保障し当事者をして安んじて起訴状の又はその後の法定の手続によつて審判の対象とされている当該訴因に攻撃防禦を集中せしめる趣旨であつて、訴因の異別は劃一的に且厳格に判定すべきものと思われる」として、訴因変更の手続をとらずに共謀による窃盗行為自体をその幇助行為と認定した第一審判決を刑訴三七八条三号に該当する不法のものとしたことは所論のとおりである。従つて、原判決は、右名古屋高等裁判所の判例と相反する判断をしたものといわなけばならない。そして、刑訴二五六条は、公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならないことを命じている。しかし、同三一二条によれば、起訴状に記載された訴因の変更は、公訴事実の同一性を害しない限度において許されるものであり、また、裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因の変更を命ずることができるものであり(従つて、適当と認めないときは、変更を命じなくてもよい。)、さらに、裁判所は、訴因の変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない(従つて、実質的な不利益を生ずる虞があると認めないとき、又は、認めても被告人等が請求しないときは、停止決定をする必要もない。)ものとされている。されば、法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、原判決説示のごとく、審理の対象、範囲を明確にして、被告人の防禦に不利益を与えないためであると認められるから、裁判所は、審理の経過に鑑み被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続をしないで、訴因と異る事実を認定しても差支えないものと解するのを相当とする。本件において被告人は、第一審公判廷で、窃盗共同正犯の訴因に対し、これを否認し、第一審判決認定の窃盗幇助の事実を以て弁解しており、本件公訴事実の範囲内に属するものと認められる窃盗幇助の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れはないのである。それ故、当裁判所は、刑訴四一〇条二項に従い、前記名古屋高等裁判所の判例を変更して原判決を維持するを相当とする。されば、論旨は、結局その理由がない。
被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同四〇八条、刑法二一条、刑訴一八一条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

PT
訴因変更要否の問題は、訴因が特定されていることを前提にして、裁判官の心証が訴因と齟齬する場合に訴因変更手続を経る必要があるかの問題。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

コメントを残す

刑事訴訟法 事例演習刑事訴訟法 1 任意捜査と強制捜査


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});
1.任意処分と強制処分の区別の基準

強制の手段
=個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する。

+判例(S51.3.16)
理由
弁護人大野悦男の上告趣意のうち、憲法三三条違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張に過ぎず、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、所論にかんがみ職権により判断すると、原判決が公務執行妨害罪の成立を認めたのは、次の理由により、これを正当として支持することができる。
一 原判決が認定した公務執行妨害の事実は、公訴事実と同一であつて、「被告人は、昭和四八年八月三一日午前六時ころ、岐阜市美江寺町二丁目一五番地岐阜中警察署通信指令室において、岐阜県警察本部広域機動警察隊中濃方面隊勤務巡査A(当時三一年)、同B(当時三一年)の両名から、道路交通法違反の被疑者として取調べを受けていたところ、酒酔い運転についての呼気検査を求められた際、職務遂行中の右A巡査の左肩や制服の襟首を右手で掴んで引つ張り、左肩章を引きちぎつたうえ、右手拳で同巡査の顔面を一回殴打するなどの暴行を加え、もつて同巡査の職務の執行を妨害したものである。」というにある。
二 原判決が認定した事件の経過は、(一)被告人は、昭和四八年八月三一日午前四時一〇分ころ、岐阜市a町b丁目c番地先路上で、酒酔い運転のうえ、道路端に置かれたコンクリート製のごみ箱などに自車を衝突させる物損事故を起し、間もなくパトロールカーで事故現場に到着したA、Bの両巡査から、運転免許証の提示とアルコール保有量検査のための風船への呼気の吹き込みを求められたが、いずれも拒否したので、両巡査は、道路交通法違反の被疑者として取調べるために被告人をパトロールカーで岐阜中警察署へ任意同行し、午前四時三〇分ころ同署に到着した、(二)被告人は、当日午前一時ころから午前四時ころまでの間にビール大びん一本、日本酒五合ないし六合位を飲酒した後、軽四輪自動車を運転して帰宅の途中に事故を起したもので、その際顔は赤くて酒のにおいが強く、身体がふらつき、言葉も乱暴で、外見上酒に酔つていることがうかがわれた、(三)被告人は、両巡査から警察署内の通信指令室で取調べを受け、運転免許証の提示要求にはすぐに応じたが、呼気検査については、道路交通法の規定に基づくものであることを告げられたうえ再三説得されてもこれに応じず、午前五時三〇分ころ被告人の父が両巡査の要請で来署して説得したものの聞き入れず、かえつて反抗的態度に出たため、父は、説得をあきらめ、母が来れば警察の要求に従う旨の被告人の返答を得て、自宅に呼びにもどつた、(四)両巡査は、なおも説得をしながら、被告人の母の到着を待つていたが、午前六時ころになり、被告人からマツチを貸してほしいといわれて断わつたとき、被告人が「マツチを取つてくる。」といいながら急に椅子から立ち上がつて出入口の方へ小走りに行きがけたので、A巡査は、被告人が逃げ去るのではないかと思い、被告人の左斜め前に近寄り、「風船をやつてからでいいではないか。」といつて両手で被告人の左手首を掴んだところ、被告人は、すぐさま同巡査の両手を振り払い、その左肩や制服の襟首を右手で掴んで引つ張り、左肩章を引きちぎつたうえ、右手拳で顔面を一回殴打し、同巡査は、その間、両手を前に出して止めようとしていたが、被告人がなおも暴れるので、これを制止しながら、B巡査と二人でこれを元の椅子に腰かけさせ、その直後公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕した、(五)被告人がA巡査の両手を振り払つた後に加えた一連の暴行は、同巡査から手首を掴まれたことに対する反撃というよりは、新たな攻撃というべきものであつた、(六)被告人が頑強に呼気検査を拒否したのは、過去二回にわたり同種事犯で取調べを受けた際の経験などから、時間を引き延して体内に残留するアルコール量の減少を図るためであつた、というのである。

三 第一審判決は、A巡査による右の制止行為は、任意捜査の限界を超え、実質上被告人を逮捕するのと同様の効果を得ようとする強制力の行使であつて、違法であるから、公務執行妨害罪にいう公務にあたらないうえ、被告人にとつては急迫不正の侵害であるから、これに対し被告人が右の暴行を加えたことは、行動の自由を実現するためにしたやむをえないものというべきであり、正当防衛として暴行罪も成立しない、と判示した。原判決は、これを誤りとし、A巡査が被告人の左斜め前に立ち、両手でその左手首を掴んだ行為は、その程度もさほど強いものではなかつたから、本件による捜査の必要性、緊急性に照らすときは、呼気検査の拒否に対し翻意を促すための説得手段として客観的に相当と認められる実力行使というべきであり、また、その直後にA巡査がとつた行動は、被告人の粗暴な振舞を制止するためのものと認められるので、同巡査のこれらの行動は、被告人を逮捕するのと同様の効果を得ようとする強制力の行使にあたるということはできず、かつ、被告人が同巡査の両手を振り払つた後に加えた暴行は、反撃ではなくて新たな攻撃と認めるべきであるから、被告人の暴行はすべてこれを正当防衛と評価することができない、と判示した。

四 原判決の事実認定のもとにおいて法律上問題となるのは、出入口の方へ向つた被告人の左斜め前に立ち、両手でその左手首を掴んだA巡査の行為が、任意捜査において許容されるものかどうか、である。
捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。
これを本件についてみると、A巡査の前記行為は、呼気検査に応じるよう被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもつて性質上当然に逮捕その他の強制手段にあたるものと判断することはできない。また、右の行為は、酒酔い運転の罪の疑いが濃厚な被告人をその同意を得て警察署に任意同行して、被告人の父を呼び呼気検査に応じるよう説得をつづけるうちに、被告人の母が警察署に来ればこれに応じる旨を述べたのでその連絡を被告人の父に依頼して母の来署を待つていたところ、被告人が急に退室しようとしたため、さらに説得のためにとられた抑制の措置であつて、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもつて捜査活動として許容される範囲を超えた不相当な行為ということはできず、公務の適法性を否定することができない。したがつて、原判決が、右の行為を含めてA巡査の公務の適法性を肯定し、被告人につき公務執行妨害罪の成立を認めたのは、正当というべきである。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顯)

・意思の制圧
=相手方の明示または黙示の意思に反すること

+第百九十七条  捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
○2  捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
○3  検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるときは、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。
○4  前項の規定により消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、三十日を超えない範囲内で延長することができる。ただし、消去しないよう求める期間は、通じて六十日を超えることができない。
○5  第二項又は第三項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。

・盗聴等類型
意思(推定的な意思)に反した重要な権利利益の制約
+判例(H11.12.16)
理由
一 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、憲法違反をいう点について
1 所論は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受すること(以下「電話傍受」という。)は、本件当時、捜査の手段として法律に定められていない強制処分であるから、それを許可する令状の発付及びこれに基づく電話傍受は、刑訴法一九七条一項ただし書に規定する強制処分法定主義に反し違法であるのみならず、憲法三一条、三五条に違反し、ひいては、憲法一三条、二一条二項に違反すると主張する。
2 電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。そして、【要旨】重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。

3 そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存していなかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。
(一)電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。
(二)裁判官は、捜査機関から提出される資料により、当該電話傍受が前記の要件を満たすか否かを事前に審査することが可能である。
(三)検証許可状の「検証すべき場所若しくは物」(刑訴法二一九条一項)の記載に当たり、傍受すべき通話、傍受の対象となる電話回線、傍受実施の方法及び場所、傍受ができる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という要請を相当程度満たすことができる。
(四)身体検査令状に関する同法二一八条五項は、その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、電話傍受の実施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない旨を検証の条件として付することができる
(五)なお、捜査機関において、電話傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するかどうかが明らかでない通話について、その判断に必要な限度で、当該通話の傍受をすることは、同法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得る。
もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとまで解するのは相当でない

4 これを本件についてみると、原判決及びその是認する第一審判決の認定によれば、本件電話傍受の経緯は、次のとおりである。
(一)北海道警察旭川方面本部の警察官は、旭川簡易裁判所の裁判官に対し、氏名不詳の被疑者らに対する覚せい剤取締法違反被疑事件について、電話傍受を検証として行うことを許可する旨の検証許可状を請求した。警察官の提出した資料によれば、以下の事情が明らかであった。すなわち、犯罪事実は、営利目的による覚せい剤の譲渡しであり、その嫌疑は明白であった。同犯罪は、暴力団による組織的、継続的な覚せい剤密売の一環として行われたものであって、密売の態様は、暴力団組事務所のあるマンションの居室に設置された電話で客から覚せい剤買受けの注文を受け、その客に一定の場所に赴くよう指示した上、右場所で覚せい剤の譲渡しに及ぶというものであったが、電話受付担当者と譲渡し担当者は別人であり、それらの担当者や両者の具体的連絡方法などを特定するに足りる証拠を収集することができなかった。右居室には二台の電話機が設置されており、一台は覚せい剤買受けの注文を受け付けるための専用電話である可能性が極めて高く、もう一台は受付担当者と譲渡し担当者との間の覚せい剤密売に関する連絡用電話である可能性があった。そのため、右二台に関する電話傍受により得られる証拠は、覚せい剤密売の実態を解明し被疑者らを特定するために重要かつ必要なものであり、他の手段を用いて右目的を達成することは著しく困難であった。
(二)裁判官は、検証すべき場所及び物を「日本電信電話株式会社旭川支店一一三サービス担当試験室及び同支店保守管理にかかる同室内の機器」、検証すべき内容を「(前記二台の電話)に発着信される通話内容及び同室内の機器の状況(ただし、覚せい剤取引に関する通話内容に限定する)」、検証の期間を「平成六年七月二二日から同月二三日までの間(ただし、各日とも午後五時〇〇分から午後一一時〇〇分までの間に限る)」、検証の方法を「地方公務員二名を立ち会わせて通話内容を分配器のスピーカーで拡声して聴取するとともに録音する。その際、対象外と思料される通話内容については、スピーカーの音声遮断及び録音中止のため、立会人をして直ちに分配器の電源スイッチを切断させる。」と記載した検証許可状を発付した。
(三)警察官は、右検証許可状に基づき、右記載の各制限を遵守して、電話傍受を実施した。
右の経緯に照らすと、本件電話傍受は、前記の一定の要件を満たす場合において、対象をできる限り限定し、かつ、適切な条件を付した検証許可状により行われたものと認めることができる。
5 以上のとおり、電話傍受は本件当時捜査の手段として法律上認められていなかったということはできず、また、本件検証許可状による電話傍受は法律の定める手続に従って行われたものと認められる。所論は、右と異なる解釈の下に違憲をいうものであって、その前提を欠くものといわなければならない。
二 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、その余の点は、単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条により、主文のとおり決定する。この決定は、裁判官元原利文の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

・意思の制圧の有無は合理的に推認される対象者の意思に反するか否かによって決すべき!!!!!

2.任意処分に対する法的規制

必要性=事案の性質・嫌疑の程度
必要性緊急性=被疑者の態度
被侵害利益の性質・程度との衡量により相当か

3.写真撮影・ビデオ撮影
・意思の制圧を要件としない盗聴等類型。
・重要な権利・利益の実質的制約。
・いかなる性質の法益がどの程度侵害されているのか。

・写真撮影が任意処分であることを前提に、それが相当として許されるのはいかなる場合であるのか
+判例(S44.12.24)
理由
被告人本人の上告趣意二のうち、および弁護人青柳孝夫の上告趣意第一点のうち、昭和二九年京都市条例第一〇号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下「本条例」という。)が、憲法二一条に違反するという主張について。
本条例が、道路その他屋外の公共の場所で、集会もしくは集団行進を行なおうとするときまたは場所のいかんを問わず集団示威運動を行なおうとするときは、公安委員会の許可を受けなければならないと定め、これらの集団行動(以下単に「集団行動」という。)を事前に規制しようとするものであることは所論のとおりである。しかしながら、本条例を検討すると、同条例は、集団行動について、公安委員会の許可を必要としているが(二条)、公安委員会は、集団行動の実施が「公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこれを許可しなければならない。」と定め(六条)、許可を義務づけており、不許可の場合を厳格に制限しているのである。
そして、このような内容をもつ公安に関する条例が憲法二一条の規定に違反するものでないことは、これとほとんど同じ内容をもつ昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例についてした当裁判所の大法廷判決(昭和三五年(あ)第一一二号同年七月二〇日判決、刑集一四巻九号一二四三頁)の明らかにするところであり、これを変更する必要は認められないから、所論は理由がない。同弁護人の上告趣意第一点のうち、本条例が憲法三一条に違反するとの主張について。
所論は、本条例は、許可を与える際必要な条件をつけることができると定め(六条)、この条件に違反し、または違反しようとする場合には、警察本部長が、その主催者、指導者もしくは参加者に対し警告を発し、その行動を制止することができ(八条)、更に、条件違反の場合には、主催者、指導者等を処罰することができる旨定めている(九条)が、このように、右条件の内容の解釈および条件違反の判定をすべて警察に委ねている点で、適法手続を定めた憲法三一条に違反し、また、条件を取締当局に都合のよいように定めることを許している点でも、白地刑法を禁止した同条に違反する旨主張する。
しかし、本条例六条一項但書は、公安委員会の付しうる条件の範囲を定めており、これに基づいて具体的に条件が定められ、これが主催者または連絡責任者に通告され(六条二項、同条例施行規則五条)、この具体化された条件に違反した行為が、警告、制止および処罰の対象となるのであつて、所論のように取締当局がほしいままに条件を定めることを許しているものではなく、犯罪の構成要件が規定されていないとかまたは不明確であるとかいうことはできない。そうすると、所論違憲の主張は、その前提を欠くことになり、適法な上告理由とならない。

被告人本人の上告趣意三の(4)について。
所論は、本人の意思に反し、かつ裁判官の令状もなくされた本件警察官の写真撮影行為を適法とした原判決の判断は、肖像権すなわち承諾なしに自己の写真を撮影されない権利を保障した憲法一三条に違反し、また令状主義を規定した同法三五条にも違反すると主張する。
ところで、憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法一三条、三五条に違反しないものと解すべきである。
これを本件についてみると、原判決およびその維持した第一審判決の認定するところによれば、昭和三七年六月二一日に行なわれた本件A連合主催の集団行進集団示威運動においては、被告人の属するB大学学生集団はその先頭集団となり、被告人はその列外最先頭に立つて行進していたが、右集団は京都市a区b町c約三〇メートルの地点において、先頭より四列ないし五列目位まで七名ないし八名位の縦隊で道路のほぼ中央あたりを行進していたこと、そして、この状況は、京都府公安委員会が付した「行進隊列は四列縦隊とする」という許可条件および京都府中立売警察署長が道路交通法七七条に基づいて付した「車道の東側端を進行する」という条件に外形的に違反する状況であつたこと、そこで、許可条件違反等の違法状況の視察、採証の職務に従事していた京都府山科警察署勤務の巡査Cは、この状況を現認して、許可条件違反の事実ありと判断し、違法な行進の状態および違反者を確認するため、木屋町通の東側歩道上から前記被告人の属する集団の先頭部分の行進状況を撮影したというのであり、その方法も、行進者に特別な受忍義務を負わせるようなものではなかつたというのである。
右事実によれば、C巡査の右写真撮影は、現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものてあつて、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいつて、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであつたと認められるから、たとえそれが被告人ら集団行進者の同意もなく、その意思に反して行なわれたとしても、適法な職務執行行為であつたといわなければならない
そうすると、これを刑法九五条一項によつて保護されるべき職務行為にあたるとした第一審判決およびこれを是認した原判決の判断には、所論のように、憲法一三条、三五条に違反する点は認められないから、論旨は理由がない。
被告人本人のその余の上告趣意は、憲法違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
同弁護人のその余の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、同条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四〇八条、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 入江俊郎 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷)

①犯罪の嫌疑の程度
②必要性
③衡量
+判例(H20.4.15)
理由
弁護人立田廣成の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁)は、所論のいうように、警察官による人の容ぼう等の撮影が、現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではないから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ職権で判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば、本件捜査経過等に係る事実関係は、以下のとおりである。
(1) 本件は、金品強取の目的で被害者を殺害して、キャッシュカード等を強取し、同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人、窃盗、窃盗未遂の事案である。
(2) 平成14年11月、被害者が行方不明になったとしてその姉から警察に対し捜索願が出されたが、行方不明となった後に現金自動預払機により被害者の口座から多額の現金が引き出され、あるいは引き出されようとした際の防犯ビデオに写っていた人物が被害者とは別人であったことや、被害者宅から多量の血こんが発見されたことから、被害者が凶悪犯の被害に遭っている可能性があるとして捜査が進められた。
(3) その過程で、被告人が本件にかかわっている疑いが生じ、警察官は、前記防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を判断するため、被告人の容ぼう等をビデオ撮影することとし、同年12月ころ、被告人宅近くに停車した捜査車両の中から、あるいは付近に借りたマンションの部屋から、公道上を歩いている被告人をビデオカメラで撮影した。さらに、警察官は、前記防犯ビデオに写っていた人物がはめていた腕時計と被告人がはめている腕時計との同一性を確認するため、平成15年1月、被告人が遊技していたパチンコ店の店長に依頼し、店内の防犯カメラによって、あるいは警察官が小型カメラを用いて、店内の被告人をビデオ撮影した。
(4) また、警察官は、被告人及びその妻が自宅付近の公道上にあるごみ集積所に出したごみ袋を回収し、そのごみ袋の中身を警察署内において確認し、前記現金自動預払機の防犯ビデオに写っていた人物が着用していたものと類似するダウンベスト、腕時計等を発見し、これらを領置した。
(5) 前記(3)の各ビデオ撮影による画像が、防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を専門家が判断する際の資料とされ、その専門家作成の鑑定書等並びに前記ダウンベスト及び腕時計は、第1審において証拠として取り調べられた。

2 所論は、警察官による被告人に対する前記各ビデオ撮影は、十分な嫌疑がないにもかかわらず、被告人のプライバシーを侵害して行われた違法な捜査手続であり、また、前記ダウンベスト及び腕時計の各領置手続は、令状もなくその占有を取得し、プライバシーを侵害した違法な捜査手続であるから、前記鑑定書等には証拠能力がないのに、これらを証拠として採用した第1審の訴訟手続を是認した原判断は違法である旨主張する。
しかしながら、前記事実関係及び記録によれば、捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ぼう、体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば、これらのビデオ撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである。
ダウンベスト等の領置手続についてみると、被告人及びその妻は、これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができるというべきである。また、市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても、それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから、これを遺留物として領置することが妨げられるものではない
したがって、前記各捜査手続が違法であることを理由とする所論は前提を欠き、原判断は正当として是認することができる。
3 なお、記録を調べても、被告人が本件強盗殺人、窃盗、窃盗未遂の罪を犯したとの原判決の事実認定に疑いをいれる余地はない。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋)

4.設問の解説
・強制の処分に当たるときは、さらに、刑訴法の特別の定めがあるかどうかを検討。
検証→令状の発付を受けていない→令状主義に違反し違法。


(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});

コメントを残す