1-3 序論 罪刑法定主義

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1.総説
法益に対する加害行為が、法律によって事前に犯罪として定められた行為についてのみ犯罪の成立を肯定することができる。

+憲法
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

「法律の定める手続」には、犯罪を認定して刑罰を科す手続である刑事訴訟を規律する手続法ばかりでなく、そこにおいて運用される実体法も含まれる。

+憲法
第三十九条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

・罪刑法定主義の背後には民主主義の原理が存在する
=何が犯罪として処罰の対象となる家は、国民が正当に選挙された国会における代表者を通じて自ら決定するという原理。

・罪刑法定主義の背後には自由主義の原理が存在する。
何が犯罪かは法律によって定められるだけでは足りず、それが事前に定められている必要がある。
行為の予測可能性を担保
遡及処罰の禁止・事後法の禁止

2.法律主義
何が犯罪で、それに対していかなる刑罰が科せられるかは、国会が法律により定める必要がある。

+憲法
第七十三条  内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一  法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二  外交関係を処理すること。
三  条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四  法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五  予算を作成して国会に提出すること。
六  この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない
七  大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

「委任」には委任に関する事項が特定されたものでなくてはならず、一般的包括的な委任は許されない。
←民主主義の原理から

・政令に罰則を定めるためには、実施されるべき法律に具体的な委任が存在することが必要

・国家公務員法による違反行為の人事規則への委任が憲法の許容する限度を超えるかどうか?
国公法102条1項が、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある行為類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解し得る。

・条令について、より上位の法形式である政令については許されない罰則の一般的・包括的委任が規定されている点について。
法律主義は、形式的には法律による罰則の制定を要請するものであるが、その実質的根拠は、何が犯罪かは国民が決定するという民主主義の原理にある。
条例は住民の選挙により選出された議員によって議会により選定されるものであるから、その中に罰則を定めることを認めても、何ら民主主義の原理には反しない。
→条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておれば足りる

・判例法、慣習法による処罰の否定
裁判所は、罰則を適用することなく処罰することは許されない

・類推解釈の禁止
罰則を適用する場合には、解釈により罰則において処罰の対象とされていると解される行為のみを処罰することができる。

類推解釈とは、
問題となる行為が、罰則による処罰の対象に含まれないことを認めつつ、それにもかかわらず、処罰の対象となっている行為と害悪性において同等であることを理由に、処罰の対象とするもの。

3.事後法の禁止
・遡及処罰の禁止
事後的に制定された罰則を適用し、処罰することは許されない。
→行動に関する予測可能性が失われ、遡及処罰の可能性による委縮効果が発生し、国民の行動の自由が著しく害されるから。

・違法ではあっても刑罰が科されていなかった行為に事後的に刑罰を科すことも、処罰はされないという意味での予測可能性を害し行動の自由を損なうとともに、不可罰であった行為の遡及処罰自体不公正な処罰でもあるから、同様に、事後法禁止の原則に反すると解する余地がある。

+(刑の変更)
第六条  犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。

・訴訟法規定に関しては、新規定を適用することが原則であると解されており、公訴時効期間の廃止・延長についてその遡及適用が肯定されている。

・判例は不利益に変更した判例を遡及適用することにより犯人を処罰しても憲法39条に違反しない。
←刑法においては判例は形式的には法源ではありえない。
→被告人の救済は、具体的な事情に照らし、違法性の意識の可能性の欠如による免責などに求められるべき。

4.刑罰法規の適正
(1)総説
国民の権利自由を正当な理由なく侵害する罰則は、それが憲法の個別の条項に直接に違反するものでなくとも、違憲無効となる。
=実体的デュー・プロセス

(2)明確性の原則
不明確な罰則は、実質的に罪刑法定主義に違反し、許されない。
罰則の明確性の有無は、罰則自体について、一般的抽象的に判断されなければならない。
←あいまいな罰則の存在自体が委縮効果を持ち、国民の自由を侵害する。

・あいまいかどうかは、
通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定すべき。

3.内容の適正さ
明確な罰則であっても、国民の自由を不当に侵害する罰則は、違憲無効であると解される。

・無害な行為を処罰する罰則は、根拠なく国民の自由を侵害するものであり、許されない。

・規制の目的に照らし、過度に広範な処罰規定は、国民の自由を不当に侵害するもので許されない。

+判例(S60.10.23)
理由
 一 被告人本人の上告趣意第一部の二ないし四及び第二部の一ないし四は、福岡県青少年保護育成条例(以下、「本条例」という。)一〇条一項、一六条一項の規定は、一三歳以上、特に婚姻適齢以上の青少年とその自由意思に基づいて行う性行為についても、それが結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合を含め、すべて一律に規制しようとするものであるから、処罰の範囲が不当に広汎に過ぎるものというべきであり、また、本条例一〇条一項にいう「淫行」の範囲が不明確であるから、広く青少年に対する性行為一般そ検挙、処罰するに至らせる危険を有するものというべきであつて、憲法一一条、一三条、一九条、二一条の規定に違反すると主張し、弁護人立田廣成は、当審弁論において、被告人の右主張は憲法三一条違反をも併せ主張する趣旨である旨陳述するとともに、その上告趣意第一において、右の「淫行」の範囲に関し、青少年を相手とする結婚を前提としない性行為のすべてを包含するのでは広きに過ぎるから、「淫行」とは、青少年の精神的未成熟や情緒不安定に乗ずること、すなわち、誘惑、威迫、立場利用、欺罔、困惑、自棄につけ込む等の手段を用いたり、対価の授受を伴つたり、第三者の観覧に供することを目的としたり、あるいは不特定・多数人を相手とする乱交の一環としてなされる性行為等、反論理性の顕著なもののみを指すと解すべきであると主張する。
 そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とするこのような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。
 なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。
 二 被告人本人の上告趣意第二部の五(一)は、青少年に対する淫行につき地域により規制上差異があることを理由に本件各規定が憲法一四条の規定に違反すると主張するが、地方公共団体が青少年に対する淫行につき規制上各別に条例を制定する結果その取扱いに差異を生ずることがあつても憲法一四条の規定に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二九年(あ)第二六七号同三三年一〇月一五日判決・刑集一二巻一四号三三〇五頁)の趣旨に徴し明らかであるかち、所論は理由がない
 三 被告人本人の上告趣意第二部の五(二)は、本件各規定は一八歳未満の者のみに対する性行為を禁止処罰の対象とし、一八歳未満の者と一八歳以上の者との間で異なる取扱いをしているところ、右年齢による差別に合理的な理由はないから、憲法一四条の規定に違反すると主張するが、この点は、青少年の範囲をどのように定めるかという立法政策に属する問題であるにとどまり、憲法適否の問題ではないから、所論は前提を欠く。
 四 被告人本人の上告趣意第二部の六は、児童福祉法三四条一項六号は「児童に淫行をさせる行為」のみを規制し、その適用範囲を児童の自由意思に属しない淫行に限つているにもかかわらず、本件各規定は青少年に対し淫行をする行為のすべてを規制の対象としていて明らかに法律の範囲を逸脱しているから、本件各規定は憲法九四条の規定に違反すると主張するが、児童福祉法三四条一項六号の規定は、必ずしも児童の自由意思に基づかない淫行に限つて適用されるものでない(最高裁昭和二九年(あ)第三九九号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決・刑集九巻一四号三〇一八頁参照)のみならず、同規定は、一八歳未満の青少年との合意に基づく淫行をも条例で規制することを容認しない趣旨ではないと解するのが相当であるから、所論は前提を欠く。
 五 被告人本人の上告趣意第二部の七は、本条例は憲法九五条にいう特別法であるところ、同条所定の制定手続を経ていないから、本件各規定は憲法九五条の規定に違反すると主張するが、本条例が憲法九五条にいう特別法に当たらないことは明らかであるから、所論は前提を欠く。
 六 弁護人立田廣成及び被告人本人のその余の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、いずれも適法な上告理由に当たらない。
 よつて、刑訴法四一四条、三九六条、一八一条一項但書により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官牧圭次、同長島敦の各補足意見、裁判官伊藤正己、同谷口正孝、同島谷六郎の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

4.罪刑の均衡
・定められた犯罪に対して、きわめて著しく均衡を失する法定刑を定める罰則は、立法最良の範囲を超え、憲法31条に反し、違憲無効と解すべき。

限定的法律解釈として、均衡を失する部分の法定刑の適用を制限することは可能。


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