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1.前章からのの続き
2.抗弁(その1)~過失の評価障害事実~
3.抗弁(その2)~過失相殺~
+(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条 第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
=被害者の過失を認定しても、これを考慮するかどうかは裁判所の裁量にゆだねられている。
・過失相殺の制度趣旨
被害者に発生した損害を被害者と加害者との間で公平に分配する
・被害者の過失
=自己危険回避義務違反
損害軽減義務違反
・被害者たる未成年者の過失を斟酌する場合においても、未成年者に事理を弁識する能力が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しない!!!!!
=過失相殺をするためには、責任能力が具わっている必要はないとしつつ、
事理を弁識する能力は必要!!!
・責任能力
=行為の違法性認識能力
自分の行為の善悪について認識できる能力
・事理弁識能力
自分がこれから何をしようとしているのかについて認識できる能力
・過失相殺の割合の決め方~加害者複数の場合~
相対的過失割合による過失相殺
+判例(H13.3.13)
主文
1 原判決主文第1項を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 被上告人は、上告人ら各自に対し、1900万4634円及びうち1810万4634円に対する昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 上告人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを3分し、その1を上告人らの、その余を被上告人の負担とし、参加によって生じた費用は、これを3分し、その1を上告補助参加人らの、その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人森永友健の上告受理申立て理由第一ないし第三及び第五について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人らの長男であるA(昭和57年1月13日生)は、昭和63年9月12日午後3時40分ころ、埼玉県上福岡市ab丁目c番d号先路上において、自転車を運転し、一時停止を怠って時速約15㎞の速度で交通整理の行われていない交差点内に進入したところ、同交差点内に減速することなく進入しようとした上告補助参加人川越乗用自動車株式会社の従業員である同B運転に係る普通乗用自動車と接触し、転倒した(以下「本件交通事故」という。)。
(2) Aは、本件交通事故後直ちに、救急車で被上告人が経営する上福岡第二病院(以下「被上告人病院」という。)に搬送された。被上告人の代表者で被上告人病院院長であるC医師は、Aを診察し、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが、Aの意識が清明で外観上は異常が認められず、Aが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説明をし、前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから、Aの歩行中の軽微な事故であると考えた。そして、C医師は、Aの頭部正面及び左側面から撮影したレントゲン写真を検討し、頭がい骨骨折を発見しなかったことから、さらにAについて頭部のCT検査をしたり、病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はないと判断し、前記負傷部分を消毒し、抗生物質を服用させる治療をした上、A及び上告人Dに対し、「明日は学校へ行ってもよいが、体育は止めるように。明日も診察を受けに来るように。」「何か変わったことがあれば来るように。」との一般的指示をしたのみで、Aを帰宅させた。
(3) 上告人Dは、Aとともに午後5時30分ころ帰宅したが、Aが帰宅直後におう吐し、眠気を訴えたため、疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ、Aは、夕食を欲しがることもなく午後6時30分ころに寝入った。Aは、同日午後7時ころには、いびきをかいたり、よだれを流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていたが、上告人らは、多少の異常は感じたものの、Aは普段でもいびきをかいたりよだれを流したりして寝ることがあったことから、この容態を重大なこととは考えず、同日午後7時30分ころ、氷枕を使用させ、そのままにしておいた。しかし、Aは、同日午後11時ころには、体温が39度まで上昇してけいれん様の症状を示し、午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため、上告人らは初めてAが重篤な状況にあるものと疑うに至り、翌13日午前0時17分ころ、救急車を要請した。救急車は同日午前0時25分に上告人方に到着したが、Aは、既に脈が触れず呼吸も停止しており、同日午前0時44分、三芳厚生病院に搬送されたが、同日午前0時45分、死亡した(以下「本件医療事故」という。)。
(4) Aは、頭がい外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血しゅにより死亡したものであり、被上告人病院から帰宅したころには、脳出血による脳圧の亢進によりおう吐の症状が発現し、午後6時ころには傾眠状態を示し、いびき、よだれを伴う睡眠、脳の機能障害が発生し、午後11時ころには、治療が困難な程度であるけいれん様の症状を示す除脳硬直が始まり、午後11時50分には自発呼吸が不可能な容態になったものである。
硬膜外血しゅは、骨折を伴わずに発生することもあり、また、当初相当期間の意識清明期が存することが特徴であって、その後、頭痛、おう吐、傾眠、意識障害等の経過をたどり、脳障害である除脳硬直が開始した後はその救命率が著しく減少し、仮に救命に成功したとしても重い後遺障害をもたらすおそれが高いものであるが、早期に血しゅの除去を行えば予後は良く、高い確率での救命可能性があるものである。したがって、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存したのであって、C医師にはこれを懈怠した過失がある。
(5) 他方、上告人らにおいても、除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまでAが重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、Aの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり、その過失割合は1割が相当である。
(6) なお、本件交通事故は、本件交差点に進入するに際し、自動車運転手として遵守すべき注意義務を懈怠した、上告補助参加人Bの過失によるものであるが、Aにも、交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があり、その過失割合は3割が相当である。
(7) 上告人らは、Aの本件交通事故及び本件医療事故による次の損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。Aの死亡による上告人らの弁護士費用分を除く全損害は、次のとおりである。
逸失利益 2378万8076円
慰謝料 1600万円
葬儀費用 100万円
なお、上告人らは、上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として50万円の支払を受けた。
2 本件は、上告人らが、C医師の診療行為の過失によりAが死亡したとして、被上告人に対し、民法709条に基づき損害賠償を求めている事案である。
原審は、前記事実関係の下において、概要次のとおり判断した。
(1) 被害者であるAの死亡事故は、本件交通事故と本件医療事故が競合した結果発生したものであるところ、原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難を伴うので、被害者保護の見地から、本件交通事故における上告補助参加人Bの過失行為と本件医療事故におけるC医師の過失行為とを共同不法行為として、被害者は、各不法行為に基づく損害賠償請求を分別することなく、全額の損害の賠償を請求することもできると解すべきである。
(2) しかし、本件の場合のように、個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、その行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき、被害者側に過失相殺すべき事由が存する場合には、各不法行為者は、各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張することができ、かつ、個別的に過失相殺の主張をすることができるものと解すべきである。すなわち、被害者の被った損害の全額を算定した上、各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け、その上で個々の不法行為についての過失相殺をして、各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
(3) 本件においては、Aの死亡の経過等を総合して判断すると、本件交通事故と本件医療事故の各寄与度は、それぞれ5割と推認するのが相当であるから、被上告人が賠償すべき損害額は、Aの死亡による弁護士費用分を除く全損害4078万8076円の5割である2039万4038円から本件医療事故における被害者側の過失1割を過失相殺した上で弁護士費用180万円を加算した2015万4634円と算定し、上告人らの請求をこの金員の2分の1である各1007万7317円及びうち917万7317円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものである。
3 しかしながら、原審の前記2(2)(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
原審の確定した事実関係によれば、本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入された被上告人病院において、Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある。したがって、【要旨1】本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。けだし、共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。
したがって原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
4 本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする二つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。ところで、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、【要旨2】本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない。
本件において被上告人の負担すべき損害額は、Aの死亡による上告人らの損害の全額(弁護士費用を除く。)である4078万8076円につき被害者側の過失を1割として過失相殺による減額をした3670万9268円から上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し、これに弁護士費用相当額180万円を加算した3800万9268円となる。したがって、上告人ら各自の請求できる損害額は、この2分の1である1900万4634円となる。
5 以上によれば、上告人らの本件請求は、各自1900万4634円及びうち1810万4634円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決は、主文第1項のとおり変更するのが相当である。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)
絶対的過失割合による過失相殺
全ての過失の割合を認定することができる時
+判例(H15.7.11)
理由
第1 事案の概要
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人の被用者であるAは、平成9年9月20日午前2時25分ころ、片側1車線の三重県松阪市五反田町1丁目1277番先道路(以下「本件道路」という。)上に、普通貨物自動車(以下「上告人車」という。)を西側路側帯から北行車線にはみ出るような状態で駐車させ、非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった。被上告人堀口運輸有限会社(以下「被上告会社」という。)の被用者であるBは、そのころ、被上告会社の保有する普通貨物自動車(以下「被上告人車」という。)を運転して、本件道路を南方から北方に向けて進行し、上告人車を避けるため、中央線からはみ出して進行したところ、本件道路を北方から南方に向けて、最高速度として規制されている時速40㎞を上回る時速80㎞以上で進行してきたCの運転に係る普通乗用自動車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
本件道路は、終日駐車禁止の交通規制がされていたが、追越しのための右側部分はみ出し禁止の交通規制はされていなかった。また、本件道路は、北方から南方に向かう場合、本件交通事故現場の手前約60m付近で左にカーブしており、Cは、被上告人車を左カーブを抜けた地点で発見した。本件交通事故現場付近に街灯はなく、Cの進行方向からは、上記左カーブを抜けた地点より手前で被上告人車を発見することは容易ではなかった。
(2) Aには非常点滅表示灯等を点灯させることなく、上告人車を駐車禁止の車道にはみ出して駐車させた過失、Bには被上告人車を対向車線にはみ出して進行させた過失、Cには速度違反、安全運転義務違反の過失がある。A、B、Cの各過失割合は1対4対1である。
(3) 本件交通事故により、被上告会社は270万3110円の損害を被り、Cは581万1400円の損害を被った。
(4) 被上告人車につき、被上告人三重県交通共済協同組合(以下「被上告組合」という。)を保険者として、自動車共済契約が締結されており、また、被上告人車につき、自動車損害賠償保障法により自動車損害賠償責任保険契約(以下、「自賠責保険」といい、自賠責保険に基づいて支払われる保険金を「自賠責保険金」という。)が締結されていた。
(5) 被上告会社とCとの間では、本件交通事故による損害賠償につき示談が成立し、被上告会社は、Cから、36万5174円の支払を受け、被上告組合は、Cに対し、上記自動車共済契約に基づき、被上告会社に代わって、本件交通事故による損害賠償として474万7654円を支払った。
(6) 被上告会社が本件交通事故による自己の損害額270万3110円のうち上告人及びCに対して請求し得る額の合計は、自己の過失割合6分の4を控除した6分の2に相当する90万1036円である。
(7) 被上告組合は、Cに支払った損害賠償金につき自賠責保険金120万円の支払を受けた。
2 本件は、上告人に対し、被上告会社が自動車損害賠償保障法3条又は民法715条に基づき損害賠償を請求し、Cに損害賠償金を支払った被上告組合が保険代位に基づいて上告人が被上告会社に対して負う求償義務の履行を求める事案である。
第2 上告代理人西村英一郎の上告理由について
1 上告代理人西村英一郎の上告理由第1の2(2)について
原審は、被上告会社が本件交通事故による自己の損害額のうち上告人及びCに対して請求し得る額の合計を90万1036円とし、Cから36万5174円の支払を受けたとしているので、被上告会社が上告人に対して請求し得る額は53万5862円となる。しかし、原審は、上告人に対し、これを上回る53万8242円の支払を命じており、原判決には理由の食違いがある。この点をいう論旨は理由がある。
2 その余の上告理由について
その余の上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
第3 上告代理人西村英一郎の上告受理申立て理由第3の2(3)について
1 原審は、概要次のとおり判断して、被上告組合の上告人に対する請求を170万6109円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
(1) Cは、本件交通事故による自己の損害につき、自己の過失割合である6分の1を控除した6分の5の限度で、被上告会社及び上告人に対して、各当事者ごとの相対的な過失割合に従って損害賠償を請求することができる。したがって、Cは、581万1400円の6分の5である484万2833円を上限として、被上告会社に対しては581万1400円をCの過失割合5分の1による過失相殺をした後の464万9120円、上告人に対してはCの過失割合2分の1による過失相殺をした後の290万5700円を請求し得るものというべきである。
(2) 被上告会社及び上告人の損害賠償義務が競合する範囲は、上記464万9120円と290万5700円を加え、484万2833円を控除した271万1987円であり、被上告会社のみが損害賠償義務を負うのは、上記464万9120円から上記271万1987円を控除した193万7133円である。
被上告会社の負担部分は、上記271万1987円に5分の1を乗じ、上記193万7133円を加えた247万9530円である。
被上告会社は、上告人に対し、Cに対して支払った474万7654円から上記247万9530円を控除した226万8124円を求償することができる。
(3) 被上告組合が支払を受けた自賠責保険金120万円は、被上告会社のみが損害賠償義務を負う範囲、上告人のみが損害賠償義務を負う範囲及び被上告会社と上告人の損害賠償義務が競合する範囲に案分して充当される。したがって、上記120万円のうち、被上告会社の求償金から控除すべき金額は56万2015円である。
(4) よって、被上告組合は、上告人に対し、226万8124円から56万2015円を控除した170万6109円を請求することができる。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 【要旨】複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。これに反し、各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは、被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。
(2) 以上説示したところによれば、被上告会社及び上告人は、Cの損害581万1400円につきCの絶対的過失割合である6分の1による過失相殺をした後の484万2833円(円未満切捨て。以下同じ。)の限度で不真正連帯責任を負担する。このうち、被上告会社の負担部分は5分の4に当たる387万4266円であり、上告人の負担部分は5分の1に当たる96万8566円である。被上告会社に代わりCに対し損害賠償として474万7654円を支払った被上告組合は、上告人に対し、被上告会社の負担部分を超える87万3388円の求償権を代位取得したというべきである。
なお、自賠責保険金は、被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから、共同不法行為者間の求償関係においては、被保険者の負担部分に充当されるべきである。したがって、自賠責保険金120万円は、被上告組合が支払った被上告会社の負担部分に充当される。
そうすると、論旨はこの限度で理由があり、これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
第4 結論
以上によれば、被上告会社の請求は、上告人に対し、53万5862円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被上告組合の請求は、上告人に対し、87万3388円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被上告人らのその余の請求は理由がないから棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷玄 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)
4.抗弁(その3)~被害者側の過失
・本人以外の者の過失を被害者側の過失として斟酌するのが公平の理念に照らし相当な場合がある
・被害者側に当たるかどうか
被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者
例
保母×
夫○
職場の同僚×
交際中の者×
内縁配偶者○
・被害者側の過失の枠とは異なる減額
+判例(H20.7.4)
理由
上告代理人田野壽、同宮崎隆博の上告受理申立て理由第3の3について
1 本件は、A(当時22歳)運転の自動二輪車とパトカーとが衝突し、自動二輪車に同乗していたB(当時19歳)が死亡した交通事故につき、Bの相続人である被上告人らが、パトカーの運行供用者である上告人に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づく損害賠償を請求する事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) A及びBは、中学校時代の先輩と後輩の関係であり、平成13年8月13日午後9時ころから、友人ら約20名と共に、自動二輪車3台、乗用車数台に分乗して、集合、離散しながら、空吹かし、蛇行運転、低速走行等の暴走行為を繰り返した。Bは、ヘルメットを着用せずに、消音器を改造した自動二輪車(以下「本件自動二輪車」という。)にAと二人乗りし、交代で運転をしながら走行していた。
(2) 岡山県警察勝山警察署のC警察官らは、付近の住民から暴走族が爆音を立てて暴走している旨の通報を受け、同日午後11時20分ころ、これを取り締まるためにC警察官が運転するパトカー(以下「本件パトカー」という。)及び他の警察官が運転する小型パトカー(以下「本件小型パトカー」という。)の2台で出動した。上告人は、本件パトカーの運行供用者である。
(3) C警察官は、国道313号線(以下「本件国道」という。)を走行中、同日午後11時35分ころ、本件自動二輪車が対向車線を走行してくるのを発見し追跡したが、本件自動二輪車が転回して逃走したためこれを見失い、いったん本件国道に面した商業施設の駐車場(以下「本件駐車場」という。)に入って本件パトカーを停車させた。また、本件小型パトカーも本件駐車場に入って停車していた。本件駐車場先の本件国道は片側1車線で、制限速度は時速40㎞であった。
(4) 同日午後11時49分ころ、Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が本件国道を時速約40㎞で走行してきたため、C警察官は、これを停止させる目的で、本件パトカーを本件国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ、本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。付近の道路は暗く、本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが、本件自動二輪車に遠くから発見されないように、赤色の警光灯はつけず、サイレンも鳴らしていなかった。
(5) Aは、本件駐車場内に本件小型パトカーが停車しているのに気付き、時速約70~80㎞に加速して本件駐車場前を通過し逃走しようとしたが、その際、友人が捕まっているのではないかと思い、本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、前方に停車した本件パトカーを発見するのが遅れ、回避する間もなく、その側面に衝突した(以下「本件事故」という。)。
(6) Bは、本件事故により頭がい骨骨折等の傷害を負い、同月14日午前1時13分ころ死亡した。
(7) 本件事故によりBが受けた損害の額は合計6600万5364円であり、Bの両親である被上告人らは、Bの有する損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。被上告人らの固有の損害の額は各100万円である。
また、被上告人らは、損害の一部てん補として、56万5000円の支払を受けた。
3 原審は、次のとおり判断して、被上告人らの上告人に対する請求を、各2961万9645円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。
(1) C警察官が本件自動二輪車を停止させるために執った措置は、赤色の警光灯をつけず、サイレンも鳴らさずに片側1車線を完全にふさいで本件パトカーを停車させるという交通事故発生の危険が高いものであり、相当と認められる限度を超えるもので、自賠法3条ただし書所定の免責事由は存しないし、正当業務行為として違法性が阻却されるものでもない。したがって、上告人は、同条本文に基づき、被上告人らに対し損害賠償責任を負う。
(2) Aには前方注視義務違反及び制限速度違反が、Bにはヘルメット着用義務違反及びAと共に暴走行為をしてパトカーに追跡される原因を作ったという事情があることを考慮すれば、A、B、C警察官の過失割合は6対2対2である。本件事故は、Bとの関係では、AとC警察官との共同不法行為により発生したものである。そして、AとBとの間に身分上、生活関係上の一体性はないから、過失相殺をするに当たってAの過失をいわゆる被害者側の過失として考慮することはできない。
したがって、上告人は、被上告人らに対して、Aと連帯して損害の8割を賠償する責任を負う。損害の一部てん補額を控除し、弁護士費用を加算すると、被上告人らの上告人に対する損害賠償の請求は、各2961万9645円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、AとBは、本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し、午後11時35分ころ、本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され、いったんこれを逃れた後、午後11時49分ころ、Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中、本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け、再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに、一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ、本件事故が発生したというのである(以下、本件小型パトカーを見付けてからのAの運転行為を「本件運転行為」という。)。
以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。したがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。
これと異なり、Aの過失はBの過失として考慮することができないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上の見解の下にBとC警察官との過失割合等につき更に審理を尽くさせるため、上記部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋)
被害者が不法行為により死亡し、その損害賠償請求を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合に、相続人が得た利益を賠償額から控除する!!!
・不法行為の被害者らに社会保険給付がされるとき、これが損益相殺の対象とされて賠償額から控除されるのは、被害者やその相続人が現実に損害を填補されたということができる範囲またはこれと同視し得る範囲に限られる。
8.過失相殺と損益相殺の順序
・相殺後控除説
労災保険金と損害賠償との重複填補が問題となっている場合に判例の採る立場。
過失相殺により減額された損害の総額が上限となり、この上限額から損益相殺がされるべき。
←被害者が不法行為により取得できる賠償額は被害者の損害を填補する以上に出るものではないうえに、被害者の過失に基づく部分については、過失相殺制度の趣旨から見てこれを加害者のみならず第三者にも転化することはできないと考えるのが相当。
・控除後相殺説
9.抗弁(その7)~3年の消滅時効
+(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
・理由
証拠の散逸・立証困難
被害者感情の鎮静化
・加害者を知った時とは、
加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する
・損害を知った時
被害者が損害の発生を現実に認識したとき
損害の程度や金額まで知る必要はない。
被害者が損害の発生を現実に認識していない場合には、被害者が加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待できないから
・後遺障害の残存による逸出利益を理由とする損害賠償請求
後遺障害としての症状が固定したときが、損害を知った時にあたる。
・潜伏していた後遺障害の発生
およそ事故当時に医学的にも予想できなかった後遺症が生じたのであれば、その後遺症が顕在化したときが、消滅時効の起算点とされる。
・弁護士費用相当額の損害賠償請求権
不法行為時ではなく、弁護士への委任契約時を起算点とする。
・継続的不法行為の場合の損害賠償請求権
損害が性質上分断可能な被害の場合には、分割して把握可能な個々の損害の発生ごとに損害賠償請求権を観念でき、個々に消滅時効を観念できる。
継続的不法行為による被害を集積し、統一的に把握すべき累積的被害の場合は、全体として1個の損害賠償請求権を観念することにより、その累積的性質を損害賠償に反映させる。全体としての1個の損害賠償請求権につき消滅時効を観念し、被害者との関係で継続的加害行為が終了した時点を起算点とすべき
加害行為継続中に被害者が死亡したときは、被害者死亡時を起算点とすべき。
10.抗弁(その8)~20年の除斥期間
・除斥期間とは
被害者の認識の如何を問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの
←権利不行使の継続という事実により権利を消滅させることで権利関係の安定を図るという公益的要請に出たものであるから、私人たる権利者の意思を考慮する余地がない!
消滅時効との違い
①期間の延長が画一的・絶対的に遮断されること(中断・停止を認めないこと)
②援用が必要とされない
③20年の機関の抗弁が権利濫用・信義則違反の再抗弁の対抗を受けない
・除斥期間の始期
損害発生時説
損害が現実化した時点
←加害行為時と損害発生時との間に時間的間隔がある場合を考慮すると、損害発生前に機関の進行を認めるのはおかしい
判例は、不法行為の時とは、
①加害行為がされた時に損害が発生する不法行為の場合は加害行為の時。
②身体に蓄積した場合に人の健康を害することになる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、不法行為にり発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合は、
当該損害の全部または一部が発生したとき
・除斥期間の伸長
20年を経過する前6か月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しなかった場合につき、
民法158条の法意に照らし、724条後段の効果は生じないとするのは相当!
+(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
第百五十八条 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
・除斥期間の伸長(例その2)
民法160条の法意に照らすと、被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知りえない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま除斥期間が経過した場合にも、相続人は一切の権利行使をすることが許されず、相続人が確定しないということの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは、著しく正義公平の理念に反する!!!!
=724条後段の効果は生じない
+(相続財産に関する時効の停止)
第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
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