12-6 多数当事者訴訟 補助参加

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1.補助参加の意義
+(補助参加)
第四十二条  訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる

補助参加
当事者の一方の勝訴について法律上の利害関係を有する第三者が、その当事者を補助して訴訟追行するために訴訟に参加することを補助参加という。

補助参加人
第三者のこと

被参加人
補助される当事者

・補助参加人は、自ら請求を定立するものではなく、判決の名宛人にもならない。
しかし、一定の要件のもと、当事者の意思に反してでもすることができ、また、補助参加人は自らの名と費用において訴訟追行をすることができる。
←補助参加の趣旨が、当事者の一方を勝訴させることを通じて自らの法的利益を保護する機会を補助参加人に与えることだから。

2.補助参加の要件
(1)訴訟係属
補助参加は、他人間で訴訟が係属している間に限りすることができる。
←判決確定後であっても、補助参加を申し出つつ、再審の訴えを提起することは許される(45条1項)、と定められていることとの整合性に配慮したため
再審の場合を除いては訴訟係属は必要。

+(補助参加人の訴訟行為)
第四十五条  補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。ただし、補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないものは、この限りでない。
2  補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない。
3  補助参加人は、補助参加について異議があった場合においても、補助参加を許さない裁判が確定するまでの間は、訴訟行為をすることができる。
4  補助参加人の訴訟行為は、補助参加を許さない裁判が確定した場合においても、当事者が援用したときは、その効力を有する。

(2)補助参加の利益
ⅰ)補助参加の利益の意義
+(補助参加についての異議等)
第四十四条  当事者が補助参加について異議を述べたときは、裁判所は、補助参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、補助参加人は、参加の理由を疎明しなければならない。
2  前項の異議は、当事者がこれを述べないで弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後は、述べることができない。
3  第一項の裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

補助参加は訴訟関係の複雑化、訴訟遅延という不利益を当事者に与える可能性があるため、当事者が異議を述べた場合には、参加申出人が参加をすることに十分な利益を有する場合に限り補助参加を認める趣旨。

当事者が異議を述べない場合は補助参加の利益が職権で審査されることはない。
←補助参加人は参加時の訴訟状態を承認しなければならないなど権限が限定されており、補助参加の利益を職権で調査するほどには訴訟関係の複雑化や訴訟遅延による司法資源の浪費は生じないと考えられたから。

ⅱ)補助参加の利益の判断
他人間の訴訟の結果が、参加申出人の法的利益に対して、事実上の影響を及ぼす場合に認められる

a)訴訟の結果
①判決主文中の判断、つまり訴訟物たる権利関係の存否についての判断(訴訟物限定説)
訴訟物たる権利関係に関する判断が、実体法上、参加申出人と一方当事者との間の権利関係の論理的前提にあるといえる場合にのみ訴訟の結果についての利害関係を認める立場

②42条の訴訟の結果は、理由中の判断も含むとする見解(訴訟物非限定説)
そもそも既判力に復するわけではない第三者にとっては、判決主文中の判断も理由中の判断も事実上の影響を及ぼすにすぎず、区別する根拠はない。

①を支持する理由
一定の争点についてのみ被参加者を支援するための補助参加というものは想定されていない以上、訴訟物限定説の方が素直
訴訟物に利害関係のない者まで上訴や再審の訴えをなしうるとするのは疑問
補助参加人は、参加不許の裁判が確定するまでは訴訟行為をなし得るとされている以上、参加の利益の有無についての判断は迅速にされなければならないが、訴訟物非限定説だと争点整理終了までは参加の利益の有無について判断しえないという事態が発生する恐れがある。

+判例(H13.2.22)
理由
 抗告代理人大下慶郎、同納谷廣美、同西修一郎、同石橋達成の抗告理由について
1 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
 (1) 本件の本案訴訟(宇都宮地方裁判所平成10年(行ウ)第14号労災不支給処分取消請求事件)は、抗告人の小山工場に勤務していたAの妻である相手方が、Aの死亡は長時間労働の過労によるもので、業務起因性があるとして、栃木労働基準監督署長に対し労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて遺族補償給付等の請求をしたところ、これを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたので、その取消しを求める行政訴訟である。
 (2) 抗告人は、本案訴訟においてAの死亡につき業務起因性を肯定する判断がされると、相手方から労働基準法(以下「労基法」という。)に基づく災害補償又は安全配慮義務違反による損害賠償を求める訴訟を提起された場合に自己に不利益な判断がされる可能性があり、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)12条3項により次年度以降の保険料が増額される可能性があると主張し、栃木労働基準監督署長に対する補助参加を申し出たが、相手方はこれに対して異議を述べた。
2 原審は、概要次のとおり判示して、抗告人の補助参加の申出を却下すべきものとした。
 (1) 本案訴訟において業務起因性を肯定する判断がされたとしても、これによって相手方の抗告人に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求訴訟において当然に相当因果関係を肯定する判断がされるものではない上、後訴における抗告人の責任の有無、賠償額の範囲は、使用者の故意又は過失、過失相殺等の判断を経て初めて確定されるものであるから、本案訴訟における業務起因性についての判断が後訴における判断に事実上不利益な影響を及ぼす可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない
 (2) 徴収法12条3項は、本案訴訟の結果により当然に保険料が増額されることを定めたものではないから、保険料増額の可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。
3 しかしながら、原審の判断のうち上記(1)は是認することができるが、(2)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 労基法84条によると、労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れるものとされているから、本案訴訟において本件処分が取り消され、相手方に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を支給する旨の処分がされた場合には、使用者である抗告人は、労基法に基づく遺族補償給付等の支払義務を免れることになる。そうすると、本案訴訟において被参加人となる栃木労働基準監督署長が敗訴したとしても、抗告人が相手方から労基法に基づく災害補償請求訴訟を提起されて敗訴する可能性はないから、この点に関して抗告人の補助参加の利益を肯定することはできない。また、本案訴訟における業務起因性についての判断は、判決理由中の判断であって、労災保険法に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは、審判の対象及び内容を異にするのであるから、抗告人が本案訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。原決定中、抗告人の上記主張を排斥した部分は、これと同旨をいうものとして、是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。
 (2) 徴収法12条3項によると、同項各号所定の一定規模以上の事業については、当該事業の基準日以前3年間における「業務災害に係る保険料の額に第1種調整率を乗じて得た額」に対する「業務災害に関する保険給付の額に業務災害に関する特別支給金の額を加えた額から労災保険法16条の6第1項2号に規定する遺族補償一時金及び特定疾病にかかった者に係る給付金等を減じた額」の割合が100分の85を超え又は100分の75以下となる場合には、労災保険率を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるものとされている。そうすると、徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業においては、労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると、行政事件訴訟法33条の定める取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、当該事業の事業主は、労働基準監督署長の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有し、これを補助するために労災保険給付の不支給決定の取消訴訟に参加をすることが許されると解するのが相当である。したがって、抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には、当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当する場合には、本件処分が取り消されると、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、抗告人は、栃木労働基準監督署長を補助するために本案訴訟に参加することが許されるというべきである。原決定中、これと異なる見解に立って抗告人の補助参加の利益を否定した部分には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨はこの趣旨をいう限度で理由がある。
4 以上の次第で、原決定は破棄を免れず、本件については、抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には、当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当するかどうかにつき更に審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)

b)参加人の法的利益
他人間の訴訟の結果が事実上の影響を与える対象は、参加申出人の法的利益でなければならない。
法的利益は、財産法上のものに限らず、身分法条のものでも公法上刑事法条のものでもよい。

c)事実上の影響を及ぼす場合
他人間の訴訟の結果が参加人の法的地位に対して及ぼす影響は、法律上のものである必要はなく、事実上のもので足りる。
=既判力が直接補助参加人に及ぶことまでは必要なく、当事者間の判決の主文における判断または理由中の判断が(訴訟物限定説では主文における判断に限る)、補助参加人の法的地位の論理的前提となっている結果、被参加人が敗訴すれば、参加人に対する義務履行の請求がなされるであろうことが予想される、あるいは、被参加人と相手方との間になされた判決が、補助参加人を当事者とする後訴において参考にすることが予想される、という程度で足りる。

3.補助参加の手続
(1)補助参加の申出
+(補助参加の申出)
第四十三条  補助参加の申出は、参加の趣旨及び理由を明らかにして、補助参加により訴訟行為をすべき裁判所にしなければならない
2  補助参加の申出は、補助参加人としてすることができる訴訟行為とともにすることができる。

・参加申出はいつでも取り下げることができるといわれている。
①参加の申出は遡及的になかったものになるという理解
→参加的効力は当然には発生しないことになるため、取下げには、参加的効力の発生を期待していた被参加人の同意が必要であると解する
or
訴訟告知がなされたのと同視し得るため、参加的効力はなお発生することより、被参加人の同意は不要。

②遡及的に参加申出がなかったことになるわけではなく、ただ、以後参加人として訴訟行為をし、訴訟書類の送達を受ける権利を放棄したに過ぎないとする理解
→参加的効力は当然には消滅しないのであるから、申出の取下げに被参加人の同意は必要ない。

(2)補助参加の許否
+(補助参加についての異議等)
第四十四条  当事者が補助参加について異議を述べたときは、裁判所は、補助参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、補助参加人は、参加の理由を疎明しなければならない
2  前項の異議は、当事者がこれを述べないで弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後は、述べることができない
3  第一項の裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

4.補助参加人の地位
(1)請求の非定立
補助参加人は自らの固有の請求を持たない。

補助参加人は、証人となることも鑑定人となることもできる。

(2)独立的地位
+(補助参加人の訴訟行為)
第四十五条  補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。ただし、補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないものは、この限りでない。
2  補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない。
3  補助参加人は、補助参加について異議があった場合においても、補助参加を許さない裁判が確定するまでの間は、訴訟行為をすることができる。
4  補助参加人の訴訟行為は、補助参加を許さない裁判が確定した場合においても、当事者が援用したときは、その効力を有する。

補助参加人は、被参加人とは独立した手続的地位を有する

・判決正本は補助参加人にも送達されるが、補助参加人の上訴期間は独自に算定すべきか?
被参加人の上訴期間経過後に補助参加人が上訴する余地を認めない。

(3)従属的地位
+(補助参加人の訴訟行為)
第四十五条  補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。ただし、補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないものは、この限りでない
2  補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない
3  補助参加人は、補助参加について異議があった場合においても、補助参加を許さない裁判が確定するまでの間は、訴訟行為をすることができる。
4  補助参加人の訴訟行為は、補助参加を許さない裁判が確定した場合においても、当事者が援用したときは、その効力を有する。

・補助参加人の手続的地位は従属的である。
①補助参加人は、参加時に訴訟状態を承認しなければならない(45条1項ただし書き)
←参加による訴訟の遅延や混乱を最低限に抑制する趣旨

②補助参加人は、訴訟自体を処分することはできない。
←他人の請求について処分権を持たないことを反映した規律。
被参加人に不利であるからなしえないという面も。

③補助参加人は、被参加人の行為と抵触する行為をすることはできない。
←参加人の訴訟行為と被参加人の訴訟行為が抵触する場合には、被参加人の訴訟行為を優先させる趣旨。
なお、被参加人が相手方の主張を争わない場合、参加人はこの主張を争うことができる!!!
←争わないというのみでは被参加人の行為と抵触するとはいえないから!!!!

④補助参加人は被参加人に帰属する形成権を行使できない。
←被参加人に帰属する権利を行使するか否かは、被参加人に委ねられるべきだから。

⑤補助参加人につき訴訟手続の中止または中断事由が生じても訴訟手続は停止しない。

・補助参加人による自白の取扱い
補助参加人の自白は、被参加人に不利な訴訟行為として、そもそも効力を生じないとする見解もある。
←被参加人に不利に働く行為をするのは補助参加の趣旨に反する
いったん自白として効力が生じた後に、被参加人の抵触行為によって、その効力が失われるとすれば相手方の信頼が害される。


補助参加人は一切の訴訟行為をすることができるとする45条1項からは、裁判上の自白についてのみ他の訴訟行為と異なる取扱いをすることは説明しにくい
補助参加人が抗弁を提出する場合、原告の主張する事実を一定の限度で認めないと、主張の説得力を十分に維持しえない恐れが生じることもある
被参加人による撤回があり得るということが明らかであるかぎりは、補助参加人による自白を認めたとしても相手方の信頼が過度に害されるとはいえない。

5.参加的効力
(1)参加的効力の意義
+(補助参加人に対する裁判の効力)
第四十六条  補助参加に係る訴訟の裁判は、次に掲げる場合を除き、補助参加人に対してもその効力を有する。
一  前条第一項ただし書の規定により補助参加人が訴訟行為をすることができなかったとき。
二  前条第二項の規定により補助参加人の訴訟行為が効力を有しなかったとき。
三  被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき。
四  被参加人が補助参加人のすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかったとき。

・参加的効力
被参加人が敗訴した後、被参加人と補助参加人との間で訴訟となった場合、敗訴の原因となった認定について補助参加人はもはや争えない。
衡平上の要件であるため、当事者による援用がなければ、参加的効力は顧慮されない(⇔既判力は職権調査事項)。

+判例(S45.10.22)
理由
 上告代理人土田吉清の上告理由一ないし四、八および九について。
 まず、民訴法七〇条の定める判決の補助参加人に対する効力の性質およびその効力の及ぶ客観的範囲について考えるに、この効力は、いわゆる既判力ではなく、それとは異なる特殊な効力、すなわち、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であつて、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶものと解するのが相当である。けだし、補助参加の制度は、他人間に係属する訴訟の結果について利害関係を有する第三者、すなわち、補助参加人が、その訴訟の当事者の一方、すなわち、被参加人を勝訴させることにより自己の利益を守るため、被参加人に協力して訴訟を追行することを認めた制度であるから、補助参加人が被参加人の訴訟の追行に現実に協力し、または、これに協力しえたにもかかわらず、被参加人が敗訴の確定判決を受けるに至つたときには、その敗訴の責任はあらゆる点で補助参加人にも分担させるのが衡平にかなうというべきであるし、また、民訴法七〇条が判決の補助参加人に対する効力につき種々の制約を付しており、同法七八条が単に訴訟告知を受けたにすぎない者についても右と同一の効力の発生を認めていることからすれば、民訴法七〇条は補助参加人につき既判力とは異なる特殊な効力の生じることを定めたものと解するのが合理的であるからである。
 そこで、本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、訴外兵庫建設株式会社(旧商号兵庫県住宅建設株式会社)が、本件建物は同会社の所有であると主張して、被上告人株式会社テレビ西日本(以下被上告会社という。)に対し、その建物の一部である本件貸室の明渡などを請求した別件訴訟(大阪地裁昭和三四年(ワ)第五八三号、大阪高裁昭和三八年(ネ)第五三二号、同第六七七号、最高裁昭和三九年(オ)第一二〇九号)において、上告人は、その訴訟が第一審に係属中に、被上告会社側に補助参加し、以来終始、本件建物の所有権は、上告人が被上告会社に本件貸室を賃貸した昭和三三年五月三一日当時から、訴外兵庫建設株式会社にではなく、上告人に属していたと主張して、右請求を争う被上告会社の訴訟の追行に協力したが、それにもかかわらず、被上告会社は、その訴訟の結果、本件建物の所有権は、右賃貸当時から、訴外兵庫建設株式会社に属し、上告人には属していなかつたとの理由のもとに、全部敗訴の確定判決を受けるに至つたというのである。
 してみれば、右別件訴訟の確定判決の効力は、その訴訟の被参加人たる被上告会社と補助参加人たる上告人との間においては、その判決の理由中でなされた判断である本件建物の所有権が右賃貸当時上告人には属していなかつたとの判断にも及ぶものというべきであり、したがつて、上告人は、右判決の効力により、本訴においても、被上告会社に対し、本件建物の所有権が右賃貸当時上告人に属していたと主張することは許されないものと解すべきである。
 以上と同旨に出た原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。なお、民訴法七〇条所定の判決の補助参加人に対する効力に関する所論引用の大審院判例(昭和一四年(オ)第一二〇五号・同一五年七月二六日判決・民集一九巻一三九五頁)は、前記判示の限度において、変更すべきものである。したがつて、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同五ないし七について。
 原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、上告人が原審において主張しなかつた事項について原判決を非難し、または、独自の見解に立つて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三)

(2)参加的効力の要件
参加的効力を生じさせるためには補助参加人が十分に争う機会を保障されたということが必要である。
←敗訴の結果に補助参加人も加担したというのが、参加的効力の根拠だから。

具体的に
+(補助参加人に対する裁判の効力)
第四十六条  補助参加に係る訴訟の裁判は、次に掲げる場合を除き、補助参加人に対してもその効力を有する。
一  前条第一項ただし書の規定により補助参加人が訴訟行為をすることができなかったとき
二  前条第二項の規定により補助参加人の訴訟行為が効力を有しなかったとき
三  被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき
四  被参加人が補助参加人のすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかったとき

(3)参加的効力の客観的範囲・主体的範囲
・参加的効力は、訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけでなく、判決理由中の判断にも生じる。

しかし、訴訟告知に基づく参加的効力についての判断ではあるが、
あらゆる理由中の判断について生じるのではなく、判決の主文を導き出すために必要な主要事実にかかる法律判断についてのみ生じるとする。

+判例(H14.1.22)
理由
 上告代理人洪性模、同許功、同安由美の上告理由について
 1 本件訴訟は、被上告人が上告人に対し、家具等の商品(以下「本件商品」という。)の売買代金の支払を求めるものである。原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
  (1) 上告人は、カラオケボックス(以下「本件店舗」という。)建築のため、平成六年一〇月、白柳美佐男との間で店舗新築工事請負契約を締結した。
  (2) 被上告人は、白柳に対し、本件商品を含む家具等の商品を販売したとして、平成七年九月一八日、和歌山地方裁判所にその残代金の支払を求める訴えを提起した(同裁判所平成七年(ワ)第四六六号。以下、同訴訟を「前訴」という。)。
 前訴において、白柳は、被上告人が本件店舗に納入した本件商品を含む商品について、施主である上告人が被上告人から買い受けたものであると主張したことから、被上告人は、上告人に対し、平成八年一月二七日送達の訴訟告知書により訴訟告知をした。しかし、上告人は、前訴に補助参加しなかった。
  (3) 前訴につき、本件商品に係る代金請求部分について、被上告人の請求を棄却する旨の判決が言い渡され確定したが、その理由中に、本件商品は上告人が買い受けたことが認められる旨の記載がある。
 2 以上の事実関係の下において、原審は、旧民訴法七八条、七〇条所定の訴訟告知による判決の効力が被告知人である上告人に及ぶことになり、上告人は、本訴において、被上告人に対し、前訴の判決の理由中の判断と異なり、本件商品を買い受けていないと主張することは許されないとして、被上告人の請求を認容した。
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  (1) 旧民訴法七八条、七〇条の規定により裁判が訴訟告知を受けたが参加しなかった者に対しても効力を有するのは、訴訟告知を受けた者が同法六四条にいう訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるところ、ここにいう法律上の利害関係を有するとは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される(最高裁平成一二年(許)第一七号同一三年一月三〇日第一小法廷決定・民集五五巻一号三〇頁参照)。
 また、旧民訴法七〇条所定の効力は、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶものであるが(最高裁昭和四五年(オ)第一六六号同年一〇月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一一号一五八三頁参照)、この判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断とは、判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などをいうものであって、これに当たらない事実又は論点について示された認定や法律判断を含むものではないと解されるけだし、ここでいう判決の理由とは、判決の主文に掲げる結論を導き出した判断過程を明らかにする部分をいい、これは主要事実に係る認定と法律判断などをもって必要にして十分なものと解されるからである。そして、その他、旧民訴法七〇条所定の効力が、判決の結論に影響のない傍論において示された事実の認定や法律判断に及ぶものと解すべき理由はない。
  (2) これを本件についてみるに、前訴における被上告人の白柳に対する本件商品売買代金請求訴訟の結果によって、上告人の被上告人に対する本件商品の売買代金支払義務の有無が決せられる関係にあるものではなく、前訴の判決は上告人の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすものではないから、上告人は、前訴の訴訟の結果につき法律上の利害関係を有していたとはいえない。したがって、上告人が前訴の訴訟告知を受けたからといって上告人に前訴の判決の効力が及ぶものではない。しかも、前訴の判決理由中、白柳が本件商品を買い受けたものとは認められない旨の記載は主要事実に係る認定に当たるが、上告人が本件商品を買い受けたことが認められる旨の記載は、前訴判決の主文を導き出すために必要な判断ではない傍論において示された事実の認定にすぎないものであるから、同記載をもって、本訴において、上告人は、被上告人に対し、本件商品の買主が上告人ではないと主張することが許されないと解すべき理由もない。
 4 以上によれば、前訴の判決の理由中に本件商品は上告人が被上告人から買い受けたことが認められる旨の記載があるからといって、前訴の判決の効力が上告人に及び、上告人が本件商品の買主であるとして売買代金の支払を認めるべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人の本件商品の売買代金支払債務の有無について更に審理を遂げさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

・参加的効力は、補助参加人と被参加人との間にのみ生じる。

6.共同訴訟的補助参加
(1)共同訴訟的補助参加の意義
40条を一定程度類推適用することで補助参加人の権限を強化する共同訴訟的補助参加
解釈によって認められている。
←参加的効力の発生を待たずとも判決効が拡張するような場合にまで参加人に従属を強いるならば、参加人は、十分に手続権を行使しえないまま、自らの利益ないし権利を奪われる恐れがある。

+判例(S45.1.22)
理由
 上告代理人中村信逸の上告理由第一点について。
 およそ、民訴法七一条に基づく独立当事者参加の申出は、常に原被告双方を相手方としなければならず、当事者の一方のみを相手方とする参加の申出は、不適法であることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決民集二一巻七号一九二五頁参照)。また、独立当事者参加の申出は、参加人が当該訴訟において裁判を受けるべき請求を提出しなければならず、単に当事者一方の請求に対して訴却下または請求棄却の判決を求めるのみの参加の申出は許されないものと解するを相当とする。けだし、この種の参加の申出は、訴の提起たるの実質を有し、またもし参加人が訴却下または請求棄却の判決を求めるのみであるとすれば、当事者と参加人との間に審理裁判の対象となるべき請求が存しないこととなるからである。本件についてこれをみるに、被上告人Aは、第一審において、上告人と被上告人株式会社関口本店(以下被上告会社という)との間の訴訟につき民訴法七一条に基づく独立当事者参加の申出をしたが、上告人の被上告会社に対する訴につき、請求棄却および訴却下の判決を求めただけであつて、被上告人Aは被参加訴訟の当事者である上告人および被上告会社に対し何らの請求をもしなかつたことが、記録上明らかである。したがつて、被上告人Aの本件独立当事者参加の申出は不適法であるといわなければならない。これと見解を異にし、同被上告人の右参加の申出を適法とした原審および第一審の判断は違法であり、原判決中同被上告人に関する部分は、他の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れず、第一審判決中同部分を取り消し、同被上告人の本件独立当事者参加の申出を却下することとする。
 もつとも、被上告人Aは、予備的に民訴法六四条により被上告会社のために補助参加の申出をしていることは、記録上明らかであるところ、上告人の被上告会社に対する主位的請求および予備的請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有するから、右補助参加はいわゆる共同訴訟的補助参加であり、この種の補助参加については、同法六九条二項の適用はなく、同法六二条の準用をみるべきものである(最高裁昭和三七年(オ)一一二八号同四〇年六月二四日第一小法廷判決民集一九巻四号一〇〇一頁参照)。したがつて、原審が被上告人Aの訴訟行為につき、同法六九条二項を適用することなく、同法六二条の規定により被上告会社の利益に効力を生ずるものとして審理裁判したことは、上告人と被上告会社との間の訴訟手続に関する限り結局相当であり、論旨は、被上告会社に対する関係においては理由がないものといわなければならない。

 上告代理人鈴木八郎の上告理由第一点ないし第五点ならびに同中村信逸の上告理由第二点および第三点について。
 上告人の被上告会社に対する本件主位的請求および予備的請求のうち、清算人Cを解任し、Aを清算人に選任する旨の決議に関する部分については、原審において第一審判決を取り消し、これを大阪地方裁判所に差し戻す旨の判決をしている。控訴審において、第一審判決を取り消し、事件を第一審に差し戻す旨の判決があつた場合に、差戻を受けた第一審は、裁判所法四条の定めるところにより、右判決の取消の理由となつた法律上および事実上の判断に拘束されるのであるから(最高裁昭和二八年(オ)第八一七号同三〇年九月二日第二小法廷判決民集九巻一〇号一一九七頁参照)、同条所定の拘束力が生ずる取消の理由となつた控訴審判決の判断に不服のある控訴人は、右判決に対して上告をする利益を有し右判断の違法をいうことができるのであるが、控訴人において右判決の理由に不服があつても、これが取消の理由に対するものでない場合には、右控訴人は右判決に対し上告の利益を有しないものと解するのを相当とする。論旨は、原判決の違法をいうが、いずれも、原審が第一審判決を取り消す理由とした同条所定の拘束力のある判断の違法をいうものではないから、上告人の被上告会社に対する請求中清算人Cを解任し、Aを清算人に選任する旨の決議に関する部分については、上告適法の理由とすることができない。
 次に、論旨を、上告人の被上告会社に対する請求のうち、Bを監査役に選任する旨の決議に関する部分について審按する。およそ、社員として有する権利の行使の停止またはかかる権利行使許容の仮処分決定においては、裁判所が右仮処分によりみだりに会社の経営権争奪に介入することがないよう厳に戒しむべきものであることはいうまでもなく、右仮処分の申請はその必要最少限度においてのみ認容せらるべきものといわなければならない。そして、この種の仮処分決定は、右の趣旨に照らし、その決定中に明示された部分に限りその効力を生ずるものというべきである。したがつて、原審の認定した本件仮処分決定中いわゆる社員権行使許容を命じた部分は、右仮処分申請人である被上告人Aに対し、D名義の同決定判示の株式一五〇〇株についてのみ、株主としての権利行使を許しただけであつて、定款により株主総会における議決権行使の代理資格を株主に制限している被上告会社において、被上告人Aに株主Eの本件株主総会における議決権を代理行使する資格をも与えたものと解することはできないものといわなければならない。してみれば、右仮処分決定が右の効力をも有するものとし、被上告人AのしたEの議決権の代理行使を有効とした原審の判断は違法である。また、株式を相続により準共有するに至つた共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、当該株式につき株主の権利を行使すべき者一人を定めて会社に通知すべきところ、原審は、亡F名義の株式二〇〇〇株につき、その共同相続人から会社に対し、右の通知をしたかどうか、また何人が株主の権利を行使すべき者として定められたかについて、何ら判示するところがない。そして、被上告人AのしたEの議決権の代理行使を無効とする以上は、右通知の存否、内容のいかんによつては、本件株主総会においてBを監査役に選任する旨の議決は、成立しなかつたことになる。昭和三八年五月六日同人につき監査役選任の登記がされたことは原審の認定するところであり、したがつて、上告人の被上告会社に対する右決議の効力がないことの確定を求める本件主位的請求をたやすく排斥した原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れず、原判決と同旨の第一審判決も取り消すべく、第一審において更に審理を尽くさせるのを相当とし、右主位的請求を破棄差戻すべきものとする以上予備的請求の当否につき判断をする必要をみない場合もありうべきであるから、右決議に関する部分につき主位的請求に併せて予備的請求も大阪地方裁判所に差し戻すべきものとする。
 よつて、民訴法四〇八条、四〇七条一項、三八六条、三八九条、三九六条、三八四条、九四条、九五条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

(2)共同訴訟的補助参加の要件
・判決効が参加申出人に拡張する場合であること。
共同訴訟的補助参加の場合でも補助参加の利益は必要

・補助参加人は、補助参加の申出をする際に共同訴訟的補助参加であることを明示する必要はない。
裁判所は共同訴訟的補助参加の要件を満たす限り、そのように取り扱わなければならない。

・共同訴訟参加が可能である場合に補助参加が申し出られた場合には単純な補助参加として扱われる。
←共同訴訟的補助参加は明文規定のある参加形態では不十分な場合にのみ補充的に認められるという解釈

(3)共同訴訟的補助参加人の地位
・共同訴訟的補助参加人は、被参加人の訴訟行為と積極的に抵触する訴訟行為をなしうる(45条2項は適用されない)。

・参加人が、被参加人に上訴期間が経過した後も、自らの上訴期間内であれば上訴し得るかについては争いがある。

・参加人に中断または中止事由が生じた場合の取り扱いについても争いがある。

・参加人自身が、訴えの取り下げ、請求の放棄認諾、訴訟上の和解などの訴訟処分行為をなしえないことに争いはないが、
被参加人によるこれらの行為は、参加人と共に行わない限り効力を生じないといいうるかについても争いがある。

・参加人が、参加時に訴訟状態に拘束されるかという点も明らかではない。
従前の被参加人の訴訟追行が詐害的であるような場合は、詐害防止参加に委ねれば足りると考える立場も。


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民法 事例から民法を考える 11 強けりゃいい、ってもんじゃない


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Ⅰ はじめに
・代理受領の存在意義
譲渡することができない債権については、債権質も債権譲渡担保も実際上利用することができない。この場合になお債権を担保化しうる点に代理受領の存在意義がある!!

Ⅱ 代理受領の効力を考える前提~債権譲渡担保が利用されていた場合
1.債権譲渡の第三債務者への対抗

+(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条  指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない
2  前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

+(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第四百六十八条  債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2  譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる

・第三債務者の承諾は譲渡の事実を認識したという観念の表示で足りる

・抗弁切断効の根拠
譲受人の信頼保護および債権取引の安全の保障の必要性
第三債務者の矛盾的態度の禁止

・抗弁切断効は468条1項による法定の効果。

2.債権譲渡と相殺
・第三債務者が譲受人に対抗することができるのは、債権譲渡の通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由に限られる

・差押えと相殺
差押時に自働債権と受働債権がともに存在するならば、両債権の弁済期の先後を問わず、相殺適状に達すれば相殺することができる(無制限説)
+判例(S45.6.24)
理由
上告代理人広木重喜、同天野五平、同坂梨良宏、同由布惟友、同木村穰名義の上告理由について。
国税債権が一般債権者に対する関係において優先的地位を与えられる場合のあることは所論のとおりであるが、旧国税徴収法(昭和三四年法律一四七号による改正前のもの。以下同じ。)による滞納処分としての債権の差押およびこれに伴う法定取立権の制度は、強制執行による一般の債権の差押および取立命令の制度とその実質において異なるところはなく、第三債務者の相殺権に及ぼす効力についても、国税滞納処分であることまたは旧国税徴収法に基づく法定取立権であることの故に、これを別異に取り扱うべき実定法上の根拠はない。したがつて、その差押が第三債務者の相殺権に及ぼす効力についても、民法の相殺に関する規定の解釈の問題として考慮すれば足りるものというべきである。
ところで、相殺の制度は、互いに同種の債権を有する当事者間において、相対立する債権債務を簡易な方法によつて決済し、もつて両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であつて、相殺権を行使する債権者の立場からすれば、債務者の資力が不十分な場合においても、自己の債権については確実かつ十分な弁済を受けたと同様な利益を受けることができる点において、受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能を営むものである。相殺制度のこの目的および機能は、現在の経済社会において取引の助長にも役立つものであるから、この制度によつて保護される当事者の地位は、できるかぎり尊重すべきものであつて、当事者の一方の債権について差押が行なわれた場合においても、明文の根拠なくして、たやすくこれを否定すべきものではない
およそ、債権が差し押えられた場合においては、差押を受けた者は、被差押債権の処分、ことにその取立をすることを禁止され(民訴法五九八条一項後段)、その結果として、第三債務者もまた、債務者に対して弁済することを禁止され(同項前段、民法四八一条一項)、かつ債務者との間に債務の消滅またはその内容の変更を目的とする契約、すなわち、代物弁済、更改、相殺契約、債権額の減少、弁済期の延期等の約定などをすることが許されなくなるけれども、これは、債務者の権能が差押によつて制限されることから生ずるいわば反射的効果に過ぎないのであつて、第三債務者としては、右制約に反しないかぎり、債務者に対するあらゆる抗弁をもつて差押債権者に対抗することができるものと解すべきである。すなわち、差押は、債務者の行為に関係のない客観的事実または第三債務者のみの行為により、その債権が消滅しまたはその内容が変更されることを妨げる効力を有しないのであつて、第三債務者がその一方的意思表示をもつてする相殺権の行使も、相手方の自己に対する債権が差押を受けたという一事によつて、当然に禁止されるべきいわれはないというべきである。
もつとも、民法五一一条は、一方において、債権を差し押えた債権者の利益をも考慮し、第三債務者が差押後に取得した債権による相殺は差押債権者に対抗しえない旨を規定しているしかしながら、同条の文言および前示相殺制度の本質に鑑みれば、同条は、第三債務者が債務者に対して有する債権をもつて差押債権者に対し相殺をなしうることを当然の前提としたうえ、差押後に発生した債権または差押後に他から取得した債権を自働債権とする相殺のみを例外的に禁止することによつて、その限度において、差押債権者と第三債務者の間の利益の調節を図つたものと解するのが相当である。したがつて、第三債務者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解すべきであり、これと異なる論旨は採用することができない。
つぎに、原審が確定したところによれば、被上告銀行と訴外浅田工業株式会社(以下訴外会社という。)との間に本件差押前に締結された継続的取引の約定書には、その第九条第一項本文として「左の場合には、債務の全額につき弁済期到来したるものとし、借主(訴外会社をいう)又は保証人の被告銀行(被上告銀行)に対する預金その他の債権と弁済期の到否にかかわらず、任意相殺されても異議がなく、請求次第債務を弁済する」との条項が、そして同項第三号として「借主又は保証人につき、仮処分差押仮差押の申請、支払停止、破産若くは和議の申立てがあつたとき」との条項が存し、被上告銀行は、右特約に基づき、本件差押当日現在被上告銀行が訴外会社に対して有していた原判示の貸付金債権合計六、一〇六、〇〇〇円、および同日現在訴外会社が被上告銀行に対して有していた原判示の預金等の債権合計六、五〇三、九二八円の両者について、本来の弁済期未到来の債権については各弁済期が同日到来したものとして、昭和三五年三月二一日本件第一審の口頭弁論において、上告人に対し、前者を自働債権とし、後者を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をしたというのである。
右認定の事実によれば、右特約は、訴外会社またはその保証人について前記のように信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合においては、被上告銀行の訴外会社に対する貸付金債権について、訴外会社のために存する期限の利益を喪失せしめ、一方、同人らの被上告銀行に対する預金等の債権については、被上告銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意と解することができるのであつて、かかる合意が契約自由の原則上有効であることは論をまたないから、本件各債権は、遅くとも、差押の時に全部相殺適状が生じたものといわなければならない。そして、差押の効力に関して先に説示したところからすれば、被上告銀行のした前示相殺の意思表示は、右相殺適状が生じた時に遡つて効力を生じ、本件差押にかかる訴外会社の債権は、右相殺および原審認定の弁済により、全部消滅に帰したものというべきである。
したがつて、これと結論を同じくする原審の判断は、結論において正当であり、これと異なる所論は、ひつきよう、独自の見解のもとに原判決を論難するに帰し、採用することができない。なお、相殺と差押の効力、およびいわゆる相殺予約の効力に関し、さきに当裁判所が示した見解(昭和三六年(オ)第八九七号同三九年一二月二三日大法廷判決、民集一八巻一〇号二二一七頁)は、右の限度において、変更されるべきものである。
よつて、本件上告は、これを棄却すべきものとし、民訴法三九六条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、裁判官岩田誠の補足意見、裁判官松田二郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎の意見、裁判官入江俊郎、同長部謹吾、同城戸芳彦、同田中二郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

+判例(S51.11.25)
理由
上告代理人宮内勉の上告理由について
原審は、(一)上告人が訴外株式会社継谷商店(以下「訴外会社」という。)に対する九四万四八八一円の約束手形金債権の執行保全のため、訴外会社の被上告人に対する本件預託金返還請求権につき仮差押の申請をし、神戸地方裁判所の発した仮差押決定が昭和四三年六月八日被上告人に送達され、次いで、上告人は訴外会社に対する右約束手形金請求事件の勝訴判決に基づいて本件預託金返還請求権につき差押・転付命令の申請をし、同裁判所の発した差押・転付命令が同年八月三日訴外会社及び被上告人に送達されたこと、(二)被上告人は、昭和四〇年一二月三一日訴外会社と銀行取引約定を締結したうえ訴外会社の割引依頼により約束手形二三通(金額合計三六五〇万〇九三八円)を割引いたが、右銀行取引約定には、(イ)訴外会社が「仮差押、差押もしくは競売の申請または破産、和議開始、会社整理開始もしくは会社更生手続開始の申立があつたとき、または清算にはいつたとき。」(銀行取引約定書五条一項一号)には、訴外会社が割引を受けた全部の手形について、被上告人から通知催告等がなくても当然手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに弁済する旨(同六条一項)、(ロ)「期限の到来または前二条によつて、貴行(被上告人)に対する債務を履行しなければならない場合には、その債務と私(訴外会社)の諸預け金その他の債権とを、期限のいかんにかかわらずいつでも貴行は相殺することができます。」旨(同七条一項)が定められていること、(三)被上告人は、前記仮差押決定を受けたので、右銀行取引約定に基づき、右仮差押申請のあつた時点をもつて当然訴外会社に対する割引手形買戻請求権が発生し、かつ、その弁済期が到来したものとして、転付債権者である上告人に対し、昭和四三年九月二五日付書面をもつて、金額二一一万九二三五円の約束手形(満期同年七月三〇日、同年四月一〇日割引)の買戻請求権(本件手形買戻請求権)を自働債権とし、本件預託金返還請求権(その弁済期は、同年九月一四日に到来した。)を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をし、同書面がそのころ上告人に到達したこと、以上の事実を認定したうえ、前記銀行取引約定は、割引依頼人に対し仮差押の申請があつたなどその信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、銀行が割引いた約束手形について、その支払期日前でも、なんらの通知催告等を要せず当然に割引手形買戻請求権を生ぜしめ、一方、割引依頼人の銀行に対する預金等の債権については、銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意と解することができ、このような合意は、契約当事者間ではもとより、割引依頼人の銀行に対する預託金返還請求権につき差押・転付命令を得た債権者に対する関係でも有効である旨を説示し、被上告人の前記相殺の意思表示は、本件手形買戻請求権と本件預託金返還請求権とが相殺適状を生じた昭和四三年九月一四日に遡つて効力を生じ、本件預託金返還請求権は右相殺により全部消滅したものと判断した。
上告理由第一は、本件手形買戻請求権の発生年月日についての原審の前記(三)の認定判断に理由齟齬があるというのであるが、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
上告理由第二は、被上告人と訴外会社との間の前記銀行取引約定が第三者である上告人に対する関係でも有効であるとした原審の判断は、判例(最高裁昭和三六年(オ)第八九七号同三九年一二月二三日大法廷判決・民集一八巻一〇号二二一七頁)に反するというのである。しかし、第一に、銀行の貸付金債権について、債務者にその信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合に、債務者の有する右貸付金債務の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する債権につき銀行が期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意が、差押債権者に対する関係においても効力を有すること、また、第二に、債務者に対して仮差押等の申請がされることは、債務者の信用を悪化させる定型的な徴候と解することができ、特段の事情のない限り(本件では、このような特段の事情の存在について主張立証はない。)、これをもつて上記の期限の利益喪失事由とすることが許されるべきであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和三九年(オ)第一五五号同四五年六月二四日大法廷判決・民集二四巻六号五八七頁、同昭和四二年(オ)第九〇〇号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一〇〇号三三三頁)、所論引用の判例は右大法廷判決によつて変更されたものである。そうして、今日の銀行取引において行われる手形割引は、割引手形の主債務者の信用が基礎にあるなどの点で、純然たる消費貸借契約とは性質を異にする一面を有するとはいえ、広い意味において割引依頼人に対する信用供与の手段ということができ、割引銀行としては、直接の取引先である割引依頼人に信用悪化の事態が生じた場合には、その資金の早期かつ安全な回収をはかろうと意図することは自然かつ合理的であり、その回収の手段として、一定の場合に、割引手形の満期前においても割引手形買戻請求権が発生するものとするとの事実たる慣習が形成され、全国的に採用されている定型的な銀行取引約定の中にその旨が明文化されるに至つていることは、公知の事実である(最高裁昭和三八年(オ)第一〇〇三号同四〇年一一月二日第三小法廷判決・民集一九巻八号一九二七頁、同昭和四三年(オ)第九三四号同四六年六月二九日第三小法廷判決・裁判集民事一〇三号二九三頁参照)。債務者の期限の利益喪失の事由とすることが許容される前記の一定の客観的事情が割引依頼人について生じた場合には、割引依頼人が割引を受けた全部の手形につき、銀行からなんらの通知催告がなくても当然に割引手形買戻請求権が発生し、割引依頼人は右買戻債務を直ちに弁済しなければならない旨の前記銀行取引約定が、割引依頼人の銀行に対する預託金返還請求権につき仮差押をしたうえ差押・転付命令を得た債権者に対する関係でも、原則として有効であることは、当裁判所の判例の趣旨に徴しても明らかであり(前掲各判例のほか、最高裁昭和四三年(オ)第七七八号同四五年六月一八日第一小法廷判決・民集二四巻六号五二七頁、同昭和四七年(オ)第一三一六号同四八年五月二五日第二小法廷判決・裁判集民事一〇九号二六九頁参照)、本件手形買戻請求権は、本件仮差押決定が被上告人に送達されてその効力を生ずる以前に、被上告人の取得するところとなつていたものというべきであるから、これを自働債権として、右仮差押ののちにした本件相殺は有効であり、これと同趣旨の原審の判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

・債権譲渡と相殺においても上記と同様に解するならば、乙債権が譲渡された場合であっても、Dは債務者対抗要件が備わった時にSに対して反対債権を有していれば、両債権の弁済期の先後を問わず、相殺適状に達すれば相殺をすることができる・・・
⇔債権譲渡の場合には相殺者の保護が弱められてもいいのではないか・・・
←第三債務者は、債権譲渡禁止特約によって債権譲渡のために相殺ができなくなる事態を自ら防ぐことができるから、それをしなかった場合には譲受人に敗れることになっても仕方がない・・・

3.本事例において債権譲渡担保が利用されていた場合

・承諾
承諾に際して特段の留保を付さなかった場合は異議をとどめなかったことになる。

・譲渡禁止特約の機能
①事務の煩雑化の回避
②過誤払の危険の回避
③相殺利益の確保

Ⅲ 代理受領~特に第三債務者に対する効力について
1.代理受領の意義
・譲渡禁止特約に反してされた債権譲渡は無効!!

・譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗することはできないが、重過失は悪意と同視される!!
→特約の存在が周知化している場合には第三債務者は、譲渡禁止特約を譲受人に対抗することができる!!
+(債権の譲渡性)
第四百六十六条  債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

・代理受領の流れ
債権者が債務者の第三債務者に対する乙債権の弁済の受領の準委任を受ける
弁済を受領
債務者が債権者に対して、債権者が第三債務者から受領した金銭の支払いを求める丙債権を取得
丙債権と甲債権を相殺

+(準委任)
第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
+(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条  受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2  受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

2.第三債務者による債務者への弁済
・受領する権限がGに与えられ、これをDが承認した場合において、その後にDが乙債権の弁済をSに対してしたとき、GはDに対して法的主張ができるか・・・?

担保目的であることを知ってDが乙債権についての代理受領の承認をした場合には、その承認は、代理受領によってSに対する債権の満足を得られるというGの利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然に包含する者と解すべきであるから、代理受領の承認後にDがSに弁済したときにはそれによって乙債権は消滅する!!!が、Dはその弁済をするにつき正当な理由がない限り不法行為責任を負う!!!

+判例(S44.3.4)
理由
上告代理人上田明信、同鎌田泰輝の上告理由(一)について。
所論は、訴外東海航空測量株式会社(以下、東海航空測量という。)は昭和三四年一一月下旬北海道開発局函館開発建設部(以下、函館開発建設部という。)に対し、訴外Aに対する代理受領の委任を解除した旨を通知し、右通知によつてAの代理受領の権限は消滅し、被上告人には、函館開発建設部のした本件請負代金の支払によつて侵害されるべき利益はない旨主張する。
しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定したところによれば、東海航空測量は昭和三四年五、六月頃Aに対して、東海航空測量の函館開発建設部に対する本件請負代金債権の受領の代理権を与えてその受領を委任したというのであるから、右認定にかかる代理権授与の契約は、右委任の契約と一体をなしているものと解すべきである。また一方、原判決によれば、東海航空測量がした右委任契約を解除する旨の意思表示はその効力を生じない旨判示されており、右原判示も正当として是認できるのである。そうすると、所論代理受領の権限は消滅することなくなお存続しているものと解すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当である。右代理権は、函館開発建設部に対する解除の通知によつて消滅したという所論の見解には賛成することができず、右見解を前提とする論旨は採用することができない。
同(二)について。
所論は、(イ)函館開発建設部は、代理受領権者であるAに対して本件請負代金の支払をすることを妨げないとともに、東海航空測量に対しても有効に支払ができるのであるから、右支払が被上告人に対する関係で当然に違法になることはない、(ロ)これを違法として不法行為の成立を認めた原判示は矛盾している旨主張する。
しかし、原判決において、原審が挙示の証拠により適法に確定したところによれば、本件請負代金債権は、被上告人の東海航空測量に対する本件手形金債権の担保となつており、函館開発建設部は、本件代理受領の委任状が提出された当時右担保の事実を知つて右代理受領を承認したというのである。そして右事実関係のもとにおいては、被上告人は、Aが同建設部から右請負代金を受領すれば、右手形金債権の満足が得られるという利益を有すると解されるが、また、右承認は、単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理受領によつて得られる被上告人の右利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解すべきであり、したがつて、同建設部としては、右承認の趣旨に反し、被上告人の右利益を害することのないようにすべき義務があると解するのが相当である。しかるに、原判決によれば、同建設部長Bは、右義務に違背し、原判示の過失により、右請負代金を東海航空測量に支払い、Aがその支払を受けることができないようにしたというのであるから、右Bの行為は違法なものというべく、したがつて、原審が結局上告人に不法行為責任を認めた判断は正当である。そして函館開発建設部の東海航空測量に対する支払が有効であるとしても、原審が、右支払のされたことのみによつて直ちに原判示の過失を認めたものでないことは、原判文により明らかであるから、原判決に所論の矛盾は存在しない。論旨は採ることができない。
同(三)について。
原判決挙示の証拠関係に照らせば、所論(イ)の点に関する原審の認定判断は首肯するに足りる。論旨は、ひつきよう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。また、Bの過失に基づいて上告人の不法行為責任を認めた原審の判断が是認できることは、右上告理由(二)について説示したとおりであつて、所論(ロ)は、正当な原判示にそわない事柄を前提として原判決を攻撃するものであるから採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

3.第三債務者による相殺
・弁済の場合と異なり、代理受領を承認したDが相殺により乙債権を消滅させることについては、原則として、正当な理由が認められ、それが不法行為を構成することはない!

・自衛手段を講じた第三債務者の総裁の担保的利益を、その成立が時間的に遅れるという理由の実で、代理受領の担保利益に劣後させることは適当ではない!

4.本件相殺の効力
・譲渡禁止特約
→本件代金債権を受働債権とする相殺の利益を確保した!
・本件相殺の自働債権である本件違約金債権は、Bが本件代理受領を承認する前に発生したもの。弁済期も到来。
→相殺により本件代金債権消滅。不法行為にもならない。
・・・。
でも本件相殺は、Cが本件代理受領の利益のBによる尊重を信じたからこそ、されるに至ったという事情が・・・

Ⅳ おわりに


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民法 事例で学ぶ民法演習 25 債務不履行と損害賠償


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1.小問1について(基礎編その1)
+(履行の強制)
第四百十四条  債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3  不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4  前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

+(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

+(解除権の行使)
第五百四十条  契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2  前項の意思表示は、撤回することができない。

2.小問1について(基礎編その2)
・債務不履行における損害賠償の範囲は履行利益
←不履行によって生じた損害の賠償だから。
・履行利益=債務が履行されたならばあったであろう状態と現在の状態の差

+(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

予見可能性の主体は債務者!!
判断基準時は債務の不履行時

・中間最高価格
+判例(大正14.5.22)
要旨
価格高騰事実とその高騰が予見可能であったことのほか、騰貴した価格で確実に利益を収めたであろうことが立証できれば、「特別損害」としてその価格を基準とした賠償が認められる。

・価格上昇
+判例(S47.4.20)
理由
上告代理人藤井瀧夫の上告理由第一点について。
原審は、訴外Aおよび同Bは、いずれも、弁護士である訴外Cから、被上告人丸文株式会社と上告人との間に一たん成立した本件土地および建物の売買契約がすでに有効に解除され、上告人はもはやその所有者ではない旨の説明を受けたため、これを信用して、右土地および建物を買い受けたものであると認定しているのであり、そして、原審の右認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではない。したがつて、訴外Aおよび同Bが、いずれも、上告人が本件土地および建物の所有者であることを認識しながら、これを買い受けたものであることを前提として、右AおよびBによる右土地および建物の各買受けは公序良俗に違反するものであつて無効であり、また、同人らは上告人の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しない背信的悪意者であるという上告人の主張は、結局、理由がない。また、訴外Cは、被上告人丸文株式会社と訴外Aとの間の本件土地および建物の売買契約については、契約締結のあつせんをしたものにすぎず、その実質上の買主となつたものではないとする原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではないから、右Cがその実質上の買主であることを前提として、右売買契約は弁護士法二八条に違反するという上告人の主張も、理由がない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するか、または、原審の認定にそわない事実関係を前提として原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二点について。
論旨は、要するに、原審が、被上告人丸文株式会社と上告人との間に成立した本件土地および建物の売買契約にもとづく右被上告人の所有権移転義務の履行不能による損害賠償額を、原審の口頭弁論終結時における右土地および建物の価値を基準として算定せず、履行不能時におけるその価格を基準として算定した点に、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤つた違法、ないしは、審理不尽、理由不備の違法があるというにある。
そこで、考えるに、およそ、債務者が債務の目的物を不法に処分したために債務が履行不能となつた後、その目的物の価格が騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を知つていたかまたはこれを知りえた場合には、債権者は、債務者に対し、その目的物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものであることは、すでに当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第一三五号同三七年一一月一六日第二小法廷判決・民集一六巻一一号二二八〇頁参照。)。そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。けだし、このような場合であつても、右不動産の買主は、右のような債務不履行がなければ、騰貴した価格のあるその不動産を現に保有しえたはずであるから、右履行不能の結果右買主の受ける損害額は、その不動産の騰貴した現在の同格を基準として算定するのが相当であるからである。
ところで、上告人は、原審において、上告人が被上告人丸文株式会社から買い受けた本件士地および建物の価格は、右被上告人がその所有権移転義務を履行不能とした後も、騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、右被上告人は、不動産業を営む者であつて、右義務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在することを充分に知つていたかまたはこれを知りえたものというべきであるから、上告人は、右被上告人に対し、右土地および建物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができると主張して、右履行不能後の昭和三八年一二月当時における右土地および建物の価格である金六四七万二〇〇〇円に相当する損害額の賠償を請求していたことは、原判文および本件記録に徴して、明らかである。
しかるに、原審は、単に、上告人は本件土地および建物を自己の住居の用に供するために買い受けたものであつてこれを他に転売する目的で買い受けたものではなかつたことが明白であるし、本件の所有権移転義務の履行不能はその履行期以後に生じたものであるから、右履行不能の結果上告人の受ける損害額は右士地および建物の履行不能時の価格を基準として算定するのが相当であるという第一審判決の判示をそのまま引用するだけで、右土地および建物の価格の騰貴について上告人の主張するような特別の事情が存在するか否か、また、そのような特別の事情が存在する場合には、被上告人丸文株式会社が、右土地および建物の所有権移転義務を履行不能とした際、その特別の事情の存在を知つていたか否か、または、これを知りえたか否かについては、何らの判断も示すことなく、上告人の右主張を排斥しているのである。
しかし、これでは、原審は、上告人の右主張を排斥するにあたり、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては、上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求に関する判断につき審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわざるをえないから、原判決の右違法を指摘する本論旨は、理由があるというべきである。
したがつて、原判決中上告人敗訴部分のうち上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求、すなわちその予備的請求に関する部分は、上告理由第三点について判断するまでもなく、破棄を免れない。附帯上告人丸文株式会社の附帯上告について。
附帯上告は、それが上告理由と別個の理由にもとづくものであるときは、民訴規則五〇条の定める当該上告についての上告理由書提出期間内に附帯上告状を裁判所に提出してすることを要するものであり(当裁判所昭和三七年(オ)第九六三号同三八年七月三〇日第三小法廷判決・民集一七巻六号八一九頁参照。)、そして、本件附帯上告状記載の附帯上告理由が本件上告理由書記載の上告理由と別個の理由にもとづくものであることは、右両者を対比して、明らかであるところ、本件記録によれば、本件上告についての上告受理通知書が上告人の代理人藤井瀧夫に送達されたのは昭和四四年一月一三日であり、また、本件附帯上告状が当裁判所に提出されたのは昭和四六年一一月五日であることが認められるから、本件附帯上告状は本件上告についての上告理由書提出期間の経過後に提出されたものであることが明らかである。したがつて、本件附帯上告は、不適法であつて却下を免れない。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三九九条ノ三、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

3.小問2について
+(占有回収の訴え)
第二百条  占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2  占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

・占有補助者、占有機関という概念を用いることで、独自の占有訴権を認めない発想。

+(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条  前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

「被害者」には賃借人や受寄者も含まれる!!
占有補助者は被害者には当たらない。

4.小問3について
+(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。


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会社法 事例で考える会社法 事例19 ゴルフ場経営会社の事業譲渡・会社分割と預託金返還請求


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Ⅰ はじめに

+(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第二十二条  事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う
2  前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3  譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4  第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。

Ⅱ 預託金会員制ゴルフクラブをめぐる紛争
(1)預託金会員制ゴルフクラブ
(2)ゴルフ事業の譲渡・会社分割と預託金返還請求

+(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)
第二十三条の二  譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から二十年を経過したときも、同様とする。
3  譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

+(株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等)
第七百五十九条  吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。
2  前項の規定にかかわらず、第七百八十九条第一項第二号(第七百九十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる吸収分割会社の債権者であって、第七百八十九条第二項(第三号を除き、第七百九十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の各別の催告を受けなかったもの(第七百八十九条第三項(第七百九十三条第二項において準用する場合を含む。)に規定する場合にあっては、不法行為によって生じた債務の債権者であるものに限る。次項において同じ。)は、吸収分割契約において吸収分割後に吸収分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、吸収分割会社に対して、吸収分割会社が効力発生日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。
3  第一項の規定にかかわらず、第七百八十九条第一項第二号の規定により異議を述べることができる吸収分割会社の債権者であって、同条第二項の各別の催告を受けなかったものは、吸収分割契約において吸収分割後に吸収分割承継株式会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。
4  第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
5  前項の規定は、前条第八号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。
6  吸収分割承継株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をしたことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。効力発生日から二十年を経過したときも、同様とする。
7  吸収分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。
8  次の各号に掲げる場合には、吸収分割会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、当該各号に定める者となる。
一  前条第四号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの株式の株主
二  前条第四号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの社債の社債権者
三  前条第四号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権の新株予約権者
四  前条第四号ニに掲げる事項についての定めがある場合 同号ニの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者
9  前条第五号に規定する場合には、効力発生日に、吸収分割契約新株予約権は、消滅し、当該吸収分割契約新株予約権の新株予約権者は、同条第六号に掲げる事項についての定めに従い、同条第五号ロの吸収分割承継株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。
10  前各項の規定は、第七百八十九条(第一項第三号及び第二項第三号を除き、第七百九十三条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第七百九十九条の規定による手続が終了していない場合又は吸収分割を中止した場合には、適用しない。

+(株式会社を設立する新設分割の効力の発生等)
第七百六十四条  新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。
2  前項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、第八百十条第二項(第三号を除き、第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の各別の催告を受けなかったもの(第八百十条第三項(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。)に規定する場合にあっては、不法行為によって生じた債務の債権者であるものに限る。次項において同じ。)は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割会社に対して、新設分割会社が新設分割設立株式会社の成立の日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。
3  第一項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、同条第二項の各別の催告を受けなかったものは、新設分割計画において新設分割後に新設分割設立株式会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。
4  第一項の規定にかかわらず、新設分割会社が新設分割設立株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って新設分割をした場合には、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。
5  前項の規定は、前条第一項第十二号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。
6  新設分割設立株式会社が第四項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、新設分割会社が残存債権者を害することを知って新設分割をしたことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。新設分割設立株式会社の成立の日から二十年を経過したときも、同様とする。
7  新設分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して第四項の規定による請求をする権利を行使することができない。
8  前条第一項に規定する場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、同項第六号の株式の株主となる。
9  次の各号に掲げる場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、当該各号に定める者となる。
一  前条第一項第八号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの社債の社債権者
二  前条第一項第八号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの新株予約権の新株予約権者
三  前条第一項第八号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者
10  二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合における前二項の規定の適用については、第八項中「新設分割計画の定め」とあるのは「同項第七号に掲げる事項についての定め」と、前項中「新設分割計画の定め」とあるのは「前条第一項第九号に掲げる事項についての定め」とする。
11  前条第一項第十号に規定する場合には、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画新株予約権は、消滅し、当該新設分割計画新株予約権の新株予約権者は、同項第十一号に掲げる事項についての定めに従い、同項第十号ロの新設分割設立株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。

Ⅲ ゴルフ場事業の譲渡と会社法22条1項等
1.会社法22条1項の適用
・「商号を引き続き使用」
取引通念上同一の事業主体であると債権者が誤解する程度に類似しているか・・・。

2.会社法22上1項の類推適用
(1)類推適用の可否
・ゴルフクラブの名称が同じ・・・
+判例(H16.2.20)
理由
上告代理人上谷佳宏、同木下卓男、同幸寺覚、同笠井昇、同福元隆久、同山口直樹、同今井陽子、同松元保子、同小野法隆の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) A(以下「A」という。)は、ゴルフ場その他スポーツ施設の運営等を業とする会社であり、「B」という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営していた。
(2) 上告人は、平成元年8月28日、Aに対し、1300万円を預託し(以下、この預託金を「本件預託金」という。)、本件クラブの正会員の資格を取得した。
(3) 被上告人は、Aから本件ゴルフ場の営業を譲り受け、それ以降、Aの商号は用いていないものの、本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしている。

2 本件は、上告人が、被上告人に対し、本件ゴルフ場の営業を譲り受け、本件クラブの名称を継続して使用している被上告人は、商法26条1項の類推適用により、本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して、本件預託金及び遅延損害金の支払を求める事案である。なお、原判決においては、被上告人が上記営業を譲り受けるに際しAが本件クラブの会員に対して負担している預託金返還債務の引受けをしたという事実は、認定されていない。

3 原審は、次のとおり判断して、上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し、上告人の請求を棄却した。
ゴルフ場の営業主体である企業は、その商号とは別にゴルフクラブの名称を営業上使用することが多い。しかしながら、ゴルフクラブの会員が入会に当たりゴルフクラブの名称に寄せる信頼の内実は、優先的利用が可能なゴルフ場施設の充実度や至便性、会員の社会的地位により表象されるブランドそのものであって、ゴルフ場の営業主体である企業の取引上の信用や営業用財産ではない。これに対し、ゴルフクラブの会員が、預託金の返還請求をする場合に信頼のよりどころとなるのは、ゴルフクラブの名称により表象されるブランドではなく、商号により表象されるゴルフ場の営業主体である。そして、一般に、ゴルフクラブの名称とゴルフ場の営業主体とが異なることは、ゴルフ会員権を購入する者であれば容易に知り得るところである。したがって、本件ゴルフ場の営業を譲り受けた被上告人が、本件クラブの名称を継続して使用していることを理由に、商法26条1項の類推適用を認め、被上告人に本件預託金の返還義務を負わせることは相当ではない。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
預託金会員制のゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業においては、当該ゴルフクラブの名称は、そのゴルフクラブはもとより、ゴルフ場の施設やこれを経営する営業主体をも表示するものとして用いられることが少なくない。本件においても、前記の事実関係によれば、Aから営業を譲り受けた被上告人は、本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしているというのであり、同クラブの名称が同ゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられているとみることができる。このように、預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会員において、同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは、無理からぬものというべきである。したがって、譲受人は、上記特段の事情がない限り、商法26条1項の類推適用により、会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。
5 以上のとおりであるから、本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく商法26条1項の類推適用を否定した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記特段の事情の存否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

++解説
《解  説》
 1 本件は,預託金会員制のゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用している場合,譲受人が,商法26条1項の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うか否かが争われた事案である。
 2 A社は,「甲」という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営していた。Xは,平成元年8月,A社に対し,1300万円を預託し(以下,この預託金のことを「本件預託金」という。),本件クラブの正会員の資格を取得した。Yは,A社から本件ゴルフ場の営業を譲り受け,それ以降,A社の商号は用いていないものの,本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしている。なお,Yが,上記営業を譲り受けるに際し,A社が本件クラブの会員に対して負担している預託金返還債務の引受けをしたという事実は認められない。
 3 Xは,本件ゴルフ場の営業を譲り受け,本件クラブの名称を継続して使用しているYは,商法26条1項の類推適用により,本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して,本件預託金及び遅延損害金の支払を求めた。
 1審は,Xの上記主張を認め,その請求を認容したが,原審は,Xの上記主張を採用せず,1審判決を取り消した上,Xの請求を棄却した。
 Xから上告受理の申立てがされたところ,上告を受理する旨の決定がされた。
 4 本判決は,預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の営業譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会員において,同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり,営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは,無理からぬものというべきであるから,譲受人は,上記特段の事情がない限り,商法26条1項の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当であると判示して,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻した。
 5 ゴルフ場の営業譲渡がされた場合,譲渡人と譲受人の間で,譲受人が預託金返還債務等一定の権利義務関係を承継しない旨の約定がされることがある。この場合,従前からの会員は,譲渡人から預託金の返還を受けることが実際上困難であることなどから,上記約定の存在にもかかわらず,譲受人に対して預託金の返還を求めることが少なくない。こうした場合における譲受人に対する預託金返還請求の法的構成としては,詐害行為取消権の行使や法人格否認の法理の適用等が考えられるが,これらは立証が困難であり実効性に乏しいと指摘されている(山下眞弘「ゴルフクラブの名称を続用したゴルフ場の営業譲受人の債務承継が認容された事例」商事1497号42頁等)。そのため,ゴルフ場の営業譲渡がされた場合,譲受人が譲渡人の用いていたゴルフクラブの名称をそのまま継続して使用することがあることから,会員側が,譲受人に対し,比較的立証が容易な商法26条1項の類推適用により,預託金の返還を求める事案が少なからず見受けられる状況にあった。
 本判決が言い渡される前の下級審裁判例は,ゴルフ場の営業譲渡がされ,譲受人がゴルフクラブの名称を継続して使用している場合には,従前からの会員は,譲受人に対し,商法26条1項の類推適用により,預託金の返還を請求することができるとするもの(東京高判平14.9.26判時1807号149頁,大阪地判平6.3.31判時1517号109頁等)と,商法26条1項の類推適用をするためには,単にゴルフクラブの名称の継続使用があるだけでは足りず,商号の同一性,類似性をも考慮して商号の継続使用と同視することができるか否かを検討する必要があるとするもの(東京高判平14.8.30金判1158号21頁,東京地判平13.3.30判時1770号141頁等)に分かれていた。また,学説においても,ゴルフクラブの名称の継続使用がある場合に,商法26条1項の類推適用を肯定する説(前掲山下42頁,近藤光男「ゴルフクラブの名称と商法26条1項における商号」リマークス2002(下)84頁,仮屋広郷「営業譲受人の責任」現代裁判法大系(16)88頁等)と否定する説(小野寺千世「営業の主体を表示する名称を続用する営業譲受人の責任」ジュリ1119号144頁等)が対立していた。
 そこで検討すると,商法26条1項は,営業の譲受人が,譲渡人の商号を継続して使用する場合においては,譲渡人の営業によって生じた債務については譲受人も弁済責任を負う旨を規定している。そして,この規定の制度趣旨について,通説,判例(最一小判昭29.10.7民集8巻10号1795頁,判タ44号21頁,最一小判昭47.3.2民集26巻2号183頁,判タ279号197頁等)は,営業譲渡がされ,譲受人が商号を継続使用する場合,譲渡人の営業上の債権者が,同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり,仮に営業主体の変更があったことを知っていたとしても,譲受人による債務引受がされたものと信じたりすることも無理のないことであるから,このような債権者の信頼を保護するため,譲受人の弁済義務を定めたものと解しており,いわゆる外観法理に立脚している。
 ところで,ゴルフクラブは,一般的には,権利義務の主体となり得る独立の法的地位を持たず,権利主体であるゴルフ場経営会社の下で,これに代わって,ゴルフ場経営会社の所有に係るゴルフ場について,会員の入会及び退会その他ゴルフ場の運営及び管理の面についてのみの諸活動をしているものにすぎないし,理事長は,ゴルフ場経営会社の代行機関として,この活動を行っているものと考えられている(井上繁規「ゴルフ場をめぐる裁判例の動向」銀法610号71頁等)。そして,ゴルフ場の営業,その利用については経営会社名よりもゴルフクラブ名が前面に出ることが多く,とりわけその会員にとっては,ゴルフクラブの名称は,ゴルフ場の営業,その利用において重要な役割を果たしていることは疑いを入れないところである上,一般に当該ゴルフ場の施設をも表示するものとして理解されているということができるものと思われる。このような点にかんがみると,ゴルフクラブの名称は,通常の場合,当該ゴルフ場を経営する営業主体(ゴルフ場経営会社)を表示するものとして用いられているということができるであろう。このように,ゴルフクラブの名称も,通常の場合,ゴルフ場経営会社がゴルフ場の営業において自己を表すために用いるものであり,ゴルフクラブの名称が商号と同様に営業主体を表示する機能を果たしているというのであれば,ゴルフ場の営業譲渡がされ,譲受人がゴルフクラブの名称を継続使用する場合にも,商号の継続使用があった場合と同様に,譲渡人と入会契約を締結した会員が,同一の経営会社による営業が継続しているものと信じたり,仮に経営会社の変更があったことを知っていたとしても,譲受人による債務引受がされたものと信ずることは無理のないことであるということができる。もっとも,例えば,ゴルフ場の営業譲渡がされた場合において,ゴルフクラブの名称が継続使用されたとしても,営業譲渡後,譲受人が直ちに従前の会員のゴルフ場施設の優先的利用を拒否する態度に出た場合には,従前の会員としては,営業譲渡がされたことを知らなかったとしても,遅くともその時点では営業譲渡がされたことを知ることになるであろうし,かつ,譲受人が預託金返還債務を引き受けたものと信頼することもないのが通常であろう。なぜならば,ゴルフ会員権の柱となる権利のうちの一方が否定された以上,他方も否定されるのではないかという疑念を抱くのが合理的だからである。以上によれば,ゴルフ場の営業譲渡がされ,譲受人がゴルフクラブの名称を継続使用している場合には,上記のような特段の事情がない限り,商法26条1項を類推適用して,会員の譲受人に対する預託金返還請求を認めることが相当であると考えられる。
 なお,民商法の分野では,従前から,外観法理等に立脚する善意者保護の規定を類推適用することにより,その適用場面を拡張する判例理論が展開されてきたことは周知の事実である(商法26条1項と同様に外観法理に立脚するものと理解されている商法23条(名板貸責任)を類推適用して,外観を信頼した者の外観作出者に対する損害賠償請求を肯定したものとして,最一小判平7.11.30民集49巻9号2972頁,判タ901号121頁がある。)。本判決もこうした判例の流れに沿うものと評価することができよう。
 本判決は,下級審裁判例及び学説において対立があった上記論点につき,最高裁として初めての判断を示したものであり,実務に与える影響は大きいものがあると考えられることから,ここに紹介する次第である。
(2)類推適用の要件
・ゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている
・名称を譲受会社が継続して使用
・特段の事情がない
(3)設問1での要件の充足
(4)類推適用の効果
・Y社がA社から譲り受けた事業の積極財産の価格に限られるものではない(23条の2第1項対照)!
・不真正連帯債務
(5)Y会社がとれる措置
+(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第二十二条  事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2  前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3  譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4  第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。
3.詐害事業譲渡
(1)会社法22条1項類推適用以外の法的構成
(2)詐害事業譲渡に関する規定の新設

+(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)
第二十三条の二  譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から二十年を経過したときも、同様とする。
3  譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

・従来の詐害行為取消権による方法
+判例(H24.10.24)
理 由
 上告代理人裵薫の上告受理申立て理由について
 1 本件は,Aに対する債権の管理及び回収を委託された被上告人が,Aが第1審判決別紙物件目録及び記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を新設分割により上告人に承継させたことが詐害行為に当たるとして,上告人に対し,詐害行為取消権に基づき,その取消し及び本件不動産についてされた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 被上告人は,債権管理回収業に関する特別措置法2条3項に規定する債権回収会社である。
 Bは,平成12年12月13日,Cに対し,5億6000万円を貸し付け(以下,同貸付けに係る債権を「本件貸金債権」という。),Dは,同日,Bに対し,本件貸金債権に係る債務を連帯保証した(以下,同連帯保証に係る保証債務を「本件保証債務」という。)。
 Bは,平成14年5月10日,Eに対し,本件貸金債権を譲渡した。Eは,平成17年9月16日,Fに対し,本件貸金債権を譲渡し,同社は,同日,被上告人に対し,本件貸金債権の管理及び回収を委託した。同日時点における本件貸金債権の元本の残高は約4億5500万円であり,その後,これが弁済されたことはうかがわれない。
 Aは,平成16年8月6日,Dを吸収合併し,本件保証債務を承継した。
 Aは,平成19年9月1日,株式会社である上告人を新たに設立すること,Aは上告人に本件不動産を含む第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の権利義務を承継すること,上告人がAに上告人の発行する株式の全部を割り当てることなどを内容とする新設分割計画を作成し(以下,同新設分割計画に基づく新設分割を「本件新設分割」という。),同年10月1日,上告人の設立の登記がされ,本件新設分割の効力が生じた。
 本件新設分割により,上告人はAから一部の債務を承継し,Aは上記承継に係る債務について重畳的債務引受けをしたが,本件保証債務は上告人に承継されなかった。
 Aは,平成19年10月12日,本件不動産について,同月1日会社分割を原因として,上告人に対する所有権移転登記手続をした。
 Aが本件新設分割をした当時,本件不動産には約3300万円の担保余力があった。しかし,Aは,その当時,本件不動産以外には債務の引当てとなるような特段の資産を有しておらず,本件新設分割及びその直後に行われたGを新たに設立する新設分割により,上告人及びGの株式以外には全く資産を保有しない状態となった。

 3 原審は,新設分割は財産権を目的とする法律行為であり,会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者については詐害行為取消権の行使が否定されるべき理由はなく,その効果も訴訟当事者間において相対的に取り消されるにとどまり会社の設立自体の効力を対世的に失わせるものではないとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断した上で,上記2の事実関係の下において,本件新設分割は詐害行為に当たるなどとし,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 4 所論は,会社の組織に関する行為である新設分割は民法424条2項にいう財産権を目的としない法律行為であり,また,新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると,新設分割の効力を否定するための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反するほか,同法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者に同手続の対象とされている債権者以上の保護を与えることになるなどとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象にならないというのである。

 5 新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年(オ)第464号同年10月28日判決・民録24輯2195頁参照),このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。
 そこで検討すると,まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また,会社法上,新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。
 ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない
 そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。
 6 以上によれば,本件新設分割が詐害行為取消権行使の対象になるものとして,被上告人の請求を認容した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

+補足意見
 裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
 私は法廷意見に賛同するものであるが,本件新設分割によって債権者が害されることについて,以下の私見をもって補足しておきたい。
 本件新設分割によって,その直前の時点でのAに対する一般債権のうち,上告人によって承継されない本件保証債務(約4億5500万円)を含む債務に係る一般債権(以下「本件残存債権」という。)と,承継された債務に係る一般債権(以下「本件承継債権」という。)とは,その引当てとなる財産(責任財産)が異なることになる。すなわち,原審の確定した事実によれば,本件新設分割の直前の時点では,一般債権総体(本件保証債務に係る債権及びその余の債権)を構成していた本件残存債権及び本件承継債権のいずれにとっても,責任財産は,本件新設分割直前にAが有していた一般財産の総体,つまり,本件不動産(担保余力分約3300万円)及びその余の資産であって,共通のものであった。ところが,本件新設分割によって,本件残存債権の責任財産は,本件不動産(担保余力分)が失われ,上告人に承継されない一般財産及び上告人の株式のみとなったのに対し,本件承継債権の責任財産は,本件不動産(担保余力分)を含む承継された一般財産となった。本件新設分割直前,Aは,本件保証債務を除いても債務超過の状態で,責任財産として見るべきものは本件不動産程度で大幅な実質的債務超過状態であったこと,及び本件残存債権の額の方が本件承継債権の額に比して相当に多額であることもうかがわれる。本件残存債権の責任財産として新たに加わる上告人の株式は本件新設分割の対価であるが,その対価が相当なものであるとしても,本件新設分割により承継させる権利義務,つまり第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の資産と負債の差額や,上告人の資本金が100万円であることから見ると,その株式の価値は,100万円からさほど隔たるところはないといえる。そうすると,上記の本件事情のもとでは,説明の便宜上極く比喩的に言うならば,本件新設分割によって,多額である本件残存債権の責任財産は,約3300万円のものが100万円程度のものとなってしまったのに対し,少額である本件承継債権のそれは約3300万円のものが引き続き維持されることになったのである。要するに,本件新設分割における対価が相当であるとしても,Aの純資産(株式価値)は変動しないが,本件残存債権の責任財産は大幅に変動するなどの事態が生じ,かつ,本件残存債権の債権者と本件承継債権の債権者との間で著しい不平等が生ずるに至ったということである。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官小貫芳信)

(4)譲受会社の責任の範囲
・承継した債務を差し引かない額

4.法人格否認の法理
(1)債権者詐害と法人格の濫用

+判例(S44.2.27)
理由
上告人の上告理由について。
およそ社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が一人である場合でも同様である。しかし、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであつて、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるものなのである。従つて、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。そして、この点に関し、株式会社については、特に次の場合が考慮されなければならないのである。
思うに、株式会社は準則主義によつて容易に設立され得、かつ、いわゆる一人会社すら可能であるため、株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人則会社であつて、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じるのであつて、このような場合、これと取引する相手方としては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人としてなされたか判然しないことすら多く、相手方の保護を必要とするのである。ここにおいて次のことが認められる。すなわち、このような場合、会社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であつても、相手方は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であつても、相手方は敢て商法五〇四条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得るのである。けだし、このように解しなければ、個人が株式会社形態を利用することによつて、いわれなく相手方の利益が害される虞があるからである。
今、本件についてみるに、原審(その引用する第一審判決を含む)の認定するところによれば、被上告人は、その所有する本件店舖を、昭和三六年二月二〇日契約書の文言によれば上告会社を賃借人とし、これに対し賃料一ケ月一万円にて賃貸したところ、上告会社は本来Aが同人の経営した「電気屋」についての税金の軽減を図る目的のため設立した株式会社で、A自らがその代表取締役となつたのであり、会社とはいうものの、その実質は全くAの個人企業に外ならないものであつて、被上告人としても、「電気屋」のAに右店舖を賃貸したと考えていたこと、被上告人が右店舖を自己の用に供する必要上、昭和四一年二月二〇日その店舖の明渡を請求したときも、Aが同年八月一九日までに必ず明渡す旨の個人名義の書面を被上告人に差し入れたこと、しかるに、その明渡がされないので、被上告人はAを被告として右店舖明渡の訴訟を提起し、昭和四二年三月四日当事者間にAは昭和四三年一月末日限りその明渡をなすべき旨の裁判上の和解が成立したというのである。しかして、今、右事実を前示説示したところに照らして考えると、上告会社は株式会社形態を採るにせよ、その実体は背後に存するA個人に外ならないのであるから、被上告人はA個人に対して右店舖の賃料を請求し得、また、その明渡請求の訴訟を提起し得るのであつて(もつとも、訴訟法上の既判力については別個の考察を要し、Aが店舖を明渡すべき旨の判決を受けたとしても、その判決の効力は上告会社には及ばない)、被上告人とAとの間に成立した前示裁判上の和解は、A個人名義にてなされたにせよ、その行為は上告会社の行為と解し得るのである。しからば、上告会社は、右認定の昭和四三年一月末日限り、右店舖を被上告人に明渡すべきものというべきである。しかして、上告人の違憲の主張は、単なる法令違反の主張に過ぎず、原判決には何等所論の違法はなく、論旨はいずれも採用に値しない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

(2)法人格の濫用とされるための要件
・支配の要件=会社の背後にある者が法人格を意のままに道具として支配していること
・目的の要件=背後者に違法・不当な目的があること

(3)法人格の濫用とされた場合の効果

Ⅳ 会社分割と会社法22条1項等
1.会社法23条1項の類推適用

+(譲受会社による債務の引受け)
第二十三条  譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができる。
2  譲受会社が前項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。

・事業譲渡じゃなくて分割の場合だから類推。

・社会通念上、事業によって生じた債務の引き受けがあったと債権者が信じるような内容が記されている必要がある!

2.会社法22条1項の類推適用
(1)類推適用の可否

+(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第二十二条  事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2  前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3  譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4  第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。

+判例(H20.6.10)
理由
上告代理人中村正典、同比護望、同服部文彦の上告受理申立て理由について
1 本件は、預託金会員制のゴルフクラブの会員である上告人が、同クラブの名称を用いてゴルフ場を経営していた会社の会社分割によりその事業を承継し引き続き同クラブの名称を使用している被上告人に対し、会社法22条1項が類推適用されると主張して、預託金の返還等を求める事案である。上告人は、会社法施行前は、平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)26条1項が類推適用される旨主張していたが、会社法の制定により、会社間における事業の譲渡に関しては会社法に同項と同内容の規定である22条1項が設けられ、会社法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(同法附則2項)ので、同法施行後は同法22条1項の類推適用を主張するものと解される(以下、旧商法26条1項も含む趣旨で会社法22条1項ということがある。)。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) Aは、「Bゴルフ倶楽部」という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営していた。
(2) 上告人は、平成7年10月7日、Aとの間で、本件クラブの法人正会員となる旨の会員契約を締結し、Aに対し、会員資格保証金3500万円を預託した(以下、この預託金を「本件預託金」という。)。
(3) 本件預託金の据置期間は、本件クラブの会則により、本件ゴルフ場が正式開場した日から起算して満5年とされていたが、平成11年5月18日、同会則の改正により、同日から起算して満5年(平成16年5月18日まで)に延長された。
(4) 被上告人は、平成15年1月8日、Aの会社分割(旧商法373条に基づくもの。以下「本件会社分割」という。)により、ゴルフ場の経営等を目的とする会社として設立され、Aから本件ゴルフ場の事業を承継したが、本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかった。
(5) 被上告人は、本件会社分割後、Aが本件会社分割前に本件ゴルフ場の事業主体を表示する名称として用いていた「Bゴルフ倶楽部」という名称を引き続き使用し、本件ゴルフ場を経営している。
(6) A及び被上告人は、平成15年4月15日ころ、上告人を含む本件クラブの会員に対し、「お願い書」と題する書面(以下「本件書面」という。)を送付した。本件書面の内容は、本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより、本件クラブを被上告人経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え、本件クラブの会員権を上記株式に転換するよう依頼するというものであった。
(7) 上告人は、平成16年5月25日、被上告人に対し、本件クラブから退会する旨の意思表示をするとともに、本件預託金の返還を求めた。

3 上告人は、被上告人に対し、本件会社分割により本件ゴルフ場の事業を承継し本件クラブの名称を引き続き使用している被上告人は、会社法22条1項の類推適用により、本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して、本件預託金3500万円及びこれに対する退会の意思表示をした日の翌日である平成16年5月26日から支払済みまで商事法定利率による遅延損害金の支払を求め、これに対して、被上告人は、会社分割の場合に会社法22条1項が類推適用される余地はなく、仮にこれが類推適用されるとしても、本件においては、被上告人が本件クラブの会員に対して本件書面を送付したことから、類推適用を否定すべき特段の事情があると主張して、上告人の請求を争っている。

4 原審は、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却すべきものとした。なお、会社法は、原判決言渡し後に施行された。
(1) 会社分割においても、営業譲渡に関する旧商法26条1項が類推適用される余地のあることは一概に否定することはできない。
(2) しかし、本件においては、上記2(6)の事実から、本件会社分割により被上告人が設立され、被上告人が本件クラブの会員権を被上告人発行の株式に転換した株主会員制のゴルフクラブとして本件ゴルフ場を経営するところとなったことは、上告人を含む本件クラブの会員に周知されているものと認められるから、同会員において、同一の営業主体による営業が継続していると信じたり、営業主体の変更があったけれども被上告人により債務の引受けがされたと信じたりすることが相当ではない特段の事情が認められる。したがって、被上告人は、上告人に対し、旧商法26条1項の類推適用によって本件預託金の返還義務を負うものではない。

5 しかしながら、原審の上記4(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の事業が譲渡され、譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社が引き続き使用しているときには、譲受会社が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、譲受会社は、会社法22条1項の類推適用により、当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当であるところ(最高裁平成14年(受)第399号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号367頁参照)、このことは、ゴルフ場の事業が譲渡された場合だけではなく、会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継された場合にも同様に妥当するというべきである。
なぜなら、会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継される場合、法律行為によって事業の全部又は一部が別の権利義務の主体に承継されるという点においては、事業の譲渡と異なるところはなく、事業主体を表示するものとして用いられていたゴルフクラブの名称が事業を承継した会社によって引き続き使用されているときには、上記のような特段の事情のない限り、ゴルフクラブの会員において、同一事業主体による事業が継続しているものと信じたり、事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については事業を承継した会社に承継されたと信じたりすることは無理からぬものというべきであるからであるなお、会社分割においては、承継される債権債務等が記載された分割計画書又は分割契約書が一定期間本店に備え置かれることとなっているが(本件会社分割に適用される旧商法においては、同法374条2項5号、374条の2第1項1号、374条の17第2項5号、374条の18第1項1号。)、ゴルフクラブの会員が本店に備え置かれた分割計画書や分割契約書を閲覧することを一般に期待することはできないので、上記判断は左右されない
前記事実関係によれば、被上告人は、本件会社分割によりAから本件ゴルフ場の事業を承継し、Aが事業主体を表示する名称として用いていた本件クラブの名称を引き続き使用しているというのであるから、被上告人が会社分割後遅滞なく本件ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会社法22条1項の類推適用により、本件クラブの会員である上告人に対し、上告人がAに預託した本件預託金の返還義務を負うものというべきである。
(2) そして、前記事実関係によれば、本件会社分割後にA及び被上告人から上告人を含む本件クラブの会員に対して送付された本件書面の内容は、単に、本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより本件クラブを被上告人経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え、本件クラブの会員権を被上告人発行の株式に転換するよう依頼するというものであったというのであり、この内容からは、被上告人が、上記株式への転換に応じない会員には本件ゴルフ場施設の優先的利用を認めないなどAが従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできない。それゆえ、本件書面の送付をもって、上記特段の事情があるということはできず、他に上記特段の事情といえるようなものがあることはうかがわれない。
したがって、被上告人は、上告人に対し、本件預託金の返還義務を負うものというべきである。
6 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記説示したところによれば、上告人の請求には理由があるから、第1審判決中被上告人に関する部分を取り消して、同請求を認容すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官田原睦夫の補足意見、裁判官那須弘平の意見がある。

+補足意見
裁判官田原睦夫の補足意見は、次のとおりである。
私は多数意見に賛成するものであるが、本件は、原審の認定する事実関係及び本件会社分割に当たり、被上告人及びA(以下「被上告人ら」という。)から上告人を含む本件クラブの会員に対して送付された本件書面の内容からして、被上告人につき会社法22条1項の類推適用を否定すべき「特段の事情」は到底認められない事案であると考えるので、以下にその理由を補足する。
1 原審の認定した事実関係によれば、被上告人は、多数意見2(4)記載のとおり、本件会社分割により設立され、Aから本件ゴルフ場の事業を承継したが、本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかった。また、被上告人は、発行する株式をAに割り当てた(ちなみに、本件書面の記載によれば、被上告人の発行株式の総数は4412株で、内1242株が優先株、124株が無議決権株、残り3046株が普通株であり、優先株には「Bゴルフ倶楽部」の正会員権が、無議決権株には平日会員権がそれぞれ付与される。)。
そして、被上告人らは、多数意見2(6)に記載のとおり、被上告人の設立から3箇月以上経過した平成15年4月15日ころに、上告人を含む本件クラブ会員に対して本件書面を送付した。なお、被上告人らが本件クラブ会員に対し、本件会社分割及びそれに伴う本件クラブ会員の権利・義務関係の変動について、会員説明会を開催して説明する等、本件書面の送付以外の方法により、それらの点について周知を図ったとの事実は、当事者から主張されていない。
2 上告人を含む本件クラブ会員に対して送付された本件書面の内容は、多数意見2(6)に記載のとおり、本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより、株主会員制のゴルフクラブに改革するので、本件クラブの会員権を上記株式に転換するよう依頼するものであるが、本件書面の記載内容を更に詳しくみると、以下のとおりの問題点が認められる。
(1) 本件会社分割により被上告人が設立されたことは記載されているが、会社分割とは法的にどのような意味を有するものかについて、一般人が理解できるような説明は記載されていない
(2) 上記のとおり、本件会社分割により、被上告人はAから本件クラブの会員に対する預託金返還債務は承継しなかったが、その事実は明示されていない。かえって、被上告人がAから預託金返還債務を承継し、その債務につき、被上告人の株式に転換するとの誤解を与えかねない表現すら認められる
(3) 「預託金証書を優先株(正会員権2口)に転換します」との記載がある。本件当時、預託金会員制のゴルフクラブにおいて、会員からの退会申出に伴う預託金の返還の求めに応じることが困難になった際に、会員権を複数口に分割するとの方法がとられることがあった。これは、会員は会員権を1口所有しておればゴルフ場施設の優先的利用権を保持することができ、他方、分割により増加した残余の会員権を市場で売却することにより、預託金の一部を換価をすることができるところから、即時に預託金の返還を受けられない会員の不満の一部を抑えることができることから採られた手法であって、本件当時、このことはゴルフ業界では周知の事実であったが、上記の「優先株2株(正会員権2口)」への転換は、上記の会員権の分割を想起させる記載である。
(4) 本件書面の本文中には、預託金債権者が株式転換に応じない場合の処遇については、一切記載されていない。
(5) 本件書面に添付されている平成15年4月15日改定・施行された「Bゴルフ倶楽部」の会則26条には、改正されるまでの会則により会員である者は、優先株式1株を取得して会員になるまでの間、改正されるまでの会則により会員の資格を有する旨規定されている。
3 以上のとおり、本件会社分割に関する本件クラブ会員に対する唯一の告知手段たる本件書面の記載内容は、被上告人が本件クラブの会員に対する預託金返還債務を承継しないことを告知する内容としては、余りに不十分であって、その点のみからしても上記「特段の事情」の存在をうかがわせるに足りる書面とは言えないものというべきである。
また、一般に預託金会員制のゴルフクラブの会員の地位は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権、年会費支払義務をその主要な内容とする契約上の地位であると解されていて(最高裁昭和49年(オ)第246号同50年7月25日第三小法廷判決・民集29巻6号1147頁、最高裁平成6年(オ)第1593号同9年3月25日第三小法廷判決・民集51巻3号1609頁参照)、かかる契約の性質からして、原則として、ゴルフ場施設の優先的利用権と預託金返還請求権とが分離して別々の主体に帰属することはないと解されるところ、上記のとおり、被上告人は、本件クラブ会員にかかる預託金債権を株式に転換していない会員の「Bゴルフ倶楽部」の会員としての地位について、本件会社分割に伴い改正された会則において、「改正されるまでの会則により会員の資格を有する」と定めているのであって、改正されるまでの会員であった上告人についても、被上告人の経営する本件ゴルフ場の会員としての地位を認めているのである。この点からしても、本件において、上記「特段の事情」が存しないことは明らかである。

+意見
裁判官那須弘平の意見は、次のとおりである。
1 私も、多数意見の結論に賛成であり、理由のうち、会社分割に伴う事業の承継によるゴルフクラブの名称の継続使用の場合に、特段の事情がない限り、会社法22条1項が類推適用されるべきことについても意見を同じくするものである。
しかしながら、多数意見が、「お願い書」と題する書面(本件書面)につき「被上告人が上記株式への転換に応じない会員には本件ゴルフ場施設の優先的利用を認めないなどAが従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできない」と指摘し、これをもって特段の事情が存在しない根拠としている点については同調できない。
2 多数意見の上記指摘は、前掲平成16年2月20日第二小法廷判決に同様の趣旨の記載があることを受けたものであるが、同判決は旧商法26条2項(会社法22条2項)において、同条1項の適用が排除される場合として、「債務を弁済する責任を負わない」旨の登記か、あるいは同様な趣旨の通知がされた場合を挙げていることを踏まえ、ゴルフ場施設の優先的利用の拒否があれば、施設利用権と密接な関係を有する預託金返還義務についても拒否があったと理解するのが一般的であることをも考慮して、ゴルフ場施設の優先的利用の拒否を例として挙げたにすぎず、これを限定する趣旨のものでないことは文言上からも明らかである。
そして、同判決はゴルフ場の営業の譲受人が従前と同じゴルフクラブの名称を用いている場合に債務の引受けをしたときと同様の責任を負うべきかどうかだけが問題とされた(預託金返還義務を引き受けない趣旨の通知が送付される等の事実がなかった)事案であるのに対し、本件は被上告人がゴルフ場施設の優先的利用の拒否をしていないだけでなく、逆に上告人を含む会員に積極的に施設の利用をしてもらうことを前提として株主会員化を申し出ていた事案である点に特徴があり、両者は事案を異にするものである。
したがって、本件においては、上記最高裁判決が例示する優先的利用の拒否があったかどうかを基準として特段の事情の有無を判断するのでは理由付けとして十分でなく、適切でもない。
3 被上告人は本件書面において、預託金会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより本件クラブを株主会員制ゴルフクラブに改めることを提言していたが、この提言は、会員が株式を取得する反面として預託金返還請求権を失うことを意味するものであった。そして、同提言は、株式への転換を拒む会員に対して被上告人からの預託金返還は予定されていないことをも黙示的に示すものであったと解される(本件書面中に被上告人からの預託金返還の可能性を示唆する文言は存在しない。もしその可能性を残す趣旨のものであったとしたら、当時のゴルフ会員権を取り巻く状況等から見て、株式転換よりも預託金返還の途を選んだ会員が大半を占めたはずであるが、そのような事態が生じた形跡もない。)。したがって、本件では、被上告人から預託金返還義務を負わないことの表明があったか、少なくとも会員がこのことを容易に理解できる状況が存在したものと認めることができる。そうすると、本件書類の送付が会社法22条2項後段の「債務を弁済する責任を負わない」旨の通知に該当する可能性を否定できず、そうでなくても同条1項の類推適用を否定すべき特段の事情に当たる事実があったと認めるべきであると考える。
4 もっとも、本件では、会社の分割及びこれに伴う事業の承継が平成15年1月8日であったのに対し、本件書類の送付は同年4月15日ころであったというのであり、この間3か月以上が経過している。そうすると、本件における株主会員化の枠組みを作る作業の難しさを考慮しても、この長さは正当な又は合理的な遅滞の範囲内に収まっていたとはいい難く、本件書面の送付はこの点で「遅滞なく」行われたものとはいえないことが明らかであるから、会社法22条2項の要件を満たす通知ないしこれに準ずべき特段の事情があったとまではいえないと考える。したがって、私も、結論において、原判決を破棄し第1審判決中被上告人に関する部分を取り消して上告人の請求を認容すべきものとする多数意見に賛成であるが、その理由については、上述の限度で異なる意見を有するものである。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

(2)類推適用の要件
・名称が事業主体を表示するものとして用いられている
・名称を継続して使用
・特段の事情がない

(3)設問2での要件の充足

3.その他の法的構成による本件預託金の返還請求

Ⅴ おわりに


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