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Ⅰ はじめに
1.共有とは
+(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第八百九十九条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
+(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
+(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2.共有ないし遺産共有の法的性質
・持分権の法的性質
単一説
=共有物に対する所有権はあくまで1つで、その1つの所有権が各共有者に分属すると解し、各共有者の持つ所有権の一部分として把握する。
複数説
=各共有者の有する持分をそれぞれ独立した1個の所有権(=持分権)であるとみて、それが集合した状態が共有である
→複数説では、各共有者とも自身の持分権を基礎として単独で権利行使をすることが認められているのが原則であるが、他の共有者にその影響が及ぶことに鑑みて、単独での権利行使に限界が設けられていると理解する。
・遺産共有の法的性質
共有説
=249条以下の共有に近い
+(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
←共有持分を第三者に処分できることが前提とされている。
・遺産分割の場合の特殊な手続
+(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
+(相続分の取戻権)
第九百五条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
+(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
Ⅱ 共有物の利用関係と共有者相互間での明渡請求
1.問題の所在
+(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
・共有物の利用については、252条本文の「管理」に該当する事項として、各共有者の持分権価格の過半数で決せられる。
2.単独使用をする共有者への明け渡し請求の可否
・単独使用をする共有者に対して他の共有者が自己の持分に応じた利用を妨げてはならないという不作為の請求をなすことは認める。
・たとえ多数持分権者であっても、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡しを請求することはできない!
+判例(S41.5.19)
理由
上告代理人小島成一、同平井直行の上告理由第一点ないし第三点について。
原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認しえないわけではなく、右事実関係のもとにおいては、Aにおいて本件宅地買受当時内心において上告人に対し将来適当な時期に本件宅地を贈与しようと考えていたが、その後当初の考えをかえて上告人に対しこれを贈与する意思をすてたから、本件宅地の贈与はついに実現されず、かつ、本件建物についての贈与も認められないとする原判決の判断は、当審も正当として是認しうる。
原判決には、所論のような違法があるとは断じがたく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・判断、事実認定を非難するに帰し、採用しがたい。
同第四点の第二・第三について。
所論の点に関する事実認定は挙示の証拠により肯認でき、その事実関係のもとでは、本件宅地の所有者はAであつて、上告人でないとした原判決の判断は、正当であり、原判決には、所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。
同第五点について。
本件一件記録に徴しても、原審に所論のごとき違法があるとは認めがたく、所論は採用しがたい。
同第四点の第一について。
思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
しかるに、今本件についてみるに、原審の認定したところによればAの死亡により被上告人らおよび上告人にて共同相続し、本件建物について、被上告人Bが三分の一、その余の被上告人七名および上告人が各一二分の一ずつの持分を有し、上告人は現に右建物に居住してこれを占有しているというのであるが、多数持分権者である被上告人らが上告人に対してその占有する右建物の明渡を求める理由については、被上告人らにおいて何等の主張ならびに立証をなさないから、被上告人らのこの点の請求は失当というべく、従つて、この点の論旨は理由があるものといわなければならない。
よつて、原判決は被上告人らの上告人に対して本件家屋の明渡を求める部分について失当であり、その余は正当であるから、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、三八六条、九六条、九二条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)
・共有者の1人から賃貸を受けた第三者が独占使用している場合も、共有者の権原に基づいた占有といえる以上、同様に明け渡し請求は認められない!
+判例(S63.5.20)
理由
上告代理人朝山善成の上告理由について
共同相続に基づく共有者は、他の共有者との協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するものではないが、自己の持分に基づいて共有物を占有する権原を有するので、他のすべての共有者らは、右の自己の持分に基づいて現に共有物を占有する共有者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないところ(最高裁昭和三八年(オ)第一〇二一号同四一年五月一九日第一小法廷判決・民集二〇巻五号九四七頁参照)、この理は、共有者の一部から共有物を占有使用することを承認された第三者とその余の共有者との関係にも妥当し、共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は、その者の占有使用を承認しなかつた共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので、第三者の占有使用を承認しなかつた共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないと解するのが相当である。なお、このことは、第三者の占有使用を承認した原因が共有物の管理又は処分のいずれに属する事項であるかによつて結論を異にするものではない。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、上告人は訴外伊藤文裕の相続人として本件建物を持分四分の一の割合で共有し、被上告人は本件建物の共有者たるその余の相続人との間で本件建物の使用貸借契約を締結し、本件建物を使用するものであるというのであり、右事実のみをもつてしては上告人が被上告人に対して本件建物の明渡しを請求することができないことは前記説示のとおりである。そうすると、これと結論において同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
論旨は、独自の見解に基づき、又は判決に影響しない部分について原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官奧野久之 裁判官牧圭次 裁判官島谷六郎 裁判官藤島昭裁判官香川保一)
3.単独使用を認めない旨の決定に基づく明渡請求の可否
・持分価格の多数をもって一部共有者の単独使用を認めない旨を決定することは許されないものではなく、これに不服のある少数持分権者としては分割請求をすればよい!
・持分価格の過半数で使用貸借を解除することによりこの独占的利用を終了させられる。
+判例(S29・3・12)
理由
上告訴訟代理人弁護士徳永平次の上告理由第一点について。
原判決が本件親族会の決議を無効と判断したのは、所論(二)主張のように、単に決議の手続が違法であるからとの理由によるものでないことは、原判文上明らかであるからこの点の論旨は理由がない。爾余の論旨は、原審の証拠の取捨判断事実認定を非難するものであつて、適法な上告理由に当らない。同第二点について。
原審は当事者の主張及び立証に基き訴外亡Aの相続人は、その妹である訴外B、その弟である上告人及びその姉で相続開始当時既に死亡していた訴外Cの子である被上告人の三人であると認定しているのである。そして兄弟姉妹が相続人である場合においでも代襲粗続が認められることは、民法八八九条二項後段の規定によつて明らかであるから、被上告人を前記Cの代襲相続人とした原判決には何等所論法律解釈を誤つた違法はない。従つて論旨はすベて採るを得ない。同第三点について。
原判決は亡Aと被上告人間の本件家屋の貸借は使用貸借であると認定し、そしてAの死亡による共同相続人が為す右使用貸借の解除は、民法二五二条本文の管理行為に該当し、したがつて共有者(共同相続人)の過半数決を要する旨判示するところであつて、所論のように明渡及び家賃損害金の請求を管理行為と判示しているものでないことは、原判文に照して明白である。所論は原判文を正読しないことに出でたものと云うの外なく、原判決には何等所論法律解釈の誤りはない。又所論引用の判例は本件に適切のものではない。それ故論旨は何れも採用し難い。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおう判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)
・少数持分権者の利用を認めない決定を持分価格の多数で行うことを権利濫用と判断することもある。
+判例(H10.3.24)
理由
上告代理人伊藤誠基、同石坂俊雄、同村田正人、同福井正明の上告理由第一点ないし第三点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
同第四点について
一 原審の確定したところによれば、(一) 亡辻村芳太郎は、第一審判決添付物件目録記載の各不動産を所有していた、(二) 芳太郎は、平成二年一〇月二七日に死亡し、同人の妻やす並びに上告人及び被上告人を含む四人の子がこれを相続したが、芳太郎の遺産についての分割協議は未了である、(三)同物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)は、芳太郎の死後畑として利用されていたが、被上告人が、本件土地上に家屋を建築する目的で、平成五年四月ころから同年七月ころまでの間、本件土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行った結果、その地平面が北側公道の路面より二五センチメートル低い状態にあったものが右路面より高い状態となり、非農地化した、というのである。
二 上告人の本件請求は、本件土地の共有持分権に基づく妨害排除として、本件土地につき、北側に隣接する公道の路面より二五センチメートル低い地平面となるよう本件土地上の土砂を撤去する方法により、原状回復する工事をすることを求めるものであるところ、原審は、被上告人は、本件土地につき相続による共有持分(八分の一)を有しており、共有者として本件土地を使用する権原があるから、上告人が被上告人に対して共有持分権に基づく妨害排除請求権を行使し得るいわれはないとして、上告人の本件請求を棄却すべきものと判断した。
三 しかしながら、原審の右判断は、直ちにはこれを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法二四九条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法二五一条)からである。もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることはいうまでもない。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件土地は、遺産分割前の遺産共有の状態にあり、畑として利用されていたが、被上告人は、本件土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地化したというのであるから、被上告人の右行為は、共有物たる本件土地に変更を加えるものであって、他の共有者の同意を得ない限り、これをすることができないというべきところ、本件において、被上告人が右工事を行うにつき他の共有者の同意を得たことの主張立証はない。そうすると、上告人は、本件土地の共有持分権に基づき、被上告人に対し、右工事の差止めを求めることができるほか、右工事の終了後であっても、本件土地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、上告人の本件請求が権利濫用に当たるなどの特段の事情がない限り、原則として、本件土地に搬入された土砂の撤去を求めることができるというべきである。
四 そうすると、被上告人が本件土地につき共有持分権に基づく使用権原を有しているとの一事をもって、上告人からの共有持分権に基づく本件請求を棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人の本件請求を棄却した部分は破棄を免れず、本件においては、前記説示に照らして本件請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるため、右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。
以上のとおりであるから、原判決中、上告人の本件請求を棄却すべきものとした部分を破棄して、右部分につき本件を原審に差し戻すこととするが、上告人のその余の上告は理由がないから、これを棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官元原利文 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信 裁判官金谷利廣)
・相続開始前から使用貸借により単独使用を認められていた者について、遺産分割によって所有関係が確定するまでの間は使用貸借関係が継続する旨の合意が共有者間であったと解すべき場合もある!!!
+判例(H8.12.17)
理由
上告代理人小室貴司の上告理由第一点について
一 本件上告に係る被上告人らの請求は、上告人ら及び被上告人らは第一審判決添付物件目録記載の不動産の共有者であるが、上告人らは本件不動産の全部を占有、使用しており、このことによって被上告人らにその持分に応じた賃料相当額の損害を発生させているとして、上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、被上告人ら各自の持分に応じた本件不動産の賃料相当額の支払を求めるものである。
二 原審の確定した事実関係の概要は、(一) aは昭和六三年九月二四日に死亡した、(二) 被上告人bはaの遺言により一六分の二の割合による遺産の包括遺贈を受けた者であり、上告人ら及びその余の被上告人らはaの相続人である、(三) 本件不動産はaの遺産であり、一筆の土地と同土地上の一棟の建物から成る、(四) 上告人らは、aの生前から、本件不動産においてaと共にその家族として同居生活をしてきたもので、相続開始後も本件不動産の全部を占有、使用している、というのである。
三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきものとした。
四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
本件についてこれを見るのに、上告人らは、aの相続人であり、本件不動産においてaの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、aと上告人らの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないということはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これらの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分については、使用貸借契約の成否等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)
4.設問1ではどうなるのか
・権利の濫用になる場合も・・・
・明け渡し請求ができないとした場合でも、使用貸借の終了が認められるのであれば、CDとしては、単独での占有権原をもたないEに対して、持分に応じ、使用利益の対価を不当利得として返還請求することができる!!
+(H12.4.17)
+(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
+(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
+(占有保持の訴え)
第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
5.EF間の賃貸借契約の帰趨
・賃貸借について一般には管理に該当するものの、借地借家法の適用があるものについては、法定更新が認められる結果(借地借家法6条・28条)、ごく長期にわたり所有者が使用収益できない状態が存続する可能性があることから、「変更」に該当する可能性も・・・
・借地借家法
+(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない
+(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
+(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
二 借地権者 借地権を有する者をいう。
三 借地権設定者 借地権者に対して借地権を設定している者をいう。
四 転借地権 建物の所有を目的とする土地の賃借権で借地権者が設定しているものをいう。
五 転借地権者 転借地権を有する者をいう。
6.Fの支払うべき賃料の帰属等(補論)
・遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後の遺産分割の影響を受けない!!!!
+判例(H17.9.8)
理由
上告代理人田中英一、同永井一弘の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) Aは、平成8年10月13日、死亡した。その法定相続人は、妻である被上告人のほか、子である上告人、B、C及びD(以下、この4名を「上告人ら」という。)である。
(2) Aの遺産には、第1審判決別紙遺産目録1(1)~(17)記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)がある。
(3) 被上告人及び上告人らは、本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(以下「本件口座」という。)を開設し、本件各不動産の賃借人らに賃料を本件口座に振り込ませ、また、その管理費等を本件口座から支出してきた。
(4) 大阪高等裁判所は、平成12年2月2日、同裁判所平成11年(ラ)第687号遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件において、本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以下「本件遺産分割決定」という。)をし、本件遺産分割決定は、翌3日、確定した。
(5) 本件口座の残金の清算方法について、被上告人と上告人らとの間に紛争が生じ、被上告人は、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し、上告人らは、本件各不動産から生じた賃料債権は、本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張した。
(6) 被上告人と上告人らは、本件口座の残金につき、各自が取得することに争いのない金額の範囲で分配し、争いのある金員を上告人が保管し(以下、この金員を「本件保管金」という。)、その帰属を訴訟で確定することを合意した。
2 本件は、被上告人が、上告人に対し、被上告人主張の計算方法によれば、本件保管金は被上告人の取得すべきものであると主張して、上記合意に基づき、本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
3 原審は、上記事実関係の下で、次のとおり判断し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして、本件口座の残金を分配すべきである。これによれば、本件保管金は、被上告人が取得すべきものである。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、被上告人が本件保管金を取得すべきであると判断して、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 才口千晴 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉德治 裁判官 島田仁郎)
Ⅲ 共有者の権利主張
1.各共有者が単独でなしうる主張
(1)持分権の主張
・共有者の1人は自己の持分権の存在や範囲につき単独で確認請求をすることができる!
+判例(S40.5.20)
理由
上告代理人柴田健太郎の上告理由第一点について。
共有持分権の及ぶ範囲は、共有地の全部にわたる(民法二四九条)のであるから、各共有者は、その持分権はもとづき、その土地の一部が自己の所有に属すると主張する第三者に対し、単独で、係争地が自己の共有持分権に属することの確認を訴求することができるのは当然である(昭和三年一二月一七日大審院判決、民集七巻一〇九五頁参照)。これと同趣旨にでた原判決の判断は正当であり、論旨は独自の見解であつて、採用できない。
同第二点について。
本件において所有権の帰属につき争があるのは、被上告人らの主張する共有地の全部ではなく、その一部であること原判文上明らかであるのに、原判決は、共有地の全部が被上告人らの共有持分の及ぶ範囲であることを確認していること論旨指摘のとおりである。一筆の土地であつても、所有権確認の利益があるのは、相手方の争つている地域のみであつて、争のない地域については確認の利益がないこというまでもない。すなわち、原判決は、確認の利益のない部分について確認の判決をした違法があるといわざるをえない。論旨は理由があり、原判決中確認の訴を認容した部分を破棄し、争のある土地の範囲を特定させるため、原審に差し戻すべきものとする。
同第三点について。
甲乙両山林の境界についての原判決の事実認定は、挙示する証拠関係に照らして首肯しえなくはない。論旨は、原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用することができない。
よつて、その余の部分に対する上告を棄却し、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)
・共有者間で持分権の侵害につき紛争が生じたときにも単独で権利主張できる。
(2)共有であることの主張
共有物であることを対外的に主張するには、共有者全員でしなければならない(固有必要的共同訴訟)!
(3)共有物の侵害に対する主張
・共有物が第三者によって侵害された場合の妨害排除請求や返還請求は、各共有者単独ですることができる。
←共有の法的性質から
単一説=侵害の除去は保存行為として
複数説=持分権に対する侵害として
・不法占拠者に対する損害賠償請求権や不当利得返還請求権については、各共有者の持分に応じて分割帰属するから、各共有者は単独ではその持分相当額の請求しかできない!!
+判例(S41.3.3)
理 由
上告代理人吉田賢二、同有富小一の上告理由第一点について。
論旨は、原判示A地域および同B地域がいずれも被上告人ら三名、上告人ならびに訴外田中光蔵、同安永長、同安永弥作および同中霜干城の合計八名の共有である大分県玖珠郡珠玖町大字日出生字浅尻三三〇〇番の一〇原野一町二反二四歩の範囲内に属する旨の原審の認定は、証拠に反するのみならず、審理不尽、理由不備の違法を犯したものであるという。しかし、原審挙示の証拠関係に照らせば、原審の右認定は、首肯するに足り、論旨は、ひつきようするに、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰するものであつて、採用するに足りない。
同第二点について。
論旨は、原審が被上告人らをそれぞれ原判示A地域の属する前記字浅尻三三〇〇番の一〇原野一町二反二四歩につき持分一〇分の一の共有者と認定しながら、右共有地上の立木の不法伐採による全損害額六万八一〇〇円の賠償を求めた被上告人らの請求をそのまま認容したのは、理由不備の違法を犯したものであるという。
よつて案ずるに、共有物に対する不法行為による損害賠償請求権は、各共有者が自己の持分に応じてのみこれを行使しうべきものであり、他人の持分に対してはなんら請求権を有するものではない。従つて、共有の立木が不法に伐採されたことを理由として共有者の全員またはその一部の者から右不法伐採者に対してその損害賠償を求める場合には、右共有者がそれぞれその共有持分の割合に応じてこれをなすべきものであり、右共有持分の割合をこえて請求をすることは許されないところといわなければならない。ところで、原判決によれば、被上告人らは本件立木の生立していた原判示A地域の属する前記字浅尻三三〇〇番の一〇原野についてそれぞれ一〇分の一の共有持分を有していたというのであり、土地の上に生立する立木は権原により付属させた等の特段の事情のないかぎり、地盤に附合して地盤所有者の所有に帰するものであるから、特段の事情の認定されていない本件においては、被上告人らが本件立木について有する共有持分はそれぞれ一〇分の一にすぎないことが窺われないでもない。しかも他面、原審は右原野の共有者は上告人を含む前掲八名であると認定しており、さらに、被上告人らの主張に照らせば、原審は本件立木の所有者中に上告人が含まれない旨を認定したかのようにも窺われるのであつて、これらの点より考えれば、原審は、被上告人らの本件立木の共有持分の割合について、なんらこれを明確にするところがないものというべく、しかも、被上告人ら三名のみが本件立木の伐採による全損害額の賠償を求めたのに対して、これをそのまま認容しているのである。これをひつきようするに、原審は被上告人らの本件立木の共有持分がいかなる割合であるかを確定することなく、漫然被上告人らのなした本件立木の伐採による全損害額の賠償請求を認容しているのであつて、なにゆえに被上告人らのみで全損害額の賠償を求めうるのか、その理由とするところを知り得ないのであり、原判決にはこの点において審理不尽ないし理由不備の違法があるものといわざるを得ない。従つて、原判決中上告人に対して金員支払を命じた部分は破棄を免れないから、論旨は結局理由がある。しかして、本件は、右破棄部分に関し、叙上の点についてさらに審理を尽くす必要があるものと認められるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠)
2.登記手続請求をめぐって
(1)自己の持分権についての登記手続請求
・共同相続した不動産につき、勝手に所有権取得の登記をし、さらに第三者が移転登記を受けた場合。aが請求できるのは、aの持分についての一部抹消(更生)登記のみである!!!
+判例(S38.2.22)
理由
上告代理人佐藤米一の上告理由第一点について。
原判決が被上告人らに命じた所論更正登記手続は、実質的には一部抹消登記手続であるところ、所有権に対する妨害排除として抹消登記請求権を有するのは上告人らであつて、Aではないというべきであるから、この点に関する原判決は正当であつて、所論のように登記義務者・登記権利者を誤解した違法はない。論旨は、原判決を正解せざるに出たものであつて採用しえない。
同第二点について。
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした他の共同相続人であるAから売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した被上告人らに対し、その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、原判決が、Aが有する持分九分の二についての仮登記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲内でその分量的な一部を認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申立てない事項について判決をした違法はないから、所論は理由なく排斥を免れない。
同第三点について。
被上告人十条商事株式会社が原審において提出したB弁護士に対する訴訟委任状には、所論のとおり、相手方としてCの記載があるのみであつて、D、Eの記載はないが、これは「C他二名」とすべきところを「他二名」を書き落したものと解せられるから、所論は理由なく排斥を免れない。
同第四点、第五点、第八乃至一二点について。
しかし、本訴の訴訟物は共有権にもとづく妨害排除請求権であることは明らかなところ、上告人らは九分の七の持分きり有しないのであるから、本件各移転登記の有効無効ならびにその登記原因の有効無効に係りなく、九分の七の持分についてのみ抹消請求(更正登記請求)ができるに過ぎず、全部抹消請求権は存しないというべきであるから、所論は判決に影響を及ぼす違法の主張と認められず、排斥を免れない。
同第六点について。
適法な呼び出しを受けながら当事者が判決言渡期日に出頭しない場合に、期日に言渡が延期され次回言渡期日が指定告知されたときは、その新期日につき不出頭の当事者に対しても告知の効力を生ずること、当裁判所の判例とするところである(昭和三二年二月二六日第三小法廷判決、集一一巻二号三六四頁参照)。所論は、これと異る見解に立脚して原判決に違法がある如く主張するものであつて、採用しえない。同第七点について。
所論「各」は無用の文字を挿入しただけであつて、これによつて主文の不明瞭や齟齬を来たすものとは認められない。所論は排斥を免れない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)
・一部の共有者から抹消登記が請求されたときでも、判決では共有者の持分の限りでの更正登記が命じられることになる!
+判例(H22.4.20)
理由
第1 上告人の上告理由について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、上記各項に規定する事由に該当しない。
第2 職権による検討
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もとBが所有していたが、Bは、平成9年6月14日に死亡し、本件建物につき、その妻である被上告人X1が持分2分の1を、子である被上告人X2及びAが持分各4分の1を相続により取得した。
(2) しかるに、本件建物につき、高知地方法務局いの支局平成19年3月28日受付第2350号をもって、上告人の持分を2分の1、被上告人X1の持分を4分の1、被上告人X2及びAの持分を各8分の1とする所有権保存登記(以下「本件保存登記」という。)がされている。
2 本件は、上記事実関係の下において、被上告人らが、本件建物につき、上告人は何らの持分を有していないのに、上告人の持分を2分の1とする本件保存登記がされている旨主張して、上告人に対し、共有持分権に基づき、本件保存登記のうち上告人の持分に関する部分(以下「本件登記部分」という。)の抹消登記手続等を求める事案である。
3 原審は、上告人に対して本件保存登記全部の抹消登記手続を命じた第1審判決を是認したが、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 原審の上記判断は、被上告人らが本件登記部分のみの抹消登記手続を求めているにもかかわらず、上告人に対し、これを超えて本件保存登記全部の抹消登記手続を命ずるものであって、当事者が申し立てていない事項についてまで判決をしたものといわざるを得ない。また、仮に、第1審判決の主文第1項中の「高知地方法務局いの支局平成19年3月28日受付第2350号の所有権保存登記」との記載が本件登記部分を表示するに当たっての明らかな誤記であり、原審は、被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求を認容すべきものとしたにとどまると解し得るとしても、そのような判断は、1個の登記の一部のみの抹消登記手続を命ずるものであって、不動産登記法上許容されない登記手続を命ずるものといわざるを得ない。
(2) 被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求が意図するところは、上告人が持分を有するものとして権利関係が表示されている本件保存登記を、上告人が持分を有しないものに是正することを求めるものにほかならず、被上告人らの請求は、本件登記部分を実体的権利に合致させるための更正登記手続を求める趣旨を含むものと解することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁参照)。
そして、共有不動産につき、持分を有しない者がこれを有するものとして共有名義の所有権保存登記がされている場合、共有者の1人は、その持分に対する妨害排除として、登記を実体的権利に合致させるため、持分を有しない登記名義人に対し、自己の持分についての更正登記手続を求めることができるにとどまり、他の共有者の持分についての更正登記手続までを求めることはできない(最高裁昭和56年(オ)第817号同59年4月24日第三小法廷判決・裁判集民事141号603頁参照)。したがって、被上告人らの請求は、被上告人X1の持分を2分の1、被上告人X2の持分を4分の1、上告人及びAの持分を各8分の1とする所有権保存登記への更正登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。
第3 結論
以上の次第で、原判決中、所有権保存登記抹消登記手続請求に関する部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、原判決中上記部分を主文第1項のとおり変更することとし、その余の上告を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近藤崇晴 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)
(2)無権利者が登記名義を有する場合
・単一説に立つ場合、保存行為に属するとして、妨害排除請求を認める・・・
+判例(H15.7.11)
理由
上告代理人吉田允、同大西清、同住田正夫、同中野俊彦の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) 甲は、第1審判決別紙物件目録一ないし四及び七ないし一二記載の各土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。
(2) 甲は、平成5年1月18日に死亡し、甲の子である上告人ら、乙及び丙の4名が共同相続した。
(3) 平成5年1月25日、本件土地につき、同月18日相続を原因として、上告人ら、乙及び丙の各持分を4分の1とする所有権移転登記がされ、同日代物弁済を原因として、被上告人に対する乙持分全部移転登記(以下「本件持分移転登記」という。)がされた。
2 本件の主位的請求は、上告人らが、被上告人に対し、乙から被上告人への本件土地の持分の譲渡は無効であるとして、本件持分移転登記の抹消登記手続を求めるものである。
原審は、次のとおり判断して、上告人らの上記請求を棄却した。
仮に、乙から被上告人に対する持分の譲渡が無効であり、本件持分移転登記が真実に合致しない登記であるとしても、上告人らの持分権は何ら侵害されていないから、上告人らは、その持分権に基づく保存行為として本件持分移転登記の抹消登記手続を請求することができない。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
【要旨】不動産の共有者の1人は、その持分権に基づき、共有不動産に対して加えられた妨害を排除することができるところ、不実の持分移転登記がされている場合には、その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから、共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し、単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる(最高裁昭和29年(オ)第4号同31年5月10日第一小法廷判決・民集10巻5号487頁、最高裁昭和31年(オ)第103号同33年7月22日第三小法廷判決・民集12巻12号1805頁。なお、最高裁昭和56年(オ)第817号同59年4月24日第三小法廷判決・裁判集民事141号603頁は、本件とは事案を異にする。)。
4 以上によれば、乙から被上告人に対する本件土地の持分の譲渡が無効であれば、上告人らの主位的請求は認容されるべきである。論旨は理由がある。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。そこで、上記持分の譲渡の有効性について更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄 裁判官 滝井繁男)
3.設問2ではどうなるか
(1)一部抹消(厚生)登記のみを認容する見解
(2)全部抹消登記手続請求を認める見解
Ⅳ 共有と法定地上権
1.乙建物のための甲土地の利用権は
・遺産共有の段階で共有者の1人が単独の登記名義としたうえで、自身の単独所有であると称して第三者にこれを売却し、登記移転もなされたという場合
177条の適用はなく、他の共有者は登記なくして当該第三者に自信の持分権を主張できる!
+判例(S38.2.22)
もっとも、第三者が善意・無過失で他の共有者に帰責性が認められる場合には94条2項類推適用等によって第三者の権利取得が認められる可能性はある!!!!
・(借地権の対抗力等)
第十条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
3 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条第一項 及び第三項 の規定は、前二項の規定により第三者に対抗することができる借地権の目的である土地が売買の目的物である場合に準用する。
4 民法第五百三十三条 の規定は、前項の場合に準用する。
+(自己借地権)
第十五条 借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。
2 借地権が借地権設定者に帰した場合であっても、他の者と共にその借地権を有するときは、その借地権は、消滅しない。
2.土地建物の一方に共有関係がある場合
+(法定地上権)
第三百八十八条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
(1)土地に共有関係がある場合
・abが共有する土地上にaの建物が建っていて、aの共有持分に抵当権が設定されていた場合。
法定地上権の成立を否定!!!
法定地上権が認められると、当初あった約定利用権よりも強力な負担が、抵当権設定者以外の共有者の土地持分権にも及んでしまうのは問題だから!!!!
+判例(S29.12.23)
理由
上告代理人弁護士江原三郎の上告理由について。
原判決が、所論のごとく「元来土地の共有者は、自己の持分権の上に全部の占有支配を伴う地上権を設定することはできないものと解すべきであるが、他の共有者の同意があれば共有地の上にかような物権を設定し得るものであることは民法二五一条の規定上是認しなければならないところであるから、かような場合には土地利用の経済的目的からいえば、土地の単独所有の場合と異なるところがないものといわなければならない」と判示しながら、『したがつて、他の共有者の同意を得て共有地の上に建物を所有している共有者がその持分権につき、抵当権を設定した場合に、その共有者に属する持分権が抵当権の実行により競売に付され、これによつて、その権利を取得した者があるときは、抵当権設定者である共有者は、土地の単独所有者の場合におけると同様民法三八八条の規定の趣旨により建物のため共有地につき地上権を設定したものと看做されるものと解するを相当とする。尤も右の場合において他の共有者は単に抵当権を設定した共有者のため建物を所有することに同意したに過ぎないものではあるが、建物の存在を完うさせようとする国民経済上の必要上認められた同条の立法趣旨より考えれば、右の場合は土地の単独所有者がその土地上に建物を所有している場合と区別するの理由がないものといわなければならない。」と判示したことは、所論のとおりである。
しかし、元来共有者は、各自、共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであり、しかも共有地全体に対する地上権は共有者全員の負担となるのであるから、共有地全体に対する地上権の設定には共有者全員の同意を必要とすること原判決の判示前段のとおりである。換言すれば、共有者中一部の者だけがその共有地につき地上権設定行為をしたとしても、これに同意しなかつた他の共有者の持分は、これにょりその処分に服すべきいわれはないのであり、結局右の如く他の共有者の同意を欠く場合には、当該共有地についてはなんら地上権を発生するに由なきものといわざるを得ないのである。そして、この理は民法三八八条のいわゆる法定地上権についても同様であり偶々本件の如く、右法条により地上権を設定したものと看做すべき事由が単に土地共有者の一人だけについて発生したとしても、これがため他の共有者の意思如何に拘わらずそのものの持分までが無視さるべきいわれはないのであつて、当該共有土地については地上権を設定したと看做すべきでないものといわなければならない。しかるに、原審は右と異なる見解を採り、根拠として民法三八八条の立法趣旨を援用しているのであるが首肯し難い。けだし同条が建物の存在を全うさせようとする国民経済上の必要を多分に顧慮した規定であることは疑を容れないけれども、しかし同条により地上権を設定したと看做される者は、もともと当該土地について所有者として完全な処分権を有する者に外ならないのであつて、他人の共有持分につきなんら処分権を有しない共有者に他人の共有持分につき本人の同意なくして地上権設定等の処分をなし得ることまでも認めた趣旨でないことは同条の解釈上明白だからである。それ故原審の見解はその前段の判示とも矛盾するものというべく是認できない。されば、かかる見解を前提として単に原審認定の事実関係だけで被上告人が本件共有土地に地上権を取得したと判断した原判決は法律の解釈を誤つた違法があるものというべく、論旨はその理由があつて、原判決は、破棄を免れない。
よつて、民訴四〇七条を適用し、裁判官全員の一致により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)
・建物に抵当権が設定された場合も法定地上権は成立しない!!!
+判例(S44.11.4)
(2)建物に共有関係がある場合
・法定地上権の成立を認める!!
土地所有者は、自己のみならず他の建物共有者のためにも土地の利用を認めていたといえるから。
抵当権設定者ではないbに不利益が及ぶものではなく、持分権が他人に処分されたとはいえないから。
+判例(S46.12.21)
理由
上告代理人牧野芳夫の上告理由について。
建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人が右土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法三八八条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。したがつて、これと同旨の原判決は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一)
3.土地と建物がともに共有であった場合(補論)
+判例(H6.4.7)
理由
上告代理人小口恭道の上告理由第一点の一、第二点について
土地及びその上にある建物がいずれも甲、乙両名の共有に属する場合において、土地の甲の持分の差押えがあり、その売却によって第三者が右持分を取得するに至ったとしても、民事執行法八一条の規定に基づく地上権が成立することはないと解するのが相当である。けだし、この場合に、甲のために同条の規定に基づく地上権が成立するとすれば、乙は、その意思に基づかず、甲のみの事情によって土地に対する持分に基づく使用収益権を害されることになるし、他方、右の地上権が成立することを認めなくても、直ちに建物の収去を余儀なくされるという関係にはないので、建物所有者が建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとする同条の趣旨に反することもないからである。
原審の適法に確定した事実関係によると、原判決別紙物件目録一記載の土地及びその上にある同目録二記載の建物はいずれも上告人及びAの共有であったところ、右土地の上告人の持分について強制競売が行われ、被上告人が右持分を買い受けたというのであるから、右の強制競売による売却によって民事執行法八一条の規定に基づく地上権が成立するものではないというべきであり、同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第一点の二について
原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大白勝 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)
・他の共有者の容認いかんで法定地上権の成否を判断することには否定的!!!
+判例(H6.12.20)
理由
上告代理人星隆文の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 第一審判決添付第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、被上告人Aとその妻子の三名が共有するものであったところ、右共有者らは、昭和五八年一二月二三日に、右土地につき、被上告人Aを債務者として、国民金融公庫のために抵当権を設定し、同月二七日に登記を了した。
2 一方、本件土地上にある第一審判決添付第二物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、被上告人Aの先代であるBが所有していたところ、昭和五六年一月一一日に同人が死亡したことにより、被上告人A、同Cを含むBの子ら九名がこれを相続した。
3 本件土地につき、国民金融公庫の申立てにより、昭和六〇年一二月七日に前記抵当権に基づく競売手続が開始されたところ、上告人がこれを買い受けてその所有権を取得した。
4 本件土地建物はもともとBが被上告人Aに贈与する意向であったにもかかわらず、土地については、同被上告人に単独で贈与税を支払う資力がないことから、同被上告人とその妻子とに贈与し、建物については、被上告人Aが事業に失敗しその債権者から差押えを受けるおそれがあったことから、Bの所有名義のままにしてあった。
二 原審は、右事実関係の下において、本件土地の共有者全員について被上告人Aら共有の本件建物のために地上権を設定したものとみなすべき事由があるとして、被上告人らの主張を認め、本件土地の所有権に基づき本件建物収去による本件土地明渡しを求める上告人の請求を認容した第一審判決中被上告人らに関する部分を取り消し、右請求を棄却した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 共有者は、各自、共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであり、かつ、共有地全体に対する地上権は共有者全員の負担となるのであるから、土地共有者の一人だけについて民法三八八条本文により地上権を設定したものとみなすべき事由が生じたとしても、他の共有者らがその持分に基づく土地に対する使用収益権を事実上放棄し、右土地共有者の処分にゆだねていたことなどにより法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることができるような特段の事情がある場合でない限り、共有土地について法定地上権は成立しないといわなければならない(最高裁昭和二六年(オ)第二八五号同二九年一二月二三日第一小法廷判決・民集八巻一二号二二三五頁、最高裁昭和四一年(オ)第五二九号同四四年一一月四日第三小法廷判決・民集二三巻一一号一九六八頁参照)。
2 これを本件についてみるのに、原審の認定に係る前示事実関係によれば、本件土地の共有者らは、共同して、本件土地の各持分について被上告人Aを債務者とする抵当権を設定しているのであり、A以外の本件土地の共有者らはAの妻子であるというのであるから、同人らは、法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとも考えられる。しかしながら、土地共有者間の人的関係のような事情は、登記簿の記載等によって客観的かつ明確に外部に公示されるものではなく、第三者にはうかがい知ることのできないものであるから、法定地上権発生の有無が、他の土地共有者らのみならず、右土地の競落人ら第三者の利害に影響するところが大きいことにかんがみれば、右のような事情の存否によって法定地上権の成否を決することは相当ではない。そうすると、本件の客観的事情としては、土地共有者らが共同して本件土地の各持分について本件建物の九名の共有者のうちの一名である被上告人Aを債務者とする抵当権を設定しているという事実に尽きるが、このような事実のみから被上告人A以外の本件土地の共有者らが法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることはできない。けだし、本件のように、九名の建物共有者のうちの一名にすぎない土地共有者の債務を担保するために他の土地共有者らがこれと共同して土地の各持分に抵当権を設定したという場合、なるほど他の土地共有者らは建物所有者らが当該土地を利用することを何らかの形で容認していたといえるとしても、その事実のみから右土地共有者らが法定地上権の発生を容認していたとみるならば、右建物のために許容していた土地利用関係がにわかに地上権という強力な権利に転化することになり、ひいては、右土地の売却価格を著しく低下させることとなるのであって、そのような結果は、自己の持分の価値を十分に維持、活用しようとする土地共有者らの通常の意思に沿わないとみるべきだからである。また、右の結果は、第三者、すなわち土地共有者らの持分の有する価値について利害関係を有する一般債権者や後順位抵当権者、あるいは土地の競落人等の期待や予測に反し、ひいては執行手続の法的安定を損なうものであって、許されないといわなければならない。
四 そうすると、これと異なる原審の判断には、法定地上権の成立に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前示事実関係に照らしても、本件において他に法定地上権の成立を肯定すべき事情はない。また、被上告人らのその余の抗弁中、本件土地について本件建物のために約定の地上権が設定されていたとの主張については、右地上権が登記されていたとの主張がなく、したがって、それを本件土地の買受人である上告人に対抗する要件を欠くから、失当というべきであり、また、上告人の請求が権利の濫用に当たるとの主張については、前示事実関係に照らし理由がないことが明らかである。そうすると、上告人の請求を認容した第一審判決は正当であって、被上告人らの控訴はいずれも棄却すべきである。よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
Ⅴ おわりに
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