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1.損害の意義~差額説
・差額説
不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額が損害である。
・損害事実説
損害とは、不法行為によって被害者に生じた不利益な事実である
修正
損害と損害額を切り離して、損害については損害事実説に近い扱いをする。
2.個別損害項目積上げ方式による差額計算
・財産的損害
被害者が有している財産を失ったという積極的損害
被害者が将来得ることができたであろう利益を得られなかったという消極的損害
・非財産的損害
3.具体的損害計算の原則とその修正
・個別損害項目を積算しながら差額計算をしていく際に、「損害項目として何を選定するか」「その損害項目にどのような金額を当てるか」という点について
具体的損害計算←判例
権利侵害を受けた当該具体的な被害者を基準に決定していく
←損害賠償の目的は被害者個人に生じた実損害の填補にあるのだから、被害者の個人的事情を斟酌しなければならない。
抽象的損害計算
社会生活においてその被害者が属するグループの平均的な人を基準に決定していく
←実損害についての主張立証面での負担軽減。
権利に割り当てられる価値の代替物である損害賠償請求権についても、私法秩序がその権利にどれだけの金銭的な価値を与えたのかを個々の被害者から離れて確定し、少なくともそうして算定された金額については、被害者が誰であれ最低限賠償してやるべきだという理念。
・個別の被害者の逸失利益について、具体的な個人固有の収入額や算定資料が存在しない場合
経験則を通じての損害額の認定、したがって抽象的損害計算を行っている・・・
+判例(S39.6.24)
理由
上告代理人三宅厚三の上告理由第一点について。
(一)上告人らは、論旨一、において、総論的に、本件のごとく被害者が満八才の少年の場合には、将来何年生存し、何時からどのような職業につき、どの位の収入を得、何才で妻を迎え、子供を何人もち、どのような生活を営むかは全然予想することができず、したがつて「将来得べかりし収入」も、「失うべかりし支出」も予想できないから、結局、「得べかりし利益」は算定不可能であると主張する。なるほど、不法行為により死亡した年少者につき、その者が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を算定することがきわめて困難であることは、これを認めなければならないが、算定困難の故をもつて、たやすくその賠償請求を否定し去ることは妥当なことではない。けだし、これを否定する場合における被害者側の救済は、主として、精神的損害の賠償請求、すなわち被害者本人の慰藉料(その相続性を肯定するとして)又は被害者の遺族の慰藉料(民法七一一条)の請求にこれを求めるほかはないこととなるが、慰藉料の額の算定については、諸般の事情がしんしゃくされるとはいえ、これらの精神的損害の賠償のうちに被害者本人の財産的損害の賠償の趣旨をも含ませること自体に無理があるばかりでなく、その額の算定は、結局において、裁判所の自由な裁量にこれを委ねるほかはないのであるから、その額が低きに過ぎて被害者測の救済に不十分となり、高きに失して不法行為者に酷となるおそれをはらんでいることは否定しえないところである。したがつて、年少者死亡の場合における右消極的損害の賠償請求については、一般の場合に比し不正確さが伴うにしても、裁判所は、被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、ことに右蓋然性に疑がもたれるときは、被害者側にとつて控え目な算定方法(たとえば、収入額につき疑があるときはその額を少な目に、支出額につき疑があるときはその額を多めに計算し、また遠い将来の収支の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法)を採用することにすれば、慰藉料制度に依存する場合に比較してより客観性のある額を算出することができ、被害者側の救済に資する反面、不法行為者に過当な責任を負わせることともならず、損失の公平な分担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念にも副うのではないかと考えられる。要するに、問題は、事案毎に、その具体的事情に即応して解決されるべきであり、所論のごとく算定不可能として一概にその請求を排斥し去るべきではない。
(二)よつて、以上の観点に立ちながら、進んで、上告人らが、論旨二、以下において各論的に、原判決の算定方法の違法を主張する諸点につき判断することとする。
(い)上告人らは、まず、原審が、統計表に基づいて余命年数を求め、二〇才から五五才まで三五年間を稼働可能期間とし、国民の収入及び支出の平均又は標準を示すものとは認められない判示諸表によつて「得べかりし収入」と「失うべかりし支出」を想定して「得べかりし利益」を算出しているのは不合理であると主張する。
(イ)稼働可能期間について。
しかしながら、原審は、本件被害者らは、本件事故当時満八才余の普通健康体を有する男子であること、判示統計表により同人らの通常の余命は五七年六月余であり、二〇才から少くとも五五才まで三五年間は稼働可能であることを認定しているのであり、右認定は、平均年令の一般的伸長、医学の進歩、衛生思想の普及という顕著な事実をも合せ考えれば、相当としてこれを肯認することができ、この点に所論のごとき不合理は認められない。
(ロ)収入額について。
つぎに、原審は、本件被害者らは、右稼働可能期間中、毎年、判示証拠資料により認めうる昭和三三年四月から九月までの間のわが国における通常男子の一ヵ月の平均労働賃金二万六四八円、元年分にして二四万七七七六円の金額を下らない収入を得べきものと推認し、その年収額から後出の支出年額を控除した額を基準としてホフマン式計算方法による一時払いの損害額を算出しているのであるが、被害者らがいかなる職業につくか予測しえない本件のごとき場合においては、通常男子の平均労賃を算定の基準とすることは、将来の賃金ベースが現在より下らないということを前提にすれば、一応これを肯認しえないではないが、収入も一応安定した者につき、将来の昇給を度外視した控え目な計算方法を採用する場合とは異なり、本件のごとき年少者の場合においては、初任給は平均労賃よりも低い反面、次第に昇給するものであることを考えれば、三五年間を通じてその年収額を右平均労賃と同額とし、これを基準にホフマン式計算方法により一時払いの額を求めている原審の算出方法は、これを肯認するに足る別段の理由が明らかにされないかぎり、不合理というほかはないところ、原判決はこの点につきなんら説明するところがないので、少くとも右の点において原判決には理由不備の違法があるものといわなければならない。
(ハ)支出額について。
(A) 原審は、本件被害者らの稼働可能期間中における毎年の生活費は、判示証拠資料により認めうる昭和三三年度における勤労者の平均世帯(世帯員数四・四六人)の実支出額一カ月三万六三八円、一人平均六八六九円、その元年分である八万二四二八円と同額と認めるのを相当としているところ、上告人らは、本件被害者らは何時結婚し、何人の子供をもち、いかなる生活を営むか不明であるばかりでなく、世帯主の生活費は他の世帯員のそれより多いことは経験則上顕著であるから、世帯の支出額を均分したものを世帯主と認められる被害者らの生活費とすることは不合理であると主張する。ところで、被害者らが独身で生活するという特別の事情が認められない本件のごとき場合においては、平均世帯を基準として被害者ら各自の生活費を算出すること自体は、一応これを肯認しえないではないが、原判決が、首肯するに足る理由をなんら示すことなく、右三五年間を通じて被害者らの生活費が昭和三三年度の前示生活費と同額であるとしていること、及び前示世帯の支出額を世帯員数で均分したものが被害者ら(男子であり、世帯主となるものと推認される)の生活費であるとしているのは、理由不備の違法があるものといわなければならない。
(B) 上告人らは、さらに、論旨二の後段において、被害者らの収入からは、被害者本人の生活費のみならず、被害者らの負担すべき扶養家族の生活費をも控除すべきであると主張するが、収入から被害者本人の生活費を控除するのは、本人の生活費は、一応、収入を得るために必要な支出と認められるからであるが(収入を失うことによる損失と支出を免れたことによる利益の間には直接の関係がある)、扶養家族の生活費の支出と被害者本人の収入の間には右のごとき関係はなんら認められないのであるから、扶養家族の生活費の額は、収入額からこれを控除すべきではなく、この点に関する原判旨は、簡に失しているが、結論において正当であり、所論は採用し難い。
(C) 上告人らは、また、論旨三において、被害者らの得べかりし収入額から、稼働可能期間経過後(五五才より後)に被害者らが支出すべかりし生活費を控除すべきであると主張するが、右支出も前記収入と前述のごとき直接の関係に立つものでないばかりでなく、五五才を超えても無収入であるとはかぎらず、また、第三者による扶養もありうることであるから、その間の生活費を前記収入から当然に控除しなければならない理由はない(二〇才までの期間における生活費についても同様であり、上告人らも右生活費を右の意味において控除すべしとは主張していない)。この点に関する原判旨もまた簡に失しているが、結局において正当であり、所論は採用しえない。
(D) 上告人らは、さらに二〇才ないし五五才を基準として損害額を算定すれば、一才の幼児が死亡した場合と一八・九才の青年が死亡した場合とでは、その「得べかりし利益」は同額となり、二五・六才以上の成年が死亡した場合のそれは、一才の幼児が死亡した場合のそれより少額となつて不合理であると主張するが、所論は、ホフマン式計算方法を度外視し、かつ、稼働可能期間の長短を忘れた議論であり、採用のかぎりでない。
(E) 上告人らは、また、論旨三において、本件損害賠償請求権を相続した被上告人らは、他面において、被害者らの死亡により、その扶養義務者として当然に支出すべかりし二〇才までの扶養費の支出を免れて利得をしているから、損益相殺の理により、賠償額から右扶養費の額を控除すべきであると主張するが、損益相殺により差引かれるべき利得は、被害者本人に生じたものでなければならないと解されるところ、本件賠償請求権は被害者ら本人について発生したものであり、所論のごとき利得は被害者本人に生じたものでないことが明らかであるから、本件賠償額からこれを控除すべきいわれはない。所論は、採用に価しない。
(ろ)なお、上告人らは、論旨四において、原判決のホフマン式計算方法の適用の誤りを主張するが、不法行為による損害賠償の額は、不法行為時を基準として算定するのを本則とするのであるから、原審が、ホフマン式計算方法を適用するについて本件事故の時を基準とし、その時における一時払いの額を算出したのは正当である。所論は、ひつきよう、独自の見解の下に原判決を非難するものであり、採用のかぎりでない。
(三)以上、要するに、本訴請求中、得べかりし利益の喪失による損害の賠償を求める部分については、原判決に少くとも前示のごとき諸点につき理由不備の違法があることが明らかであり、所論は、結局において理由があるので、原判決は、右限度において破棄を免れない。
同第二点について。
上告人らは、原判決が損害額を算定するにつき、被上告人らの監督義務者としての過失をしんしやくしなかつたのは違法であると主張するが、原審認定の事実関係の下においては、被上告人らに監督上の過失が認められないとした原審の判断は、これを肯認しえないではない。所論は、ひつきよう、原審の認定しない事実に基づき又は独自の見解の下に、原判決を論難するに過ぎないものであり、採用し難い。
よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)
4.統計値を用いた逸出利益算定と男女間格差
・判例は、女子学生の逸出利益が問題になった事件で、家事労働分加算という算定方法を認めなかった。
=女子労働者の平均賃金を基準
+判例(S62.1.19)
・その後、全労働者の平均賃金を基準とするようになる。
←未就労年少者は、多様な就労可能性を有するから、現在就労する労働者の労働の結果として現れる労働市場における男女間の賃金格差を将来の逸出利益の算定に直接的に反映させるのは、将来の収入の認定ないし蓋然性の判断として合理的な者とは言い難い。
未就労年少者の多様な発展可能性を性により差別することになり、個人の尊厳ないし男女平等の理念に照らして適当ではない。
女性の職業領域の拡大。
・一時滞在外国人の逸出利益
予想される我が国での就労可能期間ないし滞在期間内は我が国での収入等を基礎とし
その後は想定される出国先での収入等を基礎として逸出利益を算定するのが合理的
・公的年金の逸出利益性
公的年金の受給権者が不法行為の被害者その人である場合に、退職手当、老齢年金などの受給権の喪失を拠り所として逸出利益を捉える。
被害者が平均余命期間に受給できたであろう年金の額を基礎に、被害者の逸出利益を算定する。
被害者が死亡したときは、相続人が相続によってこれを取得。
これに対し、
不法行為の被害者が死亡した場合における子や配偶者への年金過給分や、遺族が受給権者となる遺族年金については、死亡被害者自身の逸出利益であることを否定する。
5.物損の場合
・修理が不可能ならば、同種同等の物を市場で調達するのに要する価格相当額が賠償の対象となる。
調達費用から、つぶれた物の交換価値を控除
・修理が可能な場合は、修理費用相当額の賠償
代物を賃借した場合の賃貸料相当額も。
6.損害の主張・立証責任
財産的損害については被害者が主張立証責任を負う。
差額説によれば、損害とは金額なので、損害項目のほか、金額についても主張立証。
もっとも、民事訴訟法248条により、相当な賠償額を認定することもできる。
7.慰謝料の算定~慰謝料の果たす機能
慰謝料の認定については、
裁判官の裁量的・創造的役割に全面的にゆだねられている。
→①慰謝料の算定に当たっては、裁判官はその額を認定するに至った根拠をいちいち示す必要がない
②被害者が慰謝料額の証明をしていなくても諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができる
③その際に斟酌すべき事情に制限はなく、被害者の地位職業はもとより、加害者の社会的地位や財産状態も斟酌できる
慰謝料には精神的苦痛を填補する機能(損害填補機能)だけでなく、財産的損害を補完する機能(補完的機能)がある。
制裁的機能については認めていない。
←被害者の被った現実の損害の補てんを目的とする我が国の不法行為損害賠償制度の基本理念と相いれない。
・損害賠償制度と訴訟物の個数
同一の事故による同一の法益への侵害を理由とする財産的損害と被財産的損害の損害賠償請求は、実体法上1個と考えられており、したがって、訴訟物も1個であるとされる。
8.損害賠償請求の方法~「一時金」方式と「定期金」方式
・損害賠償請求権者が一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払いを命じる判決をすることはできない。
・一時金賠償と中間利息の控除
運用利益分も含めてみたときに被害者が不法行為をきっかけとして利得しないよう、中間利息分をあらかじめ控除して一時金を支払わせる。
9.賠償されるべき損害の確定~加害行為(・権利侵害)と損害との相当因果関係、416条の類推適用論
問
どこまでの損害項目が損害賠償の範囲に取り込まれることになるのか
差額の算定に当たって、どの金額で評価することになるのか
判例通説は、
賠償されるべき損害は、加害行為(もしくは権利侵害)と相当因果関係にある損害に限られる!!
当該項目が、加害行為と相当因果関係にある損害項目かという判断と、
どこまでの金額が加害行為と相当因果関係にある金額化という判断が含まれる
・判例通説は、損害の範囲を確定するに当たり、金銭評価の点をも含めて相当因果関係論を採用したうえで、民法416条を類推適用することにより、相当性判断を行っている。
←
①賠償されるべき損害は、加害行為と相当因果関係にある損害であるところ、
②債務不履行の効果としての損害賠償の範囲を定める416条は、相当因果関係を定めた規定であるから、
③不法行為による損害賠償についても、416条が類推適用されるという論法。
・この判例通説によると、
416条1項は、通常生ずべき損害を賠償すべきだとすることで、相当因果関係の考え方を採用しているところ、不法行為の場合も、当該不法行為により通常生ずべき損害の賠償が求められるべきであり、
416条2項は、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がこの特別事情を予見し、または予見すべきであったときには賠償が認められるとしているから、不法行為の場合も、被害者としては特別事情を加害者が予見していたこと、または予見すべきであったことを主張・立証することで特別損害が賠償の範囲に入ってくる。
・相当因果関係論に対する批判
不法行為においては、故意の場合はともかく過失による場合には、損害の予見可能性がほとんど問題にならない。にもかかわらず、416条を類推適用すると、特別損害の賠償が困難になり、その不都合を回避するために、通常損害や予見可能性を擬制せざるえなくなる。
10.弁護士費用の賠償
かつての判例は、
不当訴訟に対する応訴のためにやむを得ず支出した弁護士費用に限って賠償を認めていた。
←我が国は訴訟手続について弁護士強制主義を採用していない
訴訟費用にも含まれていない
現在の判例は、
被害者が自己の損害賠償請求権を実現するための訴えを提起した場合一般につき、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲のものに限って、不法行為による損害として損害賠償できる!!!!(だいたい額の2~3割くらいだが・・・)
弁護士費用相当額の損害賠償請求権が認められるには、当事者と弁護士との間で報酬の支払合意が成立しておればよく、報酬がいまだ支払われていなくてもかまわない。
11.遅延損害金はいつから起算されるか
不法行為によって損害が発生し、加害者がその支払いをしないとき、損害金を元本として、遅延損害金が発生する。
遅延損害金の算定利率は年5%(民法404条)
不法行為に基づく損害賠償債務は、「履行期の定めのない債務」
とすると、412条3項により、被害者からの催告(請求)を待って遅滞に陥るのか?
⇔
判例は、
不法行為に基づく損害賠償債務は、何ら催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る
=損害賠償債務は損害の発生と同時に遅滞に陥る。初日算入の原則も妥当しない。
・示談後に生じた事態を理由とする損害賠償
一般に、不法行為による損害賠償について示談がされ、被害者が一定額の支払を受けることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在していたとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上回る損害について、示談後には請求することができない。
もっとも、全損害を正確に把握することが困難な状況下で、早急に少額の賠償額で満足する旨の示談がされた場合には、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきである。当事者の合理的意思に合致するかどうか。
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