不法行為法 9 使用者の責任・注文者の責任

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1.使用者責任の意味
被用者の不法行為を理由として、被害者が使用者に対して損害賠償請求をする

+(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

・使用者責任を支える基本的な考え方
①危険責任の原理
使用者が被用者を用いることで新たな危険を創造したり、拡大したりしている以上、使用者は被用者による危険の実現につき責任を負担すべきである。

②報償責任の原理
使用者が自分の業務のために被用者を用いることによって事業活動上の利益を上げている以上、使用者は被用者による事業活動の危険も負担すべきである。

・使用者が負担する責任の性質
①自己責任説
使用者固有の責任
被用者の選任監督上の過失を根拠にする715条では、1項ただし書きが設けられることによって、使用者側へと主張立証責任が転化されており、この点が709条とは異なる
=使用者責任は中間責任である

②代位責任説(判例通説)
被用者が負担する責任を使用者が代わって負担するもの
被用者の行為は、それ自体として不法行為の成立要件を充足するものでなければならない
715条1項ただし書きにいう使用者の専任監督上の過失は、709条の故意過失と違い、一種の政策的考慮に出た免責事由である!!!

2.使用者責任の要件事実~概観
715条1項に基づく請求をする場合
・請求原因
①Xの権利侵害
②Hの行為につき、Hに故意があったこと、または過失があったとの評価を根拠付ける具体的事実
③損害の発生(およびその金額)
④Hの行為とXの権利侵害(・損害)との間の因果関係
⑤行為当時、Y・H間に使用関係があったこと
⑥Hの不法行為がYの事業の執行につきおこなわれたものであること

・抗弁
ⅰ)Hに過失があったとの評価を妨げる具体的事実

ⅱ)行為当時、Hに責任能力がなかったこと(712条、713条)

ⅲ)YがHの選任およびその事業の監督につき相当の注意をしたこと(715条ただし書き前段)

ⅳ)YがHの選任・監督につき相当の注意をしても損害が生じたであろうこと(715条ただし書き後段)

・失火責任法と使用者責任
被用者の行為につき重過失判断をすべき
←使用者責任を代位責任的に捉えて処理

ちなみに、監督義務者の責任については、
監督義務者の監督上の行為について重過失判断をすべき
←判例は714条の監督義務者の責任を自己責任説的に捉えて処理しようとした

3.使用関係
使用する関係の存在が必要。
雇用関係までは必要ない。

両者の間に契約関係が存在するか、行われる事業が一時的か継続的か、営利目的かどうか、適法か違法かなどといった点は重要ではなく、
実質的に見て使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足りる。

実質的指揮監督関係は、
使用者が被用者を実際に指揮監督していたかどうかという点に即して判断されるわけではなく、
指揮監督をすべき地位が使用者に認められるかどうかという点に即して判断される!!!!

+判例(S41.6.10)

+判例(S56.11.27)

4.事業執行性
被用者の不法行為は、使用者の業務の執行につき、行われたものでなければならない。

・業務の執行につきとは、
外形標準説
被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為が外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含するものと解すべき!!

←信頼保護の観点から
外形標準説の意義は、取引行為に関する限り、行為の外形に対する第三者の信頼を保護しようとするところに存在する

被用者の行為が職務執行行為に該当する場合には、そもそも外形標準説の定式を持ち出す必要はない。

・外観を信頼したどのような被害者であっても、保護に値するのか?
被用者のなした取引行為が、その行為の外形から見て、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、
その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものでもなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながら、または、少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたときは、その行為に基づく損害は715条所定の損害とはいえない。
この場合の重過失とは、故意に準じる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまったく保護を与えないことが相当と認められる状態

+判例(S42.11.2)

・上記外形標準説は、取引的不法行為を対象に展開されたもの。
では、交通事故のような事実的不法行為について、「事業の執行につき」は、どのように捉えるべきか。

交通事故の事例
外形から客観的に見て職務の範囲内にあたるかどうかを判断

暴力行為の事例
被用者が、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えた損害と認められるかどうかという基準

この場合には外観への信頼という視点は現れてこない。

5.715条1項ただし書きの免責立証
危険責任が免責されるためには、一般には、不可抗力程度のものが必要
→免責はほぼ認められない。

6.使用者が賠償した場合の、被用者に対する求償権
+(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

・損害の公平な分担という見地から、信義則に照らし、求償権が制限される!
事業活動におけるリスクの一部は使用者も負担しなければならない。

求償権を信義則上制限すべきことを根拠付ける具体的事実については、使用者から求償を受けた被用者が、抗弁として主張立証しなければならない。

・信義則による求償権の制限
事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の文さんについての使用者の配慮の程度その他諸般の事情
というように複数の抽象的な指標掲げている。

7.代理監督者の責任
代理監督者
=使用者に代わって事業を監督する者

・代理監督者といえるためには、
現実に被用者の具体的な選任監督にあたっていることが必要

・要件事実について
①~⑥は同様。
⑦使用者がDに対して事業を監督する権限を与えたこと

8.709条に基づく被用者の損害賠償責任
・被害者に対する被用者の損害賠償債務と、被害者に対する使用者の損害賠償債務とは不真正連帯債務の関係に立つ。

・被用者に対する損害賠償請求権についての消滅時効の完成は使用者に対する損害賠償請求権に影響を与えない。
←不真正連帯債務

・被用者に対する免除は使用者の損害賠償債務に影響を与えない
←不真正連帯債務

・被用者が賠償した場合の逆求償
被用者が賠償した場合には代位責任の考え方を貫き、逆求償を認めない!

9.709条に基づく法人自身の不法行為責任(法人過失論)
法人の活動を組織的に一体のものとして捉えて、法人としての活動にあたる被用者の行為を「法人の行為」のなかに吸収し、この意味での「法人の行為」が社会生活において必要とされる注意を尽くしていないと評価されるときに、法人の過失を認め、709条の過失を認める。

10.使用者責任に類似する制度(その1)~国家賠償法1条に基づく国・地方公共団体の損害賠償責任

ⅰ)公権力の行使にあたる公務員の加害行為であること
公権力の行使とは、
国・公共団体の作用の中から純然たる私経済作用と営造物の設置管理作用を除いた一切の公行政作用を意味する。
純然たる私経済作用は715条で処理

・一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意過失による違法行為があったのでなければ当該被害が生じなかったであろうと認められ、かつ、国または公共団体が法律上賠償責任を負うべき関係が存在するときは、
加害行為の不特定を理由として国家賠償法または民事法上の損害賠償請求を免れることはできない。

ⅱ)加害行為が職務を行うにつきされたものであること
外形標準説

ⅲ)加害行為について公務員に故意があったこと、または過失の評価根拠事実

ⅳ)加害行為に違法性が認められる
ここでの違法性とは、
職務行為規範に対する違反
職務上尽くすべき注意義務に違反して当該国民に損害を加えたとき

ⅴ)被害者の権利の侵害

ⅵ)損害の発生(およびその金額)

ⅶ)ⅰ)の加害行為と権利侵害(・損害)との間の因果関係

・715条との相違点~公務員の個人責任
国がその被害者に対して賠償責任を負うのであって、公務員個人はその責任を負わない!

11.使用者責任に類似する制度(その2)~代表者の不法行為を理由とする法人の損害賠償責任
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条

12.使用者責任に類似する制度(その3)~注文者の責任
+(注文者の責任)
第七百十六条  注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

請負人が独立の業者であり、注文者の指揮監督を受けない点を考慮した。


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民事訴訟法 基礎演習民事訴訟法 当事者適格(2) 任意的訴訟担当


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・第三者の訴訟担当
民事訴訟において第三者が自己の名で他人の権利を主張しかつその他人にも判決効が及ぶ場合をいう

+(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条  確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一  当事者
二  当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三  前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四  前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2  前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。

・任意的訴訟担当
このうち、第三者の当事者適格(訴訟追行権)が訴訟で争われる権利義務の帰属主体である他人の意思に基づくものをいう

・任意的訴訟担当については明文の規定をもって許容している場合がある。
例 民事訴訟法30条にいう選定当事者による訴訟など
+(選定当事者)
第三十条  共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる
2  訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3  係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4  第一項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5  選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。

+(法人でない社団等の当事者能力)
第二十九条  法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

・問題は、明文の許容規定がない場合において、いかなる範囲でいかなる要件のもと任意的訴訟担当を許容すべきかである!

1.任意的訴訟担当の要件その1~弁護士代理の原則等の潜脱のおそれ~
(1)任意的訴訟担当を制限する諸制度
(2)判例・学説

実質的関係説
民事訴訟法54条及び信託法10条による制限を回避潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には、任意的訴訟担当を許容してもよいとの枠組み。

+(訴訟代理人の資格)
第54条
1項 法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
2項 前項の許可は、いつでも取り消すことができる。

+(訴訟信託の禁止)
信託法第10条
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。

+判例(S45.11.11)
理由
上告代理人酒見哲郎の上告理由第一点について。
記録によれば、本訴は、被上告人が「互」建設工業共同企業体との間に締結した請負契約を解除したことによつて同企業体の蒙つた損害の賠償を、上告人が原告として訴求するものであるところ、原審は、上告人が本訴につき当事者適格を有しないことを理由に、次のように説示して、本件訴を不適法として却下した。すなわち、「互」建設工業共同企業体は、和歌山県知事の発注にかかる七、一八水害復旧建設工事の請負及びこれに付帯する事業を共同で営むことを目的とし、上告人ほか四名の構成員によつて組織された民法上の組合であり、その規約上、代表者たる上告人は、建設工事の施行に関し企業体を代表して発注者及び監督官庁等第三者と折渉する権限ならびに自己の名義をもつて請負代金の請求、受領及び企業体に属する財産を管理する権限を有するものと定められているものである。しかるところ、右企業体は民法上の組合であるから、訴訟の目的たる右損害賠償請求権は組合員である企業体の各構成員に本来帰属するものであるが、上告人は、前示組合規約によつて、組合代表者として、自己の名で前記の請負代金の請求、受領、組合財産の管理等の対外的業務を執行する権限を与えられているのであるから、上告人は、自己の名で右損害賠償請求権を行使し、必要とあれば、自己の名で訴訟上これを行使する権限、すなわち訴訟追行権をも与えられたものというべきである。したがつて、本件は、組合員たる企業体の各構成員が上告人に任意に訴訟追行権を与えたいわゆる任意的訴訟信託の関係にあるが、訴訟追行権は訴訟法上の権能であり、民訴法四七条のような法的規制によらない任意の訴訟信託は許されないものと解すべきであり、上告人が実体上前記の権限を与えられたからといつて、これが訴訟追行権を認めることはできず、上告人は、本訴につき当事者適格を有しないというのである。

ところで、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがつて、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのである。しかし、それに限られるものでないのはもとよりであつて、たとえば、第三者であつても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。
そして、このようないわゆる任意的訴訟信託については、民訴法上は、同法四七条(新30条)が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制度を設けこれを許容しているのであるから、通常はこの手続によるべきものではあるが、同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条(現10条)が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。
そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであつて、民訴法四七条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。したがつて、当裁判所の判例(昭和三四年(オ)第五七七号・同三七年七月一三日言渡第二小法廷判決・民集一六巻八号一五一六頁)は、右と見解を異にする限度においてこれを変更すべきものである。
そして、本件の前示事実関係は記録によりこれを肯認しうるところ、その事実関係によれば、民法上の組合たる前記企業体において、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員たる上告人は、組合財産に関する訴訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、本訴につき自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するものというべきである。しかるに、これと異なる見解のもとに上告人が右の当事者適格を欠くことを理由に本件訴を不適法として却下した原判決は、民訴法の解釈を誤るもので、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官松田二郎は退官につき評議に関与しない。

任意的訴訟担当
・担当者のための任意的訴訟担当
担当者が他人(被担当者)の訴訟が提起された場合のその訴訟につき補助参加と同程度の利害関係を有することが要件

・権利主体のための任意的訴訟担当
①担当者に対し訴訟追行権限を含む包括的な管理権限の授与がされていること
②担当者たる第三者が権利義務の帰属主体と同程度の知識を有する程度に、訴訟物たる権利関係の発生や管理に密接な関与を現実にしていること

2.任意的訴訟担当の分類の要否

3.任意的訴訟担当の要件2~訴訟追行の授権以外の要件~

・訴訟当事者機能の連結点(訴訟当事者として訴訟法上の規定の適用を受ける主体)が変更されてしまうことによる弊害の回避の問題。
権利主体に対する尋問が当事者尋問ではなく証人尋問になってしまうとか。

4.任意的訴訟担当の要件その3~訴訟追行の授権の要件~
授権の必要性自体ではなく、その態様からみて訴訟追行の授権として十分かという点。
訴訟に先立って被担当者からなされる実体法上の権能の授与のなかに訴訟追行のための授権までがなされているかが審査される

5.設問の解答
・訴訟追行の授権がなされているか
・訴訟物からみた被担当者・担当者の実体関係が、担当者の訴訟追行を許すに十分なものであるか否か


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民法 事例で学ぶ民法演習 35 借地上の建物の賃借権


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1.はじめに

・建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用収益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得る!
+判例(S38.2.21)
理由
上告代理人松井久市の上告理由第一点について。
しかし、原判決の確定した事実によれば、本件建物は、杉皮葺板壁平屋建一棟建坪四三坪八合のものであつて、訴外Aの建築したものを、昭和三〇年三月被上告人において賃借し、爾来被上告人がこれに居住し、家具製造業を営んで現在に至つているというのであるから、原判決がこれを借地、借家法にいう建物に当ると判示したのは正当である。
所論は、原審の適法にした事実認定を非難し、判示に反する事実を前提として原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
同第二点について。
しかし、原判決が、本件借地契約は、借地法九条にいう一時使用のためのものではなく、借地法の適用を受ける建物所有のために設定されたものであること、所論調停条項は、所論の如き趣旨のものではなくて、上告人と訴外Aとが、右の本件借地契約を合意解除してこれを消滅せしめるとの趣旨であるとした判断は、挙示の証拠関係及び事実関係に徴し、首肯できなくはない。
ところで、本件借地契約は、右の如く、調停により地主たる上告人と借地人たる訴外Aとの合意によつて解除され、消滅に至つたものではあるが、原判決によれば、前叙の如く、右Aは、右借地の上に建物を所有しており、昭和三〇年三月からは、被上告人がこれを賃借して同建物に居住し、家具製造業を営んで今日に至つているというのであるから、かかる場合においては、たとえ上告人と訴外Aとの間で、右借地契約を合意解除し、これを消滅せしめても、特段の事情がない限りは、上告人は、右合意解除の効果を、被上告人に対抗し得ないものと解するのが相当である。
なぜなら、上告人と被上告人との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによつて勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもつて賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもつて第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法三九八条、五三八条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和九年三月七日大審院判決、民集一三巻二七八頁、昭和三七年二月一日当裁判所第一小法廷判決、最高裁判所民事裁判集五八巻四四一頁各参照)。
されば、原審判断は、結局において正当であり、論旨は、ひつきょう原審が適法にした事実認定を非難するか、独自の見解をもつて原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
なお、論旨後段の、上告人が前記和解において、本件建物をA所有の他の建物とともに四二万円で買い受けることにしたのは、便宜上移転料に代え、取毀し材料として買受けたものである云々の主張は、原審で主張判断を経ていない事実であるから、これをもつてする論旨は、採るを得ない。
同第三点について。
所論事実は、原審で主張されていないから、原審がそれにつき判断しなかつたのは当然のことであり、論旨は採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤朔郎)

2.解除の効力の対抗(小問1について)
(1)合意解除の場合(原則)
・原則として土地賃貸借契約の合意解除の効力は、借地上建物の賃借人に対抗することができない!
+上記判例
+(抵当権の目的である地上権等の放棄)
第三百九十八条  地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。
+(第三者の権利の確定)
第五百三十八条  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
・適法転貸借における原賃貸借の解除
+判例(S62.3.24)
理  由 
 上告代理人一井淳治、同光成卓明の上告理由第一点及び第二点について 
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事由に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。 
 同第三点一について 
 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく右土地を他に転貸しても、転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため賃貸人が民法六一二条二項により賃貸借を解除することができない場合において、賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがつて、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。けだし、賃貸人は、賃借人と賃貸借を合意解除しても、特段の事情のない限り、転貸借について承諾を与えた転借人に対しては右合意解除の効果を対抗することはできないものであるところ(大審院昭和八年(オ)第一二四九号同九年三月七日判決・民集一三巻四号二七八頁、最高裁昭和三四年(オ)第九七九号同三七年二月一日第一小法廷判決・裁判集民事五八号四四一頁、同昭和三五年(オ)第八九三号同三八年二月二一日第一小法廷判決・民集一七巻一号二一九頁参照)、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸であつても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため、賃貸人が右無断転貸を理由として賃貸借を解除することができない場合には、転借人は承諾を得た場合と同様に右転借権をもつて賃貸人に対抗することができるのであり(最高裁昭和三九年(オ)第二五号同年六月三〇日第三小法廷判決・民集一八巻五号九九一頁、同昭和四〇年(オ)第五三七号同四二年一月一七日第三小法廷判決・民集二一巻一号一頁、同昭和四三年(オ)第一一七二号同四五年一二月一一日第二小法廷判決・民集二四巻一三号二〇一五頁参照)、したがつて、賃貸人が賃借人との間でした賃貸借の合意解除との関係において、賃貸人の承諾を得た転貸借と賃貸人の承諾はないものの賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある転貸借とを別異に取り扱うべき理由はないからである。そして、右の理は、仮換地の指定を受けた者が仮換地につき他の者とその使用収益を目的とする賃貸借類似の契約(以下「仮換地の賃貸借」という。)を締結し、その者が更に第三者と右仮換地の使用収益を目的とする賃貸借類似の契約(以下「仮換地の転貸借」という。)を締結した場合についてもひとしく妥当するものというべきである。ところで、本件記録によると、原審において上告人菅井を除くその余の上告人らは、被上告人らの本件換地の所有権に基づく本訴各請求に対し、その各占有部分(上告人金については第一審判決別紙第二目録(四)のF-1建物部分の敷地)についての占有権原として、(一) (1) 上告人菅井は、被上告人らの被相続人瀬崎正次(以下「正次」という。)から、昭和二六年ころ本件仮換地を賃借した、(2) 上告人土居は上告人菅井から本件仮換地を転借した、(3) 右転貸には正次に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある、(二) 上告人山本、同小河及び同金は、上告人土居が本件仮換地上に所有している前記目録(二)及び(四)の各建物の一部を賃借し、その各敷地部分を占有しているものである、(三) 本件仮換地は、そのままの位置関係で換地処分がされ、昭和五四年一月六日に本件換地となつたものであるが、前記正次と上告人菅井の本件仮換地賃貸借及び上告人菅井と上告人土居の本件仮換地転貸借に際しては、本件仮換地がそのまま本換地となつた場合はこれを賃貸借ないし転貸借する旨の合意が成立していたとの趣旨の主張をしていたものと認められる。しかるに、原判決は、右(一)(1)の賃貸借が昭和三〇年一二月一四日に合意解除されたことを認定しているが、前示の観点に立つて右抗弁の当否について審理判断することなく、被上告人らの前記の本訴各請求を認容した第一審判決を相当として、右各上告人の控訴を棄却しているから、原判決には判決に影響を及ぼすべき事項についての判断遺脱、理由不備の違法があるものというべきである。論旨は理由があり、原判決中右請求に係る部分は破棄を免れない。そして、右部分については上述の点につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。 
 同第三点二について 
 原判決は、上告人菅井に対し、本件仮換地(昭和五四年一月六日以降は本件換地)の不法占有による賃料相当損害金として各被上告人に対して昭和三九年六月一日から昭和四八年一二月七日までは一か月七〇〇円、同月八日から昭和五六年三月三一日までは一か月一万二八三三円、同年四月一日から本件換地明渡に至るまでは一か月一万四三三三円の割合による金員の支払を命じている。 
 しかしながら、本件記録によると、上告人菅井は、原審第一五回口頭弁論期日において、被上告人らに対し本件換地の賃料相当損害金として昭和五六年四月一日から昭和五九年一月三一日までの分として一か月四五〇〇円の割合による金員を支払つた旨主張し、被上告人らも右期日において右金員を賃料相当損害金の一部として受領した旨陳述していることが明らかであるから、原判決には上告人菅井の右抗弁についての判断遺脱、理由不備の違法があるものというべきである。したがつて、論旨は理由があり、原判決中上告人菅井に対する各被上告人の金員請求のうち五万一〇〇〇円(昭和五六年四月一日から昭和五九年一月三一日まで一か月につき一五〇〇円の割合による金員の合計額)について同上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れず、右部分については、前記抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。 
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 坂上寿夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島 敦) 
・無断転貸の場合,原賃貸人は、原賃貸借を解除するまでもなく、転借人に対して明渡を求めることができる。
+判例(S26.5.31)
理由 
上告代理人雨宮清明の上告理由について。 
原審の確定した事実によれば、「本件係争家屋は、もと訴外仏国人Aがその所有者訴外Bから賃借していたものであり、昭和二一年秋Aの帰国に際し、上告人において同人からその賃借権の譲渡を受けたのであるが、この賃借権の譲渡については賃貸人であるBの承諾を得ていなかったのである。BはAの帰国後上告人が本件家屋に居住しているのをAの女中であつた訴外CからAの留守居であると告げられ、それを信じてAの支払うものとして二、三回Cを通じて賃料を受領したことがあつたが、その後上告人がAの留守居ではなく同人から賃借権を譲受けて右家屋に居住するものであることを覚知するに及んで上告人との間に紛争を起し、その解決をみないうちに本件家屋を被上告人に売渡すに至つたものであり、しかもBは右家屋売却前の賃料相当額の損害金は上告人より取立て得るものと考え、上告人と交渉の結果昭和二二年一〇月三〇日に至り同年一月分から一〇月分までの損害金として金一、一〇〇円を受領したものである」というのである。 
そしてこの原判決の事実認定はその挙示する証憑に照らし、これを肯認するに難くないのであつて、前記Bが昭和二二年一月分から一〇月分までの賃料を受領したものの如くに見ゆる乙第二号証の記載のみを以てしては、いまだ右認定を妨ぐるに足りない。上告人は本件家屋につき前所有者であるBに対し賃料を遅滞なく支払つていることは当事者間に争なきところであると主張するけれども、その然らざることは記録上明白である。原審は右認定にかかる事実と、本訴当事者間に争がない「被上告人が昭和二二年一〇月一〇日訴外Bから本件家屋を買受けその所有権を収得した」との事実及び「上告人が被上告人の右所有権取得前から該家屋を占有している」との事実にもとずき上告人は昭和二二年一〇月一〇日以前から前所有者B及び被上告人のいずれにも対抗し得べき何等の権原もなく不法に本件家屋を占有するものであると判示したのである。この判旨の正当であることは民法六一二条一項に「賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ譲渡……スルコトヲ得ス」と規定されていることに徴して明白であり、所論同条二項の注意は賃借人が賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡し又は賃借物を転貸し、よつて第三者をして賃借物の使用又は収益を為さしあた場合には賃貸人は賃借人に対して某本である賃貸借契約までも解除することを得るものとしたに過ぎないのであつて、所論のように賃貸人が同条項により賃貸借契約を解除するまでは賃貸人の承諾を得ずしてなされた賃借権の譲渡叉は転貸を有効とする旨を規定したものでないことは多言を要しないところである。 
されば所論は結局事実審である原審がその裁量権の範囲内で適法になした証拠の取捨判断若くは事実の認定を非難し、或は民法六一二条を誤解し正当な原判旨を論難するに外ならないのであつて採用の限りでない。 
よつて民訴四〇一条九五条八九条に従い主文のとおり判決する。 
この判決は全裁判官一致の意見である。 
 (裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 眞野毅 裁判官 齋藤悠輔) 
(2)実質的には債務不履行であるという事情
・債務不履行解除の場合はその解除の効力はCに対抗できる!
+判例(S45.12.24)
理由 
 上告代理人張有忠の上告理由について。 
 土地の賃借人がその地上に所有する建物を他人に賃貸した場合において、土地賃貸借と建物賃貸借とは別個の契約関係であるから、前者の終了が当然に後者の終了を来たすものではない。もつとも、土地の賃貸借が終了するときは、その地上に借地人所有の建物が存立しえないこととなる結果、建物賃借人は、土地賃貸人に対する関係においては、その建物を占有することによりその敷地を占有する権原を否定され、建物から退去して敷地を明け渡すべきこととなり、結局、建物の賃貸借契約も、その事実上の基礎を失い、賃貸人の債務の履行不能により消滅するに至るであろうが、土地の賃貸借が終了したときにただちに右履行不能を生ずるものというべきではない建物の賃借人がこれを現実に使用収益することに支障を生じない間は、建物の賃貸借契約上の債権債務がその当事者間に存続することは、妨げられないものと解される。したがつて、土地の賃貸借が借地人の債務不履行により解除された場合においても、その地上の建物の賃貸借はそれだけでただちに終了するものではなく、土地賃貸人と建物賃借人との間で建物敷地の明渡義務が確定されるなど、建物の使用収益が現実に妨げられる事情が客観的に明らかになり、ないしは、建物の賃借人が現実の明渡を余儀なくされたときに、はじめて、建物を使用収益させるべき賃貸人の債務がその責に帰すべき事由により履行不能となり、建物の賃貸借は終了するに至ると解するのが相当であつて、それまでは、建物賃借人の建物賃貸人に対する賃料債務は依然発生するものというべきである。 
 原判決の確定したところによれば、被上告人と訴外Aとの間の本件士地の賃貸借契約は、昭和四一年一月三日、Aの賃料不払により解除され、被上告人と上告人との間の訴訟において、同年一一月八日、上告人は被上告人に対し本件建物部分から退去して本件土地を明け渡すべき旨の第一審判決が言い渡され、昭和四四年二月四日、右判決が確定し、右確定判決に基づく建物退去土地明渡の強制執行が同年四月二二日施行され完了したのであるが、上告人は、右強制執行のあるまでは、Aとの間の賃貸借契約に基づいて、本件建物部分を占有使用していたというのである。してみれば、上告人に右建物敷地の明渡を命ずる前記判決が確定した昭和四四年二月四日までは、少なくともAの上告人に対する契約上の義務の履行が不能状態にあつたものとはいえず、Aと上告人との間の本件建物賃貸借契約は存続していたもので、上告人はその間Aに対し約定の賃料債務を負担していたものというべきである。そして、被上告人は、Aに対する金銭債権の強制執行として、Aの上告人に対する本件建物部分の昭和四一年一一月一日から昭和四二年一一月三〇日まで一三ケ月分の賃料債権合計七八万円につき差押および転付命令を得て、上告人に対しその支払を求めているのである。したがつて、被上告人に転付された右賃料債権はその存在を否定されないこと前記のとおりであるから、その支払を求める本訴請求を認容した原判決の判断は正当であつて、なんら所論の違法はない。論旨は採用することができない。 
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三) 
・適法転貸借の解除
+判例(H6.7.18)
理由 
 上告代理人高田正利の上告理由第一、第二について 
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。 
 同第一、第三及び第四について 
 土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない(最高裁昭和三三年(オ)第九六三号同三七年三月二九日第一小法廷判決・民集一六巻三号六六二頁、最高裁昭和四九年(オ)第七一号同四九年五月三〇日第一小法廷判決・裁判集民事一一二号九頁参照)。原審の適法に確定した事実関係の下においては、賃貸人である府川聞一(被上告人らの先代)が、転借人である上告人に対して賃借人である増永正行の賃料不払の事実について通知等をすべき特段の事情があるとはいえないから、本件賃貸借契約の解除は有効であり、被上告人らの上告人に対する建物収去土地明渡請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官木崎良平の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
・実質的には債務不履行解除が可能な場合において、当事者が形式的に合意解除を選択したときは、それは債務不履行解除と同様に扱うべきで、Cに対抗できる。
・転貸人について賃料の代払の機会を与えなければならないかどうか。
→通知は不要。
原賃貸借と転貸借は別個の法律関係であるから。
・AB間の契約の解除の効力をCに対して対抗できるかという問題は545条1項ただし書きの問題ではない!!!!!!!
←賃貸借契約の解除には遡及効がないから。
545条1項ただし書きは遡及効により不利益を受ける第三者の保護を目的としている。
(3)AはB以外による敷地利用を想定していなかったという事情
・AB間の土地賃貸借がAB間の特殊な人的関係を基礎としている場合には、この想定が必ずしも成り立たない。
=反対の特約
→AB間の合意解除が信義則に反することはない。
3.CのBに対する賃料支払義務(小問2について)
(1)賃料支払義務は消滅するか
・債務者(賃貸人・転貸人)の帰責事由の有無にかかわらず、賃貸借契約が履行不能となった場合には、賃料支払債務も当然に消滅し、ひいては賃貸借契約が終了する。
(2)賃料支払債務の消滅時期
+判例(H9.2.25)
理由 
 上告代理人須藤英章、同関根稔の上告理由について 
 一 被上告人の本訴請求は、上告人らに対し、(一) 主位的に本件建物の転貸借契約に基づいて昭和六三年一二月一日から平成三年一〇月一五日までの転借料合計一億三一一〇万円の支払を求め、(二) 予備的に不当利得を原因として同額の支払を求めるものであるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。 
 1 被上告人は、本件建物を所有者である訴外有限会社田中一商事から賃借し、同会社の承諾を得て、これを上告人キング・スイミング株式会社に転貸していた。上告人株式会社コマスポーツは、上告人キング・スイミング株式会社と共同して本件建物でスイミングスクールを営業していたが、その後、同会社と実質的に一体化して本件建物の転借人となった。 
 2 被上告人(賃借人)が訴外会社(賃貸人)に対する昭和六一年五月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、被上告人に対し、昭和六二年一月三一日までに未払賃料を支払うよう催告するとともに、同日までに支払のないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。しかるに、被上告人が同日までに未払賃料を支払わなかったので、賃貸借契約は同日限り解除により終了した。 
 3 訴外会社は、昭和六二年二月二五日、上告人ら(転借人)及び被上告人(貸借人)に対して本件建物の明渡し等を求める訴訟を提起した。 
 4 上告人らは、昭和六三年一二月一日以降、被上告人に対して本件建物の転借料の支払をしなかった。 
 5 平成三年六月一二日、前記訴訟につき訴外会社の上告人ら及び被上告人に対する本件建物の明渡請求を認容する旨の第一審判決が言い渡され、右判決のうち上告人らに関する部分は、控訴がなく確定した。 
 訴外会社は平成三年一〇月一五日、右確定判決に基づく強制執行により上告人らから本件建物の明渡しを受けた。
 二 原審は、右事実関係の下において、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約が被上告人の債務不履行により解除されても、被上告人と上告人らとの間の転貸借は終了せず、上告人らは現に本件建物の使用収益を継続している限り転借料の支払義務を免れないとして、主位的請求に係る転借料債権の発生を認め、上告人らの相殺の抗弁を一部認めて、被上告人の主位的請求を右相殺後の残額の限度で認容した。 
 三 しかしながら、主位的請求に係る転借料債権の発生を認めた原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。 
 賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。 
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約は昭和六二年一月三一日、被上告人の債務不履行を理由とする解除により終了し、訴外会社は同年二月二五日、訴訟を提起して上告人らに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、被上告人と上告人らとの間の転貸借は、昭和六三年一二月一日の時点では、既に被上告人の債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求める被上告人の主位的請求は、上告人らの相殺の抗弁につき判断するまでもなく、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第一審判決を取り消して、被上告人の主位的請求を棄却すべきである。また、前記事実関係の下においては、不当利得を原因とする被上告人の予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信) 


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会社法 事例で考える会社法 事例22 


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Ⅰ はじめに

+(債務の弁済前における残余財産の分配の制限)
第五百二条  清算株式会社は、当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない。ただし、その存否又は額について争いのある債権に係る債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない。

Ⅱ 既発行普通株式全部の強制取得・消却
1.既発行普通株式全部の強制取得

+第百五十五条  株式会社は、次に掲げる場合に限り、当該株式会社の株式を取得することができる
一  第百七条第二項第三号イの事由が生じた場合
二  第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求があった場合
三  次条第一項の決議があった場合
四  第百六十六条第一項の規定による請求があった場合
五  第百七十一条第一項の決議があった場合
六  第百七十六条第一項の規定による請求をした場合
七  第百九十二条第一項の規定による請求があった場合
八  第百九十七条第三項各号に掲げる事項を定めた場合
九  第二百三十四条第四項各号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる事項を定めた場合
十  他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社が有する当該株式会社の株式を取得する場合
十一  合併後消滅する会社から当該株式会社の株式を承継する場合
十二  吸収分割をする会社から当該株式会社の株式を承継する場合
十三  前各号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合

+(株式の内容についての特別の定め)
第百七条  株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。
一  譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
二  当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
三  当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
2  株式会社は、全部の株式の内容として次の各号に掲げる事項を定めるときは、当該各号に定める事項を定款で定めなければならない。
一  譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事項
イ 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
ロ 一定の場合においては株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合
二  当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 株主が当該株式会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨
ロ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類(第六百八十一条第一号に規定する種類をいう。以下この編において同じ。)及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう。以下同じ。)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
ヘ 株主が当該株式会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間
三  当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨及びその事由
ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
ハ イの事由が生じた日にイの株式の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する株式の一部の決定の方法
ニ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ホ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ヘ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのニに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのホに規定する事項
ト イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

+(定款の変更の手続の特則)
第百十条  定款を変更してその発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第三号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとする場合(株式会社が種類株式発行会社である場合を除く。)には、株主全員の同意を得なければならない。

+(異なる種類の株式)
第百八条  株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
一  剰余金の配当
二  残余財産の分配
三  株主総会において議決権を行使することができる事項
四  譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
五  当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
六  当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
七  当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
八  株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
九  当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第九号及び第百十二条第一項において同じ。)又は監査役を選任すること。
2  株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
一  剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
二  残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
三  株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
四  譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
五  当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
六  当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
七  当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
八  株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
九  当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
3  前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。

・155条1号の方は定款変更に株主全員の同意が必要なので難しい。
→5号の方で。

・全部取得条項付種類株式を発行するための定款変更
+(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)
第百七十一条  全部取得条項付種類株式(第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定めがある種類の株式をいう。以下この款において同じ。)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、当該株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない
一  全部取得条項付種類株式を取得するのと引換えに金銭等を交付するときは、当該金銭等(以下この条において「取得対価」という。)についての次に掲げる事項
イ 当該取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法
ロ 当該取得対価が当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該取得対価が当該株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該取得対価が当該株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
二  前号に規定する場合には、全部取得条項付種類株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項
三  株式会社が全部取得条項付種類株式を取得する日(以下この款において「取得日」という。)
2  前項第二号に掲げる事項についての定めは、株主(当該株式会社を除く。)の有する全部取得条項付種類株式の数に応じて取得対価を割り当てることを内容とするものでなければならない。
3  取締役は、第一項の株主総会において、全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならない

+第四百六十六条  株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。

+(株主総会の決議)
第三百九条  株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2  前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一  第百四十条第二項及び第五項の株主総会
二  第百五十六条第一項の株主総会(第百六十条第一項の特定の株主を定める場合に限る。)
三  第百七十一条第一項及び第百七十五条第一項の株主総会
四  第百八十条第二項の株主総会
五  第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号、第二百四条第二項及び第二百五条第二項の株主総会
六  第二百三十八条第二項、第二百三十九条第一項、第二百四十一条第三項第四号、第二百四十三条第二項及び第二百四十四条第三項の株主総会
七  第三百三十九条第一項の株主総会(第三百四十二条第三項から第五項までの規定により選任された取締役(監査等委員である取締役を除く。)を解任する場合又は監査等委員である取締役若しくは監査役を解任する場合に限る。)
八  第四百二十五条第一項の株主総会
九  第四百四十七条第一項の株主総会(次のいずれにも該当する場合を除く。)
イ 定時株主総会において第四百四十七条第一項各号に掲げる事項を定めること。
ロ 第四百四十七条第一項第一号の額がイの定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
十  第四百五十四条第四項の株主総会(配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して同項第一号に規定する金銭分配請求権を与えないこととする場合に限る。)
十一  第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
十二  第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
3  前二項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会(種類株式発行会社の株主総会を除く。)の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
一  その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会
二  第七百八十三条第一項の株主総会(合併により消滅する株式会社又は株式交換をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等(同条第三項に規定する譲渡制限株式等をいう。次号において同じ。)である場合における当該株主総会に限る。)
三  第八百四条第一項の株主総会(合併又は株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における当該株主総会に限る。)
4  前三項の規定にかかわらず、第百九条第二項の規定による定款の定めについての定款の変更(当該定款の定めを廃止するものを除く。)を行う株主総会の決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の四分の三(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
5  取締役会設置会社においては、株主総会は、第二百九十八条第一項第二号に掲げる事項以外の事項については、決議をすることができない。ただし、第三百十六条第一項若しくは第二項に規定する者の選任又は第三百九十八条第二項の会計監査人の出席を求めることについては、この限りでない。

+第百十一条  種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式の内容として第百八条第一項第六号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならない。
2  種類株式発行会社がある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、次に掲げる種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一  当該種類の株式の種類株主
二  第百八条第二項第五号ロの他の株式を当該種類の株式とする定めがある取得請求権付株式の種類株主
三  第百八条第二項第六号ロの他の株式を当該種類の株式とする定めがある取得条項付株式の種類株主

+(種類株主総会の決議)
第三百二十四条  種類株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、その種類の株式の総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2  前項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一  第百十一条第二項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第百八条第一項第七号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)
二  第百九十九条第四項及び第二百条第四項の種類株主総会
三  第二百三十八条第四項及び第二百三十九条第四項の種類株主総会
四  第三百二十二条第一項の種類株主総会
五  第三百四十七条第二項の規定により読み替えて適用する第三百三十九条第一項の種類株主総会
六  第七百九十五条第四項の種類株主総会
3  前二項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
一  第百十一条第二項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)
二  第七百八十三条第三項及び第八百四条第三項の種類株主総会

2.取得した自己株式の消却

+第百七十八条  株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。
2  取締役会設置会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければならない。

Ⅲ 株式取得に反対する株主の救済
1.公正な対価を確保する方法
・定款変更に反対する株主の株式買取請求
+(反対株主の株式買取請求)
第百十六条  次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一  その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
二  ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第百十一条第二項各号に規定する株式
三  次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式(第三百二十二条第二項の規定による定款の定めがあるものに限る。)を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき 当該種類の株式
イ 株式の併合又は株式の分割
ロ 第百八十五条に規定する株式無償割当て
ハ 単元株式数についての定款の変更
ニ 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ホ 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ヘ 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て
2  前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一  前項各号の行為をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二  前号に規定する場合以外の場合 すべての株主
3  第一項各号の行為をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「効力発生日」という。)の二十日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。
4  前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
5  第一項の規定による請求(以下この節において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
6  株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第二百二十三条の規定による請求をした者については、この限りでない。
7  株式買取請求をした株主は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
8  株式会社が第一項各号の行為を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
9  第百三十三条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。

+(株式の価格の決定等)
第百十七条  株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と株式会社との間に協議が調ったときは、株式会社は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2  株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる
3  前条第七項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。
4  株式会社は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。
5  株式会社は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができる。
6  株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
7  株券発行会社(その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社をいう。以下同じ。)は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。

・MBOの場合の公正な価格
+判例(東京高判H20.9.12)
第3 当裁判所の判断
1 取得価格の判断基準
会社法172条1項は、全部取得条項付種類株式の取得の決議において定められた対価に不服のある反対株主が、裁判所に対し、取得価格の決定の申立てをすることができる旨を定めている。この取得価格の決定申立ての制度は、上記決議がされると、全部取得条項付種類株式を発行している種類株式発行会社が、決議において定められた取得日に、これに反対する株主の分も含め、全部取得条項付種類株式を全部取得することになるため(同法171条1項、173条1項)、その対価に不服のある株主に、裁判所に対して自らが保有する株式の取得価格の決定を求める申立権を認め、強制的に株式を剥奪されることになる株主の保護を図ることをその趣旨とするものである。したがって、取得価格の決定の申立てがされた場合において、裁判所は、上記の制度趣旨に照らし、当該株式の取得日における公正な価格をもって、その取得価格を決定すべきものと解するのが相当である。
一般に、譲渡制限の付されていない株式を所有する株主は、当該株式を即時売却するか、それとも継続して保有するかを自ら選択することができるのであって、各時点において、これを売却した場合に実現される株式の客観的価値を把握しているだけでなく、これを継続して保有することにより実現する可能性のある株価の上昇に対する期待を有しており、この期待は、株式の有する本質的な価値として、法的保護に値するものということができる。しかるに、全部取得条項付種類株式を発行した種類株式発行会社による株式の強制的取得が行われると、これによって、株主は、自らが望まない時期であっても株式の売却を強制され、株価の上昇に対する上記の期待を喪失する結果となるのである。そうであれば、裁判所が、上記の制度趣旨に照らし、当該株式の取得日における公正な価格を定めるに当たっては、取得日における当該株式の客観的価値に加えて、強制的取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価した価額をも考慮するのが相当である。
そして、取得日における当該株式の客観的価値や上記の期待を評価した価額を算定するに当たり考慮すべき要素は、複雑多岐にわたる反面、これらがすべて記録上明らかとなるとは限らないこと、会社法172条1項が取得価格の決定基準については何ら規定していないことを考慮すると、会社法は、取得価格の決定を、記録に表われた諸般の事情を考慮した裁判所の合理的な裁量に委ねたものと解するのが相当である。

2 本件取得日における本件株式の客観的価値
(1) 本件株式の客観的価値の算定方式
旧レックス株式は、平成19年4月27日まではジャスダックに上場されていたが、本件MBOの一環としての本件公開付け及び本件決議がされたことによって、同月29日をもって上場廃止とされたことは、前提事実記載のとおりであって、本件株式の評価基準時点である本件取得日(平成19年5月9日)においては、旧レックスは非上場会社となっており、同時点における旧レックス株式の市場株価は存在しない。しかし、一般に、株式市場においては、投資家による一定の投機的思惑の影響を受けつつも、各企業の資産内容、財務状況、収益力及び将来の業績見通しなどを考慮した企業の客観的価値が株価に反映されているということができ、本件取得日と上場廃止日がわずか11日しか離れていない本件株式の評価に当たっては、異常な価格形成がされた場合など、市場株価がその企業の客観的価値を反映していないと認められる特別の事情のない限り、本件取得日に近接した一定期間の市場株価を基本として、その平均値をもって本件株式の客観的価値とみるのが相当である。
この点、相手方は、市場株価方式と純資産方式(修正簿価純資産法)及び比準方式(類似会社比準法)とを併用し、それぞれ対等の割合で考慮すべきであると主張し、かかる算定方式に従って本件取得日における本件株式の価格を算定した乙イ32号証を提出する。しかし、〈1〉乙イ32号証によれば、純資産方式(修正簿価純資産法)による本件株式の取得日における試算額は、1株当たり2万7000円、比準方式(類似会社比準法)による試算額は、株価観測期間を1か月とした場合には1株当たり4000円、3か月とした場合には1株当たり5000円になるというのである。上記の各試算額は、デューディリジェンスを実施した上でAP8が決定した買付価格である23万円と著しくかけ離れた額(純資産方式については約10分の1、比準方式に至っては約50分の1)であるというほかはなく、このことだけからみても、これらの方式によって算定されたとされる上記の各試算額を市場株価方式によって算定された試算額と対等の割合で考慮すべきものと認めるについては、多大の疑問が生ずるものというほかはない。しかも、〈2〉本件においては、継続企業としての旧レックスの企業価値を評価すべきであって、解散・清算を予定して、その企業価値を評価するわけではないこと、前提事実によれば、旧レックスは、企業買収を重ねて急成長を遂げてきた多数の連結子会社を要する株式会社であって、外食産業の分野において、牛角、鳥でん、土間土間等の様々な業態のフランチャイズ事業を展開するとともに、コンビニエンス・ストアのフランチャイズ事業やスーパーマーケット事業などの事業活動も展開しているのであって、その業態、事業形態に照らし、その企業価値は、収益力を評価して決せられる部分が大きく、純資産価額は、旧レックスの企業価値を適正に反映するものとはいえないものというべきであって、本件株式の客観的価値を算定するに当たって、純資産方式を併用することには、その合理性を認めることができない。そして、〈3〉比準方式(類似会社比準法)によって株価を算定するに当たっては、比準すべき類似会社の選定が合理的であることが必須であることはいうまでもないところ、乙イ32号証による試算額算定に当たって選定された類似会社と旧レックスとの類似性については、およそ的確な疎明はされていないのであって、かえって、旧レックスが、上記のとおり外食産業、コンビニエンス・ストア事業、スーパーマーケット事業において、多種多様な業態における店舗展開を行っている複合的企業であることに照らすと、乙イ32号証において提示された比準方式(類似会社比準法)による株価の試算に当たり選定された類似会社との類似性については多大の疑問を抱かざるを得ず、同号証によって提示された同方式による試算額は、本件株式の客観的価値を算定するに当たって、考慮するに値しないことは明らかというほかはない。したがって、乙イ32号証は採用することはできず、本件株式の取得日における客観的価値を算定するに当たり、一件記録を精査しても上記各試算方式を併用することの合理性を首肯させるに足りる疎明資料はない。
(2) 一定期間の市場株価の平均値による本件株式の客観的価値の算定
ア 本件公開買付けの公表日以降の市場株価を株価算定の基礎とすることの当否
旧レックスが平成18年11月10日、買付価格を1株当たり23万円とする本件公開買付けの実施を公表したこと、同月11日以降、旧レックス株式の市場株価の終値は概ね22万円前後で推移していたことは、前記前提事実記載のとおりである。上記事実に疎明資料(甲イ58、乙イ32)及び審問の全趣旨を総合すれば、同日以降の市場株価は、本件公開買付けの実施が公表された結果、買付価格の影響を受けて、いわばこれに拘束されて形成されたものであることが明らかであって、旧レックスの客観的価値を反映していないと認められる特別の事情があるものとみるほかはない。本件取得日における本件株式の客観的価値を算定するに当たり、同日以降の市場株価を考慮することは相当ではない。
イ 平成18年8月22日以降同年11月10日までの期間の市場株価を株価算定の基礎とすることの当否
抗告人らは、平成18年8月22日以降同年11月10日までの期間の市場株価は、株価操作を目的とする平成18年8月21日プレス・リリースの影響を受けており、企業の客観的価値を反映していないと認めるべき特段の事情があるから、本件取得日における本件株式の客観的価値を算定するに当たり、除外すべきであると主張するので検討する。
(ア) 平成18年8月21日プレス・リリースの問題点
a 前提事実に加え、疎明資料(甲イ9、乙イ33、70)及び審問の全趣旨によれば、平成18年8月21日プレス・リリースは、平成18年12月期における特別損失の発生(中間期33億9000万円計上、下期21億円計上予定)を発表するとともに、平成18年12月期通期連結業績予想(同年1月1日から同年12月31日まで)について、売上高を1700億円、経常利益を64億円、当期純利益を0円とする業績予想の下方修正を発表するものであり、ここで計上された特別損失は、次のようなものであったことが認められる。
(a) 固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(企業会計審議会平成14年8月9日)において、平成17年4月1日以後開始する事業年度から、「固定資産の減損に係る会計基準」及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)を適用することが適当であるとされたことに伴い、平成18年12月期から、上記基準及び適用指針に従った固定資産の減損処理を行うことになり、平成16年12月期下期から平成18年12月期中間期まで(平成16年7月1日から平成18年6月30日までの2年間)のキャッシュフローが連続してマイナスとなった不採算店舗について、その固定資産の帳簿価格全額を減損処理したことによる特別損失4億8500万円
(b) 出店を加速させるための一手段として、加盟店契約を締結しながら、実際には出店をしていない出店意欲のない契約者との間の加盟店契約を解除して、加盟金を返金したことによる加盟契約解除損3億5800万円
(c) 外食産業における不採算店舗閉鎖による固定資産除却損5400万円、コンビニエンス・ストア事業における不採算店舗閉鎖による固定資産除却損7200万円及び成城石井本店の改装による固定資産除却損2400万円の合計1億5100万円
(d) 平成17年12月期末において、長期前払費用として資産に計上されていた外食事業に係るマーケティング・データやノウハウ等の資産の評価を見直し、資産計上を止めたことによる特別損失17億0400万円
(e) 国産牛の賞味期限切れに伴う商品評価損1億8700万円
(f) 上記(a)の不採算店舗に係る未経過リース料の現在価値(帳簿価格)全額を減損処理したことによる特別損失1億7700万円
(g) コンビニエンス事業に関する広告宣伝スペース付のタバコの販売棚の製作準備金として支払済みの前渡金2億円につき、上記販売棚の設置計画が進捗せず、かつ、製作準備金の返還交渉が難航していたため、上記前渡金が貸倒れとなることに備えた貸倒引当金繰入れによる特別損失2億円
b 疎明資料(甲イ7、67)によれば、上記aのとおり計上された特別損失のうち、外食事業に係るマーケティング・データやノウハウ等(一件記録によっても、上記データ、ノウハウ等の具体的な内容は明らかではない。)の評価見直しによる特別損失17億0400万円((d))については、平成18年8月21日プレス・リリースのわずか3か月前である同年5月24日に旧レックスが公表した「平成18年12月期 第1四半期財務・業績の概況(連結)」(以下「平成18年12月期第1四半期決算」という。)においては、なお資産として計上されていたことが認められるのであって、旧レックスは、平成18年8月21日プレス・リリースにおいて公表した業績予想において、その方針を変更して、評価替えを行っていることが明らかである。しかるに、かかる評価替えが必要であった理由については、相手方は、監査法人が資産計上を認めないとの方針に転換したためであると主張し、これに沿う記載のある乙イ70号証(相手方執行役員財務部長丁川松男の陳述書)を提出するにとどまり、一件記録を精査しても、上記データ、ノウハウ等の資産価値の有無の判定に関する具体的な事実、平成18年12月期中間期に、一括してかかる評価替えが必要となった合理的な理由については、それ以上には明らかにされていないものといわざるを得ない。少なくとも、平成18年12月期第1四半期決算の時点では17億0400万円もの価値を有していた資産が、わずか3か月の間に全額毀損される特別の事情が生じたことは窺われず、上記特別損失の計上は、現実に旧レックスの企業価値が毀損されたことを意味するものではないということができる。
c 甲イ67号証によれば、上記aのとおり計上された特別損失のうち、什器取得のための前渡金の貸倒引当金繰入れによる特別損失2億円((g))についても、平成18年12月期第1四半期決算においては、かかる貸倒引当金の計上がされていなかったことは明らかである。しかるに、平成18年8月21日プレス・リリースによる業績予想の下方修正に当たり、貸倒引当金が計上されるに至った理由についても、相手方は、監査法人の指導による旨を主張し、乙イ70号証にこれに沿う記載があるにとどまり、一件記録を精査しても、それ以上には、平成18年12月期第1四半期決算以後において、上記2億円の回収が困難であることが明らかになった具体的な経過など、平成18年12月期中間期において貸倒引当金の繰入れが必要となった合理的な理由や上記前渡金の返還交渉のその後の帰趨については、何ら具体的に明らかにされていないのであって、上記特別損失の計上も、平成18年12月期中間期において、現実に旧レックスに2億円の損失が発生し、その企業価値が毀損されたこと意味するものとまでは認め難い。
d 疎明資料(甲イ61、乙イ70)によれば、上記aのとおり計上された特別損失のうち、加盟契約解除損3億5800万円((b))や固定資産除却損1億5100万円((c))は、いずれも、旧レックスの業績を向上させるための施策を採る過程で生じた特別損失であり、これにより、出店を加速させ、あるいは、一時的に特別損失を計上することになっても、営業を継続した場合よりもトータルの損失が確実に減少するとの見通しの下に、本件MBOの計画時から進められてきた財務改革の一環であったと認めることができる。しかるに、平成18年8月21日プレス・リリースにおいては、上記のような事情は特に記載されておらず、上記のような特別損失が旧レックスの業績を向上させるために財務改革を進める過程で生じたと読み取ることは、必ずしも容易とはいえない。しかも、甲イ67号証によれば、平成18年12月期第1四半期決算においては、加盟店契約解除損については、全く計上がされていないことが認められるのであって、同決算後平成18年8月21日プレス・リリースまでのわずか3か月の間に、3億5800万円もの加盟店契約解除損を計上するに至っていることは、旧レックスにおいては、その間において、中長期的な事業計画に基づき、業績の改善に向けた何らかの経営政策の転換があったことすらも窺わせるものであるが、平成18年8月21日プレス・リリースにおいては、そのような事情についても全く触れられていない。
以上aないしdの認定の下において、平成18年8月21日プレス・リリースの問題点について検討するに、前提事実並びに後記の疎明資料及び審問の全趣旨によれば、旧レックスの代表取締役であった丙田は、MBOを実施することを平成18年4月ころから考えており、同年6月ころには、アドバンテッジパートナーズの関係者とも接触をしていたこと(甲イ29)、同年8月9日、旧レックスと同一の目的を持った本件MBOの受皿会社であるAP8が設立されたこと(甲イ49)、同年11月10日、本件公開買付けが公表されたこと、以上の事実が認められるのであって、このような事実の経過に鑑みれば、平成18年8月21日プレス・リリースがされた段階では、既に本件MBOの実施は、相当程度の確実性をもって具体化していたものと推認される。このような段階で、以上のaないしdに認定説示したような問題点を孕む平成18年8月21日プレス・リリースがされたことに加え、MBOに関し、経済産業省に設けられた企業価値研究会が、企業社会における公正なルールのあり方に関する提案を行うことを目的として公表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」(以下「MBO報告書」という。)においても、MBOが行われる局面では、取締役自らが株式を取得するという取引の構造上、必然的に株主との間に利益相反状態が生ずることになることが指摘されており、業績の下方修正後にMBOを行うような場合には、MBOが成立しやすくなるように意図的に市場株価を引き下げているとの疑義を招く可能性があることから、株主に対し、かかる時期にMBOを選択した背景・目的等につき、より充実した説明が求められるとされていること(乙イ39)、特別損失の計上については、企業会計上の裁量が働きやすいこと(甲イ59)、識者の中には、MBOを実施する1年くらい前からいわば逆粉飾ともいえるような準備をすることで株価を操作が行われる可能性があることを指摘する者もあること(甲イ26、27)などを考慮すると、平成18年8月21日プレス・リリースにおいて公表された同年12月期の業績予想の下方修正は、企業会計上の裁量の範囲内の会計処理に基づくものとはいえ、既に、この段階において、相当程度の確実性をもって具体化していた本件MBOの実施を念頭において、特別損失の計上に当たって、決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことは否定できないものというべきであるし、また、不採算店舗を整理し、加盟店の出店を加速させるなど、旧レックスの業績を向上させるための財務改革を進める過程で生じた特別損失に関し、業績の向上に向けた中長期的な事業計画についての十分な説明をせずに、単純に特別損失の計上のみを公表したため、旧レックスの業績、ひいてはその企業価値について、市場において、実態よりも悲観的な受け取り方をされるおそれの大きいものであったと認めることができる。
以上の認定判断につき、相手方は、本件MBOは、「ファンド型」MBOであって、「ファンド型」MBOについては、MBOの実施が公開買付けの公表直前まで不確実であるという事情の下にあり、経営者が、不確実なMBOの実施のために、株価を低く抑えるために意図的に対象会社の業績を悪化させるような危険を犯すことはなく、平成18年8月21日プレス・リリースにおいて公表された同年12月期の業績予測の下方修正は、旧レックスの業績の悪化を反映した適正なものであったと主張する。しかし、AP8が設立された平成18年8月9日の時点では、本件MBOが実施されることは相当程度の確実性をもって具体化していたものと推認されることは上記認定のとおりであって、平成18年8月21日プレス・リリースがMBOの実施が不確実な段階でされたとみることは困難であるし、また、旧レックスは、平成18年11月10日プレス・リリース、次いで平成19年2月26日プレス・リリースにおいて、同期の業績予測を更に下方修正しており、平成19年2月26日プレス・リリースによって修正されたところが、同期の最終決算となったことは前提事実記載のとおりであり、上記最終決算については、監査法人による監査も経ていることからすれば、平成18年8月21日プレス・リリースによって公表された同期の業績予測の下方修正は、企業会計上の裁量の範囲内にある適法な会計処理に基づくものであったことは明らかであるものの、このことは、上記の認定判断と何ら矛盾するものではなく、平成18年8月21日プレス・リリースが、旧レックスの業績、ひいてはその企業価値について、実態よりも悲観的な受け取り方をされるおそれの大きいものであったとの上記認定判断は左右されるものではない。相手方の主張するところを考慮しても、上記認定判断は、左右されない。
(イ) 平成18年8月21日プレス・リリース後の旧レックス株式の市場価格の動向
次に、平成18年8月21日プレス・リリース後の旧レックスの市場株価の動向をみてみると、同月18日の終値は31万4000円、同月21日の終値は30万4000円であったものが、平成18年8月21日プレス・リリースの翌日である同月22日の終値は、いわゆるストップ安である25万4000円にまで急落し、その後も株価は下落傾向を続け、同年9月26日には、終値が14万4000円になったこと、その後、株価は上昇を開始し、本件公開買付けが公表された同年11月10日の終値は21万9000円にまで回復したことは前提事実記載のとおりである。そして、上記(ア)に認定説示したとおり、平成18年8月21日プレス・リリースにおける同年12月期の業績予想の下方修正の根拠となった特別損失の計上は、必ずしも、同年中間期において、現実に旧レックスの企業価値が毀損されたことを意味するものではなく、損失を前倒しで計上した結果決算内容が悪化したという部分が多分に含まれることや、一件記録を精査しても、平成18年8月21日プレス・リリース後下落傾向を続けていた旧レックス株式の株価が、同年9月26日ころ、上昇に転ずるようなはっきりした要因を見出すことができないことをも考慮すると、上記の下落傾向は、平成18年8月21日プレス・リリースに市場が過剰に反応したものと認めるのに十分である。しかも、甲イ6号証によれば、同年8月22日から10日間の出来高は18万9245株であり、これは、旧レックスの発行済株式数26万4360株から丙田並びに丙田及びその親族が株主であるエタニティーが保有する旧レックス株式を除いた18万7848株を上回る出来高であったことが認められるのであって、平成18年8月21日プレス・リリースに過剰に反応して売り取引が集中する中で、これに乗じた投機的な反復売買が繰り返されたものと推認することができる。
以上に説示したところによれば、同月22日以降本件公開買付けが公表された同年11月10日までの期間の旧レックス株式の市場株価は、上記(ア)に認定したような問題点を孕む平成18年8月21日プレス・リリースの影響を受けて過剰に下落していた上、これに乗じて投機的取引が反復されたことによる影響も受けており、必ずしも適正に旧レックスの企業価値を反映したものとはいえないとみざるを得ない。
(ウ) しかし、平成18年8月21日プレス・リリースにおいて公表された同年12月期の業績予想の下方修正は、企業会計上の裁量の範囲内にある適法な会計処理に基づくものであることは、既に説示したとおりであって、上記の業績予想の下方修正が著しく恣意的で合理性を欠くものであるとか、誤った情報によって株価を操作するものであるとかまで認定するに足りる疎明はない。そして、疎明資料(甲イ9、13、乙イ70)によれば、旧レックスの平成18年12月期の売上高は、平成18年8月21日プレス・リリースにおいて、下方修正された1700億円を更に下回る1618億1821万円にとどまり、不採算店舗の閉店等に伴う固定資産除却損や固定資産売却損、減損処理に伴う特別損失等も同期の決算において更に拡大していることが認められるのであって、これらの事実に鑑みれば、平成18年8月21日プレス・リリースがされた時点において、旧レックスは、多数の不採算店を抱え、売上げが伸び悩んでおり、不採算店を閉店するなどして経営の改善を行わざるを得ないという状況にあったものということができ、旧レックスが上記のような状況にあるという事実は、その市場株価に適切に反映されてしかるべきものということができる。ところが、疎明資料(甲イ7、67)及び審問の全趣旨によれば、平成18年2月17日に公表された平成17年12月期決算短信(連結)や同年5月24日に公表された平成18年12月期第1四半期決算においては、旧レックスが、上記のような状況にあることをうかがわせる記載はなく、本件取得日における本件株式の客観的価値の算定に当たって、平成18年8月21日プレス・リリース後の市場株価を一切考慮しないというのでは、旧レックスが上記のような状況にあった事実がその株価に適切に反映された旧レックスの企業価値を把握することはできないものというほかはない。
そもそも、市場株価は、その時々における企業価値を常に適正に反映するわけではなく、株価形成に係る様々な思惑や投機的取引などの影響を受けることは否定できないのであって、市場株価を基本として、株式の客観的価値を算定するに当たっては、ある程度の継続的な期間の市場株価を平均化することによって、こうした諸事情が株価に与える影響をできる限り排除し、企業の客観的価値を適正に反映する価額を算定するよりほかはないものというべきである。平成18年8月22日以降同年11月10日までの期間の旧レックス株式の市場株価が、上記(ア)に認定したような問題点を孕む平成18年8月21日プレス・リリースの影響を受けて過剰に下落し、これに加えて投機的取引が反復されたことによる影響も受けていたとの事情についても、同期間の市場株価を平均値算定の基礎に含めながら、他の期間をも通じて市場株価を平均化することによって、上記の影響を排除し、本件取得日における本件株式の客観的価値を算定すれば足りるものと解するのが相当である。
ウ 平成18年8月21日以前の市場株価を上記平均値算定の基礎とすることの当否
相手方は、平成18年8月21日プレス・リリース以前の市場株価は、平成18年12月期の業績予測の下方修正を余儀なくされた事情が反映されていないから、これを上記平均値算定の基礎から除くべきであると主張する。
確かに、平成18年8月21日プレス・リリース以前の市場株価は、旧レックスが、多数の不採算店を抱え、売上げが伸び悩んでおり、不採算店を閉店するなどして経営の改善を行わざるを得ないという状況にあったことが適切に開示された状況の下で形成されたものとはいえないことは上記イ(ウ)において認定説示したところである。しかし、同日以前の市場株価は、その当時、旧レックスが開示していた資産内容、財務状況、収益力及び将来の業績見通しなどの情報(一件記録を精査しても、この情報が、粉飾されたものであって、旧レックスの実態を的確に開示するものではないなどの事情は窺われない。)や報道等によって与えられるその他情報を基に、市場原理に従って形成されてきたものであって、その市場株価は、当時の旧レックスの企業価値を反映したものということができるところ、同年8月21日を境に、旧レックスの業績が急激に悪化し、その企業価値が現に大きく毀損されたという事情があるわけではないこと(すなわち、上記イ(ア)に認定したところからすれば、平成18年8月21日プレス・リリースにおける業績予測の下方修正は、平成18年12月期から固定資産の減損処理を行うことになったことに伴う特別損失の計上や資産の評価替えに伴う特別損失の計上といった理由による部分が大きく、これらは、これが計上された時点において、旧レックスに現にこれに相応する損失が生じ、企業価値が現実に毀損されたことを意味するものではなく、損失を前倒しで計上するといった色彩が強いものというべきである。)を考慮すれば、本件取得日に近接した一定の期間の市場株価の平均値をもって本件株式の客観的価値を算定するに当たり、同日以前の市場株価を基礎とすることが相当ではないということはできない。
そして、仮に、平成18年8月21日以前の市場株価を上記の平均値算定の基礎から除くとすると、同月22日以後本件公開買付けの公表まで期間の全部又は一部の市場株価を基礎として上記の平均値を算定することにならざるを得ないところ、上記期間の市場株価は、上記イ(ア)に認定したような問題点を孕む平成18年8月21日プレス・リリースの影響を受け過剰に下落していた上、これに乗じて投機的取引が反復されたことによる影響も受けていることは、既に説示したところであって、加えて、上記イ(イ)に認定したように、旧レックス株式の市場株価は、同年9月26日の終値が14万4000円にまで下落した後、株価を上昇させるようなはっきりした要因もないのに上昇を開始し、本件公開買付けが公表された同年11月10日の終値は21万9000円にまで回復していたことを考慮すると、本件公開買付けの公表がされ、買付価格による抑制が働かなければ、なお株価が上昇した可能性も否定できないところである。上記期間の全部又は一部の市場株価を平均化するのみでは、上記の影響を排除して、旧レックスの企業価値を的確に把握することは困難というべきであって、少なくとも、上記期間の全部又は一部の市場株価のみを基礎として市場株価の平均値を算定し、これをもって、本件取得日における本件株式の客観的価値とみるよりは、平成18年8月21日以前の一定期間の市場株価をも基礎として平均値を算定する方が、本件株式の客観的価値を評価する上では、より合理的であるというべきである。
エ 平均値算定の基礎となる期間
疎明資料(甲イ15、17、19、32、58、乙イ14)及び審問の全趣旨によれば、本件MBOと近接した時期においてMBOを実施した各社においては、公開買付けの公表前の3か月又は6か月の間の市場株価の単純平均値に約16.7パーセントから27.4パーセントのプレミアムを加算した価格をもって買付価格としていること、日本証券業協会が定めた「第三者割当増資の取扱いに関する指針」によれば、第三者割当増資等に係る払込金額は、当該第三者割当増資等に係る取締役会決議の直前日の価額に0.9を乗じた額以上の価額を原則とし、ただし、直前日又は直前日までの価額又は売買の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の額とすることができる旨が定められていることが認められ、このことに、以上アないしウに認定説示した事情、特に、イに認定した平成18年8月21日プレス・リリース後本件公開買付けの公表前の市場株価の動向と売買の状況を勘案すると、本件において、市場株価の平均値を算定する基礎となる期間を短期に設定することは相当とはいえないものということができ、本件公開買付けが公表された平成18年11月10日の直前日からさかのぼって6か月間の市場株価を単純平均することによって、本件取得日における本件株式の客観的価値を算定するのが相当である。そうすると、本件取得日における本件株式の客観的価値は、平成18年5月10日から同年11月9日までの終値の平均値である28万0805円と認めることができる。
オ 抗告人らは、本件取得日当時、旧レックスは構造改革・リストラによって膿出しを行い、企業価値を増大させる計画の途上にあり、これによる企業価値が増大する高度の蓋然性があったから、本件株式の客観的価値を算定するに当たり、このことを反映させる必要があると主張するが、既に説示したように、市場株価は、当該企業の将来の業績の見通しをも含めた諸般の要素を勘案した当該企業の客観的価値を反映しているものと解されるのであって、市場株価方式によって、株式の客観的価値を算定するに当たり、将来に向けて企業価値が増大する蓋然性があることを別に考慮すべきものと解することはできない(なお、本件株式の客観的価値に加算すべき株価の上昇に対する期待の評価額を算定するに当たり、企業価値の増大の可能性の有無、程度を考慮すべきことは、後記3において説示するとおりである。)。抗告人らの上記主張は採用することができない。
他方、相手方は、旧レックスは、平成18年11月10日プレス・リリースにより、平成18年8月21日プレス・リリースによる同年12月期の業績予想を更に下方修正しており、その後も、本件取得日までに、平成19年2月26日プレス・リリースによって、同期の業績予想の更なる下方修正を公表し、これが同期の最終決算(連結)となっていること、同年3月1日には、平成19年3月1日プレス・リリースによって、エーエム・ピーエムの株式の減損処理を行うことにより、同期の個別決算において、156億8100万円の特別損失を計上し、当期純損失が162億4000万円となるとの業績予想を公表するに至っていることからすれば、本件取得日における本件株式の客観的価値が、平成18年11月9日までの過去1か月間の市場株価の終値の単純平均値である20万2000円を超えることはあり得なかったと主張する。しかし、平成18年8月22日以降同年11月10日までの期間の旧レックス株式の市場株価は、上記イ(ア)に認定したような問題点を孕む平成18年8月21日プレス・リリースの影響を受けて過剰に下落した後、同年9月26日の終値が14万4000円にまで下落した後、株価を上昇させるようなはっきりした要因もないのに上昇を開始し、本件公開買付けが公表された同年11月10日の時点では、いまだ上昇傾向を続けている途上であったことは同(イ)に認定したところであることに加え、疎明資料(甲イ11、乙イ10)及び審問の全趣旨によれば、同日、本件公開買付けの公表と同時に公表された平成18年11月10日プレス・リリースや平成19年2月26日プレス・リリースにおいては、同期の決算内容の悪化につき、企業成長をいったん鈍化させても抜本的な改革を断行する必要があり、中長期的な視野に基づく事業の再構築を図る過程で生じたものであり、次年度以降の業績に与える影響は限定的であることが明確にされていることを考慮すると、本件取得日における本件株式の客観的価値が20万2000円を超えることはあり得ないとみることは困難である。
一件記録を精査しても、他に上記エの認定を左右する事実を認めるに足りる疎明資料はない。

3 株価の上昇に対する期待の評価
(1) そこで、本件株式の株価上昇に対する株主の期待をどのように評価すべきであるかについて検討を進める。
疎明資料(甲イ10、57、62、乙イ39)及び審問の全趣旨によれば、一般に、MBOは、市場における短期的圧力を回避した長期的思考に基づく経営の実現、株主構成が変更されることによる柔軟な経営戦略の実現、「選択と集中」の実現、危機意識の共有による従業員等の士気の向上等によって、企業価値の増大を図ることを目的として行われるものであり、本件MBOも、企業成長をいったん鈍化させることを恐れず、一貫した埋念と方針に基づき、抜本的な改革を進めることを目的として実施されたものであること、このような目的の下で行われるMBOに際して実現される価値は、〈1〉MBOを行わなければ実現できない価値と、〈2〉MBOを行わなくても実現可能な価値に分類して考えることができ、〈2〉の価値は、基本的に株主に分配すべきであるが、〈1〉の価値は、MBO後の事業計画につき、その実現の不確実性についての危険を負担しながら、これを遂行する取締役(経営者)の危険と努力についても配慮しつつ、これを株主と取締役に分配するのが相当であると認められる。そして、強制的取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価するに当たっては、当該企業の事業計画に照らし、その収益力や業績についての見通しについて検討し、かかる検討の下に、MBOに際して実現される上記〈1〉及び〈2〉の価値とその分配について考察し、かかる考察に基づき、裁判所が、その合理的な裁量によって、上記の期待についての評価額を決することが、取得価格の決定申立制度の趣旨に照らし、望ましいものといえる。このことは、株式の公開買付けを行う企業は、デューディリジェンスを行い、対象企業の資産内容、財務状況に加え、その事業計画に照らした収益力や将来の業績見通しなどを検討した上で、買付価格を決定するのが通例であることは公知であることに加え、疎明資料(甲イ30、乙イ39)によれば、MBO報告書においても、MBOの実施に際して株主に適切な判断の機会を確保するための方策の一つとして、MBO後の中長期的な経営計画等、将来の可能性について株主に対して十分に説明することによりMBOに際して実現される価値の可能性を示して、株主の判断材料にすることが示されていることが認められることからも裏付けられる。
しかしながら、抗告人らの度重なる要請にもかかわらず、相手方は、その事業計画を提出しないし、また、AP8が旧レックスについてデューディリジェンスを実施した上で作成した株価算定評価書を検討すれば、その性質上、事業計画を踏まえた株価算定の過程が明らかになることが容易に推認できるにもかかわらず、株価算定評価書の提出もしないのであって、本件においては、一件記録に基づき、MBOに際して実現される価値を検討した上で、株価の上昇に対する評価額を決することは困難といわざるを得ず、当裁判所としては、一件記録に表われた疎明資料に基づき、本件MBOに近接した時期においてMBOを実施した各社の例などを参考にして、その裁量により、本件株式の株価上昇に対する評価額を決定するよりほかはない。
(2) そこで、本件MBOと近接した時期においてMBOを実施した各社の例をみてみると、上記各社においては、公開買付けの公表前の3か月又は6か月の間の市場株価の単純平均値に約16.7パーセントから27.4パーセントのプレミアムを加算した価格をもって買付価格としていることは既に認定したところであることに加え、甲イ59号証によれば、平成12年から平成17年までの間に日本企業を対象とした公開買付けの事例(119例)では、プレミアムの平均値は、公開買付公表日直前の株価の終値の12.6パーセントにとどまるが、市場株価を下回る買付価格を設定した公開買付けは、相対取引の実質を持つことから、これを除いた85例についてプレミアムの平均値を取ると、公開買付公表日直前の株価の終値の27.05パーセントに達することが認められる。そして、本件公開買付けに当たっては、買付価格は、平成18年11月9日までの過去1か月間の市場株価の終値の単純平均値に対して13.9パーセントのプレミアムを加えた価格であるとの説明がされたことは、前提事実記載のとおりであるが、相手方は、このようなプレミアムを設定した具体的な根拠については特に主張立証をせず、事業計画書や株価算定評価書の提出もしないのであって、このことをも考慮するならば、上記のような事例を参照し、上記2において認定した本件株式の客観的価値(28万0805円)に、20パーセントを加算した額(33万6966円)をもって、株価の上昇に対する評価額を考慮した本件株式の取得価格と認めるのが相当である。
(3) 本件公開買付けの結果、AP8は、本件公開買付け後に行われたエタニティーの全株式取得による間接所有分を含め、旧レックスの発行済み株式総数の91.51パーセントの株式を所有するに至ったことは、前提事実記載のとおりである。しかし、相手方が、上記買付価格の合理性について、株価算定評価書やその事業計画を開示してこれを説明しない状況の下で(なお、乙イ70号証によれば、旧レックスは、本件公開買付けに賛同するに先立ち、アビームM&Aコンサルティング株式会社に株価の算定を依頼して、その妥当性を検証したことが認められるが、当裁判所の審理に際しては、同号証において、同社の算定の要旨を開示するにとどまるものであって、株価算定評価書や相手方の事業計画を開示した上で、買付価格の合理性について、株主である抗告人らに検討をする機会が与えられていないことは明らかである。)、多数の株主が公開買付けに応じたとの事実から、その買付価格や買付価格の決定に当たって考慮されたプレミアムの額が合理的であり、正当であったと推認することはできない。多数の株主が公開買付けに応じたとの事実から、買付価格や買付価格の設定に当たって考慮されたプレミアムの額が合理的であり、正当であったと容易に推認をするのでは、公開買付けが成立した場合には、これに反対する株主にも同額での買付けに応ずることを強制することにもなりかねず、買付価格に不服のある株主に対し、自らが保有する株式の取得価格の決定の申立権を認め、強制的に株式を剥奪されることになる株主の保護を図ることをその趣旨とする取得価格の決定申立制度の趣旨を没却することにもなりかねないものといわざるを得ないものというべきである。
また、本件においては、AP8以外の企業ないし投資ファンドによる公開買付けは行われなかったものの、既に説示したように、旧レックスの代表取締役であり大株主である丙田は、平成18年4月ころからMBOの実施を検討するようになり、同年6月、アドバンテッジパートナーズの関係者と接触をし、同年8月9日、AP8が設立され、同年11月10日、本件公開買付けが公表されたという事実の経過に加え、甲イ29号証によれば、旧レックスは、アドバンテッジパートナーズ以外の企業ないし投資ファンドには、デューディリジェンスの機会を与えることもしなかったことが認められるのであるから、AP8以外の企業ないし投資ファンドが旧レックス株式の公開買付けを行おうとしなかったとの事実も、AP8による買付価格や買付価格の決定に当たって考慮されたプレミアムの額が合理的であり、正当であったことを推認させるものとはいえない。
一件記録を精査しても、上記(2)の認定判断を左右する事実を認めるに足りる疎明資料はない。
4 以上によれば、本件株式の各取得価格は、1株につき33万6966円と決定すべきであり、これと異なる原決定は失当であるから、原決定中、抗告人らに関する部分を変更し、本件株式の各取得価格を上記のとおり1株につき33万6966円と決定する。
第5民事部
(裁判長裁判官 小林克已 裁判官 綿引万里子 裁判官 中村愼)

+判例(H21.5.29)
理由
1 平成20年(ク)第1037号事件について
抗告代理人関戸麦ほかの抗告理由について
民事事件について特別抗告をすることが許されるのは、民訴法336条1項所定の場合に限られるところ、本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって、同項に規定する事由に該当しない。
2 平成20年(許)第48号事件について
抗告代理人関戸麦ほかの抗告理由について
本件事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、その裁量の範囲内にあるものとして是認することができる。原決定に所論の判例違反はない。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、平成20年(許)第48号事件について裁判官田原睦夫の補足意見がある。

+補足意見
裁判官田原睦夫の補足意見は、次のとおりである。
本件は、会社法172条1項に定める株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格(以下、単に「取得価格」という。)の決定が裁判所に申し立てられた初めての事案であることにかんがみ、取得価格の意義等に関して若干の意見を補足して述べる。
1 取得価格の意義
取得価格とはいかなる価格を意味するかについて、法は何らの規定も設けてはいない。
ところで、会社法上、株主が株式買取請求権を行使する場合における買取価格は、公正な価格と定められている(469条1項、785条1項、797条1項、806条1項)ところ、上記の場合において、当事者間で協議が調わないときは、当事者の申立てにより裁判所がその価格を決定することとされている(470条2項、786条2項、798条2項、807条2項)。そして、裁判所が決定する上記価格は、上記各条に定める公正な価格をいうものと一般に解されており、取得価格も、裁判所が決定するものである以上、上記の株式買取請求権行使の場合と同様、公正な価格を意味するものと解すべきである。もっとも、その公正な価格を算定する上での考慮要素は、必ずしも株式買取請求権行使の場合と一致するとは限らないが、その点は次項で検討する。
2 取得価格の決定
(1) 会社法172条1項各号に定める株主により取得価格の決定が申し立てられると、裁判所は、取得日(173条1項)における当該株式の公正な価格を決定する。
その決定は、取得価格決定の制度の趣旨を踏まえた上での裁判所の合理的な裁量によってされるべきものである。すなわち、取得価格決定の制度が、経営者による企業買収(MBO)に伴いその保有株式を強制的に取得されることになる反対株主等の有する経済的価値を補償するものであることにかんがみれば、取得価格は、〈1〉MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値と、〈2〉MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分とを、合算して算定すべきものと解することが相当である。
原決定が、「公正な価格を定めるに当たっては、取得日における当該株式の客観的価値に加えて、強制的取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価した価額をも考慮するのが相当である」とする点は、後の「株価の上昇に対する期待の評価」の項において説示するところからすれば、実質的には上記と同旨をいうものと解することができる。
(2) ところで、MBOの実施に際しては、MBOが経営陣による自社の株式の取得であるという取引の構造上、株主との間で利益相反状態になり得ることや、MBOにおいては、その手続上、MBOに積極的ではない株主に対して強圧的な効果が生じかねないことから、反対株主を含む全株主に対して、透明性の確保された手続が執られることが要請されている(経済産業省の委嘱による企業価値研究会の「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」〔平成19年8月2日付け。以下「MBO報告書」という。〕参照)。それ故、裁判所が取得価格を決定するに際しては、当該MBOにおいて上記の透明性が確保されているか否かとの観点をも踏まえた上で、その関連証拠を評価することが求められる。
3 原決定と裁判所の裁量
(1) 株式公開買付け制度については、その透明性を図ること等を目的として、平成18年内閣府令第86号により発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令等の、同年政令第377号により証券取引法施行令(平成19年政令第233号により題名が「金融商品取引法施行令」と改められた。)の改正がされている(施行日は、いずれも平成18年12月13日)。本件MBOに関連するものとしては、次のとおりである。
ア 公開買付届出書の添付書類として、「買付け等の価格の算定に当たり参考とした第三者による評価書、意見書その他これらに類するものがある場合には、その写し(公開買付者が対象者の役員、対象者の役員の依頼に基づき当該公開買付けを行う者であって対象者の役員と利益を共通にする者又は対象者を子会社とする会社その他の法人である場合に限る。)」が追加された(発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令13条1項8号)。
イ 公開買付期間が「20日以上60日以内」から「20営業日以上60営業日以内」に改正された(証券取引法施行令8条1項)。
(2) 上記施行日は、本件公開買付期間の最終日の翌日であって、本件MBOは、上記改正による規制の対象外であり、法令上その義務を負うものではないものの、本件MBOにおいては、「買付け等の価格の算定に当たり参考とした第三者による評価書、意見書等」は公開されなかった。なお、MBO報告書によれば、事業計画や株価算定評価書等を開示した上で、買付価格の合理性について株主らに検討する機会を与えることが望ましいとされている。
(3) また、MBOの実施に際しては、株主に適切な判断機会を確保することが重要であり、MBOに積極的ではない株主に対して強圧的な効果が生じないように配慮することも求められるところ、本件MBOにおける公開買付者のプレスリリースや抗告人に吸収合併された旧株式会社レックス・ホールディングス(以下「旧レックス」という。)の株主あてのお知らせには、公開買付けに応じない株主は、普通株式の1株に満たない端数しか受け取れないところ、当該株主が株式買取請求権を行使し価格決定の申立てを行っても、裁判所がこれを認めるか否かは必ずしも明らかではない旨や、公開買付けに応じない株主は、その後の必要手続等に関しては自らの責任にて確認し、判断されたい旨が記載されており、MBO報告書において避けるべきであるとされている「強圧的な効果」に該当しかねない表現が用いられている。
(4) 原決定は、本件MBOにおける上記の事実経過を踏まえた上で、取得日における本件株式の価値を評価するに際し、〈1〉抗告人の主張する市場株価方式と純資産方式(修正簿価純資産法)及び比準方式(類似会社比準法)とを併用すべきであるとの点については、抗告人主張の純資産方式及び比準方式による各試算額が、本件公開買付価格と著しく乖離していることや、旧レックスが様々な事業を展開しており、その業態、事業形態に照らし、その企業価値は収益力を評価して決せられる部分が多いことなどから適切ではないとし、〈2〉旧レックスが平成18年8月21日に公表した「同年12月期の業績予想の下方修正は、企業会計上の裁量の範囲内の会計処理に基づくものとはいえ、既に、この段階において、相当程度の確実性をもって具体化していた本件MBOの実現を念頭において、特別損失の計上に当たって、決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことは否定できない」とした上で、本件公開買付けが公表された前日の6ヶ月前である平成18年5月10日から同公表日の前日である同年11月9日までの市場株価の終値の平均値をもって取得日における本件株式の価値とした。
また、原決定は、相手方らの度重なる要請にもかかわらず、抗告人が、MBO後の事業計画や、公開買付者において旧レックスにつきデューディリジェンスを実施した上で作成した株価算定評価書を提出しなかったことを踏まえ、本件MBOに近接した時期においてMBOを実施した各社の事例を参考に、上記の本件株式の価値に、本件MBOにおいて強制取得の対象となる株主に付加して支払われるべき価値部分として、その20%を加算し、これをもって取得価格と定めるのが相当であるとした。
(5) 原決定の認定判断は、本件MBOの経緯や原審までの審理経緯をも踏まえてされたものであり、本件記録に現れた証拠関係から肯認することができ、また、その取得価格の算定方法に裁量権の逸脱は認められないものというべきである。
(裁判長裁判官 近藤崇晴 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)

2.株主総会決議の効力を争う方法

・原告適格
+判例(東京高判H22.7.7)
要旨
株主としての地位を失っても、決議取り消しにより株主となるべき者は決議取り消しの訴えの原告適格を有する!

・831条1項3号
特別の利害関係を有する株主
=当該決議がなされることによってほかの株主が得られない利益を得る株主

Ⅵ おわりに

・有償の取得の場合の価格の決定
+判例(東京高判H25.4.17)


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