民法 基本事例で考える民法演習2 19 危険負担と損害賠償~他人物売買の場合(その1)


1.小問1(1)について(基礎編)

+(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

・受領遅滞を理由に危険の移転を主張。

・536条2項前段を根拠に行く方法も。
+(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

2.小問1(1)について(応用編)

+(弁済の提供の方法)
第四百九十三条  弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

+(弁済の提供の効果)
第四百九十二条  債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。

・取立債務は「行為を要するとき」には当たらない。
・取立債務において、目的物を用意して待っているのは現実の提供に当たる。
・そもそも危険負担は履行不能を前提としている制度!

+(種類債権)
第四百一条  債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2  前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

・取立債務にあっては、債務者が債務不履行を負わずに済むという「弁済の提供」と目的物の「特定」では債務者に要求される行為には差異がある。

3.小問1(2)について

+(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第五百六十一条  前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。

・担保責任に基づく解除の場合には、債務者の帰責事由は要件とされていない!

・他人物売買と二重譲渡については、534条1項ではなく、536条1項が適用されるとされている!

・+判例(S41.9.8)
理由
上告代理人白上孝千代の上告理由について。
原判決の確定したところによると、上告人と被上告人との本件売買契約は、第三者たる訴外山邑酒造株式会社の所有に属する本件土地を目的とするものであつたところ、原審認定の事情によつて売主たる被上告人が右所有権を取得してこれを買主たる上告人に移転することができなくなつたため履行不能に終つたというのである。
そして、本件売買契約の当時すでに買主たる上告人が右所有権の売主に属しないことを知つていたから、上告人が民法五六一条に基づいて本件売買契約を解除しても、同条但書の適用上、売主の担保責任としての損害賠償請求を被上告人にすることはできないとした原審の判断は正当である。
しかし、他人の権利を売買の目的とした場合において、売主がその権利を取得してこれを買主に移転する義務の履行不能を生じたときにあつて、その履行不能が売主の責に帰すべき自由によるものであれば、買主は、売主の担保責任に関する民法五六一条の規定にかかわらず、なお債務不履行一般の規定(民法五四三条、四一五条)に従つて、契約を解除し損害賠償の請求をすることができるものと解するのを相当とするところ、上告人の本訴請求は、前示履行不能が売主たる被上告人の責に帰すべき自由によるものであるとして、同人に対し債務不履行による損害賠償の請求をもしていることがその主張上明らかである。しかして、原審認定判示の事実関係によれば、前示履行不能は被上告人の故意または過失によつて生じたものと認める余地が十分にあつても、未だもつて取引の通念上不可抗力によるものとは解し難いから、右履行不能が被上告人の責に帰すべき自由によるものとはみられないとした原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるといわねばならない。
従つて、この点を指摘する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく原判決は破棄を免れず、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)