民法 基本事例で考える民法演習 委任の解除をめぐる法律関係~請負の解除と比較して


1.小問1(1)について(基礎編)
+(委任)
第六百四十三条  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

+(準委任)
第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

+(委任の解除)
第六百五十一条  委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる
2  当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

・解除権放棄特約は有効である!!!

・「受任者の利益をも目的とするとき」には、委任者は651条1項に基づく解除ができない!

・単に報酬の特約があるだけでは、受益者の利益を目的とした委任とはいえない!
+判例(S43.9.3)

+判例(S58.9.20)
理由
上告代理人鶴見祐策の上告理由第一点ないし第六点、並びに上告人の上告理由第一、第二点について
原審が適法に確定した事実関係によれば、本件税理士顧問契約は、被上告会社が、税理士である上告人の高度の知識及び経験を信頼し、上告人に対し、税理士法二条に定める租税に関する事務処理のほか、被上告会社の経営に関する相談に応じ、その参考資料を作成すること等の事務処理の委託を目的として締結されたというのであるから、全体として一個の委任契約であるということができる。
ところで、委任契約は、一般に当事者間の強い信頼関係を基礎として成立し存続するものであるから、当該委任契約が受任者の利益をも目的として締結された場合でない限り、委任者は、民法六五一条一項に基づきいつでも委任契約を解除することができ、かつ、解除にあたつては、受任者に対しその理由を告知することを要しないものというべきであり、この理は、委任契約たる税理士顧問契約についてもなんら異なるところはないものと解するのが相当である。
所論は、税理士顧問契約においては、税理士が受任事務を処理するにあたつては税理士法により諸種の規制を受けており、これによつて委任者の民法六五一条一項に基づく解除権は制限されていると主張する。しかしながら、税理士法による規制は、税理士顧問契約の委任契約としての性質をなんら変更するものでないから、同法による規制があるといつて、委任者の契約解除権が制限されると解することはできない。論旨は、独自の見解であつて、採用することができない。
所論は、さらに本件税理士顧問契約は、顧問料を支払う旨の特約があるから、受任者の利益をも目的として締結された契約であると主張する。しかしながら委任契約において委任事務処理に対する報酬を支払う旨の特約があるだけでは、受任者の利益をも目的とするものといえないことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四二年(オ)第一三八四号同四三年九月三日第三小法廷判決・裁判集民事九二号一六九頁)、また、税理士顧問契約における受任事務は、一般に、契約が長期間継続することがその的確な処理に資する性質を有し、当事者も、通常は、相当期間継続することを予定して税理士顧問契約を締結するものであり、本件税理士顧問契約において、依頼者たる被上告会社から継続的、定期的に支払われていた顧問料が上告人の事務所経営の安定の資となつていた等の原判決判示の事由も、これをもつて受任者の利益に該当するものということはできない。論旨は、独自の見解であつて、採用することができない。
以上説示したところによれば、本件税理土顧問契約は、被上告会社が民法六五一条一項に基づき、いつでも解除しえたものであるから、被上告会社がした本件解除の意思表示により終了したものというべきであり、これと結論を同じくする原審の判断は、結局、正当として是認することができる。所論中その余の点は、判決の結論に影響を及ぼさない原判決の説示部分を論難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、論旨はいずれも採用することができない。
上告代理人鶴見祐策の上告理由第七点及び第八点、並びに上告人の上告理由第三点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(木戸口久治 横井大三 伊藤正己 安岡滿彦)

・受任者の利益を目的とした委任であっても、受任者に債務不履行があった時には、委任者は委任契約を解除できる。

・受任者が著しく不誠実な行為に出る等やむを得ない事由があるときには651条1項に基づく解除ができる!!
+判例(S40.12.17)

+判例(S43.9.20)
理由
上告代理人福間昌作の上告理由第一点について。
原審の確定する事実によれば、合名会社米山商事をも含めた訴外真水建設株式会社に対する債権者が、右真水建設の事業を継続せしめてその再建をはかることにより自らの債権の満足をえようとして、米山商事の代表者米山らが真水建設よりその経営一切の委任を受けたというのであり、右委任に基づいて米山らは本件請負工事を続行したというのであるから、本件委任事務の処理は、委任者の利益であると同時に受任者の利益でもある場合にあたるものというべきである。そして、委任が当事者双方の対人的信用関係を基礎とする契約であることに徴すれば、右のような場合において、受任者が著しく不誠実な行動に出た等やむをえない事由があるときは、委任者は民法六五一条に則り委任契約を解除することができるものと解するのを相当とする(昭和三九年(オ)第九八号・同四〇年一二月一七日第二小法廷判決・裁判集八一号五六一頁)。
而して、原審の確定する事実によれば、米山商事は、真水建設の乗用車一台を私物視して他の債権者に非難され、また、真水建設所有の不動産を他の債権者および真水建設の承諾もなく所有名義を米山商事に移転したため、他の債権者の足並みが乱れ、右事実に端を発し、他の債権者も我勝ちに真水建設の動産類を持ち出し、遂に真水建設は不渡を出すに至つた、というのであるから、このような受任者である会社の代表者米山らの行動は、著しく不誠実なものというべく委任者たる真水建設としては、委任契約を解除するに足りるやむをえない事由あるものということができる。したがつて、真水建設のした本件委任契約解除の意思表示を有効と認めた原審の判断は、結局、正当である。
所論は、米山に対する経営委任と本件建築工事遂行および代金受領事務の委任とを別個の委任契約に基づくものであるとの前提のもとに、米山商事の不信行為は、建築工事請負代金受領事務の委任を解除する理由たりえない旨主張するが、原審の確定する事実によれば、所論のごとく別個の委任契約が成立したものではないから、右論旨は、原審の確定しない事実関係に立つて原判決を非難するに帰し、採ることをえない。また、原審の確定する事実関係に照らせば、本件委任契約の解除をもつて、信義誠実の原則に反し、権利の濫用にあたるものとすることはできず、原審の判断は正当である。それ故、原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。
同第二点について。
所論の約定遅延損害金債権に基づく相殺契約の主張は、上告人の被承継人である有限会社加藤与吉商店と米山商事との間に成立した旨主張されているのであることは本件記録上明らかであり、被上告人に対し右反対債権をもつて相殺の主張がされているものと解することはできない。所論引用の判例はいずれも本件に適切でなく、原判決には所論のごとき違法はない。それ故、論旨は理由がない。
同第三点について。
所論の点に関する上告人の抗弁の要旨は、米山商事との間の法律行為により請負代金債務が消滅したものであることを主張するものであることは本件記録に照らして明らかであり、所論のごとく真水建設との間の債務消滅の法律行為を主張するものではない。したがつて、この点につき判断を加えなかつた原判決に所論のごとき違法ありとはいえず、論旨は理由がない。
同四点について。
原審に所論のごとき釈明義務あるものとすることはできないから、所論の点について釈明権を行使しなかつた原審に釈明権不行使の違法ありとすることはできない。所論引用の判例は必ずしも本件に適切なものとはいえず、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

・解除権の放棄について
+判例(S56.1.19)
理由
上告代理人岩田豊の上告理由について
原審が適法に確定した事実関係は、おおよそ次のとおりである。
訴外Aは、昭和三七年九月一三日その所有の共同住宅である本件建物を、一括して訴外菱造船不動産株式会社(商号変更後は関東菱重興産株式会社)に賃貸し、同日建築及び不動産の管理を業とする被上告人との間で、本件建物の管理契約を締結した。
2本件管理契約において、被上告人は、貸借人からの賃料の徴収、本件建物の公租公課の支払、修理等本件建物の賃貸に関する事務の一切を任されたほか、貸借人がAに差し入れる保証金八八〇万円の保管を委ねられた
3そして、被上告人は、右の管理を無償で行うほか、保証金を保管する間、月一分の利息をAに支払う旨約したが、その代わりにAは、被上告人が右の保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することを許した。
4本件建物の賃貸借契約の期間は二年であるが、このような短かい期間が定められたのはその間の物価の変動を考慮したものにすぎず、本件管理契約の期間は五年と定められ、更新も認められた。
5その後両契約とも順次更新され、被上告人は、昭和四八年八月までの約一一年間、右の保証金を自己の事業資金として利用していたところ、Aは、同年九月一日被上告人に対し、本件管理契約の解除の意思表示をし、右の保証金の返還を請求した。
以上の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右の事実関係のもとでは、本件管理契約は、委任者たるAに利益を与えるのみならず、受任者たる被上告人にも、本件建物の賃貸借契約及び本件管理契約が存続する限り、右の保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することができる利益を与えるものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。右認定判断の過程に所論の違法はない。
ところで、本件管理契約は、委任契約の範ちゆうに属するものと解すべきところ、本件管理契約の如く単に委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任がなされた場合であつても、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに徴すれば、受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事由があるときは、委任者において委任契約を解除することができるものと解すべきことはもちろんであるが(最高裁昭和三九年(オ)第九八号同四〇年一二月一七日第二小法廷判決・裁判集八一号五六一頁、最高裁昭和四二年(オ)第二一九号同四三年九月二〇日第二小法廷判決・裁判集九二号三二九頁参照)、さらに、かかるやむをえない事由がない場合であつても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、該委任契約が受任者の利益のためにもなされていることを理由として、委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任著の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから、委任者は、民法六五一条に則り委任契約を解除することができ、ただ、受任者がこれによつて不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによつて、その不利益を填補されれば足りるものと解するのが相当である。
しかるに原審が、受任者である被上告人の利益のためにも委任がなされた以上、委任者であるAはやむをえない事由があるのでない限り、本件管理契約を解除できないと解し、Aが解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるか否かを認定しないで、同人のした本件管理契約の解除の効力を否定したのは、委任の解除に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては、審理不尽、理由不備の違法をおかしたものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点に関する論旨は、結局理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件についてはさらに審理を尽くさせるのが相当であるから、これを原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮﨑梧一 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶)

・委任契約の解除には、遡及効は認められていない!
債務不履行に基づく解除も同様である!
+(委任の解除の効力)
第六百五十二条  第六百二十条の規定は、委任について準用する。
+(賃貸借の解除の効力)
第六百二十条  賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。

2.小問1(1)について(応用編)
・登記申請事務の委託の場合

+判例(S53.7.10)
理由
上告代理人松尾利雄の上告理由について
一 原判決によれば、上告人らが本件請求の原因として主張するところは、次のとおりである。
(1) 上告人A、同B及び訴外Cは、昭和四二年六月一二日から昭和四三年一月一八日までの間に株式会社入江工務店から第一審判決添付の目録に記載の三筆の土地(以下「本件土地」という。)をそれぞれ買い受け、手付を支払い、Cは、上告人Dに対し、買主の地位を譲渡した。
(2) 上告人らは、昭和四三年二月八日、売主とともに司法書士である被上告人に対し、本件士地について所有権移転の仮登記手続を委託し、売主及び買王の委任状、印鑑証明書、資格証明書等登記手続に必要な書類を交付したところ、被上告人は、その数日後、売主からその交付にかかる登記手続に必要な書類の返還を求められ、買主である上告人らの同意を得ることなく、直ちにこれを売主に返還した。
(3) 売主は、それから程なく同年三月初めに倒産し、本件土地は、他に売却され所有権移転登記がされたため、上告人らは、本件土地について登記を経由することができず、結局、本件土地の所有権を取得することができなくなり、損害を被つた。右損害の額は、少なくとも、上告人らが売主に交付した手付のうちその後、売主から一部返還を受けた額を控除した残額に相当する額である。
(4) 登記権利者、登記義務者の双方から登記手続の委託を受けた被上告人としては、登記義務者からその交付にかかる登記手続に必要な書類の返還を求められても、登記権利者の同意がなければ、返還すべきではなく、これを返還したことは、上告人らとの委任契約上の債務不履行となるものであり、被上告人は、上告人らの被つた前記損害を賠償すべきである。

二 上告人らの右主張についての原審の判断は、次のとおりである。
(1) 不動産の売買契約の履行として、売主と買主の双方が司法書士に登記手続を委託する場合に、右三者間に特段の約定がされない限り、各委任契約は、単純に併存するのにすぎず、一方が他方の制約を受けたり、運命を共にしなければならない関係にはなく、一方の委任者は、他方の委任者の同意を要することなく委任契約を解除することができる。
(2) このように、一方の委任者である入江工務店は、受任者である被上告人との間の登記手続の委任契約をいつでも解除することができるのであるから、受任者としては、登記手続に必要な書類の返還を求められれば、それを拒むことはできない。それ故、被上告人が入江工務店の求めに応じて右書類を返還したため、登記手続が不能になつたとしても、上告人らと被上告人との間の委任契約の債務不履行又は善管注意義務違反になるものではなく、被上告人に対して損害賠償を求める上告人らの請求は、理由がない。

三 思うに、不動産の売買契約においては、当事者は、代金の授受、目的物の引渡し、所有権移転等の登記の経由等が障害なく行われ、最終的に目的物の所有権が完全に移転することを期待して契約を締結するものであり、法律も当事者の右期待にそい、その権利を保叢すべく機能しているというべきである。そして、不動産の買主は、登記を経由しない限り、第三者に対抗しうる完全な所有権を取得することができないのであるから、登記手続の履行は、売買契約の当事者が行うべき最も重要な行為の一つであるということができるが、登記所に対して登記申請をするには、ある程度の専門的知識を必要とするから、現今の社会では、右のような登記手続は、司法書士に委託して行われるのが一般であるといつてよく、この場合に、売買契約の当事者双方がいつたん右手続を同一の司法書士に委託した以上、特段の事情のない限り、右当事者は、登記手続が支障なく行われることによつて右契約が履行され、所有権が完全に移転することを期待しているものであり、登記手続の委託を受けることを業とする司法書士としても、そのことを十分に認識しているものということができる。このことは、所有権移転登記手続に限らず、その前段階ともいえる所有権移転の仮登記手続の場合も同様である。そうすると、売主である登記義務者と司法書士との間の登記手続の委託に関する委任契約と買主である登記権利者と司法書士との間の登記手続の委託に関する委任契約とは、売買契約に起因し、相互に関連づけられ、前者は、登記権利者の利益をも目的としているというべきであり、司法書士が受任に際し、登記義務者から交付を受けた登記手続に必要な書類は、同時に登記権利者のためにも保管すべきものというべきである。したがつて、このような場合には、登記義務者と司法書士との間の委任契約は、契約の性質上、民法六五一条一項の規定にもかかわらず、登記権利者の同意等特段の事情のない限り、解除することができないものと解するのが相当である。このように、登記義務者は、登記権利者の同意等かない限り、司法書士との間の登記手続に関する委任契約を解除することができないのであるから、受任者である司法書士としては、登記義務者から登記手続に必要な書類の返還を求められても、それを拒むことができるのである。また、それと同時に、前記のように、司法書士としては、登記権利者との関係では、登記義務者から交付を受けた登記手続に必要な書類は、登記権利者のためにも保管すべき義務を負担しているのであるから、登記義務者からその書類の返還を求められても、それを拒むべき義務があるものというべきである。したがつて、それを拒まずに右書類を返還した結果、登記権利者への登記手続が不能となれば、登記権利者との委任契約は、履行不能となり、その履行不能は、受任者である司法書士の責めに帰すべき事由によるものというべきであるから、同人は、債務不履行の責めを負わなければならない。
そうすると、前記のとおり、被上告人に委任契約の債務不履行又は善管注意義務違反はないとして上告人らの損害賠償請求を排斥した原審の判断は、法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は、理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亭)

3.小問1(2)について
+(受任者の報酬)
第六百四十八条  受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2  受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3  委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる

+(受任者による費用の前払請求)
第六百四十九条  委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない

←これについても後払いの特約をすることもできる。

+(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条  受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる
2  受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3  受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

+(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条  受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2  受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

+(受任者による報告)
第六百四十五条  受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
+(委任の終了後の処分)
第六百五十四条  委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
4.小問2について
・請負契約の場合
+第六百三十五条  仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
+(注文者による契約の解除)
第六百四十一条  請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
=請負人の債務不履行を前提としない。
・「損害賠償」とは一般に「履行利益の賠償」と解されている!
・請負契約の解除の遡及効について。
545条1項本文がそのまま妥当し遡及効があることになる。
ただし、
+判例(S7.4.30)
要旨
事実上の遡及効の制限
一部の建物がすでに竣工した後に注文者が641条に基づき契約を解除した事案につき、給付が可分であって、完成した部分だけでも当事者にとって利益があるときは、完成部分について契約を解除することはできず、未完成部分に関してのみ解除できる。
+判例(S56.2.17)
理由 
 上告代理人榊原正毅、同榊原恭子の上告理由一について 
 原審が確定したところによれば、(1) 訴外株式会社中谷工務店(以下「中谷工務店」という。)は、昭和四六年六月九日被上告人から西舞子建売住宅の新築工事を請負つた(以下「本件建築請負契約」という。)、(2) 上告人は、中谷工務店に対し四八万七〇〇〇円の約束手形金債権を有していたところ、これを保全するため、昭和四六年七月三一日中谷工務店が被上告人に対して有していた本件建築請負契約に基づく工事代金債権のうち四八万七〇〇〇円につき債権仮差押決定をえ、右決定は同年八月二日第三債務者である被上告人に送達された、(3) 当時、被上告人は中谷工務店に対し少くとも四八万七〇〇〇円の工事代金債務を負つていた、(4) 次いで、上告人は、中谷工務店に対する右約束手形金の請求を認容した確定判決に基づき、右仮差押中の債権についての債権差押及び取立命令をえ、右命令は同年一〇月三〇日、被上告人に送達された、(5) ところが、中谷工務店は、これより先の昭和四六年八月下旬ごろには建築現場に来なくなり、同年九月一〇日までには全工事を完成することを約しながらこれを履行せず、経営困難により工事を完成することができないことが明らかとなつたため、被上告人は、右同日、中谷工務店に対し口頭で本件建築請負契約を解除する旨の意思表示をした、というのである。 
 原審は、右事実関係に基づき、本件建築請負契約が中谷工務店の債務不履行を理由に解除されたことにより、中谷工務店の被上告人に対する工事代金債権も消滅したとして、上告人の差押にかかる前記四八万七〇〇〇円の工事代金債権についての本件取立請求を排斥した。 
判旨 しかしながら建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当であるところ(大審院昭和六年(オ)第一七七八号同七年四月三〇日判決・民集一一巻八号七八〇頁参照)、原判決及び記録によれば、被上告人は、本件建築請負契約の解除時である昭和四六年九月一〇日現在の中谷工務店による工事出来高が工事全体の49.4パーセント、金額にして六九一万〇五九〇円と主張しているばかりでなく、右既施行部分を引き取つて工事を続行し、これを完成させたとの事情も窺えるのであるから、かりにそのとおりであるとすれば、本件建築工事は、その内容において可分であり、被上告人は既施行部分の給付について利益を有していたというべきである。原判決が、これらの点について何ら審理判断することなく、被上告人がした前記解除の意思表示によつて本件建築請負契約の全部が解除されたとの前提のもとに、既存の四八万七〇〇〇円の工事代金債権もこれに伴つて消滅したと判示したのは、契約解除に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、叙上の点についてさらに審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。 
 よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
   (伊藤正己 環昌一 横井大三 寺田治郎)