民事訴訟法 基礎演習 境界確定訴訟


・形式的形成訴訟=伝統的に訴訟手続によって処理されてきたが、要件事実が具体的に規律されておらず、いかなる結論の判決を下すかが裁判所の裁量にゆだねられている訴訟

1.通説判例理論の理解
(1)二種類の「境界」
所有権界と筆界

(2)境界確定訴訟の対象となる「境界」
筆界が境界確定訴訟の対象!所有権界ではない。

+判例(S43.2.22)
理由
上告代理人青柳孝夫の上告理由第一点について。
境界確定の訴は、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によつて新たにその境界を確定することを求める訴であつて、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではない。したがつて、上告人主張の取得時効の抗弁の当否は、境界確定には無関係であるといわなければならない。けだし、かりに上告人が本件三番地の四二の土地の一部を時効によつて取得したとしても、これにより三番地の四一と三番地の四二の各土地の境界が移動するわけのものではないからである。上告人が、時効取得に基づき、右の境界を越えて三番地の四二の土地の一部につき所有権を主張しようとするならば、別に当該の土地につき所有権の確認を求めるべきである。それゆえ、取得時効の成否の問題は所有権の帰属に関する問題で、相隣接する土地の境界の確定とはかかわりのない問題であるとした原審の判断は、正当である。所論引用の判例は、当裁判所の採らないところである。原判決に所論の違法はなく、右と異なる見解に立つ論旨は採用することができない。
同第二点について。
本件三番地の四一の土地と三番地の四二の土地の境界がAB線である旨の原審の認定判断は正当であつて、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

・境界確定の訴えを提起する際、当事者は必ずしも特定の境界を主張する必要はない!

・不利益変更禁止原則の不適用
+判例(S38.10.15)
理由
上告代理人別府祐六の上告理由一乃至四について。
上告人が被上告人主張の有刺鉄線を張つて占有している本件四四八坪の土地は被上告人所有の本件九九七番の二山林(後に九九六番の一宅地となる。以下同じ)の一部であり、右土地の明渡を受けるまで被上告人は賃料相当の一箇月金二五〇〇円の損害を蒙るものとした原審認定は、挙示の証拠に照らして首肯し得られる。右認定に関する範囲では、所論は畢竟原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものに帰し、原判決に所論の違法は認められない。従つて所論のうち被上告人の施設物収去土地明渡の反訴請求に関する部分は採用し得ず、その上告は棄却すべきである。
次に所論一乃至三のうち上告人の土地境界確認の本訴請求に関する部分につき検討する。原判決は、甲第三号証、乙第二号証により、公図上では本件九九八番の八畑及び本件外九九八番の二の土地と本件九九七番の二山林との境界線は直線をなしているとの前提に立ち、これとほぼ合致することを根拠に、原判決添付第二図面の(リ)(チ)の直線を水路まで延長した線を本件九九八番の八畑と本件九九七番の二山林の境界線と認定しているが、右公図たる乙第二号証(或いは甲第三号証)によると、原判決添付各図面記載の道路の南東側では、まず本件九九七番の二山林と本件外九九八番の二畑(或いは九九八番の七畑)が接し、続いて上記両地の境界線(直線)を延長した線を境に本件九九七番の二山林と本件九九八番の八畑が接しているものと認められ、このことは本件記録上殆んど疑がないのである。右によれば、第二図面の(リ)(チ)の線を水路まで延長した線全部が本件九九七番の二山林と本件九九八番の八畑の境界であるのではなく、両地の境界は右線の一部であるということになる。しかるに原判決では、右線のうちどの部分が本件両地の境界であるか不明である(一端すなわち南東端が前記延長線の水路に交わる点であるとしていることは判るが、他の一端すなわち北西端は判明しない)。されば、原判決が第二図画(リ)(チ)の直線を水路まで延長した線を本件両地の境界線と認定しているのについては、理由不備の違法があるものというべく、この点に関し、所論は結局理由があり、原判決中土地境界確認請求に関する部分は破棄すべきである。
なお、原判決中の右部分につき職権をもつて調査するに、原判決は本件両地の境界につき第一審判決と判断を異にし、自ら証拠により第二図面(リ)(チ)の直線を水路まで延長した線を境界と認定しながら、その認定は第一審判決よりも被上告人に有利な認定であるから、被上告人が不服を申立てていない以上、第一審判決を変更しないとし、よつて上告人の控訴を棄却しているが、右判断には次のような違法があるものと認める。
境界確定訴訟にあつては、裁判所は当事者の主張に覇束されることなく、自らその正当と認めるところに従つて境界線を定むべきものであつて、すなわち、客観的な境界を知り得た場合にはこれにより、客観的な境界を知り得ない場合には常識に訴え最も妥当な線を見出してこれを境界と定むべく、かくして定められた境界が当事者の主張以上に実際上有利であるか不利であるかは問うべきではないのであり、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴一八六条の規定に違反するものではないのである(大審院大正一二年六月二日民事連合部判決、民集二巻三四五頁、同院昭和一一年三月一〇日判決、民集一五巻六九五頁参照)。されば、第一審判決が一定の線を境界と定めたのに対し、これに不服のある当事者が控訴の申立をした場合においても、控訴裁判所が第一審判決の定めた境界線を正当でないと認めたときは、第一審判決を変更して、自己の正当とする線を境界と定むべきものであり、その結果が控訴人にとり実際上不利であり、附帯控訴をしない被控訴人に有利であつても間うところではなく、この場合には、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はないものと解するのが相当である。以上によれば、前記のように、原審が第一審判決と判断を異にし自ら本件両地の境界を認定しながらも、被上告人が不服を申立てていないから、第一審判決を被上告人に有利に変更しないとしているのは正当でなく、原判決中の前記部分は、この点においても破棄を免れない。
よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官五鬼上堅磐は海外出張中につき署名押印することができない。裁判長裁判官 横田正俊)

・当事者間に境界についての合意が成立しても、それのみを根拠として合意のとおりの境界を確定することは許されない。
+判例(S42.12.16)

(3)筆界と所有権界との密接関連性

+判例(47.6.29)

+判例(H7.3.7)
理由
上告代理人長谷則彦、同水石捷也、同秋元善行の上告理由について
本件訴訟は、被上告人らが上告人に対し、相隣接する被上告人ら共有の群馬県吾妻郡a町大字b字c番dの土地と上告人所有の同所同番eの土地との境界の確定を求めるものであるところ、所論は、要するに、右二筆の土地の境界が第一審判決添付別紙図面のイ点とロ点を結ぶ直線であるとすると、上告人は、被上告人らが共有する同番dの土地のうち、同図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結ぶ線で囲まれた範囲の土地を時効取得した結果、両土地の境界は上告人の所有する土地の内部にあることになり、境界線の東側の土地も西側の土地も所有者を同じくすることになるから、両土地の境界確定を求める被上告人らの本件訴えは原告適格を欠き不適法である、というのである。
しかしながら境界確定を求める訴えは、公簿上特定の地番により表示される甲乙両地が相隣接する場合において、その境界が事実上不明なため争いがあるときに、裁判によって新たにその境界を定めることを求める訴えであって、裁判所が境界を定めるに当たっては、当事者の主張に拘束されず、控訴された場合も民訴法三八五条の不利益変更禁止の原則の適用もない(最高裁昭和三七年(オ)第九三八号同三八年一〇月一五日第三小法廷判決・民集一七巻九号一二二〇頁参照)。右訴えは、もとより土地所有権確認の訴えとその性質を異にするが、その当事者適格を定めるに当たっては、何ぴとをしてその名において訴訟を追行させ、また何ぴとに対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決すべきであるから、相隣接する土地の各所有者が、境界を確定するについて最も密接な利害を有する者として、その当事者となるのである。したがって、右の訴えにおいて、甲地のうち境界の全部に接続する部分を乙地の所有者が時効取得した場合においても、甲乙両地の各所有者は、境界に争いがある隣接土地の所有者同士という関係にあることに変わりはなく、境界確定の訴えの当事者適格を失わない。なお、隣接地の所有者が他方の土地の一部を時効取得した場合も、これを第三者に対抗するためには登記を具備することが必要であるところ、右取得に係る土地の範囲は、両土地の境界が明確にされることによって定まる関係にあるから、登記の前提として時効取得に係る土地部分を分筆するためにも両土地の境界の確定が必要となるのである(最高裁昭和五七年(オ)第九七号同五八年一〇月一八日第三小法廷判決・民集三七巻八号一一二一頁参照)。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇 一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

++解説
《解  説》
一 事案の概要
本件は、隣接する分譲別荘地の境界が争いになったものである。第一図の乙地を所有するYは、昭和四八年六月三〇日、斜線部分の中に建物を建て、以後斜線部分を占有してきた。平成四年に至り、甲地を所有するXらは、甲地と乙地の境界は、イとロを結ぶ線であるとしてYを相手に境界確定請求訴訟を提起した。これに対して、Yは、境界はハとニを結ぶ線であると争うとともに、仮に境界がイとロを結ぶ線であるなら斜線部分につき取得時効が成立したと主張した。
一審の東京地裁は、証拠調べをした結果、境界がXら主張のとおりイとロを結ぶ線であることを認めたが、Yの時効取得の主張について判断を進めて一〇年の取得時効の成立を認め、その結果、「Yは本件係争地の所有権を取得したことになるから、Xらの訴えは、Yが所有する土地の内部の境界を求めることになり、不適法になる」として本件境界確定の訴えを却下した。これに対して、Xらが控訴したところ、二審の東京高裁は、時効取得があったとしても、双方の土地所有者は境界確定の訴えの当事者適格を失わないとして、原判決を取り消した上、一審でも事実審理がされていることを理由に差し戻すことなく、一審と同じXら主張線を境界と認定して判断したため、Yが上告した。この上告に応えたのが本判決であるが、判文のとおりの理由でYの上告を棄却したものである。
二 解説
1 境界確定の訴えの性質については、確認訴訟説、形成訴訟説、形式的形成訴訟説など学説上の見解が分かれるが、判例は、通説である形式的形成訴訟の立場に立っている。この説は、境界確定訴訟を「その本質は非訟事件であるが、隣接する両地番の土地の公法上の境界が不明な場合に、訴訟の形式によってその境界を定める訴訟」と解するものである。すなわち、境界確定の訴えは、双方の土地の所有権の範囲の確認を目的とするのではなく、権利の客体となるべき土地自体を区別をすることを目的とするものとされる。裁判所が境界を定めるに当たっては、当事者の主張に拘束されず、控訴された場合も不利益変更禁止の原則の適用もない(大判民連大1・6・2民集二巻三四五頁、最三小判昭38・10・15民集一七巻九号一二二〇頁。)また、境界は、相隣者の合意(最二小判昭31・12・28民集一〇巻一二号一六三九頁)や、時効取得(最一小判昭43・2・22民集二二巻二号二七〇頁)によって変動するものでない。
2 ところで、境界確定の訴えについては、所有者以外の者に当事者適格が認められるかどうかは問題があるが(最一小判昭57・7・15裁集民一三六号五九九頁は、地上権者は境界確定の訴えの当事者適格を有する者に当たらないとしている。)少なくとも隣接する土地の所有者が当事者適格を有することには異論がない。
そして、この所有者とは、公簿上所有名義人になっていれば現実の所有者でなくてもよいとする見解もあるが(小川正澄「境界確定の訴についての若干の考察」本誌一五九号二四頁)、単なる名義人にすぎない者は含まないとするのが支配的見解である。すなわち、境界に接する具体的土地の所有権者に当事者適格が認められるとするのであるが、この見解を推し進めると、甲乙二筆の土地が接する場合に、乙地の所有者が甲地のうち境界に接続する土地部分を時効取得すると、甲地の所有者は当該部分の所有権を失うことから、境界確定の当事者適格を失うのではないかということが問題になり、後述の最高裁判決があるまで、これを肯定するのが学説では有力であった(吉川大二郎・民商一巻四号七一頁、松村俊夫・境界確定の訴(増補版)二八頁、奥村正策「土地境界確定訴訟の諸問題」実務民事訴訟講座4一九七頁など)。下級審の裁判例でみると、当事者適格を失うとするもの(東京高判昭37・5・31下民集一三巻五号一一二二頁、東京地判昭39・4・3本誌一六三号一八五頁、東京高判昭51・1・28本誌三三七号二二三頁など)と、隣接地の一部の時効取得は当事者適格に影響を与えないとするもの(東京地判昭47・1・26判時六七一号六〇頁、東京高判昭53・5・31本誌三六八号二三八頁など)とに分れていた。
3 この問題について、初めて最高裁の見解を示したのが本判決で引用する昭和五八年一〇月一八日の第三小法廷判決(民集三七巻八号一一二一頁)で、甲乙二筆の土地の境界確定の訴えにおいて、甲地のうち第二図のように境界の一部に接続する斜線部分を乙地の所有者が時効取得したとみられる事案につき、右斜線部分が時効取得されても、甲地の所有者はその部分を含めて境界の確定を求めることができるとした。右判決が説示するところは、時効取得された部分が境界の一部に接続する場合であると、第一図のように全部に接続する場合であるとを区別していないのであるが、この判決を論じた学説の中には、一部の場合と全部の場合とでは異なるのではないかと指摘するものがあり(畑郁夫・民商九一巻二号二六六頁)、右判決の後に言い渡された最一小判昭59・2・16(本誌五二三号一五〇頁判時一一〇九号九〇頁)が、隣接する甲乙二筆の境界争いの事件で甲地のうち乙地に隣接する部分全部を第三者が所有している場合(甲地の前所有者が一部を売り残したようである。)、甲地の所有者は当該境界確定の訴えの原告適格を欠くとしたため、本件のような場合の当事者適格につき疑問が生じ得るところであった。
4 こうした中で、本判決は、土地の一部が時効取得されても隣接する土地の所有者同士という関係が変わらない以上、双方の土地所有者は境界確定訴訟の当事者適格を失わないとしたものである。この判示からすると、実際には考え難いが、第一図の斜線部分を第三者が時効取得したような場合には結論が異なってくるものと思われる。また、一筆の土地の全部が時効取得されたような場合には、隣接する土地所有者同士という関係はなくなり、境界確定訴訟の当事者適格を失われる(本判決後に言い渡された最三小判平7・7・18裁判所時報一一五号三頁は、このことを明らかにした。)。
境界確定訴訟の中で取得時効の主張がされることは多く、実務においてもこの主張をめぐって混乱する場面があったところ、土地の一部についての隣地所有者による時効取得は、それが境界の全部に接続する部分であっても、境界確定の訴えの当事者適格になんら影響を及ぼさないことを確認した最高裁判決として実務上参考になるものと思われる。

・地上権者は、相隣接する土地につき処分権能を有する存在ではないので、境界確定訴訟の当事者適格を有しない!!!
+判例(S57.7.15)
理  由
上告代理人佐々木秀雄、同岩田広一、同上野進の上告理由第一点(1)について
相隣接する係争土地につき処分権能を有しない者は、土地境界確定の訴えの当事者となりえないと解するのが相当であるから、本件係争土地につき地上権を有すると主張するにすぎない上告人が本件土地境界確定の訴えの当事者適格を有する者にあたらないとした原審の判断は、これを正当として是認することができる。これと見解を異にする論旨は、採用することができない。

同第一点(2)について
国有土地森林原野下戻法(明治三二年法律第九九号)に基づく山林の下戻申請に対して不許可の処分を受けた者が右処分を不服として行政裁判所に出訴した場合において、行政裁判所が行政庁に対し係争山林を下戻申請者に下戻すべき旨の判決をしたときは、右判決によつて下戻申請者は新たに右山林の所有権を取得するに至つたものというべきであるから(大審院大正二年(オ)第一四八号同年一〇月六日判決・民録一九輯七九九頁、大審院大正二年(オ)第六〇九号同三年三月七日判決・民録二〇輯一九五頁参照)、その趣旨の原判決は、これを正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同代理人らのその余の上告理由並びに上告代理人佐藤哲郎、同寺坂吉郎、同中田真之助、同中田孝の上告理由及び上告代理人後藤信夫、同遠藤光男の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口正孝 団藤重光 藤崎萬里 本山亨 中村治朗)

+判例(S46.12.9)
理由
上告代理人横山市治名義の上告理由第一ないし第三、第五および第六について。
土地の境界は、土地の所有権と密接な関係を有するものであり、かつ、隣接する土地の所有者全員について合一に確定すべきものであるから、境界の確定を求める訴は、隣接する土地の一方または双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴えまたは訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
本件において、上告人らは、福島県相馬市a字b番の一山林とこれに、隣接する被上告人所有の同市a字c番山林との境界の確定を求めるものであるが、右b番の一山林は上告人らと訴外Aほか一名の共有に属するにもかかわらず、右共有者のうち本件訴訟の当事者となつていないものがあることは記録上明らかであるから、上告人らの本件訴は当事者適格を欠く不適法なものといわなければならない。したがつて、右と同じ見解のもとに上告人らの本件訴を却下した原審の判断は正当である。所論は、独自の見解にもとづき原判決を非難するものであつて、採用することができない。
同第四について。
訴訟告知を受けた者は、告知によつて当然当事者または補助参加人となるものではない。所論は、独自の見解を主張するものであつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸盛一)

+判例(H11.11.9)
理由
上告代理人森脇勝、同河村吉晃、同今村隆、同植垣勝裕、同小沢満寿男、同岩松浩之、同田中泰彦、同山本了三、同麦谷卓也の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係は、(1) Bの相続人である被上告人らは、第一審判決別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)を持分各四分の一ずつの割合で相続した、(2) 本件土地は、その北側が上告人所有の道路敷(以下「本件道路敷」という。)に、南側が同人所有の河川敷(以下「本件河川敷」という。)に、それぞれ隣接している(以下、本件道路敷及び本件河川敷を併せて「上告人所有地」という。)、(3) 被上告人らの間においてBの遺産の分割について協議が調わず、被上告人Cを除く同Aら三名(以下「被上告人Aら」という。)が同Cを相手方として申し立てた遺産分割の審判が京都家庭裁判所に係属しているところ、本件土地と上告人所有地との境界が確定していないために右手続が進行しないでいる、(4) 被上告人Aらは、本件土地と上告人所有地との境界を確定するために、被上告人Cと共同して、上告人を被告として境界確定の訴えを提起しようとしたが、被上告人Cがこれに同調しなかったことから、同人及び上告人を被告として、本件境界確定の訴えを提起した、というものである。

二 第一審は、本件土地と本件道路敷との境界は第一審判決別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニの各点を結ぶ直線であり、本件土地と本件河川敷との境界は同図面記載ホ、ヘ、トの各点を結ぶ直線であると確定した。上告人は、被上告人Aらを被控訴人として控訴を提起し、原審において、土地の共有者が隣接する土地との境界の確定を求める訴えは共有者全員が原告となって提起すべきものであると主張し、本件訴えの却下を求めた。原審は、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした上で、被上告人Aらと上告人との間及び被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ第一審と同一の境界を確定した。

三 境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解される(最高裁昭和四四年(オ)第二七九号同四六年一二月九日第一小法廷判決・民集二五巻九号一四五七頁参照)。したがって、共有者が右の訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきものであるということができる。しかし、【要旨】共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
けだし、境界確定の訴えは、所有権の目的となるべき公簿上特定の地番により表示される相隣接する土地の境界に争いがある場合に、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、所有権の目的となる土地の範囲を確定するものとして共有地については共有者全員につき判決の効力を及ぼすべきものであるから、右共有者は、共通の利益を有する者として共同して訴え、又は訴えられることが必要となる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、隣接する土地との境界に争いがあるときにはこれを確定する必要があることを否定することはできないところ、右の訴えにおいては、裁判所は、当事者の主張に拘束されないで、自らその正当と認めるところに従って境界を定めるべきであって、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定に違反するものではないのである(最高裁昭和三七年(オ)第九三八号同三八年一〇月一五日第三小法廷判決・民集一七巻九号一二二〇頁参照)。このような右の訴えの特質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要はなく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すこともないからである。
そして、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合には、この共有者間には公簿上特定の地番により表示されている共有地の範囲に関する対立があるというべきであるとともに、隣地の所有者は、相隣接する土地の境界をめぐって、右共有者全員と対立関係にあるから、隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている者のみを相手方として上訴した場合には、民訴法四七条四項を類推して、同法四〇条二項の準用により、この上訴の提起は、共有者のうちの被告となっている者に対しても効力を生じ、右の者は、被上訴人としての地位に立つものと解するのが相当である。
右に説示したところによれば、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の各判例のうち、最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決・民集二一巻七号一九二五頁は、本件と事案を異にし適切でなく、その余の各判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない。なお、原審は、主文三項の1において被上告人Aらと上告人との間で、同項の2において被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ本件土地と上告人所有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+補足意見
裁判官千種秀夫の補足意見は、次のとおりである。
私は、境界確定の訴えにおいて、共有者の一部の者が原告として訴えを提起することに同調しない場合、この者を本来の被告と共に被告として訴えを提起することができるとする法廷意見の結論に賛成するものであるが、これは、飽くまで、境界確定の訴えの特殊性に由来する便法であって、右の者に独立した被告適格を与えるものではなく、他の必要的共同訴訟に直ちに類推適用し得るものでないことを一言付言しておきたい。
すなわち、判示引用の最高裁判例の判示するとおり、土地の境界は、土地の所有権と密接な関係を有するものであり、かつ、隣接する土地の所有者全員について合一に確定すべきものであるから、境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられるのが原則である。したがって、共有者の一人が原告として訴えを提起することに同調しないからといって、その者が右の意味で被告となるべき者と同じ立場で訴えられるべき理由はない。もし、当事者に加える必要があれば、原告の一員として訴訟に引き込む途を考えることが筋であり、また、自ら原告となることを肯じない場合、参加人又は訴訟被告知者として、訴訟に参加し、あるいはその判決の効力を及ぼす途を検討すべきであろう。事実、共有者間に隣地との境界について見解が一致せず、あるいは隣地所有者との争いを好まぬ者が居たからといって、他の共有者らがその者のみを相手に訴えを起こし得るものではなく、その意味では、その者は、他の共有者らの提起する境界確定の訴えについては、当然には被告適格を有しないのである。したがって、仮に判示のとおり便宜その者を被告として訴訟に関与させたとしても、その者が、訴訟の過程で、原告となった他の共有者の死亡等によりその原告たる地位を承継すれば、当初被告であった者が原告の地位も承継することになるであろうし、判決の結果、双方が控訴し、当の被告がいずれにも同調しない場合、双方の被控訴人として取り扱うのかといった問題も生じないわけではない。かように、そのような非同調者は、これを被告とするといっても、隣地所有者とは立場が異なり、原審が「二次被告」と称したように特別な立場にある者として理解せざるを得ない。にもかかわらず、これを被告として取り扱うことを是とするのは、判示もいうとおり、境界確定の訴えが本質的には非訟事件であって、訴訟に関与していれば、その申立てや主張に拘らず、裁判所が判断を下しうるという訴えの性格によるものだからである。しかしながら、当事者適格は実体法上の権利関係と密接な関係を有するものであるから、本件の解釈・取扱いを他の必要的共同訴訟にどこまで類推できるのかには問題もあり、今後、立法的解決を含めて検討を要するところである。
以上、判示の結論は、この種事案に限り便法として許容されるべきものであると考える。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

++解説
《解  説》
一 本件は、国の所有する道路敷及び河川敷と南北を接する土地(本件土地)について、国との間で境界が争われた事件である。本件土地は、所有者であるAが死亡した後、その相続人であるX1~X3、Y1の四名によって相続された。Aの遺産の分割について協議が調わず、XらがY1を相手方として申し立てた遺産分割の審判が係属していたが、本件土地について、国(Y2)との間で境界が確定していなかったことから、右の審判の手続が進行しないでいる。ところが、Y1は、境界確定の訴えを提起することに同調しなかった。そこで、Xらは、Y1及びY2を被告として境界確定の訴えを提起した。第一審においては、ほとんど争いがないまま推移し、Xらの主張どおりに境界を確定する旨の判決が言い渡された。これに対し、Y2は、Xら三名を相手として控訴し、原審において、本件土地の共有者全員が原告となっていないので、本件訴えは不適法であると主張した。原審は、本件訴えは適法であり、Y1も被控訴人の地位に立つと判断した上で、主文において、XらとY1との間、XらとY2との間で、それぞれ第一審判決と同一内容の境界を確定する旨の判決を言い渡した(原判決は、本誌九六四号二七三頁に登載されており、評釈として、徳田和幸・判評四六九号三〇頁〔判時一六二五号一九二頁〕がある。)。Y2がXら及びY1の四名を相手として上告したのが本件である。
二 本判決は、共有地に係る境界確定の訴えは固有必要的共同訴訟であるが、共有地についても境界を確定する必要があることを否定することができないところ、右訴えの特質、すなわち、裁判所は当事者の主張に拘束されず、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定(処分権主義)に違反しないことからすると、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいる場合、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と訴えを提起することに同調しない者とを被告にして右の訴えを提起することができるとした。そして、Y1も被控訴人の地位に立つものとした原審の判断は相当であるとした。ただし、原審が、XらとY1との間、XらとY2との間で、それぞれ境界を確定すると表示したことは相当でなく、本件土地とY2の所有地との境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りる旨を説示した。
三 境界確定の訴えが、共有者全員が訴えを提起し、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟であるというのは、本判決が引用する最一小判昭46・12・9民集二五巻九号一四五七頁、本誌二七七号一五一頁の判示するとおりである。ところで、固有必要的共同訴訟とされる場合において、一部の者が訴えを提起することに同調しないために、他の者の権利行使が妨げられる事態を避けるための方策として、次の考え方が提唱されている。(1) 非同調者以外の者は、非同調者を被告に加えて、訴えを提起することができるとする説(新堂幸司・新民事訴訟法六六六頁以下、高橋宏志「必要的共同訴訟について」民訴二三号四六、五三頁等)、(2) 非同調者以外の者のみによる訴えの提起を許容しようとする説(五十部豊久「第三者に対する共有持分権確認の訴えは共有者全員の共同提起を要しない」法学協会雑誌八三巻二号二四三頁、井上治典「共有地についての境界確定訴訟は共有者全員による提訴を要するか」本誌二七九号八六頁等)、(3) 非同調者に対する訴訟告知によって解決することを検討すべきであるとする説(小島武司「共同所有をめぐる紛争とその集団的処理」訴訟制度改革の理論一一七頁)。右のうち、(1)が多数説であるが、民訴法上、本来原告となるべき者を便宜的に被告に回すという考え方は予定されていないと考えられるところであり(現行の民訴法改正に際し、「参加命令」の制度の導入が検討されたが、実現に至らなかったとの経緯がある。研究会・新民事訴訟法をめぐって〔第四回〕ジュリ一一〇五号六八頁以下)、一部の者を被告とする場合、主文の表示、被告間における判決の効力等について種々の問題が存するといわざるを得ない(福永有利「共同所有関係と固有必要的共同訴訟―原告側の場合―」民訴二一号三九頁以下)。本判決は、右の多数説と同旨の考え方を採るべきであるとしているが、境界確定の訴えが有する特質に着目しているのであって、固有必要的共同訴訟とされる場合において、一般的にこのような方法が許されると判示したものと解することはできない。同様の特質を有するものであれば、同じ扱いを否定するものではないと考えられるが、極めて限定されたものにならざるを得ないであろう。千種裁判官の補足意見は、本判決の判断が境界確定の訴えの特殊性に由来する便法であり、本件のY1のような者に対して独立した被告適格を与えるものではないことを指摘するものである。
四 本判決は、固有必要的共同訴訟であることを前提としながら、共有者の一部の者を隣接地の所有者とともに被告として境界確定の訴えを提起することができることを明らかにしたものであって、今後の実務に与える影響は大きいと考えられる。

・境界確定の訴えの提起により係争部分についての土地所有権の取得時効は中断する!!!!!

+判例(S38.1.18)
理由
上告代理人高橋万五郎の上告理由第一点の一について。
論旨は、境界確定訴訟と所有権確認訴訟とは性格が相違し、両訴における攻撃防禦の方法、裁判官の釈明権行使の限度等に重大な相違を来し、従つて訴訟手続は一変し遅延を来すことは明白であるのに、原審が、その結審直前に前者から後者への請求の交替的変更を許したのは、請求の基礎に変更がないにしても、著しく訴訟手続を遅延させるから違法であると主張する。
しかし、本件記録によれば、被上告人が請求を変更したのは昭和三四年一月二〇日の口頭弁論においてであり、次回期日である二月一七日には証人二名を調べて弁論を終結しているのであるから、著しく訴訟手続を遅延させたとはいえない。論旨は理由なく、採用しえない。

同第一点の二について。
論旨は、旧訴の取下げについて、上告人が明白に同意したとはいつていないのに、原審が釈明権を行使せずに「それとなく同意した」と認定しているのは違法であり、旧訴の取下についての上告人の同意はなかつたと見るべきであると主張する。
しかし新訴により旧訴の請求の趣旨又は原因を変更した場合に、相手方がこれに対し異議を述べずに新訴につき弁論をしたときは、相手方は旧訴の取下につき暗黙の同意をしたものと解するのを相当とする(昭和一六年三月二六日大審院判決、民集二〇巻三六一頁参照)ところ、本件記録によれば上告人は異議なく新訴につき弁論をしていることが認められるから、この点についての原審の判断は相当である。論旨は理由なく、排斥を免れない。

同第二点前段について。
論旨は、時効中断を生ずる時期は相手方に訴状が送達された時と解すべきだと主張するにあるが、訴提起の時であること民訴法二三五条に明文の存するところであるから、所論は採用しえない。

同第二点後段について。
論旨は、旧訴である境界確定の訴は昭和三四年一月二〇日取下げられているのであるから、同訴の提起によつて生じた取得時効中断の効力は民法一四九条により消滅するのに、原判決は、旧訴と新訴とはその請求する権利関係に殆んど差異がないから、旧訴の取下げにも拘らず同訴によつて生じた時効中断の効力は消滅しないと判示したのは、民法一四九条、民訴法二三五条に背致すると主張する。
しかしながら本件繋争地域が被上告人の所有に属することの主張は終始変わることなく、唯単に請求の趣旨を境界確定から所有権確認に交替的に変更したに過ぎないこと、本件記録上明白である。このような場合には、裁判所の判断を求めることを断念して旧訴を取下げたものとみるべきではないから、訴の終了を意図する通常の訴の取下げとはその本質を異にし、民法一四九条の律意に徴して同条にいわゆる訴の取下中にはこのような場合を含まないものと解するを相当とする(昭和一八年六月二九日大審院判決、民集二二巻五五七頁参照)。されば、旧訴たる境界確定の訴提起によつて生じた上告人の所有権取得時効を中断する効力は、その後の訴の交替的変更にも拘わらず、失効しないものというべきである。右と同趣旨の原判決は相当であつて、所論は採用しえない。

同第三点について。
所論の事実は被上告人が事情として述べたこと、所論準備書面を通読すれば明白であり、本件境界が原判決別紙図面表示ニホへ線であることは、被上告人が本件訴訟において終始一貫主張してきたところであるから、原判決には被上告人の主張しない事実について判断した違法はなく、所論は排斥を免れない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

(4)境界に接する土地の取得時効の場合

+判例(H7.7.18)
理由
上告代理人村山晃の上告理由第一について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について
上告人らの予備的請求は、第一審判決添付物件目録(二)記載の土地(以下「本件要役地」という。)の共有者の一部である上告人らが同目録(一)記載の土地(以下「本件承役地」という。)の所有者である被上告人に対して地役権設定登記手続を求めるものであるが、原審における上告人ら提出の昭和六三年三月三日付け「訴変更の申立書」によれば、その請求の趣旨は、「被上告人は上告人らに対し、本件承役地につき、上告人らの本件要役地の持分について、本件要役地を要役地とする通路や子供の遊び場等として使用することを内容とする地役権設定登記手続をせよ。」というものである。
原審は、本件要役地の共有者の全員と被上告人との間で本件要役地のために本件承役地の通行を目的とする地役権が設定されたことを認定した上、(1) 本件予備的請求は上告人らの有する本件要役地の共有持分について地役権設定登記手続を求めるものと解されるところ、要役地の共有持分のために地役権を設定することはできないから右請求は主張自体失当である、(2) 仮に本件予備的請求を共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解すると、要役地が数人の共有に属する場合においては地役権設定登記手続を求める訴えは固有必要的共同訴訟であり上告人らは共有者の一部の者にすぎないから右請求は不適法な訴えとして却下を免れないとして、本件予備的請求を棄却すべきものと判断した。
しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
要役地の共有持分のために地役権を設定することはできないが、上告人らの予備的請求は、その原因として主張するところに照らせば、右のような不可能な権利の設定登記手続を求めているのではなく、上告人らがその共有持分権に基づいて、共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解すべきである。
そして、要役地が数人の共有に属する場合、各共有者は、単独で共有者全員のため共有物の保存行為として、要役地のために地役権設定登記手続を求める訴えを提起することができるというべきであって、右訴えは固有必要的共同訴訟には当たらない
原判決には上告人らの申立ての趣旨の解釈及び法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決のうち本件予備的請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右部分については、地役権設定の範囲等を明確にさせるなど更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻し、上告人らのその余の上告を棄却することとする。
よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

++解説
《解  説》
一 本判決は、要役地共有の場合の地役権設定登記は共有物の保存行為に当たり、右設定登記手続請求訴訟は固有必要的共同訴訟に当たらないと判断したものである。
要役地共有の場合の地役権設定登記が保存行為に当たるか、地役権設定登記手続請求訴訟が固有必要的共同訴訟か否かについては、今までほとんど論じられてこなかった。不動産登記手続の解説書(香川編著・全訂不動産登記書式精義上巻九七八頁、清野・ひろば一七巻八号五一頁、中村・不動産登記の理論と実務二三四頁)は、地役権設定登記は保存行為に該当し、登記権利者は要役地共有者全員であるが、要役地共有者の一名が全員のために申請することができると述べていたところである。
二 判決要旨のとおりの判断がされた主な根拠は、① 設定登記は地役権に対抗要件を付して権利の存続を確実にする行為であること、② 地役権の登記(前掲各文献参照)は承役地及び要役地の乙区欄に地役権の目的・対応する要役地(承役地)等が記載されるだけであって地役権者は記載されず、地役権に係る権利者・義務者は甲区欄の所有名義人の表示により公示されるから、共有者の一部の者による地役権設定登記訴訟の提起を認めてもこの者が地役権を単独で有するかのような登記簿上の外観を与えるおそれがないこと、にあると思われる。そのほか、③ 地役権の準共有者は自己の持分についてだけ地役権設定登記を受けることができないこと、④ 共有者の一部が地役権を時効取得することにより地役権が発生した場合(民法二八四条一項)に他の要役地共有者(地役権の準共有者)の協力がなければ地役権設定登記ができないとするのも問題があること、なども考慮すべき点であろう。
殊に右②の点は、地役権やその設定登記の特徴として重要であろう。所有権移転登記においては、共有者の一部の者の申請により申請人以外の共有者のためにも持分移転登記をすることについては、持分の真正をどのようにして担保するかという問題があるため、登記実務においては消極の見解があるようである(登記先例解説集二一九号一〇八頁参照。かつては、共有者の一部の者が全員のために移転登記の申請をすることを積極に解する見解もあったようである―登記研究一六五号五一頁参照)。また、右の場合において、共有者の一部の者にすぎない申請人の単独所有名義とすることには、真実に合致しない登記を認めることになり、他の共有者の利益を害するおそれもあるという問題がある。共有権に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を固有必要的共同訴訟とする最一小判昭46・10・7民集二五巻七号八八五頁、本誌二七二号二二一頁も、以上と同様の考慮に基づくものと思われる。要役地共有の場合の地役権設定登記には、右のような共有地のための所有権移転登記に特有の問題がないから、これを殊更に固有必要的共同訴訟とする理由はないといえよう。原判決は、地役権やその設定登記の特徴を考慮せず、前記最一小判昭46・10・7の影響を受けて本判決と逆の結論を採ってしまったものとも思われ、本件の判決要旨は実務上注意を要するところであろう。
本判決は、共有関係と固有必要的共同訴訟について新たに一つの判断を加えたものとしても、意義があるといえよう。また、以上に述べたところからすると、承役地共有の場合の地役権設定登記手続請求訴訟や要役地共有の場合の地役権抹消登記手続請求訴訟などは本判決の射程外にあることは明らかであって、これらは今後に残された問題であるといえよう。
三 本件の事案は、分譲マンションの分譲業者(被上告人)とその購入者の一部(上告人ら)との間の紛争である。主要な争点の第一は本件承役地(持分割合に応じた持分)も分譲されたか否かであり、原審は分譲されていないと認定した。主要な争点の第二は本件承役地に本件要役地を要役地とする地役権が設定されたか否かであり、原審は黙示の地役権設定契約が締結されたと認定した。なお、本判決のいう本件承役地とは公道に通じる幅12mの路地状敷地部分のうち半分の幅6mの部分のことであり、本件要役地とはその余の分譲マンションの敷地部分(幅12mの路地状敷地部分のうち本件承役地以外の幅6mの部分を含む。)のことである(参考資料―図面―)も参照していただきたい)。
本件訴訟は、上告人らの提起した本訴事件と被上告人の提起した反訴事件から成る。本訴事件は、主位的に本件承役地の持分移転登記を求め(請求原因は、本件承役地〔建物の持分割合に応じた持分〕も分譲されたというもの)、予備的に本件判示事項に係る地役権設定登記を求めるもの(請求原因は、本件承役地に本件要役地を要役地とする地役権が設定されたというもの)。反訴事件は、本件承役地の明渡、賃料相当損害金の支払を求めるもの。原審は、本訴事件の主位的請求については本件承役地の分譲の事実の証明がないとして棄却すべきものとし、予備的請求については黙示の地役権設定契約が認められるが、本件予備的請求は「要役地共有持分について地役権設定登記を求めるもの」と解され、実体法上共有持分のための地役権設定はできないから持分についての地役権設定登記請求は理由がなく、仮に本件要役地(持分全部)のために地役権設定登記を求めるものとすればそれは共有者全員が原告となることを要する必要的共同訴訟である(ただし、その理由は示していない)から却下を免れないと説示して棄却すべきものとした。原審は、反訴事件については、黙示の地役権設定契約が認められることなどから棄却すべきものとした。
原判決に対して双方から上告がされた(購入者らからの上告が本件。分譲業者からの上告は最高裁平成三年(オ)第一六八三号事件)。分譲業者からの上告である一六八三号事件の上告理由は、主に黙示の地役権設定契約締結の事実の証明があるとした点を非難するものであり、本判決と同日、原審の専権に属する事実認定を非難するものとして、簡素な案文で上告棄却された。
本件の上告理由第一は、本件承役地の分譲の事実の証明がないとした点を非難するもので、原審の専権に属する事実認定を非難するものとして、本判決の冒頭において簡素な案文で排斥された。
本件の上告理由第二が判示事項に関する点であり、本判決は論旨を容れて、①予備的請求は(持分権に基づいて)共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解するべきであるとして、原審がこれを要役地共有持分についての地役権設定登記を求めるものと解した点に違法があるとし、②各共有者は共有物の保存行為として要役地のために地役権設定登記を求める訴えを提起することができ、右訴えは固有必要的共同訴訟に当たらないと判断して、右請求を原審に差し戻したものである。
なお、原審判断のうち持分のために地役権を設定することができないとした部分は、通説の見解(我妻・新訂物権法四一四頁以下など)にも沿うものであり、異論のないところであろう。しかし、本件予備的請求を申立書記載の文言にこだわって持分のための地役権というような不可能な権利の設定登記手続を求めるものと解することは適当でなく、この点は、実務上注意を要する点であるといえよう。

2.判例理論を適用した場合の設問の解決

3.境界確定訴訟の意義
(1)所有権の範囲に関する紛争の解決
(2)境界確定訴訟の所有権範囲確定機能
証明責任の適用のない境界確定訴訟では、どちらが提起しようと請求棄却はありえず、必ず境界線が引かれることになり、紛争の解決を図ることができる!!!

(3)通説的理解に対する批判

(4)近時の学説
①所有権の範囲確定機能
②分筆の前提としての筆界確定機能

4.判例理論の内在的理解
(1)上記学説との関係
(2)境界全部に接する一部土地の取得時効と、隣接土地全部の時効取得の場合の判例の整合性
一部土地の取得=適法
全部土地の取得=不適法却下
←分筆の必要性の有無から。

(3)原告側必要的共同訴訟において提訴拒絶者を被告に回すことができるという判例の射程

+判例(H20.7.17)
理由
上告代理人中尾英俊、同増田博、同蔵元淳の上告受理申立て理由について
1 本件は、上告人らが、第1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地(以下、同目録記載の土地を、その番号に従い「本件土地1」などといい、併せて「本件各土地」という。)は鹿児島県西之表市A集落の住民を構成員とする入会集団(以下「本件入会集団」という。)の入会地であり、上告人ら及び被上告人Y2(以下「被上告会社」という。)を除く被上告人ら(以下「被上告人入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して、被上告人入会権者ら及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被上告会社に対し、上告人ら及び被上告人入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。

2 原審が確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
被上告会社は、本件土地1についてはその登記名義人である被上告人Y3及び同Y4から、本件土地2~4についてはその登記名義人である被上告人Y5及び同Y6から、それぞれ買い受け、その所有権を取得したとして、平成13年5月29日、共有持分移転登記を了した。

3 原審は、次のとおり判示して、本件訴えを却下すべきものとした。
(1) 入会権は権利者である入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴えは、権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であるというべきである。
(2) 本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは、本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく、その一部の者によって提起されたものであるため、原告適格を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。本件のような場合において、訴訟提起に同調しない者は本来原告となるべき者であって、民訴法にはかかる者を被告にすることを前提とした規定が存しないため、同調しない者を被告として訴えの提起を認めることは訴訟手続的に困難というべきである上、入会権は入会集団の構成員全員に総有的に帰属するものであり、その管理処分については構成員全員でなければすることができないのであって、構成員の一部の者による訴訟提起を認めることは実体法と抵触することにもなるから、上告人らに当事者適格を認めることはできない。

4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
上告人らは、本件各土地について所有権を取得したと主張する被上告会社に対し、本件各土地が本件入会集団の入会地であることの確認を求めたいと考えたが、本件入会集団の内部においても本件各土地の帰属について争いがあり、被上告人入会権者らは上記確認を求める訴えを提起することについて同調しなかったので、対内的にも対外的にも本件各土地が本件入会集団の入会地であること、すなわち上告人らを含む本件入会集団の構成員全員が本件各土地について共有の性質を有する入会権を有することを合一的に確定するため、被上告会社だけでなく、被上告人入会権者らも被告として本件訴訟を提起したものと解される。
特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは、原審の上記3(1)の説示のとおり、入会集団の構成員全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。そして、入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、入会権の存否について争いのあるときは、民事訴訟を通じてこれを確定する必要があることは否定することができず、入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。そこで、入会集団の構成員のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には、入会権の存在を主張する構成員が原告となり、同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて、同訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。このような訴えの提起を認めて、判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても、構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから、構成員の利益が害されることはないというべきである。
最高裁昭和34年(オ)第650号同41年11月25日第二小法廷判決・民集20巻9号1921頁は、入会権の確認を求める訴えは権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟というべきであると判示しているが、上記判示は、土地の登記名義人である村を被告として、入会集団の一部の構成員が当該土地につき入会権を有することの確認を求めて提起した訴えに関するものであり、入会集団の一部の構成員が、前記のような形式で、当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないと解するのが相当である。
したがって、特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり、入会集団の一部の構成員が、当該第三者を被告として、訴訟によって当該土地が入会地であることの確認を求めたいと考えた場合において、訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは、上記一部の構成員は、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で当該土地が入会地であること、すなわち、入会集団の構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され、構成員全員による訴えの提起ではないことを理由に当事者適格を否定されることはないというべきである。
以上によれば、上告人らと被上告人入会権者ら以外に本件入会集団の構成員がいないのであれば、上告人らによる本件訴えの提起は許容されるべきであり、上告人らが本件入会集団の構成員の一部であることを理由に当事者適格を否定されることはない。

5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、第1審判決を取り消した上、上告人らと被上告人入会権者ら以外の本件入会集団の構成員の有無を確認して本案につき審理を尽くさせるため、本件を第1審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)

++解説
《解  説》
1 本件は,原告ら26名が,1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地は鹿児島県西之表市塰泊浦集落の住民を構成員とする入会集団(本件入会集団)の入会地であり,原告ら及び被告馬毛島開発株式会社(被告会社)を除く被告ら(以下「被告入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して,被告入会権者ら41名及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被告会社に対し,原告ら及び被告入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。
入会集団の一部の構成員が,第三者を相手方として,入会地であると考える土地について固有必要的共同訴訟たる入会権確認の訴えを提起する場合において,訴えを提起することに同調しない同じ入会集団の構成員を被告とすることができるかが争われた。

2 原審は,本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは,本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく,その一部の者によって提起されたものであるため,原告適格を欠く不適法なものであるとして,本件訴えを却下すべきものとした。
これに対し,原告らが上告受理申立てをしたものであるが,第一小法廷は,本件を受理する決定をした上,原判決を破棄して第1審を取り消した上,本件を鹿児島地方裁判所に差し戻す旨の判断をした。

3 入会権確認の訴えが固有必要的共同訴訟であるとした判例である最二小判昭41.11.25民集20巻9号1921頁,判タ200号95頁は,「入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから,入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである」と説示している。この事案では,入会集団の構成員330名のうちの316名が,第三者を相手方としてある土地の持分移転登記,抹消登記手続を求めて訴えを提起し(ただし,その後の取下げにより1審判決を受けたのは265名,控訴審判決を受けたのは216名,上告判決を受けたのは128名であるとされている。),控訴審において,原告らが請求を拡張し,当該土地について入会権を有することの確認請求を追加したが,入会権確認請求等に係る訴えは,入会権者と主張されている部落民全員によって提起されたものでなく,その一部の者によって提起されているものであるから,当事者適格を欠く不適法なものであるとされた。この判例の基礎には,ある土地が入会地であるかどうかの確認を求める訴えは,入会権の管理処分権行使の一形態であるから,入会権者全員に総有的に帰属する権限の行使として,その全員が原告となって提起されなければならないという考え方があったものと思われる。この立論を厳格かつ形式的に解するならば,入会権確認の訴えに同調しない入会権者がいるために入会権者の一部のみが第三者に対してその訴えを提起した場合には,常に原告適格を欠くということになり,入会権者の権利行使が妨げられる事態が生じ得ることになる。そこで,本件では,このような問題点の解決と上記判例の射程が争点となったものである。
本判決は,特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり,入会集団の一部の構成員が,当該第三者を被告として当該土地が入会地であることの確認を求めようとする場合において,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対する入会権確認の訴えを提起することができるとした。その理由として,①入会集団の構成員のうちに訴えの提起に同調しない者がいる場合であっても,民事訴訟を通じて入会権の存否を確定する必要があり,入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならないこと,②このような訴えの提起を認めて,判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないことを挙げている。
また,前掲最二小判昭41.11.25が,「入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである」と説示している点について,本判決は,入会集団の一部の構成員が,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となる形式で,当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないとした。このように,本判決は,前掲最二小判昭41.11.25の判示を基本的には肯定しつつも,同最判と本件とでは,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となっているか,入会集団の構成員全員が入会権確認を求めるという請求を立てているかどうかという点で差異がある点をとらえて,上記最判の射程を画する解釈を示したものである。

4 学説上は,固有必要的共同訴訟とされる共同所有関係に関する訴訟について,共有者のうちに非同調者がいるために,他の共有者の権利行使が妨げられる事態を避けるための方策として,①非同調者以外の者は,非同調者を被告に加えて,訴えを提起することができるとする説,②非同調者以外の者のみによる訴えの提起を許容しようとする説,③非同調者に対する訴訟告知により問題を解決しようとする説などが検討されてきたとされる(佐久間邦夫・平11最判解説(民)(下)703頁参照)。 このうち,非同調者以外の者が非同調者を被告に加えて訴えを提起することができるとする考え方については,土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいるという事案において,既に最三小判平11.11.9民集53巻8号1421頁,判タ1021号128頁が採用するところとなっていた。ただし,その補足意見や判例解説において言及されているとおり,この考え方は,実質的な非訟事件である境界確定訴訟の特殊性に着目して採用されたものであり,他の必要的共同訴訟一般に採用され得るものではないと解されていたため,これを直ちに本件のような場合に当てはめることはできない。
一方,共有関係確認訴訟を見てみると,実務上,固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えにおいては,遺産であることの確認を求めたいと考える相続人は,他の相続人の訴訟に対する態度いかんにかかわらずそれらの者を被告として訴えの提起をすることが許されており,原告適格が問題とされることはないのであって,その点では,権利関係を確定し紛争を解決する必要がある場合には,共有関係にある物の処分権に係る訴えであっても,当事者全員が原告又は被告として関与しているのであれば,常に全員が原告になることが求められているわけではない。また,本件のような事例においては,訴訟手続によって紛争を解決すべき法律上の利益を当事者が有していると認められる上,入会集団の一部の構成員が入会権確認の訴えを提起することを許さないとするのは,管理処分権行使の方法における厳格性を貫こうとする余り,その本体である入会権自体が入会集団から不正に失われてしまうおそれがある。本判決が「入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない」としたのは,以上のような考慮から,権利保護の必要性を重視したものと考えられる。
なお,上告受理申立て理由が指摘する最二小判昭43.11.15裁判集民93号233頁,判タ232号100頁の事例を見ると,同最判は,本件で示された考え方を否定してはいないように解される。すなわち,この事案では,共有名義で登記されていた入会地の名義人3名がこれを第三者に売却し,又は抵当権を設定してしまったものであり,入会権者78名のうち75名が上記3名と移転登記,抵当権の登記を有する第三者を被告として,入会権確認と,抹消登記手続請求をしたのであるが,原告適格は全く問題とされていない。違法な行為をした者と第三者が被告となり,非同調者がいなかった事案であるので,別の考え方もできないわけではないが,本件のような考え方によっても原告適格に問題のない事例であったと説明することが可能であろう。

5 本判決は,入会権確認の訴えにおいて判示の方法による訴えの提起を許容する判断を示したものではあるが,その考え方は,少なくとも狭義の共有関係の確認を求める訴えについては同様に当てはまるものと解される。ただし,本件のような事例においては,入会集団の一部の構成員が土地の登記名義を有する第三者に対してその抹消登記手続を求める給付の訴えを提起することができるのかどうかも問題となるが,本判決は,この点についてまでは判断を示していないというべきであろう。本判決は,かねてから学説によっても論じられていた固有必要的共同訴訟における原告適格の問題点について,最高裁として初めての判断を示したものであり,民事訴訟の理論上も実務上も影響が少なくないと考えられる。