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1.訴え提起の効果
(1)訴訟係属の発生
訴訟係属とは
特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態のこと。
被告が訴えの提起について了知する機会を与えられないまま、訴訟係属が発生するというのは不適切であるから、訴訟係属は被告への訴状の送達によって生じる。
(2)時効中断の効果
・訴えの提起による時効の中断の効果は訴状が提出された時点で、訴訟係属の発生を待たずに生じる(民法147条)
・訴えの提起によって時効の中断が発生する理由
①訴状の提出によって権利行使の態度が明確になるから(権利行使説)
②時効中断効は本来的には判決の確定効によって生じるところ、たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に時効が完成するのは相当でないことから、訴え提起時に時効中断効を発生させたものであるとする説明(権利確定説)
・時効中断の効果は訴訟物である権利について生じる
・判例は、債務不存在確認訴訟において、被告が債権の存在を主張し、請求棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張したときに訴訟物たる債権の消滅時効は中断する。
~~訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効力を認める余地があるかについて~~
・所有権に基づく土地明渡請求訴訟の提起は、所有権の取得時効を中断する効果を持つ。
+判例(S16.3.7)
・根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は、討議債権の消滅時効を中断する効力を持つ
+判例(S44.11.27)
理由
上告代理人真田幸雄の上告理由第一点について。
訴外合名会社田辺商店が上告人および訴外Aを共同の取引相手として文房具類の卸販売をして、昭和三二年四月二六日当時五四万六〇九二円の売掛代金債権を有し、右訴外会社と上告人との間において、右債権および以後の取引から生ずることあるべき売掛代金債権を担保するため、本件不動産につき根抵当権を設定することを合意してその登記を経た旨の原判決の事実認定は、その挙示する証拠に照らして正当として是認することができないものではない。所論のような原審における被上告人の主張の変更が自白の取消にあたるものと解することはできないし、また、論旨引用の各証拠および被上告人の弁論の趣旨に照らしても、右事実認定の過程に所論の違法を認めるに足りない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実認定を非難するものであつて、採用することができない。
同第二点について。
所論の債権譲渡による代物弁済の事実が認められないとした原判決の認定は、証拠関係に照らして正当として是認することができ、この点の認定判示に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用することができない。
同第三点について。
上告人およびAが、原判決判示のころ本件売掛代金債権につき債務の承認をした旨の原判決の事実認定、判断は、その挙示する証拠に照らし、是認することができないものではない。しかして、その後二年以内に、上告人は、債務負担の事実がないことを主張して、本件根抵当権設定登記および同移転登記の各抹消登記手続を求める本訴を提起し、これに対し被上告人は第一審第一回口頭弁論期日における答弁書の陳述をもつて、請求棄却の判決を求めるとともに、確定債権五〇万円の取得およびこれに基づく右各登記の有効なことを主張したのであつて、これによつて被上告人の本件売掛代金債権についての権利行使がされたものと認められないことはない。このような場合においては、被上告人の前示答弁書に基づく主張は、裁判上の請求に準じるものとして、本件売掛代金債権につき消滅時効中断の効力を生じるものと解するのが相当である。したがつて、右債権について消滅時効が中断されているものとした原審の判断は正当であつて、これに所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)
・訴訟物たる請求権と請求競合の関係にある請求権について、前者の請求権に係る訴訟の継続中、民法153条の催告の効果が継続する。
+判例(H10.12.17)
理由
上告代理人長谷川靖晃、同森山博の上告理由第一、第二について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 被上告人らと上告人鳥谷部喜代治は、いずれも昭和五〇年八月二日に死亡した鳥谷部運太郎の相続人である。
上告人喜代治は、昭和四八年一〇月一日から昭和五〇年七月一六日までの間に、運太郎が株式会社弘前相互銀行青森支店の同人名義の貸金庫内に保管していた同人所有の銀行預金証書、株券等の全部をひそかに持ち出した上、順次預金の払戻しを受け、あるいは株券を売却して、払戻金や株券売却代金を着服した。
2 運太郎及び被上告人鳥谷部清春は、昭和五〇年七月一六日、上告人喜代治が右貸金庫内の運太郎所有の預金証書、株券等の全部を持ち出していることを知り、同上告人に対し、持ち出した預金証書等を返還するよう求めたが、これを拒まれた。
同上告人は、運太郎死亡後にされた遺産分割協議の席上でも、持ち出した財産の内容や処分の全容等を秘匿して明かさなかった。
3 被上告人らは、昭和五八年六月六日、上告人喜代治を被告として本件訴訟を提起し、同上告人が着服した預金払戻金及び株券(弘前相互銀行の株券を除く。)の売却代金相当額につき、被上告人らの相続分に応じた損害賠償を請求するとともに、弘前相互銀行の株券につき、同上告人がいまだ売却せずに所持しているものと考えて、共有物の保管者である被上告人清春への引渡し等を請求した。
4 被上告人らは、昭和六三年四月一四日の第一審口頭弁論期日において、前記弘前相互銀行の株券は既に上告人喜代治により売却されていることが判明したとして、引渡し等の請求を右株券の売却時における価額相当額についての被上告人らの相続分に応じた損害賠償請求に変更した。
5 また、被上告人らは、同年一一月三〇日の第一審口頭弁論期日において、上告人喜代治による預金払戻金及び前記各株券売却代金の着服を理由とする不当利得返還請求を追加した上、平成元年二月一五日の第一審口頭弁論期日において、従前の損害賠償請求の訴えを取り下げた。
6 その後の第一審口頭弁論期日において、上告人喜代治は、抗弁として、被上告人らが追加した不当利得返還請求については、被上告人らが貸金庫内からの預金証書等の持出事実を知った日である前記昭和五〇年七月一六日から一〇年の時効期間の経過により、右請求を追加する以前に消滅時効が完成している旨主張し、時効を援用した。
二1 右事実関係の下においては、被上告人らが追加した不当利得返還請求は、上告人喜代治が預金払戻金及び株券売却代金を不当に着服したと主張する点において、昭和五八年六月六日に提起した本件訴訟の訴訟物である不法行為に基づく損害賠償請求とその基本的な請求原因事実を同じくする請求であり、また、同上告人が不法に着服した預金払戻金及び株券売却代金につき被上告人らの相続分に相当する金額の返還を請求する点において、前記損害賠償請求と経済的に同一の給付を目的とする関係にあるということができるから、前記損害賠償を求める訴えの提起により、本件訴訟の係属中は、右同額の着服金員相当額についての不当利得返還を求める権利行使の意思が継続的に表示されているものというべきであり、右不当利得返還請求権につき催告が継続していたものと解するのが相当である。そして、被上告人らが第一審口頭弁論期日において、右不当利得返還請求を追加したことにより、右請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものというべきである。
また、前判示のとおり、上告人喜代治が持ち出した前記弘前相互銀行の株券を既に売却していたことを秘匿していたため、被上告人らは、当初、同上告人が右株券を所持しているものとして右株券の引渡し等を求める訴えを提起したものであって、その時点で右株券が売却されていることを知っていれば、訴え提起時に他の株券と同様、相続分に応じた売却代金相当額の損害賠償請求権を行使する意思を有していたことは明らかというべきである。したがって、被上告人らのした右株券の引渡し等の請求には、被上告人らの当該株券売却代金相当額の損害賠償又は不当利得の返還を求める権利行為の意思が表れていたとみることができるから、本件訴訟の係属中、右不当利得返還請求についても催告が継続していたものと解するのが相当であり、その後の口頭弁論期日において被上告人らが不当利得返還請求を追加したことにより、右請求権の消滅時効につき中断の効力が確定的に生じたものと解すべきである。
2 原審は、被上告人清春が本訴を提起したのが昭和五八年六月六日であり、不当利得返還請求権の消滅時効は本訴の提起により、中断したというべきであるとして、上告人喜代治の消滅時効の抗弁を排斥したものであるが、右に判示したところによれば、原審の右判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないで若しくは原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官井嶋一友 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)
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