1.小問1について
+(虚偽表示)
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
①虚偽の外観の存在・積極的に作出
②「第三者」=契約が存在することを前提として取引関係に入る
③「善意」
・対抗要件を備えていない者が94条2項の「第三者」にあたるか?
対抗要件は備えなくても当たる。=二重譲渡ではなく、対抗関係ではない。
・「善意の第三者」の取得は、原始取得!
2.小問2(1)について
+(代物弁済)
第四百八十二条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
+(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
①違法な強迫
②脅す意図・意思表示をさせる意図
③脅迫と意思表示との間の因果関係
+(債権者代位権)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
(詐害行為取消権)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
+判例(S36.7.19)
理由
上告代理人今野佐内の上告理由第一点(一)について。
民法四二四条の債権者取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物引渡請求権(以下特定物債権と略称する)といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解するを相当とする。けだし、かかる債権も、窮極において損害賠償債権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様だからである。大審院大正七年一〇月二六日民事連合部判決(民録二四輯二〇三六頁)が、詐害行為の取消権を有する債権者は、金銭の給付を目的とする債権を有するものでなければならないとした見解は、当裁判所の採用しないところである。本件において、原判決の確定したところによれば、被上告人は昭和二五年九月三〇日訴外Aとの間に本件家屋を目的とする売買契約を締結し、同人に対しその引渡請求権を有していたところ、Aは、他に見るべき資産もないのに、同二七年六月頃右家屋に債権額八万円の抵当権を有する訴外Bに対し、その債権に対する代物弁済として、一〇万円以上の価格を有する右家屋を提供し、無資力となつたというのである。右事実に徴すれば、本件家屋の引渡請求権を有する被上告人は、右代物弁済契約を詐害行為として取り消しうるものというべく、したがつて、原判決が「債務者がその特定物をおいて他に資産を有しないにかかわらず、これを処分したような場合には、この引渡請求権者において同条の取消権を有するものと解すべきである」とした部分は結局正当に帰する。
なお、論旨は、原判決のような判断が許されるときは、被上告人は登記を了しないのに、既に登記した上告人に対し所有権の移転を対抗し得ると同一の結果となり、民法一七七条の法意に反すると主張するが、債権者取消権は、総債権者の利益のため債務者の一般財産の保全を目的とするものであつて、しかも債務者の無資力という法律事実を要件とするものであるから、所論一七七条の場合と法律効果を異にすることは当然である。所論は採用できない。
同第一点(二)、(三)について。
債務者が目的物をその価格以下の債務の代物弁済として提供し、その結果債権者の共同担保に不足を生ぜしめた場合は、もとより詐害行為を構成するものというべきであるが、債権者取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産減少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるから、右の取消は債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものと解すべである。したがつて、前記事実関係によれば本件においてもその取消は、前記家屋の価格から前記抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されるものと解するを相当とする。そして、詐害行為の一部取消の場合において、その目的物が本件の如く一棟の家屋の代物弁済であつて不可分のものと認められる場合にあつては、債権者は一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するの外はないものといわなければならない。然るに、原審は本件家屋の価格および取消の範囲等につき十分な審理を遂げることなく、たやすく本件代物弁済契約の全部の取消を認め、上告人に対し右家屋の所有権移転登記手続を命じたのは、民法四二四条の解釈を誤つた結果として審理不尽、理由不備の違法をあえてしたものであつて、所論は結局理由あるに帰し、原判決はこの点において破棄を免れない。よつて、本件を原審に差し戻すべく、民訴四〇七条に従い、裁判官下飯坂潤夫、同奥野健一、同山田作之助の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
+補足意見
裁判官奥野健一、同下飯坂潤夫、同山田作之助の補足意見は次のとおりである。
一、 債権者の保全債権が特定物引渡請求権である場合に、債務者がその目的物を処分しても債務者に他に財産があつて、右特定物引渡債権の履行不能による損害賠償債務を弁済する十分な資力があるならばその処分行為は詐害行為とはならず、また、特定物引渡債権の目的物が処分されない限り債務者が如何にその資力を減少せしめる行為をしたとしても当該債権者にとつて詐害行為とはならない。してみれば、目的たる特定物を処分することによつて無資力となり履行不能による損害賠償債権の履行ができなくなつた場合に限り、詐害行為となるのであるから結局損害賠償債権という金銭債権が害されて、始めて取消権を行使することができるのである。すなわち、特定物引渡請求権については債務者の目的物処分行為により損害賠償債権たる金銭債権に変じ、同時に、債務者が無資力となることにより右金銭債権が侵害されたことによつて詐害行為が成立するものと解すべきである。かく解することが取消権行使の効果を総債権者の利益のために生ぜしめんとする取消権制度の趣旨に適合するものと考える。
なお、保全債権が債務者の行為以前に存在することを要することは固よりであるが、目的物の処分行為により債権者の債権が損害賠償債権に変ずると同時に詐害行為が成立するものとしても、右損害賠償債権は特定物引渡債権の変形であり、同一性を害しないのであるから保全債権が詐害行為以前に存在するというに毫も妨げはない。
二、 多数意見は「債務者が目的物をその価格以下の債務の代物弁済として提供し、その結果債権者の共同担保に不足を生ぜしめた場合は、もとより詐害行為を構成するものというべきであるが……右の取消は債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものと解すべきである。……その目的物が本件の如く一棟の家屋の代物弁済であつて不可分のものと認められる場合にあつては債権者は一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するの外はないといわなければならない。」と判示する。若し多数意見が、一般に一棟の建物を価格以下の債権の代物弁済として提供した場合は、その債権額を超過する部分が詐害行為となり、その部分のみの一部取消をなすべく、ただ目的物が一棟の建物というが如き不可分のものである場合には、常にそれに相当する価格の賠償を求めるの外はないという趣旨であるならば疑問なきを得ない。
けだし、債権者取消権の制度は、詐害行為により逸脱した財産を取り戻し債務者の一般財産を原状に回復せしめんとするにあるのであつて、逸脱した財産自体の返還を請求し得る場合には、原則としてこれを請求すべく、特別の事由なき限り、その財産の評価額の返還を請求しえない(昭和九年一一月三〇日大審院判決、民集一三巻二一九一頁参照)のであり、仮令債務者の行為の一部が詐害行為となる場合でも、目的物が分割し得ない場合は、その対価の全部において債権者を害すると一部において害するとを問わず、その行為の全部を取消すべきである(大正六年六月七日大審院判決、民録二三輯九三二頁、大正七年五月一八日同判決、民録二四輯九九三頁、大正五年一二月六日同判決、民録二二輯二三七〇頁、大正九年一二月二四日同判決、民録二六輯二〇二四頁、昭和三〇年一〇月一一日最高裁判所第三小法廷判決、民集九巻一一号一六二六頁各参照)と解するのが相当であるからである。このことは民法四二四条が受益者のみならず、転得者に対しても取消による原状回復の訴求を認めていることからも窺えるのみならず、詐害行為取消権の制度と同趣旨の制度である破産法上の否認権行使の場合においても、破産財団の原状回復主義をとり、破産者の受けた反対給付又はこれに代わる利益を相手方に返還せしめ或は相手方の債権を復活せしめる(破産法七七条ないし七九条)ものとし、評価額により差額を精算する制度を採つていないことからも、肯定することができるのである。
しかし、本件においては、目的物たる不動産は受益者に対する抵当権附債権に代物弁済され、抵当権の登記は既に抹消されているのであるから、転得者のみを被告とする本訴においては原告の保全債権に優先する右抵当権附債権及び抵当権登記を復活せしめて、債務者の財産を原状に回復せしめることは不可能であり、また、無担保となつた本件不動産をそのまま債務者の一般財産に復帰せしめることは不当に債務者及び債権者を利する結果となり、決して原状回復とはなり得ない関係にある。従つて、本件の如き特別の場合においては逸脱した財産自体の返還に代えてその評価額により詐害行為となつた部分に相当する金額の賠償を認めることは止むを得ないところであつて、この趣旨において多数意見と結論において同様である。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 島保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助)
+判例(S53.10.5)
理由
上告代理人立野造、同長沢正範の上告理由第二、一、(一)について
特定物引渡請求権(以下、特定物債権と略称する。)は、窮極において損害賠償債権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様であり、その目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁)。しかし、民法四二四条の債権者取消権は、窮極的には債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできないものというべく、原判決が「特定物の引渡請求権に基づいて直接自己に所有権移転登記を求めることは許されない」とした部分は結局正当に帰する。
論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。
同第二、一、(二)について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第二、二について
原判決は、鑑定人Aの鑑定の結果によれば昭和四八年三月一日当時における本件物件の価格は、上告人の賃借権の存在を考えると二九六万円であることが認められる、と判断した。しかしながら、右鑑定の結果を検討すると、右金額は、本件物件の価格から本件貸室部分の賃借権価格を控除した額ではなく、本件貸室部分の土地建物の価格から賃借権価格を控除した額であつて、本件貸室部分を除いた部分の土地建物価格が含まれていないのであるから、原判決が右金額をもつて直ちに本件物件の死因贈与契約の履行不能による填補賠償額とし、上告人の損害賠償請求のうち二九六万円及びこれに対する昭和五一年三月二〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払請求を超える部分を棄却したのは、理由不備の違法があるというべきであり、論旨は理由がある。
それゆえ、原判決中、右請求棄却部分は破棄を免れず、右破棄部分につきさらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし、その余の部分に関する上告は理由がないから、これを棄却することとする。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 団藤重光 裁判官 本山亨 裁判官 戸田弘 裁判官岸上康夫は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 藤崎萬里)
・無資力について(不動産賃貸借の場合)
+判例(S29.9.24)
・復帰的物権変動論
=第三者を保護するための理論
3.小問2(2)について
・背信的悪意者論
+判例(H8.10.29)
理由
上告代理人黒田耕一の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 本件土地の分筆及び市道としての整備
(一) 原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)は、もとAが所有していた松山市a番町b丁目(表示変更前の同市c町)d番、e番合併一の土地(以下これを「合併一の土地」と表示することとし、「合併六、七の土地」もこれに準ずる)の一部であったところ、被上告人は、昭和三〇年三月、旧国鉄松山駅前整備事業の一環として、貨物の搬出、搬入用の道路を造るため、右Aから本件土地を代金三四万一二八〇円で買い受け、同年四月三〇日その代金を完済した。
(二) 被上告人とAは、被上告人が買い受ける本件土地を合併一の土地から分筆して合併六の土地とすることにしていたが、分筆登記の手続に手違いが生じ、昭和三〇年五月一三日、実際に合併一の土地から分筆された土地は合併七の土地として表示された。その結果、登記簿や土地台帳の上では合併七の土地というものができ、しかも、合併六の土地はその後も公簿上作られなかったため、合併六の土地として登記される予定であった本件土地については、被上告人所有名義の登記が経由されないままとなっていた。
(三) 被上告人は、農地であった本件土地を公衆用道路に造成するため、昭和三〇年度の失業対策事業で盛土をして整備したが、昭和四四年六月二一日から同年七月一〇日までの間に本件土地の北側と南側に側溝を、ほぼ中央部に市章入りマンホールを二箇所設置するとともに、敷地全体をアスファルトで舗装して現況に近い形態の道路として整備した。また、被上告人は、昭和五四年一一月には、本件土地内に市道金属標を設置することにより本件土地が被上告人の管理に係る道路であることを明確にした。
また、被上告人は、昭和四三年三月に、地元民の道路境界査定申請に基づき本件士地とその南に接する合併八の土地との境界を査定したが、その査定調書には本件土地は「市道新玉二八六の一号線」と記載されており、被上告人が昭和五四年に作成した松山市備付道路台帳にも本件土地は「市道新玉二八六の一号線」として掲載された。右道路台帳には、右路線が幅員一四・四メートル、長さ三〇・四メートルである旨の記載がある。
このようにして本件土地は、遅くとも昭和四四年七月までに、被上告人所有の道路(市道)として一般市民の通行の用に供され、付近住民からも市道として認識されてきたが、道路法所定の区域の決定及び供用の開始決定などがされたことを明確に示す資料は残っていない。
(四) 被上告人は、昭和五八年一月二五日、愛媛県からの指示により、道路法一八条に基づき、本件土地及びこれに接続して西方に延びる幅員一・九メートル、長さ一八メートルの部分を合わせて「市道新玉二八六―一号線」として、区域決定及び供用開始決定をするとともにその旨の公示をした。その後昭和六二年三月に告示された市道編制により、市道新玉二八六の一号線は「新玉四七号線」と路線の名称が変更された。
2 愛媛産興株式会社による本件土地の取得の経緯
(一) A家に出入りし同家の財産管理に関与していたDは、昭和五七年の夏、A夫妻から、本件土地を一例として、登記簿上Aの所有となっているため固定資産税が課されているが所在の分からない土地があるので、これを処分して五〇〇万円を得たい旨の相談を受けた。このため、Dは、知人のEにこの話を伝え、協力を求めた。Dは、自分の調べた限りでは本件土地は旧国鉄松山駅前付近にあると思ったが、必ずしも明らかでなかったので、その旨をEに説明した。
(二) Eは、愛媛産興株式会社、有限会社清和不動産及び愛媛ビジネスセンター有限会社のオーナーとしてこれらの会社を実質的に経営する者であるが、Dからの話を聞き、土地登記簿謄本、野取図等に基づいて本件土地の所在場所を確認し、現地を見た上で本件土地を購入することにし、昭和五七年一〇月二五日、愛媛産興を代理して、Aを代理するDとの間で、代金を五〇〇万円とする売買契約を締結し、同月二七日、愛媛産興名義で所有権移転登記を経由した。なお、その際、売買契約を締結しても確実に所有権を移転できる確信がもてなかったDは、Eから万一本件土地が実在しない場合にもAに代金の返還を請求しない旨の念書をとった。昭和五七年当時、道路でないとした場合の本件土地の価格はおよそ六〇〇〇万円であった(なお、記録によれば、後述の愛媛ビジネスセンターと上告人の売買契約では代金は一億五〇〇〇万円とされている)。
(三) 愛媛産興は、昭和五八年一月、本件土地に関し市道の廃止を求めるため付近住民から同意書を徴するなどしたが、本件土地については、同年二月二五日付けで清和不動産に、次いで昭和五九年七月一〇日付けで愛媛ビジネスセンターに、それぞれ所有権移転登記が経由された。
3 上告人は、昭和六〇年八月一四日、愛媛ビジネスセンターから本件土地を買い受けてその旨の所有権移転登記を経由し、同月二八日、本件土地が市道ではない旨を主張して、本件土地上にプレハブ建物二棟及びバリケードを設置した。
二 被上告人は、本件土地について所有権及び道路管理権を有すると主張して、上告人に対し、所有権に基づき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を、道路管理権に基づき本件土地が松山市道新玉四七号線(旧同二八六―一号線)の敷地であることの確認を、所有権又は道路管理権に基づき本件土地上に設置されたプレハブ建物及びバリケード等の撤去を求め、これに対し上告人は、本件土地が上告人の所有であることを前提として被上告人に対し、被上告人が、本件土地上のプレハブ建物及びバリケード等を撤去して本件土地を執行官に保管させた上、市道としての使用に供することができる旨の仮処分決定を得てその執行をしたことは、上告人に対する不法行為に当たると主張して、損害賠償を求めている。
三 被上告人の所有権移転登記手続請求について
1 原審は、(一)昭和五七年一〇月に本件土地を取得した愛媛産興は、本件土地の二重譲受人になるが、愛媛産興を代理したEは、本件土地が既に被上告人に売り渡され、事実上市道となり、長年一般市民の通行の用に供されていたことを知りながら、被上告人に所有権移転登記が経由されていないことを奇貨としてこれを買い受け、道路を廃止して自己の利益を計ろうとしたものであるから、愛媛産興は背信的悪意者ということができ、被上告人は、登記なくして本件土地の取得を愛媛産興に対抗し得る、(二)清和不動産及び愛媛ビジネスセンターはいずれもEが実質上の経営者であり、上告人は、愛媛ビジネスセンターから本件土地を買い受けたが、愛媛産興が背信的悪意者であって所有権取得をもって被上告人に対抗できない以上、清和不動産及び愛媛ビジネスセンターを経て買い受けた上告人も本件土地の所有権に関し被上告人に対抗し得ない、と判断して、所有権に基づく真正な登記名義の回復を原因とする被上告人の所有権移転登記手続請求を認容すべきものとした。
2 しかし、原審の右(一)の判断は正当であるが、(二)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
原審の確定した前記事実関係によれば、本件土地は、遅くとも昭和四四年七月までに、土地の北側と南側に側溝が入れられ、ほぼ中央部に市章入りマンホールが二箇所設置されるとともに、全体がアスファルトで舗装された道路として整備され、一般市民の通行に供されてきており、近隣の住民からも市道として認識されてきたところ、愛媛産興の代理人Eは、現地を確認した上、昭和五七年当時、道路でなければおよそ六〇〇〇万円の価格であった本件土地を、万一土地が実在しない場合にも代金の返還は請求しない旨の念書まで差し入れて、五〇〇万円で購入したというのであるから、愛媛産興は、本件土地が市道敷地として一般市民の通行の用に供されていることを知りながら、被上告人が本件土地の所有権移転登記を経由していないことを奇貨として、不当な利得を得る目的で本件土地を取得しようとしたものということができ、被上告人の登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者に当たるものというべきである。したがって、被上告人は、愛媛産興に対する関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対抗できる関係にあったといえる。この点に関する論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
3 ところで、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。けだし、(一)丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのであって、また、(二)背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法一七七条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。
4 これを本件についてみると、上告人は背信的悪意者である愛媛産興から、実質的にはこれと同視される清和不動産及び愛媛ビジネスセンターを経て、本件土地を取得したものであるというのであるから、上告人は背信的悪意者からの転得者であり、したがって、愛媛産興が背信的悪意者であるにせよ、本件において上告人目身が背信的悪意者に当たるか否かを改めて判断することなしには、本件土地の所有権取得をもって被上告人に対抗し得ないものとすることはできないというべきである。以上と異なる原審の判断には、民法一七七条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中本件土地の所有権移転登記手続請求に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるために右部分を原審に差し戻すのが相当である。
四 被上告人のその余の請求及び上告人の請求について
1 原審は、被上告人は、本件土地につき道路法一八条に基づく区域決定及び供用開始決定をしその旨の公示をしたのであるから、本件土地につき道路管理権を有する、との理由で、被上告人の道路管理権に基づく道路敷地確認請求及びプレハブ建物等の撤去請求はいずれも認容すべきものと判断した。所論は、愛媛産興が背信的悪意者であるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、被上告人が愛媛産興所有の本件土地につき供用開始の決定及び公示をしても、その決定及び公示は無効であるというものである。
2 しかしながら、愛媛産興が背信的悪意者であるため、被上告人は愛媛産興に対する関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対抗できる関係にあったことは、前述のとおりであるから、既に一般市民の通行の用に供されてきた本件土地につき、被上告人が昭和五八年一月二五日にした道路法一八条に基づく区域決定、供用開始決定及びこれらの公示は、本件土地につき権原を取得しないでしたものということはできず、右の供用開始決定等を無効ということはできない。したがって、本件土地は市道として適法に供用の開始がされたものということができ、仮にその後上告人が本件土地を取得し、被上告人が登記を欠くため上告人に所有権取得を対抗できなくなったとしても、上告人は道路敷地として道路法所定の制限が加えられたものを取得したにすぎないものというべきであるから(最高裁昭和四一年(オ)第二一一号同四四年一二月四日第一小法廷判決・民集二三巻一二号二四〇七頁参照)、被上告人は、道路管理費としての本件土地の管理権に基づき本件土地が市道の敷地であることの確認を求めるとともに、本件土地上に上告人が設置したプレハブ建物及びバリケード等の撤去を求めることができるものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。また、以上によれば、道路管理権を有する被上告人が仮処分の決定を得てプレハブ建物等を撤去し、本件土地を市道として通行の用に供していることは、上告人が本件土地の所有権を取得しているか否かにかかわらず、不法行為を構成しないことが明らかであるから、上告人の損害賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。
よって、原判決中所有権移転登記手続請求に関する部分を破棄して右部分を原審に差し戻すこととするが、その余の上告は棄却することとし、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
++解説
《解 説》
一 事案の概要
1 X(松山市)は、昭和三〇年三月、旧国鉄松山駅前整備事業の一環として、貨物の搬出、搬入用の道路を造るため、Aから本件土地を買い受け、同年度の失業対策事業で盛土をし、昭和四二年には、敷地全体をアスファルトで舗装し、現況に近い形態の道路として整備し、遅くとも昭和四四年七月までに、X所有の道路として一般市民の通行の用に供し、付近住民からも市道として認識されてきたが、登記は未了のままであった。他方、B社、C社、D社のオーナーであるEは、Aが登記簿上はAの所有になっているが所在の分からない土地を処分しようとしているのを知り、現地等を調査して本件土地の所在場所を確認した上、これをB社で買うことにし、昭和五七年一〇月二五日、本件土地をAから買い受け、B社の名義で登記をした。その後、本件土地は、C社、D社に所有権移転登記が経由された後、昭和六〇年八月一四日、Y社がこれを買い受けて所有権移転登記を経由し、Y社は、本件土地が道路ではないと主張して、本件土地上にプレハブ建物二棟及びバリケードを設置した。このため、Xは、仮処分命令を得て、右プレハブ建物等を撤去した上、Yに対して、所有権、道路管理権に基づいて工作物の撤去、道路敷地であることの確認、真正名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し、これに対してYもXの右仮処分の執行は土地の所有者であるYに対する不法行為であるとしてXに対して損害賠償を求める訴訟を提起した。
2 一審判決は、本件土地は、昭和四四年ころには道路法所定の手続を経て適法に供用が開始されていたから、Xは、B社はもとよりY社に対しても道路管理権をもって対抗できるとして、Xのプレハブ建物等の撤去、道路敷地の確認請求を認容し、YのXに対する損害賠償請求を棄却したが、Y社が背信的悪意者とは認められないとしてXの所有権に基づく所有権移転登記手続請求は棄却した。これに対して、二審判決は、Aから本件土地を取得したB社は背信的悪意者であると認定判断し、そうである以上、C社、D社を経て買い受けたY社も土地所有権取得をもってXに対抗できないとして、Xの所有権移転登記手続請求も認容すべきものとした(その余のXの請求も認容、Yの請求は棄却)。
Yが上告。上告理由は全般にわたるが、主な論旨は、仮にB社が背信的悪意者だとしても転得者の善意悪意を判断しないで、所有権取得をもって対抗できないとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるというものである。
3 本判決は、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる旨判示し、本件では、背信的悪意者であるB社からの転得者であるY自身が背信的悪意者に当たるか否かを判断しないで、直ちにYはXに対抗できないとした原判決には民法一七七条の解釈適用を誤った違法があるとして、Xの所有権移転登記手続請求部分を破棄し、原審に差し戻した。
二1 道路法所定の手続を経て適法に供用が開始されると、当該土地には道路法所定の制限が加えられ、その後に道路管理者が対抗要件を欠くため右道路敷地の使用権原をもって第三者に対抗し得なくなっても、道路の廃止がされない限り、敷地所有権に加えられた制限は消滅しない(最一小判昭44・12・4民集二三巻一二号二四〇七頁、本誌二四三号一九〇頁)。したがって、第三者が現われる前に適法に道路として供用が開始されていれば、当該第三者も道路としての制限を受けた土地を取得するにすぎず、所有権を主張して当該土地を占拠するがごとき行為は許されないことになる。
しかしながら、所有権自体の優劣は対抗要件取得の先後によるから、背信的悪意者のような民法一七七条の「第三者」から排除される者以外の第三者に対しては、道路管理者といえども、対抗要件を具備しない限り、所有権に基づく請求はできないことになる。本件では、市道として供用が開始された土地について第三者が現われ、その者が背信的悪意者か否かが争われたのである。
2 背信的悪意者排除説については論稿が数多くあり、ここで詳しく紹介することは省略するが、これは、民法一七七条の「第三者」について、通説的見解である善意悪意不問説を修正する理論として登場し、一般的には悪意者は第三者から排除されないが、背信的といえる悪意者は例外的に第三者から排除するという見解であり、今や通説及び確立した判例理論となっている(最三小判昭40・12・21民集一九巻九号二二二一頁、本誌一八八号一〇六頁、最二小判昭43・8・2民集二二巻八号一五七一頁、本誌二二六号七五頁など多数)。
この背信的悪意者排除説は、理論的基礎として、権利濫用、信義則違反、公序良俗違反などを含むものであるが、あくまで登記の対抗力の問題として紛争を解決しようとする理論である。すなわち、甲から乙への第一の売買の後、その登記未了の間に、甲から丙への第二の売買がされ、丙が背信的悪意者だとしても、第二の売買自体が無効というわけではなく、丙が乙との関係で、乙の登記欠缺を主張できないとするにとどまる。したがって、甲から丙への売買が無効でない以上、丙からの転得者が保護されるか否かが問題となる。
3 丙が背信的悪意者であって乙に対抗できない以上、丙からの転得者はその権利を取得する法理上の論拠はないとする少数説(金山正信・判評一二三号三二頁、本城武雄・民商六一巻三号一〇八頁)もないではないが、その理論構成や論拠は異なるものの、善意の転得者を保護しようとするのがほぼ学説の一致した結論といってよい。この転得者を保護しようとする学説は、(一) 民法四二四条の詐害行為取消権の場合と同様に考え、乙は背信的悪意者丙に対する関係においてだけ相対的に登記なくして物権変動を対抗することができ、丁が善意又は単純悪意者である限り、たとえその前主が背信的悪意者であってもこれに対抗し得ないとする見解(舟橋諄一・物権法一八五頁、深谷松男「背信的悪意者と対抗力」不動産登記講座Ⅰ二〇一頁など)、(二) 背信的悪意者丙も完全な無権利者ではなく、その物権取得も一応有効であるが、ただ乙に対する関係では信義則違反があるため、登記の欠缺を主張することが許されないというだけのいわば相対的無効であるにすぎないから、丙からの転得者丁は、丙から物権を取得することができ、丁自身が乙に対する関係で背信的悪意者と評価されない限り、乙の登記欠缺を主張することができるとする見解(川井健「不動産の二重売買における公序良俗と信義則」本誌一二七号二一頁、杉之原舜一・不動産登記法九八頁、広中俊雄「対抗要件と悪意の第三者」民法の基礎知識五八頁、北川弘治「背信的悪意者」演習民法(総則物権)三九一頁など)、(三) 背信的悪意者丙も物権法上は対抗要件を具備する限り完全な所有権を取得し、乙はその反射的効果として無権利者となるが、丙は乙から信義則違反を理由に所有権移転、登記移転を請求されたときにはこれに応ずる義務・債務を負い、乙は丙に対して相対的・人的な債権的請求権を有するにすぎないから、転得者丁は完全な物権を取得するとする見解(好美清光「不動産の二重処分における信義則違反等の効果」手研六巻六号一一頁)、(四) 対抗問題について否認権説の立場に立って、背信的悪意者丙は乙に登記がないことを理由に乙への物権変動を否認できないが、丁は、甲乙間の物権変動を否認することができ、これによっていったん乙に移転した権利は甲に戻り、丙を経由して丁に移転し、その登記によって丁は完全な権利者となるとする見解(柚木馨=高木多喜男・判例物権法(補訂版)二四九頁)、(五) 対抗問題について公信力説の立場に立ち、甲から乙への売買があった以上、甲は無権利者であるから第二の譲受人である丙は本来権利を取得することはできないはずであるが、丙が登記を取得すればその公信力によって権利を取得することができるところ、丙が悪意なら公信力によって丙は保護されない反面、善意の転得者丁は、丙が悪意であっても登記の公信力によって物権を取得できるとする見解(篠塚昭次「不動産登記と公信力」民研二〇〇号六頁、半田正夫「一七七条における背信的悪意者」別冊ジュリ法教(第二期)三九頁)などに分かれている。右のうち、(二)の見解が現在の通説的見解と思われる。
4 二重譲受人からの転得者の問題は、背信的悪意者排除説が登場した当初の段階から様々に論じられてきたが、実際の裁判例で転得者の問題が論じられた例は意外に少なく、大阪高判昭49・7・10本誌三一六号一九九頁、判時七六六号六六頁、広島高松江支判昭49・12・18本誌三二七号二一〇頁、判時七八八号五八頁、東京高判昭57・8・31判時一〇五五号四七頁などがある程度である。しかも、いずれの事例も転得者自身が背信的悪意者と認定されており、善意の転得者であるがゆえに保護されたという裁判例は見当たらない。
5 甲から背信的な悪意者である丙の譲受けを無効としないで、対抗問題として解決しようとする背信的悪意者排除説は、もともと背信的悪意者からの善意の転得者が生じた場合にはこれを保護する必要があるという前提があったといってよい。そうでなければ、背信的な悪意者による第二の売買を公序良俗違反で無効とする解決方法でもよかったであろう(最一小判昭36・4・27民集一五巻四号九〇一頁はこの方法を採った。)。しかしこれでは、一度背信的悪意者が現われるとそれ以降の転得者の権利取得はすべて無効になってしまい、取引の安全を害すること著しい。権利を取得しながら登記を放置している第一譲受人と善意の第三者との保護を比較した場合、取引の安全を優先させるのはやむを得ないところといえよう。そうであれば、対抗問題として解決しようとする背信的悪意者排除説を採りながら、転得者の善意悪意を問題にすることなく、B社が背信的悪意者であるとの理由のみでY社も所有権取得をもってXに対抗できないとした原審の考えは採り得ないことになる。
三 本判決は、背信的悪意者Bからの転得者Y自身が第一譲受人であるXに対する関係で背信的悪意者といえるかどうかが問題とされなければならないとしたもので、最高裁として初めての判断であるが、この結論は、学説上も異論のないところと思われる。