民法 基本事例で考える民法演習 詐欺と相続~無権代理と相続と比較して


・+(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

・要件
①欺罔行為の存在
②欺罔者にだます意図と意思表示させる意図があること(二重の故意)
③欺罔行為によって当該意思表示がされたこと(因果関係)

・+判例(S40.6.18)
理由
上告代理人諏訪徳寿の上告理由について。
原審の確定するところによれば、亡Aは上告人に対し何らの代理権を付与したことなく代理権を与えた旨を他に表示したこともないのに、上告人はAの代理人として訴外Bに対しA所有の本件土地を担保に他から金融を受けることを依頼し、Aの印鑑を無断で使用して本件土地の売渡証書にAの記名押印をなし、Aに無断で同人名義の委任状を作成し同人の印鑑証明書の交付をうけこれらの書類を一括してBに交付し、Bは右書類を使用して昭和三三年八月八日本件土地を被上告人Cに代金二四万五千円で売渡し、同月一一日右売買を原因とする所有権移転登記がなされたところ、Aは同三五年三月一九日死亡し上告人においてその余の共同相続人全員の相続放棄の結果単独でAを相続したというのであり、原審の前記認定は挙示の証拠により是認できる。
ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり(大判・大正一五年(オ)一〇七三号昭和二年三月二二日判決、民集六巻一〇六頁参照)、この理は、無権代理人が本人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当すると解すべきである。したがつて、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、前記認定の事実によれば、上告人はBに対する前記の金融依頼が亡Aの授権に基づかないことを主張することは許されず、Bは右の範囲内においてAを代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判示の事実関係のもとにおいては、Bが右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を被上告人Cに売り渡すに際し、同被上告人においてBに右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断し、結局、上告人が同被上告人に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。所論は、ひつきよう、原審の前記認定を非難し、右認定にそわない事実を前提とする主張であり、原判決に所論の違法は存しないから、所論は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

+判例(H10.7.17)
理由
上告人Bの代理人八代紀彦、同佐伯照道、同西垣立也、上告人C及びDの代理人新原一世、同田口公丈、同浜口卯一の上告理由二について
一 原審の適法に確定した事実等の概要は、次のとおりである。
1 Eは、第一審判決別紙物件目録記載の各物件(以下「本件各物件」という。なお、右各物件は、同目録記載の番号に従い「物件(一)」のようにいう。)を所有していたが、遅くとも昭和五八年一一月には、脳循環障害のために意思能力を喪失した状態に陥った
2 昭和六〇年一月二一日から同六一年四月一九日までの間に、被上告人兵庫県信用保証協会は物件(一)ないし(三)について第一審判決別紙登記目録記載の(一)の各登記(以下「登記(一)」という。なお、同目録記載の他の登記についても、同目録記載の番号に従い右と同様にいう。)を、被上告人株式会社第一勧業銀行(以下「被上告銀行」という。)は物件(一)ないし(三)について各登記(二)を、被上告人Aは物件(一)ないし(三)について各登記(三)、物件(三)について登記(四)、物件(四)について登記(五)を、被上告人株式会社コミティ(以下「被上告会社」という。)は物件(一)について登記(六)、物件(二)について登記(七)、物件(三)について登記(八)及び登記(九)をそれぞれ経由した。しかし、右各登記は、同六〇年一月一日から同六一年四月一九日までの間に、Eの長男であるFがEの意思に基づくことなくその代理人として被上告人らとの間で締結した根抵当権設定契約等に基づくものであった
3 Fは、昭和六一年四月一九日、Eの意思に基づくことなくその代理人として、被上告会社との間で、Eが有限会社あざみの被上告会社に対する商品売買取引等に関する債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
4 Fは、昭和六一年九月一日、死亡し、その相続人である妻のG及び子の上告人らは、限定承認をした。
5 Eは、昭和六二年五月二一日、神戸家庭裁判所において禁治産者とする審判を受け、右審判は、同年六月九日、確定した。そして、Eは、同人の後見人に就職したGが法定代理人となって、同年七月七日、被上告人らに対する本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起したが、右事件について第一審において審理中の同六三年一〇月四日、Eが死亡し、上告人らが代襲相続により、本件各物件を取得するとともに、訴訟を承継した。

二 本件訴訟において、上告人らは、被上告人らに対し、本件各物件の所有権に基づき、本件各登記の抹消登記手続を求め、被上告会社は、反訴として、上告人らに対し、Eの相続人として前記連帯保証債務を履行するよう求めている。被上告人らは、本件各登記の原因となる根抵当権設定契約等がFの無権代理行為によるものであるとしても、上告人らは、Fを相続した後に本人であるEを相続したので、本人自ら法律行為をしたと同様の地位ないし効力を生じ、Fの無権代理行為についてEがした追認拒絶の効果を主張すること又はFの無権代理行為による根抵当権設定契約等の無効を主張することは信義則上許されないなどと主張するとともに、被上告銀行及び被上告会社は、Fの右行為について表見代理の成立をも主張する。これに対し、上告人らは、Eが本訴を提起してFの無権代理行為について追認拒絶をしたから、Fの無権代理行為がEに及ばないことが確定しており、また、上告人らはFの相続について限定承認をしたから、その後にEを相続したとしても、本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果は生じないし、前記根抵当権設定契約等が上告人らに対し効力を生じないと主張することは何ら信義則に反するものではないなどと主張する。

三 原審は、前記事実関係の下において、次の理由により、上告人らの請求を棄却し被上告会社の反訴請求を認容すべきものとした。
1 Eは被上告銀行及び被上告会社が主張する表見代理の成立時点以前に意思能力を喪失していたから、右被上告人らの表見代理の主張は前提を欠く。
2 上告人らは、無権代理人であるFを相続した後、本人であるEを相続したから、本人と代理人の資格が同一人に帰したことにより、信義則上本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人であるEの資格において本件無権代理行為について追認を拒絶する余地はなく、本件無権代理行為は当然に有効になるものであるから、本人が訴訟上の攻撃防御方法の中で追認拒絶の意思を表明していると認められる場合であっても、その訴訟係属中に本人と代理人の資格が同一人に帰するに至った場合、無権代理行為は当然に有効になるものと解すべきである。

四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。けだし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義則に反するものであるということはできない
これを本件について見ると、Eは、被上告人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起したから、Fの無権代理行為について追認を拒絶したものというべく、これにより、Fがした無権代理行為はEに対し効力を生じないことに確定したといわなければならない。そうすると、その後に上告人らがEを相続したからといって、既にEがした追認拒絶の効果に影響はなく、Fによる本件無権代理行為が当然に有効になるものではない。そして、前記事実関係の下においては、その他に上告人らが右追認拒絶の効果を主張することが信義則に反すると解すべき事情があることはうかがわれない。
したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れない。そして、前記追認拒絶によってFの無権代理行為が本人であるEに対し効力を生じないことが確定した以上、上告人らがF及びEを相続したことによって本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じたとする被上告人らの主張は採用することができない。また、前記事実関係の下においては、被上告銀行及び被上告会社の表見代理の主張も採用することができない。上告人らの請求は理由があり、被上告会社の反訴請求は理由がないから、第一審判決を取り消し、上告人らの請求を認容し、被上告会社の反訴請求を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

++解説
《解  説》
本件は、本人に無断で不動産に抵当権設定登記等が設定されたとして、本人がこの抵当権設定登記等の抹消登記手続を求めるなどの訴訟であり、本人と無権代理人の死亡によって両者を相続した場合の法律関係が問題になった。
事実関係は、次のとおりである。Aは、本件不動産を所有していたが、当時、脳循環障害のために意思能力を喪失した状態であった。Aの子であるBは、Aに無断で本件不動産にYらのために抵当権設定登記等をした。その後、Bが死亡し、その相続人である妻Cと子Xらは、Bの相続について限定承認をした。Aが禁治産宣告を受け、その後見人になったCは、本件訴訟を提起した。そして、一審係属中にAが死亡したため、孫であるXらが代襲相続するとともに本件の訴訟承継をした。
本件の争点は、第一に、Aの相続人であり、無権代理人Bの相続人であるXらは、Bの無権代理行為について追認拒絶をすることができるか、第二に、Aが本件訴訟の提起により追認拒絶をしたことになるとした場合、Xらは、Aのした追認拒絶の効果を主張することができるかである。
一審、原審とも、Xらが無権代理人を相続した後、本人を相続したから、本人と代理人の資格が同一人に帰したことにより、信義則上本人自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人の資格で追認を拒絶する余地はなく、また、無権代理行為は当然に有効になったとして、Xの請求を棄却した。
これに対し、Xらは、原審の判断には、前記第一、第二の争点に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとして、上告した。
本判決は、第二の争点(Aが追認拒絶した後にA、Bの相続人であるXらが追認拒絶の効果を主張することができるか)について、本人であるAが追認を拒絶した以上、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないとして、原判決を破棄してXらの請求を認容する判決を言い渡した。
従来、本人が無権代理人を相続した場合や無権代理人が本人を相続した場合等、本人が無権代理行為の追認拒絶をする前に相続が生じた場合に、相続人は無権代理行為の追認拒絶ができるかについては、多いに論じられ、多数の判例がある(本人が無権代理人を相続した場合につき、最二小判昭37・4・20民集一六巻四号九五五頁、無権代理人が本人を相続した場合につき、最二小判昭40・6・18民集一九巻四号九八六頁、無権代理人を相続した者が更に本人を相続した場合につき、最三小判昭63・3・1本誌六九七号一九五頁、判時一三一二号九二頁等)。これに対し、本人が無権代理行為を追認拒絶した後に相続が開始された場合の法律関係については、あまり論じられてこなかったところであり、奥田昌道・法学論叢一三四巻五~六号二〇頁の相続人は追認拒絶の効果を当然に主張することができるとする見解と、安永正昭・曹時四二巻四号七九二頁のこれを否定する見解がある程度であった。本判決は、本人が無権代理行為を追認拒絶することにより、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定するから、本人を相続した無権代理人も追認拒絶の効果を主張することができるとしたものである。なお、本判決は、追認拒絶の効果に関する原則を述べたものであり、信義則の適用を排除する趣旨ではないものと思われる。すなわち、相続人が本人の追認拒絶の効果を主張することが信義則に反するような特段の事情がある場合には、例外として、右相続人は追認拒絶の効果を主張することはできないことになるであろう。本件において、一方でBの相続について限定承認をし、他方でAの相続について単純承認をすることにより、Xらは、何の負担もない不動産を取得することになるが、これが信義則に反しないか一応問題になる。しかし、本判決は、相続において単純承認するか限定承認するかは、法律の規定に基づくものであることから、右のような事情だけでは信義則に反することにはならないとしたのである(Yらは、右以外に信義則に反するような具体的事実を主張しなかった。なお、最三小判平6・9・13民集四八巻六号一二六三頁、本誌八六七号一五九頁(禁治産者の後見人がその就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かの判断についての考慮すべき要素)、最一小判平7・11・9本誌九〇一号一三一頁、判時一五五七号七四頁(禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起等の効力を再審の訴えにおいて否定することの可否)参照)。仮にYらが右の具体的事情を主張していた場合には、最高裁としては、自判することはできず、原審に差し戻すことになった可能性もあると思われる。
また、本判決は、第二の争点で本件の決着をつけたため、第一の争点(無権代理人を限定承認相続した後、本人を相続した者は、無権代理行為の追認拒絶ができるか)について、何ら判断しておらず、これは残された問題である。
以上のとおり、本判決は、本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力について最高裁として初めて判断したものであるので、ここに紹介する。

+判例(S37.4.20)
理由
上告代理人長尾章の上告理由は、本判決末尾添付の別紙記載のとおりである。
右上告理由第一点ないし第三点について。
原判決は、無権代理人が本人を相続した場合であると本人が無権代理人を相続した場合であるとを問わず、いやしくも無権代理人たる資格と本人たる資格とが同一人に帰属した以上、無権代理人として民法一一七条に基いて負うべき義務も本人として有する追認拒絶権も共に消滅し、無権代理行為の瑕疵は追完されるのであつて、以後右無権代理行為は有効となると解するのが相当である旨判示する。
しかし、無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するのが相当であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論ずることはできない後者の場合においては、相続人たる本人那被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
然るに、原審が、本人たる上告人において無権代理人亡Aの家督を相続した以上、原判示無権代理行為はこのときから当然有効となり、本件不動産所有権は被上告人に移転したと速断し、これに基いて本訴および反訴につき上告人敗訴の判断を下したのは、法令の解釈を誤つた結果審理不尽理由不備の違法におちいつたものであつて、論旨は結局理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

・+(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

要件
①目的物が動産であること
②前主に処分権限はないが、目的物を占有していること
③前主と取得者との間に有効な取引行為が存在すること
④取得者が平穏にかつ公然と目的物の占有を始めた事
⑤取得者が善意かつ無過失

・取消し事例での192条の類推適用
この場合⑤の善意無過失の対象に注意

・+(加工)
第二百四十六条  他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2  前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。

+(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二百四十八条  第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。