民法817条の7 子の利益のための特別の必要性
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(子の利益のための特別の必要性)
第八百十七条の七 特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。
・「父母による養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは
=貧困その他客観的な事情によって子の適切な監護ができない場合をいう。
・「不適当である」とは
=父母による虐待や著しく偏った養育をしている場合をさす。
・「その他特別の事情がある場合」とは
=これらに準じる事情のある場合をいう。
+判例(東京高決14.12.16)
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 抗告人(昭和39年6月29日生)は、青木晋平(養子となる者の父、昭和32年10月27日生、晋平)と平成2年12月26日に婚姻し、平成12年1月1日事件本人青木悠を出産した。なお、抗告人と晋平との間には、長女麻友実(平成3年11月7日生)、二女葉澄(平成10年5月12日生)がいる。
抗告人は、現在長女及び二女を監護養育している。
(2) 晋平は、事件本人が抗告人と第三者との間の子であるとして、事件本人を特別養子に出すことに積極的であった。他方、抗告人は、当初から事件本人を特別養子に出すことには消極的であったが、実父母の説得もあって渋々これを承諾した。
(3) こうして事件本人は、平成12年1月24日、里親会の仲介で、相手方夫婦のもとに預けられた。
事件本人は、キリスト教の牧師・教会教師である相手方ら(夫婦)とその子及び相手方夫婦のそれぞれの母とともに生活しており、今日まで順調に監護養育されており、相手方夫婦に健康面及び生活面で特に問題は見られない。
(4) 抗告人と晋平は、事件本人が出生した当時から、事実上の別居状態にあり、晋平は、会社員として福岡県に単身赴任をしていた。他方、抗告人は、熊本市内の晋平の持家に長女及び二女と同居し、音楽教師等として稼働していたが、晋平が帰宅した際には、一人で実家に帰るという生活をしていた。
(5) 抗告人は、平成13年9月27日、家庭裁判所調査官に対し、本件特別養子縁組に同意しない旨伝えるとともに、同意撤回書を作成・送付し、同書面は同年12月3日受理された。
原審判は、本件について基礎的な事実を認定し、事件本人の父、事件本人の父母による監護の可否、未成年者の母(抗告人)による監護の適否等について検討した上、本件特別養子縁組について抗告人の同意はないものの、抗告人が、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることは、いたずらに事件本人の生活を不安定にし、事件本人の健全な成長に多大な悪影響を及ぼすものといえるから、本件については民法817条の6但書の事由があり、さらに、同法817条の7等の要件も満たしているとして、相手方らの本件申立てを認容したものである。
2 しかしながら、当裁判所は、原審判は取消しを免れないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1) 特別養子縁組の成立には、原則として養子となる者の父母の同意を要することとした趣旨は、特別養子縁組が成立すれば、特別養子となった子とその父母との法的親子関係は終了し(民法817条の9)、養親がその子の唯一の父母となり、子及びその父母の法律上及び事実上の地位に重大な変更が生ずることから、子及びその父母の利益を保護することにあると解される。したがって、民法817条の6の但書にいう「その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは、父母に虐待、悪意の遺棄に比肩するような事情がある場合、すなわち、父母の存在自体が子の利益を著しく害する場合をいうものと解すべきであり、原審が説示するところの、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることをもって直ちに、上記但書の事由に当たるものと結論付けることはできないというべきである。そうすると、原審において、上記事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるといわざるを得ない。
(2) また、民法817条の7は、「特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。」と規定しているところ、ここにいう「父母による養子となる者の監護が著しく困難」である場合とは、貧困その他客観的な事情によって子の適切な監護ができない場合をいい、また「不適当である場合」とは、父母による虐待や著しく偏った養育をしている場合を指し、「その他特別の事情がある場合」とは、これらに準じる事情のある場合をいうものと解すべきである。したがって、原審が説示するところの、安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないまま、将来の事件本人の引取りを求めることが、上記必要性の要件を満たしているということはできない。かえって、一件記録によれば、抗告人は、現在長女及び二女を監護養育しており、今後実家に転居した上で、実父母等の援助を受けることができる可能性も否定し得ないこと、抗告人は、原審判後の平成14年10月11日、熊本家庭裁判所に晋平と事件本人の親子関係不存在確認の調停を申し立てており(平成14年(家イ)×××号事件)、時間の経過はあるにしても、現在法的手続を進めていること、今後の同調停事件等の推移いかんによっては、本件にも重大な影響が生ずるおそれがあること、抗告人は、原審において一貫して事件本人を監護養育する意思があることを表明していることが認められるのであって、これらの事実によれば、本件において上記必要性の要件が満たされていると判断するには躊躇せざるを得ない。したがって、この点につき更に審理を尽くす必要がある。
(3) 以上のとおりであるから、原審の審理は、不十分であるというほかない。
なお、付言するに、差戻し後の原審における審理の結果、仮に本件特別養子縁組が認められないと判断される場合において、事件本人が相手方らのもとで3年近く監護され、既に心理的な親子関係が成立している事実があることから、事件本人の監護環境を急激に変化させることが福祉上好ましくないことは明らかであり、事件本人の監護養育を抗告人に移行するに当たっては、関係者全員が一致協力し、事件本人の福祉が損なわれることのないよう適切な方策が講じられなければならない。
3 よって、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消した上、前記の諸点について更に審理を尽くさせるため、本件を長野家庭裁判所松本支部に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大藤敏 裁判官 高野芳久 三木素子)
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