7-3 事案の解明 裁判上の自白

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1.自白の意義
・自白
=相手方の主張を争わない旨の当事者の陳述(行為としての自白)または、その結果として生じた当事者間に争いのない状態(状態としての自白)

・裁判外の自白は、裁判手続きの外における過去の出来事であるから、他の事実一般と異なるところはない。
=事実認定の対象として自由心証に基づいて審理される。

・裁判上の自白
=訴訟の口頭弁論または弁論準備手続の期日における弁論としての陳述

・裁判上の自白の効果
①証明不要効
自白された事実は証拠による証明を要しない

②審理排除効
裁判所は自白された事実に関して審理を行ってはならない

③判断拘束効
裁判所は自白された事実を必ず判断の基礎にしなければならない。

④撤回制限効
当事者は自白の撤回ができなくなる

2.自白の成立要件
①口頭弁論または弁論準備手続における弁論としての陳述(弁論としての陳述)
②事実としての陳述(事実の陳述)
③相手方の主張と一致(主張の一致)
④自己に不利益な陳述(不利益性)

(1)弁論としての陳述
・口頭弁論または弁論準備手続期日における事実上の主張としての陳述でなければならない
→裁判外で相手方の主張を認めても自白にはならない
当事者尋問の中での陳述は証拠資料になるだけであり、自白にはならない

・弁論準備手続きにおける陳述でも自白は成立する。
←179条は自白は裁判所における行為であることを規定するのみであり、口頭弁論に限定していない。
弁論準備手続において自白の成立を認めないとすると、争点整理の過程で争点縮小機能が働かないことになって不都合

・争点整理作業が完了するまでは、自白の撤回は、争点整理後よりも柔軟に認められるものと解すべき。
←争点整理の段階では、当事者は相手方の主張への戦略的な対応として自白をすることもあるが、争点整理の進展により状況が変化した場合には、それに応じて自白を撤回する必要が生じる。かかる場合、当事者の合理的意思解釈として、当初の自白は、相手方の主張の変化を黙示の解除条件とするものと考えることができる。

・擬制自白についても、弁論準備手続においても認められる。
+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

+(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

ただし、擬制自白には撤回すべき陳述がないので撤回制限効は観念できず、審理排除効は、審理の最初または途中に自白が成立した場合に、以後の審理を排除する効果なので、審理終了時に生じる擬制自白とは相いれないものであり、判断拘束効は口頭弁論終結時に発生するので、弁論準備手続の終結時点で効果の発生が観念し得るのは証明不要効のみ。

(2)事実の陳述
ⅰ)間接事実の自白
・判例は自白の効果が生じるのは主要事実のみであり、間接事実の自白には裁判所拘束力はなく、当事者拘束力もないとする。

+判例(S31.5.25)
理由
 上告代理人根本松男、同松本乃武雄の上告理由第一点乃至第三点について。
 被上告代理人が、第一審口頭弁論において上告代理人主張にかかる「被上告人が上告人の父A(被上告人の叔父)から金一一万円を受取つた事実」を認める旨述べたことは所論のとおりである。しかしながら右の事実は、本件主要の争点たる「本件土地をBから買受けた者は被上告人なりや上告人なりや」の点に関し、この事実認定の資料となり得べき、いわゆる間接事実に過ぎないであつて、かかる事実については、たとえ当事者の自白ありとしても、裁判所は必ずしも、その自白に拘束されるものではなく、当事者が後にその自白の内容を訂正した場合において、裁判所はその訂正された自白の内容を真実に合するものとして主要争点たる事実の有無の判断の資料としてもさしつかえないものと解すべきである。原審は、その判示するところから推測すれば、結局被上告代理人が後に訂正した自白の内容に従つて、たとえかかる事実ありとしても、本件不動産の買主を被上告人であると認定するにその反証とするに足らないと判断したに帰着するものであつて、何等違法はなく、論旨は、右自白にかかる事実がいわゆる「間接事実」に関するものであることを度外しての立論であつて採用することはできない。
 同第四点について。
 原判決の認定するところによれば、本件土地は被上告人の所有であり、上告人名義の所有権取得の登記は事実に吻合しないものであること明らかであるから、特段の契約関係等のみとめられない本件において、被上告人が上告人に対し右登記の抹消を請求し得るものとした原判決は正当であつて論旨は理由がない。同第五点について。
 所論は結局原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰着するものであつて適法な上告の理由とならない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

+判例(S41.9.22)
理由
 上告代理人渡辺大司の上告理由(一)について。
 上告人の父Aの被上告人らに対する三〇万円の貸金債権を相続により取得したことを請求の原因とする上告人の本訴請求に対し、被上告人らが、Aは右債権を訴外Bに譲渡した旨抗弁し、右債権譲渡の経緯について、Aは、Bよりその所有にかかる本件建物を代金七〇万円で買い受けたが、右代金決済の方法としてAが被上告人らに対して有する本件債権をBに譲渡した旨主張し、上告人が、第一審において右売買の事実を認めながら、原審において右自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるからこれを取り消すと主張し、被上告人らが、右自白の取消に異議を留めたことは記録上明らかである。
 しかし、被上告人らの前記抗弁における主要事実は「債権の譲渡」であつて、前記自白にかかる「本件建物の売買」は、右主要事実認定の資料となりうべき、いわゆる間接事実にすぎないかかる間接事実についての自白は、裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもないと解するのが相当である。しかるに、原審は、前記自白の取消は許されないものと判断し、自白によつて、AがBより本件建物を代金七〇万円で買い受けたという事実を確定し、右事実を資料として前記主要事実を認定したのであつて、原判決には、証拠資料たりえないものを事実認定の用に供した違法があり、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)

ⅱ)補助事実の自白
・判例は裁判所拘束力、当事者拘束力を否定
+判例(S52.4.15)
理由
 上告代理人桑名邦雄、同中村喜三郎の上告理由書記載の上告理由第一点及び第二点について
 論旨は、所論の各書証の成立の真正についての被上告人の自白が裁判所を拘束するとの前提に立つて、右自白の撤回を許した原審の措置を非難するが、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束するものではないと解するのが相当であるから、論旨は、右前提を欠き、判決に影響を及ぼさない点につき原判決を非難するに帰し、失当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第三点ないし第一一点及び上告状記載の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告理由第一、二点について裁判官吉田豊の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・補助事実は、証拠能力や証拠の証明力に影響を与える事実のことであるから、当事者による自治的な争点の設定の問題ではなく、基本的には証拠の評価の問題であって、主として裁判所の自由心証が支配する領域である。

・文書の成立の真正については、証拠として採用されるか否かが左右されるという点で他の補助事実とは位置づけが異なる
→主要事実の自白に匹敵するものと考える余地も。
処分証書についても同様。

ⅲ)公知の事実の自白
・当事者が意図的に公知の事実に反する自白をしている場合は、当事者の私的自治の範囲内の問題として、自白の効果を認めるべき!

(3)主張の一致
時間的順序としては、いずれの主張が先であってもよい。

(4)不利益性
いかなる陳述を不利益と考えるか
ⅰ)証明責任説
相手方が証明責任を負う事実を他方の当事者が認める場合

+判例(S54.7.31)
理由
 上告代理人小竹耕、同山根祥利の上告理由について
 原判決及び記録によると、原審は、被上告人が訴外西田とめによる本件土地の取得時効を主張するにあたり、まず同女が大正年間に訴外広瀬吉蔵から本件土地を賃借してその占有を開始した旨を主張し、後に本件土地の取得時効の成立を争う上告人が右主張を援用するに及んでこれを撤回し、上告人がその撤回に異議を述べたのに対して、占有開始原因がどのようなものであるかは取得時効の要件ではなく、したがつて占有の開始が賃貸借による旨の被上告人の主張は自白にあたらないとの見解のもとに、その撤回を認め、訴外西田とめが大正一五年六月三〇日当時本件土地に居住していたとの事実に基づいて同日を始期とする本件土地の取得時効の成立を認めたことが明らかである。
 しかしながら 占有者は所有の意思で占有するものと推定されるのであるから(民法一八六条一項)、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負うというべきであり、占有が自主占有であるかどうかは占有開始原因たる事実によつて外形的客観的に定められるものであつて、賃貸借によつて開始された占有は他主占有とみられるのであるから(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八日第一小法廷判決・裁判集民事九九号三七五頁参照)、取得時効の効果を主張する者がその取得原因となる占有が賃貸借によつて開始された旨を主張する場合において相手方が右主張を援用したときは、取得時効の原因となる占有が他主占有であることについて自白があつたものというべきである。
 してみると、本件においては、本件土地の占有が賃貸借によつて開始されたとする被上告人の供述が自由にあたることが明らかであるから、まず自白の撤回の点について右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであるかどうかを審理し、その結果、自白の撤回が許される場合には本件土地の自主占有開始の時期及び原因について、自白の撤回が許されない場合には賃貸借による占有が自主占有に変更されたことを裏付ける新権原の存否について、それぞれ審理する必要があるものというべきであるところ、これと反する見解のもとに、これらの点について何ら審理をすることなく、訴外西田とめによる本件土地の取得時効の成立を認めた原判決には、法令の解釈の誤りによる審理不備の違法があるというべきであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そして、叙上の点についてはさらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  (横井大三 江里口清雄 高辻正己 環昌一)

・自白をしたことで証明責任からの解放という有利な地位を与えたのであり、自白の撤回により一方的にその期待的地位を奪うことは許されない!

・ある事実の自白の撤回制限効は、その事実の証明責任を負う当事者には生じず、その相手方にのみ生じる。

ⅱ)敗訴可能性説
敗訴につながる可能性のある事実を他方の当事者が認める場合
自白が相手方に与える期待的地位は、証明責任からの解放のみに限られるわけではない。

ⅲ)「要件」としての意義
不利益性は、自白の成立要件ではなく撤回制限効の発生要件として考えるべきでは?

ⅳ)不利益要件不用説
争点整理手続の結果を尊重する観点からは、ひとたび両当事者の事実主張に一致があれば、いずれの当事者も、それをみだりに撤回することは許されない。

3.自白の効果
(1)証明不要効
証拠裁判主義は、事実認定の過程における公正性や客観性を担保するための手段であるところ、当事者の間で事実に関する主張が一致している場合には、民事訴訟の対象が私的な紛争である以上、あえて費用や時間を要する証拠調べを行うことによって公正性や客観性を担保する必要はない。

+(証明することを要しない事実)
第百七十九条  裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

・証明不要効については、間接事実や補助事実であれ肯定される。

(2)判断拘束効
裁判所は、自白された事実と異なる事実認定をすることは許されなくなる
←弁論主義のもとでは訴訟資料の提出は当事者の権能であり、当事者双方が一致して主張した事実を尊重すべきであるので、裁判所は自白された事実に拘束されるものと考えられるから。

(3)審判排除効
自白が成立すると、その事実に関する裁判所の以後の審理が許されなくなる

(4)撤回制限効
自白を構成する事実上の主張を当事者が事後に撤回することが制限される。

・根拠
自白機能保障説
自白は、その結果として審判排除効や判断拘束効が生じることから、相手方に審理の予定や証拠確保の不要性などに関する信頼をもたらすとともに、争点整理における効率的な審理という公益を生じさせる行為である。また、自白は、通常の訴訟行為のような一方的な行為ではなく、相手方との主張の一致をともなううえに、裁判所を交えた3者間の争点整理の中でなされる意思表示であるから、審理上の契約に準じた意味を持つともいえる。
このように、自白には通常の訴訟行為と異なる特別な効果や機能があるので、そうした効果や機能を保障するために、自由な撤回が制限される!!!

・自白撤回の要件
①相手方が自白の撤回に同意した場合
←撤回制限効の重要な目的は相手方の信頼の保護であるし、争点整理の実効性の確保も両当事者の納得と協力が不可欠であるので、相手方が同意する以上はそれに従ってよいからである。
相手方の同意は明示である必要はなく、撤回に異議を述べずに応答すれば同意があったものとして扱われる。

+判例(S34.9.17)
理由
 上告代理人人見福松の上告理由第一、二点について。
 しかし民訴三六三条二項は、訴の取下についての同法二三六条二項を準用していないから、控訴の取下をなすについては、相手方の同意を要しないものと解すべきである。また、控訴の取下を書面を以てする場合はその書面を裁判所に提出するを以て足るのであり、それが相手方に送達されることを必要とするものではない。尤も、民訴三六三条二項によつて準用される同法二三六条四項は「訴状送達ノ後ニ在リテハ取下ノ書面ハ之ヲ相手方ニ送達スルコトヲ要ス」と規定しているが、右は右送達により相手方に控訴取下の事実を知らしめこれに対処するについて遺漏なからしめんとした便宜的な趣旨に出ているものであつて、控訴取下の効力の発生要件を規定したものではないのである。
 本件において、被上告人は、第一審で敗訴した部分につき、原審に附帯控訴の申立てをしたが、その後、昭和二九年一〇月八日附帯控訴取下書を原審に提出したのであるから、これとともに、附帯控訴は相手方に対する送達をまたずして、取下となつたものといわなければならない。
 されば原判決には、所論の違法はなく、論旨はいずれも採用しがたい。
 同第三点について。
 しかし本件債務は取立債務ではなく、持参債務と認むべきものであることは、原審が証拠によつて認定したところであつて、その認定は挙示の証拠に照して是認できる。所論はひつきよう原審がその裁量権の範囲内において、適法にした証拠の取捨判断並びに事実認定を非難するに帰するから採るを得ない。されば所論信義則および経験則違反の主張もその前提を欠くものであるから、これまた採用し得ない。
 同第四点について。
 しかし所論の点に関し、原審が、判示の如き理由によつて、所論書面は上告人に対してなされた催告並びに条件付契約解除の意思表示として有効であるとした判断は正当であつて、当裁判所にも支持される。その末尾に所論の「右書面による催告を無効とすべきでない」と判示している趣旨は、ただ単に催告だけについていうのではなく、条件付契約解除の意思表示をも含めての意味であることは、判文の全趣旨によつて首肯するにかたくないから論旨はいずれも理由がない。
 同第五点について。
 しかし被上告人が第一審においてなした所論指摘の主張事実が、原審昭和三〇年三月五日の口頭弁論において、原判決事実摘示のとおり訂正されたことは記録上明らかである。そして昭和一九年五月二〇日に当初の賃貸借が成立したことは当事者間に争いがなかつたのであるから、右の訂正は、自白の撤回に当るものというべきところ、上告人はこれに対して異議を述べた形跡を認めることはできないから、右自白の撤回は有効になされたものといわなければならない
 ところで、右訂正された被上告人の主張によれば、右昭和一九年五月二〇日に締結された賃貸借は、上告人らの主張する如く、一旦解除されたが、判示の如き事情から、その後、さらに、従前の契約と同一条件で賃貸されるに至つたというのであり、原審はこれを認めて、判示のように認定するに至つたのである。右原審の事実認定は挙示の証拠に照して首肯するにかたくない。
 論旨は、このような場合には、「被上告人の自白に反する供述はそのままでは証拠にならない」旨主張するが、採証上そのような法則はないから論旨は採るを得ない。
 論旨はまた、原審は被上告人の新たな主張に基き一審と異なる事実を認定したのであるから、かかる場合には、一審判決を破棄すべきである旨主張するが、既に前叙の如く、上告人は訂正された右新たな事実の主張に異議を述べなかつたのであるし、右主張事実の訂正は訴訟物の同一性を左右するものではないのであつて、訴を変更したものともいうことを得ないのであるから、このような場合に、一審判決を取消すべきものでないことは、多くいうをまたないところである。それゆえ原判決には所論の違法はなく、論旨は採るを得ない。
 同第六点について。
 しかし所論支払猶予の事実は、原審の是認しないところであるから、原審がその確定した事実関係のもとにおいて、所論弁済の提供は、催告期間経過後のものであること、したがつて催告に対する提供としては不適法のものであるとした判断は正当である。この点に関する所論はひつきよう原審の認定に副わない事実を前提とするものであるから採るを得ない。
 ただ原審が、所論昭和二六年一月分から同年五月二六日までの分の弁済供託をも不適法のものなるが如く判示した部分は、その真の趣意は兎に角として、表現の方法において誤解の生じ易い点のあることを否定し得ない。しかしこの部分は、原審において弁論の対象とはなつていないのであるから(附帯控訴の取下があつたことによつて)、右の部分の判示は蛇足であつたといわなければならない。それゆえ仮に所論の違法が認められるとしても、その違法は原判決に影響を及ぼさないものと考えられる。さればこの点に関する論旨も理由ないものとして採用しがたい。
 同第七点について。
 しかし所論の点に関する原審判断の正当であることは第四点において説明したとおりであり、所論はひつきよう独自の見解を前提として原判決に所論の違法ある如く主張するものであるから採るを得ない。
 同第八点について。
 所論はひつきよう原審の裁量に属する証拠の証明力を争うものに過ぎないから適法の上告理由にはならない。よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

②相手方または第三者の刑事上罰すべき行為によって自白をするに至った場合
←このような場合は再審事由に該当するものとされており(338条1項5号)、適正手続きの観点からも撤回を許容すべき。
ただし、本来の再審の場合と異なり、確定判決の既判力を解除するものではないので、有罪判決の確定等(338条2項)は必要ない。
+判例(S36.10.5)
理由
 上告代理人岩沢誠、同藤井正章の上告理由第一点について。
 しかし、判決確定前に民訴四二〇条一項五号前段所定の刑事上罰すべき他人の行為による自白が効力がない旨の主張をするには、同条二項の要件を具備する必要がないものと解するを相当とするから、原判決には所論の違法はない。
 同第二点について。
 しかし、原判決は、その理由の冒頭において前控訴審証人Aの判示証言部分は、判示各証拠と対照すると措信できず、他に本件手形が控訴人(被上告人、被告)によつて正当に振出されたものと認めるに足りる証拠がない旨説示しているから、原判決には所論の判断遺脱はない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

+(再審の事由)
第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
2  前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。
3  控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。

③自白された事実が真実であるという誤信に基づいて自白がなされた場合。
反真実と錯誤の両方がともに要件であるが、反真実の証明があれば錯誤が証明される。
+判例(S25.7.11)

 上告代理人高井吉兵衛上告理由は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
 第一点について。
 論旨は、訴訟上自白の徹回は、相手方において其の自白を援用する以上其自白は錯誤に出でたること及び其取消を主張することの二事実があつて初めて裁判所はその自白の取消の適否を判断すべきものであると主張する。しかし記録を調べて見るに、被上告人(被控訴人)は所論三万円の小切手について従前の主張を徹回し之と相容れない事実を主張したことが明らかであるから被上告人(被控訴人)は右三万円の小切手についての自白の取消を主張したものと解すべきは当然である。そして原審においては、被上告人(被控訴人)が右三万円についての主張を徹回したのは錯誤に出でにるものであることが明らかであると認定して居り其の認定は相当であると認められるから、原審において自白の取消につき所論のように判断をしたことは当然であつて何等違法はない。
 第二点第三点について。
 当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上その自白は錯誤に出たものと認めることができるから原審において被上告人の供述其他の資料により被上告人の自白を真実に合致しないものと認めた上之を錯誤に基くものと認定したことは違法とはいえない。論旨は独自の見解に基くものであるから採用し難い。
 よつて民法第四〇一条、第八九条、第九五条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 (裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

・自白の撤回の効果
従前の自白を構成する陳述は、新たな主張や変更された認否に置き換えられることになる。

4.権利自白
・「法規の存否や内容」や「法的評価概念」に関する相手方の主張については、これを認める陳述には格別の法的効果はない。

・「先決権利関係」や「法的評価概念」に関する主張を認める応答については議論がある。
事実自白といえども、その結果は最終的に法律効果の発生や不発生に結びつくことを考えると、事実自白と権利自白の間に本質的な差異を見出すべきではない。また、請求の認諾に法的効果が認められている以上、権利自白に法的効果を認めない理由は認めがたい。
たしかに、権利自白は事実自白よりも当事者の誤解に基づいてなされる可能性は高いとはいえようが、それは裁判所が当事者の真意をいかに確認するかという次元の問題であり、権利自白の法的効果を否定する根拠にはならない。

・他の立場として
一般的には権利自白の法的効果を認めないが、通常人が日常的に用いる程度の法概念については、事実自白と同様に当事者が理解をして処分し得るので、事実自白と同様に法的効果を認めることができるという見解。


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