債権総論1-2 債権法序論 債権法の意義と内容

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1.債権法の意義
(1)財貨移転秩序に関する法としての債権法
債権法は財貨移転秩序を規律する法であるといえる。
物権法は財貨帰属秩序に関する法といえる。

(2)債権法の意義

2.債権法の内容と特色
(1)債権法の内容
・債権法総則
債権の目的
債権の効力
多数当事者の債権及び債務
債権の譲渡
債権の消滅

・契約
・事務管理
・不当利得
・不法行為

(2)債権法の特色
・任意法規性
契約法を中心とする債権法は、原則として任意法規である。
←債権には排他性がないので、第三者に影響を与えることが少なく、契約中の原則などの当事者の意思を尊重するシステムがとられている。

・普遍性
国際的に統一される傾向

・信義則の支配
債権債務関係は当事者の信頼関係の上に成り立つものであるから。
債権法において特に強く働く。


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民法 事例から民法を考える 16 損していいのは誰?


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Ⅰ はじめに
1.転貸借関係をめぐる諸問題

・賃来借契約が終了すれば、転借人は転貸借を賃貸人に対抗できず、賃貸人による目的物の返還請求に応じなければならなくなるのが原則

・借地借家法
+(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
第三十四条  建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
2  建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。

2.サブリースとは
不動産業者(ディベロッパー)が転貸事業を行うため、不動産所有者(オーナー)の建てた建物を一括して賃借する契約

賃貸人は転貸の承諾をするという以上に、転貸借契約の成立に積極的かつ密接なかかわりをもっているといえ、このことは転貸借の存続に対する責任の議論にも一定の影響を及ぼす。

Ⅱ 賃料減額請求の可否
1.借地借家法32条の賃料増額請求

+(借賃増減請求権)
第三十二条  建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う
2  建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3  建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

32条は強行規定!

2.サブリースをめぐる議論
借地借家法32条がサブリースにも適用されるのか?

そもそも借地借家法は立場の弱い賃借人を保護する趣旨のものであり、そのことは、不増額特約があるときは増額ができないとされていること(32条1項ただし書き)にもうかがえる。
⇔サブリースでは、賃借人は業界大手の不動産業者であり、不動産業において素人ともいうべきオーナーこそ保護に値するのではないか・・・

・サブリースも使用収益の対価として賃料を支払うという内容が含まれている以上、賃貸借契約なのは明らかであるとして、借地借家法32条の適用はある。
+判例(H15.10.21)
理由
第1 事案の概要
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 平成12年(受)第573号上告人・同第574号被上告人(以下「第1審被告」という。)は、不動産賃貸等を目的とする資本金867億円余の株式会社であり、我が国不動産業界有数の企業である。平成12年(受)第573号被上告人・同第574号上告人(以下「第1審原告」という。)は、不動産賃貸等を目的とする資本金約2億6000万円の株式会社である。
(2) 第1審原告は、昭和61年ころ、A株式会社からの勧めもあって、東京都文京区××外の土地上に賃貸用高層ビルを建築することを計画し、同年11月ころ、著名な建築家であるBに建物の設計を依頼し、同年12月ころ、B設計事務所との間で覚書を交わした。第1審原告は、昭和62年6月、第1審被告から、上記の土地上に第1審原告が建築したビルで第1審被告が転貸事業を営み、第1審原告に対して長期にわたって安定した収入を得させるという内容の提案を受け、第1審被告とも交渉を進めることとした。
そして、第1審原告は、昭和63年10月、第1審被告から、〈1〉第1審被告が、第1審原告使用部分を除き、ビル全館を一括して賃借し、第1審被告の責任と負担でテナントに転貸する、〈2〉賃料は、共益費を含め、年額23億1072万円とし、この賃料額は、テナントの入居状況にかかわらず変更しない、〈3〉賃料のうち19億9200万円については、3年経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額を値上げするとの提案を受け、第1審被告との間で契約を締結することとし、契約内容の具体化を進めた。
(3) 第1審原告は、昭和63年12月13日、第1審被告との間で、原判決別紙物件目録一記載の建物(通称「Cビル」。以下「本件建物」という。)のうち同目録二記載の部分(以下「本件賃貸部分」という。)を下記(4)の内容で第1審被告に賃貸する旨の予約をした。
第1審原告は、同月14日、上記予約で約定した敷金額49億4350万円のうち16億5500万円の預託を受けた。第1審原告は、D株式会社との間で本件建物の建築請負契約を締結し、同社に対し請負代金等合計212億円余を支払い、また、B設計事務所に対しても設計料18億円余を支払ったが、これらの支払のうち上記の敷金で賄いきれなかった181億円余については、銀行融資を受けた。
(4) 本件建物は、平成3年4月15日に完成し、第1審原告は、同月16日、上記予約に基づき、第1審被告との間で、次の内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件賃貸部分を第1審被告に引き渡した。
ア 第1審原告は、第1審被告に対し、本件賃貸部分を一括して賃貸し、第1審被告は、これを賃借し、自己の責任と負担において第三者に転貸し、賃貸用オフィスビルとして運用する。第1審被告は、転借人を決定するには、事前に第1審原告の書面による承諾を得る。
イ 賃貸期間は、本件建物竣工時から15年間とし、期間満了時には、双方協議の上、更に15年間契約を更新する。賃貸期間中は、不可抗力による建物損壊又は一方当事者の重大な契約違反が生じた場合のほかは、中途解約できない。
ウ 賃料は、年額19億7740万円、共益費は、年額3億1640万円とし、第1審被告は、毎月末日、賃料の12分の1(当月分)を支払う。
エ 賃料は、本件建物竣工時から3年を経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額の値上げをする(以下、この合意を「本件賃料自動増額特約」という。)。急激なインフレ、その他経済事情に著しい変動があった結果、値上げ率及び敷金が不相当になったときは、第1審原告と第1審被告の協議の上、値上げ率を変更することができる(以下、この合意を「本件調整条項」という。)。
オ 第1審被告は、第1審原告に対し、敷金として、総額49億4350万円を預託する。
カ 第1審被告が賃料等の支払を延滞したときは、第1審原告は、通知催告なしに敷金をもって弁済に充当することができ、この場合、第1審被告は、第1審原告から補充請求を受けた日から10日以内に敷金を補充しなければならない。
(5) 第1審被告は、第1審原告に対し、本件賃貸部分の賃料について、平成6年2月9日に、同年4月1日から年額13億8194万4000円に減額すべき旨の意思表示をしたのを最初として、同年10月28日に、同年11月1日から年額8億6863万2000円に減額すべき旨の意思表示を、平成9年2月7日に、同年3月1日から年額7億8967万2000円に減額すべき旨の意思表示を、平成11年2月24日に、同年3月1日から年額5億3393万9035円に減額すべき旨の意思表示を、それぞれ行った。
なお、第1審被告がテナントから受け取る本件賃貸部分の転貸料の合計は、平成6年4月当時、平成9年6月当時のいずれも月額1億1516万2000円であり、平成11年3月当時は約4581万円となり、同年4月以降は6000万円前後で推移している。
(6) 第1審被告は、第1審原告に対し、平成6年4月分から平成9年3月分まで賃料として月額1億4577万4527円を支払い、平成9年4月分から平成11年10月分まで賃料として月額1億4860万5099円(ただし、平成9年4月分及び平成10年4月分については、月額1億4860万5111円)を支払った。
(7) 第1審原告は、平成6年4月分から平成9年12月分までの約定賃料等と支払賃料等との差額分及びこれに対する遅延損害金を敷金から充当することとし、第1審被告に対し、敷金の不足分の補充を請求した。

2 本件本訴請求事件は、第1審原告が、第1審被告に対し、主位的に、本件賃料自動増額特約に従って賃料が増額したと主張して、上記敷金の不足分と平成10年1月分から平成11年10月分までの未払賃料との合計52億6899万5795円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、第1審被告の賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを前提として、借地借家法32条1項の規定により賃料が減額される可能性があることについて第1審被告に説明義務違反があるなどと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき上記金額と同額の損害賠償を求めるものである。
そして、本件反訴請求事件は、第1審被告が、第1審原告に対し、借地借家法32条1項の規定に基づき第1審被告の賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを主張して、本件賃貸部分の賃料が平成6年4月1日から同年10月末日までの間は年額13億8194万4000円、同年11月1日から平成9年2月末日までの間は年額8億6863万2000円、同年3月1日から平成11年2月末日までの間は年額7億8967万2000円、同年3月1日以降は年額5億3393万9035円であることの、それぞれ確認を求めるものである。

第2 平成12年(受)第573号上告代理人遠藤英毅、同今村健志、同戸張正子、同奈良次郎、同伊藤茂昭、同進士肇、同岡内真哉、同田汲幸弘、同奈良輝久の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 原審は、前記の事実関係の下で、次のとおり判断して、第1審原告の主位的請求を、35億2323万2445円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の主位的請求及び予備的請求を棄却し、第1審被告の反訴請求を棄却すべきものとした。
(1) 本件契約は、建物賃貸借契約の法形式を利用しているから、建物賃貸借契約の一種がその組成要素となっていることは否定できないが、典型的な賃貸借契約とはかなり異なった性質のものと認められ、その実質的機能や契約内容にかんがみると、建物賃貸借契約とは異なる性質を有する事業委託的無名契約の性質を持ったものと解すべきである。したがって、本件契約について、借地借家法の全面的適用があると解するのは相当ではなく、本件契約の目的、機能及び性質に反しない限度においてのみ同法の適用があるものと解すべきである。
本件契約は、その内容や交渉経過に照らせば、取引行為者として経済的に対等な当事者双方が、不動産からの収益を共同目的とし、それぞれがより多額の収益を確保するために、不動産の転貸から得られる収益の分配を対立的要素として調整合意したものであり、第1審原告は、収益についての定額化による安定化と将来にわたる確実な賃料増額を図るために、本件賃料自動増額特約を付し、本件賃貸部分を一括して賃貸することとして本件契約を締結したのであるから、その限りにおいて、本件契約においては賃料保証がされているものと解される。そして、本件契約においては、本件賃料自動増額特約による賃料と現実の転貸料とのかい離が著しく不合理となったときに対処するために、本件調整条項が設けられているのであるから、本件契約にあっては、借地借家法32条1項所定の賃料増減額請求権の制度は、本件調整条項によって修正され、上記規定は、その手続や請求権の行使の効果など限定された範囲でのみ適用があると解するのが相当である。
(2) 第1審被告が平成6年2月9日及び平成9年2月7日にした賃料減額請求は、賃料自動増額の時期の到来に対抗してされたものであり、本件調整条項に基づく値上げ率を変更する旨の意思表示を含むものと解するのが相当である。そして、不動産市場や賃貸ビル市場の著しいマイナス変動により、賃料と転貸料との間に不合理な著しいかい離が生じていると認められるから、第1審被告が平成6年2月9日及び平成9年2月7日に本件調整条項に基づいて行った賃料の減額請求により、それぞれの時期の値上げ率が0%に変更されたものと認めるのが相当である。
以上によれば、本件契約の賃料は、平成6年4月以降も従前どおりの金額であるから、第1審原告の主位的請求に係る敷金の不足額と未払賃料との合計は、35億2323万2445円となる。
したがって、第1審原告の主位的請求は、35億2323万2445円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。また、第1審被告の反訴請求も、理由がない。
(3) 第1審原告の予備的請求については、第1審被告に説明義務違反等があるとは認められないから、理由がない。

2 しかしながら、原審の上記(1)、(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。(1)前記確定事実によれば、本件契約における合意の内容は、第1審原告が第1審被告に対して本件賃貸部分を使用収益させ、第1審被告が第1審原告に対してその対価として賃料を支払うというものであり、本件契約は、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、【要旨1】本件契約には、借地借家法が適用され、同法32条の規定も適用されるものというべきである。
本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法32条1項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁参照)、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない
なお、前記の事実関係によれば、本件契約は、不動産賃貸等を目的とする会社である第1審被告が、第1審原告の建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり、あらかじめ、第1審被告と第1審原告との間において賃貸期間、当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え、第1審原告が、その協議の結果を前提とした収支予測の下に、建築資金として第1審被告から約50億円の敷金の預託を受けるとともに、金融機関から約180億円の融資を受けて、第1審原告の所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり、いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。そして、本件契約は、第1審被告の転貸事業の一部を構成するものであり、本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は、第1審原告が第1審被告の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって、本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は、本件契約の当事者が、前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に、重要な事情として十分に考慮されるべきである。
以上により、第1審被告は、借地借家法32条1項の規定により、本件賃貸部分の賃料の減額を求めることができる。そして、上記のとおり、【要旨2】この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度等)、第1審被告の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、第1審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。
(2) 以上によれば、本件契約への借地借家法32条1項の規定の適用を極めて制限的に解し、第1審原告の主位的請求の一部を認容し、第1審被告の反訴請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中第1審被告敗訴部分は破棄を免れない。そして、第1審被告の賃料減額請求の当否等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
第3 平成12年(受)第574号上告代理人升永英俊、同松添聖史の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
本件契約に借地借家法32条1項の規定が適用されることは、前記第2の2において説示したとおりであるから、論旨は採用することができない。しかしながら、前記のとおり、上記規定に基づく減額請求の当否等について審理しないまま第1審原告の主位的請求の一部を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、原判決中第1審原告敗訴部分は破棄を免れない。そして、第1審被告の賃料減額請求の当否等について更に審理を尽くさせるため、上記部分についても、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官藤田宙靖の補足意見がある。裁判官藤田宙靖の補足意見は、次のとおりである。

・サブリースであることの一事をもって一切減額が認められないとするのではなく、個別事案ごとに応じ減額の当否を判断できる柔軟な判断枠組みを。

3.設問1で考慮されるべき事情とは
・Bの賃料収入が減少したというだけでは32条の減額は認められそうにない・・・

・BC間に共同事業的要素がないわけではない。
→Cも賃料減少のリスクを覚悟すべきなのでは・・・

4.減額請求を全否定する可能性
・減額を認めなかった裁判例の中には、契約締結に至る事情や契約期間の短さのほか、契約締結の時期を考慮に入れたものもみられる。

・Cとの間ではあえて賃料を定額にしたのは、自身において営業利益の変動のリスクを引き受けることを前提に、Cと契約を結んだとみてよいのではないか。

Ⅲ 賃貸借契約の解除と転貸人の賃料支払い請求
1.転貸借契約の終了時期をめぐって

・賃貸人は転借人に対して
目的物の明渡しを請求
目的物の使用収益につき不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求

・転貸人の転借人に対する転貸賃料の支払い請求の可否については、転貸借契約の終了時期をいつとみるのかで結論が変わりうる・・・
返還請求時説(賃貸人から返還請求がなされた時に転貸人の債務が履行不能になり転貸借が終了する)

2.最高裁平成9年判決

+判例(H9.2.25)
理由
上告代理人須藤英章、同関根稔の上告理由について
一 被上告人の本訴請求は、上告人らに対し、(一) 主位的に本件建物の転貸借契約に基づいて昭和六三年一二月一日から平成三年一〇月一五日までの転借料合計一億三一一〇万円の支払を求め、(二) 予備的に不当利得を原因として同額の支払を求めるものであるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は、本件建物を所有者である訴外有限会社田中一商事から賃借し、同会社の承諾を得て、これを上告人キング・スイミング株式会社に転貸していた。上告人株式会社コマスポーツは、上告人キング・スイミング株式会社と共同して本件建物でスイミングスクールを営業していたが、その後、同会社と実質的に一体化して本件建物の転借人となった。
2 被上告人(賃借人)が訴外会社(賃貸人)に対する昭和六一年五月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、被上告人に対し、昭和六二年一月三一日までに未払賃料を支払うよう催告するとともに、同日までに支払のないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。しかるに、被上告人が同日までに未払賃料を支払わなかったので、賃貸借契約は同日限り解除により終了した。
3 訴外会社は、昭和六二年二月二五日、上告人ら(転借人)及び被上告人(貸借人)に対して本件建物の明渡し等を求める訴訟を提起した。
4 上告人らは、昭和六三年一二月一日以降、被上告人に対して本件建物の転借料の支払をしなかった。
5 平成三年六月一二日、前記訴訟につき訴外会社の上告人ら及び被上告人に対する本件建物の明渡請求を認容する旨の第一審判決が言い渡され、右判決のうち上告人らに関する部分は、控訴がなく確定した。
訴外会社は平成三年一〇月一五日、右確定判決に基づく強制執行により上告人らから本件建物の明渡しを受けた。
二 原審は、右事実関係の下において、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約が被上告人の債務不履行により解除されても、被上告人と上告人らとの間の転貸借は終了せず、上告人らは現に本件建物の使用収益を継続している限り転借料の支払義務を免れないとして、主位的請求に係る転借料債権の発生を認め、上告人らの相殺の抗弁を一部認めて、被上告人の主位的請求を右相殺後の残額の限度で認容した。

三 しかしながら、主位的請求に係る転借料債権の発生を認めた原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約は昭和六二年一月三一日、被上告人の債務不履行を理由とする解除により終了し、訴外会社は同年二月二五日、訴訟を提起して上告人らに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、被上告人と上告人らとの間の転貸借は、昭和六三年一二月一日の時点では、既に被上告人の債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求める被上告人の主位的請求は、上告人らの相殺の抗弁につき判断するまでもなく、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第一審判決を取り消して、被上告人の主位的請求を棄却すべきである。また、前記事実関係の下においては、不当利得を原因とする被上告人の予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

3.返還請求時説以外の見解

4.設問2ではどうなるか
・まだ甲建物の返還請求はなされていない。
返還請求がなされていない場合でも、社会通念上、転借県の対抗力回復を不能と評価し、転貸借契約の終了を認める余地をH9年判決は排除していない・・・

Ⅳ 期間満了による賃貸借の終了と転借人への明渡請求
1.明渡請求に関する判例法理

・賃貸人から転借人に対する明け渡し請求
賃借人の債務不履行による解除に基づく場合→肯定!
合意解除による場合→否定!
←398条や信義則等を根拠。

・賃借人の更新拒絶により賃貸借契約が終了した場合、債務不履行解除と合意解除のいずれと同じ結論がとられるべきか・・・

2.平成14年判決とその評価

・サブリースにかかる事案において、賃貸人から転借人に対する明け渡し請求を認めなかった!
+判例(H14.3.28)
理由
上告代理人桑島英美、同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、昭和50年初めころ、ビルの賃貸、管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより、当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し、訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ、これにより安定的に収入を得ることを計画し、昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては、訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し、その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ、訴外会社又はその指定した者が設計、監理、施工を行うこととされた。
(2) 本件ビルの敷地のうち、小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20㎡は、もとAの所有地であったが、被上告人代表者は、これを本件ビル敷地に取り込むため、訴外会社を通じて買収交渉を行い、訴外会社がAに対し、ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので、Aは、その旨の念書を取得して、上記土地を被上告人に売却した。
(3) 被上告人は、昭和51年11月30日、訴外会社との間で、本件ビルにつき、期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし、被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は、本件賃貸借において、訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。
(4) 訴外会社は、昭和51年11月30日、Aとの間で、本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき、期間を同日から平成8年11月30日まで、使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。
(5) Aは、昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て、株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で、本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき、期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し、京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ、上告人らが管財人に選任された。
(6) 訴外会社は、転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし、平成6年2月21日、被上告人に対して、本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。
(7) 被上告人は、平成7年12月ころ、A及び京樽に対し、本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。
(8) 被上告人は、本件賃貸借終了後も、自ら本件ビルを使用する予定はなく、A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが、Aとの間では、被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため、協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。
(9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており、本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため、同店はその経営上重要な位置を占めている。

2 被上告人の本件請求は、上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ、上告人らは、信義則上、本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。
原審は、上記事実関係の下で、被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は、A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり、それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと、本件賃貸借の存続期間は、民法の認める最長の20年とされ、かつ、本件転貸借の期間は、その範囲内でこれと同一の期間と定められているから、A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと、訴外会社は、その採算が悪化したために、上記期間が満了する際に、本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって、そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として、被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。

3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方、京樽も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。
【要旨】このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。
これと異なり、被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから、上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)

3.平成9年判決との異同を考える

H14年判決の「加功」というのは、転借人との関係で、賃貸人が転貸人と同様の責任を負わせるにふさわしい立場にあるかどうか

4.設問3ではどうなるか

Ⅴ おわりに


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刑事訴訟法 事例演習刑事訴訟法 4 身柄拘束の諸問題(1)


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1.現行犯逮捕の適法性

+第二百十二条  現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
○2  左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一  犯人として追呼されているとき。
二  贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三  身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四  誰何されて逃走しようとするとき。

第二百十三条  現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

要件
①逮捕者にとって、
犯罪の明白性(犯罪が行われていることまたは行われたことが明白)
犯人の明白性(被逮捕者が犯人であることが明白)
②現行性・時間的接着性
③逮捕の必要性

・現行犯逮捕の根拠規定は213条!!!

・場所的接着性も求める見解も。

・時間的場所的接着性は、犯罪と犯人の明白性を担保するための補充的な要件!!

・通常逮捕の場合
+第百九十九条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2  裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない
○3  検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

特定の犯罪が存在すること
及び
当該犯罪を被疑者が犯した嫌疑があること

・認定資料の問題
現認の場合。
罪を行い終わった現行犯人については
逮捕者が現場付近の客観的状況を直接認識して、「現に罪を行い終わった者」と判断する場合も含む。

+判例(S31.10.25)

+判例(S33.6.4)
理由
弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点は、原審において主張も判断もない事項について、違憲違法を主張するものであり(なお現行犯逮捕の点は、住居侵入の現場から約三〇米はなれた所で逮捕したものではあるが、時間的には、住居侵入の直後、急報に接し、A巡査が自転車で現場にかけつけ、右の地点において逮捕したものであるから、刑訴二一二条一項にいう「現に罪を行い終つた者」にあたる現行犯人の逮捕と認むべきである。)、同第二点は、単なる量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

・被害者や目撃者の供述
原則は、
犯行現場や被害者の身体・衣服の状況及び相手方の挙動あるいは客観的外部的状況に限られる(限定説)
+判例(京都地決S44.11.5)
理由
一、本件準抗告の申立趣旨ならびに理由は、別紙第一のとおりである。
二、一件記録によると、被疑者は昭和四四年一〇月二九日別紙第二に記載の被疑事実の現行犯人として司法巡査から逮捕されたこと、京都地方検察庁検察官は同年一一月一日京都地方裁判所裁判官に対し被疑者についての勾留請求をなしたところ、右裁判官は同日逮捕手続が違法との理由により右勾留請求を却下したこと、がそれぞれ明らかである。

三、ところで、被疑者を現行犯人として逮捕することが許容されるためには、被疑者が現に特定の犯罪を行い又は現にそれを行い終った者であることが、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身においても直接明白に覚知しうる場合であることが必要と解されるのであって、被害者の供述によること以外には逮捕者においてこれを覚知しうる状況にないという場合にあっては、事後的に逮捕状の発布請求をなすべきことが要求される緊急逮捕手続によって被疑者を逮捕することの許されるのは格別、逮捕時より四八時間ないし七二時間内は事後的な逮捕状発布請求手続もとらず被疑者の身柄拘束を継続しうる現行犯逮捕の如きは、未だこれをなしえないものといわなければならない

四、そこで被疑者が現行犯人として逮捕された当時の状況につき一件資料を検討するに、
被疑者は昭和四四年一〇月二九日午後八時五五分ごろ通りがかりの京都市中京区西ノ京池の内町八番地金物商三輪幸雄方において本件犯行に及んだこと、被害者三輪幸雄は直ちに一一〇番にて被害状況を急訴したが、その間に被疑者はいずれかの方向へ逃走してしまったこと、被害者から被害申告を受けた警察当局は直ちに管内巡回中のパトカーに対して右犯行場所へ急行せよとの指令を流したところ、これを受けた堀川警察署司法巡査二名は、パトカーにて同日午後九時五分ごろ被害者三輪幸雄方に到着し直ちに同人から事情を聴取したこと、それによると犯人はうぐいす色のジャンパーを着て酒の臭いがする三〇歳すぎの男であるということが判明したので、同巡査らは、これに基づき犯人を発見すべく、直ちにパトカーにて現場付近の巡回に出たこと、同巡査らは約一〇分後である同日午後九時一五分ごろ、被害者方より東方約二〇メートルの地点にある路上において被害者から聴取した犯人の人相、年令、服装とよく似た風態の被疑者を発見したので直ちに被疑者に対する職務質問を実施したが、被疑者は犯行を否認して自分は犯人ではない旨申立てたこと、そこで同巡査らはその場に被害者三輪幸雄の同行を求めて被疑者と対面させたところ同人から被疑者が犯人にまちがいない旨の供述が得られたので、その場で被疑者を本件被疑事実を犯した現行犯人と認めて「現行犯逮捕」に及んだこと、等の事実を認めることができる。

五、右認定事実によれば、司法巡査が被疑者を「現行犯逮捕」したのは、犯行時よりわずか二〇数分後であり、その逮捕場所も犯行現場からわずか二〇数メートルしか離れていない地点であったのであるが、逮捕者である司法巡査とすれば犯行現場に居合わせて被疑者の本件犯行を目撃していたわけでなく、またその逮捕時において被疑者が犯罪に供した凶器等を所持しその身体、被服などに犯罪の証跡を残していて明白に犯人と認めうるような状況にあったというわけでもないのであって、被害者の供述に基づいてはじめて被疑者を本件被疑事実を犯した犯人と認めえたというにすぎないのである。なお、被疑者は、司法巡査の職務質問に際して逃走しようとしたこともなく、また犯人であることを知っている被害者自身からの追跡ないし呼号を受けていたわけでもない
以上によれば、司法巡査が被害者の供述に基づいて被疑者を「現行犯逮捕」した時点においては、被疑者について緊急逮捕をなしうる実体的要件は具備されていたとは認められるけれども、現行犯逮捕ないしは準現行犯逮捕をなしうるまでの実体的要件が具備されていたとは認められないといわなければならない。
このような場合にあっては、司法警察職員がその時点で被疑者を逮捕したこと自体には違法の点はないとしても、直ちに事後的措置として裁判官に対して緊急逮捕状の発布請求の手続をとり、右逮捕についての裁判官の司法審査を受けるべきであったというべく、従って、そのような手続をとらずに漫然と被疑者の逮捕を継続したという点において、本件逮捕手続には重大な違法があるといわなければならない。

六、しかして、我現行刑事訴訟法は、勾留請求について逮捕前置主義を採用し、裁判官が勾留請求についての裁判において違法逮捕に対する司法的抑制を行っていくべきことを期待していると解されるのであるから、その法意からしても、本件の如き違法な逮捕手続に引続く勾留請求を受けた裁判官とすれば、仮に被疑者につき勾留の実体的要件が具備されていて将来同一事実に基づく再度の逮捕や勾留請求が予想されるという場合であっても、その時点において逮捕手続の違法を司法的に明確にするという意味において当該勾留請求を却下するほかなきものと解される
七、そうであるとすれば、本件勾留請求を却下した原裁判はその余の点につき判断するまでもなく相当であって、本件準抗告の申立はその理由がないというべきであるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとする。
よって主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 森山淳哉 裁判官 相良甲子彦 栗原宏武)

・客観的外部的状況に加えて、いわば補充的に認定資料となし得ることも・・・
+判例(東京高判S60.4.30)
理由
検察官の控訴趣意は検察官山口悠介作成の控訴趣意書に、弁護人の控訴趣意は弁護人牛久保秀樹作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官宮﨑徹郎作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これを引用する。
検察官の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第五について
論旨は、いずれも要するに、原判決は、被告人が罰金を完納することができない場合における労役場留置の期間を言い渡さなかった点において法令の適用を誤つているというのである。
そこで調査すると、原判決書の主文には「被告人を罰金一〇、〇〇〇円に処する。右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。」との記載があるが、同判決書末尾括弧内の補足的記載によれば、右主文中のいわゆる換刑留置を定めた項(すなわち第二項)及び同判決書理由中のこれに関する部分は、原裁判所裁判官が本件判決を宣告するに際し朗読告知しなかつたことが明らかである。したがつて、原判決書の右部分は判決として成立していない(不存在)と認められる。そうしてみると、原判決は、罰金刑(執行猶予付)の言渡しをしながら、刑法一八条四項に従い労役場留置の期間を定めて言い渡すことを遺脱したものであつて、右は判決の内容における法令適用の誤りであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨はいずれも理由がある。

弁護人の控訴趣意第四について
論旨は、要するに、本件現行犯逮捕は違法であり、したがつて原判決が、被告人の供述調書は不法拘禁中に得られた違法収集証拠であるから排除すべきであるとの原審弁護人の主張を排斥し、被告人の検察官に対する供述調書(自白)を証拠として有罪を認定したのは、訴訟手続の法令違反であるという趣旨に解される。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して検討する。関係証拠(ただし、司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書は、明らかに誤つた記載があること及び各署名が自書でないことを考慮してこれを除く。)によれば、被告人が逮捕された経緯は、既略次のようであつたと認められる。
東京都目黒区○○二丁目三番九号に所在するアパートZ荘(鉄筋コンクリート三階建)二階二〇三号室に居住する独身女性甲女(昭和二四年一一月三日生)は、昭和五六年八月四日午前一時四〇分過ぎころ、隣家二〇五号室の犬が激しくほえるので、浴室の窓の透き間から外の廊下(共用の通路)の方を見て「どなた」と聞くと、のぞき込むようにしていた男の顔が見え、その男(以下犯人という。)は「部屋を間違えたのかな」と言って右(北)隣り(二〇五号室)の方に寄った様子だつた。同女は警察に電話をしようかと迷つたが、結局五分位して一一〇番に電話して不審な男がのぞいていた旨を届け、犯人の特徴として頭髪が薄く、身長が一六〇から一六五センチメートル、年齢三五歳位である旨、白いワイシャツの襟を見た旨を告げた。付近を警ら中のパトロールカー目黒一号に乗務中の警察官D、同Eは、同日午前一時四八分ころ通信指令室から「のぞき」として右事件についての無線指令を傍受し、同アパート付近を走行中、同アパートから約二四八メートル離れた○○二丁目七番一八号付近で前方左側を前方(同アパートから離れる方向である西)へ向かつて歩いていた被告人の姿を認め、追尾した。これより先、右無線指令を受けたパトカー目黒二号に乗務中の警察官Bは、直ちに甲女方へ赴き、同女から更に犯人の人相着衣を聞き出し、そこへ目黒一号のEから無線で照会があつたので、聞いたことを伝えた。被告人を追尾していた目黒一号では、被告人の特徴(前頭部の髪が薄く、白半そでシャツ着用、サンダルばき、なお事後に判明したところでは、運動靴着用のままでの身長一六一センチメートル、当時三三歳)が伝えられた犯人の人相着衣等と酷似していたので、Z荘から約五一三メートル離れた○○三丁目一二番一四号先の交差点付近でEが被告人を呼び止め車から降りて職務質問をし、被告人はアパートへ行つた事実を否認したが、任意同行を求めて被告人をパトカーに乗せ、Dが運転し、一方通行等の関係で回り道してZ荘から約五二メートル離れた○○二丁目三番一二号先の交差点まで連れ戻した。一方Bは、甲女を目黒二号に乗せて同交差点に至り、被告人を路上に立たせて同女に見せたところ、同女は「遠くですのであまりはつきりわかりませんが」と言いながらも、被告人が犯人であることを肯定したので、Dが同所で被告人を住居侵人の現行犯人として逮捕した。その時刻は午前二時ころであつたと推認される。
原判決は、右逮捕手続は刑事訴訟法二一二条一項の現行犯人の逮捕として適法であると認めている。しかし、右の事実によれば、本件逮捕の際警察官にとつて客観的に確実であつたことは、一一〇番による被害者甲女の届け出の時刻に近接した深夜の時期に、前記のように伝えられた犯人の人相着衣にほぼ一致する特徴をもつ被告人が被害者方から約二五〇メートル離れた所を歩いていたということだけであつて、本件犯罪の存在及びその犯人が被告人であるという特定については、すべて被害者の記憶に基づくいわゆる面通しを含む供述に頼つていたのであるから、犯行を現認したのと同一視できるような明白性は存在しなかつたといわなければならない。したがつて、逮捕当時の被告人を同条一項の現行犯人ということはできない
原判決は、前記認定をしながら、また、かりに同条一項に定める現行犯人に該当しないとしても、少なくとも同条二項一号にいう準現行犯人にあたることは明らかであると説示する。しかし、被害者甲女は、犯人の顔を目撃後、玄関の扉を開けて犯人を確認することすらしておらず、全く犯人を追いかけていない。警察官が連れて来た被告人を犯人と認めたからといつて、これを「追呼」と解することはできない。また本件では、警察官が被害者と連繋して犯人を追呼したと見ることもできない。犯行現場と被告人との連続性が欠けているからである。原判決は、「犯行を目撃した被害者が、額のはげ上がつた身長一六〇ないし一六五センチメートルの白い半そでシャツを着た男という極めて特徴のある人物像を適確に把握し、警察に通報して犯人の逮捕を依頼し」たものと判示しているが、右の人物像が極めて特徴のあるものであるとは思われないし(なお、警察官Bは甲女から白い半そでシャツと聞いたと証言するが、同女は白ワイシャツと言ったと思われ、半そでシャツと言ったことは認められない。そでは見えなかったのである)、被害者がこれを適確に把握したということは、被告人が犯人であることを前提としなければ言えないことである。そうしてみると、被告人は犯人として追呼されていた者とはいえないし、逮捕当時警察官にとつて客観的な証跡等に基づく被告人が犯人であることの明白性は存在せず、誤認逮捕のおそれがないとはいえない状況であつたのであるから、被告人は準現行犯人にもあたらないというべきである。したがつて、本件逮捕は令状によらない違法は逮捕であるというほかはない。
被告人は右のようにして逮捕され、目黒警察署に引致されたが、警察では犯行を否認していた。しかし、翌八月五日検察官に送致され、検察官の取調べを受けると犯行を自白し、右自白を内容とする供述調書が作成された。検察官は同日在庁略式命令を請求し、同日略式命令(罰金一万円、仮納付命令付)が発付送達され、被告人は釈放された。被告人は翌六日右罰金を仮納付したが、その翌日七日正式裁判を請求した。公判では公訴事実を終始否認している。
以上の事実によれば、被告人の検察官に対する右自白は、違法な逮捕抑留中の自白である。このような自白は、右逮捕抑留の影響を受けていないと認めるべき特段の事情がない限り、人権保障の見地から有罪認定の証拠に供することが許されないものとすること、その意味で証拠能力を否定するのが相当であるが、前記経緯によれば、そのような特段の事情は認められず、被告人の原審及び当審公判における供述を参酌すると、むしろ被告人は検察官に対し否認すると更に一〇日も拘禁を続けられると考えて自白したものと推測されるのであるから、被告人の検察官に対する供述調書は証拠能力を欠くものというべきである。なお、被告人は原審第二〇回公判で右調書を証拠とすることに同意していることが認められるから、原裁判所が同期日にこれを取り調べたこと自体は不適法と言い難いが、右同意は任意性を争わないという程度の趣旨と解され、被告人及び原審弁護人がその証明力を争つていたことは明らかであるのみならず、原審弁護人は弁論の中でこれを不法拘禁中に採取された証拠であり排除すべきものであると主張しているのであるから、右同意があるからといつて、その証拠能力を認めることは相当でない。
したがつて、原判決が被告人の逮捕手続を適法と認め、被告人の検察官に対する供述調書を有罪認定の証拠として使用したのは、逮捕の違法性に関する判断を誤つた結果訴訟手続において法令に違反したもので、本件の証拠関係に照らすと、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は、弁護人のその余の論旨(事実誤認の主張)について判断するまでもなく、破棄を免れない。
そこで刑訴法三九七条、三七九条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において被告事件について判決をする。
本件公訴事実は「被告人は、昭和五六年八月四日午前一時四五分ころ、東京都目黒区○○二丁目三番九号所在、甲女らが居住するアパートZ荘内にのぞき見の目的で、故なく侵人したものである。」というのである。
本件については、被告人の自白を内容とする検察官調書が原審で取り調べられているが、同調書を有罪の証拠とすることができないことは、既に述べたとおりである。
そこで、本件犯行の唯一の目撃者である甲女の供述の証明力を検討する。同女は、司法警察員(昭和五六年八月四日付供述調書)及び検察官(同年九月二一日付供述調書)に対し、犯人は警察官から見せられた男(被告人)に間違いないと述べ、原審第四回公判(昭和五七年三月一八日)において、「風呂場の窓から犯人の顔が、一度に全部は見えなかつたが、はつきり見えた。頭髪が薄く、身長一六〇から一六五センチ位で、年齢三五歳位、それに白いワイシャツを着ていたような気がしたが、その時は顔だけを見た。その顔は被告人に間違いない」旨証言し、同第一九回公判(昭和五八年九月二二日)においては、「警察官が犯人を捕まえたと言ってきた時には犯人だという確信はあつたが、目黒警察署で警察官たちの話を聞いてから、だんだん自信がなくなつた」と言いながらも、他方、「警察では記憶どおり述べた」と証言し、また、「犯人の顔だけでなく上半身も見えた、白ワイシャツを着ていたことは間違いない」、「犯人は窓の横からのぞこうとしていた」など、従前よりも積極的な証言をしている。総じて甲女の供述は、犯人の顔などがはつきり見えたと強調する点に特色がある。同女は、無責任に一一〇番したのではないと主張したい気持ちからそう言うのかも知れないが、もちろんその届け出は真剣かつ誠実にされたものと認められる。
しかしながら、甲女が後に犯人を間違いなく識別できるほど明確に犯人の姿を見ることができたのかどうかについては、疑いがある。原裁判所の検証調書によれば、本件浴室の外廊下に面する窓は、縦六三センチメートル、横四五センチメートルのもので、アルミサッシのガラス戸が付いているが、ガラスの全面に青色の紙が内側から張り付けてあつて見通すことができず、この戸は下縁を軸として開く回転窓の構造になつているが、甲女の指示したところによると、本件当時上縁が窓枠上側から13.5センチメートル(司法警察員の昭和五六年八月一一日付実況見分調書では一〇センチメートル)離れた状態で開いていた。そうすると上方及び両側に透き間が出来るが、外からはほとんどのぞき見できない状態にある。甲女の指示した犯人の立つていた位置に被告人を立たせ、同女が見たという位置、姿勢における同女の目の位置から窓の方を写した写真(同女と犯人との距離は約1.8メートル)には、上の透き間に被告人の頭頂部と前頭部が写つているに過ぎない。もつとも、検証調書には「肉眼で見ると、被告人の頭部より両肩付近までの容貌が、窓上部開いた部分より看取できた」との記載があるが、これは経験則上首肯できない。もちろん、目の位置を上前方に移動させることによつて見える部分が変わり、見える範囲も広がるであろうが、甲女の体格をもつてしてそれがどの程度可能であるかは検証されていない。右検証におけるカメラの位置は同女が背伸びしたときの目の位置であるので、それ以上目の位置を高くすることができるのか疑問である。甲女の検察官調書には「相手が動き、私が目の位置を少し変えたりしたので、全体の顔がわかつた」とあるが、被告人が動いた場合の検証は行われていない。また、甲女が見た位置からは、窓の向かつて右(北)側から外を見通すことは不可能であり、左(南)側からは少しの透き間を通して外が見えるが、その前には洗たく機が置いてあるので、犯人がその向う側へ移動しなければその姿は見えないはずであり、犯人がそちらへ移動したのを見たということは、甲女のどの供述にも現れていない。同女は、原審第四回公判で弁護人の質問に対し、始め「横の透き間から外は見えない、私は上の透き間から見た」と証言したのに、弁護人と論争するうちに「相手の位置によつては横の透き間からもよく見える」旨述べ、結局横の透き間から犯人を見た趣旨に証言を変えるに至つたが、この最後の点は措信することができない。また、同女は右公判で「顔だけを見たが、襟のところまで見えた記憶がある」と述べていたのに、原審第一九回公判では前記のとおり上半身も見えたなどと言い出したが、この後の証言も措信することができない。そして、甲女の検察官調書によると、同女の視力は0.1位で、犯人目撃時眼鏡を掛けていなかつたことがうかがわれる。更に、犯人を目撃した時間は、甲女の同第四回公判供述によれば、「ほんの数秒」だつたというのである。犯人は同女から「どなた」と声を掛けられてその方を向き、同女と目が合い、「部屋を間違えたのかな」と言つて左(北、同女から見て右)へ移動したと思われ、その間せいぜい四、五秒であつたと考えられる。
以上によれば、甲女が犯人を目撃したのは、わずか数秒間、視力約0.1の裸眼で、一度に顔全部は見えないような細い透き間を通してである。見えた範囲は、頭、顔とせいぜいシャツの襟程度であると認められる。同女が、被告人が付近で捕まつたことなどの他の知識を借りることなく、右の目撃の記憶だけで、たとえそれから短時間後にであつても、犯人を確実に識別できたかどうか、甚だ疑わしい(その識別の信用性を担保するためには、数名の他人を加えてその中から犯人を選ばせるべきであつた)。したがつて、少なくとも甲女の供述のみによつて被告人を犯人と断定することは危険であるといわなければならない。原判決は、原裁判所の検証の結果により、甲女の位置から被告人の容貌、体格、身長等を容易に看取することができることは明白であり、甲女の供述がまことに正確なものであることを知り得る旨判示するが、これにも被告人を犯人と想定した上での判断が含まれていると考えざるを得ない。
加えて、甲女の供述中には、被告人を犯人と考えるについていささか疑問となる点がある。第一に、甲女は「犯人は前かがみでのぞき込んでいた」と証言するが(第四回公判)、本件窓の上端は廊下床面から一六七センチメートルあり、被告人が前かがみになつてのぞき込むことは不可能である。第二に、被告人は両眼視力約0.1の近視で、日常眼鏡を着用している(運転免許にも「眼鏡等」の条件が付いている)のに、甲女の見た犯人は眼鏡を掛けていなかつたことである。原判決の説示する変装説は、同じ判決が本件犯行を偶発的なものと認めていることとも矛盾する嫌いがあり、到底首肯することができない。第三に、のぞきの犯人が「どなた」と声を掛けられれば、大概逃げ出すであろう。本件現場では、家の中から見て左(南)の方へ行き、階段を下りることになる。しかし、甲女は犯人が左の方へ行くのは見ていない。被告人であつたとすれば、サンダルをはいていたのであるから、その音は同女に聞こえたはずである。しかし、同女はそのような音も聞いていないようである。これらの点をも考慮すると、同女の供述は、犯人と被告人との同一性を示す証拠としては、原判決の見るほど強い証明力を有するものとは認められない。
もちろん、本件については、直接証拠たる甲女の供述のほかに、状況証拠がある。すなわち、先に認定した被告人逮捕の経緯から明らかなとおり、被告人は、甲女が犯人目撃後間もなく(といつても八分位はあつたと考えられる)現場から約二五〇メートル離れた路上を現場から離れる方向に歩いていたもので、その特徴は被害者が届け出た人相着衣とほぼ一致していた(もつとも、その人相着衣等はごくありふれたものである)のであるから、被告人に本件犯行の嫌疑があることはいうまでもない。しかし、右に述べたとおり甲女の供述の証明力はあまり高く評価することができないのであるから、その供述に右状況証拠を併せても、いまだ被告人を犯人と断定するには足りない。
以上のとおりで、本件公訴事実については十分な犯罪の証明がないといわなければならないから、刑訴法三三六条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
よつて、主文のとおり判決する。
(小野慶二 安藤正博 長島孝太郎)

2.違法逮捕と勾留

+第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
○2  前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
○3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4  裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない

+第二百六条  検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる
○2  前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない

・逮捕前置主義は「適法な逮捕」であることを当然の前提とするのか・・・?

・逮捕前置主義の趣旨
被疑者の身体の拘束に当たり、最初から長期間の拘束である勾留よりも、まず短時間の拘束である逮捕を先行させ、
被疑者の人身の保護を全うする!

・勾留請求に先行する逮捕手続の瑕疵のうち、明文のある身柄拘束時間制限超過に匹敵するような重大な違法が認められる場合には、勾留裁判官はそのような重大な違法手続に基づく勾留請求を却下すべき!

・逮捕に不服申し立て手続きがないことを論拠とする考え方も。

3.違法逮捕と再逮捕の可否

+第百九十九条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2  裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3  検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない

~当初の逮捕が適法の場合~
・同一の事件について再逮捕再勾留をすることは原則として許されない!
←逮捕勾留による身柄の拘束期間について厳格な制限を設けているから

しかし、199条3項が再逮捕が許される場合があることを前提としているのでは・・・
捜査の流動性

→自由侵害を凌駕する合理的な理由が必要。
要件
①先の逮捕後の事情の変更
②被逮捕者の利益と対比してみても再逮捕は真にやむを得ないとき
(③逮捕の不当な蒸し返しといえない)

~当初の逮捕が違法な場合~
違法の程度が極めて重大で、当該被疑者に対する身柄拘束処分の続行がおよそ相当でないと認められる場合以外は再逮捕が許容される場合がある。

・司法の無瑕性、違法捜査の抑止の観点から判断する方法も。

4.設問の検討

QA
+判例(東京高判H17.11.16)
要旨
被害者や目撃者が捜査機関でない私人に逮捕を依頼したような場合は、被害者に代わって逮捕した(現認者による逮捕への補助ないし協力)と認定しやすい。
捜査機関の場合は・・・

・釈放後の再勾留
+判例(東京地判S47.4.4)
要旨
1.ある犯罪事実で逮捕勾留され、期間満了で釈放された後でも、例外的に同一事実により再度逮捕勾留することが許される。


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民法 事例で学ぶ民法演習 2 失踪宣告


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1.Aの質問事項(1)
(1)Aは甲不動産をEから取り戻せるか
a)失踪宣告の取消しの効果

+(失踪の宣告の効力)
第三十一条  前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

+(失踪の宣告)
第三十条  不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2  戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

+(失踪の宣告の取消し)
第三十二条  失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない
2  失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
・「善意」=行為当時において失踪宣告の取消事由(失踪者の生存又は異時死亡)を知らないこと。
・「行為」=法律行為
b)双方善意説と相手方善意説
双方善意説=処分行為者と相手方の双方の善意を要する
←処分行為者が悪意であるときも失踪者が財産を失うのは酷である。
c)絶対的構成と相対的構成
絶対的構成
=Dが32条1項後段で所有権を絶対的に取得する場合には、その特定承継人であるEも絶対的に所有権を取得する
d)Eは悪意か
「悪意」=単に失踪宣告取消事由を知っているだけでなく、当該「行為」が失踪者に不利となるものであると知っていることも含む・・・・と考えるか・・・
(2)Aが甲不動産をEから取り戻せない場合
703条
704条 年5分の利息も(404条)
2.Aの質問事項(2)
3.Aの質問事項(3)
・身分行為には32条1項後段は適用されるならば、
善意なら、前婚が復活しない。
悪意なら、前婚が復活→重婚に。
・身分行為における当事者の意思と現にある事実状態の尊重の必要性から、主観的態様にかかわらず、前婚は復活せず、後婚のみが有効という考え方も。


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