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Ⅰ はじめに
1.転貸借関係をめぐる諸問題
・賃来借契約が終了すれば、転借人は転貸借を賃貸人に対抗できず、賃貸人による目的物の返還請求に応じなければならなくなるのが原則
・借地借家法
+(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
第三十四条 建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
2 建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。
2.サブリースとは
不動産業者(ディベロッパー)が転貸事業を行うため、不動産所有者(オーナー)の建てた建物を一括して賃借する契約
賃貸人は転貸の承諾をするという以上に、転貸借契約の成立に積極的かつ密接なかかわりをもっているといえ、このことは転貸借の存続に対する責任の議論にも一定の影響を及ぼす。
Ⅱ 賃料減額請求の可否
1.借地借家法32条の賃料増額請求
+(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
32条は強行規定!
2.サブリースをめぐる議論
借地借家法32条がサブリースにも適用されるのか?
そもそも借地借家法は立場の弱い賃借人を保護する趣旨のものであり、そのことは、不増額特約があるときは増額ができないとされていること(32条1項ただし書き)にもうかがえる。
⇔サブリースでは、賃借人は業界大手の不動産業者であり、不動産業において素人ともいうべきオーナーこそ保護に値するのではないか・・・
・サブリースも使用収益の対価として賃料を支払うという内容が含まれている以上、賃貸借契約なのは明らかであるとして、借地借家法32条の適用はある。
+判例(H15.10.21)
理由
第1 事案の概要
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 平成12年(受)第573号上告人・同第574号被上告人(以下「第1審被告」という。)は、不動産賃貸等を目的とする資本金867億円余の株式会社であり、我が国不動産業界有数の企業である。平成12年(受)第573号被上告人・同第574号上告人(以下「第1審原告」という。)は、不動産賃貸等を目的とする資本金約2億6000万円の株式会社である。
(2) 第1審原告は、昭和61年ころ、A株式会社からの勧めもあって、東京都文京区××外の土地上に賃貸用高層ビルを建築することを計画し、同年11月ころ、著名な建築家であるBに建物の設計を依頼し、同年12月ころ、B設計事務所との間で覚書を交わした。第1審原告は、昭和62年6月、第1審被告から、上記の土地上に第1審原告が建築したビルで第1審被告が転貸事業を営み、第1審原告に対して長期にわたって安定した収入を得させるという内容の提案を受け、第1審被告とも交渉を進めることとした。
そして、第1審原告は、昭和63年10月、第1審被告から、〈1〉第1審被告が、第1審原告使用部分を除き、ビル全館を一括して賃借し、第1審被告の責任と負担でテナントに転貸する、〈2〉賃料は、共益費を含め、年額23億1072万円とし、この賃料額は、テナントの入居状況にかかわらず変更しない、〈3〉賃料のうち19億9200万円については、3年経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額を値上げするとの提案を受け、第1審被告との間で契約を締結することとし、契約内容の具体化を進めた。
(3) 第1審原告は、昭和63年12月13日、第1審被告との間で、原判決別紙物件目録一記載の建物(通称「Cビル」。以下「本件建物」という。)のうち同目録二記載の部分(以下「本件賃貸部分」という。)を下記(4)の内容で第1審被告に賃貸する旨の予約をした。
第1審原告は、同月14日、上記予約で約定した敷金額49億4350万円のうち16億5500万円の預託を受けた。第1審原告は、D株式会社との間で本件建物の建築請負契約を締結し、同社に対し請負代金等合計212億円余を支払い、また、B設計事務所に対しても設計料18億円余を支払ったが、これらの支払のうち上記の敷金で賄いきれなかった181億円余については、銀行融資を受けた。
(4) 本件建物は、平成3年4月15日に完成し、第1審原告は、同月16日、上記予約に基づき、第1審被告との間で、次の内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件賃貸部分を第1審被告に引き渡した。
ア 第1審原告は、第1審被告に対し、本件賃貸部分を一括して賃貸し、第1審被告は、これを賃借し、自己の責任と負担において第三者に転貸し、賃貸用オフィスビルとして運用する。第1審被告は、転借人を決定するには、事前に第1審原告の書面による承諾を得る。
イ 賃貸期間は、本件建物竣工時から15年間とし、期間満了時には、双方協議の上、更に15年間契約を更新する。賃貸期間中は、不可抗力による建物損壊又は一方当事者の重大な契約違反が生じた場合のほかは、中途解約できない。
ウ 賃料は、年額19億7740万円、共益費は、年額3億1640万円とし、第1審被告は、毎月末日、賃料の12分の1(当月分)を支払う。
エ 賃料は、本件建物竣工時から3年を経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額の値上げをする(以下、この合意を「本件賃料自動増額特約」という。)。急激なインフレ、その他経済事情に著しい変動があった結果、値上げ率及び敷金が不相当になったときは、第1審原告と第1審被告の協議の上、値上げ率を変更することができる(以下、この合意を「本件調整条項」という。)。
オ 第1審被告は、第1審原告に対し、敷金として、総額49億4350万円を預託する。
カ 第1審被告が賃料等の支払を延滞したときは、第1審原告は、通知催告なしに敷金をもって弁済に充当することができ、この場合、第1審被告は、第1審原告から補充請求を受けた日から10日以内に敷金を補充しなければならない。
(5) 第1審被告は、第1審原告に対し、本件賃貸部分の賃料について、平成6年2月9日に、同年4月1日から年額13億8194万4000円に減額すべき旨の意思表示をしたのを最初として、同年10月28日に、同年11月1日から年額8億6863万2000円に減額すべき旨の意思表示を、平成9年2月7日に、同年3月1日から年額7億8967万2000円に減額すべき旨の意思表示を、平成11年2月24日に、同年3月1日から年額5億3393万9035円に減額すべき旨の意思表示を、それぞれ行った。
なお、第1審被告がテナントから受け取る本件賃貸部分の転貸料の合計は、平成6年4月当時、平成9年6月当時のいずれも月額1億1516万2000円であり、平成11年3月当時は約4581万円となり、同年4月以降は6000万円前後で推移している。
(6) 第1審被告は、第1審原告に対し、平成6年4月分から平成9年3月分まで賃料として月額1億4577万4527円を支払い、平成9年4月分から平成11年10月分まで賃料として月額1億4860万5099円(ただし、平成9年4月分及び平成10年4月分については、月額1億4860万5111円)を支払った。
(7) 第1審原告は、平成6年4月分から平成9年12月分までの約定賃料等と支払賃料等との差額分及びこれに対する遅延損害金を敷金から充当することとし、第1審被告に対し、敷金の不足分の補充を請求した。
2 本件本訴請求事件は、第1審原告が、第1審被告に対し、主位的に、本件賃料自動増額特約に従って賃料が増額したと主張して、上記敷金の不足分と平成10年1月分から平成11年10月分までの未払賃料との合計52億6899万5795円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、第1審被告の賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを前提として、借地借家法32条1項の規定により賃料が減額される可能性があることについて第1審被告に説明義務違反があるなどと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき上記金額と同額の損害賠償を求めるものである。
そして、本件反訴請求事件は、第1審被告が、第1審原告に対し、借地借家法32条1項の規定に基づき第1審被告の賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを主張して、本件賃貸部分の賃料が平成6年4月1日から同年10月末日までの間は年額13億8194万4000円、同年11月1日から平成9年2月末日までの間は年額8億6863万2000円、同年3月1日から平成11年2月末日までの間は年額7億8967万2000円、同年3月1日以降は年額5億3393万9035円であることの、それぞれ確認を求めるものである。
第2 平成12年(受)第573号上告代理人遠藤英毅、同今村健志、同戸張正子、同奈良次郎、同伊藤茂昭、同進士肇、同岡内真哉、同田汲幸弘、同奈良輝久の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 原審は、前記の事実関係の下で、次のとおり判断して、第1審原告の主位的請求を、35億2323万2445円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の主位的請求及び予備的請求を棄却し、第1審被告の反訴請求を棄却すべきものとした。
(1) 本件契約は、建物賃貸借契約の法形式を利用しているから、建物賃貸借契約の一種がその組成要素となっていることは否定できないが、典型的な賃貸借契約とはかなり異なった性質のものと認められ、その実質的機能や契約内容にかんがみると、建物賃貸借契約とは異なる性質を有する事業委託的無名契約の性質を持ったものと解すべきである。したがって、本件契約について、借地借家法の全面的適用があると解するのは相当ではなく、本件契約の目的、機能及び性質に反しない限度においてのみ同法の適用があるものと解すべきである。
本件契約は、その内容や交渉経過に照らせば、取引行為者として経済的に対等な当事者双方が、不動産からの収益を共同目的とし、それぞれがより多額の収益を確保するために、不動産の転貸から得られる収益の分配を対立的要素として調整合意したものであり、第1審原告は、収益についての定額化による安定化と将来にわたる確実な賃料増額を図るために、本件賃料自動増額特約を付し、本件賃貸部分を一括して賃貸することとして本件契約を締結したのであるから、その限りにおいて、本件契約においては賃料保証がされているものと解される。そして、本件契約においては、本件賃料自動増額特約による賃料と現実の転貸料とのかい離が著しく不合理となったときに対処するために、本件調整条項が設けられているのであるから、本件契約にあっては、借地借家法32条1項所定の賃料増減額請求権の制度は、本件調整条項によって修正され、上記規定は、その手続や請求権の行使の効果など限定された範囲でのみ適用があると解するのが相当である。
(2) 第1審被告が平成6年2月9日及び平成9年2月7日にした賃料減額請求は、賃料自動増額の時期の到来に対抗してされたものであり、本件調整条項に基づく値上げ率を変更する旨の意思表示を含むものと解するのが相当である。そして、不動産市場や賃貸ビル市場の著しいマイナス変動により、賃料と転貸料との間に不合理な著しいかい離が生じていると認められるから、第1審被告が平成6年2月9日及び平成9年2月7日に本件調整条項に基づいて行った賃料の減額請求により、それぞれの時期の値上げ率が0%に変更されたものと認めるのが相当である。
以上によれば、本件契約の賃料は、平成6年4月以降も従前どおりの金額であるから、第1審原告の主位的請求に係る敷金の不足額と未払賃料との合計は、35億2323万2445円となる。
したがって、第1審原告の主位的請求は、35億2323万2445円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。また、第1審被告の反訴請求も、理由がない。
(3) 第1審原告の予備的請求については、第1審被告に説明義務違反等があるとは認められないから、理由がない。
2 しかしながら、原審の上記(1)、(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。(1)前記確定事実によれば、本件契約における合意の内容は、第1審原告が第1審被告に対して本件賃貸部分を使用収益させ、第1審被告が第1審原告に対してその対価として賃料を支払うというものであり、本件契約は、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、【要旨1】本件契約には、借地借家法が適用され、同法32条の規定も適用されるものというべきである。
本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法32条1項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁参照)、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない。
なお、前記の事実関係によれば、本件契約は、不動産賃貸等を目的とする会社である第1審被告が、第1審原告の建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり、あらかじめ、第1審被告と第1審原告との間において賃貸期間、当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え、第1審原告が、その協議の結果を前提とした収支予測の下に、建築資金として第1審被告から約50億円の敷金の預託を受けるとともに、金融機関から約180億円の融資を受けて、第1審原告の所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり、いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。そして、本件契約は、第1審被告の転貸事業の一部を構成するものであり、本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は、第1審原告が第1審被告の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって、本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は、本件契約の当事者が、前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に、重要な事情として十分に考慮されるべきである。
以上により、第1審被告は、借地借家法32条1項の規定により、本件賃貸部分の賃料の減額を求めることができる。そして、上記のとおり、【要旨2】この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度等)、第1審被告の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、第1審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。
(2) 以上によれば、本件契約への借地借家法32条1項の規定の適用を極めて制限的に解し、第1審原告の主位的請求の一部を認容し、第1審被告の反訴請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中第1審被告敗訴部分は破棄を免れない。そして、第1審被告の賃料減額請求の当否等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
第3 平成12年(受)第574号上告代理人升永英俊、同松添聖史の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
本件契約に借地借家法32条1項の規定が適用されることは、前記第2の2において説示したとおりであるから、論旨は採用することができない。しかしながら、前記のとおり、上記規定に基づく減額請求の当否等について審理しないまま第1審原告の主位的請求の一部を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、原判決中第1審原告敗訴部分は破棄を免れない。そして、第1審被告の賃料減額請求の当否等について更に審理を尽くさせるため、上記部分についても、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官藤田宙靖の補足意見がある。裁判官藤田宙靖の補足意見は、次のとおりである。
・サブリースであることの一事をもって一切減額が認められないとするのではなく、個別事案ごとに応じ減額の当否を判断できる柔軟な判断枠組みを。
3.設問1で考慮されるべき事情とは
・Bの賃料収入が減少したというだけでは32条の減額は認められそうにない・・・
・BC間に共同事業的要素がないわけではない。
→Cも賃料減少のリスクを覚悟すべきなのでは・・・
4.減額請求を全否定する可能性
・減額を認めなかった裁判例の中には、契約締結に至る事情や契約期間の短さのほか、契約締結の時期を考慮に入れたものもみられる。
・Cとの間ではあえて賃料を定額にしたのは、自身において営業利益の変動のリスクを引き受けることを前提に、Cと契約を結んだとみてよいのではないか。
Ⅲ 賃貸借契約の解除と転貸人の賃料支払い請求
1.転貸借契約の終了時期をめぐって
・賃貸人は転借人に対して
目的物の明渡しを請求
目的物の使用収益につき不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求
・転貸人の転借人に対する転貸賃料の支払い請求の可否については、転貸借契約の終了時期をいつとみるのかで結論が変わりうる・・・
返還請求時説(賃貸人から返還請求がなされた時に転貸人の債務が履行不能になり転貸借が終了する)
2.最高裁平成9年判決
+判例(H9.2.25)
理由
上告代理人須藤英章、同関根稔の上告理由について
一 被上告人の本訴請求は、上告人らに対し、(一) 主位的に本件建物の転貸借契約に基づいて昭和六三年一二月一日から平成三年一〇月一五日までの転借料合計一億三一一〇万円の支払を求め、(二) 予備的に不当利得を原因として同額の支払を求めるものであるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は、本件建物を所有者である訴外有限会社田中一商事から賃借し、同会社の承諾を得て、これを上告人キング・スイミング株式会社に転貸していた。上告人株式会社コマスポーツは、上告人キング・スイミング株式会社と共同して本件建物でスイミングスクールを営業していたが、その後、同会社と実質的に一体化して本件建物の転借人となった。
2 被上告人(賃借人)が訴外会社(賃貸人)に対する昭和六一年五月分以降の賃料の支払を怠ったため、訴外会社は、被上告人に対し、昭和六二年一月三一日までに未払賃料を支払うよう催告するとともに、同日までに支払のないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。しかるに、被上告人が同日までに未払賃料を支払わなかったので、賃貸借契約は同日限り解除により終了した。
3 訴外会社は、昭和六二年二月二五日、上告人ら(転借人)及び被上告人(貸借人)に対して本件建物の明渡し等を求める訴訟を提起した。
4 上告人らは、昭和六三年一二月一日以降、被上告人に対して本件建物の転借料の支払をしなかった。
5 平成三年六月一二日、前記訴訟につき訴外会社の上告人ら及び被上告人に対する本件建物の明渡請求を認容する旨の第一審判決が言い渡され、右判決のうち上告人らに関する部分は、控訴がなく確定した。
訴外会社は平成三年一〇月一五日、右確定判決に基づく強制執行により上告人らから本件建物の明渡しを受けた。
二 原審は、右事実関係の下において、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約が被上告人の債務不履行により解除されても、被上告人と上告人らとの間の転貸借は終了せず、上告人らは現に本件建物の使用収益を継続している限り転借料の支払義務を免れないとして、主位的請求に係る転借料債権の発生を認め、上告人らの相殺の抗弁を一部認めて、被上告人の主位的請求を右相殺後の残額の限度で認容した。
三 しかしながら、主位的請求に係る転借料債権の発生を認めた原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が賃貸人に転借権を対抗し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、訴外会社と被上告人との間の賃貸借契約は昭和六二年一月三一日、被上告人の債務不履行を理由とする解除により終了し、訴外会社は同年二月二五日、訴訟を提起して上告人らに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、被上告人と上告人らとの間の転貸借は、昭和六三年一二月一日の時点では、既に被上告人の債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求める被上告人の主位的請求は、上告人らの相殺の抗弁につき判断するまでもなく、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第一審判決を取り消して、被上告人の主位的請求を棄却すべきである。また、前記事実関係の下においては、不当利得を原因とする被上告人の予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
3.返還請求時説以外の見解
4.設問2ではどうなるか
・まだ甲建物の返還請求はなされていない。
返還請求がなされていない場合でも、社会通念上、転借県の対抗力回復を不能と評価し、転貸借契約の終了を認める余地をH9年判決は排除していない・・・
Ⅳ 期間満了による賃貸借の終了と転借人への明渡請求
1.明渡請求に関する判例法理
・賃貸人から転借人に対する明け渡し請求
賃借人の債務不履行による解除に基づく場合→肯定!
合意解除による場合→否定!
←398条や信義則等を根拠。
・賃借人の更新拒絶により賃貸借契約が終了した場合、債務不履行解除と合意解除のいずれと同じ結論がとられるべきか・・・
2.平成14年判決とその評価
・サブリースにかかる事案において、賃貸人から転借人に対する明け渡し請求を認めなかった!
+判例(H14.3.28)
理由
上告代理人桑島英美、同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、昭和50年初めころ、ビルの賃貸、管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより、当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し、訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ、これにより安定的に収入を得ることを計画し、昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては、訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し、その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ、訴外会社又はその指定した者が設計、監理、施工を行うこととされた。
(2) 本件ビルの敷地のうち、小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20㎡は、もとAの所有地であったが、被上告人代表者は、これを本件ビル敷地に取り込むため、訴外会社を通じて買収交渉を行い、訴外会社がAに対し、ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので、Aは、その旨の念書を取得して、上記土地を被上告人に売却した。
(3) 被上告人は、昭和51年11月30日、訴外会社との間で、本件ビルにつき、期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし、被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は、本件賃貸借において、訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。
(4) 訴外会社は、昭和51年11月30日、Aとの間で、本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき、期間を同日から平成8年11月30日まで、使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。
(5) Aは、昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て、株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で、本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき、期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し、京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ、上告人らが管財人に選任された。
(6) 訴外会社は、転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし、平成6年2月21日、被上告人に対して、本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。
(7) 被上告人は、平成7年12月ころ、A及び京樽に対し、本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。
(8) 被上告人は、本件賃貸借終了後も、自ら本件ビルを使用する予定はなく、A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが、Aとの間では、被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため、協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。
(9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており、本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため、同店はその経営上重要な位置を占めている。
2 被上告人の本件請求は、上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ、上告人らは、信義則上、本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。
原審は、上記事実関係の下で、被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は、A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり、それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと、本件賃貸借の存続期間は、民法の認める最長の20年とされ、かつ、本件転貸借の期間は、その範囲内でこれと同一の期間と定められているから、A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと、訴外会社は、その採算が悪化したために、上記期間が満了する際に、本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって、そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として、被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方、京樽も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。
【要旨】このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。
これと異なり、被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから、上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)
3.平成9年判決との異同を考える
H14年判決の「加功」というのは、転借人との関係で、賃貸人が転貸人と同様の責任を負わせるにふさわしい立場にあるかどうか
4.設問3ではどうなるか
Ⅴ おわりに
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