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1.訴訟担当の意義と分類
・第三者による訴訟担当とは
訴訟物たる権利義務の主体とはされていない第三者が、その訴訟物について当事者適格を認められ、その第三者の受けた判決の効力が実体法上の権利義務の主体とされている者に対しても及ぶ場合をいう。
・担当者
訴訟の当事者となる者
・被担当者
権利義務の主体とされている者
・訴訟担当の場合には、担当者が自ら当事者となり、被担当者は訴訟外の第三者にとどまる
2.法定訴訟担当
(1)法定訴訟担当の諸類型
ⅰ)担当者のための法定訴訟担当
債権者代位訴訟など
ⅱ)職務上の当事者
破産管財人
遺言執行者など
相続財産管理人については、判例は相続人の法定代理人であるとする。
+α遺言執行者の当事者適格
・遺産に属する財産の保全や回復のための訴えについては、遺言執行者と受遺者等とがいずれも原告適格を有する
・受遺者が遺贈の対象とされた不動産の移転登記請求を求める訴えの被告適格は遺言執行者のみにある(×登記名義人である相続人)
・遺言無効を理由として相続による共有持分権の確認を求める訴えについても、遺言執行者が被告適格を有する
(2)債権者代位訴訟の取り扱い
・代位債権者の請求を棄却する判決の効力が被担当者に及ぶことが十分に正当化できるか?
①担当者と被担当者の利害が対立する場合には、担当者の受けた判決が有利な場合のみ被担当者に判決効が及ぶとする考え方
⇔第三債務者の立場からすると、代位債権者に対して勝訴しても、再度債務者からの提起があれば応訴を強いられてしまうという問題がある
②代位債権者は、もっぱら自己の固有の利益のために訴訟追行するのであるから、これを訴訟担当とみることは適切でなく、むしろ、第三者の権利の確認訴訟などの場合と同様に、固有の当事者適格に基づいて訴訟追行する者である。
第三債務者としては、債務者を代位訴訟に引き込むこともできる
→訴訟担当ではないから、代位債権者の受けた判決の効力が債務者に及ぶことはない。
⇔第三債務者の二重応訴の負担
③債権者代位訴訟が法定訴訟担当であること、代位債権者の受けた判決の効力が有利にも不利にも債務者に及ぶことを前提としつつ、代位債権者による訴訟担当が認められるための条件として、債務者に告知することを要求するという考え
第三債務者としては、債務者の引き込みという措置をとるという負担なく、二重応訴の危険を免れることになる
3.任意的訴訟担当
(1)任意的訴訟担当の意義
任意的訴訟担当
=権利義務の帰属主体とされる者からの授権に基づいて第三者に訴訟担当者としての当事者適格が認められる場合をいう
明文の場合
+(選定当事者)
第三十条 共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。
2 訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3 係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4 第一項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5 選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。
(2)任意的訴訟担当の適法性
ⅰ)問題の所在
①弁護士代理の原則(54条1項本文)や信託法における訴訟信託の禁止(信託10条)のように、権利義務主体以外の第三者による訴訟追行を制限する規律が潜脱される。
これらの規律は、一方では訴訟手続きの円滑な進行という訴訟制度運営者や相手方当事者の利益にかかわる。
他方では、三百代言といった職業の発生を防止し、弁護士による訴訟代理の基盤を保障するという点で、訴訟制度の他の利用者の利益にもかかわるものであることから、権利義務主体による任意の手段を許さない強行法規とされている。
②権利義務主体による授権があるだけで、担当者の受けた判決の効力を被担当者に及ぼしてよいかという点も自明ではない。
判決効は、当事者として手続き保証を与えられたものだけに及ぶのが原則だから。
③当事者が権利義務主体ではなく担当者だということになれば、訴訟費用の負担者などの点で、不利益を受ける可能性がある。
ⅱ)学説
実質的関係説
担当者側の利益を考慮
①担当者自身が訴訟の結果について補助参加の利益と同様の利害関係を有している場合
②担当者が権利関係の発生・管理に現実に密接に関与し、権利主体と同程度に権利関係に知識を有する場合
③緊急避難的な場合
まあだいたいの学説は
①権利義務主体側の必要性・要保護性
②訴訟物、権利義務主体の実体法上の地位と、担当者の実体法上の地位の関連性
ⅲ)裁判例
・弁護士代理の原則および訴訟信託の禁止の規律を回避潜脱するおそれがなく、任意的訴訟担当を認める合理的必要がある場合には許される。
+判例(S45.11.11)
理由
上告代理人酒見哲郎の上告理由第一点について。
記録によれば、本訴は、被上告人が「互」建設工業共同企業体との間に締結した請負契約を解除したことによつて同企業体の蒙つた損害の賠償を、上告人が原告として訴求するものであるところ、原審は、上告人が本訴につき当事者適格を有しないことを理由に、次のように説示して、本件訴を不適法として却下した。すなわち、「互」建設工業共同企業体は、和歌山県知事の発注にかかる七、一八水害復旧建設工事の請負及びこれに付帯する事業を共同で営むことを目的とし、上告人ほか四名の構成員によつて組織された民法上の組合であり、その規約上、代表者たる上告人は、建設工事の施行に関し企業体を代表して発注者及び監督官庁等第三者と折渉する権限ならびに自己の名義をもつて請負代金の請求、受領及び企業体に属する財産を管理する権限を有するものと定められているものである。しかるところ、右企業体は民法上の組合であるから、訴訟の目的たる右損害賠償請求権は組合員である企業体の各構成員に本来帰属するものであるが、上告人は、前示組合規約によつて、組合代表者として、自己の名で前記の請負代金の請求、受領、組合財産の管理等の対外的業務を執行する権限を与えられているのであるから、上告人は、自己の名で右損害賠償請求権を行使し、必要とあれば、自己の名で訴訟上これを行使する権限、すなわち訴訟追行権をも与えられたものというべきである。したがつて、本件は、組合員たる企業体の各構成員が上告人に任意に訴訟追行権を与えたいわゆる任意的訴訟信託の関係にあるが、訴訟追行権は訴訟法上の権能であり、民訴法四七条のような法的規制によらない任意の訴訟信託は許されないものと解すべきであり、上告人が実体上前記の権限を与えられたからといつて、これが訴訟追行権を認めることはできず、上告人は、本訴につき当事者適格を有しないというのである。
ところで、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがつて、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのである。しかし、それに限られるものでないのはもとよりであつて、たとえば、第三者であつても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。
そして、このようないわゆる任意的訴訟信託については、民訴法上は、同法四七条が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制度を設けこれを許容しているのであるから、通常はこの手続によるべきものではあるが、同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。
そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであつて、民訴法四七条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。したがつて、当裁判所の判例(昭和三四年(オ)第五七七号・同三七年七月一三日言渡第二小法廷判決・民集一六巻八号一五一六頁)は、右と見解を異にする限度においてこれを変更すべきものである。
そして、本件の前示事実関係は記録によりこれを肯認しうるところ、その事実関係によれば、民法上の組合たる前記企業体において、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員たる上告人は、組合財産に関する訴訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、本訴につき自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するものというべきである。しかるに、これと異なる見解のもとに上告人が右の当事者適格を欠くことを理由に本件訴を不適法として却下した原判決は、民訴法の解釈を誤るもので、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官松田二郎は退官につき評議に関与しない。
(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 入江俊郎 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 田中二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷)
任意的訴訟担当を許容するにあたって、担当者の実体法上の地位・権限を重視している!
5選定当事者
(1)選定当事者制度の意義
・選定当事者とは、
共同の利益を有する多数の者が、その中から全員のために当事者となるべき者を選定し、その者に訴訟追行をさせることを認める制度(30条)
+(選定当事者)
第三十条 共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。
2 訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3 係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4 第一項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5 選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。
・選定する側を選定者
選定されて当事者となる側を選定当事者と呼ぶ。
・共同の利益を有する多数の者がそのまま共同訴訟人として訴訟を追行するのでは、手続の信仰が複雑かつ負担の重い者になることから、当事者を少数の者に絞ることによって、訴訟手続の単純化を可能にした。
(2)選定当事者の要件
・共同の利益を有するとは、
38条の共同訴訟の要件を相互に満たす者であって、主要な攻撃防御の方法を共通する者であれば足り、必要的共同訴訟の要件や、38条前段の要件を満たす必要はない。
・共同の利益を有する多数者が29条にいう法人でない社団をを構成する場合には、社団による訴訟追行が可能であることから、選定当事者制度の適用はない。
・選定行為は特定の訴訟に対して個別的にされる必要がある。
(3)選定後の手続
・訴訟係属前の選定
選定当事者が原告として訴訟追行する場合、選定者の請求についても当事者適格を取得し、自己の請求と選定者の請求とを併合して訴えを提起することになる
被告として訴訟追行をする場合
相手方である原告の知らないうちに選定行為がされたことによって選定者を被告とした訴えが不適法とされるのでは、原告の保護にかける結果となるから、36条2項を類推して、訴訟係属前に選定の通知をしない限り、選定の効果は生じないと解すべき。
・訴訟係属後の選定
既存当事者による選定であれば、選定者は当然に訴訟から脱退し、以後、選定当事者のみが当事者として訴訟を追行することになる。
・選定当事者は、訴えの取り下げや訴訟上の和解、請求の放棄認諾等についても、特別の授権を受けることなく可能。そうした権限に制限を加えても無効。
+判例(S43.8.27)
理 由
上告人らの上告理由について。
論旨は、強迫を理由に本件和解の意思表示を取り消す旨を主張するが、記録に照らしても、上告人らが原審において強迫にあたる具体的事実を主張した形跡はないから、原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ。)が右取消しの主張を採用しなかつたことに違法はない。
次に論旨は、選定当事者である上告人らが選定者竹村昭夫から和解の権根を与えられていなかつたから、本件和解は無効であると主張する。しかし、選定当事者は、訴訟代理人ではなく当事者であるから、その権限については民訴法八一条二項の適用を受けず、訴訟上の和解を含むいつさいの訴訟行為を特別の委任なしに行なうことができるものであり、かつ、選定行為においてもその権限を制限することのできないものであつて、たとい和解を禁ずる等権限の制限を付した選定をしても、その選定は、制限部分が無効であり、無制限の選定としての効力を生ずるものと解するのが相当である。原判決は本件和解当時竹村昭夫が上告人らを当事者として選定していた事実を認定しているものと解されないことはなく、右認定は記録に照らして是認できないものではないから、その選定において、特に和解の権限が授与されず、かえつて所論のようにその権限を与えない旨の留保が示されていたとしても、上告人らが訴訟上の和解をすることは当然にその訴訟上の権限に属するところであつて、それが選定者に対する受任義務に反するかどうかは別として、そのために和解の効力が妨げられるものではないというべきである。
したがつて、本件和解が有効に成立したものと認めた原判決の結論は正当であつて、その判断に所論の違法はなく、なお論旨中違憲をいう部分もその実質は右と異なる見解に出で原判決の判断の違法を主張するものであつて、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)
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