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1.証明および証拠の基本理念
事実認定が原則として証拠による必要があるのは、訴訟における判断過程の公平性と客観性を担保するため。
2.証明および証拠の諸概念
(1)証明と疎明
・証明度
=裁判官の心証の程度が、いかなるレベルに達した場合に事実認定をすべきかについての基準
・心証度
=証明度の基準にあてはめる裁判官の心証の程度
・証明
=裁判官の心証度が証明度を超えた状態
・民事訴訟の証明度
要証事実が存在することについての「高度の蓋然性」であり、その判定は通常人が疑いをさしはさまない程度の確信を持ちうるものであることが必要。
+判例(S50.10.24)
理由
上告代理人萩沢清彦、同内藤義憲の上告理由第一点及び第三点について
一 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
二 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実は次のとおりである。
1 上告人(当時三才)は、化膿性髄膜炎のため昭和三〇年九月六日被上告人の経営する東京大学医学部附属病院小児科へ入院し、医師A、同Bの治療を受け、次第に重篤状態を脱し、一貫して軽快しつつあつたが、同月一七日午後零時三〇分から一時頃までの間にB医師によりルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入、以下「本件ルンバール」という。)の施術を受けたところ、その一五分ないし二〇分後突然に嘔吐、けいれんの発作等(以下「本件発作」という。)を起し、右半身けいれん性不全麻痺、性格障害、知能障害及び運動障害等を残した欠損治癒の状態で同年一一月二日退院し、現在も後遺症として知能障害、運動障害等がある。
2 本件ルンバール直前における上告人の髄膜炎の症状は、前記のごとく一貫して軽快しつつあつたが、右施術直後、B医師は、試験管に採取した髄液を透して見て「ちつともにごりがない。すつかりよくなりましたね。」と述べ、また、病状検査のため本件発作後の同年九月一九日に実施されたルンバールによる髄液所見でも、髄液中の細胞数が本件ルンバール施術前より減少して病状の好転を示していた。
3 一般に、ルンバールはその施術後患者が嘔吐することがあるので、食事の前後を避けて行うのが通例であるのに、本件ルンバールは、上告人の昼食後二〇分以内の時刻に実施されたが、これは、当日担当のB医師が医学会の出席に間に合わせるため、あえてその時刻になされたものである。そして、右施術は、嫌がつて泣き叫ぶ上告人に看護婦が馬乗りとなるなどしてその体を固定したうえ、B医師によつて実施されたが、一度で穿刺に成功せず、何度もやりなおし、終了まで約三〇分間を要した。
4 もともと脆弱な血管の持主で入院当初より出血性傾向が認められた上告人に対し右情況のもとで本件ルンバールを実施したことにより脳出血を惹起した可能性がある。
5 本件発作が突然のけいれんを伴う意識混濁ではじまり、右半身に強いけいれんと不全麻痺を生じたことに対する臨床医的所見と、全般的な律動不全と左前頭及び左側頭部の限局性異常波(棘波)の脳波所見とを総合して観察すると、脳の異常部位が脳実質の左部にあると判断される。
6 上告人の本件発作後少なくとも退院まで、主治医のA医師は、その原因を脳出血によるものと判断し治療を行つてきた。
7 化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時他にこれが再燃するような特別の事情も認められなかつた。
三 原判決は、以上の事実を確定しながら、なお、本件訴訟にあらわれた証拠によつては、本件発作とその後の病変の原因が脳出血によるか、又は化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれによるかは判定し難いとし、また、本件発作とその後の病変の原因が本件ルンバールの実施にあることを断定し難いとして上告人の請求を棄却した。
四 しかしながら、(1)原判決挙示の乙第一号証(A医師執筆のカルテ)、甲第一、第二号証の各一、二(B医師作成の病歴概要を記載した書翰)及び原審証人Aの第二回証言は、上告人の本件発作後少なくとも退院まで、本件発作とその後の病変が脳出血によるものとして治療が行われたとする前記の原審認定事実に符合するものであり、また、鑑定人Cは、本件発作が突然のけいれんを伴う意識混濁で始り、後に失語症、右半身不全麻痺等をきたした臨床症状によると、右発作の原因として脳出血が一番可能性があるとしていること、(2)脳波研究の専門家である鑑定人Dは、結論において断定することを避けながらも、甲第三号証(上告人の脳波記録)につき「これらの脳波所見は脳機能不全と、左側前頭及び側頭を中心とする何らかの病変を想定せしめるものである。即ち鑑定対象である脳波所見によれば、病巣部乃至は異常部位は、脳実質の左部にあると判断される。」としていること、(3)前記の原審確定の事実、殊に、本件発作は、上告人の病状が一貫して軽快しつつある段階において、本件ルンバール実施後一五分ないし二〇分を経て突然に発生したものであり、他方、化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時これが再燃するような特別の事情も認められなかつたこと、以上の事実関係を、因果関係に関する前記一に説示した見地にたつて総合検討すると、他に特段の事情が認められないかぎり、経験則上本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これが本件ルンバールに困つて発生したものというべく、結局、上告人の本件発作及びその後の病変と本件ルンバールとの間に因果関係を肯定するのが相当である。
原判決の挙示する証人E、同Fの各証言鑑定人C、同G、同D及び同Fの各鑑定結果もこれを仔細に検討すると、右結論の妨げとなるものではない。
五 したがつて、原判示の理由のみで本件発作とその後の病変が本件ルンバールに困るものとは断定し難いとして、上告人の本件請求を棄却すべきものとした原判決は、因果関係に関する法則の解釈適用を誤り、経験則違背、理由不備の違法をおかしたものというべく、その違法は結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点で理由があり、原判決は、その余の上告理由についてふれるまでもなく破棄を免れない。そして、担当医師らの過失の有無等につきなお審理する必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
+判例(H12.7.18)
・疎明
=証拠による裏付けが証明の程度に至らない状態であっても、裁判官が一応確からしいとの心証に基づいて事実認定を行ってもよいとするもの
+(疎明)
第百八十八条 疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない。
(2)厳格な証明と自由な証明
・厳格な証明
=民事訴訟に規定された法定の手続に基づいて行われる証明
・自由な証明
=法定の手続によらずに行われる証明
・訴訟物の判断をするための証明については、厳格な証明。
職権調査事項は自由な証明で足りる。
←職権調査事項について、迅速かつ柔軟な手続の進行を確保するため。
(3)証拠の種類
・証拠
=当事者間に争いがある事実の存否を確定するために、裁判所が判断資料として用いるための客観的な資料。
・証拠方法
=人間が感知できる証拠調べの対象となるもの。
有形物であると無形物であるとを問わない。
人証
=証人・当事者・鑑定人
物証
=書証・検証
・証拠能力
=人や物が証拠方法となりうる法律上の適性
・証拠資料
=証拠方法の取り調べによって得られた情報
・証明力
=証拠資料が要証事実の認定に役立つ程度
自由心証主義のもとでは、証明力の判断は、原則として裁判官の自由な判断にゆだねられている。
自由心証主義の内在的制約として、経験則に反する判断はできない。
・証拠原因
=要証事実の認定において裁判官の心証形成の原因となったもの
(4)証拠能力の制限
民事訴訟では、原則として証拠能力に制限はない
例外
+(疎明)
第百八十八条 疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない。
+(忌避)
第二百十四条 鑑定人について誠実に鑑定をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、その鑑定人が鑑定事項について陳述をする前に、これを忌避することができる。鑑定人が陳述をした場合であっても、その後に、忌避の原因が生じ、又は当事者がその原因があることを知ったときは、同様とする。
2 忌避の申立ては、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官にしなければならない。
3 忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4 忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
+(証拠調べの制限)
第三百五十二条 手形訴訟においては、証拠調べは、書証に限りすることができる。
2 文書の提出の命令又は送付の嘱託は、することができない。対照の用に供すべき筆跡又は印影を備える物件の提出の命令又は送付の嘱託についても、同様とする。
3 文書の成立の真否又は手形の提示に関する事実については、申立てにより、当事者本人を尋問することができる。
4 証拠調べの嘱託は、することができない。第百八十六条の規定による調査の嘱託についても、同様とする。
5 前各項の規定は、裁判所が職権で調査すべき事項には、適用しない。
+少額訴訟において
(証拠調べの制限)
第三百七十一条 証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限りすることができる。
・証拠制限契約がある場合
←弁論主義から有効。
ただし、既に取り調べが終わった証拠方法を事後的に提出されなかったものとする合意は、いったん形成された裁判所の自由心証を侵害するので許されない。
・違法収集証拠
証拠が著しく反社会的な手段を用いて人の人権侵害を伴う方法によって収集されたものであるときは、その証拠能力を否定されることがある。
・証拠方法が証拠能力を欠くものと判断された場合には、その証拠は取り調べをすることなく却下される。
(5)証拠の機能
・直接証拠
=主要事実を証明するための証拠
・間接証拠
=間接事実や補助事実を証明するための証拠
・証拠共通の原則
得られた証拠資料は、証拠の申出をした当事者のために有利に利用されるだけではなく、相手方の有利に利用することもできる
←弁論主義が、当事者と裁判所の間の役割分担に関する原則であり、裁判所はいずれの当事者がその証拠を申し出たかに関係なく、証拠調べの結果に基づいて自由に心証を形成することができるから。
3.事実認定の方法
(1)事実認定の資料
+(自由心証主義)
第二百四十七条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
・私知利用の禁止
裁判官が訴訟手続外で入手した私知を用いることは、判断過程の客観性が担保されないことを意味し、ひいては当事者の手続保障を不当に害することになるので許されない。
・証拠調べの結果
=当事者が申し出た証拠方法について裁判所と当事者によって法定の証拠調べを行った結果得られた証拠資料としての情報のこと。
+(証拠の申出)
第百八十条 証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない。
2 証拠の申出は、期日前においてもすることができる。
(証拠調べを要しない場合)
第百八十一条 裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しない。
2 証拠調べについて不定期間の障害があるときは、裁判所は、証拠調べをしないことができる。
・口頭弁論の全趣旨
=証拠調べの結果を除く口頭弁論に現れた一切の資料
・口頭弁論の全趣旨のみによって事実認定が認められるかどうかについては争いがある。
(2)自由心証主義
=裁判における事実の認定において、証拠方法の採否と取り調べた証拠の証明力の評価を原則として裁判官の自由な心証に委ねる建前
=証拠方法の自由選択+証明力の自由評価
・証拠方法の自由選択については、証拠能力を制限する明文規定、証拠制限契約、違法収集証拠に関する法理などの例外がある。
・証明力の自由評価については、合理的な事実認定を担保するための内在的な制約として経験則による拘束がある。
経験則とは、経験から帰納された法則や知識
・事実上の推定
=経験則に従って行われる推論
・経験則に違反した事実認定は247条に違反するものとして上告理由となりうる(312条3項)
+(上告の理由)
第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。
(3)損害額の認定
ⅰ)248条の意義
+(損害額の認定)
第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
損害金額の立証が困難であるために損害賠償自体が認められないとするのは不当であり、社会の納得を得られないため。
ⅱ)248条の法的性質
・証明度軽減説
損害額の認定は損害発生の認定と同様にあくまでも事実証明の問題であるという理解を前提として、事実認定のために一般に必要とされる証明度を損害額の認定のために特に引き下げたもの。
・裁量評価説
損害額の認定はそもそも証拠による事実認定の問題ではなく、裁判所による法的評価であることを確認したもの、または裁量評価における自由度を規律したものとして理解。
ⅲ)248条の適用範囲
・慰謝料型
証拠による損害額の認定が理論的に不可能な場合については、実体法(民法710条)が裁量評価を認めているものと考えられる。
→裁量評価説に従えば248条の適用があることは当然。
証明度軽減説による場合にも、裁量評価によって損害金額を認定(証明度軽減説では248条ではなく、民法710条の解釈による!)。
・将来予測型
裁量評価説では当然に248条の対象になるが、証明度軽減説では難しい。
←将来予測型の事案では、損害額を認定するための最低限の資料すら存在せず、証明度を軽減しても意味がないから。
・減失動産型
裁量評価説によらなければ248条の適用は困難である。
・裁量評価説によれば、依拠し得る証拠がほとんどない場合でも248条を適用できる。
ⅳ)248条の適用結果
裁量評価説によれば、最低限の証拠すら存在しない場合であっても、損害額の算定が可能である。
しかし、証拠資料、弁論の全趣旨、経験則、論理的整合性、公平の見地、一般常識などに照らして、相当かつ合理的なものでなければならない。
4.証明の対象
(1)証明の対象となる事項
ⅰ)事実
要証事実
=証拠による認定が必要と判断される事実
ⅱ)経験則
・一般常識に属する経験則については、証拠による証明なく利用しても裁判の客観性が害されることはない。
証拠による証明は不要。
+判例(S36.4.28)
理由
上告代理人吉本英雄、同高島信之の上告理由第一点の(一)、(二)について。
船の停泊時における方位測定の目的が錨地の安全性を確かめるとともに投錨後における船の位置の移動の有無を知ることにあること、従つてこの目的を達するためには同一地物を対象として方位を測定することがもつとも容易かつ便利であることは自明のことがらであるから、原審が、特段の事情のない本件においては、その容易かつ便利な方法が選ばれたものと推定すべきであるとしたことは相当である。かように、裁判官の通常の知識により認識し得べき推定法則の如きは、その認識のためにとくに鑑定等の特別の証拠調を要するものではなく、またかかる推定の生ずる根拠につきとくに説示することを要するものではない。そして、原審は、右のような方位測定の目的と甲一号証の午前四時における甲船の方位照合記載に対象地物の表示がないこととを綜合して、右甲号証の方位照合記載は従前と同一地物を対照としてなされたものである旨を認定したものと解すべきであつて、右認定は相当である。所論は、右に反する独自の見解の下に原審の事実認定を攻撃するものであつて、すべて採用のかぎりでない。
・専門的な経験則や特殊な経験則については、証明を要する。
←客観性の担保のため。
ⅲ)法規
・国内の制定法については証明の必要はない。
・外国法規、慣習法は証明の対象となる。
なお、自由な証明で足りる。裁判所は職権探知の義務を負う。
(2)証明を要しない事項
ⅰ)裁判上の自白
ⅱ)顕著な事実
証拠による証明なしに裁判の基礎として利用したとしても、当事者や一般人が疑念を抱かないような事実。
=公正性と客観性の担保に支障がない。
・顕著な事実に付与されている法的効果は証拠裁判主義の解除のみであり、主張の局面には何ら影響を及ぼさない!
=弁論主義が適用される事実については、顕著な事実といえども、当事者からの主張がなければ裁判の基礎とすることはできない!
・公知の事実
=一定の地域において不特定かつ多数の人々が信じて疑わない程度に認識されており(公知性)、裁判官もそれを知っている事実。
公知性に疑いがある場合には、事実自体の証明が必要である。
=公知性それ自体の証明ではダメ。
公知の事実は証明不要効を有するが、当事者の反証の権利は奪われない。
・職務上知り得た事実
当該事件を担当する裁判官が職務の遂行過程において当然に知ることができた事実であり、現在も明確な記憶が残っているものをいう。
合議体の場合は、構成員の過半数が知っていることが必要!
職務遂行と無関係に知り得た事実は私知であるので、職務上知り得た事実に当たらない。
判決の結果は職務上知り得た事実となり得るが、
判決理由中の認定は、職務上知り得た事実には当たらない。
←裁判の独立、直接主義、当事者の手続保障
5.証明責任
(1)証明責任の概念
証明責任
法規不適用説
=事実の審議不明の場合に必然的に生じる法規不適用という結果の裏面を表す概念
(2)証明責任の機能
証明責任
=ある事実が審理を尽くしても真偽不明に終わった場合に、結果的に当事者の一方が負うことになる不利益を指す概念
審理を終結した後の判断段階において機能する
=結果責任
・証明責任の対象となる事実は、要件事実に該当する具体的な事実としての主要事実である。
(3)「証明の必要」と「主観的証明責任」
証明の必要
=現実の負担
被告は事実を真偽不明に追い込みさえすれば足りるなど・・・
本証
=事実の存在について証明度を超える立証をする
反証
=真偽不明に追い込む
主観的証明責任
=証明責任の派生的な機能である行為責任としての側面をとらえたもの
(4)証明責任の分配
ⅰ)法律要件分類説の考え方
証明責任は、自己に有利な法律効果の発生が認められない不利益であるから、当事者は、自己に有利な法律効果の要件となる事実の証明責任を負うべき。
有利かどうかは、実体法規相互の論理関係に求める。
権利根拠規定
=権利の発生を定める規定
権利障害規定
=権利の発生を原始的に妨げる規定
権利消滅規定
=いったん発生した権利を消滅させる規定
権利阻止規定
=権利の行使を妨げる規定
・法律要件分類説は、法律要件を定めた実体法規をいくつかの種類に分類し、それぞれがいずれの当事者に有利に働くかによって、証明責任の分配を決しようとする見解。
・法律要件分類説(規範説)
実体法木の表現形式をとくに重視
ⅱ)利益衡量説
証明責任の分配は、当事者間の公平の観点から、証拠との距離、立証の南緯、事実の蓋然性を基準として判断すべき。
ⅲ)法律要件分類説の修正
・債務不履行責任の追及
債務者が、帰責事由の不存在という事実の証明責任を負う
・準消費貸借における旧債務の存在
債務者が旧債務の不存在の事実について証明責任を負う
←準消費貸借契約を結んでいる以上は、もともと旧債務が存在していた蓋然性が高いし、準消費貸借契約を結ぶ際には旧債務の証書を債務者に返還するのが通常なので、債権者に旧債務の存在について証明責任を負わせるのは不当だから。
(5)証明責任の転換
ⅰ)証明責任の転換の意義
一般的な実体法規における証明責任の分配を特別法によって変更し、反対事実について相手方に証明責任を負わせる立法作用。
自賠法3条など。
ⅱ)証明妨害と証明責任の転換
・証明妨害
=当事者の一方が、故意または過失により、相手方の立証を不可能または困難にすることをいう。
・証明妨害の法理
妨害があった場合、証明責任の転換などの妥当な解決をはかる
(6)法律上の推定
ⅰ)法律上の推定の意義
・事実上の推定
=自由心証により経験則を用いてある事柄から他の事柄を推認する作用
・法律上の推定
=推定という概念を用いて経験則を法規に高めたもの
ⅱ)法律上の事実推定
・法律上の事実推定は、証明主題の変更によって当事者間の立証負担の公平を図るもの。
・民法186条2項など。
ⅲ)法律上の権利推定
証明主題の変更により当事者間の立証負担の公平をはかる。
より証明しやすい要件事実を用意して、当事者に要件事実の選択を認めるもの。
民法188条など
ⅳ)暫定真実
ある法律効果に要件事実Aと要件事実Bが存在する場合に、要件事実Bの証明責任を相手方に転換したものである。
前提事実は要件事実とは別個の事実でなければならないという法律上の推定の本質に反することから、法律上の推定ではない。
民法186条1項など。
ⅴ)法定意思解釈
一定の意思表示について、その意思解釈を法定する趣旨で「推定」という語を用いている規定。
推定事実が実体法規の要件事実ではないので法律上の推定とは異なるし、証明責任の転換でもない。
民法136条1項など。
この推定を覆滅させるには、債務者の利益のための合意の不存在を証明するだけでは足りず、この意思解釈規定の効果を排除する合意、すなわち債権者の利益のためとする特別の存在を積極的に証明する必要がある。
ⅵ)法定証拠法則
裁判官の事実認定のあり方を法定するものであり、自由心証主義に対する例外の定め。
法律上の事実推定は推定事実が実体法規の要件事実でなければならないところ、法定証拠法則の規定は実体法規の要件事実ではない。
反対証明の程度は反証でよい。
ⅶ)各種の「推定」規定の意味
・暫定真実は、証明責任の転換を定めたもの。
・法律上の事実推定と権利推定は証明責任の転換ではないが、実質的にそれに近い機能を営む。
・法定意思解釈と法定証拠法則は証明責任の転換とは関係ない。
・共通するのは、
経験則の存在や政策的な考慮を背景として、一定の類型的な事情が存在する場合に、当事者の通常の立証責任の所在を変更または修正し、それによって実質的な公平と公正を実現しようとするものである。
(7)主張立証負担の軽減
ⅰ)一応の推定(表見証明)
主張・立証負担を軽減するための道具概念
主として、不法行為における「過失」などの規範的要件を認定する場面で用いられる。
過失に該当する具体的な事実の立証が十分でなくとも、一定の経験則を強く働かせることにより、要件事実の充足を認めて損害賠償請求を認容してよいとする法理
ⅱ)択一的認定・概括的認定
本質は、規範的要件において主要事実をどのように捉えるかという実体法上の問題
立証の容易な事実を証明主題として選択することにより、作用としては主張立証負担の軽減の手法として機能する。
ⅲ)疫学的証明
原因と結果の間の因果経路が、病理的なメカニズムとしては十分に解明されていなくとも、集団的医学現象である疫学的なメカニズムとして一定の蓋然性があることが証明されれば、因果関係を肯定することができる。
ⅳ)事案解明義務の理論
証明責任を負う当事者が事案解明のための事実および証拠に接近する機会に乏しく、他方において相手方がその機会を持つ場合は、証明責任を負う当事者が自己の主張を裏付ける具体的な手がかりを示しているなど一定の要件を満たせば、証明責任を負わない相手方に事案解明義務が生じるという考え方。
ⅴ)模索的証明
当事者が事実関係の情報を十分に有さず、主張及び立証の対象とすべき具体的事実や効率的な立証手段がよくわからない場合に、新たな情報屋証拠を得ることを目的として、証明主題を明確に特定することなく、一般的または抽象的な主張にとどめたままで、広く探りを入れるために網をかける形で行われる立証活動。
・模索的証明は、相手方当事者や承認などが無用の労力と時間を費やすことにもなりかねないので、これを無条件で認めることはできない。しかし、他方において、挙証者が情報や証拠から隔絶された地位にある場合は、一定の模索的証明を認めないと、当事者の実質的平等を達成することはできない。
そこで、情報や証拠が相手方の支配領域内にある場合において、挙証者が自己の主張を裏付ける一定の手がかりを示している場合には、当該状況で期待される限度の範囲内で模索的証明を認めるべきである。
ⅵ)主張立証負担の軽減のあり方
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